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元スレ未央「安価で他のアイドルに告白する!」
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奈緒「え、えぇと……」
智絵里「…………」
見ると、智恵理ちゃんもどうにも気まずそうだ。
だ、だけど……だめだ、これ以降のプランが全く思い浮かばない! とりあえず喫茶店にでも一緒に行ってお話でもするか……?
奈緒「ど、どうしようか」
智絵里「…………あ……あの……」
奈緒「え、なに?」
智絵里「! あ、ご、ごめんなさい、やっぱりなんでも……」
奈緒「そ、そっか」
どうも彼女はだいぶ緊張しているようで、何か言いかけては押し黙る、という事を数回繰り返した後、うなだれるように声を漏らした。
智絵里「……じゃあ、その……また、明日……」
奈緒「えっ!?」
奈緒「(こ、このまま帰っちゃうの? そんなに私といるのが緊張しちゃったのかな……)」
私が言葉を発するよりも先に、智絵里ちゃんは表情を少し手で隠したまま、さささ、と足早に店を去ってしまった。
……うーん、どうも彼女にはそんなによく思われてないみたいだなぁ……。
まぁ、でもそれなら仕方ない。私も用事が無くなったことだし、今度こそ帰ろうかな。
*
智絵里「はぁ、はぁ……」
どうしよう、まだ、心臓がどきどきする。
智絵里「うぅ、私のばかばかばか……どうしてあそこで、喫茶店にでも誘えなかったんだろう……」
自分の勇気のなさにほとほと嫌気がさす。せっかく……せっかく奈緒さんと一緒に、買い物ができていたのに。
智絵里「……もっと一緒に、いたかったのに。……ひょっとしたら、印象悪くなっちゃったかな……」
雑誌でしか見たことのなかった憧れの人が数十メートル後ろにまだいるのに。
振り返ってもう一度近づく勇気は、私には、なかった。
智絵里「…………」
見ると、智恵理ちゃんもどうにも気まずそうだ。
だ、だけど……だめだ、これ以降のプランが全く思い浮かばない! とりあえず喫茶店にでも一緒に行ってお話でもするか……?
奈緒「ど、どうしようか」
智絵里「…………あ……あの……」
奈緒「え、なに?」
智絵里「! あ、ご、ごめんなさい、やっぱりなんでも……」
奈緒「そ、そっか」
どうも彼女はだいぶ緊張しているようで、何か言いかけては押し黙る、という事を数回繰り返した後、うなだれるように声を漏らした。
智絵里「……じゃあ、その……また、明日……」
奈緒「えっ!?」
奈緒「(こ、このまま帰っちゃうの? そんなに私といるのが緊張しちゃったのかな……)」
私が言葉を発するよりも先に、智絵里ちゃんは表情を少し手で隠したまま、さささ、と足早に店を去ってしまった。
……うーん、どうも彼女にはそんなによく思われてないみたいだなぁ……。
まぁ、でもそれなら仕方ない。私も用事が無くなったことだし、今度こそ帰ろうかな。
*
智絵里「はぁ、はぁ……」
どうしよう、まだ、心臓がどきどきする。
智絵里「うぅ、私のばかばかばか……どうしてあそこで、喫茶店にでも誘えなかったんだろう……」
自分の勇気のなさにほとほと嫌気がさす。せっかく……せっかく奈緒さんと一緒に、買い物ができていたのに。
智絵里「……もっと一緒に、いたかったのに。……ひょっとしたら、印象悪くなっちゃったかな……」
雑誌でしか見たことのなかった憧れの人が数十メートル後ろにまだいるのに。
振り返ってもう一度近づく勇気は、私には、なかった。
次の日。私は相変わらず表情をどんよりさせた加蓮の相手を適当にしながら、今日もトレーニングルームにいた。
昨日は……結局なんだかすべてがうやむやのまま終わってしまった気がする。変な空気にさせちゃってごめんって、後で智絵里ちゃんに謝っておくべきかなぁ……。
そんなぼうっとした心持ちで窓の外を見下ろしていると、ふと、346プロの敷地内にある芝生に見知った人影が見えた。
奈緒「(……あれ? 智恵理ちゃん?)」
見たところ彼女は一人なようで、芝生の上でしゃがみながら何かをせっせと見つけようとしているようだった。
奈緒「(どうしたんだろう……ひょっとして何か落とし物かな? ……もしかしてコンタクトとか?)」
もし本当に何かを落して探しているのだとしたら、手伝ってあげなくちゃ。
でも……昨日みたいにまた私が行って気まずくなっても悪いしなぁ……。
奈緒「…………」
奈緒「(いや、でも本当に困ってるのかもしれないし……)」
昨日初めて話したような子でも、流石に困っているところを放っておくわけにもいかない。
幸い休み時間はまだ十分ある。
奈緒「……ちょっと会いにいってこようかな」
時計の針が午前12時を少し過ぎたころの昼下がり、私は芝生へと足を運んだ。
昨日は……結局なんだかすべてがうやむやのまま終わってしまった気がする。変な空気にさせちゃってごめんって、後で智絵里ちゃんに謝っておくべきかなぁ……。
そんなぼうっとした心持ちで窓の外を見下ろしていると、ふと、346プロの敷地内にある芝生に見知った人影が見えた。
奈緒「(……あれ? 智恵理ちゃん?)」
見たところ彼女は一人なようで、芝生の上でしゃがみながら何かをせっせと見つけようとしているようだった。
奈緒「(どうしたんだろう……ひょっとして何か落とし物かな? ……もしかしてコンタクトとか?)」
もし本当に何かを落して探しているのだとしたら、手伝ってあげなくちゃ。
でも……昨日みたいにまた私が行って気まずくなっても悪いしなぁ……。
奈緒「…………」
奈緒「(いや、でも本当に困ってるのかもしれないし……)」
昨日初めて話したような子でも、流石に困っているところを放っておくわけにもいかない。
幸い休み時間はまだ十分ある。
奈緒「……ちょっと会いにいってこようかな」
時計の針が午前12時を少し過ぎたころの昼下がり、私は芝生へと足を運んだ。
奈緒ちゃんは「あたし」ですよ(小声)分かれてると地の文がどっち視点かわかっていい感じ
智絵里「……うーん、今日も見つからないなぁ……」
建物の外に出て、芝生に到着する。
彼女はまだこっちに気付いておらず、もくもくと芝生をかき分けて何かを探しているようだった。
奈緒「えーっと……智絵里ちゃーん」
智絵里「? ……っ、あ、なっ、奈緒さん……!」
急に後ろから声をかけられてびっくりしたのか、彼女は急にこっちを振り返って立ち上がる。
ミントの色をしたふわふわのワンピースが風に煽られてそよぐ様は、彼女の儚げな雰囲気をより一層際立たせていた。
奈緒「どうしたの? 何か探し物?」
智絵里「え、あ、えっと……はい、探し物をしてて……」
奈緒「やっぱりそうだったんだ。大変だね、私にも手伝わせてよ」
智絵里「え……奈緒さんも、一緒に……?」
奈緒「うん。……あ、もちろん迷惑じゃなければ、なんだけどさ」
智絵里「……えぁ、あぅ………」
彼女はもじもじと指を絡めて少し逡巡した様子だったが、やがて意を決したようにこちらを見ると、恐る恐るといったように口を開いた。
智絵里「それじゃあ……奈緒さんも一緒に探しましょう。……四つ葉の、クローバー」
奈緒「うん、任せてよ。……って、く、クローバー?」
>>256 ナチュラルに私になってました。重ね重ね申し訳ない。
建物の外に出て、芝生に到着する。
彼女はまだこっちに気付いておらず、もくもくと芝生をかき分けて何かを探しているようだった。
奈緒「えーっと……智絵里ちゃーん」
智絵里「? ……っ、あ、なっ、奈緒さん……!」
急に後ろから声をかけられてびっくりしたのか、彼女は急にこっちを振り返って立ち上がる。
ミントの色をしたふわふわのワンピースが風に煽られてそよぐ様は、彼女の儚げな雰囲気をより一層際立たせていた。
奈緒「どうしたの? 何か探し物?」
智絵里「え、あ、えっと……はい、探し物をしてて……」
奈緒「やっぱりそうだったんだ。大変だね、私にも手伝わせてよ」
智絵里「え……奈緒さんも、一緒に……?」
奈緒「うん。……あ、もちろん迷惑じゃなければ、なんだけどさ」
智絵里「……えぁ、あぅ………」
彼女はもじもじと指を絡めて少し逡巡した様子だったが、やがて意を決したようにこちらを見ると、恐る恐るといったように口を開いた。
智絵里「それじゃあ……奈緒さんも一緒に探しましょう。……四つ葉の、クローバー」
奈緒「うん、任せてよ。……って、く、クローバー?」
>>256 ナチュラルに私になってました。重ね重ね申し訳ない。
智絵里みたいな大人しく子じゃ奈緒のツンデレは発動しなさそうだけどさてどうなるか
智絵里「その……好き、だから……」
奈緒「そ、そっかそっか、クローバーね……」
どうやら彼女の探し物は、落とし物の類ではなかったらしい。
安心すると同時に、少し気が抜けてしまう。
奈緒「ほんとに好きなんだね、四つ葉のクローバー」
智絵里「は、はい! 私、小さいころからこればっかり見てきてて……。趣味って呼べるのも、これくらいしかなくて」
愛おしそうな表情を浮かべる智絵里ちゃんは、元来持つゆるやかな雰囲気がその柔らかい表情から零れて溢れるようで、見ている者を思わず落ち着かせるような力を持っている。
……あたしには絶対に持てないだろうその雰囲気は、いつまでも見ていたくなるほどかわいらしいものだった。
奈緒「……よし、じゃあいっちょ童心に帰ってクローバー探し、頑張るかな! こんなの小学校の時にクラスの男子とやったっきりだなー」
その場にしゃがんで、じっくりとあたりを見渡す。
……うーん三つ葉のものなら結構見るけど、四つ葉となるとやっぱり簡単には見つからないな……。
がさがさと軽く草をかき分けてみても、お目当てのものはなかなかあたしの前には表れてはくれなかった。
奈緒「智絵里ちゃん、そっちはどんな感じ?」
智絵里「え、えーっと、こっちも見当たらないですね……」
結局そのまま15分ほど探してみたけれど、出てくるのは三つ葉のものばかりで、四枚目の葉っぱは出てこなかった。
うーん、結構大変だなぁ、これ。智絵里ちゃんはこれが趣味って言ってたけど、こりゃ相当根気がないと務まらないな……。
探している場所が悪いのかもしれない、と少ししゃがんだまま移動すると…………ん?
奈緒「(あれ? ひょっとして……)」
智絵里ちゃんの近くの芝生に、葉が四枚ついているようなクローバーが一瞬見えた。
奈緒「(やった! ひょっとして見つけちゃったかも……)」
それがあたしの見間違いでないことを祈りながら、お目当てのクローバーに手を伸ばした。
↓3
1.同じクローバーを手に取ろうとした智絵里と手が触れあう。
2.うっかりつまづいて智絵里を押し倒す。
奈緒「そ、そっかそっか、クローバーね……」
どうやら彼女の探し物は、落とし物の類ではなかったらしい。
安心すると同時に、少し気が抜けてしまう。
奈緒「ほんとに好きなんだね、四つ葉のクローバー」
智絵里「は、はい! 私、小さいころからこればっかり見てきてて……。趣味って呼べるのも、これくらいしかなくて」
愛おしそうな表情を浮かべる智絵里ちゃんは、元来持つゆるやかな雰囲気がその柔らかい表情から零れて溢れるようで、見ている者を思わず落ち着かせるような力を持っている。
……あたしには絶対に持てないだろうその雰囲気は、いつまでも見ていたくなるほどかわいらしいものだった。
奈緒「……よし、じゃあいっちょ童心に帰ってクローバー探し、頑張るかな! こんなの小学校の時にクラスの男子とやったっきりだなー」
その場にしゃがんで、じっくりとあたりを見渡す。
……うーん三つ葉のものなら結構見るけど、四つ葉となるとやっぱり簡単には見つからないな……。
がさがさと軽く草をかき分けてみても、お目当てのものはなかなかあたしの前には表れてはくれなかった。
奈緒「智絵里ちゃん、そっちはどんな感じ?」
智絵里「え、えーっと、こっちも見当たらないですね……」
結局そのまま15分ほど探してみたけれど、出てくるのは三つ葉のものばかりで、四枚目の葉っぱは出てこなかった。
うーん、結構大変だなぁ、これ。智絵里ちゃんはこれが趣味って言ってたけど、こりゃ相当根気がないと務まらないな……。
探している場所が悪いのかもしれない、と少ししゃがんだまま移動すると…………ん?
奈緒「(あれ? ひょっとして……)」
智絵里ちゃんの近くの芝生に、葉が四枚ついているようなクローバーが一瞬見えた。
奈緒「(やった! ひょっとして見つけちゃったかも……)」
それがあたしの見間違いでないことを祈りながら、お目当てのクローバーに手を伸ばした。
↓3
1.同じクローバーを手に取ろうとした智絵里と手が触れあう。
2.うっかりつまづいて智絵里を押し倒す。
奈緒「(よし、もうちょいで手が届く……)」
手を伸ばし、目標のクローバーを掴もうとする。
………と。
――さわっ
智絵里「…………っ!」
奈緒「あ」
伸ばした手が、智絵里ちゃんの手と、触れ合った。彼女の細い指先の感触が、ふいにあたしに伝わる。
……やっぱり、女の子らしい手してるな……なんてことを考えていると、智絵里ちゃんが急に立ち上がり、顔を真っ赤にして謝りだした。
智絵里「あ、あ……ご、ごめんなさい!」
奈緒「だ、大丈夫だよ。智絵里ちゃんも見つけたんだ、それ」
智絵里「え、あの、は、はい……これ、四つ葉のクローバー、見つけたかなって……」
あたしと彼女が手を伸ばそうとした先にあったクローバーは……ビンゴ。本物はあたしも久しぶりに見る、四つ葉のクローバーだった。
彼女はそれをおぼつかない手つきで手に取ると、やさしく根元を折り、そっと抱き上げるようにして手のひらに乗せる。
奈緒「よかったね、見つかったじゃん」
智絵里「はい、ええと、おかげさまで……」
奈緒「見つけたのあたしと同時だったでしょ。ごめんね、あんまり役に立てなくて」
智絵里「そ、そんな! 奈緒さんと一緒にクローバー探しできただけでも、すごく……。……!」
智絵里「いやえっと、何でもないです! すみません!」
ぺこぺこと彼女は頭を下げてくる。……ううん、やっぱり打ち解けられてないなぁ、あたしたち。
手を伸ばし、目標のクローバーを掴もうとする。
………と。
――さわっ
智絵里「…………っ!」
奈緒「あ」
伸ばした手が、智絵里ちゃんの手と、触れ合った。彼女の細い指先の感触が、ふいにあたしに伝わる。
……やっぱり、女の子らしい手してるな……なんてことを考えていると、智絵里ちゃんが急に立ち上がり、顔を真っ赤にして謝りだした。
智絵里「あ、あ……ご、ごめんなさい!」
奈緒「だ、大丈夫だよ。智絵里ちゃんも見つけたんだ、それ」
智絵里「え、あの、は、はい……これ、四つ葉のクローバー、見つけたかなって……」
あたしと彼女が手を伸ばそうとした先にあったクローバーは……ビンゴ。本物はあたしも久しぶりに見る、四つ葉のクローバーだった。
彼女はそれをおぼつかない手つきで手に取ると、やさしく根元を折り、そっと抱き上げるようにして手のひらに乗せる。
奈緒「よかったね、見つかったじゃん」
智絵里「はい、ええと、おかげさまで……」
奈緒「見つけたのあたしと同時だったでしょ。ごめんね、あんまり役に立てなくて」
智絵里「そ、そんな! 奈緒さんと一緒にクローバー探しできただけでも、すごく……。……!」
智絵里「いやえっと、何でもないです! すみません!」
ぺこぺこと彼女は頭を下げてくる。……ううん、やっぱり打ち解けられてないなぁ、あたしたち。
ちょっと偽装の夫婦見るので休憩します。
うぅん、なおちえ難しい。百合ルートに行かず友達エンドになりそうな匂いがプンプンするぜ。
うぅん、なおちえ難しい。百合ルートに行かず友達エンドになりそうな匂いがプンプンするぜ。
乙、しぶりんはしぶりんで難易度高いと思うけど>>10の安価で一発で百合確定になっちゃったからしょうがない
智絵里「あの……もしよかったら、これ……」
奈緒「え?」
ふと見ると、目の前の智絵里ちゃんは今しがた手に入れた四つ葉のクローバーをおずおずと差し出してきた。
奈緒「いいの? あたしが貰っちゃって……」
智絵里「は、はい! あの、私はもういっぱい持ってるので……。ドライフラワーにしたりして……」
奈緒「……そっか、じゃあありがたく貰っちゃおうかな」
少し震えているような彼女の手にそっと触れ、強く触れば形が崩れてしまいそうな儚い四つ葉のクローバーを受け取る。どうしよっかな、これ……。
奈緒「そうだ、これ……栞とかに挟んだらいい感じになるかもしれないな」
智絵里「栞……ですか? ……いいですね。すごく、素敵な栞になると思います!」
奈緒「だよね。なんかちょっと……へへ、可愛い感じだし。それに丁度栞も欲しいなって思ってたところだったし」
智絵里「そうなんですか? ……あ、あの、奈緒さんって普段どんな本を……」
奈緒「ん? あぁ、あたしは大体ラノベ……」
と、そこまで言いかけて思わず口をつぐむ。
いかん。流石にここで「いやー、幽体離脱フルボッコちゃんの原作ラノベを発売日に追いかけててさー」とは、ちょっと言えない……。
奈緒「……そうだね、まぁ、小説……とか、かな。割と色々なジャンルのものを……」
……嘘は言っていない筈だ。
智絵里ちゃんはそんなあたしの苦しい言葉を、少し緊張が解けたような様子で、目を輝かせて聞いている。
智絵里「読書がお好きなんですか? ……やっぱり、すごく素敵です……」
奈緒「え、あ、いや、それほどでもないけどねー! あはは!」
奈緒「(自信を持て私! ラノベだって立派な読み物の筈だ!)」
奈緒「え?」
ふと見ると、目の前の智絵里ちゃんは今しがた手に入れた四つ葉のクローバーをおずおずと差し出してきた。
奈緒「いいの? あたしが貰っちゃって……」
智絵里「は、はい! あの、私はもういっぱい持ってるので……。ドライフラワーにしたりして……」
奈緒「……そっか、じゃあありがたく貰っちゃおうかな」
少し震えているような彼女の手にそっと触れ、強く触れば形が崩れてしまいそうな儚い四つ葉のクローバーを受け取る。どうしよっかな、これ……。
奈緒「そうだ、これ……栞とかに挟んだらいい感じになるかもしれないな」
智絵里「栞……ですか? ……いいですね。すごく、素敵な栞になると思います!」
奈緒「だよね。なんかちょっと……へへ、可愛い感じだし。それに丁度栞も欲しいなって思ってたところだったし」
智絵里「そうなんですか? ……あ、あの、奈緒さんって普段どんな本を……」
奈緒「ん? あぁ、あたしは大体ラノベ……」
と、そこまで言いかけて思わず口をつぐむ。
いかん。流石にここで「いやー、幽体離脱フルボッコちゃんの原作ラノベを発売日に追いかけててさー」とは、ちょっと言えない……。
奈緒「……そうだね、まぁ、小説……とか、かな。割と色々なジャンルのものを……」
……嘘は言っていない筈だ。
智絵里ちゃんはそんなあたしの苦しい言葉を、少し緊張が解けたような様子で、目を輝かせて聞いている。
智絵里「読書がお好きなんですか? ……やっぱり、すごく素敵です……」
奈緒「え、あ、いや、それほどでもないけどねー! あはは!」
奈緒「(自信を持て私! ラノベだって立派な読み物の筈だ!)」
奈緒「と、とにかく……栞にするってのはいいアイデアだと思うんだけど……。あたし栞なんて作ったことないからなぁ」
そこまで言うと、智絵里ちゃんは一瞬はっとしたような表情を浮かべ――しかしすぐに俯いた後、5秒ほど経って、やがて喉奥から声を絞り出すように口を開いた。
智絵里「あの……じゃあ、私が栞にして奈緒さんに渡しましょうか? それ……」
奈緒「え、いいの? そこまでしてもらっちゃって……」
智絵里「は、はい! だってそのクローバー、元々見つけたら奈緒さんにあげようと思ってたものだから……っ」
う、と。今しがた発した言葉を飲み込むかのように、彼女が言葉を詰まらせる。
智絵里「い、いや、ええと……その、昨日、私急に帰っちゃったりしたから、奈緒さん怒っちゃったかな……って思って」
奈緒「え? ……いやいや、全然そんな事なかったよ。むしろあたしの方こそ気が利かなくて悪かったなーって思ってたくらいで……」
智絵里「そ、そんな! 奈緒さんは全然悪くなくて……私が、意気地なしだから……」
むぅ、智絵里ちゃんはどうも罪悪感を感じるとスパイラルになっちゃうみたいだ。
別に気にしてないのに、彼女はどんどん顔色を悪くしてあわあわと俯きがちになっていく。
奈緒「……大丈夫だよ。そんなに心配しなくても」
智絵里「え? ……わっ」
そんな彼女を放っておけなくなって。自分でも無意識に彼女の頭に手をかざし、軽く撫でた。
身長はほとんど変わらないけれど、彼女のほうが身を低くしていたぶんだけ少し小さく見えてしまう。
智絵里「あ…………」
奈緒「?」
ふと気が付くと、彼女の顔が……みるみる赤くなっていっている。
あ、しまった。ただでさえ人見知りの彼女にこんなことしたら、余計緊張させちゃうか……。
智絵里「あ、あの…………」
奈緒「あ、ごめんごめん。急に撫でたりして……。なんか……智絵里ちゃんが妹みたいな感じがしちゃって」
智絵里「いえ、そうじゃなく………あの、それじゃあ栞は私が責任持って作りますから……」
智絵里ちゃんはそれだけ言うとすっと踵を返し、少し急ぐように立ち去ってしまった。
彼女の両サイドで留まった髪が、歩くたびに左右にひょこひょこと揺れる。
一つ年下の、四つ葉のクローバーを愛する彼女と一緒に過ごした昼過ぎの時間が、いつの間にか私のお腹がきゅうと鳴る時間を見えなくさせていた。
そこまで言うと、智絵里ちゃんは一瞬はっとしたような表情を浮かべ――しかしすぐに俯いた後、5秒ほど経って、やがて喉奥から声を絞り出すように口を開いた。
智絵里「あの……じゃあ、私が栞にして奈緒さんに渡しましょうか? それ……」
奈緒「え、いいの? そこまでしてもらっちゃって……」
智絵里「は、はい! だってそのクローバー、元々見つけたら奈緒さんにあげようと思ってたものだから……っ」
う、と。今しがた発した言葉を飲み込むかのように、彼女が言葉を詰まらせる。
智絵里「い、いや、ええと……その、昨日、私急に帰っちゃったりしたから、奈緒さん怒っちゃったかな……って思って」
奈緒「え? ……いやいや、全然そんな事なかったよ。むしろあたしの方こそ気が利かなくて悪かったなーって思ってたくらいで……」
智絵里「そ、そんな! 奈緒さんは全然悪くなくて……私が、意気地なしだから……」
むぅ、智絵里ちゃんはどうも罪悪感を感じるとスパイラルになっちゃうみたいだ。
別に気にしてないのに、彼女はどんどん顔色を悪くしてあわあわと俯きがちになっていく。
奈緒「……大丈夫だよ。そんなに心配しなくても」
智絵里「え? ……わっ」
そんな彼女を放っておけなくなって。自分でも無意識に彼女の頭に手をかざし、軽く撫でた。
身長はほとんど変わらないけれど、彼女のほうが身を低くしていたぶんだけ少し小さく見えてしまう。
智絵里「あ…………」
奈緒「?」
ふと気が付くと、彼女の顔が……みるみる赤くなっていっている。
あ、しまった。ただでさえ人見知りの彼女にこんなことしたら、余計緊張させちゃうか……。
智絵里「あ、あの…………」
奈緒「あ、ごめんごめん。急に撫でたりして……。なんか……智絵里ちゃんが妹みたいな感じがしちゃって」
智絵里「いえ、そうじゃなく………あの、それじゃあ栞は私が責任持って作りますから……」
智絵里ちゃんはそれだけ言うとすっと踵を返し、少し急ぐように立ち去ってしまった。
彼女の両サイドで留まった髪が、歩くたびに左右にひょこひょこと揺れる。
一つ年下の、四つ葉のクローバーを愛する彼女と一緒に過ごした昼過ぎの時間が、いつの間にか私のお腹がきゅうと鳴る時間を見えなくさせていた。
智絵里「……」
智絵里「…………」
智絵里「………………………」
智絵里「(……あぁ、緊張したぁ……ぁ)」
奈緒さんから姿が見える事を避けるように、私は思わず建物の中に逃げ込んだ。
その瞬間さっきまで浮足立っていた気分が急に現実味を帯びてきたような気がして、私の小さな胸はどくん、どくんとのど元にまで響き渡る。
智絵里「(や、やっぱり……奈緒さんってすっごく、優しい人だな……)」
初めて奈緒さんの事が気になったのは、秋の定例ライブの時、トライアドプリムスとしてステージの上で歌い、踊っていた姿を見たときでした。
蒼いライトとスモッグに照らされた3人は、絵本の中に出てくる女神さまみたいに神秘的で……。いつも見ていた凛ちゃんも、普段とは別人みたいに輝いていて。
楽屋から見ていただけの私でもその輝きは十分に伝わってきたので、きっと客席から見ていたら……と考えると、今でも身震いがします。
その中でも奈緒さんは、なんというか……すごく、きらきらしていて。
一応、アイドルである私がこう思うのも変かもしれないけれど、やっぱりアイドルって……凄いんだなって、そう思った瞬間でした。
その後も雑誌でその名前を見るたびに、「どんな人なんだろう」「あの日ステージで輝いていた人は、普段はどんな顔をしているんだろう――」
そんな私の好奇心にも似た気持ちは、彼女の姿を紙面で見るたびに少しづつ強くなっていた気がします。
智絵里「でも……うぅ、昨日はほんとにびっくりしたな……。かな子ちゃんとお話ししてたら、急に奈緒さんが来るんだもん」
智絵里「あんまり緊張してたから全然話せなかったけど……。やっぱり、一緒に遊びに行けて嬉しかったな……」
と、そこまで思ったところで、両手で包み込むようにして持っていた四つ葉のクローバーの存在にふと気が付く。
智絵里「(そうだ……私、このクローバー、栞にして奈緒さんにプレゼントするって約束しちゃってたんだ……!)」
智絵里「ど、どうしよう……なんか今から緊張してきちゃったよ……。も、もし失敗したら……!」
――と、そこまで考えて、頭の中を埋め尽くしそうだった悪い考えを、ぶんぶんと頭を左右に振って振り払う。
智絵里「(……いけないいけない。私だって、いつまでも成長しないままじゃないんだ。前に進んでいかないと、何も変わらない……)」
幸い四つ葉のクローバーのドライフラワー加工なら、ずっと小さいころから何度もやったことがある。
頑張って……私の手作りの栞を奈緒さんに渡して、使ってもらうんだ!
そう固く決心した私は、手の中のクローバーを傷つけないように。だけどはやる気持ちを必死に抑えるようにして、せかせかと廊下を歩き始めました。
――と、そこまで考えて、頭の中を埋め尽くしそうだった悪い考えを、ぶんぶんと頭を左右に振って振り払う。
智絵里「(……いけないいけない。私だって、いつまでも成長しないままじゃないんだ。前に進んでいかないと、何も変わらない……)」
幸い四つ葉のクローバーのドライフラワー加工なら、ずっと小さいころから何度もやったことがある。
頑張って……私の手作りの栞を奈緒さんに渡して、使ってもらうんだ!
そう固く決心した私は、手の中のクローバーを傷つけないように。だけどはやる気持ちを必死に抑えるようにして、せかせかと廊下を歩き始めました。
>>1はモバマスはやってないとのことだけどニ○ニコ動画にあるボイス集がエピソードやセリフ集が聞けてオススメ。
アニメ・デレステ登場済みのキャラでもより深く掘り下げられてる。劇場なんかもまとめサイトにあるしね
アニメ・デレステ登場済みのキャラでもより深く掘り下げられてる。劇場なんかもまとめサイトにあるしね
それから1週間ほど経った日の事。
奈緒「智絵里ちゃんと輝子ちゃんとで……一日限定ユニット、ですか?」
新しい仕事の打ち合わせがあると聞いて話を聞いてみれば、飛び出したのはそんな突拍子もない話だった。
曰く、今度開かれるミニステージであたし達三人で臨時のユニットを組もう、といった話になったらしく、もう既に企画も進行中らしい。
ついては二日後にメンバーを集めて打ち合わせを行うらしく、急に入ってきた仕事に私としては戸惑うばかりだった。
幸いステージといっても歌やダンスというよりはトークが主ではあるらしいので、そこまで気負うことはない、とのことだったけど。
奈緒「なんかまた急な話だなぁ……。智絵里ちゃんはともかく、輝子ちゃんとは特に話した事もないし……」
この業界、いろいろと偉い人には考えることがあるんだろう。そんなことまであたしには分からないけれど。
奈緒「でも……智絵里ちゃんと一緒に仕事するってのは結構楽しそうかもな。ふふ」
そんな期待と不安とか入り混じったような気持ちが私の胸を満たす中、二日という時間は、身構えていると結構あっという間に過ぎ去ってしまうものだった。
*
智絵里「えっと……緒方智絵里、です……。よ、よろしくお願いします!」
奈緒「神谷奈緒です。輝子ちゃんとは初めまして……かな? よろしくな」
輝子「フヒ……星輝子……です……。あ、こっちは今日連れてきた友達のシイタケくんと、こっちがエリンギくん……。ほら、挨拶して……」
輝子ちゃんは何故かキノコが生えた植木鉢を膝に抱えて、嬉しそうにはにかんでいる。……な、なかなか個性的な子みたいだ。
奈緒「えっと……じゃあとりあえず、トークは色々イベントを挟みながら二時間くらいやるみたいだから、まずは段取りとかからやっちゃおっか……」
こうして私たち3人は、五日後に控えたミニイベントに向けて、それぞれの進行を確認する作業に入った。
奈緒「智絵里ちゃんと輝子ちゃんとで……一日限定ユニット、ですか?」
新しい仕事の打ち合わせがあると聞いて話を聞いてみれば、飛び出したのはそんな突拍子もない話だった。
曰く、今度開かれるミニステージであたし達三人で臨時のユニットを組もう、といった話になったらしく、もう既に企画も進行中らしい。
ついては二日後にメンバーを集めて打ち合わせを行うらしく、急に入ってきた仕事に私としては戸惑うばかりだった。
幸いステージといっても歌やダンスというよりはトークが主ではあるらしいので、そこまで気負うことはない、とのことだったけど。
奈緒「なんかまた急な話だなぁ……。智絵里ちゃんはともかく、輝子ちゃんとは特に話した事もないし……」
この業界、いろいろと偉い人には考えることがあるんだろう。そんなことまであたしには分からないけれど。
奈緒「でも……智絵里ちゃんと一緒に仕事するってのは結構楽しそうかもな。ふふ」
そんな期待と不安とか入り混じったような気持ちが私の胸を満たす中、二日という時間は、身構えていると結構あっという間に過ぎ去ってしまうものだった。
*
智絵里「えっと……緒方智絵里、です……。よ、よろしくお願いします!」
奈緒「神谷奈緒です。輝子ちゃんとは初めまして……かな? よろしくな」
輝子「フヒ……星輝子……です……。あ、こっちは今日連れてきた友達のシイタケくんと、こっちがエリンギくん……。ほら、挨拶して……」
輝子ちゃんは何故かキノコが生えた植木鉢を膝に抱えて、嬉しそうにはにかんでいる。……な、なかなか個性的な子みたいだ。
奈緒「えっと……じゃあとりあえず、トークは色々イベントを挟みながら二時間くらいやるみたいだから、まずは段取りとかからやっちゃおっか……」
こうして私たち3人は、五日後に控えたミニイベントに向けて、それぞれの進行を確認する作業に入った。
>>278 ありがとうございます。時間がある時にでも聞いてみようと思います。
うまくキャラが掴めなくて苦労する事も多いので。
とりあえず今日はもう寝ます。付き合って頂いた方、ありがとうございました。
多分なおちえ編は明日(というか今日)中には終わると思います。
三部は書ききれなかったみおりん編の後日談を書くか、また新しく安価で決めるか悩み中です。
うまくキャラが掴めなくて苦労する事も多いので。
とりあえず今日はもう寝ます。付き合って頂いた方、ありがとうございました。
多分なおちえ編は明日(というか今日)中には終わると思います。
三部は書ききれなかったみおりん編の後日談を書くか、また新しく安価で決めるか悩み中です。
というか登場人物が恋愛関係にないと地の文が全然書けないことに気付いた。
やはり俺には百合しかないのか……。
やはり俺には百合しかないのか……。
乙
輝子が2人の友情の架け橋となるか恋のキューピットとなるか……
輝子が2人の友情の架け橋となるか恋のキューピットとなるか……
おつおつ
質問なんだが、安価で未央や奈緒をもう一度出すのはありなのかい?
質問なんだが、安価で未央や奈緒をもう一度出すのはありなのかい?
書いてるうちに熱が入っちゃってがっつり個別ルートにいっちゃうような人すきだよ
とは言え、あたしたちがやることと言えばあらかじめテーマが決められているトークなので、そこまで大掛かりな打ち合わせは必要なかった。
他のスタッフさんに説明されることをメモしながら全体的な段取りを確認して、後はそれぞれまた別の予定に向けて解散、といった感じだ。
ただ、私の隣で話を聞いていた智絵里ちゃんに関してはずっと落ち着かない様子で、たまにその小さな肩を震わせてはため息をついていた。
奈緒「……急にあたしたちでユニット組むって言われても、緊張するよね」
智絵里「え……、あ、そうですね。私おっちょこちょいだから……みんなに迷惑かけちゃうかもしれなくて、緊張します……」
奈緒「大丈夫だよ。何かあったらあたしも輝子ちゃんもいるし……。当日は絶対成功させようね!」
打ち合わせが終わった後、会議室を出た後も何となく二人で歩みを揃える。
あたしの普段歩くスピードと比べると少しゆっくりめな智絵里ちゃんの歩みに合わせながら、あたしは心の中で強く決心した。
奈緒「(うまくいけば智絵里ちゃんと少しは打ち解けられるかもしれないし……)」
奈緒「(そうだ。今度のイベントは、絶対に成功させなきゃ――)」
窓から洩れこむ夕暮れの光が、智絵里ちゃんの顔をまぶしく照らしていたのがやけに印象的だった。
他のスタッフさんに説明されることをメモしながら全体的な段取りを確認して、後はそれぞれまた別の予定に向けて解散、といった感じだ。
ただ、私の隣で話を聞いていた智絵里ちゃんに関してはずっと落ち着かない様子で、たまにその小さな肩を震わせてはため息をついていた。
奈緒「……急にあたしたちでユニット組むって言われても、緊張するよね」
智絵里「え……、あ、そうですね。私おっちょこちょいだから……みんなに迷惑かけちゃうかもしれなくて、緊張します……」
奈緒「大丈夫だよ。何かあったらあたしも輝子ちゃんもいるし……。当日は絶対成功させようね!」
打ち合わせが終わった後、会議室を出た後も何となく二人で歩みを揃える。
あたしの普段歩くスピードと比べると少しゆっくりめな智絵里ちゃんの歩みに合わせながら、あたしは心の中で強く決心した。
奈緒「(うまくいけば智絵里ちゃんと少しは打ち解けられるかもしれないし……)」
奈緒「(そうだ。今度のイベントは、絶対に成功させなきゃ――)」
窓から洩れこむ夕暮れの光が、智絵里ちゃんの顔をまぶしく照らしていたのがやけに印象的だった。
――時間が流れるなんてあっという間なもので、とうとう例のイベントの日がやってきた。
私たちの出番はイベントの終わり付近で、その準備のために既に控室に智絵里ちゃんも輝子ちゃんも集まっている。
奈緒「さっき見てきたけど……お客さん結構集まってたなぁ。……なんか緊張してきた」
輝子ちゃんは相変わらず植木鉢のキノコを可愛がっているみたいだけど……やはりと言うべきか。智絵里ちゃんは今までに見たことないくらい緊張している様子だった。
智絵里「あの、私……みんなに迷惑かけないように頑張るので……よ、よろしくお願いします!」
上ずった声と一緒に頭を下げてくる智絵里ちゃん。そんな彼女をフォローするように、思わずあたしも椅子から立ち上がる。
奈緒「だ、大丈夫だって! 別にステージで歌やダンスをやる訳じゃないんだから……。打ち合わせ通りにすれば失敗なんかしないよ」
輝子「うん……私もなんとか……頑張ってみるから」
そんなこんなで、あたしたちが励ますと智絵里ちゃんが頭を下げる、というのを何回か繰り返していると、コンコン、と控室のドアが叩かれた。
スタッフ「すみません、そろそろ出番なんで……準備お願いしまーす」
奈緒「あ、はい! 今行きます!」
気が付けば、時計は出番のニ十分前を示していた。慌てて誘導に従って部屋を後にする。
いよいよ、あたしたちの出番の時間がやってきた。
前の出演者はステージをはけて、進行のお姉さんがステージに上がる前のあたしたちを軽く紹介してくれいている。
奈緒「よし……じゃあ、行くよ二人とも!」
両隣の二人の存在を確認しながら、照明の光が差し込むステージを目線の先に据える。
駆け足で階段を上がっていくと……目の前に広がる視界に、たくさんのお客さんでいっぱいになっているフロアが飛び込んできた。
うぅ、何度経験しても、この瞬間が一番緊張するな……!
奈緒「こんにちは! 初めまして、私たち今日一日限定ユニットの、〝シャイニングゴッドチェリー〟です! よろしくお願いしまーす!」
智絵里「よ、よろしくお願いします!」
輝子「ヒッ……よ、よろしく……です……。うわ、まぶしい……」
手に持ったマイクで眼前のお客さんに大声で挨拶をする。
普段全く接点のないあたしたちが一緒にいるのを不思議に思っているお客さんもいるのか、会場の雰囲気は結構いいけど……ふ、二人とも、結構緊張してる?
輝子「うわ……こんなにいっぱい人がいるとは思わなかったよ……日陰者の私にはつらい……。も、もう帰って机の下にでも引きこもっていたい……」
奈緒「しょ、輝子ちゃん!? まだ始まったばっかりだから駄目だよそんなこと言っちゃ!」
輝子「こ、このままじゃ緊張して喋れそうにないから……予定を変更して、これから一時間たっぷりキノコの栽培講座でもやるのはど、どうかな……」
奈緒「いやいや、ちゃんと段取りがあるんだから勝手にそんなことしちゃダメだって! それ主に輝子ちゃんが喋りたいだけだろ!」
輝子「えっと、じゃあ……こ、ここから先は友達のブナシメジ君に任せて私は帰るので……あとはよろしく……」
奈緒「あたしと智絵里ちゃんとブナシメジで何を話せっていうんだよ! ステージの上で人間二人とキノコが並んでる姿ってシュールすぎるでしょ!」
輝子「え……ブナシメジくん……苦手? じゃ、じゃあ代わりにヒラタケ君を連れてくるからちょっと待ってて……」
奈緒「いやキノコの種類が問題なんじゃないよ! もっと根本的な問題に目を向けてよ輝子ちゃん!」
……って、あーっ、しまった! つい輝子ちゃんが急に無茶苦茶言い出すもんだから、つい思いっきり突っ込んで……!
智絵里「……ふふ」
奈緒「(……って、あれ?)」
智絵里「あはは……もう、輝子ちゃんわがまま言っちゃダメだよ! 私たち三人で……一緒に頑張ろう?」
見ると、智絵里ちゃんはいつの間にか緊張した面持ちではなく……柔らかい、リラックスしたような笑みを浮かべていた。
智絵里ちゃんが優しくたしなめるような事を言うと輝子ちゃんも落ち着き、しぶしぶといったていで予定の位置についた。
……ひょっとして輝子ちゃん、智絵里ちゃんの緊張をほぐすために、わざと……?
輝子ちゃんのむちゃくちゃな物言いがウケたのか、会場の雰囲気も気づけばかなり良くなっていた。
前の出演者はステージをはけて、進行のお姉さんがステージに上がる前のあたしたちを軽く紹介してくれいている。
奈緒「よし……じゃあ、行くよ二人とも!」
両隣の二人の存在を確認しながら、照明の光が差し込むステージを目線の先に据える。
駆け足で階段を上がっていくと……目の前に広がる視界に、たくさんのお客さんでいっぱいになっているフロアが飛び込んできた。
うぅ、何度経験しても、この瞬間が一番緊張するな……!
奈緒「こんにちは! 初めまして、私たち今日一日限定ユニットの、〝シャイニングゴッドチェリー〟です! よろしくお願いしまーす!」
智絵里「よ、よろしくお願いします!」
輝子「ヒッ……よ、よろしく……です……。うわ、まぶしい……」
手に持ったマイクで眼前のお客さんに大声で挨拶をする。
普段全く接点のないあたしたちが一緒にいるのを不思議に思っているお客さんもいるのか、会場の雰囲気は結構いいけど……ふ、二人とも、結構緊張してる?
輝子「うわ……こんなにいっぱい人がいるとは思わなかったよ……日陰者の私にはつらい……。も、もう帰って机の下にでも引きこもっていたい……」
奈緒「しょ、輝子ちゃん!? まだ始まったばっかりだから駄目だよそんなこと言っちゃ!」
輝子「こ、このままじゃ緊張して喋れそうにないから……予定を変更して、これから一時間たっぷりキノコの栽培講座でもやるのはど、どうかな……」
奈緒「いやいや、ちゃんと段取りがあるんだから勝手にそんなことしちゃダメだって! それ主に輝子ちゃんが喋りたいだけだろ!」
輝子「えっと、じゃあ……こ、ここから先は友達のブナシメジ君に任せて私は帰るので……あとはよろしく……」
奈緒「あたしと智絵里ちゃんとブナシメジで何を話せっていうんだよ! ステージの上で人間二人とキノコが並んでる姿ってシュールすぎるでしょ!」
輝子「え……ブナシメジくん……苦手? じゃ、じゃあ代わりにヒラタケ君を連れてくるからちょっと待ってて……」
奈緒「いやキノコの種類が問題なんじゃないよ! もっと根本的な問題に目を向けてよ輝子ちゃん!」
……って、あーっ、しまった! つい輝子ちゃんが急に無茶苦茶言い出すもんだから、つい思いっきり突っ込んで……!
智絵里「……ふふ」
奈緒「(……って、あれ?)」
智絵里「あはは……もう、輝子ちゃんわがまま言っちゃダメだよ! 私たち三人で……一緒に頑張ろう?」
見ると、智絵里ちゃんはいつの間にか緊張した面持ちではなく……柔らかい、リラックスしたような笑みを浮かべていた。
智絵里ちゃんが優しくたしなめるような事を言うと輝子ちゃんも落ち着き、しぶしぶといったていで予定の位置についた。
……ひょっとして輝子ちゃん、智絵里ちゃんの緊張をほぐすために、わざと……?
輝子ちゃんのむちゃくちゃな物言いがウケたのか、会場の雰囲気も気づけばかなり良くなっていた。
輝子ちゃんのお蔭かすっかり緊張の色が解けた智絵里ちゃんもその後はスムーズに会話が進み……結果的に、私たちのトークショーは大成功に終わった。
お客さんの拍手を浴びながら急いでステージを降り、舞台裏に駆け込む。
奈緒「いや、最初はどうなるかと思ったけど……終わってみれば大成功だったね……!」
智絵里「はい、私も途中からは全然緊張せずに喋れて……。本当にありがとうございました!」
輝子「うぅ、光の浴びすぎでクラクラするよ……」
三人それぞれ笑顔を浮かべながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。
舞台を降りてしまうと、それまでのあたしの緊張はどっと抜け、どこかへ飛んで行ってしまったようだった。
奈緒「まぁ、終わりよければすべてよしって言うし……結果オーライかな」
そうあたしがため息を吐きながら、そろそろ楽屋へ戻ろうとした時だった。
「……えっ!? 次のステージ予定の出演者さんが、高速の渋滞で来れない!?」
ひどく慌てたスタッフの人の声が、同じ舞台裏に響き渡った。
お客さんの拍手を浴びながら急いでステージを降り、舞台裏に駆け込む。
奈緒「いや、最初はどうなるかと思ったけど……終わってみれば大成功だったね……!」
智絵里「はい、私も途中からは全然緊張せずに喋れて……。本当にありがとうございました!」
輝子「うぅ、光の浴びすぎでクラクラするよ……」
三人それぞれ笑顔を浮かべながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。
舞台を降りてしまうと、それまでのあたしの緊張はどっと抜け、どこかへ飛んで行ってしまったようだった。
奈緒「まぁ、終わりよければすべてよしって言うし……結果オーライかな」
そうあたしがため息を吐きながら、そろそろ楽屋へ戻ろうとした時だった。
「……えっ!? 次のステージ予定の出演者さんが、高速の渋滞で来れない!?」
ひどく慌てたスタッフの人の声が、同じ舞台裏に響き渡った。
スタッフ「どうすんの……次のステージはトリでダンスの予定だし、それが中止ってなったら……」
頭を抱えて壁にもたれるスタッフさんの顔色はどんどん悪くなっていく。な、何があったんだろう……。
奈緒「あの、何かあったんですか……?」
いてもたってもいられず、別のスタッフに話を聞く。その人は慌てた表情で、苦しそうに口を開いた。
スタッフ「あぁ、君たちの後にライブをやる予定だったユニットが、道路の渋滞でどうも間に合いそうにないって連絡がはいって……」
スタッフ「今日のイベントのトリだからこれが目当てで来てるって人も多いだろうし、今更中止にするわけにもいかないし」
スタッフ「もう一度トークショーや他のコーナーで時間を稼ぐにしたって限度があるだろうし、どうすりゃいいんだ……」
頭を抱えるスタッフさんの緊張はすぐに舞台裏に伝播したようで、様々な立場の人が急なトラブルに混乱しているようだ。
智絵里「ど、どうしよう……大変なことになってるみたい」
奈緒「うん……さすがにまたあたしたちが出てずっとトークをやるっていうのもできないし……」
……さっきまでいい雰囲気で終われそうだったイベントは、瞬く間にトラブルの渦中に巻き込まれていく。
かく言うあたしも、せっかく三人がまとまれたこのイベントが失敗に終わるなんてことは……絶対に嫌だった。
……くそっ、どうすれば……!
智絵里「……あの、お客さんに待ってもらうのって、どれくらいまでなら大丈夫そうですか……?」
ふいに、隣の智絵里ちゃんの声が聞こえた。
振り向くと、彼女にしては珍しく……今までに見たことがないくらい決意に満ちた表情をしていた。
スタッフ「……そうですね、事情を説明して中断させて貰うのも、せいぜい15分くらいが限界でしょうか。それ以上は何らかの手を打たないと……」
智絵里「……それなら、私たち三人でライブをやって、場を繋げる……っていうのは、できますか……!?」
奈緒「え……?」
智絵里ちゃんの小さな肩が僅かに震え、だけどこぶしはぎゅっと握って……、彼女は、そう力強く口にした。
頭を抱えて壁にもたれるスタッフさんの顔色はどんどん悪くなっていく。な、何があったんだろう……。
奈緒「あの、何かあったんですか……?」
いてもたってもいられず、別のスタッフに話を聞く。その人は慌てた表情で、苦しそうに口を開いた。
スタッフ「あぁ、君たちの後にライブをやる予定だったユニットが、道路の渋滞でどうも間に合いそうにないって連絡がはいって……」
スタッフ「今日のイベントのトリだからこれが目当てで来てるって人も多いだろうし、今更中止にするわけにもいかないし」
スタッフ「もう一度トークショーや他のコーナーで時間を稼ぐにしたって限度があるだろうし、どうすりゃいいんだ……」
頭を抱えるスタッフさんの緊張はすぐに舞台裏に伝播したようで、様々な立場の人が急なトラブルに混乱しているようだ。
智絵里「ど、どうしよう……大変なことになってるみたい」
奈緒「うん……さすがにまたあたしたちが出てずっとトークをやるっていうのもできないし……」
……さっきまでいい雰囲気で終われそうだったイベントは、瞬く間にトラブルの渦中に巻き込まれていく。
かく言うあたしも、せっかく三人がまとまれたこのイベントが失敗に終わるなんてことは……絶対に嫌だった。
……くそっ、どうすれば……!
智絵里「……あの、お客さんに待ってもらうのって、どれくらいまでなら大丈夫そうですか……?」
ふいに、隣の智絵里ちゃんの声が聞こえた。
振り向くと、彼女にしては珍しく……今までに見たことがないくらい決意に満ちた表情をしていた。
スタッフ「……そうですね、事情を説明して中断させて貰うのも、せいぜい15分くらいが限界でしょうか。それ以上は何らかの手を打たないと……」
智絵里「……それなら、私たち三人でライブをやって、場を繋げる……っていうのは、できますか……!?」
奈緒「え……?」
智絵里ちゃんの小さな肩が僅かに震え、だけどこぶしはぎゅっと握って……、彼女は、そう力強く口にした。
奈緒「ち、智絵里ちゃん!? そんな、あたしたちで急にライブなんて……無理だよそんなこと! 三人で歌もダンスも合わせた事ないんだし……!」
智絵里「で、でも……このままじゃお客さんが……!」
奈緒「……っ!」
確かに、このまま指をくわえて見ていたら今日のイベントは失敗に終わってしまうだろう。あたしとしてもそれは絶対に嫌だけど、だからって……!
奈緒「……気持ちはわかるけど、無理だよ。三人が振り付けを共有出来ていて、歌も歌える曲なんてない……。仮にあったとしても、一日限定ユニットとして集まったあたしたちに、トリを務めるライブの代役なんて、そんなの……」
沢山のお客さんの前で、トリの代役としてぶっつけ本番でライブをするなんて、そんなの……考えただけでも目の前がくらくらする。
智絵里「……だけど……」
奈緒「え?」
智絵里「私、今日のこのイベントを……こんな形で失敗に終わらせたりなんて、したくないんです。確かに……私たちじゃ本当の出演予定だった人たちの代わりなんて務まらないかもしれません……」
智絵里「……でも、このイベントはせっかく……せっかく、奈緒さんと、輝子ちゃんとも一つになれた気がする……そんなイベントだったから」
智絵里「だから! 絶対……成功させたいんです!」
今までに聞いたこともないくらい大きく、決意に満ちた彼女の声に、あたしは――面食らってしまっていた。
いつの間に彼女はこんなに……こんなに強い子になっていたんだろう。ほんの少し前までは、あんなに緊張していたのに……。
奈緒「(……いや、ひょっとしたら……)」
奈緒「(これが彼女の、本当の姿なのかもしれない)」
すぐに緊張しちゃって、自分に自信が持てないところもあるけれど……きっと今のこの姿こそが、彼女の本当の姿なんだ。
しっかりと自分の足で立って、力強い視線であたしの目を見据える彼女を見て、なぜかあたしは……そう思った。
奈緒「……そうだよな」
そんな彼女の熱気にあてられたのか、あたしも一度深呼吸し――覚悟を決める。
奈緒「……やろう。どこまでやれるか分からないけど……やれるとこまでやってやろうじゃねぇか!」
智絵里「で、でも……このままじゃお客さんが……!」
奈緒「……っ!」
確かに、このまま指をくわえて見ていたら今日のイベントは失敗に終わってしまうだろう。あたしとしてもそれは絶対に嫌だけど、だからって……!
奈緒「……気持ちはわかるけど、無理だよ。三人が振り付けを共有出来ていて、歌も歌える曲なんてない……。仮にあったとしても、一日限定ユニットとして集まったあたしたちに、トリを務めるライブの代役なんて、そんなの……」
沢山のお客さんの前で、トリの代役としてぶっつけ本番でライブをするなんて、そんなの……考えただけでも目の前がくらくらする。
智絵里「……だけど……」
奈緒「え?」
智絵里「私、今日のこのイベントを……こんな形で失敗に終わらせたりなんて、したくないんです。確かに……私たちじゃ本当の出演予定だった人たちの代わりなんて務まらないかもしれません……」
智絵里「……でも、このイベントはせっかく……せっかく、奈緒さんと、輝子ちゃんとも一つになれた気がする……そんなイベントだったから」
智絵里「だから! 絶対……成功させたいんです!」
今までに聞いたこともないくらい大きく、決意に満ちた彼女の声に、あたしは――面食らってしまっていた。
いつの間に彼女はこんなに……こんなに強い子になっていたんだろう。ほんの少し前までは、あんなに緊張していたのに……。
奈緒「(……いや、ひょっとしたら……)」
奈緒「(これが彼女の、本当の姿なのかもしれない)」
すぐに緊張しちゃって、自分に自信が持てないところもあるけれど……きっと今のこの姿こそが、彼女の本当の姿なんだ。
しっかりと自分の足で立って、力強い視線であたしの目を見据える彼女を見て、なぜかあたしは……そう思った。
奈緒「……そうだよな」
そんな彼女の熱気にあてられたのか、あたしも一度深呼吸し――覚悟を決める。
奈緒「……やろう。どこまでやれるか分からないけど……やれるとこまでやってやろうじゃねぇか!」
奈緒「……でも智絵里ちゃん、現実問題あたし達三人で合わせられる曲なんてあるか? 今まで一度も一緒に活動したことなんかないし……」
智絵里「あ、あの、それなんですけど……」
すると――少し恥ずかしそうに、智絵里ちゃんがおずおずと口を開き始めた。
智絵里「私、奈緒さんの……トライアドプリムスの「trancing pulse」なら、歌も振り付けも一応だけど……分かります」
奈緒「えっ?」
智絵里「秋の定例ライブの時に、ステージで踊る奈緒さんを見て……私、すごく感動して」
智絵里「私もあんな風にキラキラできたらって思って……動画を何度も見返してたら」
智絵里「いつのまにか、歌も振り付けも覚えちゃってて……。その、自分で何度か踊ったこともあるから、本当のユニットみたいには踊れないだろうけど……でも」
智絵里「私……頑張りますから!」
奈緒「智絵里ちゃん……」
……知らなかった。
いや、智絵里ちゃんがあの時のあたし達のライブをそんなにしっかり覚えてくれていたこともそうだけど、彼女がこんなに――恐らく精いっぱいの勇気を振り絞って、この状況であたし達の歌を歌おうとしている、という事が。
今、あたしの目の前にいる女の子は、数日前までのあたしが知っていた智絵里ちゃんでは、もうないのかもしれない。
まだ踊り慣れない曲を踊ろうとする緊張からだろうか、彼女の小さな体は少し震えていたものの――だけど。
奈緒「……分かった。一緒に……歌おう。智絵里ちゃんの事、あたしも信じるよ」
智絵里「……はい! よろしくお願いします!」
不安は、ある。それも、両肩に乗っかったプレッシャーで肩が外れそうなくらいに。
だけど――
智絵里ちゃんの、前に進もうとする姿を見ていると……あたしにも勇気が湧いてくる。
この子はもうおずおずと俯くだけの気弱な女の子なんかじゃ決してない。
一人の、アイドルなんだ。
智絵里「あ、あの、それなんですけど……」
すると――少し恥ずかしそうに、智絵里ちゃんがおずおずと口を開き始めた。
智絵里「私、奈緒さんの……トライアドプリムスの「trancing pulse」なら、歌も振り付けも一応だけど……分かります」
奈緒「えっ?」
智絵里「秋の定例ライブの時に、ステージで踊る奈緒さんを見て……私、すごく感動して」
智絵里「私もあんな風にキラキラできたらって思って……動画を何度も見返してたら」
智絵里「いつのまにか、歌も振り付けも覚えちゃってて……。その、自分で何度か踊ったこともあるから、本当のユニットみたいには踊れないだろうけど……でも」
智絵里「私……頑張りますから!」
奈緒「智絵里ちゃん……」
……知らなかった。
いや、智絵里ちゃんがあの時のあたし達のライブをそんなにしっかり覚えてくれていたこともそうだけど、彼女がこんなに――恐らく精いっぱいの勇気を振り絞って、この状況であたし達の歌を歌おうとしている、という事が。
今、あたしの目の前にいる女の子は、数日前までのあたしが知っていた智絵里ちゃんでは、もうないのかもしれない。
まだ踊り慣れない曲を踊ろうとする緊張からだろうか、彼女の小さな体は少し震えていたものの――だけど。
奈緒「……分かった。一緒に……歌おう。智絵里ちゃんの事、あたしも信じるよ」
智絵里「……はい! よろしくお願いします!」
不安は、ある。それも、両肩に乗っかったプレッシャーで肩が外れそうなくらいに。
だけど――
智絵里ちゃんの、前に進もうとする姿を見ていると……あたしにも勇気が湧いてくる。
この子はもうおずおずと俯くだけの気弱な女の子なんかじゃ決してない。
一人の、アイドルなんだ。
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