私的良スレ書庫
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元スレ白望 「二者択一……?」
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白望 「……」
辛い現実は忘れてしまえばいい。
確かに、その通りかもしれない。
塞 「それじゃあ、二本場いくよー」
思考が徐々に切り替わっていく。
ホテル火災、意識不明、生死の境……。
……みんなとの麻雀、会話、時間。
胡桃 「そろそろ塞を止めないと!」
白望 「コンビ打ちしよ……」
豊音 「トリオ打ちでもいいよー」
塞 「ちょっと、なんで私だけ!?」
トシ 「ふふ……」
エイスリン 「シロ、ガンバッテ!」
気づけば、私の視野は目の前の光景に限定されていた。
塞 「うー……ノーテン」
胡桃 「ノーテン!」
豊音 「ノーテンだよー」
白望 「……テンパイ」
東三局二本場は、私の一人聴牌で流れた。
オーラス突入。本場継続で、私に親番が回ってきた。
白望 (さて……)
両面待ちの聴牌がうかがえる、二向聴の好配牌だ。
これなら真っ直ぐ和了りを目指すことができる。
次巡、ドラの四萬を引き入れ一向聴。
さらに二巡後、五筒を引き聴牌。五筒と西のシャボ待ちだ。
白望 (聴牌……)
役無し聴牌。リーチをかければ、立直・ドラ2。
五筒も西もまだ一枚も切れていない。和了の目はある。
だが、立直をかければ豊音に追っかけられる危険性がある。
背向のトヨネ――。先制リーチ者から、ほぼ100%の確立で出和了する。
白望 (ここは、手変わりを待とう……)
まだ序盤だ。
豊音が聴牌していない可能性もあるが、場の支配に常識は通用しない。
ここは闇聴で和了れる手を作るべきだろう。
白望 (張った……)
次巡、六筒が入った。
周辺の牌は、二筒・三筒・四筒・五筒・五筒。
五筒との入れ替わりで、一筒・四筒・七筒の三面聴、平和がついて聴牌。
和了り牌は、まだ九枚も残っている。私は迷わず五筒を河に捨てた。
白望 「ツモ、2900オール」
聴牌から二巡後、四筒を引いた。
どうやら、今回は配牌、ツモの引き、流れが私に傾いたようだ。
豊音 「リーチかけずかー」
胡桃 「私の真似だ!」
塞 「豊音がいるからでしょ……」
塞が三五三〇〇点。豊音が一五五〇〇点。
胡桃が二一〇〇〇点。私が二八二〇〇点。
白望 (7100点差か……)
本場を差し引けば、五九〇〇点。
塞の背中をほぼ捉えたと言って良いだろう。
トシ 「引きが強いねぇ」
麻雀に「流れ」が存在するか、否か。不毛な議論だと私は思う。
「流れ」の存在を信じる人もいるだろう。一時の牌の偏りだと切り捨てる人もいるだろう。
ただ事実として、今回のように自然と上手くいってしまうことがあるのは確かだ。
白望 (楽しい……)
こうした時間を過ごしているだけで、自然と表情が緩む。
私は表情の変化に乏しい性質だ。
それでも、ここにいる彼女らは私の些細な変化を見逃さない。
胡桃 「シロが笑ってるー」
塞 「本当だ。やっぱり、こうやってみんなと打つのは楽しいよね」
豊音 「私もちょー楽しいよー」
穏かな心で過ごせる、大切な時間。
その大切な時間を、みんなで共有し続けることはとても魅力的だ。
白望 「エイスリン」
椅子の背もたれに体を預け反り返り、後ろにいる彼女に顔を向ける。
エイスリン 「?」
名前を呼ばれた彼女は、上下が反転した私の顔を不思議そうな表情で見つめている。
手招きをする。彼女が私の横に立つ、耳元に口を寄せる。心なしか、耳が赤く染まって見える。
白望 「みんなで、ずっとここに居てもいいかもね……」
返事を確認することなく、私は体勢を立て直して前へと向き直った。
心はとても穏かだった。暖かな何かで満たされていた。
胡桃 「なに、二人で内緒話?」
白望 「何でもない……」
豊音 「ちょー気になるんですけどー」
白望 「……塞の牌を覗いてきてってお願いした」
塞 「ちょっと!」
異質な空間は、暖かな笑いに包まれた。
今度は、私には「流れ」とやらは味方しなかったようだ。
理牌する直前まで、十三不塔ではないかと疑うほどの配牌の悪さ。
有効な牌はなかなか来ず、たまに幺九牌の周辺牌がお情けに来る程度。
白望 (まあ、そういう時もあるか……)
麻雀を長くやっていれば、必ずどうしようもなく悪い時がある。
塞 「とどめのリーチ!」
豊音 「追っかけるけどー」
早速、他家から連続で立直が入った。
塞も豊音の特質を理解している。
モノクルの汚れを拭いて、掛けなおすと豊音を見つめる。
どうやら、豊音の手を塞ぐ作戦のようだ。
白望 (参ったなあ……でも)
これからここで長い時を過ごすのだ。
今、このときの勝負に拘る必要は無い。
私は身体を少し右に避けて、後ろにいるエイスリンにボロボロの手牌を見えるようにする。
そして眉を少し寄せて、「参ったわ」という表情を作りながら後ろを振り返った。
白望 「……エイスリン?」
エイスリン 「シロ……」
彼女は、青い瞳を潤ませていた。
突然の出来事に、私は動揺する。
何故、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしているのか?
そして彼女は、一筋の涙を流しながら呟いた。
エイスリン 「ホントニ、ソレデイイノ……?」
白望 「え……?」
質問の意味をすぐには理解できなかった。
恐らく、私は怪訝な表情をしていたのだろう。
彼女は、続けて言った。
エイスリン 「ズット、ココニイル。シロ、コウカイシナイ?」
後悔?私が?
みんなとずっと、ここで過ごす。
素晴らしい時間……のはずだ。
トシ 「……シロ、手が止まってるよ」
熊倉先生に言われて、私は慌てて卓に向き直る。
これで、後ろにいるエイスリンの表情は見ることができない。
白望 「……」
二家立直の一発目だ、冒険はできない。
とりあえず、引いてきた三枚切れの北を捨てる。
河に視線を落とす。しかし、思考は対局から徐々に離れていく。
私は彼女の目を直視することを避けた。
卓に向き直ったのは、その真意を隠蔽することに都合が良かったからだろう。
胡桃 「……」
塞 「……」
豊音 「……」
胡桃、豊音、塞が引いた牌をそのまま捨てる。
立直をかけた二人は声を発さない。どうやら、和了りではないらしい。
一転して、場は静まり返った。
沈黙が私に言う。逃げるな、答えを出せ、と。
胡桃 「シロ、なにを迷ってるの?」
塞 「ここで、ずっと過ごせばいいじゃん」
豊音 「私たちもずっと一緒だよー」
トシ 「今までと変わらない、誰も傷つくことが無い世界でいいじゃないか」
私を引きとめようとする言葉。
甘美な誘惑だ。私だって、それで良いんじゃないかと思っている。
……本当にそれでいいのか?
白望 (私は……)
後ろを振り返る。
エイスリンの言葉を聞きたかった。
何故なら――
さっきの涙は、きっと私のために流してくれたものだと思ったから。
白望 「……エイスリン」
私は彼女の瞳をまっすぐに捉える。
白望 「エイスリンの気持ち、教えて」
エイスリン 「ワタシハ……」
エイスリン 「シロ、シンデホシクナイ」
それだけ言うと、エイスリンは俯いて黙ってしまった。
両手で持ったホワイトボードは、微かに震えている。
白望 「……ちょい、タンマ」
これはきっと、最後の逡巡だ。
二者択一。
辛い現実を受け入れて、なおそれでも生き続けるか。
辛い現実から目を背けて、誰も傷つくことのない安穏の世界を選ぶか。
前者の選択は……怖い。
私が現実で目を覚ましたとき、もしみんなが死んでいたら。
あるいは、心に、身体に、大きな傷を負っていて、生きていくのも辛い状況だとしたら。
恐怖が増大すればするほど、後者を選択したくなる気持ちが強くなる。
――辛い現実を選ばないことは、逃げることじゃない。
――誰もがそんなに強い人間じゃないのよ。
熊倉先生はそう言った。
後者の選択への後ろ盾とするわけではないが、
私はその言葉が間違っているとは思わない。
ただ、それが「自分」だけの問題ならば。
私は、エイスリンの一言で大切なことに気づいた。
宮守女子麻雀部の仲間。
きっと、私たちはお互いのことを大切な存在として認識しているだろう。
だからこそ、想いは共通しているはずだ。
私はみんなに対して、みんなは私に対して――
生きていてほしい、と。
もし私が今、現実で目を覚ましたら、みんなの無事を祈る。
例え、みんなが目を覚ましてから、辛い現実が待っていようと。
断言する。
ただただ、願うはずだ。
どうか、死なないで。
それはきっと、逆の立場でも同じ風に考えてくれるのではないか。
みんなが目を覚まして、私が死の淵をさ迷っているとき。
塞。
豊音。
胡桃。
エイスリン。
熊倉先生。
みんなは、私に生きていてほしい、そう願ってくれるはずだ。
……なんて、驕りかもしれないけど。
白望 (ならば……)
私がもし、この空間で悠久の時を過ごすことを選ぶ。
イメージの中で、みんなと麻雀を打ち続ける。
いつまでも、いつまでも、いつまでも、変わることの無い世界で。
そのとき、現実の私は死ぬだろう。
その選択は、私の生を望んでいるみんなに対する、裏切りだ。
さきほどの考えを、頭の中で訂正する。
誰も傷つくことのない安穏の世界――それは違う。
みんなのためじゃない。自分が傷つくことを恐れているだけの、逃げの選択なのだ。
人生はいつも上手くいくことばかりではない。
時に理不尽な不幸が降りかかることもあれば、
どうしても乗り越えなければいけない、大きな壁が立ちふさがることもある。
上手く事が運ぶときは、力を入れずとも、自然に前に進むことができる。
障害を乗り越えなければいけないときは、流れに抗いながら、全身全霊の力を込めて、前を目指さなければならない。
白い空間で目を覚ましてから、ここでみんなと麻雀を打つまで。
私はいくつかの二者択一に迫られてきた。
突如現れた、森。
はじまりの選択は、その先に進むか、否か。
水を求めてさ迷った。人との関わりを渇望した。
友人の死を拒絶した。現実に目を向けることを決めた。
そう。私は常に、選び続けてきたじゃないか。
前へ進む、その選択を。
白望 「……お待たせ」
みんなに一礼し、河と手牌に視線を送る。
まずは、この一局を闘いぬかなければならない。
これはお遊びではない。
私が前に進むための、通過儀礼なのだ。
状況を整理する。
対面でラスの豊音、上家でトップの塞から立直がかかっている。
下家の胡桃も、両者の立直一発目に危険牌をツモ切りしてきた。
胡桃のツモ切りは三巡前から続いている。張っていると考えて良いだろう。
手がまったく伸びず、親被りの危険性もある。辛い状況だ。
続いて、点棒状況の確認だ。
塞が三四三〇〇点。豊音が一四五〇〇点。
胡桃が二一〇〇〇点。私が二八二〇〇点。
四本場、リーチ棒が二本。
和了には三二〇〇点がついてくる。
誰かが和了れば、順位の変動は自然についてくるだろう。
そして、私の手は……。
二索・三索・五萬・七萬・八萬・八萬・九萬・一筒・三筒・五筒・八筒・九筒・西
三向聴のクズ手で、攻めるにはあまりに不格好な形だ。
八萬は、塞が今ツモ切りした。完全に安牌だ。
また、八萬は私から四枚見えている。九萬は場に出ていないが、一応壁の向こう側だ。
九筒は胡桃と豊音の現物で、塞の捨て牌には六筒がある。ドラだが、比較的通りやすい牌だろう。
西は胡桃が二枚切っている。三元牌の白が四枚切れ。西は、地獄単騎以外は有り得ない。
落としていくならば、八萬・西・九筒・九萬の順だろう。
残りのツモが八回。オリきることは恐らく可能だ。
他家同士で叩きあいもあるが、お互いにアタリ牌を手に抱えている可能性もある。
もし流局になれば、私の一人ノーテンでも二位は確保できる算段だ。
一ゲームの結果としては、悪くない。
山から牌をツモる――九萬。
向聴数は変わらない。捨てやすい牌が増えたというところか。
白望 (いつも上手くいくことばかりではない、か)
こんなところで、ふと人生と共通したものを感じる。
いや、人生と麻雀を同列に語るなんて、あまりに馬鹿馬鹿しいか。
私はツモった九萬を手牌に引き入れると、五萬を河に捨てた。
そこからも、私は危険牌を切り続けた。
手牌から、まず五筒、続いて三筒。
さらに山から引いてきた、六萬、七索。
胡桃 「……むむ」
塞 「突っ張るね……」
豊音 「ちょっと怖いよー……」
振り込むこと、他家が和了ることなど考慮せずに。
ただ、真っ直ぐに前を進み続けた。
そして、五萬を捨ててから五順後、私は手牌から西を切り出した。
白望 (やっとかぁ……)
二索・三索・七萬・七萬・八萬・八萬・九萬・九萬・一筒・一筒・七筒・八筒・九筒
平和・一盃口・ドラ1、高めで純チャン。
安めでも塞を捲くることができるが、そんなものは関係無い。
二巡後、三人が引いてきた牌を河に捨てる。
私はそれを確認すると、残り少ない山へと手を伸ばす。
そして掴んだ牌の下側を、親指でなぞる。
白望 (深いところにいたなぁ……)
確認。そして、確信する。
白望 「みんな……」
深く、深く、深く、息を吸い込むと、一人ずつに顔をしっかりと向けた。
何故かカップラーメンを啜る、熊倉先生。
ホワイトボードにペンを走らせる、エイスリン。
背筋をピンと伸ばして椅子に座る、胡桃。
目深に被った黒い帽子を少し上にずらす、豊音。
モノクルを外して布で磨いてる、塞。
瞼を閉じる。
吸い込んだ空気を、ゆっくりと時間をかけて吐き出していく。
全て吐ききると、私は前を向いた。
対面に座る豊音の向こう側には、新しい扉がぼんやりと現れていた。
金色の光が輝いている。まるで豊音に後光が射しているかのようだ。
白望 「……私は、前へ進む」
白望 「辛い現実を、生きていく」
白望 「それが……私の選択だから」
一索を卓に置く。
そして、ゆっくりと手牌を倒す。
白望 「……ツモ。6400オール」
勝負が、決した。
トシ 「これで、終わりだね」
熊倉先生がパンと手を叩く。
……とても暖かな笑みを浮かべている。
胡桃 「あーあ、負けちゃったかー」
豊音 「最後の和了りは、全く迷いが無かったねー」
塞 「やっぱり、シロはそっちを選んだかー」
三人も私に笑顔を向けている。
優しさに溢れた微笑みだ。
そして……。
白望 「エイスリン」
エイスリン 「シロ……ヨカッタ」
涙で顔を濡らしたエイスリン。
それでも、やっぱり彼女もまた笑顔だった。
白望 「それじゃあ、私はそろそろ行くから」
別れに時間はいらない。
私は席を立つと、豊音の背後にある扉の前へと進んだ。
『げんじつのせかいをいきる』
金色に輝く文字。
もう一つの選択肢は……いや、確認する必要も無いか。
トシ 「シロ、これからきっと辛いことがたくさんあると思う」
塞 「でも……私達も力になるから」
胡桃 「そうそう、現実の私たちが助けるよ」
エイスリン 「シロ、……ガンバッテ」
豊音 「ちょー力を合わせていこう!」
餞の言葉は、前に進む足を重くする。
固めたはずの決心を鈍くさせた。
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