元スレ勇者「ニートになりたい」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ○
451 :
おつ
452 :
【数時間後 酒場】
バニーガール「とっとと起きなァッ!!」バチィン
メイド「ひゃっ、ひゃいぃぃっ! ただいま支度をっ……はれ? へっ? ここは?」
バニーガール「なぁに寝ぼけてんの」コチン
メイド「あ……? 貴女は……」
バニーガール「そろそろ店じまいの時間だから帰ってよ」キュッキュッ
メイド「……あのっ! 私、なぜ?」
バニーガール「仮面つけてる貴族の人から起きるまで面倒見てくれって頼まれたの。最初は送ってくれって言われたんだけど……ねぇっ、あんたってお城で働いてんの?」
メイド「あ、そ、そうですけど? か、仮面の人から?」
バニーガール「いいなぁ~! お城でメイドやりゃ貴族様とお知り合いになれるなんて! ……でも、んふふっ、お金はたんまりと弾んでくれたしいっか♪」
メイド「貴女、さっきと言葉使い違いません?」
バニーガール「ありゃ商売の顔。接客のね。男どもなんて媚び売っときゃいいのさ。酒場に来るようなやつらはみぃ~んなさみしくて、気持ちよく飲めれば満足なんだから」
メイド「そ、そうなんですか」
バニーガール「よく見りゃあんたもかわいい顔してるじゃなぁ~い……スタイルもメイド服ぬぎゃ悪くなさそうだし。おっぱい何カップ?」
メイド「……っ⁉︎」ササッ
バニーガール「女同士でなに隠してんのよ。……そっか。生娘か。ならウチはだめだ」
メイド「働くなんて一言も……! このような汚らわしい場所で……!」
バニーガール「……ちょっとあんた。今なんつった?」ギロッ
メイド「うっ、だって、そうじゃありませんか。無精髭を生やしているような、清潔感のカケラもない男を」
バニーガール「そうかい。なら尚更だめだな。あんたにゃ城の中が似合ってるよ。世間知らずのガキが」
メイド「ガキって……!」
バニーガール「そうだろ? 男を知らないで、ホイホイついてっちまってさ。貴族様がいなけれりゃ、あんた、犯されてたよ」
メイド「……っ⁉︎」ブルッ
バニーガール「人生ってのはね、生まれながらにして平等じゃない。メイド服きて城の中に住めるだけラッキーってもんだ。……あたしらは、その運がなかっただけ」
メイド「……」
バニーガール「運だよ。この世は。決められた定員数があって、それにあぶれりゃ問答無用で選択肢は狭まる。じゃなきゃ、理不尽なことに説明なんかつくもんか……っ!」ギリッ
メイド「あ、あの。貴族の人が、私を?」
バニーガール「そう言ったろ。……あんたから貴族様にあたしのこと紹介しておくれよ? おもいっきりパフパフするからって♪」
メイド「(どうして、助けて、くれたの……? 盗賊の仲間のはずなのに……)」
バニーガール「あのお方お抱えになればここから抜けだせそうだしさ。ね? 頼むよぉ~」
メイド「貴族様は、どちらに?」
バニーガール「あん? 手癖の悪い衛兵さんと一緒にどっか行っちまったよ」
メイド「(行動をともにするということは……やはり……でも……)」
バニーガール「んふふっ、銀細工までもらっちゃったぁ」キラン
メイド「……? そ、それは……ちょっ、ちょっと! 見せてもらえませんか⁉︎」ガバッ
バニーガール「だめだよ! これは! あたしんのなんだからぁっ!」
メイド「み、見るだけ! 見るだけですから!」
バニーガール「……そんなに見たいの?」
メイド「はいっ! 見たいです! すごく!」
バニーガール「なら、カネ。カネだしな。見物料」クイクイ
メイド「えっ? えぇと、今、手持ちが」ゴソゴソ
バニーガール「じゃあ見せられないね!」プイッ
メイド「300ゴールドあります! これでどうですか⁉︎」ジャラジャラ
453 = 15 :
バニーガール「たった300ぽっちぃ? そんなんじゃ一晩の遊び代にもなりゃしないよ」
メイド「うっ、あの、今はこれが全財産で。お城に行けばまだ」
バニーガール「だぁめぇ~! 今度、いつか、なんて口約束ほど信用ならないもんはない」キッパリ
メイド「う、うぅっ、でも、約束は必ず守りますから」
バニーガール「ふぅ~ん、ま、いっか。盗むんじゃないよ」スッ
メイド「こ、これは……間違いない。見間違えようがない……アデルの……」
バニーガール「なんでもさぁ、アデルにいってこれを見せりゃ仕事を斡旋してくれるって言ってたけど」
メイド「な、なんですって⁉︎」ガタッ
バニーガール「きゅ、急に乗り出してきたらびっくりするじゃないのさ」
メイド「(まさか……っ⁉︎ まさかまさかまさかまさかまさかっ⁉︎)」ギュウッ
バニーガール「ちょっと! なに握りしめてんだ! あたしんのだ!」
メイド「その方は! 今っ! どちらにっ⁉︎」バンッ
バニーガール「……いや、だから知らないって……」
メイド「な、なんてこと……私ったら、なんて勘違いを……」ワナワナ
バニーガール「あのさぁ、そろそろ返してくんない?」
メイド「あ、す、すみません」スッ
バニーガール「でも、ほんとなのかねぇ。これ見せれば選択肢が広がるって」
メイド「なんと、言われたんですか?」
バニーガール「ん? いや、少し世間話をしていたら、ひょんなことを言われたのさ」
メイド「……?」
バニーガール「“なりたいものがあるなら諦めちゃだめだ”って。ふふっ、なんとも青臭いセリフだけどね。ああまで透き通った瞳で言われちゃうとさ」
メイド「……」
バニーガール「私も、自分に対する負い目はあるからさ。境遇は運だけど、いつのまにやら、今の環境に慣れちまってる自分もいる」
メイド「そう、ですか」
バニーガール「つまらない話しちまったね。さぁ、はやく帰ってくれ。この300ゴールドはもらうよ」
メイド「(や、やはり、違う。盗賊なんかじゃない! この銀細工は……この形は……あの時の……ゆ、勇者様……?)」
姫『貴女も知ってる、懐かしい友人ですの――』
メイド「……っ⁉︎」ガタッ
バニーガール「わ、わぁっ! だ、だから勢いよく立つなって」
メイド「姫さまは知ってた⁉︎ 気がついてた⁉︎ あの人の正体に⁉︎」
バニーガール「ひ、姫さま……?」
メイド「も、戻らなくちゃ! お城に戻って確認しなくちゃ!」タタタッ
454 = 15 :
【クィーズベル城 南西方向 廃墟】
ジャン「ぶえっっくしょんっ!! あー……風邪かな」ズズッ
衛兵「も、もう少しですよ」
ジャン「けっこー離れてんのな。かったりぃったらありゃしねぇ」
衛兵「あ、あの~。さっき、バニーガールに支払ったお金は……」
ジャン「ん?」
衛兵「に、2000ゴールドも、その、俺の財布から。い、いつか、返してもらえるかな~なんて?」
ジャン「お前がやらかしたからだろ?」
衛兵「そうはいわれましてもぉ~? 気絶させたのはジャン殿といいますかぁ」
ジャン「お前がこじ開けなきゃいけない状況を作ったからだろ?」
衛兵「ぐっ、で、でもぉ、やっぱりぃ~、最後の決めてはぁ」
ジャン「あ?」スッ
衛兵「さぁッ! 先を急ぎましょうっ!!」クルッ
ジャン「これこれ。待たれよ」
衛兵「……なんすか?」
ジャン「疲れたのである。おぶってたも」
衛兵「……」ヒクヒク
ジャン「おぶってたも」クイクイ
衛兵「こ、この野郎ッ!!!」
ジャン「あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ
衛兵「おぶらせていたたぎますっ!」ササッ
ジャン「素直で嬉しいでおじゃる」
衛兵「(あ、アジトについたら、全員で、袋叩きにしてやる……っ!!)」ヒクヒク
ジャン「……その顔は良からぬことを企んでいるでおじゃ」
衛兵「い、いいぇ~っ! そんなわけありませんよぉ~!」ニコォ
ジャン「なんでもいいからおぶれや」(鼻ホジ)
衛兵「(殺してやる……!)」ギリッギリッ
461 = 15 :
【城下町 表通り】
荒くれ者「逃さねぇぜぇ~コイツぅ~っ!」
メイド「あ、あ……」
荒くれ者「そんなはだけた格好で走ってどこいくのぉ~? お嬢ちゃん」ニヤニヤ
メイド「ど、どいてくださいっ! 私はお城に! 見回りの兵はっ⁉︎」キョロキョロ
荒くれ者「四六時中いるもんかぁ~! 恨むんならテメェの運の悪さを恨みなぁ。へっへっへっ」ジリ ジリ
武闘家「――お前らっ!! なにをしているっ!」ズザザッ
荒くれ者「あぁん? なにをって今からお楽しみに決まって……」クルッ
戦士「こいつらは……たしか、昼間のモミの木のタネの老人からお金を巻き上げようとしていた……」
荒くれ者「あ……っ、あっ……あ、あんたらは……」
武闘家「まだこんな元気があったんだね」ポキ ポキ
荒くれ者「ひ、ひィッ!」ガタガタ
戦士「ちぇ、雑魚か。ならあたしの出番はないな」ドサッ
荒くれ者「きょ、今日の昼間はたまたま調子が悪かったんだ! 今度はそうはいかねぇぞっ!!」
武闘家「御託はいい。さっさとかかってきな。今度はしばらく悪さできないようになるけど」クイクイ
荒くれ者「ヒャッハーッ!! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」ブンッ
462 = 15 :
【数分後】
魔法使い「――あれ? もう終わってたの? ってこいつ、昼間のじゃない?」
荒くれ者「」チーン
魔法使い「うわっ、顔面ぼっこぼこ」
戦士「弱い者いじめだよなー」
武闘家「アンタじゃ勝てなかったかもよ」
戦士「んなわけあるかっ!!」
僧侶「これは、少々やりすぎでは~」
メイド「あの、助けていたたぎありがとうございました」ペコ
戦士「あぁ、かまわな――」
武闘家「アンタ見てただけだろうさ」
戦士「なんだよ! いいだろあたしが言っても!」
僧侶「あのぉ~。そのような格好で出歩かれてはぁ~。時間も時間もですしぃ」
魔法使い「……露出狂?」
メイド「ちっ、ちちちっ違いますっ! 急いでて!」
僧侶「そうでしたかぁ~。なにやらご事情があるご様子。でしたら、私の着ている服を~」ヌギヌギ
魔法使い「二人に増やすんじゃないわよ!」
武闘家「……ほら、汚いマントだけど。これなら胸元隠せるだろ」パサッ
メイド「ど、どうも……ありがとうございます」
戦士「勇者がいたら喜んでたかな?」
魔法使い「きゃははっ、ないわよ。あいつ、絶対童貞だし」
僧侶「またお二人はそうやってぇ。純粋と言ってあげないとぉ」
魔法使い「甘い甘い。童貞は皆すべからずムッツリなの」
メイド「ゆ、勇者? そうおっしゃいました?」
武闘家「あ、んー……まぁ、その、アタイ達のパーティに」
メイド「今もご一緒なんですか⁉︎」
魔法使い「見たいの? やめといたほーがいいわよ。幻滅するから」
戦士「見た目は悪くないが、サインをもらうような相手ではな」
メイド「教えてくださいっ! 今もいらっしゃいますか⁉︎」
僧侶「いぇ~。今日は別行動をしておりましてぇ、今は帰ってきておりません~」
メイド「こ、これっ! これ見たことありませんかっ、私が小さい時にもらったお守りなんですけど……見覚えは……?」スッ
戦士「銀細工みたいだが、ススだらけだな。あるか? 魔法使い」
魔法使い「んーん、ない」
メイド「そ、そんなはず……! 勇者様のパーティなら見覚えが!」
武闘家「アタイも、ないな。僧侶は?」
僧侶「私もありません~」
メイド「そ、そうですか。勇者様なら、コレを持ち歩いているはず……“別の勇者”なのでしょうね……」
戦士「偽物は実際に出ていたが、あたし達が同行している勇者は本物の――」
メイド「いえ、いいのです。姫さまに確認すれば済む話ですので」スッ
武闘家「ちょっと待ちなよ。アタイ達がウソつきだっていうのか?」
メイド「そうは言ってません。ですが、私も、なにがなにやらわからなくて……混乱しているんです……」
戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……?」
メイド「助けていただきありがとうございました。後日、お城におこしくださいませ」ペコ
463 :
【数時間後 廃墟】
お頭「でえっへっへっ!! おめぇ、なかなかに面白いやつじゃねぇかっ!」
ジャン「いやぁ、お頭ほどでもないですよ」モミモミ
衛兵「(な、なんで……こいつが、気に入られてやがる……っ!!)」
ジャン「それそうとお頭、分け前の話なんですけどね」
お頭「そんなにカネが好きか? あァ?」
ジャン「大好き! カネのためならハーケマル王の足の裏だってペロペロしちゃう!」
お頭「ぎゃはっはっ! プライドねぇのかよぉ~おめえ」
ジャン「そんなんで金儲けできたら苦労しませんて。俺も噛ませてくださいよー」
お頭「おう、衛兵。帰ってきたと思えばなに神妙な顔してやがる。酒だ酒」
衛兵「へ、へい」トクトク
お頭「おめぇもご苦労だったな。ハーケマルの使者を見事にだきかかえちまうとは」
衛兵「あ、いや……それが」
ジャン「そりゃあねぇ、衛兵さんが頑張ってくれたおかげでこうして席があるわけですから」
お頭「違えねェ。お前の取り分、成功報酬から三割上乗せしといてやるよ」
衛兵「えっ⁉︎ い、いいんですかい? 三割……というと基本が100だから、130⁉︎」
お頭「なんだァ? 足りねぇか? ……そうだな。使者の協力があれば、成功したも同然だし、200ぐらいいっとくか」
衛兵「ば、ばばばはっ倍ですかいっ⁉︎」
ジャン「さすがお頭! 太っ腹!」
お頭「まぁよっ! 俺ぐらいになりゃあこれぐらい豪気じゃねぇとな!」
衛兵「(あ、あれ? こいつって、もしかして、良い奴?)」
ジャン「協力したいんですってぇ~! でも、計画がどういうものかわからなきゃだめでしょ~?」
お頭「……把握する。それが、狙いか?」ギロッ
ジャン「……」ピタ
お頭「だぁっはっはっ! ちょっと睨んだだけじゃねぇか!」
ジャン「(目は笑ってなかった。半分以上は俺を疑ってるな)」
お頭「いやいや、おめぇはおもしれーやつだ。ちっとも貴族らしくねぇ。だがな、だからこそ、大丈夫か? とも思う」
ジャン「はいはい~」モミモミ
お頭「衛兵。お前は使者をどう見る?」
衛兵「へい? 俺ですか? ……そいつは」
ジャン「思った通りに行ってくださいよー。疑う余地はないって」
464 = 15 :
衛兵「お、お頭、実は……」
お頭「ん? なんだ? どうした」
衛兵「……そ、そいつは……」
ジャン「……」ジー
衛兵「俺からジャン殿に質問させていただいてもいいですかいっ⁉︎」
お頭「かまわねェよ」
衛兵「ジャン殿、ちょっと」
お頭「なんだァ? 俺の目の前でコソコソ内緒の打ち合わせか? まさかおめぇら二人で宝を横取りするつもりじゃあるまいな」ニタァ
衛兵「ひっ⁉︎ い、いいえっ! そ、そういうわけではなく!」
ジャン「衛兵さん。お頭は俺たちの雇用主になるわけです。信用を失っちゃったら元も子もありませんよ」
お頭「……」
ジャン「聞きたいことがあれば、どうぞ。ご随意に」
衛兵「(よく考えろ! ここは、俺の岐路だ。分岐点だ。こいつは危ないやつだって、お頭に教えるべき。……で、でも、そうなったら俺の倍のボーナスは、どうなる……?)」
お頭「なにか、あんのか?」
衛兵「(密告しても、もらえるのか? この野郎はどこまでが本気でどこまでがウソなんだ。俺たちの仲間になりたいのは……本気……なのか? 女を襲ったのが気に入らなかっただけか?)」
ジャン「はやくしないと俺だけじゃなく衛兵さんの信用まで失ってしまいますよー」
お頭「だぁっはっはっ! おめェ、よくわかってんじゃねぇか!」バンバン
衛兵「~~~~ッ! ジャン殿っ!!」
ジャン「はい?」
衛兵「お、お金。お金は、好きですか?」オズオズ
ジャン「好きですよ」
衛兵「じゃ、じゃあ、女を襲うようなやつは?」
ジャン「嫌いですね。陵辱は胸糞悪くなるので」
お頭「あァ? そうなのかァ? 嫌がる女を征服するっていいもんだろうが」
ジャン「いやぁ~俺ドMなんで」
お頭「……まじかよ」(ドン引き)
ジャン「や、やだなぁ! 冗談ですって!」
衛兵「(な、なら、でも、牢屋いきだって言ってたしな。俺を。やっぱり報告するか! 報告して報酬もらおう! それでいこう!)」
465 = 15 :
ジャン「ほかになにか――」
衛兵「お頭ァッ! そいつは危ねぇやつです!!」ビシッ
お頭「あん? どういう意味だ?」
衛兵「そいつに殴られました! そんななりしてめちゃくちゃつええっす! そいつ!」
お頭「へぇ。おめェ、衛兵よりつええのか?」
ジャン「貴族なもので。幼少の頃より武術と剣術は嗜んでおります」
衛兵「俺が女を襲おうとしたら、こいつが扉を蹴破って入ってきたんです!! そんで俺をぼっこぼこに……!」
お頭「そのわりには、怪我が見当たらねぇが?」
衛兵「ここまで案内させるのに治しやがったんでさぁっ!!」
ジャン「まぁまぁ落ち着いて」
衛兵「お頭、そいつは……」
ジャン「俺、女を襲うようなやつは嫌いなんですよ。でもこの計画には一枚噛みたかった。だから案内してもらったんです」
お頭「ふぅん……」
衛兵「そいつは俺を殴った後、団の内情も聞き出そうとしてて!」
お頭「なに?」ピクッ
ジャン「それも全て、どういう規模で活躍されてるか知りたかったのです。より良い取り引きのために」
お頭「……なるほど?」
ジャン「雇い主を無条件に信用するほどおめでたくありませんよ。ましてや、こんな無能を雇っているようでは」
衛兵「な、なにをぅっ⁉︎」
ジャン「お頭。気がつかないんですか? ならなぜ最初からこいつは報告しなかったのか」
お頭「そいつは俺も気になっていた。なんで今頃になって言う?」
衛兵「……うっ、そ、それは、すぐバレると思って……」
ジャン「予想外に相手に取り入ってしまった。俺にビビってたのか?」
衛兵「ぬぐっ」
ジャン「別にそこはどーでもいいんだけど。ボーナスの話が出たからだと思ってた」
お頭「……」ピクッ
ジャン「迷ってた。俺に金に好きかって聞いたのはなんで?」
衛兵「そ、それは、その、よ、よく考えてから」
ジャン「ほーらね。こいつも俺も金が大好きなんですよ。金のためなら平気で打算しますよ。お頭だって好きでしょ? カネ」
お頭「ああ……」グビッ
466 = 15 :
ジャン「そこで――こっからは俺の取り引きです」
お頭「……言うだけ言ってみろ」
ジャン「この場所を知られてしまった以上、お頭達は俺を黙って帰すつもりはないでしょう。なので、先に条件を提示します」
お頭「……」
ジャン「俺を仲間に引き入れれば、計画はさらに円滑に進められるでしょう。そこの衛兵さんをボコった際に聞き出したのですが、なんでも井戸の水を枯れさせているとか」
お頭「おめェ……っ! ペラペラと喋りやがったのか!!」ギロッ
衛兵「ひ、ひっ⁉︎ す、すみませっ!」ドゲザ
ジャン「話を進めても?」
お頭「……」コクリ
ジャン「ハーケマルの使者として、お力になれることは多いはず。取り分は、そうですね。300万でいかがでしょうか?」
お頭「……話を聞くだけといったはずだ。誰がお前を仲間にいれるといった」
ジャン「決めるのはお頭です。どうぞ、存分に打算なさってください。俺を引き入れることによって得られる利点と危険を天秤にかけて」
お頭「……」
ジャン「黙って殺られる気はありませんよ。だめだというなら懐に隠してある短刀で抵抗します」スッ
お頭「……俺をおどそうってのか?」
ジャン「めっそうもない。……お頭らぁ~。頼みますよぉ~。俺もお金もうけしたいんですぅ~」モミモミ
お頭「……」グビッ
ジャン「(考えてる考えてる。口から生まれたと俺に勝とうとは10年はやいわっ!ボケ衛兵が!)」チラ
衛兵「お、お頭。そ、そいつは」オズオズ
お頭「おめェはだぁってろ!! ……ボーナスはなしだ」
衛兵「そ、そんなぁ……」ガックシ
お頭「使者さんよ……まずはおめェになにができるか聞かせてもらおうか」
ジャン「私はハーケマルとクィーンズベルとを結ぶ使者でございます。そうですね、パッと思いつくのは、王子来訪と合わせ帯同してくる」
お頭「それで?」
ジャン「お頭達が安心して、余裕をもって仕事を行えるどころか、逃げ道までお手伝いできるかと」
お頭「う、む。注意を引きつけられるのか?」
ジャン「立場を利用すればたやすい。難しいことではないと想像できますでしょう?」
お頭「……」
ジャン「なにがひっかかてるかじゅ~~ぶんに理解できます。計画の重要ポストにおいたら、消えたり裏切りにあっては痛手。それもかなりの」
お頭「そうだ」
ジャン「私が信用できない。そこがひっかかってる」
お頭「……あぁ」
ジャン「信用できるようになにかやりましょう。あ、そうだ。メイドの弟を拐ってると聞いたのですが。衛兵さんから」
お頭「……なにから、なにまで……ペラペラと……っ!」ブンッ
衛兵「いたっ」コツン
ジャン「その弟の居場所を教えてもらえれば――」
お頭「いねぇよ」
ジャン「――はい?」
お頭「俺もヘタこいてな。ガンダタってやつに持ってかれちまった「
ジャン「な、なんですとぉっ⁉︎」
467 = 15 :
【クィーンズベル城 郊外】
ガンダタ「どおりゃあっ!!」ザシュっ
手下「うっ」ドサッ
ガンダタ「ふうっ、ふうっ、これで最後か……」
少年「ひっ、ひぃん」ガタガタ
ガンダタ「む、ぅっ、さすがに10人いっぺんには、こたえる」ガクッ
少年「お、おじちゃん」トコトコ
ガンダタ「ガキ。おめぇ、逃げなかったのか。バカなやつだ」
少年「こ、こわくて。動けなかった」ヘナヘナ
ガンダタ「あ? よく見りゃ小便漏らしてやがる。小便小僧だ」
少年「うっ、うっ、ぐすっ」
ガンダタ「おめェの姉ちゃんに会わせて、俺は金をもらう。そして、そのまましばらく姿をくらませる。再起は、その後だな」ドサッ
少年「だ、大丈夫?」
ガンダタ「ちっらたぁ根性見せたらどうだ。女みたいに人の顔色ばかりうかがってないでよ」
少年「あ、あぅ」
手下「ぐっ、ガンダタァッ……!」
ガンダタ「なんだ。まだ死に損ないがいたか」
手下「美味しい思いだけをできると思うなよ……! 追っ手は俺たちだけじゃねぇぞ!! うっ、ゲフッ」
ガンダタ「わかってるよ」ムクッ
手下「そいつを、渡して、謝礼をもらえてもっ、所詮、おめェは犯罪者だ。腐りきったクズ野郎だ」
ガンダタ「……あぁ」スタスタ
手下「仲間殺し、裏切り、裏社会での暗黙の了解を破ったお前に、もはや居場所なんか、ねぇっ!!」キッ
ガンダタ「だったらよ、俺は自分だけの居場所ってやつを作るだけだ」グサッ
少年「も、もういやだぁ、お、おねぇちゃぁ~ん」ポロポロ
手下「が、がはっ」ドサッ
ガンダタ「自分の居場所なんてもんは勝ち取るもんだ。そうだろ」グサッ グサッ
手下「」
ガンダタ「――俺は生きる。生き残って、あがいてあがいてやる。その先が地獄なら、鬼になってもな」ポタポタ
469 :
毎日更新は嬉しいね
乙
471 :
【再び 廃墟】
お頭「どうして驚いて……いや、ちょっと待て。頭を整理したい」
ジャン「(まずいぞ。弟はいったいどこに……)」
お頭「使者よ……ジャンっつったか。おめェの指摘には間違いがいくつかある」
ジャン「あ……はい? 間違いとは?」
お頭「たしかに俺ァ金が好きよ。ボンクラ衛兵も、お前も好き。ソレに違いはねぇ……ただな、俺にとっちゃ、カネなんてものは手段にすぎねえ」
ジャン「……?」
お頭「“金に溺れてるつもりはねぇ”。そういうこった。富、権力、そういうものを追い求め野望を胸にしてりゃ、金は後からついてくる。金なんてもんは所詮――」ゴソゴソ
ジャン「……」
お頭「贅沢をするための、道具だ」チャリン
ジャン「さっすがお頭――」
お頭「腹をわって話しようぜェ? ジャンさんよ。おめぇは“カネに使われるモノか”、“カネを使うモノか”。どっちなんだァ? あぁ?」
ジャン「なんのことやら、さっぱり」
お頭「くっくっ、とぼけるんじゃねェよ。俺の手下を無能呼ばわしたお前が、これぐらいを察しがつかねぇでどうする。そんな無能なら、俺がいらねェ」
ジャン「……そうですねぇ、いずれは一人立ちしたいと考えています。いつまでもコキ使われるのはイヤなので」
お頭「盗賊になるか?」
ジャン「俺は働くのが嫌いなクズなんですよ。盗賊だって社会からはみ出して、人の迷惑をかえりみない犯罪まがいのことやっちゃいるが、ルールがある。働いてますよね、一応」
お頭「一般人が積み上げてきたものをぶち壊す汚ねェ手段ばかりだがな」
ジャン「性善説なんてありえませんし、あなた方みたいな人は、人が人間である以上、必ず出てくる。必然的にね」
お頭「……」
ジャン「そんなに複雑な話じゃないんです。私は、のんびり気ままなニートを目指してまして」
お頭「ニート? てェと、無職、世捨て人になるつもりか」
ジャン「今の肩書きを捨てたいだけなのかもしれませんね」
お頭「ほかに大きな野望はねェのか?」
ジャン「そんな先のことまで考えてませんよ」
お頭「そうか……骨のあるやつを期待したんだがな」
ジャン「お頭のおっしゃっている意味は理解できます。その先になにを求めているので? カネが主目的ではない、後からついてくる副産物なら……」
お頭「“国盗り”よ。それが俺の夢であり、盗賊としての野望」
衛兵「く、国盗り……お頭、自分も初耳です」ゴクリ
お頭「そんなんだからおめェはカネに振り回されてんだ」
ジャン「(こいつは……どうしたもんでしょ)」
お頭「ジャンよ、おめぇのここ(胸)になにもないんなら……カネほしさに国を潰せる突き抜けたクズ野郎か?」トントン
ジャン「宝を奪い、財政難に陥れるだけで国が陥落するわけがないでしょう。そうなる前に、ハーケマルや他の機関が援助に動きだします」
お頭「くっ、くっくっくっ。そうはならねぇのさ。なぜなら、落とすからだ」
ジャン「戦をしかけるおつもりで? たった百人たらずの盗賊団で?」
472 :
お頭「衛兵から聞いたか……ぎゃっはっはっ! 百人じゃねェのよ。俺たちの団は」
ジャン「例え千でも同じこと、万を超える数ではないと……万もいるとか?」
お頭「いいや。いねェ、くっ、くっくっ」
ジャン「お頭ぁ、わかりませんよぉ~」
お頭「“魔族”だよ。俺たちのバックにはやつらがついてる」
ジャン「(あぁ? ……ちっ)」
衛兵「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」
お頭「どうだい? これなら信じられないこともないだろう? 国を落とせると」
ジャン「魔族が人間と協力か、もしくは協同ともいいましょうか……初めて聞きましたが」
お頭「俺も驚いたさァ。なにしろ、人間の若い女の姿をしていたからなァ。最初は気がつかなかった」
ジャン「(人間の若い? 淫夢族か?) ……それで、どうやって?」
お頭「そこまで話する気にゃならねェ」
ジャン「魔族がいるかどうかだけでも」
お頭「今言ったろ……チッ、証明か」ゴソゴソ
衛兵「……そ、そんな……ま、魔族と繋がってたなんて……」ブツブツ
お頭「ほらよ。このビー玉見てみな」
ジャン「それは?」
お頭「こりゃあ、なんでも特殊な瘴気の溜まってるもんを閉じこめてる玉らしい。中でケムリが渦になってるのわかるだろ?」
ジャン「(たしかに、紫色の、なにか、形作ってないか?)」ジー
お頭「こんなもんは人間には作れない代物だ。呪いのアイテムなんかでもねぇ」
ジャン「(よく、見ると、竜か?)もっと、よく見せていただいても?」
お頭「ダメに決まってるだろうが。証明はコレで済んだ」サッ
ジャン「……けちんぼぉ~」
お頭「さぁ、どうするよ? お前の結論は」
ジャン「お頭に協力します」キッパリ
お頭「あ、あぁ? 悩むそぶりも見せずにか?」
ジャン「他人が血を流そうかどうなろうか知ったこっちゃありません。俺はクズじゃなくドクズだったようです」
お頭「軽率なやろうだ」
ジャン「単純明快でいいじゃないですか。俺は答えましたよ。お頭はまだじっくり考えたいですか?」
お頭「うう、む」
ジャン「(魔族がなんでまた人間に。あいつら種族のプライド高いはずだけどな~、クィーンズベルを潰すために人間同士の争いに演出するつもりなのかなぁ)」
手下「お、お頭ぁッ!!」ダダダッ
お頭「うるせぇなァ!! ゆっくり考えられねぇだろうがッ!!」
手下「す、すいませんっ! でも、ガンダタを追っていかせた、馬たちが……帰ってきてて……!」
お頭「馬? 馬だけか?」
手下「し、死体をくくりつけた、馬が……!」
お頭「チッ、やられたか。なら、さらに人員を増やして……いや、まてよ。おめェ、衛兵よりつええんだったな……なら、こうすッか。ガンダタって野郎を殺ってこい。そしたらお前を信用する」
ジャン「かまいませんけど、顔がわかりませんよ」
お頭「人相書きなら、ほらよ」ポイッ
ジャン「……」パシッ シュルシュル
お頭「そいつが、ガンダタだ」
ジャン「(あれ? これどっかで……あぁっ⁉︎ 山で出会った山賊じゃねっ⁉︎ こっちに合流してたの⁉︎)」
473 = 15 :
【宿屋前 表通り】
ガンダタ「ぬっ、ぐっ」ヒョコヒョコ
少年「ずっと足ひきずって歩いてるけど」
ガンダタ「(矢を受けた足の痛みがおさまらねぇ、毒でも塗ってやがったな……!)」ヒョコヒョコ
少年「お、おじちゃん……」
ガンダタ「うるせぇよ、小便小僧。お前はもうすぐ解放されるんだから喜んでろ」
魔法使い「――たまには外食もオツなものよねー!」スタスタ
僧侶「そのわりにはぁ、あまりハシが進んでませんでしたけどぉ」
魔法使い「だって暑いか辛いしかないんだもんっ!! 気分だけでも味わいたくて言ったただけ!」
戦士「あたしは美味かったけどなぁ」
魔法使い「あんたは食えればなんでもいいんでしょうが!」
ガンダタ「(うるせぇ女どもだ。さっさと通りすぎやがれ)」
僧侶「武闘家さんもくればよかったんですけどねぇ~」
戦士「ほっとけ! あんなひねくれ者!」
魔法使い「宿屋のご飯食べるっていたし、まぁいいんじゃない?」
ガンダタ「(いや、まてよ。こいつら、どこかで……?)」
魔法使い「寝苦しくないといいな~」スタスタ
ガンダタ「思い出した……! おめぇらっ! 若僧のツレで寝てたやつ!!」
魔法使い「へ?」ピタッ
ガンダタ「あいつはっ、どこだぁっ!!」ブンッ
少年「わ、わぁっ、またぁっ⁉︎」
――バチィンッ――
魔法使い「あ? へ……?」ヘナヘナ ペタン
戦士「大丈夫か? 魔法使い」ザッ
ガンダタ「(こいつ……俺様の正拳突きを止めやがった……!)」
戦士「いい突き出しだ。ちょっと反応遅れたらウチの魔法職さんに当たってたろう。でも、残念ながらもっと凄いやつの正拳突きをあたしは知ってる」
僧侶「武闘家さんのことですねぇ~」
戦士「余計な解説いれんでいい!」
474 = 15 :
ガンダタ「なんだァ? てめぇは」グリッ
戦士「むっ⁉︎」シュタッ
魔法使い「せ、戦士ッ! 平気⁉︎」
戦士「(さらに拳に力が入っていたな、思わず距離をとったが)……問題ない」スラァ チャキッ
ガンダタ「小便小僧。少し離れてろ」
少年「あ、あわわっ」トテトテ
僧侶「補助魔法、おかけしますかぁ?」
戦士「いや、必要ないだろう」
魔法使い「ほ、ほんと? 油断してて負けるとかやめてよ?」
ガンダタ「……おい、ねぇちゃんよ。俺は血を見てちィとばかし、気性が荒くなってる。おめぇらの中に若僧がいたろ。あいつはどこだ?」
僧侶「勇者さまを訪ねる方が多いですねぇ。さすが有名人でしょぉかぁ~」
魔法使い「い、嫌な来訪者だけど」
戦士「……あいにくとあんたの探してるやつはいない。今はね」
ガンダタ「ウソついてちゃなんにもなんねぇぞ」ヒョコヒョコ
戦士「……? 足、怪我してるのか? そんな状況であたしと――」
ガンダタ「だったら、なんだってぇんだっ⁉︎」バッ
戦士「――っ⁉︎ 砂っ⁉︎ い、いつのまにっ、くっ」
ガンダタ「正攻法だけでくると思うなよネェちゃんっ!」ブンッ
戦士「目に、砂がっ」ガクッ
魔法使い「……っ! メラミッ!!」ボフゥ
ガンダタ「なにっ」バァンッ
魔法使い「あんたこそっ! この大魔法使いである私の存在を忘れちゃいないでしょうね!」スチャ
僧侶「なんだかぁ、不意討ちのようなぁ~」
魔法使い「し、しかたないでしょ! 戦士が危なかったんだから!」
ガンダタ「……魔力が練りこまれてねぇじゃねぇか。中級魔法(メラミ)の名が廃れるぜ」モクモク
魔法使い「言ったわね……! 時間なかっただけだもん! 咄嗟だからだもん!」キィィィン
ガンダタ「させるかよっ! 俺の斧でもくらっとけ!」ブンッ
魔法使い「え? ちよ、ちょっと、ま、まずっ⁉︎」アタフタ
475 = 15 :
武闘家「あちょぉ~~~っ!!」キンッ
ガンダタ「……っ⁉︎ なんだぁおめェ」
武闘家「今度は誰かと思えばアンタ達か。まったく、戦士。なんてザマなのさ」タンッ
戦士「くそっ」ゴシゴシ
魔法使い「た、助かった。あ、ありがとう、武闘家」
武闘家「……」キッ
ガンダタ「そーかい。おめェも仲間ってわけかい。女ばかりがゾロゾロと」
武闘家「女だと思って甘くみるんじゃないさ。……痛い目みるよ」スッ
ガンダタ「うるせぇよ。見たところ前衛職二人に、後衛職二人か……」
僧侶「あのぉ、争いはやめたほうがぁ」
魔法使い「女神様は休暇中で見ないことにしてくれるってさ!」
ガンダタ「俺も満身創痍な状態でこれはきついか。これを使うのは気が進まねぇが」
僧侶「……?」
ガンダタ「おい、お前ら。おれが喋る最後のチャンスだ。あの若僧はどこだ」
戦士「だから言ったろう! いないと!」
武闘家「また訪ねてきてるのか?」
僧侶「みたいですねぇ」
ガンダタ「そうかい……へ、へへっ、せっかく、最後の機会を与えたってのによ……」シュゥゥゥ
戦士「なんだ……? 身体から、煙が」
魔法使い「気のせい? 真っ赤になってきてない?」
武闘家「……こ、これはっ⁉︎」
ガンダタ「うっ、うぅっ! うぅっ、ヴゥうぅっ」シュゥゥゥ
戦士「唸ってるが」
魔法使い「唸ってるわね」
武闘家「僧侶! スクルトを! はやく戦士とアタイに! 戦士! 本気を出せッ!!」
僧侶「は、はいぃ~」ポワァ
戦士「なんだ? いったい……?」
武闘家「こいつは……ッ!! バーサーカー(狂戦士)だッ!!」
戦士「バーサーカー?」
ガンダタ「う、ヴぅ」ピタ
武闘家「――来るぞっ!!」
476 = 15 :
ガンダタ「ウガァッッ!!!」ダンッ
戦士「むっ! あたしに来るか!!」チャキッ
ガンダタ「がァッ」ブンッ
武闘家「避けろ! うけようとするなっ!!」
戦士「なっ、なんだこの力、づよさっ、きゃあぁぁぁっ!」ドーーーンッ
魔法使い「え……戦士が……女の子の悲鳴あげながら、吹っ飛んでった……」
武闘家「だから言ったじゃないさ!」
僧侶「ピオリム~」ピュイ
武闘家「ナイスだ僧侶! はぁぁぁぁっ!! 哈ぁっ!!」ドゴンッ
ガンダタ「ヴゥッ?」ギロ
武闘家「ビクともしないか……っ! アタイの拳を舐めるんじゃないよ!! あちゃぁ! ほぉあたぁっ!!」ドゴォ バキィッ
ガンダタ「……」
武闘家「一撃必殺ッ!! 正拳突きぃぃっ!!」ドゴーーンッ
ガンダタ「うっ……っ!」ヨロ
武闘家「どうだ!」
ガンダタ「……」ギロッ
武闘家「ば、ばかなっ!? アタイの正拳突きがっ!? き、筋肉に阻まれてる……!?」
僧侶「戦士さんを回復してきますぅ」タタタッ
魔法使い「えーと、えーと、えーと、えーと、私は魔力を練らなきゃ」キィィィン
ガンダタ「ヴゥッ!!」ブンッ ブンッ
武闘家「うっ、くっ」ヒョイ ヒョイ
魔法使い「(ひ、ひぃ~ん。ど、どどどうしよぅ。メンバーには黙ってたけどメラミ以上の魔法使えないのにぃぃ~~)」
僧侶「ベホイミ」ポワァ
戦士「うっ、うぅっ」
僧侶「じっとしててください」
戦士「う、受けた、剣が、折れた。ぶ、ぶとうかぁっ、そいつの攻撃は、うけちゃだめだ……」プルプル
武闘家「アタイが最初に言ったろ⁉︎」クルッ
魔法使い「あっ! よそ見っ!」
ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ
武闘家「しまっ――」グッ
481 :
【数分後】
武闘家「……うぐっ」ガラガラ
戦士「どうなってるんだ! いくらダメージを与えてもおかましなしじゃないか!」キィンッ ギュインッ
ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ ブンッ
魔法使い「ぜんぜん効いてないじゃないのよぉ~っ!
メラミッ!」ボヒュウ
武闘家「うっ、足が……」ズキンッ
僧侶「今治しますよぉ~」ポワァ
戦士「武闘家っ!」ズザザッ
魔法使い「ちょっとぉ~! なによアレはぁ!」タタタッ
武闘家「……コロシアムにいた時に聞いたことがある。何代か前に、バーサーカーと呼ばれるチャンピオンがいたと」
戦士「……」ジトォ~
武闘家「なにさ、その目は。“もっとはやく教えろ”。そう思ってるな? ……しかたないだろ。バーサク化する特徴で気がついたんだからさ」
魔法使い「それじゃあ、あの化け物もマッスルタウンの元チャンピオンっ⁉︎」
武闘家「同一人物かは知らない。……戦士、今から言うことを良く聞け」
戦士「なんだ?」
ガンダタ「ウゥ……」ノシノシ
武闘家「バーサーカーはアドレナリンを分泌させて筋強アップや痛覚を麻痺させてる。でも、ダメージが蓄積されてないわけじゃない」
戦士「そうは見えないが……」
武闘家「されてるんだよ。アレはいってみれば“究極のやせ我慢”状態なのさ。状態解除されれば、本人もただでは済まない。恐ろしいほどのペイン(痛み)が肢体を駆け巡る」
戦士「状態解除といってもなぁ、止まる方法はなんなんだ?」
武闘家「一度あのモードにはいったら、目的を達成するまで止まらない。我慢を上回るダメージを積むしかない……!」ムクッ
僧侶「あぁ~まだ途中ですよぉ~」ポワァ
戦士「一発でも受ければ致命打だ。先にどでかいのもらうか、手数をぶちこむかの戦いってことだね?」
武闘家「その通り……!」
魔法使い「じゃ、じゃあ! 私も魔力が尽きるまで魔法を撃ちまくって当てまくればいいのね!」
戦士「僧侶。回復は最小限にして補助魔法を頼む」
僧侶「……はい~。スクルトォ~、ピオリム~」ポワァ
武闘家「まさか、いきなりで苦戦を強いられるとは……世の中ってのは、ホントにわけがわからない」
ガンダタ「うがぁぁぁぁあっ!!」ズンズン
戦士「さっきまでは人間と思えてたんだが、あれじゃモンスターだな」
武闘家「……すぅーっ……はぁ~……総力戦だっ!!」クワッ
僧侶「作戦名はぁ~“ガンガンいこうぜ”。と、いったところでしょうかぁ」
482 = 15 :
【クイーンズベル 郊外】
ジャン「はぁ~、なにやらこんがらがってきたな~」パッパカ パッパカ
衛兵「……」
ジャン「どしたんだ? さっきから黙りこくっちゃって」
衛兵「魔族と裏で繋がってるなんて聞いて平気でいられるのがおかしいんですよ」
ジャン「悪そなやつはだいたい友達でいいんじゃないの。最高峰の魔族とツルんでるんだから、誇れば?」
衛兵「に、人間じゃないんだぞ⁉︎ お、おっかねぇ」ブルッ
ジャン「よくわからんなぁ~。人間だからだとか魔族だからとか。やってる非道さは似たようなもんだろ」
衛兵「あいつらは人を食う!」
ジャン「……人間は人間を食わないけどさ、普通は」
衛兵「エサとしか見てねえだろ! お、俺らはそこまではしちゃいねぇ」
ジャン「お前なぁ、一般人から見たらどっちもタチ悪いんだが? ビビりめ」
衛兵「そんなんじゃねぇよ、俺はただ」
ジャン「衛兵が弱者を襲ったりする時だけ強気な典型的クソ野郎だとはわかったよ」
衛兵「な、なんとでもいえっ!」
ジャン「ガンダタは城に向かったのは確かなのか?」
衛兵「血の跡がまっすぐ続いてる。盗賊団との取り引き材料に使うよりも、謝礼を貰う方を選んだみたいだな」
ジャン「(このままほっとけば弟くんはメイドの元に帰る、が――)」
衛兵「お頭は人質の奪還をお望みだ。そうしないと、入団も認めてくれねぇぞ」
ジャン「(そこなんだよなぁ。魔族と井戸の原因がまだ判明してない……とりあえず、弟くんの無事を確認したら今わかってる情報だけ王様にながすか……?)」
衛兵「こういう取り引きはよくすんのか?」
ジャン「ん? いや、しないよ」
衛兵「それにしちゃ、慣れてるように感じたが。おカシラにもすぐ気にいられてたし」
ジャン「気に入ったんじゃなくて値踏みしてんの」
衛兵「……値踏み、ねぇ」
ジャン「気に入ったそぶりを見せてたのはハーケマルの使者だから。こいつは使えるとわかってはじめて“気にいる”のスタートラインに立てる」
衛兵「なるほど……」
ジャン「我輩のコミュ力におそれいったかね? なっはっはっw」
衛兵「もうすぐクイーンズベルだ。ジャン殿、まずは宿屋にいきやしょう」
ジャン「あっ! お前スルーしやがったな⁉︎ さみしいじゃないか!」
衛兵「めんどくさいんすよあんたの絡み!」
▼勇者は心に198758のダメージを受けた!
ジャン「き、傷ついた。会心の一撃をお見舞いするとはやるやないか……!」
衛兵「打たれ弱いな!」
ジャン「なんだよぉ、もっとかまってくれよぉ」
衛兵「さらにめんどくせぇ! ……城門は閉まってます! なんで! 宿屋です! 宿屋からいきやしょう!」
ジャン「はいはい」
衛兵「はぁっ」バシィッ
馬「ヒヒーンッ」
484 :
【クィーンズベル城 姫の部屋】
メイド「……はぁっ……はぁっ、お、お嬢様」ガチャ
姫「わたくしの専属メイド様じゃございませんの。いいご身分ですわね、仕事を放棄していったいどこを……」ポト
メイド「……息を、乱してしまい、失礼いたしました……」
姫「貴女……そのマントは? そんなにメイド服を汚して、なにがあったんですの?」
メイド「姫さま、教えてくださいまし。ハーケマルの使者の正体について」
姫「まずは着替えて――」
メイド「お願いします、姫さま! わたし、とんでもない勘違いをしていたんじゃないかと……盗賊団の仲間かと思ってて、気が気じゃないんです……」ポロポロ
姫「盗賊団……?」
メイド「……もしや、もしや、あの方は、勇者さま……なのでは?」
姫「……そうですわよ」
メイド「や、やはり……そんな、どうして」ペタリ
姫「勇者も見かけなくなりましたけど、なにがあったの……盗賊団と間違えてたってなに?」
メイド「あ、謝らなければ。で、でも、盗賊団と一緒にどこへ」
姫「落ち着いて。順を追って説明なさい」
メイド「いえ、姫さまを巻き込むわけには……」
姫「余計な心配です。貴女はわたくしの従者なんですよ。主人に秘密を持つとはなんたることですか。裏切り行為です」ギロッ
メイド「す、すみません」シュン
姫「それとも、話せないほどわたくしは頼りない?」
メイド「いえ! そんな!」ブンブン
姫「ならば、申してみよ。一国の姫として命ずる」
メイド「……っ!」ギュゥ
姫「……」ジー
メイド「ふぅ~、わかりました、姫さま。告白せねばならぬことがございます」
姫「……申せ」
メイド「実は……弟が、盗賊団を名乗る者に拐われ拉致されました……」
姫「なんですって? 城外にメイドの母と二人で暮らしているという。たまに遊びにきてたわよね」
メイド「ご存知の通り、私の母は、飲んだくれの父に先立たれてから床に伏せております。どうしようもない父でしたが、母には、心の拠り所だったようで」
姫「ええ」
メイド「給金が酒代に消えていたのはお嬢様も薄々感づいておられたのでしょう?」
姫「……」コクリ
メイド「父が不摂生な生活がたたり亡くなってからは、幼い弟が母の身の回りの面倒を見ていたのです」
姫「それもわかっておりました」
メイド「ちょうど二週間ほど前のことでした。城で従事している衛兵に呼び止められ、“弟を拉致した”……そう告げられたのは」
姫「衛兵が……?」
メイド「はい。私にとっては、晴天の霹靂(せいてんのへきれき)でした。父と母を忌み嫌っている私は、弟しか、家族と呼べる者がいないのですっ」ポロ
姫「それで……?」
メイド「うっ、ぐすっ、そ、それから、私は、あろうことか、お城の内部情報をっ、盗賊に流すようになりましたっ」
姫「……」
485 = 15 :
メイド「幼き日、姫さまの従者として取り立てていだいた恩を感じながらもっ、私はっ、弟を失いたくないっ、それしか考えられずっ」
姫「盗賊団の狙いは? 身代金の要求じゃなく情報なんですの?」
メイド「ひっ、姫さまの、ぐすっ、縁談に合わせて、宝物庫に忍びこむらしいです」ポロポロ
姫「……そう。それで、勇者をなぜ盗賊団の関係者と?」
メイド「そ、それはっ、私が早合点してしまい、姫さまがハーケマルの使者じゃないといったときに、盗賊団の者が接触していたのかと」
姫「ここまでは理解しました。先ほど、謝らなければと言っていたわね? 勘違いが解け勇者とわかったきっかけはなに?」
メイド「私は、勇者さまが盗賊団の者だと勘違いしていた折に、姫さまが危険だと感じて、焦っていました」
姫「だから、出かけていたのね?」
メイド「はい。かねてより要求されていた物を手にして」
姫「要求されていたもの? それはなに?」
メイド「城の見取り図でございます」
姫「……っ⁉︎」ガタッ
メイド「弟を無事返していただいたら、王に全てを告白し、自害するつもりでおりました」
姫「自害で済むと思うっ⁉︎」バンッ
メイド「申し訳、ございません」ペコ
姫「でも、相手が勇者だと気がついたのなら見取り図を持ち帰ってきたのですよね? そうでしょ?」
メイド「いえ。それが……待ち合わせ場所である酒場に到着すると、なぜか、衛兵と勇者さまが一緒に卓を囲んでおられたのです」
姫「なんですって……?」
メイド「私はハーケマルの使者が、盗賊団の一味だったという確信を持ちました。そして、衛兵に個室に連れていかれ、二人きりの状況で見取り図を渡したのです」
姫「勇者が、なぜ……そ、それからっ⁉︎ どうなったんですのっ⁉︎」
メイド「……はやく弟の無事を確かめたかった私は、衛兵に詰め寄りました。懐に隠していた短刀を突きつけて」
姫「……」
メイド「でも、こわくてこわくて仕方なかった私は、身体中が震えてしまって……衛兵に気がつかれた後はは、たやすく武器を奪われ、襲われかけました」
姫「だから、そんな格好してるんですのね」
メイド「逃げようと必死になった時でした。個室の扉の前から勇者さまの声が聞こえてきて」
姫「……」
メイド「覚えているのはここまでです。どうやら、扉を無理やり開けてきたらしく、その際に私は気絶してしまい」
姫「目が覚めたら、どこにいたんですの?」
メイド「酒場の椅子に横たわっていました。そこでバニーガールからこれと同じものを見せられて」スッ
姫「それは……勇者の……貴女、まだ後生大事にしてたの……」
メイド「ふふっ、なにをいうんですか。姫さまもオルゴールの箱に大切に隠しているではありませんか」
姫「しっ、知ってたんですのっ⁉︎」
メイド「これは、アデルの像をかたどったもの。勇者さまが生まれた日に作られた記念の銀細工」
姫「サインみたいに配りまくってましたけどね」
メイド「勇者だけが配ることを許された品でもあります。底に刻印が掘ってあるのを気がつかれてましたか?」
486 = 15 :
姫「ええ……」
メイド「これには、特殊な意味があるのです。姫さまに渡したものも、私に渡したものも。ただ、無闇に配っているわけではないのですよ」
姫「……わかってるんですの。ただ、あんまりにも渡しすぎるから。一時は袋に目一杯つめて歩いてましたもの」
メイド「あの時の勇者さまったら、ズルズル袋を引きずりながら」
姫「ふふっ……って! それでっ⁉︎ 見取り図はっ⁉︎」
メイド「申し訳ありません」ペコ
姫「勇者が持ってるんですのっ⁉︎」
メイド「なにぶん、気を失っておりまして」
姫「お父様に報告するにも、見取り図がなくては。貴女が……」
メイド「私のことはどうか、お気になさらないでくださいまし」
姫「き、気にするなですって……?」
メイド「罰を受ける。その覚悟で持ち出したのです。私は、最初から王と姫さまに打ち明け、弟をお頼みするべきだった」
姫「あ、貴女ねぇっ!」ブンッ
メイド「……」
姫「いい加減にしなさいよっ!!」バチィンッ
メイド「……っ、お怒りはごもっともでっ」
姫「痛いでしょう⁉︎ 頬を叩かれて痛くないわけないんですの⁉︎」
メイド「……」
姫「でもっ! 叩いた私の手だって痛いっ!! なぜ叩くと思う⁉︎ 楽しいからじゃあませんのよっ⁉︎」
メイド「も、もうしわけっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ
姫「貴女が私の友だからでしょう!」ビシッ
メイド「ひぐっ、ぐすっ」
姫「……お父様には、まだ伏せておきます」
メイド「ひ、姫さまぁ、それでは、見つかった時に、姫さままで罪にぃっ」
姫「黙りなさい!! 勇者……勇者はどこほっつき歩いてんるんですの……!」
487 :
全部が主人公に集約するように書いてるのか
これはうまいな
490 :
【再び 宿屋前 表通り】
戦士「予備の剣まで折られるなんて……」カランカラン
ガンダタ「ヴぉおおおおぉっ!!」ブンッ
武闘家「諦めるなっ! 心が折れなければっ……ぐぁっ」ドゴォーーン
魔法使い「武闘家ぁっ! め、メラ……魔力が……力が、抜けてく」ガクッ
僧侶「私も精神力がぁ~」ガクッ
戦士「こいつの、やせ我慢が勝ったか」
武闘家「まっ、まだまだぁっ!」ガラガラ
戦士「もう、いいよ」
武闘家「……戦士、アンタ、なに言って……」ズル ズル
戦士「世の中は広い。武闘家に負けて、こんないきなり出会ったやつにまで。つくづくあたしは、弱い」
魔法使い「戦士……」
戦士「なにが、自分の力を試したい、だっ。あたしが勝てないやつばかりがゴロゴロいるじゃないか」ポロ
ガンダタ「ウゥ」ノシノシ
武闘家「泣き言はいい、まだ戦えるだろ。折れた剣をとれ」ヒョコ ヒョコ
戦士「お前も! もう足がまともに動かないんだろ⁉︎ 勝てない! 勝てないんだよ! だったら、もう……いいじゃないか……」
武闘家「ふぬけがぁ……っ!!」
戦士「強くなりたかった。強くなりたいってことは、自分が弱いと思ってるってことだ。そうだ、あたしは、弱いんだ」
武闘家「それで納得するのかっ⁉︎ “とことん”までやってないだろ⁉︎」
戦士「立て続けに負けたことのないあんたにはわからないのよ! 自分の強さが、信じていたものを立て直せなくなる!」
武闘家「武は、いつだって己との戦いだ! 背を向けているものに微笑みかけはしない! それでも! 諦めないものに、勝利をもって微笑んでくれる!」
ガンダタ「うおおぉっ」ズシン ズシン
魔法使い「熱く語りあってるとこ悪いんだけど、待ってくれないみたいよ……」
武闘家「お前はそこで見てろ!! 戦いとはなにか!」
戦士「……」
僧侶「す、スクルトぉ~!」ポワァ
武闘家「戦いとは――意地のぶつけ合いだッ!!」シュタッ
ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ
武闘家「くっ」ササッ スッ
ガンダタ「……ウゥッ」ヨロッ
武闘家「(やつも相当なダメージが蓄積されてる。もう少し、もう少しなんだ……!)ハイィィィィヤァッ!!」ドゴォ
ガンダタ「……っ」ヨロヨロ
魔法使い「き、効いてる? ねぇっ! あれって、効いてるんじゃない⁉︎」
戦士「……」ジー
僧侶「私たちも殴りにいきますかぁ~?」
魔法使い「え……? あ、あの中に?」タラ~
武闘家「あちょぉ~! ちょぁっ!!」バキィ
ガンダタ「うがぁっ!!」ブンッ
491 = 15 :
戦士「無駄だよ。じきに、武闘家は捕まる」
魔法使い「戦士っ! どうしちゃったのよ!」
戦士「勝てないんだ、あれじゃ」
僧侶「押しているように見えますが~」
戦士「武闘家の攻撃は、疾く、拳の質もいい。的確に急所を狙ってくる。でも――」
ガンダタ「ヌガァァッ!」ブンッ ドゴォ
武闘家「がっ! かはっ」ドサッ
戦士「足をやられ、翼をもがれた武闘家は、こわくない」
僧侶「やっぱりぃ~、武闘家さんも痛みを我慢してたんですねぇ」
ガンダタ「ウゥゥゥ」ガシッ
武闘家「……ぐっ⁉︎」
戦士「ほら見ろ。言ったそばから捕まった。ああなったら、おしまいだ」
魔法使い「た、助けないとっ! め、メラ……あれ……鼻血が……」ツゥー
僧侶「魔力を使いすぎたんですよぉ」
魔法使い「え……? 魔力って使いすぎたら、鼻血でるの……」
僧侶「知らずに魔法使いをやってるんですかぁ? そのまま使えば血管切れて死んじゃいますよぉ」
魔法使い「ひっ……し、死ぬ……?」
僧侶「もっともぉ~死ぬのは武闘家さんが先かもしれませんがぁ」
ガンダタ「わカぞうは……ドコだ……」ギリギリッ
武闘家「ぐぁぁぁっ」ミシミシッ
戦士「勇者か。なぜ探してるかは知らないが、勇者がきたところで――」
492 :
実は僧侶も最強格の一人なんじゃないかと思ってたけど
べつにそんなことはなかったか
493 = 15 :
【このちょっと前 宿屋 角】
衛兵「やけにうるせぇと思ったらストリートファイトしてる。それもすっげーハイレベルの」コソッ
ジャン「な、なにやっとんだ。あいつらは」
衛兵「ガンダタってあんなに強かったのか。お、おっかねぇ~」ブルブルッ
ジャン「衛兵。使いパシリいってこい。ダッシュな」
衛兵「へ? どこに行くんですかい? ガンダタの首をとらねぇと」
ジャン「宿屋にヘンテコなマスクが置いてある。いや、俺の今つけてるやつじゃないよ。覆面レスラーみたいなやつな」
衛兵「は、はぁ」
ジャン「それ探してこい。とにかく急げ。俺はちょっくら時間稼いどくから」
衛兵「部屋番号は何番ですかい?」
ジャン「わからん」
衛兵「わ、わからんって……」
ジャン「僧侶か武闘家か戦士か、はたまた魔法使いかで部屋とってるはずだ。その部屋に荷物があるから。他のやつの荷物には触るなよ。俺のにはゼッケン貼り付けてある。母さんお手製の」
衛兵「へ、へい」
ジャン「くれぐれも。かわいい子だからって下着ドロなんかすんなよ」
衛兵「し、しませんて! 俺は生身にしか興味ないんで!」
ジャン「余計な情報はいらん。わかったら行け」スポッ
衛兵「わかりました」タタタッ
勇者「……ふぅ、しかたねぇなぁっ! ったくもぉっ!」タタタッ
494 :
勇者「――ちょぉっとまったぁっ!!」ズザザッ
僧侶「あ、あれは……」
ガンダタ「……」ピクッ
武闘家「あ……う……っ」ドサッ
戦士「勇者……」
魔法使い「バカ勇者! 今までどこいってたのよ!」
勇者「酒場でパフパフしてもらってた」キッパリ
魔法使い「こ……っ、このっ、ボンクラ……っ!」
勇者「久しぶりじゃないか。おっちゃん。山で会って以来だな? 元気してた?」
ガンダタ「てメぇ……」
勇者「おやぁ? 前はもっとハキハキ喋ってたと思うけど、どうしたの? ダメージくらいすぎた?」
武闘家「ゆぅ、しゃぁっ! こいつは、バーサーカーだ!」
勇者「それってなぁに?」
僧侶「やせ我慢男みたいですぅ~」
勇者「なるほど。わからん」
魔法使い「とにかく! あともうちょっとみたいなんだから! ピンピンしてるあんたがやりなさいよ!」
戦士「無理だ。勇者、逃げろ」
魔法使い「戦士っ⁉︎」
戦士「勇者の剣さばきじゃ、すぐに終わる」
勇者「(戦士ったらすっかり自信なくしてやがんの。うけるw ……まぁ、サキュバスの時は精神攻撃だったから仕方ないとはいえ、こうも立て続けに負けてちゃなぁ)」
武闘家「戦士……っ、安心しろ、この勝負、アタイたちの、勝ちだ」ムクッ
戦士「勇者じゃ勝てない」
武闘家「勝てる」
戦士「なぜ……? そうか、武闘家は、知らないんだったな」
武闘家「知らないのは、気がついてないのはあんたさ」ズリズリ
勇者「薬草をすりつぶした塗り薬だ。僧侶」ポイッ
僧侶「はい~」パシッ
勇者「仙豆とまではいかないが、そいつを傷口に塗ってやれ」
ガンダタ「こ、コゾぉっぉおおおおっ!! おまえのせイでぇぇ」
勇者「カカロットォってか。いやはや、中途半端なことして悪かったな。おっちゃん」
ガンダタ「こ、コロしてやるッ!!」ズシン ズシン
勇者「……」チラッ
武闘家&戦士&魔法使い「……」ジー
勇者「(ばっちり見られてるねぇ。やっぱり、テキトーに時間稼ぐとするか)……スクルト、ピオリム」ポワァ
ガンダタ「ウガァァァッ!」ズンズンズン
武闘家「補助魔法……? 勇者、まさか……」
戦士「知らないのだろう。あれが、勇者の戦闘スタイルだ」
魔法使い「自身を強化する魔法剣士。一人でも戦える。だけど、なにかが突出してるわけじゃない器用貧乏」
武闘家「勇者ぁっ!! 本気でやれっ!!」
ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ
勇者「むっ」チャキ
戦士「ば、バカっ!! 受けようとするな!!」
495 = 15 :
ガンダタ「うぅぅぅっオオォォおおっ!!」
勇者「(おおっ、なかなかに重い……! こりゃ苦戦してるわけだ)」パキィッン
魔法使い「勇者の剣がっ!」
戦士「……終わった」
ガンダタ「ゥゥッ」ピタッ
勇者「……なぁ、おっちゃん。アデルに行かなかったのは自由だけど、なにも俺に会いにこなくたって」シュタッ
ガンダタ「オマエのせイで、オレはこうナッた」
勇者「自業自得な面もあると思うよぉ。いつまでも続けられるわけじゃないとわかってると思ってたけど」
ガンダタ「……」シュゥゥゥ
武闘家「……バーサーカー状態が、解けた……?」
ガンダタ「うっ、むぅ……」ガクッ
勇者「終わりか?」
ガンダタ「慌てるな。若いってのはせっかちでいけねぇな」ゴソゴソ
勇者「……?」
ガンダタ「お前が置いてったもの。こいつを返したくてよ」キラン
魔法使い「あれって……さっき、メイドが持ってたやつと同じ……?」
勇者「それは俺がおっちゃんにあげたもんだ。捨てるも自由、なにするも自由だ。俺が受けとらないのもね」
ガンダタ「勘違いすんな。これは、オマエの墓標に添えるもんだ」
少年「お、おじちゃん。終わったの?」ヒョコ
勇者「キミは……もしかして、メイドの弟くん?」
少年「えっ、な、なんでお兄ちゃんが、お姉ちゃんを?」
勇者「そうか……。なぁ、おっちゃん。悪いことは言わないからこのまま城に行け。そして、弟を助け出したと言うんだ」
ガンダタ「くっ、くっくっ」
勇者「金もらってどことなり消えりゃいいだろ。な?」
ガンダタ「そこだよォっ!! 俺が気にくわねぇのはぁーっ! なに上から目線で見てやがる!! オマエは! 誰に向かって言ってるんだ⁉︎ あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ
勇者「……」
ガンダタ「オレはッ!! オレ様は認めねぇ!! お前みたいな世の中をなんも見てきてねぇでわかったようなツラしてるガキをッ!!」
勇者「現代っ子なもんで」
ガンダタ「ガキィッ!! だったら、オレが教えてやるよっ!!」シュゥゥゥ
魔法使い「そ、そんなっ……! またっ⁉︎ 武闘家、解除したら痛みが襲うんじゃなかったの⁉︎」
武闘家「意地があるんだ。その意地が、肉体と精神を凌駕している」
戦士「……」
武闘家「あいつも、戦ってる。胸がムカつくことに対して、認めないと」
戦士「勇者ぁっ! 剣の予備はもうない!」
勇者「そいつは、残念」タラ~
ガンダタ「さァッ!! 覚悟ハいいカッ!!」クワッ
496 = 15 :
【宿屋 部屋】
衛兵「ちぇっ、俺をアゴでこきつかいやがって。なんだってんだよ」ギィ
――ドゴォーーンッ――
衛兵「え……」
勇者「バーサーカーって筋力までアップされてんのな」パンパン
衛兵「あ、あの……。表から、ここまで?」
勇者「吹っ飛ばされてきた。ここってもしかして、俺らの部屋?」
衛兵「す、素顔はそんなに若かったんすね。仮面したまんまだから」
勇者「え~と、たしかこのへんにぃ~と」ゴソゴソ
衛兵「隠れてていいっすか?」
勇者「おっ、あったあった。いいよ。ここなら安全だろうから」スポッ
衛兵「ちなみに、なんでマスクを?」
マク「いろいろとめんどーなことにならないため」
衛兵「は、はぁ」
マク「服の衣装がないけど、とりあえず、同じなままじゃバレちゃうから……たしかこっちに、寝巻きが」ゴソゴソ
衛兵「正体を隠しているので?」
マク「まーね。ヒーローはいつだってそんなもんだろ?」ヌギヌギ
ガンダタ「ワカゾォォォッ!! 降りてコイっ!!」
衛兵「およびが、かかってますが」
マク「人にはせっかちだとか言ってたくせに」タンタン
衛兵「……」
マク「なにも盗るなよ? 盗ったらボコすかんな?」
衛兵「ひゃい」
マク「んーと、となりの部屋から飛び出すか」タタタッ
衛兵「(ここまで吹っ飛ばされて、無傷って……どうなってんの……)」
499 :
【再び表通り】
魔法使い「勇者、死んだんじゃ……?」
戦士「可能性としては、ありうる。もしくは戦闘不能になってるか」
武闘家「ないね」キッパリ
戦士「あれを見ろ。踏みこみで足跡がくっきりついてる。宿屋の三階まで吹っ飛ばされてるのが衝撃の強さの証拠だ」
僧侶「そろそろ出てくるんじゃないですかねぇ」
――バターンッ――
マク「……」シュタッ
魔法使い「あ、ああ、あ、あれはっ⁉︎」
戦士「マクさんっ⁉︎」
武闘家「(やっぱり……とことん隠したいみたいだね。勇者のやつ)」
僧侶「……くすっ」
ガンダタ「……?」
マク「……」クイクイ
魔法使い「見て見てえっ! 隣の部屋から出てきたわよぉ! マク様が泊まってたなんてぇ~っ!! 颯爽と飛び出して……キャーーーッ! かっこいいっ!!」キラキラ
戦士「マクさんなら、あるいは……」
武闘家「こ、こいつらは……。アタイが全部ぶちまけてやろうかな」ボソッ
ガンダタ「ジャマするノなら容赦しねェッ!」ブシュウ
マク「(血が吹きだしてやがる。時間稼ぎのために長引かせて悪かったな。本当はとっくに限界こえてんだろ)」スッ
魔法使い「マクさまぁっ! がんばってぇ~~!」フリフリ
戦士「動きが、構えが洗礼されてる。勇者とは大違いだ」
武闘家「頭痛がする」
僧侶「くすくすっ、なんでもいいじゃありませんかぁ」
マク「(こっちの都合で本当にごめんな。一発でケリをつけるよ)」ビュッ
ガンダタ「ウォおおおっ!!」ブンッ
マク「(普通のパンチ!)」ズパァァァァンッ
魔法使い「戦士。み、見えた?」
戦士「見えない。いつのまに近づいて攻撃したんだ」
武闘家「(やはり、勇者は次元が違う。あそこまでの高みにはいったいどうすれば)」
ガンダタ「う……オォ……っ! な、なんだァ? テメぇ……」ヨロヨロ
マク「(俺の拳を耐えるとはたいしたもんだよ。人間の枠の中じゃおっちゃんは強い。でもな、俺は魔王に勝てる勇者。人間じゃ、勝てないんだ)」スッ
魔法使い「え……」
ガンダタ「ば、バカなぁっ! たった、一発でぇ」
戦士「限界間近だったのか……?」
武闘家「とっくに限界を迎えて、認めたくないという意地で保ってた。健気に歯をくいしばって耐えてた根性を上回る一撃だったのさ」
戦士「ど、どんだけ強いんだ……」ゴクリ
ガンダタ「」ズゥゥン
マク「(いかん、おっちゃんが死ぬかもしれん。ベホマ)」ポワァ
500 = 15 :
魔法使い「あれって回復魔法っ? 武闘家! モンクって魔法使えるの?」
武闘家「ん? ん~、えーと、き、聞いたことがあったよーな。体内で練りこんだチャクラを分け与えると」
僧侶「ブフッ……だめっ、こらなきゃっ」プルプル
魔法使い「しゅごい。あんだけ強くて、回復まで。完璧な人ね」
魔法使い「求婚されたら、オーケーしちゃうかも。ケーオーされちゃうかも……いやぁ~ん」クネクネ
戦士「惚れ惚れする強さだ。あたしの師匠よりも、強い。勝てる人間がいるのかとさえ思う」
ガンダタ「う……」ピクッ
マク「(全快させても面倒だからな。これぐらいでいいか)」チラッ
魔法使い「あっ、だめっ。目が合っちゃった。妊娠しちゃいそう。むしろ子供ほしい……」ジュル
僧侶「ぶーっ、くっくっ、よだれでてますよぉっ」プルプル
マク「(ウチのメンツも満身創痍って感じだな。回復してやるか)」テクテク
戦士「あっ、あの……?」サッ
マク「(ベホマ)」ポワァ
戦士「治して、くれるのか。あ、の。あ、ありがとぅ」
マク「(ゆでダコみたいになっちゃってまぁ)」ポワァ
魔法使い「うらやましい……わ、私も怪我してれば……折れた剣、折れた剣はどこ」カサカサ
武闘家「傷つけるなら戦えよ!」
魔法使い「女の戦いよ! 武闘家にはわからないんでしょーけどね!」クワッ
戦士「(凄まじい治癒力だ。それに光が、暖かい)」ぽーっ
魔法使い「見なさいよ! あの戦士の表情! 軽くイッてんじゃないの⁉︎」
戦士「……ばっ、バカなこというなぁっ!!」ボッ
マク「(マジでうるせぇ。これぐらいでいいだろ。次)」テクテク
武闘家「アタイは、いい」プイ
マク「足、見せてみろ」ボソッ
魔法使い「あーーーっ! 武闘家だってなに黙ってやらせてんのよ!」
武闘家「うるさいなっ!」
マク「(無理したなこりゃ。ベホマ)」ポワァ
武闘家「なんで、そんなに隠すのさ」ボソ
マク「……」ポワァ
武闘家「ちゃんとしてれば、アンタだって、それなりに……」
マク「黙っててくれてるのは、感謝する」ボソ
武闘家「……別に、いいケド」
魔法使い「ね、ねぇっ⁉︎ 小声で喋ってない⁉︎ マク様喋っていいの⁉︎」
マク「(目ざとい)」
武闘家「なんでそういうとこばっかり気づいて別のことは気がつけないんだよ!」
僧侶「イメージの固定化でしょおねぇ~。この人はこう、そう思ってるからわからないんですよぉ~」
マク「(よし、これなら歩けるはずだ)」スッ
武闘家「マク。あとのことはアタイたちにまかせてアンタは行きな」
魔法使い「ちょっと武闘家! マク様を気やすく呼び捨てッ⁉︎」
戦士「武闘家は、マクさんと兄弟弟子なのか? あの、あたしにも紹介を……」モジモジ
武闘家「きっしょくわるいんだよ! アンタたち!」
魔法使い「独り占めしてんじゃないわよ! そうやってほかの女を遠ざけてんでしょ⁉︎」
僧侶「わ、わたし、我慢するの、限界ですぅ~、あはっ、あははっ」
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