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    元スレ別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part2

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    451 = 442 :

              ◇

    「それにしてもビックリしたよっ、帰ってきたらお姉ちゃん達があんなに泣いているんだもん」
    夕食の肉ジャガを頬張りながら実由は呟く。

    「えーと、…まぁ」
    (エヘヘ…そんな訳ですww)
    俺とマルさんの二人は恥ずかしそうにして夕食を食べる。
    「まぁまぁ、いいじゃない~、本当に二人とも仲が良いんだからね~」
    母さんは俺たちを微笑ましそうに見ている。
    本来であれば俺(ミヒロ&マルさん)と母さんと実由で夕食を作る予定であったのだが、
    なかなか泣き止まない俺達をなだめる為ずっと実由が付きっきりになり、
    母さんが一人で夕食の準備をすることになってしまった。
    …ゴメン、母さん。

    「…でも、何だかいいよねっ♪ 前よりも二人の気持ちが繋がったというか、
    ものすごく仲が良くなったというか、そんな感じがするのはあたしの気のせいかな?」

    「…そう?」
    (どうなのかしら…?)
    本人たちは全く意識は無いのだが、言われてみると違うのかも知れない。
    日を追う毎にシンクロが進んでいるのもあるけど、さっきの一件でお互いの壁がさらに一つ
    取っ払う事が出来たのかな?
    (…私は嬉しいよ…ミヒロちゃんと仲良くなっていくのは……)
    ―俺だって嬉しいよっ、今更言うまでも無いけどねっ。
    (……)

    452 = 442 :

    「はいはい、ご馳走様☆」
    「ふふっ、ホント仲が良い事は良いことよね~。…それはそうと、
    ミヒロちゃん~わかってるわよね~」
    母さんの目がキラリと光る。
    「わ、分かってますっ! "私"ですよねっ! ちゃんと言いますからっ!」
    (ふふ…ミヒロちゃん、大変…ww)
    もう、何と言いますか。脳内で自分の事を"俺"って言っているもんだから
    心の中が読まれているおr、じゃなかった、私としてはナレーションしづらいの何の。
    母さんの表情が笑っているのが…何だか恐いんですけど!

    …でも、ナレーションの時位は勘弁して下さい。
    一応はHKOKな話ですので。
    …ホントだよ?

    「仕方無いわね~」

    …え?

               ◇

    453 = 442 :

    …こうして夕食も終わり、片付けを終わらせると自分の部屋に戻る俺。

    何だか非常にぐったりしてしまったせいかまだ寝る時間には程遠いがベッドに寝そべる。

    「…ふぅ」
    本日も色々有って思わず溜め息をつく。
    (…ミヒロちゃん)
    心配そうなマルさんの意識。

    ―マルさん、大丈夫だよ。そんな心配そうな気持ちにならないでよ。
    (うん、…そうだね)
    とは言えマルさんには俺の心に迷いがあるのはモロバレなんだろうな、と思う。

    …俺にとっての"迷い"とはサトシに俺の事を打ち明ける事。
    正直なところ決断がつかないし、そのきっかけをどうやって作るか見当もつかない。

    でも母さんにも言われたようにここで決着をつけない事には
    サトシも俺も苦しみ続けるのは言うまでも無い事である。
    …俺はともかく、サトシが俺の事で悩み苦しむのは耐えられないよ。

    とにかく、こうしていても事態が進展しないのは言うまでも無い事で、
    何かいい方法は無いものか。

    「ふぅ、それにしても何だか身体が重たいなぁ…、昨日の疲れが溜まっているのかな?」
    昨日の今日でかなりの疲労だったのか、自分の手足が重く感じる。

    (……)

    …あらためて自分の体力が女の子になっているんだなぁ、と実感する俺。
    あんまり無茶しちゃ駄目なんだな…。

    …ぱたぱたぱた。
    一階の方から人の動く物音がする。

    「ミヒロちゃ~ん、電話よ~」

    ぼんやりとしながら色々な考え事をしていると母さんがいきなり俺を呼ぶ。

    454 = 442 :

    「…電話?」
    思わず呟く俺。
    って、…誰? 電話って?

    現状の俺(ミヒロ)に電話で心当たりのある相手。
    実際のところ今の俺と関係のある人間って誰だろうか?

    …母さんや実由、学校関係だと千絵先生?
    色々考えてみるが他に思い当たる人物が居ないぞ。

    母さんが普通に俺に繋ぐ相手だから特に問題は無いのだろう。
    とりあえず呼ばれたので行ってみることにする。

    ちなみに俺の携帯電話は一応持っている事は持っているのだが
    ほとんど使っていない。…というか、"ヒロアキ"所有のものなので
    ミヒロが持っているのはおかしいし、使うわけにもいくまい。
    現状は母さんや実由との連絡用として持っているだけである。

    「母さん、おr、じゃなかった、私に電話って誰?」
    怪訝な表情を浮かべ尋ねる俺。
    「うふふ~、誰でしょうね~?」
    なんか嬉しそうな表情の母さん。…怪しいな。
    「怪しくなんてないわよ~、ホラ、受話器を取って~」
    「…大丈夫なんだろうね?」
    「へいき、平気よ~」
    言われるままに受話器を取る俺。
    「…もしもし?」
    相手が誰だか分らないので恐る恐るなのは言うまでもありません。

    『…あ、ミヒロちゃん?』
    若い男性の声。

    …というか聞き覚えがありますよ?
    この相手って…

    「サトシくん!?」

    思わず声を上げる俺。
    先ほど俺の家に来ていたサトシが何故、電話を? しかも俺宛てに?

    455 = 442 :

    今回はここまでです。
    次回の投下はどうなりますか。
    正直、リアルで忙しいので厳しいです…。

    456 :

    GJ!
    次回はついに打ち明ける話になりそうですね。
    wktkしながら待ってます。

    457 :

    乙です! 気長に待ってますよー!

    458 :

    とうとう2月になってしまった。

    459 :

    一月投稿無いとか終わったな

    460 :

    あ~…女の子になりてぇ


    自分で書いてやるっ!て意気込んだは良いものの…
    シチュエーションやキャラは思い描けても、実際文章として書き起こすのって難しいね。
    例えて言うならばハンバーガー好きだから作ってみようって言って、肉の味は大体分かるんだけど
    レタスやバンズの味なんて思い出せない…まして隠し味やなんて尚更って言う話なんだろうか?

    461 :

    2009年になったことだし1月に投下しようと思って書かないまま2月になりますたww

    >>460
    レタスやバンズは買ってきても良いじゃない。
    ハンバーグが自家製ならきっとおいしいのができるよ。

    462 :

    どんだけ☆エモーション(その14)


    翌日、俺は最寄の私鉄駅前の広場にて待ち合わせをしていた。

    「…」
    携帯電話で時間をチェックする。まだ午前9時30分。
    一応約束の時間は10時なのだが昔からの習慣とは恐いもので待ち合わせ時間の30分前に
    いつも俺は来るようにしている。

    毎回思うのだが早く来すぎたかな?
    …特に今回の場合だとまるで俺が今日のお出かけを待ちわびているようではないか。

    「…」
    …それにしても何だかなぁ。
    駅前のお店のショーウィンドウに映る自分の姿を見ながら考えてしまう。

    本日の俺の格好は実由の手によってしっかりおめかしされていて、
    薄い黒地の半袖カーディガンに花柄の刺繍があしらわれているピンク色のミニドレス。
    ちょっと大人っぽさを演出した感じで、初夏のこの季節に良く合っていると思う。
    …しかし。
    ミニドレスの丈は膝上20センチで気を抜くとパンツが見えてしまうんじゃないの?
    ううっ…、実由の奴め。

    お化粧も何気に施されていて、俺にしてみればえらく気合が入っているなぁ…と感じてしまうのだが
    実由も母さんも「「この位、全然普通よ~♪」」…だそうだ。
    まぁ、自分で言うのも何だが…可愛いかな?
    …いや、かなり可愛いぞ。

    …それにしても何でこうなってしまったのだろうか。

    463 = 462 :



    『…いきなりゴメンね、電話してしまって』
    受話器の向こうでサトシが申し訳無さそうに言う。
    突然、俺への電話をしてきたサトシ。

    「ううん、別に何とも無いよっ、…どうしたの急に?」
    考えてみるとここのところ毎日のように俺とサトシは顔を合わせているのだが、
    あらたまって電話を掛けてくるなんてどういう事なんだろうか?

    『ええと、まぁ…その、何というか』
    …? なんだか妙に落ち着かない、煮え切らない感じの口調のサトシ。
    どうしたんだろ?
    「…」
    でも、サトシの次の言葉を待つ俺は不思議とドキドキしている。
    (私までドキドキしてきた…)
    『んー、言わないと駄目だよなぁ…、あの…ミヒロちゃんって、明日は予定とかある?』
    「予定? …えっと、別に無いけど?」
    『ミヒロちゃんさえ良ければ明日…俺と一緒に出かけないかな?』
    受話器の向こう側から一呼吸置いた後、サトシは思い切って言った。

    …え、これって。

    (…デートのお誘いかな?)
    デート? サトシが俺に?
    「…一緒って、何処かに連れてってくれるの?」
    思わず尋ねる俺。

    『まあ、そうなんだけど…どうかな?』
    サトシの誘いに俺は一瞬考える。

    464 = 462 :



    …うーむ。

    サトシがどういうつもりで俺を誘っているのかはともかく、
    これは俺の事をあいつに伝えるいい機会なのかな? と思う。

    (…どうするの?)
    いつもならば乗り気のマルさんも今回ばかりは俺の返答を待っている。
    「…」
    後ろを見ると母さんが俺の事を興味津々な表情で見ている。

    …。

    『…ミヒロちゃん、…駄目かな?』
    何だか落胆したような感じのサトシの声。
    俺が返答に迷っている事に戸惑っているのかな?

    …ああ、もう。
    そんな事でテンション下げんなよ、サトシめ。
    あいつって、割と恋愛下手なのかも知れないな。
    人の事は言えないけど。

    思わず俺は受話器の向こうの相手に言う。

    「…サトシ君、その…」

    465 = 462 :

     ◇

    「毎度の事ながらこういう時はあそこだな」
    俺はそう言うと迷わず駅前のマックに向かう。

    俺が待ち合わせに早く来すぎた時はいつもそこで時間をつぶす。
    軽くホットコーヒーを一杯飲みつつ、待ち合わせの時間までのんびりとする。
    いつしかそれが俺にとっては当たり前の待ち合わせの習慣だったりするのだ。

    店に着き、カウンターに向かう俺。

    「…あれ?」
    「え? ミヒロちゃん?」
    なんとそこには俺より先にレジ前で会計を済ませようとしているサトシの姿があった。

    「サトシ君? どうしてココに?」
    思わず尋ねる俺。まだ時間には早いだろ。

    「ミヒロちゃんこそ、…早いね。待ち合わせの時間まで30分近くあるよ?」
    驚きの表情を隠さずにサトシは俺に言う。

    「…えーと、まぁ、早く来ちゃったんだよね」
    順番が来たので俺はそそくさと注文をする。
    既に会計を済ませたサトシは俺が終わるのを待って側に立っている。

    そう。今日の待ち合わせはサトシからのお誘いによるお出かけ。
    昨日、俺はサトシの申し出にOKしたのだ。

    それぞれ会計を済ませた商品を手に俺達は窓際の席につく。

    「お昼まで時間があるとは言え、随分買いこんでいるね」
    ホットコーヒーだけの俺と違い、サトシはモーニングセット+ハンバーガーを手にしている。
    「まぁ、食べ盛りなんで、この位が丁度いいかなって。」
    「運動部だからよく食べるとは言え、朝食は当然摂っているんでしょ?
    …食べすぎなんじゃない?」
    モリモリとハンバーガーを頬張るサトシを目に少々呆れ顔の俺。
    「そりゃ、勿論朝食は摂っているよ。でも身体が欲しがっているんだ、仕方無いよ」
    サトシは照れ笑いを浮かべつつも手と口の動きは止まらない。
    「育ち盛りだから? 」
    「う~ん、そうかもね。高校入ってから随分身長も伸びたし。」
    サトシの言うとおり中学に比べ奴の背は伸びたのは目に見えて明らかだ。
    俺も高校に入って身長は伸びたが、170そこそこの俺に比べサトシはそれ以上伸びている。
    175以上はあるんじゃないの? …くそっ。
    しかも女の子になってしまった俺は折角伸びた身長も今や160すらいかない位までに
    背が縮んでしまっており、お陰で腹立たしい事に奴を見上げないとならないので
    元男の俺にしてみれば結構屈辱的な状況である。

    466 = 462 :

    「ミヒロちゃんはホットコーヒーだけなんだね」
    「うん、おr、じゃなかった、私はいつもコーヒーだよ。
    最近すっかり苦い物が苦手になりつつあるんだけどね。」
    「ふ~ん、そうなんだ」
    じっと、俺を見るサトシ。
    会話しつつも食べるペースが落ちる事が無い。

    「ところで今日は何処に連れてってくれるのかな?」
    俺もそんなサトシの姿を見ながら尋ねる。
    「うん、ミヒロちゃんってこの町に来てまだ間も無いと思ってさ、
    この町の遊べる所とか便利な場所とかを紹介できたらなって考えてるんだ。」
    「…この町の案内って事?」
    「そうだね、簡単に言ってしまうとそうなるかな」
    「…そうかぁ、この町の案内ねぇ」
    俺は生まれてからずっとこの町に住んでいるので別に案内されても分からないところは
    無いのだが、一応ミヒロはこの町に来たばっかりという設定になっているので
    サトシはミヒロの為に気を遣ってお誘いしてくれたようです。
    …でも今更この町を紹介されてもねぇ。別に目新しいものが有るわけで無いしなぁ…。
    「…ミヒロちゃん?」
    「あ、ううん、ありがとう。サトシ君も忙しいのにゴメンね、私の為に
    時間を作ってくれて。サッカー部は大丈夫なの?」
    俺の反応があまり良くなかったのを気にしてか、ちょっと不安げな表情のサトシに
    気付いた俺はとりあえず嬉しそうな素振りを見せる。
    「うん、とりあえず大丈夫かな、試合は近いんだけどね」
    「そうなの? ホントにゴメンね。でも嬉しいよ」
    「…良かった。それじゃ、行こうか?」
    俺の笑顔を見てホッとした表情を浮べるサトシ。
    「うん」
    サトシの様子を見て俺もホッとする。

    かくして俺はサトシの案内によって見慣れたこの町を見て回る事になった。

    467 = 462 :

    「まずは駅前のショッピングセンター巡りからスタートかな?」
    サトシはそう言うと商店街に向かって歩き出す。
    「賑やかな所だね、この辺りは」
    ありきたりな事を言いながら俺はサトシの横についていく。
    「この辺がこの街では一番賑やかなところなんだ。
    うちの高校の連中も放課後この辺りでブラブラしてたりするんだよね」
    「へーっ、そうなんだ、でも楽しそうだよね?」
    「俺はこのあたりの大きなスポーツショップでサッカー用品をチェックするのが
    自分の習慣みたいな感じになっているんだ」
    「へえ、さすがサッカー部員だね、私はどちらかと言えばパソコンのソフトかな?」
    「パソコン?」
    「興味が移ってしまったんだよね、以前は別なジャンルだったんだけど。」
    「ふーん」
    俺とサトシは学校の話題や最近の自分の状況について取り留めの無い会話を
    続けつつ、街の中を歩いていく。

    正直なところ、サトシの案内で街の中を歩いていても特に目新しい発見も無く
    相変らずの俺の良く知っているいつもの街の風景ではあった。
    しかしサトシと二人でおしゃべりをしながら街の中を歩いていると
    俺は以前良くサトシとつるんで出掛けていた頃の事を思い出す。

    こうして振り返って見ると俺がサトシと何処かに出掛けるのなんて何時以来なんだろう?
    俺はぼんやりと考えてみる。

    小中学、高校の夏休みや冬休みのまとまった休みの時に
    サトシとよく街へ繰り出したり海や山へ遊びに行っていたよな。
    特に目的はなかったけど何だか冒険しているみたいで俺はwktkしたもんだ。
    ホント、あの頃は楽しかったよな。

    今回は久々にサトシと一緒の外出。別に感慨も何も無いけどさすがに
    昨夜は期待で気持ちが高まったせいかなかなか寝付けなかったよ。

    しかし今日は一応は案内とは言うけど単に街へ遊びに出ているもんだよね? これって。
    こういった状況は男同士で行くよりカップルで出かけるときっと楽しいのかな?
    考えてみると異性との付き合いがほとんど無い俺にとっては
    妙に憧れるのは言うまでも無い話です。

    468 = 462 :

    ん? …男同士? いや、待て。

    今の俺はヒロアキじゃなくてミヒロ。中身はともかく一応は女の子である。
    これってひょっとして、…デート?

    でも、相手がサトシだし俺にはそんなつもりは…無い、はず?

    「…?」

    …でもでもっ? このドキドキとする感覚や甘酸っぱいような気持ちは
    俺が男だった時にサトシに対して感じ得なかった感覚だ。
    どうしてこんなにwktkするんだろう?

    「どうしたの、ミヒロちゃん? 目を白黒させて?」
    そんな俺の様子に気が付いたサトシは俺を見ている。
    「う、ううん、何でも無いよ? ちょっと考え事をしていただけ」
    「ふーん、じゃ、次はあそこに行ってみようか?」
    サトシはそんな俺の状況など気がつかず嬉しそうに俺の前を歩いている。
    考えてみるとあいつが異性の相手と二人っきりで出かけるなんて初めてなんじゃないの?
    一応今の俺はミヒロという女の子。中身はともかく、傍から見ればデートだよな、この状況は。
    何だか今日のサトシはいつもと違って舞い上がっているような気がするのは俺の気のせい?
    まあ、…分かんないけどね。

    「…でね、ここは本以外にもCDが充実しているんだ」
    「へーっ、便利だね、このお店」
    サトシの案内はどんどん白熱を帯びてきた。
    俺にとって既に知っている場所ではあるがサトシが一生懸命に説明するもんだから
    それが妙に面白くて俺はさっきから笑いが抑えられない。
    そんな俺のニヤニヤした表情をサトシは俺が喜んでいるように見えるようで
    その説明にどんどん力が入ってきている。

    「さて、お腹も空いたし何処かでご飯でも食べようか」
    昼過ぎまで歩き回った俺達はファミレスに入って昼食をとることにした。

    469 = 462 :

    「う~ん…」
    午前中はずっと歩き回っていたせいかすっかり疲れてしまった俺。
    具合は悪くないんだけど身体が妙に重く感じる。
    「どうしたの? ミヒロちゃん?」
    サトシがそんな俺の様子を見て尋ねてくる。
    「あ、ううん、何でもないよ、ちょっと疲れたかなって」
    何事も無いように振舞う俺。
    「え? 歩きすぎちゃった? …もう少し休みながらでも良かったね、ゴメン」
    「え、いや、そんな大層なものじゃなくて…お腹が空いちゃったかな、って」
    「あはは、そうなんだ。注文はしてるからもう少しの辛抱だよ」
    「言っておくけど私はサトシ君ほど食いしん坊じゃ無いからね」
    「やだなぁ、成長期だと言ってくれよ」
    「また、それ?」
    気兼ねの無い会話が続く。
    以前の俺(ヒロアキ)ではないので多少気を遣って会話をしなければ
    ならない部分も確かにあるのだが、それでもサトシと一緒にいると楽しい。
    こんな時間がずっと続けばいいのになぁ、と俺は思う。
    そんなやりとりをしていると注文した料理が運ばれてきた。

    「街の中を歩いてみて、どうだった?」
    注文した料理を食べつつサトシは俺に聞く。
    「うん、割と充実しているよね。これなら大きな街に出なくても
    買い物については問題ないかもね」
    実際のところ勝手知ったる街なので感想も何も無いのだが
    とりあえずは無難な返事をする俺。
    「良かった、気に入ってくれて。ミヒロちゃんを誘った甲斐があったよ。」
    そう言うとサトシは残りの料理に手をつける。
    「それにしても、どうして今回私なんかを誘ってくれたの?
    サトシ君って忙しいのにわざわざ街案内までしてくれるなんてさ。
    サトシ君位の人なら私よりも同じ学校の可愛い女の子を誘えばいいのに」
    コーヒーを口にしつつ上目遣いでサトシをちらりと見る。
    「え? えーと…そう、ミヒロちゃん、君の方こそにこっちに来て色々と
    忙しかったんじゃ無いかなって。だから、街案内も兼ねてミヒロちゃんの
    気分転換になればと思って誘ったんだよね。」
    ちょっと焦った様子のサトシ。若干、顔が赤くなっているけど?

    470 = 462 :

    …こっちに来てかぁ。
    そう言えば俺は最近この家に来たという設定になっているんだっけ。

    「確かにそうかも。私、最近遊びに行く事なんて全然無かったなぁ…」
    思わず実感を込めて話す俺。
    最近どころかネットで一日中PCの前にへばり付いていた俺にとっては
    ミヒロがどうのこうのという問題どころの話ではないのですが。

    「そうなんだ。じゃあやっぱり誘って良かったよ」
    「え? どうして?」
    サトシのホッとした様子が気になる俺。
    「実は俺、女の子を誘ったの初めてなんだよね。正直、すごく緊張したよ。
    でもミヒロちゃんが俺の案内を喜んでくれたみたいだし、何だか安心したって言うかさ。」
    しみじみと実感を込めて話すサトシ。
    「そ、そうなんだ? でもそんなに緊張するほどのもんじゃないでしょ?
    相手は私なんだし」
    「…ミヒロちゃんだからこそ、俺は緊張したんだよ」
    「え?」
    俺の問いかけに対し真顔で答えるサトシに戸惑う俺。
    「他の女の子、とりわけ同じ学校の女の子達にはあまり関心を引く相手が
    俺には居なかったんだ、…これまでは。」
    「…」
    「だけどミヒロちゃんに初めて会って、まだ日は浅いんだけど何だか惹かれるものを
    感じるんだ」
    「そ、それって…」
    (……)
    サトシの話に何故かものすごくドキドキしてくる俺。
    マルさんの気持ちが俺に流れ込んでいるせいかどうかは分からないけど、
    この甘酸っぱいクラクラする感覚は何なんだろう?
    それにしても、いきなりサトシは何を言い出しているのだろうか?
    「で、でも何で私なの? サトシ君みたいに女の子に人気があるような人が?
    もう少し色々考えてみたの? 落ち着いてさ、冷静に考えてみようよ?」
    この場はなんとか収拾をつけようとするが自分でもわけの分からない会話をする俺。
    「理由なんか俺にも分からないよ。でも会って色々話したりして気がついたんだ、
    …俺はミヒロちゃんがいいって。」
    俺とは対照的に冷静に言うサトシ。
    「……」
    顔がどんどん赤くなっていく俺。頭の中が真っ白になるとはこの事かな?
    「ご、ごめんね、ちょっと、トイレ…」
    思わずトイレに駆け込む俺。慌てていたせいか荷物は座席に残したままにして向かう。

    471 = 462 :


    「あ~、もう何を言うんだよ…サトシの奴」
    ファミレスの女子トイレの手洗い場の前で俺は思わず呟く。
    鏡の中に映る俺の顔はすっかり赤くなっている。くそっ、何赤くなってるんだよ。

    少しでも心を落ち着かせようという気持ちの表れか、蛇口の流水の中に両手を入れる。
    流水が冷たくなってくるにしたがって俺の気持ちも冷静になってくる。

    ありゃ、本気だな。
    サトシは俺を、ミヒロを好きになってしまっている。

    …俺の正体はヒロアキなのに?

    でもサトシは俺の事をミヒロという一人の"女の子"として初めて会ったあの日から
    俺の事を見ている。
    サトシは俺(ミヒロ)をヒロアキとは思わずに普通の女の子として
    楽しく案内に興じているのかと思うと騙している気がして
    申し訳のない気持ちになってしまう。

    一応俺は(もちろん今後も)女の子だけれども、ヒロアキなんだ。
    中途半端な女なんだ。出来ればサトシのようないい奴にはホントに可愛い女の子と
    付き合った方が良いに決まっている。
    俺なんかに興味を持たれてもお互いにいい事なんか無い。

    …これはハッキリいってまずいな。
    まさかサトシが俺に対してそんな感情を持つなんて全くの想定外だった。
    先程まで顔を赤らめていた俺だったが事態の深刻さに顔が青ざめていく。

    「…」
    俺が自分の事を初めからヒロアキである事を話してさえいればこんな事にはならなかった。
    …これは俺のせいだ。俺がハッキリ言わないからこんな事になってしまったんだ。
    このままだとサトシを裏切るだけで無く、騙すことにもなってしまう。
    それこそ終わりだ。

    …どうすればいい?

    俺は考える。しかし答えはただ一つ。
    考えてみれば今日はその為にサトシの誘いに乗ったわけだし。
    ここで呑気に顔を赤らめたり、胸をときめかせている場合じゃない。

    「…よし」
    俺は気持ちを入れ替えるとサトシの居る席に戻った。

    472 = 462 :

    「ごめんね、お待たせしちゃったね」

    俺が戻るとサトシはぼんやりと食後のコーヒーを飲んでいた。
    「…いや、別にいいよ」
    サトシはさっきのやり取りが何事も無かったかのように普通に振舞っている。
    …ん? でも、普通過ぎかな?

    「あ、ミヒロちゃん、バッグ置きっぱなしだったから俺が預かっていたよ」
    サトシはそういうと白い皮製の手提げバッグを俺に差し出す。
    「あれ? 私、席に置いたままだったんだ。ありがとう、サトシ君」
    俺は笑顔でそれを受け取る。
    「うん、別にいいよ。…そうだ、バッグの中に携帯電話が入っているのかな?
    何か呼び出し音みたいな音がしていたけど」
    「え? そうなの? 誰だろう? 私、一応携帯は持っているんだよね」
    俺はサトシからバッグを受け取ると席に座る。
    「ふ~ん、そうなんだ」
    サトシはそう言うと残りのコーヒーを口にする。

    「さて、そろそろ出ようか。まだ案内したいところもあるし」
    サトシはそう言うとすっと立ち上がる。
    「うん?そうだね」
    俺もそれにつられて席を立つ。

    ファミレスを出た後も俺とサトシは街の中を歩く。
    「…」
    「…」
    しかし午前中のような和気あいあいとした雰囲気は無くなってしまっていた。

    たぶん、その原因は俺。
    自分の事をサトシに話さなければならないという俺の心の焦りで
    サトシの案内に気持ちが乗らなくなってしまったから。

    いつ、どのタイミングで自分の事をサトシに話すか。
    サトシの案内が進んで行く中でこの思いがどんどん重く膨らんでいって、
    自分でも気がつかないくらい俺の表情が憂鬱に、そして暗くなっていく。
    「…?」
    更には俺の身体の感覚も重く苦しい気がする。気持ちが重いと身体も重くなるのかな?
    自分の脚が重く感じて一歩一歩が非常にしんどく感じる。

    473 = 462 :

    「…」
    サトシはサトシで午前中とは様子が一変していた。
    最初は嬉々として俺を案内していたサトシ。しかし俺の変化に気付いたのか
    どうかは分からないが、ファミレスを出てからのサトシの表情は曇っていた。

    「…ミヒロちゃん、ちょっと街から外れてしまうんだけどいいかな?」

    真剣な表情で俺に尋ねてくるサトシ。
    「え? 別にいいけど?」
    俺はサトシの様子に戸惑う。
    「…そう、それじゃ行くよ」
    サトシはそう言うと俺の方を見ずに足取りを進める。

    「…何処に行くの?」
    サトシの足取りが俺とサトシの家の方向に向かっているのに気がついた俺は
    思わず尋ねる。…ひょっとして帰るとか?

    「うん、ちょっと…ね。」
    サトシはそう答えたきり何も言わない。
    「…」
    俺はサトシの俺に対する変化が気になりつつも、それ以上聞かずに後をついて行く。

    サトシの足取りは街から外れ、何故か街の中を流れる川沿いの草地にたどり着いた。

    「ここは…川沿いの原っぱだよね?」
    俺は案内された場所を見渡しつつ呟く。
    「…うん、何処にでもある原っぱだよ」

    …でも、この場所は。
    俺は堤防を降りて草地の真ん中まで歩いていく。
    サトシも俺の後に続く。

    474 = 462 :

    「ここは…」
    この場所は俺がまだ小学生の頃、サッカーの練習によく使っていた。

    サトシと初めて出会ったのもこの場所だった。
    そう言えば初対面で俺とサトシはいきなりガチのサッカー勝負をしたんだっけ。
    …あの時のサッカー勝負。

    「…勝ったのは誰だったかなぁ」
    ぼんやりしていたせいか俺は不用意にも呟く。…サトシがすぐ側にいるにもかかわらず。

    「…ヒロアキが勝ったよ」
    サトシがポツリと一言。
    そうか、あの時は俺が勝ったんだ…って、ええっ?

    「ヒロアキって、一体どうしちゃったの? サトシ君?」
    サトシの一言に狼狽する俺。
    「うん? 別に独り言だよ? ミヒロちゃん」
    サトシは何事も無いかのように振舞う。

    …だけど、何か様子が変だ。
    考えてみるとファミレスから出てからサトシの様子に変化があったような気がする。
    俺に対して何か余所余所しさがあるような気がするんですけど。

    「…サトシ君? どうしちゃったの?」
    「…ミヒロちゃん、ちょっと待ってね。 気になる事があってさ、
    どうしても確認したいことがあるんだよね。」
    サトシ俺の問いかけには答えず、おもむろに携帯電話を取り出すと
    電話をかけようとする。

    475 = 462 :

    ん? 急にどうしたんだろ、サトシの奴?
    俺との会話を止めて電話なんかかけちゃって。

    ~♪ ~~♪

    ん?

    ~~♪

    あれ?

    俺の携帯電話から着信音が。
    誰だろ?
    「…あれ?」
    しかもこの着信メロディーって…

    俺は何も考えず自分の携帯をバッグから取り出す。
    それは俺がヒロアキの頃から使っている機種。
    サトシが見ているにも関わらず俺は無警戒にもそれを取り出した。

    「…」

    「…え」

    「どうして君がそのケータイを持っているんだい?」

    「…サ、サトシくん…?」

    気がつくとサトシは携帯を持っている方の俺の手を掴んでいた。

    「たとえ、同じ機種を持っていたとしてもその着信メロディーは俺とヒロアキの間だけでしか
    登録していない音楽なんだけど。」

    「…そ、それは」
    俺は自分の携帯電話の液晶画面に目を通す。
    電話の相手は…サトシ。

    「!?」

    そう、サトシは俺の携帯に電話をかけたのだ。
    …それにしても何故? どうしてこのタイミングで?
    思わず動きが止まる俺。

    476 = 462 :

    「…」
    何だろうか、自分自身の心臓の音がもの凄い勢いでドキドキしていて苦しいくらいだ。
    俺は恐る恐るサトシの顔を見る。

    「…どういう事か俺に話してもらえるかな? ミヒロちゃん?」
    俺は思わず硬直する。
    今までに無い位無表情のサトシ。怒っている? いや、良く分からない。
    しかしこんな冷たい表情、俺は見た事が無い。

    どうしよう。

    どうしたらいい?

    俺の頭の中で良く分からない思いがぐるぐる駆け巡る。
    確かに俺は今日、サトシに俺の正体を告げようと考えていたし、そのタイミングを
    ファミレスから出てずっとうかがっていた。だけど、こんな展開になるなんて
    正直想像もつかなかった。

    …思考が上手くまとまらないし、答えが出ない。

    やだ、どうしよう。

    どうにもならない。

    答えが出せない。

    「…」
    サトシは相変らず俺を冷たい視線で見続けている。

    怒っている? 今まで俺がミヒロと偽ってサトシを欺いてきたことを?

    今まで隠し事無く親友としてやってきたのに何の相談も報告も無く
    急に居ない振りをしてきた俺の事を?

    急に頭の中が真っ白になる俺。

    477 = 462 :

    「こ、これは…その」
    サトシの追求にうろたえる俺。

    「その…何?」
    相変らず表情を変えないサトシ。

    色々思いつく限りの理由を考えるが混乱しているせいもあり
    何も思いつかない。

    「…」

    「…」

    「…」

    沈黙が続く。非常に長い時間が流れているように感じる、いや止まっているように
    感じるのかな?

    その間、俺はもはやサトシには誤魔化しがきかない状況であることに気付いていた。
    …だからといって今の状況をすんなりと言えるほど俺は冷静では無かった。

    「…」

    俺の頭の中は混乱の極致にあった。

    …そして。

    訳の分からなくなった俺がとる行動はただひとつ。

    「ご、ごめん! なんと言うか、その…、ごめんねっ!!!」

    ダダダッ!!!!

    凄い勢いで走り出す俺。いわば敵前逃亡だった。

    478 = 462 :

    「!! えっ! ミ、ミヒロちゃん!? ちょっと!!」
    サトシは俺のいきなりの行動に戸惑っているようだ。
    慌てているサトシの声が後ろから聞こえる。呼び止めようとするがそんなの構っちゃいらんない。
    捕まったら即、死(?)である。

    「ミヒロちゃん!! 待って!」
    サトシの必死な声が聞こえる。どうやら奴は俺を追いかけてきているようだ。
    後ろを気にする余裕は無い。いくら俺の逃げ足が天才的とは言えども男の時とは違う。
    それにサトシの脚はサッカー部でも1、2を争うくらいの俊足だ。
    まともにやって敵うとは思えない。

    …そんな訳で滅茶苦茶に走った。サトシに追いつかれない様に。
    何時の間にか俺の履いていた赤く可愛らしいデザインのミュールは何処かに
    いってしまったようで、俺は裸足で走っていた。

    実由が俺に似合うといって無理やり着せられているピンク色のミニドレスは丈が短いので
    これだけ激しく走っていると多分パンツ丸見えなんだろうな~と思うが
    もはやそんな事気にしちゃいらんない。とにかく走って逃げ切るんだ。

    「…」
    「ミヒロちゃん!」
    これだけ必死に走っているにも関わらずサトシが俺に着実に近づきつつあるのを、
    サトシが俺に確実に追いついてしまうのを感ぜられずにはいられなかった。

    「う~、くっそ~」
    俺は思わず唸る。
    正直なところ俺の身体は俺の思い通りに動いてくれないんだ。
    昨日くらいからずっと身体が重くって、…不思議なんだよ。

    俺が男だったらサトシなんかに追いつかれることなんて無いのに!
    色々な思いが俺の中で交差する。

    (…ミヒロちゃん)
    何故かこの場面でマルさんの声が。

    479 = 462 :

    どうしたんだよ、マルさん?
    今日は全然意識が流れて来なかったからどうしたのかと思ったよ。
    …などと言っている余裕は今の俺には無いんですけど。

    (ミヒロちゃん、こんな時にゴメンね。
    …なるべく"出ない"方がいいかな、って思ってたから…)
    「…何を言っているのか分かんないよっ」
    苦しそうに声を出す俺。

    (あまり"私"が出過ぎるとミヒロちゃんに影響が出過ぎちゃうから…)
    …?
    さっきからマルさんの言っている事が分からない。

    (こんな時にゴメンね、でも"時機"が近づきつつある今しか
    ミヒロちゃんに…話せないから)
    マルさんの話は続く。
    (もう実感していると思うけど、ミヒロちゃんの身体が自分の思うように
    動かなくなっていないかな…?)
    …確かにそうだけど、それって疲労のせいじゃないの?
    (ううん、これは私の影響がいよいよミヒロちゃんの身体に起きている
    兆候なの…)
    マルさんの影響? 何それ?
    確かにマルさんと融合した事により俺の身体は女の子になっちゃったけど。

    (以前、私はミヒロちゃんに自分の事を異世界を渡り歩く思念体だと言ったけど…実は違うの。)

    …違う? どういう事?

    必死に走りながらも意識はいつの間にかマルさんとの会話に集中している俺。
    俺は川原を抜け、いつの間にか市街地まで出ていた。

    (…私の正体は生命体に寄生する思念体。…そして最終的にはその個体を意識もろとも乗っ取るの)

    480 = 462 :







    俺の思考はフリーズしていた。

    マルさんは今、何を言ったんだろう? 全然理解できない。



    …でも。

    言われてみるとマルさんが俺の身体を乗っ取る事について否めない部分を感じる。

    (あの日、あの時、私は公園で寝そべっているヒロアキ君を見かけた。
    これまで私はあなたに会うまで色々な生命体との融合、そして乗っ取りを試みていた。
    …でも"相性"というものがあって私はことごとく失敗に終わっていた。
    …このままでは"自分の身体"を見つける前に私自身が消滅してしまう。
    だから迷わずにあなたに寄生した。あなたという"身体"を手に入れるために。
    これは私にとっては最後のチャンスだったの。)



    (…幸運にも、ヒロアキ君との融合は成功した。そして、ヒロアキ君は女の子になった。
    実はヒロアキ君が女の身体になったのは私があなたの身体を完全に乗っ取った後に
    私が人間の女の子として生きる為に変化したもの。…そう、全ては私の為だけの変化だったの。)

    …俺と君との衝突も、融合しないと二人とも生命を失うとか、という話は…。

    (勿論、…嘘。 私はあなたを欺いてきた。…でも、それももう終わり。
    私とあなたのシンクロが進めば進む程、あなたの身体は自分の思うように
    動かなくなっていき、最後はあなたの意識ごと私の身体になる)

    481 = 462 :







    …そんな。

    …そんな馬鹿な。

    俺は呆然とする。
    これまでのマルさんの話は全て嘘だった?

    …信じられない。マルさんが俺を騙していたというのか?
    全ては俺の身体を奪い取る為に?

    (……)

    マルさんからの反応は無い。
    …ホントに俺を騙していたのか?

    …マルさんは。

    …ホントに?

    482 = 462 :

    「危ないっ! ミヒロちゃんっ!!」
    呆然としている俺に向けられる叫び声。

    「…サトシ?」
    俺はその声でハッと我に返る。

    サトシから逃げている途中だった俺。

    無我夢中でいつの間にか車道に出ていた俺。

    …そして。

    俺の目の前には走行中のトラックが。







    キキーッ!!

    激しいブレーキ音。





    そして。












    トラックに跳ね飛ばされる俺が居た。

    483 = 462 :

    間が開きすぎましたorz

    しばらく開いていた割にはスレが伸びてないのが過疎というか。
    一応次回でラストです。よろしくです。

    484 :

    乙です!

    急な展開に土器が胸々ですぜ

    487 :

    GJ!
    急展開にwktkしまくりです。
    続きをお待ちしてます!

    489 :

    >>488
    これはいいこと聞いた

    490 :

    過疎過ぎる。

    491 :

    だな

    492 :

        どんだけ☆エモーション(その15、最終話)




    暗い世界。



    俺は目を開け、そして辺りを見回す。
    周りには何も無い。ただ真っ暗なだけ。

    …なんでここに居るんだろ?

    俺は記憶を辿って思い起こす。

    …ん?

    …そうだ、そう言えば俺はサトシと出かけていて
    サトシが俺の正体に気付いたんだ。

    そして逃げている途中で俺はトラックに跳ねられて…。

    …。

    う~ん、俺、死んじゃったのかな?

    思わず立ち上がって自分の身体を見回して見る。

    …とりあえずは何ともないよね。どこも痛くないし、服も破れている様子も無い。
    事故にあったのがまるで夢のように感じる。



    …グスッ

    …ん?

    グスッ、グスッ…。

    …何?

    暗くて気が付かなかったが人の気配を感じる。

    …誰だろ?
    俺は気配の方に向かって歩き出す。

    そう言えば俺の身体はサトシから逃げている時と違ってすっかり
    身体の自由が利く状態に戻っている。
    夢の中を歩いているようでちょっとふわふわした感覚があるものの意外に快適だ。

    493 = 492 :

    …グスッ



    グスッ、グス…

    …泣いている?

    その気配に近づく程にすすり泣くような音が聴こえる。
    とりあえず歩みを進めると、俺は目の前の存在に気付く。

    「…誰?」
    俺は一人の少女の姿を確認するとそう呟いた。

    「…ぐすっ」
    その場に座り込んでいる少女は相変わらず泣いたままであったが
    俺に気付くと顔をあげる。

    「…」
    俺は少女をじっと見る。

    少女は俺と同じ年くらいに見える。
    俺より長い髪をして、透き通った白い肌。
    白のワンピースを着ていてこの暗い場所で白さが際立っているように感じる。
    目鼻立ちがくっきりとしていてどこかのお嬢様ふうのこの少女、
    正直なところ可愛い。…俺も可愛いけどねっ、って張り合ってどうする?
    少女は泣いていたせいか目元が赤くなっているがそれも妙に艶かしく感じる。

    …でも、この子は。

    494 = 492 :


    初対面のはずなのに俺はその少女の名前を呼ぶ。
    「…マルさん」

    「…ミヒロちゃん」
    少女は俺の姿を見てさらに涙をポロポロと零しはじめた。
    俺は少女、マルさんの横に座る。なんとなく距離を置いてしまうのは今の俺の
    複雑な心境からである。

    「何で泣いているの?」
    俺はそう言うとちらりとマルさんを一瞥する。
    「まさかこんな事になるなんて思わなかったから…。私のせいで…ごめんなさい」
    マルさんはそう呟くと両手で溢れ出る涙を何度もぬぐう。

    「え…? 何で謝るの? だって、マルさんは俺の身体を乗っ取るつもりだったんでしょ?
    今更トラックに跳ねられたって気にしないけど? 俺は」
    俺はついついキツイ口調で彼女に返す。

    正直なところ、マルさんのせいで俺は女の子になってしまったわけだし、
    更には彼女に身体を乗っ取られてしまうというのだ。
    騙された事も相まって俺のマルさんに対する態度が厳しくなってしまうのは
    仕方の無いところである。

    「…うっ、私が悪いのは分かっているんだけど…、グスッ、そんな風に言われちゃうと
    …グスッ、グスッ、…ふぇえええ~んっ!!」
    俺の言葉に思いっきりショックを受けたマルさんは泣き出してしまった。
    「う~ん、泣かれても困るよ…、俺だって困っているんだからさ」
    俺は俺でマルさんの状況に困惑してしまう。

    マルさんを慰めようにも今回の元凶は彼女自身であるわけだし。
    むしろ俺の方が慰められるべきじゃないの?
    …などと考えてしまって、素直に彼女に接してあげられない自分がいる。
    俺はどうする事もせずにじっと彼女の様子を眺め続けていた。

    495 = 492 :

    「うぇ~~~ん、え~~~ん」
    マルさんは相変わらず泣き続けていて、哀しい気持ちが俺に伝わってくる。





    「…なんでそんなに泣くのさ? …俺だって」
    彼女の哀しい雰囲気が俺の心に入り込んできたせいか、俺の気持ちも
    どんどん悲しくなってくる。

    「…」
    俺は恨めしそうにマルさんを見る。
    彼女はその整った綺麗な表情を崩し、涙をポロポロと流しながら声を上げて
    哀しげに泣いている。

    俺はマルさんの姿を初めて見るが、たぶん普段の彼女は俺のイメージ通りの
    ほんわかとした明るい感じの少女に違いないと思う。しかし今のマルさんには
    そんな雰囲気を微塵も感じさせないほど悲しげな姿に見える。

    …。

    彼女の泣く、その理由は何なんだろうか。
    …俺の身体が手に入らなかったから? それとも…何?
    俺には彼女の気持ちなんか分からない。分かりたくもない。
    だって、これだけの事を俺にしたんだ、俺がどんだけ傷ついたか分かっているの?
    マルさんが本当の事を告げた時の俺のショックを理解しているの?

    …分かるわけないよね。俺だって分からないから、君の事。
    だって結局は俺とマルさんは他人同士だもん。

    …でも不思議。どうして今の俺とマルさんはお互い一方通行のすれ違いなんだろう?
    あれだけ気持ちをシンクロさせて通じ合っていたはずなのに。
    お互いの事あれだけ分かっていたはずなのに。

    496 = 492 :

    …。

    「ううっ、ぐす…ぐすっ」
    相変わらず泣き続けるマルさん。
    「…」
    何でそんなに哀しそうに泣くんだよ? 悪いのはマルさんでしょ?

    …俺の方がずっと可哀想なんだよ? 俺の方がずっと報われないんだよ?

    …何で?

    何で俺がこの状況でマルさんを可哀想に思ったり、同情を禁じえなかったりするんだよ?
    …訳分かんないよっ。何なの? この俺の感情は?

    俺の中でマルさんに対する様々な想いがぐるぐると駆け巡る。
    その想いが膨らんで行くに従って、俺の表情も変化していく。

    「…泣いたって駄目なんだからっ、俺だってマルさんに裏切られて…
    どれだけ、辛かったか。……分かるの? …ぐすっ」
    俺はマルさんに自分の想いを突きつけるように話かけるが、彼女の悲しそうな
    姿を見ていたら俺まで感化されて涙が溢れてきてしまった。

    「…ぐすっ、…ミヒロちゃん?」
    マルさんは俺の様子の変化に反応する。
    「マルさんは酷いよっ、…自分だけ泣いちゃってさ、グスッ、…行き場の無い
    俺の…気持ちはどうなるのさ? …うぅっ、グスッ」
    一度気持ちが揺らぎ出すとどうにも止まらないもので俺の感情は哀しさで
    溢れ出してしまった。

    497 = 492 :


    「…ぐすっ、ミヒロちゃん…泣かないで、…私のせいで…辛い想いをさせてしまって
    …ごめんなさい」
    マルさんは俺の側に寄って何度も謝る。
    「…そうだよっ! マルさんのせいだよっ!! 何で俺がこんな嫌な思いをしなければ
    ならないんだよっ!うっ、ううっ…ぐすっ」
    俺はもう悲しくって、腹立たしくって我慢できずマルさんに抱きついて泣いてしまう。

    「やだっ、…やだよ、ミヒロちゃん、泣いちゃ嫌だよぉ…」
    マルさんも泣き出す。
    「…俺だって好きで泣いているんじゃないよっ!
    どうして俺との関係を壊すような事をしたのさっ!! 有り得ないよっ!!
    俺はマルさんの事、…信じてたのにっ、ぐすっ」
    鬱積した思いを感情のまま話すものだから、俺は気持ちの抑制が利かない状態になっていた。

    「…ぐす、ぐすっ」
    マルさんは泣きながら黙って俺の言葉に耳を傾けている。

    そんな彼女の様子をよそに俺の喋りはますますヒートアップしてくる。
    「…俺の事、好きだの言っといてさ、…あの言葉は何だったの? 嘘だったの?
    俺を騙して…苦しめて、…楽しかったの? …それとも気持ち良かったの?」

    …。

    …。

    「……仕方無いじゃない」
    一瞬の沈黙の後、ポツリとマルさんが一言。

    「…え?」

    「…私だって、望んでこんな事をしたかったわけじゃないよっ…!」
    「ま、マルさん…?」
    「…確かに責められるべきは私だよ。一方的だって言われても弁解の余地は無いよ。
    …でも。…でも、ミヒロちゃんだって…私の気持ちを分かってないじゃない?
    どうして私がこんな事をしなくちゃならないかって。…こんな人を騙してまでも、
    理不尽な事を望まなくてもしなくちゃならないかって…!」

    「…え、え…と」
    予想もしなかったマルさんの言葉に俺は戸惑う。
    …ひょっとして、逆切れですか?

    498 = 492 :

    マルさんは俺の顔をじっと見つめる。
    その顔は涙を零しつつもさっきとは変わって強い表情になっている。
    俺は俺でその様子に少々たじろぐ。マルさんの迫力(それほどでは無いにしても)に
    押されているような感じ。

    「…私だって、"生きたかった"の。 人に寄生して、乗っ取るのが私という"種"の本能だもの。
    乗っ取られる方にして見れば理不尽極まりないかも知れない…。でも、私にしたって、
    こういう事をしなければ生きていけない、…理不尽さを持っている」
    「…」
    「…乗っ取る側と、乗っ取られる側。
    それぞれの思いは相容れないし、それぞれが一方的だと思う。
    …ミヒロちゃんは私に自分の気持ちなんて分からないよねって聞いてきたけど、
    ミヒロちゃんだって私の気持ち、分かってくれないよね?」

    「…マルさんの気持ち?」
    「…今更、信じてくれないかも知れないけど私はミヒロちゃんの事、…大好き。
    …初めは生きる為に寄生した対象だった。だけど短い間ではあったけれども一緒に生活してきて
    お互いの気持ちを通わせ仲良くなっていくうちに…ミヒロちゃんが私にとって大事な存在に
    なってきたの……嘘じゃ、無いんだから…」
    マルさんの表情がどんどん暗くなっていく。声も小さくなっていく。

    「…マルさん…」
    俺は俺で、どんどん胸が苦しくなっていく。

    今の彼女の話は嘘で、また俺は騙されるのかなと考えてみるが、
    …何だろう? この動悸は。…このどうしょうもなく切ない気持ちは。
    これ以上、マルさんの話を聞くことが辛くなっている。

    ひょっとしたら俺には分かっていたのかも知れない。…彼女の苦しみが。
    シンクロしている時にも心の何処かで気付いていたのかも。

    …だからかな? こんなもに俺の心が苦しくなっているのは。

    "生きる"為とはいえ自分の好きな相手を乗っ取らなければならない。
    自分の本能とそれに抗う気持ち。色んな葛藤の真っ只中にある彼女の苦悩。

    だけど誰もそんなマルさんの事を理解する者は無く、
    悩んだ結果に勇気を絞って本当の事を伝えた相手には散々な事を言われ、傷ついて。

    499 = 492 :

    「…そうか」
    俺は思わず呟く。

    …そうなんだ。マルさんだって、この不条理な世界の被害者なんだ。
    彼女だって好き好んでこんな生き方をしたかったわけじゃ無い。

    普通に人間として生まれて、俺やサトシ、母さんや実由達と仲良く生活したかったに
    違いない。

    「…嘘じゃ無いんだから…ぐすっ…」
    マルさんは何度も小さな声で繰り返し呟く。

    「…う」
    俺はズキッと自分の心が痛むのを感じた。

    …きっとこれは彼女に対する罪悪感だ。

    俺は初め、俺の身体を乗っ取ろうとするマルさんの身勝手さを責めた。
    だけど今、俺はマルさんを理解せずに辛く当った自分自身を責める。

    彼女は確かに俺を陥れようとした。
    そして彼女自身は今、俺に対する罪悪感に苛まれている。
    俺に色々言われる以前にマルさんは彼女なりに苦しんでいたんだ。

    「…そうだよな」
    改めて納得したように呟く俺。

    マルさんの気持ちはシンクロしていた経緯から俺は実のところ気付いていたと思う。
    だけどこれまで積み重なったショックの方が大きくて頭が回らなかった、
    …いや、気付かないようにしていたんだ。
    結果、マルさんが重荷を一人で抱え込んでしまった。
    ひょっとすると彼女の重荷を分かち合って軽くしてあげられたかもしれない。
    だけど俺はマルさんの苦しみを和らげるどころか余計に大きくしてしまったのだ。

    …。

    …俺はどうすればいい?

    今の俺が彼女に出来る事って何? そう考えると勝手に身体が動いた。

    500 = 492 :

    「…マルさん」
    俺は彼女の身体を優しく抱きしめる。
    「…ミヒロ…ちゃん?」
    いきなりの俺の行動に戸惑うマルさん。
    「正直、俺はマルさんにどうすればいいのか分かんないけど…、
    でも俺はマルさんの泣く姿は見たくない。…やっぱり俺は何だかんだ言っても
    マルさんの事キライになれないんだよね」

    「え…」
    目を見開いて俺の事を見るマルさん。彼女の大きな瞳がさらに大きくなる。

    「俺も辛かったけど…マルさんも辛かったんだよね? マルさんの気持ち、
    …分かってあげられなくてゴメン」
    「そんな、ミヒロちゃん!? 悪いのは私なんだから謝らないで!
    …私だって分かってあげられなかったのに、ミヒロちゃんの気持ちを…」
    済まなそうに俺が頭を下げたのを見て慌てて止めさせようとするマルさん。

    「…もう一度、やり直せるかな? 俺とマルさん。今度はお互い隠し事無しでさ。
    色々有ったけど…大丈夫、もっとお互いにいい関係になれると思うんだ」
    ちょっと視線をそらしつつ話す俺。柄にも無い事を話したせいか何となく照れくさい。

    「ミヒロちゃ…」
    マルさんの瞳が涙で溢れる。
    「…ああ、もう、マルさんは。泣かないでよ。マルさんは明るく笑った方が可愛いんだから」
    俺は何処からとも無く取り出した花柄のハンカチで彼女の涙を優しく拭う。
    マルさんは頬をほんのりと赤らめながら微笑む。
    「…うん、そうだね、うん、…ありがとう、ミヒロちゃんww」

    俺とマルさんはお互いにあらためて顔を見合わせ、そしてお互いに笑いあった。


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