元スレエリカ「あなたが勝つって、信じていますから」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
1 :
・ポケモン初代
・地の文あり
・レッド×エリカ風味
・書きながらの投稿なので誤字脱字ごめんなさい
・長編予定
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1405179974
2 = 1 :
開けた草原の中に一定の間隔で点在する家屋。
マサラタウンで起こる出来事、噂は大小関わらず一時もすれば街全体に広がっていく。
そんな場所で唯一世界に発信出来る場所、ポケモン界の権威オーキド博士の研究所内で、新しい二人のトレーナーが初戦に望んでいた。
「泣き虫でしかもポケモンも満足に扱えないのな! レッド」
「……」
レッドとグリーン、この街に住む二人の少年の力関係はこの会話で押して知るところだ。
グリーンはヒトカゲと共ににやついた顔でポケモンバトル勝利の余韻に浸り、レッドは目から零れそうになる雫を必死でこらえ、手を震わせながら倒れ伏したフシギダネにモンスターボールのリターンレーザーを当てた。
(勝負とは残酷なものじゃな)
オーキド博士は孫の勝利を喜ぶわけでもなく、ため息を必死でこらえるような表情でレッドを見ていた。
悲しくはないが少々虚しくはある。レッドは昔から口下手で、年の近いグリーンには毎度合うたびいじめられており、そのたびグリーンの姉やオーキド博士がグリーンを叱りつけるものの、劣等者を痛めつける喜びを覚えてしまった子供、グリーンを御しきれていなかった。
レッドが精神的に強くなってくれればあるいは、またポケモントレーナーとして二人に共通の話題ができればと思っていたのだが……。
「よさんかグリーン!」
「うるせえじじい! 俺はもう姉ちゃんからタウンマップもらって旅に出るからな! ばいびー!」
そそくさと出て行くグリーンをオーキド博士はあっけにとられたまま見送ってしまった。顔を伏すレッドとオーキド博士の間で沈黙だけが残る。
「レッド……」
3 = 1 :
レッドのポケモンを回復させる。レッド自身も慰めなければならないだろう。
しかしいつもならレッドがぐずりだすところだが……。
「……っ!」
「レッド!」
レッドは涙を振り払い一目散に研究所から駆け抜ける。
「あら?」
「!?」
レッドはドアまで走った所で人にぶつかりそうになり、少し減速した。
マサラでは見ない女性だった。肩まで伸びる黒い髪、山吹色の和服からにじみ出る優雅な立ち振る舞いと気品。しかしレッドは彼女と目を合わせるのを避けて駆け出して行く。
「オーキド博士、あの子は?」
「おお、エリカさん。この前言っていたポケモンをあずける予定だった子の一人なんじゃが……。初戦に負けたショックで飛び出してしまってなあ」
「まあ……どんなバトルでしたの?」
「相手はわしの孫でグリーン、使ってたのはヒトカゲじゃ。今飛び出していったのがレッドで使ったのはフシギダネ。二匹とも今日が初めてだから、ひっかくと体当たりの応酬じゃったのう」
「なるほど。本当に初めてでしたのね」
「おお、しまった。旅立ちのついでにトキワタウンから荷物を持ってきて欲しかったんじゃが、二人共頼みそびれてしまったわい……」
「それなら私にお任せください。飛行ポケモンを持ちあわせていますので」
「おおすまんのう。ジムリーダーのおつかいなんてさせてしまって申し訳ない」
「いえいえ。オーキド博士のお役にたてるのなら、些細なことでも光栄なことです。それと一つ教えていただけたいのですけど」
「なんじゃ?」
エリカはふわりと微笑む。
「レッドくん、どこに行ったのか心当たりはございますか?」
4 = 1 :
彼は弱かった。
彼は負け続けていた。年の近いグリーンを相手に、喧嘩でも、かけっこでも、川泳ぎでも。
グリーンは口々にレッドを罵り、レッドは言い返せない歯がゆさと悔しさで逃げ出すしかない。
それでもレッドは新しい勝負からは逃げなかった。グリーンに勝てることを一つでも、その負けん気の強さだけは誇りだった。
そしてポケモン勝負。自分だけじゃないポケモンの強さを借りれば、あるいは。
しかし、結果はいつもの敗北だった。
「……」
草原に雨が降っていた。どこまで走ったのか、帽子と服が水分を吸って体に張り付いていたが、レッドからすれば大した問題じゃない。
「……」
少し疲れた。レッドは座り込み、雨に打たれる水たまりをなんの意味もなく見つめていた。
(なぜ、勝てないのだろう)
グリーンと自分は何が違うのだろう。グリーンはいつも自信満々だ。いつも自分は勝てるという確信があり、好戦的な笑顔を張り付かせて勝負に望んでいる。
しかしレッドはそうではない。きっと勝てる。今回は勝てる。そんな想いと裏腹に、また負けるんじゃないか、自分はグリーンには勝てっこないんじゃないか。
そんな感情が目の前を覆ってくる。いつもそうだ。
(一生、勝てないのかな)
5 = 1 :
俯いた顔、雨が後頭部から目尻まで垂れてきて、地面に1つ2つと雫となって落ちていく。
「そんなところにいると、風邪を引いてしまいますよ」
その言葉とともに、レッドの頭上に傘があった。しかしレッドから落ちる雫が止まらない。
レッドは目元を一度拭ってから目線を横に移し、先ほどすれ違った和服の女性を視認してから、またすぐに地面へと顔の向きを戻した。
(ありゃ)
エリカは肩を落とした。噂に聞いていた少年は大分敗北が堪えているらしい。
彼を知るグリーンの姉曰く、
「レッド君、けっこう無口だからグリーンが調子にのっちゃうのよね……」
オーキド博士曰く、
「レッド自身は優しい子なんじゃがなあ……。グリーンが一度怪我をしたことがあったんじゃが、すぐに走って大人を呼びに来てくれたんじゃよ。しかしグリーンは"レッドに見捨てられた"って勘違いしてしまってのう。後でグリーンに訳も話したんじゃが、それ以来グリーンとレッドが勝負事をするようになってしまったんじゃよ」
そしてレッドは連戦連敗中。彼が逃げ出すと大抵この場所で塞ぎこむという。
エリカは別にレッドに一目惚れしたとか、泣き虫な男の子を叱咤激励したいとか、そこまでの思いがあってレッドを追ってきたわけじゃあない。
(新しいポケモントレーナーの門出に、少しだけ手助けしてもかまわないでしょう)
聞けば彼が使うポケモンは草ポケモンのフシギダネだという。エリカも草タイプを司るジムリーダーの一人。
「レッドさん」
6 = 1 :
「!」
レッドの体がぴくりと動いた。
「オーキド博士にお名前をお聞きしました。私はエリカ、ポケモントレーナーをしております」
レッドはなおも動かない。
「グリーンさんに、ポケモンバトルで勝ちたくはありませんか?」
エリカは返答を待つ。数秒の沈黙の後、レッドはゆっくりと口を開いた。
「無理だよ。どうせ勝てない」
「どうして?」
「いつもそうなんだ。こっちがどんだけ頑張っても、グリーンはいつも僕よりも上なんだ。どうせ頑張ったって、無理だよ」
「なるほど……」
中々手強い。さてどんなアプローチがいいだろうか。
「……レッドさんは、ポケモンの公式試合を見たことがありますか?」
レッドがエリカの方を見ずに応える。
「テレビで、ニドリーノとゲンガーが戦っているのは見た」
「最近の公式戦ですね。あれはいい試合でした」
7 = 1 :
エリカが弾むように続ける。
「ポケモンバトルに必要な戦略、戦術、技術……それら必要な要素が全て噛み合った試合はとても心躍るものです」
レッドは無感動に、
「勝てなきゃ意味無いじゃん」
とにべもない。
「ええ。試合、特にプロの公式試合はなによりも結果が求められます。しかしプロの公式試合だろうと、ポケモンを初めて持ったトレーナー同士の試合であろうと、ポケモンバトルで最後に勝敗を分ける、不変の要素があります」
エリカは一度言葉を区切って、
「何だと思いますか?」
レッドに微笑みかけた。
レッドは不思議そうな顔をして、
「ポケモンの強さじゃないの?」
「いいえ違います」
ばっさりと切り捨てられた。
「わかんないよ、ポケモンの強さより必要なものなんて」
「……ポケモンバトルで勝つために一番大切な要素、それは」
雨が、勢いをなくしてきている。
「トレーナーとポケモンとの、絆です」
8 = 1 :
「……絆?」
「レッドさん、フシギダネを出してみてください」
レッドは手元のモンスターボールを地面に放った。
「ダネフシッ!」
地上に出たフシギダネは、雨の中嬉しそうに背中を揺らしている。
「なんで、喜んでるんだ?」
「レッドさん、オーキド博士からいただいたポケモン図鑑をフシギダネに向けてみてください」
「えっと……」
レッドはポケットから赤い電子図鑑を取り出し、フシギダネへ向けた。
フシギダネを感知した図鑑から電子音が響く。
『フシギダネ。たねポケモン。生まれてからしばらくの間は、背中の種から栄養をもらって大きく育つ』
「たねポケモン……そうか、雨で背中の種から栄養もらえて喜んでいるんだ」
「ええ。レッドさんこれを」
「これは……?」
レッドはエリカから茶色い種子のようなものを受け取る。
「ポケモンフードです。これをフシギダネに」
「あっ」
9 = 1 :
レッドがかがみフシギダネに差し出すと、フシギダネは一度匂いを嗅ぎ、はむはむと頬張った。
「ポケモンは剣や盾では決してありません。この地上に住む生物の一つ。好き嫌いがあり、感情があります」
食べ終わったフシギダネが、もっと欲しいとキラキラした目でレッドを見つめる。
「ポケモントレーナーとはひとつひとつのポケモンを知り、そして相手に知ってもらい、絆を育み共に強さを目指す……。レッドさんあなたは今、フシギダネの一部を知りました」
エリカがレッドにポケモンフードの箱ごと手渡す。
「しかしフシギダネの全てではありません。これからレッドさんはもっとフシギダネの事を知り、そしてフシギダネにあなた自身を知ってもらう必要があります」
「僕自身をフシギダネに知ってもらう?」
「ええ」
フシギダネがまだかまだかと、レッドの周りを回り始める。
「互いの事を知り、共に切磋琢磨して絶対に切れない絆のもとに、望む勝利の光がある……。それがポケモントレーナーです」
「……」
レッドは餌を食べるフシギダネを見つめる。初めてグリーンのヒトカゲと戦った時、自分はなにを考えていただろうか。
『グリーンに勝ちたい!』『このポケモンバトルでなら!』
『なんであっちの攻撃の方が強いんだ!』『あっちのポケモンにすればよかった!』
『どうせまた、勝てない』
「……」
10 = 1 :
「……僕も」
レッドは初めて、エリカの瞳を真正面から見つめた。
「僕も、なれるかな。そんなポケモントレーナーに」
「なれるかどうかは、この世界の誰にもわかりません。大事なのは」
エリカは抱擁力がこもった声で、
「"なりたい"という意思があるかどうか。レッドさん、ポケモントレーナーになりたいですか?」
レッドは目をつぶった。
『レッド、お前ポケモンバトルも弱いんだな!』
『レッド、少しはグリーンに言い返したらどうじゃ?』
『レッドくんごめんね。グリーンにはいつも言ってるんだけど……』
強くなれるだろうか。
もうあんな目で見られることはなくなるだろうか。
ポケモントレーナーになれば、グリーンに勝つことができるのだろうか。
……いや、勝つことができるかどうかじゃない。
自分は望んでいる。なににも変えがたい強さを。
勝利の光を。
「……ポケモントレーナーになりたい。なって、グリーンに勝ちたい」
「はい。それでは、レッドさんはまずなにを始めますか?」
「もっとフシギダネの事を知りたい。ポケモンのことも、ポケモンバトルの事も」
「ええ」
エリカが本当の意味で微笑む。
「その、エリカ、さん」
「はい?」
レッドがフシギダネを抱え上げる。
「よかったら、少し教えてくれませんか? ポケモンのこと、ちょっとでいいんで」
「もちろん。構いませんわ」
雨はもう止んでいた。
11 = 1 :
トキワシティ。ここにはトキワジムの他、ポケモントレーナーの殿堂であるセキエイ高原に続いている。
その途上に目を合わせたポケモントレーナー二人の姿があった。
「ようレッド。この先はジムバッジが8個ないと進めないってよ! まったくケチンボだぜあの警備員」
レッドは答えない。グリーンは気にした様子もなく言葉を続ける。
「そういやレッド、あれからお前ポケモンは捕まえられたか? じいちゃんの言葉に従うのは癪だけど、俺は一応集めてる。もう4匹も捕まえたちゃったぜ。レッドは何匹だ?」
「……2匹」
「俺の半分かよ! そんな調子じゃポケモン図鑑の完成も俺が先にしちゃうかもな!」
はははっ! とグリーンは軽く笑う。そして腰のモンスターボールに手をかけた。
「知ってるかレッド、旅の途中でポケモントレーナーの視線が合ったら、やることは一つ」
「……」
レッドが身を低くしてモンスターボールを構える。さまになっているレッドの姿に以外だったのか、グリーンが口笛を吹いた。
「へへっ。今度は長くもてよ。レッド! いけっ! オニスズメ!」
「いけっ!ポッポ!」
12 = 1 :
鳥ポケモンのそれぞれの鳴き声が響く。
「オニスズメ! つつく!」
「ポッポ、すなかけだ!」
オニスズメの攻撃に耐え、ポッポは正確にオニスズメの目にすなをかけていく
「相手のHP(ヒットポイント)を減らさなきゃ勝てないんだぜ、レッド!」
グリーンが電子図鑑でポッポのHPを確認する。
「ポッポ、すなかけ!」
「はっ、つつくだ! オニスズメ! この前と一緒だなレッド!」
「……」
「なあレッド。お前とお前のポケモンのために言っとくぜ、ポケモントレーナーなんてやめちまえよ」
「!」
「ポケモントレーナーていうのはな、ポケモンを道具のように自在に扱って勝利を勝ち取るもんだ! どんなに強いポケモンを使おうが、命令してる奴がヘボだと勝てねえんだよ」
「……」
「お前て弱い上に口下手だろう? 使われてるポケモンがかわいそうだぜ! 俺なんかじいちゃんの孫だからポケモンのことだってお前よりわかってるし、バトルも強い! そうだ、俺が勝ったらポケモンよこせよ! お前の分も頑張ってやるよ。このグリーン様が、未来の世界チャンプのポケモントレーナー様がな!」
「…………」
ポッポにオニスズメの攻撃が続く。レッドは顔を伏せ、帽子のつばで目線を隠す。
「…………違う」
確かな、しっかりとした言葉だった。
「あん?」
「ポケモントレーナーは、そんなものじゃない!」
13 = 1 :
レッドは顔を上げ、グリーンを正面から見据えた。
「ポケモントレーナーとはポケモンとの絆を育み、勝利の光を目指すものだ。好き勝手に命令して、道具のような扱いをして勝てるようなものじゃあない!」
「なっ!?」
グリーンは知らない。こんな、こんな意思をもった煌きを放つ瞳のレッドなど、知らない。
「それを証明してやる! ポッポ! かぜおこし!」
攻撃に耐えていたポッポの眼が開き、一気にオニスズメから距離をとって羽ばたく。
「くっ! オニスズメつつくだ!」
しかしオニスズメの攻撃は外れた!
「なに!どうして!? もう一度だ!」
グリーンは気づかない。オニスズメの眼がポッポのすなかけによって、途中から空を切っていたことを。
レッドはオニスズメの命中率が十分に落ちてから、反撃にでたことを。
「トドメだ! かぜおこし!」
ポッポが一段と甲高く鳴き、羽ばたいて作り出した風のかたまりをオニスズメにぶつける。
オニスズメは力のない鳴き声を上げて、倒れ伏した。
14 = 1 :
「そんな……俺の、オニスズメが……」
グリーンが呆然とした表情でオニスズメをモンスターボールに戻す。
「こんな……こんなの認めねえ! 畜生!」
グリーンはバトルを中断して、走り去っていく。
「待てグリーン!……」
レッドは追うのをやめて、ポッポに近寄った。
「よくやったぞポッポ。頑張ったな」
「ポー♪」
ポッポにキズぐすりを使って背中を撫でると、ポッポが陽気にレッドへ擦り寄ってくる。
「皆、出ておいで」
レッドが残り二つのモンスターボールをほおる。フシギダネとコラッタが元気に飛び出した。
「お前たちの出番、今回はなかったな。でも油断せずに行こう」
フシギダネとコラッタ、そしてポッポがレッドの周りに集まる。
「さて道を変えて、まずはトキワの森か、今度はどんな森かな」
(あっ……そういえば、僕、グリーンに勝ったのか)
しかし、今は些細な事に思える。不思議だ。
「ダネフシ?」
もっと大事なことが、できたからだろう。
「……なんでもないよ。さて行こうか皆。まだまだ旅は始まったばかりだよ」
少年は本当の意味で歩み始める。
ポケモントレーナーになるために。
タマムシシティであの人に礼を言うために。
ポケモン達と共に勝利の光を目指す旅に。
15 = 1 :
今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。
16 :
今からタマムシジムが楽しみだなあ
だが俺は三万光年早いぜの人を応援しよう
18 :
乙
王道ストーリーは良かったが微妙に読みづらかった
SSなら地の文ありでもセリフの上下は改行で空白いれた方が読みやすい
地の文が続く場合も数行毎とか適度に改行はあったほうがいい
後注意書きに書くぐらいなら投稿直前にでも誤字脱字の確認すればと思った
19 :
>>18
誤字脱字って意外と自分じゃ気づきにくいんだぜ?
学校で作文とか書いたことある奴ならわかるはず
20 :
期待
風味じゃなくてガチでもええんやで
21 = 1 :
ニビシティ。そこではニビ科学博物館で宇宙博覧会が行われており、多くの観光客や研究者が訪れている。
またニビシティにもトキワシティと同じくポケモンジムがあり、代々岩タイプを司るジムリーダーが訪れるポケモントレーナーの挑戦を受けていた。
「……ふう」
ここはニビシティジムリーダーの事務室。
普段は多くの関係者が出入りし、隣接するバトルスペースには多くの掛け声やポケモン達の咆哮が響く場所だったが、今はガランとして静かで、一人の男のため息だけが漏れていた。
コン、コン。
「はい」
「入るわよ、タケシ」
「カスミか」
ニビシティジムリーダータケシはデスクで片付けていた書類を置き、同業者であるハナダシティジム所属のカスミを出迎えていた。
タケシは茶色いTシャツに緑のズボン、カスミは丈の短いTシャツとショートパンツのへそ出しルック。互いにかしこまった関係ではないことが見て取れる。
ハナダシティはニビシティと隣接しており、またカスミはタケシはと歳が近いこともあって、ポケモンの事を話すことは少なくなかった。
二人の間の空気は静かだった。
タケシは元来口数が多い方ではなかったが、今日は一段と寂しげな雰囲気を纏っており、カスミもそんなタケシを認めながらもさして興味なさげに人のいないジムを眺めていた。
カスミはただの広い空間になったジムの天井を見上げ、声を響かせる。
「本当にやめるのね。ジムリーダー」
「ああ、明日がニビジムの、いや、ジムリーダータケシの最後の営業になる」
「ふーん。代わりの人はすぐ来るの?」
「もうポケモン協会の方が新しいジムリーダーを選定しているそうだ。長くても一週間もすれば新しい人間が来るだろう」
「そう、一週間ね。その間旅のトレーナーは待ちぼうけってわけ」
カスミの語気は強くない。ただ事実を言っているだけだった。
「俺を止めに来たわけじゃなさそうだな」
「そりゃそうよ。止める理由がないもの」
「……そうだな」
22 = 1 :
カスミが今は誰も居ないバトルスペース中央、モンスターボールを模した白線の中央に立つ。手を頭の後ろに組んで目をつぶった。
タケシはカスミの大分後ろに立って、明日で最後になるバトルスペースを眺めた。
「じゃあカスミはここに何しに来たんだ? バトルならまあ、今なら付き合うが」
タケシは苦笑しながら言った。カスミは水のエキスパート、対してタケシは岩。自分で言っといて勝ち目は薄い。
カスミは目を開ける。タケシを見ない。どこか中空を見ている。
「バトルは別にいいわ。あんたがどんな顔してるか、興味があっただけ」
「なんでやめるのかは聞かないのか?」
「別に興味ないわ。まあでも、あんたの顔が見れてよかったわ。少し判断材料になった」
「ジムを姉に任せて、最近ハナダに戻ってないって聞いたぞ」
「別に問題ないでしょ。ジムバッジ譲渡の権限は私達4姉妹なんだから、誰かいればいいわ」
「お前が4姉妹の中で一線を画す強さなのにか?」
カスミはタケシに返答せず、タケシの横を通りすぎて手をひらひらと振る。
「明日最後の挑戦者を待つつもりだ。暇だったら来てくれ」
タケシの言葉にカスミは何の反応もせずジムを去った。
「……さて、書類を片付けるか」
23 = 1 :
タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。
「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」
「ん?」
道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。
見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。
いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。
「いい連携だな、少年」
「え?」
「すまない、邪魔をしてしまったかな」
タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。
「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」
「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「レッド」
「そうか。俺はタケシ」
フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。
24 = 1 :
「タケシさんもポケモン持ってるの?」
「……ああ」
タケシは少し考えてから腰のモンスターボールを選び、自らの隣に放る。
「コンっ!」
現れたのは赤い毛にこじんまりとした6つの尻尾が特徴的なポケモン、ロコン。
「わっ。はじめて見るっ!」
「ロコンというんだ。この辺では珍しいかもしれないな」
タケシはかがみ、ロコンの体を撫でる。ロコンは心底リラックスしたように、タケシに体を任せた。
「すごく懐いてるね」
「ありがとな。なあ少年、一つ聞いてもいいか?」
「ん、なに?」
「ジムに挑むということは、その先にあるポケモンの殿堂、セキエイ高原を目指すんだろう? どうしてそうしようって思ったんだ?」
「どうしてって……? ポケモントレーナーは皆目指すんじゃないの?」
25 = 1 :
「ポケモンとの付き合い方は様々だよ。セキエイ高原を目指す人は多いだろうが、中にはポケモンをペットとする人、ポケモン研究者や、土木作業や治水工事、ポケモンのケアや健康を扱うポケモンブリーダーという職業もある」
タケシはロコンから手を離し、レッドに向かい合った。
「人それぞれのポケモンとの付き合い方がある中で、どうして君はポケモントレーナーになったんだい?」
タケシは努めて優しく言った。別に糾弾しているわけじゃない。このフシギダネと良い関係を築いている少年がどうしてバトルの道に行ったのか、純粋な興味だった。
「……勝ちたいから、かな」
「勝ちたいから?」
「うん。ポケモンバトルってさ、僕だけじゃなにもできないじゃない。でもポケモンだけがいても、なにもできない。ポケモンがいて、トレーナーがいて、二つの心が通じあって初めて、勝てる」
「……」
「一人だけじゃできないことでも、ポケモンと力を合わせれば。仲間と一緒に勝ちたいから、喜びを分かち合いたいから、バトルで勝ちたいから、かな」
少年の表情はキラキラしていた。タケシは憧憬にも似た感情でそれを眺める。
「ごめん、ちょっとうまく言えないかも」
「……いいさ。立派だな、君は」
26 = 1 :
ニビシティジムで毎日連戦する日々。しかしタケシはある日、傷ついたポケモンを癒やすポケモンクリニックでのブリーダーたちの献身さを見て、迷いが生まれていた。
自分はポケモンに戦いを強制してしまっていないか。もっと他の、ポケモンを愛する者としての付き合い方があるのではないか……。
そんな迷いが生まれていた矢先、先日ヒトカゲを伴った挑戦者が来た。
一度目はタケシが退ける。愛称から見て当然の結果で、タケシはがまんやタイプ相性の事をレクチャーしようと思ったのだが……。
「……うっ」
その時、ヒトカゲを連れた少年から放たられた憤怒の視線。強烈な敵意。それに圧倒され、声をかけれずに彼を見送ってしまった。
時を置かずしてその少年は再来した。今度はリザードを伴って。
タケシは相手が持っているジムバッジの個数によって使うポケモンが決められている。
リザードの力はタイプ相性をものともせずに、タケシのイシツブテとイワークを撃破していった。
力技で押し通るのは悪いことじゃない。しかし、バトル相手に対しギラついた視線で攻撃してくるトレーナーとリザードの姿が、どうしても脳裏から離れなかった。
(俺がやっていることは、正しいことなんだろうか)
この迷いに対して、タケシは考える時間が欲しかった。気づけば空いた時間、1から始めるポケモンブリーダー教本なんてものを読んでいる。
(今の俺は、ジムリーダーをやるべきじゃない)
周囲の反対をよそに、タケシは一度自分の道を見直すことを決めた。
27 = 1 :
「そういえばレッド君は、ポケモン博物館に行ってみたかい?」
「ううん」
「貴重なポケモンの化石や、ポケモンに関わる岩石を展示している。時間があれば行ってみるといい」
「うん、そうするよ」
「今日はもうほどほどにしときなさい。明日ジムに挑戦するなら、体調もポケモンも万全にしとかないと」
「わかった。ありがとうタケシさん!」
「ああ、おやすみ」
少年が駆けていくのをタケシは笑顔で見送る。
自分もさっさと今日は寝よう。明日は朝一番に元気なフシギダネ使いが来るだろう。
(……俺の、ラストマッチのためにも)
28 = 1 :
今日はここまで。明日でニビ編終わりの予定です。
読んでくれた方ありがとうございます。
改行してみたんですが、こっちの方が読みやすいですかね?
あと誤字脱字については投稿する前に読み直しはしてるんですが、
投稿してから読むと気づくのが結構ありますね……申し訳ない。
エリカさんにはたっぷり出番がある予定?なのでお楽しみに。
29 :
読みやすくなったよ乙
31 = 1 :
誤字脱字は後日まとめて訂正します。
>>23に会話抜けがあったため訂正
タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。
「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」
「ん?」
道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。
見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。
いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。
「いい連携だな、少年」
「え?」
「すまない、邪魔をしてしまったかな」
タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。
「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」
「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「名前は?」
「レッド」
「そうか。俺はタケシ」
フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。
32 :
心地良い朝だった。天気は快晴。湿度も程よく、ポケモンたちのコンディションが万全であることは一目見て分かった。
「おはよう皆」
ニビジムにタケシ他、ジム所属のトレーナー達が勢揃いしている。皆一様に、複雑な顔をしていた。
タケシの門出を祝うべきなのか、寂しさから彼を引き留めていいのだろうか。
「タケシさん、やめないでください! 俺……まだまだ1000光年だってタケシさんに教わりたいっすよ!」
「光年は距離の単位だぞ、まったく」
タケシがジムリーダーになってからジムに所属した少年が、こらえきれない涙を流しながらタケシに懇願する。
「ありがとな。今日の挑戦者の前座試合は、お前に任せる」
「……はい!」
「良い返事だ。さあ皆、俺の最後のジム戦だ。気合入れていくぞ!」
『はい!』
(今の俺には、ジムリーダーとして悔いが残っているかどうかすら自分でもわからない。だが、君のバトルに応えるくらいはできるだろう)
ジムに開業のベルが鳴り、入り口のシャッターがゆっくりと音を立てて上がっていく。
バトルスペースに朝日が差し込むと同時に、赤い帽子を被った少年の影が伸びる。
「ようこそ、未来のチャンピオン!」
朝一番の挑戦者を受付が元気に向かい入れた。
33 = 32 :
タケシは自分の出番が来るまで、自室で精神を集中させていた。
手持ちは相手のジムバッジの個数に合わせ、イシツブテとイワークの二体。イワークは耐久力を活かしたカウンター技、がまんを備えている。
正攻法で来る初心者相手に、相手を見る戦術性を教える極めて簡潔なデモンストレーションとも言える。
(ポケモン同士で傷つき傷を付け合うバトルにおいて疑問をもった俺でも、これから夢を目指す者の手助けくらいできるだろう。イシツブテ、イワークどうか俺に付き合ってくれ)
「!?……なんだ……!?」
今まで聞いたことのないような歓声だった。自室までバトルスペースの轟音にも似た人々の声が響いてくる。
「タケシさん、出番ですよ」
「あ、ああ。しかし、この声は……?」
「いけばわかりますよ、皆待ってます」
バトルスペースへの道を行く。いつもの数倍の眩しさと熱を感じるのは、気のせいではなかった。
「これは……!?」
まるで一級スタジアムのようだった。突貫で作ったのであろうイワーク達を利用して作った階段上の観客席。
そしてその席を埋める老若男女の大勢の観客たち、ニビシティの人口を考えれば驚異的な人数が集まっている。
『タケシさーん!』『頑張れー!』『その坊主つええぞー!!』『やめないでくれー!』
「にいちゃーん!! がんばれ~!」
タケシの弟と妹達まで勢揃いしている。
34 = 32 :
「なっ……俺がやめることは、ジムの皆に口止めしていたはず……いや」
(……あのおせっかい娘め)
「すいませ~んタケシさん……負けちゃいました~……」
「わかった。後は任せろ」
タケシはバトルスペースに立つ。相対するは、
「タケシさんって聞いて驚きました。でもすごく光栄に思います!」
レッド。タケシの心に徐々に、熱い衝動が沸き起こってきている。笑っていた。
(馬鹿だな俺は。初心者にレクチャーなどど何を偉そうに。この観客達と、レッド君、そして俺のポケモンが望んでいることは)
「……俺はニビシティジムリーダーのタケシ。岩ポケモンを操るポケモントレーナーだ!」
「マサラタウンのレッド!」
『バトル開始い!』
「行くぞぉ! 行けぇ! イシツブテェ!」
「行け! コラッタ!」
35 = 32 :
ポケモンの挙動ひとつひとつにジムが揺れる。
「コラッタ! 体当たりだ!」
「イシツブテ! 体当たりだ!」
文字通り低レベルの争い。しかし、観客たちと、戦うトレーナーとポケモンが持つ熱気はどうだ。
『そこだぁ!』『いいぞぉ!』『頑張れー!』
「コラッタ! もう一度体当たり!」
「イシツブテ! かたくなる!」
(この少年は本気だ! ポケモンが持つ力、ポケモンとトレーナーとの絆を信じて戦っている! 俺はどうだ!)
タケシが久しく忘れていた感情が、目を覚ましかけている。
「コラッタ、しっぽをふる!」
(ここだ!)
相手がこちらの防御をさげようとした隙をつく。タケシとイシツブテの考えはシンクロしていた。
「イシツブテ! たいあたり!」
(イシツブテがこんなに早く! いや、俺の考えをイシツブテがわかってくれた)
コラッタを倒したイシツブテがタケシをちらりとみる。タケシも頷いた。
36 = 32 :
「さあ、レッド。まだまだこれからだぞ!」
「くっ! いけ! ポッポ! かぜおこし!」
イシツブテも連戦では長くもたなかったが、ポッポにある程度の打撃を与えることには成功していた。
「よくやったイシツブテ。もどれ」
レッドはたまらず、タケシに叫ぶ。
「タケシさん! 俺今、すごいわくわくしてる! これがジムリーダーとの戦いなんだね!」
「ああ! 俺も久しぶりに熱くなってきたぜ!」
タケシのポケモンは本気の編成ではない。だがそれがどうした。今持ちうる全ての力を出しきり、勝利を得ることになんの疑いを持とうか。
「これが切り札だ! いけ! イワーク!」
舞い降りる巨体。種族値こそ見た目に反しているが、その巨影はマサラからやってきたレッドを圧倒する。
(でかい……だけど、俺と俺のポケモン達の熱い闘志が囁きかけてくる。トレーナーとポケモンとの絆があれば、勝利の光をたぐり寄せることができる!」
「いくぞ! フシギダネ!」
37 = 32 :
「草ポケモンか。だがその小さな体で、イワークの硬い体を打ち砕けるか?」
「超えれない壁などないと、俺は教わりました。俺とフシギダネの力を合わせれば、また一つ、見えなかった強さを身につけることがでる!」
「なら見せてみろ! イワーク! たいあたり!」
「フシギダネ! たいあたり!」
(最初は体当たりの応酬、このフシギダネの火力なら耐えることができる! よし)
「イワーク、がまん!」
イワークの動きが丸まってとまり、フシギダネのたいあたりに対し反撃しなくなる。
「これは……一体?……まて! フシギダネ!」
(気づいたか。だが遅い、とめるのがあと一瞬早ければな!)
既に数発フシギダネの体当たりがヒットしている。
「イワークのがまん、知っていたのかレッド?」
「いえ、初めて聞く技です。だけど、イワークの挙動から予測はできる。フシギダネ! やどりぎのタネ!」
「なに!?」
フシギダネの背中のつぼみから種子が発射され、イワークの体を覆う!
「だが、イワークのがまんは開放される。イワーク! こうげきだ!」
「あとは削りきるまで! フシギダネたいあたりぃ!!」
イワークとフシギダネの額が激突し、あたり一面に砂埃が舞う。
「……」
「……」
38 = 32 :
砂埃が晴れた時、立っていたのは巨影だった。フシギダネは倒れ伏している。
『……フシギダネ戦闘不能! ……え?』
イワークの巨体が傾き、ずしんと大きな音を立てて倒れた。その巨体からは地面を伝って、フシギダネへ養分を送るやどりぎが伸びていた。
それが一度脈打つと、フシギダネがゆっくりと立ち上がる。
『しっ失礼!……イワーク戦闘不能! 勝者! 挑戦者レッド!』
『うおああああああああああああああああ!!!』
「勝った…‥? 勝った……!! 勝ったぞ!!」
レッドがフシギダネに駆け寄って抱き上げる。
「やった……!!」
「おめでとう。レッドくん」
「タケシさん……」
イワークを戻したタケシが歩み寄る。
「こんな清々しいバトルは久しぶりだった。おめでとう。君にジムリーダーが認めた証、グレーバッジを進呈しよう」
「あ、ありがとうございます!」
レッドは副品としてがまんのわざマシンも受け取る。
「俺、こんなに楽しいバトル初めてでした。ジムリーダーのポケモントレーナーって、本当に憧れます」
「憧れ、か」
「だって、イシツブテもイワークとも息ピッタリだったじゃないですか。俺も、そんなトレーナーになれるように、頑張ります!」
「……ありがとう。君のフシギダネの扱い方も見事だった。誰かに教わったのかい?」
「教わったってほどではないんですけど……でも、今の戦い方見たら、優雅じゃないって言われそうです」
「優雅……?……!!」
草ポケモンを優雅なんて言う人は、タケシには一人しか思い浮かばない。
「言い師に巡りあったようだね。タマムシまで気が抜けないな」
「はい、それじゃあ」
「ああ、いい旅を」
39 = 32 :
少年はまた駆け出していく。
しかし去ろうとするタケシに対し、歓声と拍手がなりやまない。
それを見て、ハナダのおてんば娘は微笑んでジムを後にした。
ジムのトレーナーたちがタケシに駆け寄ってくる。
「タケシさん、俺、俺」
「皆、話したいことがある」
ポケモンバトルで、ポケモンとの絆を証明している者達がいる。自分もそのうちの一人になりたい。熱いバトルを通して。
「書類を片付けたのが無駄になってしまうが、どうか俺を、ジムリーダーとして鍛えさせてもらえないか。まだまだ、ジムリーダーとして学ばなきゃいけないことがありそうなんだ」
「……!!」「もちろんです!!」「やった!! タケシさん!!」
『タ・ケ・シ・!』『タ・ケ・シ!』『タ・ケ・シ!』
(ありがとう、レッド。君ならばきっと……!)
またひとり、ポケモントレーナーとして新たな扉を開く。
レッドの旅はまだまだ続いてく……。
40 = 32 :
今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。
明日からハナダ編です。
41 :
熱いな
42 :
読みやすくて面白いです
乙
43 :
普通に泣けるわ
俺もタケシコールしたかった
44 :
「おーし皆、集まってくれ」
オツキミ山のニビシティ側麓にある草むらの中、レッドはフシギダネ、コラッタ、ポッポ、バタフリーといった手持ちのポケモンたちをモンスターボールから外に出していた。
「俺達の新しい仲間だ。出てこい! コイキング!」
光とともに跳ねまわる魚影。地上におけるその姿は川から打ち上げられて身悶える魚の姿そのものでしかない。
「こいつはコイキング! 技は今は……攻撃技じゃない"はねる"しかないけど、俺達にとって貴重な水ポケモンの仲間だ。レベルアップして水の技を覚えれば、岩ポケモンの多いオツキミ山できっと活躍してくれる。皆サポートよろしくな!」
レッドの言葉にポケモンたちがそれぞれ鳴き声を上げて答える。皆レッドに大事に育てられて強くなってきたことをわかっており、新しい仲間のサポートにも理解を示してくれているようだった。
「さて、それじゃあオツキミ山の入り口を少し探索してみようか。ポケモンセンターにもよって、もう一度あの人にお礼を言っておこう」
ポケモンが500円で売っている。しかも草むらでは中々お目にかかれない水ポケモンということもあり、レッドはすぐに心惹かれコイキングを購入した。
純粋な少年は売ってくれた男性に対して深く感謝している。
(あれ、なんだろ?)
ポケモンセンターから複数の警察であるジュンサーが複数人現れ、布を被せた男を連れて行っている。
「あいつ、ポケモン売買の許可証を持たずにポケモンを販売してたのよ」
「え」
45 = 44 :
レッドが振り向くと、そこにはノースリーブのTシャツにショートパンツといった様相の短髪の少女がいた。可愛さとワイルドさが同居している、そんな格好だった。
「売買って……」
「ってあら!? あなたこの前ニビジムに挑んでた子じゃない!?」
少女の声のトーンが急に上がり眼がきらりと光った。
「えっと、確かにこの前タケシさんと戦ったけど……」
「やっぱり! あの試合私も見てたの! 凄く楽しい試合だったわ!」
少女がはしゃぎながらレッドの手を握ってくる。こんな直接的に喜びをあらわしてくる同年代の少女に対し、レッドは気恥ずかしさと嬉しさから少したじろいだ。
「あっありがとう……」
「えっと確か、レッド君だったわね。私はカスミ。私もポケモントレーナーなの」
「え、そうなの!?」
「そうよ。あなたとポケモン息ぴったりって感じで最高だったわ。イシツブテもイワークもレベルが上なのに力を合わせてぎりぎりの勝利……! あなたみたいなポケモントレーナーって本当に素敵」
今度はうっとりとした表情でカスミはレッドを見つめてくる。
可愛らしい少女の好意を帯びた視線に、レッドの頬が純粋に紅潮する。
「そ、そこまで言ってくれるなんて……。でも、俺だけの力じゃないよ。皆がいてくれたから、あきらめずに頑張ってくれたから勝利できたんだ」
46 = 44 :
「そうね……」
カスミが急に声のトーンを落とし、レッドから距離をとって背を向ける。
「?」
「ねえ、レッド君。君はこれからオツキミ山に入るんでしょ?」
「? うん。でもしばらくはオツキミ山でポケモンのレベルを上げるつもり。新しい仲間が入ったばかりなんだ」
「そう……」
カスミは体をよじり、レッドを流し目で見ながら、
「私も一緒に行っていいかな?」
と首を傾げた。
「う、うん。でも、しばらくここのポケモンセンターを行き来するけど……」
「構わないわ。さ、行きましょ!」
カスミがレッドの手を掴みぐいぐいと引いていく。レッドの初めての洞窟探検には、大きな渦が待ち構えていた。
オツキミ山内部、入ったレッドとカスミにはすぐさま野生のポケモンが出迎えた。
「野生のズバットよ」
「行け! コイキング!」
(!?)
カスミが声を上げそうになるが、喉で押し殺してレッドの動向を見守る。
47 = 44 :
「よし、もどれコイキング! 行け! バタフリー!」
「……」
バタフリーがズバットを念力で倒し、ボールを収めたレッドは一息つく。
「ねえ、レッド君。そのコイキングって攻撃技もってないんでしょ? どうして育てているの?」
彼は知っているのだろうか。そのポケモンのポテンシャルを。
「えっと……初めて手に入れた水タイプのポケモンってこともあるんだけど、なんていうのかな」
レッドがぽりぽりと頭をかく。
「確かに今は強くないけど、これから戦いの経験を積めば、きっと強くなるって、そう思ったからかな」
レッドがコイキングの入ったモンスターボールを期待に満ちた目で見る。
育てれば進化するという知識をひけらかすわけではない。かといってとぼけているようにはとても見えない。
普通知識のない人間がコイキングを見ればなんと役に立たないポケモンと判断するだろう。
しかしレッドは、期待している。努力の積み重ねの先にあるものを。
「レッド君はさ」
「?」
「もし絶対に勝てない相手、何度戦っても実力の差を見せつけられるような相手がいたら、どうする?」
カスミはレッドではない虚空をみて質問している。
48 = 44 :
(絶対に勝てない相手……)
『やい、泣き虫レッド!』
「……あきらめない。例え一時的に逃げることや、落ち込むことはあっても、でも絶対勝ってやるって、頑張るかな」
レッドの顔は真剣そのものだった。
「今は、一緒に頑張ってくれる仲間もいるしね」
そして手に握るモンスターボールを見てほころんで笑顔になる。
カスミはレッドの答えに高翌揚していた。
「うん、そうよね。私やっぱりレッド君のこと、好き」
「え!?」
「ポケモントレーナーとして、ね。そういう風に頑張れる人が、私は好き」
「あ、ああ、そういうこと」
レッドはいつになくどぎまぎしていた。
「……」
「カスミさん?」
(……)
49 = 44 :
ハナダジム、カスミ達4姉妹がジムリーダーになったばかりの頃。
「カスミ! いい加減にしなさい! もう勝負はついていたわ!」
泣きながらジムから走り去った挑戦者に見向きもせず、カスミは姉の声に苛立っていた。
「はあ? 相手のヒットポイントは残っていたわ。そこに全力で技を放って何が悪いの?」
「相手に降参する隙を与えなかったでしょう。最初の一撃で力の差は明らかだったわ。相手もあきらめてた」
(くだらない)
「それがなに? ポケモントレーナーだったら最後の瞬間まで勝利を目指すのは当たり前でしょ?」
「ポケモンは戦いの道具じゃない。私達と同じ生き物なのよ。ポケモンとの正しい付き合い方、自分達の力量を把握して正しい決断をするのもトレーナーの仕事。そういうトレーナーとして必要な事を教えるためにジムがあるのよ」
「冗談じゃないわ! ポケモンバトルを行うトレーナーなら常に勝利が一番大事。お姉ちゃん達がそんな甘い考え方だから、私に一度も勝てないのよ」
「カスミ!!」
「スターミーも言ってるわ。もっと強い敵を圧倒的に倒す。……ジムリーダーになればカンナさんに近づけると思ってたけど、とんだ勘違いだったみたいね」
「カスミ、待ちなさい! カスミ!」
50 = 44 :
(タケシもレッド君も、最後までポケモン達と勝利を目指したからあんな素晴らしい戦いができた。どうしてわからないの、お姉ちゃん……)
「カスミさん?」
「……? わっ!?」
気がつけばカスミの目の前にレッドの顔があった。
「ごっごめん! カスミさんすごくぼうっとしてるみたいだったから……」
「あはは、ごめんなさい。そのとおりでーす。ねえ、そのカスミさんっていうのむず痒いから、カスミって呼んで? 私もレッドって呼ぶからさ。お互い堅苦しいの無しにしようよ」
「そう? じゃあカスミ、そろそろフシギダネ達のHPが少なくなってきたから、ポケモンセンターに戻ろうと思うんだけど、いいかな」
「ええいいわよ。行きましょうか」
姉たちの考えが間違っていることを、この子も証明してくれている。勝利にむかって邁進する姿がポケモントレーナーの真の姿なのだ。
「うん? この石ってもしかして……」
レッドがきれいな鉱石を拾う。光が顔に反射して、あどけなさが残りながらもたくましさを備えつつある男子の瞳が洞窟に浮かび上がっていた。
(レッド、本当にいい子だな……。年下だけど結構……)
カスミが持つレッドへの感情がゆるやかに上がっていく。しかし、そんなところに空気を読まない闖入者。
「待て、そこの二人! 俺達はロケット団だ!」
「有り金とポケモン全部置いてってもらおうかあ!」
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