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    元スレ別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part2

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    351 = 345 :

    (まぁ、何といいますか、私には多少ながら"力"があって、私が一つになる相手の状態が悪い時は
    治療したりとか出来るんだよねww)
    何となくではあるが照れくさそうな感情のマルさんの意識が流れてくる。
    「そうだったんだ…。だからこれだけ俺の脚の状態が絶好調なわけなんだ…」
    マルさんにそんな力があるとは…別に今更驚く程の事ではないけど、でもその恩恵を受けている
    俺はマルさんに感謝せねばならないわけで。
    …でも正直なところ男の時に治して欲しかったなぁ。

    「ミヒロちゃん!? どうしたの? こんなところで?」

    不意に俺を名を呼ぶ声。
    「! あれ?」
    (あらww)
    スポーツウェア姿のサトシが小脇にサッカーボールを抱え驚きの表情で俺の姿を見ていた。
    「サトシ…くん」
    俺も予期せぬ相手の登場に戸惑いの表情を浮かべつつボールを操る脚の動きを止める。
    「ミヒロちゃん、その格好は学校に試験を受けに来たのかい?」
    「う、うん、そうなんだ。これは前の学校の制服なんだけど…」
    ぎこちなく自分の着ている制服を見せる仕草をする俺。
    「なる程なぁ、吉田が言ってたのはこの事だったんだ」
    「何が?」
    妙に納得した表情のサトシの言葉が気になる俺。
    「うん、今朝、セーラー服のすっげーカワイイ子がうちの学校にやって来て騒ぎになっているって」
    「ええっ? それって…」
    「うん、ミヒロちゃんのことでしょ? うちのクラスの奴ばかりじゃなくて他のクラスの奴らも
    みんな話を聞いて見に行ったらしいよ」
    「…」
    思わず赤面して黙り込む俺。やっぱり目立っていたのは自分の気のせいでは無かったんだ…。
    道理であんなに人が居たわけだ。
    それにしても、カワイイって…。

    352 = 345 :

    ねえ、ミヒロちゃんって、サッカーやってたの?」
    「どういう事?」
    サトシの質問に思わず返す俺。
    「いや、グラウンドに向かう時、セーラー服の女の子がサッカーボールを操っているのは
    見えていたんだけど、あまりにも上手すぎてとても素人とは思えなかったんだ。
    まさかその女の子がミヒロちゃんなんて全然思いもしなかったんだけどね」
    流石、サッカー部ナンバー1のサトシだ。俺の何気ないボールさばきが尋常では無いことに
    気付いているとは。考えてみると俺はFWプレイヤーのサトシをフルに生かす為に
    様々な技術を身につけるべく特訓していたものだ。当時、俺の存在は全国に通用する
    MFとしてサトシ共々注目されていた気がする。
    「えーと、まぁ、多少かな…」
    とは言えサトシの問いには曖昧に答える俺。
    「多少って、そんなレベルじゃないよね。女子サッカー部にでも入ってた?」
    「う~ん、それ程じゃないって」
    とりあえず謙遜するが、かなりのレベルだと自負しているのは言うまでもない。
    でもこの場合はあまり目立った事はしないほうがいいなと思う。
    「いや、あれはかなりのレベルだって。あれは俺が見る限り…」
    「おr、じゃなかった…私の事はいいから。それよりサトシ君はなんでここに?
    まだ試験期間中だったよね?」
    俺について目を輝かして聞いてくるサトシの姿に若干引き気味の俺は話を変えるべく
    話題を変えようとする。
    「え?俺? 俺はもう試験も明日で終わりだし、そろそろ身体を動かさないといけないなって。
    流石に身体も鈍ってきたしね。勉強しなくても試験はいけそうだし。」
    俺と会話しつつ柔軟体操を始めるサトシ。
    「へ~そうなんだ、すごいね。よっぽどサッカーが好きなんだね?」
    「…まぁ、好きというのもあるけど、俺はそれだけじゃないって言うか…」
    ちょっと言い澱むサトシ。
    「ん? それだけじゃないって?」
    「…うん、まぁ、その、なんだろう? 俺にとってのサッカーは自分だけのものでは
    無いっていうか…」
    …自分だけのものじゃない?
    俺はサトシの言った事を色々考えてみる

    353 = 345 :

    久々の投下です。久々過ぎて忘れ去られているような。
    とりあえず話もようやく後半ですかね。
    多分あと3~4話位で終わりそうな…分かりませんが。

    354 = 345 :

    そう言えば間が開いている間に新たな投下が。
    極めてGJと言わざるを得ないww

    355 :

    乙!
    ドリフトのことは内緒にしておくぜ

    358 :

    時間が取れなくて執筆が進まない

    申し訳ないです・・・

    359 :

    >>358
    気にしないで頑張ってくれ

    気長に待ってるから

    360 :

    過疎過ぎる

    361 :

       どんだけ☆エモーション(その10)

    「よし、柔軟終了」
    サトシはサッカーボールを脚で軽く転がし始める。
    さらにボールを扱う簡単な動きをするサトシ。
    「…」
    じっとサトシの動きを見つめる俺。
    流石にその動きは無駄が無く、サトシのレベルの高さがうかがえる。
    考えて見たら俺がサッカーを辞めてからサトシのプレーを見ることなんて全然無かった。
    多分あの頃よりもサトシは格段にレベルアップしているよな。
    …。
    「どうしたの? そんなにじっと見て?」
    「え?」
    俺はサトシに言われてハッとする。
    気が付けば俺はサトシの動きをじっと見続けていた。
    「ミヒロちゃん、好きなんでしょ?」
    サトシはニッコリ笑って俺を見る。
    「!? そ、そんな事ないよっ?」
    好き? 急に何を言うんだろ? コイツは!?
    思わず上ずった声で答える。
    「ふ~ん、そうなの? でもさっきのミヒロちゃん、生き生きとボールを追いかけて
    いたような…」
    「な、何言ってるの? 別に好きで見てるわけじゃないんだからね?」
    「え? 見ている? ミヒロちゃん、サッカーはプレーより観戦するほうが好きなの?」
    俺の返答に不思議そうに尋ねるサトシ。
    「え? ええっ? 好きって、そっちの方!?」
    「え? そっちって?」
    「い、いや、何でも無い! 何でも有りません!」
    顔を赤らめて否定する俺。何やらお互いに論点がずれていたようで。
    サトシはサッカー、俺は…(///)。
    「ふ~ん、そうなの? はい、パス!」
    いきなり俺にボールを寄こすサトシ。
    「え、えっ?」
    戸惑いながらもボールをトラップする俺。
    「ミヒロちゃん、パス、パス!」
    矢継ぎ早にサトシはボールを要求すると走り出す。
    「あ、もう、なんなんだよ」
    俺はつられつつもサトシに向けてボールを蹴る。
    蹴り出されたボールは走っているサトシの足元に的確に転がる。
    「ナイス、パス!」
    サトシは再び俺に向けてボールを蹴る。
    今度はさっきと違い速いスピードでボールがやって来た。
    俺はそれをトラップしてサトシにパスする。

    362 = 361 :

    ボールはサトシの元に届く。
    「上手いね、いくよっ!」
    今度のボールは高く浮き上がって俺の元へ飛んできた。
    俺はそれを難なく胸でトラップするとサトシにパスする。
    「いたた…」
    男の時と違い、胸のトラップは痛かったかも…。
    (ミヒロちゃん、女の子なんだから胸で受けるのは駄目よっ)
    ―そうですね、ごめんなさい…。
    それでも的確に蹴られたボールは再びサトシの足元に届く。
    そんなやりとりが何回か続く。
    しかし何回やっても俺の放ったボールはサトシの足元にピタッと届く。
    「…やっぱりこの子、かなりできる」
    サトシは呟くとドリブルで俺の元までやって来る。
    「ミヒロちゃん、いきなりゴメンね。大丈夫?」
    「ううん、いきなりだったからビックリしたけど大丈夫だよ」
    俺の言葉に安堵の表情を浮べるサトシ。
    「それにしてもパス上手いね。俺の足元にピタッと来るなんて」
    「え、そんな、マグレだよ」
    出来て当然のプレーを褒められ軽く苦笑する俺。
    「そうかな? じゃあミヒロちゃん、ちょっとゲームしない?」
    「ゲーム?」
    「うん、1対1のボールの取り合いみたいなもの。」
    要はボールをどれだけキープするかの話か。ゲームというよりは練習に近いな。
    でも何だか久々でワクワクしてくるのは自分の気のせい?
    「うん、いいよ。でも私相手じゃサトシ君の練習にもならないよね」
    「そんな事分からないよ、やってみないと。」
    サトシはそう言うと俺にボールをパスしてきた。
    「それじゃ、初めは俺が先行だね。俺にボール取られない様にしっかりキープしてね」
    「うん、わかった」
    俺がボールをキープするよう構えると同時にサトシは向かってきた。
    俺は移動しつつ、サトシからボールを取れらまいと体勢を変える。
    サトシの脚がボールを取ろうと何度も向かってくる。
    俺はボールを動かしたり身体の姿勢を変えたりしてそれをかわしていく。
    まだ本気でないせいかサトシの動きは緩やかである。

    363 = 361 :

    「やるね」
    感心するサトシ。
    「ありがとう。この位なら何となくね」
    「それじゃ、これは?」
    そう言うとさっきよりもスピードを上げて動いてくるサトシ。
    確かに初めよりは動きは速く、俺もちょっとしたテクニックを使わないと
    かわしていくのは容易ではないかも。
    …しかし。
    「よっ」
    「…!」
    全然ボールに触れる事が出来ないサトシは驚きの表情を浮べる。
    素人レベルであれば今のサトシの攻撃で片がつくかも知れない。
    しかし俺にとってはまだまだ大丈夫。ことごとくサトシの攻撃を凌いで
    ボールをキープし続ける俺。俺は俺なりに初めから全開だから当然ではあるが。
    「普通の素人レベルならこの位で充分なんだけどな…」
    ボソッと呟くサトシ。

    …分かっていた事とは言え、やっぱり本気でなかったか。

    よーし、こうなったら。
    「サトシ君、どうしたの? 全然ボールに触れてないけど?」
    「え?」
    俺の突っ込みに驚きの表情を浮べるサトシ。
    「ひょっとして試験中休んでたからできなくなっちゃったとか?
    まさかねー? サッカー部NO.1が女の子に勝てないなんてないよね?」
    (あらまww まさかの挑発ですか?)
    ちょっと(かなり)自信満々な表情の俺。あえてボールの位置を足で何度も動かして
    余裕を見せる。
    「…そうだね、もう少し頑張らないと駄目だよね。」
    サトシは軽く苦笑すると身体の姿勢をさっきまでと違って、低く構えはじめる。
    「じゃ、行くよ」
    サトシの目がすっと細くなった。

    ヤバイ…こりゃ、本気モードだな。
    久々のサトシの本気に背中に冷たいものが流れる俺。
    (ミヒロちゃん、自業自得ww)

    364 = 361 :

    …これからの状況を解説する余裕は俺には全く無くなってしまった。

    本気のサトシの猛攻を俺は必死にかわしていくのが精一杯で、まさかここまでサトシの
    サッカーレベルが高くなっているなんて思いもよらなかった。
    俺が怪我をする前に俺とサトシはよくこの1対1をやってキープ力に勝る俺は
    何度もサトシに勝ち続けていたわけであるが、サトシの技術はあの頃より遥かに向上して
    今の俺の身体的(性別的)ハンデを含めても俺と互角以上のレベルに達しているのではないかと思う。
    「~!」
    必死の表情で逃げる俺。
    「…」
    あくまでも表情を崩さず、しかし真剣な表情のサトシ。
    どこまで逃げてもサトシは俺の側から離れずピタッとついてくるし、何度もボールを
    取られそうになりその度に身体を張ってどうにか取り返すといった激しい攻防。
    「ちっ」
    自分のありとあらゆる技術を使って、体力の限りを使ってサトシのプレッシャーを凌ぐ。
    流石にサトシは荒っぽくチャージをかけてくるような事はしないので
    その辺りで助かっているが、それでも激しく動きまくっているとこれまで運動らしき運動を
    してこなかった俺にとっては厳しいものがある。
    せめて身体が男であれば…体力がどんどん奪われてゆく状況の中で
    無意味な考えを浮かべつつ身体を動かしていく。
    ハァハァ…
    息がどんどん苦しくなっていく。
    「…動きが鈍ってきたね」
    サトシが呟く。サトシは息を切らしているがまだ余裕がありそうだ。
    「く…まだまだっ」
    俺は返すのに精一杯、って言うか余計な体力使わすなっ!
    「くぅ…」
    「…」
    ギリギリの攻防が続く。
    俺もサトシも黙々とゲームを続けている。
    今の俺はどんな状況でプレーしているのだろうか?
    セーラー服でこんなに激しく動きまくっているんだ、あまりいい状況ではないよなぁ。
    多分恥じらいを感じさせるような場面もあるのかも知れないが気遣っている余裕は無い。
    くそっ実由の奴、俺の制服のスカートを短くしやがって。
    …多分サトシには見られてしまっているのかなぁ?

    365 = 361 :

    「…」
    無表情を装っているけど。…それともそんな余裕は無いかな?
    とりあえずギャラリーが居ない事が唯一の救いかも知れない。
    「~っ、もう!」
    そうこうしているうちに何だか脚がどんどん重く感じてくる。
    身体も何だか動かしている感覚が無くなってきている。
    「…」
    それにしても。
    どうしてここまで頑張っているのだろうか?
    「…」
    俺が頑張る理由。
    今までサトシに負けた事の無い俺にとっては「負けられない」という意地で
    この攻防を続けているのは確かだ。
    しかし今の俺は女の子。
    しかもサッカーから離れてもう一年以上経つ。
    これだけのハンデがありながらも現役のサトシとここまでやれている。
    普通に考えればこれで充分なんじゃないかと思える。
    「…」
    そうだよな。
    正直なところ身体も限界だし、これは単なるゲームだしそろそろ終了してもいいかもな。
    「…」
    …いいのかな? 本当に?
    これで終わってもいいのかな?
    …昔の俺ならこの状況になろうともまだ続けると思うけど。
    今の俺は…?
    「…!」
    俺の意識が緩んだ瞬間をサトシは見逃さなかった。
    俺の操るボールがサトシの一瞬の足の動きにより軌道を外れ、離れる。
    「あ…」
    目でボールの動きを追うが自分の身体はもはや動かない。
    俺が体勢を整えた時には既にサトシの足元にボールが。
    俺の一瞬の気の緩みが勝負を決してしまった。

    366 = 361 :

    「…勝負あったね」
    さすがにサトシも疲れたらしく、肩で息をしている。
    俺との対決に勝ってホッとしたのかちょっと緩んだ表情で話しかけるサトシ。
    「…うん」
    俺はその場にしゃがみ込む。
    自分の体力の限りを出し尽くしたせいか身体が重く動かない。
    (負けちゃいましたね)
    ―うん負けちゃった…
    俺はふっと空を見上げる。
    「……終わった」
    青い空をぼんやりと眺め俺はポツリと呟く。
    「…」
    …負けた、負けちゃったなぁ。

    …でも、いいのかも知れない。

    俺はミヒロ。
    もう、…ヒロアキじゃないんだから。

    「…大丈夫?」
    少し息を切らしつつもサトシは俺の元に駆け寄り様子をうかがう。
    「とりあえず大丈夫…」
    「そう…良かった」
    俺が大丈夫そうに振舞う姿を見てホッして笑顔を浮べるサトシ。
    「…良くないよっ、負けたし…」
    ジロリとサトシを睨みつける俺。
    「いや、この場合は引き分けみたいなもんだよ。だって俺はミヒロちゃんの動きに
    手も足も出なかったんだから。」
    「何言ってるの? ボールを取られた時点で勝負ありだよっ!」
    「ええっ!? ま、まぁ、何と言うか…でも」
    怒った口調の俺に困惑するサトシ。
    「でも、何?」
    「…いいえ、何でもありません」
    困った表情のサトシ。
    …あれ?
    そんなサトシを見て何だかカワイイと思ってしまう俺は一体…
    ゲームには負けてしまったけどちょっとだけ気持ちが晴れる。

    367 = 361 :

    …まぁ、いいか。
    一応は悔しがる素振りをする俺ではあるが、自分の限界まで走り回って
    力を使い果たした俺にとって勝負の結果はどうでも良くなってしまっていた。
    むしろサトシと決着がついた時点で俺の中でサッカーへの思い入れが切り替わっていた。
    今後女の子として生きていく俺にサッカーは必要ないんだって。
    …だから、もういいんだって。

    「ん?」
    「…」
    ふと横のサトシを見ると困った表情のまま黙ってしまっている。
    …いけねっ、サトシを置いたままでまた自分の気持ちの中に浸ってしまっていたよ。
    慌ててサトシのフォローに入る俺。
    「うそウソっ、…でもサトシ君凄いね。あれからすっかりレベルアップしちゃって…」
    「…え? あれから?」
    「あ、いやー、なんだろ? とりあえず私の動きについてこれるなんてスゴイスゴイっ!」
    怪訝な表情のサトシであったが俺のはしゃぐ姿につられて微笑む。
    「ミヒロちゃんって、やっぱりサッカー経験者だったんだね。あの動きができるのは
    うちの部の奴の中には一人も居ないよ」
    「まぁ、バレちゃ仕方ないか。サトシ君のいう通り私、サッカー経験あるんだ。
    それにしても私もここまで出来る人に出会った事が無いからある意味感動だよ。」
    とりあえずサトシの話に合わせる。
    「出来る人か…」
    「ん?」
    俺の言葉に何やら考え込む仕草を見せるサトシ。
    「どうしたの?」
    「…いや、ミヒロちゃん並に動ける奴が居たなって。以前のサッカー部に。」
    「ふ~ん、そうなんだ」
    …俺の事を言っているのは知りつつもとぼけた返事をする。
    (演技上手ねww)
    ―この場合はそうせざるを得ないでしょ。例えミヒロがヒロアキだといっても
    誰も信用し難いものがありますが。…一部を除いて。
    「あの頃、そいつのキープ力は部でナンバー1だった。…俺も敵わなかった。
    あの足遣いは独特で、でも動きが読めなくて素早くて…そう、まるで今日の…って、あれ?」
    そう呟くなり俺の顔をじっと見て考え込むサトシ。

    368 = 361 :

    「…」
    「あのさ、ひょっとして…」
    「とりあえずグラウンドじゃなんだから移動しない?」
    「…え? あ、そうだね」
    いきなりの俺の提案にハッとするサトシ。
    まだ身体は重たいがちょっとでも休んだので動けないほどでは無い。

    されにしても流石はサトシだ、さっきの俺の動きから何かを感じとったみたい。
    でもあまり追求して欲しくない話題であるのでそれを避けるような別の話を振ってみる。
    「今日の面接をしてくれた先生って新井先生って人だったよ」
    「へー、俺の担任だよ。今日はHRしか姿を現さなかったから何やってんだって
    皆言ってたな…」
    「サトシ君の担任なの? へぇ、スゴイ偶然だね」
    「確かにそうかも知れないね。」
    「ひょっとしたら私、サトシ君と同じクラスになるかもね?」
    「それが本当ならいいね」
    俺とサトシはグラウンド横の芝生に移動し会話を続けていた。
    しかしサトシは先程から別の話題をしたいような素振りをしている。
    俺が全然関係ない話題を振ってくるものだから中々その話に持っていけないようだ。
    (割とミヒロちゃんって意地悪だよねww ひょっとしたらサトシ君、ミヒロちゃんのことで
    何か確認したい事があるんじゃないのかな?)
    ―分かっているよ、そんな事。俺(ミヒロ)とヒロアキのサッカーの動きが全く同じだから
    サトシはその確認をしたいんじゃないかなって。でも、ヒロアキは男で…今の俺は女。
    性別も違えば体格も見た目も全然違う。どう考えても同一人物には結びつかないだろ。
    「…あのさ、話のところ悪いけどちょっといい?」
    「ん?」
    会話の最中であったがばつが悪そうにサトシは俺に話を振ってきた。
    「ミヒロちゃんって、サッカーは誰から学んだの?」
    「? どうして?」
    ホラ来た、と思いつつとぼけた返事をする。
    「今日、ミヒロちゃんと初めてサッカーの1対1をしたけどその動きが俺の知る限り
    ヒロアキのサッカープレーと全く同じなんだ。フェイントとかドリブルさばきとか
    ちょっとした癖とか…」
    「…」

    369 = 361 :

    俺は黙って聞いている。
    「ミヒロちゃんって、ヒロアキの従兄妹なんだよね? もしかしたら奴に色々教えて
    もらったのかなって思ったんだ。」
    「まぁ、教えてもらったと言えばそうなるのかなぁ…、でもどうしてそんな事聞くの?」
    相変らずとぼける俺。
    「俺の錯覚でなければプレー自体が全くの同一人物の動きなんだ。そんな訳無いのは
    相手を見る限り分かっているんだけど…」
    (鋭いねー、全くの同一人物なんだけどねぇ。)
    ―それを言っちゃお終いでしょ。
    「さっきサトシ君が言っていた敵わない相手って、ヒロアキ君の事?」
    「!? どうしてそれを?」
    俺の投げかけに驚いた表情を浮べるサトシ。分かっちゃいるけど…俺って性格悪?

    「去年までヒロアキ君はここのサッカー部に居たって事、私知っている。
    …怪我で辞めた事も知っている。サトシ君はヒロアキ君と親友であると同時に
    サッカー部での最強コンビだったんでしょ?」
    「うん、ミヒロちゃんのいう通りで…俺とヒロアキはここのサッカー部で全国を目指す上で
    無くてはならないコンビだったんだ。」
    「…」
    「それと同時に俺はヒロアキのテクニックの上手さに憧れていた…俺にとっての目標でもあったんだ。
    当時に比べて俺も多少なりともレベルアップしたかも知れないけど、…多分まだまだだな」
    サッカーボールを手で触れながら考え込むように呟くサトシ。
    「ヒロアキ君が居なくなってもサトシ君はずっと頑張ってきたんでしょ?
    だって、サッカー部のエースストライカーとして部を支えているんだから。」
    「…そうなんだけど、実は俺がサッカーを続ける理由の大部分はあいつ…ヒロアキの為でもあるんだ」
    「え?」
    俺の表情をチラリと横目で眺めつつ話を続ける。
    「あいつはホント、サッカーが好きなんだよ。そんなあいつがサッカーを辞めざるを得ない。
    これがどれだけ辛い事か俺には想像もつかない。だけどあいつは自分の辛さを置いといて
    俺の事を気にかけて逆に励ましてくれた。だから俺はヒロアキの為にも
    あいつの夢でもあった全国制覇をする事と、あいつの脚が良くなって何時帰ってきても
    温かく迎えて入れてやれるように俺はサッカーを続けているんだ。」

    370 = 361 :

    「! そ、それって…」
    「未練がましいのかも知れないけど、俺は諦めて無いんだ。もう一度あいつとサッカーをしたいし、
    続けたいんだ。だから俺は待ち続けてるんだ、アイツの復活を。」
    自分の思いを俺に力強く語るサトシ。自身の秘めた思いを初めて人に聞かせたせいか
    話終わった後にちょっと照れ臭そうにする。
    「…!」
    サトシのセリフに驚愕する俺。
    初めて聞くサトシの想い。
    「…この事を話したのはミヒロちゃんが初めてだよ。ヒロアキにも話した事無かったんだけど。」
    「そ、そうなんだ…でもどうして?」
    …確かにこの話は初めて聞く、…けど。
    「理由は分からない。でもミヒロちゃんとサッカーをしていたら何だか話しておかなければ
    いけないような気になったんだ。」
    「…」
    これだけ俺の事を考えて、これだけ俺の為を思って自分の道を歩んでいるサトシ。
    なんだろう、この感覚。自分の胸の奥から止め処も無く湧き出てくる不思議な感覚。
    「…」
    俺は驚きの表情でサトシを見つめ続ける。

    「あ~、あいつは今頃何してるのかな? 早く帰って来て欲しいなぁ」
    サトシは手にしているサッカーボールをポンポンと掌で叩く。

    こいつは何の疑いも無く俺の帰りを、復帰を願って今も頑張っているんだ。

    371 = 361 :

    「…」
    …それに引き替え俺は何してるんだ?
    俺はサッカーを辞めてからの自分自身の姿を思い出す。
    怪我をした後に復帰する為の努力もせずただのうのうとだらけた日々を送り、
    …良くわからないうちにこんな馬鹿げた姿になってしまった。
    しかも元に戻る事も叶わず、周りの騒ぎに巻き込まれ自分自身を見失ってしまって。
    (…ん)
    さらにはこれだけ俺の事を考えて俺ともう一度サッカーをする為に自身の努力を
    続けているサトシの思いにも応えてやることが出来ず。

    今後俺はサトシの為に何をしてやれる?
    (…ちゃんっ)
    こんな姿になってしまって一緒にサッカー? …できるわけねぇだろ?
    今の俺じゃ却って足手まといだぜ?
    さっきの結果を見ての通りサッカーの技術はもはやサトシの方が上である事は確かだ。
    かえって失望させるのがオチだ。



    …何も

    …何もしてやれないよっ!

    …何もしてやれないじゃないかよぉっ!!!
    (ミヒロちゃんっ!)
    マルさんの声が聞こえる。

    372 = 361 :

    「…」
    どうしょうもない。
    どうすることもできない。
    様々な思い、とりわけ絶望感が俺の中で凄い勢いで充満しつつあるのを感じる。
    (ミヒロちゃん! 落ち着いて!!)
    …もはやマルさんの声も俺の耳には(意識には)届かない。

    …? ミヒロちゃん?」
    俺の変化に気づいたサトシが俺に声をかける。
    「…っ」
    「え?」
    首を傾げるサトシ。
    「無理っ」
    「? 何が無理なの?」
    俯いて表情を見せない俺の様子を見ようと顔を近づけるサトシ。
    「無理なんだよっ、サッカーは」
    「え? …どういう事」
    「俺はもうサトシとサッカーは出来ねぇんだよ! 今更言われたってどうすることも
    出来ねぇよっ!!」
    込み上がってくる気持ちをどうすることも出来ずに俺は立ち上がるとサトシに向かって
    叫ぶ。
    「ミ、ミヒロちゃん!?」
    いきなりの俺の変貌に戸惑うサトシ。どう反応してようやら分からず固まってしまっている。
    「こんな、…こんな姿になってどうする事も出来なくて、唯でさえ訳が分かんないのに!
    そんな俺にどうすれっていうんだよっ!! 無理だよっ! 無理なんだよ!!」
    ワナワナと震える全身を自分の両腕で抱きしめて押えつけようとする俺。
    「ど、どうしたんだい? 急に?」
    サトシはただオロオロするばかり。
    ああ、まただ。またサトシに迷惑かけちゃう。

    373 = 361 :

    …ホント俺ってどうしようも無い奴だよ。
    「もう駄目っ!!」
    「え?」
    「…ゴメンねっ…!」
    一度自分の想いが溢れ出すと止めようが無く、止め処も無くこぼれる涙を拭う事もせず、
    どうしようも無くなった俺は走り出す。
    「ミヒロちゃん!」
    「…」
    「ミヒロちゃん! 待って!!」

    サトシは俺の名を呼ぶが俺は振り返ることもせずひたすら走った。
    自分の鞄をグラウンドに置きっぱなしだったがそんな事など構わず走った。
    今は一刻も早くその場から離れたかったから。

    そのまま俺は自宅に逃げるように帰ると着替える事もせず部屋のベッドに飛び込む。
    母さんや実由、マルさんが俺に呼び掛けている気がするが今の俺には
    何も聞こえなかった。

    俺自身の不甲斐無さ、無力感、そしてもう二度と戻ることの出来ない日々への
    喪失感と後悔、…様々な想いが渦巻く。 …しかし、もはやどうすることも出来ない。

    その日俺は泣いた。…ひたすら泣き続けた。

    374 = 361 :

    ようやく投下です。
    スレが伸びてないので間が空いて無いように見えるところがなんとも。

    ところで前回、思い切りやらかしてしまいましたorz
    ドリフトって何だww ドリブルでしたね。
    指摘いただいてありがとうございました。

    そろそろ終盤です。多少は書き溜めたものがあるので次回は早めに
    投下できそうですが。

    377 :

    乙ー
    オレも続きwktk

    379 :

       どんだけ☆エモーション(その11)

    (※サトシ視点)

    「ミヒロちゃん!」
    俺は走り去っていく少女の名を呼んだ。
    彼女の後を追おうと俺も走る。
    しかし速い。信じられない事だが彼女の脚の速さは尋常でない。
    ミニゲームでも感じていた事だがドリブルさばきとかフェイントをかけた後の
    ダッシュとかうちのサッカー部の誰よりあんな動き出来る奴いないって。
    …全然追いつけない。
    「なんなんだろう…あの子」
    見た目の女の子らしさとは裏腹に妙なところで男っぽかったり、その辺の男以上の
    運動神経だったりあれだけ意外性を感じさせる女の子は初めてだ。
    追うのを諦めた俺は荷物を取りにグラウンドに戻る。
    「あれ?」
    俺のスポーツバッグの横に見慣れぬ学生鞄が置いてある。
    鞄の横には可愛らしい人形が括りつけられていた。
    「ミヒロちゃんの鞄か。あの子忘れていったんだ。」
    結構取り乱していたからな。慌ててしまって忘れてしまったんだろな。
    「…でもこれでミヒロちゃんに会う口実が出来たな。」
    ミヒロちゃんの鞄を持ち上げる際についつい呟く。
    …不思議と笑みも浮んでくる。何でだか分からないがあの子に会えるかと思うと
    ワクワクしてくる。

    380 = 379 :

    何だか妙に惹かれるんだよな、ミヒロちゃんって。

    初対面のときから感じていた親近感。
    見た目は実由ちゃんを高校生にしたような感じで正直可愛い。
    いや、かなり可愛いと思う。ダチの吉田が騒ぐのも分かる。

    だけど俺には外見的なところだけであの子に惹かれているわけではない。
    今日のサッカーの動きもそうなんだけどミヒロちゃんに会っていると
    彼女の話し方や仕草の諸々が俺の中で身近に感じる存在とダブっているのを感じる。
    そう、今は居ない親友の存在を。
    「…ハハハ、まさかな。」
    馬鹿馬鹿しい考えに自分自身つい笑ってしまう。
    ミヒロちゃんはどこをどう見ても女の子にしか見えない。

    「よいしょ」
    俺は二人分の荷物を抱えると帰路に向かう。
    帰る最中も俺はミヒロちゃんについて色々考えてみる。

    ヒロアキと入れ替わりで現れたミヒロという女の子。
    晴子さんの話では親戚の子という事でヒロアキの家に住む事になったそうだが
    考えれば考える程あの子の存在は謎としか言いようが無い。
    とにかく不思議なのはあの子の言動だ。俺がヒロアキの事について色々聞こうとすると
    何かを隠しているようであったり、話題を避けようとする割りにはヒロアキについて
    熱く語ったりするし、何らかの関係があるような気がする。

    そして今日のミヒロちゃんの言った言葉。

    「俺はもうサトシとサッカーは出来ねぇんだよ!」、
    「こんな、…こんな姿になってどうする事も出来なくて、唯でさえ訳が分かんないのに!」
    彼女は俺に対して何が言いたかったんだろう?
    サッカーのミニゲームに負けたのが悔しかったからもうしたくないとか、
    制服姿でサッカーをしているのが嫌だったとか?
    …そんな訳ないよな。
    これまでの彼女の言動を改めて考えてみると俺が彼女に対して抱いている疑問が
    ひょっとしたら解けるのかも知れない。
    でも確かなものが無いんだよな。

    381 = 379 :

    色々な事を考えているうちに目的の家にたどり着いた。
    「さて、ヒロアキの家というかミヒロちゃんの家に着いたわけだが…」
    とりあえず俺は彼女の忘れていった荷物だけでも渡しておかないとならない。
    さすがにあの後なので気まずい感じもするが俺は多少考えた後
    インターホンを鳴らす。

    「はい~? どなたです~?」

    この間延びした話し方は晴子さんだ。
    ミヒロちゃん本人が出てくるかも知れないとちょっと期待していたが…
    多少落胆、でもかなりホッとしたりする。

    「サトシです。ミヒロさんの鞄を届けにきたんですけど…」
    「あら~サトシちゃん? ちょっと待っててね~」

    ぱたぱた、ガチャ。
    家の玄関ドアが開く。
    「サトシちゃん~ありがとうね~、ミヒロちゃんの鞄持ってきてくれて~!
    全くあの子ったら、どうしちゃったのかしらね~?」
    晴子さんが現れるなり嬉しそうに俺に抱きつく。
    「ち、ちょっと晴子さん!?」
    「あらあら、ゴメンねぇ、ついつい抱きついちゃったわ~」
    戸惑う俺に対し全くのマイペースな晴子さん。
    「えーと、分かりましたんでとりあえず離して頂けると…」
    「え? サトシちゃんひょっとして嫌なの~?」
    晴子さんの表情が若干曇る。
    「いや、そうでなくって…恥ずかしいんですよね」
    「うふふっ、照れちゃってやだわ~」
    俺の答えに嬉しそうに顔を赤らめるとようやく俺を開放してくれる晴子さん。
    いつもの事ながらこの方には振り回される。

    しかし何時見てもこの人若いよな。
    俺の母さんと同じ位の歳のはずなのに20代そこそこにしか見えない。
    「…」
    親戚だけあって実由ちゃんは当然にしてもミヒロちゃんに似ている。
    多分彼女が成長したらこんな感じになるのかな?
    性格は全然違うだろうけど。

    382 = 379 :

    「どうしたの~私の事ジロジロ見ちゃって~?」
    「いえ、こうして見ているとその…ミヒロさんが晴子さんに似ているなって。」
    「それはそうでしょ~、だって同じ血筋だものね~。ふふっ、二人とも可愛いって事かしら~?」
    「ええっ!? いやまあその…」
    「もう、サトシちゃんたら~ww」
    …同じ血筋か。それはそうだよな。可愛いって事については否定はしないけど…。
    「そういえば気になっていたんですけど、どうしてミヒロさんは晴子さんの家に
    来たんですか?」
    この際だからミヒロちゃんの事を色々聞いてみようと思う。
    「そうね~あの子の両親が仕事の都合で海外に行く事になったのよね~、
    だけどミヒロちゃんは海外に行くのが嫌だったので色々あって私の家に来たのよ~」
    「ふーん、そうなんですか。海外ですか。」
    海外と聞くとヒロアキの事を思い浮かぶ。今頃奴は何してるのかな。
    と言ってもまだ三日しか経ってないのだけれども。
    「じゃあ、高校の間はずっとこの家に住むんですね。」
    「そうね~、ミヒロちゃんもその方が良いって言ってるしね~」
    「そうですね」
    ヒロアキが居ない状況なのであまりこの家に顔を出す機会は少ないかなと思っていたが
    ミヒロちゃん絡みで意外に機会は多いかも知れない。
    俺の家も近いし、ひょっとしたら同じクラスになるかも知れないから高校の間は
    彼女に会う機会が多い?
    ミヒロちゃんがどうなのかは分からないけど俺にとっては嬉しい話だ。

    「…ねぇ、サトシちゃんってミヒロちゃんの事好き?」
    「え? いきなり何ですか?」
    突然の晴子さんの言葉に驚く。
    「好きも何もまだ会ってからそんなに経ってないのに…」
    「時間なんて関係ないでしょ~? 好き嫌いなんて~? ねぇ、好き?」
    戸惑う俺に対しニッコリ微笑みながら尋ねてくる晴子さん。
    「…わかりませんよ、いきなりそんな事言われたって。確かに気にならないと言えば
    嘘になりますけど。」
    本当は結構気にはなっているが気の無い態度を貫く。
    「ふ~ん、そう。まぁ、いいわ~」
    意外にあっさりとそう言うと晴子さんは俺からミヒロちゃんの鞄を受け取る。

    383 = 379 :

    「ところでミヒロさんの様子はどうですか? 鞄を置いたまま帰ってしまうし、
    気になるんですけど。」
    「そ~なのよね~、どうしたのかしら~? すごい勢いで帰ってきたかと思えば
    ずっと部屋に篭りっきりなのよ~。呼んでも反応が無いし、困っちゃうわ~」
    俺の問いに首を傾げて答える晴子さん。
    この状況だと晴子さんに頼んでもミヒロちゃんには会えそうも無い。
    この場は素直に引き下がった方が良さそうだと判断する。
    「…そうですか。それじゃ今日はもう会え無さそうですね。じゃ、帰ります。」
    「あ、待って~」
    晴子さんは帰ろうとする俺を呼び止める。
    「どうしたんですか?」
    「あのね、サトシちゃん、ミヒロちゃんの事よろしくね~」
    「え?」
    いきなりの晴子さんの言葉が理解できずにいる俺。
    「あの子、いろいろあって心身ともに大変な時にあるのよね~。
    私や実由もあの子を支えているんだけど私達だけじゃ足りないのよ~。
    だから、お願い。サトシちゃんもミヒロちゃんを支えてあげてね~」
    何で晴子さんがそのような事を言ったのか分からなかったが
    ミヒロちゃんの面倒については俺には断る理由が無い。…いや、むしろ。

    「そういう事ですか。お安い御用ですよ。」
    俺は晴子さんのお願いに笑って答えた。

    384 = 379 :

                 ◇

      (※ミヒロ視点)

    …朝になった。
    俺はどうやらあのまま寝てしまったらしい。
    目を覚ますと部屋の中がカーテン越しからの陽の光で淡く射し込んで来て
    すっかり明るくなっていた。

    「…」
    …頭がぼんやりしている。
    昨日の事は何もなかったかのように、まるで夢の中の出来事のように感じる。
    妙に気分が晴れたように感じるのは俺の気のせいか。
    あれだけ泣いたんだスッキリしないほうがおかしいのかな?

    「…朝か」
    ボソッと独り言。
    「そうだよっ♪ お姉ちゃん♪」
    「…え?」
    気がつくと俺のベッドの中にもう一人寝ていた。
    「実由?」
    その存在に気付いてちょっと驚く俺。
    「実由?じゃないよ! もーヒドイんだから!!」
    実由はぷくーっと頬を膨らませると俺に抱きつく。
    「昨日あれだけお母さんとあたしが呼び掛けたのに全然返事無いし、一緒に食べなきゃ
    なんない晩ごはんも全然食べないで寝ちゃうし!」
    「え…。そ、そう、ゴメン…」
    実由の癇癪に押されついつい謝る俺。
    「でもマル姉ちゃんがお姉ちゃんの代わりに一緒にご飯食べたりお風呂入ってくれたから
    許すけど…てへ♪」
    そう言うと実由は怒っていた顔を変え、頬を赤らめてはにかんで笑う。
    「…そう、マルさんがね…」
    考えてみれば俺の意識の無い時にはマルさんが俺の代わりに身体を動かすことが
    出来るんだったよな。

    385 = 379 :

    「…」
    そう考えるとこの格好も納得がいく。
    確か制服のままベットに飛び込んで寝たはずなのに今の格好は可愛らしい
    ピンクのパジャマを着ている。
    歯もしっかり磨かれていて昨日の寝る前と違う状態なのは実感できる。
    待てよ。…という事は。
    …マルさん。
    (……)
    …マルさん?
    (……)

    …返事がない。どうやら彼女の意識はまだ寝ているようです。

    マルさんは元々の身体の持ち主ではないので俺の代わりに身体を動かすと
    消費が激しく、復活するのに時間がかかるようだ。
    普段俺と共に行動するときは自分自身の意思で身体が動かせるわけでは無いので
    不自由を強いられるのかなと思ったが、実のところ俺とマルさんの行動は
    融合しているとのことで何も問題が無いそうで。
    真っ昼間から寝てしまった俺の代わりに夜まで一人で活動していたので
    相当疲れてしまったようだな。

    俺もあれからずっと寝ていたのが不思議でならないが考えてみれば
    昨日は学校で色々と緊張した時間を過ごし、その後身体が動かなくなりそうな程
    サッカーをして、家でひたすら泣き続けたから俺自身もかなり疲労していたようです。
    一体何時間寝ていたんだか。

    386 :

    「お姉ちゃん、…目が腫れぼったいよ。」
    実由が俺の顔をそっと触れる。
    「ん…昨日色々あったから、そのせいだよ。そんな心配そうな顔すんなよ、実由らしく
    ないぞ」
    俺は実由の髪をくしゃくしゃと撫ぜつけるとそのまま実由の頭を自分の胸に抱え込む。
    実由の甘く良い香りが俺の鼻をくすぐる。
    「…」
    実由は何も言わず俺に抱きついたままじっとしていた。

    実由の柔らかくて暖かい感触を抱き締めていると
    俺自分の気持ちが和らいでくる事に気付く。
    この様子を見ると実由は俺が昨日何をしていたのか事情を知っているようだ。
    多分マルさんが実由や母さんに話したんだろうな。
    別に知られたところで俺は別に構わないけど、あまり気を遣わないで欲しいなぁ。
    「別に気なんて遣ってないよ? あたしはお姉ちゃんが好きだから側にいるだけ。
    …それだけだよ?」
    上目遣いで俺を見る実由。
    「ふーん、そう。 まぁいいけど。…って、心の中読まないでくれる?」

    「ほら~二人とも起きなさい~? 朝ごはん出来てるわよ~」
    母さんが俺の部屋に向けて呼び掛けている。
    「うん? もうそんな時間か」
    ベッドの横の目覚まし時計を見る俺。
    「あ~あ、今日が休みだったらなぁ、ゆっくりお姉ちゃんに抱きついていられるのになぁ~」
    残念そうに実由は呟くと俺から渋々離れた。
    どうやら母さんは実由が俺の部屋にいる事は知っているようだ。
    「とにかく起きるぞ、実由」
    「うん♪」
    ぱたぱたと着替えた後、リビングで朝食をとる。
    俺は今日は何も用事は無い。実由は学校なので準備を済ますと忙しそうに
    学校へ出かけて行った。

    387 = 386 :

    「どう、落ち着いた~?」
    朝食後リビングでぼんやりとテレビを観ていると母さんが二人分のコーヒーを
    準備して持ってきた。
    「ありがとう。…母さんや実由は事情は知っているんだよね? 多分マルさんから
    昨日あった事は聞いていると思うけど。」
    俺は渡されたコーヒーに大量にミルクと砂糖を入れてから飲む。
    でないと女の子になってから味覚の変わってしまった俺には苦くて飲めないから。
    「そうね~まぁ、大体は聞いているけどね~」
    「そうなんだ…」
    そうだよなぁ、知らないわけないかぁ。
    この母娘に隠したところで意味がないのは分かってはいるけれどもね。
    「そうそう、昨日の夕方にサトシ君がミヒロちゃんの鞄を持ってきてくれたわよ~、
    駄目よ~、忘れ物しちゃ~」
    「う、うん…」
    そういえば昨日鞄を置いたままで帰ってしまったんだ、すっかり忘れていたよ。
    「サトシ君に会ったらちゃんとお礼を言っておくのよ~」
    「うん…」
    …サトシに会わなきゃなんないのか。
    あんな事があったので正直サトシと顔を会わす気になれない。
    気を紛らわそうとコーヒーをぐいっと飲む俺。

    「あとミヒロちゃんに高校から電話があって来週の月曜日から学校に通って下さいって
    連絡があったわよ~」
    「そうなんだ…これも母さんや千絵先生が色々手を尽くしてくれたお陰だよ」
    「そうね~、今回は千絵ちゃんが協力してくれたからね~。お礼を言っておかないと
    ならないわね~」
    母さんは俺と取り留めの無い話をした後、用事があるからと言って出かけてしまった。
    取り残された俺はまたぼんやりとリビングのソファに横たわる。

    388 = 386 :

    …学校は来週の月曜日からか。
    今日は金曜日だから3日後という事になる。
    そういえば高校の試験期間も今日で終了だよな、…という事はサトシは今日から
    サッカー部の活動再開ってところかな。
    昨日のサトシとのやりとりを頭の中に浮かべるが俺の中ではあまり良い記憶ではないので
    直ぐに思い起こすのを止める。
    まぁ、いいや…俺にはもう関係無いことだし。

    (…う~ん)
    俺の頭の中でもう一人の声がする。
    お? ようやく目覚めたようですね。
    (…ミヒロちゃん、お早う。私、すっかり眠っていたようね)
    まだぼんやりとした感じでマルさんの意識が俺の中に流れ込んできた。
    ―いや、昨日は俺に代わって母さんや実由の相手をしてくれてありがとう。
    お陰で説明する手間が省けたよ。

    (いえいえww 私もミヒロちゃんの役に立ちたいもの、そう言ってくれると嬉しいww)
    照れくさそうなマルさんの意識。
    「…ん?」
    俺一人の時には昨日のマルさんと母さん達との状況が分からなかったが、
    マルさんが目覚めてから昨日の夜に何があったのか浮かんでくる。
    さすがに4日も意識を共有してくるとどちらかが寝ていても何をしていたのかが
    記憶として残っていて確認することが出来るようになってくる。
    …これでは隠し事なんて出来ないよなぁ。って、もう本人同然な感じなので
    別にいいんですけど。
    (そうですねww)
    それはともかく昨日の状況が浮かんできたのだが、…マルさんはさすが
    本物のの子(と言っても意識体)だけあって母さんや実由が感激する位
    可愛いミヒロを演じていて、俺には出来ないところだよなぁ。
    (大丈夫よ、ミヒロちゃんww ミヒロちゃんには私には無い"萌え"を醸し出しているからww)

    …何ですか、それ?

    389 = 386 :

                    ◇
        (再びサトシ視点)

    終業のベルが鳴った。

    クラスメイト達は1週間ほど続いた試験がようやく終わってホッとした表情、
    開放されて晴れ晴れとした表情、駄目だったのか暗い表情…と様々であったが
    それなりの感慨に浸りつつも帰り仕度をしていた。

    「サトシ、お前はこの後どうするんだ?」
    友人の吉田が話しかけてきた。
    「一応、部活かな。部活は今日までは休みなんだけど俺としてはブランクを埋めるべく
    活動に励まなくてはならないし。」
    「え~、ホントかよ? いいじゃん、今日くらい羽目外して遊びに行こうぜ?
    もう約束しちゃったしさ。」
    「約束?」
    吉田の言葉に怪訝とした顔をする俺。
    こいつは女好きだから大体の予想はつく。
    「そう、E組の仲畑さんと高野さん。サトシを連れていくという条件で彼女達と遊びに行く
    約束しちゃったんだよ」
    「ふ~ん」
    やっぱりな。俺が女子から人気がある(らしい)のをいい事にうちのクラスのみならず
    他のクラスの女子にも声をかけている。
    俺が行くのであれば女の子達はついてくるらしいが…勘弁して欲しい。

    ヒロアキも言っていたが俺は結構モテるらしい。
    確かに思い当たる節は多々あるが実際に女の子と付き合ったことは無い。
    せいぜい日常会話をしたりするのがほとんどでそこから発展することは今まで無かった。
    そんなこれまでの状況なので俺としてはそんな意識は全くないのだが、
    今の俺は他に打ち込まなければならない事があるので恋愛どころじゃ無い。

    390 = 386 :

    「悪いな。大会が来月あるから遊んでいる場合じゃないんだ」
    「お~い! そんな事いうなよ~っ!! 頼むからさ~!」
    つれなく断る俺に必死で頼み込む吉田。

    「はいはい、みんな~席に着いてー!」
    賑やかな教室内に千絵先生が帰り際のホームルームをしにやって来た。
    みんなパラパラと騒がしくも席に着いていく。
    「ホラ、早く自分の席に着けよ」
    「頼むって~!」
    これ幸いに冷たく吉田を追い払う俺。吉田は未練がましく頼み込み続ける。

    「吉田君、早く自分の席に着きなさいね」
    「う…分かりました」
    千絵先生に指摘され渋々自分の席に戻る吉田。

    「ふう」
    俺は吉田から解放されホッとして教壇の千絵先生を見る。
    そう言えばミヒロちゃんの面接を担当したのって先生なんだよな。

    …俺の頭の中に昨日の彼女の姿が思い出される。

    昨日泣きながら帰ってしまった彼女。
    あの後彼女の家まで行ったが会う事は出来なかった。
    正直なところあの子が泣いた原因はずっと考えたが全然思い浮かばない。
    ひょっとしてサッカーに勝ってしまったのがいけなかったと思ったが…
    結構負けん気が強い子だしな。

    まだミヒロちゃんと出会って数日しか経ってないけど彼女の事が頭の中から
    離れない事が多い。
    初めて出会った時の印象、一緒にマックに行った時の事、
    ヒロアキの家で勉強した時の事、そして昨日のサッカーと
    どれも一悶着遭って大変ではあったが俺の中では彼女と居て
    自分でも分からないけど充実して楽しかったという印象しか浮ばない。

    391 = 386 :

    でもミヒロちゃん自身はどうなんだろ?
    俺の事をどう思っているんだろうか? …気になる。

    昨日のサッカーでは多分俺が原因で泣かせてしまった。
    そういえばその前の日も泣かしてしまったよな…。
    ああっ、そうだ。マックの時は怒らせてしまったぞ?
    ひょっとして俺って、ミヒロちゃんを怒らせるような事ばかりしていたのだろうか?
    「う~む…」
    これでは彼女の俺に対する印象はきっと最悪だよな。
    昨日の家に行って会ってくれなかったのは多分そのせいかも知れない。

    …自分の恋愛経験の無さを今更ながらに痛感するよ。

    「…で、連絡事項は以上ね。あと、皆さんにお知らせがあるわ」
    俺がぼんやりと考え事をしている間にも千絵先生の話が続いている。
    教室内は相変らずざわついているが先生の話が聞こえない程では無い。

    さて、ホントにこの後どうするかな。
    吉田に付き合ってこの後他のクラスの女子と出かけてみるか?
    少しは異性について慣れておく必要があるのかもしれないし。今後の為にも。

    392 = 386 :

    サワザワ。

    ―ん?
    俺は一瞬騒然となった教室内の状況に意識を傾ける。

    数人の驚きの声と一部の女子の騒ぎ声。
    皆、千絵先生の話を聞いて反応している。

    「おい、どうしたんだ?」
    俺は思わず自分の座席前のクラスメイトに話しかける。

    「先生の話、聞いてなかったのかよ?」
    俺の問いかけに驚きの表情を崩さないクラスメイトが答える。
    「海外留学に行ったヒロアキが事情があって学校を辞めるって」

    「え?」
    一瞬彼の言った事が理解出来ない俺。

    学校を辞める? 誰が?

    「だから日本に帰れない事情が出来て、ヒロアキがうちの学校を辞めるんだってよ?
    この場合は何て言うんだ、退学? いや、海外に留学したままだから転校か」

    日本に帰れない? ヒロアキが転校?

    …何故?

    俺は頭の中が真っ白になった。

    393 = 386 :

    投下しました。
    続きを現在進行形で書いてますがどうなることやら。
    もう少しなんで頑張ります。

    395 :

    2年前にwikiを見て以来だったがふと思い出してみてみたらまだ続いていてなんか感動した
    書き手の人はがんばって

    396 :

    乙です。

    続き期待してます。

    397 :

    ずいぶん過疎になったな

    398 :

    元々過疎ってたけど一時的に盛り上がってただけ。

    399 :

    師走だから皆さん忙しくて投下する暇が無い…と信じたい。自分も何か書ければいいのだが。

    400 :


         どんだけ☆エモーション(その12)

      (サトシ視点)  

    「千絵先生!」

    俺はホームルーム終了後職員室に向かう千絵先生を追いかけた。

    「あら? サトシ君どうしたの? そんなに慌てて?」
    千絵先生はいつもと変わらない表情で俺をじっと見る。
    「そりゃ慌てますよ! ヒロアキがこの学校から居なくなるんだから!」
    興奮が抑えきれないせいか俺にしては珍しく口調が強くなってしまう。
    「確かにヒロアキ君が居なくなる事は大変な事よね。でも決まってしまった事だし
    仕方無い事だわ。」
    千絵先生は俺の興奮をよそに冷静に答える。
    「何で千絵先生は平然としているんですか? ヒロアキは先生と晴子さんとの
    関係からして昔からの顔馴染みでは無いんですか?」
    「そうだけど私はヒロちゃんと二度と会えない訳ではないし、学校だけのつながりでは
    無いからね」
    「先生にとってはそうかも知れないですけど展開が急すぎですよ! 留学だけの話では
    無かったんですか?」
    「まぁ、留学自体がアレだったし、展開としてはいいのかな」
    「アレ?」
    曖昧な千絵先生の言葉に(゚д゚)ポカーンとする俺。
    「ふふっ、何でも無いわ。とにかく決まってしまった以上、私にはどうすることも出来ないわ。
    ハルちゃんだってそうせざるを得なかったんでしょうねぇ。」
    「そうせざるを得ない…?」
    「ご免ね、サトシ君。私用事があるから行くわよ」
    「…」
    呆然としていたのでこれ以上千絵先生を引き止める事もできず
    その場に立ち尽くす俺。
    千絵先生は立ち去ろうとしたが一旦立ち止まると振り返って俺に向かう。
    「サトシ君、確かにあなたの親友のヒロアキ君は高校にはもう来ないけど
    別にそれで終わりじゃないでしょ?」
    「え?」
    千絵先生の問いかけに戸惑う俺。
    「確かにサトシ君にとって今回の件はとてもショックな事だと思うわ。
    でも親友は親友でしょ? どのような状況であってもね」
    「それはそうですけど…」
    先生の言っている事は分かっていても腑に落ちない。
    「…それに別に寂しくなんてないでしょ、一応居るし」
    「え?」
    「それじゃ、ね」
    千絵先生は行ってしまった。


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