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元スレ一方通行「あれから一年か....」美琴「早いもんね....」
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■
「で、どういう事だ?」
「それはですね……むっ!このリンゴ中々やりますねと、ミサカは赤い果実を賞賛します」
「オマエ諦めろよ」
ハァ、と彼はため息を吐く。
その言動とため息をスルーし、ミサカ00001号は新しいリンゴへとナイフを向ける。ちなみに三個目。他のはギザキザした形の生ゴミになってしまっている。
あれから幾分か一方通行も落ち着き、冷静にベットの横の椅子に座ってリンゴ相手に悪戦苦闘している彼女を見る。
彼女は白い病院ならではの服を着ており、腕の見える部分は包帯だらけだった。恐らく、服の下も。
頭にはあの砕け散ったゴーグルと同じ型のがかけられている。
「あー……無駄な努力しながらでもいいから、さっさと状況説明しろ」
「無駄とは酷いですね……まずミサカが何故助かったというと」
コトン、と果物ナイフを台の上に置く。
リンゴはボロボロでグチャグチャになっていた。
「あれが麻酔弾だったからですよ、とミサカはあれ結構痛かったなーと思い出しつつ語ります」
「麻酔、弾、だとォ?」
「万が一にでも貴方(レベル5)を失いたく無かったのでしょう、とミサカは研究者達の意図を言います」
「……」
その言葉に納得する。
考えてみればわかることだった。
研究員達にとって一方通行は宝だ。この学園都市二百三十万人の中で唯一レベル6に到達出来る存在。
そんな彼をいくらツリーダイアグラムのお告げとはいえ殺そうとはしないだろう。
「……実験はどうなるンだ?」
「凍結されることになりました」
「……理由は?」
慌てず騒がず、一方通行は理由を尋ねる。
それにリンゴの汁に塗れた手を舐めながらミサカは答えた。
「芳川という研究員による交渉、それと上層部直々の凍結命令が出ましたので、とミサカはリンゴの甘酸っぱさを感じながら答えます」
「きたねェから止めろ」
一応言っておく。聞くとは思わないが。
(上層部直々に、ねェ。一体なに考えてやがンだ……)
一方通行は平静を装いつつ、思考をフル回転させる。
が、
(情報が足りなさすぎンな……クソ)
一体なにが目的なのか、サッパリ分からない。
もうすこし時間と情報が欲しい所だ。
「……私達、妹達は」
そんな沈黙の中、彼女はポツリと語り出す。
「いつか実験が再開された場合のため、調整が施されることになりました、とミサカは芳川という研究員から聞いたことを伝えます」
「……そうか。オマエらクローンだったしなァ」
「はい。……全国に、散らばることになる全ミサカを代表して貴方に言います」
そこで彼女は言葉を切り、
「ありがとうございました」
「……ハッ」
ぺこりと、一礼してくるミサカから彼は視線を外す。
それは俗に言う照れ隠しと呼ばれるものだった。
■
「ありがとう、ねェ」
「?どうかしたかい?」
「なンでもねェよ」
此方の体調を調べているカエル顔の医者に、彼はぶっきらぼうに返した。
あれから一時間立ち、ミサカも自分の部屋へと戻っていた。
(……ンなこと、言われる立場じゃねェンだけどな……)
結局の所、一方通行は悪人なのだ。
たとえ今この世界で一方通行の罪が無かったとしても、一方通行自身の記憶にはあるのだ。
そしてそれは現実にあったことであり、どう足掻いても消せないものだ。
「うん、問題無いね?多少能力を無理して使ったせいで頭がダルイかも知れないけど一時的なものだからね?」
「……」
無言を返事と受け取ったのか、聴診器を掛け直し医者は立ち上がる。
そして白いドアに手をかけて、
「あぁ、そうそう」
「……なンだよ?」
振り返って医者は言う。
「彼女のことなんだけどね?君の能力のお陰で大事に至らなかったのだから、誇りに思ってくれ」
「……」
まるで心の中を読まれたかのような医者の言動に、一方通行は息が詰まる。
その姿を見て医者はニコッと笑い、ドアを開けた。
「じゃ、くれぐれも無理はしないようにね?」
その言葉とともにドアはゆっくりとスライドして閉まった。
「……何もンだ?あのカエル顔は……」
只者では無い。
普通の人間が持たない何かを感じる。
もしかしたら裏ではそれなりに名が通っている医者なのかも知れない。ミサカの治療がこの病院で行われてるのもある。
「……ヨシカワに聞いてみるか」
あの女性研究員ならもっと詳しい話しを知っているだろうし、自分に教えてくれるだろう。
台の上にある黒い携帯電話をひっ掴み、パカッと開く。
着信 57件
メール 86件
「……」
一方通行は携帯をぱたっと閉じ、目を瞑る。
そして首を回してコキコキ鳴らした。どうやらかなりの時間、寝っぱなしだったようだ。
ちなみに今日の日付けは四月二十三日だ。さっき見た携帯のカレンダーが正しければ。
「……」
いい加減現実逃避するのアレなので、彼は嫌々ながらも携帯を開けた。
「……ナニコレ?」
大量の着信にメール。
しかもだ、
「なんで未登録のが一番多いンだよ……」
そう、着信とメールの実に約八割以上が一方通行の電話帳に登録されていない誰かからだった。
ちなみに一方通行が登録しているのは、
研究員A
研究員B
研究員C
ヨシカワ
三下(上条)
金髪(土御門)
青髪
以上。
「しかも全部同じ奴からだわァ……誰だマジでよォ……」
今までに無い人生初めての出来事に戸惑い、行動出来ない一方通行。なんか身震いがする。
そんな彼に追い打ちをかけるように、
ピピピッ!
その登録していない番号からの電話が来た。
「……」
取り合えずピッ、とボタンを押し、左耳に当てる。
そしてボソッと慎重に尋ねた。
「もしもしィ……?」
『アンタ何してたのよおおおおおおおおおおっ!!!』
ドォンッ!と爆音が響き、携帯のマイクがミシミシと悲鳴をあげる。
爆音が耳に直撃した一方通行は、
「がはっ……?」
余りの声の大きさに意識を吹き飛ばしかけていた。赤い眼の焦点が定まらなくなる。
だがギリギリの所で踏ん張り、意識を保っていた。
ピピピッ!
その登録していない番号からの電話が来た。
「……」
取り合えずピッ、とボタンを押し、左耳に当てる。
そしてボソッと慎重に尋ねた。
「もしもしィ……?」
『アンタ何してたのよおおおおおおおおおおっ!!!』
ドォンッ!と爆音が響き、携帯のマイクがミシミシと悲鳴をあげる。
爆音が耳に直撃した一方通行は、
「がはっ……?」
余りの声の大きさに意識を吹き飛ばしかけていた。赤い眼の焦点が定まらなくなる。
だがギリギリの所で踏ん張り、意識を保っていた。
『ちょっと!どうしたのよ!返事しなさい!』
「オマエぶちのめすぞ……そしてなンでオレの携帯の番号とアドレスを知っているのか、なるべく簡潔に答えやがれ」
頭に走る頭痛を堪えつつ、一方通行はキャンキャン喚く携帯に向かって言った。
ちなみに携帯は耳に当てず前に持って来ている。
『?あの上条ってのに教えて貰ったんだけど?』
「三下いつか殺す」
犯人が分かった一方通行はゴゴゴッ、と効果音が付きそうな怒りの炎を背中に浮かばせながら、そう呟いたそうな。
その頃、
「ぶるっ……な、なんだ今の殺気は……」
街中を歩いていた幻想殺しの少年は、突然体に走った悪寒に体を震わせていた。
『それって本当なの?』
「こンな事でウソ付く訳ねェだろォが」
一通りの状況を(入院した理由は適当に誤魔化した)説明し終わった一方通行は、携帯を耳に当て直していた。
それを聞いた美琴の声からは信じられないという気持ちが強く滲み出ている。
『だってアンタを入院させるだけの出来事がこの世にあるってのが信じられないもの』
「……はっ、オレも買われたもんだ」
『しょうが無いでしょ?アンタにはそれだけの力があるんだから』
美琴の言っていることは正しい。
彼は、それこそ世界を相手にしても生き残れるだけの力を持っているのだ。
そんな彼が入院するだけの出来事があるのが異常なのだ。
美琴の言葉に一方通行は、
「……女一人助けるのさえ、命懸けの悪党だがな」
そう、ポツリと呟いた。
『えっ?なんか言った?』
「なンでもねェよ……切るぞ」
『わー!待った待った!お見舞いに行くからなんか欲しいものある?』
いい加減会話するのが億劫になって来たので切ろうとしたのだが、質問されたため仕方無く答える。
「肉」
『分かった肉ねってなんじゃそりゃ!?肉って!?病人が肉って!?』
「サヨウナラー」
『ちょ、まっ』
ブツッ!と一方通行は思いっきりボタンを押して通話を切る。
そして素早く電源ボタンを長押し。携帯の電源を切った。
「はァ……全く、メンドクセェ」
そう言いながら彼は四角い窓から外を見る。
そこには雲一つ無い、真っさらな青空が広がっていた。
「……」
青空を見ながら、今更ながら幸福感が舞い降りて来た。
もしかしたら、人生で今一番幸せかも知れない。
何も失わず、得たものは、とてつも無く大きい。
「悪く、ねェかもな……チクショウ……」
彼は、人生で久しぶりに、自然な笑みを浮かべた。
「一方通行、か」
学園都市にいくつもある高層ビルのうちの一つ。
そこに“誰か”は立っていた。しかも淵に、後一歩踏み出せばはるか下にある地上にダイブしてしまいそうな場所に。
その“誰か”は持っていた携帯の画像を見る。
そこにはとある兵器倉庫が爆発するシーンが映っていた。
音声は無く、画像だけ。
爆発の中から出て来たのは、血塗れの少女を抱えた少年。
彼の背からは、黒い黒い、翼が生えていた。
それは翼と言うには余りに神々しすぎ、余りにも残虐さを感じさせていたが。
彼の手元にいる少女の体からは血は一滴たりとも垂れない。
恐らく、彼の能力なのだろう。
「幻想殺しの少年も、欠陥電気の少女達も中々いいが……」
パタン、と軽く携帯を閉じ、“誰か”は前を見る。
前にはある少年と、ある少女が見ている空と同じ空が広がっている。
「超電磁砲に、一方通行か……
……興味深い」
“誰か”は一歩を踏み出した。
足は空気以外何も無い空間を通過し、
フッ、とまるで何も無かったかのように消えた。
あたかも幽霊の如く。
“誰か”は人間では無い。
そしてその正体を知っている人間さえ、この世に居るのかどうか怪しい。
ただ、一つ。
その“誰か”はこの学園都市の一部の人間にこう呼ばれている。
『ドラゴン』と。
刻々と、彼と彼女に本来は無かった筈の危機が、迫っていた。
これで第一部、というか前編完!です。
後編は漫画版超電磁砲に沿った流れになりつつ、見事にブレイクします。
そして一時休止。いや、科学・電磁通行だけで、一時プロットを見直したり立てたりしつつ、他のネタ達を投下したりします。総合に落としたのとか。
なんなら次スレに行ってもOKと思ってたり。
では、次はオマケコーナーです!
一方「一方通行とォ」
美琴「超電磁砲の」
一方・美琴「「お便りコーナ~」」
ドンドンパフパフ(効果音)
一方「取り合えず最初に言わせろォ。これなンだ?」
美琴「この作品、登場人物に関する、あらゆることを尋ねてもらい、それに私達が答えるコーナーよ」
一方「……ラジオスレと盛大に被るなオイ」
美琴「まぁまぁ。早速作者の友人達から来てるし」
一方「マジか……えーと?『終わりなの?この物語ここで終わりなのかよぉぉぉぉおおっ!!?ブチ殺すぞ◯◯(作者の名前)!!』うるせェンですよォ。オレがオマエをブチ殺しましょうかァ?」
美琴「ちょ!読んだのアンタじゃん!?」
一方「分かってますゥ。まだ終わらねェよこの巫山戯た物語は。忌々しい事に、な」
美琴「私あんまり出てないしね!という訳で>>595さん、安心して下さい。そして>>596さん大正解です!」
一方「ンじゃ次ィ。『一方さん、かなり丸く無い?』丸い、ねェ。確かに色々あめェな。くそっ、ヨシカワの甘さでも移っちまったかァ?」
美琴「まぁ色々理由があるらしいわよ。罪の意識がどーのこーのとか」
一方「ラストォ。『まとめサイトを覗いたら、自分のssがまとめられててビックリしました。このスレのも纏められるのかなっと思うと、ワクワクで夜中々眠れません。どうしたらいいですか?』安心しろ作者。まとめられない可能性九十パーセント以上だから」
美琴「作者と断定!?そしてまとめられない発言!?」
一方「考えてもみろォ?このスレはもう一つの方と出鱈目にこンがらがってンだぞ?まとめるのも一苦労だ」
美琴「もしまとめてくれたら?」
一方「土下座して感謝しろ」
美琴「……作者にも容赦無いのね」
一方「たりめェだ」
美琴「こんな感じで読者さんの色んな疑問に答えてゆきます!」
一方「ただし、伏線だから答えられねェって場合もある。その場合は諦めろォ」
美琴「ここどう意味?とか、ここおかしく無い?とかドンドン言っちゃって下さい!」
一方「ちなみに質問送って来やがった奴は全員ビルからノーロープバンジーさせてやる」
美琴「なんで!?」
一方「だって答えるのメンドクセェし、質問来なきゃこのコーナーも無くなンだろ」
美琴「ダメだから!私の出番無くさないで!?」
一方「ちっ……仕方ねェ、頭コンクリに踏み付けるだけで勘弁してやンよ」
美琴「アンタがやったらその人死ぬから!?マジ目にやってよ!」
一方「ヘイヘイ……あー、メンドクセェ」
美琴「……え、えっと……さようなら~!」
おしまい
乙!面白かったよ。とりあえずミサカが助かって良かった
序盤からエイワス登場となると展開が読めないな
序盤からエイワス登場となると展開が読めないな
乙乙
聞きたいんだが美琴ってまだ実験の事知らないんだよな?
何でこんなにメールや電話してるんだ?
追いかけっこの延長戦みたいなものなのか?
聞きたいんだが美琴ってまだ実験の事知らないんだよな?
何でこんなにメールや電話してるんだ?
追いかけっこの延長戦みたいなものなのか?
このSSは一通がタイムスリップ?して美琴しゃんが絡まれてるところを助けて上条さんポジにはいったであってる?
>>622
細けえこたぁ(ry
細けえこたぁ(ry
えっ……?ちょっと待って皆。
もしかして、エイワス登場読まれてた……?
ちきしょおおおおおおおおおおっ!!裏の裏をかいたつもりだったのに!(垣根君と木原君)
悔しい!でも(ry
後、>>628 なんぞこれ?
>>622
再開したさいに、エピソード話をいくつか入れる予定で、その中で理由がでて来ます。
ヒントは、上条さんに合う筈だったのは六月だったということ。
四月始めには黒子にまだあってないこと。
ルームメイトが出ていったこと。
>>626
上条さんの記憶は二巻からです。
つまりインデックスのことに関して全く情報が無いため、上条さんの逆行はあんまり役に立ちません。
というより誰か上条さんのストーリー書いてくれないだろうか……
もう上条さん出ない予定だからなぁ……
そして、ちょっと思いついたお話、いきます。
・IF物です。前中後、エピローグで構成する予定です。
・キャラの性格が若干違うかも知れません。
・色々改変。自己解釈あるかも。
・時期は禁書目録三巻らへん。
・作者はホットケーキが大好きです。
では。
学園都市には『超能力者(レベル5)』と呼ばれる存在が居る。
能力者、異能の力を持ちし学園都市の学生達のトップに位置する者。
その力は軍にたった一人で挑める程の力だという。
詳細は様々。名前や顔まで知られている者もいれば、能力名すら知られてない者も居る。
学園都市の、最強の人間。
『超能力者(レベル5)』は、“六人”だけ、存在した。
これは、そんな怪物が住む学園都市の、一人の少年の物語。
変わってしまった、この物語の、一ページ。
『とあるifの電磁通行(エレキックロード)』
「アッチィ……クソがァ……」
八月十九日。
夏のクソ暑い太陽がジリジリと照らす中、一人の少年が黒い服を着て歩いていた。白い髪に赤い目、雪のような真っ白い肌で、道行く人の視線を少し集めて居る。
長袖長ズボンなため、少年が感じる暑さは尋常では無い。
能力を多少行使していても、白いその肌に暑さのせいによる汗が流れてゆく。
「チクショォォ……なンでコンビニの缶コーヒー売り切れてンだよ……買いだめとかした奴マジ死ね」
フラフラとその足取りは頼りない。
彼は元々コンビニで缶コーヒーを大量購入したら、サッサとクーラーがある己の部屋に帰るつもりだった。
だがお気に入りたるブラックコーヒーは売り切れ。仕方なく近くの自動販売機に向かっているのだが、このままでは辿り着くまでに彼の精神と肉体が持ちそうに無い。
「アー、クソ。こンな時のために能力があンだろォ……あのツインテジャッジメントが居なけりゃァ……」
ブツブツと愚痴を言いながら、彼は太陽の光を反射するアスファルトを踏みしめて歩く。
もう少しで目的地につく筈だ。
「『日常で能力を余り使わないでくださいまし!』じゃねェよ。死ぬわ。これ死ぬぞオレェ……」
そう言いつつも能力を使わないあたり、結構真面目なのだろう。
そして目的地たる公園へ。
だが、
「ちぇいさぁぁぁぁ!!」
ドゴォン!と轟音が公園内に響く。
その声の出所と、その誰かの目の前で揺れる赤い自動販売機を見て彼はため息を一つ。
「ハァッ……」
ため息はそれ程大きく無かったのだが、自動販売機の前に立っていた“彼女”に聞こえたらしい。
少女は制服のスカートを揺らしながら振り返り、呆れた表情をこれでもかと浮かべた彼を見て、
「一方通行?何やってんのアンタ?」
「それオマエが言っちまいますかァ?超電磁砲」
疑問の問いかけをして来た彼女に、彼は再度ため息を吐いた。
彼の名前は一方通行(アクセラレータ)。
レベル4の、学園都市に存在する能力者達の一人である。
「超能力者(レベル5)ともあろう者が窃盗ですかァ?」
「今更でしょ。あっ、言っとくけどアンタも共犯だから」
「オマエ、無理矢理押し付けたと思ったらそういうことかよ……」
一方通行は隣に座った少女に貰ったブラックコーヒーの缶を傾ける。
ちなみに彼が持つコーヒーと少女が持つサイダーは自動販売機を蹴り飛ばして手に入れた物である。
蹴り飛ばした犯人である彼女は、
「とーぜん。まっ、口止め料とブラックなんか要らないってこともあったけど。よくそんな苦いの飲めるわ」
「……ガキ」
「何か言った?」
「イエイエベツニナンデモアリマセン」
バチバチと前髪から電流が散って音を立てる。
それを横目に見つつ、一方通行はクズ箱に向かって缶を投げた。
彼女は御坂(みさか)美琴(みこと)。
学園都市に六人しか存在しないレベル5の一人、それも第二位である。
茶髪の髪と瞳を持つ彼女の能力は発電能力。十億ボルトもの電気を操る、名門常盤台の電撃姫だ。
通り名は『超電磁砲(レールガン)』。
そんな学園都市では超がつく有名人である彼女は、一方通行が投げた缶が見事にクズ箱に入ったのを見て対抗意識を燃やしたのか、缶を持ってクズ箱に狙いを定めている。
(……とてもじゃねェが、第二位には見えねェ……というよりそこら辺の女子中学生よりガキに見える……)
アイドルの素顔を知った一般人のようなことを一方通行が考えているうちに、彼女は空き缶を投げた。
投げられた空き缶は編み目のクズ箱に向かうが、
「あっ!」
カンッ、と淵に当たって回転し弾かれる。
弾かれた黄色の空き缶は空中を舞い、地面に落ちた。
「あーもう。悔しいなぁー……」
「能力使えばよかったンじゃねェのか?」
「だってアンタ能力使って無かったじゃない。学園都市のレベル5第二位ともあろう者が、レベル4に負ける訳にはいかないでしょ」
「ハイハイ、そォですかァ」
缶を拾いながらの美琴の台詞に、一方通行は心底呆れながら返す。
彼は彼女のそういう所にウンザリしていた。
別にプライドを持つのもいいし、意地になるのも構わない。
だがそれが自分に向けられるとなると話は別。正直言って勘弁して欲しい。
「オマエのそのバトル癖、どうにかなンねェの?」
「何よ、そのバトル癖って?」
と、こう言った風に自覚すら殆ど無いものだから彼としては呆れるしか無い。
(なァンで、オレァコイツと知り合っちまったンだろォなァ……)
二人の出会いは、六月ぐらいに遡る。
■
「あー、だりィ、眠ィ、きちィ……」
そんなダメ人間全開の台詞を吐きながら、一方通行は夜の街を歩いていた。
殆どの店のシャッターが閉まっており、外灯の明かりが道を照らす。
ブラブラと歩いて行く彼の右手には白いビニール袋。
その中にはコンビニで買い溜めたコーヒーの缶が大量に詰まっている。
「サッサと帰るに限ンなこりゃ……」
だが、そうはいかないのがこの世の中だった。
「オイオイ、ちょっと今取り込み中だから向こう行ってくれるかなぁ?」
「あン?」
目の前からの声に一方通行は立ち止まる。
下に下げていた目線を上げるとそこら辺に大量に居そうな不良の一人が、此方をニヤニヤした表情で見ていた。
「……」
立ち止まり、一方通行は辺りを見渡して状況を把握。
目の前の不良だけで無く、周りにも不良達は居た。
ただ、半分以上が誰かを囲んでいて一方通行の方を見てさえもいない。
「なぁ、わかるかなぁ?」
「……」
その誰かはシャッターを背に立っているようだ。
男達の隙間から見える制服の端から、恐らく常盤台中学の生徒だと分かる。
(お嬢様学校の生徒がどうしてンなとこに?)
「おい!てめぇ聞いてんのk「うるせェ」ゴガッ!?」
何か言っている奴が居たので、一方通行はコンビニの袋を振り抜く。
ベクトル操作によって金属バットのように真っ直ぐになった袋は不良の顔面に直撃。
中にあるコーヒー缶二十個分の威力を顔面に喰らった不良は、吹き飛んで汚いコンクリートの床に倒れこむ。
「なっ!?てめぇ何してやがる!」
「髪白に染めて不良気取りかぁ!?」
仲間が一発でノックダウンされたのに周りもさすがに気がつく。
誰かをーー恐らく女だろうーーを囲んでいた男達もジリジリと一方通行に迫って来る。
「ハァ……」
その光景に一方通行はため息をこれ見よがしに吐く。
チラッと絡まれていた誰かさんを見ると、茶色の髪と茶色の瞳を持つ少女が見えた。
「……メンドクセェ」
「なめやがって!」
「殺す!」
各々の武器を持って迫る不良達は知らなかった。
目の前の人物の桁違いの強さを。
先頭で拳を振りかぶった不良は顔面に蹴りを喰らい、悲鳴を上げる暇も無く吹き飛ぶ。
それによって後ろにいた不良二人も巻き込まれて宙を舞った。
「死ね!」
横合いからナイフを振るうが、一方通行はそれを頭を下げる事で軽々とかわし、地面を軽く踏む。
踏んだ瞬間地面に落ちていた小石が跳ね上がりナイフを振った男の鳩尾に直撃した。
「ぐえっ!?」
「いぎっ!?」
「ハッハァ!遅ェ、遅すぎンぜ三下、いや、四下どもがァ!」
テンション高く彼は叫び、不良達へと突っ込む。そして蹴り。
一方通行の回し蹴りに、不良が三人纏めて蹴り飛ばされた。
体重七十キロは確実にある男三人を一度に、だ。
ドゴォン!とシャッターに叩きつけ、足を下ろした一方通行は首をコキッと鳴らす。
「ば、化物……」
「に、逃げ……」
「あン?逃がすかよ!」
そんな異常な光景にようやく危機感を抱いたのか、残りの不良達は逃げ出そうとするが、一方通行が地面に足を叩きつけただけで終わった。
足から伝わる衝撃のベクトルが操作され、地面に落ちている小石に向けられる。
シュンッ!と飛んだ小石が空気を切り裂き、
「へぼっ!?」
「ギャッ!?」
「グヘッ!?」
不良達の急所に命中。
プロのボクサーにも匹敵する威力の小石を喰らった不良達は、ゆっくりと大地に崩れ去った。
死屍累々といった感じの状況。
そんな中で、
「ふァ~……」
一方通行はそれが、戦闘が何でも無い事のようにあくびを吐いた。
彼にとってはこんなのはケンカですら無い。ゲームでさえ無い。ただ道を歩くのと殆ど変わりないのだ。
「……ン?」
ふと、背伸びをした一方通行は誰かの視線を感じ、振り返る。
視線を放っていたのは先程の茶髪の少女。
警戒と興味とが入り混じった顔をしている。
そんな彼女に向かって、一方通行は一言。
「ガキはサッサと家帰って寝てろ」
ピシィ!
「ガキがこンな時間まで外にいンじゃねェよメンドクセェ……」
ビキッ!
「大方『私強いから大丈夫!』とか言うタイプだろ?全く、ガキがいきやがりやがって……」
ビキッ!ビキッ!
「お嬢様学校の子供(ガキ)はサッサと家に帰ってミルクでも飲ンで寝てろ。大事なことなので二回言いました、ってなァ」
ブチッ!!
更に追加しほうだい。そして言い終わってから、もう用は無いとばかりに一方通行は踵を返す。
彼の脳内からは既に不良達や少女のことは綺麗さっぱり消え去った。
現に地面に倒れて気絶している不良を踏み潰しながら歩いている。
だが、
「だ……」
バチバチと、何か後方から音がした。
一方通行はこの音を何回も聞いたことがある。
だから勢いよく振り返り、手を翳した。
「誰がガキだゴラァアアアアアアアアアッ!!」
でっかい叫び声とともに光が走った。
光の正体は雷の槍。
青色のそれは真っ直ぐに一方通行に迫り、
バチィ!と、翳した手に触れた瞬間周囲に拡散した。
「……んなっ!?」
「発電能力か。ハッ、威力も気絶するギリギリの威力だなァ」
ベクトル操作した際に脳に入った電気の情報から彼は判断する。
それを知らない少女は頭にハテナマークを浮かべるだけで無く、表情に浮かぶ警戒の色を強めた。
「へェ……」
その顔を見て一方通行はニヤリ、と笑う。
先程の情報から彼女は最低でもレベル3以上だというのは分かっている。そして現在の表情。
「タダのガキじゃねェ、か」
「ガキ言うな!」
「オレの勝手だ。第一オマエ名乗ってねェじゃねェか」
一方通行の呆れながらの言葉にうっ、と真っ赤になりながら詰まる少女。
普通なら少し罪悪感が湧く所であるが、いきなり攻撃して来た人間に罪悪感が湧く程一方通行はバカでは無い。
気まずさからか、美琴はゴホン、と咳払いし名乗る。
「……私は御坂美琴よ。アンタの名前は……ってまてやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「チッ」
またもや飛んで来た雷を夜空に向かって跳ね返し、一方通行は舌打ちする。
勝手に帰ろうとしたのだが失敗に終わってしまった。
こうゆうタイプは一度無視すると、後がしつこいと相場が決まっている。
「ハイハイ?なァンですかァガキ。オレは今から家帰って寝るっていう大事なことがあるンですがァ?」
「ガキガキうっさいのよ。後、名前呼びなさいよ」
「却下」
即答速攻大否定。
ピキッ!と美琴のこめかみが再度音を立てる。
「アンタ……私を誰だと思ってんの……?」
「ガキA」
ブチィ!
ぴくぴくと、唇を痙攣させながら美琴はスカートのポケットに右手を入れる。
「いいわよ……ガキガキ……良い加減、頭に来た……」
「帰っていいですかァ?というか帰るわ。メンドクセェ……」
そんな美琴の行動にも気をとめず、彼は足を帰路へと向ける、
が、
「あン?」
パリッと、自分の周囲に小さな電流が走ったため彼女を見る。
彼女は右手を一方通行に向かって翳しており、その右手から周囲に漏れる程の雷が集められている。
「オイオイ……」
その全開ですと言わんばかりの状況に一方通行は呆れた声を漏らした。
だがぶち切れた美琴には火に油をブチ込むようなもの。
「私を……学園都市の超能力者(レベル5)、第二位『超電磁砲(レールガン)の御坂美琴を……」
たっぷりと怒りが込められた声を美琴は絞り出し、右手の親指に力を込める。
右手に構えしは、銀色のコイン。
それが、
「舐めてんじゃ、ないわよ!!」
ドゴンッ!!!!!
轟音が響き、爆風が舞い上がった。
彼女の手から放たれたコインは音速の壁をやすやすと超え、光の柱となって一方通行に迫った。
その、視認も、反応も出来ない攻撃は彼の顔ギリギリを通過するかと思われたが、
ガクン!と効果音が付きそうな程上空へと曲がった。
「……えっ……?」
美琴はそれだけを言うのが精一杯だった。
自分の最強の攻撃。通り名にもなっているその攻撃は、いとも簡単に防がれた。
「ざァンねェンでしたァ。電気や電磁波やらのベクトルでどんな攻撃が何処に来るのか分かっていれば……オレに防げねェ訳がねェ」
目の前で、悪戯が成功した子供のように報告して来る彼に。
彼は右手を上げていた。
「あっ……」
ガクン、と足の力が抜け、彼女は膝をついた。
信じられなかった。
最強の第一位を除けば絶対たる強者の自信があった。
そしてそれに見合うだけの努力もしたつもりだった。
なのに、呆気なくそれは打ち砕かれた。
「腰が抜けた、ってかァ?ガキだなァやっぱ」
「あ、う……」
コツコツと、一歩づつ彼は近づいて来る。
逃げたい、そう彼女は思った。
だがガキという侮辱に言い返すことも、悲鳴を上げることも、足を動かし立ち上がることも出来ない。
白髪と赤い眼を朧げな外灯の光に照らされながら、彼は美琴に迫る。
その姿は、まるで死神。
絶対的な、強者。
そして彼は美琴の目の前で立ち止まり、彼女は恐怖の余りギュッと強く眼を閉じた。
(……あれ?)
が、何も来ない。
恐る恐る、彼女は眼を開けて行く。
その茶色の瞳に映ったのは白い白い誰かの手。
「早く掴め」
「あっ……」
掴めと言われたが何故か強引に掴まれ、引き上げられる。
かなり強く引っ張られた筈なのに全く辛くなく、美琴はまるで無重力を体感したような気分だった。
「じゃァな、超電磁砲」
一方通行は身を翻し、白いビニール袋を揺らしながら歩く。
一歩、二歩、三歩、四歩……
「まっ、待って!」
十歩程歩いた所で、彼は呼び止められた。
首だけを後ろに向け、先程まで恐怖一色だった筈の彼女の顔を見る。
美琴は手を胸の前でまるでシスターが神に祈るように組み、
「アンタの、名前は……?」
口から、疑問を紡ぎ出した。
そしてその疑問に、
「一方通行(アクセラレータ)」
短く、簡素に彼は答えた。
一方通行は視線を前に戻し、歩き出す。
その背中を、美琴は見つめていた。
ちなみに。
二人はこの三日後再開することになるのだが、まだ知るよしも無かった。
■
回想前のシーンに戻り、
「で?今日もまた電撃キャッチボールでもやンのか?だとしたら帰るぞオレァ」
木の影に位置するベンチにだらしなく足を開いて座りながら一方通行はそう言う。
こんなに暑い中、運動(戦闘)なんぞゴメンだった。
「んー、今日は気分乗らないから」
「……」
普段の一方通行だったら、あァそうかいの一言で済ませただろう。
しかし、ここ数日のことが無ければ、だ。
「……」
「……」
彼が返事を返さなかったせいか、美琴も言葉を発しない。
一方通行から見て、美琴はなんだかおかしかった。
いや、何年もの付き合いと言う訳ではないし、勘違いかも知れないが、
なんだか、心の底から笑ってない気がするのだ。
彼女の見せる感情全てがどこか前と比べて『ズレて』いる感じがする。
「……なァ、オマエさァ」
彼は尋ねる。
だが、
「……っ!?」
彼の口はそこで止まってしまった。
何故なら、彼女が、美琴が信じられない程悲しそうな顔で下を見ていたから。
一方通行が知る御坂美琴は、明るくて、皆の中心にいそうな人物で、ガキっぽくて、レベル5で。
こんな悲しそうな顔は、見たこと無かったし、感じたことも無かった。
「……あっ!?ご、ごめん!ぼーっとしちゃって。何か言った?」
そのセリフとともに何時もの顔に戻る。
何かを隠す少女に一方通行は、
「いや、なンでもねェよ」
そう、返した。
「一体……何隠してやがる?」
時間が立ち、夕暮れの世界になった頃。
街を歩きながら一方通行は首を捻っていた。
考えているのは勿論美琴の隠し事について。
「……やめだ」
ポツリと呟き、思考を止める。
いずれにせよ、隠すからには隠すだけの理由があるのだろう。
だとしたら彼に出来るのはただ待つことだけだ。
「まァ、アイツがオレに話すとは思わねェがな」
こんなことを考えるとは、やはりお人好しが移っていっているからだろう。
「ヤバイ!遅れっちまう!」
そう、スーパーのセールに遅れまいと前方から全力疾走しているツンツン髪の少年とかの。
「オイ、何無視してやがる」
「へぶっ!?」
無視して横をすり抜けようとした少年の襟首を掴み地面に引きずり倒す。
突然そんなことをされた彼は呼吸困難に陥りながら地面に叩きつけられた。
「上条(かみじょう)当麻(とうま)くゥン?オレを無視して行くたァ良い度胸だなァ」
「げほっ、げほっ……っ!?ええっと……」
が、学生服を着た彼、上条当麻は咳き込んだのを止めたかと思うと、
「あっ!俺特売があるんで!」
「あン?ちょ、オマ」
一方通行の制止を振り切り、彼は走った。
数少ない知り合いの不思議な態度に、一方通行は疑問を抱く。
「なンだったンだ三下の野郎……」
まぁいいかと、帰路に付き直し、
「……?」
ふと、何か景色の中に違和感を感じた。
僅かな違和感。
辺りをぐるりと見直す。
「……」
反対側の歩道、車道を挟んだその道を歩く人達の間から暗い路地裏への道が見える。
茶色の靴が、片方だけ入り口に落ちていた。
一方通行は確信する。
違和感の正体はこれだと。
彼は、反対側に渡るための横断歩道に向かって歩き始めた。
■
薄暗い、路地裏の道。
そこの入り口で一方通行は屈んでいた。
彼が見ているのは茶色の靴。学校指定にされていそうな皮のローファー。
何故か右だけ落ちていた。
「……」
一方通行は自分の精神状態に疑問を持つ。
ただの靴を見ているだけなのに、心臓の鼓動が収まらない。逆にドンドン早くなってゆく。
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