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    元スレ別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part2

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    501 = 492 :

                 ◇

    「それにしても此処って何だろう」

    ひとしきりお互いに話したい事を話した後、現在の状況を確認する俺。

    「ここはミヒロちゃんと私の二人だけの深層世界。外界から切り離された
    肉体の存在しない精神だけの世界」
    マルさんは自分の膝枕に俺を寝かせたままの状態で俺の髪を撫でながら話す。
    何でこんな体勢になっているかは不明だが、何となくマルさんと話している内に
    こんな状況になっていたりする。
    「肉体が無い…? でも、マルさんの身体の感触はあるよ? こんなふうに」
    俺はそう言うとマルさんの手を握る。
    彼女の柔らかくて暖かい手の感触が気持ち良い。

    「それはミヒロちゃんがこれまでの経験として得た感触という記憶のお陰で
    意識的に感じているだけだよ。私だってミヒロちゃんを通じて体験した感触の記憶で
    こうしてミヒロちゃんの髪の感触を得る事が出来るんだもん」

    「うん? そうなの? 何となく分かるような分からないような…。
    とりあえずは此処は現実の世界で無い事は確かだってことだ」
    俺はマルさんの手に続き、彼女の別のプニプニする部分を触りながら周りの様子を
    眺める。
    「やん、ミヒロちゃん? どさくさに紛れて何処触っているのww
    とにかく此処はいつまでも居ても決して良いところじゃ無いって事は確かだよ」
    マルさんは顔を赤らめて俺の手を握る。
    「ふ~ん、それじゃ、早いところ元の世界に戻らないとならないのか。
    でもな~どうやって戻りゃいいの? 第一、戻っても俺の身体はトラックに
    跳ねられてどんな事になっているのやら…」
    俺はちょっと困惑の表情を見せる。

    俺の記憶が確かならば真正面から衝突したはずだから、かなり酷い事になって
    いるのではないだろうか?
    たとえ意識が戻っても身体が無ければ全く意味が無い話だ。

    502 = 492 :

    「ふふっww それは大丈夫よ、ミヒロちゃん。私には"力"があるって言ったでしょ?
    跳ねられる瞬間、私はミヒロちゃんの身体をガードしたの。だから身体は無傷よ」
    にっこりと微笑むマルさん。
    「…そうなの? すごいな、マルさんは」
    「ふふっww そんなに感心されると照れちゃう」
    俺の感心した様子に照れくさそうに顔を赤くするマルさん。

    「それじゃ、戻る方法を考えることだけが当面の課題だって事だ。
    さて、どうするかな…」
    「あ、それも大丈夫。私の"力"でミヒロちゃんは戻れるからww」
    マルさんはそういうと自信有りげに胸を張って見せる。
    「え? そうなの? 何だ、それじゃ全然困ることなんか無いじゃないか」
    俺は彼女のプニプニする部分を触りながら言う。
    「きゃっ、もう、ミヒロちゃん、触り過ぎだよ?」
    「あ、ゴメン、ついつい。だって俺より大きいんだもん。それ」
    「あのね…ミヒロちゃん」
    ちょっと困ったような笑顔を浮かべるマルさん。



    「それじゃ…戻るだけなんだよね」

    一連のやり取りが終わり、一息ついた俺はあらためて呟く。
    「ん? どうしたの、ミヒロちゃん?」
    俺の一瞬の暗い表情に首を傾げるマルさん。
    「戻るのはいいんだけど…ちょっと、ね?」

    戻ると分かった瞬間、俺の脳裏にサトシの顔が浮かぶ。

    俺はまだ奴との話が完結してなかった事を思い出す。
    確かにサトシは俺の正体に気付いたのかも知れない。
    …だけど気付いた後、俺とサトシの関係はどうなるんだろう?

    考えてみれば俺だってマルさんと同様、サトシを欺いてきた。
    俺とマルさんは気持ちをシンクロしていたからこそお互いに分かりあうことが出来た。

    だけど、俺とサトシは分かり合えるのだろうか?
    …いや、それ以前に俺は勇気を持ってサトシの前で真実を話せるのだろうか?

    503 = 492 :

    「ミヒロちゃんww」
    マルさんは背後から俺のプニプニする部分を触ってくる。
    「きゃ!?」
    驚く俺。
    「お返しww 『きゃ』なんて、すっかり女の子だよねww」
    「ちょっとぉ? マルさん?」
    俺の反応に嬉しそうなマルさんと恥ずかしそうに顔を赤くする俺。
    「大丈夫だよww サトシ君は分かってくれるよ? 晴子さんもそう言っているし。
    それはミヒロちゃんの方が良く分かっているでしょ?」
    「…まあ、ね」
    「私、ミヒロちゃんはきっと上手く行くと信じている。…ミヒロちゃんの願いは私の願い。
    私はサトシ君とミヒロちゃんが昔の様に仲良くやっていける事を願っているよww」
    「…うん、そうだね、俺の心配なんて多分杞憂に終わると思う。…ありがとう、マルさん」
    俺は改めて笑顔でマルさんにお礼を言う。
    「どういたしましてww …さあ、戻ろ」
    マルさんは俺に笑いかける。

    504 = 492 :

                    ◇
       
    「さぁ、ミヒロちゃん、立ってくれる?」
    マルさんは立ち上がると俺にも立つように促す。

    「えーと、これでいい? …で、次はどうするの?」
    俺は言われるままに立ち上がるとマルさんの次の指示を待つ。
    「…別にミヒロちゃんは特別する事は無いの。じっと、目を閉じてさえ居てくれれば。」
    「ふうん? そう、分かった」
    俺は目を閉じる。
    当然の事だが俺の視界は何も見えなくなる。

    「変に緊張しなくていいからねww リラックスしてくれればいいの」
    マルさんの声だけが俺の耳に届くのみである。

    「…」
    俺は何も言わずじっとしている。
    これで目を開いた時には俺は現実世界に戻っているのかな?
    ふと俺は考えてみる。



    …あれ?

    俺は何か重要な事を忘れているような…。

    「…さあ、行くよ、…ミヒロちゃん」
    マルさんの声が聞こえる。

    …何だろう? マルさんの声が何だか寂しげな感じがする。

    …。

    …そう言えば、そもそもマルさんは俺の身体を乗っ取る予定だったはずだ。
    その話はどうなったんだろう? 俺はマルさんから聞いていない。

    「あの…、マルさん…」
    俺は恐る恐るマルさんに聞こうとする、その時。

    「…さよなら、ミヒロちゃん、…いえ、ヒロアキ君…」
    悲しげなマルさんの声。

    505 = 492 :

    …え?

    俺は思わず目を開ける。目の前にはマルさん。
    マルさんの周りは相変わらず暗い。しかし、俺の身体は不思議な光に包まれていた。
    何だか分からないけど暖かい光。安心できる心地良い光。

    「さよなら…って、マルさん?」
    俺はマルさんの言葉が気になってマルさんに問いかける。
    「…」
    マルさんは俺をじっと見つめている。
    …涙を流しながら。

    「ど、どういう事だよ? 何で俺だけが光に包まれているの?
    そ、それに…さよならって…」

    「…最後の最後までゴメンね。今の私は"力"の使いすぎで存在が消えかかっているの。
    だけどミヒロちゃんだけはちゃんと元の世界に戻してあげるからね。
    …私の残された力を使えば確実だから、安心してねww」
    涙を零しつつもマルさんは笑顔を浮かべようとする。
    「ちょ、ちょっと、待ってよ! マルさんは生きる為に俺に寄生したんだろ?
    ようやくここまで、あと一歩のところまで来たんだろ? それなのに、何で…」

    そうだ。ここまでマルさんは目的を持って俺のところまできたんだ。
    それなのに今更なんで俺だけを助けようとするんだ? 意味が分かんないよ。

    「…どの道、ミヒロちゃんの身体は一人の意識しか入れる容量は無いのよ。
    それ以上だといずれは身体が崩壊するわ。"共存"は有り得ないのよ。」
    マルさんは堪えるように俯くと淡々と語る。
    「だからって、何で…」
    納得できない俺はマルさんに食い下がろうとするが、光に包まれている俺は
    何故か身動きが取れない。
    「…私という"種"の中では、きっと私って落ちこぼれなのかな?
    これまで私が宿主を得られなくって失敗したのは他の仲間と比べて
    たぶん何かが足りないのかも知れないねww
    …だけど、私は自分の生き方に後悔はしてないよ?
    ヒロアキ君と出会ってからの私は短いながらも毎日が楽しくて充実していたと思うの。
    だからかな? 私は今、こんなにも嬉しい気持ちで一杯なんだもんww」

    506 = 492 :

    「マルさん…?」
    彼女の言っている事が分からず首を傾げる俺。
    「…やっぱり身体は本来の持ち主が持つべきだよねww 晴子さんや、実由ちゃん、サトシ君が
    心配しちゃうといけないからねww」
    すっと涙を拭うとマルさんはいつも通りの明るい声で微笑む。
    「俺は、俺は嫌だよっ! どうしてだよ? もう一度やり直そうと言っただろ?
    もっとお互いの事を知り合っていい関係になろうって言っただろ? 何でだよ!?」
    マルさんの言っている事が次第に分かってきた俺は顔色を変えるとマルさんに声を張り上げる。

    「…こんなに非道い事をした私の事をそこまで想ってくれて、ありがとう。
    "マル"って名前を私に与えてくれて、…ありがとう。…ミヒロちゃん、いえ、ヒロアキ君に
    会えて良かったww …私、ホントに幸せww」
    マルさんはニッコリ笑う。
    「やだやだやだよっ!! マルさん! 嫌だよ!! 居なくなっちゃ嫌だよっ!!
    …こんなに、こんなにマルさんの事、好きなのに…!!」
    俺は必死になりながら叫ぶ。どうしょうもなく涙がポロポロと零れる。

    「…ありがとう、私もミヒロちゃんの事…好きっww」
    最後にとびっきりの笑顔を俺に見せる彼女。
    「マルさんっ! 駄目だよっ!」
    必死に声をかける俺。 …そして。
    「…さよなら、ミヒロちゃん」

    「マルさーーーーーーーーんっ!!!!」

    彼女に最後の言葉に思わず叫んだと同時に俺の身体がさらに強い光に包まれる。
    そして身体が浮かんだかと思うと一気に上昇する感覚に襲われる。

    「…う、…うっ」
    思わず声が出る俺。
    凄い勢いで俺の身体は上昇している。

    目の前は光の束に包まれてもはやそれ以外は何も見えない。

    「…」
    そして、どこまで昇っていくのか分からない内に俺は意識を失っていった。

    507 = 492 :


                     ◇





    「ミヒロちゃん!!」





    「お姉ちゃんっ!!」



    …。

    …ん?

    「…あれ…?、ここは…」

    気が付くと俺はベッドに寝ていた。
    …病院のベッド。多分、搬送先の病院かな。

    「…ん、眩しっ、…ライト?」

    部屋の上に取り付けられた幾つもの電灯が眩しい。
    治療室か何かかな? ここは?
    辺りには色々な機械が置いてある。

    …多分、意識不明だった俺はここで色々診て貰っていたに違いない。

    「やったーっ!! 気が付いたよっ!! お姉ちゃん!!」
    「ミヒロちゃん! 良かったわ~!!」
    「うぷっ? な、何!?」
    俺が目が覚めると同時に実由と母さんに抱きつかれる。
    二人とも涙を浮かべながら嬉しそうにしている。

    …ん。

    …ああ、そうか。
    俺はあの時、トラックに跳ねられて病院に運ばれたんだっけ。

    …心配かけちゃったな。二人には。

    508 = 492 :

    「お母様方、困ります! まだ安静なんですよ、ミヒロさんは!」
    看護婦さんが母さんと実由を窘める。
    「えへへっ☆ ゴメンなさい、ついつい嬉しくって♪」
    「そうよね~仕方ないのよねぇ~」
    二人は注意されたにも関わらず全然嬉しそうである。

    「ミヒロさん、身体の状態はどうですか?
    外傷は全然無いですし、一応、レントゲンで確認できる部分は診てみました。
    とりあえずは打撲等の内出血も無いようですが…」
    看護婦さんは俺に色々と質問と確認作業を滞りなく行っていく。

    「…え~と、不思議と身体は絶好調だと思います。
    むしろ寝不足だったので良く寝れたかな…って」
    俺は身体を起こすと頭を掻きながら身体の節々を動かしてみる。

    意識がハッキリしたところで気が付いたが、
    知らない間に俺は白い浴衣のような服を着せられていた。
    何かスースーするな、と思ったら下着も何も着けてないようで何とも心もとない。
    でも相変わらず俺の身体は女の子のままである事はすぐ認識できた。
    まぁ、身体が無事で有る事に関しては喜ばしい事なんだけどね。

    「そうですか…。まぁ、何事も無いのが一番ですけどね。とりあえず今日は
    この後もう一度検査をしてもらった後、安静にしてもらって一晩泊まってもらいます。
    問題ないようでしたらすぐ退院できると思いますけどね。」
    看護婦さんの報告を受けてやって来たお医者さんが俺の様子を見ながらそう言うと
    治療室を後にする。

    そしてそのまま俺達は入院病棟の一室に移動させられた。

    「それじゃ、私達は一旦家に帰るからね~、大人しくしているのよ~」
    母さんと実由は病室に荷物を運ぶと俺を残して部屋を出る。

    「ふう、やれやれ…」
    俺は母さん達が持ってきたパジャマをバッグから引っ張り出すとそれに着替える。
    一応お出かけ用なので意外にまともなピンク色のスタンダードなタイプのパジャマだ。
    家の中ならともかく、一応外出先だもんな。人の目も気になるから
    変にコスプレっぽいデザインのパジャマで無いのはありがたい。
    下着も白のショーツとブラジャーだし、母さんもそれなりに考えているようだな。
    母さんが気を遣ってくれたのかどうか分からないけどここの部屋は個室だし、
    大人しく寝るにはなかなかいい環境だ。

    509 = 492 :


    コンコン。

    ―ん?

    コンコン。

    ―え?
    俺の部屋のドアをノックする音。
    母さんや実由は出かけているからあの二人では無いはず。

    …誰だろ?

    「…サトシだけど、入っていいかな?」

    ―え? サトシ!?
    思わず慌てる俺。顔を会わせるのに躊躇われる一番の人物。

    …。

    …でも、このまま黙っているわけにもいかないよね。
    俺にはやらなければならない事がある訳だし。

    「…どうぞ」
    俺はドアの向こうの相手に返事をする。
    少々声が小さいのは心にまだ若干の迷いがあるせいか。

    「うん、…開けるよ」
    …ガチャ。部屋のドアが開く。

    俺はベッドに寝た状態でサトシの姿を見る。
    サトシは俺と外出した時と同じ格好でお見舞い用に花を用意していた。

    「起きてたんだ? 返事が無いから寝ているものと思ってたよ」
    サトシはちょっと笑みを浮かべると花瓶に持参した花を入れる。

    「…」
    俺は何も言わずサトシの様子をじっと眺めていた。

    花を花瓶に入れるサトシ。

    俺はその様子をじっと見つめていた。
    ここまで来て誤魔化す心算は俺には毛頭無いが何を話すべきか考えあぐねる。

    510 = 492 :


    どうやって話そうか、話すきっかけはどうしよう、とか
    俺は色々考え過ぎて話しかける事すら思いつかないので
    さっきからずっと黙り込んでいる。

    「さて…」
    サトシは俺のベッドの横に病室に備え付けの丸椅子を横付けすると
    そこに座り込む。

    「…」
    俺はそれをじっと見つめる。

    「お医者さんから身体は大丈夫って聞いたけど本当に平気なのかい?」
    サトシはそう言うと俺の身体のあちこちを眺める。
    思いのほかサトシは俺に普通に話しかけてきた。
    口調はこれまでと同様、ミヒロに対するやんわりとした感じだ。

    「…うん、まぁ、何となく…ね」
    俺はかすれ気味の声で小さく話す。
    「…そう、良かった」
    ホッとした様子のサトシ。

    「…」
    俺はまた黙り込んでしまう。
    言わなければならない事が有るにも関わらず。何してんだろう、俺。

    「…ゴメン」
    サトシは急に頭を下げて謝りだす。
    「え?」
    サトシの態度に戸惑う俺。
    「俺のせいで事故を起こしてしまったよね、…だからゴメン。」
    サトシは済まなそうに俺に謝る。
    「な、何で謝るんだよ? サトシが悪いわけじゃないのに!
    俺がハッキリさせなかったからこんな事になったんだ、自業自得だよ、
    だから謝らなくていいんだ!」
    頭を下げているサトシの頭を起こそうとベッドから身を起こす俺。

    「…だからだよ」
    「え?」
    「俺がお前の事に早く気付いていればこんな事にならなかった。
    …お前がどれだけ苦しんでいたのかを理解していれば
    ここまでお前を追い詰める事なんて無かったんだ。…だからゴメン、ヒロアキ」
    サトシは自分の両手をベッドの上に乗せ、深々と頭を下げた。

    511 = 492 :

    「サトシ…!」
    俺はサトシの言葉に絶句する。

    このミヒロの姿であるにも関わらず、俺の本当の名前を呼んでくれたサトシ。
    それは俺にとっては驚きであり、戸惑いであり、何よりも…嬉しさであった。

    …何だろう? この感覚は?
    懐かしい…いや、失われたものが戻ってきた、…いやそれだけじゃない。
    理解されるとは思われなかった、理解してくれるとは考えてなかった。
    …そんな期待なんかしてなかったのに。
    全ては俺が本当の事を話していれば済んだだけなのに。
    ここまで俺の事を考えていてくれるなんて。

    俺の中でこれまで抑えてきた"想い"が勢いを増して溢れてくる。
    目の前がどんどんぼやけてくる。

    「…ぐすっ」

    「…」

    「…ぐすっ、ぐすっ」
    「…ん?」
    サトシは俺の様子の変化に下げていた顔をそっと上げる。

    「…ヒロアキ?」
    俺の様子を見て驚いた表情をするサトシ。
    「ぐすっ、ぐすっ」
    「泣いて…いるのか?」

    512 = 492 :

    「ぐすっ…、うん…」
    俺は流れる涙を拭う事もせずじっとサトシを見つめる。
    「どこか痛いのか? それとも俺、変な事言っちゃった?」
    泣いている俺の様子を見て妙にあたふたするサトシ。
    「ううん、…サトシは全然悪くないよ…、むしろ…」
    「むしろ?」
    「ぐすっ…俺の方こそ、ゴメン…、あれだけ俺の事を心配してくれていたのに、
    本当の事を伝えられなくて…」
    「それは仕方無いだろ? もしも俺がヒロアキの立場で急に自分の姿が変わったら
    どうしたらいいか俺だって分かんないよ」
    涙を流す俺にハンカチを手渡しつつ、サトシは優しげに話す。
    「…ううん、それだけじゃ無いよ、俺は…ミヒロになってお前と会ってからずっと
    お前の事をを欺いてきて…、お前の気持ちを台無しにして…しまった。
    謝ってどうにかなるわけじゃ無いけど…ホントにゴメン、ゴメン…サトシ、うっ…ううっ」
    俺は零れる涙をどうすることも出来ずにひたすらサトシに謝る。
    最後の方になってくると話す事も出来ずに嗚咽ばかりになってしまう。

    「…いいんだよ、俺はそんな事気にしないから。
    …俺がミヒロちゃんに惹かれたのはきっとミヒロちゃんがヒロアキだったからだと思うんだ。
    だからそれは俺にとっては…きっと成るべくして成った気持ち。…だから別にいいんだ。
    こう言うとまるで俺がヒロアキの事を変な風に想っているように聞こえちゃうけど…ハハ」
    最後の方の言葉で若干苦笑しつつも話すサトシの言葉は俺の心に優しく響く。

    「…だけど、だけどっ!」
    思わず声を出す俺。
    「…だけどそれだと俺の気持ちが治まらないんだよっ!
    …だってこれだけの事を俺はサトシにしたんだよ?
    お前は俺をもっと責めていいのに…、もっと罵倒してもいいはずなのに…
    …なんでそこまでお前は俺に優しくしてくれるんだよ?」
    掴みかからんという位の勢いでサトシに詰め寄る俺。
    「もういいんだよ、ヒロアキ。…もう、いいんだ。
    とにかく…どんな姿になってもお前はお前だろ? 俺はヒロアキが無事であればそれで充分だよ」
    サトシは俺の頭を撫でる。それは俺をなだめようとする感じもあった。

    513 = 492 :

    しかし俺は泣き続けた。
    これまでの事をサトシに話してこれなかった自分自身の不甲斐無さもあったが、
    俺の無く理由のほとんどはサトシがあまりにも俺に優しくて…
    その嬉しさのあまり感激していた部分が大きかった。
    「おい…泣くのを止めてくれよ…俺はどうしたらいいのか」
    困った表情で俺に話しかけるサトシ。

    「…じゃあ」
    俺はそう言うとサトシに抱きついた。

    「え? ええっ!? ヒロアキ?」
    俺のいきなりの行動に焦りまくるサトシ。

    「…ゴメン…ゴメンね、でもこうしていれば、…きっと気持ちが落ち着くから…」
    サトシの胸元に顔を押し付けたまま呟く。
    俺はそれ以上の言葉を話す事は出来なかった。

    …後はもう泣く事しか出来なかったから。

    「…」
    サトシは何も言わず俺の身体をそっと抱きしめると
    俺の気持ちが落ち着くまでずっとそのままで居てくれた。

    サトシは俺を受け止めてくれた。こんな俺を。
    そう思うと次第に俺の気持ちは落ち着いてくる。

    「…」
    俺はサトシの胸の中で思う。

    …結局、俺は自分からサトシに言えなかった。

    だけど結果的にはサトシは俺の事を理解してくれた。
    サトシから話を振ってきてくれたお陰で何とか出来たって感じ。

    でも…とにかく良かった。
    過程はどうあれ、俺の望む形の結末を迎える事が出来たのだから。

    514 = 492 :



    …だけど。

    「マルさん…」
    俺は一人の少女の姿を思い浮かべる。

    ―マルさん、俺はサトシと元の関係に戻る事が出来たよ。
    俺は心の中でマルさんに話しかける。

    だけど、サトシとの関係回復を俺と同じ位に望んでいてくれた彼女はもう
    俺の中には居ない。

    ホントは二人で喜び合いたかった。
    また二人で色々おしゃべりしたりしたかった。
    マルさんと楽しく毎日を過ごしたかった。

    …でもそれはもう叶わない事。

    「…」
    彼女の事を想い、俺はさらに涙を流した。

    515 = 492 :

                    ◇

    「お待たせ、サトシ」

    「…遅いよ、今日が最初の登校日なのに…って、…へえ」

    俺が玄関から外に出るなり何かぼやいていたサトシであったが
    ちょっと戸惑った表情をして俺を見る。

    「ん? どうしたの? 何か変?」
    サトシの様子を見て俺は自分の姿を再確認する。

    今の俺の格好は母さんのお下がりのセーラー服では無く
    学校指定のブレザー服。

    千絵先生のお陰で学校の制服は登校日までに間に合ったので
    早速着たのだけど…変なのかな?

    それとも実由が俺のスカートの丈をまた短くしたのがいけなかった?
    とりあえず膝上15センチ位だから問題は無いレベルだと思うんだけど。

    「…いや、その…似合っている、か、可愛いな…って」
    サトシは顔を赤くして呟く。照れのせいか俺から目をちょっとそらしつつ。

    「え、そ、そう? …あ、ありがと」
    俺はサトシの言葉に顔が熱くなっていくのを感じる。
    たぶん今の俺の顔は真っ赤になっているんだろうなと思いつつ。
    でもサトシに「可愛い」って言われてすっごく嬉しく思うのは何だろ?
    胸がドキドキしてくるのを感じる。

    「さ、さぁ行くか。初登校日に遅刻なんて有り得ないだろ」
    「うん」
    サトシの言葉に頷くと俺はサトシの後について歩く。

    そう、今日から俺は転入生のミヒロとして
    これまでヒロアキとして通っていた高校に通うのだ。

    俺がまだヒロアキだった頃と同じところを通って学校に向かう。
    それまでは当たり前で別に何とも思わなかった風景が新鮮に感じる。

    516 = 492 :

    すっかり晴れ渡った青い空。
    青々と茂る草木の香りが爽やかだ。

    もうそろそろ衣替えの季節。新品のブレザーともしばしのお別れかな。
    暖かい初夏の雰囲気がちょっと緊張気味の俺の心を浮き上がらせる。

    「…うん」
    何となく頷く俺。

    ここまでの状況になるのに色々あったけど、…もう大丈夫。
    自分の為というのもあるけど、俺の事を考えてくれたサトシの為にも、…そして。

    「よーし、頑張るぞっ!」
    俺は思わず声を張り上げると横に居るサトシの手を掴む。
    「え? どうしたの? 急に?」
    俺のいきなりの行動に戸惑うサトシ。
    「頑張るぞって、言ったの! 行くよ、サトシ!!」

    俺…、いや私はサトシの手を引くとそのまま学校に向かって走っていく。

    「ちょっと、ミヒロちゃん! 早い早いって!」
    「ホラ、早く走らないと遅刻しちゃうよ!」
    顔を赤くしながら慌て気味のサトシに向かって私はニッコリと微笑む。


    ミヒロとしての新しい私の生活が今、始まろうとしている。






         どんだけ☆エモーション 完

    517 = 492 :

    そんな訳で終了です。遅くなりましてすいませんでした。

    最初の投下から良くもまぁ、ここまで最後まで続いたものだと思いますが
    これも投下の度に皆様からのコメがあっての事だと思います。
    ホントにありがとうございます。

    この話の続きの構想もあるにはあるのですが
    それはまた別の機会があればという事で。




    518 :

    >>517
    乙です~
    最後どうなるかと思ってたら…良かったです

    続きwktkして待ってます

    519 :

    激しくGJ!
    後、長い間乙です!!俺も続編あるなら期待してますぜ!

    521 :

    >>517
    乙~ついに終わっちゃったかー。

    まだ続いてる話って他にあるのかな?

    522 :

    GJ!
    とうとう終わってしまったか…。少し寂しいな。
    だが、番外編(?)に期待しよう!待ってるぜ。

    523 :

    ものすごく乙
    予想外のエンドだった

    524 :

    投下する人がいなくなったら廃れそうな悪寒。

    525 :

    もう十分廃れてるだろ
    みんな他のTSスレとか見てるだろうしな

    526 :

    それでも集まるおまいらに萌えた

    527 :

    >>525
    >>他のTSスレとか
    見落としがあるかもしれんので教えて

    528 :

    他のTSスレといってもこのスレよりフリーダムに投下できる設定のスレは無いと思うが。すっかり過疎ってしまっているのが残念な気がするので再び盛り上って欲しいぜ。

    529 :

    >>528
    なんか投下しようか?
    不定期になると思うが

    531 :

    >>530
    おk
    大体考えたら書き始める
    きっと下手だがそこは勘弁

    533 :

    投下します、一応酉つけとく

    534 = 533 :

    ――ある日の朝


    ジリリリリリ「うるせぇんだよ!11!」バキッ ジリ・・リ・・

    「あ、やっちまった」

    「・・・ん?」

    ・・・自分の声が高くなっている?

    「昨日叫びすぎて声がおかしくなったかな」

    体が重い。ダルい。倦怠感がある。

    「・・・風邪引いたかな」

    今日は学校休むか。

    535 = 533 :

    「おはよう」

    「ぶはぁっ」
    「ぶはぁっ」
    「・・・痴女」ボソッ

    「・・・どちら様ですか?」

    「・・・は?」

    「ですから、どちら様ですか?と、聞いているんですが」

    「な、何言ってんだよ。男だよ。忘れたのか?」

    「冗談はやめてください。息子の名前を騙っているんでしょう?」

    「え?ちょ、え?」

    「この上着でも羽織って、早く出て行ってください」サッ

     上着? 昨日は確かに、上を着ないで寝たが。
     自分の身体を確認してみると、少し大きめの、胸が、出て、い、る・・?

    (どういうことだ!?これじゃあ、まるで・・・)

    536 = 533 :

    「早く出て行ってくださいと言っているでしょう」キラリ

    (包丁?やばい!)
     「待て!だから男だって言ってんだろ!」

    「冗談もほどほどにしてくれないと困るんですよね」スウッ・・

    (包丁突きつけてくんなよ!)
     「いっ、いま証明するから待ってくれ!」

    (なにか、何かないか?・・・そうだ、昨日の晩飯!これなら!)
     「昨日の晩御飯はスーパーで安売りしてたコロッケとご飯だった!」

    「・・・他には?」

    「山盛りサラダ(ドレッシングなし)!」

    「・・・本当に男なんですか?」

    「そうだっての!」

    「・・・そのように仮定するとして話を聞きましょう。
      あとそこの二人」

    &父「はいぃ?!」

    「その顔と鼻血を止めなさい」

    &父「スイマセン!」

    537 = 533 :

    「それで、朝起きたら女になっていたと。」

    「・・・はい。」

    「なにか他には?」

    「・・・ありません。」

    「今後の対策だけど。・・・兄!」

    「はい!」

    「見つかった?」

    「いくつかあった。遺伝子の変異とか、憑依とか。
      現実的とは思えないけど。」

    「そう。じゃあ男が女になった原因は、定かではないってことね。
      なにか手がかりが見つかればいいんだけど」

    「これからどうすればいいんだ?」

    「着替えとか、生理用品を一応買っておきなさい。
      化粧とかしたいなら買いにいく?」

    「化粧はいらねぇな。」

    「ん。妹が帰ってきたら買い物につき合ってもらうといいわ。
      私は学校に連絡しておくから。」

    「そうか。」

    「そうかじゃない。少しはこれからの事、考えたりしなよ」

    「スイマセン!」

    540 :


    ――郊外のデパート

    とりあえず上着、スウェットを着てきた。
    いくらかサイズが合わないが気にするほどのものではない。
    髪留めとかも買うんだろうか。俺だけ髪が長いからなぁ。

    「下着」

    「わかった」


    「この辺りでどうだ」

    「いいんじゃね?お前に任せるよ」

    「ブラは」

    「測ってDだった。俺としてはサラシを巻きたい、学ランだから」

    「好きにしろ」

    「いいのかよ」

    「構わない、だけど一応買っとけ」

    「ああ」

    541 = 533 :


    「普段着」

    「おう」


    (じーー)

    妹がこちらを見つめてくる。いったいなんなんだ。

    (じーー)

    今度は服を眺めている。何がしたいのか。

    「これ」ホイ

    「おっと」

    「これ、これ、これ、これ」ホイホイホイホイ

    「おっとっとっと」

    「ここで兄登場!wwwwwwww服のチョイスに北wwwwwwww」

    「何の脈絡もなく出てくんじゃねぇ、帰れ」

    「いいから服選びは任せろwwwwwwwwwwww」

    「ロクでもないもん買ったらあとで[ピーーー]」

    「うはwwwwwwwwテラコワスwwwwwwww」

    542 = 533 :

    saga忘れたスマン
    脳内変換で

    543 = 533 :

    ――しばらくして

    「おお!こりゃすげぇ」

    試着室の鏡に映った自分を見て驚く。

    もともとモデル体型だったのと、つり目のキリッとした顔立ち。自分でいうのもなんだが。
    それに合ったジャケット、シャツ、ジーンズ。
    兄貴に言わせると基本中の基本らしいが、これではマンガの登場人物のようだ。つかマンガから引っ張ってきてるだろ。
    元々服装に興味はなかったから、驚くのも当然だが。

    「どうだwwwwww見直したかwwwwwwwwww」

    「全然」

     (´・ω・`)ショボーン
      「他にも選んでおいたお。いろいろ考えて着てくれお。」トボトボ

    相変わらず訳のわからない兄だ。
    あれさえなければ完璧な人間だろうに。

    544 = 533 :


    「靴」

    「はいはい」


    「どうせ喧嘩するんだから丈夫な靴買っとけ」

    「ああ」
      (服は丈夫じゃなくて良いのかよ)

    「普通の靴もな。これなんかどうだ」

    白と水色のツートンカラーの靴を差し出す。
    女になって少し好みが変わった気がする。

    「好きにしろ」

    「お前と来た意味がない気がしてきた」

    545 = 533 :


    「他には」

    「髪留めとかは?」

    「私のをやる」

    「サンキュ、ってかなんで髪留めなんか持ってんだ?
      結ぶだけの量無いのに」

    「持ってんだから持ってんだよ。いちいち聞くな。」

    「納得。ところで生rムグッ「迂闊に口走ったりすんな」

    「サーセン・・・」

    「行くぞ」

    その後は必要なものをいくらか買い、ついでだからとゲーセンに寄って帰った。
    てめーは美人だし、体つきも変わってるだろうから用心の為に、と、スタンガンも買わされた。
    いらない気はするけどな。スタンガン。

    547 :

    お、

    549 :

    意外とこのスレ見てる人いるんだなww


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