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    元スレ冬馬「プロデューサー、人間やめるってよ」

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
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    601 = 1 :

    「え? あれは……」

    「伊織……伊織……伊織ぃ!」

    そこに、あの人はいた。
    泥だらけの服で、必死の形相で配線の中をもがくように、何かを探していた。

    「プロデューサー……さん」

    「どこだ? どこにあるんだ? どこに……伊織……」

    よく見れば、指先は擦り切れて血が滲んでいる。
    いや、指先だけでなく雑多な物品であちこちに怪我をしている。

    そうか。
    そうなんだ……

    もう認めよう。
    この人は、助けに来た。
    伊織ちゃんを。
    10年間、想い続けているその相手を。

    私の提案した考え、それはプロデューサーさんを試すこと。
    プロデューサーさんが本心から改悛し、荒んでいないなら765プロを守ろうとするはず。
    アイドルのピンチには、飛んできてくれるはず。
    この考えは、響ちゃんと春香ちゃんの作戦にぴったりとマッチした。

    餌となる人が危険になれば、プロデューサーさんが助けに来る。
    それに私たちは、賭けたのだ。

    602 = 1 :

    「プロデューサーさん!」
    私の呼びかけに、プロデューサーさんは弾かれたように身体を震わせると、その場に凍り付いたように動かなくなった。

    「あずさ……さん?」
    凍りついた身体のまま、プロデューサーさんは視線を合わせず呟くように言った。

    「響ちゃんと、春香ちゃんの言った通りになったわね。プロデューサーさん、釣られた気分はいかがですか?」

    「釣られた……?」

    「全部、私たちの作戦なんですよ」

    プロデューサーさんは、動かないまま心底驚いた表情をした。
    そして、思い出したように慌てて逃げようとする。

    「まだ逃げるんですか? これ以上、私たちに心配をかけないでください」

    「これには訳が……みんなを危険にさらすわけにはいかないんです!」

    「プロデューサーさんが、伊織ちゃんを殺そうとするから……ですか?」

    「あずささん!? なんで……なんで……」

    「私たち、プロデューサーさんを探したんですよ。探して……調べて……小豆島にも行きました」
    私の言葉に、青ざめていたプロデューサーさんの顔色はもう土気色ともいえるものとなっていた。

    「センセイにも話を聞きました。小鳥さんも帰ってきて、話を聞きました。プロデューサーさんの部屋も見ました」

    「俺は……」

    「しっかりしてください! みんなあなたを好きです。いなくなって、みんながどれだけあなたを心配したか……わからないんですか!?」

    「俺は、人殺しの子だったんだ……」

    表情のない顔で、吐き出すようにプロデューサーさんは言った。

    「それは……プロデューサーさんが子供時代に、からかわれて……」

    「違う……違うんだ、本当だったんだ。俺には……愛しい者を殺さずにはいられない血が流れているんだ……」

    「そんな……」
    それが、プロデューサーさんが失踪した直接の引き金?

    「あずささん……アイドルのみんなには、感謝しています。みんながいなかったら、俺はとうに殺人者になっていたでしょう。でも、だからこそ……自分が何者であるか……いや、俺は人じゃない。なんなのかがわかった今、もうみんなとはいられない」

    感情のこもらない声で、プロデューサーさんは喋り続ける。

    「俺は……もうみんなとは……」

    私には、プロデューサーさんに何も言ってあげられなかった。

    603 = 1 :



    『バカ言ってんじゃないわよ! 馬鹿プロデューサー!!』

    604 = 1 :

    静かな天井階。
    そこに、大きな声が響く。

    「伊織ちゃん……」

    伊織「アンタに悲惨な過去があるなんて、知らなかったわ! 性格が神経が捻じ曲がってた事も!! 犯罪者寸前だった事も!!!」

    「伊織……」

    伊織「私たちが見てたのは、今のアンタよ。アンタ……あんなに一生懸命だったじゃない!」

    「それは……」

    伊織「私を殺したかった? バカ言わないで! 人間ね、そんな馬鹿な動機なんかじゃがんばれないのよ!!」

    「俺は、人間じゃ……」

    伊織「まだ言うの!!!」

    伊織ちゃんは、猛然とプロデューサーさんに歩み寄ると……
    首に手を回し、ぶら下がるようにして唇を重ねた。

    「な! え……」

    伊織「アンタの事を好きでたまらない娘にここまでされて、もしなんにも感じないならアンタ人間じゃないわよ」

    プロデューサーさんは、茫然自失としていた。

    伊織「どう?」

    心配そうな、伊織ちゃん。
    なんて大胆な……
    ちょっと感心。
    そしてプロデューサーさんは……

    605 = 1 :

    「……嬉しくて、泣きそうだ」

    伊織「ようやく言ったわね……ううん、言ってくれた」

    「伊織、俺は……俺は伊織に謝らないと……」

    伊織「言わなくていいわ。わかってるし、それに……」

    「? なんだ?」

    伊織「悪かったわね。覚えてなくて、島で会ったこと」

    「いや、俺はただの子供だったしな。伊織と違って。ああ……なんか頭の霧が晴れたみたいだ」

    「ふう。もう、大丈夫なんですか?」
    プロデューサーさんの言葉に、少し安堵しながらも私は気が抜けない。

    「少なくとも、もう伊織から離れたくない……です」

    伊織「同感ね」

    そう言うと、伊織ちゃんはプロデューサーさんをおずおずと抱きしめた。

    伊織「殺すわよ、今度黙って私から離れたら……次は私が10年かけてでも、アンタを殺しに探して行くから」

    「心に染みる言葉だな、わかった。だけど……問題が残っている。961プロは……」

    「それは社長が手を打ってます。それよりも、さっき言っていた……」
    プロデューサーさんを、信じないわけじゃない。
    けれど、ここまでプロデューサーさんを狂わせた母親という存在を、このままにはしておけない。

    「言われてみれば、俺は黒井社長の言う事を鵜呑みにしていた。信用できない相手だと、わかっているはずなのに……」

    「じゃあ、それも含めて961プロの罠かも知れないんですね」

    「俺は自分自身では、何も確かめていなかった。ただ、みんなを守らないとという思いだけで。冷静に今考えると、おかしいな」

    伊織「まったく……バカねえ。さ、先ずは戻りましょう。みんなを安心させなきゃ」

    「その前に、現状を教えてくれ」

    606 = 1 :

    ようやくいつものプロデューサーさんらしくなってきた。
    私は、かいつまんでだがプロデューサーさんが失踪してからの事を説明し、伊織ちゃんが補足してくれた」

    「要は、みんなの中でも知っている情報にムラがありますから、気をつけてくださいね」

    「ああ。けど……なんか、気恥ずかしいな」

    伊織「散々心配をかけたんだから、その報いよ」

    私はため息をついた。

    「二人とも、私の話を聞いてなかったの?」

    「え?」

    伊織「え?」

    「腕……組んで行かないで。そういう情報、まだみんな知らないんですから」
    私が言うと、二人は赤くなりながら離れた。
    私の胸は痛んだが、まあ……今は許そう。

    607 = 1 :

    三人で、ライブが終わった楽屋に行くとみんながいた。
    プロデューサーさんを見て、みんなは一斉にプロデューサーさんに抱きついた。
    伊織ちゃんがちょっとだけ複雑そうな顔をみせたが、ここは我慢をしてもらおう。
    私だって、さっきしたんだから。うん。

    プロデューサーさんは、お母さんのことで961プロに脅されたと説明した。
    みんな、神妙な顔をして聞いていたが、プロデューサーさんが頭を下げて謝ると、みんな笑顔で許した。

    「春香、この間の返事だけど」

    春香「え? あっ! はい」

    「今は、断っておく」

    春香「ええ……」

    「今は、仕事優先だ。痛っ!」

    伊織ちゃんが、プロデューサーさんを蹴っていた。
    春香ちゃんは少し不思議そうにしていたが、小さく両手を握ってた。

    春香「ようし……今よりもっと、アイドルとして磨きをかけてそれから……」

    雪歩「わ、私もがんばりますぅ」

    「そうだな。これで、安心できたし」

    「やるっきゃないね」

    やよい「うっうー!」

    ライブの打ち上げは、そのまま再会の宴になった。

    608 = 1 :

    高木「検診の結果、彼は向精神薬の影響下で朦朧としていた事が判明した」

    黒井「……それで?」

    高木「事を荒立ててもいいが、それはお前も本意ではあるまい」

    黒井「むっ! 私は表沙汰にしても一向に……」

    高木「強がるな。流石に法に触れる事に手を出したと知れるのは得策ではないだろう? こちらも彼を返してもらえばそれでいい。痛みわけ……で、どうだ?」

    黒井「ふん! これは譲歩だ!! 譲歩!!!」

    黒井社長は、怒鳴ると席を蹴って出て行った。
    こっそり見ていた真美と亜美は、それぞれイーとベーの顔で黒井社長を見送った。

    小鳥さんだけは、複雑な表情で黒井社長に会釈をした。
    黒井社長も小鳥さんを一瞥すると、小鳥さんにだけは軽く頷くにしてから出て行った。

    律子「雪歩、塩! 塩を持ってきて!!」

    雪歩「用意してますぅ」

    キロ単位の塩袋を、真ちゃんが持っている。
    いや、さすがにそれを撒くのは……

    「えーい!」

    ドバア★

    ……暫く、社長室は使えないようだ。
    珍しく社長が、泣いている。

    609 = 1 :

    プロデューサーさんが帰ってきてから、瞬く間に765プロは元通りになった。
    仕事面でも、内情も。

    てっきり内緒であっても、付き合うと思っていたプロデューサーさんと伊織ちゃんだが、当面は自粛すると私にだけは報告があった。

    「どうやら俺は、真っ当な人間でちゃんとした社会人だからな。法に触れるような事はできない」

    伊織「……いいわよ。10年忘れられなかった恋なんでしょ。あと数年ぐらい待てるわよね」

    二人ともプロデューサーとアイドルとして、頑張るようだ。

    610 = 1 :

    そして最後に、プロデューサーさんのお母さんの件だ。

    プロデューサーさんが自分で調べた結果、黒井社長もこの件では嘘をついていたわけではなかったようだ。
    お母さんは、前科2犯。罪状は間違いなく殺人。
    動機も、黒井社長が言っていた通りだ。
    そして、息子に対する想いもまた、黒井社長の言った通りだった。

    多摩川の河川敷で見つかった、身元不明の男性の遺体。
    プロデューサーさんのお母さんが、3度目となる犯罪を犯してしまった事がわかった。
    お母さんは、通りかかった20代の男性を息子に重ね合わせて殺してしまったらしい。

    「プロデューサーさん……」

    「……大丈夫ですよ。俺はもう、自棄を起こしたり現実から目をそむけたりしません」

    強がりだ。
    それがわかって、私はプロデューサーさんを抱きしめた。

    「ちょ! あずささん?」

    「やよいちゃんも言ってたでしょう? 辛い時は、泣くと楽になれますよ」

    「でも……」

    「伊織ちゃんには、内緒にしておきます」

    ずるいな、私。
    でもこれは、プロデューサーさんを救う為。
    そう、もうプロデューサーさんを失踪なんかさせやしない。
    その為。
    胸の中で、言い訳が渦巻く。

    しばらく黙っていたプロデューサーさんは、やはり私の胸で泣いた。
    私はいつか、やよいちゃんが真っ赤になっていた理由が実感としてわかった。
    恥ずかしい。
    でも、嬉しい。

    これは、伊織ちゃんには内緒にしておこう。
    本当に。
    うん。

    611 = 1 :

    近く、プロデューサーさんはお母さんに面会に行くらしい。
    ガラスを隔てることになるが、ついにお母さんに会えるのだ。
    プロデューサーさんは、やはり嬉しそうだった。
    千早ちゃんが、ニコニコとしている。

    ようやくいつもの765プロ。
    どうかいつまでも、このままの765プロでありますように。

    もう、探偵のマネゴトはご免だから。
    ね。
    うふふ~


    612 = 1 :

    以上で終了です。
    長期間に亘りましたが、完走できました。
    書き始めた時は、10日間ぐらいかなと思っていましたがとんでもない事でした。
    読んでくださる方には、いつもレスをいただいたりして本当に感謝です。
    ありがとうございました。

    613 :

    >>1乙。良かったな。

    614 :

    うおおおおおおお!!!!!!

    >>1乙!!!!!!!!!

    615 :

    乙!!!
    面白かった

    616 :

    乙です!

    良かった いやー良かった

    617 :

    乙、何度か涙腺が緩んだのは内緒

    しばらくしたら、ふーどふぁいとの方も更新してくれたらうれしいな

    618 :

    面白かった!

    619 :

    乙でした!


    塗るポイント……ガッ!
    の流れに茶吹いたわ

    620 :

    乙!
    話の全容が少しづつ明らかになっていくのが楽しかった

    621 :

    完走乙
    長くもなく短くもなく飽きさせないですごい読みやすかった
    もちろん内容も面白かった!

    622 :

    おぉネラーな春香は珍しいね大概千早だし

    面白かった、乙

    623 :

    千早がネラー設定は恐らく別の世界線のせいだろうなwww

    624 :


    毎回良い所で締めるから続きが楽しみで仕方なかったよww

    625 :

    超乙!
    すごく面白かった!毎日更新が楽しみだったわ
    これは真相わかってからもう1回読むのもいいんだろうな

    626 :

    良い出来だったよ乙
    正直タイトル見た時は一発ネタだろうと思ってましたサーセン

    627 :

    おっつ

    628 :

    乙!
    面白かったよ!

    630 :

    乙 !
    良かったよー

    631 :

    相変わらずおもしろかったわ

    633 :

    乙でした
    タイトル見たときはただのギャグSSだと思ったのにいい意味で裏切られたわ

    634 :


    読んでてワクワクが止まらなかったよ

    635 :


    まあ安定のクオリティと言ったところか

    642 :



    あずささんの迷子の描写ワラタw誰かの陰謀ww

    643 :

    乙!面白かった

    「あれ?」
    不思議だ。
    客席に回ったはずが、なぜか私はステージ迫に来ている。
    どういう事?
    まさか誰かの陰謀!?

    真美ちゃんと亜美ちゃんが、私に気がついて手で戻るように指示する。

    「わかってるんだけど……」
    私は慌てて、回れ右をする。
    そのまま進むと……

    あれ?
    今度は?

    「ここは……天井?」
    クレーンに乗ったわけでもないのに、私はなぜか照明や配線でごゃごちゃとした天井階に来てしまう。

    どういう事だろう?
    私は、普通に歩いただけなのに……

    あずささん迷子スキルレベル上がってるwwww

    644 :

    おお!完結してる!
    乙です、素直にハラハラしたり感心したりめちゃくちゃ楽しかった!

    645 :

    楽しませて貰いました!乙です!

    647 :

    乙です。
    最後にまたひっくり返るかも知れないと思ってヒヤヒヤした・・・

    648 :

    乙でした!!

    649 :

    皆さま、本当にありがとうございました。
    皆さまのレスのお陰で、完走できました。

    時間さえあれば、もっともっとアイマスSSを書きたいです……
    とりあえずは、ふーどふぁいとを。


    あと、全然余談なんですが……

    冬馬「プロデューサー、また人間やめるってよ」 伊織「またぁ!?」

    という、スレタイだけは思いつきました。

    650 :

    そのスレタイだと今度はギャグっぽいなww


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