私的良スレ書庫
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元スレ提督「甘えん坊」
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鳥海「────食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋……」
鳥海「ひとえに秋といっても様々な秋がありますが、司令官さんは今年はどんな秋を過ごすおつもりですか?」
提督「……出撃の秋?」
鳥海「ふふっ、それではいつもと変わらないじゃないですか♪」
どこか楽しそうに笑う鳥海。
その笑顔を直視出来ず執務室の窓の方へと目を向ければ、はらはらと風に吹かれて落ちていく落ち葉がちらほらと見えた。
季節は秋。
しかし俺のやることは変わらない。
ことり、と俺の前に湯呑みが置かれた。
提督「頂こうか」
鳥海「はい、どうぞ」
茶を啜りながら鳥海を見る。
彼女は先ほどの俺のように窓の外へと目を向けて、何かを考えているような表情をしていた。
提督「ところで鳥海はどんな秋にしたいんだ?」
鳥海「私ですか?」
唇に指を当て、目を細めて考えに耽る鳥海。
何かを思いついたのかハッと目を見開くと、その口角を上げて俺の方へと近付いてくる。
鳥海「私は──────」
鳥海「────司令官さんの秋、です♪」
そして背後に回った鳥海は、おもむろに俺の背中へと抱き付いた。
柔らかい感触と甘い香りが俺を襲う。
提督「……何だその秋は」
鳥海「司令官さんと食事を共にしたり、一緒にトレーニングしたり、お話したり、ただ見つめ合ったりする……そんな秋です♪」
「ふふっ」という微笑みと共に漏れた吐息が首にかかってくすぐったい。
それに身を捩れば、鳥海はまた楽しそうに笑う。
抜け出せないループが出来上がっていた。
鳥海「司令官さんもどうですか?」
提督「……何がだ?」
鳥海「鳥海の秋、ですよ♪」
そう言ってギュッと抱き付く力を強める鳥海。
対する俺は顔を赤く染めることしかできないのだった。
大井「────提督、こちらの数字は間違いでは?」
提督「ん? …………本当だな。よく気付いてくれた、感謝するぞ大井」
大井「いえ、感謝されるほどのことではありません」
そう言い、卓袱台の上の書類へと向き直る大井。
指摘された箇所を直すが、よくよく見てみれば有り得ないようなミスによるものだった。
近頃こういったミスが多発している。今のところ全てが途中で発覚して助かっているが、重大な失敗へと繋がる可能性は十分にあると言えるだろう。
気持ちを切り替える意を込め、ふっ、と短く息を吐いた。
大井「……お疲れですか?」
提督「多少、な」
提督「だが心配には及ばないさ」
大井「そうですか…………」
大井「……………………」
大井「……提督」
提督「どうした?」
自身の膝をぽんぽん、と叩く大井。
その顔は笑みに満ちている。
大井「ちょっとだけなら……いいですよ?」
提督「………………」
どう反応したものか。
突然の出来事に固まり、声も出ない。
互いに動かないまま、時計の針の音だけが執務室に響く。
その音が重なる度、大井の笑顔は凄みを増していた。
提督「……お言葉に甘えさせてもらおうか」
大井「はい♪ どうぞこちらへ♪」
恐怖に負けたわけじゃない。……多分。
大井「────どうですか?」
提督「どう、と言われてもな……」
提督「……柔らかい?」
大井「あら? ……ふふっ♪」
予想に反して、というべきか。
大井は特にアクションを起こそうとしなかった。
俺の頭を時折撫でては楽しそうな声を漏らし、話題を口にしてはクスクスと上品に笑う。
付き合いの長い俺でも見たことがないくらい上機嫌な大井が、そこにいた。
提督「変わったな、お前」
大井「その台詞はそのままお返ししますね?」
言われ、思い出してみる。記憶を掘り返せば、なるほど、と納得がいった。
一番変わったのは間違いなく俺だろう。
艦娘達を一個人として見ず、あらゆるものを無視して深海悽艦との戦いに明け暮れていたあの日々が懐かしい。
あの頃よりも頭を悩ませたりすることは多くなってしまったが、それが今では心地いいものとなっている。
そんな昔を思い出し、いつの間にか微笑んでしまっているのが、鏡を見ずとも分かった。
提督「……大井」
大井「はい?」
提督「ついでだ。耳掻きを頼んでもいいか?」
大井「…………はいっ、喜んでっ♪」
涼しい風が吹き込む秋の昼下がり。
このまま眠気に体を任せてしまっても良いかもしれないと思いながら、俺は大井と二人きりの時間を過ごすのだった。
武蔵「────そういえば提督? 昔はかなり冷たい奴だったそうだが……それは本当の話かい?」
提督「……誰から聞いたんだそんなこと」
武蔵「心当たりが有るだろう?」
窓枠に腰をかけたまま、武蔵がニヤリと笑う。
そんなことしていないで仕事を手伝えと言いたいところなのだが、如何せん武蔵が書類仕事をすれば三割は読めない物になってしまうため、そう言うことは出来ない。決して字が下手というわけではないのだが、達筆過ぎるのも困りものなのだ。
提督「有り過ぎるくらいだが……青葉が本命、次点で比叡・北上、大穴で鳳翔さん辺りか?」
武蔵「酔った足柄だ」
提督「……………………」
武蔵「まぁ私が無理やり聞いたようなものだ。足柄を責めないでやってくれ」
絶対仕返ししてやる。そう心に誓いながらも、大きくため息を吐いた。
提督「……で、それが本当ならどうしたと言うんだ?」
武蔵「私は今の提督しか知らない。皆が話す提督の昔との差異が激しくてな。それは気にもなるさ」
武蔵「差し支えなければ話して欲しいんだが……」
提督「……面白い話じゃないぞ?」
武蔵「構わないよ」
窓枠から離れ、俺の隣へと腰を降ろす武蔵。
胡座を崩して片膝を抱えるその姿は、妙に様になっていた。
提督「……あれは丁度──────」
ここまで来てしまうと退くことも出来ない。
そう思った俺は、渋々ながらもぽつりぽつりとあの頃の話を口にし始めるのだった。
──────────────────
──────────────────
提督「────それで今に至る訳だ」
提督「……よくあるつまらない話だっただろう?」
武蔵「…………意外だな」
武蔵「話を聞いた今でも、提督がそんなことをしていたなんて信じられんよ」
提督「俺とて人間だ。汚い部分だってある」
提督「……幻滅したか?」
俺の言葉に武蔵がニヤリと笑う。
馬鹿にするな、といった笑みだった。
武蔵「困ったことにそれでもなお私は提督のことを嫌いになれないようだ」
武蔵「……いや、むしろもっと好きになったかもしれん」
提督「……酔狂な奴だな。今の話のどこに好かれる要素があった?」
武蔵がおもむろに手を伸ばす。
伸ばされた先にあったのは俺の頬で、その手はふわりと添えられた。
武蔵が微笑む。
思わずドキリとする、そんな笑みだった。
武蔵「知れば知るほど好きになる。それが良い面でも悪い面でも関係ない。……惚れた弱みというやつかな?」
そう言ってじっと見つめてくるからたまったもんじゃない。
慌ててかぶりを振ってその手と目から逃れれば、遅れて顔が熱くなるのが感じられた。
流石は大和型と言ったところか。
肝が座っているというか何というか……とにかく武蔵には到底勝てそうにないということだけは分かった。
武蔵「ふふっ、どうした? 随分と可愛い反応をするじゃないか?」
提督「……そういう武蔵こそ少し顔が赤いぞ? 恥ずかしかったのか?」
武蔵「提督のそばにいるから緊張してるのさ。…………言わせないでおくれよ、恥ずかしいんだから」
そう言って目を伏せる武蔵。
ますます顔が赤くなる俺。
下手に反撃しようとしなければ良かったと思ったが、それはもう後の祭りのことだった。
武蔵「────提督が提督らしくしている限り、私達は皆提督のことを嫌いになんてならないさ」
武蔵「……だから、その、何だ?」
武蔵「……これからも私達をよろしく頼む」
提督「────ああ」
提督「俺からも、よろしく頼む」
これにて全投下終了です。
後ほど、依頼を出しておきます。
読んでくださった方々、誠にありがとうございました。
完結乙、やっぱ貴方の作品は安心して読めるね
次も期待してます
次も期待してます
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