元スレキャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★×6
651 = 631 :
俺はいつまでも土下寝しながら待つけど
やっぱりそういうのは確認とか捕ったほうがいいんじゃないかなって
652 = 643 :
なんのために削除したの?
本人がまた上げてくれるのを待つ以外ないと思うんだけど
653 = 646 :
654 :
うほおおおおおおい!!!
655 = 638 :
いや消しとけよ
本人の許可とってからあげろ
656 :
完璧な仕上がりにござる
657 :
やっちゃった
658 :
お前ら落ち着け
>>1が来るのを粛々と待つんだ
659 :
レス数多いから更新来たとおもったじゃん…
660 :
畜生だまされたぜ!
661 :
これだからAOは…
662 :
>>661
つまんねーなお前
663 :
うわあああああああ>>653また上げてくれ
664 :
こんだけ更新あって投下無しの雑談のみとかいい加減にしろ
665 :
>>664
そんだけここのSSが人気って事じゃんよww
666 :
>>665
関係ない
667 :
たしかに投下なければ遊ぶ奴が出てくるのはしょうがない
668 :
>>663
やっぱり本人の許可とかいると思って一度消したんだが…・…・
669 :
どうせ絵師様()なんて描いた絵見せてちやほやされたいんだから許可なんざいらねーよ
670 :
あげんな糞もしもし
671 :
どうでもいいが、少し控えようぜ
672 :
お待たせしました。いつも感想ありがとうございます。
遅くなりましたが今から投下しますね。
673 :
これで最後か…
674 = 672 :
―――学園都市 第七学区 大通り
上条当麻はキャーリサの三歩後ろを無言で歩いていた。
第六学区のレジャープールを出てはや1時間。間もなく夕刻も夕刻、辺りも夕焼け色から夜へと移り変わろうかという時頃。
それからキャーリサは時折ポツリポツリと言葉を漏らすばかりでなかなか肝心な事柄には触れてこなかった。
彼女が上条の元を訪れた本当の理由。
それは当初彼女が告げたような些細で微笑ましく、人騒がせな親子喧嘩などではない。
連れ戻しにやってきたアックアの任務を保留にさせ、上条の部屋でのささやかな生活を優しい幻想とまで称した彼女の本意が未だ掴めずにいた。
上条「キャーリサ。もう家着いちまうぞ」
痺れを切らして上条がキャーリサに促す。
こうまで焦らされると段々と不安も増してくる。
一体彼女は何を話そうとしているのか。それはそんなにも深刻なことなのか。
先程までの甘く、小さな幸福に満ちた時間の温かみから、上条はとうに醒めてしまっていた。
キャーリサ「……迷っているの」
キャーリサはたっぷりと間を開けてそう返してきた。
上条「何を?」
訝しみ、上条は彼女の隣に並んで首を傾げる。
キャーリサ「……不安なの。お前に嫌われてしまうのでは無いかと。
お前を騙すような真似をしているし。……そー思うと、踏ん切りがなかなかつかない」
そう言ったキャーリサの声は少し震えていた。
歩みを止めず、少し人気の少ない路地に入りながらキャーリサは不安を漏らす。
上条「大丈夫だ」
675 = 673 :
そうかなら期待
676 = 672 :
キャーリサ「……!」
上条は迷いなく告げ、キャーリサの足が止まった。
その言葉には彼女の不安を払拭する意味合いもある。
上条「お前を嫌いになんてならない」
しかし、それ以上に確信があった。
どんな真実がそこにあったとしても、キャーリサを嫌いになるはずがない。
彼女と過ごしたこの7日間は、彼女だけでなく上条にとっても優しく、淡く儚い幻想の様だったから。
その中で目にした無邪気な少女のような彼女。
聡明な一人の大人の女性としての彼女。
そのどちらもが彼女の本質であり、そこに嘘偽りなんて何一つ無かったと上条は断言できる。
こんなにも肩を震わせて真実を伝えることに怯える彼女を、どうして嫌うことが出来るだろう。
だからこそ知りたかった。
どんな現実が待っていたって構わない。
未来の無い幻想を続けるのではなく、例え厳しい現実があったとしても、その先にあるものを二人で掴みとりたい。
上条は今そう思っていた。
キャーリサ「とー……ま……」
上条「だから話してくれ。キャーリサ、お前はどうしてここに来たんだ」
交差する二人の双眸。
沈黙が場を支配する。
薄暗く、夕焼けに染まる表通りの光も届かぬ裏路地で、二人は永い時を見つめ合っていた。
すぐそこには道を往く人々の姿が見えているのに、ここにはただ狭く小さな二人だけの世界が広がっていた。
キャーリサ「分かったの……とーま、ありがとう」
薄く微笑み、少しだけ困ったような顔をして、キャーリサは上条にふわりと身を寄せた。
上条「キャーリサ……」
細く華奢な肩に手を添えて、上条は彼女の言葉の続きを待つ。
心を鎖で縛りつけるようなキリキリとした沈黙が痛々しく思えてならなかった。
キャーリサ「とーま、すまない……――――」
ほぼ同じ高さの目線で、キャーリサは上条を見つめて言葉を紡ぐ。
そして、幻想の終わりを告げた。
キャーリサ「――――私、結婚するの」
それはさながら、12時の鐘の音。魔法が解ける時間。
677 = 672 :
その時上条の頭の中では、ガラスが割れるような音が響いていた。
結婚。
たった二文字の言葉を上条は上手く呑み込むことが出来なかった。
高校生である自分には縁の無い言葉。
思えば彼女は始め部屋に現れた時から、それを口にしていた気がする。
親子喧嘩は真っ赤な嘘だった認めた瞬間にでも、そのことについて言及すべきだったのかもしれないと今になって思う。
だがもう遅い。
キャーリサから突き付けられた真実は、他国の、それも一介の小市民である上条には到底越えようも無い障害であり、
この幻想を破砕するにはこれ以上無い程に相応しい、無情に振り下ろされた最後の一槌だった。
上条「そ……そうなのか」
言葉にならなかった。
キャーリサが結婚することの意味が分からなかった。
つい一週間前に同じことを告げられた時は、何気なく流したのに。
冗談みたいな親子喧嘩の話に意識を逸らされ、忘却の彼方へ追いやられていたこの小さな欠片によって上条は身動きも取れなくなっていた。
キャーリサ「……すまない」
謝罪の言葉を口にし続けるキャーリサは上条の手を取り、歩き出す。
茫然自失となった上条は、半ば彼女に引きずられるようにして路地裏から広めの裏通りへと歩みを進めて行った。
キャーリサ「私も母上の冗談か何かだと思っていたんだ」
コツコツとアスファルトを叩くブーツの底の音がやけに高く響く。
上条は彼女の言葉をただ聴くことしか出来なかった。
キャーリサ「距離を置けば事態は好転すると、私がどれだけそれを望んでいないのか理解してもらえるのだと、昨日までそー思っていたの」
上条「違ったのか……?」
678 = 672 :
ようやくひり出した疑問の声は自分でも驚くほど震えていた。
上条の問いかけに、キャーリサは小さく首肯する。
噛みしめた唇には不安と憤りが赤く色づき浮かんでいた。
キャーリサ「ああ、ウィリアムが来たこともそーだ。騎士団長の差し金らしーが、どーやら母上は私を本気で結婚させるつもりらしーの」
上条「何でそんな急に……。ベタなところじゃ政略結婚ってやつか? そんなことしそうな母親にも見えないけどな……」
と言いつつも、上条とて英国女王のエリザードをよく知っているわけでは無い。
ほんの少し会話を交わした程度の間柄でしかないのだから当然と言えば当然ではある。
キャーリサ「……クーデターの失敗。私はその責任を取らねばならないの」
上条「責任?」
一月程前に起こった、英国におけるクーデター。
現在はブリテンザハロウィンという呼称で、表向きにはさほど大きな問題として世界的には取り上げられてはいない。
しかし、どんな理由があったにせよその首謀者たるキャーリサは、形としては国家に反旗を翻して敗北した。
その事実は揺らがない。
本来ならば処罰されて然るべきものだが、王女と言うことと、一般には浸透していない(ということになっている)魔術による決着の所為で
その処遇がなかなか決まらなかったのだろう。
そして、その落としどころとして結婚という結論に至った。
キャーリサ「そーだ。相手は某国の皇太子で私も知る人物だが……」
もちろんこれは単純に男と女が籍を入れて夫婦になるだけのことではないというのは上条にも分かっていた。
恐らくは政治的に非常に重要な意味をもつ婚姻なのだろう。
或いは結婚にかこつけた国外追放であるのかもしれない。
いずれにせよ、クーデターを起こした娘の命を守るための女王の決断だと上条は信じたかった。
しかし、望まぬ結婚を強いられるキャーリサにとっては罰であることに変わりは無い。
出来ることなら止めてやりたいが、この問題に果たして一介の高校生風情が安易に口を出していいものなのかどうかという疑問も、
上条に二の足を踏ませる要因となった。
上条「まさか相手がとんでもねぇクソ野郎だとか?」
679 = 672 :
物語の中にはよくある話だった。
もしそうであってくれたなら、上条の迷いも少しは取り払われていたのかもしれない。
彼女の震える体を抱きしめて、頼りなく細い手を握って離さぬ選択をとれたのかもしれない。
キャーリサ「いや、そーではない。相手はもー50を越える年齢だが、国民からの人気も高い人格者だ。
知性、教養、政治手腕。どれをとっても問題をかかえているよーなお人ではないの」
それなのに、現実はまるで優しくは無かった。
昨日、キャーリサが「この物語は誰も不幸にならない」と言ったことを思い出す。
これが彼女にとって決して悪い縁談ではないことが、その態度からも察することが出来た。
キャーリサ「例のクーデターは、表向きには何事も無かったかのよーに、それこそただのお祭りだったかのよーに終息してはいるが、
国内では王室派、騎士派、清教派の三勢力に小さな亀裂を入れる結果となったの。
それぞれのトップ同士は協調の姿勢を崩していないから、一見すると元より強く結束を固めたよーに見えているがな」
上条「やっぱ……そうだよな。現実として戦いは起こってたんだから。国内にいた人間からしてみりゃ疑問に思うのも当然だ」
キャーリサは頷く。
キャーリサ「清教派の魔術師と騎士派の騎士達の対立もあるが、それらに属さない者達からの圧力も強まっているし。
国賊である私の処断を母上は迫られているの」
英国の三派閥と言えど、それぞれが一枚岩というわけでもなく、またそれ以外の勢力だって存在する。
上条には到底考えも及ばないような水面下での争いが起こっているのは、キャーリサが一から十まで説明せずとも容易に想像がついた。
上条「だからこっちに逃げてきたって訳か?」
キャーリサ「逃げてきたというのは正しいが、それは派閥の争い云々よりも、婚姻を私が受け入れられなかったからというのが大きい。
考える猶予が欲しかったの。形としては結婚でも、実質私は英国から追い出されることになる。
それを母上に改めて欲しかったし、仮に嫁ぐとしてもこんな形を黙って受け入れるわけにはいかなかったの」
680 = 672 :
夕日が落ち、外は徐々に暗がりに包まれようとしている。
静かな裏路地にポツリポツリと点いた小さな店やホテルの灯りが、表通りからこの場所を切り取り隔離しているかのような錯覚を抱かせてきた。
そんな中で、キャーリサはゆっくりと歩きながら言葉を続ける。
あてもなく歩く彼女。
この足を止めて、家に戻れば、それでこの日常は終わる。
キャーリサはきっと、その事実をまだ受け止めたくないのだろうと上条は思った。
上条「俺はどうすりゃいい」
率直に問いかける。
彼女がこの婚姻を望まないなら、それを止めてくれと言うなら、上条はその願いを実行に移したって構わないと思っていた。
誰よりも国を愛し、国を憂い国の為に反逆に躍り出た王女が、望まぬ形でそれを失おうというなら、
上条にとって彼女の力になるには十分過ぎる理由だった。
キャーリサ「……分からないし。私の結婚が国益に結び付くならとも思うが、それは私が望んだ結末とは真逆のものだ」
上条「……」
キャーリサ「これが私が英国を離れた理由だ。
ウィリアムが来たことで事態は何一つ変化を遂げていないのは分かったが、奴も聴かされていた話とは少々違ったよーでな。
こーしてしばらくの猶予をくれたの。騎士団長から納得のいく答えを聴かされるまでの間だろーが。
……ふふっ、困らせているよーだな。すまない」
難しい顔をする上条を見てキャーリサはクスリと笑みを零す。
一見すればいつも通りの笑みだが、その瞳には確かな哀しみが宿っていた。
上条「いや……」
何と言葉をかけていいか、上条には分からない。
この結婚は決して悪いことばかりではないのだ。
相手もキャーリサを不幸にすることが分かり切っているような人物では無いようだし、あの女王がそんな真似をすることも考えられない。
国内の三大勢力以外にも存在する政敵からキャーリサの命を守るために、エリザードが娘を国外に出すことで事態を収めようとしているのは上条にもなんとなくは理解できた。
それが一時的なもので、またいつか英国で『軍事』のキャーリサとして采配を振るうことになるのか、はたまた実質の国外追放になるのかは不明だが、
いずれにせよ目に見える形でクーデターの首謀者としての責任を負わされることになるのは明白だった。
上条「……キャーリサ、もう一度聴く。俺は……どうすればお前を助けられる」
681 = 672 :
上条は先程と同じ質問をキャーリサに投げかけた。
キャーリサを助けたい。
その気持ちだけは一切の迷いが無かった。
だが、上条にはその方法が分からないのだ。
薄明りが灯る小さなホテルの前で足を止め、キャーリサは上条を真っ直ぐに見つめる。
キャーリサ「そーだな……では」
ふっと微笑み、上条と手を取り胸に抱く。
驚き目を見開く上条。
まばらとは言え人目もあるが、そんなことは問題ではない。
問題なのは、キャーリサの表情は先ほどまでの言葉の内容からは想像もつかないほどに晴れやかだったこと。
それはまるで事態を諦観しているかのようで。
キャーリサ「私に最後の思い出をくれないか?」
少しだけ紅潮させた頬で、キャーリサは恥じらい告げた。
上条「え……」
ここはカップルが利用する所謂ラブホテルの前。
休憩1h4000円の看板とギラついたネオンの光がチラリと視界に入り込んでくる。
その視線に気づいたキャーリサは赤らんだ顔で俯き、上条の腕を抱きしめて身を寄せた。
キャーリサ「私を愛して欲しーの……とーま……。
……お前が私を愛してくれるなら、私はこの先に待つ未来を受け入れられるし……」
右腕に押し付けられる柔らかな感触と、髪や吐息のくすぐったく甘やかな香り。
上条の理性を奪おうと誘惑してくる彼女の全てに、クラクラと眩暈すら覚えるのを感じていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
彼女がそれを望むことなら、可能な限り応えてやりたい。
一頻り思索にふけった上条は、強く唇を噛んで無言でキャーリサの腕を引き、足を踏み出したのだった。
682 = 672 :
―――学園都市 第七学区 自然運動公園
キャーリサ「まったく……意外とヘタレだなお前」
呆れたようなキャーリサの声が誰もいない公園にポツリと放たれる。
昨日の昼間訪れた自然運動公園高台のベンチに、学園都市の夜景を眼下に見下ろしながら上条とキャーリサは並んで座っていた。
上条「悪かったな。でもありゃ何か違うって思ったんだよ」
ホテルの前でキャーリサに誘惑されたものの、上条は欲望に負けそうになる心を押し殺して彼女の腕を掴み裏路地を後にしてこの公園へとやってきた。
キャーリサ「据え膳食わぬは何とやらと言うぞ」
上条「据え膳ねえ……」
やれやれと首を振るキャーリサに苦笑を返す。
確かにあのままキャーリサとそういう関係になることも出来たのかもしれない。
しかし、上条にはどうしてもそんな気になれなかった。
いや、危ないところではあったが。
それ以上にそんな関係になってはいけない気がしたのだ。
あの時彼女は「最後の思い出をくれ」と言った。
もし彼女と体を重ねてしまったら、それで二人の関係はスッパリと終わりを告げることになっていただろう。
上条にはそれが耐えられなかったのだ。
キャーリサ「……」
上条「……」
沈黙。
学園都市の街並みの光が夜空を煌々と照らしている。
小さな木製ベンチに並んで腰かけたまま、二人はどちらともなく手を繋いで寄り添った。
このままこの景色を見続けていたい。
帰宅してしまうことで幕を閉じる1週間の同居生活を、もう少しだけ楽しんでいたいという思いを強く抱いていた。
683 = 672 :
キャーリサ「綺麗だな……」
上条「……そだな」
爛々と眩しく輝いている訳ではない。
しかし、広がる街並みから立ち上る家々の灯りはこの高台からはよく見えた。
キャーリサが上条の手を強く握りしめる。
上条もそれに応えた。
キャーリサ「……とーま」
間を置いて、キャーリサが語りかけてくる。
上条「ん?」
キャーリサ「私が王女でなかったら、お前は私を選んでくれたか?」
その質問に、上条の胸はドキリと高鳴った。
動悸は速度を上げ、彼女と共に過ごす何事も無く穏やかな日々に想いを馳せる。
上条「……」
それは決して嫌なものではなく、むしろそう在りたかったとすら思ってしまった。
キャーリサ「……いや、変なことを言ってしまったな。これは……遊びなのだし」
切なそうに目を細めるキャーリサ。
薄く笑う桜色の唇がわずかに奮えていた。
上条「遊びじゃねぇよ……」
それを見て上条がポツリと返す。
さすがの上条も既に気づいていた。
戯れに始まったこの遊びが、遊びと呼ぶにはあまりに気持ちが入り過ぎていることに。
上条にとっても、キャーリサにとっても。
キャーリサ「……え?」
驚いたように目を見開き、上条を見つめるキャーリサ。
澄んだ大きな瞳が潤んでいる。
そして上条は告げた。
上条「お前が好きだ、キャーリサ」
684 = 672 :
昨日言った言葉を、もう一度告げる。
もう言わずにはいられなかった。
難しいことは置いておくことにして、とにかく自分の気持ちを伝えた上で考えればいいと思うことにした。
上条「難しい問題なのは分かってる……それでも、お前が好きなんだ」
きっかけはキャーリサの誘惑に過ぎなかったのかもしれない。
些細な言葉を真に受けて舞い上がってしまったからなのかもしれない。
だが、ここまでの過程が何であれ、上条は今確実にキャーリサのことを好きになってしまっている自分に気づいた。
デート中幾度となく胸を震わせる動悸に襲われた。
キャーリサの笑顔を見ているだけで、優しい気持ちになれた。
こうして隣に座る彼女を失いたくないという気持ちが、どんどん強くなっていくのを上条は自覚していた。
キャーリサ「とーとつだな」
ふっと笑みを零すキャーリサ。
諦めにも似た、どこか遠くを見るような眼差しは、しかし上条を捉えて離さない。
上条「悪いかよ」
だから上条も彼女から視線は逸らさなかった。
彼女が目の前から消えてしまわないように。望まぬ現実が待っているなら、そこから彼女を引きずりあげるために。
上条はキャーリサを捉える。
キャーリサ「……愚かだな、お前は」
放たれた言葉は、優しい声色だった。
言葉は辛辣でも、その奥には確かな慈愛が宿っている。
キャーリサ「まったく、愚か者だし……」
キャーリサは立ち上がり、学園都市の夜景を望む鉄柵の方へと歩いていった。
上条はその背中に視線を送る。
キャーリサ「国、身分、勢力、立場、年齢……あらゆる障害がお前と私の間に立ち塞がり、道を閉ざしている」
上条「……」
キャーリサ「加えて結婚とはね。……まったく嫌になるの」
685 = 672 :
苦笑しながらため息をつく。
背中をこちらに向けたまま語りかけてくるキャーリサ。
上条は彼女の言わんとすることの全てを理解すべく、一心に耳を傾ける。
キャーリサ「だがな、とーま。私はそんな障害の全てを斬り伏せて、お前と共に征く覚悟は、ここに来た時既に決めていたの」
上条「!」
驚くべき言葉だった。
上条は声を失う。だがその様子に気づいたのか、こちらを向かぬままキャーリサは肩を竦めた。
キャーリサ「これしきのことで喜ぶな。お前を頼ってきたのだ。
そのよーなことになる可能性を頭に入れて腹を括るのは当然のことだし」
キャーリサの勇敢な言葉は、上条にはとても頼りなく聞こえた。
薄氷の上を歩いて渡るような危うさ。
当ても無く城を飛び出し唯一思い浮かんだ先が上条のいる学園都市。
もしそこに上条がいなかったら、或いは上条が迷惑だと突っぱねたら、彼女はどうしたのだろう。
キャーリサ「……お前と過ごしたこの1週間は、私には過ぎたる程に楽しかった。
もっとお前といたいと、そう願ってしまうほどにな」
しかし現実はそうはならなかった。
上条とキャーリサは出会うべくして出会い、惹かれあうべくして惹かれあった。
だから上条は、そのキャーリサの蛮勇に希望を見出した。
上条「俺はそうしようって言ってるんだぞ」
出会うべくして出会ったのなら、最後まで戦い抜くべきだと。そう彼女に告げた。
キャーリサ「……お前の都合も構わず勝手に覚悟など決めて来た己の傲慢を許し難い程に……お前は優しかった」
上条「そんな大層なもんじゃない。……キャーリサと一緒にいるのは何だかんだで俺も楽しかったからな」
キャーリサ「そーか……」
上条の言葉が正しくキャーリサに届いているのかは分からない。
ここから見える彼女の背中は随分と小さく見えた。
しかし次の瞬間。
キャーリサ「なー、とーま……――――」
キャーリサは振り返り、煌めく夜の光を背負い、微笑んだ。
その光景は、上条の目にはとても幻想的なもののように映り、神々しい翼を背負う天使長のようで。
思わず言葉を失う。
キャーリサ「――――お前を愛している」
686 = 672 :
彼女の頬を一筋の涙が零れ落ちた。
愛の言葉はとても物悲しく、痛々しく霧散する。
もはや己の感情を制御することなど出来ぬと言うように、キャーリサは笑いながら泣いた。
キャーリサ「……こんなはずでは無かったの。お前への気持ちの整理をつけよーとしていたのに……
お前はどーしてそんなことを言うの? そんな風に言われたら……思ってしまうじゃないか。
……とーま……お前を失いたくないと。帰りたくないと……」
この幻想が現実のものであることの証明を乞うように、キャーリサは上条に懇願の視線を向けて飛びついた。
首に腕を回し、首筋に顔を埋める。
その体勢のまま、キャーリサは囁いた。
キャーリサ「私は迷っているし……。とーま、教えてくれ。私はどーすればいいの?」
キャーリサの腕はきつく締まり、上条に決して離すなと暗に告げている。
上条は思考を巡らせた。
キャーリサはもはや自ら選ぶことが出来ないでいるのだ。
国に戻り、英国の未来の礎、或いは自らの命のみの保障を得るか。
ここで上条を選び、己の我を通していつ終わるとも知れない脆く儚い幻想を行くか。
しかし、上条の答えは決まっていた。
上条「俺と来い、キャーリサ!」
上条もキャーリサを抱きしめた。
この選択が、決して賢明なものでないということは十分に理解しているつもりだ。
それでもキャーリサを、彼女自身が望まぬ未来へ放り出すわけにはいかなかった。
国を愛し、国のために反逆を起こした王女に、上条は国を捨てろと言っているのだ。
最悪の判断だと言ってもいいだろう。
だが。
上条が救いたいのは、失いたくないのは英国ではない。
キャーリサなのだ。
彼女は上条にその選択を託し、上条はそれに応えた。
ただそれだけのこと。
彼女が「結婚なんてしたくない」と言った。
上条が彼女を救いたいと思うのに、そもそもそれ以上の理由なんていらなかったのだ。
キャーリサ「馬鹿者……この、馬鹿者めっ!」
687 = 672 :
キャーリサは鼻を啜りあげながら上条の耳元で嗚咽混じりにそう言い放った。
とても複雑な気分だろう。
あれほど思い悩み、真実を話しては上条に嫌われるのではないかと気にしていたくらいだ。
確かに想いを告げたところで何も問題は解決していない。
けれど、上条もこのまま諦めるつもりはなかった。
キャーリサが可能な限り幸せな結末を迎えられるよう、手を回していこうと思っていた。
神裂や土御門のツテで英国王室へ説得へ行けるかもしれない。
子供の我儘だと何度突っぱねられようが構わない。
キャーリサが何も捨てずにいられるような、そんな未来を二人でまだ望んでいたい。
少なくとも、諦めるには早すぎる時間だ。
上条「……いいんだな、キャーリサ」
上条は問う。
自分が選んだこの答えで構わないのかと問う。
1週間足らずで人生の転機を迎えてしまったなと心で苦笑する上条。
けれど、そんなこと、今までだってあったじゃないかとさらに苦笑。
何てことは無い。
また一つ、命を賭けるに値する『程度』に過ぎない問題を抱え込んだだけだ。
その問題を、どれだけ時間がかかったって解決してやるだけのことだ。
上条にとってそれは、ベランダで行き倒れのシスターを拾ったことと変わりない。
1万人の少女の命を救うために学園都市最強に挑んだことと変わりない。
だからこれはただの、日常だった。
違いがあるとすれば。
恋人が出来たこと。ただその一点。
その一点に於いて、上条は覚悟を決めればいい。
キャーリサ「お前に……こんな道を選ばせるつもりは無かったの。……許せとーま」
そしてキャーリサは小さく頷いた。
最後の思い出だと告げた彼女。その発言は撤回してもらう。
彼女は英国へ帰さない。
帰る時は、二人で戦いに赴く時だと。それが今だと言うなら構わない。
拳一つで彼女のために戦おう。
上条「もしイギリスに帰るなら、俺も連れていってくれ」
揺るぎない視線で、上条はキャーリサに言い放った。
688 = 672 :
キャーリサ「何……?」
驚きを露わにするキャーリサ。
上条「俺が女王様や周りの連中を説得してみせる。
お前がこれからもずっと笑って過ごせるように、そのためなら俺は何だってしてやるから」
キャーリサ「……とーま……」
上条の言葉に、キャーリサは体を離し目を見開いた。
きっと予想外の言葉だったのだろう。
英国を選ぶか、上条を選ぶか。
ただ二つの選択。
その覚悟を決めて彼女は学園都市へ来たのだから。
だから与えられた三つ目の選択肢に、最後は希望に満ちた笑顔で頷いた。
キャーリサ「分かったの……お前がそーするというなら……私も行くし」
根拠なんて何も無い。
それでもどうにかしてみせるという気概が上条にも、そしてキャーリサにも今は満ち溢れていた。
本当は不安で仕方ない。
けれど、二人でなら何かを変えられる気がした。
上条「……正直、断られると思ってたよ」
未だに恋人としての実感も、彼女が上条の手を取ったと言う事実もすんなり受け入れることは出来ないでいた。
キャーリサ「どーして?」
上条「これで最後とか……お別れとか、意味深なことばっか言うからさ。
ちょっとビックリしたけど……今、すげぇ嬉しいぞ」
キャーリサ「……そーだな。お前に引き止められたら迷うと分かっていたから……私も色々と踏み留まったんだが……」
上条「うん」
少しだけ言葉に詰まるキャーリサ。しかし次の瞬間、口角を吊り合げて舌を出す。
キャーリサ「お前に抱かれずに帰るのも癪だと思ってな」
上条「!」
仰け反る上条。顔が熱くなる。
キャーリサ「王女が体を許すと言っているのに、お前断るかフツー?
あー、今になってだんだん腹立ってきたし。お前に抱かれるまでは帰らん!」
689 :
上条△
690 = 672 :
恥ずかしげも無く笑顔を浮かべるキャーリサ。
もはやそれは開き直りにも程近い発言ではあったが、上条はここまでの彼女の発言の中では一番しっくりくるものだった。
キャーリサも自分と一緒にいたいと今そう思ってくれている。
それで充分じゃないかと上条は思った。
上条「上条さんのどこがそんなによかったんですかねぇ……」
キャーリサ「私のどこがそんなに良かったんだ? 年上だぞ、いーのか」
小悪魔的微笑で上条を挑発する。
鼻先に吐息がかかる程の距離で、甘やかに薫る彼女の香は上条の脳髄を蕩けさせるには十分なものだった。
上条「……可愛いとこだよ」
キャーリサ「奇遇だな。私もだし」
キャーリサの頬に手を添え、口づける。
彼女も一切躊躇うことなくそれに応えた。
キャーリサ「んっ……チュッ……チュプッ……ぅん……」
小さな水音が静かな公園に微かに響く。
まだ幾分か早い時間ではあるので、誰か来る可能性はおおいにあるが、もはやそんなことは上条の頭には無かった。
互いに貪り合うように舌を絡めて、これから待つ現実をひと時でも忘れようと求め合う。
時折漏れるキャーリサの熱を孕んだ声が、上条から思考能力を着実に奪って行った。
キャーリサ「とーまぁ……チュゥッ……んぅ…………」
上条「よ、よし……」
今日初めて出来た恋人は随分と年上であったが、上条にとっては最愛の恋人であることに何ら変わりは無い。
恋人ごっこから恋人へ。
そのわずかな変化が二人にもたらしたものは、上条からキャーリサへと捧げる口付けだった。
キャーリサ「……ふふっ、よーやくお前からしてくれたな。嬉しーの」
頬を赤らめ、俯き目を細めるキャーリサ。
691 = 672 :
上条「あ、ああ……そういやそうかもな……」
そんな風な反応をされたものだから、上条も急に気恥ずかしくなって押し黙る。
未だに抱き合うような恰好になっているのも羞恥を煽る要因となっていた。
上条「まさかお前とこんなことになるなんてな。……お前こそ好きになるのが早すぎるんじゃないか?」
少しの不安も混じりつつ、上条は冗談めかしてキャーリサに問いかける。
だが彼女は、一切の迷いを振り切ったような顔つきで言葉を返した。
キャーリサ「私は宮殿を出る前、お前の顔が真っ先に浮かんだの。
他にあてが無いというのも大きな理由ではあるが、私はその直感を信じ、ここまで来た。
だから……最後までその直感を信じたいの」
こうと決めたら一直線。
迷い悩み、それでも決断を下してきた彼女は一度決めたことを曲げず、自分を貫き通す。
そんな彼女だからこそ出てきた言葉だった。
キャーリサ「……しかし説得とは考えもつかなかったな。
お前と結ばれる未来を期待してもいーのだろーか……」
チラチラと、上目使いにこちらに視線を飛ばしてくるキャーリサ。
何度でも抱きしめたくなるほど可愛く思いながら、上条は力強く頷いた。
上条「当たり前だろ。俺が絶対に」
??「残念だが、それは遠慮願いたい」
だがそれを遮るように背後から、男の声が聞こえた。
それは、これからの行く末に確かな希望を持ち得た二人の全てを否定するかのような冷淡な声だった。
692 = 672 :
キャーリサ「騎士団長……」
上質な生地で仕立てられたスーツを着こなした紳士然とした男。
英国、騎士派の長、騎士団長が困り果てたような表情で姿を現した。
彼は本来なら王室派に仕える騎士であり、キャーリサの味方である。
だがその表情や態度から察するに今はそうではない。
何か良くないことが起こりそうな予感がして、上条はキャーリサを庇うように彼との間に立った。
騎士団長「お取り込み中失礼します、キャーリサ様。
ですが、これ以上はその少年をいたずらに傷つけるだけかと」
言葉こそ上条を気遣っているように聞こえるが、その視線は酷く冷淡。
上条の一連の言動を全否定するような凍てつく視線だった。
上条「キャーリサを連れ戻しに来たのか」
騎士団長「そうだ。大人しく渡してもらおう……と言うと何か我々の方が悪人のようだな」
スマートな物腰。
しかし言葉の節々には有無を言わせぬ威圧感を孕んでいる。
上条「我々……?」
不穏な発言。
上条が首を傾げたとほぼ同時に、騎士団長の後ろに人影が見えた。
??「上条当麻……とても心苦しいですが……彼女を英国へ連れ帰りたい。よろしいですね?」
女の声。
そして間もなく騎士団長の後ろから、もう一人の人物が姿を現した。
闇に揺らめく黒髪と白いリボン。
鋭い眼光は百戦錬磨の兵士を思わせ、ジーンズとジャケットの片側の袖を引きちぎった奇怪な服装とその下に存在する女性らしい体つきが
色々な意味で周囲の視線を引きつけてやまない。
ウェスタンブーツの底を打ち鳴らし、長大な日本刀を携えて現れたのは聖人、神裂火織だった。
上条「神裂ッッ!? な、何で……!」
二人だけで学園都市を壊滅できそうな武力を持つ人物の揃い踏みで、上条も驚きを隠せない。
神裂「こちらの台詞です……あなたという人は……一週間でどうしてそこまでの関係になれるのですか」
693 = 672 :
少しの呆れを声色に潜ませて、神妙な顔つきのまま神裂がため息をついた。
上条「いやそれはその……」
騎士団長「答えなくて結構。少年、浮かれているところを申し訳無いが、君にも分かるはずだ。
キャーリサ様は英国の未来にとっても重要な方。じゃれ合いの時間は終わりにしてもらえるだろうか」
先程も言ったが、一応上条に気を遣う素振りを見せてはいる。
しかしその言葉の節々は反論は許さないと言いたげに鋭く、彼の眉間には深く皺が寄せられている。
上条「……キャーリサが結婚するんだってな」
騎士団長「そこまで分かっているなら話は早い。王女をこちらに――」
騎士団長が一歩足を踏み出した瞬間。上条は右手を真横に突き出して彼の行く手を阻むように立ちはだかる。
険しい表情で目を細めた騎士団長の唇がわずかに引きつり、その後ろの神裂の瞳にも驚愕が浮かんだ。
キャーリサ「とーま……」
上条「まだ話は終わってねぇぞ」
騎士団長「……何の真似だ。キャーリサ様の滞在を受け入れてくれていたことには礼を言わせてもらう。
かかった費用も謝礼も含めて全て支払おう。
が、それ以上に重要な話など、君にはあるか?」
上条「キャーリサは結婚したくねぇって言ってるぞ」
騎士団長「ああ、そのことか……」
ふぅと息を吐いて騎士団長が目を伏せる。
思ったよりもあっさりとした反応に、上条はわずかにたじろいだ。
そして
上条「ぐっ!!」
694 = 672 :
騎士団長が瞼を開いた瞬間、上条の腹には彼の拳が叩き込まれる。
うめき声をあげて膝をつく上条。
あまりに素早い動きに、目で追うこともかなわなかった。
キャーリサ「 騎士団長! 貴お前何をしているの!?」
神裂「そうです! 仮にも王女を滞在中かくまってくれた彼に、それではあまりに……!」
騎士団長「差し出がましいぞ少年、君に何の関係が? すまないが、時間が無いものでな。
諸々の謝罪等も後日改めてだ」
そう言い放ち、革靴の底で石造りの道を叩きながらキャーリサに一歩ずつ歩み寄っていく。
痛みを必死にこらえる上条だったが、不意打ちにも近い強烈な拳の一撃を腹に食らい、どうしても立ち上がることが出来ない。
上条「待て……! キャーリサを連れていくな……!」
騎士団長「その頼みは聞けんな。……キャーリサ様、お迎えに上がりました。宮殿へとお戻り下さい」
キャーリサ「…………」
キャーリサの眼前で恭しく頭を垂れる騎士団長。
英国紳士の無駄の無い仕草。一見スマートなそれだが、背中からは息を呑むほどの重圧を与えるオーラが見え隠れしている。
蹲る上条に駆け寄る神裂。
その様子を見ながら、キャーリサは唇を強く噛んだ。
キャーリサ「……私は……とーまと約束をした。私は戻れん」
騎士団長「いえ、お戻り頂きます。エリザード様にも縛り付けてでも連れ戻すようにと申しつけられておりますので。……失礼」
キャーリサ「つっ……!」
キャーリサの手首を強く握りしめ、騎士団長は引きずるように彼女を連れて行く。
695 = 672 :
上条「キャーリサ!!」
この時上条は思った。
欠片と言えど彼女はカーテナを所有している。それを抜いて騎士団長と真っ向から切結べば良いのではないかと。
あらゆる障害を斬り伏せてでも上条と共に征くと行った彼女なら、それくらいのことはやってのけるのではないかとむしろ危惧していたほどなのに。
キャーリサはその素振りを見せず、ただ唇を噛んで力での抵抗を試みるだけだった。
神裂「あなたが何を考えているかは分かります。確かに剣を振るえばここは凌げるかもしれません。
ですが、彼女がその行動に出れば、あなたは王女誘拐の犯人にでも仕立て上げられてしまう可能性もある……」
神裂は悲痛な面持ちでそう告げた。
上条「誘拐……!?」
その言葉に、上条は愕然となって絶句する。
神裂「彼や我々が、では無く、あなたと関わりの無いところから手が回る。
それは私達にとっても非常に面倒な展開なのです……」
上条「俺の……せいか」
神裂「……王室にも敵はいますから。諦めてはくれませんか……こんなこと、言いたくは無いですが」
苦虫を噛み潰すような表情で神裂は問いかける。
もちろん騎士団長や女王がそのような根回しをするのではない。
そうするのは彼らの『敵』。
英国の政治の指揮を執るのが女王だったとしても、そこには様々な人間達の思惑が絡んでくる。
先のクーデターによって女王やキャーリサの存在を疎ましく思う者達が力を着けて攻勢に出ようとしているのだ。
もちろん彼女一人であれば国外に出た騎士団長とは互角程度に戦えたのかもしれない。
だが、それは出来なかった。
キャーリサが武力による抵抗に出ないのは、英国内でのドロドロとした闘争に上条を巻き込まない意図があるからだ。
そんな感じのことを神裂に説明されたが、上条の耳にはほとんど入らなかった。
否、聴く必要すら無かった。
上条「……ふざけるな……」
騎士団長「……何か言ったか?」
上条「その手を離せっつったんだよ三下ぁ!」
696 = 672 :
上条は沸々と腹の底から湧き上がる怒りと共に穿き捨てる
英国内での権力闘争など、知ったことか。
上条の決意は何も変わらない。
キャーリサが嫌だと言っている。
それ以外の理由など、それでもなお必要無いのだから。
上条「待てよ……!」
顔をしかめる彼女を目にした上条は、奥歯を強く噛みしめ、痛みを訴える体に鞭を打つように己を奮い立たせて立ち上がった。
騎士団長「待たん。これは君のためでもあることだ。……相手を頼む」
キャーリサの手を引きながら、上条を見ようともせず騎士団長は神裂に目配せした。
神裂「し、しかし……聴いていたのとは随分と状況が」
躊躇う神裂。彼女にとっては想定外のことだった。
上条に刃を向けなければならないほどの理由は無く、ここに来たのもあくまで王女の護衛を確実なものとするためでしかない。
ほんの1時間前まで、時間があればインデックスにも会って帰ろうかななどと考えていた彼女にとっては、刀を抜くにはあまりに唐突過ぎる展開だった。
騎士団長「そのために来てもらった。英国の外なら貴女の方が確実だ」
上条「テメェだろうが神裂だろうがどっちだって構わねえ……」
しっかりと大地を踏みしめ、一歩を踏み出し、駆ける。
キャーリサを取り戻す。それだけでいい。
その先に待っているのが、命を狙われる日々だろうと、国際指名手配だろうと。
そんなことどうだっていい。
上条「邪魔するってんならぶっ飛ばすだけだ…………キャーリサを離せぇぇえぇえええええ!!!!!!!!!!!!!」
上条は今、目の前で受け入れがたい現実を突きつけられている一人の女を助けること以外には何も考えてなどいなかった。
それが上条当麻の日常なのだから。
狼狽する神裂の横をすり抜けるようにして拳を振りかぶり、騎士団長に向けて跳びかかる上条。
697 = 672 :
キャーリサ「とーま!!!」
鈍い痛みを訴える体を叱咤して地を駆ける。
立ちはだかる神裂と騎士団長。
魔術など使わずとも精強な二人を相手に勝てる見込みは極めて低い。
だが、上条はそれで二の足を踏むような少年ではない。
そんなこと、振り上げた拳を下ろす理由には決してならない。
騎士団長「……現実が見えていないようだな、上条当麻」
しかし。
彼の冷淡な呟きの通り、現実は甘くなかった。
神裂が対応するまでも無く、上条は騎士団長の長い脚のつま先を鳩尾で貫かれる。
上条「ぁ……ぐっ!」
深く抉りこまれたその一撃が、上条の意識を吹き飛ばそうと全身を駆け巡る。
経験も実績もあまりに違う、鍛え抜かれた男の蹴りは、所詮一介の高校生である上条が抗うにはあまりに鋭く、重かった。
キャーリサ「!」
倒れ伏そうとする体を、奮える脚で大地を踏みしめて繋ぎとめ、キャーリサの肩を掴んでこらえた上条。
その執念深くすら映る咄嗟の行動に、神裂はもとより騎士団長も眉尻をピクリと動かした。
上条「……待ってろキャーリサ……お前を絶対に……迎えに行ってやるからな!」
強い意志の宿る瞳。
途切れそうになる意識を力づくでこらえて、キャーリサのスカイブルーの瞳を真っ直ぐに見据えて言い放つ。
ここで倒れようと構わない。
最後に勝つのは自分だと、キャーリサを通して周囲の全てに言い捨てる。
キャーリサ「……っ! ああ……ああ! 待っているの」
沈痛な面持ちで、それでも確かに小さな笑みを零したキャーリサの表情を見て、上条の視界はグラリと揺れた。
698 = 672 :
騎士団長「……王女に気安く触れるのは止めてもらおう」
すぐにキャーリサの肩を掴む上条の手を払う騎士団長。
バランスを失い揺れ惑う体。
だがその瞬間。
神裂「!」
キャーリサ「!」
寄りかかるものを失い、大地に横たわるはずだったその体を支える一つの影が割り込んだ。
騎士団長「……ほう」
再び騎士団長の眉がピクリと動く。
??「――――随分と手荒な真似をするようになったのであるな」
上条は何者かの屈強な腕に担ぎ上げられる感触を混濁する意識の中で得た。
張りつめる空気の冷やかさが感じ取れる。
どこかで聞いた男の声を耳にしながら、それが誰のものであったのかを思い出す前に、上条の意識はそこで途絶えた。
699 = 672 :
今日はここまでです。
今日地の分ばっかりになってしまって申し訳ない。
シリアスパートはちょっと地の分多めになります。
それではまた近々お会いしましょう。
700 :
やべえぐらい見入っちゃって目が痛いわwwww
乙でした、次も期待して待ってます
みんなの評価 : ★★★×6
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