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    元スレ胡桃「あなたが例え、誰であろうと」

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    みんなの評価 : ★★★×5
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    651 :

    待ってた

    652 :

    まってたわ
    間が空いても香辛料が多いから楽しみだわ

    653 :

    把握

    654 :

    まだ来てないのね

    655 :

    大変お待たせしました
    遅くにはなりましたが、ゆっくり更新させていただきます

    656 = 1 :

    「―――――――それ、は」

    京太「もちろん、まだ決めたわけではないです」

    京太「俺の素性やその事情によっては、問答無用で戻らざるを得なくなるかもしれない」

    京太「それに、どうであれ一度は戻らないといけないと思います」

    京太「だけど………自分がかつていた場所に帰って。その後………再び、ここに帰ってくる。その選択肢を、強く考え始めてます」

    「………………」

    京太「まだわかりませんけどね。まあ、それこそ素性によってはすぐにとんぼ返りしてくるかもですし。ははっ」

    「いや、だから自分が何者だと思ってるのさ………これで実はどこぞの超巨大財閥の御曹司で、そこから自由を求めて逃げ出してきたー、なんてラノベみたいな展開あったらこっちもびっくりだよ」

    京太「いや、それは自分もびっくりですよ」

    657 = 1 :

    「………………まあ、私としてはさ」

    「それこそ、京太君がここに帰ってくるって言うなら、大歓迎だよ。きっとみんなも喜ぶ。シロも―――胡桃も」

    「でも、それって割と重い選択だよね」

    京太「………ええ」

    「『今まで積み上げてきた自分』より、『京太』を選ぶってことだもん」

    京太「………そうですね。別に今までの自分を消すわけじゃない、なんて言い訳したところで、自分自身が今まで接してきた人々からしてみればそうとしか映らないでしょうし」

    京太「それに、場合によっては裏切りとしてとらえられるかもしれない」

    「それでも、ここに戻ってくる選択肢は消さないんだね」

    京太「ええ。俺は―――――――――」



    『京太』を、捨てたくありませんから

    658 = 1 :

    「―――ん。わかった」

    京太「そういえば、聞きたいことって言ってませんでした?」

    「ああ、それね。もう大丈夫だから」

    京太「………?はあ」

    「ま、それは今度また。十分安心させてもらったよ」

    京太「安心、ですか?」

    「うん、安心」



    (………自分の素性についてまーだ不安がってるみたいだけど)

    (こんなに真面目に、苦しみながら迷ってる人が悪人なわけないよ。だから、胡桃を託せるんだから)

    659 = 1 :

    「そういえば、京太君の素性で一つだけ気になることが」

    京太「なんでしょうか。あんまり、悪人だったとは思いたくないですけど」

    「んー、いやいや。そんなことじゃないよ。ちょーっと、下世話かもしれないけどねー」ニヨニヨ

    京太(あ、これマズイ。人をおもちゃにして楽しむ人の顔だ)

    「いやいや、記憶を失う前にさー」




    「彼女とか、いたのかなーって」





    京太「フェ!?」

    660 = 1 :

    「いや、だってさ。無いわけじゃないじゃん。もしかしたら、京太君には故郷で将来を誓い合った、かっわいい女の子がいるのかもしれないし………」

    京太「い、いやそんなことは………!!」



    京ちゃん



    京太「………ない、ですよ」

    「………………」

    ガシッ

    京太「」



    「詳しく聞こうか」ニッコリ

    661 = 654 :

    始まってた

    662 = 1 :

    京太「………………………………………………………」

    「つまり、京太君の記憶のフラッシュバックの中に、ほぼ必ずと言っていいほどその女の子が出てきて、『京ちゃん』と、親しげに愛情をこめて慈しむように呼んでくると………」

    京太「い、いや。そこまでは言ってませんけど………」

    「でも、少なくとも親しげではあるんでしょ?」

    京太「………まあ、少なくと嫌われてはいないはずですが………」

    「………………………そっか………」



    (あれ?これ若干まずいんじゃないかな。今の反応からして、このことは胡桃も知らない可能性が高い。シロもそのはず。ってことは、二人どころか京太君も思い出せないレベルで恋敵、それも割と強力な子が存在してる可能性がある………事と次第によっては若干修羅場る可能世だってある。………そうだ、エイスリンさんもいた。あれ?これ、もしかして私相当強烈な火種を知っちゃった?これ下手に漏らしたりしたらヤバい代物だよね?)



    京太「あ、あの………」

    「………そっか。そっかそっか」

    663 = 1 :

    京太(なんだろう。すっごく不安だ)

    「まあ、とりあえずはいいか………ごめんね、長々付き合わせちゃって」

    京太「あ、いえ。もう遅いですし、途中まで送っていきますよ」

    「んーん。いいよいいよ。考え事しながらふらふらと帰るから」

    京太「考え事しながらは危ないですよ」

    「あははっ、そうかもね」

    京太「それでは、また」

    「うん。あんまり無理して体壊さないようにしてね」

    664 = 1 :

    京太「何度言われることになるんですかそれ………」

    「言われるようなことしてるのはどこの誰かな?」

    京太「さ、最近はしてませんよ」

    「ほう………商店街は?」

    京太「む、無理は一切………」

    「………まあ、いいや。ここで弾劾始めると数時間かかるだろうし」

    京太(そんなにかかるのか!?)

    「ま、ほんとに気を付けてね。胡桃たちが悲しむよ?」

    京太「ええ、もちろんです。みなさんに会えないのは俺も辛いですから。

         胡桃さんや、シロさん、エイスリンさん、豊音さん、

                     もちろん、塞さんにも」

    665 = 1 :

    「………………」

    京太「………?」

    「天然たらしめ」ボソッ

    京太「え?何か………」

    「いや、何でもない。まあとりあえず明日。明日はお茶菓子にお団子持っていくから」

    京太「わかりました。楽しみにさせていただきますね。では」

    「ん」




    「………ふぅ」

    「………胡桃やシロ、エイスリンさん………次々に落とされるわけだよ」

    「あーんなこっぱずかしい台詞を平然と、当然のようによくもまぁ………」



    「危なく惚れるところだぞ、このやろー」

    666 = 1 :

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    京太「………ふう、やっぱり寒いな………塞さん、大丈夫かな………」

    京太「って、それどころじゃないか。早く帰らないと先生が心配するし………」

    京太(………心配してくれる誰かがいるって、本当にありがたいことだよな)

    京太「無理はしないように、か」

    京太「さて、早く帰ってお正月の構想を練りますか」




    ギギ


    ギギギ





















                                             カチリッ

    667 = 1 :

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





    12月30日  部室

    「てなわけで。明日はもうお大晦日、みんな準備とか予定は大丈夫?」

    胡桃「ん。あとはチェックだけだね」

    (何をチェックするのかはあえて聞かないでおこう)

    シロ「ん………10時に部室に来ればいいんでしょ?」

    エリスリン「サエ、ホントウニ イイノ?」

    「ああ、気にしないで気にしないで」

    豊音「え?エイスリンさん、何かあるの?」

    「ん、それは当日のお楽しみで」

    668 = 1 :

    京太「みなさん、お茶どうぞ」

    胡桃「あ、ありがとう。………いやー、すっかり誰も突っ込まなくなってきたね、この執事モード」

    京太「あ、あはは………まあ、無理なくやってますので」

    シロ「下手に抑え込むと、逆に意固地になるってわかってきたからね………」

    京太(俺、信用されてるのかされてないのか………)

    豊音「う~~~~~、今から楽しみだよー、じっとしてられないよー」

    トシ「その元気は明日の10時までとっておきな。さて、まあ今年も早かったけど、大きな事故もなく過ごせて本当によかったよ」

    胡桃「うんうん。今年は本当に早くて―――本当に、いろいろなことがあったぁ………」

    669 = 1 :

    「そうだね………」

    豊音「みんなに会えて、全国大会まで行って、京太君が来て………」

    シロ「来たというか、落ちてた………」

    京太「俺は犬か猫ですか?」

    胡桃「犬だね。おもに忠犬的な意味で」

    京太「胡桃さん!?」

    胡桃「ただ、しつけがきっちりしすぎてて困ることがあるけど」

    京太「俺何かしました!?」

    「え?胡桃、そういうのが好きなの?首輪買ってくる?」

    胡桃「変な解釈しない、そこ!!!」

    シロ(胡桃も大概、犬系だと思うけど………)

    670 = 1 :

    (シロの考えてることがよくわかる。だからこそ、お前もなとツッコミたい)

    胡桃「そ、それよりも。京太、バイトは大丈夫なの?あそこ年末休業だっけ」

    京太「ああ、遠野物語でしたら夕方6時までの営業になるそうです。その後片付けやっても全然余裕もって行動できますから」

    「そっか、ならよかったよ」

    京太「というか、なんかマスターも用事があるそうでして」

    豊音「やっぱり初詣行くのかな?」

    「いつもお世話になってるんだし、もしそうだったら誘ってみれば?迷惑じゃなければだけど」

    京太「いや、なんか初詣も行くには行くらしいんですが………」

    トシ「何かあるのかい?まあ、年末は忙しいからねぇ」

    京太「と、いうよりは………」

    671 = 1 :

    回想





    2日前 喫茶「遠野物語」


    店長「―――――――――――――――――――――」ムキキキキッ

    京太(さっきから随分長電話だな、珍しい………ていうか、ずっと英語だから何言ってるのか………)

    ガチャッ

    店長「おお、京太………すまんな、任せきりで」ミリミリッ

    京太「いえ、洗い物だけですから。それよりも、英語で電話って、昔のご友人ですか?」

    店長「………………………………」ミキッ

    京太「店長?」

    店長「京太。大晦日なんだが、店は6時までだ」ミチチッ

    京太「え?はい、わかりました。何かあったんですか?」

    店長「友が、訪ねてくる」ミリリリッ



    店長「あの青春を駆け抜けた、戦友(とも)が、俺を呼んでいる………!!!!」ミキキキキキキキキキミチチチチチチチチ







    回想   了

    672 = 1 :

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    京太「とかなんとか」

    『………………………………………』

    「あ、あの人、ほんとに何やってたんだろ………」

    胡桃「考えてみると、割と謎なんだよねあの人も」

    トシ「………………まあ、深くは考えないでおこうか。さて、明日もある。今日は打ち納めになるからね、きっちりいきな」

    豊音「はーい!!私、打ちたい!!」

    「じゃあ私は最初は見学に回るね」

    シロ「ん」

    胡桃「今年最後、勝って終わろうか」

    エイスリン「マケナイ!!ショーブ!!」

    673 = 1 :

    .













    京太「………………」

    京太(………この人たちに会えて、本当によかった)

    京太(やっぱり、俺は失いたくない。ここから、離れたくない)

    京太(どうなるかはわからないけど………)



    京太(俺は――――――――ずっと、ここに―――――――――)









    「本当に、ごめん」






    京太「え?」

    674 = 1 :

    胡桃「ん?どーかした?」

    京太「い、いえ。今、誰か何か言いました?」

    「いや、みんな黙々と打ってたけど………」

    シロ「幻聴とか、やばくない………?」

    エイスリン「キョータ、ツカレテルノ?」

    京太「違いますから!!気のせいですから!!そんな目で見ないでください!!」




    豊音(………………………………)







    「ふー、終わった終わった。よかった、一応勝てた」

    胡桃「ぐぬぬ、あの待ちは卑怯でしょ………」

    シロ「流石にアレ予測できたらおかしい………事故以外の何物でもない」

    675 = 1 :

    豊音「楽しかったよー」

    エイスリン「ウン!!スッゴクタノシカッタ!!」

    「明日も、新年を気持ちよく迎えられそうだね」

    京太「みなさん、お疲れ様です」

    胡桃「あ、そうだ。京太、洗い物とかは?今年最後くらい私たちにやらせてよ」

    京太「あ、すみません。もう終わっちゃいました」

    「早ぁ!?」

    シロ「どんどん上がっていくスキル………」

    676 = 1 :

    トシ「まあ、今年の部活はこれでおしまいだ。あとは少し念入りに掃除して帰ろうか」

    「ですね。大掃除は特にやってはいないけど………」

    胡桃「どっかの誰かさんが頑張りすぎてて、特にやるところが………」

    京太「まあ、皆さんが麻雀やる場所ですし。気持ちよく打ってもらいたいじゃないですか」

    シロ「コタツ導入希望」

    「却下」

    胡桃「誰がひきこもりの手伝いするか。さ、掃除するよー」

    シロ「うなー」ズルズル

    京太「窓拭く雑巾持ってきますねー」

    豊音「窓は私がやるよー」

    エイスリン「ホーキ!!モッテキタ!」

    トシ「じゃあ、やるかい」




    「やっぱ、京太君が普段からやってくれてるから綺麗なもんだね」

    胡桃「感覚麻痺しかけてたけど、毎日が大掃除直後みたいなものだよね。京太、ホントありがと」

    京太「ですから、大したことはしてませんって。あ、水道回り綺麗にしてきます」

    豊音「あ、お願い。窓は終わらせておくからー」

    胡桃「あ、私もちょっと水道いってくるね」

    677 = 1 :


    「ん。ついでに、水道の石鹸減ってたら補充しておいてもらってもいい?」

    胡桃「わかった。行ってくるね」

    京太「じゃあ、行きますか」






    京太「あー。やっぱ減ってますね」

    胡桃「休みの間もここに来ること多かったからねー。ていうかほぼ毎日来てたし」

    京太「俺たちが使ったものですし、綺麗にして返しましょう」

    胡桃「だね。残ってる石鹸使っちゃって、水道回り綺麗に洗っちゃおうか」

    京太「了解です。はい、たわしです」

    胡桃「ありがと。さあ、ちゃっちゃとやっちゃおう」

    京太「ええ」


    ゴシゴシゴシゴシ………

















    胡桃「本当にありがとね」

    678 = 1 :

    京太「え?」

    胡桃「私たちと、一緒に居てくれて」

    京太「………それは、こちらのセリフですよ」

    京太「俺を見つけてくれて、俺と一緒にいてくれて。本当にありがとうございます」

    胡桃「………もし、さ」

    京太「はい」

    胡桃「記憶が戻って、その後―――もう一度、ここに戻ってきたら」

    京太「………はい」























    胡桃「最初に、私に会いに来てくれたりする?」

    679 = 1 :

    京太「………」

    胡桃「………なーに言ってるんだろ、私。さ、掃除しちゃお」

    京太「胡桃さん」

    胡桃「ん?」

    京太「約束しますよ」

    胡桃「え」





    京太「真っ先に――――――胡桃さんに会いに来て、『ただいま』を言います」











    やめなよ。それ、勘違いさせるよ


    勘違いですか


    そ、女の子を変に期待させない方がいいよ


    期待は、してくれるんですか?


    ………そっちは?


    期待してもいいんですか?








    胡桃「………ばーか」

    京太「はい、馬鹿です」










    この時、触れ合った手を


    俺は               私は



    忘れない

    680 = 1 :

    .








    「随分長い水道掃除で」

    胡桃「………………………………………………………………」

    京太「………………………………………………………………」

    「………ま、あえて聞かないけど」

    胡桃(あとで問い詰められるパターンだ………)

    「そうだ京太君。アレ、どこにあったっけ」

    京太「あれ?」

    「えっと、ほら………水付けてこするだけで汚れの落ちる、あの………」

    京太「あ、激落○くんですか。ロッカーのここに………ああ、ありました」

    「あ、ありがとう」

    681 = 1 :

    京太「あれ?それ使わないといけないような汚れありました?」

    「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、さ………」

    豊音「………うん」

    エイスリン「アリガトー、ッテ」

    シロ「私たちの、相棒………」






    京太「あ………」

    胡桃「麻雀牌、か………」




    「お世話に、なったよね」

    シロ「これからも、麻雀は続けるにしても………」

    豊音「卒業したら、この子とはお別れだもん」

    エイスリン「ワタシ、コノハイガ サイショノ マージャンハイ」

    胡桃「………丁寧に、磨いてあげよう。来年、麻雀部が続いたら―――その時に、胸を張って託せるように」

    京太「………お手伝いしても、いいですか?」

    「もちろん」


    「………今まで」





    胡桃「本当に、ありがとう」

    682 = 1 :

    胡桃「………全部、終わったね」

    「だね。一年間、本当にお世話になった部室、牌、卓―――全部、終わった」

    トシ「………みんな、整列」


    トシ「塞。号令を」

    「はい」
























    「お世話に、なりましたっ!!!」



    『お世話に、なりましたっ!!!!!!!!!!!!』

    683 = 1 :

    本日の更新は、ここで終了になります
    いつもいつも、長い期間が空いてしまって申し訳ありません



    ここから、物語は収束して、終幕へ加速します。
    胡桃ちゃんの想い、シロの想い、エイスリンの想い

    そして、塞の願い。豊音の涙。

    京太の過去が明らかになるのは、もう間近です。

    その時、皆様がその結末をどうか「幸福」であると思えるように、がんばります


    それでは、次の更新にて






    【独り言】
    胡桃ちゃん、絶対に幸せにするから

    686 :


    みんな幸せになってほしいよー

    687 = 654 :

    乙でした
    後何回ぐらいなのかなー

    690 :

    遅くなりました

    少しだけ、更新いたします

    691 = 690 :

    麻雀を、仲間を愛した少女たちがいました

    多くの努力と、固い絆で、ただ一度だけの栄光を目指した少女たち

    惜しくも夢破れた少女たちは、ある秋の日。一人の青年と出会います

    過去も、居場所も、名前すらも失っていた青年

    彼は、いつの間にか少女たちにとってかけがえのない存在となり、

    少女たちも、彼の事をかけがえのない存在として、心から愛しく思いました

    ある者は恋慕を

    ある者は友情を

    想いは膨らみ、成長し、時には軋んで時には切なく

    その物語がずっと続くことを誰もが望んでいた、冬




    かみさまは、せかいは、それをゆるしませんでした

    692 = 1 :

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    「じゃあ、明日また部室で。寒くなるから、どんな形であっても防寒対策はしっかりね」

    胡桃「うん。じゃあ、また明日」

    トシ「それじゃあ、帰り道に気を付けてね」

    シロ「寒………」

    エイスリン「マタネ!!」

    豊音「また明日だよー」

    京太「では、また明日。先生、いきますか」

    トシ「そうだね」

    693 = 1 :

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    京太「それにしても、本当に早かったですね………」

    トシ「そうだねぇ………毎年思うことではあるけど、宮守に赴任して、京太君が来てからはさらに早く感じたよ」

    京太「俺としては、すごく不思議な気分なんですけどね」

    トシ「ほう?」

    京太「だって記憶がない時点で、俺の今の起点はあの日―――皆さんに救われた日なんですよ」

    トシ「………そういえば、そうだったね」

    京太「だから、俺からしてみれば本当に早かったです」

    トシ「私からしてもそうさ。私もここに赴任してまだ1年。宮守で過ごした時間は本当に短い。塞たちからしてみれば、また時間の感覚が変わってくるんだろうね」

    694 = 1 :

    京太「それもそうですね………エイスリンさんや豊音さんも変わってくるでしょうし」

    トシ「そうだね。けど、本当にいい一年を過ごさせてもらってるよ、私は」

    京太「俺もです」

    トシ「さて、帰ったら早々にゴハンにしようかね」

    京太「あ、実は仕込んであります」

    トシ「それは楽しみだ。いつもありがとうねぇ」

    京太「いえ、好きでやらせていただいてるので」




    トシ「じゃあ、帰ろうか」


    京太「ええ、帰りましょう」

    695 = 1 :

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    胡桃「ねえ、塞」

    「んー?」

    胡桃「本当に早かったね、この一年は」

    「そうだね………特に、インターハイ。あの時、私たちの居た場所はとても輝いてた。そして―――あの日、京太君を見つけた時」

    胡桃「うん。あの日から、本当に毎日が早かった」

    「最初はどうなる事かと思ったけどね。記憶を無くした男の人を、まさか匿うことになるなんて」

    胡桃「けど、そのおかげでこの毎日を貰えたんだよね」

    「もらえた………うん、そうだね。きっと、本来ならばありえない出会いだったんだと思う」

    胡桃「だからこそ、輝いてた。温かかった」

    696 = 1 :

    「………胡桃」

    胡桃「ん?」

    「これは、さ。一切からかったりとかそういう意味は無く。ただ、純粋に聞きたいことだけど」

    胡桃「何?」

    「答えたくないなら、答えないでいいから」







    「京太君の事、好きだよね?」



    胡桃「うん」






    「………断言できるレベルで、自覚したか」

    胡桃「自覚はもっと前から。もう、隠すつもりが無くなっただけ」

    「そっか」

    697 = 1 :

    胡桃「正直、最初は自信がなかったんだ」

    「自信?」

    胡桃「うん。あれの類似品じゃないかって。えっと、なんとか効果………」

    「吊り橋効果ね」

    胡桃「うん。状況が特殊だったし、それかもしれないっておもってこともあったよ。けど、そうじゃなかった」

    「それは、なんで?」

    胡桃「時間を経るごとに―――あの笑みが。あの優しさが。あのお人よしが、どんどん好きになっていった」

    胡桃「だから、一つだけ決めたことがあるんだ」

    「決めたこと?」

    胡桃「うん………ほら、京太は、素性によっては問答無用で帰らないといけないかもでしょ?」

    698 = 1 :

    (本人が気にしてたこと―――か。あの事は、今は言わない方がいいか)

    胡桃「もし、そうなったとしたら。私は、決めたんだ」





    それなら、私が追いかけてやる





    「―――――――――――――――――」

    胡桃「もちろん、京太が私をどう思ってるかははっきりわからないけど」

    胡桃「記憶を全部なくして、右も左もわからない土地で―――京太は、全部自分で積み上げてきた」

    胡桃「全部手探りの中で、自分にできることを全部やって、その上で自分自身の居場所を作ろうと頑張ってきたんだ」

    胡桃「だから。私だって負けてやるものか」



    私にできること、全部してやる



    胡桃「―――――――――――それが、私の決めたこと」

    699 = 1 :

    「………ん、わかった」

    胡桃「ごめんね、こんなこと言いだして」

    「ううん。もしそうなったら胡桃が岩手を去っちゃうことにはなるけど、それこそ京太君の言ってた通りだもんね」

    胡桃「うん。会えなくなるなんて、ないんだ」

    「逢おうと思えば、いつでも逢える」

    胡桃「もちろん、今のこの時間、この世界はとても暖かいし、ずっと続けたい。だけど、それを守ろうとすればどんどん世界は閉じていって、いずれ自分自身で何一つ動けなくなる」

    「だから、歩くんだね」

    胡桃「うん。一歩踏み出して、その上で何一つ捨ててなんかやらない。塞たちと過ごしたこの土地が私の帰る場所であることは、一切変わらないんだから」






    「じゃあ、また明日」

    胡桃「ん。また明日」

    700 = 1 :

    シロ「………………………」

    シュボッ    カチンッ

    シロ「………ふぅ」


    シロ(正直――――――楽しみでもあり、不安)

    シロ(京太の記憶が戻るのは、もちろん悪いことなんてない。それが本来もっとも喜ばしいことなんだから)

    シロ(けど―――――――――――――――)







    もう、時間、ないよ?




    シロ(―――――――――――間違いない)

    シロ(豊音は、何か――――とてつもなく重大なナニカを、知ってる)

    シロ(その上で、あの顔―――――――――――――今にも泣きだしそうな、笑顔)

    シロ(あとになって考えてみれば、あれは豊音のSOSだ)


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