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    元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」

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    351 = 1 :



    「き、貴様~~~……卑怯な、気づかないわけだ、ヴィジョンの出現を最小限に抑えてやがったのか……!」

    「はぁ?」


    というか、滅多にヴィジョンを出さないのは、東方仗助がいまだ 『 透明の戦士 』 を扱いかねているからだ。
    ほっておくと一人歩きして物でもかっぱらってきそうだから不用意に出すのはためらわれる。
    自動書記のように「自分はコレコレと申しますがコレコレこういう事情で今日からあなたの体にお世話になりますよろしく」と初日から流暢に解説してくれれば話は早いのだが、そんな気配もない。
    わかっているのは、コイツを出せば 『 なおせる 』 ようになったり身体能力がガゼンアップする、ということくらいで。


    「え、こう使うモンじゃあねーの?」

    「本能で分かれよポンチ野郎がーーッ! こ、これだからパワー型<タイプ>は……!」

    「おいおいおいおい、ちょっと待てよ。テメーはこの力についてなんか知ってんのか? さっきも言ってたよな? 『 スタンド 』?」

    「お、教える! 教えるよぉーー!! だから 『 恋人<ラバーズ> 』 を解放してくれぇ!」

    「してくれ?」

    「い……いえ、してください! 見てくださいッ! さっきので腕と足が折れましたッ! もう再起不能ですッ、動けません!!」

    「さっきと随分態度が違うじゃないか? 君、何て言ってたっけ? 確か僕達を始末するとか何とか……」

    「す、するわけないじゃあないですかぁーー! もう決して危害は加えません! 誓います!」

    「ぺらぺら調子のいい野郎だぜ……てめえは二三発殴らないと気が済まねえな」

    「もちろんです! 殴ってくださって構いません! 私の負けですッ、改心します、ひれ伏します、靴も舐めます、悪いことしました、いくら殴ってもいいッ! ブッてくださいッ、蹴ってくださいッ! 
    でもッ! 命だけは助けてくださいイイイイイィいいいい~~!!」


    マジで靴をペロペロやってしまいそうな勢いに、凄んでいた三人も引いた。

    352 = 1 :



    「マジでダンチだなオイ……」

    「気圧されるなよ、能力者ども。こういう風に簡単にプライドを捨てられる奴は変わり身だって早いんだからな」

    「でも確かに手足が折れてるんじゃ何もできねえだろ」


    上条の言葉にステイルはふんと鼻を鳴らした。


    「まあいいだろう……おいクソッタレ仗助。その生き物が僕らに何かしようとしたら遠慮なく叩き潰せよ。
    どうやらダメージはフィードバックするみたいだからね」

    「いますげ~あんた守る気が失せた」

    「上等だ」


    ぱっと東方が親指と人差し指を離す。
    上条当麻はその時、確かにホコリほどの小さなものがダンのほうへ行くのが見えた、様な気がした。



    「………………う、」


    うめき。
    上条が見やると、そこには姫神秋沙の腕に抱かれた、アウレオルス=イザードがいた。むごたらしい傷は跡形もない。
    どうやらかろうじて息を吹き返したようだ。
    それを上条はほっとしたように、東方は微妙な顔で、ステイルは無表情に一瞥した。
    そう、全員の注意が逸れた。
    そのスキに鋼入りのダンは走った!
    そしてェ! 廊下を出て突き当たりの窓から飛び降りた――ッ!!


    「なっ!?」

    「逃げた!」

    「あんのやろぉ~~! こーゆー時だけ根性見せやがって!」

    「馬鹿者! 奴が窓を割れたということは……!」


    ステイル=マグヌスが一歩進み出て、破られた窓から外を見下ろす。


    「チッ……結界が解除されていたのか、いつの間にか!」


    眼下では、米粒ほどの大きさの人間が蠢いていた。

    353 = 1 :



      ~~~


     ――だから、魔法使いになりたかった。

    今から十年前、少女は自身の村を壊滅させた。
    発端は吸血鬼だが、彼女の血が彼を呼び寄せ、彼女の血が彼らを殺した。それは紛れもない事実だ。
    彼女は知った。
    世の中には逃れようもない 『 力 』 があり、それに呑まれてしまえばあらゆる 『 思い 』 は無駄になる。
    優しい八百屋のおじさんも、仲良しのゆずかちゃんも、そして、彼女自身の母親も――。
    『 力 』 に吸い寄せられるまま、吸血鬼という 『 力 』 に抗えぬまま、彼女の首を噛み、灰に還った。
    仕舞いには吸血鬼たちは彼女の血の 『 力 』 にすがった。
    灰に還ることが自分の救いと信じ、噛み付くことをやめなかった。
    そして村は死んだ。

    だから、魔法使いになりたかった。

    どんなおぞましい 『 力 』 も正義の名の下に跳ね除けて、被害者も犯人も、既に死んでしまった人すらも地獄の底から引きずりあげることができるような、ルール無用で常識外れの絵本に出てくるような魔法使いに。
    でも彼女は 『 そうなりたいな 』 と願うことしかできなかった。願う、というのはつまり、自分には不可能だと認めていることに他ならない。
    でも。いつか。
    魔法使いにはなれなくても。自分の手で誰かを助けることができたら。
    そんな時がきたら。その時は――……


    『「歩く教会」、というものがある』

    そして彼女は錬金術師と出会った。

    354 = 1 :



    『衣服の形をした結界だ。それを着れば、自然、もうカインの末裔たちを呼び寄せることもなくなろう』


    彼はあっさりと救いの道を与えてくれた。
    それだけでなく、自分の血は人を救えるとさえ言ってくれたのだ。
    その時、沈んでいた彼女の心に温かな光が射し込んだ。


    『魔術師は占星、錬金、召喚を一通り習うのだが、私は錬金に特化している』

    『その錬金術の到達点が「黄金錬成」――じきにお前にも見せる時が来よう』


    憧れを持つのは難しくなかった。


    『三沢塾内にいる限り、カインの末裔がお前を嗅ぎ付けることはない』

    『……頑然。出会った時からお前はその服だな。ソレがそんなに気に入って――――うん? 当然。似合っているが?』


    恋愛とは違う、協力関係という淡白なものでもない。不思議なつながりを、彼女は感じていた。
    彼もそうなのだろうか? 
    きっとそうだと思いたい。
    彼女は想う。

    彼は優しい。
    彼は強い。


    『――いよいよ、か』

    『ほんの気休めだが、着けておくといい。漠然、本当に吸血鬼に十字架が利くかはわからんがな』


    彼は。いい人。


    『逃げるのだ、吸血殺し<ディープブラッド>!』

    『何をしている、早く行けッ!』

    『――、姫神秋沙ッ! 「 お前は思いつく限り遠くへ逃げろッ! 」』


    だが、そんな彼もまた 『 力 』 に屈した。

    355 = 1 :



      ~~~
     

    そうして。今。
    彼女の腕の中には一人の錬金術師がいる。
    ピクリとも動かない一人の男が。
    彼を抱きとめた手の平から、徐々に死の実感が伝わってくる。
    『 死 』。それはやはり、抗いようもない 『 力 』 だ。
    どんなに切に願っても床に滴る血は止まらないし、どんなに強く抱きしめても、彼の鼓動は着実に弱まっていく。
    彼女のユメは死んでいく。

    姫神秋沙はぎゅっと目をつぶった。
    不意に、


    ズギュンッ。
    感覚としては、そんな音が聞こえた気がした。

    姫神は目を見開く。
    温かみを取り戻した、彼の体。


    「よくがんばったぜ、姫神」


    次いで、乱暴に頭をなでる手の平。


    「後は任しとけい」


    問答無用で彼を救ったその少年が、姫神にはひどくまぶしく思えた。

    356 = 1 :






    第十三話「罪と罰」




    357 = 1 :



    「ギニャッ!!」


    十二階建てのビルから飛び降りた彼は、九階時点で張り出しに引っかかり、六階地点でパイプにつかまり、再び落ちて、二階で再び張り出しに激突した後、地上に到達した。


    「……つ、」


    何ということだろう!
    血をだらだらと流しながらも、体の骨をバキバキに折りながらも、鋼入りのダンは生きていた!


    「ついて、るぞ……ハハハ、何とかと言ったところだが……まだ生きてるッ! 
    う、運は確実にこのダンにある……逃げてやるぞ…………こ、このまま、逃げ切ってやる……!」

    「ちょっと!? 大丈夫ですか!?」


    ブツブツ呟きながら這いずるダンに、甲高い声がかかった。
    灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーターという何の変哲もない格好の女子中学生だ。


    「落ちてきたの? いったいどうして、てっ!?」


    助け起こそうと近づいてきた少女の手を、鋼入りのダンの手が乱暴に掴んだ。
    再びのチャンスだ!
    私の 『 恋人<ラバーズ> 』 をこの女の子の耳にもぐりこませ、人質にすれば……!


    「そいつから離れろ、御坂ァァアーー!!」


    遠くからの声に、ダンはギクリと身を震わせた。
    見ればビルの壁面にあのスタンド使いの少年がいた!
    片手でパイプにつかまり、しっかりとこっちを睨んでいる。相変わらずヴィジョンは手首から先が出ているのみである。
    その背には、先ほど叫んだらしいもう一人の少年がしがみついていた。


    「すぐに逃げろ、みさ、ってうおっ!?」


    パイプを掴んでいた手がぱっと離れ、一メートルほど下の窓の出っ張りを掴む。


    「おのれェェ! トム・クルーズがきさまらー!!」

    「だがもう遅い! すでに私の 『 恋人<ラバーズ> 』 わびゃあ!!」


    ビリビリ、ドシャン。
    瞬間、鋼入りのダンは手から伝わる圧倒的電力に昏倒した。
    少女こと御坂美琴はフン、と髪を払う。


    「で? これでいいのかしら?」

    「お前ェ……」

    「かーッ、無茶すんな中坊~」

    「お前でも中坊でもない! っていうか何であんたらまた一緒に……ああもう! いいからとっとと降りてきなさいよ!」

    「言われなくても行くっつー、の!」

    「あ、ちょっと待って、お手柔らかに仗助さん!」


    その後「離すなよ!」を13回言った上条当麻はフリと勘違いした東方仗助によって3メートルの高さから落とされた。

    358 = 1 :



    「ふ、不幸だ……」

    「おいおい、大丈夫かよ当麻ぁ~」

    「ちょっとそこの不良! そいつと一体何してたのよ!」

    「おめーは何で俺に対して毎度毎度ケンカ腰なんだよ」

    「ふんっ! 見たところ肉体強化のレベル2か3ってとこかしら? それでも私にはかなわないでしょうけど……!」

    「うおっ、なんでこいついきなりやる気満々になってんだよ~?」

    「さあ……上条さんにもよく……ってか手を貸してください」


    あれこれやっている三人の背後で、鋼入りのダンは意識朦朧としながら匍匐前進していた。
    その視界に、真っ黒い裾が映る。


    「ッ……!!」

    「本当、しぶとい男だ」


    ダンの行く手を阻んだ男は、ゆっくりタバコに火をつけると、煙を吐いた。


    「だがここまでだね。協会までご同行願おうか? お前には色々と吐いてもらわなくちゃいけないことがある」

    「~~~……!!」


    ぐぬぬと顔をゆがめる鋼入りのダンを、ステイルは冷めた目で見下ろす。

    359 = 1 :



    「おい、そこのクソッタレ二人! そっちのよくわからないのを巻き込みたくないのなら、とっとと退場願うことだね」


    とうとう俺までクソッタレになってしまった、と上条当麻は額を押さえた。
    そこでふと、御坂美琴のカバンが目に入った。
    正確にはそれにつけられたストラップにである。カエル形のそれは、明らかに不自然な動きでギチギチと回転している。
    しばし呆然として見つめていると、ピタァッと回転が止まった。そして、塗料で色分けされただけのはずの白目と黒目が動き、ギロリと上条当麻を見たのである。


    「お……お前、それ……!」
    「へ?」


    刹那、上条たちの視界からストラップが掻き消えた。
    同時にスパン、と、鋼入りのダンの首元が深く裂ける。
    何が起こったかわからない顔で、ダンは自身の首を押さえ、血の海に倒れた。


    「「「なっ……!」」」

    「にゃにィ~~!?」

    「人形が……ッ!」

    「あああたしのゲコ太がぁ~~~!!」

    『アギィィーーッ!!』


    と叫んで襲い掛かってきたところに、仗助が拳を叩き込む!


    「ドラァ!」


    いや、正確には仗助の拳から出た、『 透明の拳 』 が、だ。


    「大丈夫か御坂!?」

    「ああ……あたしのゲコ太が……!」


    御坂美琴は目に見えて動揺していた。肩を支える上条すら見えてないらしい。


    「あんなヒワイなことにぃーー!」

    『アギィィーー! うけけけけけ!』

    まるで劇画の怪物のような形相で、ゲコ太ストラップは首だけグルグル回転させた。


    「いぃ~~~!!? てぇ~~!」


    叫んで仗助は拳を押さえた。
    刃物でさっくりやられたらしい。
    ゲコ太の手には、鞄からかすめ取ったらしきカッターナイフがあった。


    「や、野郎~~! アウレオルスの時も思ったけどよー、テメーらチッとは拳で戦いやがれコラァ~~!!」

    360 = 1 :



    「何者だ!」


    神父服を翻し、ステイル=マグヌスは虚空に問う。
    それに応えるように、物陰から男が出てくる。その姿を見て、上条当麻は思わず怯んだ。
    その顔、腕、首、露出したすべての肌にむごたらしい傷跡が残っていたからだ。服に隠れて見えないところも、おそらく同様なのだろう。
    その男は陰気な目で鋼入りのダンを一瞥した。


    「フンっ、因果応報とは言ったものだ……今まで散々 『 始末 』 をしてきた報いが返ってきたというわけだな」


    ダンはピクリとも反応しない。


    「どういう仕組みかは誰にもわからない、だがこれは自然の摂理だ。どこかで作ってしまった 『 ツケ 』 は必ず返さねばならない……」

    「それって死亡宣言かい? まったく次から次へと……三番手もここらにいるのか」

    「『 保険 』 は俺までだ。仮にいたとしても俺の知るところではない」

    「ふん? 少なくともダンとかいう奴ほどバカではなさそうだね」

    「……なんでだよ」


    上条の言葉に、男はふと目を向ける。


    「保険とか口封じとか……そんな曖昧な動機で、なんでお前らは簡単に人を殺せるんだよ!! 
    それともお前らを突き動かすほどお前らのバックにいる奴は偉いのか!? 
    だったら 『 あの方 』 とかいう奴をここに連れてきやがれ! 今すぐだ!! 俺がその幻想をぶち殺してやる!!」

    「キャアキャア騒ぐなよ能力者」

    「あらっ」

    361 = 1 :



    ずっこける上条をステイルはつまらなそうな目で見やる。


    「奴はプロだ。そんな質問にわざわざ答えてくれるほどやさしい人種じゃない」


    その通りだった。
    男は上条を軽く無視すると、代わりに東方に目をやった。


    「お前も 『 スタンド使い 』 のようだな」

    「だから~何なんだよその 『 スタンド 』 ってえのはよぉ~」

    「なるほど目覚めたばかりというわけか」

    「一人で勝手に納得してねえで教えてくれませんスかねえ~~『 スタンド使い 』 のセンパイさんよぉ~~」

    「だが! どうせ答える気もないだろう。おしゃべりはこの辺にしようか? えーと……」


    割って入ったステイルに男は答える。


    「俺の名は呪いのデーボ」

    「呪い? ふん? 呪術使いは通り名でも名前を明かすのはタブーと思っていたけどね」

    「呪いというのは比喩だ。お前たちのように 『 現実を捻じ曲げる技 』 を使うわけではない」

    「……!」


    ステイルにはわからなかったが、仗助は確かに、ゲコ太ストラップの中から異形が這い出すのを見た。
    同時にストラップは元のあどけない顔を取り戻して地に落ちる。


    「ゲコ太!」

    「動くな中坊!」

    「だ! 誰が……」

    「教えてやろう! 『 スタンド使い 』 のルール! スタンドはスタンド使いにしか見えず……」


    異形が素早く距離を詰める。その右手に持った刀が振り上げられる。その先にいるのは――。


    「スタンドでしか攻撃できない!」

    「ステイル!」

    362 = 1 :



    「そげぶッッ!!」

    『エボニィッッ!!』

    「ドゲェェェーーッ!!」


    上条当麻の右ストレートに異形は吹っ飛び、フィードバックしてデーボも吹っ飛んだ。


    「こっ……てめー……スタンドでしか攻撃できねーっつってんだろーーッ! 話聞いてんのかーーッッ!!」

    「す、すみません?」

    「グギギギッ、お、おまけにてめーの右手に触れた途端、ヴィジョンが消えやがった……何なんだその右手はぁー!」

    「な、何なんでしょうね?」

    「どういうこった? 俺の時は何ともなかったじゃあねーか」

    「だけどヴィジョンに直接触れたことはねえしー……やっぱ影響はあるのか?」

    「そういうことはバトルに入る前にはっきりさせておけ能力者ども!!」

    「わ、悪い?」

    「怒んなよステイル、お前までよ~」


    ステイルの場合、憎むべき相手に守られたことも起因しているのだろうが。

    363 = 1 :



    「……ク、クヒヒヒ……ウヘヘ」

    『……!』

    「……お、おちゃらけやがってぇぇ~~……こっちは真面目にやってるのによぉぉ~……グフフフ、うらめしい、憎らしいぞ貴様らぁぁ~~……!!」


    という割には嬉しそうなデーボに全員が眉をひそめる。


    「『 エボニーデビル 』!!」

    デーボが名を呼ぶと同時、デーボのスタンドが再びゲコ太ストラップの中へと吸い込まれるようにして消えた。


    『アギィィーー!!』

    同時に恐ろしい面相になったゲコ太が襲い掛かる!


    「懲りねえヤローだぜ~」

    「御坂! お前は下がってろ!」


    上条と仗助、二人は前に出てゲコ太を迎え撃つ。


    「ドラァ!」

    『ぶぎゃあーーッははははーー!!』

    「!?」

    「は、速い!」

    「さっきとは段違いの速さだ!」

    「ウアハハハハハーー!!」


    驚愕する上条とステイルの声にデーボの笑い声が重なる。


    「その通り! 俺の 『 エボニーデビル 』 は相手を恨めば恨むほど強くなるのだァァーー!!」

    「なっ……」

    「!」

    「何だってェェーー!?」


    つまりそれは、攻撃を受ければ受けるほど強くなるということ。
    『 エボニーデビル 』 やデーボに攻撃することは己の首を絞めることに他ならないということだ。


    「『 呪い 』 か……なるほどね」


    忌々しそうに微笑してステイルが吐き捨てる。


    「悔やんでも遅い。貴様らはすでに術中にはまっているのだからなァ」

    「チッ、なんとかならないのかクソッタレ仗助。君もその 『 スタンド使い 』 とやらなんだろう」

    「無茶振りするッスねぇ~~まあ考えがねーこともねーんだがよ……」


    二人の会話に、ふとデーボが顔を上げた。


    「そういえば貴様のスタンド名を聞いてなかったな。死ぬ前に名乗っておくがいい」

    「えっ」

    364 = 1 :



    東方仗助は沈黙した。
    次いでぼのぼの張りに汗を出す。
    上条当麻もつられてそうなる。


    「どっ……」

    「『 ど 』?」

    「ドラァ!」

    「ごまかした!」


    ごまかしつつ 『 透明の腕 』 で何かを投げた!


    「俺のアレだそのぉ~~~『 スタンド 』? はッ! 人を治したりモノを直したりできるぞコラァ~~~!! あとスピードとパワー! おしまい!」


    言っている間に何かはまっすぐ 『 エボニーデビル 』 へと向かい……あっさり受け止められた。


    「ゲッ!」

    「フン! この程度、パワーアップした 『 エボニーデビル 』 には止まって見えるぜェィィ~!」

    『これでテメーのハラワタ掻っ捌いてやるぜ!! メーン!!』


    ゲコ太ストラップは受け止めたものをギュンギュンもてあそびながら襲い掛かってくる。


    「おおう……こう来ると思ったぜ~あの 『 スタンド 』 共の性格ならよ~」

    「何をやってるこの馬鹿者!」


    ステイルがルーンカードを取り出しつつ進み出る。
    が、その炎はやはり、あっさりとかわされた。


    「チッ! やはり早すぎる!」

    「ステイルよぉ~」

    「なんだバカのクソッタレ!」

    「要するに攻撃が当たるようにすりゃいいんだろ?」

    「だからそれが……!」


    怒鳴りかけ、ステイルは仗助の手にしているものを見て口をつぐんだ。

    365 = 1 :



    仗助は 『 透明の腕 』 の手首から先だけを出すと、コインをはじくように親指でそれを宙に跳ね上げた。


    「『 なおれ! 』」


    はじかれたものはガラスの破片。
    そう、鋼入りのダンが脱出の際割った窓の破片だった!


    『アギィ!?』


    そして 『 エボニーデビル 』 に投げつけたものも破片の一部!
    小さなストラップの体を借りた 『 エボニーデビル 』 は、やすやすと 『 なおす 』 力に引っ張られて敵の射程範囲内に飛び込んできてしまう!


    「はいコンニチワ、っと……」

    『ゲッ!』

    気づいたときにはもう遅い。


    「ばっ! ばかな、ガラス片同士だけを 『 なおした 』 だと!? こいつどの程度まで 『 なおす 』 ことができるんだ!?」

    「えっ」

    『……』

    「俺が知るかよ~~~ッ!! ドララララララァーーーッ!!」

    『なんでちょっと怒ってぼぼぼぉぉっ!!』


    容赦ないラッシュが 『 エボニーデビル 』 を襲った。同時にデーボにも打撃が走る。


    「ごっへぇぇ……!」

    ドッサァッ。


    「やった!」

    「ゲコ太!」

    「おぉ~~……やった、やったけどよー……何なんだよこの 『 こんなことなら真面目にテスト勉強やってりゃよかった 』 みたいな感じはよぉ~~」


    釈然としない仗助の頭の中では、
    『 きっと困る 』 と告げた姫神の声がガンガンハウリングしていた。

    366 = 1 :



     ~~~


    月明かり。
    大きな影。
    圧倒的な力。大きな手が顔の、下半分を掴んでいる。
    背中には、デスクの硬い感触。
    闇。
    赤い一対の瞳がすっと細められた。


    「アウレオルス……とかいったかな」


    アウレオルス=イザードは答えられない。
    真に迫る恐怖に瞬きさえ忘れ、目の前の相手を凝視する。
    体中がわななき、指一本としてまともに動かせないのに、頭は妙に冴え冴えとしている。
    口をふさいでいた手が、彼の唇の形を確かめるように蠢いた。
    喉の奥が詰まる。胃液が逆流してヘドを吐く一歩手前まで追い詰められる。
    だが、このまま嘔吐すればどうなるか。何をされるか。ぐ、とうめくと共に彼の視界がぼやけた。


    「泣くぐらい怖がらなくてもいいじゃあないか……安心しろ……安心しろよアウレオルス」


    瞳と同じくらい赤い唇が、三日月形に広がった。
    そこから銀に光る牙がのぞく。


    「……いいとも。君がどうしても救いたい人間がいると言うのなら……私だって、協力するのにやぶさかではない」


    口元を覆う手がゆっくりと外れ、アウレオルスの頬をその爪でなぞる。


    「しかし 『 吸血殺し 』、魔術……、か。……フム、君は私の知識を欲している。無限の記憶術を、だ。
    そこで、どうだね? 私にも君の知識を分けてはくれないだろうか。お互いにとって、これはとても有益なことになると思うよ」


    アウレオルスは答えられない。
    荒い息を吐いて眼前の相手を見つめるだけだ。
    金糸の束のような髪が一房、ほどけて彼に落ちかかった。
    いや違う。もっとなにか、恐ろしいものが落ちてきた。
    それは、まるで意志を持っているかのように――生き物のようにアウレオルスの頬を、目尻を這って、額まで行き着く。


    「アウレオルス。恐れることはないんだよ、友達になろう」


    その言葉に、彼は心の底から安堵した。
    よかった、私はまだ死なない、目の前のコイツに殺されることは――。
    突然、脳髄に衝撃が走った。
    瞬間悟る。
    この先に待つのは死などではない。
    自分が自分でなくなるのだ。

    367 = 1 :



    思えば、わかりきっていたことではないか。
    己のうちの罪悪に気づかぬほど、私もおろかではない。
    罪というものは巡りめぐって罰となり、己に返ってくるもの。
    そんなことはわかっていたのだ。
    だがそれでも…………いや、もう遅い。

    アウレオルス=イザードは、足元から自分がなくなっていくのを感じた。
    仰向けにゆっくりと倒れていく。
    そして――、



    崩れ落ちる体を、誰かが支えた。


    アウレオルス=イザードはうっすら瞼を開いた。
    月明かりの中、濡れたような色の瞳がこちらを見つめている。


    「『 吸血<ディープ>……殺し<ブラッド>…… 』」

    368 = 1 :



    姫神秋沙は黙して応える。
    その瞳はじっと彼を見つめていた。今にも泣き出しそうに、けれど決して涙は見せずに。
    アウレオルスは、初めて彼女の顔をまともに見た気がした。


    「私は……負けたのか」

    「そう。でも救いのある敗北」

    「救いか……。そうであるかも、しれんな。この手を汚し為してきたことは無駄となったが、彼女はとっくに救われていたのだから……」


    アウレオルスはわずかに目を細めた。


    「姫神秋沙。私はお前も救いたかったのだ……似ていた。生まれながらのサガに翻弄される姿が……哀れな運命が……」


    あの少女と。


    「そんなお前を殺そうとした時点で、私は彼女と向き合う資格を失っていたのかもしれん」

    「……」

    「……」

    「あなたは。私を見ていなかった。最初から」

    「……」

    「でも。それでいい。私がやさしいと感じたのは。たった一人の大切な人を救おうとするあなただったから」

    「……だからお前は私のそばにいたのか?」

    「ただ。あなたの助けになりたかった」


    たとえ道具として扱われたとしても、アウレオルスを助けている、アウレオルスを支えられているという事実がうれしかった。
    だから離れようなどとは思いもしなかった。
    姫神は訥々と告げる。
    アウレオルスは一度瞠目したのち、自身に向けて憫笑した。


    「そうか……」


    救うと決意しておきながら、私はまた、


    「……私は、お前にも支え守り救われていたのか……」


    アウレオルスの目じりから、こめかみにかけて透明の線が一筋走った。
    姫神秋沙は何も言わない。
    その表情は変わらない。アウレオルスが意識を取り戻した時見た表情と、変わりなく――――。

    姫神は、くしゃくしゃに顔を歪めて笑っていた。

    369 = 1 :



     ~~~


    「んん~~今回もビシッ! と決まらなかったなオイ……」

    「あきらめろ、君は間抜けの星の下に生まれてるんだろうさ」

    「それよりあんたら! この状況を説明しなさいよ!」

    「ビリビリ……お前、いたのか……」

    「ほっとけ!!」


    「……ク、クヒッ! ウハハハハア……!」


    複数漫才をする四人に、不気味な笑い声が届いた。
    仗助のラッシュで気絶したと思われていたデーボはしかし、不気味に笑いながら起き上がった。
    足にきているのかよろめきながら、殴り痕のついた顔に喜色を浮かべて。


    「てめえまだ……!」


    東方仗助がいち早く反応する。
    一瞬の空白、


    「『 エボニーデビル 』!!」

    「ドラァ!!」


    ゲコ太ストラップの体当たりに、『 透明の戦士 』 が拳を叩き込む。


    「ッ……!?」


    瞬間襲ったすさまじい抵抗に、東方仗助は思わず飛びのいた。
    右腕がびりびりとしびれている。
    チッと舌打ちの後、ステイルが忌々しげに口を開く。


    「随分……恨みのパワーが集まったようじゃないか」


    ふらりとデーボは立ち上がった。


    「ウヘヘへ……相手を恨めば恨むほど俺はその分強くなる……
    このやり方のおかげで……戦う前にまず相手に痛めつけてもらわなければならないという厄介なスタンスを取らざるをえなくなったが……最近はそれが快感になりつつある……」

    「へっ……」


    『 変態だ……! 』


    全員の思考が一致した。

    370 = 1 :



    「この恨み、はらさでおくべきか……! 一人も逃さん、始末してやる……!」


    殺気をまとったデーボに全員が構える、と


    「がっ……!?」


    突如、デーボの笑みが消えた。
    首元を押さえ、脂汗を垂らしながら悶絶する。


    「ぬぐおおおお!? なにィ!? この痛みは、苦痛は、一体!? 怪我をしていないところから激痛が走るァ! ……まさか……!」


    振り向いた先には、息を荒げた男がいた。


    「……『 ラバーズ 』ゥ~~……!」

    いつの間に息を吹き返したのか、鋼入りのダンである。


    「デーボ……このクソッタレドマゾ野郎がぁぁ~~……!」

    「て、て、てめー……!!」

    「おお? 憎いか? う、恨めしいか? 攻撃してみろよ、その何倍ものダメージを貴様の脳に潜り込んだ『ラバーズ』が送るがなぁぁ~~!」

    「おのれぇぇーー!」

    「テメーも道連れだ、地獄まで道連れにしてくれるァァハハハ、グッ、ガホッ、ひ、ははッハハハッハ! ハーハハ! へへへへノホノホノホォ」

    「うああ~~~!! てめーよくも! よくもこんなことしやがってェ~~! 
    ハァハァハァハァ、いてえ、ハァーッ、いてえよおおお!! この新感覚の痛みがァァハァハァあああ~~~ハハハハハハハ! アア! アア! アァーーーッッ!!」



    上条当麻はごくりと生唾を飲む。


    「こ、これがスタンドバトルか……」


    全国のスタンド使いさんが聞いたら怒り出しそうな発言だった。

    371 = 1 :


    ドMとドSが交差するとき、物語は終わる

    今日はここまで。次回はエピローグです

    373 :

    待ってたよー

    374 :


    ダンが出てきて(特にあの変わり身の速さあたりが)JOJO分が濃くなってきたなと思ってたら、何してんだこいつらwwww

    つーかこれ時間軸はともかくとしてキャラの状況的には三部なんだろうか、星と茨がどうなってるかによるけど

    375 :

    以前の仗助のセリフから承太郎はいるらしい。しかも仗助の性格も熟知しているくらいの関係ではあるかと。
    ジョセフに関してはどっちなんだろ?3部の精悍な姿なのか4部の耄碌した姿なのか…。

    376 :

    これは酷いw
    誰も得しないだろこの戦いww

    377 :

    良い感じにジョジョ臭くなってきたな

    378 :

    まさかデーボをギャグキャラにしてしまうとはww
    そして姫神×アウレオルスとか俺得すぎる!

    379 :

    ダン生きてたのかww
    いやあスタンドバトルはインパクトがありますねwwwwww

    380 :

    ぼのぼのw

    381 :

    >>380
    おい馬鹿やめろ、しまわれるぞ

    382 :

    上条が頭にあるから今の今まで気付かなかったぜド畜生が

    383 :

    何でデーボは恨みパワー溜まったのに距離をとらないんだ?正面から戦うような奴じゃないだろうし
    ある特定の自分に有利な条件に限り無敵でいられるっていうのがスタンドなのに

    384 :

    まだかなー

    385 :

    じょじょ

    386 :

    のきみょうな

    388 :

    >>383
    更に痛めつけてもらうためだろ? パワー増大のためか快感のためかは言及しないが

    389 :

    最後から一月以上か…
    これはもうエタったかな

    390 :

    一ヶ月ごときで何言ってるんだお前

    391 :


    エピはギャグだけ

    393 :



    「おい………………、おい」


    上条当麻は三つの背中に呼びかける。
    一番小さなサマーセーターの背はポケットの中でコインをいじくり遠くを見つめ、
    180㎝前後の背は腕組みしたまま目をつぶって、最も大きな背に至っては煙草をくゆらせている。
    共通するのは上条当麻に現状を丸投げしているという点である。
    そんなもんまっぴらな上条当麻は「おおい」声を高くする。

    「このドグサレがぁぁ~」「ドチンポ野郎がぁぁ~」と延々続くかぼそい呪詛に背を向けたい気持ちは上条当麻もよくわかる。
    だが、だからといってこれらを放って帰れるほど上条当麻は図太くない。


    「どうやって収拾つけんだよこれ」

    「お、俺に聞くな」

    「僕にも聞くなよ」

    「わたし通りかかっただけだし」


    なんという奴らか。この連帯無責任者ども!


    「せ、責任……!」


    そう。私こと上条当麻にこの状況を引き受ける責任などないはずだ、と上条当麻は強く思う。
    自分は何が何やらわからんうちに巻き込まれた一介のレベルゼロに過ぎない。
    では一体全体この状況は誰のせいだ、関係者出てこいッ。関係者。関係者って誰だ?
    自分をここに引っ張ってきたステイルか? 事情は知らないが一足お先に巻き込まれた仗助か? 仗助とともに消え去ったインデックスか? インデックスと仗助を巻き込んだ姫神秋沙か?
    いや、すべての発端は……







    「――当然」


    当然。奴だ。

    394 = 1 :



    脇からかかった声に、上条当麻は振り向いた。
    遅れて、他三人も顔を向ける。


    「このあたりにとどまっていることは予想していたが、全体どういう状況だ」


    アウレオルス=イザードその人がこちらに歩み寄って来ていた。
    オールバックにした髪は乱れているが、眼光は鋭い。


    「姫神……」


    仗助の呟きに、上条当麻も気が付いた。
    アウレオルスの傍らに無言でたたずむ少女の存在に。


    「姫神……秋沙……?」

    上条当麻の呼びかけに、姫神は顎を引いて応える。

    「き、貴ッ様、生きて……」

    「ふん? どこから呼び寄せたものか、新しく豚が増えているな。だが、ふむ、新たな災禍を招くに終わったと見える」


    ようやく彼に気づいたダンに、アウレオルスは侮蔑の笑みをもって応えた。
    右手をゆっくりと後ろに回す。


    「否。豚共に仲間意識などというものは存在せぬか」

    「ヒ……ヒハッハハハハ! 死にぞこないが、そこの最弱ヤローはともかく、俺が豚だとォ?」

    「て……テメー、今すぐ殺されてえか変態ヤロウ」

    「やってみろ」


    蒼白の顔にバキバキ青筋を浮かべながらダンがすごみ、デーボが応じる。
    それに眉一つの反応も見せず、アウレオルスはおもむろに取り出した鍼で首筋を刺した。

    「ここで貴様らを屠るのは容易い、が……豚の一員となるのは避けたいのでな」

    二人が動く前に、アウレオルスは厳然と告げた。



    「 『   眠 れ   』 」

    395 = 1 :



    途端、糸が切れたようにデーボとダンは倒れ伏した。
    アウレオルスはそれを、いろいろな感情が織り交じった複雑な顔で、ただ、見おろす。
    姫神秋沙がそっとその腕を取った。
    アウレオルスは一瞬目を瞠り、それからゆっくり彼女へ視線を移した。


    「アウレオルス=イザード……君は……」

    「……」


    ステイルの声にアウレオルスは眼だけを向ける。
    上条当麻は目の前の男の、次の行動を幾通りか予想した。
    「フッ、憮然勘違いするな」とニヒルな笑みを浮かべるか、「これで、おあいこというやつか」とクールに呟くか、「借りを……返しただけだ」とあさってを向くか……。
    だがそのどれもが外れた。

    アウレオルスは次の瞬間ガクーンと膝をついて、姫神秋沙の腰に抱きついたのだ。



    「うわああああ~~ん!! どぉぉおおしよぉぉぉ~~! 
     不確定要素が多すぎるんだもんぁぁあスタンドってなんだよもおぉぉ不安だよぉおお~~~ねぇぇえ~~
     我が『アルス=マグナ』の効力がなくなったらどうしよおお~~!! 幻想をぶち壊されたらいかにしてぇぇ~~!!」

    「大丈夫。アウレオルス=イザード。あなたはできる人。あなたはきちんとやり遂げられた」

    「うっ、ひっく、ひっく、ぐすん。しかり。我が『アルス=マグナ』はさいきょうだ。いまやせかい……」

    「よちよち」


    「「「……」」」



    どうやら、『 ずっと錬金術師のターン! 』 を発動するには、アウレオルスの精神は脆弱すぎたらしい。
    呪詛の代わりに男の泣き声がわんわんと響く。
    とうとう遠い目になった上条当麻の肩に、東方仗助はポンと手を置いた。


    「ほらあれだぜェ当麻。終わりがねーのが終わりって言うし。収拾がつかねーのが収拾ってことで」

    396 = 1 :




    「で? あの後どうなったんだよ」


    数日後。
    今日も今日とて補習帰りの上条当麻は、道中ベンチに座った黒い牧師服を見つけて、とっさにこんなセリフを吐いた。


    「どうって? 君の知っている通りさ」


    ステイル=マグヌスは立ち上がり、つまらなそうに答えた。


    「悪役二人は教会で拘束したし、君たちは能力者の小娘から逃走。
     アウレオルスは……姫神秋沙とともにどこぞへと『消えた』。君も知ってるだろう?」


    念押され、上条当麻は瞬いた。
    アウレオルス=イザードは学園都市を出て行った。
    ローマ正教を裏切り錬金術師となって、『 吸血殺し 』 こと姫神秋沙を監禁し三沢塾を要塞化した時点で学園都市を敵に回し、
    さらに上条らに先駆け返り討ちとなった魔術側諸勢力には賞金首扱いを受けている。
    彼がこれからすることはただ一つ、逃げるだけだった。
    残りの人生をただ、殺されないよう逃げるだけ。
    あらゆる世界を敵に回したアウレオルスに、それでも姫神秋沙はついて行った。

     『 色々ありがとう。それと。ごめん 』

    ぼそりと、呟くように囁かれたセリフ。
    彼女の声は想像していたよりずっと明るく、落ち着いていた。
    暗雲しか見えぬ未来を歩く者とは思えないほど、明るく、落ち着いていた。
    沈みかけた気持ちを振り払うように、上条当麻は頭を振る。


    「じゃあ何しに来たんだよ。まさか今更仲良くしましょう~ってわけじゃあないんだろ?」

    「もちろん。君となれ合うなんて、僕が改宗する以上にありえない」

    と言いつつ、ステイルは上条と並んで歩き始めた。

    「様子を見に来ただけさ。いち」

    「一応、だろ?」

    「……」


    ステイルはじと目になったが、すぐ戻った。戻っても変わらなかった。
    対上条・仗助には常にじと目なのだ。

    397 = 1 :



    「……『 あの方 』 とかいう奴について聞きだしているところだけどね。あれはだめだな。
    デーボはプロだから無理に聞き出せば自害するだろう。ダンってやつは、こっちも怯えあがって口を開こうとしない。
    『 あの方 』 ってのは、相当恐ろしい奴なんだろうね」

    「……そうか」

    「なにはともあれ君の協力で解決した部分もあるし……礼を言っておこうとも思ったが、なんか馬鹿馬鹿しいんだよね。僕の活躍を鑑みれば」

    「はぁ? まー確かにあの話術は真似できねえが……っておい、なんだその皮肉な笑みは」

    「いや? その分だと君はあの時何が起こったかわかっていないようだと思ってね」

    「何って……」


    あの時――姫神秋沙がアウレオルスと対峙した時。
    上条当麻の 『 右手 』 は姫神秋沙の足の下にあった。
    人の足元など、注視してみる人間は少ない。にらみ合いながらの対話中なら尚更だ。
    『 右手 』 の効力はつつがなく働きアウレオルスの 『 命令 』 は姫神秋沙には届かず、結果としてアウレオルスの精神は大いにぐらついた。
    おもむろに足袋と草履を脱いだ姫神秋沙。その白い素足。
    それが自分を柔らかく踏みつける感触を、上条当麻は今でも覚えている。その重みと結構な苦痛も。
    それでも文句ひとつ言わず頑張ったのだ。功労賞をもらうなら俺だろう、と上条当麻は思う。


    「姫神の度胸と俺のサポートがあったからこそ、アウレオルスは動揺したんだぜ。
    それこそ、過去の自分をうっかり呼び出しちまうくらい、な」


    ぷっ。
    ステイルは失笑し嘲笑した。


    「おいなんなんですかテメェさっきから」

    「君ね、『 本当に、あの時過去のアウレオルスなんてものが現れたと思っていたのかい? 』 」

    「……は?」

    「アウレオルスの言う通りさ。過去の自分を呼び出す魔術なんざ古今あったためしがない。
    タイムパラドックスの問題を考えれば自明のことだと思うがね」

    「え?」

    398 = 1 :



    「 『 じゃあ俺の見たものは何だったんだ 』 って? 
    僕の専門は炎だ。いくら君でも 『 蜃気楼 』 とか 『 かげろう 』 とかいう単語は聞いたことあるだろう?」


    上条当麻の知識の書が開かれる。
    蜃気楼とは空気が熱せられることで、光の屈折率が変わる現象だ。
    そのため風景にもやのような揺らぎができたり、向こうの景色が浮き上がったりさかさまに見えたりする。
    それを応用すれば、あるいは、


    「幻覚を見せていたってのか?」

    「正確には写像だね。姫神秋沙の目の前に大きなスクリーンかマジックミラーを立てたようなものと思ってくれればいい」

    「じゃあアウレオルスは……」

    「そ。鏡の中の自分に勝手に怯えて勝手に自滅したってワケさ」

    ついでに魔弾がそれたのも、僕が屈折率を変えて目測を誤らせたためだ、とステイルはこともなげに言った。

    「でも……じゃあ、あの声はなんだったんだよ?」


    上条当麻は重ねて問うた。

    『 必然――。私がお前の前に現れることに疑問の余地無し 』

    もう一人のアウレオルスが唯一発した言葉。あの声は間違いなくアウレオルス=イザード本人の声だった。


    「僕が知るものか」

    ステイルはあっさり投げた。

    「それに君、あの 『 アウレオルス 』 が話してるところを見たのかい?」

    「はぁ? 見たに……」


    見ていない。
    『 声 』 は聞いた。だが実際口を開き、のどから音を出すところは目撃していないのだ。
    気付けばそこに 『 もう一人のアウレオルス=イザード 』 はいた。


    「声が聞こえた。振り返った。『 アウレオルス 』 の姿があった。
    人間っていうのはそれだけで 『 アウレオルス=イザードがしゃべったのだ 』 と思い込んでしまう。
    けどね、『 声と姿は全く別のところからきているのかもしれないじゃないか 』 」

    「どこから?」

    「ふん? ……少なくとも僕の知る限り、かげろうは喋らない。だが 『 声 』 の要因となり得るものは、あの場に腐るほどあったと思うよ」

    「……お前はどう思ってる?」

    「聞きたいかい?」

    「ぜひとも」


    ステイルは薄く笑った。

    399 = 1 :



    「僕の考えは……これがもっとも合理的なのでそう考えてるのだが…………
    アウレオルスは僕の蜃気楼を目にしたあの一瞬だけ、『 もう一人のアウレオルス 』 を作り出していたのではないか、とね」

    「そいつが喋ったって? じゃあ……」


    じゃあその 『 一瞬だけ存在していたアウレオルス 』 はどこへ行ったのか?
    ひどく非人道的な結論が出てきてしまいそうで、上条当麻は口をつぐんだ。
    いや、そうでなくとも 『 もう一人のアウレオルス 』 が出てきて 『 消えた 』 ということは、実はけっこうマズイことなんじゃないだろうか。上条当麻は思う。
    その思考が伝わったのだろう。ステイルは、


    「だからね。『 もう一人のアウレオルス 』 の可能性なんて考えるべきじゃない。下手すりゃあの場にいた全員が倫理違反の人殺しだ」

    「ひ、人殺しって……」

    そうかもしれない。あれはあの場の皆で作り上げた 『 アウレオルス 』 なのだから。

    「だから。あの時アウレオルスは 『 もう一人の自分 』 なんて作らなかった。声が聞こえたなんて気のせいだった。
    奴が 『 出て消えた 』 のは僕が蜃気楼を見せていたからだ。これが一番いいだろう?」

    「……」



    上条当麻はたっぷり考えた。
    考えたうえで口を開いた。


    「……お前。いい人?」

    「何だその台詞は。僕はこれでもイギリス清教の神父なんだけどね。むしろ君にこういう可能性を教えたのは悪意と取ってもらっていいんだけど」


    ステイルはニコリともせずに神父服を翻した。
    すれ違うような位置で、上条当麻に別れを告げる。


    「じゃあ一応の報告も終わったし、僕はもう行くよ。本国にも呼ばれてるんでね」

    「なあステイル」

    400 = 1 :



    上条は思わず口を開いた。
    背後にとどまる気配に、もっともひっかかっていた質問をぶつける。


    「……姫神とは、また会えるかな」

    「君があの子の真似をしても可愛くない」

    「は!? いや、そういうつもりはなく!」

    「十中八九、会えないだろうね。君が彼女を追って世界を回るというなら――……話は別だが?」

    「はぁ? なんでそんな話に……」


    振り向くが、その時すでにステイルは歩き出していた。
    大きなくせにあっという間に雑踏の中に消える後ろ姿を上条当麻はしばらく見つめ、
    一度ため息をつくと、逆方向へ歩みだした。


    「……第一、姫神にはアウレオルスがいるだろーがって」

    「私たち。そういうんではない」

    「いやでも時間の問題だろ。それともこれも、俺の狭量な心が見せる幻想なんでしょうかねってぎゃああああ!!!」


    眼前に立ちふさがった幻想に上条当麻は絶叫した。
    うそつき! 不良神父のうそつき!


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