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    元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」

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    201 = 1 :



      ~~~


    「なーんだ、おなか空いてたんじゃなくて食べ過ぎてたんだね」

    「くいだおれ。とも言う」

    「しかし本当に倒れてるこたァねーだろーがよぉ~~なにもよぉ~~」


    回る寿司屋のカウンターに三人は並んで座っていた。
    向かって左からシスター、巫女、リーゼント。
    一体どういう関係なのか、傍から見たら予想がつかない。そうでなくともわんこそばのごとく秒単位で皿を重ねるシスターは目立った。

    が、彼らは全く自覚していなかった。(もしくはしていても無視している)


    「そもそもなんで倒れるほど食ったんだぁ?」

    「帰りの電車賃。600円。全財産。500円。買いすぎ。無計画。だからやけぐい」


    巫女はごく自然な動作で目の前を流れるプリンを取った。


    「腹いっぱいなんじゃあなかったのかよ」

    「デザートは。別腹」

    「ふーん……で、帰れんのかよぉ、それで?」

    「……100円分歩く」

    「じゃー貸しとく」

    「え。悪い」

    「いーんだよぉぉ~~~俺なんか今日は心が広いからよぉぉ~~~」

    「どちらかというとやさぐれているように見える」


    カウンターに突っ伏したまま「あっやっぱそお?」と東方仗助は笑った。
    自覚はしていたらしい。

    202 = 1 :



    「そーいや自己紹介まだだったな。俺は東方仗助。で、こっちが」

    「ふぃふふぇほほふんはほ!!」

    「口のモノ飲み込めよおめーはよぉ~~」


    んぐっんぐっぷはぁ~~っとお茶を飲み干してシスターは慈愛スマイルを浮かべた。
    心なしか後光が射したようにも見える。


    「私はイギリス正教の修道女です。名はインデックス。どうぞよろしくお願いします。アーメン」


    「ほっぺたに米粒ついてんぞオメー」

    「うあぁあんまりなんだよ! せっかくそれらしく見えるようがんばったのにー!」

    「ほれ拭く拭く」

    「うむむむっ……ぷはぁっ。ところであなたは? 見たところ日本の同業者みたいだけど。かんなぎ? 東洋系の占星術師なのかな?」

    「私。そういうのではない」


    巫女服の少女は無表情のまま言った。




    「私。魔法使い」





    「名前は姫神秋沙」

    「……へ~~」

    203 = 1 :



    「魔法使いィイ!? 魔法使いってなんの魔法使い!? 
    カバラ!? エノク!? ヘルメス学とかメルクリウスのヴィジョンとかグノーシス主義とか!
    どれにしたってそんな格好でできる魔術じゃあないんだよ! 服飾品の影響を舐めてるんじゃないかな! 
    それでシャーマンならともかく 『 魔法使い 』 を名乗るなんて片腹痛くておへそが茶を沸かしちゃうんだよ!」


    「おちつけよインデックスよぉ~~世の中広いからおめーの知らねー魔法使いがいたっておかしくねーだろぉ」

    「じょうすけは黙ってて!! とにかく! 魔法使いと名乗るくらいなら専門と魔法名とオーダー名を名乗るんだよ!」

    「私。魔法使い」

    「それはもうきいたんだよ!」

    「これが証拠」


    姫神秋沙は懐からペンダントを取り出した。


    「ローマ十字……だから何」

    「魔法使いっぽい?」

    「っぽい!? 今っぽいって言った!?」

    「インデックスよぉ~~そんなバンバン机叩くんじゃあねーよ」

    「じょうすけは……!」


    そこでズボッと口に何かを突っ込まれ、インデックスは口を閉じざるを得なくなった。
    姫神秋沙はスプーンを突っ込んだままの体勢でしばらく硬直していたが、やがてプリンの器をインデックスの手に持たせた。


    「あげる」

    「やっぱ食えねーんじゃあねぇか」

    「違う。気分の変化」


    インデックスはすとんと席につくともぐもぐこくんとプリンを飲み込んだ。


    「まぁ……自称したって実害があるわけじゃないから今日のところは許してあげるんだよ……
    コレは決してプリンにほだされたとかそういうわけじゃなくって……」

    「あーあー、アイスも頼んでいいからこの話は終わりにしよーぜ」

    「いえすさー!」

    204 = 1 :



    「でもよぉ~~巫女さんじゃあねーならどーしてそんな格好してんだぁ?」

    性懲りもなく杏仁豆腐を手に取る姫神秋沙に、東方仗助は問うた。

    「いろいろあった。私の趣味じゃない」

    「なら着替えたほうがいいんだよ。その服とペンダントはあまり相性もよくないしね」

    「それはできない。それに……これはもう付けれない」

    言って、姫神秋沙は改めて首飾りを取り出すと、カウンターテーブルに置いた。


    「鎖が壊れてる。これ」


    あっさり言うわりに物憂げな姫神秋沙。
    それにインデックスと東方仗助は顔を見合わせた。



    「よーし! それじゃあこの仗助くんがちょっとした手品を見せてやろっかなぁ~~」

    「私もお手伝いするんだよ、じょうすけ!」

    「……?」


    首をかしげる姫神秋沙。


    「じゃあまずこれをお借りして……ここに置く! んだよ!」

    インデックスは卓に置かれたペンダントをとって、慎重に東方仗助の掌に置いた。

    「よっく見てくれよぉ~ここまでは何も変わってねぇよなぁ~?」

    「うん」

    「ここで私がこうやって掌をかぶせるんだよ!」

    「ペンダントは見えなくなったなぁ~? そこで俺が力を送ってみる!」

    「わあ~一体この中で何が起こってるのかなー?」

    「……何が起こってるの?」


    2人はニヤァ~~としか表現しようのない笑みを浮かべた。
    いたずらを共同で成功させたような笑みだ。


    「手をのけるよ~1、2、3」



    「「ドジャァァァ~~~ン」」



    すると、なんということでしょう! 
    そこには綺麗に 『 直った 』 ペンダントが!


    「……!!」


    コレは手品とかすり替えトリックとかそんなチャチなものではない!

    この手触り! この質感! 
    鎖の輪の大きさから首にかけたときの感覚までッ!
    『 直って 』 いる! 
    まさしく記憶にあるそのままの姿に!

    姫神秋沙は、少しだけ目を丸くして二人を見つめた。
    そして、東方仗助を。


    「あなた。魔法使い?」

    205 = 1 :



    カチャカチャカチャカチャ
    チーン。



    「じゅ……10万とんで700円です……」

    「んじゃあコレで」

    「ブラッ……!? し、失礼しました、かしこまりました、少々お待ちくださいッ」


    会計が浮き足立つのを尻目に、姫神秋沙はじっと東方仗助の横顔を見つめていた。


    「なんだよ?」

    「今のカード」

    「あー、ありゃあ別に俺が金持ちってわけじゃあねーよ」

    「そうじゃない。今のカード。スピードワゴン財団のマークがついてた。……あなた。SPW財団の人?」

    「SPW?」


    と首をかしげたのはインデックスである。


    「医療とか。慈善活動とか。福祉とか。いろんな事業をしてるところ。世界的組織と言って間違いない。
    この学園都市だって経営費の約35%は財団からの寄付によってる」

    「「へぇぇ~~~」」

    「……自分の町の財政くらい知っておくべき」

    206 = 1 :



    そこで背後に気配を感じ、東方仗助は振り返った。

    いつの間に現れたのだろう。黒い背広の無表情がそこに立っていた。
    それも一人だけではない。二人、三人、十人くらいの男がレジを囲むようにして立っていた。
    皆そろいもそろって黒い背広の無表情である。
    思わず一歩ひいた仗助とインデックスとは対照的に、姫神秋沙は動じることなく報告した。


    「まずい。追っ手」

    「おめーの知り合いかよ」

    「塾の先生」

    「ますますわかんねーよ」

    「ここで捕まるわけにはいかない」


    姫神秋沙は東方仗助の腕を掴んだ。


    「一緒に逃げて」

    「……マジかよぉ~~」


     ジャン!

    207 = 1 :



    御坂美琴は考える。

    昨日のアレは一体全体どういうことだったのだろう。
    なぜあの 『 イカレポンチ男 <バーサーカー野郎> 』 と 『 あいつ 』 が一緒にいたのか。
    友達なんてありえない。そもそも接点が見つからない。

    ……ってことはやっぱ絡まれてたんだ。
    そんでアイツ馬鹿の上にお人よしだもん。私があの野郎ボコボコにすると思ってとっさに庇ったってわけ、か。


    「……まったく、強者の行動よね」


    御坂美琴はふつふつ沸騰しかけの鍋のように腸が煮え立つのを感じた。


    「わたしがあんな無能力者の不良ごときに、んな大人気ないことするわけないでしょ……!」


    いやそれより腹が立つのは、
    『 そんな行動できること自体、あいつがこの御坂美琴を見くびっていると言う証拠に他ならない 』 という事実である。


    「あいつはッ わたしからッ!『 この御坂美琴からッ! 本気であのイカレポンチを庇えると思ってたのッ!? 』」


    あいつはそういうことを平気でやる。
    この御坂美琴のプライドを切って捨ててマカダム式ロードローラーでぺっちゃんこにしてしまうのだ。
    たったの一言で、ほんの些細な一行動で。


    「次会ったらビリビリのベッコンベッコンのヒクヒクにしてやるんだから……ッ!」

    「ついでにあのイカレポンチもボコボコにしてや……ッ」


    角から不良が飛び出した。


    「……る?」

    208 = 1 :



    御坂美琴は硬直した。

    くだんのイカレポンチは両脇にシスターと巫女を抱えていた。
    どちらもそれなりにかわいい。まさか誘拐!? こいつとうとう一線を越えやがったわね!?

    と0.3秒の速さで思考した御坂美琴は思わず戦闘態勢をとっていた。


    「何やってんのよアンタはァ!!」

    「あぁ? あ~~おめー確かアレだ、ビビリ中学生!」

    「びっ、びっ、ビビリってゆーなぁ……! って何やらせんのよ!」

    「なんだわりかしいいヤツじゃあねぇか」

    「いい人なんだよ」

    「いい人」

    「~~~あんたらッ」

    「そのいい人っぷりを見込んで頼むぜぇ~~あれ何とかしてくれ!」

    「はぁ?」


    見れば、大量の黒い背広の無表情が追ってくるところだった。競歩で。


    「なにあれこわい!」

    「じゃ、任せた!」

    「なに勝手なこと言って……!」

    「お願いなんだよ……あいつらに捕まったら私、ナニをされるかわからないんだよ……」

    「うっ!」

    「私もお願い。さりげに人生の瀬戸際」

    「うぅうっ!」


    不良の両脇からシスターのうるうる目と巫女のまっすぐな眼差しが放たれる。
    実のところ上条当麻に負けず劣らずおせっかい焼きであり先輩気質の御坂美琴はおおいにぐらついた。


    「わーこっちくるんだよ!」

    「くぅ~~すまねえ、姫神、インデックス、俺はもう走れねぇ……!」

    「終わった。最後に祈りを捧げさせて」

    「~~~~!!」


    そうこうしている間に黒い競歩軍団は迫ってくる。
    御坂美琴はごちゃごちゃした脳内を、とりあえず一つの思考にまとめることにした。

    すなわち――

    209 = 1 :









    「なんかわからんがくらえッッ!!!」








    ドカーーンッ。



    210 = 1 :



    レベル5の電撃に黒服たちはあっという間に蹴散らされる。

    それを 『 まるでヤムチャ 』 みたいな視点で眺めながら、
    東方仗助は口笛を吹く。
    インデックスと姫神秋沙は「おぉ~~」と拍手した。


    「すごい」

    「ッぱねーな中坊」

    「あの短髪、なかなか役に立つ要員と見たんだよ……」


    「ところで。知り合い?」

    「それにしては出会いがしらに怒鳴られてたりと険悪だったんだよ?」

    「う~~~ん、俺こっち来た当初はチョビッと荒れてたかんなぁ~その時に恨み買ったのかもしんねぇ……」

    「それはそうと」


    と、姫神秋沙は東方仗助の袖を引いた。


    「話がある。あと説明」

    211 = 1 :




    「ハァー! ハァー! やれやれだわ……で? こいつら一体……っていねェーー!!」

    「ビリビリ……?」


    聞き覚えアリアリの声に、御坂美琴は勢いよく振り返った。
    ツンツン頭の少年は、マヌケに目と口をオーにしてこちらを見つめている。

    学園都市第三位の少女と、その周りに累々と転がる黒服たちを。


    「お前……何やってんだ?」



       → TO BE CONTINUED....


    212 = 1 :



    ――今日はここまでです――

    ――インデックスかわいいよインデックス――

    219 :

    そういや、ダメになった冷蔵庫の中身はクレイジーDで治せないのかな?

    220 :

    >>209
    ボスwwww

    221 :

    >>219
    病気は治せない
    料理を素材には直せる

    ……つまり、「挟み撃ち」の格好になるな…

    222 :


    楽しいぞ

    223 :

    乙!
    スピーディで素晴らしい!

    224 :

    乙!
    良かった姫神スルーされなかった!
    美琴が出てきたときもうスルーされるもんだと思ってた

    225 :

    スピードワゴン財団が姫神と接触しててもおかしくないよな、吸血鬼関連だし

    226 :

    ディオも一撃だぜ

    227 :

    >>226
    なんか間抜けなディオ様だなwwww
    カプっといったら自分が死んでたとかお茶目

    228 :

    DIOは噛まないぞ。正しくはズギュンズギュン!だ
    柱の男たちみてると、従来の吸血鬼と同じと語っていいのだろうかって思ってくるな
    カテゴリはどちらかというと超人に近いような気がする

    229 :

    >>228
    議論になるとあれだからもうここでこのネタは打ち止めにしとこうぜ

    230 :

    >>199読んで仗助さんが食事代に106億円使ってスピードワゴン財団がニュースに出る様子が思い浮かんだ。

    231 :


    ヘイ!
    もうちょっとしたら投下します

    232 :

    グレート

    233 = 1 :








    第九話「真紅のハウツー本!」





    234 = 1 :



    「か~~~み~~~じょぉ~~~お~~~ちゃぁぁ~~~ん?」

    「すみませんごめんなさい申し訳ないと思っていますッッ!!」


    自分の腰くらいしかない担任に土下座すること数回。
    謝罪の三段活用を口にすること十何回。
    床に叩きつけまくった額は赤く、瞳はドブでおぼれるネズミのそれだった。

    笑顔のままバキバキと青筋を浮かべていた担任も、そのアワレな姿に何かを感じたのだろう。
    養豚所のブタを見るような目で

    「もぉ~~次はないのですよ?」

    と恐怖政治の宰相のような台詞を最後に解放してくれた。


    「はいはぁ~~い、それじゃあ補習授業再開するのですよ~」


    ふらふらと席に戻った上条当麻に青髪ピアスが机ごと寄ってきた。
    どうせ「こないな衆人環視の中で小萌センセに怒られるやなんて羨ましいわぁ~」とか
    「相変わらずの不幸属性やねぇ、まっ! 僕の業界ではご褒美やけど」とかが来るのだろうと聞き流す準備万端だった上条当麻は、
    しかし、次の台詞に思わず耳を貸してしまった。


    「なぁー……カミやん、あの噂ホンマなん?」

    235 = 1 :



    「あの、噂?」

    「ほらあの、」

    「おお、そこのところの真偽は俺も気になってたところだぜぃ」


    土御門も身を乗り出してくる。
    そこで小萌担任の視線が刺さったような気がしたので、上条当麻は顔の前に教科書を立てて声を潜めた。


    「だから何の噂だって?」

    「ほらあの、東方……くんの」

    「仗助? が?」

    「けちけちしないで教えて欲しいにゃー」

    「いや本当に何の話だよ」


    珍しく歯切れの悪い青髪ピアス。婉曲的な土御門。
    よく見れば他の補習組の生徒もちらちらとこちらを伺っている。

    もしや。
    と、上条当麻は手汗が噴出すのを感じた。

    『 透明の戦士(仮)』 のことか? 
    いやいや、ありえん。なんでそんなもんが噂になるんだよ。
    いやしかし、あの事件――上条当麻は赤面した――『 東方仗助・純情派事件 』 まで、あいつはあの力を自覚していなかった。
    となればどっか別のところで、無意識に力を行使してしまったこともあるんじゃあないか? 
    そしてそれが 『 東方仗助の不思議な力 』 として広まってるんじゃあないか? 
    いやむしろ、中には自分のように 『 透明の戦士(仮)』 が見えてしまった奴がいる可能性も……
    やばい。それはやばいぞ。
    だって 『 透明の戦士(仮)』 のことが知れたら芋づる式に 『 自動書記 』 や魔術師関連のことも理事会の耳に入る恐れがある。
    そうなったらインデックスは――


    「なぁ~~『 東方仗助・リアル昼ドラ事件 』 のうわさは本当かって聞いてんねん!」

    「……は?」

    236 = 1 :



    痺れを切らしたように青髪ピアスが大きい小声を出す。


    「ちょっと前に東方、くんの義理の妹がここに来たんやろ? 
    その子は義妹でありながら東方くんに思いを寄せる一途な乙女。しかし彼女は厳格な宗派のシスターで同じ信徒としか結婚できないという。
    おまけにその子の親と東方くんは絶縁状態っちゅう二重苦どころか三重苦ッ!」

    「それでその義妹の許婚の不良神父まであとを追ってきて? その不良神父の元カノまで現れて?
    元カノが思いつめて義妹を刀で切りつけようとしたところに転入生が割って入って袈裟懸け斬りにされたんだよにゃー?」

    「いっ」


    ったい全体誰がそんなことを、と言えなかったのは、そのトンデモ話に聞き覚えがあったからである。
    確かこれはそう、仗助の治療が終わった翌朝に小萌先生に追求された時の……。
    ギギギとロボットじみた動きで教壇を見ると、小萌担任はニコニコ笑っていた。


    「なぁなぁ本当なん? おまけにあのリーゼントは亡くなった母親の形見らしいやん? ホンマやったら僕なんてことを」

    「義妹との禁断の愛か、なにやら親近感が湧くにゃー」

    「上条当麻! それで東方が植物人間状態だっていうのは本当か!?」

    「え、記憶喪失になったんじゃ」

    「あれ私の聞いたのでは」

    「っつかなんで上条?」

    「居合わせたんだろ?」

    「元カノ結局死んだの?」

    「ちくわ大明神」


    ぬわぁぁあ!!!

    上条当麻は心中絶叫した。
    おそらく小萌担任もこんな与太バナ本気にしていないのだろう。そうでなければホイホイ教え子らに喋ってしまうわけがない。
    問題は、とある高校のとあるクラスは大半がノリのいいバカだということである。

    「大嘘にもほどがあるのですぅ!」とポコポコ怒っていた小萌担任の顔がよみがえる。
    これが自業の自得なら甘んじて受けねばなるまい。
    だが、とりあえず上条当麻には言っておきたいことが二つあった。


    「おっ……おっ……」

    「尾ひれついてるじゃねーか! っつか誰だ今のッ!!」

    237 = 1 :



    いやしかし不幸だ。上条当麻は思う。
    あのあと何とか誤解は解いたが、小萌担任とはしばらく目があわせられそうにない。
    ついでに遅刻したぶん課題も増えた。

    いや不幸だ。
    インデックスはともかく夏休み明け苦労するだろう仗助にはこのことを言っておかねばなるまい。
    「おめぇよぉ~~」と背中を蹴られそうな予感はするが。

    本日は大目に不幸だ。
    いやしかし今日はこれ以上の不幸はないだろう。


    ドカーーンッ。


    角から爆破音が聞こえた。


    「は……あっはっはっは。またまたぁ。今日はもう限度額いっぱいのはずですよーもうこれ以上ないし首も突っ込みませんから」


    ドサドサドサッ。
    目の前に黒服の男達が吹っ飛ばされてきた。


    「ぐ……あ……ガクッ」

    「……」


    ああ~~ちくしょうちくしょう。ちくしょうだぜ!
    上条当麻の心は絶叫する。

    こんな場面見せられて黙ってられるわけねーだろーくそー! こうなりゃ毒も食らわば皿までペロリですよッ!
    能力者同士の抗争かスキルアウトの暴動か知らねえが、
    とりあえず当事者関係者全員まとめてその幻想をぶち殺す! 殺す! 大事なことなので二度言いましたッ!

    半分ヤケクソの勢いで上条当麻は現場に踏み込んだ。


    「……へ?」


    ら、知り合いがいたわけである。


    「ビリビリ……お前、何やってんだ?」

    「あ」

    「いや言うな。見ればわかる。暴行傷害だ。理由は聞かねーよ? 聞かねーがこの状況はやばいですので逃げたほうがいいのでは」

    「自称・物分りのいい熱血教師みたいなこと言ってんじゃないわよ!!」

    「おわぁっ!?」


    容赦なく電撃をぶちかまされ、慌てて『右手』で無効化する。
    少女――御坂美琴は、不満そうに唇を尖らせた。
    歳相応な表情は、それ単体としてみればかわいらしいのかもしれないが、死屍累々と転がる黒服たちの中心にあっては異様でしかなかった。

    238 = 1 :



    「ななななにしやがる!?」

    「私が一般人相手に能力使うわけないでしょーが! 正当防衛よ、正当防衛!」

    「人に即死必至の電撃ぶつけてくるやつが言う台詞じゃねーだろ……じゃあ、あれか? こいつらお前を襲ってきたのか?」

    「正確には私じゃないけどね。この前あんたに絡んでた、あの時代遅れの不良よ」

    「何ィィ!!? ちょっと待て、なんであいつが襲われるんだ!」

    「私が知るわけないでしょーが!」

    「ハッ、そうだビリビリ」

    「御坂美琴!」

    「そいつ一人だったか? 魔術がどーたら言う誰かさんを連れていたり」

    「聞きなさいよ! 魔術って何よ!?」

    「とにかく状況詳しく!」

    「シスターと巫女抱えたリーゼントが黒服に追われてました!!」

    「なんじゃそりゃぁぁあ!」

    「私が知るわけないでしょーーーッがって!」


    「ハァ、ハァ……」

    「ハァ、ハァ……」

    「……何よ?」

    「いや、ツッコミ同士も問題だな、と」


    上条当麻は汗をぬぐった。
    ツッコミ汗とでも言うべきすがすがしい汗だがそれはどうでもいい。

    仗助が何者かに追われていた?
    心当たりは……ある。
    インデックスだ。
    彼女の十万三千冊を狙う魔術師が現れたのかもしれない。
    それか噂を聞きつけたカルト集団とか。
    もっと現実的な面に落ち着くなら、IDなしなことがばれて強制送還されそうになってたのかも。

    なんにせよ要因は彼女だろうと上条当麻は結論付ける。
    だから仗助はシスターと巫女さんを抱えて逃げ回る羽目に……

    ……ん?

    心中、上条当麻は待ったをかけた。

    239 = 1 :



    「『 巫女さん 』?」

    「そうよ。えーっと、えーっと……確か姫神なんとかって呼ばれてたけど、知り合いなの?」

    「『 姫神 』……ねえ」

    知らない。


    「まーとりあえずありがとな、ビリビリ」

    「待ちなさいよ」

    低まった声に上条当麻はぎくりとした。

    「な、なんでせうか? というか、なにゆえそんなにビリビリなさってるので……?」

    「このまま無事に帰れると思ってるの……? あんたは宿敵<ライバル>! あたしは元気! 
    本日は晴れで風はなし! 絶好の決闘コンディションじゃないの!!」

    「お前にとってだろうが! 大体俺には目下の懸念事項が……」

    「問答無――」

    用、と続けようとした時、聞き慣れぬ警戒音があたりに響いた。


    『メッセージ、メッセージ。電波法に抵触する攻撃性電磁波を感知。システムの異常を確認しました』


    警戒音がサイレンに変わる。
    その出元が向こうの道から走ってくる清掃用ロボットとわかったとたん、二人は全力で走り出していた。


    「バカヤロウーー!! あんなところでビリビリすっから!」

    「う、うううるさいわねー! 早く逃げなさいよもうーー!!」

    「チクショー不幸だァーー!!」


    そろそろ不幸がゲシュタルト崩壊しそうだった。

    240 = 1 :



      ~~~


    公園で遊ぶ児童は少なくなってるらしい。
    だがこの学園都市に限って言えば、保護者である教師は外での遊びを推奨しているし、むしろ割合は高いのかもしれない。
    となると、今この公園がガラガラなのは――やっぱり俺らのせいなのかぁ~~? 
    と東方仗助は思った。

    保護者に見ちゃいけませんと言われること必至な三人組は、現在ブランコを占領していた。
    東方仗助はそのままずり落ちそうなくらいだらしなく凭れ、姫神秋沙は定規で測ったようにまっすぐ座り、インデックスはぽしぽし棒状スナックを食べている。


    「でよぉ、えーっとなんだっけ?」

    「まず。私のことから話す」

    おねげーしますと言う代わりに東方仗助は顎を引く。


    「私。昔SPW財団に保護されていた」

    「そりゃあ……」

    「私がお嬢様と言うわけじゃない。SPW財団には超常現象部門というのがある。その関係で保護された」

    「超常現象? 随分あいまいな言い方なんだよ」

    「頬にくずがついてる」

    「え、え!」

    「そっちじゃない。逆」


    あわあわするインデックスを見かねて、仗助がハンカチで彼女の顔をこすった。


    「しかしよぉ、なんでおめーがそんなとこに世話になるんだよ?」

    「そこは色々な未知の力を研究していた。原因不明の病原菌。柱に眠る男。古代の仮面。そして。『 吸血鬼 』」

    「吸……」

    「……血鬼?」

    「私には。彼らを殺す能力がある」


    「吸血鬼って……そんなものいるわけないんだよ!」

    「実際殺した」


    一瞬で空気が張り詰めた。
    姫神秋沙の瞳は深海の水のように静かだった。

    241 = 1 :



    「私の血を吸うと吸血鬼は死んでしまう。なぜかはわからないけれど。とにかく死んでしまう。
    それに私の血は彼らを魅了する。吸ってはいけないとわかっていても吸ってしまうくらい」

    「待った」


    東方仗助が手を上げ、姫神秋沙は口を閉じた。


    「おめーが吸血鬼を倒す力を持ってんのはわかった。んで? そっからこの状況とどうつながんだ?」

    「……私はこの力を何とかしたかった。だからSPW財団にも協力するつもりだった。でも……
    『 ある人 』 が。私を実験動物にはしたくないと言って。学園都市に送り出してくれた」


    その時のことを思い出したのか、姫神秋沙の瞳が少しだけ細められた。


    「優しい人だった。昔話をたくさんしてくれた。嘘か本当かわからないような話を。たくさん」

    「どんなのかな?」

    「ん。時代は第二次世界大戦ごろ。ナチスドイツに拘束された父親代わりのおじいさんを助けるため秘密基地に潜入したら化け物がいて。
    そこから色々あった後ヴォルガノ島の火山で究極生物と決戦を」

    「嘘だろ」

    「どう考えても嘘なんだよ」

    「私もそう思う。でも面白かったからよし」

    242 :

    ジョセフか?

    243 = 1 :



    姫神は再び目を伏せた。


    「この学園都市でなら。私の力を何とかできる方法が見つかるかもしれないと思ってた。でもそんなものはなかった。私は失望した。
    やはりSPW財団に戻ろうと思っていたとき。――あのヒトに出会った」


    姫神秋沙の声の調子が変わる。硬く、悲しげなものに。
    東方仗助もインデックスも思わず顔を上げた。


    「あのヒトは言った。助けたい人がいると。自分ひとりの力ではどうにもならないと。吸血鬼の力が必要だと。私の力を貸してくれと。
    ……私はうれしかった。生まれて初めてこの力を 『 助ける 』 ために使えるんだって」

    「そ、それで?」

    「呼び出せたの、かな?」


    二人の緊張をはらんだ問いに、姫神秋沙は首を振った。
    縦に。


    「私は」


    だが不可解だった。
    姫神秋沙の声は、瞳は、ますます深い悲しみに染まっていた。


    「甘かった。私は。変わらないと思っていた。吸血鬼も人も。
    寿命が無くて。噛まれた人が吸血鬼になってしまうけれど。それ以外は人間と全く同じ。
    笑って。泣いて。喜んで。悲しんで。優しくて。気さくで。いい人たち。『 みんなそう 』。そう思い込んでいた」


    姫神秋沙はブランコを握る手に力をこめた。


    「忘れていた。私。人間の中にもほんの少し。だけど確かに 『 ひどい人 』 がいるということを。人も吸血鬼もそれは 『 同じ 』 なんだということを」

    244 = 1 :



    沈黙。
    東方仗助は何も言わない。
    インデックスも何も言わない。
    ふたりとも、うろたえた表情のまま、姫神秋沙の次の言葉を待っている。

    インデックスは魔術師の端くれという立場から、東方仗助は人間世界の立場から、吸血鬼という存在に懐疑的だった。

    そう。
    『 だった 』。

    二人とも、もうすっかり彼女の話を信じきっていた。
    それほど彼女の言葉は真に迫っていたのだ。

    風が吹く。
    鎖が鳴る。



    「『 そいつ 』 は恐ろしすぎた」



    姫神秋沙は、口を開く。

    245 = 1 :



    「圧倒的過ぎた。私達は簡単に屈服した。逆らおうなんて。逆らえるとさえ思わなかった」

    「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんであなたはここにいるの?」

    「簡単。あのヒトが逃がしてくれた」

    「要するにおめーはアレか、俺達に助けてくれって?」

    「違う。あなた達にこの話をしたのは。SPW財団に連絡を取ってもらうため。私にはもう。その時間はないから」

    「……どーゆーことだよ~それはよぉ?」


    「私は。これからあのヒトを助けに行く」


    姫神秋沙は立ち上がった。
    瞳は元通り深海のような色を湛え、しかし決意にみなぎっている。


    「『 あいつ 』 の精神力はすさまじい。私の血を吸うのもギリギリのところで踏みとどまれるくらい。
    でも私の血を実際目の当たりにしたら。その匂いをじかに嗅いだら。きっとあいつも堕ちる。……私は勝てる」


    そのまま彼女は歩みだす。
    まさしく戦場へ向かって。



    「待って」

    「待てよ」


    その背に二人ぶんの声がかかった。

    246 = 1 :



    「そんなこと聞いてよぉ~~ハイそーですかって見送ると思うのかよ~~俺たちがァ?」

    「聖職者として自殺宣言は聞き逃せないんだよー、あいさ」

    「……!」


    ガシャン、ガシャンと鎖の音を立てて、二人も立ち上がる。


    「……どうして?」


    思いもかけない行動だったらしい。姫神秋沙は本当に不思議そうに問うた。


    「どうしてって?」

    「わざわざ一人で行くこともねーだろ?」


    その問いかけもまた、二人にとっては思いもかけないものだった。
    首をかしげる二人に姫神秋沙は何事か言おうと口を開いた。
    が、その気持ちは音になることなく、無意味に口を開閉するだけに留まる。
    それを何度も繰り返す。


    「そ。うじゃなくて」


    やっと出た声。
    搾り出した言葉を吐ききる前に、インデックスが手をとった。


    「とにかく一緒に行くんだよ」

    「そうそう、旅は道連れ世は情け……ってこれはなんかちげーな」

    「だっ……」


    姫神秋沙は本当に困った顔で両脇に並ぶ二人を見た。
    そして


    「だめっ」

    ダッ。

    「あっ逃げたんだよ!」

    「げぇ~~~また走るのかよぉ?」


    無表情に走る姫神秋沙をインデックスが「待つんだよー!」と叫びながら追いかけ、そのすぐ後をイーッとうんざり顔の東方仗助が続く。
    かくして三人の追いかけっこが始まった。
    なぜかといえば答えは簡単。
    言葉足らずとは肉体言語で分かり合うしかないのだ。

    247 = 1 :



      ~~~


    一方、言葉は足りすぎているほど足りているのに追いかけっこをしていた上条当麻は、ようやく足を止めることができた。


    「ハァー、ハァー……あー、ビリビリは……どっかいったか」




    「今日ずっと観察させてもらってたけど……君って走るのが趣味なのかい?」


    背後に聞こえた声に、上条当麻は一瞬息を詰め……
    あからさまなほど大きなため息をついた。


    「久しぶりだね、上条当麻」


    振り返るまでもない。
    日本人ではありえない白い肌。赤い髪。
    タバコと香水のニオイ。
    バーコード。
    神父。

    魔術師・ステイル=マグヌスを一瞥し、上条当麻は精一杯のジャパニーズスマイルを浮かべた。


    「さようなら」

    「待てよ」

    「うおおおおっ!?」


    軽い調子で炎剣をぶっぱなされ、上条当麻は振り返って『打ち消さ』ざるをえなかった。


    「あ、あぶっ、おまっ、死っ、あぶねーだろ!」

    「うんうん。結構。僕達の関係はこうあるべきだ」

    「その割にはスルーされてムカついてたみたいですが? 男のツンデレなんざこの世に需要はありませんぜ」

    「つん……? それってスラング? ま、いいか。引き止めたのは帰ってもらっちゃ困るからだよ。君に用があってきたんだから」


    言ってステイル=マグヌスは懐に手を入れた。
    ふと、上条当麻の脳裏にあの手紙の一説が浮かび上がる。

    『僕達は情報を集め、しかるべき装備が整い次第あの子の回収に挑むつもりだ――』

    こいつが、俺に、用。
    ある可能性が思い浮かんで上条当麻は一歩退った。


    「……何をするつもりだ、てめえ」

    「うん? 内緒話だけど」


    上条当麻はリアクションに困った。

    248 = 1 :



    「いやだいやだって顔だけど、我慢してくれよ。僕だって君の顔なんざあと一秒も見ていたくないんだからね」


    ステイル=マグヌスが取り出したのは茶封筒だった。


    「受け取るんだ<Gebo>」


    呟いたとたん、彼を中心円状に封筒の中身が広がった。
    くるくると輪になって回る長方形の白。
    その一枚が上条当間の鼻先で止まる。
    『絶対合格!』とか『根性の夏!』とか熱くて仰々しいキャッチが逆に胡散臭い広告だ。

    それの宣伝対象は――。


    「『 三沢塾 』 って進学校の名前は知ってるかな?」

    「俺がこの歳で受験を気にするようなやつに見えるか?」

    「ふぅん……まっ、いいけどね。そこ女の子が監禁されてるから」

    「………………はぁ?」


    今日のおかずはシャケだから。みたいに言われて、上条当麻はポカンと口を開けた。


    「資料を見てもらえば間違いないのはわかると思うけど――」


    再び、資料がメリーゴーラウンドのように回る。
    隠し部屋が随所に見られる見取り図。帳尻の合わない電気料金表。三沢塾を出入りする人間のリスト。
    なるほど、どれもこれもくさい。


    「その子をどうにか助け出すのが僕の役目なんだ」

    「ちょっと待て。なんだって塾が女の子を監禁するんだよ。で、なんでお前ら魔術師が出張ってくるんだ?」

    「まー、ちょっとややこしい事情があってね……」

    ステイル=マグヌスはつまらなそうに言った。


    「今の三沢塾は科学崇拝を軸とした新興宗教と化してるんだそうだ。その辺の経緯とかはどうでもいい」

    「いいのかよ」

    「もう乗っ取られてしまってるんだよ、三沢塾は。
    科学かぶれのインチキ宗教が、正真正銘、本物の魔術師にね。正確にはチューリッヒ学派の錬金術師だが」

    「はぁ……?」

    「胡散臭い響きだとは僕も思うよ。っというか君が信じるか信じないかなんてそれこそどうでもいい。重要なのは、その錬金術師が三沢塾を乗っ取った理由さ」

    このいちいち神経を逆なでする喋りはどうにかならんのか。と上条当麻は思う。


    「ヤツの目的は――」


    瞬間、資料のメリーゴーラウンドが茶封筒へと舞い戻って行った。


    「――三沢塾に捕らえられていた 『 吸血殺し<ディープブラッド> 』 なんだ」

    249 = 1 :



    「『 吸血殺し 』?」

    「そう。ある生き物――カインの末裔なんて隠語が使われているけれど――、要するに吸血鬼を殺す能力のことさ」

    「……」

    「なんだよ。その目は」


    上条当麻は額を押さえたい気分だった。
    本当に、本当に情報量が多すぎる。
    魔術師というのは自分とは別の世界の人間なんだなと改めて感じた。


    「お前、それ本気で言ってんのか?」

    「……冗談で言ってられるうちは幸せだったんだけどね」


    そこに深刻な色を感じ、上条当麻はステイルの顔を見た。


    「あの子(インデックス)に教えてもらったと思うけれど、魔術っていうのは生命力がエネルギーなんだ。その魔術を、仮に不老不死の輩が使ったら……どうなると思う?」


    それはつまり、ゲームで言うところのMPが∞状態ってことだろうか。
    おまけに不老不死ということはHPも減らない。


    「んなもん無敵じゃねーか」

    「そう。僕らが恐れているのは、まさにそこなのさ」


    んなアホなと上条当麻の心は叫んでいたが、
    笑い話にするには目の前の男の雰囲気はあまりに深刻すぎた。


    「マジで……いるのか?」

    「それを見たものはいない。それを見たものは死ぬからだ。
    だが、『 吸血殺し 』 とはすなわち吸血鬼を殺す力だ。それを証明するにはまず吸血鬼と出会わなければならない。
    ならば、逆に考えて 『 吸血殺し 』 の方を押さえておくに越したことはないんじゃないかな……
    ……ことの真偽はともかく、『 そう考えて動き出してしまった者が既にいるのさ 』」


    「そう、だな……吸血鬼がいるかはどうでもいい。女の子が監禁されてるっていう事実の方が大切、か」

    「好意的な解釈どうも」


    ステイル=マグヌスはタバコを口から離して、深く煙を吐いた。


    「僕はこれから三沢塾に特攻をかけて、『 吸血殺し 』 を連れ出さないとまずい状況にある」

    「ああ」

    「簡単に 『 ああ 』 なんて言ってくれるなよ。君だって一緒に来るんだから」

    「ああ!?」


    今度こそ上条当麻は叫んだ。

    250 = 1 :



    それにひどく冷めた目でステイル=マグヌスは応じる。


    「拒否権はないと思うよ。従わなければ君のそばにいる 『 禁書目録<インデックス> 』 は回収。『 偽<レプリカ> 』 だって最悪、始末されるだろうね」

    「ッ!」

    「『 必要悪の教会<ネセサリウス> 』 が君に下した役は 『 首輪 』 の外れた禁書目録の裏切りを防ぐための 『 足枷 』 さ。
    だが、君単体が教会の意に従わないなら効果は期待できない。あの子が回収されるなら、僕らもあのクソ忌々しいクソッタレのことを秘密にする理由はない。
    ……事実を言ってるだけだろうに。その目をやめろよ。僕が脅迫してるみたいじゃないか」


    「脅迫だろ……どう考えても……ッ」

    「だから、今この状況ではそんなこと 『 どうでもいいんだよ 』。選ぶのは君だ。君の好きにするといい」


    上条当麻は険しい目つきのまま、硬く拳を握った。
    ステイル=マグヌスはつまらなそうな顔のまま目をそらす。


    「ふん……。殺し合いなら三沢塾に立てこもる錬金術師を仕留めてからにしよう。ああそれと、言い忘れてたがこれが 『 吸血殺し 』 の写真だ」


    懐からピンとはじき出された写真を、上条当麻は慌ててキャッチした。

    女の子が写っていた。
    和風美人、と言うのだろうか。
    小さな顔に起伏の緩やかなパーツがバランスよくついている。
    腰までの長く黒い髪は、日本人としての白い肌を際立たせていて、
    なにより印象的なのは瞳だった。

    深い海の底を彷彿とさせる静かな瞳。
    そこに宿る感情は乏しいが、攻撃性は一切ない。
    見ていて落ち着く、不思議な安心感が得られる瞳だった。


    しかし、なぜに巫女服? 
    いや似合っているけれども。
    周りにいる黒い背広の無表情は――三沢塾の、先生だろうか?


    「『 姫神秋沙 』 というらしい。覚えておくといいよ」

    「ふうん、姫神……姫神?」


    どこかで聞いたことが、と考えるまでもなく、とある女子中学生の声がよみがえった。



    『シスターと「巫女」抱えたリーゼントが黒服に追われてました!!』

    『えーっと、えーっと……確か「姫神」なんとかって呼ばれてたけど……』



    「……」

    上を向き、沈思。下を向き、沈思。
    結論。


    「えぇーーーーっっ!!!!?」

    「ビックリした! なんだい突然!」

    「えっ……」


    じわ、と上条当麻の額に汗が浮かんだ。


    「えらいこっちゃ……」

    「……本当になんだい」


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