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    元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★
    タグ : - 黒子 + - ディアボロ + - 一方通行 + - 上条 + - 上条当麻 + - 妹達 + - 御坂 + - 御坂美琴 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    401 = 395 :


    「ふむ、例えば?」

    「…………恋、とか?」

    にやり、と木山は笑った。

    「近ごろ噂になっているでしょう、"常磐台の『超電磁砲』が男子高校生にご執心"、と」

    「……ああ、その噂ですか」

    うんざりしたように教官はため息をつく。

    「我が校は女子中学校ですから、不純異性交遊は禁止となっています。
     あまり噂が広がるようならば何か対策を取らねば、保護者の皆さまからの信頼を損ねてしまうかもしれません。
     何のために『学舎の園』に校舎を置いたのか、ということにも繋がってくる問題ですし」

    「大丈夫だと思いますよ、"彼"ならば」

    懸念を表す教官に、木山は笑って答えた。
    "彼"と美琴の間に起きたこと、そして彼女にどんな影響を与えてきたかを考えれば、そんな懸念は無用だと分かるだろう。

    「少なくとも、私はお似合いだと思いますけどね」


    実験終了を告げるブザー音が鳴り、二人の話はそこで終わった。
    眼下を見下ろせば、美琴が笑顔で手を振っていた。
    その足元には、大量の砕けた円盤が散らばっていた。

    パソコンに表示された結果は、もちろんパーフェクト。
    文句なしのレベル5判定だ。
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    402 = 395 :


    今回の『身体検査』の主目的は『最強の電撃使いである美琴が能力を使う時、脳がどのような活動を行っていて、どのような演算式を組んでいるのか』を調べることだ。
    思いつく限りありとあらゆる使い方をし、データを計測することが必要となる。
    通常の『身体検査』では超電磁砲をプールに数発撃つだけなのに、今回は数時間にも及んだ。
    当然すっかり体力を使い果たし、全行程が終わると同時に床にへたり込んでしまった。
    時刻は午後二時、昼食もとらずにぶっ続けなのだから疲れるのは当然か。


    「おっねえっさまーん♪」

    「ひょわぁっ!?」

    突如耳元で甘ったるい声が聞こえたかと思うと、背後から誰かに抱きつかれたかのように体に重さがかかる。
    彼女の電磁波レーダーに引っかからずにこんな芸当ができる、かつしそうな人間と言えば、たった一人しか思い浮かばない。
    抱きつくだけでは飽き足らず背後から体をまさぐり始めた白井の手を掴み、出来るだけ甘い猫撫で声を作る。

    「ねーえ、黒子?」

    普段の反応とは全く違うトーンに白井は思わず手を引っ込めようとする。
    が、その手はがっちりと掴まれていて、引き離すことができない。

    「な、なんですの、お姉様?」

    「私、9月から更に最大出力が上がったらしいのよね。大体1割増しくらい」

    「それは大変喜ばしいことですの……」

    「だからさ、お仕置きの威力も1割増しって事で良いわよね?」

    「そ、それは……」

    目の前でばちん、ばちんと帯電を始める美琴の髪を見つつ、白井は逃れるための手段を模索する。
    単純な腕力の引き合いでは勝てない。となれば逃れる手段はテレポートのみ。

    「逃がすかコラ!」

    「ぎゃぴんっ!?」

    当然、そんな思考ロジックは美琴には既に見抜かれている。
    演算を邪魔する程度のごく弱い電流を流しテレポートを妨害すると、本格的なお仕置きへと移る。

    「さあ黒子、今日と言う今日は覚悟しなさ──」

    「……何やってんだ?」
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    403 = 395 :


    この場で聞こえるはずのない声。
    ぎこちなくその声の主のほうを見ると、そこには呆れ顔の上条がいた。

    「ななななんであんたがここに!」

    「御坂が『身体検査』をしてるからって、白井が連れてきてくれたんだよ」

    「普段何気なく接している方がどんなに凄い人物であるかを、殿方さんに思い知らせてあげようと思いまして」

    いつの間にかテレポートで美琴から距離を取っていた白井が、意地悪そうに笑う。

    「実際、『身体検査』をご覧になっている間の殿方さんは、何度も感嘆のため息を漏らしていらっしゃいましたし」

    「ま、レベル5の能力なんてそうそう見れるもんじゃないしなぁ」

    「でも、あんたには一度も効かなかったのよ」

    称賛するような上条の態度が何故か気に入らなくて、美琴は唇を尖らせる。

    「電撃飛ばしても、砂鉄をぶつけても、何したってあんたは防いじゃうんだから。
     おかげでこっちはレベル5の面目丸つぶれなのよね」

    「そ、そんな事を言われましても……うわっ!?」

    前触れなく美琴の前髪から放たれた青い火花を上条は慌てて右手で受け止めた。
    それを見た美琴は獰猛な笑みを浮かべ、上条は表情を引きつらせる。

    「久しぶりに、勝負よ!」

    「……勘弁してくれ」

    「問答無用!」
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    404 = 395 :


    疲れも忘れて上条を追いかけ回す美琴と、泣きそうな表情で逃げる上条。
    それを見ながら、白井ため息をついて、壁に背を預ける。
    真横の壁が開き、エレベーターとなっているその中から、木山と教官が現れた。

    「……あれが恋、なのかしら?」

    「恋と言っても様々な形があるでしょう」

    「お姉様があそこまで追いかけ回すのはあの方くらいですの」

    呆れ顔の教官、興味深そうな木山、そして少し寂しそうな白井。
    三者三様の表情で、超電磁鬼ごっこを繰り広げる二人を見つめた。

    「……とっても楽しそうでしょう? 少なくともお姉様は」

    「……この調子では話もできないな」

    木山はため息をつくと、手を勢いよく叩く。
    ただっ広い空間にその音はよく響き、走り回る二人の注目を集めた。

    「今日は協力してくれてありがとう。貴重なデータをたくさん集めることができたよ。
     おかげで私の研究もはかどりそうだ。私がいただいたデータと同じものを君にも渡しておくから、気になることがあれば何でも言ってくれ」

    木山に渡されたデータチップを、学生3人は珍しいものを見るような目で眺めた。

    「……この中にはお姉様の詳細なデータが何から何まで…………うひひ」

    「やめろ変態」

    「疲れただろう。今日のお礼と言ってはなんだが、お昼を御馳走させてくれないか。
     良ければ君の友人たちも一緒に」

    木山の言葉と共に、誰かの腹が鳴った。
    それが誰かは、あえて書くまい。

    ため息をつき、美琴はその申し出を受け入れた。
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    405 = 395 :


    同時刻。

    第十七学区の路上を一方通行は歩いていた。
    その隣には番外個体が。
    何故この二人が共に出歩いているかと言えば、ちょっとした事情がある。

    第十七学区は工業製品の製造に特化した学区であり、施設のほとんどはオートメーション化が進み、人の姿は少ない。
    人影が少ないということは機密が漏れにくいと言うことでもあり、非合法な研究の舞台になることもしばしばある。
    事実、『実験』当時にはこの学区にも『妹達』を製造・教育する施設がいくつもあった。
    ならば『第三次製造計画』の中枢となる研究所もここにあるかもしれない。一方通行はそう考えた。

    当初一方通行はここの調査に番外個体を同行させる気などなかったのだが、彼女はどうしても、と言い張った。
    駄目だ、連れてけ、断る、ケチ死ねこの白モヤシなどと口論になった挙句、番外個体は恐るべき手段を持って一方通行を脅迫した。
    その内容は、「打ち止めと一緒にお風呂に入ったことを美琴にチクる」と言うもの。

    数日前、一方通行と美琴は問答の末に一応の"停戦"を見た。
    その時に立てた「妹達を決して傷つけない」という誓いを一方通行は遵守するし、守られ続ける限り美琴は彼が打ち止めと共に居ることに口を出さない。
    そういう約束だ。

    だから、もし仮に「一方通行が妹達の誰かに危害を加えかねない」と美琴が認識してしまえばその関係は成り立たなくなる。
    彼が打ち止めと共に入浴したのは子守のためであり、そこに性的な意味や行動は全くない。
    だが、事実を面白おかしく脚色してしまえば美琴の中では「一方通行は自分の妹の貞操を狙うロリコン」という事になってしまう。
    自分の妹に欲情しているかもしれない男のそばに、妹の身柄を置いておきたがる姉などいない。
    結果、打ち止めと引き離され一方通行の履歴書に「小児性犯罪で補導」の文字が追加される、という事もあり得る。

    笑えない冗談だ。
    やっと取り戻した守るべきものをそんなことで失ってたまるか。
    万が一の時は自分が戦い、番外個体の手を汚させるようなことはしない。
    そう約束させ、一方通行は要求を呑むことにしたのだ。

    一方通行に対して絶大な破壊力を持つカードを握ったのが嬉しいのか、気分良さそうに鼻歌など歌う番外個体を見て一方通行は小さく舌打ちをした。
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    406 = 395 :


    「それにしても寂しいところだねぇ。町並みは綺麗なのに人の姿が全然見えないよ」

    「この学区にある工場のほとンどはオートメ-ション化されてンだ。
     工業材料の搬入や仕分けから製品への加工に出荷、設備のメンテナンスから掃除まで全部機械がやってる。
     人間の仕事なンざモニターを眺めて定時報告書やら時折出るエラー潰しくらいだ。そンなに数は必要ねェ。
     掃除するロボットばかりで汚す奴がいなけりゃ、自然と町並みの清潔さは保たれるだろ」

    「ふぅん、味気ないの。学園都市らしいっちゃぁらしいんだけどさ。
     で、あなたはこんな寂れた学区に、『第三次製造計画』の本拠地があると踏んだわけだ」

    「あくまで"かもしれねェ"レベルだがな。情報が足りないなら、自分の足に頼るしかねェ」

    そんな事を言いながら、二人は並んで歩き続ける。


    不意に一方通行が歩みを止め、少し歩いてから気付いた番外個体が振り返った。

    「どうしたの?」

    「……疲れた」

    「はぁ?」

    「コーヒーが飲みてェ。そこの角を左に曲がってまっすぐ言った突き当たりを更に左に曲がったところに自販機があるから、買ってこい」

    「あのさぁ、ミサカはあなたのパシリじゃないんだけど。立場が逆なんじゃないのー?」

    「こっちは杖突いてンだぞ。たかがコーヒー一本買うのにミサカネットワークの力を借りていいってンなら話は別だけどよォ。
     ほら、オマエの分の金も出してやるから、好きなもン買ってこい」

    塀に寄りかかった一方通行に財布を放り投げられ、番外個体は渋面をする。
    が、何かを思いついたかのように意地の悪い笑みを浮かべ、一方通行に指示された方向へ向かう。

    「はいはい、砂糖とミルクアリアリのあんまーいコーヒーを買ってきてあげるからね。
     ミサカを使いっ走りにしようって言うんだ、鼻をつまんででも流し込んでやる」

    「……ブラックにしろ、ブラックに」

    肩をすくめて背を向けひらひらと手を振る番外個体に、無駄だと分かりつつも一応言い含めて置く。
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    人の少ないこの学区では自販機を大量においても無駄ということもあり、番外個体に指示した自販機は実のところかなり離れたところにある。
    本当にコーヒーが飲みたかったわけではなく、実際は彼女を遠くへ行かせたかったのだからそれでいい。

    番外個体が離れてから3分、一方通行が塀から背を離した。
    視線の先に立っていたのは、土御門元春。

    「……よォやく現れたか、土御門」

    「上手いとこ落とし所を見つけたようで何よりだぜぃ、一方通行」

    ニヤニヤと笑う土御門の鼻先に、一方通行はデータチップを突きつけた。
    かつて『実験』に使われた施設の廃墟で拾い、セキュリティに土御門の生体データが使われていると思しきものだ。

    「ああ、これか。拾ってくれたのかにゃー」

    「これの中身はなンだ。狡猾で慎重なオマエが落し物をするなンてことはありえねェ。
     きっとなンらかの意図を込めて置いて行ったに決まってる」

    「……確かに、それはオレがばらまいたものだ。お前をこうして釣り上げるためにな。
     で、肝心の中身と言えば…………」

    もったいぶるように言葉を切る土御門。
    相変わらず人を不愉快にさせることが上手い男だ。

    「…………オレが収集した、世界中の選り抜きメイドさん画z待て待て待てチョーカーのスイッチを入れるな!」

    「くだらねェモン拾わせてンじゃねェぞ!」

    「く、くだらないとは聞き流せない言葉だにゃー! いいか、メイドとは……」

    「オイ」

    一方通行が鳴らしたカチッ、という音は、土御門を黙らせるには十分だった。
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    「……チップは俺を釣り上げるためのもので中身はフェイク。それは理解した。
     その理由を聞かせろ。まさか『グループ』に戻ってこいだなンて甘っちょろいことを言うつもりはねェよなァ?」

    「戻ってくるならばそれでいいし、戻ってこないならオレたちの邪魔をしなければそれで構わない。
     元々俺たちは利害関係だけでつるんでたんだ、それに絡まないのならばどうだっていい。そうだろ?」

    「…………」

    「それに今、俺たちは別の目標を追いかけてる。あまりお前だけにかかずらってる余裕はないんだ」

    「だったら……」

    「ところで一方通行、さっきまでカワイイ子と一緒だったな。あの子、オレに紹介してくれないかにゃー?」

    「……あァ?」

    へらへらと軽薄そうに放たれた土御門の言葉に、一方通行の体は一瞬で臨戦態勢に入った。
    番外個体はこの学園都市の『闇』によって作られた存在だ。同じ『闇』である土御門らが探しているということに、余り良い意味は感じない。
    むしろ十中八九は悪い意味だろう。

    そこに彼女たち『妹達』を進んで関わらせる理由は全くない。
    彼女たちがようやく得た平穏を壊させないために、一方通行は『闇に浸りつつも決して染まらない道』を選んだのだ。

    チップはフェイクでも、土御門達は何か情報を握っているかもしれない。
    彼から情報を得るメリットと、『妹達』を闇に近づけるデメリット。
    行き詰った状況下にあっても、一方通行は後者を重要視する。
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    409 = 395 :


    「……知らねェな。見間違いじゃねェのか」

    「そうか? 何やらイイ雰囲気だったもんで話しかけづらかったんだがな」

    言外に「ずっと監視していた」と匂わせる土御門。
    この男に関わる事にメリットがないのならこれ以上話し続ける意味はないし、早急に対応策を取らねばならない。

    「……じゃあな。変なことを考えてみろ。潰すぞ」

    一方通行が背を向けると、土御門は何故か焦りを混じらせた声を出す。

    「おい待て、一方通行」

    「…………」

    「俺の話を聞け」

    「……」

    土御門は数度声をかけるが、それは全て徒労に終わった。
    その背から発せられる敵意は、土御門の干渉を全て拒絶するかのような雰囲気を伴っている。
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    410 = 395 :


    言葉運びを誤ったか、何か誤解をさせたか。
    これ以上の会話は無意味だと悟った土御門は、ため息をついた。

    話したくないのならば、話したくさせるだけだ。

    「……絹旗」

    「はい」


    突如、一方通行の背後に人の気配が生じた。

    (結標のヤツの仕業か!)

    何もないところに出現できるのは『空間移動』能力者だけ。
    瞬時に思考ロジックを入れ替え、チョーカーのスイッチを入れつつ振り返る。

    そこに居たのは結標ではなく、見知らぬ少女。
    何の武装もせず、ただ徒手空拳で突っ込んでくる。
    一方通行の能力を知らないのか、それともただのバカなのか。
    少女が拳を振りかぶるのを、一方通行は鼻を鳴らして眺めていた。

    一瞬何らかのデジャヴを感じ、直後一方通行の世界が揺れる。
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    411 = 395 :


    まるで、いつか操車場の夜空を見た時のようだった。
    違うのは、今見ているものが青空だと言うこと。
    視界の隅に映っているのが少女だと言うこと。
    そして、一方通行が"殴り飛ばされた"ことを自覚していること。

    頭蓋骨が揺さぶられ中身がシェイクされるような感覚から、きっと顎を殴られたのだろう。
    軽いジャブのような打撃でなければ一撃で顎を砕かれていたかもしれない。

    「……言ったとおりだろ、絹旗? "お前なら"一方通行を殴れる」

    「はい。超いけます」

    そんな二人を睨みつけながら、一方通行はふらふらと立ち上がる。
    チョーカーは正常に作動していて、能力はきちんと発動している。
    だとしたら、あの無能力者のように能力を打ち消す『秘密』を持っているのだろうか。

    ここのところ光の世界の空気に慣れ、『最強』だったころの悪い癖が蘇ったのかもしれない。
    「自分を傷つけられるものなど存在しない」という根拠のない確信は、もう捨てたはずなのに。

    再度突っ込んでくる少女をかわし、一方通行は距離を取ろうと地面を蹴った。
    瞬時に10mほど後ろに下がり、少女の出方を伺おうとする。
    が、その時には既に少女の姿はない。
    再び、背後に現れる気配。
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    412 = 395 :


    振り返る余裕もなく、即座に足元のベクトルを操り爆発させる。
    砕かれたコンクリートの破片が弾かれるように跳び上がり、容赦なく少女を襲った。

    しかしそれにも怯むことなく、少女は果敢に手を伸ばす。
    いかなる能力によるものかコンクリートの驟雨を浴びても傷つかぬその手は、一方通行の右腕を"掴んだ"。
    そのまま、片手一本で振り回すように一方通行の体を地面に叩きつける。

    「ぐっ!?」

    もちろん、そんなことでダメージを受けるほど一方通行の『反射』は弱くない。
    だが、うつ伏せになった一方通行に少女が飛び乗ったことで身動きが取れなくなる。

    それは一方通行にとって衝撃的な出来事だった。
    何故なら、少女が飛び乗ったことにより、通常ならば反射されるはずの『圧力』が加わったからだ。

    繰り返すが、チョーカーは正常に作動している。
    少女は何らかの『能力』を用い、コンクリートを防いだ。

    あの無能力者のように、「能力を打ち消す能力(仮定)」を持っているわけではない。
    木原数多のように一方通行の能力のバグを突いているわけでもない。
    エイワスのように一方通行の『反射』を力押しで破ったわけでもない。

    まるで『反射』の膜をすり抜けるかのように、彼女の拳は直に一方通行を叩く。
    …………すり抜ける?
    腕の関節を極められ組伏せられた一方通行の脳裏に、一つの仮説が浮かんだ。
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    普段生物が何気なく呼吸している大気は78%の『窒素』と21%の『酸素』、そして何種類かの微量成分によって構成されている。
    この話の場合は重要となるのは前者二つ。
    『窒素』と『酸素』。大気の99%を占めるこの二つの成分は、生体の生存に大きく関わっている。

    酸素中毒、という疾患がある。
    超高分圧の酸素を摂取した場合、またはある程度高分圧の酸素を長期にわたって摂取し続けることにより、身体に様々な異常を発し最悪の場合は死に至るものだ。
    生物は吸った大気から酸素を得て生命活動を維持しているが、だからと言って酸素のみを得ていれば生存可能というわけではない。
    原始的な微生物が嫌気性を持っていることが多い事実から分かるように、本来生物にとって酸素は劇物なのだ。
    ただ進化の過程で有酸素環境に対してある程度の耐性を得たにすぎない。

    酸素分圧は流体の体積あたりに占める酸素量を現す指標であり、気圧と酸素濃度の乗算で求められる。
    酸素濃度が変わらなくても、例えば登山などで気圧の低くなれば低酸素症を引き起こし、呼吸困難となる。
    酸素濃度が高くても、宇宙服のように低圧環境下ではなんら問題は発生しない。
    あくまで、この二つの値の積が重要なのだと覚えてほしい。

    ここで絹旗最愛の能力、『窒素装甲』を考えてほしい。
    空気中の『窒素』を自在に制御し身に纏うことで、自動車を持ちあげたり、銃弾を受け止めたりすることができる能力だ。
    当然彼女の拳も窒素を帯びることとなる。正確には「彼女の拳の動きに合わせて、窒素の鎧も動く」とすべきか。

    この状態で絹旗が一方通行を殴れば、彼女の力は『窒素装甲』を媒介として一方通行へ伝わる。
    置き換えれば、運動エネルギーを与えられた窒素が一方通行に対して作用する、ということになるだろう。
    この時、一方通行がこの『窒素』を反射してしまうとどうなるだろうか。
    大気中の78%を占める窒素は反射され、21%を占める酸素は彼の反射膜を素通りする。当然、気圧は変わらぬまま。
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    上記のとおり、酸素分圧は気圧と酸素濃度の乗算で求められる。
    窒素が取り除かれれば当然、一方通行が吸う大気に占める酸素の割合は急上昇する。
    結果、待っているのは酸素中毒だ。

    学園都市最高の頭脳を持つ一方通行がその事を知らないはずがない。知っているが故に、彼は窒素を反射することができない。
    「無害なもの、必要なもの」以外を弾く、ホワイトリスト式の反射能力が仇となった。
    それは言い換えれば、「無害なもの、必要なものを反射することができない」ということになる。

    もちろん、これは窒素に限った話。「絹旗最愛」そのものにまで適用される訳ではない。
    だが、能力の範囲の問題がある。
    一方通行の反射膜はごく薄く、絹旗の『窒素装甲』の厚さは数センチメートル。
    思いっきり殴りつけたところで、彼女の拳そのものは一方通行の加害範囲外にある。

    それは彼を組伏せている今も同じ。
    傍目から見れば、絹旗は一方通行の体から数センチ浮いて見えることだろう。
    窒素と言う媒介を通す限り、絹旗の全ての行動は一方通行に対し、何ら阻害されることなく通用してしまうのだ。

    『暗闇の五月計画』にて一方通行の演算パターンを植え付けられながらも彼と同等の力を得ることはできず、
    レベル5に至ることのできなかった彼女が一方通行への特効性を手に入れたことは、運命の皮肉なのかもしれない。
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    一方通行の首元でカチッという音がした。
    絹旗が一方通行のチョーカーのスイッチを通常モードへと戻したのだ。

    男女差や年齢差はあれど、接近戦では絹旗の方が優れている。
    能力を奪われ、関節を極められたままの一方通行に為す術はない。

    「絹旗、これを使え」

    土御門が手錠を放り投げ、絹旗はそれを片手で受け取った。
    能力を奪われ、手足の動きを封じてしまえば無能力者と変わりはしない。
    あとは『窒素装甲』に頼らずとも、いくらでも好きなようにできる。
    片手に手錠をかけられた瞬間、一方通行が小さく「……クソッタレ」と呟くのを絹旗は聞いた。

    「あなたが超快く協力してくれれば、こんなことにはならなかったんです」

    「…………」

    「それとも、ただの超負け惜しみですか?」

    「……違ェよ」

    一方通行は視線を絹旗でも、どこかへ電話をかけている土御門でもなく、どこか別のところへ向けている。
    つられて絹旗がその方向へと顔を向けた瞬間、何か筒状の物体が飛来した。

    「ッ!?」

    音速で飛来したそれは絹旗の顔面に直撃し、中身の茶褐色の液体をぶちまけて大きくひしゃげた。
    自動防御能力を持つ絹旗は当然無傷だが、芳醇な香りを放つ液体を頭からもろにかぶってしまう。

    「これは……?」

    「……ふざけンなよ、土御門。人が苦労してじゃじゃ馬を押さえこンでるってのによォ」

    ため息を漏らしたのは一方通行だ。
    改めて絹旗が一方通行の視線の先を見れば、そこには一人の女が立っていた。

    「ミサカの獲物を取らないでくれるかな、泥棒猫さん」

    右手に似合わぬ大きな軍用拳銃を、左手には缶ジュースを持って。
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    416 = 395 :


    「対象2、番外個体だ!」

    土御門が叫ぶ。
    絹旗が女の外見を確認すると、確かに『超電磁砲』が少し成長した姿のように見えた。

    「良い格好ね、一方通行。最終信号と言い、年下の女の子にのしかかられるのが趣味なの?」

    「趣味じゃねェよ。この頃なンだかそォいう星の下に生まれた気がしてきたが」

    「あっそ。まあ、あなたが苦痛に呻く姿を見るのはゾクゾクするんだけどさ」

    番外個体の周囲を紫電が走り、空気の爆ぜる音がする。
    同時に彼女の姿が掻き消えた。
    直後絹旗の視界に映ったのは、番外個体の靴の裏。

    「その苦痛を与えるのは、やっぱりこのミサカであるべきだよねぇ!!」

    蹴り飛ばすのではなく、あくまで足で押しのける。
    言葉で表すのは簡単だが、それを空気を爆発させた勢いのまま行えばどうなるか。
    生まれた時から彼女に叩き込まれていた戦闘プログラムがそれを可能にする。

    絹旗の『窒素装甲』はあらゆる衝撃を受け止めても、衝撃そのものを打ち消すわけではない。
    受け止めきれない衝撃は、絹旗の体を一方通行の上から吹き飛ばした。

    「……くぅっ!?」

    「ぎゃは☆ 軽いなぁ、女の子はちゃんと食べないと色んなところが大きくならないんだってさ!」

    受け身を取り土御門のそばまで後退した絹旗に対し、笑いながら番外個体は右手の軍用拳銃を向け、躊躇なく引き金を引く。
    サイレンサーを通過する擦過音がし、2発の弾丸を右肩へと正確に叩きこんだ。
    が、

    「……ありゃ、堅いなぁ」

    その弾丸は絹旗の『窒素装甲』に阻まれ、ひしゃげて地面へと落下する。
    当然、本人は無傷だ。

    「……私の『窒素装甲』は拳銃ごときでは貫けませんので」
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    417 = 395 :


    懐から拳銃を取り出しながら、土御門が絹旗に囁く。

    「こうなったら仕方がない、番外個体も一緒に捕獲する」

    「いいんですか、オーダーじゃああれも超保護対象でしょう?」

    「情報を得なければ話は進まない。今後退してもいずれかは接触しなければならないんだ」

    込めている弾頭はゴム弾。当て所さえ間違わなければ死なせることはない。
    周辺のクリーニングは終了してる。派手にドンパチをやらかしたところで誰かに目撃される恐れはない。
    真っ先に動いたのは絹旗だ。彼女の能力であれば、銃弾程度怖くはない。
    一方通行に対して攻撃可能なのは彼女だけ。そちらへ再びダメージを加えるべく飛びかかろうとする。

    「そうだね、そう来るよねぇ。有効打が与えられるあなたが、そっちを狙いに行くよね!」

    絹旗の前に立ちふさがったのは番外個体だ。

    「超邪魔です!」

    彼女は土御門に任せる。致命傷にならぬ程度に吹き飛ばそうとその拳を振るおうとした。
    が、その拳が番外個体を捉える事はなく、するりとすり抜けるようにかわされる。
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    418 = 395 :


    「『窒素装甲』。レベル4の大気操作系亜種。周囲の窒素を自在に操り、攻防ともに優れた威力を発揮する、だったかにゃーん?」

    すいすいと身をこなし、時には手でさばいて絹旗の拳の軌道を捻じ曲げながら、番外個体はすらすらと絹旗の特徴を述べて行く。
    何のためかは知らないが、『暗部』の人間のおおまかなパーソナルデータは生まれた時から頭の中に入力済みだ。
    「相手の能力を知っている」という事実は戦闘において大きなアドバンテージとなる。

    「窒素を圧縮して作った装甲は堅牢だけど、それ自体が大きな破壊力を生むわけじゃない」

    「……何が超言いたいんですかっ!?」

    絹旗は反駁とともに腕を大きく突き出し、番外個体の顔面を狙う。
    気絶さえさせてしまえば、あとはどうにでもなる。
    だがその腕を『窒素装甲』ごと両手で掴まれ、絹旗の動きは止まる。

    「つまりさ、第一位みたいに触っただけでどうにかなるわけじゃないのなら、対処する手段はいくらでもあるんだよねってこと!」

    そう言うや否や番外個体はハンマー投げのように絹旗を振り回し、周囲の塀に叩きつけた。
    当然能力の加護により絹旗自身に怪我はないが、それでもめり込んだ壁から脱出するには苦労する。

    そんな彼女を、余裕の嘲笑を顔に張り付けた番外個体が見下ろす。

    「この間まで入院してて体がなまってるんだ。ちょっとは運動させてよね?」
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    419 = 395 :


    番外個体と絹旗が繰り広げる戦闘による轟音が響く中、一方通行は脳震盪からの回復を待ってのろのろと立ち上がる。
    当然、チョーカーのスイッチは入れ直されている。
    視線の先に佇む土御門の表情は、サングラスの影になって伺うことはできない。

    「……遺言代わりに聞いてやる。何故あのガキを狙う?」

    「狙ったわけじゃないさ。ただ話を聞く必要があるだけだ」

    「話ねェ。その割には、ハナっからヤる気だったみてェじゃねェか」

    「お前が人の話を聞こうとしないからな」

    一方通行は舌打ちをする。

    「……全部洗いざらい話せ。地獄に送るかどうかは、その後で決めてやる」



    結標と海原はその光景を離れた所から伺っていた。
    奇襲と撤退、バックアップとして重要な役割を持つ二人は容易には手を出せない。

    「……貴方の大好きな女の子と同じ顔の子が大暴れしてるけど、どうするの?」

    「どうするもこうするも、自分たちはバックアップです。前線は土御門さんに任せましょう」

    「その土御門を、一方通行がやたら睨んでるんだけどね……」

    ひとたび彼の能力が振るわれれば、その暴虐はたちまち『グループ』全員を呑みこむだろう。
    ぶるりと背筋を振るわせ、結標は事態が好転することを祈った。
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    420 = 395 :


    「ぎゃははははははは、ほらほら、上手く避けないと装甲に穴が空いちゃうよ?」

    後退を繰り返す絹旗を、攻撃に転じた番外個体が追っていく。
    その周囲には大量の鉄釘が浮いていた。

    オリジナルの『超電磁砲』には遠く及ばないものの、彼女の鉄釘攻撃も高い威力を持っている。
    一発一発では『窒素装甲』を穿つことができなくても、連射されればいつかはその内側にまで届くかもしれない。

    5本ほど同時に射出された鉄釘をバックステップで避けた瞬間、絹旗の眼前で爆発が起こった。

    「ッ!?」

    絹旗の体を爆風が叩いた。
    空気を爆発させることによって、絹旗のシールドを形成している窒素そのものが吹き飛ばされていく。
    そこを鉄釘で集中的に攻撃されれば、容易に装甲は削れてしまう。
    ついに一本、絹旗の左腕を鉄釘が抉った。

    「がぁっ!?」

    痛みを噛み殺し、周囲に散らばるガレキを掴み投げつけるが、番外個体はそれを首を振るだけで回避する。

    「それでオシマイかにゃーん? 本当にミサカと同じレベル4なのか、ちょっと信じがたいなぁ」

    そう言い放つ番外個体は今だ無傷。
    どんな怪力も、当たらなければ意味はない。
    どんな装甲も、弱点を的確に突かれ続ければいつかは崩壊へ至る。
    同じレベル4でも、ここまで差があるものなのか。

    自分は近接戦闘専門、相手は長射程からの攻撃が可能。
    装甲を削る空気爆発は能力で引き起こされ、狙撃に使われる鉄釘は装甲に弾かれひしゃげようが潰れようが威力は変わらず、事実上の弾切れはない。

    互いの優劣は明らかだった。
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    421 = 395 :


    絹旗は考える。
    今まで番外個体は、一度も攻撃を受けていない。
    いつだって避けるか、またはいなすことで直撃を避けていた。

    裏返せばそれはすなわち、「直撃した場合にダメージを防ぐ手段がない」ということではないだろうか。
    巧みな動きで攻撃をかわされると言うのなら、その動きを止めればいい。
    そう結論付け、絹旗は立ち上がった。

    「勝手に超決着させないでくださいよ。まだまだ超これからです」

    体勢を低くした絹旗が番外個体に向かって突撃を開始する。

    「はん、猪突猛進ってヤツ?」

    「正面からいかせてもらいます。それしか能が超ありませんので!」

    「いいねぇ、そうこなくっちゃ!」

    襲い来る絹旗を迎え撃とうと、番外個体は腕を振って周囲の鉄釘を自分の前面へと集中させた。

    この時、番外個体は絹旗だけに意識を集中させるべきではなかった。
    もしもっと広い視野を持っていたら、絹旗が立っていた地点に何が落ちているかに気付けたかもしれない。
    能力の出力や戦闘技術で勝ってはいても、経験値の差で勝ててはいない。

    直後、絹旗が残したスタングレネードが炸裂し、閃光と爆音が番外個体の意識の外から襲いかかった。

    「ッ……しまっ……!?」

    予期せぬ閃光に目がくらみ、思わず腕をかざして防ごうとしてしまった番外個体。
    絹旗はその隙を逃さない。

    ありったけの液体窒素缶をぶちまけ装甲を強化。同時に地面に渾身の一撃を地面に与える。
    乗用車すら軽々と持ち上げ易々と引き裂く剛力が、周囲の地面を大きくひび割れさせた。
    視力を失い、足元も確かではないとなれば、自在に動くことはかなわない。
    機動力を失った相手に、あとは必殺の拳を叩きこむだけ。

    そのはずだった。

    「……ぎゃは」

    絹旗が振るった一撃を、番外個体はまるで"見えている"かのように軽やかに避けた。
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    422 = 395 :


    叩きつぶすはずの目標に避けられたたらを踏んだ絹旗の背中を、番外個体の弾幕が襲う。
    装甲を貫通させるための一点集中砲火ではなく、衝撃を与えるための攻撃だったのだろう。勢いを殺しきれず、絹旗は地面に叩きつけられる。

    「……な、なんで……」

    「目や耳を潰した程度で、ミサカたちを攻略できると思ったら大間違いだよ。
     お姉様ほどじゃないにしろ、このミサカにもそれなりに高性能な電磁波レーダーが備わってる。
     特にあなたの周囲は能力のせいで空気密度が違って電磁波が変な反射をするから、丸わかりなんだよね」

    絹旗の背中を踏みつけた番外個体の手元から、カシュッという小気味よい音がする。
    手にしたままだった缶ジュースを開封した音だ。

    「気になってたんだけどさ、あなたってさっきミサカがぶつけたコーヒーまみれでしょ?」

    「…………?」

    確かに、自分の着ているニットのワンピースの上部は茶褐色に染まり、芳醇な匂いが鼻をつく。
    突如、脳天から冷たい液体を浴びせかけられた。
    番外個体が絹旗の頭の上で、封を切ったジュースの缶を逆さにしたのだ。

    「ほら、あなたの装甲って液体は通しちゃうみたいなんだよね。
     気体って密度がもの凄く低いし、いくら圧縮しても限度はある。
     堅くて密度の高い固体は防御できても、固体ほど密度が高くなくて不定形の液体は通しちゃうんじゃないかなぁ」

    「……それが、何だって言うんですか」

    「つまりは、あなたの『窒素装甲』は絶対強固なものじゃないってことだよ。
     防御できる限界があったり、防げずに通しちゃうものもあるんじゃない?
     そう、例えば」

    番外個体の口元が、サディスティックに歪んだ。

    「電撃とかさ」

    その愉しげな声に悪寒を覚えた瞬間、2億ボルトの電流が絹旗を襲った。
    声にならない悲鳴を上げ、体中の神経と筋肉が意志に沿わないでたらめな動きをする。
    ようやく通電が終わった時、絹旗は涙を流し、全身が嫌な汗に包まれていた。
    自分の心臓の鼓動音が嫌に大きく聞こえる。
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    423 = 395 :


    「──ちぇー、生きるか死ぬかの『暗部組織』の一員だって言うから、どんなもんかと思ったのに」

    2、3回電撃を浴びせたのち、期待はずれとでも言いたげに、番外個体がつまらなさそうな声を出す。
    興味を失くしたかのように絹旗から離れる。

    「この程度で生き残ってこれるなら、この街の『闇』ってのもたいしたことないんじゃないの?」

    「…………『暗部組織』なんて、この街の『闇』の超上澄みでしかありませんよ」

    よろよろと体を起こす絹旗。今だ体のあちこちにしびれは残っている。
    けれど、まだその目は死んでいない。

    「私はもっと深い『闇』を見てきた。今みたいな逆境なんて、超何度も乗り越えてきたんです」

    今だ震える足で、しかし力強く絹旗は立つ。
    そうだ。これより酷い状況から生き残ったことなんて何度だってあるし、これからだって乗り越えて行く。
    こんな所で斃れる訳にはいかないのだ。

    何故かと問われれば、ちゃんとした答えを出すことはできない。
    物ごころついた時から『置き去り』として実験動物と同じ扱いを受けていた彼女は、まず第一に「生存する」という目的を持つ。
    死なないために生きて行く。
    あるいは、いつの日かちゃんと「生きる」ために生きて行く。
    その為に、今倒れるわけにはいかない。ただ、それだけだ。
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    424 = 395 :


    そんな意志を秘めた絹旗の瞳を見た番外個体は、なおも攻撃を加えようとするが、

    「いい加減にしろ」

    と一方通行に襟元を引っ張られ、中断せざるを得なくなってしまった。

    「お姉様が買ってくれた服なんだから無理に引っ張らないでよ、伸びちゃうじゃんか」

    「悪かったな。だが、そのままだとオマエがそいつを面白半分に殺しかねねェと思ったからな」

    手を汚させないという約束は、何が何でも守らせるつもりだ。
    興が削がれたと言いたげに、番外個体は絹旗に背を向ける。
    一方通行の背後では土御門が拳銃を懐へと閉まっていた。

    「それで? ミサカは遊んでたから分からないんだけどさ、どういうことになったわけ?」

    「ドンパチは終わりだ。場所を移して情報交換をする」

    「あっそ、信用できるの?」

    「できねェと思ったら、その時は潰すだけだ」

    「そういうことだから、お疲れさんだにゃー、絹旗」

    土御門が労わるように手を伸ばすと、絹旗は崩れ落ちるようにそれに体重を預けた。

    「……結局、私は超骨折り損、ってところですか」

    「そんなことはない。絹旗が時間を作ってくれなきゃ、今頃土御門さんのウェルダンなサイコロステーキが出来上がっていたところだぜぃ」

    「なンなら、今からその通りにしてやってもいいンだがな」

    「いやいや、遠慮しておくぜよ」

    息も絶え絶えな絹旗を背負うと、土御門は残る二人に向き直る。

    「それで? 場所はお前が指定するんだろ、一方通行」

    「……そォだな」

    一方通行はしばらく考え込んだのち、土御門に告げる。

    「……俺のアジトの一つに来てもらおォか」
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    425 = 395 :

    今日はここまでです

    絹旗ちゃん好きの人はごめんなさい
    これからの展開を書くにあたり、この作中でのワーストの強さを設定しておきたかったんです
    個人的なイメージとしては、レベル4内では黒子……中堅クラス、絹旗ちゃん……上位クラス、あわきん・ワースト……最上位クラスではないかと思っているので
    このSSではだいたいそんな感じで展開していきます

    ではまた、来週末くらいに自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    426 :

    乙!
    どの更新分もお話が滞ることなく進んでいるから面白い
    次回も楽しみ自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    427 :

    久しぶりの>>1

    一方さん対策はホワイトリストを突いてきましたか、これは盲点だった
    絶対木原神拳改め絹旗神拳だと思ってたのでww
    そして一方さん喋りになっての対戦かとひそかに期待しちゃってたりもしてました自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    428 :

    乙!今回も面白かった。
    一方めっちゃ弱くて笑えるわww自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    429 :

    乙、相変わらず面白い


    でも文句言うわけじゃないが、一方さんの反射フィルターは結構細かく例外設定出来ると思うんだがな
    かっきーも似たような方法使ってたけど、向こうはフィルター再設定されたら未現物質を再設定して戦ってたわけだし
    まあここで議論おっぱじめるのもアレだし、そういうものだと思っておくけどね
    一方さんの名誉の為に一応フォローを自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    430 :



    物体から運動エネルギーだけを分離できるならともかく、そうでないなら窒素に介入した時点で詰みじゃない?自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    431 :

    やべえ、番外VS絹旗に萌えた……
    こんな属性、自分にあったのか……

    乙自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    432 :

    待ってました
    限りなく乙です自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/

    433 :

    待ってたよ!!乙なんだなww
    相変わらずのハイクオリティでとっても最高でした!!

    435 :

    >>1 おつおつー、今回は絹旗ちゃんがでてきて俺得でした!

    次は…絹旗も活躍するといいな…

    次も待ってるぜ


    >>434 うるさく言うつもりはないがsageとけ

    436 :

    この一方通行は空力使いに対して何もできないってことにならない?

    437 :

    こまけェことはいいんだよ!

    438 :

    反射する瞬間だけ息を止めれば問題ない

    439 :

    今の一方さんは精神的に弱ってるからな

    440 :

    たしかにいろいろ反論があるし、事実そんなので絹旗が一方通行に勝てるわけがないけど、ここは>>1のssなんで>>1が勝手にキャラの設定や強さを改竄しても問題はないと思う。
    原作とは違うパラレルワールド的な視点でこれからも読ませていただきます。

    441 :

    婚后さん無双きよるで
    トンデモガール

    442 :

    >>440
    その意見は正論だが、出来れば次はsageてくれることを期待している

    443 :

    しょうがないよ、一方さん強すぎるんだもん、かまちーだって木原神拳なんてトンデモ翌理論出してたんだし

    二次創作で独自解釈やらかしても誰も責められないと思う

    444 :

    一方厨は最強厨ばっかりだな気持ち悪い

    445 :

    トリックに気付けば、反射膜の範囲広げるだけで対処できそうな気がする。

    446 :

    反射膜の拡張は無理だろ

    447 :


    このSS限定だと一方→垣根→絹旗→一方の三すくみになるっぽい
    絹旗の周りある窒素だけを不自然なベクトルと再演算すれば空気中の普通の窒素と区別して反射できるとか?
    そこまで器用なことはさすがの一方さんでもムリかな?

    448 = 440 :

    仮に(本当に仮に)反射ができないとしてもその辺にある石をベクトル変換で蹴れば驚異的な威力になって窒素装甲なんて簡単に貫くね。
    風のベクトル変換でプラズマも形勢できるし、必殺の黒き翼もあるしな。
    反射を使わずに絹旗に勝つのは造作もないね。というか反射なしでも十分レベル5の強さ。

    449 = 440 :

    仮に(本当に仮に)反射ができないとしてもその辺にある石をベクトル変換で蹴れば驚異的な威力になって窒素装甲なんて簡単に貫くね。
    風のベクトル変換でプラズマも形勢できるし、必殺の黒き翼もあるしな。
    反射を使わずに絹旗に勝つのは造作もないね。というか反射なしでも十分レベル5の強さ。

    450 :

    まあこの一方はレベル5には思えんなwww糞弱えしwww
    別にいいんじゃね?ここの主人公はあくまでも美琴なんだし


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