元スレ冬馬「プロデューサー、人間やめるってよ」
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501 = 1 :
雪歩「……プロデューサー?」
P「あ? あ、ああ。ごめん、雪歩」
雪歩「……昨日の事ですか?」
P「えっ!?」
雪歩「昨日の事で、そんなに考え込んでいるんですか!?」
P「き、昨日……何かあったっけ? ははは……」
必死で俺は、誤魔化そうとする。
雪歩……何か気がついているのか?
雪歩「私、見に行きました」
P「え?」
雪歩「プロデューサーがプロデュースする、初めての伊織ちゃんの単独ライブ。見に行きました」
ギクリとした。
いつもと違う、雪歩の様子。
昨日の事……あの仕掛けの事を、まさか雪歩は……
P「あ、ああ、来てくれたのか。なら、楽屋とかに来てくれても良かったのに。雪歩なら、顔パスだろ」
雪歩「……行きました」
P「え、ええっ!?」
全く気がつかなかった。
502 = 1 :
雪歩「プロデューサーは、伊織ちゃんが好きなんですか……?」
P「は?」
好き?
なんの話だ?
雪歩「ずっと見てました。現場でのプロデューサー、すごい真剣な顔で……」
P「そりゃあ、仕事中はいつだって……」
雪歩「真剣というか、鬼気迫る感じを受けました」
P「そんなことは……」
鬼気迫る……か。
自分ではわからなかったが、そんな風に見えたのか。
鬼気迫る……
雪歩「私のライブの時、プロデューサーはあんな表情……見せてくれません」
P「……あのな、雪歩」
当たり前だ。
雪歩のライブで、俺が雪歩を殺そうか悩んだり躊躇ったりするわけがない。
雪歩「プロデューサーは、伊織ちゃんを好きなんですね?」
P「……」
雪歩「そうなんですね?」
P「……違う」
503 = 1 :
雪歩「……伊織ちゃんを、好きじゃないんですか?」
P「そう言ってるだろ? なあ、今日はどうしたんだよ雪歩」
生まれてこの方、誰かを好きになった事なんて無い。
殺したいと思った事が、あるだけだ。
そう、伊織を俺は殺したかった。
好きなわけじゃ……ない。
雪歩「じゃ、じゃあ、証拠。証拠を見せて下さい」
P「証拠?」
雪歩からは、半ば無理矢理ケータイで毎日連絡を取る事を承諾させられた。
仕方ない、雪歩は俺が伊織に何らかの特別な感情を抱いている事に気がついている。
今はどうやら勘違いしているようだが、口止めをしておく必要があるだろう。
やれやれ、とんだ脅迫を受けたものだ。
本人に自覚が無いのが、救いなのかやっかいなのか……
雪歩から受け取ったケータイに、俺は雪歩のアドレスを『W』と登録した。
誰かに見られたら困る場合、俺はアイドル達をイメージカラーの頭文字で記す事にしている。
これならケータイを見られても、相手が雪歩とはわからないだろう。
そこまでやって、俺はふと雪歩の言葉を思い出す。
『お揃いの色違いケータイを持ち合うって、本当の恋人みたいじゃないかと思うんですぅ』
P「恋人……か」
恋愛経験なんて、俺には無い。
恋人……そんな人がいたら、どういう気持ちなんだろう……
生まれて初めて、俺はそんな疑問を持った。
504 = 1 :
Pの回想7(プロデューサー失踪6日前)
最近の俺は、考えてばかりだ。
悩んでばかりだ。
貴音「あなた様!」
P「うおっ! お、おお。貴音か。どうした?」
昨日と同じ。
なにやってんだ、俺。
貴音「それはわたくしの言葉です。あなた様は、今朝からなにやらご煩悩の様子。なにがあったのですか?」
P「……なんでもない。ちょっとビックリする事が昨日、あってな」
そう、あの雪歩が俺にあんな事を言ってくるとは思わなかった。
最初にあった時は、俺に近寄りもせず震えていたのに。
貴音「それはなんですか?」
P「まあ、貴音に話す程でもない。さっきも言ったが、ちょっとビックリしたが、思い出してみると微笑ましいという気にもなってきた」
そう、あんな可愛らしい脅迫者なんかいるもんか。
脅迫……か、雪歩も成長したな。
505 = 1 :
貴音「いえ。ではその企画書を……これは?」
P「ん? あれ、企画書はこれ……貴音! それは見るな!!」
誰にも見られたくない、伊織を殺すという張り紙。
俺はそれを、事務所のシュレッダーにかけるつもりだった。
それを貴音に……見られた!
貴音「『Pは殺す』『必ず殺す』『その日は近い待っていろ』『夢にまで見たPの死ももうじきだ』……どの紙にも……あなた様、これは!?」
P「た……貴音、これは……これはな」
マズい! ここは、誤魔化さないと!!
貴音「あなた様を殺害するという予告、いえ脅迫ではありませんか!!」
P「あ……あ、ああ。そうだ」
そうだ。そうだったな、俺は見られてもすぐにはわからない書き方をしていた。
上手く貴音は、Pは俺の事だと勘違いしてくれた。
そして俺は、貴音をなだめた。
P「まあ聞いてくれ、貴音。こんな脅し文句は、いつも口だけだ。実際に殺されたやつなんていやしない」
506 = 1 :
貴音「それは、まことですか?」
P「ああ、弱い奴ほどよく吠えるもんだ。口では殺す殺す言ってても、実際は……」
俺はハッとした。
なんだ。
なんだよ、そりゃ?
それは、俺の事じゃないか。
殺す殺す、そう言ってても……実際は……
貴音「? あなた様」
P「ははは。ははははは。あはははははは!」
貴音「あなた様!? どうなさったのですか、あなた様!!」
弱い奴ほどよく吠える。
なるほど、よく言ったもんだ。
俺は……弱い奴だったんだな……
P「はははははは……いや、すまない貴音。俺も『殺す』って書かれて少なからずビビってたのかもな。相手がブルブル怯えながら俺を脅しているんだと思ったら、ちょっと笑えてきた」
そうか……そうだったんだな。
伊織をつけ狙っていたつもりだった俺は、その実……
ブルブル震えてたんだな。
なんだよ、雪歩の方がよっぽど強いじゃないか。
すげえな、雪歩。
俺なんて、よく吠えるだけの弱い奴だったよ……
507 = 1 :
Pの回想8(プロデューサー失踪5日前)
その日俺は、やよいに夕食を誘われた。
やよいの家に行くと、なぜか落ち着く。
俺の知らないものが、たくさんある。
『家族』が、その中心だ。
夕食は、そうめんだった。
驚いた。
小豆島……育った島の名前を久しぶりに見た。
伊織の事は何度も夢に見たのに、島を出てから島の事を思い出した事も無かった。
いや、忘れようと努めていたのかも知れない。
島を思い出すからか、俺は島を出てからそうめんを食べていなかった。
やよい「グリーンピース、残しちゃダメですよ。栄養だっていーっぱい入ってるんですからね!」
可愛らしく怒る、やよい。
P「……そうだな」
やよい「しっかり食べないと……あれ?」
俺は、センセイを思い出した。
施設で俺を怒ってくれた、センセイ。
やよい「プロデューサー?」
P「昔、同じ事を言って怒られたよ。涙目で真剣に怒ってたな……」
センセイ……
俺を真剣に怒ってくれた、唯一の人……
やよい「それって、プロデューサーのお母さんですか?」
お母さん……センセイみたいな人なんだろうか。
508 = 1 :
やよい「プロデューサー?」
P「俺に……親は、いない」
誰にも言わなかった事を、俺はごく自然にやよいに話した。
脳裏に、あの子供時代が蘇る。
恥ずかしくて、死にたくなった。
なにが憎しみだ、俺だって愛情を持って見てくれていた人がいた。
捻くれていただけだ。
酷い事をたくさんした。
P「人間ってのをさ、やり直せるなら……俺はあの頃からやり直したいな。捨てられた事は、どうでもいい。でも、あの頃、俺がもうちょっとマシな人間だったら……今だって……」
自然に言葉が、口から出る。
そう、あの頃の自分がもう少しまともだったら……
伊織を殺そうなんて、思わなかったはずだ。
みんなも殺そうなんて、思わなかったはずだ。
ようやく俺の心に、後悔の念が生まれた。
すまない、伊織。
すまない、みんな。
こんな俺ですまない。
今まで騙していてすまない。
すまない……すまない……
やよい「そんなこと……言わないでください」
心の中でみんなに詫びる俺に、やよいが言った
509 = 1 :
やよい「プロデューサーはすてきな人です。みんなみんな、プロデューサーがだいすきですよ?」
P「みんな?」
聞き違いか?
好き?
俺を?
やよい「事務所のみんなですよー!」
P「俺を好き?」
そんな筈はない。
だって……
やよい「そうですよ」
P「仕事の上だけじゃなくて、か……?」
みんなが必要としているのは、プロデューサーとしての俺。
そうじゃないのか?
やよい「お仕事はかんけいないですよ。みんな、プロデューサーがだいすきなんです」
P「……そんなわけは……」
ある筈無い。
だって……センセイは言ってた……
やよい「ほんとですー!!!」
『人に信じられたければ、人を信じろ。人に愛されたければ、人を愛せ』
俺は信用されているのか? じゃあ俺は……みんなを信用しているのか?
俺は好かれているのか? じゃあ俺は……みんなを好きなのか?
そうなのか?
ほんとうに?
510 = 1 :
やよい「ほんとです……よ?」
P「……そうか」
正直、信じられない。
だけど、そうなのか?
呆然とする俺に、やよいは言葉をかけ続けてくれた。
P「じゃあ……泣いてもいいか?」
やよい「え?」
P「俺は憎しみに駆られ、とんでもない過ちを犯す所だった……」
やよい「そ、そうなんですか?」
P「正直なんで今、やよいにこんな事を話しているのか、自分でもわからない」
やよい「……」
P「俺は……最低の人間なんだ……」
やよい「……いいですよ」
P「え?」
やよい「泣いてもいいですよ。つらい時は、泣くと楽になれますよ」
俺は泣いた。
初めてこんな風に泣いた。
胸の中に閉じこめていたものを、すべてはき出すように声を上げて泣いた。
寂しさも、憎しみも、殺意も、全部はき出して俺は泣いた。
やよいは俺を、慰めてくれた。
そうか。
つらい時は……
泣けば良かったんだ。
511 = 1 :
泣いた後で、俺はやよいに言った。
P「……ありがとう、やよい」
やよい「……はい」
P「明日から、俺は変わる。もう……馬鹿な事は考えない」
やよい「? ……はい」
もう、殺意はどこにも無い。
伊織、済まなかった。
俺は伊織にも、救われていたんだな。
伊織がいなければ、俺はとっくに犯罪者となっていた。
今まで殺そうと考えていて、悪かった。
みんなも済まなかった。
今まで俺は、間違った情熱で仕事をしていた。
もう止める。
明日からは、本当の意味でみんなのプロデューサーになる。
俺は生まれ変わる。
真人間として、みんなの為にがんばるよ。
ああ……
あの時はまだ……俺もそう思っていた……
512 = 1 :
Pの回想9(プロデューサー失踪4日前)
奇跡が起こった。
弁護士を名乗る女性から、自宅に電話があった。
俺の母親が、名乗り出て俺に会いたがっているという。
そんな事ってあるだろうか?
夢に見た事が、現実になった。
子供の頃から、何百回、何千回と夢に見て、現実に戻る度その夢の白々しさに絶望した。
悲しい現実に、打ちのめされるのが確定している夢。
それが、今度は本当に……叶った?
俺は『考えさせて欲しい』と告げて、電話を切った。
513 = 1 :
Pの回想10(プロデューサー失踪3日前)
春香に告白された。
驚きだ。
やはり、やよいの言った通りだった。
俺はプロデューサー以前に、人間として好意をもたれていた。
春香「ずっと……ずっと、プロデューサーさんが好きでした。優しくて、いつも一生懸命で、そして……いつも夢に向かって輝いていて」
P「俺の事を……好き? 夢に向かって輝いている? 俺が……?」
俺の夢とは、伊織を殺そうしていた事だ。
だが、きっとそれは俺がそう思いこんでいただけの事だと気がついた。
俺の心には、もうとっくに伊織に対する殺意など……
いや、誰に対するものでも殺意などはなかった。
きっとそうなんだろう……
P「好き……好き、か……」
人に好きだと言われる俺は、自分に少し自信が持てた。
俺も、人に好かれる。
良かった……
やっぱり俺も、人間なんだ……
春香「プロデューサーさん? 笑ってるんですか?」
P「ああ。でも、春香の事を笑ってるんじゃないぞ」
春香「え?」
脳裏に浮かんだのは、昨日の電話。
そうか、俺もちゃんと人に好かれる人間だ。
だから夢が……叶ったのかもしれない。
P「今さ、俺……ちょっと個人的な問題をかかえてるんだ」
春香「はあ」
P「返事はさ、それが解決してからでいいかな?」
春香「! はいっ!! ま、待ってます私。待ってますから……」
514 = 1 :
Pの回想11(プロデューサー失踪2日前)
千早に母親と会うべきか、相談をした。
家族の事で色々と悩み、相談を受けていた彼女。
だからこそ、聞いてみたかった。
俺は、名乗り出た母親に会うべきか。
千早は、自分の事のように嬉しそうだ。
決心のつかない俺に、叱責とも励ましともとれる言葉で母親に会う事を勧めてくれた。
千早「会わないと後悔しますよ。それなら、会って後悔してもいいじゃないですか」
P「……そうか?」
千早「そうです!」
P「そうか」
千早「はい!」
千早に教えられた。
そうだ、後悔してもいい。でも、会って後悔しよう。
515 = 1 :
P「千早に相談して、良かったよ」
千早「ふふ。プロデューサーの役に立てました。それで、いつ会うんですか? お母さんに」
P「これから連絡をする。明日の夜、かな」
千早「楽しみですね」
P「……そう、だな。ああ、なんかワクワクしてきた。あ、みんなには内緒だぞ。色々と騒がれるのは嫌だからな」
千早「はい。二人だけの、約束ですね」
決断すれば、気持ちは楽になった。
本当に、千早に感謝だ。
俺は、駆け足で家へ帰り件の弁護士に連絡した。
516 = 1 :
Pの回想12(プロデューサー失踪前日)
俺は、努めて普通に振る舞った。
昨夜、千早に相談し決意を固めてから、俺は心が沸き立つのを押さえきれなかった。
千早も、俺をチラチラと見ている。
止めてくれ。みんなにバレる。
いや、恥ずかしい。
定時退社などしようものなら、みんなに不審に思われる。
俺は計算高く、約束の時間に遅れないよう残業をした。
P「さて……そろそろ帰るか」
内心ドキドキしながら、俺は言った。
律子「はい。お疲れさまです」
律子が、会釈をしてくる。
俺は意識してゆっくりと身支度をすると、765プロを後にした。
517 = 1 :
なんだろう、これまで抑えていたせいか足が速まる。
お母さん……お母さん……
子供の頃、夢に見た。
いや、正直に言おう。
今も夢に見る。
俺が扉を開けると、その人はそこにいる。
俺を見つめている。
俺はおずおずと、その人に近づく。
『お母さん、ですか?』
俺の問いかけに、その人は泣くんだ。
すまなかった、悪かった、って。
俺はその人を助け起こす。
『いいんです! いいんです!』
きっと俺も、泣いてしまうだろう。
ああ、どんな人だろう?
俺に、似てるんだろうか?
それとも俺を見てお母さんは、おとうさんにそっくり……とか言うのだろうか。
ああ!
ああ!!
ああ!!!
お母さん!
お母さん!!
お母さん!!!
518 = 1 :
俺にこんな日が来るなんて!
アイドルのみんなに、感謝しなきゃ!
みんなのお陰で、俺は有名になった。
お母さんが、名乗り出てくれた!
ああ、どんな人だろう?
痩せているんだろうか?
それとも太った人だろうか?
瞬間、なぜかセンセイが浮かんだ。
ああ、センセイ。
ごめんよ。
ごめんよ!
センセイを、お母さんのように思ってた。
センセイに怒られると、嬉しかったよ。
センセイに叱られたくて、悪い事もいっぱいしたよ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
伊織! 伊織には特に謝らないといけない。
伊織のお陰で、俺は真人間になれた。
伊織がいなかったら、俺はとうに人間じゃなくなっていた。
そんな伊織を、俺は殺そうとしていたんだ。
ああ、俺はなんて奴だ。
いつか、話そう。
伊織に許しを乞おう。
みんなにも、謝ろう。
そして俺は、今まで以上に身を粉にして働こう。
今度は不純な動機じゃない!
みんなをまとめて、トップアイドルにするんだ!
待ち合わせの店が、見えてきた。
俺はもう、ほとんど走っていた。
お母さん!
お母さん!
お母さん!
俺は、力任せにドアを開けた。
519 = 1 :
それが俺が人間だった、最後の瞬間だった。
520 = 1 :
一旦ここで、止まります。
新しいパソコンを買ったのですが、Windows7には一太郎Lite2は対応していないと知って愕然としています……
521 :
乙
気になる所で切るねぇ…次が楽しみだ
523 :
乙
気になるうううううううううう
524 :
乙です
見たいけど見たくない……見たくないんだけど気になる……ぐぁああああ……
525 :
この>>1、なかなかやるな…!
526 = 496 :
おいおいなんてとこで…乙
527 :
焦らし上手だねぇ…乙!
528 :
どこできるんだww
529 :
毎度の事ながら、なんて>>1だ
530 :
気になって夜も眠れなくなったら>>1に責任取ってもらうからね!乙
531 :
コレはやな予感がする・・・乙
532 :
泣きそうになったのはおれだけじゃないはず
533 :
乙
このタイミングで切るか。早く続き来ーい
534 :
だから何故そんなにいい所で止めてしまうん?
焦らしやがって…
乙
535 :
なんでここで終わるううううう!
乙
536 :
ホントに焦らすの上手いなぁ
乙
537 :
乙
とうとう次で……!
538 :
つまり母親は・・・・・
539 :
そう、わたしピヨ
540 :
黒井「どーもPの母です。いつもPがお世話になって」
541 :
スレタイ的に母親は人間じゃないのだろう
542 :
ジェノバか
543 :
やめて地球滅んじゃう
544 :
ここから石仮面の流れになったらそれはそれですごいな。
546 :
ドアを開けるとそこには……黒井社長がいた。
P「……なんであんたが!?」
黒井「随分な挨拶だな。まあいい、座りたまえ」
P「騙した。そういうことか!?」
黒井「そうでもない。君の母親が君に会いたがっていて、私がここに来た。それは、間違いではないからね」
謎のような、黒井社長の言葉。
俺は憤りながらも、座った。
黒井「何にする? 今日は私の奢りだ。いや、そもそも貸し切りにしてある。何を話しても、誰にも聞かれやしない。安心してくれたまえ」
P「水でいい。貴方の施しは、受けない」
黒井「かわいげのないやつだ。君ィ、私にはワイン。銘柄は任せる。彼には、エクセレントなタップウォーターを」
給仕が済むと、店員は去っていった。
そういう指示なのだろう。
俺は遠慮なく、黒井社長を睨みつけた。
547 = 1 :
P「説明してもらおうか。内容次第では、ただじゃおかない」
黒井「ほほう、脅迫かね」
P「事実の予告だ。いいか……」
黒井「流石は、10年にもわたって殺人計画を企んでいる男だな」
なんでもない口調で言った黒井社長の一言は、大音響で俺の耳にこだました。
P「な……」
黒井「私が、私に仇なす者を放置しておくと考えているなら、君も思ったほどの有能な男ではないねえ」
調べたのか? 黒井社長は俺のことを。
どうやってかはわからないが、961プロが本気になればその位はたやすいのか?
黒井「小豆島での武勇伝、なかなかのものじゃないかね? うん?」
俺は、何もいえなかった。
黒井「君が業界に入るまでの経緯は、全て把握している。高木以上にね。あの男は、君に全幅の信頼をおいているようだが、いやいや……」
P「社長を、馬鹿にするな」
黒井「君の部屋にあった、ポスターと張り紙。あれは犯行予告と見たが、どうかね? あの別荘以来、君は水瀬伊織を殺そうとしていたんじゃないかね?」
P「な……俺の部屋を……不法侵入じゃないか!」
黒井「いやいや、私じゃないよ。私は、誰にも命令はしていない。ただ、私ぐらいになると色々と勝手に調べて注進してくれるジャーナリストが何人もいるのだよ」
俺は愕然とした。
誰にも知られたくない事を、最悪の相手に知られてしまった。
548 = 1 :
黒井「本来なら警察に、異常者がいると通報するところだが……まあ、知らない相手じゃないし。今回はひとつ提案をしたいと思ってね」
P「提案……?」
黒井「君は異常者だが、有能なプロデューサーである事は間違いない。どうだね、ひとつ……」
P「断る」
黒井「話は最後まで聞くものだよ、君ィ」
P「俺はもう異常者じゃない。バラされて困る事もない!」
俺は、精一杯の強がりで黒井社長を睨んだ。
黒井社長は、肩を竦める。
黒井「怖いねえ。やっぱり、人殺しの子は人殺し……そういう事なのかねえ」
ドクン
なぜ黒井社長が、その言葉を?
かつての俺が、何より嫌だったその言葉を?
549 = 1 :
黒井「話が回りくどくなってしまったな。君の母親だがね、君にとても会いたがっている」
P「今……どこに?」
黒井「留置所だ」
P「え」
黒井「今日、ここに来るはずだったんだがねぇ。昨日、多摩川の河川敷をフラフラしている所を見つけられてね。そのまま留置所に送られた」
P「なん……どうしてだ? 多摩川を歩いていた程度で」
黒井「ああ、説明が足らなかったな」
黒井社長は、ニヤリとした。
黒井「君の母親は、犯罪者だ。前科2犯、罪状はいずれも殺人」
今度こそ俺は、立っていられなかった。
人殺しの子、そう揶揄されてきた。
その度に、暴れた。
まだ見ぬ親、それを馬鹿にされることは許せなかった。
それが、なんだ?
人殺し?
俺の親は、本当に人殺し?
なんだよ、それ。
なんなんだよ……
550 = 1 :
黒井「彼女は、ほんの数週間前に出所したばかりでね。保護観察中……」
俺は人殺しの子?
揶揄でもなんでもなく、本当に?
俺には人殺しの血が流れているのか?
だからあんな風に……伊織を殺そうなんて、今考えればとんでもないことを10年も思い続けたのか?
黒井「君の母親に、君の事を知らせたら会いたがってねえ。知らせた手前、私が一肌脱いだというわけ……」
でも。
でも……
もしかしたら、何か理由があってお母さんはそんな事を……
黒井「そうそう、母親の殺人罪だが……最初の殺人相手は君の父親だ」
P「え?」
黒井「次が、愛人関係だった男性」
P「なんだって……?」
黒井「彼女はこう言っている。『好きになると、どうしても相手を殺したくなってしまうんです……』と」
好きになると……殺したくなる?
黒井「血は争えんねえ、ははははは」
本当に?
お母さん……
ホントウニオカアサン……
黒井「こうも言っていたな。息子が愛おしい、でも息子に会ったら……」
みんなの評価 : ★★
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