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    元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」

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    151 = 1 :



    「な……!?」


    知らない顔だった。
    見たこともない服だった。
    けれど。
    だからこそ。
    上条当麻は、死ぬほど動揺した。


    「なんで……! 『 俺は 』……! これは、『 まさかッ 』……!!」


    インデックスとそれを交互に見るうち、上条当麻の頭の中で、だんだんと答えが出来上がっていく。
    ただそれは、恐ろしすぎる考えだった。


    「お……」


    上条当麻は後退る。



    「俺の部屋はッ! 『 七階 』 だったッ!! 『 八階建ての七階なんだ 』!!!」



    それだけで全員がすべてを悟った。

    目の前にボロ雑巾よろしく落ちてきたのは、魔術に体を貫かれた八階の住人だったのだ。

    153 = 1 :



    「そんな……そんな、そんな……!」

    神裂火織は壊れたレコーダーのように繰り返した。

    「『 私のせいだッ 』、私があの子の攻撃をそらした……! 私があの子を人殺しにしてしまったッ!!」


    ステイル=マグヌスもまた心臓にツララを打ち込まれたような気分だった。
    これは……『 夢 』 か?
    そうだ……あの子が人を傷つけるなんて……『 夢 』 に決まってる。
    その精神を反映するように、イノケンティウスの動きが鈍くなっていく。


    「――警告。第二十二章第一節。炎の術式の逆算に成功。曲解した十字教のモチーフをルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中――……」


    上条当麻は自身の息が上がっているのに気づいた。
    八階の住人に触れようと思うのに、震える腕がそれを許してくれない。

    神様――。
    こいつはただ、上の階にいたってだけなんだ。
    そうだろう?
    こんな目に遭う義務も因果も何もなかったはずだ。
    それなのに、なんでこんなことになってんだ?

    『 こうなっていたのは俺 』 だ! 神様ッ!
    こうなるべきは俺だったんだ!


    その時、上条当麻の脇を横切った者がいた。

    154 = 1 :



    「おい!? おい!! しっかりしろよ! おい! とっとと息をしろっつってんだよォーーコラァーーッ!!」

    「東方……」


    いつの間に駆け寄ってきたのか、東方仗助だ。
    だけど、もう無理だ。いくら呼びかけたって無駄だ。
    それはお前も触ってりゃわかるだろう?
    そいつはもう――。

    「……」


    東方――?


    『 今日は厄日なんだよ! 』


    ――ちょっと待て。


    『 この前衛的デザインにされた服を~! 』


    ――なにか忘れてないか?


    『 傷が…… 』



    「東方ァァァァーーーーーッ!!!」


    一気に闘志が湧いてきた。
    患者を揺さぶるだけの東方仗助に駆け寄り、胸倉を掴む。

    「『 透明の腕 』 だッ! 俺の傷も治した! インデックスの服もいびつだが直した!! そいつはまだちょっぴりだが生きてる! 治せるはずだ、違うか!?」

    「ハァ!?」

    「『 透明の腕 』 は 『 なおす 』 能力だった! ボケボケしてくれるな! 今この状況でお前の力を隠す必要があるか!? いーやッ! ないね!!
    本気出すのは今なんじゃあねえのか! そうだろうがよ!! 『今』だ! 『今』なんだ! この絶望を吹っ飛ばせるのはお前しかいねえ!
    『 根性 』 見せてくれよッ! 東方仗助ェーーッ!!」

    「上条……」


    東方仗助の瞳が丸くなって彼を凝視した。
    瞬間、上条当麻は 『 恐ろしい予感 』 にとらわれる。

    そんな――まさか――それは最悪の幻想だ――だが――……


    「……俺ァ」

    ――俺の知ってる東方仗助は――

    「おめーが何言ってんのか、わかんねー……」

    ――こんな時に 『 自分の都合(かくしごと) 』 を優先するヤツだったか――?

    「……は、」


    最悪のタイミングではっきりした。
    東方仗助は、自分の能力に気づいていない。

    155 = 1 :



    上条当麻は理解した。
    あの行動は、あの言動は余裕じゃない。
    虚勢でもない。
    そういう性格なのだ――。

    あの時のように都合よく傷を治せるだろうか?
    いや、それならとっくに、東方が八階の彼に触った時点で 『 それ 』 は起こっているだろう。
    意識下で能力を発揮するのが死ぬほど難しいことを、『 レベル0 』 の上条当麻は痛いほどよく知っている。
    おまけにこの状況。プレッシャーが死ぬほどかかる。
    そんな中で力を使うことが可能か――?

    つまるところ――上条当麻は、絶望した。

    指先から力が抜け、胸倉から手が離れる。
    その 『 右手首 』 を、がっしりと掴んだ手がある。


    「けどよぉ~……」

    「ひ、」

    「おめーがこんな時にくだらねージョーダン言うやつじゃあねーってこともわかってんだよ、俺は~」

    「東方……」

    「おめーができるっつーんならそうなんだろーよォ」


    東方仗助の掌が、少年の胸に押し当てられる。


    「信じるぜ、上条ァッ!」


    瞬間!
    東方仗助の掌が『 二重になった! 』


    「!?」

    「でッ! 出たッ!! 『 透明の腕 』ッ!」


    ズキュン!


    「う……」


    まさに!
    瞬きするような一瞬!
    その一瞬で少年の体は、何事もなかったかのように完治していた!

    156 = 1 :




    「うう……僕は一体何を、って何コレ!?」

    「当て身」

    ドスッ。


      ~~とある男子高校生の日記~~~

      今日は姉御肌のお姉さんに首の後ろを突かれました。
     『 当て身 』と言ってましたが、あれはどう考えても『 当て鞘 』だったと思います。

      ~~~~~~~~~~~~~~~~


    157 = 1 :



    「ホヘェ~~~……なぁ、今のって俺の超能力なのかぁ?」

    「いや……」

    上条当麻は、しっかり掴まれた自分の 『 右手首 』 を見た。

    「そこんとこだが、俺にもよくわからん」


    「――聖ジョージの聖域を第二段階へと移行。『 神よ、なぜ私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ) 』」


    ハッと全員がインデックスを見る。
    光の柱が赤い光線となってイノケンティウスを貫いた。

    「! イノケンティウス!」

    「東方! こいつを運んで俺の後ろに下がれ!」

    「おおお!?」

    間髪いれず自分に向かってきた光に向け、上条当麻は 『 右手 』 をかざす。

    が! 
    その時だ! 影がひとつ!
    彼らの前に飛び出してきた!


    「神裂!?」

    「はぁぁぁぁぁあッッ!!」


    抜刀し、赤光を受け止める!

    158 = 1 :



    「はやまったか神裂! ドラゴンブレスを人の身で受け止めるなど!」

    「私はッ!」


    ステイルの叫びに、神裂火織もまた大声で答えた。
    その瞳はしっかりと前を見つめている。メキメキと自身の刀が悲鳴を上げているのを聞いても、怯えも恐れもその瞳には映らない。


    「私の心はさっきまで死んでいました! 彼女に……あの子に人を傷つけさせてしまったと絶望していました! 
    いいえ! きっとずっと前から! 彼女を記憶の消去から救えないと 『 あきらめた人間 』 になってから、ずっと私の心は死んでいた!
    東方仗助! あなたはほんの一瞬でその絶望から私をすくい上げてくれた! 
    上条当麻! あなたの行動が私の心に息を吹き返させてくれた! 
    だから私は……あなた方を 『 守らなければならない 』! 今! はっきりと! そう感じている! あなたもそうではないのですか!? ステイル!!」


    「……ッくそ! 勘違いするんじゃないぞ! これっきりだからな!」

    ステイル=マグヌスの両手から炎が巻き上がり、光の奔流を押さえ込む!

    「早く彼女をッ!」

    「行けッ! 能力者!!」


    みなまで聞くまでもない。
    上条当麻は既に、走り出していた。


    「うおおおおおおおおッ!!!!」



    ――神様。

    ――世界があんたの作る、この理不尽なシステムでできてるっていうんなら……。



    「まずはその幻想をッ ぶち殺す!!」



    ――『 右手 』 がとどいた。

    159 = 1 :


    インデックスの頭に触れたとたん、『 聖域 』 が内からはじけるように消し飛ぶ。
    光が消えた。
    瞳の魔方陣も、トイレットペーパーが水に溶けるように薄れて消えていく。

    ドサッ。

    少女は、力なく床に倒れこんだ。


    ――やった。

    ――インデックスを、やっと、インデックスを救い出せたんだ。


    遠くで神裂たちの声が聞こえたような気がした。
    なんだ? なにそんな、険しい顔で叫んでんだ?
    もう終わったんだぜ?

    その時。
    上条当麻の視界に輝く羽毛が映った。
    少年と少女の周りを囲むように舞い落ちてくる羽が。


    『 この「光の羽」一枚一枚が聖ジョージの伝説に出てくる竜の一撃と同義です! 』

    『 少しでも触れたら大変なことに……! 』









    え。やばい。

    160 = 1 :



    「上条ォ!!」


    次に上条当麻が見たのは、こちらに飛び込んでくる見知った顔だった。


    「ばっ……!」


    上条当麻の頭に光の羽が落ちかかる。
    その間に東方仗助が滑り込んでくる。
    そして、その頭に 『 光の羽 』 が――。


    ドシュンッ。




    直撃しなかった。

    「お?」

    「え?」

    「な!? 光の羽が!」

    「空中で静止してるだとォ!?」

    少年2人は事態を把握できず、魔術師2人には事態の全貌が 『 見えなかった 』。
    上条当麻は見えていた。
    『 透明の腕 』 が光の羽をつまんでいるのを!


    「いや……違う!」


    東方仗助の体からゆっくりと出てくるものがあった。


    「腕だけじゃあない! これは……ッ、これは!」

    161 :



    上条当麻は見えていた。

    頭頂部が心臓(ハート)の形のヘルメット。
    頑強な肉体に身に着けたプロテクター、首の後ろから肩にかけてを繋ぐパイプのようなもの。
    ヘルメットから除く瞳は好戦的だが、どこか優しげな光を湛えている。

    それがッ!
    それがッ!
    それが 『 透明の腕 』 の全体像だった!

    東方仗助の体から発現した人型のヴィジョン!
    傍に立つ者!(stand by me)


    「『 透明の戦士 』!!」



    『 ドララララララララララァーーーッッ!!! 』


    実にッ!
    実に奇怪な光景だったッ!
    神裂火織・ステイル=マグヌスは見た! 
    光の羽がビデオの逆再生のように残骸に戻り、天井に、壁に、床に 『 直っていく 』 のをッ!

    上条当麻は見た! 
    『 透明の戦士 』 の繰り出す拳がッ、光の羽を 『 直す 』 瞬間をッ!


    そして、東方仗助は――。


    「どッ……」

    『……』

    「どちらさん……ッスか?」


    腰の抜けたまま問うと、『 透明の戦士 』 は 『 やれやれだぜ 』 と言いたげな顔になって、バシュゥゥンッと東方仗助の体に 『 戻った 』。
    東方仗助は何度も自分の手を握ったり開いたりした末、


    「あ、俺か」


    合点がいったようである。

    162 = 1 :



    「――警告。最終章第零節。『 首輪 』 の致命的な破壊。再生は不可能」

    『!』


    全員の視線が集まった。
    すなわち彼女、インデックスに。


    「こいつまだ……!」

    「自動書記も一部が損壊。『 首輪 』の結界を貫通した力と同様のものと見られます。逆算は不可能。『 自動書記 』の再生準備……」


    上条当麻の腕の中で、インデックスは感情のない人形のように淡々と語る。
    驚愕に染まっていた上条当麻の表情は、それにつれて険しいものへ変わっていった。


    「お前は……インデックスじゃない。インデックスの姿をしただけの無機質なコンピュータだ……あのインデックスに……平気で人を傷つけさせる、魔術仕掛けの殺人マシーンだ! 
    てめえが……ッ、てめえなんかがインデックスの意識を乗っ取っていいわけねえ! いいはずがねえ!」

    「――再生失敗。被害の確認……」

    「てめえがいつまでも、悪夢のようにインデックスに付きまとうってんなら……!」

    「現状を――」

    「まずはその幻想をぶち殺す!」


    パシィッ。


    「――確認します」

    163 = 1 :



    振り上げた 『 右手 』 は、自動書記に触れることなく阻まれた。
    上条当麻は信じられないものを見る目で東方仗助を見た。
    彼が右手首を掴むのは二回目。だが、その意味合いは全く違っていた。


    「東方! お前ッ……なんでだよ! なんでとめるんだよ!」

    「……なにも殺すことはねーだろ」

    「こいつはインデックスを操ってたんだぞ! 操って、インデックスに人殺しさせるところだったんだ! こいつが壊されるのは当然の 『 罰 』 だ!」

    「だったら俺らも 『 罰 』 ってのを受けなきゃなんねーんじゃねーのか? うかつに喉の魔術に触っちまったからこんなことになったんだしよォ……」

    「……ッ!」

    「チッと落ち着けよ、上条。『 何も殺すこたァねーだろ? 』」


    上条当麻はしばらく苦い顔をしていたが、やがて右手の力を抜いた。


    「……悪い」

    「いや、俺こそワリかった」


    それだけで大体の意思疎通はできたようである。
    少年らはお互いに苦笑を交し合い、魔術師達はどこかほっとしたように肩を落とす。


    「――現状の確認を完了」

    インデックスが再び口を開く。

    「現在、この自動書記および禁書目録を攻撃する意志を持った人間はこの空間内に存在しません。
    次の行動を打診……術者・ローラ=スチュアートとの交信は確認できず。自動書記はこの場における最良の判断を実行します」


    「な……!?」

    「なん……だと……?」


    魔術師2人は絶句し、よろめいた。

    164 = 1 :



    ハテナを飛ばす少年二人を無視し、ステイル=マグヌスは「あの女狐……」と呟いた後、「いや、それよりも」と頭を振った。


    「『 この場における最良の判断を実行 』 だと? ……ありえない」

    「何がだよ?」

    上条の質問をまたもステイルは無視する。代わりに神裂が答えた。

    「『 自動書記 』 はその名の通り、自動操縦型の魔術です。しかしその動作は自動ゆえにごく単純」


    たとえばスプリンクラーは炎を感知して水を撒き散らすことはできる。だがそれだけだ。
    感電の危険がある場所を選りわけて消火するなんてことは不可能である。
    それと同じに、『 自動書記 』 もあらかじめインプットされた行動しかできない――はずなのだ。


    「けれど今の彼女の言動には、『 自分で選択し行動する 』 というニュアンスが含まれています。だからありえないんです」

    ステイルは落ち着いたのか、落ち着くためか、タバコに火をつけた。

    「魔術はどんな系統だろうと術者とつながっている――鎖につながれた犬みたいにね。どうやらその『 鎖 』が、上条当麻、君の『 右手 』でブチンッと断ち切られてしまったらしい」

    「しかしその場合機能停止に陥るのが普通ですよ。やはりこの状況は……異常です」

    「つまりこういうことか? 『 自動書記 』ってやつは今……自動を超えた『 自立書記 』になってる?」

    「「Exactly(その通りだよ/です)」」

    165 = 1 :



    「でよぉ~、コイツはこれから何しようってんだ?」

    「はい。この自動書記の最重要目的である『 首輪 』の防衛は既に不可能となっています」

    会話というか、応答をしたことに一同はぎょっとした。

    「したがって現時点より最重要目的を『 総体意識の保持 』にシフトしました。対象はこの自動書記です。……現時点において最も脅威のある力を認識。仮名称 『 透明の戦士 』」

    ギョロンとインデックスの瞳が東方仗助を向き、彼は思わず身を引いた。


    「観測開始……失敗。解析……不能。残存する魔術書による対応策の検討……不明。
    今後同様の力を有する敵対者が現れた場合、この自動書記は深刻な被害を受けると予想されます。
    『 透明の戦士 』 は個人名・東方仗助の生命に大きくかかわるものと結論。したがって、東方仗助に対する解析が現時点で最も有効な策と判断しました」

    「……なぁ、もうチッと俺にもわかるよーに説明してくんねえ?」


    答えはない。


    「対象者・東方仗助を解析……失敗。対象者の能力(生命エネルギー)を外部から観測することは不可能です。したがって、内部からの観測を行います。
    判断の検討……許可。『転送』の『扉』を開くため、一時的に対象者の思考力・精神レヴェルを大幅に下げる必要があると思われます。手段の検討……完了」

    「寝そうなんだがよ」

    「許可しません」

    「うおっ」

    自動書記は唐突に仗助の頬を両手で挟んだ。

    「術式の移動を検討……許可。残存する情報の転移準備……完了。すべての情報はこの自動書記の管轄化に置かれました。午後七時四十六分、転送を開始します」



    ズキュゥゥゥン。


    166 :

    さすがインデックス!

    167 = 1 :



    いやむしろズキーーーン……。といったところか。

    瞬間、ステイル=マグヌスの咥えタバコが灰になり、神裂火織の七天七刀がメシッときしんだ。
    上条当麻がトマトになって、声もなく二人を指差す。

    東方仗助はこちらをガン見する瞳を、これまたガン見していた。
    唇になにやらやわらかい感触がする。


    ――おお理解。思考力ね。なるほどガッツリ削られた。納得――いや、やっぱり解せぬ。


    『――完了』


    頭の中で声が響くと同時、インデックスの体ががくんと沈んだ。
    その体を上条当麻が慌てて支える。
    東方仗助は腰が砕けたままズリズリと退って、口元を押さえた。


    「ぐ、グレ~~ト……俺のファーストキスが……」

    「純愛派……なんだな」


    この状況だけでも相当なのに
    同じポーズで石化する 『 透明の戦士 』 をも目にしてしまった上条当麻は
    それでも、ようやっとそれだけを口にした。


    168 = 1 :



      ~~~


    『 まったくよくもやってくれたな木が足りないので割愛。
    一応君らにも知る権利はあると思うので、あの子とあの子を取り巻く環境について説明してやろう。
    僕らの所属する必要悪の教会(ネセサリウス)のほうでは一刻も早く禁書目録を取り戻したいようだったけれど、僕達をだましていたことについて問い詰めたらあっさり現状維持ときやがった。

    そうそう、だますといえば「自動書記」の行方については、あの場にいたものだけの秘密ってことにしておいてくれよ。
    「鎖」がすべて砕かれたと知ったら、さすがに教会側も行動を起こすかもしれないし、その原因が魔術の自立化なんて荒唐無稽もいいところだ。
    僕なら馬鹿か阿呆の疑いをかけるだろう。


    さて、いくつか疑問があるだろうから解説しておくよ。

    まず、あの時――思い出すのもクソ忌々しいが、あの「純愛派事件」の時――何が起こったのかについて。
    結論から言わせてもらうと、「自動書記」はあの子の保護を放棄した。
    なぜか? 答えはたった一つのシンプルなものさ。
    「自己防衛」だよ。
    アレは自立化した瞬間、あの子や「書庫」の防衛よりも自らの保身を優先したんだ。
    だからあの場で最も未知のパワーを持つあの忌々しいコンチクショウに「よりしろ」を変えた。
    あのヤロウの中に入ってしまえば、少なくともあの未知の力(透明の戦士? だっけ?)で攻撃される恐れはないしね。
    それだけだ。他意はない。多分、絶対に。

    問題なのはここからだ。
    アレは行きがけの駄賃に――あの子の蔵書(まあ、十万冊にも満たないだろうが)を勝手に複製して持ち出してしまいやがった。


    「禁書目録・劣化版コピー(アナザーワン インデックス)」の完成だ。一大事だよ。
    露見したら、僕らだってタダじゃおかれない。
    「自動書記」の行方を秘密にしてるのはそのせいでもあるのさ。

    結果的にあのコンチクショウや君を庇う形になったのは誤算だが。まったく、返す返すも誤算だね。

    まっ! そういうわけで、せいぜい枕を高くして寝やがるといいさ。

    あと、間違っても魔術書を開こうとしないことだ。今は自動書記が管理しているからいいが、常人が見たらほぼ確実に狂って死ぬ。
    僕としては一刻も早くそうなって欲しいと願っているがね。


    次にあの子自身について。
    あの子はまだ魔術を使えないはずだ。
    彼女の魔力は、長年自動書記の管轄化に置かれていたからね。
    今の彼女はガソリンはあるけどエンジンのない車のようなものだ。論理は知ってる。魔力もある。けれどそれを解放する術を知らない。って具合に。
    彼女はまだか弱い一人の女の子に過ぎないってことを忘れるんじゃないぜ。


    というわけで、彼女はしばらく君に預ける。ちなみに、これは別にあきらめて君にあの子のことを譲ると言う意味ではないよ。
    僕達は情報を集め、しかるべき装備が整い次第あの子の回収に挑むつもりだ。
    寝首を掻くのは趣味ではないので、首はよく洗って待っているように。



    P.S. 東方仗助の下唇をひきちぎってくれるなら、全財産君に譲渡してやる』

    169 = 1 :



    「……なんだそりゃ」

    「あ。とうま!」

    「うおっ!?」


    ボンッ。

    爆発音と共に、手紙は跡形もなく消えた。


    「~~ッぅ~~! あのヤロー、あの後どこかに消えたと思ったらこんな手紙寄越してきやがったと思ったらこんな手の込んだ嫌がらせしやがって……!」

    「仕掛け式のルーンだね。きっと誰かが読み終わったらこうなるようになってたんだと思う」

    「解説どうもインデックスさん!」

    爆発の衝撃にヒリヒリする手を振って、上条当麻は「不幸だ……」とため息をついた。


    「あ」

    「ん?」

    と、インデックスの歩みが止まる。
    つられて上条当麻も足を止め、彼女の視線を追った。

    自動販売機がひとつ。
    その赤いベンディングマシーンは種類は豊富だが選択に困ると言うことを上条当麻は知っている。
    側面には打撃跡のようなものがいくつも重なって残っていることも知っている。

    そのよく知った自動販売機の前で、人差し指をかまえたまま動かない人物が一人。
    その姿に、覚えがあった。

    170 = 1 :



    上条当麻は歩み寄り、彼の隣に並んだ。


    「どれもこれもコメントに困るラインナップだよなー」

    東方仗助は彼をチラッと一瞥した。
    上条当麻もなんとなく自販機を見つめながら続ける。

    「あー……あのあとどうだよ? 『 透明の戦士 』 調子いい?」

    「さぁ、あれから出たり入れたりの練習はしてんだけどよ~……当麻はよぉ、いつもどれ買ってんだ?」

    「そりゃ、あー……」

    「あん?」

    「いや、仗助くんは炭酸は飲める派ですか」

    「フツーに飲む派」

    「なら 『 ヤシの実サイダー 』 とか、この中じゃ結構クセがないほうだぜ」

    「じゃーそれ」

    ガダゴンッ。

    「あと言い忘れてたけど」

    「あったかッ!!」

    「この自販機よく壊れてっから」

    「先に言えよおめーよぉ~~!」

    アチアチと指先で缶をいじくっていた東方仗助の動きが、不意にピタリと止まった。


    「――警告。第一章第二節。本体・東方仗助がイレギュラーと認識した物体を確認。……危険性は皆無と判断」

    プシュッ。
    暗い目でぶつぶつとつぶやいた末、東方仗助はプルタブをひいた。

    「味も見ておきます」


    ゴバゴバゴバゴバッ。
    すがすがしいほど一気飲み。
    のち、目に光が戻ったかと思うと、東方仗助は缶を握りつぶした。


    「これなんとかなんねーのかよぉ~『透明の戦士』? の使う練習してる時もしょっちゅう出てきて練習になんねーしよ~」

    「いや、見てる分には面白いぞ」

    「私は昔の自分見てるみたいで複雑なんだよ」

    「おめーだけだぜインデックス~」

    「うんうん、最近の能力者は体を乗っ取られたことがないから困るんだよー」

    「あれちょっと待って、上条さんハブ!?」


    あれこれと騒ぐ上条一行を見つめる瞳が、二対あった。

    171 = 1 :



    「楽しそうだね……忌々しいくらい」

    「彼らはあの子にとってのヒーローなんです。楽しいのは当然でしょう」


    ステイル=マグヌスは神裂火織の言葉にフンと鼻を鳴らした。


    「すべては偶然だよ。
    あの子が学園都市に迷い込んだのも偶然だし、東方仗助が下らない思い付きをしたのも偶然、上条当麻があの本を選んだのも偶然だし、あの雑誌にあんな記事が載せられてたのも偶然だ。
    ……彼女が救われたのは、偶然の結果さ」

    「けれど、もしこの世界が偶然の積み重ねでできているとするなら……感謝するべきでしょう。私達を引き合わせた、この『運命』に……」


    今度は否定の言葉を口にすることなく、ステイルはもう一度インデックスたちを目に映した。
    神裂火織も黙して彼女達を見守る。


    「『運命』か……人の出会いってのは、運命で決められてるのかもしれないな……」


    こうして――。
    夏休みのとある日々は、多くの人間にとって当たり前に過ぎていった――。



                  → TO BE CONTINUED....


    172 = 1 :



    とりあえず第一章、完ッ!
    せっかくのお披露目だったのにペンデックスさんが出張ってごめんよCD。

    というわけで今日はここまでです――。

    173 :


    ちなみに承太郎さんは出るんですか?

    174 = 166 :


    パラレル設定か
    コーイチくんとか出番ないのか(´;ω;`)

    175 :

    一週間後
    仗助の記憶のDISCを持った承太郎がッ!

    ってことにはならないですよねわかります

    176 :

    おちゅ

    177 :

    乙!
    おまえの素晴らしい作品ッ!
    ぼくは敬意を表するッ!

    178 :

    おつおつぅ!

    179 :

    オーノーッ!
    あのインデックスが!ペンデックスがッ!!
    ステイル!今回ばかりはおめーの感想に全面的に同意するぜーッ!

    180 :

    億泰来ないのかなぁ

    181 :

    4部はジョジョたろーさんが出ないとはじまらないしなあ

    182 :

    広げすぎずにしっかり進めてたたんでほしいぜ。期待してる乙。

    183 :

    4部好きな自分としてはふざけんな!ってところがあるけど見るよ
    頑張ってくれ

    184 = 1 :



    間田「ここまでご拝見……? ご拝読……? ドーモありがゴニョゴニョ……
    で、>>173-174ォ……『出るか』なんて考えなくていいんだよ……>>1がんなもんよぉ~~~~考えてるわけがねーだろーがよぉ~~~~~~」ボソボソ

    サーフィス「いちおー大筋はあるンスけどねぇ~気分によって挿入するかもって話ッス。
    んで、どーしても入れれソーにねーのはこんな感じに消化していくんでぇ~(よーするに俺らは出てこねーってことね)」

    間田「いや構想はあったんだよ、まじめによ、上条当麻に上っ面ってそげぶ対決とかよ~」ボソボソ

    サーフィス「ぶっちゃけただの殴りあいッスよね」

    間田「それにこれ以上自立タイプが増えたら収拾つかなくなるとか何とか」

    サーフィス「で、ボツッ!」ギャハ

    間田「野郎! (バギアッ) あいいいいィ!でえーーーーッ!!」

    サーフィス「大丈夫ッスかァ~~バカっスねェ~~俺『木』なんスよ……」

    間田「うるせえッ!! もう行くぞ、俺のクツ拾ってこい!」

    サーフィス「うィ~~~ッス」


    サーフィス「マァ~~そーゆーわけでェ、第二章のとっかかりはチコッと遅くなるかもしれねッスけど、気長に待っててくれると嬉しッス、ハイ。そんじゃま、あざざ~っしたァ~~」

    185 :

    要は、ペンデックスが擬似スタンドのような存在になったってことか?

    186 :

    間田の再現巧すぎてわろた

    187 :


    おはようございますッ
    気持ちのいい朝だから投下するよー

    188 = 1 :






    第八話「昼下がりの一大事」





    189 = 1 :



     意外だと思われることが多いが、御坂美琴は根暗である。
    少なくとも根暗思考である。と、本人は思っている。
    笑顔を振りまき、人当たりよく接することは誰だってできる。要はその笑みに何が含まれているかだ。


    私の場合は厭世だ、と御坂美琴は考える。

    いや、厭都市、といったほうがしっくりくるだろうか。


    何もマジで自分の住むこの 『 学園都市 』 を嫌ってるわけじゃあない。
    ただ、こういう夜はどうしてもひねくれた気分になるのだ。



    舗装された道を決められたとおりに歩く通行人。
    ほーら、歩行者の美しい幾何学模様ができているだろう?
    作り上げた人間たちの几帳面さ、そして他者への興味のなさがよく分かる。


    「ね~~~え、いいだろお~~~? ちょこっとそこまで遊びにいこおぜぇ~~~?」

    「常盤台のお嬢様の制服じゃん。いやしかしほんとカワイイねェ~」

    「おーおー、おめードコまでイってナニする気だよお~~」


    ギャハハハハ。

    本当に、こんな夜はいやになる。
    御坂美琴はため息をつきたくなった。

    別に、道行く彼らが薄情と言うわけではない。

    誰だって自分がかわいい。私だって自分がかわいい。

    だから見てみぬふりをするのは当たり前。
    見ず知らずの人間のために、そんなことする(柄の悪い不良どもに囲まれている女の子を助け出す)奴がいるとしたら、そいつはただの馬鹿か……


    「アァ!? ナニ見てんですかァ!? テメーッ!!?」

    「はぁ……見るっつーかなんつーか……その子嫌がってんじゃねースかね~……」

    「すっこんでろよハンバーグ頭がぶしッ!!?」


    ……ちょっぴり中身がマシな同類か。

    温厚そうに近づいてきたくせに容赦なく不良そのイチをぶん殴ったレトロ髪の男を見て、
    御坂美琴はそう結論付けた。


    「アァ~~ッてめーよくもサブをッッ!!」

    「ブッ殺してやるッ!!」

    「あぁ~!? 上等ッスよコラァ~~!! かかってきやがれェァ!!」

    「え、ちょ……!」


    言う前に御坂美琴の目の前を、不良そのニがぶっとんでいった。
    レトロ髪の乱入者はそれを見もせず不良そのサンの顔面をえぐる。
    そこに不良そのヨンが後ろから蹴りを入れた。
    ふらついたレトロ髪を持ち直したそのサンのボディーブローが襲い、さらに横っ面を張り飛ばされて、レトロ髪は地面に倒れこんだ。

    思わず駆け出そうとした御坂美琴は、次の瞬間ギクリと足を止めていた。


    レトロ髪はニヤニヤ笑っていた。
    唇を切ったらしく口元から血を流しながら、それを指でぬぐいながら明らかおかしなテンションの笑みを浮かべていたのだ。

    190 = 1 :



    「な、なにがおかしいんだよぉ~~」

    「ハァ~~? おかしい? おかしいって? グレート! 知能がバカなのかよぉ~てめーはよぉ~おかしいわけねーだろ……
    チッともおかしなことなんてねーーーッ!ぞコラァーー!!」

    「ぎゃああーーッこいつおかしい!」


    その通り。完璧イッてる。

    多分本人もなんで笑っているのかそもそも笑っているのかすらわかってない。
    ギャーハハハハハーと奇声を上げながらそのサンの顔面に膝を打ち込む。
    逃げようとしたヨンの襟首を掴んで頭突き、のち前蹴り、おっぱああ!! と腹を押さえてがら空きになった延髄に組んだ両手を叩き込む。

    レトロ髪は瞳孔開いた目をギョロッと残りの不良に向けた。


    「て、ててててめえ!」

    「なななめてんじゃにぇーぞ!!」


    レトロ髪は(ゲーム的なたとえだが)防御を全部攻撃に変換したようなケンカっぷりだった。

    相手から殴られても蹴られても意に介さない。
    手近の相手を一匹捕まえてはボコボコにする、をひたすら繰り返す。
    またベッコベコの顔面になった不良が一人、御坂美琴の足元に放り出された。
    御坂美琴は思わず目を背ける。


    彼女は、ある程度の荒事には慣れているつもりだった。
    だがそれはあくまで能力者同士の抗争のこと。

    彼女の場合は電撃で。だから血を見ることなど滅多にない。
    彼女はまったく知らなかった。

    人を拳で殴るとどんな音がするかだとか。
    殴られた人間がどんな風に苦しみどんな怪我を負うのだとか。


    「……ッ!」


    返り血を浴びた人間の笑顔はどれだけ壮絶なのかだとか。

    ふらふらと後退りした彼女の腕を、誰かが掴んだ。


    「こっちだ!」


    いつの間に現れたのか、ツンツン頭の男がなれなれしくもこっちの腕を掴んで輪から引っ張り出そうとしているのだ。

    191 = 1 :



    「だ、誰よアンタ?」

    「いいから早く! 俺はさっき来たばっかでよくわかんねーけど不良のケンカに巻き込まれてんだろ!?」


    叱責され、御坂美琴は初めて自分が乱闘の中心にいることに気づいた。
    ということは、この男はわざわざ危険を冒してここに来たということか。

    自分のために? 自分を助けるために?


    「どこも怪我はねーな!? 大丈夫か!? 顔真っ青じゃねーか!」

    「あ……」


    へえ、この町も中々悪くないと思った


    「どうした! 腰ぬけたか!? ああクソッ、大体なんでこんな時間にガキがうろちょろしてんだよ、見た目はお嬢様でもまだまだ反抗期も抜けてねーガキってことですかい……?」


    瞬間ズドーンと落とされた。


    「きっ……」

    「木?」

    「聞こえてんだよッッッダボがァァーーーッッ!!!」


    学園都市に7人しかいない 『 超能力者<レベル5> 』、
    超電磁砲(レールガン)の力を余すことなく放出した結果、乱闘中の不良ごと 『 ダボ 』 は黒焦げになった。


    「……!」


    はずだった。

    192 = 1 :



      ~~~


    はじいたコインをまた掴む。
    指のコイン越しにボーーッと眼下の町を見下ろしていた御坂美琴は、不意に勢いよく身を乗り出した。


    「あいつッ……!!」


    階段を使うのももどかしく、御坂美琴はそのまま歩道橋から飛び降りた。


    193 = 1 :



    「すッ……すげー! グレート! ビューティフル! 本当に今朝踏んづけて壊した携帯が直ったぁーー!!」


    上条当麻は狂喜した。
    理由は上記のとおりである。


    「すげーよお前のこの力! あなた(携帯)がそこにただいるだけで、不幸だった気分が幸せ街道を時速240キロで駆け抜けるッ! 
    ヴェリーナイスですよ仗助くんー! 天使のような存在だぁお前はァーー!!」

    「おーおー、現金なヤツだなおめーはよぉ~」


    今にも抱きつかんばかりの上条に反比例して、東方仗助はヴェリークールである。
    両手を広げて飛びついてくる上条の頭をだるそうにグイグイ押しやっている。


    「いえいえマジに! 感謝しているのですよ!」

    「まぁ、今こーゆーことができるのもおめーのおかげだしィ、気にするこたぁねーよ」


    つまるところ、以前はこんな風にほいほいと 『 力 』 を行使することはできなかった。
    原因は彼の中にいる 『 自動書記<ヨハネのペン> 』 である。

    『 透明の戦士(仮) 』 の観測のためか、力を使うたび意識を乗っ取られる。
    それどころかほんのささいな事象(水が冷たくてビックリとか滑って転んでこけたりとか)でも意識乗っ取りのきっかけになる。
    本体を守るためだというのが自動書記の言い分だ。

    (「警告第何章何節」とか言って出てくるけどぜってえテキトーだろ。おめー出てきてぇだけだろ。との東方仗助の追求にはノーコメントだった)

    はなはだしくは便器の前でジッパーを開けたところに出てきたこともあったので、一度腰を据えて話し合うことになった。
    方法はごく単純。


    ①東方仗助が自分の意見を録音する。

    ②録音したテープを上条当麻が自動書記に聞かせる。

    ③自動書記が意見を録音する。

    ④上条当麻が東方仗助にテープを聞かせる。


    以下繰り返し、アイデア提供者は上条当麻である。
    そこで決められた協定は


    一.東方仗助は自動書記に体を提供する。『 透明の戦士 』 の解析も許可する。

    一.自動書記は東方仗助の許可なしに意識を乗っ取らない。

    一.自動書記は東方仗助およびインデックスおよびその周辺の人物に危害を加えない。


    三行にまとめるとこんな感じだ。
    かくして脅威は去った。
    となればもう、これから力は使いほーだい直しほーだいというわけである。
    そして今日一番が上条の携帯だった。

    194 = 1 :



    「不肖この上条当麻! この恩は墓に入るまで忘れませんッッともッッ!!」

    「じゃあ代わりといっちゃなんだけどよー飯の作り方おせーてくれよ」

    「ははっ! このわたくしめのオットコ料理でよろしくばっ!」

    「なんか俺がやるとすげーまじーんだよなぁ~もったいねーから材料別に 『 なおして 』 冷蔵庫に入れてんだけどよぉ~」

    「なにそれ便利すぎません!?」


    わいのわいのと騒ぐ上条当麻に、ふっと影が落ちた。
    見上げればそこに短パン。


    「……!?」

    「あんたァァーーーッッ!!」


    身をかわせば、さっきまで上条たちがいたところを重いキックがえぐった。
    飛び降りてきた少女は、二人――いや上条当麻をビシィッと指差す。


    「なんであんたがそいつと一緒にいるのよ!」

    「まず出会いがしらに攻撃してきたことに対して言うことはないんかい、ビリビリ中学生!」

    「ビリビリじゃない! 御坂美琴様と呼べ! ……じゃなくて! なんでアンタがその不良と一緒にいるのよ!」

    「その不良……っておいおい、人を見かけで判断するなよな。確かにこいつは不良っぽいけど……これはあれだ、ファッションみたいなもんだ、な?」

    「嘘付けッ! ……もしやとは思うけど、因縁つけられてたんじゃないでしょうね」


    ギロッと睨まれて、東方仗助は困ったように頬を掻いた。


    「はぁ? なんで俺が仗助に因縁つけられるんだよ?」

    「あんたは黙ってなさい! ちょっとあんた!」

    「どっちもアンタでわかりにきーなオイ」

    「うるさいわね! とにかく、このアホに構う時間と精神の余裕があるなら、とっとと失せたほうが身のためよ。
    前みたく電極刺したカエルの脚みたいにヒクヒクさせられたいわけ?」


    言ってまたビシィィッ! と指差せば、
    不良少年は「はぁ~~~……?」と頭を掻いた。


    「なにボケた顔して……ってまさか…………あんた、忘れたの? この御坂美琴のことをッ」

    「あぁ~~……悪ィけどよ~どっかで会ったか?」


    御坂美琴は見る間に頬を染めた。
    恥じらいではない。念のため。


    「このみそっかす! 悪いのは頭の趣味だけに……」

    「いわせねえよ!?」


    瞬間、奇跡のような速度で上条の手が御坂美琴の口をふさいだ。

    195 = 1 :



    ドドドドド
    ドドドドドドドド
    ドドドドドドドドドド
    ドドドドドドドドドドドド


    「……」

    「……」

    「……」


    緊張した面持ちの上条。
    つられて唾を飲む御坂。
    そして東方仗助は顔を上げる。



    「みそっかすはよぉ~ひでーよ、なぁ?」


    「あ、ああー! そうだな! さすがにみそっかすは酷いよなぁー!」

    「むごっ! むごぉ~!!」


    と抵抗する御坂美琴に上条当麻は顔を近づけた。


    「いいかビリビリ。命が惜しかったらあいつの頭の事はとやかく言うんじゃねーぞ」

    「……~~!」


    至近距離にますます頬が染まる。
    それを酸欠と理解したらしく、上条当麻は「あ、わりぃ」と言って彼女を解放した。


    「ふっ……ふっ……!」


    御坂美琴はふらふらとその辺の手すりにすがりついた。
    耳まで真っ赤である。
    心拍数は収まるところを知らない。
    演算がめちゃくちゃになって体が勝手に放電する。


    「ふっ……!」

    「ひっひー?」

    「ふぅ?」

    ワナワナワナッ。


    「ふざッッけんなァァーーー!!!」


    ドゴーンッと雷が落ちた。




    「待ちなさいあんたら! 逃げてんじゃないわよーー!」

    「なんであいついきなり切れてんだよぉ、神裂もだけどあいつも相当のプッツンだぜぇ~!」

    「まったくだまったくだぜまったくその意見には同調せざるを得ない!」

    「なんですってェー!? 人がせっかくあんたを心配……するわけねーだろォーー!!」

    「うわあああ!? なんなんですかもおォー!?」

    196 = 1 :



      ~~~


     上条当麻の朝は遅い。
    どだい、高校生男子に一人暮らしさせて、規則正しい生活を送れというほうが無理な話だ。
    というわけで今朝は腹ペコシスターに頭を噛まれての起床となった。


    「だああーーッ! 不幸だァ~~~!」

    「おははへっはんふぁほ、ほうは!」

    「お腹減ったのはわかったから俺を食わないで! 
    ……ううくそっ、まだ七時半じゃねえか……補習に間に合うぎりぎりまで寝てるつもりだったのに……」

    「とうま、おなかへったんだよ!」

    「はいはい……ってうおお!? なんじゃこりゃ!?」


    ベッドそばのテーブルには結構な量の封筒と紙が散乱していた。


    「なにって、手紙だよ?」

    「そんなことはわかってんだよ。俺が聞きたいのはッ どうして見慣れぬ開封済みの手紙がここに散らばってんのかってことだ!」

    「下の郵便受けから取ってきたんだよ」

    褒めて褒めてと言わんばかりにフフーンと胸を張るシスターの鼻にチョップが炸裂した。

    「ひだーい! なにするのかな!」

    「お前だ! 人の手紙を無断で開けるなんて、どういう神経してんだよ!」

    「だって魔術のロックも封蝋もされてなかったんだよ、だったらみんなの手紙だもん、開けていいに決まってるんだよ!」

    「どこの世界の常識だッ……って、そうか、お前の世界の常識か」


    上条当麻は燃え尽きるほどヒートした頭を気化冷凍した。
    どっかとあぐらをかいて座り、インデックスにも座るよう促す。


    「いいか? 教会ではどうだったか知らねえけど、ここでは人の手紙を見るのは悪いことなんだ。もう絶対にしないでくれよ?」


    そこでなぜか、インデックスはじとーーっとした目でこちらを見つめてきた。
    わかったよとうまごめんなさいなんだよグスングスンはははよきにはからえ的な展開を予想していた上条当麻にとってこれは予想外の事態だった。

    197 = 1 :



    「な、何だよその目は」

    「なんか怪しい。ここは科学の町なんでしょ。なら大事な手紙にはロックくらいかけるんじゃないのかな。
    ボタンひとつで助けが呼べるくらい発展してるのに、手紙だけ無防備なんて変なんだよ」

    「妙なところで知恵まわしてんじゃねえ! だいたい俺が嘘ついたことなんてあったか?」

    「あるよ」

    「即答ッ」


    「テレビは小人が出入りする箱だとか、掃除機はごみをエサとするバイオ生物だとか、バスの特急はジェットコースター並みに早いとか……
    自信満々に言ってじょうすけに大笑いされたんだよ」

    「うっ」


    過去の俺!
    あのくだらない遊び心は予想外の結果を生んだぞッ!

    ……って違う違う。
    上条当麻は頭を振る。


    「いや確かに一理はあるかもしれんが、これは本当だって。本当」

    「ふぅ~~~~ん」

    「信じてくれってマジで……」


    言えば言うほど疑惑を深める状況に、上条当麻は心底嘆いた。


    「いいもん。じょうすけに聞けば本当のこと言ってくれるんだよ!」

    「っておい、お前朝っぱらから押しかける気か?」

    「もうお昼すぎなんだよ?」

    「ふーん…………」




    「って、え」

    目覚まし時計が止まっていた。




    「ふ、不幸だーー!! インデックス、飯は冷蔵庫になんかあるから適当に食っといてくれ!」

    「あ、逃げる気だね!」

    「補習なんだっつーの!!」


    ドタバタと出て行く上条当麻を、
    インデックスはふくれっ面のち、ベーーッと舌を出して見送った。

    198 = 1 :



    シスターインデックスは考える。


    「とうまはああ言ってたけど、やっぱり怪しいんだよ。ここははっきりさせておかないと、これからまたとうまにからかわれちゃうんだよ……!」


    そこで彼女は隣の部屋のドアを叩く決心をした。

    「……?」

    ノックしようとした手がふととまる。
    扉の郵便受けに、真っ白な封筒が挟まっていたからだ。
    シスターはそれを抜き取って、改めてとんとんとドアを叩いた。


    「じょうすけ、じょうすけー」

    「おー、インデックスじゃあねーか。どうした?」


    ガチャッという音と共に見慣れた髪型が出迎える。


    「人の手紙って見ちゃいけないの?」

    「……藪から棒にホントになんだよ。マー、基本駄目なんじゃあねーの?」

    「本当だった」

    「あん?」

    「なんでもないんだよ。はい、じょうすけに手紙だよ」

    「あー、これ届けに来てくれたのか。ありがとよぉ」


    そこでインデックスは、その手紙に差出人どころか宛名もあて先も書いてないことに気がついた。
    あれで目的地に届くのかな?
    『 届くのかも、ここは教会とは全然違うもん 』。

    そして東方仗助の顔を見て、インデックスは再び小首をかしげた。
    まるで虫嫌いが虫を触ったときのようないやーな顔をしていたのである。

    裏を見て、表を見て、またいやーな顔。
    その場でベリベリ封筒を破いて中身を確認する。
    手紙を開いて目を走らせる、その間東方仗助は無表情だった。といってもそれは十秒にも満たなかったが。

    東方仗助はすぐインデックスの視線に気づくと表情を和らげ、手紙もポイッと適当なところにほうってしまった。


    「ところでよぉ~おめーのとこは平気だったか? 停電」

    「テーデン?」

    「昨日どっかの誰かさんのせいで電気が止まっちまってよぉ~おかげで冷蔵庫の中身全滅だぜ。もったいねえよなぁ~」

    「冷蔵庫……!?」


    カッとインデックスの目力が強まった。
    出て行く寸前の上条当麻の言葉が脳内をよぎる。縦横無尽によぎりまくる。



     ――冷蔵庫になんかあるから適当に食っといてくれ!

       ――冷蔵庫になんかあるから適当に食っといてくれ!

         ――冷蔵庫に……!



    インデックスの瞳が絶望に染まった。
    どうしよう。
    未曾有の大ピンチかも。

    199 = 1 :



    「ああ……ッ あああぁぁ……!」

    「おいなにもよ~~そこまでショック受けるこたぁねーだろぉがよ~」

    「だって! つまり今の状況は! 今日一日食事をせずとうまの帰りを待たなきゃいけない! ということなんだよ!」

    「おいおい、誰か忘れちゃいねーかぁ……?」

    「一体何を……ハッ!?」


    シスターは瞳に光を宿らせて少年を見た。


    「じょ……じょうすけ!」

    「ところで俺ァ魔法のカードを持っている!」


    ドジャァァーーン。

    少年はさっきの封筒を拾い上げ、『 魔法のカード 』 とやらを取り出した。
    海苔のように真っ黒なカードだ。


    「魔法?」

    「そーそー。これさえあればよぉ、どんなものでも好きなだけ買い物ができるんだぜぇ~」

    「どんなものでも!? 好きなだけ!?」


    チラチラ鼻先で振られるカードを、インデックスは首ごと動かして追いかける。


    「もちろんメシだろーがなんだろーが、いっくら食っても……このカードを見せりゃ……」

    「見せれば……!?」

    「タダだ!」

    「きゃぁぁあ~~!」

    「わーッはっは~~! つーわけで外食でもいくか~インデックスよぉ~」

    「ほんとになんでもいいの!?」

    「おう、いっくらでも食べていいぞ、いくらでも。すべてこの仗助くんに任せなさ~い!」


    使う言葉は頼もしいが、そこに一種捨て鉢なものを感じてインデックスは首をかしげた。



    「「……」」


    が、すぐ忘れた。
    寮を出たところに名状しがたいものが落ちていたからである。

    200 = 1 :



    「……」

    「人が倒れてるよ」

    「巫女が倒れてんな」

    「つまり巫女の人が倒れてるんだよ!」

    「でもよぉ~なんでこんなとこにだよ? ここは寺じゃあねーぜ(マッ、見りゃわかるけど)」

    「まさか……これが噂のジャパニーズ IKIDAORE!?」

    「噂になってんのかよぉ、ヤベーな日本」

    「この症状の人には何か食べさせればいいって聞いたことがあるんだよ! 
    和食ならオスーシ、洋食なら靴底くらいのステーキを!」

    「巫女さんだしなぁ~和食のほうが利きそうな気がするぜ、なんとなくよぉ~えーと、この辺に寿司屋は……」



    「つ……」


    そこで初めて倒れていた巫女が言葉を発した。


    「つっこみ。不在」


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