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    元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「ぼーなすとらっく!」

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    みんなの評価 : ★★★
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    751 :

    このスレ最高に面白くて大好きです。また新しいのをやってもらえるの期待してます!!

    752 :

    ステージでアイコンタクトを交わす葉山と八幡が見れるのか

    753 :

    頼む!虹を出してくれ!

    754 :

    >>753
    おいアンタ!!ふざけたこと言ってんじゃ…

    755 :

    やめろ!>>754っちゃん!

    756 :

    あまとう「新たなP.Kジュピターだと!」

    757 :

    戸塚専任P八幡と、戸塚が男と知っても嫉妬が止まらないしぶりん

    758 :

    さらっと同じ高校だということを忘れられていそうな奈緒である

    アイドル&奉仕部と野郎共で対バンしてくれないかな(チラッ

    759 :

    ???「<●><●>」

    760 :

    やっぱり皆、アニメPが八幡に似てるって思ってるんだね。
    コミュ力は高いが外見はヒッキーて感じ。
    スタッフの中で、このSSに影響された方が居るのかな?

    みんなやっぱり、デレアニPが八幡に似てるって思ってたんだよね。
    コミュ力は高いが見た目は八幡て感じ。
    製作サイドに、ここSSに影響された人が居たんだろうなあ

    761 :

    これは八幡がアイドルになって凛とライバルになる展開か…ww

    762 :

    ライブで八幡の歌を聞いてドキドキする凛

    763 :

    凛やガハマさんより海老名さんが喜びそう

    764 :

    某SSでもあったが八幡にはぜひ、UVERのOVERを歌って欲しい

    765 :

    このスレで今まで歌ってたのはアジカンとワンオクだけだっけ?

    766 :

    >>764
    渋の奴?

    767 :

    >>766
    そうです。

    768 :

    二期のニコニコ配信しないのかよ
    ヤダー

    769 :

    李衣菜はいつまでプロデューサー呼びしてんだ……ww

    771 = 770 :

    有料だったわスマソ

    772 :

    久々の投下予告。今夜更新します!
    ただ日付は変わるもんと思ってください。いつも通りですね。

    デレマスの13話……超良かったね! みんな可愛いくてこっちまで緊張しまくりで気付いたらずっと手握って見てた。7月が待ち切れん!

    773 :

    まだかな

    774 :

    日を跨ぐの覚悟(朝にならないとは言ってない

    775 :

    日付は変わる(何回変わるかは言ってない)

    776 :

    すいません俺ガイルの1話見てました。
    いやー良かったね! 絵が凄い奇麗! ちょっとテンポ早い気もしたけど、アニメならあれくらいなのかな。

    更新はもちっと待ってくれい……

    777 = 1 :

    ごめんマジで明け方になりそうだ。

    778 :

    待ってます

    779 = 1 :

    よっしゃ出来た! もう完全に朝だけど更新するよ!

    780 :

    うっほほーい
    待ってましたー

    781 = 1 :














    “子供の心にトラウマを刻むのに、大事件はいらないものだ”


    これは昔読んだ、ある物語での一節。
    当時の俺は中学生くらいだったと思うが、読んだ時、酷く共感したのを覚えている。

    今でこそ俺の黒歴史は大なり小なりいくつもあるが、それでも小さな頃は大したものはそれほど無かった。あって精々、子供ながらのありがちな悪戯やからかい。今にして思えば、取るに足らない戯事だっとすら思える。

    だが、それも“今思えば”という意味でしかない。

    当時の俺は心底嫌だと思っていたし、それが原因で本気で落ち込んだりもした。
    小さな事でも、些細な事でも、子供にとっては充分なトラウマになり得る。


    大事件なんか無くたって、ふとした事が心に傷をつける事があるんだ。


    まぁ、そんな事が高校生になるまで多少あって……多少って言葉で片付けていいのか微妙だが……俺は現在へと至る。

    小さな事から大きな事まで、様々な経験を経て、俺は今の人格へと形成されていった。
    それが良い事なのか悪い事なのか、正直判別はつかない。だが、あれらが無ければ今の俺が無いというのもまた事実。

    恐らく褒められた人間には成長できていないんだろうが……まぁ、そんな事はどうでもいい。他人にどう言われようと、俺くらいは俺を認めてやらんとな。


    ……それに、こんな俺を慕ってくれる奇特な奴らもいる。これだから世の中わからんものだ。

    782 = 1 :


    きっと、良い事も悪い事もあって、人ってのは形を成していくんだと思う。
    高校生の分際で何を、と思われるかもしれんが、そう思うくらいには色んな事があり過ぎた。

    良い事も、悪い事も。



    そういえば、前に凛が俺の昔話をした事があったな。
    確か奈緒と加蓮のライブ前の緊張を和らげる為に言ったんだったか。当時緊張で舞台に上がれなかった小さい頃の小町を勇気づける為に、俺も一緒に歌って踊ってあげたあの事件。

    あれは酷い暴露事件だった。いや元凶は小町だけどね!

    凛はさも美談のように話していたが、実は実際はそうじゃない。
    確かにあれは小町の為にやった事ではあったが……それと同時に、自分自身に踏ん切りを付ける為でもあった。


    それと言うもの、実は俺自身も似たような経験がかつてあったから。


    小町がもっと幼い、俺も記憶があやふやな歳の頃。
    俺も学芸会か何かで舞台に立つ事があった。合唱だったとは思うんだが、その中で、一人一人ソロで歌うパートがあったんだ。

    本番前、クラスメイトが緊張するねーだの、しっかり歌えよーだのと、お互い言い合っていたのを何となく覚えている。


    俺が、一人で緊張を抑えようとしていたのも。


    そして本番で、俺は見事やらかした。

    頭が真っ白になり、覚えていた歌詞も完全に飛び、一言も声を発せなかった。
    まぁ元々短いフレーズだったし、次の順番の奴が何事も無く歌ったので特に大きな問題にはならなかったがな。他にも辿々しい奴が何人かいたし。

    だがそれでも、俺の心へ傷を付けるのには充分だった。


    緊張で手が震え、目が泳ぎ、観客の奇異の目が耐えられない。

    頭では何も考えられず、口を開けたまま、一言も声が出ない。

    しまいには目を伏せて、ただただ歯を食いしばる事しか出来なかった。


    終わった後だって慰められる事は無く、クラスメイトは何やってんだという責め立てるような視線を送ってくるだけ。担任の先生もちゃんと歌わなきゃダメだろとしか言わなかった。

    ぼっちの舞台なんて、結局はそんなもんだ。

    783 = 1 :


    ちなみに両親はパートを知らなかったので「ごめん、八幡のソロパート見逃しちゃったみたい! どこで歌ってた!?」と申し訳なさそうに言っていた。……申し訳ないのはこっちなのに、見栄を張って「歌ってたよ」としか言えなかったけどな。そんな自分が酷く情けなかった。


    そしてそれからしばらくして、凛が話していた小町の件が起きたんだ。
    あの時のような気持ちを小町にさせてはいけないと、俺はお兄ちゃんパワーを発揮させたわけなんだが……

    それと同時に、きっと自分自身が乗り越えたかったんだと思う。


    過去の、自分を。


    まぁ結果的にもっと大惨事になったような気もするが、それでも踏ん切りをつける事はできた。
    だから、これはもう過ぎたこと。



    ……過ぎたことな筈なんだがな。






    八幡「今になって思い出してんだから、乗り越えられてないんだろうな……」

    一色「先輩なに一人で話してるんですか? 気持ち悪いですよ?」

    八幡「……ほっとけ」






    昼休み。


    いつもの場所でいつもの昼飯。戸塚の練習風景を見ながら(今日はいない)のぼっちタイム。
    至高のその時間に、何故かこいつはそこにいた。


    一色いろは。

    現総武高の生徒会長にして、小悪魔系女子高生である。


    784 = 1 :


    一色「先輩、今日もここでお昼ご飯ですか」

    八幡「それがどうかしたか」

    一色「一人で、ですか」

    八幡「……それがどうかしたか」



    思わずワントーン低くなる俺の声。
    それに対し、一色は「うわー……」という可哀想な子を見る表情で俺を見る。隠す気ゼロだよこの子!

    この間初めてこいつに会った時、この場所までそのまま来たのは失敗だったな。どうも昼休みは俺はここへ来る事を覚えられてしまったらしい。
    それからたまーにここへ来てはどうでもいい話(主に葉山絡み)をし、俺のSAN値を削ってくる。なんともはた迷惑な奴だ。



    一色「ていうか、先輩こんな所で普通にご飯食べてていいんですか?」

    八幡「なんでだ」

    一色「だって、今日ってライブの本番ですよね? バックバンドの人も何か打ち合わせとかあるんじゃないかなーと」



    一色が何とも無しに言った台詞。その言葉に、思わず眉を寄せてしまう。

    ライブ。そう、ライブだ。
    今日はシンデレラプロダクションのアイドル、多田李衣菜と木村夏樹による、総武高校の学園ライブ。

    そして、俺はそのライブでの一曲とはいえバックバンドのギターをやる事になっていた。本当にどうしてこうなった。



    八幡「まぁ、無い事も無い。実際これ食ったら打ち合わせに向かうしな」



    ローテンションを隠そうともせず、俺は焼きそばパンを齧る。

    いやホント楽しみとかそんな気持ちが微塵も湧かないんだからヤバイ。緊張と不安でパンが逆流してきそう。やっぱアイドルって凄いんだな、とかそんな感想しか湧いてこなかった。

    そして一色はと言うと、俺のそんなテンションよりも台詞が気になったご様子。

    785 = 1 :



    一色「え。打ち合わせって事はあれですか。葉山先輩も来るんですかそれ」

    八幡「そりゃな」



    バックバンドのもう一人のギターは葉山。ならばあいつが打ち合わせに来るのは当然と言える。

    質問に返すと、一色は腕を組み、人差し指を顎に添えて思考のポーズを取る。
    考える時まで可愛さアピールを忘れないその殊勝な心がけ、大変素晴らしいと思います。だが、あざとい。

    そして一色は思考を終えたのか、思わず花丸をあげたくなるほどの眩しい笑顔でこう言った。



    一色「先輩。生徒会長として、わたしもその打ち合わせに同行します!」



    どっちかって言うと欲まみれの笑顔のようだった。



    八幡「いや曲の打ち合わせだから、お前が来ても何も話すこと無いと思うんだが…」

    一色「いえいえ。やっぱり生徒会長ですし、演奏者さん達の様子も見ないと!」

    八幡「お前が見たいのは葉山だろ……」



    確かに総武高のイベントではあるし、実際生徒会には開催に当たって色々と仕事を手伝って貰った。会場の設営しかり、校内への広報しかりな。

    ただだからと言って曲の演奏自体には何も関与しちゃいない。来た所で、めんどくさい事にしかならないから遠慮してもらいたいんだが……

    786 = 1 :



    と、俺がどう一色を説得しようかと考えていた時だった。
    視界の隅に、一人の影を捉える。あの特徴的な太眉とお団子は……



    奈緒「おーっす。こんな所にいたのか比企谷」

    八幡「奈緒か。なした」

    奈緒「いや、きっと緊張してるんだろうなーと思ってよ。からかいに来た」



    そう言って快活に笑う奈緒。
    また何とも意地の悪い直球な理由だな。……けど、こいつの事だ。



    八幡「そうか。悪いな心配かけて」

    奈緒「べ、別にそういうつもりで来たわけじゃねーよ! 勘違いすんな!」



    みるみる顔を真っ赤にする奈緒。
    本当に分かり易い奴だ。やっぱツンデレはこうでなくてはな。



    奈緒「ったく……あれ、いろはもいたのか」

    一色「お久しぶりです奈緒先輩。その節はどうも」



    笑顔でぺこりとお辞儀する一色。そういや、こいつらも面識あったんだったな。生徒会選挙絡みで。
    結局その件に関してはあまり話を聞いていないので、経緯はよく知らんが。



    奈緒「お前らも知り合いだったんだな。何話してたんだ?」

    一色「あー何かこれから打ち合わせがあるらしいので、私も同行しなきゃーって話してたんです」



    さも当然とばかりに一色がそう言うので、奈緒はなるほどなーと納得してしまう。
    いやいや、打ち合わせはあくまでバンドの話よ? 一色さんは関係ないよ?

    787 = 1 :



    奈緒「思い出すなー。アタシらの時も大変だったよな」

    八幡「まぁ、大変だったのはライブ以前の問題だったけどな」

    奈緒「お前が言うかそれ?」



    呆れるように笑い、奈緒は肩をポンっと叩きながら言う。



    奈緒「ま、アタシらも応援してるから頑張れよ。ファイトだタンゼント・ブラット」

    八幡「それ恥ずかしいからやめろ……」



    つーか何でお前がそれ知ってんだ。あれか。材木座の野郎から聞いたのか。余計な事を。
    俺が思わず眉を寄せていると、そこで一色がキョトンとしている顔が視界に入る。



    一色「あれ? そういえば奈緒先輩は打ち合わせに行かないんですか?」



    不思議そうにしながら、疑問をそのまま口にする一色。ま、まずい……!



    奈緒「え? なんでアタシが打ち合わせに参加する必要があるんだ?」

    一色「は? だって奈緒先輩も…」

    八幡「よし。打ち合わせ行くか一色」



    相変わらず先輩に態度の悪い一色の前に出るように、その先の言葉を遮る。
    危ねぇ……もう少し遅かったら言われる所だった。

    788 = 1 :



    一色「え! わたしも行って良いんですか!」

    八幡「ああ。構わん。だから早く行くぞ」



    こうなれば仕方が無い。あれが奈緒にバレるくらいなら、まだ一色が打ち合わせに来る方がマシだからな。

    そして俺と一色がさっさとその場を後にしようとすると、当然奈緒が抗議をあげてくる。



    奈緒「いや、ちょっと待て。今いろは何か言って…」

    八幡「奈緒」

    奈緒「な、なんだよ」



    俺の真剣な呼びかけに、思わず押し黙る奈緒。
    ふむ。ここはあの作戦でいこう。



    八幡「問題だ。『μ's』名義の曲は全部で何曲あるでしょう」

    奈緒「は? μ's名義の曲?」

    八幡「ああ」



    突然の出題。奈緒は怪訝な顔をしながらも考え始める。



    奈緒「そんなのシングルの数を数えれば……あぁでもカップリングもあるのか。待てよ、ぼらららはラブライブ名義だったから数えないとして、友情ノーチェンジも……あ! つーかDVDの特典曲もあるじゃねーか! それも数えて、えーっと……比企谷、シングルとアルバムは分けて考えればいいのか? ……って、あれ。どこいった? 比企谷? 比企谷ーっ!?」





    789 = 1 :




    × × ×






    八幡「なんとか撒けたな……」



    その名も『いきなり問題を出してはぐらかす作戦』。主に小町や由比ヶ浜のようなアホの子にしか使えん作戦だが、奈緒にも効いたようで何よりだ。あいつは趣味関連の話題には弱いな。

    そこで、前を歩く一色が不思議そうに訊いてくる。無論内容は先程の事。



    一色「先輩、なんで急に逃げたんですかー?」

    八幡「いや、あのままじゃ奈緒にバレる所だったから、思わずな」

    一色「? バレる?」



    全然分からんという様子で首を傾げる一色。
    まぁ、ここまで来たらこいつには言っても問題無いか。



    八幡「あいつ、今日自分も歌う事を知らないんだよ」

    一色「はぁ……って、えぇッ!?」



    思わず、ぎょっとした表情で勢いよく振り返る一色。

    790 = 1 :



    一色「いやだって、総武高のライブだから奈緒先輩にサプライズゲストで歌って貰おうってこの間企画会議で言ってたじゃないですか」

    八幡「ああ。サプライズだな。本人にも」

    一色「えー……そういう意味ですか」



    告知では多田と木村先輩による学園ライブとだけ銘打っているが、やはりここは総武高校。なので、奈緒にはサプライズで出てもらう事にしたのだ。本人にも内緒でな。

    少し可愛そうだとは思ったが、まぁ企画したのは俺じゃないし、なんだ、その……頑張って! としか言えん。



    八幡「とりあえずバレなくて助かった。奈緒には悪いがな」

    一色「アイドルって大変なんですね……」



    なんとも他人事のような一言であった。心底同意できるけどな。

    ……あぁ、ライブの事を考えたらまた腹が痛くなってきた。もうばっくれようかしら。





    791 = 1 :











    あれから打ち合わせを経て、午後の授業をこなし、胃を痛めながらもライブまでの時間を俺は過ごした。


    今日は奉仕部の部室へも向かわず、体育館へと直行する。まぁ、最近は練習の為に顔を出さない事も多かったがな。しかしあいつらも見に来るんだろうか……見に来るんだろうな。

    俺たちがバックバンドをやる事は周知していないが、それでもあの二人はデレプロのファンだ。恐らく見に来るのは間違いない。やっべぇな。超恥ずかしい。


    だが、俺のそんな不安も関係無しに事態は急転した。
    元来、こういったイベント毎にトラブルは付き物だ。そういう意味では、まだ軽いものだとも言える。


    その報せが届いたのは、ライブの開演開始まで30分を切った時だった。






    八幡「多田と木村先輩が遅れてる……?」



    舞台袖で準備をしていたその時。
    一色からのその連絡に、思わず目を見開く。

    792 = 1 :



    いろは「はい。なんでも前の仕事が長引いてしまったらしくて……」

    葉山「どれくらい遅れるんだ?」

    いろは「1時間くらいは見てほしいそうです」



    1時間……。

    つまり、30分近くは開演出来ないって事か。



    戸塚「良かった。そんなに遅くはならないんだね」

    材木座「ふむ。それならば事情を話して、少し待ってもらって……」

    八幡「いや。それはあまり良い手ではないな」

    材木座「ぬぅ? 何故だ」



    意味が分からんとばかりに首を傾げる材木座。お前がそれやっても何も可愛くないぞ。



    八幡「イメージに影響するからだ。仕方が無い事態だったとしても、待たされる事に変わりは無いからな。不満も出るし、少なからず帰る奴も現れる」



    こう言っちゃ悪いが、多田はともかく木村先輩はまだ駆け出しのアイドルだ。初っぱなから遅刻というのは出来れば避けたい。



    八幡「出来れば遅れてるってのは告げない方が良い。なんかテキトーに場を繋いで、30分持ちこたえた方が…」

    葉山「でも、何をすればいいんだ?」

    八幡「…………一色」

    一色「ええ!? わたしですか!?」

    793 = 1 :



    秘技・他力本願の術。
    いや、俺も言った手前何も思いつかないんだよね。マジどうすっか。



    いろは「あ、奈緒先輩に歌って貰ったらどうですか?」

    八幡「だがそれだとサプライズが……」

    いろは「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」



    確かに一色の言う通りだな……。奈緒も、事情を話せば恐らく強力してくれる。サプライズ出来ないのは痛いが、遅らせるよりは良いか。

    だが、そこで葉山が神妙な顔つきで言ってくる。



    葉山「いや、それだと曲を演奏できない。バックバンドの人たちも夏樹さん達と一緒に来る手筈だったから、神谷さんの曲を演奏できる人がいないんだ」

    戸塚「そっか。僕たちはTwilight Skyしか出来ないもんね……」



    落ち込むように言う戸塚。
    そういやそうだったな。まさかアカペラで歌ってもらうわけにもいかねーし。

    ならトーク? ……無理だ。未央や卯月とかならともかく、奈緒にトークで30分ももたせろとか流石に酷過ぎる。


    他に何か無いか? ここにあるのは、事前に運び込まれた楽器と機材……



    ……楽器は、あるんだよな。




















    一色「あ、でしたら先輩たちが演奏すれば良いんじゃないですかー?」












    …………。





    794 = 1 :




    八幡「…………」



    いや、何その手があったかみたいな顔してんのお前ら?



    葉山「なるほどな……確かに楽器はあるし、前座って事にすれば違和感も無い」

    八幡「いや待て。ちょっと待て」



    本当に待ってほしい。さっきから嫌な予感が止まらないんだ。気を抜くと足が震えてきそう。



    八幡「そうだ雪ノ下たちに頼もう。文化祭で演奏してたし、あいつらに頼めば…」

    葉山「けど今回は陽乃さんがいない。ドラムを代わりに叩ける人を探そうにもあてが無いしね」

    材木座「うむ。我は連取した曲意外は知らんしな」



    そ、そうだった。
    畜生! なんでこういう時に限っていないんだあの人! 必要ない時だけ来やがって!



    八幡「い、いやしかしだな。それ言ったらTwilight Skyは誰が歌うんだ。奈緒も歌えるか分からんぞ?」

    葉山「大丈夫。俺たちが演奏するのはそっちじゃない」

    八幡「…………」

    葉山「あるだろ? もう一曲練習してた曲が」



    ありました。確かにありましたねー。あったあった。
    いやでも、それってつまり、うん。そういう事だよね。

    葉山は、真剣な眼差しで俺に言う。






    葉山「歌うんだ。比企谷」


    八幡「無理無理無理無理無理無理」


    795 = 1 :



    いやー無理だろ! ほんっきで無理だろ!? え、馬鹿なの? 死ぬの? 俺が。



    戸塚「だ、大丈夫かな。最近はTwilight Skyの練習ばっかりだったから、ちゃんと弾けるか心配だよ」

    材木座「う、うむ。本番前に何回か練習を…」

    八幡「いや何やる気になってんだそこ」

    いろは「とりあえず最初10分くらいは司会に引っ張ってもらってー、後は曲の演奏とトークでどうにかなりそうですかね」

    葉山「ああ。少し尺があまりそうだけど、そこは機材の入れ替えとかで誤摩化せば何とかなるか」

    八幡「聞いてくれ。頼むから……」



    なぜか着々と話が進んでしまっている。
    これはもう、決まりなのか? 俺が、歌うってのか? 



    また、あの記憶が頭を過る。



    胸を締め付けるような痛みが一瞬やってきて、それから遅れてカタカタと震えてきた。

    ……なんだ。やっぱ全然乗り越えられてねぇな。



    葉山「比企谷?」

    八幡「っ!」

    葉山「大丈夫か?」



    心配そうに覗き込んでくる葉山。
    いやお前が歌えって言うからこんなんなってるんですがそれは。

    796 = 1 :



    八幡「……大丈夫じゃねぇよ」



    大丈夫じゃないに決まってる。
    全然大丈夫なんかじゃないが、それでも覚悟を決めないとならないようだ。


    多田と木村先輩。


    普段の仕事もあるのに、彼女らは俺らの練習に付き合ってくれた。
    そして、今回のこのライブを楽しみにしていた。その様子は、俺たちが一番近くで目にしていたんだ。

    なら、そのライブを台無しにしちゃいけない。していい筈がない。
    そもそも遅れてると告げてはいけないと言ったのは俺なんだ。なら、最後まで責任を持とう。


    その言葉に、責任を。



    八幡「……一色」

    いろは「っ! なんですか?」

    八幡「ギリギリまで生徒を会場に入れるな。出来るだけ合わせたいからな」



    俺の言葉に一色はぽかんとし、葉山たちは微笑んでいた。
    正直、怖くて緊張してどうにかなりそうだが、やるしかない。


    凛は、あいつらは、もっと大きな舞台で頑張っていたんだ。

    比べるのもおこがましいだろう。けど、俺だって近くで彼女たちを見て来た。



    だからーー!





    797 = 1 :














    ざわざわと、幕の向こう側から声が聞こえてくる。


    結局あれから数回しか合わせる事は出来なかった。それほど失敗はしなかったが、それでも本番前の練習としては心もとない。

    周りを見れば、薄暗い中他のメンバーがスタンバっている。



    材木座は冷や汗を流し。

    戸塚はそわそわしている。

    そしてあの葉山でさえも、どこか不安げだ。



    ……きっとこいつの事だから、俺らの心配をしてるんだろうな。
    その様子に、少しだけ気分が楽になる。


    他の奴がテンパっていると、自分は逆に落ち着いてくるというアレみたいなもんか。



    幕の向こう側で、一色の声が少しだけ聞こえた。
    それに呼応するように、観客の歓声も大きくなる。


    どうやら、前座で他のバンドが演奏するのも良い演出と受け取って貰えたらしい。

    そりゃ、同じ高校の生徒がやるとなれば多少は盛り上がるか。

    798 = 1 :



    やっぱ葉山がボーカルのが良かったんじゃね? 絶対がっかりされるだろ、俺。

    あと、どれくらいだ? 合図はまだか?

    いや、出来るだけ引っ張ってもらった方が良いのか。ああでも、早く終わってほしい。


    ダメだ、思考が、まとまらない。


    やっぱりあいつらは、アイドルは、凄いんだなって。

    そんな感想しか、出て来ない。



    と、そこで舞台袖からライトが光った。
    合図だ。間もなく幕が上がる。

    それに習って、心臓が跳ね上がる。



    周りを見る。

    材木座と、戸塚と、葉山と、頷き合った。



    幕が、上がる。















    八幡「ーーーーっ」






    思わず、息を飲んだ。


    799 = 1 :




    人でいっぱいの会場。



    見慣れた筈の体育館が、今は全然違って見える。

    薄暗いながらも、観客の姿が目に映る。



    ざわざわと、声が聞こえてくる。






     「あれ、葉山くん?」

               「いないと思ったら演奏する側だったんだねー」

        「ドラムの太った人だれ?」

                           「ベースの子可愛いー。何年生?」

            「葉山くんの歌とか絶対上手いじゃん」

                        「あれ、でもマイクはあるけど真ん中じゃなくね?」

      「コーラスって事でしょ」

                    「え、じゃあ真ん中のあいつが……?」

      「ボーカル?」

                    「どっかで見たことない?」

         「あいつって噂の……」






    言葉が、止まらない。



    耳にはしっかりと届いてくる。

    けど、意味を理解する余裕が無かった。






    八幡「…………っ……」


    800 = 1 :




    葉山「(比企谷、挨拶を!)」



    葉山が、小声で何か言っている。

    だが、俺には何も聞こえない。



    戸塚「(は、八幡……?)」

    葉山「(……っ、材木座くん! カウントを!)」

    材木座「(う、うむ)」



    カンッ、カンッ、カンッ



    遠くで、スティックを叩く音が聞こえた。

    そうだ、歌わなきゃ。俺が最初に歌い出さなきゃ、演奏が……






    八幡「……あ……っ…」






    声が、出ない。



    歌詞が出て来ない。息も上手く出来ない。



    何も、考えられない。



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