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    元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」

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    みんなの評価 : ★★
    タグ : - ジョジョ + - ペルソラ + - 承太郎 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    501 :

    ジョジョクロスは雑談が過ぎるよな

    1乙

    502 :

    >>496
    距離をとったらクレイジーダイヤモンドに癒されて飛び道具が、そして何よりも怖いのは常に全快な上条さんが全速力で…

    503 :

    そげぶスタンドで治せたっけか?

    504 :

    このスレ以外の現行ジョジョクロスが一個しかないだと……!?

    505 :

    そんなことはない

    506 :

    こことあと吉良2つか?

    507 = 504 :

    バイツァダストを打ち破る奴しか知らなかったわ……

    508 :

    2つの吉良の内片方は一年くらい続いてるよ

    509 :

    >>508
    kwsk

    510 = 508 :

    左天か吉良で検索しれ

    511 :

    一年も続いて終わらないってどうかと思わなくもないような気がしなくもない

    512 :

    別にそんな気はしないな

    513 :

    大幅改変とか短縮しないで禁書なぞったら終わりとか無いしな

    514 = 511 :

    クソ改変と全然改変しない どっちがマシかな?どっちも稀に見るが

    515 :

    どっちもどっち

    516 :

    どっちにしろここでいいあうようなこっちゃねー

    517 :

    ここで言うことじゃあないが大統領よ学園都市に戻ってきてくれ

    518 :

    更新は楽しみだけどお前らそこそこにしてあんまり書き込むなよー
    作者が復帰しにくい流れになってエタる作品はかなりあったからな…

    519 :

    大統領が好きですッ
    でもッ吉良はッもぉぉーっと好きですッ

    投下します

    520 = 1 :









      第十六話「エレクトリック・ナイトメア②」







    521 = 1 :



    少女は、逃げていた。
    短いコンパスを精一杯開いて、ひたすらに走る。
    その小さな足は裸足だ。体にはボロキレ同然の布を引っかけて、頭までもをスッポリと覆い隠している。
    そんな、見るからにみすぼらしい少女がひた走る光景は道行く人をぎょっとさせたが、すぐみな目をそらした。
    もとより少女も誰かに助けを乞う気はなかった。
    少女の顔に恐怖や不安はなかった。
    むしろ、希望めいた光がその瞳には宿っていた。

    早く。早く。
    と、少女は口の中でつぶやく。
    早く、あの人に――。




    ドシィィィンッ!!




    突如目の前に壁が現れ、少女はもろにぶつかってしまった。
    反動で少女はバネ仕掛けの人形のようにのけぞり、そのまま倒れ――なかった。
    はっと気づいた時には、少女はしっかり地に足をつけて立っていた。体は一ミリも傾いてなかった。
    少女が首を傾げ傾げ、呟くことには、


    「あ、あれぇ~? おかしいな、ってミサカはミサカはパニック寸前。
    今ぶつかって転んだと思ったのに……ひっくり返って頭を打っちゃうっていう実感があったのに……?」

    「よそ見してて、すまなかったな。この町の地図を見ていたんでな」


    その、どっしりと落ち着いた声に少女は上を仰ぎ、心中ギョッギョッと後退った。

    522 = 1 :



    でかい。見たことがないほどでかい。
    190㎝以上はあるんじゃあなかろうか。
    壁だと思ったのは、この人だったのだ。


    「ひとつ尋ねたいんだが……この町で 『 東方 』 という姓の生徒を知らないか?」

    「う~~ん……ちょっとわからないかも。都市の人口が230万人もいるから。ってミサカはミサカは正直に答えてみたり」


    そうか、と再び地図に目を落とす男。


    「ってあーー! こんなことしてる場合じゃないんだった! それじゃあね、ってミサカはミサカは」

    「待ちな」


    男の脇をすり抜けていこうとした瞬間、少女は首根っこを掴まれる感覚とともに急停止した。
    しかし、『 おかしい 』。また 『 おかしい 』。
    男は両手に地図を持っていたはずだ。少女を引き留めるなんてできないはずなのだ。
    その 『 感覚 』 は一瞬のものだったため、少女が正体を突き止めることはかなわなかったが。
    それよりもこの大男が次に何を言ってくるのかの方が少女にとっては重要だった。


    「な、なに? お金なら……持ってないから迷惑料は払えないよ……ってミサカはミサカは恐る恐る言ってみる」

    「……」


    男は不本意そうに沈黙し、ポツリと――口癖のような気安さで――呟いた。


    「……やれやれだぜ」



    523 = 1 :



    上条当麻は、戻ってきた友人の体を見て額を押さえた。


    「…………何があったんでせうか?」

    「――回答。猫を追いかけていたらこうなりました」


    『 本体 』 ご自慢のリーゼントと改造学ランをボロボロにし、猫を脇に抱えて、自動書記は淡々と語った。


    「すさまじい戦いだったのですね。とミサカはあなたの苦労をねぎらいます」

    「はい。15㎝の小道に逃げ込まれた時は困り切りました」

    「あ~~~ッッもー知らねえ、俺はなあーんにも知らねえからなぁ~~!!」


    ただでさえ御坂と 『 ですの女 』(仮)にヘアースタイルをけなされて鬱憤が溜まっているのだ。
    一に髪型、二に学ランの仗助が、この状況を快く思っているわけがない。
    鏡の前でブチ切れる仗助としゃあしゃあと持論をぶつ自動書記、
    ついでに 『 おなかへったんだよ~~ 』 と歯をカチカチさせるシスターまで
    鮮明に思い浮かべてしまった上条当麻は、絶叫し、頭を抱えるしかなかった。
    それに氷のような沈黙をもって二人は応える。


    「……ううう」

    「帰宅しないのですか。上条当麻」

    「……する、します」


    ふらふらと立ち上がるや、ポトンと何かを落とされる。
    反射的にキャッチしたそれは、上条の腕の中で 『 にゃー 』 と鳴いた。


    「ちょお! なんで俺が抱いてやらにゃーあかんのですか!」

    「今のは 『 にゃー 』 と 『 にゃー 』 を掛けた高度なジョークですね」

    「ははははは、とミサカは棒読み気味に笑ってあげます」

    「おおぉい!? スルーされた!?」


    サクサクと機械のような足取りで去る二人を、上条は慌てて追いかける。
    この展開は……やはり俺に飼えと言ってるのか。そうなのか!?
    今のままでも暴食シスターのせいで家計簿が赤くなっているというのにッ! 
    こんなちっぽけなペットなんぞッ! 出費が、出費がぁ~~! と頭をかきむしる思いで猫を見つめる。

    524 = 1 :



    片手でまるっと持てそうな肢体も、つぶらな目もピンク色の鼻ブタも、そりゃあカワイイといえばカワイイ。
    が、ガキの頃なんてみんなこんなものだろう。
    先を考えるだに憂鬱だ。
    まあ、インデックスは喜ぶだろうが……。
    と、思った矢先、猫の体からピョンと何かが跳ねた。


    「ノミィィイイーーー!!?」


    投げ捨てるあたわず、上条は両腕を精一杯伸ばして猫と距離を取った。
    先を行く二人が行進の 『 止まれ 』 のように規律正しく一時停止し、ゆっくりと振り向く。
    そうだよな! 野良ならノミくらいもらっちゃってるよな!
    さっそく伝染された気分だ。いや、気分でなく体がかゆい。


    「ふ、不幸だ……」

    「ノミ……ですか。とミサカは今気づいたといわんばかりに首をかしげます」


    またピョンと跳ねた黒い影を、何かが空中でキャッチした。
    いつの間にやら目の前に来ていた自動書記である。
    器用、というか動体反射がケタ違いだ。
    これも 『 スタンド 』 の影響か……。
    自動書記はそれをビームでも出す気かというほど凝視して、


    「本で見たことがあります。これは 『 ネコノミ 』 ……日本全国に分布し、寿命は2、3か月。
    オスメスともに成虫は吸血し、オスが小さいのは 『 ノミの夫婦 』 の由来でもある――」


    そのまま 『 味も見ておこう 』 とか言い出しかねないほどの興味津々ぶりである。


    「ノミマニアですか。とミサカは問いかけます」

    「いいえ。この自動書記は外界すべてに関心があり、追求したいと思っています。
    ――例示。ノミに吸血された際のかゆみは(蚊以上らしいですが)どの程度のものなのか、と……」

    「やめなさい! わざわざ食わせようとするんじゃありません!」

    「――警告」

    「いいから! そもそもそんなもん掴むんじゃねー!」

    「……」

    「戻すな!」


    ズボッと猫の体毛に手を突っ込んだまま、自動書記は 『 じゃーどうしろと 』 と言わんばかりに上条を見た。
    上条当麻はやれやれと猫を地面に下ろして、


    「勉強熱心なのは結構だけどよ、このノミ何とかしねーと家にはあげられねーぞ」

    「!」


    瞬間、御坂妹の顔が引き締まった。

    525 = 1 :



    (家にノミ避けまだ残ってっかなー。いや、あれはダニ避けだったか……?)


    上条が記憶を探っていると、自動書記はかがんで猫を見て、


    「――提案。セージなどでいぶしてはいかがでしょう」

    「 『 いぶす 』 って……猫の香草焼きでも作る気かってうおぉぉおお!?」


    刹那、小さな雷が猫に落ち、地面に体を擦り付けていた猫は、ピーンッと全身の毛を逆立てた。
    同時にポインポインポインッと黒くて小さいものが猫の周りに飛び散る。


    「特定周波数により、害虫のみを殺害しました」

    「おお……」

    「――今のは 『 ノミ 』 と 『 のみ 』 を掛けた……」

    「よく気が付いたな。とミサカは男前度三割増しで答えます」


    カカッと音のない稲妻が二人のバックで交差した。
    また何かしら新たなつながりが生まれたらしい。
    御坂妹は上条に視線を移した。


    「念のため、制服は掃除機等で汚れを落とし、日に当てることをお勧めします。とミサカは助言を与えておきます」

    「あ、ああ……だとよ、自動書記」


    追いかけ回し、一番長く猫を抱いていたのは自動書記だ。


    「――了解。『 本体 』 にも伝えておきます」



    ……十中八九、仗助が後始末することになるだろう。
    インデックスといいこいつといい……居候って奴は、なんとも……、と頭を振り振り上条は猫を抱きなおす。

    さてそろそろ寮だ、というところで上条は異変に気が付いた。
    前方数メートル先(ちょうど、とある高校の寮の出入り口あたりか)に、見知らぬ人影が見えたのである。

    526 = 1 :



    体格は仗助以上に大きい。
    190㎝はゆうに超えている。外人か、ハーフだろうか。
    夏だというのに長いコートを羽織り、頭には学生帽に酷似した帽子。
    インナー以外は上から下まで白尽くめの――なんというか――奇妙な格好の男だ。
    白い服は夕日色に染まっており、その効果からか立ち姿がミョーに決まっている。
    見たところ20代だろうか。教師には見えないし、家族か何かか。

    と、ガン見する上条の視線に気づいたか、男の顔がこちらを向く。
    そのやたらと鋭い一瞥に、上条は固まった。


    「どうしました? とミサカは無駄にこわばったあなたの顔を覗き込みます」

    「発汗とアドレナリンの異常分泌を確認。心理的ストレスに晒されているものと見受けます」

    「い、いやぁ~~……」


    男は何もしていない。
    何もしてないしされてないのだが、上条は、男と目が合った瞬間、
    ドンッ! と男の姿が眼前まで迫るような錯覚を覚えた。
    今も背後に 『 ゴゴゴゴゴ…… 』 の擬音さえ見える。
    なんと云うのだろう、この圧迫感は。
    ――――そう、『凄み』だ。

    しかしなぜ自分が凄まれにゃならんのだ、ガンつけてたからか? ゴメンナサイッ!
    とか何とか思っているうちに、男はこちらに向き直り、



    「久しぶりだな、仗助」


    と、よく通る低い声で言った。

    527 = 1 :



    「えっ?」

    「知り合いですか、とミサカは問いかけます」

    「この自動書記は」

    「いや仗助の知り合いだろ」

    「――警告。精神の障害を確認。修復中……」

    「テンパるなテンパるな」


    落ち着かせるようにポンポンと自動書記の背を叩く。
    自動書記は虚を突かれたように一度まばたきしたが、フゥーッと息を吐いた。


    「――完了」


    しかし、仗助の知り合いだと?
    このタイミングで出てくる、20代の、男の、仗助の知り合い。
    と言ったら……


    「もしかして、あんたが 『 承太郎さん 』 ですか?」


    思ってたんと違う。ヘアー的な意味で。


    「君は仗助の友達か?」


    『 質問を質問で返すなあーーーっ!! 』 などと言えようはずもなく、上条はただ頷く。
    だがこの人は 『 承太郎さん 』 だ。
    八割方 『 承太郎さん 』 だ。


    「明日こっちに来るって話でしたけど」

    「前の用事がチョッピリ早く終わってな……少し早く着けた」


    そして今、十割方 『 承太郎さん 』 だ。

    528 = 1 :



    「……マズイなこりゃ。まさかよりにもよって今日やって来なさいますとは」

    「何が問題なのですか。とミサカはヒソヒソ話に無理やり加わります」

    「あーなんつーか、こいつは人に対する態度が極端なんだよ、な?」

    「――了解。その設定でいきましょう」

    「設定とか言うんじゃねー!」

    「謎は深まりますが、ここは深入りしないであげましょう。とミサカはミサカの寛容さをことさら強調します」

    「ありがとうございます! おい自動書記。とにかく適当にやり過ごすんだ。口調には気を付けて」

    「――了解。じょおたろーさぁ~~ん! 早く着くなら連絡してくれりゃーよかったッスに~!」


    ダイヤモンドのような硬質さが一転、ゴムよりも柔らかくなった。
    笑顔で距離を詰める自動書記に、『 承太郎さん 』 は無表情に一歩踏み出し、


    「仗助………………















     歯ぁ食いしばれ」

    「は?」

    529 :

    おいじょじょたろう突然どうした

    530 = 1 :



    ボギャァァッ!

    自動書記のほおげたに 『 承太郎さん 』 の拳が叩き込まれた。
    自動書記は声もなく吹っ飛び、コンクリの地面にヘッドスライディングする。


    「『 自動<ヨハネの> 』……仗助ェーーッ!」


    あんまりにもあんまりな事態に、上条はその場を一歩も動けなかった。


    「なっ……なっ……!」


    パクパクと口を開閉し、『 承太郎さん 』 を指さす。
    だが白装束男の涼しげな顔を見た途端、その 『 驚愕 』 は 『 怒り 』 に変わった。
    こ、この野郎……ッ、知り合いを殴っておいて、何スカした無表情で突っ立っていやがるッ!
    上条当麻は激情に震える拳を握りしめ――、



    「何をするだァーーーーッ!! ゆるさんッ!!」



    訛った。

    531 = 1 :



    「……」

    「……」


    沈黙が落ちる。
    ほんのささいな 『 ん 』 の欠落で、こんなにも空気は微妙になるのだ。
    御坂妹は対峙する二人を交互に見詰め、結局ぶっ倒れている自動書記の方へ駆け寄った。


    「大丈夫ですか、とミサカは怪我の心配を言外に含んだ質問をします」

    「ハッ! そ、そうだ! 大丈夫か 『 自動書記<ヨハネのペン> 』!」

    「……」

    「あれ!? 機能停止!? しっかりしろォォー!」


    上条が揺さぶると、ようやく自動書記は動いた。
    虚空を見つめたまま、ゆうーっくり赤くなった頬に触れる。


    「――警告」


    そしてグリリィッと指をくいこませた。



    「第十五章第二十三節。『 痛み 』 こそ 『 生 』 のあかしである。
    この 『 痛み 』 あればこそ 『 喜び 』 も感じることができる……これが人間…………
    この自動書記は今 『 人間 』 を実感しています。
    こんなスゴイ体験ができるとは――僥倖。グフフフ……――僥倖」


    「……。とミサカは絶句します」

    「……なんてヤツだ」



    上条は呆れ顔で自動書記を見下ろした。
    この理不尽な事象も 『 追及モード 』 の自動書記にとっては、
    『 侵害性刺激による痛覚神経反応 』 やら 『 それによる脳内麻薬の分泌 』 を確認できるビッグチャンスでしかないのかも知れない。
    ある意味強いが、ちょっとねぇーぞ。


    「仗助」


    ズシンとしたバスが再び名を呼ぶ。


    「なんで殴られたかはわかるな」

    「――……」


    自動書記は瞳だけを 『 承太郎さん 』 に向け、



    「――回答。共有する記憶を検索した限りでは、殴打される理由は把握できません」



    素で答えた。

    532 = 1 :



    『 ウワァーーーアーーアアーー 』 と一人狼狽える上条。
    彼は 『 承太郎さん 』 がうさんくさそうに眉を寄せるのを目撃した。


    「……ちと強く殴りすぎたか」


    気を取り直すように帽子の鍔を引く。


    「明日また来る。それまで何から話すべきか考えとけ」

    「――了解」

    「ちょっと待てよ!」


    あっという間に背を向ける男を、上条は慌てて引き留めた。


    「まさかって感じだがなぁ、このまま帰るつもりかよ、あんた! 俺たちに何の説明もなく! 
    いいかよ、俺は仗助の友人だ! 友人が理由もなくぶん殴られたとなっちゃあ、黙ってるわけにはいかねーぜ!? 俺は!」

    「……上条くん」


    『 承太郎さん 』 は声を荒げることなく返答する。



    「君の気持ちを無視するようで悪いが、これは俺と仗助の問題なんでな……。黙っていてほしい」

    「ってめぇ!」

    「仗助、明日だ。明日お前の部屋に行く」


    言うや否や、呼び止める間もなくさっさと去っていく後姿。
    それがミョーに決まっていて、上条当麻はぐぬぬとうめいた。
    御坂妹はわずかばかり唇を尖らせ、


    「あの人とあなたは初対面ですよね。とミサカは質問します」

    「それがなんだよ」

    「なぜあなたの名前を知ってるのでしょう。とミサカは単純な疑問を呈します」

    「……!」

    533 = 1 :








    「何なんだよあの人はッッ!!」

    「……朝っぱらからよぉー、押しかけてきてそれかよ」


    仗助は呆れたような顔で応じた。
    その頬には真っ白な湿布が貼ってある。
    それを見るにつけ、上条はのどの奥から怒りがせり上がってくるのを感じた。


    「いや、なんでオメェがそんなに怒んだよ」

    「当たり前だろうが、あんな理不尽! 俺の目の前で!」

    「玄関先で騒ぐなよォ」

    「仗助!」


    そこで一旦、上条は憤懣やるかたなしの心を抑えつけた。


    「なんだかんだ言ってたけど……お前だってあんなことされる心当たりねーんだろ?」

    「んーアァー……」


    仗助は途方に暮れたように空を仰いだ。
    それから 『 入れ 』 と言う代わりに、ドアを大きく開ける。


    「……いや、心当たりっつーか、そうかもなーってのはねぇこともねーんだけどよぉ~~」


    仗助はゴニョゴニョそう言うと、鏡の前に立つ。
    何をするかと思ったら、両手を髪に添えて丁寧に整え出した。

    534 = 1 :



    「だからって何の説明もなく殴るか? 普通ッ」

    「あーいう人なんだよ。ヤベーことすっとああやって叱られんの」

    「それが当然だと思ってんのか!? ちょっとまずいぞそれ!」

    「怒鳴んなってェ」


    仗助はイーッと、嫌そうに耳をふさぐジェスチャーをした。


    「普段は口で終わるってトーゼン。だから今回は手が出るほどマジーことしちまった……てワケ」

    「だから! 有無を言わせずぶん殴るって時点でオカシイだろうが!」

    「だからそーいう人なんだよ」

    「どういう人だ! なんだ一体! どんな流儀だ! 元ヤンかヤクザ上がりかあの人わッ!」

    「……当麻よぉ~~」


    ハッ、と上条当麻は我に返った。
    自分にとってどうあろうと、『 承太郎さん 』 は仗助の大切な人間なのだ。


    「あ……悪い。なんていうか……言い過ぎた。熱くなって……悪い」

    「…………おめーってホントにオセッカイ焼きだよなぁ~~嫌いじゃあねぇーけどよ」


    仗助は鏡を見たまま続けた。


    「でもよ、俺は承太郎さんを 『 信頼 』 してんのよ。承太郎さんは論理的じゃねーことをする人じゃあねー。
    ……もしも当麻の言う通り、大した理由もなく手ェあげたっていうんなら、それは俺の 『 信頼 』 が裏切られたってことだぜー」


    仗助はどこからか櫛を取り出して、慎重な手つきで櫛目を入れる。


    「俺は 『 そんなことはありえねー 』 って確信してる。実際ヤベーことした自覚はあるしよぉ~~」

    「だから、その 『 ヤベーこと 』 ってのは何なんだ?」

    「ん、ンー……」

    「いや、言いにくいことならいい」


    それに 『 承太郎さん 』 とやらが来ればわかることだ、と上条当麻は思った。

    535 = 1 :



    「ただし、だ。もしそれが納得できねえような理由だったら……俺は今度こそ思いっきりあの人を殴るぜ。いいな? 仗助?」


    すると仗助は、微妙な形に口元をゆがませた。


    「おめーってよォ、よく他人のことでそこまで熱くなれるよなァー」

    「他人じゃねーよ。……ダチだろ?」


    仗助は虚を突かれたように動きを止めたが、鏡とにらめっこをするのをやめ、上条を振り返った。


    「おめーってホント、そーいうこと言うの恥ずかしくねーのかよぉ~~……?」

    「う……さすがにクサかったか?」

    「いや~すっげー共感できるんだけどよぉ~~……言葉に出されるとこっちが恥ずいっつーか」

    「マジかー? 結構日常的に言ってるよ俺?」

    『 ――問題 』

    「うわビックリしたぁぁ!!」


    鏡の声に上条当麻は飛び上がった。
    よく見れば、鏡は仗助の後頭部ではなく顔を映し出している。


    「どこの気づくと怖いホラーだ!」

    「オイおめー、一応言っとくけどよォォ~~承太郎さんが来ても話しかけんなよ?」

    『 なぜですか。私はあなたを取り巻く環境を把握する必要があります 』

    「ウソつけ。おめーが面白そうだからだろ」

    『 …… 』

    536 = 1 :



    『 彼は一度あなたを攻撃しています。それでもなお、彼を敵性人物でないとする合理的な理由を説明してください 』

    「その話さっき終わったぞ自動書<ヨハネのぺ――>」

    『 ――と、この自動書記は要求します 』

    「記<――ン>?」


    上条当麻はポカンと口をあけて鏡を見た。
    ついでに首も傾げる。
    仗助もキョトーンと目を丸くしている。


    「お前……それ、ひょっとして御坂妹のマネ?」

    『 ユーモアの研究です。と、この自動書記は報告しました 』


    上条当麻は何と反応して良いやらわからず、結局乾いた笑みを浮かべた。
    同時、仗助が小さく噴き出す。
    自動書記の瞳が右、左と動き、中央に戻る。


    『 意見がおありなら…… 』

    「ない! いや、意見じゃなくてお前のそのキャラ付けは絶対にねぇ!」

    「いやぁ~~? 俺はいいと思うぜ、お前らしくってよぉ~~」

    「いやいやいやいやいやいやいやいや、上条さんの思うところ深刻なキャラかぶりが発生しますぜ? ただでさえ弟設定作っちまったっていうのに!」

    「似たモノ同士ってことで、セット価値がつくかもしんねーぜ」

    「誰が得するんだよそれ!」





    「話してるところ失礼するぜ……インターホンが壊れてたみたいなんでな」


    唐突に現れた気配に二人は硬直した。


    『 ――け 』


    仗助の手が速やかに鏡を伏せる。
    『 ぃこく…… 』 とくぐもった声がフェードアウトする。

    537 = 1 :



    「お、お久しぶりッス、承太郎さん……」

    「昨日会ったぜ」

    「そうでしたッス、ハイ」


    ギクシャクと頭を下げる。
    上条も倣って頭を下げる。


    (なんでピンポン直してねーんだよぉぉぉーー……!!)

    (部品がねーもんは直せねーんだよぉぉぉ~~……!!)


    ついでにしのび声で会話する。
    『 承太郎さん 』 は後ろ手にドアを閉め、帽子に手をかけた。
    脱ぐのかと思ったが違った、鍔を引いて目元を隠した。


    「朝っぱらに来て悪いな。スケジュールが詰まっていたんでな」

    「いえいえそんな! とんでもねーッス! あっ茶ぁ淹れますよ茶ァ」

    「いやいい。どうせすぐに出る」


    帽子の陰から覗く目が、チラリと上条をかすめる。
    先日のような威圧感はないものの、どこか探るような視線に上条はピリリと神経が張り詰めるのを感じた。


    「どうも……上条当麻です。……昨日はどうも」

    「空条承太郎だ」


    よく言えばクール、悪く言えばそっけなく返される。
    承太郎は数歩で廊下を踏破すると、ぐるりと部屋を見渡した。


    「お前のことだからまだ荷解きも完璧じゃねーだろうと思ってたが……そうでもなかったか」

    「あっ、ホントだ」

    「バッ、当麻ッ!」

    「あっ」


    口を押さえるがもう遅い。
    おそらく昨夜のうちに済ませたのだろう。
    段ボールの山のない、普通だがどこか空々しい空間で、空条氏は沈黙した。


    「……まあいい。仗助、俺に何か言う事があるんじゃあねぇのか」

    「ハイっ」


    と、言ってから仗助は途方に暮れたような顔になった。
    わからねえなら返事すんなよ。上条は言葉でなく心でツッコんだ。

    538 = 1 :



    「どうした。『 ハイ 』 だけじゃあわからねーぜ」

    「あ……あー、そのォ~~もしかして、この前の手紙と関係ありまスか?」

    「……言わねえとわからねえか」

    「わかり……まスん」

    「何だ?」

    「わかりますッス!」


    なんて言葉の足りねー人だ、と上条当麻は愕然とした。


    「あのー、割り込むようで悪いんですけど、空条さん。仗助は 『 それ 』 が本当に怒られている理由なのか、確信がないんですよ」


    言って上条は後悔した。
    仗助がさっと青ざめ、承太郎の顔から表情が抜け落ちたからである。


    「 『 ない 』。だと?」

    「スッ! スイマセン! もーそれしかねーことは分かってます!」

    「そうか」


    ブツ切りの返事。
    これはまた殴られる展開か、と上条がうかがえば、承太郎は思ったより穏やかな顔をしていた。
    次に何を言おうか考えあぐねているようで、宙を見ながら帽子の鍔を叩いている。
    そこで完璧に上条は 『 承太郎さん 』 のなんたるかを見失った。
    何を考えてやがるか全然わかんねー! さっぱりわかんねーぞッこの人ッ!

    539 = 1 :



    「余罪でもあるのかと思ったぜ……まあ、お前の考えてるので合ってると思うぜ」


    承太郎はコートのポケットから紙切れを取り出した。


    「先日、俺のところに請求が届いた」


    仗助の目の前に突き付ける。


    「一週間で 『 120万 』。テメーの使った金だぜ、仗助」

    「ひゃっ……」






    「くにじゅうまンンンーーーーッ!!?」


    待て……。今この人、なんて言った? ひゃくにじゅうまん? 
    極貧の上条さんには意味不明ともいえる額のカネを、目の前の同級生が使い込んだというのか……ッ!?
    理解するや、上条は我も忘れて仗助にむしゃぶりついた。


    「おおぉっお前! どこにそんな金があったんだよ! 学生だろー!?」

    「あー、ちょっとカードを……な」

    「 『 な 』 じゃねぇぇええーー!!」


    そりゃ殴られるわ! と仗助の襟首を揺さぶる。


    「誰が払うと思ってんだこの大馬鹿野郎! 謝れ! 今すぐ!! 謝れば済むってもんじゃねーがとにかく謝れ!!」

    「ス、スンマセンでしたーッ!」

    「まあ待て」


    一緒に土下座せんばかりの勢いの上条を、承太郎は片手で制止する。
    二人は平伏一歩手前の体勢で上を仰いだ。

    540 = 1 :



    「問題なのは、だ。一体 『 何 』 にこんな大金つぎ込んだかって話だぜ。
    最初はパチンコでスったかブランド物でも買いあさってるかと思ったが……どーもお前のキャラに合わないんでな」


    上条当麻は思い出す。
    ここ最近、仗助の周りにモノが増えたか、急に金回りがよくなったりしてないか……答えは否だ。
    だから気づかなかったのだ。


    「ならタチの悪い友人でも作ったかと思ったが、違うらしいしな」


    どうやら自分も容疑者だったらしいと上条は冷や汗をかいた。


    「で、だ。使用履歴を調べてみたところ、ほとんどが飲食店での支払いだった。
    しかもファーストフードやらファミレスやらの庶民派の店ばかりでな……そこで毎日15万円以上飲み食いしてたってことになるが……」


    上条当麻は嫌な予感に震えた。



    「で、『 誰 』 なんだ? その健啖家は」





    「じょうすけじょうすけ~~、朝起きたらとうまがいないんだよ! 
    だからいつもみたいに朝ごはんに連れてってくれたら嬉しいかも! 
    …………ってあれ? とうま? なんでそんな泣きそうな激怒しそうな何とも言えない顔をしてるのかな? 
    えっえっ、なんで近づいて……にゃぁぁーー!!?」

    541 = 1 :



    いつだったか……そう一昨日だ。
    やけにインデックスが仗助に懐いていると感じた。
    何か 『 あった 』 のかと思った。
    『 あった 』 のだ。
    自分が補習で家を空けている間に、インデックスが仗助を特別視するほどの 『 何か 』 が。






    「すいません、すいません! 本当にウチのバカが申し訳ない! 食べ物のこととなると見境なくなるんです! 
    こちらの管理不行き届きです! 本ッッッッ~~~…………当ッ! に、すみませんでしたー!!」

    「あうあうあうあう……」


    後頭部を掴まれて何度も頭を下げさせられて、いまだ事態を呑み込めていないインデックスは半泣きである。
    だが泣きたいのはこっちだ、と上条は思った。


    「当麻ァ~……俺が無理やり巻き込んじまったんだからよォ、そう怒らねーでくれよ」


    ボソボソ口をはさむ仗助は、現在正座している。


    「フッ……こいつが巻き込まれただと?  ち が う ね ! こいつは間違いなくノリノリだったッ!」

    「だって、だってぇ……」

    「だってもクソもねえ! 毎回十万単位の会計してたら 『 ヤバいかな? 』 って思うだろうが普通!」

    「だって、円はわかりにくいんだよ」

    「こういう時だけガイジンさんになるんじゃねー!」

    「ごご、ごめんなさいなんだよ……」


    とうとうポロポロ涙をこぼし始めたインデックスに、上条はうっと詰まった。
    インデックスはつっかえつっかえ、


    「次からは、うくっ、ちゃんと、ぐしゅ、とうまも、一緒にご飯するんだよ……」

    「ちがーう」


    くどいようだが、インデックスはいまだ事態を呑みこめていない。

    542 = 1 :



    「さて仗助。『 誰 』 がわかったら次は 『 なぜ 』 だ」

    「ハイ……」

    「 『 ハイ 』 じゃあねーぜ。なんでこんな馬鹿やらかした?」


    それだ。と上条は思った。
    上条当麻の知る限り、東方仗助は馬鹿ではない。
    少々お調子者のきらいはあるが、人の金を使い込むことがどういうことか、わからない奴ではないはずだ。
    仗助はしばらく沈黙していたが、不意に拗ねたような顔になってあさってを向いた。



    「だから…………『 あの人 』 の金なら使っちまってもいいかなって思ったんスよ……」



    瞬間、承太郎の手の甲が仗助の頬を打ち据えた。
    予想はしていたのか、仗助は少しよろめいた程度で体勢を整える。


    「 『 ジジイ 』 に関しちゃ俺は何も言えねーが……テメーの事情に人を巻き込むんじゃあねえ」

    「……ハイ」

    「 『 ハイ 』 じゃあねぇと言ってるんだ」


    仗助は一度下唇を噛むと、上条とインデックスに向き直って深々と頭を下げた。


    「インデックス、本当にスマン。当麻も、巻き込んで悪かった」


    時が止まったような空間で、動いたのは承太郎だった。
    大きくため息をついて立ち上がる。


    「……上条くん、悪いがこいつを借りてくぞ」

    「えっ」


    と問い返したときには、もう承太郎が仗助の襟首を掴んでいた。


    「じょ、承太郎さん、この後予定詰まってんじゃあ……」

    「テメーに拒否権はねえ。とっとと歩きな」

    「はひっ」


    悲鳴のような返事と共に仗助はワタワタと玄関に向かう。
    バタン、と扉が閉まって、上条は圧迫から解き放たれたかのように大きく息をついた。


    「じょうすけ……誰に連れてかれたの? どこ行くの?」

    「さ、さあな……」

    「内臓売られちゃったりしないよね?」

    「めったなこと言うもんじゃありません!」

    「だってあの人怖かったんだよ!」

    「怖かったけどよ!」


    祈るしかないな……無事を。
    上条は心の中で友人に合掌した。

    543 = 1 :






    朝からそんなことがあったせいで、補習の内容は全然頭に入ってこなかった。
    いや、いつも真面目というわけではないが。真面目ではないので、補習なんてやっているのだが。


    「しっかし、120マンか……」


    思い返すもすさまじい数字である。


    「えっ、ナニナニ?」

    「何が120なんだぜい?」

    「いや、エンゲル指数の話」

    「ん?」

    「にゃー?」


    果たして優秀なパトロンを失ったシスターは、我が家の慎ましい生活に耐えられるのだろうか……?
    いやそれより、仗助は生きているだろうか。マグロ漁船に乗せられてても、空条さんなら違和感ねーぞ。
    いやそれより……。
    上条当麻は机に突っ伏したまま考える。
    『 あの人 』、ってのは誰だ?
    空条さんは 『 ジジイ 』 と呼んでたが……なんでその人のカネだから使っちまったんだ?
    仗助はその人のことが……


    「もうー! 三人とも! ちゃんと聞いているのですかぁ?」


    小萌担任のかわいらしいぷんぷん声で、上条当麻は我に返った。
    甲高いボイスに青髪ピアスはウフフと花を咲かせ、土御門は、


    「って言われてもにゃー」


    と肩をすくめる。


    「聞いても伸びないものは伸びないのにゃー」

    「僕たち、レベル底辺組やからなー」

    「むうう……でもでも! 力がないからって諦めてしまっては、伸びるものも伸びないのです! 
    学園都市の第三位、常盤台中学の御坂さんなんて、元はレベル1なのに、がんばってがんばって、レベル5まで上り詰めたのですよ」

    「第三位って……あれが?」

    「あれれ、上条ちゃん、御坂さんとお知り合い?」

    「……いや、別に」

    544 = 1 :



    上条当麻は東方仗助を知らない。
    人となりは知っているが、個人情報となるとさっぱりだ。
    なぜ学園都市に来たのか、空条承太郎とはどういう関係なのか。それさえ知らない。
    逆を言えば、知らなくても友人としてやっていけるのである。
    仗助の方だって自分がどんな家族構成かとか、実はかわいがっている従姉妹がいるとかなんて知らないし、興味もないだろう。
    そう。たとえば、顔を合わせるたびバトルをしてても住所メルアドその他を全く知らない――ビリビリ中学生と俺の仲のように。
    と、上条は思う。

    なんでそんな思考を回したかというと、目の前に御坂美琴がいたからである。
    しかも常にはない様子で、夕日を見てたそがれている。



    「よっ」

    「……」


    御坂美琴は愁いを帯びた表情のまま振り向いた。


    「ああ、あんたか……」

    545 = 1 :



    「私、あの飛行船って嫌いなのよね」

    「……なんでだよ?」

    「機械が決めた政策に、人間が従ってるからよ」

    「機械……? ああ、なんだっけ……えーっと…………『 樹形図の設計者<ツリーダイアグラム> 』、だっけか」


    ――『 樹形図の設計者 』。

    気象データ解析という建前で学園都市が打ち上げた人工衛星。
    おりひめ1号に搭載された世界最高のスーパーコンピュータ。
    あくまで噂だが、学園都市の研究を予測演算させてもいるそうである。
    という説明を、御坂美琴はカンペもなしにすらすらと述べてみせた。



    「……機械が決めた政策、ねえ……」

    「どーせあんたは、『 いくら世界一ィィのコンピュータでも人の命令なしには動けないだろー 』 とか考えてるんでしょうけど」

    「……いや。自我を持っちまう可能性は……なきにしもあらずかと」


    言いつつ上条が思い浮かべたのは、もちろん自動書記だった。
    美琴は少し驚いたような顔で上条の顔を見る。


    「ふーん。何? あんた二次元と恋できるとか思ってる方?」

    「なんでそうなる」


    御坂美琴は声を出さず笑った。
    妙に乾いた笑みだったが。


    「……つーか、お前聞かねえの? あの時の詳細やらなんやら」


    正直、顔を合わせた瞬間問い詰められると思っていたが、
    ダンやアウレオルスの件について、あれから美琴が口にすることはない。

    546 = 1 :



    「……いいのよ。あんたらだって、人には言いにくい事情の一つや二つ、あるんでしょ。だったら無理して聞かないわよ」


    やけに物分かりがいい。ものすごい違和感。いつものビリビリさんじゃない。
    と、思っていたらチョップが降ってきた。


    「いいっ!?」

    「何考えてんのかわかるのよ、この馬鹿! 人がせっかく……」

    「おお、やっと俺の知ってる美琴さんが帰ってきた」

    「は……はぁ!?」

    「いやお前にもそういう時はあるんだろーとは分かっちゃいるんだが、どうもやり辛くってですね……あれ?」

    「もういい! 私こっちだから!」

    「おう、またなー、ビリビリ中学生ー」

    「御坂美琴!!」


    ズンズン大股で去っていく後ろ姿に、まあ少しは元気になったかな、と上条は安堵した。




    そして帰路についた上条は、再び御坂美琴と出会った。
    いや、もう騙されないぞ、と上条は傍らに置いてある軍用ゴーグルを見て頷く。


    「うっす御坂妹。昨日はノミの件、サンキューな」

    「感謝の言葉が目的ではありません。とミサカは返答します」


    うつろな瞳がキョロリと動いて、


    「今日は、彼はいないのですね。とミサカは確認します」

    「ああ……ま、色々あってな」

    「先日殴打されたことが関係しているのですか。とミサカは重ねて問います」

    「あると言えばあるけど、大変なことにはなってねえから安心しろよ」

    「そうですか。とミサカは納得します」

    547 = 1 :



    「お前、また猫に構ってんのか」


    御坂妹は段ボールに入れられた子猫(今度は黒猫だ)に菓子パンをやっていた。
    いや、やる寸前の体勢のまま固まっていた。


    「何だ、それあげないのかよ?」

    「ミサカにはこの猫にエサを与えることは不可能でしょう。と結論付けます。
    ミサカの体は常に微弱な磁場を形成します。人体には感知できない程度ですが、他の動物だと異なるようです。と、ミサカは補足説明しました」


    見ればなるほど、猫は丸まって怯えていた。


    「ふーん?」


    御坂妹はすっくと立ち、上条を見据えた。
    なんだろう。次のパターンが手に取るようにわかるぞ。


    「このままだと保健所に」

    「待て」


    上条当麻は片手を突き出した。



    「……みなまで言うな……みなまで」



    どう予知しても突っぱねる自分が見えないのが悲しかった。

    548 = 1 :



    道連れが一人と一匹増えた帰路にて、上条当麻は大きくため息をついた。


    「しかしなー……1匹はともかく2匹だと相当状況変わってくるぞー……」

    「……」

    「そんな目で見るな。ちゃんと飼うって。ただ……世話をするのがあの暴食シスターになるからな」


    上条当麻は本屋の前で足を止める。


    「正しい知識を仕入れてやらねばいかん。ので、ちょっと寄ってくぞ」

    「構いません。待っています。とミサカは」

    「ん? そういえば猫を抱えたまま店に入って大丈夫かなァー?」

    「……畳み掛けるようなあなたの口調に意図を感じますが、こちらに預けるのはご遠慮ください。とミサカ……!」


    語尾が終わらないうちに、上条は軽く猫を放り投げた。
    御坂妹は目を見開いて口をあける。ちゃんと驚いた表情もできるようだ。
    御坂妹は一歩踏み出すと、宙でしっかり猫をキャッチした。


    「一体……どんな神経で子猫を投げることを良しとしたのですかとミサカは強く非難します」


    言いつつ子猫を抱きしめる御坂妹に、上条は笑いかけた。


    「磁場の出る体質のおかげで猫に嫌われてるって? ならばその壁を乗り越えてこそ、真の友情が芽生えるってもんだろ?」


    まだ何か言いたそうな御坂妹に背を向け、上条は店内に入っていった。
    さて、インデックスのためにもわかりやすく超超初心者向けのを……っつーかアイツ日本語読めるのか?
    読み聞かせは勘弁なんだがな……絵本はあるか。
    悶々としながら一冊とって、会計を済ませて出ていくと御坂妹の姿は消えていた。

    549 = 1 :



    代わりに黒猫が足元に 『 おすわり 』 している。


    「あいつ、どこ行ったんだ?」


    見渡せど、周囲に彼女らしき人物はいない。
    ひとまず猫を抱えて、通りを探してみるかと踏み出したとき、
    ふと。上条当麻は違和感を覚えた。
    向こう側の通り。ビルとビルの間の薄暗い空間。
    そこにどこか、日常とは切り離された空気を感じ取ったのだ。どこかいつもと違う 『 におい 』 を。
    よくよく目を凝らせば黒い小さな塊が転がっている。
    上条は歩道を渡り、その道に足を踏み入れた。
    塊の正体はすぐわかった。ローファーだ。
    ありふれたデザインのそれが片方だけ転がっていた。


    「なんだこりゃ……国道に軍手落とす業者さんの仕業か……?」


    更に足を進めていく。
    その分だけ空気が重く、冷たくなっていくように上条は感じた。
    ローファーのもう一方は更に奥まったところで見つけた。
    まるで脱ぎ捨てられたような風情で、こちらを向いた靴底には黒っぽいシミがついている。
    周囲には無数の、


    「銃弾……?」


    の、ように見えるが気のせいだろう。
    さらに歩を進め、ビルの裏手に回ったそこに、『 それ 』 はあった。



    「みさ…………か……?」

    550 = 1 :



    赤黒く染まった白いソックス。
    『 ずたずた 』 に避けた肩口。胸にまで飛び散ったシミと、うつろな瞳。
    仰向けにぐったりと、腹をかばうような格好で倒れている。
    声が出なかった。
    自然と呼吸が荒くなり、冷や汗が噴き出す。
    上条はじりじりと後退りし、とうとうその場にうずくまった。
    あまりの現実にヘドをぶちまける寸前だ。
    猫がいつの間にか腕の中から抜け出して、トコトコとそれの方へ進んでいく。
    みゃー、と鳴く。


    「…………う、」

    「! 御坂!?」

    「……あ、ああぁ、あああ」

    「御坂妹!!」

    「あぁ、ああぁ」


    子猫の声で意識を取り戻したようだ。
    しかし苦痛はひどいらしく、うつろな目のまま血の海の中をのたうち回る。
    上条は彼女のそばに駆け寄った。
    どこか冷静な心が 『 触るな 』 と叫ぶが、無視して抱き起こす。
    そこで上条はますます御坂妹の 『 ヤバさ 』 を実感せずにはいられなかった。
    体が氷のように冷たい。
    出血も止まらない。生きている。だがほんのちょっぴりだけだ。このままでは死ぬ。確実に死ぬ。
    どうすればいい。どうすれば――。

    上条は携帯を取り出すと番号を呼び出した。
    出ない。3コール経っても出ない。こんな時に出ない。
    イライラと体を揺らしていると、不意に呼び出し音が途切れた。


    『 ……もしもしィ? 』


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