元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
551 :
乙!
木山せんせい生きててよかった…
552 :
乙!
自分のペースで頑張って(^^)
553 :
お疲れさまです。
登場人物の言動に納得感があるのが心地よいです。
少しずつ対決が近づいている感じで、続きを楽しみにしております。
554 :
乙!!
全然ハイクオリティですんばらしかったですww
木山先生助かっててよかったぁ
続き楽しみに待ってますww
555 :
乙乙
さすがカエル先生、死ななきゃ安いを地で行くぜ
557 :
とある青狸の秘密道具w
558 :
乙
なんていうか、みんなかっこいいな
次回更新まで全力待機してる
559 :
とある世界の上条美琴
561 = 1 :
12月22日。
「──ふぁ~~あぁ……」
およそお嬢様らしからぬ大あくびをしたのは、白井の隣を歩く敬愛してやまぬ先輩。
大気中から存分に酸素を摂取しながら、指で目尻の涙をぬぐう。
「寝不足ですの?」
「ん、ちょっとね。
終業式の間もずっとヤバかったわ……」
今日12月22日は、学園都市の全ての学校で終業式が行われた。
明日23日は祝日であり、24日は休日と重なる。それ以降は冬休みであるため、例年に比べて2日ほど早いことになる。
学校が午前中に終わってしまった美琴と白井は、予定もなくぶらぶらと繁華街を歩いていた。
「お姉様は冬休みをどうお過ごしになるつもりですの?
やはりご帰省を?」
「年末年始は実家に帰るつもりよ。お父さんも帰国するらしいしね」
「……その、妹様たちは……」
「あの子たちは学園都市に残るわよ。
うちのお母さんはあの子たちのこと知らないしね」
そう語る美琴の姿は、白井には少しだけ寂しそうに見えた。
御坂美琴にとって、御坂美鈴は紛れもなく自らを産み育てた母である。
同時に、『妹達』もまた彼女の血肉から生まれし大事な妹たちだ。
だが、御坂美鈴と『妹達』の関係はどう表すべきなのだろうか。
『母娘』とは到底呼べない。美鈴が腹を痛めて産んだ子らではない。
『他者』とも分類できない。そうするには、両者は余りに似通っている。
ロシアの病院で遭遇した父には、全てを話した。
その全てを受け入れた上で、10777号を含む妹たちを『娘たち』と呼び、温かく抱きしめた父の姿には感じ入る物があった。
だが、父がそうであっても、母もまたそうであるとは限らない。
「ま、知ってもあの母なら大丈夫だと思うけどさ、問題は事情をどう話すべきかってことよね」
562 = 1 :
『妹達』にまつわる話は、重く冷たい。
あまり何度も人に語って聞かせたいものではない事は、白井も以前美琴に聞かされた時に感じている。
これから一生美琴と妹たちについて回る闇だ。「美琴の露払い」を自負する白井としては、なんとかそれを減じてあげたいと思う。
白井は美琴の寝不足の理由を、なんとなくながら感じていた。
夕べも布団を頭までかぶり、その中で遅くまで何やらPDAをいじっていたことを知っている。
それが意中の人物とのメールのやり取りならば、白井も睡眠不足を注意することはあっても、その事に気を回すことはないだろう。
白井が抱く感情は、美琴が抱く感情とは全く別個のものであり、うるさく口をはさむ問題ではない。
だが、美琴の表情にはわずかながら焦りの表情が見えた。
担当している事件の調査が行き詰った時同僚や警備員が浮かべる表情に極めて近いものだ。
何事もなければいいのだが。
そう思い、ひそかに心を痛めていた。
「──いつの間にか、もうクリスマスなのよね」
ここ最近は色々と考えることが多すぎて気付かなかった。
街角に流れるクリスマスソング、ウィンドウを彩るモールやリース、そしてどの店にもあるクリスマスツリー。
「寮も広いのですから、エントランスや談話室などにツリーを置けばよろしいのに」
「去年は24、25日だけツリー出てたわよ」
「あら、そうなんですの?」
規律、規律と口うるさい堅物の寮監が昨年クリスマスツリーを設置したという事実に、白井は目を丸くする。
指導される立場の子供たちからは分からないことであるが、教育者たちは何も子供たちをいじめようと思って規律を守らせるわけではない。
過度の締め付けは学業に対するモチベーションを著しく下げる物だ。休業期間中のイベントまで禁止するほど堅苦しいものではない。
「確か去年は2日間とも寮でパーティがあったんだっけ。
料理もいつもより豪華で、大きなケーキが出てきたっけなぁ」
563 = 1 :
「大きなケーキ……ですの」
白井が自分の腹を撫でつつ、苦々しく呟く。
「……アンタ、またサイズ増えたの?」
「言わないでくださいまし言わないでくださいましぃー!?」
ぎゃー!! と頭を振って耳をふさぐ白井の姿に、美琴はため息を一つ。
「『風紀委員』の訓練してるのにサイズ増えるって、それは間食のカロリーが消費カロリーをオーバーしてるんじゃないの?」
「デスクワーク漬けの時に限って初春がやれたい焼きだそれあんまんだと高カロリーなものを買ってくるのが悪いんですの!」
「でも同じ物食べてる初春さんはサイズ気にしてないじゃない」
「アレはお子様体型だから気にしていないだけなのでは……」
なおもぶつぶつ呟く後輩をなだめ、美琴は目下気になっている出来事について問う。
「『風紀委員』と言えばさ、……木山せんせいの事件ってどうなってるの?」
「事件の捜査は『警備員』の管轄下に置かれ、『風紀委員』の出る幕ではないそうですの。
事件の内容が内容ですし、『門限をきちんと守らせよ』としか。
捜査の方はあまり進んではいないようですわね」
「そうなんだ……」
564 = 1 :
『警備員』は志願した教職者たちで組織される自警組織でありながら、その練度と装備レベルは極めて高い。
それは子供たちを守るためでもあり、能力を使った凶悪犯罪を速やかに制圧するためでもある。
下手をすると、犯人である『リプロデュース』が捕まってしまうのではと危惧していたのだが。
「……もしや、首を突っ込もうとお考えでは?」
「え、いや、そんなわけじゃ……」
美琴は即座に否定するが、白井の美琴を見る目は厳しい。
「そんなことをおっしゃって、『幻想御手』事件の時も、『乱雑解放』事件の時も、
妹様の件も、『残骸』事件の時も、何から何まで首を突っ込んでらっしゃったではありませんの。
おおかた、今回も何か裏でして回っておられるのでは?」
「そんなことしないわよ。大体夕べだってちゃんと寮にいたでしょうが」
「どうだか、わたくしが寝ている間に寮を抜け出すなど、お姉様にとっては日常茶飯事ですものね」
じとーっとした視線に、美琴は思わず身を引いてしまう。
「分かった、分かったわよ。今回は何もしない、大人しくしてる。
大体『警備員』が数日調べて何も出てこない事件なんて、私の出る幕じゃないでしょうに」
「……そういうことにしておきましょう」
565 = 1 :
白井の追及が止み、美琴は胸を撫で下ろす。
が、本当に事件への介入を諦めたわけではない。
『警備員』の優秀さは理解している。だからこそ指をくわえてみているわけにはいかないのだ。
『リプロデュース』が捕まれば、黒幕は必ず彼女を切り捨てる。場合によっては彼女を自決させて証拠隠滅を図るかもしれない。
いくら学園都市と言えど死者から情報を得る手段はない。黒幕につながる情報は無くなり、事件は被疑者死亡で終わり。
御坂美琴のクローンである彼女の出自も調べられぬまま、事件は迷宮入りとなるだろう。
そんな最悪のシナリオがある限り、美琴は立ち止まれない。
なんとしても『警備員』より先に黒幕を叩き、『第三次製造計画』を潰さなければならない。
計画を潰すために、今一方通行と番外個体が動いている。
だが、それでいいのだろうか。それだけでいいのだろうか。
レベル5たる自分がそこに参加すれば、更に解決は早まるのではないだろうか。
『オマエはあいつらの"居場所"を守れ。それはオマエにしかできない仕事だ』
一方通行の言葉が耳に蘇る。確かにそれは正論だ。
だが、それと今危険な立ち位置にいる『妹達』を助けようとすることは、矛盾しないのではないだろうか。
今ある妹たちの居場所を守りたい。利用されている妹たちを助けたい。
そうした思いが「何かをしたいが、何をすればいいのか分からない」というもどかしい気持ちと絡み合い、美琴を焦れさせて行く。
こんな時、彼ならどうするだろうか。
拳一つで学園都市最強に立ち向かい、極寒の雪原に浮かぶ空中要塞に乗り込み、そして打倒した彼ならば。
思うよりも先に手足を動かし、美琴が悩んでいる間に事件を解決に導いてしまうのではないか。
だが、彼には頼れない。
必死に戦い抜いた少年は再度記憶を失うと言う哀しい結末を迎え、しかし引き換えにわずかばかりの平穏を得た。
もう彼を戦いの世界には戻したくない。ゆえに彼の力があれば解決する事件でも容易には頼らない。美琴はそう決めていた。
「おや、あの方は……」
白井の声に、美琴は思索から顔を上げた。
学園都市全域で下校時刻が一緒であり、加えて通学路が一部被っているのだからこういうこともあるかもしれない。
白井の指の先では、見慣れたツンツン頭の少年がふらふらと歩いていた。
566 = 1 :
同時刻。
「──川辺くーん、もう帰りー?」
川辺と呼ばれた男は、帰り支度をしているところを同僚に呼びとめられた。
野暮ったい眼鏡にボサボサの頭、垢じみたシャツの上にこれだけは清潔そうな真っ白い白衣を着ている。
典型的な研究職タイプの男だ。
時間は午前11時。
変則的な勤務体系であるここは、終業時刻も人によってまちまちだ。
「ええ。僕は夜勤組なのでそろそろ帰ろうと思います」
「いいなぁ。俺はこれから夜まで仕事だよ」
同僚がため息をつき、川辺も愛想笑いを浮かべる。
二人の職業は雇われの研究員だが、その研究内容は『普通』ではない。
親や友人にはとうてい言えないような内容のそれは、学園都市の裏の顔を如実に体現していると言っても過言ではない。
二人の職場であるこの研究所は、第二十二学区の地下に存在する。
職場と言っても、アリの巣のように張り巡らされたこの研究所の隅々まで二人に知らされているわけではないあたり、その機密性が伺える。
「仕事だから仕方ないと言えばそうなんだけどさー。どうせなら『下層』で働きたいよねぇ」
「と、言いますと?」
567 = 1 :
「だってさぁ、考えてもみなよ。『下層』では若い女の子を丸裸にして色々データ採ってるらしいじゃん?
男としてはなんというか、タギるというか、ねぇ。ぶっちゃけコーフンしそうなシチュでしょ?
川辺くんはそういうシチュとか、エロゲでやったりしないの??」
「……あなたみたいな人がいるから、直接『あの子たち』に関わるスタッフが女性ばかりになるんじゃないですか。
むやみに手を出されて商品価値を下げられても、『上』としては面白くないでしょう」
舌舐めずりをし好色そうな笑みを浮かべる同僚に、川辺は眉をしかめる。
能力が優秀であることは確かなのだろうが、人間性に大きく問題があるのもまた事実。
同僚でなければあまり仲良くしたくはない人種だ。
「……それに、僕には『あの子たち』くらいの歳の妹がいますので、そういう目ではちょっと見られないですね」
「え? 川辺くん妹いたの? いくつ? 可愛い? 今度紹介してよー」
「嫌ですよ。30秒前に自分が言ったこともう忘れたんですか。
あれを聞いて大事な妹たちを近づける兄はいませんよ」
「そりゃそーだ。俺が兄貴でも俺には近づけない」
黄色い歯をむき出しに笑う同僚。
自らの人格が破綻していることを自覚していなければ、非人道的な研究には携われない。
568 = 1 :
そもそもこんな地下研究所で働いている時点で何かしら表立っては言えない秘密を2つ3つは抱えているものだ。
例えば、この目の前の同僚はかつて『置き去り』を被験者とする能力開発機関にいたころ、児童に対する性犯罪を何件も起こしていたはずだ。
川辺自身も元は生物学を専攻しており、遺伝子を組みかえた微生物を作ろうとしてバイオハザードを起こしかけ、研究所を追放された過去がある。
俗に言えば、食い詰めたはみ出し者の集まり。
そうくくってしまうのは簡単だが、この街に置いてその意味はすなわち「倫理を外れることを厭わない技術者集団」ということになる。
『表』の人間ならばともかく、この街の『闇』は能力のない人間が生きていけるほど優しくはない。
スキャンダルを起こし放逐された彼らが無事に『再就職』できたということは、すなわちその能力の高さを証明できていると言うことだ。
そんな彼らであっても、この研究所においては『上層』にしか立ち入り権限が与えられていない。
被験者となる少女たちと接触することはかなわず、ただ収集したデータを解析し、『下層』へと送り返すだけ。
そのようなつまらない仕事であっても、日々の糧を得るためには仕方がない。
それ以上同僚と話す気がわかない川辺はビジネスバッグを持ちあげた。
「では、お先に」
「おう、お疲れー」
ひらひらと手を振る同僚に応えることなく、川辺は自らのオフィスを後にした。
川辺の職場は地下にあり、地下7階に出入口が存在する。
その階で研究所は『上層』と『下層』に隔てられており、川辺の職場は『上層』である。
守衛に自らのIDカードを渡し、金属探知器を通り、いくつものバイオメトリクス認証を経て、預けていた通信機器などの私物を返してもらう。
とても長い動く歩道をいくつも乗り継ぎ、その先のエレベーターを登れば、そこはとある雑居ビルの中だ。
登記上は研究所とは無関係の企業が入居しているが、それがダミー企業であることは言うまでもない。
来客などおらず、ただ出退勤するだけの職員を見送るだけの仕事をする受付の声を聞きながら、川辺は雑居ビルの玄関を出た。
珍しく雲のない青空と、肌を刺すような風の冷たさに思わずくしゃみが出てしまった。
地下に存在する研究所には当然ながら窓がない。
空調システムが完備され、隅々にまで新鮮な空気が常に行き届いていることは言うまでもないが、やはり人の手が加わった加工物という感覚はぬぐえない。
例え近隣都市を走る車の排ガスに汚染されていようとも、自らの肌で感じる自然な風こそが一番だ。
569 = 1 :
「……む?」
スーツの胸ポケットに入れていた携帯電話が震えていることに気付き、川辺は携帯電話を取り出した。
発信元は何の変哲もない彼の友人の名前だ。
だが、
「……もしもし。『お仕事』なら、ちょうど今終わったところですよ、土御門さん?」
川辺はディスプレイに表示されている物とは全く別の名を口にした。
『お疲れ。こっちも首尾よく終わったところだぜぃ、『海原』』
「そうですか。それは良かった」
電話先の相手も、川辺とは全く違う人間の名前を呼んだ。
その瞬間を、誰か別の人間が見ていれば大層驚いただろう。
瞬きをした瞬間に川辺と言う男は消え失せ、代わりにそこにいたのは川辺の服を着た、まだ少年とも言うべき年齢の男だ。
若干余り気味の袖を一つ折りながら、川辺、いや『海原』は問う。
「『本物』はどうしていますか?」
『一方通行と番外個体が脅したら、こちらから質問するまでもなくべらべらと喋りだしたよ。
どんな脅し方をしたんだか知らんが、見てるこっちが可哀想に思うくらいの怯え方だ』
「それは気の毒に」
拉致した自分たちが言うことではないが、と海原は苦笑する。
『研究所のことについても色々聞きだしたが、内部の情報についてはあまり収穫はないな。
研究所に義理立てしてるわけじゃなくて、どうやら本当に知らないようだ』
「ええ。職務レベルによって明確に権限が区分けされているようです。
自分がすり変わっていた川辺さんのパスでは、施設構造については図面の呼び出しすらできなかったくらいですし、
仕事をする上でも、『上層』の半分も入れませんでしたからね」
『ま、それは想定されてたことだにゃー。後ろめたい事をしてる奴ほど、身内の守りは固くなる。
古今東西、それが違えられたためしはない』
570 = 1 :
「それで、ちゃんと『地図』は書けましたか?」
『ああ、バッチリだぜぃ。後で番外個体に確認させる』
「おや、今は別行動を?」
『今日は終業式だぜぃ。この結果を持って、あとで合流する予定だ』
「なるほど。
……それにしても、土御門さんも大胆ですね。学園都市の暗部組織として仕事を行うために、魔術を使うなんて」
『それは考えなくてもいいさ。第三次世界大戦以降どこもかしこも自分のところの事に気を取られているんだ。
学園都市の魔術的な監視網は今までないほどに薄くなっている。小さな術式1つ2つ発動させたところで、どうってことはない』
海原が研究所にもぐりこむに当たり、内情把握の一環として内部の詳細な見取り図データの取得を命じられた。
資料の持ち出しが容易でない事を事前に拉致した川辺本人から聞き出していた『グループ』は、携帯電話に搭載されているGPSを使って把握しようとした。
海原に施設内の外周を歩き回ってもらえば、彼の歩いた軌跡から侵入可能な区画だけとはいえ大まかな内部構造が把握できる。
それと番外個体の記憶を照らし合わせ、同一であると判断できればここが『第三次製造計画の本拠地』であると断定できる。
その結論に至ったのが、一昨日の夜の話だ。
だが、情報漏洩などを警戒するためか、個人用の通信機器の持ち込みは禁じられていた。
研究員である川辺と言う男を拉致してすり変わったまでは良かったものの、怪しまれぬためには携帯電話を守衛に預けなくてはならなかった。
保険として金属製ボタンに偽装した小型のGPSマーカーも分厚いコンクリートと地面に阻まれ全く用を為さず、やむなく昨日は情報収集に徹したのだ。
その結果、『第三次製造計画』がここで行われていると言う確証は得られた。
人間と言うものは守りが固ければ固いほど共にその中にいる仲間に対しては心安くなるものだし、そもそも情報を共有しなければ同僚として仕事はできない。
断片的ではあっても「そこで何が行われているか」という情報は容易く手に入り、確証に至るまではさほど時間はかからなかった。
571 = 1 :
問題は、内部構造がつかめなければ飛び込みようがないと言うことだ。
結標の『座標移動』はどんな障壁をも越えて移動することができる能力だが、一つだけ欠点が存在する。
それは『転送先に物体が存在する場合、転送した物体は転送先の物体を押しのけるように出現する』という、『空間移動』系能力に共通するものだ。
研究員などに重なってしまうくらいならまだいいが、壁の中に出現したり、救出対象である『妹達』に重なってしまうと目も当てられないことになる。
施設攻略のための方策を立てるためにも、内部構造の把握は必須だった。
そこで土御門が海原へと持ちかけたのが、『魔術』の使用だった。
『理派四陣』という魔力の送受信に使われる霊装から持ち主を逆探知し、その位置を特定する術式がある。
土御門はその術式のしくみを応用し、『霊装の持ち主である人間の周囲の情報を術者が取得できる』ように強引に改変したのだ。
改変の結果、情報を検知できる範囲は約100mと大きく狭まったが、その分情報の送受信ができる距離は飛躍的に伸びた。
海原が作った通信および情報収集用の霊装に込められた魔力パターンを陣が捉え、学園都市のどこにいようともその周囲の情報を陣の中に描画する。
表示されるのは海原の周囲の情報だけであり居場所までは分からないが、そこはあまり問題ではない。
取得される情報は平面だけではなく対象の上下にも及び、海原が侵入できなかった『下層』の構造までも手に取るように分かった。
情報を取得すると言っても、それはあくまで陣に描写されただけであり、決して形に残る形式のものではない。
土御門は手に入れた情報を別の術式を用いて紙に転写し、それをノートパソコンとスキャナを用いて取り込んでいく。
魔術の事は『グループ』の中でも土御門と海原しか知らない事だ。
それを余り露見させたくない以上、デジタルデータ化してしまうのが一番手っ取り早い。
こうして、施設を上から見た見取り図と横から見た階層図、そしてそれを総合したポリゴンモデルが出来上がっていく。
『……海原、地下14階までしか情報が出てこないんだが。
施設は確か、地下17階まであったはずだぞ』
572 = 1 :
網の目のように張り巡らされた通路やところどころにある研究室、何に使うのか分からない大きな空間などが、手元にある地図には正確に描かれている。
地下1階から順にナンバリングされているが、それは地下14階で途切れていた。
「変ですね。自分は川辺さんの権限で行ける最下層、地下7階をくまなく歩いたつもりなのですが。
何か魔術的な妨害を受けた可能性は?」
『無いな。それならすぐに分かるし、そもそも妨害が入るなら施設全体が映らない』
「……では、単純に術式の範囲外なのでは?」
『かも知れんな』
「地下7階から地下14階までで7階層、それで高さ100mですか……。
どれだけ大きな構造物が埋まっているのでしょう」
『この地図を見る限り、『下層』部分は『上層』みたいな理路整然とした研究所みたいな構造じゃないな。
大きな空間がいくつもあって、それを通路が縦横や斜めに走って繋いでいる感じだ。
まるでアリの巣だな』
恐らくこのところどころに点在する大きな空間は、それぞれ『妹達』の育成プラントや生活空間、訓練所などの役目を持っているのだろう。
短期間でこれだけの施設を用意できたとも思えない。恐らくは、『絶対能力者進化計画』の時にも実験の一翼を担う施設であったのではないだろうか。
摘発を免れ生き延びた施設であれば、資材さえあれば即座に『妹達』の生産や訓練を始めることも可能だったはずだ。
『……ま、オレたち2人だけで考えても仕方がない。
他のメンバーも集めて、それから詳しい事を話し合おう』
「ええ」
573 = 1 :
すみません、今日はここまでですorz
話が全然進んでいない……
年内完結が目標だったのに、終わるかどうか不安になってきました
プロバイダーを切り替えた関係で、名前欄に地名が出なくなってしまいました
なのでこれからは、このスレを立てた時に使ったトリップを使っていこうと思います
574 :
おつ
575 :
乙!
失踪するよりよっぽどいいぜ!
576 :
乙です。
更新されるのを楽しみにしています。
577 :
うおおおお、きてたー!乙!!
相変わらずのクオリティー、続きが楽しみです
579 :
乙です!
学園都市の暗部研究員は本当に終わってるなw
俺も下…いや、なんでもないです、ごめんなさい
580 :
乙です。
上条さんは1ヶ月ぶりかな
581 :
待ってた!
乙!
582 :
乙!!
俺はこういうSSを待ってたんだ!!
583 :
何だよ、ageんなよ、超喜んじまったじゃねーかよ
587 :
気持ちはわかるが愛知ww
いちおつ!
588 :
待ってます
589 :
>>1です
長々放置して申し訳ありませんorz
続きのほうはほとんど出来ていますので、日付が変わったあたりから投下したいと思います
とりあえず今は寝て起きてバイト……
590 :
待ってますよ
591 :
1のペースでいいよ
身体には気をつけてね
592 :
わーい待ってます
593 :
本当に大変お待たせしました
ようやく続きを投下いたします
594 = 1 :
学園都市は都市整備計画を綿密な計算の上に行い、その限られた土地を最大限に活用できるような街づくりを推し進めている。
例えば第二十二学区のように地下を掘り進めて利用可能な面積を広げている場所もあるかと思えば、
『とりあえず近場のアミューズメント施設を一カ所にまとめてしまいました』というような作りの施設もある。
第七学区最大のアミューズメントパークであるこの施設は、ゲームセンターに遊園地、スポーツ施設などをひっくるめた複合施設であり、
今日のように半日で放課後を迎えるような日は、暇を持て余した多くの学生でにぎわっている。
だが、その中でもひときわ人目を惹きつけているのは……
「ぬぅおりゃああああああああああああああああああああ!!」
えも言われぬ奇声と、それに負けないくらい大きな太鼓の音が周囲に響き渡っていた。
白井黒子がまるで親の仇であるかのように太鼓を叩きまくっているのだ。
もちろん本物などではなく、ゲームセンターに置かれている太鼓型のリズムゲームだ。
小さな子供でも遊べるように、あまり大きな力で叩かずとも反応するようにはなっている。
にも関わらず、あの力の入れようは何なのだろうか。
ベンチからそれを眺める御坂美琴は、そっと溜息をついた。
美琴の連れは後輩である白井と、それから今はお手洗いに行っているもう一人。
放課後に出会い、暇だと言うので(半ば強制的に)連れ出したのだ。
遊びに行く前の腹ごなしにとファーストフード店に寄った際、白井が物凄い顔で睨みつけてきたが、そんなことにいちいち構ってはいられない。
「……何なんだ、アレ?」
「あら、お帰り」
ゲーム機の音が飛び交うゲームセンターでは、意識していなければ人の接近に気付くのは難しい。
横から話しかけられるまで、美琴はその接近に気付かなかった。
そこにいるのはツンツン頭の少年、上条当麻だ。
「女の子には色々あんのよー。色々とね」
「はぁ……」
もの凄い負のオーラを放ち、鬼気迫る表情でバチを振るう白井の姿にやや引いている上条に、美琴は問う。
595 = 1 :
「あんたはなんかゲームやらないの?」
「せっかくゲーセンに来たんだし、やりたいのは山々なんだけどなぁ。
ほら、先立つ物が……」
ズボンから取り出された上条の財布は薄く、振っても音がしない。
上条は分類上レベル0であり、支給される奨学金もレベル5の美琴やレベル4の白井に比べて格段に少ないはずだ。
加えて支給日は月末であり、今の時期は意識して節約していかなければ持たないのではないだろうか。
「ふんふん。じゃあ、お金のかからないゲームをやる?」
「そんなのあるのか?」
「あるわよ」
美琴は立ち上がり、バチを置きぜぇぜぇと荒く息を吐く白井の方へ向かう。
画面にはかなりの高スコアが表示され、「もう一回遊べるドン!」などと間の抜けた音声が流れていた。
「黒子ー、私たちあっちのほうにいるから」
「でしたら黒子もご一緒に……」
「1クレジット残ってるじゃない、勿体ないわよ。
もう少しカロリー消費してらっしゃい」
再びぬがーっ!! と猛烈にバチを振るい始めた白井を置いて、美琴は悠然とクロークのほうへ歩いて行った。
596 = 1 :
ずしりと重いカップを渡された上条。
その中では銀色のメダルが重厚な輝きを放っている。
「……何これ?」
「メダルよ、見て分かるでしょ?」
そういうなり、美琴はさっさとゲームの筐体の前に座ってしまう。
目の前にあるのは背の高いプッシャーゲームの筐体だ。
投入したメダルを使ってゲーム機内のメダルを押し出し、指定された場所に落としたメダルを獲得できるこのゲームは、学園都市でも高い人気を誇る。
「このゲーセンは良く来るんだけど、来るたびメダルゲームをしてたら預けられる上限近くまで溜まっちゃってね。
景品に変えることもできないしさ、じゃんじゃん消費しちゃってちょうだいな」
「……人を運のない人間みたいに言うなよ」
「あら、『不幸だー』が口癖だった方が、何をおっしゃるのかしらー?」
おほほ、とわざとらしく口元に手を当てて笑う美琴の姿が勘に触り、ならば一山当ててやろうとコインを引っ掴む上条。
だが……、
「何……だと……?」
「あららー」
一般的にプッシャーゲームは、他のゲームに対して儲からないと言われている。
だが、それにしてもカップの半分ほど消費して未だ1枚も落とせないと言うのは、さすがに擁護のしようもない。
投下したメダルがどんどん前方へと押し出されていくプッシャーゲームでは、数を重ねればそれだけメダルを獲得しやすくなる。
が、投下したメダルがイレギュラーなバウンドをして他のメダルの上に乗ってしまったり、かと思えば落としたメダルを得られない両脇のデッドエリアへ大量にメダルが流れ込んだり。
とにかく色々と惨憺たる結果だった。
「メダル落としは稼ぐんじゃなくてときたまコインがざばーって落ちてくるのを楽しむゲームだけどさ……これはひどい」
「うるせぇ! 俺だってやるの初めてなんだよ!」
むすーと膨れる上条の袖を引っ張り、違うフロアのほうへと誘う。
「メダルで遊べるゲームは一杯あるし、色々やってみましょ」
597 = 1 :
メダルゲームの理念は、「浮いたお金で余興の時間を過ごすための、大人の社交場的な空間の創造」なのだと言う。
それは学園都市でも変わらないようで、学生たちが過度にのめり込まぬようにいくつかの規制が行われている。
例えば、一日にメダルへと交換できる金額の上限設定は「レベル0の学生が毎日訪れても最低限の生活レベルを保てる」額になっている。
また、クロークに預けたメダルの引き出し枚数にも上限があり、一定枚数以上を引き出すとその日はもう遊べなくなってしまう。
その代わりメダルの払い戻し設定は甘くなっており、例え引き出し額が少なくとも充分な時間は遊べるようになっている。
はずなのだが……。
「……つくづく運がないのね、アンタ」
「……………………orz」
空になった、100枚はメダルが入っていたはずのカップを前に跪き項垂れる男の姿がそこにはあった。
ここに至るまでに獲得できたメダルはわずかに30枚に満たない。
それすらも全てゲーム機に飲みこまれ、今やいわゆる『すってんてん』。
これが遊戯ではなく賭博であったなら、間違いなくパンツ一枚で賭場の外へと蹴りだされるレベルである。
「……あー、まあ、たかがゲームだし?
元気出しなさいよ。ほら、私のメダル分けてあげるからさ」
美琴がずざざーと上条のカップに自らのメダルを流し込む音が、上条には酷く虚しく聞こえた。
「……御坂さんはどうやってこんなにメダルを手に入れたんでしょう?」
「ずっと前にもの凄い大当たりを出したのよ。その時の賞金がまだ一杯残ってるの」
「どれくらい出たんだ?」
「えーっと、ポーカーでダブルアップで十何連チャンもしたから……何万枚の世界かな」
「ちくしょうレベル5は運の強さでもレベル5かよ!?」
不公平だー!! と嘆きの叫びを上げる上条に、近づく影が二つ。
「あ、お姉様とヒーローさんだー!」
「このような所で出会うとは奇遇ですね、とミサカは挨拶をします」
「あら、アンタたち……」
打ち止めと御坂妹の姿が、そこにあった。
598 = 1 :
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海原と土御門が『グループ』のアジトに到着した頃には、もう『グループ』のメンバーは勢ぞろいしていた。
「やー悪い悪い、ヤボ用があってにゃー」
「確か、今日まで超学校だったんでしたっけ?」
「そうそう。見たくもない通知表貰って帰ってきましたぜぃ」
ソファにどっかりと腰をおろせば、一方通行が睨むようにして身を乗り出してくる。
「ご託はいい。さっさと結果を報告しろ」
「へいへい。海原」
「はい」
海原がビジネスバッグから取り出したのは、魔術を使って手に入れた施設の見取り図だ。
出所を隠すために、土御門が関わっていることは伏せている。
「手に入れられた図面は地下14階層までです。それより下は手に入りませんでした。
自分が行う潜入捜査は成り替わる人物の権限に大きく影響されますから、短期間ではこれが限度ですね。
時間的余裕があれば、さらに上の権限の人物にすり代わることもできたでしょうが」
「親船に切られた期限はあと10日ねェンだろ。これだけありゃ充分だ。
おい、これ見て何か思い出すか?」
一方通行が隣の番外個体を見やると、番外個体は頷いた。
「うん、確かにこんな感じの構造だった気がするよ。
ミサカがいたのは、結構下の方だったんだなぁ……」
「番外個体さんに確認するまでもなく、施設内の様子を見る限り100%クロでした。
川辺さんの業務内容がそのものズバリでしたし。
彼を拉致した土御門さんの慧眼はさすがですね」
海原の賛辞に、土御門はにやりと笑った。
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「すり代わっている間はどんな仕事を?」
「『下層』と呼ばれる研究所深部から送られてきたデータを解析し、送り返すという内容です。
正直自分にはさっぱりでしたが、『第三次製造計画』に関わっていることだけは読み取れました」
「本決まり、だな」
懸案事項が一歩前に進んだという小さな達成感と、これから行わなければならないことへの緊張感が一同を包んだ。
「次に考えなきゃいけねェのは、ここをどう『陥とす』かって事だな」
「この地図だと、施設そのものの構造は分かっても、『この部屋がどんな役割をしているか』までは掴めないよね」
土御門や海原の持ってきた地図は全ての構造を同じ色の実線で描いたものだ。
番外個体が言う通り、部屋の構造は分かっても、そこで何が行われているかまでは分からない。
「そのあたりは実際に突入してみてから、超フレキシブルに対応するしかないでしょう」
「『上層』についてはある程度は分かる場所もありますが、突入時はあまり役に立たないでしょうし。
重要な施設は『下層』に集中しているようなので、恐らく制圧するのもこちらがメインになると思います」
海原は地図上の『下層』部分を指し示す。
「見ての通り、『下層』部分は上層のように綺麗な区画分けではなく、あちこちに分散した空間を通路が繋いでいるような感じになっています。
これは実験の影響が他の施設に影響を与えることを防ぐだけではなく、反乱防止のためではないかと」
「反乱防止?」
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「通路がクネクネ入り組んでたり、主要施設が離れて設置されてるのは施設を制圧されるのを防ぐためのように思える。
恐らく、ここは『絶対能力者進化計画』の時から稼働してたンだろ。
研究者がクソガキをミサカネットワークに対するコンソールとして扱うのは良いが、クソガキ自身が強制命令を出すことだってできるンだ。
そォ言う場合に備えて、施設を強靭な隔壁で閉鎖出来るよォになってンじゃねェか」
「一度超閉鎖してしまえば、あとは水でもガスでも超流し込んで『処分』してしまえばいい……ということですか」
その想像は当たらずとも遠からずと言ったところだろう。
強力な軍用クローンである『妹達』は、ひとたび牙をむけばそれは大きな脅威となる。
研究者にとって、万に一つでも『飼い犬に手を噛まれる』ことは避けたいはずだ。
反乱防止のための策は、そのまま施設防衛にも転用できる。
特に『グループ』のように少数の精鋭で大規模な施設の陥落を目指す場合、必然的に単独やペアでの行動が多くなるだろう。
ごく少数での行動を強いられるということはつまりトラブルへの対応策が限られると言うことであり、結果策にはまる可能性は高くなる。
「ま、その辺りの対策は後で考えるとしよう。
まずは、どこから攻めるかについて考えようか」
「侵入口はいくつあるの?」
「地図を見る限りでは……人が侵入できそうな場所はあまり多くはありませんね」
海原が赤いサインペンで地図上にいくつか丸をつけて行く。
「その中でも研究員の出入りのメインになりそうな場所は……正面玄関と、放水路へと通じる扉くらいでしょうか」
「溜め込んだ水を排水するためのトンネルはどうかな」
番外個体がテーブルの上に置かれたファイルの束から、施設の公式ホームページを印刷した物を取り出した。
「『水源地水位監視センター』のホームページで見たんだけど、こういう施設って水を貯めたら溜めっぱなしじゃないんだよね。
頃合いを見計らってダムに水を戻したり、近隣の大きな川に放水したりするために水を吸い上げる施設があるんだ。
その施設まで水を流すためのトンネルが放水路の下から伸びてるんだけど、ここを通って『下層』に忍び込めないかな」
「大雨が降って、施設が超稼働していない時限定の話ですね。
考慮には入れるべきでしょうが、アテにするのはやめておいたほうが超無難でしょう」
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