私的良スレ書庫
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元スレ白望 「二者択一……?」
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だが、シロはそれらを振り切った。
甘い誘惑を断ち切って――私のほうを振り返った。
白望 「……エイスリン」
彼女は私の瞳をまっすぐに捉える。
白望 「エイスリンの気持ち、教えて」
彼女の瞳からは強い意志を感じる。
それでいて……とても、優しい。
そこにいるのは、私の知っている、いつものシロだった。
だから、私は正直な気持ちを吐露した。
エイスリン 「ワタシハ……」
エイスリン 「シロ、シンデホシクナイ」
目尻に涙が溜まっていった。
白望 「……ちょい、タンマ」
長い、沈黙。
白望 「……お待たせ」
そこからの、シロは凄かった。
塞と豊音の立直、胡桃の闇聴に臆することなく牌を切っていく。
まるで、その先が見えているかのように。
序盤に見せた、守りを重視した麻雀はもうそこには無い。
「ちょい、タンマ」
この口癖は、彼女が逡巡に陥る合図だ。
そして、今迷うことなく手を進めていく彼女を見ればわかる。
シロは「迷い」、そして「答え」を出したのだ。
やがて、シロが聴牌する。
平和・一盃口・ドラ1、高めで純チャン。
そして二巡後、彼女は引いてきた牌をなぞると呟いた。
白望 「みんな……」
この瞬間、私は彼女の意志を完全に理解した。
ならば、私には急いで用意しなければならないものがある。
彼女が前に進むための、二者択一を。
ホワイトボードに金色のペンで文字を書く。
……できた。
『げんじつのせかいをいきる』
続いて、ボードを裏返して銀色のペンを握る。
が、手が止まる。
選択は決まっているのだ。書く必要があるのだろうか。
エイスリン 「……」
最後のわがままだった。
シロはきっと選ばないだろう。
いや、この選択肢を見ることすら、ないかもしれない。
エイスリン (シロ……ゴメンナサイデシタッ……)
それでも、書かずにはいられなかった。
『りそうのせかいをいきる』
――理想の世界。
それは私にとっての、理想が描かれた場所。
シロと一緒に。ずっと一緒に。
絵を描いたり、お話をしたり、手を繋いだり。
それだけでいい。二人で仲良く、ただただゆっくりと……。
エイスリン 「ウッ……ウッ……」
涙が止まらなかった。
私の恋が、人生が終わろうとしていた。
白望 「……私は、前へ進む」
白望 「辛い現実を、生きていく」
白望 「それが……私の選択だから」
白望 「……ツモ。6400オール」
その時が、きた。
トシ 「これで、終わりだね」
センセイがパンと手を叩く。
……とても暖かな笑みを浮かべている。
胡桃 「あーあ、負けちゃったかー」
豊音 「最後の和了りは、全く迷いが無かったねー」
塞 「やっぱり、シロはそっちを選んだかー」
三人もシロに笑顔を向けている。
優しさに溢れた微笑みだ。
どうやら弱い私は、最後の最後に折れてくれたようだ。
白望 「エイスリン」
エイスリン 「シロ……ヨカッタ」
言葉は本心だった。ただ、涙が止まることは無かった。
だけど、シロのために、強い私でいたい。
だから私も、精一杯の笑顔をシロに向けた。
白望 「それじゃあ、私はそろそろ行くから」
シロが席を立つ。前だけを向いて進んでいく。
決して後ろを振り返ることなく、トヨネの背後にある扉の前へと進んだ。
『げんじつのせかいをいきる』
その瞬間、私は幸福に包まれていた。
不思議な能力も、道具もいらない。
私の言葉で、シロを間接的に彼女を導くことができた。
私の気持ちで、シロを助けることができたのだ。
トシ 「シロ、これからきっと辛いことがたくさんあると思う」
塞 「でも……私達も力になるから」
胡桃 「そうそう、現実の私たちが助けるよ」
シロを送り出す言葉。
「力になる」、「助ける」
現実の彼女達に、これからがあるからこその言葉。
でも、私にはこれからが無い。
シロと、クルミと、サエと、トヨネと、センセイと生きるこれからが無い。
だから、私はこう言うしかなかった。
エイスリン 「シロ、……ガンバッテ」
視界が霞む。意識が薄れていく。
エイスリン (ミンナ、バイバイ……)
必ず、みんなで現実を一緒に生きぬいてください。
どうか……シロを支えてあげてください。
白望 「みんな……ありがとう」
薄れゆく意識の中。
最後に私が聞いたのは、大切な人の感謝の言葉だった。
見知らぬ、白い天井。
焦点は定まらず、頭はぼんやりとしている。
エイスリン (……テンゴク、カナ)
死の実感が無い。
意識が朦朧としていると、空間もあやふやだ。
本当に、私は死んでしまったのだろうか。
手を動かしてみる。問題なし。
膝を曲げてみる。こちらも問題なし。
首を傾けてみる。
左。何やらよくわからない機器だらけだ。
右。ミギ……。
胡桃 「エイちゃん……」
大泣きしたクルミが抱きついてきたのは、その直後だった。
胡桃 「良かった……。良かったっ……!」
ボロボロと涙を流しながら、抱きしめる力は徐々に強くなる。
その圧力が、暖かさが、私に生きていることを実感させる。
エイスリン (ワタシハ、イキテル……?)
ズキン。
激しい頭痛が私を襲う。
それと同時に、胸が痛む。呼吸が荒くなる。目が霞む。
エイスリン 「ウッ……ウゥ……」
胡桃 「エイちゃん、どうしたの!?」
あまりの痛みに呻く。体が捩れる。
細めた視界の隙間から、泣き叫ぶクルミが見える。
どうやら、これは神様が……。
いや、“the god of death”が与えてくれた、僅かな時間のようだ。
ならば、この残された時間をどう使うか。
エイスリン 「ク、ルミ……。シ、ロ…… シロハ……」
胡桃 「エイちゃん……シロは、まだ意識を取り戻してないの」
エイスリン 「ソ……ナン……ダ……」
胡桃 「エイちゃん! 大丈夫!? 苦しいの!?」
エイスリン 「キイテ、クルミ……」
私は力を振り絞って、クルミの目元に手を添える。
そして震える人差し指で、そっと涙を拭った。
胡桃 「エイちゃん……」
エイスリン 「ホワイト……ボード……ペ、ン」
胡桃 「ホワイトボードとペンだね!?」
クルミが慌てて、辺りを見回す。すぐに見つかったようだ。
手渡された愛用のボードは、少し黒く焦げていた。
死神が私に時間を与えてくれたというのなら、
私はここに記そう。シロへのメッセージを。
全身全霊の力を込めて、私は右腕を動かしていく。
一字、一字、ゆっくりと。震える右手で。だが、なかなかうまく書けない。
胡桃 「エイちゃん、頑張って」
クルミが目を瞑ったまま、手を添えてくれる。
震えが止まる。……いつも、クルミには助けられる。
たった十一文字が、とても遠かった。
やっとの思いで完成させたそれを、クルミに渡す。
エイスリン 「クルミ……コレヲ、シロニ……」
クルミが頷きながら、ボードに視線を落とす。
すると、クルミは私をキッと見据えてこう言った。
胡桃 「エイちゃん、一番伝えたい気持ちを書かなきゃだめだよ」
強気な瞳は、濡れていた。
エイスリン (……フフッ)
やはり、クルミには敵わない。
必死に書いたにも関わらず、あっさりと本心を見抜かれた。
『しろ だいすき』
本当はこの六文字が書きたかった。
だが、私はそれを書かなかった。いや、書けなかったのだ。
これから死んでいく私の気持ちを押し付けたら、シロを困らせてしまうことになる。
エイスリン 「マエニ、イッタヨネ……」
胡桃 「……エイちゃん?」
エイスリン 「クル……ミナ……ラ、シ……ロ、アゲル、ッテ……」
胡桃 「嫌だ。嫌だよ、エイちゃん、約束したじゃない……」
ああ、どうやら、クルミとの約束は破棄したほうが良さそうだ。
告白するときは、二人一緒に……。でも、もう私には時間が無い。
大丈夫、クルミ。
私のことは気にしないで、シロに気持ちを伝えて。
エイスリン 「ク、ルミ………シ……ロ…ヨ……シ……ク…」
胡桃 「エイちゃん! エイちゃん!!」
シロ。
散々迷わせて、ごめんなさい。
そして。
前に進んでくれて、ありがとう。
私は一人、病室のベッドでホワイトボードを抱えて震えていた。
さんざん泣き腫らした顔は、きっとひどいことになっているだろう。
胡桃 (エイちゃんを助けられなかった……)
後悔の波が押し寄せる。自責の念に苛まれる。
シロと、エイちゃん。
二人が一緒になれるように、色々と画策をしてきた。
だが、それも全て泡に帰した。
やはり、あのときに選ばれるべきだった。
悔やんでも仕方が無い。だが、それでも……。
胡桃 (あのとき、私が死ぬべきだったんだ)
三日の意識不明の間、私は不思議な体験をしていた。
まるで幽霊のように、現実と、暗い世界をいったりきたり。
ベッドで機器に繋がれている自分の姿も見た。
お医者さんと、熊倉先生が話している声も聞いた。
お医者さんは言っていた。
エイちゃんは、助かる可能性がほぼない、と。
それを聞き、私は絶望した。
助けることはできないのだろうか。
その直後、エイちゃんの世界が出来上がった。
何故か私もそこにいた。
そして、私はエイちゃんに近づいた。
芽生えた能力、「自分を隠す力」を利用して。
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