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    元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」

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    101 :

    うむ

    102 :


    前回投下分の「理解したか?」は「ドゥーユーアンダスタン?」と読んでくれると嬉しい
    うん……ふり忘れたんだ……ルビ……

    投下します

    103 = 1 :






    第五話「ツーメン&ガール!!」




    104 = 1 :



    「うっ……くっ……」


    眠ることすらかなわない痛みに、神裂火織はうめいた。

    一応の応急処置はしたが、それも気休め程度のこと。
    回復の魔術は――今の自分では使えない。
    自分の仲間も、そんなことにエネルギーを費やす暇があったら彼女の探索に向かうだろう。

    そうだ。彼女だ。

    大切なのは――『 やらなければならないのは 』彼女の保護。
    私は失敗した。
    彼は、果たして上手くやり遂げられただろうか。
    そうでなければ――どうなるのだろう。わからない。
    でも『 やらなければならない 』。


    と、視界に誰かの影が落ち、神裂火織は上を仰ぎ見た。
    予想していた顔だ。


    「やあ。具合はどうだい?」

    「見ての通りです……最悪ですよ」

    「連絡はもらってたけど、なるほど? こりゃ酷いね」

    「そんなことよりッ 彼女は……」

    「ああ。それならもう心配ない。もう『 君 』が心配するようなことは、なにもないよ」

    「そう……ですか」


    神裂火織はほっと息をついた。
    同時に炎が彼女の顔を照らす。


    「んー……? ふんふんふん……神裂、キミ……何かやったかい?」

    「何をです」

    「いや、前あったときより顔が、というか雰囲気が変わったというか……なんだか……目が優しくなったというか」

    「世辞を言っても何も出ませんよ」

    「いやそうじゃなくって、なんだろうね……やっぱり気のせいかな」

    「……自分の顔のことです。変化があったらとっくに気づいていますよ」

    「そうかい。なら頭はどうかな」

    「は?」

    ステイルの背後から出てきた人物に、神裂火織は目を剥いた。

    「なっ! あなたはッ」

    有無を言わさず頭を掴まれる。

    瞬間、ガラスの割れるような音が神裂火織の頭の中に響いた。

    106 = 1 :



      ~~~


    「とうま~~こっちこっち! 早く来て~~!」

    「インデックス、あんまスタスタ先いくと迷子になるぞー」

    「うん~~!」

    「だから行くなってのに……」


    親子連れとカップルひしめく表通り。
    上条当麻は辺りを見回し、改めて、今日は世間一般にとって平和な夏休みに過ぎないのだなーと思った。

    元気よく飛び跳ねるシスターの後姿に、思わず笑みがこぼれる。

    そして隣を歩く同級生をチラッと見、


    「東方さん……ちょいと気になったのですが」

    「うん?」

    「なぜに休日に学ラン?」

    「ポリシー的な。……っつーのは建前で、服まだダンボールの中なんだよ」

    「あー」

    「放置しとくと癖になっちまうから早く片付けたいんだけどよ~気が乗らなくってよ~」

    「言いにくいけど、それもう癖になってる」

    「マジか」


    と無駄会話を交わしながら、上条当麻は今度は上を一瞥した。

    何やら派手な2人組みが屋上に腰掛けている。


    「よくバレないな……」

    「さっきからバッタのように飛び移って付いてきてよ~魔術師ってマジに運動神経すげぇんだな」

    「頭上をぴったりロックされているので、上条さんとしては(主に赤い人に)何かぶつけられないかとヒヤヒヤものなのですが」

    「マー平気じゃねぇ?」

    「出たよ楽観的視点! そもそも言いだしっぺはお前なのに、なんで上条さんの心労だけがチリも積もって山となってんですかーー!」

    107 = 1 :



      ~~~


    「『 催眠 』?」

    「そう。情けない話だが、僕たち2人とも、何者かの『 暗示 』にひっかかっていたらしい」


    一夜明けて。

    小萌担任のアパートで、ステイルたちはそう打ち明けた。
    回復は上手くいったらしく、東方仗助――と、魔術の使用に体力を使いすぎたインデックス――は、すやすや平和な寝息を立てている。

    ちなみに家主の小萌担任は買い物に出かけている最中だ。


    「暗示……」

    「頭が悪いなら無理して考えなくてもいいよ。どうせ理解できないだろうから」

    「ステイル」


    神裂火織が厳しい声でたしなめる。
    ステイルは決まり悪そうに「すまない」と告げた。どっちに言ったかは定かでないが。


    「……ま! 君のおかげで一応助かったんだし? 一応は君に感謝してやってもいいとは思っているよ。君のおかげであの子を傷つけずに済んだんだからね、一応。
    もっともその恩は君の担任への口裏あわせと、君の傷を治したことで返したと僕は思ってるけれど、一応ありがとうと言っておいてやるよ」

    「一応多」


    思ったとおり感情豊かな方だったが、戻さないほうがよかったかもしれん、と上条当麻はほんのちょっとだけそう思った。


    「すみません。ステイルも感謝を感じてはいるのですが……いかんせん、不器用なものですから」

    「その枕詞はナイスミドルなおっさんにしか通用しませんぜ。ってそれはともかく、これでもう、あんたらがインデックスを追う理由はなくなったわけだよな?」

    「そうでも……ないんです」

    「……?」

    「『 完全記憶能力 』。彼女を『 インデックス 』たらしめている特別な力だ」


    ステイルがこつこつと自分のこめかみをつついた。


    「彼女は経験したあらゆることを忘れ去ることができない。その記憶の85%は十万三千冊の魔道書で埋まっている。
    つまり彼女は、『忘れられない』サガを背負っているのに、たった15%ぽっちしか脳を使えない状態なんだ。もしその15%が埋まってしまえば……どうなると思う?」

    「……」

    「『 決壊 』だよ。脳は記憶の圧迫に耐えられず……死ぬ」

    「……!」

    108 = 1 :



    「そして『 限界 』は一年周期でやってきます」と神裂火織が話を引き継ぐ。

    「我々の本来の目的は、そのいっぱいになった彼女の記憶に『 空き 』を作ることだったんです」

    「……空き?」

    「彼女はどんなくだらないことでも忘れることはできない。だったら外部からその記憶を消してやるしかありません」

    「! 魔術で……記憶を消すってのか?」

    「理解が早くて助かります」

    「そんなことッ!」

    「騒ぐな。彼女が起きる」


    グッと口をつぐみ、それでも険しい顔の上条当麻に、神裂火織は目を伏せた。


    「私だって……私達だって、本心からそんなことは望んでいません。けれど、それで彼女の命が助かるのなら……」

    「だからって……残酷すぎるッ。本当にどうしようもないのか? 本当にそれしか方法はないのかよ?」

    「知った風な口を聞くなよ能力者。僕達がこれまで何もしなかったと思っているのか?」


    一気に剣呑さを帯びたステイルに上条当麻は怯まず食らいつく。


    「お前たち魔術側は駄目でも、科学側ではどうなんだ? 俺達にできることはないのかよ?」

    「科学側で? 何をするって言うんだ。薬漬けにして彼女の体を切り刻ませるのか? 
    彼女の記憶はそんなもんじゃ救われない。それとも脳ミソだけ摘出して、それで救ってやったとでも言うつもりか?」

    「違う! 試してみるに越したことはないって言ってんだ!」

    「試すとか試さないとか彼女を実験動物みたいに言うなッ!」


    「なァ~~んか、話ビミョーにずれてるッスね……」



    109 = 1 :



    全員が振り返った。

    東方仗助はけだるそうにそれを見返した。


    「仗助! 怪我はもういいのかよ!?」

    「いや~よくわかんねぇけど治ったみてー。
    ……ッつか、なんであのプッツン女がいるんだとか、そこの赤髪ヤローは誰だとか、そもそもここドコとか色々聞きたいことはあるんだけどよ~……
    あ、ッつかあんまこっち見ねーでくれよ。アタマ崩れてて恥ずい」


    「君の『まるで乙女』みたいな恥じらいはどうでもいいんだよ。……どこから聞いてた?」


    寝相で乱れた髪を手ぐしで整えつつ、東方仗助は「カンゼンなんたらかんたら~~からッスねぇ~」と答えた。
    ステイルはチッと舌を打つ。


    「それで? 君にも意見があるようだが?」

    「あ、そーそー、そんで話がずれてるって話したじゃあねーですか。こう、お互い一方通行的な」

    「科学ならやれることがあるんじゃないかって話だろ?」

    「だから科学なんぞ信用できないって話をしてたんだよッ」

    「信用、だと? ふざけんじゃねえ! 偏見でもの言ってんじゃねえよ! そんなだから」

    「騒ぐなって言ってるだろうがこのウニ頭ッッ!」


    頭、のワードに神裂火織がピクリと東方仗助を見やる。
    特に何もおこっていなかった。


    「まず前提からして違うと思うんスよね。あんたらは何回かしらねーけど数え切れないくらいこの場面に出くわしてて、俺らは初回っつー」


    それだけだ。と東方仗助は言う。
    その唯一にして最大の壁がステイルと神裂、上条と東方の間にはある。


    「よーするに経験の差っつーか、一緒に暮らしてきた時間の差っつーか、だからわかりあえねーんじゃあねーの? だったら」

    「フンッ、分かり合おうとも思わないがね」

    「お前!」

    「あーあーだったらぁ~『 経験 』すりゃ話は早いんじゃあねッスかねぇ~? とか思ったり」

    「「はあ?」」

    110 = 1 :



      ~~~


    神裂たちの話によると、記憶の限界が来るには『あと三日』らしい。
    その間、ステイルや神裂と同じことをやらせろ、というのが東方仗助の意見だった。

    記憶消去の事実を感づかれぬよう精一杯インデックスに楽しい思いをさせつつ、消去回避の方法を模索する。
    そうすれば彼らの気持ちの片鱗を知れるだろう。
    こっち側のアプローチで回避が成功すればお互い万々歳だ。

    ステイルは何度か眉をぴくぴくさせていたが、結局双方損はないと考えたのだろう。
    譲歩した。


    『だがね、こっちもいくつか条件をつけさせてもらうよ』

    『一つ。彼女を研究施設に引き渡したりしない』

    『一つ。彼女に<科学的に解明可能だとかいう>機械を使わない』

    『一つ。彼女に<科学的に安全だとかいう>薬を服用させない』

    『一つ。彼女を解剖しない』

    『ぶっとばすぞ』これは上条。


    『そして最後。決して彼女に<真実>を知らせない』これは神裂。

    『決して……今日聞いた話を教えないでください。それは私達にとっても、あなた方にとっても……彼女にとっても不幸な事態を招くでしょう』

    『妙な考えは起こすなってことだ。……彼女のためにも』


    そして、2人は頷いた。


    「その結果がコレだよッ!!」

    「上条よぉ~インデックスいっちまうぞ」

    「ハッ!」


    「とうまとうま~あの建物は何?」

    「あれはただの学生寮です」

    「あれは?」

    「あれは学校です」

    「へ~とうま達はあんな大きなところに通ってるんだね」

    「いや、俺達のやつはよぉ~もうチッと遠くだぜ」

    「見たいか? インデックス」

    「見たいんだよ!」


    諸にバンザイして同意。
    そのはしゃぎっぷりに上条当麻は苦笑した。


    「とうまとうま! あれは!?」

    「あれはファーストフード店で……星を飛ばして見つめないでください」


    もちろんおごらされた上条当麻だった。

    111 = 1 :



    それからもインデックスの「とうまとうま!」を発端に色々なところを見て回った。

    学校内を見学した。(小萌担任に見つかって全員ダッシュで逃げた)

    デパートに行った。(フードコートめぐりが主だったが)

    歩道橋から交差点を見渡した。(キレイだとインデックスははしゃいだ)

    商店街を見て回った。(こちらもインデックスは驚いたりはしゃいだりした)

    公園に行った。(ブランコの乗り方を教えた)

    映画館も覗いた。(ワケわからん二本立てを寝ながら鑑賞した)

    図書館にも行った。(インデックス「科学は知識の開示に積極的なんだね」 上条「だからって借りすぎです! 一冊に絞りなさい!」 インデックス「この絵本とこの絵本は絶対なんだよ!」 仗助「せめて二三冊にしろよ。これから色々回るんだからよぉ~」 上条「はいじゃあコレとコレとコレな」 インデックス「あぁ~~ッうぅ~~!」 上条「えーもおーもない。それに今日いっぺんに借りなくたって……」 上条「また借りにこれるだろ」)


    時間が過ぎるたび――インデックスが笑顔になればなるほど――上条当麻は、言い知れぬ感情が胸に蓄積されていくのを感じた。


    ――上条当麻は思う。

    『今日』は大多数の人間にとってなんでもない夏休みの序盤そのイチでしかない。
    俺達にとって、一秒はこんなにも重いのに。


    「とうま」

    「ぎゃあーーッ!?」

    「きゃあーーッ!?」

    「い、いきなり声かけてくるんじゃねえ! しかもこんなところで!」


    こんなところ――お化け屋敷である。
    今日の締めはありきたりに遊園地だった。
    ちなみに東方仗助は「こーゆー関係は無理無理無理ィ」ということだった。

    112 = 1 :



    「とうまが勝手に驚いただけかも」

    「……悪かったよ。そうむくれんなって」

    「? 今日の当麻は優しいかも」

    「あーそれで? なんか言いたいことあるんだろ?」

    「あ! そう、じょうすけって、ナニモノなのかな?」

    「……ふむ」


    度重なるアクシデントで後回し後回しにしていたが、やはりインデックスも気にかかっていたのだと上条当麻は思った。

    上条当麻は東方仗助について少ししか知らない。

    転入生である。
    普段は温厚かつダルダルな不良だが、髪型をけなされるとプッツンくる。
    理由は尊敬している人の髪型だから。
    M県出身。
    魔術師をぶん殴った経験アリ。
    上条当麻にしか見えない『透明の腕』を持っている。


    「『透明の……腕』」

    「ああ。自覚してるかはわからねえけど、プッツンした時に出せるみたいだな。しかも、俺の『右手』も通用しないときたもんだ。ありゃ一体……」

    113 = 1 :



    「うーん。とうまの『右手』は異能を打ち消す。それは間違いないかも。でも『異能の源』は消せないみたいだね」

    「? ……どういうことだ?」


    遠くで他の客の悲鳴が聞こえた。


    「魔術の『源』は術者の生命なんだよ。もし生命力自体を無効化することで魔術を打ち消してるなら……」

    「!」


    インデックスの手が『右手』に触れた。


    「こうやっただけで私は生命力を打ち消されて死んじゃうはず」

    「ふ、ふーん……」

    「もしかして『パワー』を消すんじゃなくて、調和させてるんじゃないかな」

    「調和?」


    インデックスは『右手』を握ったまま、もう一方の手で空中に心電図のようなものを描いた。


    「魔術や超能力を使ってるときはこんな感じ。こんな風に乱れた世界の調和を……」


    一本横線を引く。


    「均一な形に直すんじゃないかな? 逆に考えれば『透明な腕』は『乱れた力』じゃない……だから打ち消せないのかも」

    「うーむ。クラークの三法則に『高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』ってのがあるけど……
    『透明の腕』は『高度に発達した、ヒトが当たり前に持ってる力』ってことか。そんなもんがあるのか?」

    「あるよ」

    「その心は?」

    「『底力』。ありていに言えば『根性』だね」

    「はあ」

    114 = 1 :



    「だから感情が高ぶった『やってやるぞー』状態の時にしか発動しない。とうまの目に見えてるのは、その根性から発露した『生命エネルギーのヴィジョン』にすぎないんじゃないかな」

    「なるほど……納得……でるようなできんような……。まあ、お前が上条さんより頭いいってのはわかった」

    「!」


    上条当麻はゆっくりインデックスの手を握り返した。


    「あいつの力がなんにせよ、あいつはお前のために命がけで戦ってくれた……それだけで十分じゃないか?」

    「そうだね……そうかも」


    インデックスは穏やかに微笑む。
    ふたりはそのまま出口を目指した。



       → TO BE CONTINUED....


    115 = 1 :





     第六話「地図にない道」




    116 = 1 :



    「……うぉぉ~~~」

    「戻ってきてみれば……なにやってんです東方さん」

    「いや、図書館で脳医学の本を借りてきたんだけどよ~、これがさっぱり理解不能。シナプスって何? 海馬って社長? 
    (神経心理学的観点からは局所大脳機能低下を背景とする高次神経機能障害が音韻情報処理過程の障害だけでなく、視覚情報処理障害をも誘発してるとみなされる)
    理解不能! 理解不能!」

    「うん、とても日本語とは思えん」

    「お、その気持ちなら理解『可』能」


    「とうまぁ~~!」


    2人が見やれば、『 遊園地、満喫してます! 』 とばかりの格好のインデックスが手を振っていた。上条当麻も手を振り返す。
    けだるそうに頬杖ついていた東方仗助が口を開く。


    「おめーらってデキてんの?」

    「ぶっ!?」


    そういわれて初めて上条当麻は自分の行動が軽率だったと知った。
    2人っきりで遊園地だのお化け屋敷だの、まるっきりカップルの所業じゃねえか。


    「バッ……カ言うなよ! 昨日の今日に会ったヤツだぜ!?」

    「でもよぉ~あいつおめーに懐きまくりじゃあねーか」

    「気のせいってヤツですよ! それにフラグでいうならお前だって、一晩ベッド貸したり街中デートしたりと立ちまくりじゃないですか! 
    俺にとってインデックスは妹みたいなものでッ、恋愛感情など皆無なんです! ハイ!」

    「パウッ!」

    「うげぇっ!!?」


    後ろから小指で刺された。
    怒髪天をついた風情のインデックスは、もだえ苦しむ上条にプイッと背を向ける。


    「じょうすけ、私今度はあれ乗ってくるんだよ」

    「お、おう……いってら」

    「くうっ うふ! がはっ!」

    「おい大丈夫かよ~~上条よぉ~~」

    「は、肺の中の空気が1cc残らず搾り出される感覚だ……! インデックスのヤツ……!」


    涙目で見上げると、インデックスがコーヒーカップに乗り込むところだった。
    多分、どんな乗り物かは知らないだろう。
    開始ブザーが鳴る。

    117 = 1 :



    大方の予想通り悲鳴を上げて回るインデックスを見つめながら、上条当麻は思わず呟いた。


    「楽しそう、だよな」

    「おう」

    「でもこのことも……このままじゃ、忘れちまうんだよな」


    『右手』には、まだ彼女の体温が残っている。

    守らなくては。上条当麻は強く思った。
    この残酷な運命が彼女の笑顔を奪うことは許されない。インデックスはいつでも無邪気に、自分のそばで笑っていて欲しい。
    魔術師達と比べれば、なるほど自分が彼女と過ごした時間は短いものかもしれない。
    でもこの気持ちだけは同じだと感じている。


    彼女を、守りたい。この手で。
    彼女を、救いたい。この手で!


    それこそ彼らが狂おしい回数、身を切るほど願ったのだろうその言葉。
    俺が叶えるんだ。
    俺が、何とかしてインデックスを――あの『不幸』な少女を――笑顔を――! 『守る』!


    「東方ッ 俺、」

    「上条。俺はやっぱ無理だぜ」


    上条当麻は東方仗助の顔を見た。
    彼は半眼でインデックスを見つめている。

    118 = 1 :



    「……なんだって?」

    「俺ァやっぱ無理だぜ~あいつに『あのこと』秘密にするのはよぉ~」


    上条当麻はすぐ思い至った。
    一年ごとの記憶消去。『インデックス』ゆえの、呪われた運命。


    「なんでだ? 言わないって約束しただろ、あの2人と」

    「っつってもよ~~本当にそれでいいのかよ? だって記憶を消されるのはインデックス本人だぜ?」

    「……それでも駄目だ。東方、あいつの気持ちも考えてみろよ。そんな残酷な運命語られて、あいつにどうしろって言うんだ? 見てみろよ」


    指差した先のインデックスはきゃあきゃあと声を上げている。
    澄んだ笑顔で。浮かれた声を上げている。


    「楽しそうだよな……あいつはいつだって楽しそうだ。俺はあの笑顔を守りたい、ずっとあの笑顔を見ていたいと思ってる。
    だのに俺自身の手であの笑顔を曇らせちまったら……本末転倒なんだよ」


    「スッとろいこと言ってんじゃあねぇッスよ」

    「!」


    東方仗助の雰囲気が一瞬だけピリッとしたものになった。
    しかしそれは本当にほんの一瞬で、彼はすぐ決まり悪げにセキをした後、「悪ィ」と呟いた。


    「俺だって『 覚悟すりゃあ幸福だ 』とまでいう気はねーョ。ただ『 どうせわからねーから 』『 どうしようもねーから 』って理由で蚊帳の外にすんのは……
    なんつーか、カワイソウっつーか、オトナのジジョーで選択肢まで奪っちまっていいもんかって思うんだけどよ~……」

    「……」


    「妙な考えは起こすな、と言ったはずだよ」


    いつの間にか、神裂とステイル=マグヌスが背後に立っていた。

    119 = 1 :



    東方仗助は面倒くさそうに振り返る。


    「妙なっつってもよぉ~~ちょっと言ってみただけじゃあねえか~」

    「そうは聞こえなかったけどね」

    「いやいや待てって」


    手を振る東方仗助に、神裂火織がニコリともせず告げる。


    「これは警告ですよ。もしも彼女に真実を……」

    「真実」


    上条当麻が、ぼそりとそれをさえぎった。


    「そうだよ……真実なら、言ってやるべきじゃねえか……?」

    「!? 貴様ッ」


    ステイルの台詞を待たず、


    「悪ィ東方! 前言撤回だ!」

    「俺が行く……俺が話す……俺が話したいんだ! 俺の口から話させてくれ!」


    言うなり彼は走り出した。
    折りよく足元ふらふらのインデックスが出てきたところで、上条当麻は彼女へと一直線にかけていく。


    「待て……ッ!」


    後を追おうとしたステイルと神裂火織の前に東方仗助が立ちふさがる。


    「グレートだぜ、上条」


    120 = 1 :



    東方仗助の肩越しに、インデックスと上条が見える。
    驚いた顔の少女。その手を、少年はしっかりと掴んでいた。
    遠ざかっていく背にステイルは焦る。


    「どけ!! 君だって事情はわかっているはずだろう! 僕達が……何十回と彼女との思い出作りと記憶の消去を繰り返してきた僕達が……彼女に真実を教えたことがないと思っているのか!」

    「じゃぁ~なんで今回は教えちゃあ駄目なんスかぁ~~?」

    「『 どうしようもないから 』 だ!! 教えても、彼女が悲しむだけだからだ! それを知ってるからだ!」

    「じゃあ、なんで今回も駄目だっつーのがわかるんスか?」

    「……ッ」


    ステイル=マグヌスは思わず押し黙った。
    神裂火織は黙したままだ。深い色の瞳がじっと彼らを見つめている。


    「あんたら 『 あきらめてる人 』 ッスよねぇ~~……だったら、もう 『 あきらめてない人 』 に任せちまってもいいんじゃあねッスか?」

    「経験を積んだものだからこそッ わかることもあるんだとは君のセリフだろう!! 『 あきらめ 』 は経験から来る感情だ! 
    君らのノーテンキ思考は絶望を味わったことがないから言えるものにすぎない!! 同じ轍を踏ませまいとする僕らの気持ちがわからないのか!!」


    表情を変えない東方仗助に、ステイル=マグヌスははっと目を見開いた。


    「貴様ッ……『 経験させろ 』 だの何だの言ってッ! 最初っからこのつもりだったな!!」

    「あー 俺ァ上条みたくベラベラ喋れねーからよぉ~~あっさり言っちまうと……『 ここは通さねえ 』」

    「このッ」

    「やめましょう、ステイル」

    「神裂!」

    「どの道、今から追っても間に合いません……」


    彼らの目指しているのは観覧車。
    あの距離ではどんなに急いでも、ギリギリゴンドラに滑り込まれてしまうだろう。
    いったん入られたら邪魔立てするのは難しい。


    「彼らの熱意が……私達の熱意を上回った。そういうことですよ」


    ギリ、と歯噛みするステイル。


    「しかし」


    神裂火織の瞳が、まっすぐ東方仗助を映した。


    「もし真実を打ち明けることで彼女に何かあったら……そのときは、今度こそ 『 死 』 を覚悟してもらいます」

    「おーおー白無垢で切腹でもなんでもドーゾ」


    東方仗助の瞳は揺らがない。
    そこにあるのは彼自身の意志であり、上条当麻への信頼でもあった。

    121 = 1 :



    「と、とうま!? どうしたの!? どこに行くの!? ねえとうま!?」


    振り返りもせず、上条当麻はただただ走った。


    『 オトナのジジョーで選択肢まで奪っていいのか 』?


    東方仗助の言葉が反復される。

    そのセリフ。
    それだけのセリフが、上条当麻の心のどこかをプッシュした。


    上条当麻は思い出す。

    春になったら一年生。ランドセルを鏡の前で背負ってみたりしていたくらいの時期のこと。
    父親から唐突に学園都市へ送られる旨を伝えられた。
    「あっちのほうが楽しいから」なんて説明ともいえない説明を受けて、気づけばあれよあれよという間に話は決着していた。

    今になって考えてみれば、あれは幼稚園での深刻ないじめが原因だったのだろう。
    自分は不幸体質だから、そのせいで友達に怪我をさせることが多く、結果、園内では遠巻きにされ、大人からも気味の悪いものを見る目で見られるようになった。
    はなはだしくは包丁で刺されたこともある。
    疫病神としてテレビに映されたこともある。


    けれど、今自分が鮮明に思い出せるのは、そんな最低な思い出なんかじゃあなく、転校を伝えられたその日の記憶なのである。


    確かに友達はいなかった。
    不幸なことばかりで、泣き通しだった。
    それでも自分はあの町が好きだった。
    あの家が好きだったし、幼稚園にもちょっぴりくらいは愛着があったのだ。

    自分は自分で前向きに生きていたのに、それらをすべて否定された気分だった。
    あの日父は、母は、どうして自分に相談してくれなかったのだろう。

    子どもだから。
    知ったって仕方ないから。
    どうしようもないから。
    それらがすべて、お前のためだから。






    「……~~クソくらえだッ」

    「とうま……?」

    「インデックス!」


    不安げにこちらを見る少女に、上条当麻は大声で呼びかけた。


    「俺はこれからお前にひどいことをいうかもしれない! 苦しめることをいうかもしれない! でもそれはお前だけの苦しみじゃあない! 
    お前の苦しみは俺の苦しみなんだッ! 
    だからもう怯えなくっていい!! お前の進む道はお前が決めていいんだッ!! 
    もしもそれを邪魔するヤツがいたら俺がぶん殴ってやるから! 俺が全部、ぶっ飛ばしてやるからッ!」

    「インデックス! お前は俺が 『 守って 』 やるッ!!」


    ポカンとしていた顔が、みるみるうちに笑顔で輝きだした。


    「……うん! 私、とうまとならどこに行ったって怖くないんだよ!」

    122 = 1 :



    ステイル=マグヌスは、神裂火織は、東方仗助は、二人の消えた向こうを見つめる。

    真実を聞かされた彼女は、何を思うのだろうか。
    悲しむだろうか。泣くだろうか。苦悩するのだろうか。
    どれにせよ、彼女は決断しなければならない。

    運命を受け入れ、穏やかにその時を待つか――。
    抗い、苦しみの道を歩むか――。


    ――ゴンドラが、動き出した――。

    123 = 1 :



    二十分後。
    転がり落ちるように飛び出してきたインデックスは、100mを5秒の勢いで、まっすぐふたりの魔術師の元へと走ってきた。

    神裂火織は戸惑った。
    すべてを知った彼女は、一体自分にどんな感情を抱いたのか? 怒り? 悲しみ?
    もしかしてぶたれるかもしれない。
    いや、ぶつ価値もないと思われているだろうか?

    ステイル=マグヌスも戸惑った。
    彼女が走りよってくる。
    いつか見た、あの日の無邪気さで。あの日の必死さで。あの日の鮮やかさで。
    僕はどんな顔で彼女を迎えればいいのだろうか?


    ――ああ、こちらを見つめる瞳の、なんとまっすぐなことよ――。


    ふたりの行動は同時で、同様だった。



    「じょうすけ~~~!!!」


    そして、抱きとめる形に腕を広げた二人の魔術師を、少女はあっさり迂回した。

    灰になった2人に上条当麻はかける言葉を見失う。


    「じょうすけ! じょうすけ!」

    「おーおー落ち着けよ、どうしたインデックス」

    「私の荷物!! 早く見せて!」

    「あ~~わかったからちょっと抱きつくなってぇ」


    「ステイル」

    「とめてくれるな神裂」

    「そうではなくて……彼女は何をしているんでしょうか」


    アレでもないコレでもないと猫型ロボットのようにバッグの中身を放り投げるインデックスへと二人の視線が移る。


    「あったー!」


    そしてとうとう、彼女は『 あるもの 』を掲げて歓声を上げた。
    ステイルの顔が一気に胡散臭げなものになる。


    「『 月刊エレクトリックボゥイ 』……『 科学 』、雑誌か?」

    「ほらここ! とうま! ここに書いてあるんだよ! 『 私の記憶は確かなんだよ! 』」


    バンバンと破る勢いであるコラムを示す。
    全員がその記事を覗き込んで――みな、見る見るうちに形相を変えた。

    124 = 1 :




    【 まるで“人間DISC”~脳の潜在能力を探る~ 】


    (サヴァン―― 賢人、あるいは天才の意。特定分野で常人には及びもつかない能力を発揮する特殊体質・あるいは症候群の名称。
    名付け親であり、かの有名なJ.R.D.博士は「ローマ帝国衰亡史」を一字一句そらんじた男の話を、驚きと共に報告している)】

    【 …………アメリカユタ州在住のP.K.も、その超人的な記憶力で注目を集めている。
    彼は、普通ならめまいがするほどの膨大な情報を短時間で記憶し、しかも正確無比に必要な情報を取り出すことができるという…………
    …………「P.K.は幼いころから読んだ本を、まるでディスクにコピーするかのように完璧に暗記することができました。
    地図でも同じです。彼は世界中の町という町の地図をすべて覚えてしまっています。
    そして、それだけの膨大な記憶を詰め込んでも、彼の“DISC”は決してクラッシュすることはないのです」と彼の父親は語る…………
    …………しかも彼は今まで確認されたサヴァンに見られるような知的障害・自閉症などの障害は確認されず………… 】


    125 = 1 :



    「ちょ、ちょ、ちょいちょい待てよ~~つまりこりゃああれか? 記憶の圧迫で人間が死ぬなんつーことは『ありえない』……そーゆーわけか?」

    「そういう……」


    ステイル=マグヌスはタバコを口から離した。


    「わけです、ね……」


    神裂火織は口を押さえた。
    インデックスは本を抱きしめる。


    「図書館で借りた本だよ、とうまがこれを選んでくれたんだよ!」

    「……!」

    「とうまのおかげなんだよ!」

    「いや……気づいたのはお前だ、インデックス。おまえ自身が道を開いたんだ!」

    「……うん!」



    「う……うううぅ……うおおおおおおおおーーッ!!」


    神裂火織は吼えた!
    彼女は地獄の底でクモの糸を見つけたというカンダタの気持ちを知ったと思った!


    「うおおおおおおおおおッッッ!!」


    ステイル=マグヌスも吼えた!
    彼はキリストの復活を目にした信徒の気持ちを理解したと思った!


    「きゃあああああーー!!!」


    インデックスも吼えた!
    よくわからんが吼えた!


    「うおおおおああああああ!!!」

    「ぎゃーーーはははははははーーー!!」


    少年達も吼えた!

    その時、確かに!

    彼らの心に光がともった!

    彼らの気持ちは同じだった!

    ――ありがとうッ! ユタ州のP.K.ッ!!

    ……とッ!

    127 = 1 :



    「すみません取り乱しました」


    場所は再び上条当麻の部屋。
    神裂火織は深々と三つ指を付いた。


    「いや、神裂の気持ちにはえらく共感するよ。なにせ絶望したところにやっと見つけた光だ」

    「俺達もハイ! になってたしよ~」

    「上条さんの勘違いかもしれませんが、全員10mほどフライしていたような気すらします」

    「人間にはまだまだ未知の可能性があるんだね」


    神裂火織は顔を上げた。


    「しかし、記憶の圧迫が原因でないなら……何らかの魔術がかかっている、と考えるのが妥当かも知れません」

    「でも俺は何度も『右手』でインデックスに……あー、触れてるぞ。ってことはまだ触れてない部分があるってことか?」


    全員の視線がインデックスに集まる。


    「触れてないところ……か」

    「触れてねーところ……ねえ」

    「な! ななななななな何を考えてるだーーッお前らはッッ!! ばかかッッバカなのか君らはヴァカとしかいいようがないボギャーッッ!!!」

    「ステイルー! あなたもですよ仮にそーゆー……そーゆー……うおおおおおおおおおッッッ!!」


    腐っても全員ティーンエイジャーだった。


    「まじめに考えるんだよ!」

    『はい』


    ちょっと反省した一同だった。

    128 = 1 :



    「だがよ~触れてねーっつーんなら体内しかねーんじゃあねーか?」

    「な、内臓とかにあったらさすがに無理だぞ」

    「それはないでしょう。そんなところにルーンを刻めるとは思えません」

    「一瞬で腹をぶち抜いて治す、って魔術があるなら話は別かもしれないがね。ま! まずありえないだろ」


    カンカンガクガク。
    ドンドングダグダ。

    結局「口の中とかありじゃあね~のぉ~~?」との意見から喉の奥を調べてみると……。


    「……あっさりあったな」

    「まさか……こんなものが彼女の体に……」

    「おえ? あに? ろんらもろがあうの?」

    「上条よ~これお前の指届くかぁ?」

    「ああうん、多分……」

    「ちょ! ちょっと待ってください! それは彼女の命を蝕むほどの魔術ですよ! 触れたら何が起こるか……」

    「え?」


    だが遅い!
    既に上条当麻の『右手指』は、ルーンに触れている!


    「こっ……このド素人どもがァァーーッッ!!」


    神裂火織は切れた。



    瞬間。

    129 = 1 :




    「うあァッ!?」



    上条当麻『右手』ごと跳ね飛ばされ、



    「上条!?」



    インデックスの体が浮き上がり、



    「こ、これは……!」



    彼女の瞳に魔法陣が浮かび上がった。




    「―― 警告。第三章第二節。第一から第三の全結界の貫通を確認。『首輪』の危機的状況と判断し、『自動書記(ヨハネのペン)』を起動しました。『首輪』の再生準備……失敗」


    その表情はうつろでまるで感情を感じさせない。
    まるであの時のステイルのような、いやそれ以上に機械じみた声でインデックスは続ける。


    「現状十万三千冊の書庫の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」


    守るべきものからの、宣戦布告だった。




       → TO BE CONTINUED....


    130 = 1 :


    ――今日はここまでです――

    131 :

    P.Kに腹筋もってかれた

    133 :

    乙ー
    インデックスが自ら間違いに気づくというのは新鮮でした。あと喜びすぎて10m飛翔ワロタwwwwww

    134 :

    じゃんけん小僧思い出した
    『ボーイ・ツー・マン』だっけ?あのスタンド名

    135 :


    しかし仗助はThe Bookで完全記憶能力持ちの蓮見に会ってるわけだが

    136 = 126 :

    乙! 今回は色々笑ったwwwwww

    >>135
    THE BOOK読んだことないけど、いつの話になるんだ?
    この話がそれより以前の話なら問題ないのでは?

    137 = 132 :

    THE BOOKは4部のすぐあとみたいね
    そんなに離れてはないはず

    139 :

    今回はペンデックスたんハァハァと、ユタ州在住のP.Kさんありがとう。

    140 :

    なんだろう…ユタ州のP.Kさんに寺生まれのTさんと同じものを感じる……

    142 :

    >>135
    琢磨もスタンド覚醒以前は記憶の混濁で鬱になってなかったか?

    143 :

    >>135
    手元にないから確認できないんだけど、あれはスタンドの影響じゃなかったっけ?

    144 :

    >>142
    蓮見にあった症状はインデックスには出てないね
    逆に蓮見もパンクなんかしないし
    >>143
    逆に記憶の混濁を克服するためにスタンドが出た

    145 :

    >>144
    症状が全く違うならアドバイスできないのは当たりまえじゃね?
    この仗助が琢磨に会ってるかはともかく

    146 :


    よし。投下します

    147 = 1 :






    第七話「アナザーワン インデックス」





    148 = 1 :



    ギパアッ。


    インデックスの瞳が 『 ひずむ 』 や、その場の全員を衝撃波が襲った。
    机とベッドが吹っ飛び、全員の体が壁奥に叩きつけられる。


    「『 書庫 』 内の十万三千冊により結界を貫通した魔術の術式を逆算……失敗。
    術式の構成を暴き、対侵入者用の 『 特定魔術(ローカルウェポン) 』 を組み上げます。
    ――侵入者個人に対する最も有効な魔術の組み合わせに成功しました。これより特定魔術・『 聖ジョージの聖域 』 を発動、侵入者を破壊します」


    インデックスの体は宙に浮き、淡く輝いている。
    その瞳から魔法陣が広がり、前方に展開した。同時、黒い裂け目が部屋全体を覆う。


    「これってよぉ~~」

    一変した状況の中、東方仗助が口を開く。

    「なんつーか精神的にクるものがあるよなぁ~~たとえるなら自分のおふくろがいつの間にか化けモンになって襲ってきたような状況っつーかよ~~」

    「やかましい! そのうっとおしい喋りをやめろ!」

    ステイル=マグヌスが叫ぶ。
    彼も今の状況についていけてないのだ。

    「やめろっつってもよ~俺ぁこーゆー喋り方だしってこれ言うの二回目だ」


    あの落ち着きようはどこから来るのだ、と上条当麻は一巡して感心した。
    『 余裕 』 は 『 自信 』 の裏返しだ。
    あるいは魔術師と対峙できた自分のように。大柄な男どもに絡まれても恐怖しない能力者のように。

    ――あいつは 『 対抗手段 』 を持ってる……?
    ――『 透明の腕 』!?

    149 = 1 :



    メギ……
    メギ……
    メギ……

    グゥワッ!


    「!」

    魔方陣の輝きが増すや、亀裂の中心から直径1mほどの光の柱が撃ち出された。
    上条当麻はとっさに走り出て 『 右手 』 を突き出す。


    ジャキィィィィィンッ!!


    「うッ……くッ!」

    光の奔流は打ち消しても打ち消しても連続で襲ってくる。
    どういう構造か彼には窺い知ることもできなかったが、『右手』の処理が追いついてない――その危機だけは、実感として彼に伝わった!

    いまだかつてない『質』の異能に上条当麻の体は徐々に後退して行く。


    「うっ……ぐおおおおおおおお!!!」

    「『 Fortis931 』!!」

    「『 Salvere000 』!!」


    ステイル=マグヌスの黒衣から無数のルーンカードが飛び出し、壁と言う壁に貼り付けられていく。
    同時に 『 七閃 』 が床板をはがしてインデックスの足元をすくい上げる。

    グラリ。

    インデックスの体が不安定に揺れ、宙に浮いたまま仰向けに倒れた。
    視線に連動して光の柱も天を向き、天井を易々と貫く。


    「君に協力するわけじゃあないぞ、彼女を正気に戻すためだ」

    「ここは私達が食い止めます。その 『 右手 』 で彼女を、早く!」

    「ステイル……神裂……」

    そこで上条当麻は思った。


    「何やってんだ東方ァーー!!」

    「いやだってスケール違いすぎるんだもんよぉ~」


    オープンキッチンの向こうに隠れたリーゼントは、やや情けない調子で返した。


    「さっきまでの余裕はなんだったんだよ!」

    「聖人を追い返したほどだ、君も相当な手練れなんだろ」

    「もしやあの力は近接型? ならば今の状況では分が悪いでしょうが……」

    「いやいや、俺あんたらみたいな高スペックねーし」

    「とぼけんなふざけんな本気出せよいい加減! こっちゃうすうすお前の秘密にも感づいてんだよ!」

    「え? マジで? そう、俺ポマードよりワックス派なんだよ実はぁ~」

    「ハイ最高にどうでもいいその秘密ー!」

    「バカやってる場合か能力者ども!!」


    グゥゥゥンッ。

    インデックスの体が起き上がり、光の柱が再び迫る。

    150 = 1 :



    「魔女狩りの王(イノケンティウス)!!!」


    炎の人影が光を受け止める。
    その時、空からハラハラと淡く輝く羽毛が舞い降りてきた。


    「これは……『 竜王の吐息(ドラゴンブレス) 』!? 術の本体である光の柱がッ 天井・床を砕くと同時に、残骸を攻撃に変換したッ!? 
    気をつけてください! この 『 光の羽 』 一枚一枚が聖ジョージの伝説に出てくる竜の一撃と同義です! 少しでも触れたら大変なことに……!」

    「こっ……このパワー! イノケンティウスでもどこまで抑えきれるかわからない! 急げ!」

    「言われなくたって!!」

    「――警告。第六章第十三節、新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。現状、最も難易度の高い敵兵・上条当麻の破壊を最優先します」


    インデックスの瞳が上条当麻を捉える。魔術もそれを追って彼を貫こうと動くが、イノケンティウスがそれを阻む。
    光と炎は互いにぶつかりあい、再生と破壊を延々と繰り返す。
    光と炎が散りあう中を、上条当麻はひたすら走った。
    見慣れた自室を全速力で。
    目の前の大切なものを止めるため。


    「インデックスゥーーー!!」


    あともう少し。
    あと一歩踏み出せば。あともうちょっと手を伸ばせば――届く!
    その時。













    ドサリ。


    『 何か 』が、2人の間を阻むように 『 落ちて 』 きた。


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