元スレ夕立「恋情は見返りを――」提督「求めない」
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601 :
明けましておめでとうございます。
明日まとまった時間が取れそうです。
今年もよろしくお願い致します。
602 :
よろしゅうな!
603 :
提督「彼らは、何らかの意志によって産み出されたということか」
榛名「そうね。でも目的がわからない。私たちに敵意があることは確かだけど」
提督「データでは陸上への襲撃は活発とは言い難いな」
榛名「でもね、気になる情報もあるの」
提督「なんだ?」
榛名「もう随分古い記録で、埋もれていたのだけれど、一度深海棲艦の航空機が…………。どう、表現すればいいのかしら……」
榛名「彼らは明らかに陸を目指していたようだけれど、墜落したみたいなの」
響「墜落……」
榛名「自爆攻撃、とは言えないし、まあよくわからないわね」
榛名「でもこれでようやく、そうした数々の謎の糸口を掴んだかもしれない」
提督「鹵獲した深海棲艦を、片っ端からクラックする気か?」
榛名「その気もある。でもそれだけじゃない。ゆくゆくはこちらからもスパイを送り込みたいところね」
響「それ、は…………」
提督「……可能なのか?」
榛名「残念ながら現状は無理ね。クラックした個体の内的な制御は確かに可能にはなったけど、それをスパイとして成立させるには私たちはあまりに情報を持っていない」
榛名「でも私としては大きな収穫になった。きっと、人類にとってもね」
604 = 1 :
榛名「あなたは使命を果たしてくれたわ。私の想像以上に」
榛名「本当に、ありがとう」
提督「礼など……」
榛名「だから、私も、約束を果たしたい」
提督「……榛名?」
榛名「この子は…………あなたの、秘書艦なのね?」
提督「そうだが……」
榛名「私にこの子を……。夕立を、売ってもいいのかしら?」
提督「……どういう意味だ?」
榛名「そのままの意味ね。そもそも、あなたがこの子を連れてきた目的は何? まさか、本気で私に解析させるため?」
提督「………………」
提督「そうだ……」
榛名「とりあえず体裁は気にするのね……。まあいいわ。それが嘘なのはわかっているから」
榛名「どんなにあなたが陸軍で強かろうとも、この子を互いに無傷の状態で捕縛出来るとは思えないからね」
提督(……?)
榛名「とにかく、夕立の目を覚ますには、彼女の“内”を覘くことになるけれど、大丈夫?」
605 = 1 :
提督「かまわない……。私も、もうそれしかないと思ってる」
榛名「なら、今から準備に取り掛かるわ。……ここで見てる?」
提督「…………いや。少し外の空気を吸いたい……」
榛名「そう? ああ、そうだ。執務室の端末から解析プログラム、見てもいいわよ」
榛名「あなたなら、読めるでしょう?」
提督「いいのか?」
榛名「信用する。バックアップもあるし、最悪、この子が人質ってところかしら。あなたはどうする?」
響「私はここにいる……。もし、夕立が目を覚ましそうになったら、呼びに行くよ」
提督「わかった……」
ガチャン
榛名「……意外と繊細なの? あなたの司令官は」
響「どうだろう……。でもこの子に関しては、特別だと思うんだ」
響「きっと辛いよ。私だって……」
榛名「そう……。あなたはいいの?」
響「うん。私が逃げたら、きっと司令官は目を逸らせなくなるから……」
606 = 1 :
――――――――――
―司令室―
ガチャン
提督「…………」
提督(天命を待つ……祈る…………)
提督(俺には似つかわしくない行為だ……)
提督(だから、多分……怖いんだ)
妖精A「あらにんげんさんー?」
妖精B「みないかお」
妖精A「しんじんさんだー」
提督「……」
カチャ
カタカタ
提督「これか……」
妖精A「にんげんさんはなにをごらんです?」
妖精B「ぬすみみだー」
妖精A「あたまにつけるといいかも?」
提督「盗み見じゃない……」
607 = 1 :
提督(こんなに膨大な数のプログラムを…………彼女が……)
提督(これが先程更新したデータか)
妖精B「にんげんさんの、げんごです?」
妖精A「そーすやきそば」
妖精B「やきそばはおかしにははいらぬです」
提督「……これに基づいた信号を深海棲艦に適用すると、彼らの活動を停止させることが出来る」
妖精A「なんと」
妖精B「そんなことが」
妖精A「ぼくらにはできぬです」
妖精B「むりむりだ」
妖精A「にんげんさん、かみさま?」
提督「神ではない。むしろ神に近いのは君たち妖精の方だろう?」
妖精A「いやん」
妖精B「てれますなー」
妖精A「しゅうきょうをつくれー」
提督「…………………………」
608 = 1 :
提督(確か…………)
提督(代用弾は…………確か、事前に割り出された解析結果に基づいて生体クラックの実行プログラムを弾そのものに実装していた)
提督(だが解析自体に時間が掛かる以上、解析機能を弾に付加することは実用性の観点から棄却されている、ということか……?)
妖精B「どうかしたです?」
提督「妖精さん」
提督「……ここに記述されてるプログラムと同等の機能を、“海”そのものに付加して欲しい」
提督「出来るか……?」
妖精A「あー」
提督(なんて…………)
妖精A「できなくは、ないです?」
提督「……何、だって…………?」
妖精B「でんきではだめかも」
妖精A「しゅつりょく、よわすぎ?」
妖精B「びりびりしますなー」
妖精A「びりびりだ」
609 = 1 :
妖精A「にんげんさんにんげんさん」
提督「……なん、だ?」
妖精A「おかりしたいものがー」
妖精B「まみず」
妖精A「まみずはもうてんだた」
妖精A「ぐっどあいであしょうをしんてい」
提督「真水……。他には?」
妖精A「ふらすこ」
妖精B「きゃっぷがあったほうがいいかもー?」
提督「真水、フラスコ、栓……。それだけでいいのか?」
妖精A「それだけあればなんとか」
妖精B「のうきにおわれますな」
妖精A「したうけにまるなげしては?」
妖精B「にんげんさんはしばしおまちをー」
テクテク
提督「ぁ…………」
提督(……まさか、本当に…………?)
提督(消えるのか? あの深海棲艦が? こんなにも…………。馬鹿な、ありえない………………)
610 = 1 :
ガチャ!
提督「ッ!?」
榛名「ちょっと、いいかしら?」
提督「あ、ああ…………」
提督(…………いや、所詮は妖精の戯言だ……)
提督(もし仮に滅ぼうものなら、それは望んでいたことだ)
提督(何も憂うことはない……はずだ)
榛名「思い詰めてるのね……」
提督「……ああ、そうだな…………」
提督「響は?」
榛名「あの子は研究室に残っているわ」
提督「そうか……」
榛名「…………」
榛名「結論を、言わせて頂戴」
榛名「……あの子、夕立のことは、残念だけれど、諦めて」
提督「っ……」
提督「……なぜ、なんだ?」
611 = 1 :
榛名「彼女の意識に直接呼び掛けたの。でもレスポンスはなかった」
榛名「それがすべてよ」
榛名「だから、解体しなさい」
提督「何とか、ならないのか……?」
榛名「…………」
提督「榛名!」
榛名「……夕立に対して強権を発動することは、出来る」
榛名「彼女の記憶領域に――」
提督「やめてくれ……」
榛名「……」
榛名「ごめんなさい……」
提督「……いや、いいんだ……」
提督「少し、考えさせてくれ……」
榛名「……わかったわ」
ガチャン
提督「…………」
612 = 1 :
提督(夕立が……還ってこない)
提督(還らない……)
「こんにちは、白露型駆逐艦の4番艦、夕立よ。よろしくね!」
「ここが提督さんのお部屋? なんだか地味っぽーい」
「か、かわいい~~~!!!」
「プログラムに随伴するだけの、余剰物でしかない」
「提督さんも、一緒に入る?」
「えええぇぇ~~~!?」
「私は、あなたに近づくようにプログラムされているに過ぎないの」
「提督さんが夕立を選んでくれたのは、どうして?」
「私、提督さんにもっと頼ってもらえるように、いっぱい頑張るから!」
「今となっては別の命令が私を突き動かそうとしている……」
「……うん。約束……」
「さっき、提督さんと一緒なら大丈夫だって、そう思えたの」
「こうしてると、恋人みたいね……」
「「提督さん」」
「あなたが、好き」「あなたを、殺すことよ」
613 = 1 :
提督「………………」
妖精A「にんげんさん」
提督「……」
妖精B「おもとめのもの、にゅうかです?」
妖精A「うみにいれるといいかもー」
妖精B「のうどってすてきー」
妖精A「なにもないにならないからべんりかも」
妖精B「とくちゅうふらすこ」
妖精A「かくぜつうちゅうだー」
コトン
提督「……」
チラ
提督(まさか、手元に残ったのがこんな無力な瓶ひとつになるとはな……)
提督「…………」
提督(夕立は、還らない)
提督「だとしてもやはり俺は、赦せないよ……」
614 = 1 :
――――――――――
―海―
当て所もない足取りで、提督は海岸に辿り着いていた。
仄暗い海原と、雲の僅かな隙間から差し込む光が、男の目には随分と対照的に映った。
懐より件のものを取り出す。
それはやはり何の変哲もない、ただのフラスコだった。
中にはコップ1杯分もない無色透明の液体が入っており、その首はコルクの栓で閉められているだけである。
深海棲艦が憎いということは、確かなことだった。
しかしそれが確かであるがゆえに、今から行おうとしていることの不確かさが、有無を云わさず男を沈黙させていた。
これまで妖精なる存在が為してきたことを満足に理解しているのであれば、そこに疑問などない。
十分に試す価値のある行為のはずだった。
実感は本来的に不要なのだ。
それでもなお、無意味としか断じ得ない思考の循環から、男は逃れられないでいた。
栓を抜くと同時に、小さな風が吹く。
<フラスコの中身を確認し、提督は意を決してそれを海へ投げ入れ――――>
??「それはダメだよ」
声に振り向いた先で、1人の少女が微笑んでいた。
おさげに束ねられた香色の髪、スカートまで白を基調としたセーラー服。ベレー帽には浅葱色のリボンが巻かれている。
可憐ではあるがしかし、その笑みには薄ら寒いものが感じられた――。
615 = 1 :
今宵はここまで。
大詰め。
1年前より随分と忙しくなってしまいましたが、また来ます。
616 :
乙です。夕立には幸せになってほしいなあ。
617 :
お疲れ様です。
3月中の完結を目指しています。
頑張ります。
620 :
お疲れ様です。
完結とまではいきませんでしたが、3月中に一度更新出来ます。
しばしお待ちください。
622 = 1 :
提督「お前は……」
??「妖精さんだよ♪」
提督「……人型じゃないか」
妖精?「妖精はみんな人型じゃん」
提督「揚げ足をとるな」
妖精?「納得出来ない? もー! わざわざこの等身で出てあげたのにー失礼な!」プンスカ
妖精?「じゃあ、妖精ということにしておきます」
提督(“しておきます”だと? ふざけているのか)
妖精?「うーん、でも私はエラーの時に呼ばれるから、こう、かな……」
提督「何の話だ」
エラー娘「あなたには関係のない話だーね♪」
提督「…………」
623 = 1 :
提督(……なんだ、この、威圧感は)
提督(こいつが目の前にいるだけで……何か、不安になる)
提督(存在を、許容したくない……)
エラー娘「まさか体系の根幹を限定的に捻じ曲げようとするだなんて」
エラー娘「まあ、確かにねー。彼らにはそれが出来てしまうから。気持ちはわかるんだけどね」
提督「もう一度、はっきりと問う。お前は何者だ?」
エラー娘「正体知りたいならそっちからまず名乗りなよー失礼な奴だなぁー」ジト
提督「お前は…………俺が何者で、何をしようとしていたか、既にわかっている、気がする……」
エラー娘「へぇ。こんな状況でも冷静なんだね」
エラー娘「でもごめんなさい」
エラー娘「“何者か?”なんて問われても、私はその質問には答えようがない」
エラー娘「私を特定の実在的な何かとして扱われても困るんだ」
提督「……俺はついに幻覚でも見るようになったのか」
エラー娘「そう考えてくれていいと思うよ」
624 = 1 :
ふいに少女の視線が外れる。
その先を追うと、数瞬前と同じ光景が広がっている。
寸分、違うことなく。
雲も。風も。波も。
すべて、等しく、その動きを停止させていた。
提督「なん……だ…………。これは………………?」
エラー娘「…………<ここ>でのあなたと私の対話はおそらく、1つの出来事の一側面に過ぎない」
エラー娘「一解釈とでも言えるのかも」
提督「俺は、何を解釈している?」
エラー娘「情報を」
提督「……何が起きた?」
エラー娘「あなたはこのフラスコの栓を抜いた。いやーホントによく出来てますねー」
そう語る少女の右手には、提督が今し方持っていたはずのフラスコが収まっていた。
625 = 1 :
提督「!?」
提督「何をした!?」
エラー娘「あはは! 何も! 何もしてないよ! ちょっと借りただけ」
エラー娘「これを私がどうこう出来るわけではないと思うんだ……」
エラー娘「ただちょっとびっくりさせてみたくて」
提督「………………」
エラー娘「……」
エラー娘「私は、私について大した説明は出来ないけど、私があなたの前に現われたことについては、そうだな……」
エラー娘「言うなれば……」
エラー娘「私はあなたを■■■■■の」
提督(……? 聴き取れない)
エラー娘「そっか……。融け合ってからでは、志向性を独占出来ないのね……」
提督「……融け合う?」
エラー娘「…………」
626 = 1 :
エラー娘「そうね……」
エラー娘「私との対話という形式を、あなた自身が選び採ったの」
提督「俺が……選んだ…………」
エラー娘「私がこの姿をとったことは、何らかの必然性があったのかもしれないけれど、それは大きな問題ではない」
提督「なら俺が今問題なことを教えてやる」
提督「……俺の認識外からそれを奪い取るなんて、尋常じゃない」
提督「お前は妖精なのか?」
エラー娘「だから妖精さんだって、言ってるじゃない」
提督「妖精はそんな風に流暢に言葉を交わさない」
エラー娘「あはは、これは痛いところを突かれましたね」
エラー娘「確かに、私はそういう意味ではあなたの言うところの妖精ではないかしら」
提督「なら何だ」
エラー娘「■■■■よ」
エラー娘「あら……。これもダメなの」
提督「…………俺に、何か伝えたいことがあるのか?」
エラー娘「まあそうね。それがすべてであるとも言える。でも脇道に逸れることは許されていないみたい」
提督「……それは何によって?」
エラー娘「それもきっと言えない」
提督「……」
627 = 1 :
提督「話を……」
提督「話を、聞こう」
提督「お前からそれを力ずくで取り返せるとも思えない」
エラー娘「あら? もう降参?」
提督「まさか……。だが好都合ではある」
提督「お前のような胡乱な輩から得られる情報は、さぞかし豊かなものなのだろうな」
エラー娘「随分な物言いね」
提督「お前は……深海棲艦を護る存在なのか?」
エラー娘「どうしてそう思うの?」
提督「何となくだ。そういう可能性もあるだろう」
エラー娘「あれに味方する理由を、私は持ち合わせていないかな」
エラー娘「そもそも、あれらが何なのかすら、あなたは識らないでしょう?」
エラー娘「それともまさか、“深海棲艦は艦娘のなれの果て、その恨み悲しみで人類を襲う”なんて迷信を信じていたりする?」
提督「いや…………。彼らは明確な意志と知性を以って動いている」
エラー娘「そう。そうだね」
エラー娘「怨嗟や怨念で深海棲艦が動くなら、どうして艦娘もそれで動かないんだろう?」
エラー娘「艦娘だけは特別なのかな……。本当なら、海に沈んだすべての船が等しく怨恨を持っていてもおかしくはないのに」
エラー娘「或いはそうした負のモノだけを純粋に抽出して運用している、とか?」
エラー娘「どの案がお好み?」
提督「好みなどない」
エラー娘「あらら……。つまんない答え」
提督「……」
628 = 1 :
エラー娘「元々ね」
エラー娘「元々、艦娘と深海棲艦は出自が異なるというだけで、その存在はおよそ同種のものなの」
エラー娘「生まれたのは深海棲艦が先だったけど」
提督「……そんな気はしていた」
エラー娘「そうなんだ」
提督「…………あれらは一体、何なんだ?」
エラー娘「そうだね……」
エラー娘「それを説明するには、かつてこの星で何が起きたかを話さなきゃならない」
提督「星……」
629 = 1 :
エラー娘「そう、この星で…………」
エラー娘「多くの民族が犇めき合い、人口も100億に届こうとした時代があったの」
エラー娘「資源の枯渇による国家機能の破綻、カタストロフィが予見された世界……」
エラー娘「そこで旧人類の一部は限られた資源だけで天を目指した。長い、長い旅。どうなったかはわからない」
エラー娘「そして、星に残った旧人類の中に、さらに既存の肉体を捨ててでも海を目指そうとした者達もいた」
エラー娘「<私>が呼ぶところの第Ⅰ期新人類。彼らが後に生み出すことになるのが深海棲艦」
エラー娘「それでも地から離れられない旧人類のごく一部は、自分たちが恒久的に生存出来る方法を探した」
エラー娘「結論から言うとね、その模索は半分は成功し半分は失敗することになる」
エラー娘「結局、知的生命体の誕生と資源の大量消費は不可分の関係性にあった」
エラー娘「だから彼らは記録だけを残し、大半の文明を捨てることにしたの」
エラー娘「もう、わかるよね?」
提督「………………」
エラー娘「旧人類がこの件に関して大きく舵をきった原因としては……資源問題と人口問題の回避。この2つを手っ取り早く解消出来る新しい技術の開発に成功したから」
エラー娘「人の生命力を“大樹”へと還元する技術と、それを実行する計画の立案。これが一部の人間達によって秘密裏に進められた」
提督「馬鹿な…………」
エラー娘「そう。愚かしいこと」
エラー娘「もちろん、人類の絶対数を削減することで恒久的な生存を勝ち取ることが彼らの目的だったし、何より樹化それ自体に別の意義が見出されてもいた」
エラー娘「彼らは人であることに、限界を感じてた」
エラー娘「でも生き残ったのはもっと狡猾だった人間達なの」
エラー娘「樹化計画を推し進めれば人が滅ぶのをわかっていながら、その抗体を独自に創り上げ、人が死滅した後の世界を独占しようと考える集団もいたのね」
エラー娘「どちらにしても、これは当時の先進国の極限られた者たちによる独断によって遂行された」
エラー娘「多くの旧人類は樹化し……」
エラー娘「人類は、衰退した」
630 = 1 :
提督「なら、俺が今まで狩っていた大樹は……」
エラー娘「そう。元々は人間。おそらく意識も入ってるんだろうけど、個体という概念はないから気に病むことはないんじゃない?」
エラー娘「あれの生存目的は思索にしかないから、人とは、呼べないんじゃないかな」
提督「奴らがヒトを食らうのはなぜだ」
エラー娘「構造に意味を与えるのは無意味ね。それと、彼らの主食は情報であって人間じゃない。周辺情報は均一に侵食されるの」
エラー娘「でも、あなたたちは別」
提督「……どういう意味だ?」
エラー娘「あなたたちの肉体は情報の純度と密度が高いの。より有意味なの。艦娘ほど高密度ではないにしても」
提督「それを狙って…………まさか、変質した?」
エラー娘「ええ。“味を占めた”といったところじゃない?」
エラー娘「このことは旧人類もある程度自覚していたみたい。艦娘が喰われた場合は、著しい活性化のリスクを伴うってわけね」
エラー娘「大樹に斬撃以外の攻撃があまり有効ではなかったのが結果論だったとしても、あなたたちが駆り出された理由はまず以てそこにあるんでしょう」
提督「だが大樹は妖精を喰らわない」
エラー娘「そう。その妖精が、問題なんだよ」
エラー娘「衰退こそが目的でもあった。だからそれは問題じゃない。最終的に、旧人類は自分たちの天敵を設定することに成功した」
エラー娘「一方で誤算もあったの」
エラー娘「それが、妖精の発生」
631 = 1 :
エラー娘「あなたは妖精について、どう思う?」
提督「どう……と言われても」
提督「艦娘は神秘的な側面を持つが、その源泉はそもそも妖精だ。彼らについてはまるで説明の出来ないことだらけだ……」
提督「だが旧時代の記憶を持っている艦娘も、彼らはその時代において妖精を観測していないのは確かだ。大樹が発生的なものだとしたら、そこに関係があるという推測は立つ」
提督「そして、お前の話が本当なら、妖精は何ら情報量を持たない存在ということになるが?」
エラー娘「その通り。情報量を持たないから捕食されない」
提督「だがそんなものは観測出来ないはずだ」
エラー娘「或いはそうかもしれないね」
エラー娘「でも大樹の捕食対象にならない理由を、説明出来る?」
提督「それは我々が知らない何らかの要因があるかもしれないだろう」
エラー娘「そうだね。少なくとも今のあなたの認識の外部にその理由がありそうな感じはするでしょう?」
提督「持って回った言い方をするんだな。何が言いたい?」
エラー娘「これが言いたいことのすべて。あれの本質は不可知性にある。ブラックボックスと言ってもいい。でもいいよ。語ってあげる」
エラー娘「…………陸地を大樹が支配するようになってからしばらくの後に、妖精の発生が確認されたの。それはなぜか?」
エラー娘「無数の樹化した人類が有機的に接続された状態においてその演算能力を発揮した場合、統合された意識群からの創発によってさらに上位の意識を生じさせる……」
エラー娘「それはあなたたちの認識の外部に、より上位の法則が成立することに等しいの」
エラー娘「むしろ、下位の現象の中に、上位の法則を内包するようになる、とでも言うべきなのかな」
エラー娘「上位意識の放散と、それらを構成要素とした上流へのさらなる段階的創発。この意識のフラクタル構造の先、ある段階からは媒介を不要とし、非事象となる……」
エラー娘「というより、極度に抽象化した存在者は物理レベルをミクロのものとして、無視して振る舞うようになるのね。認識論的レベルにおいては」
エラー娘「そうして膨れ上がった諸法則がある臨界点を迎えたとき、物質世界は変質する。物理定数の書き換えなしに、上位の法則に従って現象が割り込んでくる」
エラー娘「あなたたちの認識の外部から、あなたたちの認識上“奇跡”と呼ぶにふさわしい現象が、地上に舞い降りるの」
提督「それが、妖精だと?」
エラー娘「……」
632 = 1 :
提督「……奇跡の本質は、不可知性にある、と言いたいのか」
エラー娘「そうだよ。説明出来ないことがその本質。知り得ないこと、語り得ないことこそが本質」
エラー娘「理論の外部にあるんじゃない。理論の内部にありながらも不明な、虫食いの、黒い箱がそこかしこにあるようなものだよ」
エラー娘「そこで起きる現象を、あなたたちが恣意的に解釈した。その結果が妖精。あそこには何の情報量もない。何も付け足されていない。だからあるものしか再現出来ない」
エラー娘「事実、大樹の侵食によって破壊された情報を、妖精は参照出来ていない」
エラー娘「彼らは真っ黒に塗り潰された関数そのものだよ。あなたたちが識るのは出力された結果であって過程じゃない。法則じゃない」
エラー娘「或いは、もしあなたたちが人体の体細胞のような存在だとしたら、彼らはきっと注射器の針ね」
提督「……なるほど。なら俺たちは、俺たちのひとりひとりが人間を形作っていたとしても、皮膚の外の世界がどうなっているかを知り得ない」
提督「そして、注射器から注がれた物質が人間が新しく産み出した、人体に元々ないものだったとしても、その物質は全体の法則に忠実に振る舞う、と」
エラー娘「簡素なたとえ話だけどね」
提督「仮説としては興味深いが」
エラー娘「元々この世界には仮説しかないよ。あなたたち、人間の側には特に」
エラー娘「観察された事象は常に理論による審判を受ける。だからこそあなたたちは妖精に、他の科学理論と認識論上同等の身分を与えることが出来るの。その利便性によって」
提督「観察命題の理論負荷性か」
エラー娘「でも、ミクロ的には観察が通用しないから、応用が利かないことには留意した方がいいよ…………」
エラー娘「とは言え、マクロ的にはそりゃもう大変な様変わりをしたさねー、この世界も。目には見えないレベルで」
エラー娘「最初は、彼らが姿を見せるようになってから、旧人類は彼らと積極的に接触を持とうとはしなかった」
エラー娘「妖精自体には特に危険性もなかったし、調査もあまり上手くいかなかった。というのも、捕獲しても容易に逃げられてしまうし、殺すことも出来なかったからね」
エラー娘「だけど妖精に逸早く目をつけた者たちもいた」
エラー娘「それが第Ⅰ期新人類、<私>は勝手に“メロウ”という愛称で呼んでいるけれど」
提督「メロウ……」
633 = 1 :
エラー娘「妖精はどこにでも存在出来る。たとえ深海であっても例外じゃないんだ」
エラー娘「彼らは海に現れた妖精と対話を始め、そして海のログを参照し、戦力として深海棲艦を生み出した」
提督「ログ?」
エラー娘「そうログ。変質の1つ。妖精の登場によって、結果的にではあるけれど、海はそれ自体が1つの記憶媒体のようなものになった」
エラー娘「妖精が海からあらゆる情報を抽出するという、その具体的な使用によってそう定義出来るの。“識海”とでも呼ぶべき変質」
エラー娘「だからこそ深海棲艦“も”、かつて海で戦った実在の船を再現したものなんだ。その点では艦娘と変わりない」
提督「だが、なぜ戦力が必要なんだ……」
エラー娘「海に逃げた彼らには彼らなりの思想がある。信仰がある。つまらない言葉で説明するなら、母胎回帰願望の成れの果てなんだ。生命の起源は海にあったから……」
エラー娘「それは母なる星と共に添い遂げようとする強い意志が実を結んだ、1つの形」
エラー娘「だから彼らは状況を閉塞させ、挙句に文明を捨てることなく地上に残った旧人類を恨んでいるの。でも一種のコンプレックスとして、ね」
エラー娘「海こそが自分たちの本来の居場所だと主張しながら、海に逃げたという事実が種族的な諦めであることを無意識のうちに悟っている」
エラー娘「彼らもまた、知的種族だから」
エラー娘「……だからね、地上に生きる場所はないと思っていたからこそ、のうのうと地上に人類が蔓延っていることが許せないんだ」
エラー娘「彼らにとっての戦いの動機はそれで十分なの。わかる?」
提督「わかるわけがないだろう!」
提督「なんだ、それは…………」
エラー娘「同じなんだよ」
提督「……何だって?」
エラー娘「彼らの祖先が海に逃げ込むまでに至った経緯は、そう単純なものじゃない。少なくとも彼らには元より地上に居場所なんてなかったんだよ」
提督「だが真実であれ、そんなことは過ぎたことだ」
エラー娘「そう過ぎ去ってしまったこと……」
エラー娘「でもそれは、あの個体…………夕立についても、同じことが言えるんじゃないの?」
634 = 1 :
提督「っ!」
提督「お前に、何がわかる……!」
エラー娘「何も、わからないよ」
提督「くっ!」
エラー娘「何を奪われ、何を侵略されたと判断するかは、常に誰かのわがままなんだ」
エラー娘「重ねて問うなら、あなたのやろうとしていることは、本当に復讐として成立しているの……?」
提督「…………………………」
エラー娘「最後にもうひとつだけ」
エラー娘「あなたにとってこのフラスコの中身は、何?」
提督「……深海棲艦を、滅ぼすためのものだ」
エラー娘「なぜ、そう言えるの?」
提督「それは……妖精が…………」
エラー娘「そうだね。妖精さんが言ってたからだもんね」
エラー娘「でもこの液体が何であるのかは不確定なの。あなたたちの認識する物理法則とは独立に製造されたから」
エラー娘「まあ運用すればきっと彼らは滅ぶのでしょうね。でも敢えて、こう言わせてもらうかな」
エラー娘「これを海に投げ込めば、海の水はすべて地上に溢れ、あらゆる命が滅ぶ」
提督「何だと!?」
エラー娘「どう? ふふっ、信じる? 信じられる?」
提督「馬鹿な…………」
提督「お前は一体何がしたい!?」
提督「なぜお前は、こんなことを知っている!?」
エラー娘「私が知っていたんじゃない。あなたが今、識ったの」
提督「はぐらかすな!」
635 = 1 :
エラー娘「そのままの意味だよ」
提督「お前が、その知識をどこで得たのかが知りたいんだ」
エラー娘「情報はただ、<そこ>に在るの」
エラー娘「でもあなたが今識るべきことはそのことじゃない」
エラー娘「さあ、選んで」
提督「な……!?」
エラー娘「そのフラスコを投げ入れるか、投げ入れないのか」
エラー娘「あなたが選ぶの。世界を」
提督「世界、を…………」
エラー娘「引き金の重さを、識って」
エラー娘「あなたが本当は何に投げ込もうとしていたのかを、識って」
エラー娘「霧に覆われていた天秤の片割れを、識って……」
エラー娘「お願い」
提督「俺は………………」
「あなたは、あなたの自由に選択すればいい」
「俺は――――――――」
636 = 1 :
(そうか、君は…………かつて、響が云っていた……………………)
(ありがとう。逢えて、<嬉しかった>)
(あなたとは出逢えない可能性もあったから……)
(それが、あなたの答えなんだね)
(もう逢えないのか)
(<私>は、もう逢いたくないかな)
(誰にも……)
(いつかまた、俺と同じ地平に立つ者が現われるかもしれない……)
(その時は、頼むよ)
(…………)
(なんて、無意味な、願い……)
――――――――――。
637 = 1 :
小さな風が吹きぬける。
潮の香り、波の音、鳥の声。
あらゆる空白が、静かに取り戻される。
提督(わかったよ……)
提督(何もかも)
フラスコの中身は、空だった――。
638 = 1 :
今宵はここまで。
多分、次の更新で完結になります。
分量も投稿時期も未定ですが、また来ます。
641 :
こんな俺得SSが存在していいのか
お茶会の流れでイマ再プレイ欲が抑えきれなくなったんだがどうしてくれる…
あと>>490の名字でニヤリとしたり夕立戦の脳汁溢れる文章が凄く懐かしかったり
最高です
(ただ一つ残念なのは俺が艦これを知らないこと)
642 :
>>641
長らく、本当に永らく“イマ”を知っている方を待ち続けていました。
艦これを知らないにも拘わらずここまで読んでいただけたことを、大変嬉しく思います。
次回更新ですがGW明けを考えています。
暫し、お待ちください。
643 :
>>642
むひょろぽう!
645 :
GW明けたで
期待
646 :
お疲れ様です。
すみません、相変わらず進捗よくないです。
気長にお待ちいただけると幸いです。また来ます。
647 :
シナプスを長くして待っています
649 :
待ち
650 :
待つ
みんなの評価 : ○
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