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    元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2

    SS+覧 / PC版 /
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    みんなの評価 : ★★★
    タグ : - 黒子 + - ディアボロ + - 一方通行 + - 上条 + - 上条当麻 + - 妹達 + - 御坂 + - 御坂美琴 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    151 = 147 :


    「あとで退院したってメールでも送っておくかな」

    「その際もしお姉様の元気がないようでしたら、励ましてあげてください、とミサカはお願いをします」

    「?? 何かあったのか?」

    「……いえ」

    上条は首をかしげるが、10032号は答えない。

    「姉妹げんかでもしたのか?」

    「……このミサカとではありませんが」

    「ふむ」

    上条の見る限り美琴と妹たちの関係は良好だ。
    だが、近いからこそ、というものはあるかもしれない。

    「ま、喧嘩するほど仲が良い、とも言うしな」

    「仲違いしているのに仲が良いのですか? とミサカは疑問に思います」

    「それだけ互いの事を想ってるからこそ、意見がぶつかり合ったりするもんなんだよ。
     相手がどうでもいい存在なら、適当に意見を合わせて衝突を回避しておけばいいんだしさ」

    「そういうものなのですか」

    「そういうものなんです」

    ちょうど、エレベータがロビーへと到着した音を告げる。
    入院費の清算は先日両親が見舞に来た時に済ませてくれていた。
    二人はロビーを横切り、まっすぐ玄関へと向かう。

    「ミサカの見送りはここまでです。
     それでは、お姉様によろしくお願いします」

    「おう、またな」

    152 = 147 :


    病院を出れば、冬特有の大分傾いた柔らかな日差しが上条の顔を照らす。
    一昨日降った雪は一部未だ消えずに残っており、あちこちに凍った雪山がある。
    滑らぬように足元に気をつけて歩いていると、

    「おーい、カミやーん!」

    「迎えに来たでー!」

    車道をまたいで反対側の歩道で、土御門と青髪ピアスが手を振っていた。
    二人は車が来ないことを確認すると、そそくさと車道を渡ってこちらへやってきた。

    「今日が退院だから二人で迎えに行ってやろうと思ってたんだけどにゃー、まさかカミやん、オレたちをおいて一人で帰るつもりだったぜよ?」

    「いやぁ、だって来るって聞いてなかったし」

    「ほら、そこはサプライズってやつやん?」

    サプライズがフイにならずにすんでほっとしたように、青髪ピアスが胸を撫で下ろす。

    「どうせ寮の住所は聞いてても、そこまでの道筋は分からへんやないかなーと思てな、土御門クンと二人で学校の周りから寮までを案内したろ考えててん」

    「ついでに退院祝いがてら遊び歩こう的なものでもあるぜぃ」

    「おお、助かる」

    住所を書いたメモは受け取っているが、実際にそれだけで寮まで辿り着けるかと言うと不安なものがある。
    タクシーでも使えばいいのだが、財布の中身はそこまで頼もしくはない。

    「よっしゃ決まり! 善は急げ!」

    「今日は遊ぶでー!」

    「え、ちょっ、おーい!」

    土御門と青髪ピアスの二人は、上条を半ば引きずるように連れ去って行った。

    153 = 147 :


    何かの拍子に、美琴はまどろみの中から引きずり上げられた。
    枕元に置いた携帯電話が震えていることに気付いたのは数秒後。
    遅れて、強い頭痛が彼女を襲った。

    今日も頭痛は引かず、一日中痛みと戦いながら頭の中で堂々巡りの思考を繰り広げていた。
    頭が休息を求め、いつの間にか意識を手放していたのだろうか。
    窓の外はもう暗くなり始めていた。

    のろのろと携帯電話に手を伸ばす。
    メールの発信者は、上条だった。


    【FROM】アイツ
    【sub】退院しました
    ------------------------
    御坂「元気ないかも」
    って言ってたけど
    どうかしたのか?


    そう言えば、今日は上条が退院する日だった。
    そんな大事なことを件名だけで済ませ、本文ではこちらの心配をしてくるだなんて、彼らしい。


    【TO】アイツ
    【sub】ごめんね
    ------------------------
    ちょっと風邪引いたみたいで
    凄く頭が痛いの
    迎えに行けなくてごめんね


    自分と妹との事は、彼に知らせるような性質のことではない。
    だからあえてはぐらかした答えを返す。

    154 = 147 :


    【FROM】アイツ
    【sub】大丈夫か?
    ------------------------
    風邪はさっさと治すに限るぞ

    姉妹げんかでもしたのか?


    さすがに10032号から何らかの事情は聞いたのだろうか。
    誤魔化しに引っかかってはくれなかった。


    【TO】アイツ
    【sub】大したことじゃない
    ------------------------
    あの子とではないんだけど
    ちょっとね
    あんたが気を揉むことじゃないわよ

    頭が痛いので寝るね


    さすがに体調を理由にすれば、彼は追撃をかけてはこないだろう。
    携帯電話を手放し、天井を仰ぎ見た。
    伸ばした手には白い包帯が巻かれている。

    これは自分の中で折り合いをつけなければいけない問題だ。
    妥協も逃避もせず、きちんと向き合わなければいけない事柄であり、
    そのためにはもう一度、打ち止めたちとちゃんと話をしなければならない。
    丸二日考え、そこまでは頭の中を整理することができた。

    だが、そこから先がどうしても踏み出すことができない。
    何か取り返しのつかないことになりそうで、なかなか踏ん切りがつかないのだ。

    けれど、いつまでも放置し続けてよいことでもない。
    頭痛が治まったらちゃんと膝を突き合わせて話をしに行こうと思った。



    【FROM】アイツ
    【sub】おやすみ
    ------------------------
    温かくして寝ろよ


    その短いメールに、美琴の心が少し温かくなった。

    155 = 147 :


    「ふー……」

    携帯電話を閉じ、上条は息をついた。
    悪友たちに引きずりまわされ、へとへとになって自宅へ"帰って"きたのが十分ほど前。
    病院からの帰り道に送れなかった美琴へのメールを打っていたのだ。

    改めて、部屋の中を見渡す。
    玄関も、廊下も、リビングも、台所も、ベッドも、洗面所も、風呂場も、ベランダも。
    初めて見たのに、どこか懐かしい。
    初めて見たのに、何かが欠けている。

    その欠けたものは頭では理解していても、記憶としては存在しない。
    にも関わらず、何故か胸の奥がきゅうと痛んだ。


    手の中の携帯電話が音を立て、着信を知らせる。
    寝ると言っていたのに美琴が返信してきたのかと思い画面を開くと、そこには「インデックス」の文字が。

    「もしもし」

    『とうまー!?』

    聞こえてきたのは、はしゃいだようなインデックスの声。

    「おう、久しぶり」

    『久しぶり、じゃないもん!! とうまったら全然電話かけてきてくれないんだから!!」

    一転、怒ったような口調に変わる。

    『大体、退院の日付を教えてくれないってどういうことなのかな!?
     もとはるが教えてくれなかったら、私はいつ退院するのかと今でも心配してたところなんだよ!』

    「……あー、悪い悪い。小萌先生が出席の代わりだって課題山ほど持って来てさ。
     ずーーっと問題集やらされてたんだよ。携帯使うためにいちいち外に出るのも億劫でなぁ」

    『む……それなら仕方がないかも……』

    156 = 147 :


    ここは日本で、向こうはイギリス。
    こちらの詳しい状況が分からなければいくらでも誤魔化しようがある。
    本当は単に忘れていただけなのだが、課題が山ほど出たのは事実なのだから嘘は言っていない。

    『……短髪には、教えたの?』

    「短髪? ……ああ、御坂のことか。
     あいつに教えるも何も、あいつがお見舞いに来てる時に先生が来て、退院予定日を告げられたんだよ」

    『……ふーん』

    「なんで不機嫌そうな声になるんだ」

    『別にー。私もお見舞い行きたかったなーって思っただけ。
     しょっちゅうとうまのお見舞いに行ったり、退院の日を知ってたり、短髪がうらやましいだなんて思ってないもん。
     ……とうまの周りの皆は元気かな? あいさとか、こもえとか、ひょうかとか。どうしてるかなぁ……』

    「姫神と小萌先生は分かるけど……ひょうか?」

    『そっか、まだひょうかには会ってないんだね……かざきりひょうか、私ととうまの友達なんだよ』

    「うーん、まだ会ったことはないなぁ。会ったら、お前のこともよろしく言っておくよ」

    『ひょうかだけじゃなくて、他の皆にもよろしくね!
     ……そうそう、そう言えば、この間あったことなんだけどね──』

    インデックスは楽しそうにイギリスで起きたことを話して行く。
    上条はそれを聞き、時折質問をしたりするだけ。
    けれどそこには、以前のロシアの病室の時のような悲壮な雰囲気はなく、
    この部屋に欠けていた何かが、少しだけ満たされたような気がした。

    157 = 147 :


    夜。

    「まだ寝ないのですか? とミサカは物憂げな上位個体に問いかけます」

    10777号がベッドの上で膝を抱えている打ち止めに問う。
    そこは10777号のベッドであり、どいてくれなければ彼女は寝ることができない。
    考え事をするのならば自室でしたら良いとは思うのだが、打ち止めはいかにも「聞きたいことがあるけどなかなか聞けない」オーラを放っている。

    打ち止めと同室である番外個体はどこかへふらふらと出かけて行ったまま帰ってこない。
    冥土帰しはあまり心配していないようなので、連絡くらいはしているのだろう。

    「……10777号や他のミサカは、10032号と同じように考えているのかな? ってミサカはミサカは呟いてみたり」

    「同じとは? とミサカは聞き返します」

    「一方通行の、こと」

    10777号は理解した。
    昨日の番外個体や10032号との会話の中で、「美琴が代理演算の停止を求めてきたら」という話題に対し、
    10032号は「その場合は停止に応じる」と答えた。
    10777号は10032号に賛成なのか否か、ということだろう。

    「ミサカは10032号の主張に賛成します」

    「……そっか」

    ネットワークを介して分かっていたこととはいえ、改めて音声化され打ち止めはますます俯いてしまう。
    妹たちは実験から解き放たれたあの日、常に全個体で同期を取ろうとすることを辞めた。
    ある個体の意見に程度の差はあれ「共感」はしても、「共有」することはない。
    他の個体の意見に賛同すると言う行為はそれぞれの自由意志から発生したものであり、上位個体権限で叩きつぶすようなことはできない。
    それは彼女たちの尊厳に対する否定行為となってしまうからだ。

    158 = 147 :


    「上位個体はどう考えているのですか、とミサカは問い返します」

    「ミサカは……」

    昨夜番外個体と10032号に言われたことを、今日一日かけて彼女なりに噛み砕いた。
    だけど、でも、しかし、と行きつ戻りつする思考の中に、彼女にも譲れない芯は確かに存在する。

    けれど、それを、
    思っていいのか。
    口にしていいのか。

    口にした言葉には、結果と責任が付きまとう。
    最初はとても小さな事柄でも、それをきっかけに大きな事象へ発展することはざらにある。
    ならば、大きな衝撃が伴う事柄を最初に引き起こせば、それはどれだけの事態へと波及するのだろう?

    「ミサカは」

    唇が震え、鼓動がうるさいくらいに聞こえる。
    この思いを心の奥底にしまい込んでしまえば、"表面上は"丸く収まるのだ。
    一方通行は妹たちの前から姿を消し、美琴が彼女たちの守護者となる。
    世間一般常識から見れば、それが本来あるべき"正しい"状態になるのかもしれない。

    「ミサカは、それでも一方通行と一緒にいたい!」

    159 = 147 :


    けれど、そんな常識なんて知ったこっちゃない。
    自分たちは元々イレギュラーな存在だ。イレギュラーな行動を取って何が悪い。
    自分の生まれた意義と生きる意味は自分たちで見つけると決めた。
    ならば、これこそ打ち止めの生きる理由。

    「このミサカの人生はミサカのもので、お姉様のものじゃない。
     だから、お姉様に指図される理由なんてどこにもない!」

    上位個体として、実験に従事する一方通行の姿をずっと"見て"きた。
    その姿は文字通りの最強でありながら、同時にどこか脆く儚げだと思っていた。

    肉を裂き、骨を砕き、臓を撒き、血を撒き散らして吹き荒れた暴虐の嵐。そこに擁護の余地は一片もない。
    けれど打ち止めは知っている。彼が誰かに自分を止めて欲しがっていたことを。

    壊され、"慣らされた"心は容易には止まらない。誰かに無理やり止められなければいつまでも暴走を続ける。
    そのSOSはいつだって発せられていた。ただそれを受け止めるだけの力が自分たちには無かった。
    それが、ずっと心残りだった。

    もう傷つけ合いをしてほしくないから。
    今度は自分が守ってあげたいから。
    何よりも、自分が彼と一緒にいたいから。

    「例え他のミサカが一方通行の代理演算を打ち切っても、ミサカと他の人の区別がつかなくなっても。
     ミサカは絶対に一方通行のそばから離れたりしない。
     歩けなくても、話せなくても、考えることができなくても、このミサカがあの人を守るんだ!」

    打ち止めは一方通行と共にあることを選ぶ。
    それが、姉との決別につながりかねないとしても。

    160 = 147 :


    美琴が大事じゃないわけではない。
    でも一方通行も見捨てることはできない。

    子供特有の口下手の為か、それとも思いをうまく言語化できないのか。
    二言三言続けようとして口に出ず、涙をぽろぽろとこぼす。

    「……演算補助を停止すると言うことは、彼が誰かの介護を要するということになります、とミサカは説明をします」

    打ち止めは小さく頷いた。

    「脳損傷は極めて治癒例が少なく、恐らくは一生の介護を必要とする事になるでしょう。その覚悟はありますか、とミサカは問います」

    先ほどよりもやや大きく首は縦に振られる。

    「介護は力仕事です。あなたの小さくか弱い体で彼の体を起こし、体勢を変えさせ、あらゆる世話をすることが出来ると思いますか、とミサカは問いかけます」

    その言葉に、打ち止めは頷けなかった。
    自分の体は10歳相当であり、細いとはいえ16歳の少年の世話をするには非力だ。
    黄泉川や芳川には頼れない。「自分が守る」と言いながら最初から他力本願だなんて、論理破綻にもほどがある。
    リハビリのやり直しを覚悟で、いっそ培養カプセルに入れて貰い他のミサカや番外個体と同年齢設定にまで成長させてもらうか。
    そんなことまで考え始めた時、10777号が見かねたように言う。

    「……そのあたりの事をちゃんと検討せずに宣言をしたのですか。困った"妹"です、とミサカはため息をつきます」

    「ちゃ、ちゃんと考えてるよ! 例えばミサカが培養カプセルに入って大きくしてもらうとか! ってミサカはミサカは主張してみる!」

    「またろくでもないことを……とミサカは果たしてコレを上位個体に据えたままでいいのか本気で心配になります」

    これ見よがしに、先ほどよりも大きなため息。

    161 = 147 :


    「そう言う時は、素直に人を頼るものです、とミサカは説きます」

    「え……?」

    「一方通行を助けるのではなく、あくまで上位個体を助けると言う名目であれば、お姉様も文句は言えないでしょう、とミサカは推測します」

    代理演算を切られてしまえば一方通行は能力を微塵も使えなくなってしまう。
    そこに危険性はもはやなく、あるのはただ意思疎通もできなくなった少年のみ。
    あくまで彼を介護する打ち止めの補助という名目ならば、美琴だって納得はせずとも黙認せざるを得ないのではないだろうか。
    彼女だって、自分の妹が苦労し、疲弊していくのを見たいはずが無いのだから。

    「でも、あなたたちは一方通行の代理演算には反対してたんじゃ……ってミサカはミサカは指摘してみたり」

    「それはお姉様に求められた場合の話です。求められなければ現状維持でも構わない、とミサカたちは思っています」

    これもネットワーク上でのやり取りを元に合意が行われ、打ち止めには流れている筈だ。
    が、一日中考え込んでいた打ち止めは気付かなかったらしい。

    「ですが、代理演算の継続に向けた積極的な動きはしません。それを望むのならあなたがお姉様の説得に動かなければ、とミサカは諭します」

    「…………そうだね。ミサカはちゃんと、お姉様と話し合ってみる! ってミサカはミサカは決意表明してみたり!」

    162 = 147 :


    「おや、ついに腹をくくったみたいだね」

    横から掛けられた声にそちらを向けば、番外個体が扉の所に立っていた。
    手には何やらビニール袋を持っている。

    「お帰りなさい、番外個体。どちらへ出かけていたのですか、とミサカは質問します」

    「ちょっと野暮用を、ね。事態をミサカの有利な方向に動かすための布石ってところかな」

    番外個体はそのまま10777号のベッドへと腰を下ろす。

    「……それで、あなたはちゃんと自分の意志を固めたんだね。最終信号」

    「うん、ミサカはミサカが望む未来のために動くって決めた! ってミサカはミサカは堂々と宣言してみる!」

    「その意気だよ。この期に及んでグダグダ言うようならあなたなんか放置してミサカ好みに事態を推し進めるところだった。
     10777号や他のミサカたちは静観って事で良いの?」

    「昨夜10032号が語った通り、ミサカたちはお姉様の意向に従います、とミサカはネットワークを代表し表明します」

    「つまり、アクションを起こすのはミサカと最終信号だけなわけだ。
     ……ねえ最終信号、もう具体的な説得方法は思いついたの?」

    「それは……これから考えるんだけど……ってミサカはミサカは口ごもってみたり……」

    「じゃあ、ミサカのプランに乗ってみる?」

    「あなたのプランって? ってミサカはミサカは聞き返してみたり」

    番外個体は唇の端を吊り上げ、意地悪そうな笑みを浮かべた。

    「それはね────」

    163 = 147 :


    12月11日。

    相変わらず美琴は学校を休んでいた。
    和らいだのか、感覚が麻痺しつつあるのかはわからないが、頭痛は少しだけ軽くなった。
    少なくとも、歩きまわることくらいはできる。

    朝とも昼とも言えぬ微妙な時間に美琴の携帯電話が鳴った。
    発信者は打ち止めだ。
    出るかどうか数秒だけ逡巡して、通話ボタンを押した。

    「……もしもし?」

    『……お、お姉様?』

    体調が声に出たのか、打ち止めの声は気遣わしげだ。

    『体調悪いって聞いたけど、大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみる』

    「これでも昨日一昨日よりはマシになったのよ。今日はだいぶ頭もはっきりしてるし」

    『そっか、良かった……』

    上条あたりから美琴の体調不良を聞いていたのだろうか、胸を撫で下ろすため息が聞こえた。

    『病院に行ってお医者さまには見て貰ったの? ってミサカはミサカは訊ねてみたり』

    「寮の保健医さんに見て貰っただけ。長引くなら病院に行こうかと思ってね」

    『……カエルのお医者さまに診て貰うついでに、ミサカたちと少しお話しない? ってミサカはミサカは誘ってみるんだけど』

    打ち止めの言葉に、美琴の心が揺れる。
    それはいつか必ずしなければならないことで、でも出来る限り先延ばしにしたいこと。
    しかし、もう向き合うと決めた。あとはそれが早いか遅いかの違いだけ。
    だから思い切って、打ち止めの誘いに肯定を返す。

    「………………分かった、これから病院に行くわ」

    164 = 147 :


    制服に着替え、防寒具をかっちり着こみ、部屋の外に出たところで寮監とばったり出くわす。
    美琴の具合を見に来たのだろう、手には差し入れのビニール袋が下がっていた。

    「どこへ行く?」

    「……長引いても嫌なので病院に行ってこようと思います」

    「私が送って行こう」

    「動ける程度には良くなったので、一人で行けます」

    探るような寮監の瞳と、体調不良で潤みつつも確かな意思を秘めた美琴の瞳が交差する。
    数十秒視線を交わし合い、何かを悟ったのかふいに寮監から視線を外す。

    「……タクシーを呼んでやる。玄関でしばし待て」

    「ありがとうございます」

    美琴は背を向け、玄関へ向かおうとする。


    「……ついでに、悩み事も解決すると良いな」

    背後からかけられたいつになく優しい声色に心の中を見透かされているような気がして、美琴は答えることができなかった。

    165 = 147 :


    タクシーに揺られ、美琴は窓の外の景色を見る。
    数日前にあれだけ降った雪もいつの間にかほとんど溶け、あとは日陰に残るばかり。

    妹たちに聞いたのは一方通行が行ってきた行動だけで、その背景については聞いていない。
    かつて見た快楽殺人鬼としての彼の姿と、その行動がどうしても重ならない。

    許すつもりはない。
    許せるはずがない。
    けれどまず第一に考えるべきは妹たちのことで、美琴自身の感情は二の次だ。

    一方通行の行動が妹たちの為にならないならば、今度こそ全身全霊で潰す。
    そうでなくても、認めるつもりはない。
    あの男はそれだけのことをしたのだから。

    だが、自分は知らない事だらけ。
    激情に囚われ、物事をある側面からしか見ないのは愚かだ。
    だから、一方通行の行動の理由を知らなければと思う。
    それが、どんなものだったとしても、知らないよりはきっと良いだろうから。

    妹たちが一方通行をどう思っているのか。
    一方通行が妹たちにどのような気持ちで演算補助を受けているのか。
    質さないことには始まらない。


    いつの間にかタクシーは冥土帰しの病院の前へと到着していた。
    金を払って降り、病院を見上げる。

    妹たちの安息の地。
    数日前に一方通行と戦った場所。

    さまざまな思いを抱え、美琴は病院の玄関をくぐった。

    166 = 147 :

    今日はここまでです
    一方通行との対峙は3回くらいで終わる予定だったのにどうしてここまで長くなった……
    完結するころには何スレ行ってるんだろう

    試験が終わってやっと暇になったので、次回はできるだけ早めに……

    167 :

    それでも、それでもヒーローならなんとかしてくれる・・・!!!!

    168 :

    なんかこの問題だけで一つのSSに出来そうな掘り下げ具合だわww
    それにしても重い話だ、下っ腹にずっしりとくるぜ……。

    169 :

    本当に面白いなこの物語は

    170 :



    いつもどこか超然としてる打ち止めが
    こういうふうに末妹的な立ち位置にいるのが新鮮で素敵

    番外個体の動きもきになるな
    GJ

    171 :

    ビニール袋の中から出て来る大量のゲコ太グッズ

    番外「これを賄賂にして……」
    「おい」

    172 :

    >>171
    ぶ ち こ わ し カ ク テ イ ね

    吹いたじゃねーかバカヤロウww

    173 :

    乙!

    美琴を主人公に置くなら避けては通れない問題をどう解決するのか気になるさ

    次回も期待してる!

    174 :

    >>171
    土御門「これも使うといいにゃー」
    かみやんの寝顔、風呂etc...の隠し撮り写真


    とにかく一つの落とし処やけじめは着くかな

    175 :

    >>1

    色々考えさせられる話だ……

    176 :

    >>1は介護のことについてもっと勉強した方がいいんじゃね
    打ち止めが10歳だろうと16歳だろうと30歳だろうと介護は1人じゃどうしたって出来ないよ
    それを子供に指摘するなんて性格悪すぎる

    177 :

    SSでそこに突っ込むってどうなのよお前
    しかもこの描写じゃ仮定の話じゃねーか

    178 :

    どう見ても「仕方ないからミサカたちが手伝ってやんよ」的な微ツンデレへの前振り

    179 :

    >>176
    素直に人に頼れってことを伝えるための会話のステップだろ

    180 :

    >>176
    子供が子供に指摘してるんだからいいじゃん
    別におかしくないよ

    181 = 171 :

    >>176
    IDが御坂美琴だからってお前なぁ

    182 :

    >>176
    ほんとだID

    許すわ

    183 :

    >>176の人気に嫉妬

    184 :

    美琴なら仕方がない

    185 :

    1おーつ!

    いくらでも続けてくれていいのよ

    186 :

    スレが進んでると思ったらお前らか

    187 :

    寮監もなかなか良いあじを出してる

    188 :


    次回で美琴と打ち止めの決着か・・・

    189 :

    乙乙

    ほんと安定の作品、次は美琴と打ち止めか…

    次も待ってる

    190 :

    ほほう、面白い

    191 :

    早く来週にならないかなーってミサカはミサカは
    待ち遠しくてうずうずした気持ちをアピールしてみる。

    199 :

    うぜぇ
    書き込み失敗って出ても大概成功してるから書き込み押さずにリロードしろ

    200 :

    >>191-198
    一生ROMってろ


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