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元スレ紅莉栖「岡部、IS学園に転入して」
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紅莉栖「ちょっと、大丈夫なのアイツ……」
岡部「あっ、あっ……ひっは、ひっは……」
──ぼてっ。
紅莉栖「あっ」
足がほつれて、前のめりに倒れこむ。
良く目を凝らすと、岡部の服装は土埃で大分汚れていた。
何度も倒れたのだろうと容易に想像がつく。
岡部「あー……はぁ、もう、無……理だ」
紅莉栖「ギブアップですか? 鳳凰院凶真さん?」
後方から声がかかる。
この学園で岡部にとって最も馴染みの深い声だった。
岡部「助手か……」
紅莉栖「うむ。ただいま帰った」
岡部「ラボの様子はどうだった」
紅莉栖「第一声がそれか。いいから、立ちなさいよ。ん」
そう言って、手を差し出す。
岡部は一瞬躊躇ったが大人しく手を借り、立ち上がった。
シェイクハンドすら拒んでいた時とは比べ物にならないなと、自嘲気味に口元が歪んだ。
岡部「すまんな」
紅莉栖「どんだけ走ってるの?」
岡部「トラック1週が1キロだそうだ。今8週目……あと2週だ」
紅莉栖「10キロマラソンか。平均的な成人男性だと1時間位かかると言われてるわね」
岡部「いちっ!?」
紅莉栖「ん? ……アンタ、今何時間走ってる?」
ちらりと岡部が時計を流し見た。
走り始めてから2時間が経過しようとしている。
岡部「……ランニングの前にもそれは酷い拷問を受けていてだな」
紅莉栖「はいはい、言い訳乙! 見ててやるから、残りの2週してきちゃいなさいよ」
岡部「み、見られていると本来の力がだな!」
紅莉栖「いーから、さっさと行く!」
岡部「くっ……覚えていろよ助手……」
岡部は再び重い足を前に出し、走り始める。
紅莉栖と会うまでより足の重さが軽くなっていたが、その理由は解らなかった。
紅莉栖「よいしょっと……」
階段に腰をかけて、走り続ける岡部を見つめる。
ひたすらに走り続ける岡部を見るのは悪い気がしなかった。
紅莉栖「そうだ、飲み物買っておいてやるか」
残り二週。
今の岡部の体力を考えるならそう簡単に走破はしないだろう。
紅莉栖はさっさと食堂へ向かい、ドクトルペッパーを2本購入した。
岡部「ぜひっ、ぜひっ……おわっ、終わった……」
紅莉栖「はいお疲れ様」
岡部「かっ、軽く言う、なっ……並みのお疲れじゃないぞ……まったく……」
ぜひぜひと呼吸を乱しながら反論をするが紅莉栖は聞き入れない。
紅莉栖「ドクペ買っておいたわよ」
岡部「はぁはぁ、気が利くではない──」
ドクトルペッパーを受け取ろうと手を差し出したが、岡部にとってとんでもない情景が目に映った。
──シャカシャカシャカ。
紅莉栖が缶を縦にシェイクし始めたのだ。
岡部「なっ、なっ、何──を」
紅莉栖「ん? 炭酸抜いてるのよ」
──プシュッ! ジュプジュプ……。
プルタブを空けると、炭酸が気化しその勢いで中身が少しばかり零れた。
紅莉栖「ちょっと濡れちゃった。ま、良いか。はい、岡部」
岡部「い、嫌がらせか……?」
紅莉栖「? 何を言ってる。運動直後に炭酸バッチリのドクペなんて体に良いわけ無いでしょ。
スポーツドリンクを素直に飲めば良い話しだが、こっちの方が良いでしょ? ほら、飲みなさいよ」
岡部「ぐぬぬ……炭酸抜きコーラではなくドクペとは……」
紅莉栖「後はこの後に、おじやを食べれば完璧ね」
岡部「それは結構だ」
軽口を叩きあっていたが、紅莉栖の心遣いは岡部の心に温かいものを落す。
日が翳っていたお陰で、頬の肉が僅かに緩んだことがばれずに済んだと内心ホッとした岡部であった。
ぐい、と気の抜けたドクトルペッパーを飲み干す。
紅莉栖は自分の分をチビチビとあおっていた。
紅莉栖「どうすんの? シャワー浴びて食堂?」
岡部「む……相変わらず食欲が無いんだが」
紅莉栖「これはますます、おじや。それにバナナを……」
岡部「何時まで同じネタを繰り返すのだ天丼娘よ」
紅莉栖「む。まゆりがお土産にバナナをくれたのよ」
ガサリ、スーパーの袋に包まれたバナナを岡部に見せる。
バナナが2房入っていた。
岡部「そうか……まゆりが。
ならば夕食はバナナにするとしよう」
紅莉栖「牛乳とバナナ、後はラウラに貰ったプロテインをシェイクすれば栄養的には完璧ね」
岡部「そうだな、プロテインだな……」
ラウラから飲んでおけと、半ば強制的に手渡されたプロテイン。
毎日それを牛乳や豆乳に溶かして飲んでいた。
味は悪くないし、腹持ちも良い。
今の岡部にとっては理想的な栄養素を全て取れる大変優れたものである。
岡部「俺は今から恐ろしい。眼帯娘は俺に一体何をする気なのだ……」
紅莉栖「考えすぎよ。岡部の身体を思ってのことでしょ」
岡部「そう、だな。飲まないとな……」
─自室─
楯無「んー気持ち良かった♪」
一夏「それはどうも」
一夏のベッドの上で寝転んでいた楯無が大きく背筋を伸ばした。
一夏「さ、次はシャルだな。ここに寝てくれ」
シャル「う……うん」
シャルロットは下に深く俯いている。
楯無がマッサージを受けている姿を見て、次は自分の番だと想像している内にみるみると頬が紅く染まってしまっていた。
シャル「(よ、よよよよし! 次は僕の番だ……)」
ギクシャクと、同じ側の手足が同時に出てしまう。
楯無「(ナンバ歩き……)」
一夏「よっと、じゃぁ足から行くからな?」
シャル「おおお、お願いしまう!」
一夏「力抜けよー」
ぐっぐっ、と足の裏からの指圧が始まった。
慣れた手つきで体をほぐしていく。
シャル「(はうー気持ち良い……一夏の手って暖かくて大きくて……」
一夏「(さすがシャルだ。全体的に引き締まって……いかんいかん! 集中。集中)」
楯無「うふふ。後はお若い2人に任せておねーさんは帰るわね。
それと一夏くん。良かったらまた倫ちゃんのマッサージもお願い。
きっと足がパンパンになってるはずだから……」
一夏「あ、はい。薬もまだ残ってるから大丈夫です」
楯無「ん。今日はお疲れ様。一夏くんも早く寝るのよ? おやすみ」
そう言って楯無は部屋を出て行った。
一夏「凶真頑張ってたもんな、帰ったらきっちり筋肉ほぐしてやらないと」
シャル「(わわわっ! 一夏と2人っきりになっちゃった!!)」
一夏「そう言えば、シャル」
シャル「は、はひ!?」
緊張と嬉しさの中でつい声が上ずってしまった。
一夏に自分の動揺がバレたかと思い、さらに頬が紅く染まる。
一夏「凶真はどうだった?」
半分期待していたシャルロットだったが、一夏の口調は何時も通りの唐変木っぷりだった。
シャル「あー、うん。えっと……」
全く関係無い想像をしていたので回答に詰まる。
“高速切替”(ラピッド・スイッチ)よろしく、瞬時に脳内を切り替えた。
シャル「一夏ほどではないけど、筋は良いと思うよ。運動音痴って訳じゃなくて、今まで運動をしてこなかったんだろうね」
一夏「そっか、シャルが言うなら間違いないな」
シャル「えへへ……あっ、一夏……そこ、気持ち良い……」
一夏「ん? ここか?」
肩甲骨を指圧する指に力が入る。
どうやらその部分がこっていたらしく、シャルは何ともだらしのない声をあげる。
シャル「はぅー……きもひーぃ……」
──ガチャ。
唐突に開かれる扉。
岡部が入室したと同時に、聞こえてくるシャルロットの嬌声らしきもの。
誤解するには充分な要素が揃っていた。
岡部「……」
シャル「……」
岡部とシャルロットの目線が交差する。
シャル「あの、あのっ、えっと……」
岡部「部屋を間違えたようだ」
紅莉栖「ちょっと、どうしたのよ?」
岡部の後ろから紅莉栖の声も聞こえてくる。
シャルロットの顔は最早ゆでタコのように真っ赤だった。
一夏「お、凶真おかえり! おつかれ!」
シャル「はうー……」
岡部「あ、あぁ……ランニングが今終わってな……」
紅莉栖「お邪魔しまー……」
一夏は気にせず、背中を指圧している。
ゆでタコになったシャルロットは枕に顔をうずめて、うーうーと呻いていた。
紅莉栖「……つまり、どういうことよ」
岡部「俺に聞くな……」
一夏「ん? あぁ、シャルにマッサージしてやってるんだよ」
岡部「そうか、マッサージだったか……」
紅莉栖「中々衝撃的な絵ね……」
一夏「あとちょっとで終わるからさ。そしたら次は凶真もマッサージしてやるから」
紅莉栖「(何て良い子なの……女子の身体を揉んでいると言うのに、すでに岡部の身体を考えているなんて)」
岡部「……お言葉に甘えるとしよう。情けない事に足が棒のようだ」
年下のルームメイトに何度もマッサージをさせると言うのは、岡部なりの何かが抵抗していたがそれ以上に身体は疲弊している。
岡部は素直に一夏の提案を受け入れた。
一夏「それじゃ、先にシャワー浴びてこいよ」
岡部「うむ。そうするとしよう。」
岡部はよたよたと足を引きずりながらシャワールームへと入っていく。
それを見届けた紅莉栖は、袋からバナナを取り出した。
紅莉栖「私は夕飯の用意をしておきますか」
一夏「夕飯?」
紅莉栖「食欲無いって言うから、プロテインバナナシェイクを作ってやろうと思ってね」
一夏「へぇ、そいつは美味そうだな」
紅莉栖「一夏も飲む?」
一夏「作ってくれるのか? ありがたい」
紅莉栖「任された。っと、食材がちょっと足りないわね……時間ギリギリか。
ちょっと購買へ行って買って、そのまま調理室で作ってくるわね」
一夏「おう、いってらっしゃい」
紅莉栖「いってきます」
バナナとプロテインを持ち、紅莉栖が部屋を飛び出していく。
その一夏の下で顔を真っ赤にしていた、シャルロットが起き上がった。
一夏「お、どうした? もう良いのか?」
シャル「う、うん……ありがと」
情けない声を一夏以外の人間に聞かれてシャルロットは心底恥しさを感じていた。
顔は未だにゆでタコ状態である。
シャル「(あぅ……オカリンと、それに紅莉栖にも聞かれたよね? 恥しいなぁ……)」
シャル「今日は帰るね。一夏、マッサージありがとう」
一夏「ん。どういたしまして、またな」
シャルは俯き、顔を隠しながら部屋を出て行った。
廊下ですれ違った女生徒が、顔を真っ赤に染め、早歩きで一夏の部屋から出て行く様を勘違いしたのは言うまでもなかった。
一夏「プロテインバナナシェイクか……美味そうだな」
暫く待っていると、紅莉栖が帰ってくる前に岡部がシャワールームからガシガシと頭を拭きながらベッドに腰を下ろした。
岡部「ふう……む、ヂュノアと助手はもう帰ったのか?」
一夏「シャルはもう帰ったよ。紅莉栖はバナナプロテインシェイクを作りに行ったぜ」
岡部「そうか、作りに……つく!?」
一夏「ん? どうかしたか?」
岡部「わ、ワンサマー。助手は何と言って出て行った?」
一夏「え? ええっと……食材が足りないから、購買で買って調理室で作ってくるって」
岡部「……」
岡部は頭を抱える。
顔面はみるみると蒼白になり、心なしか震えが見えた。
一夏「凶真……?」
岡部「いや、なんでもない。恐らく牛乳を買いに行ったんだろうな、うむ」
一夏「牛乳でバナナシェイク作ったら美味いもんなぁ」
岡部「あぁ、牛乳とバナナで作って不味いドリンクなど出来る訳が無いからな」
岡部は笑顔を取り繕った。
おそらく、この学園に来て初めて作ったであろう笑顔は引きつっていた。
一夏「楽しみだなぁ」
一夏のこの一言が、どんな言葉よりも岡部の胸に深く突き刺さった。
おわーり。
本日もありがとうございました。
書きあがり次第また来ますです。
本日もありがとうございました。
書きあがり次第また来ますです。
乙
炭酸抜きコーラとバナナとおじやか
グラップラー刃牙の一巻思い出した
炭酸抜きコーラとバナナとおじやか
グラップラー刃牙の一巻思い出した
乙
・・・そういえば助手はセシリアと相部屋だったな
恐ろしいコンビだ
・・・そういえば助手はセシリアと相部屋だったな
恐ろしいコンビだ
メシマズは自分がメシマズだと認識してる割合が限りなくゼロに近いのが悲劇だよなww
というかプロテインと牛乳とバナナをミキサーにかけるだけの料理をどう失敗したのやらww
というかプロテインと牛乳とバナナをミキサーにかけるだけの料理をどう失敗したのやらww
>>1乙。
ゆっくりでいいから無理せずに書いてくれ
ゆっくりでいいから無理せずに書いてくれ
>>714 続き。
紅莉栖「~~♪」
鼻歌交じりに廊下を闊歩する紅莉栖。
傍目から見ても気分は上々のようだ。
紅莉栖「(調理と言うには、物足りないけれど……久しぶりね。岡部のやつ喜ぶと良いな……)」
ふふふっ。と笑みを浮かべながら購買へと足を向ける。
廊下の角を曲がると見知った顔と目が合った。
セシリア「あら、紅莉栖さん?」
紅莉栖「セシリア」
クラスメイトであり、ルームメイトであるセシリアと出くわした。
岡部を除けばルームメイトであるため、実は一番話をしている人物でもあった。
セシリア「こんな時間にいかがいたしましたの?」
紅莉栖がぶら下げている、スーパーの袋に目を落としながら訪ねる。
紅莉栖「~~♪」
鼻歌交じりに廊下を闊歩する紅莉栖。
傍目から見ても気分は上々のようだ。
紅莉栖「(調理と言うには、物足りないけれど……久しぶりね。岡部のやつ喜ぶと良いな……)」
ふふふっ。と笑みを浮かべながら購買へと足を向ける。
廊下の角を曲がると見知った顔と目が合った。
セシリア「あら、紅莉栖さん?」
紅莉栖「セシリア」
クラスメイトであり、ルームメイトであるセシリアと出くわした。
岡部を除けばルームメイトであるため、実は一番話をしている人物でもあった。
セシリア「こんな時間にいかがいたしましたの?」
紅莉栖がぶら下げている、スーパーの袋に目を落としながら訪ねる。
紅莉栖「ちょっとね。岡部と……ついでに一夏にバナナシェイクをご馳走してあげようかと思って」
セシリア「まぁ……一夏さんにも?」
紅莉栖「岡部が食欲無いからなんだけど、そう話したら飲みたいって言ってきてね」
セシリア「それでしたら! 私もお手伝いいたしますわ!」
紅莉栖「そう言えば、セシリア“も”料理が得意って言ってたわね」
セシリア「えぇ! これでも少しは腕に自信がありましてよ?」
紅莉栖「……そうね、じゃぁ一緒に購買へ行って買い物をしてから調理室に行きましょう」
セシリア「久々に腕がなりますわ。一夏さんの喜ぶ顔が目に浮かびますわね♪」
こうして2人は仲良く、料理の話しをしながら購買部へと向かった。
紅莉栖の得意料理は“アップルパイ”であり、セシリアの得意料理は“卵サンド”など他愛も無い料理話しに華を咲かせた。
紅莉栖「──でも、卵サンドが得意ってなんだか珍しいわね」
セシリア「いいえ、紅莉栖さん。素材の味を殺さずに引き立てなければいけない卵料理は得てして難しいものなのですわ」
紅莉栖「なるほど……勉強になるわね」
2人の購買への足取りは実に軽いものであった。
─購買部─
セシリア「それで……一体何を揃えるおつもりですの?」
紅莉栖「んー、基本はプロテインとバナナと牛乳。後は、肉体疲労を回復させるためにその条件を満たす食材を隠し味に」
セシリア「なる……ほど、では私も見繕ってみますわね」
紅莉栖「うん。別々の効能があっても面白いし、そうしましょう……っと、あった。梅干」
セシリア「疲労回復……といえば、やはりトマトですわ」
それぞれの思惑を孕みながら買い物は10分程で終了した。
野菜、果物、肉類等々……およそドリンクとは無縁と思える食材が袋に詰められていく。
紅莉栖「さっ、後は調理するだけね。今頃、岡部が一夏にマッサージを受けてる頃合だし作って完成して丁度良い時間ね」
セシリア「参りましょう」
2人の後姿は勇壮に見えるほどに気合が入っていた。
─調理室─
紅莉栖「フライパンはどこにあるのかしら」
セシリア「紅莉栖さんはスチームコンベクションをお使いになられますかしら?」
紅莉栖「大丈夫よ。今回はそれほど手間のかかるものじゃないから、フライパンとミキサーがあれば」
セシリア「でしたら、私1人で使わせて頂きますわ」
紅莉栖「OK」
紅莉栖は熱したフライパンにオリーブオイルを垂らすと、種を取った梅干を炒め始める。
負けじとセシリアも何故かスチームコンベクションにトマトを放り込んだ。
紅莉栖「豚肉には高い疲労回復効果がある。そして梅干の酸味は食欲を引き出す……と」
セシリア「やはり、赤い色をしていた方が良いんですわよね……」
お互いに自分の世界へ入り込み、ぶつぶつと声を出しながら調理していく。
熱された梅干の香り。
セシリアの使う赤い調味料達が放つ酸味や辛味の混じった香り。
その他の匂いが調理室に充満していく。
紅莉栖「後は、これを混ぜて……」
セシリア「裏ごししたこれらを混ぜて……」
ほぼ同時に2人が最後の仕上げ。
ミキサーでのシェイク作業に入った。
紅莉栖「セシリアのは……随分と赤いわね?」
セシリア「紅莉栖さんのは、少し茶味がかってますわね?」
紅莉栖「結果的に茶色が強くなってしまったけど、効果はばっちりのはずよ。
健康面を考えて大豆等の植物性たんぱく質も入れたしね」
セシリア「うふふっ。御ふた方の喜ぶ顔が今から楽しみですわね♪」
翌日、この調理室から異臭騒ぎが広がりしばらくのあいだ使用禁止となる。
調理場から検出された食材からも、この異臭の原因となる物質は発見されず、理由は解らず仕舞いとなった。
─自室─
一夏「よっと……こんなもんか」
ふう、と一息ついて腕の動きを止める。
足裏から始まったマッサージは、すでに首筋まで終わっていた。
岡部「助かった。だいぶ身体が楽になった……」
一夏「楯無さんがくれた薬の効果だろうな。すげー効きそうだもん」
軟膏でべたべたになった手を洗いながら一夏が答える。
薬の効果は勿論だが、それを手で浸透させる作業。
マッサージが一番効果を上げていることを岡部は解っていた。
岡部「(この男に礼を言っても、暖簾に腕押しのようだな……)」
ありがとう“一夏”。
と心の中で岡部は礼を言った。
一夏「それにしても、遅いな」
岡部「……」
この一言で、マッサージの心地良さに浸っていた岡部の表情が固まる。
一夏「プロテインバナナシェイク……だよな? ミキサーに入れるだけなのに、もう30分近くたつぜ?」
岡部「お、女には色々とあるのだろう……うむ」
一夏「?」
岡部の戸惑いを理解出来ない一夏は首を傾げることしか出来なかった。
──コンコン。
控えめなノック音に2人が振り返る。
一夏は笑顔で、岡部はドアから顔を背けていた。
紅莉栖「ハァイ。少し、時間がかかっちゃった」
一夏「おかえり、紅莉栖。って、セシリアも一緒じゃないか。どうしたんだ?」
セシリア「偶然にも紅莉栖さんと居合わせまして、お手伝い致しましたの」
一夏「……セシリアも作ったのか?」
セシリア「えぇ! このセシリア・オルコットが一夏さんの為に特製のプロテインジュースをこさえて差し上げましたのよ!」
一夏「……」
紅莉栖「セシリアって料理上手なのよね、参考になるお話を沢山聞いちゃった」
セシリア「うふふ。紅莉栖さんこそ、博識でいらっしゃってタメになりましたわ」
岡部「……」
紅莉栖とセシリアはニコニコと顔を向けながら笑みを浮かべた。
一夏「えっと……俺の分は紅莉栖が?」
紅莉栖「もう。女子の話しはちゃんと聞いてなきゃダメよ一夏。貴方の分はセシリアが作ってくれたわ」
岡部「では、俺の分は……」
セシリア「もちろん、紅莉栖さんですわ」
そう言うと二人はドン。とテーブルに2つの透明なタンブラーを置いた。
片方は茶色の濁った液体。
もう片一方は真紅に染まった血の色のような液体だった。
セシリア「さ、一夏さん。赤い方が私のですわ」
紅莉栖「岡部、茶色の方が私の。そ、その……栄養とかちゃんと考えたから……身体に良いと、思う……」
ゴクリ。
生唾を飲み込む音が、2人の喉元から響いた。
ヒュッ────ッパ!!
もの凄い勢いで、部屋の主達が行動を同時に開始した。
紅莉栖「あ!」
セシリア「え!」
岡部の手元には赤い液体の入ったタンブラーが。
一夏の手元には茶色い液体のタンブラーがそれぞれ握られている。
岡部「フゥーハハハ! Ms.シャァーロックよ。真紅の液体はこの鳳凰院凶真にこそ相応しい!!」
一夏「いやぁー! さっきトマトジュース的なの飲んじゃったからさ、ちょっとこっち飲んでみたいかなーって!!」
岡部「(すまん、ワンサマー。貴様には礼を言っても言い切れない程の恩と、友情を感じている。
感じてはいるが……これは──)」
一夏「(わりぃ、凶真。疲れてるってことは知ってる。大事な仲間だとも思っているぜ。
だけど、だけど……これは──)」
「「((これは、絶対に譲れない!! それだけは飲めない!!)」」
紅莉栖「ちょっと、おか──」
セシリア「お待ち下さい、いち──」
2人の調理者が何かを訴えかける前に漢達はタンブラーを傾けた。
──ゴッゴッゴッ。
まるで、壮年の男が一気にビールを喉に流し込むような。
そんな爽快な飲みっぷりを披露する漢2人。
岡部「ぶはぁっっ!!!!」
一夏「おえっぇえ!!!!」
──ブバッ!!
──オロロ……。
赤い噴水と、汚濁した滝が流れた。
紅莉栖「ふぁっ!?」
セシリア「きゃっ!?」
その光景に驚き、慌てふためく2人の女子。
一体何が起きたか解らず、ただただその情景を見ることしかできなかった。
岡部「な゛ん゛っだごれ゛ば! 辛い゛……痛い゛、ずっぱい……舌ががが、喉が、食道がっが、胃がっ……」
喉を押さえのたうち回る岡部。
目は充血し、顔もみるみると真っ赤に染まっていく。
一夏「おぇぇぇえぇ……おろろ……ぶぶぶぷっ……おぅ、む、無理だ……ごぁっ……」
びしゃびしゃと、飲み干したはずの液体が逆流いていく。
胃が飲み込んだ異物を“毒”だと判断し、強制的に吐き出させる生理現象。
部屋が汚れるとは解っていても、止めることは出来ない。
紅莉栖「えっえっ?」
セシリア「いったい、なにが……」
のたうち回る男と、嘔吐をし続ける男。
異様な光景が女子の目に映る。
岡部「く、ぐり゛ず……い、いっだい何を……何を作った……」
一夏「せしり……うぷっ、な、何を凶真の方に、にに、いれ……うぷ」
紅莉栖「え、えっと……プロテインとバナナと牛乳だけじゃ味気ないと思って……」
梅干、豚ばら肉、納豆。
何故か梅干と豚肉を炒め、納豆は刻んでヒキ割りにしてからミキサーにかけたのだと言う。
岡部「なぜ……ぞんんがごどお」
紅莉栖「梅干は最近、岡部が食欲無いって言うから……。それに豚肉には、疲労回復効果があるのよ!
納豆にもちゃんと理由があってだな……大豆イソフラボンは──」
岡部「も、もーいひ……わんはまー、ふまん……」
一夏「せしり……はわっ。なにをしたんだ……」
絶えず襲ってくる嘔吐感と戦いながら一夏は問い掛ける。
セシリア「え。わ、わたくしも同じですわ」
初期材料に加えたのは、何故かスチコンで焼いたトマトと赤ワイン。それに調味料。
セシリア「すこしばかり赤みが足りなかったのでタバスコや、ハバネロビネガーなどを足しましたが……」
一夏「はばね゛……うぷっ、凶真、ごべ……おろろ」
困惑する女子。
痙攣し始める男子。
紅莉栖「ど、どうしたの?」
セシリア「一体何が起こりましたの?」
理由が解らないとばかりに問い詰める。
が、もはや問いに対する回答を行うだけの力は2人には無かった。
岡部「すはないは……」
一夏「きょうっ! ……うっ、は帰ってくれないか……」
セシリア「はぁ……。お2人とも体調が悪いようですし」
紅莉栖「放って置けるわけ無いじゃない」
岡部「たほむ、帰ってくれ……」
一夏「おねがっ……がいだ……」
何度か同じようなやり取りを繰り返したが、2人の必死さが伝わり紅莉栖とセシリアは部屋を退散した。
せめて、部屋の掃除だけでもと言い出したがそれすらも拒まれた。
女子が帰り、嘔吐物により酸味やら臭みやらが充満した部屋に男2人が残った。
岡部「わんはまー……」
一夏「凶……っ魔……」
すまなかった。
ごめんな。
2人が謝罪の言葉を出したのは同時だった。
ヨーグルト風味のプロテインとバナナと牛乳。
どうしたら、これらを合わせた飲料があぁなってしまうのだろう。
岡部と一夏はぐるぐると混濁した意識の中でそれを考え、何時の間にか意識を失っていた。
20時前だと言うのにこうして休日であるはずの、土曜の夜は更けて行った。
オ・ワーリ。
本日もありがとうございました。
また投下分書けましたら投稿しにきまう。
おやすみなさい。
本日もありがとうございました。
また投下分書けましたら投稿しにきまう。
おやすみなさい。
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