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    元スレ別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part2

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    401 = 400 :

    「…」
    千絵先生が行ってしまった後になっても俺は動揺が治まらずその場に居た。
    下校時間なので生徒の往来の邪魔にならないように廊下の窓際に寄りかかる。
    窓の外からは下校中の生徒が見える。皆、試験が終わったせいか賑やかな様子で
    俺とは対照的だ。

    …ショックだ。

    何でこうなってしまったのだろうか。
    天気はとても良いのだが、その良さが俺にとってはかえって空虚に感じる。
    …。
    ぼんやりしながらも俺は色々とこれまでの経緯を思い起こす。

    今週の初め、俺とヒロアキは一緒に帰った。
    俺にとってはいつもと変わらない光景でヒロアキもいつもと変わらない様子だった。
    しかしその日の昼以降から奴の消息がプッツリと途絶えた。
    何度携帯電話で連絡を取ろうにも実際に家に会いに行っても手掛かりは掴めなかった。
    翌日の朝、俺がヒロアキの家まで迎えにいった時に晴子さんは
    ヒロアキは海外留学に行ってしまったと言った。

    …そして今日の千絵先生の話。

    「やっぱり、おかしいぜ…」
    思わず言葉がこぼれる。
    あまりに話が急展開すぎるし、不自然にも程がある。
    第一、俺はヒロアキから留学の話をこれっぽっちも聞いてない。
    そのような素振りも全然無かった。たとえ以前よりヒロアキと接する機会が減っていたとしてもだ。

    肝心の母親の晴子さんはあんな感じだからまともな確認の取り様が無いのは
    俺自身が認識しているところであり。

    だからヒロアキに確認を取ろうにもその本人はあの日一緒に帰って以降
    全然連絡が取れなくなってしまった。
    これまでこんな事はヒロアキのやり取りの中で一度も無かった。
    実のところひょっとしたら連絡が取れるんじゃないかと未だに連絡を取り続けている。

    402 = 400 :

    「…」
    俺は晴子さんがヒロアキについて何かを隠しているに違いないと思っている。
    そりゃ、実の母親だもんな。知らない訳が無い。
    そうなってくるとその疑惑は晴子さんだけでなく千絵先生にもかかってくる。
    俺は千絵先生は晴子さんと非常に仲が良い事は知っている。
    絶対あの二人が裏で繋がっているのは間違いないと思う。
    さっきの会話の中にも何か意図的なものを感じるのは俺の気のせいだろうか。

    そうなってくると。
    「…この後の予定が決まったな」
    俺は一人呟くと教室に戻り、自分の荷物をまとめる。
    「サトシ、帰るのか? それなら俺と…」
    「悪い! 急用ができた! 急ぐからごめんな!!」
    「え? ちょ、サトシ!?」
    俺の戻りを待っていた吉田を振り切ると俺はヒロアキの家へと向かった。

    このままでは埒が明かないし、何も知らないままでいることなんて俺には耐えられない。
    …だから。

    403 = 400 :


          ◇

    (ミヒロ視線)

    「さて、そろそろ準備に取り掛からないとね~」
    「うん」
    夕方になって夕食の準備に取り掛かる俺。
    それぞれエプロンを身につけるとキッチンに向かう。
    「…」
    しかし相変わらず実用に向かないひらひらのエプロンですこと。
    親子揃ってフリフリのレースの入った可愛らしいピンクのエプロン。
    某所に行ったら普通にコスプレと勘違いされるんじゃないの?
    実由の分もあるのでペアルックというよりはトリオルックとでも言うのだろうか?
    …全くいい趣味しているよ。確かに似合っているから何も言えないが。
    「そうでしょ~、私たちに似合うと思ってチョイスしたのよ~」
    (ホント、よく似合っているよねww 可愛い~ww)
    「はいはい」

    そんなやりとりはさておき、俺は母さんと二人で今晩何を作るか話し合う。
    「今日は家庭的に肉ジャガなんてどう~?」
    「うん、いいと思う」
    あっさり決まる。
    嗜好の変化のせいかあまり好きでは無かったイモが最近好きになっている俺。
    何故か女の子ってイモが好きなんだよね。

    とりあえず下ごしらえの野菜を切る作業を始める俺。
    すっかり俺の包丁を扱う手つきもさまになってきている。
    「毎日の献立を考えるのって結構大変なんだな」
    「そうよ~、主婦って色々大変なのよ~
    ミヒロちゃんも立派な奥さんになれるように今から特訓しないとね~」
    「お、奥さんって、何言ってるの? しかも誰の!?」
    「ふふっ、誰なのかしらね~。でもいつかはミヒロちゃんも…ね♪」
    母さんは俺の方を見ると軽くウインクする。
    「ち、ちょっと、止めて欲しいんですけど!?」
    思いっきり動揺する俺。…ああ、もう、野菜のカットがバラバラだよっ!

    404 = 400 :

    気を取り直して下ごしらえに専念する俺。
    …トントントン。
    まな板の小気味の良い音が続く。

    ―奥さんか。
    作業の手を緩めてそのフレーズに想いを巡らす俺。
    今の俺の姿のままだといずれは誰かの奥さんになってしまうのかな、と考える。

    「…いやいや、落ち着け」

    この間まで男だった俺だよ?
    女になったからって急に男を好きになって付き合うとか、更には結婚して
    誰かのお嫁さんになるなんて実感が湧かないし有り得ない話だと思ってしまう。
    そうそうこの状況に順応なんて出来ないよなぁ…。
    (大丈夫よ、ミヒロちゃん)
    ―ん?
    (私がいるもの。私がいるから男の子を好きになる事も付き合う事も
    何ら違和感は出てこないわ。だって私、女の子だもの)
    ―…。
    確かに男の子と付き合う事について全然違和感というか拒絶する気持ちは
    俺の中には湧いてこないんだ。

    …しかも。
    しかも恐ろしい事に母さんの話の「誰の奥さんになるのかしらね」という部分で"ある人物"が浮んで
    来ていたのである。それも…
    (うふww ミヒロちゃんだけでなく私も好きだから良かったよねっww)
    俺の意識の中にマルさんの胸キュンな感情が流れ込んでくる。

    す、好きって!?
    だ、誰の事かな~~~~!!!!

    それは俺の中の”気持ち”と反応して恐ろしいまでの相乗効果を生み、
    甘酸っぱい感情が溢れかえってすっごいドキドキしてくる。
    「あらあら~微笑ましいわね~! 私も二人の応援するからね~!」
    母さんは嬉しそうに俺を抱きしめる。
    (頑張ろうね、ミヒロちゃんww)

    だから!
    だから、読まないでよ!! 人の心の中をっ!!!
    俺の顔が真っ赤になる。
    も~嫌っ!!

    405 = 400 :

    ピンポーン。
    玄関のインターホンの鳴る音がする。

    「あら? 誰か着たみたいね~」
    「実由じゃないかな? 見て来る」
    俺は料理を作る手を止めるとパタパタと玄関に向かう。

    ガチャ。
    実由だと思っていた俺は無用心にも確認もせずにドアを開ける。
    「え」
    ドアの向こうの人物に俺は思わず固まってしまう。
    「や、やあ」
    「…サ、サトシくん」
    そこにはサトシが立っていた。

    サトシもまさか俺が出てくるものとは思っておらず驚きの表情を浮かべている。
    俺は俺で昨日の事や母さんとのやり取りもあって正直なところ色々と気まずいのだが。
    (ホラ、ミヒロちゃん、頑張ってww)
    ―う、うん…

    「…え~と、昨日は色々ゴメンね。あと、鞄を持ってきてくれたんだよね、
    …ありがとう」
    俺はマルさんの励ましで何とか気持ちを落ち着かせつつ振る舞う。
    「いや、俺の方こそゴメン。ミヒロちゃんを泣かせてばかりで嫌な思いばかりさせて」
    「…? 嫌な思い?」
    サトシの言葉に首を傾げる俺。
    「昨日とか、一昨日とか、俺のせいだよね、ミヒロちゃんが泣いちゃったのは。」
    確かにサトシに会うたびに泣いたり怒ったりしているような気がしているが
    それは俺が原因で起きたものばかりでサトシ自身には非は無いと思う。
    「…何言ってるの? 別にサトシ君のせいじゃないよ、私が勝手に泣いただけ。
    それに嫌な思いなんて全然してないんだから気にする必要なんて無いんだよ?」
    「え、でも…」
    「気にしないでいいのっ、ホントだから、ね」
    困った感じのサトシに念押しで笑ってみせる俺。
    「…そうなんだ、それなら良かった。俺はてっきりミヒロちゃんに嫌われたかなって
    内心不安だったんだよね」
    ホッとした表情を浮かべるサトシ。

    406 = 400 :

    「やだなぁ、私がサトシくんを嫌いになるわけないじゃない? むしろ私は」
    「え? むしろ?」
    (むしろww 何?)
    「いや、まあその…、それにしても今日はどうしたの?
    試験が終わってサッカー部の活動再開だったよね、なんでココに?」
    思わず妙な事を口走りそうになるのを抑えて話の方向転換を図る俺。
    (もう、ミヒロちゃんったらww)
    「そうだ、俺は晴子さんにどうしても確認したい事があって来たんだ」
    「母さ…晴子さんに確認?」
    「あらあら~、サトシちゃんじゃない~」
    俺の背後から母さんが現れる。
    「どうも。ここのところ毎日来てばかりですいません。」
    ペコリと母さんに向かって頭を下げるサトシ。
    「いえいえ、いいのよ~、未来の候補の最筆頭だものね~」
    (晴子さんったら、ヤダww)
    「…未来の候補? 何ですか?」
    「ちょ、かあさ…、何を言ってるの!?」
    母さんの言っていることが理解できる俺は思わず動揺する。
    「いいじゃない~? 別に~」
    「もう、いい加減にしてよ!」
    「あらあら~、照れちゃって~ww」
    (うふふww)

    「…」
    俺と母さん(+マルさん)の盛り上がりとは対照的にサトシは神妙な顔を崩さず
    じっと俺たちの様子を見ていた。
    「どうしたの~? サトシちゃん、深刻そうな顔しちゃって?」
    「いえ、今日…学校で千絵先生から聞いたんですけど」
    「千絵ちゃん? まぁ、という事は」
    何かに気付いたような母さんの表情。

    「そうです、ヒロアキの転校の話です」
    「え?」
    俺はサトシの言葉に反応する。
    俺が転校? 初めて聞いたぜ、そんな事。

    「…先生の言った事を確認したくて今日はここに来ました。
    本当に、本当にヒロアキは学校に帰って来ないんですか?」

    407 = 400 :



    「今更、嘘を言っても仕方ないわ~。サトシちゃん、それは事実よ~」
    一瞬の沈黙の後母さんは答えた。
    「そうなんですか…」
    母さんの話に明らかに落胆の表情を浮べるサトシ。
    「ヒロちゃんは向こうの留学先で色々あったのよね~。
    だから帰って来れる予定が変わってしまったのよ~」
    母さんは俺をチラチラ見ながら会話を進めていく。
    …成る程、どうやら男に戻る事が無理だから
    ヒロアキは留学したまま帰って来ない展開にするわけか。
    母さんの考えている事を理解する俺。

    「…ヒロアキに何があったのですか? 俺に教えてもらえないのでしょうか?」
    事情を全く知らないサトシは身を乗り出さんばかりに母さんに話を聞こうとする。
    「あらあら、も~、サトシちゃんたら積極的なんだからww」
    母さんはサトシの視線に嬉しそうにする。
    「かあさ…、晴子さん、なんでそこでトキメクの!?」
    「あらやだww ミヒロちゃん、妬いてるの?」
    「違うっ!」
    展開があらぬ方向に進みそうになるのを抑える俺に対し
    相変らずの母さん。…もう、この人ってば。

    しかしサトシは表情を崩さずにいた。

    「俺が心配しているのはあいつが無事かどうかですよ、学校に戻る戻らないは
    この際どうでもいい。俺が知りたいのはあいつはどうしているのか、
    元気でやっているのか、それを知りたいんです。」

    408 = 400 :

    「サトシ…くん」
    真剣に俺の事を気にかけているサトシ。
    俺はその姿を見ると申し訳の無い気持ちにとらわれる。
    「う~ん、そうねぇ…ヒロちゃんが元気な事は元気なのよね~。ただ、」
    「ただ?」
    「戻るに戻れない事情が出来ちゃったのよね~、困ったことに~」
    母さんはそう言うと俺の方をじーっと見る。
    …あんまり見んなよ。

    「…戻れない事情?」
    母さんの言葉に怪訝な表情をするサトシ。
    「そうなのよ~、事情なのよ~」
    「…それって、何か病気にでもなったって事ですか?」
    「いえいえ~、本人は至って元気よ~」
    「病気で無ければその事情って何なんですか?」
    「そうね~病気では無いんだけど身体がね~」
    「ヒロアキの身体に何があったのですか?」
    「まあ、色々あるのよね~、察してあげて欲しいわ~ww」
    「海外から帰って来れないのはそれが原因だと言うのですか?」
    「ん~、海外というか何と言うか別に海外で無くてもいいんだけどね~」
    「え? どういう事ですか?」

    「あうあう…」
    ストレートに色々聞いてくるサトシと微妙な返答を続ける母さんとのやりとりを
    聞いていてハラハラする俺。
    このままだと俺(ミヒロ)がヒロアキだとバレかねない状況になるんじゃないの?

    そんなやり取りが続き、何時までたっても埒が明かないような気がした。
    いつもであればきっとサトシは諦めてしまっているに違いなかった。
    …しかし、今日のサトシは普段と違っていた。

    409 = 400 :


    母さんのペースに乗せられる事無くサトシは自分の気持ちをどんどん前に出していく。
    流石の母さんも少しずつサトシに押されていく。…そして。

    「とにかく教えて下さい! 晴子さん、俺にはヒロアキの事を知る権利は無いんですか?」
    「サトシちゃん~、そんな事はないわ~、でも」
    「でも、何ですか? 話せないのはヒロアキが俺には言うなと口止めでもしてるんですか?
    晴子さんにとって、…ヒロアキにとって俺は事情を教えるに足らない存在でしか無いんですか?」
    切実な表情のサトシ。
    母さんに伝える言葉は悲痛な音色に変わっている。
    「ヒロアキは俺の事をどう思っているのか、俺には分かりません。でも俺は
    あいつの事を親友だと思っているし、これからも親友で有り続けたいと思ってます。
    ヒロアキの身にどんな事があったとしても俺はあいつの親友を止めるつもりはありません!」

    「サトシちゃん…」
    母さんは普段見せない辛そうなサトシの姿に言葉を詰まらす。
    さすがの能天気な母さんもサトシの本気の姿に心を打たれてしまったようだ。

    「…ひょっとしたら、それは俺の知ってはならない事実なのかも知れない。
    でも俺はあいつが学校から居なくなる事を聞いた時に決心しました。
    俺は迷わないし、後悔しない。このまま知らないままでいる事の方がもっと後悔すると思うから。」

    「…」
    俺はサトシの姿を直視できずいた。
    サトシの事をよく知っているからこそ奴の想いの強さに俺自身の感情がコントロールできなくなる。

    …あー、やばいかも。
    さすがにこのままだと奴に本当の事を話しかねない。…それに本気で泣いちゃいそうだよ。

    410 = 400 :

    「…ごめんなさい…、ちょっと…」
    我慢し切れなくなった俺はそそくさとその場を離れる。
    「…」
    母さんはちらりと俺の姿を見る。

    ぱたぱたと駆け足で自分の部屋に向かう俺。
    「ううっ…グス、グスッ」
    部屋の戸を開けた時にはもう涙がこぼれ落ちて嗚咽が漏れそうになる。
    (ミヒロちゃん、つらいよね…)
    「グスッ…うん」

    つらい。
    本当につらいよ。
    本当の事を言いたいよ。

    あれだけ俺の事を思って苦しんでいるサトシに自分がヒロアキだと伝えて
    安心させてあげたいよ。
    俺だってサトシに隠し事なんてしたくなかった。
    出来る事なら今すぐにもあいつに言いたい。

    …でも。

    本当の事を言ったらこれまで通りの生活に戻れるのかなぁ。

    いつものようにサトシと、クラスの連中と馬鹿やっていられるのかなぁ。

    サトシとサッカーの全国制覇を目指す事ができるようになるのかなぁ。



    …無理だね。

    だって、俺はもうヒロアキじゃないんだもん。
    ミヒロなんだもん。
    もう二度と男に戻る事なんて出来ない。
    俺が女の子になったなんてサトシだって信じないし、これまでの関係なんて無理に決まっているよ。

    …だから言えないし、言わない。
    こんな話、誰も信じてくれないし、有り得ない話だから。

    俺は飛び込むようにベッドにうずくまった。

    411 = 400 :

           ◇

    …玄関には母さんとサトシの二人きりになった。
    そして俺が居なくなってもやり取りは続いていた。

    「…俺に教えて下さい、俺はどんな事でも信じます」
    サトシは何かを決意したような表情で母さんをまっすぐに見つめている。
    「どんな事って、サトシちゃんは何かヒロちゃんについて心当たりでもあるの~?」

    サトシは母さんの言葉に何か考え込む様子であったが
    言おうか言わないか悩んだ後、
    「…心当たりは無いわけではありませんが、そんな事無いだろうな…」
    困惑の表情で呟く。
    「…」
    母さんはそんなサトシの様子をじっと見ている。

    「…確証が無い以上、ハッキリとした事は言えません。
    でも俺の前に現れないのは理由が有っての事だと思います。
    俺はどんな理由であってもヒロアキの事は受け入れるつもりなんですけど。」

    「…サトシちゃんって、ホントにヒロちゃんの事を思っているのね…」
    母さんはそう言うとサトシにそっと抱きついた。
    「…晴子さん」
    普段であれば慌てふためくサトシも今回は大人しく母さんに抱きつかれている。
    「…でも、ごめんなさい。これだけは私に話す権利は無いと思うわ~。
    本当は話してあげたいのだけどね…だってサトシちゃんとヒロちゃんとの間の話だもの~。」
    「え?」
    母さんに抱きつかれたままで母さんの話しを聞くサトシ。
    「これはサトシちゃんとヒロちゃんが二人で解決しなければならない話よ~。
    私や千絵ちゃんがあの子の為に出来る事はある程度はしてあげたけど、人間関係に至っては
    私達ではどうする事もできないわ~。結局は当事者同士で解決していかなければならないのよ~。
    ヒロちゃんは気持ちを切り替えてサトシちゃんとの繋がりを絶とうとしているみたいだけどね~。」
    「俺との繋がりを絶つ…?」
    「…あ、でも別な形での繋がりが出来つつあるのかも知れないけどね~。」
    「え…?」
    母さんの話に首を傾げるサトシ。しかし表情は崩さないでいる。

    412 = 400 :

    「確かめてみればいいじゃない~?」
    「え?」
    「さっき、ヒロちゃんの心あたりについて確証できないって言ってた事よ~。
    サトシちゃんがヒロちゃんのことについて感じた事、思った事は
    これだけ付き合いの長い二人だもの、ひょっとしたら当たっているかも知れないわよ~。」

    「そ、それは…でも…」
    急な母さんの提案に戸惑うサトシ。
    「もしその確証が事実だとしたら…サトシちゃんはそれを受け入れられるの~?」

    「…正直、分かりません。実際にそうなってみなければ。
    …何と言うか、晴子さんの話は"謎かけ"が多くて今の俺に全てを理解することはできません。
    俺があいつの為に何をしてやれるのか正直なところ分かりませんけど…
    だけど何とかしてやりたい気持ちは誰よりもあります。」

    「…ヒロちゃんは苦しんでいるの~。そしてその苦しみに気付いてあげられるのは
    サトシちゃんしか居ないのよ~。」
    「苦しんでいる…ヒロアキが…?」
    「そしてあの子を助けてあげられるのはサトシちゃんだけ。…親友のね~。
    だからお願い。早くあの子を助けてあげて~。」
    母さんはニッコリ微笑んでサトシを見つめる。

    「…分かりました、晴子さん。俺はヒロアキの為に出来ること、やってみます。
    …確認したい事もありますし」
    サトシも何かスッキリした表情に変わる。

    「あ~それはそうとサトシちゃん~、お願いがもう一つあるんだけどいい~?」

    「…はい? 俺ですか?」

    何やら微笑みに意図的なものを感じさせつつサトシに迫る母さんと
    その動きに戸惑いを見せるサトシ。

    …そんな二人のやり取りなど露知らず、ベッドに突っ伏している俺であった。

    414 = 400 :

    投下しました。

    師走なんで忙しくて続きが止まってますww
    年内に終わらせる予定だったのですが…これではどうにもorzです。

    もう少しなので最後まで見捨てずお付き合い下さいませ。

    415 :

    GJ!

    物語が盛り上がってきて続きが気になりますね!

    417 :

    お久しぶりです
    続きが書けたので投下しようと思います

    418 = 239 :

    第五話

    「はー、ひどい目に遭った・・・」

    時は進んで今現在。絶賛帰宅中

    思わず独り言が出てしまうぐらい悲惨な一日であった

    あれからしばらく真夏の攻撃が続いただけならまだしも、真冬ちゃんに変な誤解されたし、マキはマキで真夏を煽りまくってるし(しかも煽った結果怒りの矛先がきちんと僕のほうへ向くように上手く誘導してるし・・・)

    勿論、毎日こんなやり取りをしているわけじゃない。今日はたまたまというか今日だけ特別というか

    ・・・

    結論から言うとだ

    僕は目の前にある家のドアを思いっきり開ける

    419 = 239 :

    「ただいまーっ!」

    「おかえりー」

    どう見ても今返事をしたこいつが原因です。本当に有難うございました

    優は今日学校へ来たときと同じ服装のままだった。ちなみに猫耳もそのまま

    「久しぶりの学校どうだった?」

    「ええ、誰かさんのおかげでとても充実した時間になりました」

    「それはなにより」

    ・・・こめかみのあたりがピクピク動く。そうだカルシウムが足りないのかもしれない、と必死に自分を落ち着けてみる

    「まあでもみんな元気そうでよかったよ」

    「ああ、もう元気過ぎて逆に困った。首に変なあとが残ってないかが心配だ」

    420 = 239 :

    「大丈夫、何も残ってないよ」

    よかった、体は傷物になっているということはなかったようだ。なんかやらしい響きだけど

    「・・・うん。みんな楽しそうだったよ」

    そう優が呟いた

    そういえば秋空優だって本当は秋空勇人なんだ。本来なら、あの場所にいるのは自分だったはずなんだ

    みんなの様子を見に行ったら、そこはいつもと変わらない風景だった

    自分がいなくても、何一つ変わってなかったんだ

    自分が姿を現したとき、みんな興味津々な目で見ていた

    でも、それは決して、友好的な態度だけとは言い切れないはず

    421 = 239 :

    何処かに・・・見知らぬ人間に対する警戒心が、あったんだ

    自分は秋空勇人だ、と叫びたかったのかも知れない

    僕だったら、そんな目をむけられて耐えられる自信がない

    優は・・・何を考えていたんだろうか・・・

    「大丈夫だよ」

    優の声が聞こえた、それは呟きではなく、きちんと僕にむけられた声だった

    「サイコロってのはね、1の反対側は6、2の反対側は5って合計して7になるように作られているんだ」

    「え?」

    優が何を言いたいのか理解できなかった

    422 = 239 :

    「僕は今まで『秋空勇人』として、みんなを見ていた。でも今は無理。けど・・・これからは『秋空優』として、みんなを見ることができる。人が物を見るには限界がある。それは視点が一つしかないから。」

    「優・・・」

    ここまで来て、優が何を言いたいのかが分かった

    「物、そして人ってのはサイコロとは違う。法則なんて存在しない。そして立方体ですらない。だから視点を変えるしかないんだ。でもそんなこと簡単に出来るわけがない。そして一生出来ない人もいる。でも僕は別な人間に生まれ変わった。二回分の人生を送っているってことになる。そう考えれば、すっごい得してない?」

    「・・・ああ、凄い得してるように思えてきた。逆に羨ましいくらいだ」

    「うん。分かればよろしい」

    今ここで断言しよう、もうこいつは『秋空勇人』じゃない。僕はこんな前向きに物事を考えるなんて芸当、出来なかった

    本来なら僕が励ます側なのに・・・逆に励まされてしまったみたいだ

    423 = 239 :

    ----------------------------------------
    今回の分はここまでです
    それでは失礼しました

    424 :

    乙です!
    続き楽しみにしてます!

    425 :

    乙!
    次も期待してるぜ!

    426 :

    あけおめー

    427 :

    作品を書こうと思うんだが、完成させてから投下するのか
    もしくは、書け次第部分的に投下するのかどっちがいいんだろう…

    428 :

    ある程度書き溜めながらちょくちょく投下するのが良いと思う。

    429 :

    人によりけりですね。どちらにしても書き続けられるかのモチベーション次第だと。途中で投げたままの作品の多い事多い事。

    430 :

    >途中で投げたまま
    サーセンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

    431 = 430 :

    ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww草増量中だったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

    432 :

    しかし、過疎ってますな…。

    433 :

    初めまして。
    人生初SSですが、投下させて頂きます。
    拙い文章だと思いますが、良ければ見ていってください。

    434 = 433 :

    『ソプラニスタ』

    「はぁ…ぼくは一体どうすれば良いんだろう…」
    僕は控え室で溜め息をついていた。
    何故かと言うと…ぼくは合唱団でボーイソプラノを担当している。
    そして、中学生になった最近は思うように声が出なくなってきている。
    そう、『声変わり』である。
    世の中には声変わりを経てもソプラノを歌える『ソプラニスタ』って言う人も居るみたいだけど、
    残念ながらぼくにはその才能は無かったらしい。
    「どうしよう…このままじゃ、ソプラノで歌えない…お母さんとの約束を守れないよ」

    435 = 433 :

    ぼくのお母さんは、オペラ歌手をやっていていつも色んな所に行っていたので、一緒に居た記憶は余り無い。
    でも、お母さんはいつもぼくの歌声を褒めてくれた。
    『綺麗な歌声ね。貴方はきっと素晴らしい歌手になれるわ』
    そう言いながら、ぼくの頭を撫でてくれた。
    お母さんが褒めてくれるのが嬉しくて、ぼくは歌う練習を一生懸命頑張った。

    でも、ぼくの歌声を褒めてくれたお母さんはもう居ない。
    3年前に、事故で死んでしまったのだ。
    元々、お父さんも居なかったぼくは女さん―お母さんのマネージャー―の養子となり、合唱団を続けていた。
    「何か、方法は無いのかなぁ…女の子になれれば、声が変わらずに居られるのかなぁ…」

    436 = 433 :

    そんな風に悩んでいると、ノックが聞こえた。
    「ぼく君、入るわよ?」
    そう言って女さんが入ってきた。
    「やっぱり、悩んでたかぁ…でも、こればかりは私でもどうにも出来ないから、受け入れるしかないわよ?
    それに、声変わりしたとしても、ぼく君ならカウンターテノールで十分やっていけると思うわ。」
    そう、女さんはぼくに目線を合わせて諭すように優しく語り掛ける。
    「でも…お母さんはぼくのソプラノの歌声を褒めてくれた。
    その声が変わっちゃったら、ぼくはお母さんに褒めて貰えなくなっちゃう。
    それじゃ、ダメなんです!」
    ぼくは真剣な顔でそう言った。
    そうすると、女さんは困った顔をして、
    「もし、お母さんが居たら絶対そんな事は言わないと思うけど…
    でも、お母さんに甘えられず寂しがる気持ちは分からなくも無いわ。
    どうしてあげれば良いのかしら…」
    とどうしたら良いのか分からない様子だった。

    437 = 433 :

    その後自宅に帰り、ご飯を食べお風呂に入って後は寝るだけになった時、
    さんが「明日、日曜日だし動物園にでも行こっか」とぼくに言った。
    実の所、ぼくは動物―特に小動物―が好きだ。
    何て言うか、見てて癒される所とか。
    ぼくはその提案に賛成し、少しワクワクしながら眠りに付いた。

    438 = 433 :

    『ピピピピピ……』
    毎日聞いている目覚ましで起きる。
    何だろう…身体がだるい。風邪をひいちゃったんだろうか?
    今日は折角の動物園だって言うのに…。
    そんな事を考えていると、女さんが起こしに来てくれた。
    「あ、女さん。おはよ…」
    そこで、僕は自分の声に違和感を感じた。
    女さんも感じたらしい。
    「ねえ、ぼく君。声が変だけど…大丈夫?熱は無い?」
    ぼくはその瞬間、自分に起きた変化に気付き服を脱ぎだした。
    そして、僅かだが膨らんでいる胸とあるはずのものが無くなった股間を確認する。
    「わ…やった、ぼく女の子になった…ホントに女の子になったんだ!!」
    ぼくは嬉しくて、さっき感じた身体のだるさなんて吹き飛んでしまった。
    そして、ぼくは声を確認してみる。
    前と同じ、もしくはそれ以上に澄んだ綺麗なソプラノの音が出た。
    呆然とその様子を見ていた女さんは、
    「…えーと、貴女はぼく君…なの?」
    その声を聞いて僕はすぐに
    「うん、そうだよ。きっと…これはお母さんがぼくの願いをかなえてくれたんだね!」
    と、満面の笑顔で答えた。
    …それから女さんは苦笑しながらぼくに幾つか質問をした。
    「…うん、確かにぼく君に間違いないわね。
    とりあえず…そのままじゃ動物園には行けないから、色々と準備をしましょ」

    439 = 433 :

    このときは気付かなかったけど、ぼくは身長が縮んでしまっていた。
    中学生には見えないくらいに。
    不安が無いと言ったら嘘だけど、ぼくには歌とお母さんがくれたこの声があるし、女さんも居る。
    身支度を整えて、ぼくは女さんを引っ張って外へと出かけた。
    まず最初に、この身体に似合う服を揃える為に――

    440 = 433 :

    投下は以上です。

    初SSだったため、長編は諦め単発で書きました。
    それでは、失礼しました。

    441 :

    GJ!! 続きを期待させるような展開ですねー!

    443 = 442 :

       どんだけ☆エモーション(その13)


    サトシが帰った後、母さんは俺を呼びに部屋にやって来た。

    「ミヒロちゃ~ん、いいかしら?」
    「…」

    相変らず俺はベッドに突っ伏していた。
    「サトシちゃん、帰ったわよ~。」
    「…」
    母さんはベッドに腰掛けると俺の上半身をやさしく起こす。
    「も~、涙で折角の可愛い顔が台無しじゃない~?」
    「…グス、グスッ」

    なかなか気持ちの治まらない俺は泣き続けていた。

    …涙が止まらない。
    何とかして心を静めようと努力しているんだけど、さっきのサトシと母さんのやり取りが
    頭の中から離れないんだ。

    …自分の中で分かっていたのに。

    今後はヒロアキじゃなくてミヒロとして生きていかなくてはならない事。
    分かっていたからこそ気持ちを切り替えてやっていこうとしていたのに。

    だけどあのサトシの姿を見た時に俺の中で全てが崩れてしまった。

    どうすることもできないからこそ、つらい気持ちだけが俺の中でループしている。
    いつまでもこのままで居ても何の進展も無いのは分かっているけど
    …涙はいつまで経っても止まらないんだよね。

    「もう、泣き虫さんね~、ミヒロちゃんは何時からこんなになっちゃったのかしら~?」
    そう言うと母さんは俺を抱きしめる。
    「…」
    母さんの柔らかい胸の中に顔をうずめると不思議に心が落ち着いてきた。

    …確か女の子になってしまった初めの頃、マルさんとの出会いで気持ちが混乱した時も
    母さんに抱きしめられて気持ちが落ち着いたよな。
    ホント不思議だよなぁ、母さんって。
    実由もそうだけど暖かい感触に包まれて、トクントクンと一定のリズムで続いている心音を
    聞いていると心がすごくリラックスする。

    444 = 442 :

    「ミヒロちゃん、つらいのよね~?」
    「…うん」
    精神的に参ってしまったせいか、母さんの問いかけに素直に答える俺。

    「どうしてつらいの~?」
    「…それは…」
    母さんの問いかけに言い淀む。様々な思いが俺の中で渦巻いて混乱しており、
    何から言えばいいのか分からない。

    「これまでのようにサトシちゃんと仲良く出来ないからかしら~?」
    「…それもある」
    「ミヒロちゃんはどうしたいの~? 昔のように仲良くしたいの~?」
    「…うん、…でも無理だよ」
    「どうして~?」

    「だって、俺は男のヒロアキじゃないから。すっかり姿かたちが変わってしまって、
    サトシはきっと俺だって信じてくれないよ」
    「果たしてそうかしらね~? 意外にあの子、鋭いところあるわよ~」
    微笑みながら俺の表情をのぞき込む母さん。

    「…」
    確かに、と俺は一瞬思う。
    サトシって結構鋭いところを持っているのは俺が知っているところではある。

    女の子に変わってしまった俺と初めて会った時に俺に対して妙な親近感を持ったらしいから
    ミヒロとヒロアキとの関係に心のどこかで気づいているのかも知れないが
    俺はサトシじゃないからその辺りは分からない。

    「ミヒロちゃんが思っている以上にサトシちゃんは分かってくれるわよ~?
    だって、ホントに友達思いのいい子だもん~。」
    「うん…」
    思わず頷く俺。

    俺も今回の一件が無ければサトシの事は単なる親友という"言葉"の括りの中でしか
    奴のことを捉えられなかったかも知れない。
    そう考えると俺はサトシという本当の親友に出会えた事を幸せに思うべきであるし、
    奴に感謝すべきであろう。

    445 = 442 :

    「今回の件は私も実由ちゃんもヒロちゃんの為に秘密にすべきところは
    徹底してきたけれど、今後の事を考えるとサトシちゃんという理解者が
    あなたにとって必要だと思うの~」
    「…うん、そうだね」
    母さんの言葉に素直に頷く俺。理解者は多ければ多いほど良いだろう。
    サトシであれば尚更良いに決まっている。 …だけど。

    「素直にサトシちゃんに自分の事話したらどう~?」

    「…」
    答えられない俺。その言葉が俺の中でずしっと重くのしかかってくる。

    「ミヒロちゃん~?」
    「…うん、母さんの言いたい事は俺も分かっているつもりだよ、だけど」
    「だけど~?」
    「…怖いんだ、自分の正体を晒してもしサトシが俺のもとから
    居なくなってしまったらと思うと…」

    …そうなんだ。

    俺が女の子になった事によって一番恐れている部分、
    それはサトシに俺の存在を否定される事。
    これまで築いてきた関係が壊れてしまう事。

    「…ミヒロちゃん」
    「…だから俺はサトシにミヒロがヒロアキである事を話すつもりも無かったし、
    ヒロアキという存在が海外から帰って来ない話になった時も
    それでいいかなって、思ってたんだ」

    「駄目よ~、ミヒロちゃん、現実から目を逸らしたら~。
    あなたはどこまでいってもヒロちゃんだもの。
    サトシちゃんとのこれまでの関係を全て無かった事にできるの~?」
    「そ、それは…」
    言葉に詰まる俺。

    「出来ないでしょ~? それはヒロちゃんを否定する事になるし、
    サトシちゃんに対する裏切りにもなるわよ~?」

    これまでの自分の否定とサトシに対する裏切り。
    …母さんの言葉が俺に重くのしかかる。

    「そ、そんなの嫌だよ、サトシを裏切るなんて! …俺はそこまで考えてなかった」
    「じゃあ、伝えないと~、サトシちゃんに本当の事をね~」

    446 = 442 :


    …母さんの言っている事はもっともだと思う。
    俺の事を本気で心配してくれているサトシ。
    それに応えることの出来ない俺。
    だけどサトシに対して俺のすべき事が無いわけでは無い。
    それは本当の自分をあいつに教える事。それが今の俺に出来るサトシへの誠意かも知れない。
    …だけど、だけど。

    「でも、怖いよ。…あいつに拒絶されたら、俺はどうしたらいいのか分かんないよ…」


    あ、やだ。

    …サトシに拒絶されるイメージが浮んできた途端に悲しくって涙が出てくる。

    「大丈夫よ~! ミヒロちゃんっ!!」
    それを察知したのか母さんは俺をギュッと力強く抱き締める。

    「か、母さん!?」
    「もう、ミヒロちゃんったらホント泣き虫さんね~。こんな泣き虫な女の子は
    もう"俺"なんて言う資格がないわよ~」
    以前母さんに禁止されていたにも関わらず「俺」を使い続けている事について
    母さんは不満に思っていたらしく、珍しく怒った表情をしている。

    「え…、でも…」
    急に話の展開が変わった事に戸惑いの表情を浮べる俺。
    「でも、じゃ無いの~! 駄目ったら駄目~!!」
    「…ヤダよ、"私"なんて。格好悪い…」
    「可愛い女の子が"俺"という方がずっと格好悪いわよ~! もう、そんな事いうなら
    こうしちゃうんだから~!」

    母さんはいきなり俺の脇やら腰やらをくすぐり始めた。

    「ひ、ひゃんっ!? や、やだっ」
    母さんの行動の意図が分からず焦る俺。

    「う~ん、恥じらいにまだ"照れ"があるわね~、まだまだ足りないかしら~」
    母さんはそういうとさらにくすぐりを続ける。
    「やっ、あうっ、んっ」
    俺は一応抵抗しているものの、腕力が普通の女の子並なので母さんに敵わない。
    為すがままにくすぐられる。

    447 = 442 :

    「こちょこちょこちょ~」
    「うう~ん、ああっ」
    「それそれそれ~」
    「ひゃは、はあんっ、くううっ」

    母さんはどさくさに紛れて俺の胸まで揉んできた。
    ち、ちょっと、母さん!?
    「ミヒロちゃんの反応があまりに可愛すぎるから、ついつい~、ね~」
    「…ああん、やだっ」
    気がつかないうちに嫌がる仕草が女の子のようになっている俺。
    「うふふ~、可愛い~」
    小悪魔的な笑みを浮べつつも手の動きを止めない母さん。

    …母さんの攻撃に何とか我慢し続けていたのだが

    …あ~っ
    あ~! も~っ!! 限界っ~!!

    「わ、分かりましたっ!! 俺、止めるからっ! 私って、いうから!!」
    「ホント~?」
    「ホ、ホントですっ! 私、言いますっ!」
    母さんの攻撃(?)に陥落する俺、と言うか私?


    はあはあと息を切らす俺と母さん。
    「ふふっ、多少は気は紛れたかしら~? 」

    「母さん…」
    母さんが俺の気持ちを紛らわすためにこんな事をしてきた事に気付く。

    …でも何だかさっきの母さん、いつもより生き生きしてたような気がするのは気のせい?

    さっきの騒ぎで荒れ果てたベッドのシーツや布団を整えると
    俺と母さんは座り直して向き合った。
    「どう~、ちょっとは落ち着いた~?」
    「…うん、ありがとう、母さん」

    母さんは俺の頭を撫ぜつけながら俺を抱きしめる。
    「大丈夫よ~、あの子を信じてあげて~。 あなたが思っている以上に
    サトシちゃんは強い子よ~。
    あなたの全てを受け入れてくれるだけの強さをもっているわ~。…だから、ね。」

    「…うん、おr、じゃなかった、私、頑張って…みようかな」
    母さんの言葉に俺の中で不思議に気持ちが強くなっていくのを感じる。

    448 = 442 :

    ピンポーン。

    再び、玄関のインターホンの鳴る音。
    「あら~? 実由ちゃんが帰ってきたようね~?」
    「そうみたい」
    「それじゃ~みんなで夕食の準備をしましょ~」
    母さんはそう言って玄関に向かっていく。
    「うん、そうだね」
    (……)

    …ん? マルさん?

    (……)                 

    反応が無い。

    さっきまで母さんと一緒になって盛り上がっていたのに
    今はマルさんの心の動きが全然感じられないのですが。

    (ミヒロちゃん…ごめんね)

    ―…ん?

    マルさんの声がする。
    明るくホンワカとした雰囲気の彼女と打って変わって暗く沈みがちな声。

    (…私のせいだよね、ミヒロちゃんがこんなに苦しむ事になったのは…)

    ―…え? どうしたの? マルさん、急に。
    母さんと一緒に夕食の準備に取り掛かろうとしていた俺だったが
    マルさんの状況に思わず動きを止めて彼女の様子を窺う。

    (あの時、私がミヒロちゃんと一緒にならなければミヒロちゃんが女の子になる事は
    無かった…だからこれは私のせい…)

    ―ち、ちょっと、マルさん?
    マルさんのいきなりの行動に焦る俺。
    考えてみたらここまでマルさんの落ち込んだ状況は初めてだ。
    どうしたらいいのか分からなくなる。

    449 = 442 :


    (…ミヒロちゃんの気持ち、ココロの辛さ、…一心同体の私だからこそ良く分かる。
    …そもそもの原因である私にはミヒロちゃんに謝って済む問題じゃないけど、
    本当にごめんなさい…謝るしか…これしか無いから…私には…)

    ―な、何言ってるんだよ? 馬鹿な事言うなって。
    …俺は別にマルさんのせいだなんて思ってないよっ。

    (…でも…)

    さっきまでメソメソしていた自分の事は棚に置いて
    俺は頭の中でマルさんに強い気持ちで話しかける。

    ―…結果的にはこんな事になってしまったけど、俺はマルさんのお陰で生きていられたんだし
    マルさんとの出会いだってそんなに悪くないって思っているんだよ?

    (…私の…お陰…?)

    あの時、あの場所で俺とマルさんが衝突してしまったことによって起こってしまった悲劇。
    実際であれば双方ともに生きている事が出来ない状況だった(とマルさんが言っていた)が、
    本来持っていたマルさんの"能力"によって俺とマルさんは一つになって生きている。
    …俺は女の子になっちゃったけど。

    ―俺とマルさんとの事故について起こってしまった事については仕方無いよ。
    別に誰かを責めるつもりなんて俺は全然考えてないし、責めたところで何かが変わる
    訳でもないし。

    (……)

    ―とりあえず俺にとってはこれからの事が大事だと思う。
    今後女の子として生活していく俺にとって気持ちが揺らぐ事があるかも知れない。
    だけどマルさんが居るなら俺は何とかやっていけると思うんだよね。

    (……)

    450 = 442 :

    ―マルさんは俺の事をどう思っているのか分からないけど、俺はマルさんの事、大好きだよ。
    今は居てくれなきゃ困る位の存在になっているもの。

    (…私だって、ミヒロちゃんの事、……大好き…)
    マルさんの意識が俺の中に流れ込む。か細くも照れてはにかんだ感じ。

    ―だから、マルさんはマルさんらしくいつものように振舞ってくれればいいんだよ?
    そうしてくれた方が俺としては嬉しいから…、ね?

    我ながら恥ずかしい事を言ってしまったような気がするが
    これでマルさんが元気になればいいと思う。

    (…ミヒロちゃん…、あり…が、…と…グスっ、グスッ)

    ―ちょ、ちょっと、マルさん、泣かないでよっ!?

    慌てる俺。俺の意識の中にマルさんの色んな感情が雪崩れのように入りこんでくる。
    でもその感情のほとんどは俺の言葉に感激している気持ちが大半を占めているようで。

    (…ゴメ…わたし…限界っ、…ふぇえぇぇぇ~ん!!)
    「ち、ちょっと、マルさんって、…グス、グスッ」
    マルさんの感情に感応されたのか俺までがポロポロと泣き出す。

    (グスッ…だって、嬉しいんだもん、グス…実はずっと私、気にしていたから…。
    …私のせいでミヒロちゃん、いえ、ヒロアキ君が女の子になって苦労していたから。
    ずっと私は目の当たりにしていたから…申し訳ない気持ちにいつも苛まれていたの…。
    だからミヒロちゃんにそんな風に言ってもらえると…グスッ、嬉しいよぉっ!
    うぇえええ~ん!!)
    「グスッ、わ、分かったから、マルさん、感情を抑えてっ!
    感情が洪水のように押し寄せてくるもんだから…おr、じゃなかった、私まで…泣いちゃうよっ!」

    一心同体の俺とマルさん。

    2つの意識が同じ身体を共有しているもんだから、これはこれで大変な事で。
    結局、大泣きのマルさんに感応されて俺までも一緒に泣いちゃって
    母さんと帰ってきた実由の二人になだめられることになったのは言うまでもない…。


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