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    元スレ夕立「恋情は見返りを――」提督「求めない」

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    501 = 1 :


    おはろーございます。今朝はここまで。

    次回山場です。
    更新日は未定。内容重くなってきたので筆が遅れてます。

    502 :

    乙、ふえぇ大まかにしか理解が追い付かないよぉ…

    503 :

    こんな壮大な物語になるとは思ってなかった

    504 :

    響に会わなきゃ(使命感)

    506 :



    興味深い解釈です、GJ

    507 :


    ――――――――――

    屋上に一陣の風が吹く。
    曇天の空は斜陽を覆い隠し、時の流れを忘却の彼方へ運んでいた。
    お茶会を開けるほどの広さは今や閑散としており、漠々たる荒涼感に支配されている。

    以前催し物を行った時間が、提督には酷く遠くに感じられた。


    短く息を吐き、眼前を見据える。
    入口から20mほど離れた縁に手をかけ、屋舎を背にして佇む影がひとつ。

    吹き抜ける風に誘われるようにして、彼女は振り返る。



    もう既に見慣れていたはずのその姿は、大きく変容していた。
    毛先は薄く撫子色に。切り揃えられていた前髪も含めて、少し無造作な感じが増している。

    何かの予感が彼女をそう仕向けたのか、艤装は完全に武装されていた。しかし過去の認識とは一致しない。
    より操作性を向上させる黒のグローブ。主砲も目新しい。
    両脇には単装機銃が控え、大腿の魚雷は五連装のものに換装されている。

    それらに比べると微細ではあったが、服装の変化も見受けられる。
    清廉な印象を与える白のマフラーと金縁の襟元が、彼女の備える高潔さと気高さをよく表わしていた。

    一方、瞳はすべてを焼き尽くすかのような濃紅に染まり、以前の鮮やかな萌葱色が与える柔和さは影を潜めている。
    その激烈なまでの眼光、僅かに湛えた笑みに、例えば射竦められた者がいたとして、そこに疑問など持つべくもない。

    身長も幾許か伸びただろうか。
    こればかりは誤魔化しが効くこともない。だがそれを取り繕うにも、何もかもが遅すぎるのだ。


    何もかも。

    508 = 1 :


    視認された内容と同等の現象を、提督は資料から事前に知っていた。





    提督「やはり君は、高練度艦だったんだな」




















    提督「――夕立」

    509 = 1 :











    夕立「そうね」





    夕立は、慎ましやかに笑った。

    510 = 1 :


    夕立「……でも言いたいことは、それだけじゃないでしょう?」

    提督「ああ。君は、言わばスパイだ。残念でならない」

    夕立「あまり残念そうには見えないわね。いつから気づいていたの?」

    提督「最初からさ」

    提督「気づくと言うほどでもなかったが……」

    提督「しかし確証がなくとも、常に疑ってはいた」

    夕立「どうして?」

    提督「君だけドロップの仕方が、他の艦娘と違っていたからだ」

    夕立「なるほどね……。深海棲艦も、意外と大したことないわね」

    提督「だがそれだけじゃない。君は経験と実力に乖離がありすぎた」

    提督「不審に思った」

    提督「だから……」

    提督「君を最も近くで監視することの出来る、秘書艦の職につけた」

    夕立「そう……」

    提督「そして俺の杞憂は杞憂に終わってくれなかった。だから今、こうしてここにいる」

    夕立「ふふっ。刀なんか携えてね」

    提督「…………」

    提督「君のその口から教えてくれ」

    提督「君は一体、何者なんだ……?」

    511 = 1 :


    夕立「ふぅ…………」

    夕立「そう……ね…………」

    夕立「あなたには、話しておきたい」

    夕立「今では、この意志の起源がどこなのか、それすら曖昧になってしまったけれど……」

    提督「何を……?」

    夕立「はぁ…………はぁ……」

    提督「おい、大丈夫か――」

    夕立「近寄らないで!」

    提督「!」

    夕立「……話せる範囲で、話すわ。話せるうちに」

    提督「…………」

    夕立「ふっ…………ぅ」

    夕立「……」

    512 = 1 :


    夕立「私は、ある鎮守府で陸上基地殲滅の大規模作戦に従事していた」

    夕立「鎮守府きっての高練度艦として、戦闘の最前線に立ってね」

    夕立「でも、多分失敗したの」

    夕立「他の娘の犠牲として、すべてを引き受けて、沈んだ」

    夕立「そう…………沈んだ。そう、思っていた……」

    夕立「でも、違った……」

    夕立「私は……はっ…………」

    夕立「はぁ……! ……はぁ! ぐぅっ」

    夕立「――鹵獲、されていた」

    提督「……」

    夕立「そしてぇ……そこでっ、はぁっ、はぁ、そこで私はおそらく、ぅ、記憶の大部分を、封じられ……」

    夕立「夕立の……! 私を成立させる基幹プログラムの、書き換えを……!」

    夕立「ぅ、……ぉぇぇ!」

    パシャベチャ

    提督「!」

    夕立「はーっ、はぁ…………ぁ」

    夕立「あ、はは……。ダメ、っぽいね……」

    夕立「行為を抑止するだけでも、これほどの負荷が掛かるのに、積極的に逆らおうものなら拒絶反応が出ちゃう……」

    提督「…………深海棲艦によって再定義された行動規則に、逆らおうとしているのか」

    夕立「そうよ……はぁ…………」

    513 = 1 :


    提督「…………」

    提督「君には逆らう意志が……?」

    夕立「……あるけれど、それは元々は“私の意志”じゃない」

    夕立「その意志さえ、ヤツらによって定義されたものよ……」

    夕立「私のこのささやかな抵抗は、提督さんのような指揮者に対する行動の規定がその源泉でしょう」

    提督「……」

    提督「…………俺たちから情報を引き出すための、手段として」

    夕立「きっと、そう……」

    夕立「でも今となっては、バグでしかないんだよ」

    夕立「本当に馬鹿よね、あいつらは」

    夕立「……きっと夕立は、ヤツらの試作品なの」

    夕立「あの場ではテストも兼ねて、私に信号を送信して、どこまでやれるか実験したってところかしら……」

    提督「信号が意味する命令に従って、君は情報を広域発信した。でもその一連のプロセスは不完全なものだった……」

    提督「君は気絶するほどの負荷に襲われ、深海棲艦は奇襲に失敗。密偵も発覚。……散々な結果だな」

    夕立「でも、断片化されていた記憶を私が取り戻してしまう可能性については、考慮していたのかな……」

    夕立「結局私は使い捨てられ、致命的に壊れてしまった」

    夕立「そして今となっては別の命令が私を突き動かそうとしている……」

    夕立「提督さん」

    夕立「あなたを、殺すことよ」

    514 = 1 :


    提督「……」

    夕立「ふふ……」

    夕立「今なら、理解出来るわ……」

    夕立「覚えてる? ここで話したこと」

    提督「ああ、当然だ。忘れるはずもない」

    夕立「あの時、提督さんは、自分自身に悲しんでいたわけじゃなかった……」

    提督「やめろ。そんなのはお前の思い込みでしかない」

    夕立「あはは、今さら白々しいよ」

    夕立「どう? 確証は得られたかしら?」

    提督「……………………」

    夕立「そう。なら、これで何の未練もなく、切り捨てられるというものね……」

    提督「馬鹿なことを言うな!」

    夕立「え……?」

    提督「叶うなら、杞憂であってほしかった。俺の思い違いであってほしかった……」

    提督「俺は確証なんて、ほしくなかったんだ」

    提督「それに、約束したはずだ。もう忘れたとは言わせないぞ」

    夕立「…………提督さんは人間でしょう? 無理よ」

    夕立「あなたはきっと、ここで死ぬ」

    夕立「無様に、惨めに」

    提督「やってみなくちゃわからないだろう」

    夕立「呆れた……。愚かね」

    夕立「提督さんは、あの約束を未だに引き摺っているの?」

    提督「そうだ。それが俺の想いだ」

    提督「そう言う君は、以前と変わらない気持ちでいてくれているのか?」

    夕立「夕立が以前と変わっていないのは、その規定だけだよ……」

    515 = 1 :


    夕立「……提督さんは、“お掃除ロボット”って知ってる?」

    夕立「自律型のロボットで、センサーでゴミを探してはそれを吸い込んで、電池が少なくなると自分で充電器に戻るの」

    提督「それが、どうした」

    夕立「ロボットさんは充電器に戻る時、“空腹を感じてた”かな? ゴミを吸い込む時、“気持ちいい”のかな?」

    提督「夕立………………」

    提督「……俺たちは空腹を感じるから飯を食うんだ」

    提督「嬉しいから笑うんだ」

    提督「悲しいから涙を流すし、もっと近づきたいと願うから」

    提督「触れ合うんだ」

    提督「それで、いいじゃないか……」

    夕立「いいえ。いいえ」

    夕立「提督さんも、本当はわかってるんでしょう?」

    提督「…………」

    提督「――感情は、生理的反応を。行動を。決定しない」

    夕立「そうだね」

    516 = 1 :


    夕立「私は、あなたに近づくようにプログラムされているに過ぎないの」

    夕立「過程と結果は、常に逆なんだよ?」

    夕立「人間で言うなら、空腹感も、眠気も、種々の感情も、神経伝達物質やホルモンの働きに伴っているもの」

    夕立「プログラムに随伴するだけの、余剰物でしかない」

    夕立「………………」

    夕立「でもね」

    夕立「記憶を取り戻した今でも」

    夕立「いいえ、記憶を取り戻した今だからこそ」

    夕立「――――私はこの感情を、恋と定義したい」

    提督「……身勝手なやつだな」

    夕立「あはは……。そうだね、ごめん」

    夕立「でも、その代わりに」

    夕立「私はあなたに見返りを求めないから」

    提督「……そうか」

    提督「………………」

    提督「夕立」

    夕立「ん?」

    提督「俺も、お前のこと、大好きだ」

    夕立「――――うん!」

    517 = 1 :


    その頷きが最後ではあった。
    辛うじて保たれていた彼女の中の均衡は、完全に決壊した。

    果たして夕立の右腕が駆動を始める。
    ――12.7cm連装砲B型改二。かつて殺戮兵器として磨き上げられた鉄塊は、今まさに指揮者のみを穿ち破壊するために、その双眸を覘かせようとしていた。

    ふと、提督はそこに視る。少女の振り上げる腕が、徐々にその速度を減じさせていく光景を。
    この減速が、夕立の殺人に対する躊躇と殺意への克己を意味していたのだとすれば、提督は幾許か救われたかもしれなかった。
    だが、その救済が願望という名の妄執による反実仮想に過ぎないと、そう断じることは疎か、そうした甘い夢が成立し得る僅かな可能性の予感さえ、この男の念頭に浮かぶことはなかった。

    それは提督の冷酷さ故であったか。

    否。変速の理由は、男にはあまりに明晰に過ぎたのだ。
    錯視でも比喩でもなく、彼にはある1つの認識が与えられていた。そして同時に、その肉体にはある変異が生じ始めていた。


    神経が励起し、末端からノルアドレナリンが放出され、作動性受容体と結合する。
    心拍数は増大し、心臓付近の血管を拡張させる。
    余分な心筋興奮は無駄となるため、心拍出量は自動で最適値に抑制された。
    気管支平滑筋が弛緩し、最大呼気量が増していく。

    これらの興奮状態の制御は、肉体の効率的な運用を可能にする。最適緊張状態への切り替えなど、陸軍士官であれば誰もが有する基本的な能力に過ぎない。
    ゆえに、この男が他の追随を許さなかったのは肉体活用の最適化ではなく、最大化にこそあった。


    ――神経伝達速度の向上、認知速度の極大加速。


    元は外的な運動速度に対して、内的な情報処理速度を相対的に加速する、言わば反応速度の向上である。
    艦娘の肉体の物理的不確定性とヒト種の肉体の有機的結合を折衷し生み出された強靭な身体に、この能力が加わることで異能戦士の基本スペックは完成を見た。
    その戦闘能力はこれだけで既に、人外のそれと言えただろう。

    518 = 1 :


    だが何事にも技巧はあり、練度や才覚は存在する。
    とりわけ情報処理速度の向上とは即ち、脳神経の再結線、脳機能の自己組織化に他ならない。平等に実現することもない。
    提督の思考加速は、もはや反応速度の向上に留まっていなかった。


    提督「――――」


    夕立の上腕の緊張を読み取り、踏み均すように足を捌く。
    銃弾と化した砲弾はある種の幻想ではあったが、しかし紛れもなく男の心の臓を破るだけの質量と、強度と、運動量を兼ね備えていた。
    ついに爆音と同時に放たれた初速1,800km/hの弾丸は、その正確だった狙いも虚しく男の半歩右を切り、背後の硝子を粉砕した。


    夕立「!」


    少女は瞠目した。必殺必滅の一撃を躱されたのである。
    そして瞬時に理解する。そこには微かな恐怖感が伴っていた。


    ――殺されるかもしれない。


    最適化処理を目前に控えるほどの高練度艦であれば、既に思考加速は体得している。夕立もその例外に漏れることはなかった。
    それゆえに、自身が必中を確信して放った弾が躱されるというのは尋常なことではない。

    ましてや高練度艦の認知における最大の変化は、近未来予測にある。
    空間認識は層状に深化し、将来の像は予測に基づいて数的同一性を保ちながら多重に、半透明に展開し認識される。
    刻一刻と変化しながら展開していく虚像の確率分布は色彩として反映され、時間経過と共により濃度の高いものに収束していき、現在点を通過した残像は霧散する。

    だが当然のことながら、どんなに知覚が拡大しようと像と像の間隙を縫われては認識することが出来ない。
    そして事実として躱した以上、男は彼女よりも早く動き、そして彼女と同じかそれ以上に未来の可能性をよく視ていたということになる。

    519 = 1 :


    主砲の威力は決定的である。
    しかし連射には秒単位の時を要する。
    既に夕立は、目の前の男をかつて自身の上に乗せた多くの命と同等の存在としては認められなくなっていた。


    ――秒も与えては、距離を詰められる。


    硝子が地面に落下するより先に、単装機銃を駆動させる。
    本来であれば主砲を載せていたところを機銃に変えたのは僥倖だった。
    夕立には対人戦闘経験がなかったものの、縮小解釈した機銃が対空戦闘より有用であることは明らかではあったが。

    提督を中心にして左右から舐めるように鉄の雨を降らせる。
    もはや一撃で仕留めようなどと思うまい。
    退路を塞ぎ、数瞬先を幻視し、確実に肉を削ぎ、すべてを終わらせる絶対配置に追いつめる――。


    無論、そうした戦術の変更を悟れない提督ではなかった。
    夕立が連装砲を構え直すのを視認しながら姿勢低く屈み込み、真上に跳躍する。

    二発目。
    空中では回避する術がないことを見越して撃ち込まれる二発の弾丸。
    だが銃弾はその身に届くことなく、無残にも弾き飛ばされた。


    夕立「な――!?」


    下弦の月を想わせる白刃が、少女を睥睨していた。
    それは錯覚ではあった。しかし夕立は、その冷たい煌めきの中に確かな美しさを視た。

    刹那、ふたりの視線が交叉する。

    提督が上階の縁に手を添えようとしたところで間合いの不利を確信し、機銃で牽制しながら夕立はテラスを飛び降りた――。

    520 = 1 :


    ――――――――――――――――――――


    艦隊の戦力は摩耗し、皆疲弊しているという。
    比較的元気なのは急ごしらえの第4艦隊のメンバーだったが、自分から動いてみることにした。

    まさかあの司令官が、新造艦の迎えを忘れているとは……。

    海に出ていた艦娘や海域の異変についても心配ではあったが、確かに夕立の昏睡は輪をかけて不安にさせられることだった。
    司令官も夕立も大変だと言うなら、私が、私たちが支えたい、と強く想う。

    廊下で会った金剛を連れて、工廠に入る。


    「やあ。響だよ」

    金剛「金剛デース!」

    利根「おお! 吾輩が利根である、ぞ?」

    ??「なぜに」

    金剛「疑問形デスカ?」

    利根「こっちではないぞ?」

    「あなたは?」

    時雨「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね」

    「時雨…………」

    利根「なんじゃ、その神妙な反応は」

    521 = 1 :


    「いや、ごめん……」

    金剛「時雨、もう艦娘としてココには夕立がいるのデース」

    時雨「夕立が!? 本当かい?」

    金剛「Yes! But,夕立は今チョット調子が悪くて、響が少し気に病んだだけネー」

    時雨「だ、大丈夫なの?」

    金剛「Don't worry.すぐ元気になるハズ」ニコ

    時雨「うん……。ありがとう、金剛」

    利根「なんじゃ心配させおって――」


    ズガン!


    金剛「!」

    「!?」


    ダダダダ!

    ズガン!

    ダダダ!


    利根「おー! 演習か? なかなかに盛んじゃのう」

    金剛「これは…………」

    「金剛はふたりを!」ダダッ!

    金剛「響! 待ちなさい!」

    (嫌な予感がする)

    (まさか……!)

    ――――――――――――――――――――

    522 = 1 :


    刀の扱いは、自らに流れ込んでくるかのように感じていた。
    訓練で行った対人格闘は徒手空拳にせよ剣技にせよ、身体の使い方と心構えを覚える以上の意味はなかっただろう。
    大樹の変則的な攻撃に比べて、人や銃弾の動きはあまりに直線的に過ぎた。

    ゆえに毘式四十粍機銃による攻撃を躱すこと自体は、提督にとって然したる問題ではなかった。
    しかし間合いを離されては危機でしかない。

    もしも人質を取られるようなことになれば、その艦娘を見殺しにすることになるだろう。
    懸けるのは自身の命だけで充分だった。


    迎撃に注意しながら階下へ、そして倉庫の屋根へと跳ぶ。
    跳び出してすぐに銃声が鳴るようなことはなかった。夕立も弁えているのだろう。

    最大の隙は着地にこそ生じる。空中で互いに位置は掴み合っていた。
    目指すは屋根の縁。

    提督は地上に夕立を認めると、跳んだ勢いのまま屋根で受け身をとり、着地点の反対側から速やかに下へ降りた。


    地面を蹴り、夕立が待ち伏せる通りへ一気に躍り出る。
    機関砲は事実上、機関銃へとその意義を変化させていた。

    ばら撒くように横薙ぎに張られた弾幕を、最小限の労力で去なし、提督は肉薄する。
    夕立は踏み込みを見計らって主砲を叩き込み、跳躍による回避への追撃を狙うも、攻撃は悉く躱された。

    三基の兵装を以ってしても捕捉出来ず、依然として隙を窺わせない男に、少女の方は背を向けるほかなかった。

    逃げるのは比較的容易いが、殺せる余地が全く存在しないということに、少女は安堵と焦燥を感じ始める。

    なぜなのか――。

    この感情は、何なのか――。

    或いは彼を殺しさえすれば、その疑問は晴れてくれるのだろうか……?

    もう止まることはない。



    殺すしか、ない。

    523 = 1 :


    銃と剣。
    追いつめられているのは銃である夕立だが、このままでは危惧していたことが現実になりかねない。

    勝負に出る必要があった。


    ここは誰ひとり観客のいない劇場であり、しかし演者がふたりだけいた。
    あらゆる演出はふたりだけのものであり、そして魅せる相手は互いにただひとりだけである。

    提督は躱すのを、やめた。


    立体戦闘の可能な戦士にとって跳躍は最大の回避運動である。
    しかし使えば距離をとられる。

    それでは彼女に届かない。

    ならば――。

    回避の限度は之字運動で必要にして十分。
    むしろ此度に限っては回避ではなく、肉薄のために用いられるべきだろう。


    戦闘領域が一次元、狭まる。

    駆け抜けるは弾幕の嵐。
    頼れるのは無銘の刀、一振りである。

    走り、去なす。
    去なし続け、走り続ける。
    剣捌きさえ誤らねば、刀が折れることはないと信じて。

    迫るにつれ、提督の生存の未来線が跳躍に収束していく。
    一方の夕立は、迫られる限り自身の活路を見出せないでいた。

    そしてふたりは数手先に、不可逆な一線を垣間見た。

    辿り着く最果ては、殺すか、殺されるか。

    或いは。

    共に、死ぬか。


    互いが死の一点へと収束する直前――。



    提督は真横に弾き跳んだ。

    524 = 1 :


    もはやその瞬間には二択の可能性しか存在していなかった。
    ゆえに夕立は追撃の手を緩めない。

    ここで逃がせば殺すことは叶わない、と。

    攻守関係が逆転する。
    男は数秒前に自らに課した呪いを解き放ち、縦横無尽に逃げようとする。

    引き続き、夕立が追撃のために足を踏み出した瞬間、提督は隣接する倉庫の上階の窓硝子を破り、中へ転がり込んだ。
    それを認めると同時に――。

    少女は歓喜と悲嘆に、その顔を盛大に歪めた。
    彼女は恋情と殺意の狭間で、ただこの時を待っていた。

    ――だが果たしてそれは狭間であったのか。


    夕立はすぐさま引き抜いた魚雷を窓に投擲し、それを主砲で撃ち落として跳び込むように素早く身を隠した。



    直後。



    黒煙。轟音。爆風。

    圧倒的なまでのエネルギーの奔流である。
    提督が逃げ込んだのは弾薬庫だった。

    耳から手を離し、様子を窺う。
    爆心地を確認しようにも、一帯は煙に覆われ、何も視えない。

    ただ爆発の反響音だけが、ごうごうと耳鳴りのように鳴り響いていた――。

    525 = 1 :


    何ともつまらない幕切れだった。
    指差し確認するまでもなく、対象は跡形もなく消し飛んだだろう。


    ――だけどこれから私は、どうすれば。


    ――――。





    夕立「っ!」



    左足を軸に振り返る。

    気配が僅かに身を引いた。

    鮮血が、花のように咲く。


    夕立「ぎゃあああああ!!」


    叫びながら主砲を薙ぎ払い、機銃を乱れ撃つ。
    手応えはない。


    既に少女の右膝から下は、斬り落とされていた。

    526 = 1 :


    夕立「あ゛ぁ……ぐっ!」


    苦痛を奏でる唇は、直ちに噤まれる。


    ――痛覚の遮断。

    だがこれは一種の越権的表現である。
    痛覚は、決して遮断出来ない。

    なぜなら疼痛とは、ある機能の総体だからだ。
    撹拌し、改竄し、働きそのものを捻じ曲げる必要があった。

    痛みがやや遠くなり、興奮状態へと切り替わる。

    命令を受ける。

    殺せ、と。


    機動力を削がれた以上、もはや真っ向からでは一瞬で決着がつく。
    しかし三足歩行の狗となって逃げ出したところで、そこに意味などなかった。


    夕立「あああああああ!!」


    絶叫と共に、少女は男へ襲い掛かる。

    527 = 1 :


    下策と評することすら憚る、捨て身の跳躍。

    三基の照準は、すべて男に向けられていた。
    領域は線状から点へと、その描画を移行している。
    提督の回避範囲は、劇的に拡大していた。

    加えて片足での踏み込みは、見る影もなくその速度を減じさせてしまっている。
    間合いがこれ以上狭まることも、ない。

    迎撃することなく提督は身を翻す。
    夕立は慣性の法則に従い、壁に衝突した。


    もはや満足に着地することさえ叶わぬ少女も、態勢を立て直すために壁を利用する程度の打算は弁えていた。
    だが少女の反転より早く、二基の機銃と艤装は無残に破砕される。


    夕立「くっ!」


    振り向き様に、せめてもの一撃を――。


    少女の右腕は、主砲と共に両断された。


    夕立「あ゛がぁっ!」


    刃は二つある砲身の間を正確に刺し、その剣先は尺骨と橈骨とを別つように斬り裂いた。
    遮断を僅かに上回る激痛に耐えながら、自滅を覚悟し夕立は魚雷に手を伸ばす。

    今再びの一閃。
    嫋やかなその指は、バラバラに弾け飛んだ。
    悲鳴はない。
    しかし終着である。
    未だ穢れなき雪白の肢にその身を深々と捩じ込み、少女から数多の自由を奪った刀剣は、静かにその凌辱を停止した。

    528 = 1 :



    夕立「………………」


    少女の顔は、倒れ込むように男の胸に預けられていた。
    そのせいで男は、少女の表情を窺い知ることが出来なかった。
    刃を抜くと同時に、華奢な体が崩れ落ちる。

    男は刀を投げ出して彼女を抱きとめた。


    夕立「…………てい、とく………………さん……」

    提督「夕立……………」


    夕立は憔悴しきっていた。
    しかし、狂気や怨嗟とは程遠い、穏やかな貌をしていた。

    目が逢う。声が震える。


    提督「夕立。俺は…………」

    夕立「……提督、さんは…………夕立を、止めて………………くれたん、だね……」

    提督「違う……。俺は、お前を…………」

    夕立「あり、がとう……」

    529 = 1 :


    夕立「それで、ね…………」

    夕立「夕立は――」

    夕立「提督さんになら、殺されても、いいよ……?」

    提督「……っ」

    夕立「えへへ…………」

    夕立「私はもう、壊れて、しまったから…………」

    夕立「もう、充分だから……」

    提督「……嘘を」

    夕立「……」

    提督「嘘を…………つくなよ!」

    夕立「……嘘なわけ、ないでしょう」

    提督「なら……なんで…………」

    提督「なんで……」





    提督「泣いてるんだ…………」

    530 = 1 :



    夕立「……………………」



    夕立「あ、はは……」





    夕立「提督さんも、ね…………」

    提督「……………………」


    いつの間にか、雨が降り出していた。
    血に染まった二匹の怪物は、互いが互いに泣いているように思った。

    しかし果たしてそれは雨だったのか、涙だったのか、もはや判然としていなかった。


    夕立「提督さん……」

    夕立「……少し………………疲れちゃった…………」


    そう満足げに呟くと、夕立はゆっくりと目を閉ざしていく。
    男は、ただ鳴り止まぬ雨音だけを聴いていた――。

    531 = 1 :


    今宵はここまで。


    まだ、続きます。
    次回更新は未定。多分1週間後には。

    533 :

    >>531
    乙です。

    535 :

    おはろーございます。

    週が明けてしまいました。遅れていてごめんなさい。
    筆は進んでいますが、いざ書き始めると想定より記述量が増えているため遅れています。
    換言すれば、ある程度キリのいい形で投稿していきたいので書き溜めている次第です。どうかご容赦ください。

    終わりが見えるとゴールが遠のくという話をいつかどこかで読みましたが、あれは本当だったんですね。身を以て知りました。

    537 :


    提督(わかっていた)

    提督(頭の隅で、疑いながら)

    提督(心のどこかで、わかっていながら)

    提督(それでもなお、俺は、この子を…………)

    提督(だが何だ…………これは……)

    提督(その結果が、これか……?)

    提督(約束も守れず、ただ、傷つけて……)

    提督(何を……やってるんだ……)

    提督「夕立…………」

    提督「なぁ……どうして……」

    提督(俺は何がしたいんだ)

    提督「目を、覚ましてくれ…………」

    提督(俺は何がしたかったんだ……?)

    提督「ごめん…………」

    提督(悔むべきは何だ?)

    ギュウ

    提督(俺は誰に謝ればいい?)

    提督(俺は何に赦しを請えばいい?)

    提督(何、が……………………)

    提督「…………」

    提督(もう、帰ろう、夕立……)

    提督(みんなが……待ってるはずだから……)

    538 = 1 :


    ――――――――――

    「!」

    「司令官!」

    提督「……」

    金剛「て――!!」

    金剛「血が……!」

    長門「無事か!?」

    金剛「てい、とく……?」

    長門「!」

    長門「なぜ、夕立が……?」

    時雨「夕立……?」

    「…………」

    金剛「なん、で…………」

    長門「夕立!!」

    長門「なぜだ提督……。何があった!?」

    提督「……」

    539 = 1 :


    金剛「提督……」

    金剛「What the hell did you do it for?」

    提督「……」

    金剛「Say something……」

    金剛「Hey!」

    提督「…………」

    提督「………………今回の深海棲艦による各艦隊の襲撃事件。その原因がわかった」

    提督「夕立が敵に操られ、情報を流していた」

    長門「なっ……」

    提督「そして彼女は私にそのことが発覚した段階で、私を殺しに襲ってきた」

    提督「危険な状態だった。だから私が、速やかに無力化した」

    長門「無力化だと? 馬鹿な……」

    提督「私には可能だった。むしろ、私にしか出来ないことだった」

    長門「何なんだそれは! 納得がいかん!!」

    長門「だいたい、あなたが生身でひとりの艦娘を制圧したということさえ、私にはまだ!」

    提督「この夕立はおそらく、オーバーAランクの高練度艦だ」

    提督「海の上ならまだしも、常態でのこいつに白兵戦で勝てる艦娘はいなかった」

    提督「お前たちを失うくらいなら、弾薬庫の1つや2つ、安いもんだ」

    540 = 1 :


    金剛「だからって……」

    提督「真っ先に私を殺そうとしてきたのも好都合だった」

    提督「被害が余計に拡大せずに済み、迅速な対応をすることが出来た」

    提督「私の能力や素性に関しては、今はどうでもいいことだ」

    提督「私は何も、間違ってはいない」

    時雨「…………許さない」

    提督「……!」

    時雨「許せない……」

    時雨「僕はまだ、さっき着任したばかりで、ここのことや、みんなのことも、よくわからないけど……」

    時雨「でも、あなたは……。あなたは、ここの提督なんでしょう!?」

    時雨「なのに、なのにそんな人が、夕立を……こんな目に遭わせて…………」

    ダッ!

    バッ

    「ダメだよ!」

    時雨「離して! 離してよっ! ……くっ、うっ、うわぁぁあああん!!」ポロポロ

    一同「……」

    提督「…………」

    提督(これが、あいつの言っていた……)

    提督(結局俺は、彼女たちに殴ってもらうことも出来ないのか)

    541 = 1 :


    提督「……夕立の手当てがしたい」

    提督「もう、行っていいか?」

    長門「なぜ、殺さなかった」

    提督「殺せなかったんだ」

    長門「その不可能性は、力量の問題だったのか?」

    提督「まさか……。殺すだけなら、もっと楽だったろうさ」

    長門「……」

    金剛「……」

    「…………」

    提督「それとも、こんなことなら殺した方がこの子のためだとでも?」

    長門「私たちのためにはなるだろう……。そういう判断は、あったはずだ」

    提督「……もう、いいだろう」

    提督「今になって、はっきりとわかったことだが、艦娘はこの程度では死なない」

    提督「実際、“手当て”などと言っても、私に出来ることはほとんどない」

    提督「自動的に、ほとんど止血されているんだ……」

    提督「だから、彼女が目を覚まさないのはもっと別の理由によるものだろう」

    長門「目が覚めた時も、この子は私たちの味方でいてくれるのか?」

    長門「もし敵だったら、どうするつもりだ?」

    542 = 1 :


    提督「…………まだ、わからない」

    長門「提督。斬る覚悟があるというなら、殺す覚悟もしておくことだ」

    長門「悲しいが。どうしようもなく辛いが……」

    長門「……あなたが手を下さなかった時は、私が始末する」

    長門「だが提督。……今は、あなたを信じるよ」

    提督「……ありがとう」

    金剛「……ひとつ。いいデスカ?」

    提督「なんだ」

    金剛「他に、方法はなかったのデショウカ?」

    提督「…………それも、わからない」

    「……」

    金剛「…………」

    提督「この件に関しては改めて全体に報告する。他の艦娘たちにはそう伝えてくれ」

    提督「頼む。今は少しだけ、時間がほしい」

    スタスタ

    時雨「くっ……ぅ…………」

    利根「時雨……」

    543 = 1 :


    長門「“お前たちを失うくらいなら”か……」

    長門「提督の癖に、理由は戦力の問題じゃないのか」

    長門「全く以って、支離滅裂だな」

    「でも、嫌いじゃない……」

    長門「ああ、そうだな。不思議と」

    「……多分、司令官は最初から気づいてたんだ」

    金剛「どういうことデスカ?」

    「こうなる前に、夕立を解体する選択も司令官にはあったんじゃないかってことだよ」

    「でもそれが出来なかった、或いはしなかった」

    長門「だが、出撃している最中も夕立にいつもと変わったところはなかったぞ」

    「でも司令官にその判断材料がなかったなら、“わからない”なんて答えなかったと思うけど」

    金剛「なら提督はそのことについて、ずっと迷っていたということデスネ?」

    長門「そして決断を迫られていたのは、何も今回に限った話じゃなかった、と」

    「おそらくは」

    長門「それであの歯切れの悪さか。確かにそうなら、なぜだと詰るのは容易いが、少し酷か……」

    長門「しかし響。どうしてそう思った?」

    544 = 1 :


    「…………夕立は司令官にとって最初の拾得艦なんだ」

    「そして彼女のドロップを見たのは、私と吹雪と天龍と那珂、司令官しかいない」

    金剛「?」

    「彼女だけは、甲板に構成されなかったんだ」

    「今思えば、まるで“もともと駆逐艦イ級に乗船していた”かのように、気絶して海に浮かんでいたよ」

    長門「!」

    「尤も、それを弁えた上で、司令官はあくまで夕立を信じようとしたのか、それとも単に泳がせていたのかまでは私にもわからない」

    「それどころか、私なんて今まで忘れていたくらいだ」

    「だから夕立より後に着任した人が彼女を疑うなんてことは、尚のことありえなかっただろうね」

    金剛「でも、もしそうなら、今の方が辛いネ……」

    長門「ああ。これまで一緒に、過ごしてきてしまったからな……」

    「そしてもし気づいていて、解体しなかった過去の自分を呪って、それでも剣を振るったのだとすれば……」

    金剛「そんなの……………………」

    長門「………………」

    長門「……提督は、どうするつもりだろうな」

    「わからない」

    「それよりも今は、私たちに出来ることをしよう。そろそろみんな駆けつけるはずだよ」

    長門「……来たな」

    545 = 1 :


    ダッダッダ

    鈴谷「みんな!」

    長門「……」

    叢雲「一体何があったの!?」

    北上「見ない顔もいるね」

    天龍「オイ叢雲!」

    叢雲「……なによ」

    天龍「まったく、ついてきやがって……」

    天龍「あぶねーからお前らは引っ込んでろって言っただろ!?」

    叢雲「うっさいわね……」

    叢雲「で、この惨状は?」

    「……」

    金剛「……」

    長門「夕立が、提督を襲ったらしい……」

    摩耶「はぁ!?」

    摩耶「まさか、裏切ったってのか!?」

    「違うよ。どうやら、深海棲艦に操られていたみたいだね」

    摩耶「なんだって……?」

    鈴谷「提督は無事なの!?」

    546 = 1 :


    長門「無事だ。それどころか、単独で夕立を無力化したようだ」

    赤城「無力化……」

    加賀「(赤城さん)」

    赤城「(ええ)」

    「…………」チラ

    摩耶「そんなことが、出来るのか?」

    神通「……夕立ちゃんは?」

    長門「今提督が拘束している……」

    鈴谷「無事、なの……?」

    長門「……すまない。これ以上のことは私の口からは説明出来ない……」

    鈴谷「何それ……。どういうこと?」

    長門「近く、提督自ら説明があるだろう。それをみんなには待ってほしいとのことだ」

    一同「………………」

    北上「あの、気になることがあるんだけどさ」

    北上「アタシたちも、深海棲艦に操られる可能性はあるの?」

    叢雲「それって……」

    「今のところ、その可能性は低いと思う」

    神通「どうしてですか?」

    547 = 1 :


    金剛「そもそも、今回の南西諸島海域での一件も夕立によるものだからデス」

    金剛「操るなら、そのタイミングが望ましいはずデショウ……」

    鈴谷「今操られてないことは証明にならないんじゃ?」

    長門「不安なのはわかるが、憶測で話を進めるのはよそう」

    長門「目下の危険はない。何より、今の私たちに出来ることはないんだ……」

    長門「どうか、頼む…………」

    鈴谷「…………まあ、長門さんがそう言うなら……」

    摩耶「煮え切らねぇけど、わかったよ」

    天龍「……みんなの様子、見てくる…………」

    叢雲「妖精さんに、修理をお願いしてくるわ……」

    長門「ありがとう……」

    北上「ま、緊急時にアタシらが騒いでもしょうがない、か。やれることはやりたけどね」

    「みんな、同じ気持ちだと思う」

    北上「そだね。大人しく、待機してるよ」

    神通「行きましょう」

    利根「吾輩と時雨は、どうしたらよいのじゃ」

    長門「みんなと一緒に、待機していてくれ。神通」

    神通「わかりました」

    スタスタ

    548 = 1 :


    加賀「……」

    赤城「あの……」

    長門「なんだ」

    赤城「今し方説明したことは、知っていることのすべてではないですね?」

    長門「まあ……な。先程、直接提督と会ったのは私たちだけだ」

    加賀「その情報を伏せる意図は?」

    長門「無用な混乱を避けるためだ。それに、私たちにもわからないことが多い……」

    「私たちと同じ疑問をみんなが持っても、何も進展しない。何より、司令官がまだそれを望んでない」

    赤城「なるほど……」

    「でも、何か打ち明けたいことがあるなら、聞くよ」

    赤城「!」

    加賀「……お見通し、というわけですか」

    「司令官に関することだね?」

    赤城「はい……。皆さんは?」

    長門「共に背負わせてもらおうか」

    金剛「No problemネー!」

    赤城「ありがとうございます。皆さんにお話しておきたいことがあります」

    赤城「加賀さん」

    加賀「はい」

    加賀「実は――――」

    549 = 1 :


    ―――
    ――


    ―救護室―

    提督「……」

    救護妖精A「にんげんさん、おけがですか?」

    救護妖精B「ちまみれですな」

    提督「私ではない。この子を、手当してほしい」

    救護妖精B「なんと!」

    救護妖精A「あしがもげもげだ」

    救護妖精B「とかげさんなら、はえるかも?」

    提督「具合はどうだ?」

    救護妖精A「かんむすさん、なおせますが?」

    提督「本当か」

    救護妖精B「ねているうちにぱぱっと」

    救護妖精A「まるでようせいのしょぎょう」

    救護妖精B「しょぎょうはむじょうですゆえ」

    提督「拘束しておくことは出来るか?」

    救護妖精A「できるとこたえられるかなしさ……」

    救護妖精B「かのうせいはむげんだい……」

    救護妖精A「じゅんかんろんぽう、たよりないです……」

    救護妖精B「だうーん……」

    救護妖精A「きっとおきあがれませんな」

    提督「頼んだぞ」

    救護妖精「「はーい!」」

    550 = 1 :


    ガチャ

    バタン

    提督「!」

    長門「提督、少し話がある」

    提督「……いいだろう」

    提督「全員、部屋に来い」



    ―司令室―

    「救護室を使ったということは、治療するんだね」

    提督「ああ。だが、拘束してもらうよう、妖精に頼んでおいた」

    長門「妥当なところだな……」

    「今後については?」

    提督「……まずは夕立が目覚めるのを待ちたい」

    提督「以後についてはいくらか考えはあるが、今はまだ言えない……」

    提督「だがいずれにせよ、みんなにとって快い結果にはならないと思う。それは覚悟しておいてほしい……」

    「…………」

    長門「……いや、その答えが聞けただけで今は充分だ」


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