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元スレ麦野「・・・浜面が入院?」
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第七学区のとあるファミレスに、四人の少女が入り浸っていた。
平日の午前というだけあって、店内にそれほど客は見当たらず、
年齢がバラバラのその少女たちは、見た目的にもかなり目立つ集団であった。
大方、食事を終えているにも関わらず、彼女たちはダラダラと居座っている。
「・・・浜面が入院?」
明るい茶に染めたロングヘアを持ち、見た目はモデルのような少女、麦野沈利は、飲み物をストローでかき回しながら、
斜め向かいに座っている、同じく茶髪でショートヘアの少女、絹旗最愛に視線を向けた。
外見年齢十二歳程度にしか見えない絹旗は、テーブルに広げた映画のパンフレットと思しき冊子に目を向けたまま、口を開く。
「ええ、昨日の夜、何やら一悶着あったそうですよ。
詳しくは聞いてないんですけど、スキルアウトの元同僚と喧嘩したらしいです。」
「ふぅーん・・。アイツ、スキルアウト解体前は、一応、リーダー格じゃなかったっけ?」
麦野はグラスからストローを取り出すと、空でクルクルと回しながら、呟いた。
彼女の手元には、デザートとして食べたと思われるパフェ(の容器)と、
自分で持ち込んだであろうコンビニのシャケ弁当が置かれている。
絹旗の手元にも、麦野のものと比べると一回り小さいが、デザートのバニラアイスのカップがあった。
パンフレットに目を留めたまま、手探りでアイスにスプーンを差し込み、口に運ぶ。
「まぁ、浜面は前のリーダーが死んだ煽りを受けての超急造のリーダーでしたし、何とも・・。
前のリーダーが死ぬ前でさえ、そんなに権力があったかは定かではありませんが。」
「結局さ、絶対的な指導者が居なくなると、脆いものなんだよ、そういう集まりって。」
この金髪碧眼の少女が言うとおり、どんな組織にも、それが集団である以上、優秀な中心人物は不可欠である。
この「アイテム」も、学園都市の暗部組織として暗躍しているのも、リーダーである超能力者(レベル5)、
麦野が君臨しているからこそであり、それでこそ、学園都市の裏に大きな影響力を及ぼすことができている。
ちなみに、口を挟んだのは、麦野の横に座っている、どう見ても日本人には見えない少女、フレンダ。
見た目の年齢は、麦野以下絹旗以上といったところの、華の女子高生。
麦野と絹旗の話を聞いてはいたが、手元のサバ缶にフォークをガシガシと突っ込みながら、興味なさげの様子である。
テーブルの上には空の缶詰がいくつも転がっているが、どう見てもファミレスで注文した物とは思えない。
恐らく、麦野の弁当と同様に、彼女が勝手に持ち込んだものだろう。
カレーだのシチューだの、缶詰には不相応な言葉が表記されている。
「元々、スキルアウト内で浜面のことをよく思ってなかった人たちが居たらしいんですよ。
その上、浜面がスキルアウトの忌み嫌う超能力者たちの超雑用をやっていることが、
最近になって、そいつらにバレたらしくて、それで襲われたらしいですね。
お前にはプライドってモンがねぇのか、みたいに言われたらしいですよ。」
話しながら、がぁぁーッ、と両手を上げて暴漢のような(?)アクションをする絹旗。
何よそれ、ライオン? と麦野は心の中で思ったが、話が進まないので言うのを止めた。
その上、浜面がスキルアウトの忌み嫌う超能力者たちの超雑用をやっていることが、
最近になって、そいつらにバレたらしくて、それで襲われたらしいですね。
お前にはプライドってモンがねぇのか、みたいに言われたらしいですよ。」
話しながら、がぁぁーッ、と両手を上げて暴漢のような(?)アクションをする絹旗。
何よそれ、ライオン? と麦野は心の中で思ったが、話が進まないので言うのを止めた。
「へぇ・・、それでボコボコにされたわけ?」
「ボコボコというか、逆に返り討ちにしたらしいですよ。ただ、足を痛めて超入院だそうです。」
「ふぅーん。」
ちゅー、とアイスコーヒーを飲み終えた麦野は、小さく溜め息をつくと、フレンダに空になったグラスを向けた。
同じやつ。と目も向けずに麦野が言うと、ハイハイ。とサバ缶との戦闘を一時中断したフレンダは、グラスを受け取り、そそくさと席を立つ。
「まったく、せっかく良いパシリができたと思ったのになー。」
麦野が呆れたような表情で言葉を吐く。
彼女が言うパシリとは、フレンダのことではなく、もちろん、浜面のことである。
一方の絹旗は再びパンフレットに目を落としていた。
目を惹くB級映画があったのか、噛み付くようにパンフレットを見続けながらも、話を続ける。
「とりあえず、入院費用は『上』に超無理言って出してもらいました。
浜面は、第七学区の一般の病院に入院していますよ。」
「一般の病院? 大丈夫なの、それ? 一応、浜面も“こっち側”の人間なのにさ。」
「まぁ、大丈夫でしょう。ただの喧嘩による負傷なんですから。能力者と戦ったわけじゃありませんし。
それに、浜面ぐらいのレベルなら、一人で居ても、他の組織に始末されるほどの価値は超ありません。」
それもそうねー。と麦野が視線を宙に移すと、目の前にヒュッと、グラスが差し出された。
フレンダが注いできたアイスコーヒーだ。
パシリに使われたお返しなのか、アイスコーヒーがグラス一杯に満たされており、
今にもこぼれそうな状態にあった。氷も必要以上に入れられているのが分かった。
「んー、ありがと。」
「・・・。」
麦野は、そんなフレンダの小さすぎる反抗を気にも留めず、ずっと手に持っていたストローを突っ込み、吸い付いた。
フレンダの口から、キーッ、と悔しそうな歯軋りが聞こえてきたが、どうでも良いので無視する。
ちなみに、フレンダの抵抗に対して、何とか平静を装おうとしたため、
いつも入れるミルクを入れ忘れて、ちょっぴり苦い思いをしたのは、本人だけの秘密である。
そのとき、今まで一言も喋っていなかった少女が口を開いた。
「・・・お見舞い。」
ボーダーブレイクやってたらアバター名むぎのんで
キャラパーツもそれっぽいのそろえてる奴にHSサワード喰らって即死したでござる
キャラパーツもそれっぽいのそろえてる奴にHSサワード喰らって即死したでござる
その少女は肩にかかるくらいの黒髪で、同い年くらいである、可愛らしい制服に身を包んだフレンダとは逆に、
桃色の、部屋着のような、なんともみすぼらしいジャージを着用している。
とても、今時の少女のファッションには見えなかった(色は派手だが)。
彼女の名前は滝壺理后。これでも、能力の重要性から「アイテム」の中核を担っている少女だ。
そんな滝壺が机に身体を突っ伏したまま、横に居る絹旗に顔だけを向ける。
「ねぇ、はまづらのお見舞いに行こう。」
「・・・な、何を言い出すんですか、滝壺さん!」
黙々と映画雑誌に目を通していた絹旗は、思わず、発言者である滝壺に言い放った。
向かいに座る麦野とフレンダも、絹旗と同じように目を丸くしている。
「だって、可哀想だよ、はまづら。」
「いや、あんな超典型的な野生人男のところに、滝壺さんがわざわざ足を運ぶ必要なんてないです!」
「でも、入院生活って退屈だろうし・・、何より一人じゃ寂しいと思う。」
いや、でも、と絹旗は説得するが、それを意に介さず、滝壺は続ける。
「絹旗、はまづらのこと嫌い?」
「あ!? え、いや。別に嫌いではないですけど・・、そういう問題じゃなくってですね?」
「そう、なら良かった。一緒に行こう、絹旗。」
絹旗は、無表情にも関わらず、どことなく熱を帯びた視線を向ける滝壺に戸惑いを見せていた。
向かいの麦野は、その手があったか・・。と口元に手を当て、小さく呟き、
フレンダはフレンダで、結局、滝壺さんは優しいよねー。と老婆のように目を細めている。
「お花、買っていこう。何も持っていかないんじゃ、お見舞いって感じじゃないよね。」
「え・・、あの、もうお見舞いに行くのは超確定事項なんですか?」
「・・・麦野とフレンダはどうするの? みんなでお見舞いに行けば、はまづら喜ぶかも。」
あの、聞いてますか? という絹旗の言葉が耳に入っていないのか、それを無視したまま、滝壺は向かいに座る二人に問う。
麦野は、空のシャケ弁当をぼんやり見つめたまま、まだ何やら考え込んでいたが、やがて、口を開いた。
「・・はッ、入院なんてアイツの自業自得でしょ。私は行かないわよ、そんな暇じゃないし。」
「結局、私も麦野と同意見。それに、あんまし大人数で行っても病院に迷惑だろうしね。」
そう、と少し残念そうな表情を浮かべた滝壺は、最後の希望である絹旗に目を向けた。
その視線に気づいた絹旗は、目をパチパチとさせている。
「絹旗・・。」
滝壺は、基本的に無表情なのだが、このときばかりは、絹旗の目には、今にも泣きそうなウサギのように、滝壺が映ってしまった。
うぅッ、と呻いた絹旗は、ギブアップ。という風に両手を小さくあげた。
「・・分かりました、詳しい事情を聞くついでに、私も行きましょう。
浜面が滝壺さんに変なちょっかいを出さないように見張る超監視役、ということで。」
とうとう折れた絹旗。普段は小生意気な彼女も、超がつくほどの天然な滝壺には敵わなかった。
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滝壺は、よそよそと絹旗に身を寄せると、彼女の左手を両手でそれはもう優しく包んだ。
「ありがとう、絹旗。浜面も喜ぶと思う。」
絹旗は、え、えぇ。と小さく頷くと、滝壺は、春のタンポポのような笑顔を見せる。
こういう超純粋で超天然な女の子に、男は撃墜されるんでしょうね、と絹旗は心の中で呟く。
「・・そうですね、せっかくですから、超工夫したお見舞いを超展開しましょう。」
「工夫?」
「はい。この間、超偶然に知ったことなんですけど・・。」
絹旗は、ちょっと耳を貸してください、と言うと、滝壺の耳もとでゴニョゴニョと囁いた。
絹旗の顔は心なしかニヤニヤしており、滝壺はふむふむ、と何やら興味ありげに聞いている。
「嫌々言ってたわりに、一瞬でノリノリになったわね、絹旗。」
「結局さ、絹旗も浜面のこと嫌いじゃないんだよね。
浜面のことになると、子供みたいに無条件に反抗してるだけだし。」
「実際、子供だけどねー。」
麦野とフレンダも、向かいの二人に聞こえない程度の声量で話していた。
姉二人が妹二人を見守るような眼差しを向けながら。
「結局、麦野も浜面のこと、嫌いじゃないでしょ?」
「え? ・・うん。まぁ、そうね。好きでも嫌いでもない感じよ、あんな旧石器時代の野蛮人。」
あはは、と笑ったフレンダは、最後のサバ缶に止めを刺すべく、再び戦い始めていた。
話し相手がいなくなったので仕方なく、未だ内緒話をしている絹旗と滝壺を見やるも、
自分が蚊帳の外のように感じられて、麦野は少し複雑な気持ちになっていた。
目のやり場がないせいか、ガラス越しにファミレスの外を見る。
視線の先には、お菓子の専門店のような可愛らしい建物があった。
学園都市の中でも、かなり有名なチェーン店で、都市内にいくつも同じ店があり、
とりわけ、女子中高生の間でめっぽう人気が高く、もちろん麦野もその店を知っていた。
そんな甘菓子店が目に入った麦野は、ピクリ、とそれに反応すると、やがてまた考え込み始める。
「どしたの麦野? 何かさっきから浮かない顔してるけど。」
最後のサバ缶を食べ終わり、満足そうにお腹をさするフレンダが、麦野に声をかける。
「・・・あのさ、フレンダ。この後、用事ある?」
「んー? そうだねー。今日は仕事ないっぽいし、一人で新しい缶詰巡りの買い物にでも出かけようかなー、なんて。」
「じゃぁ、暇ね。ちょっと付き合って。」
「うぇっ!? ・・まぁ、良いけど。ってか珍しいね、麦野がプライベートのお誘いなんて。」
ちょっとねー、と麦野は自分の髪をクルクルと指に巻きつけながら、呟いている。
「(・・こんなアンニュイな顔してる麦野を見るのは初めてだなー。)」
麦野の意図を理解できないでいたフレンダは、フォークを口に入れたまま、両手を組んで、首を傾げていた。
「・・と、いうことです。ブツは、私の知っている店で超調達しますから。」
「わかった。それではまづらが喜ぶなら、一肌脱ぐよ。」
「それならば、善は超急げ、ですね。」
ひそひそ話を終えた二人は、意思を固めたように、ハイタッチする。
絹旗は、小柄な身体をくねらせると、ヒョイとソファから離れ、いち早く立ち上がった。
その表情は、どこか明るく、年相応にウキウキとしていた。
後に続く滝壺も、わずかながら笑みを浮かべている。怪しげな。
「待った。」
浜面を見舞い隊の二人が走り出そうとした瞬間、麦野が制止の声をあげる。
ガクッと出鼻をくじかれた絹旗がぎこちなく振り向くと、座ったままの麦野がヒラヒラと一枚の紙をチラつかせていた。
「お勘定。」
―――――
「・・・暇だ。」
入院患者・浜面仕上は、誰に言うわけでもなく、真っ白な天井を見上げたまま、忌々しげに呟いた。
スキルアウトとして、幾度となく喧嘩だの抗争だのを経験した。
それでも、大した重傷を負わずに切り抜ける、頑丈な身体が彼の取り柄であった。
しかし、今回は違ったらしい。
彼が幹部として所属していたスキルアウトは、絶対的なリーダーだった駒場利徳を失い、実質、半壊。
それでも、何とかリーダーの職を継ぎ、不慣れながら裏の仕事をこなそうとするも、
最初の仕事でいきなり、謎のツンツン髪の高校生に阻止され、任務は失敗、補導。
解放されたと思ったら、超能力者(しかも、4人の女の子)の元で雑用として働くハメになり、挙句の果てに、かつての同僚と喧嘩して負傷、入院。
彼の視線の先には、包帯がきつく巻かれ、固定された、入院の元凶である右足があった。
「情けねぇ・・、ホントに情けねぇ。」
大きくうなだれた浜面は、何気なく辺りを見回した。
どうやら彼は、能力者や学園都市の非公式組織が関係する病院ではなく、一般の病院に入院させられたらしい。
しかし、彼が寝ている部屋は、他の患者との相部屋ではなく、彼一人だけの個室で、
見た目以上に広々とした空間、汚れ一つない清潔感のある真っ白なベッドと布団、シーツ、ついでに枕、
綺麗に拭かれているであろう窓からは、淡いクリーム色のカーテンを通じて、眩しい日が差し込んできている。
学園都市の日陰の中で長く活動していた彼は、少し新鮮で、どことなく懐かしい感覚に捉われていた。
「それにしても、仕事ならともかく、私情で怪我したこんな下っ端に、入院費出してくれるなんてなぁ・・。」
大体の暗部組織では、ヘマをした場合、その者の自己責任であり、他人の助けを借りることはご法度で、
自分の力で何とかすることを信条としている、と聞いたことがあった。
それ故に、たとえ有力な組織の下部組織であるとはいえ、いくらでも代えがきくような雑用に費用を出してくれることが、彼にとって不思議で仕方なかった。
それが、絹旗の努力により、『上』からもぎとられた入院費であることを、彼は知らないが。
真正面の壁にかけられていた時計を見ると、時刻は二時をまわっているのが確認できた。
一眠りするか、と背伸びをし、布団に深く潜ろうとしたとき。
コンコン、ドアをノックする音。
「(誰だ・・?)」
浜面は、不審げに左方のドアを見やる。
昼の食事は二時間近く前にとっており、診察があるとも聞いていない。
「(・・ま、まさか、美人ナースのおねえさんが俺にお近づきになるためにッ・・!?)」
なんとも見当違いな考えが頭をよぎり、思わず鼻の下を伸ばす浜面。
うん、ナースも悪くないよな。と真剣に考えていると、
痺れを切らしたのか、訪問者のノック音は、ドンドンドン!と一層強くなった。
「は、はいはい! どうぞ! 起きてます! 準備はできてますから!」
一回目とはうってかわって、豪快になったノック音に驚いた浜面は、意味不明なことを言いながらも、慌てて入室を促す。
だらしなくニヤけていた表情を、一瞬で自分が今できる限りのベストの整った表情に直した。
背筋もピシッと伸ばし、ゴミだの何だのは周囲に散らかっていない。
待ってましたとばかりに、ガラガラッ、とドアが開く。
「おーす! ボコボコにされて超ダサいことになってる浜面を超美少女二人がお見舞いに来ましたよーッ!」
威風堂々と入ってきたのは、浜面がよく見知っている少女。絹旗最愛。
女の子のお見舞いといえば、男としては心躍らせるイベントではあるが、浜面にとって、この少女の場合は別だった。
盛りの男の良からぬ夢と、大いなる希望と、卑しい期待と、疚しい妄想を、四発同時に撃ち抜かれ、ガクン、と浜面はベッドから転げ落ちそうになる。
それを見た絹旗は、ケラケラと声高々に笑っていた。
「な、なんで!? 絹旗てめぇ、美人ナースさんを何処へやったッ!?」
「は? なに超世迷言をほざいちゃってるんですか? 相変わらず救いようのない超馬鹿ですね。
入院して頭が少しはマシになったかと思えば、やっぱり浜面は超浜面でしたね。」
「くッそ・・! 怪我した純情な少年を、美人ナースさんが独断で癒しに来てくれたと思っていたのにッ・・!」
「そうだ。良い機会ですし、治療が超必要なその頭の中も検査してもらったらどうですか?
どうせ超空っぽでしょうから検査するも何もないと思いますけど。」
「てめぇは! それでも!! 俺を“見舞う”気持ちがあんのか!!!
毎度毎度、口を開けば、俺のことを罵りやがってぇッ!!!!
生憎、俺は女に罵られて喜ぶような性癖は持ち合わせてねぇんだよぉぉぉッ!!!!!」
「あぁ、それなら浜面のアホづらに、私の『窒素装甲』をいかんなく発揮したこの拳を文字通り“お見舞い”してあげますよ。」
「があああああッ!! ああいえばこう言う、こう言えばああ言いやがってぇッッッ!!!!!!」
「ほらほら、あんまり叫ぶと、傷に響きますよ~?」
五歳は年下であろう少女に、矢継ぎ早に罵詈雑言を浴びせられ、浜面は一瞬で頭に血がのぼっていた。
一方の絹旗は、舌を出し、小悪魔のような顔を、軽く発狂気味の浜面に向ける。
浜面には、絹旗の背と尻から常に悪魔の羽と尻尾が生えているように思えて仕方なかった。
「・・はまづら、病院じゃ静かにしなきゃだめだよ。」
ボルテージの上がる浜面の耳に届いたのは、空気感の違う、ガラスのような言葉。
いつもと変わらない桃色のジャージを着た滝壺が、ヒョコッと病室の入り口から顔を出していた。
半分閉じられたような目に、色白の肌、垂れ下がった肩、無気力なオーラ。
パッと見た感じでは、彼女の方が病人に見えなくもない。
その手には、花屋で買ってきたであろう明るい黄色の花が数本。
まさに、高嶺の花・薄幸の少女というイメージがピッタリだった。
「あ、あぁ・・、美少女二人っていうから、もう一人は誰かと思ったけど、滝壺のことだったのか。
そんなトコに居ないで入ったらどうだよ。」
「うん。」
滝壺は、ガラガラと静かにドアを閉め、ぽてぽてと歩を進める。
絹旗とは正反対で、マイペースで物静かな少女だ(絹旗もある意味ではマイペースといえるが)。
「(っていうか、ドア開けっ放しだったのか・・、わけのわからない口喧嘩を外の人に聞かれたか・・?)」
美人ナースだの、性癖だの、恥ずかしい言葉を羅列していた(しかも大声で)自分が愚かしい・・、と猛省する浜面。
顔を真っ赤にした浜面を横目でチラリと見た絹旗は、変わらずニヤニヤしている。
「・・はまづら、足怪我したの? だいじょうぶ?」
「あ、ああ。骨が折れたわけじゃないし、少しひびが入っただけだから。」
そう、と呟いた滝壺は、大事そうに持っていた花を、ベッドの横の白い棚の上に置かれていた空の花瓶に挿す。
いまどきの少年である浜面は、花に詳しくないため、それが何の花だかわからなかったが、
その花は、色々な意味で荒んでいる浜面を元気付けてくれるような、明るい黄色の花だった。
「これ、お見舞いの品。花だから、うれしくないかもしれないけど。」
「いや、そんなことねぇよ、・・ありがとな。この部屋何もなくて、殺風景だったから丁度良いや。」
浜面は、なんとなく視線を合わせられないまま、頬を掻きながら滝壺に礼を言った。
「アイテム」は全員が変人ではあるが(失言)、この少女はまた別の意味で変わった子だな、と浜面はつくづく思う。
いつも無口で何を考えているのかわからないし、普段着がジャージって・・、と。
「私は、キクとかシクラメン辺りをオススメしたんですけどねー。」
「・・そういう縁起の悪い花を素で勧めたなら、お前の方こそ、頭の検査が必要だな、絹旗。」
「あぁ、さすがに超常識知らずの浜面でも、最低限の礼儀作法ってものを知ってたんですか、超意外です。」
滝壺と違って、このふんわりセーターみたいな服を着た生意気な少女は、分かりやすい人間であったが。
「(少なくともお前らよりは、一般常識にのっとって生活してるつもりだっつーの・・。)」
スキルアウト時代も、無茶なことを幾度となくやってきたし、社会的に外れた問題も度々起こしてきた。
しかし、能力者と近しくなると、能力者の方が常識外れだ、と薄々感じるようにもなってきた。
能力自体が、常識とは隔絶されたものではあるが。
能力者は、その能力と引き換えに、社会的な何かを失っているんじゃないだろうか、と彼は常日頃思っている。
特に、「アイテム」の四人と行動を共にしていると、それを痛感せざるを得ない。
それは、彼女たちの破天荒な行動の尻拭いをしているのが、他ならぬ彼だからである。
ファミレスに行けば、コンビニ弁当は持ち込むわ、缶詰は撒き散らすわ、何時間も居座るわ、のやりたい放題。
さらには、公共の場で口喧嘩を始めるやいなや、うっかり能力を使用して、店の壁だのベンチだの平然と破壊し、
あわや一般人にも被害を及ぼしそうになったこともある(主に麦野と絹旗)。
そんなに大袈裟な行動をして、暗部組織の自覚はあるのか、しっかりやっていけているんだろうか、とその度に悩んでしまう。
それでいて、彼女たちは自分よりも多く稼いでいるというのだから、世の中不思議な(理不尽な)ものだ。
「・・何か今、超失礼なことを考えてませんでした?」
「失礼なことを馬鹿正直に口に出すお前に比べたら、まだマシだと思うけどな。」
「その減らず口を直すには、もう少し入院期間を延ばす必要がありそうですね。」
「・・ば、馬鹿! やめろ! 足に触るなッ! 絹旗てめぇ!」
絹旗は、浜面のベッドの右側に回りこむと、痛いのはここですかー、と浜面の右足をグリグリと両拳で挟みこむ。
「うぐがぁぁぁぁぁッ!? お前の怪力は笑えねぇんだよぉぉッ!!」
激痛に身をクネクネとよじらせ、悲痛な叫びをあげる浜面。
大の男が、小学生同然の女の子に言いようにされているのだから、
何も事情を知らない人間が見たら何とも滑稽な光景だろう。
ちなみに滝壺は、はまづら、ムンクみたい。と目を輝かせていた。
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