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    元スレ勇者「ニートになりたい」

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    401 = 15 :

    【その頃2 クィーンズベル城 防具屋】

    魔法使い「見てこれ見てこれ~っ! ピアスかわいくないっ⁉︎」

    僧侶「お似合いですよぉ~」

    魔法使い「はぁ、自由に買い物ができるなんて……甲斐性なしの勇者についてってたら一生できないと思ってたぁ! ふんふ~ん♪」

    僧侶「賭けにかってよかったですねぇ」

    魔法使い「マク選手! あぁ、素敵! この杖も貰っちゃたし! ん~、ちゅっちゅっ」

    僧侶「杖は手垢がついて汚いですよぉ……でもぉ、考えてみればマク選手って不思議な人でしたよねぇ?」

    魔法使い「不思議? へんてこりんなマスクや格好が?」

    僧侶「それもありますけどぉ。なんで無口なんでしょぉねぇ?」

    魔法使い「修行なのよ。あれが」キリッ

    僧侶「なんだか、喋りたくなかったみたいなぁ~?」

    魔法使い「チッチッチ、僧侶ったらなんにも知らないのね。サイレントモンクっていうのよ。あれが自分に課した制限なの。はぁ……かっこいい」ウットリ

    僧侶「……はぁ、やっぱりポンコツなんですねぇ」

    魔法使い「きっと、きっとね、あのマスクの下はすごぉ~く、かわいい顔してるのよ? なんで私に杖くれたのかしら……ま、まさかっ⁉︎ 一目惚れされてたっ⁉︎」

    僧侶「……」

    魔法使い「や、やだぁ~! ど、どうしよ! 私にに恥ずかしがってたってこと⁉︎」バンバン

    僧侶「叩かれると痛いですぅ~」

    魔法使い「修行があけたら私に会いに来たりして……好きだ、結婚してくれ」(マクの真似のつもり)

    僧侶「あのぉ、そもそも声を知らないのではぁ?」

    魔法使い「純粋な目を見てわからなかったの⁉︎ そんなことも想像できないの⁉︎」クワッ

    僧侶「は、はぁ」

    魔法使い「ぐへ、ぐへへっ……だめよ! 私、ダメ男代表の勇者についていかなくちゃ! 魔王が!」

    僧侶「……」

    魔法使い「それでも僕はかまわない。魔法使い、君がほしい!! ……なぁ~んちゃってなんちゃってぇ!!」バンバン

    僧侶「幸せそうでなによりですよねぇ~」

    402 :

    【数時間後 クイーンズベル城 客室】

    ジャン「――せ、洗濯バサミはだめだっ!」ガバッ

    メイド「目が、覚められましたか……?」

    ジャン「こ、ここは……? 知らない天井だ……」

    メイド「姫さまと通路で会ってから、しばらくしてからこちらの客間にお通ししたのですが」

    ジャン「お、お前は……姫……思い出したぞ! なぜ俺がここにいるのか!」

    メイド「そうですか、よかったです。睡眠中もなにやらうわ言のようにうなされていたので!」

    ジャン「(誰のせいだと思ってやがる!)……し、失礼。取り乱してしまい、申し訳ない」

    メイド「起きたばかりで、このようなことを申し上げるのは、大変恐縮なのですが」

    ジャン「あ、あぁ、長居しすぎたか。こちらこそ――」

    メイド「いえいえっ! そうではありません! 本日はお泊りくださいませ!」

    ジャン「泊まる? いや、それはご迷惑では」

    メイド「申し訳ございません。王に、国王様に今回の使者様のご来訪を報告致しました」

    ジャン「(あー、王っていうと、気さくなおっちゃんことか。10年前だからなぁ、顔もあやふやになっちまってるが。じいちゃんになってんのかね)」

    メイド「隠密だというお立場を知りながら。責任は全て私にございます」

    ジャン「……いや、バレてしまったのならば仕方のないこと。体裁さえ守っていただければかまいませんよ」

    メイド「ありがとうございます。城内、街はご自由にご覧くださいませ」ホッ

    ジャン「(泊まりの上に行動制限もなし、か。それだったら大義名分のもとゆっくり鏡を探せるな)」

    メイド「あの、実は、お伝えしたいことがもうひとつ」

    ジャン「ん?」

    メイド「姫さまでございます」

    ジャン「(かーっ、かーっ、またあいつかよ。顔も見たくないわ)……聞きましょう」

    メイド「姫さまを、悪く思わないでくださいまし」

    ジャン「……?」

    メイド「本来は、とっても心お優しいお方なのです」

    ジャン「(ないね)」

    メイド「淑女たる教育、求められる姫というお立場、そして……政略結婚の道具。18の年齢にかすにはあまりに重すぎる重圧……」

    ジャン「(まぁ、一国の姫だからなぁ。勇者という立場を冠する者として同情はするけど……政略結婚?)」

    メイド「ハーケマルとクイーンズベルは長年築いてきた地位が、秩序がございます。それはなにを優先しても守られなければならない」

    ジャン「待った……ごほん、待ってくれ。政略結婚と?」

    メイド「……っ! ち、違います! 姫さまはまだ会ったことのない王子を悪く言ってるわけでは!」

    ジャン「ハーケマルの王子と?」

    メイド「会えばきっとお互いを知るきっかけになります! 姫さまはとっても魅力的で!」

    ジャン「(縁談か……なぁるほど、だから俺がハーケマルの使者だと聞いて機嫌悪くしやがったんだな)」

    メイド「ですから……その、先ほどの無礼はお許しいただけると」

    ジャン「(そんでこいつは、さっきのを“なかったことにしてくれ”と打診してるわけだ。ようするに、報告すんなと、王子に)」

    メイド「いかがでしょうか?」オズオズ

    ジャン「……元よりそのつもりでした。発端は私の無礼のせいなのですから」

    メイド「こちらこそ。王様よりは丁重におもてなしせよとのご命令を受けております」ホッ

    ジャン「(あーあ、安堵した顔しちゃって。こりゃこの縁談、よっぽど重要みたいだな。ハーケマルとクイーンズベルか……)」

    403 :

    メイド「もし、空腹であればお食事のご用意を」

    ジャン「それより、許されるならば貴女からお話を伺いたいのですが」

    メイド「はい……? なんなりと」

    ジャン「姫は縁談相手である王子をどう思っておいでで」

    メイド「……それは、その、ここだけの話でしょうか?」

    ジャン「約束しましょう。帰っても話さないと誓います」

    メイド「当たり障りのないお話を申しますと、あまり、良くは。なにぶん、会う機会すらなく」

    ジャン「(じゃあ、初対面で結婚! みたいな感じか。親同士であらかじめ決められる許嫁みたいなもんかね。家柄ってのは難儀だねぇ)」

    メイド「この年齢の婦人は、また複雑なのでございます。姫さまは、誰かと恋愛したことすら、ありませんので……ハッ! い、いいえ! 嫁入り前のお身体を傷物にするというわけではなく!」

    ジャン「大丈夫ですよ。言っている意味は伝わっています」

    メイド「……ですから、その、現実としてまだ直視できていないご様子で……」

    ジャン「(ん? いやでもまてよ?)……王妃はハーケマルのご出身では?」

    メイド「もちろん、それは使者さまもご存知の通り。なので、王妃様からもご説得をしたのですが」

    ジャン「(え? 待って待って。王妃の血族ってことは……いとこ? え? うっすいけど血の繋がりあんじゃね? うはー、まじかよ。いとこやはとこ同士で毎回結婚してるみたいなもんじゃねぇか)」

    メイド「……聞きたことというのは、聞けましたしょうか」

    ジャン「(あれ? でも、だとすれば……なんだこりゃ、どうなってんだ? ……探り入れてみるか)」

    メイド「……?」

    ジャン「いやいや、多感なお年頃だとは理解できます。私は当人達の感情よりも別のことが気がかりかと思っておりました」

    メイド「別の?」

    ジャン「はい。“ハーケマルから婿入りにこれても、クィーンズベルからは誰も出せない”」

    メイド「……」

    ジャン「(クソ姫は一人娘だ。男の兄弟がいるわけじゃない。王の直径にあたる人物は交換じゃないとパワーバランスが崩れてしまう)」

    メイド「その点は、姫様のご裁量にかかっております」

    ジャン「我が国……ハーケマル王子を操ると?」

    メイド「い、いいえっ! そんなまさか! 子を産み、その子が成人した暁にはハーケマルに送ると盟約を交わされているではありませんか!」

    ジャン「(じ、次世代予約システムっ⁉︎ えげつねーことしてんなこいつら)……そうでしたね」

    メイド「永遠の友好は、紡がなければならぬこと。姫様ならば、必ずや元気な赤子を生まれるでしょう」

    ジャン「(気の長い話だが、一人娘なのはどーしようもないかんな。それが落ち所ってやつなのかね)」

    メイド「他には、なにか?」

    ジャン「いや、ない」

    メイド「それならば、私はこれで。なにかご用があれば備えつけの鈴をお鳴らしください。表にいる衛兵がすぐに使用人を連れてまいります」ペコ

    405 :


    昔は近親相姦は多かったらしいね
    勇者魔王SSだけど

    406 :

    ジャン「なにからなにまでありがとう。キミには感謝している」

    メイド「い、いえ。私はこれが責務ですので。失礼致します」ガチャ パタン

    ジャン「――……ふぅ、結婚か」スポッ

    勇者「聞きました奥さんwwあの姫が結婚ですってよwwしかも望まないwwメシウマww」ゴロゴロ

    メイド「ジャン様、よろしいですか?」コンコン

    勇者「おっとww……ごほん、しばし待たれよ」スポッ

    メイド「あの、何度も申し訳ございません。会いたいというお方が」

    ジャン「どうぞ。お入りください」

    メイド「失礼致します」ガチャ

    「……」スッ

    ジャン「(ぬ、ぬおっ⁉︎ な、なななぜっ⁉︎)……これはこれは、ご機嫌麗しゅうございます。先ほどは大変失礼を」スッ

    「上っ面だけのおべっかはいいんですの」チラ

    メイド「ひ、姫さま。くれぐれも。では」パタン

    「……」ジー

    ジャン「(こいつとは1秒たりとも同じ空間にいたくねぇ)どうなされました? 私になにか? まずはお座りください」

    「あなた、この城に来るのは何回目ですの?」

    ジャン「え? えーと、数回ほどです。いや、回数をよく覚えていないのは前回から期間が開いておりまして」

    「どれぐらい?」

    ジャン「(や、やけにつっこんでくるな)一年ほどでしょうか。申し訳ございません、あやふやで」

    「声の感じからして年配には見えないですけれど。ボケてるんですの? それとも物覚えが悪いだけ?」

    ジャン「(こ、このっ、腐れビ○チ)気を悪くされたのならば申し訳ありません」

    「そのマスクの下は、ひどいヤケドがあるんでしたわね?」

    ジャン「はい」

    「とってみてはくれませんの?」

    ジャン「(しつけぇな!)私はかまいませんが、姫を不快にさせるわけには」

    「かまいません」

    ジャン「い、いえ、でも、それでは」

    「かまわないと言っているんですの」

    ジャン「(なんなんだよこの食いつきようは)……なぜ、私のヤケド痕を? やはり、先ほどの罰では」

    407 = 15 :

    「仮にも一国の姫が免除すると言ったこと自体は撤回しないんですの。ただ――」

    ジャン「……?」

    「どーにも、ひっかかるんですの。以前、城に来た時にわたくしに会った?」

    ジャン「(なんだこいつは⁉︎ 野生の勘でもあんのかっ⁉︎ )な、ななにをっ? そ、そんなわけがございません」

    「前回来た時は何しに? お母様に言われて?」

    ジャン「(ま、まずいぞ。演技どうこうじゃねぇ、ウソで塗り固めて二分の一の賭けに勝ち続けるしか。辻褄が合わなければ一発でアウトだ)左様です」

    「そう……定期的に文を渡してるのを見たことあるんですの。でも、その時の貴族はマスクをしては」

    ジャン「ち、父上なのです! 私は息子です!」

    「父上……?」

    ジャン「はい、この度は、隠密ですので。あまり顔を知られていない私がと」

    「ふぅん」

    ジャン「(ど、どうだ? 息子いるよな? どうなんだ?)」

    「……そうなんですの」

    ジャン「(セーーーフッ!! セーフっぽい!)」

    「では、私と面識はないんですのね?」

    ジャン「ありません! 誓って!」

    「あなた、いくつですの?」

    ジャン「……18になりました」

    「……」ピクッ

    ジャン「(空気が重てえ! こいつは何気なく聞いとるのかもしれないが、俺は生きた心地してない。帰りたいよぉ~)」

    「同い年なんですのね。私も18の誕生日を迎えたばかりです」

    ジャン「そ、それは、めでたきことで」

    「ハーケマルとはどんな国?」

    ジャン「王妃様が、よくご存知のはず」

    「色々な見方を聞いてみたいんですの。あなたとは歳が近いとわかったし、価値観が似ているやも」

    ジャン「私の価値観が王族と肩を並べるとは、恐れ多くも」

    408 = 15 :

    「かまいません。いわばここは外界より隔離された室内。この場での発言は全てなかったことにすると確約いたしましょう」

    ジャン「ですが、体裁が」

    「保つのは第三者の目がある時のみでよい。今はない。この意味がわからないほど愚鈍なんですの?」

    ジャン「(俺もその考えに同意だが、こいつに言われると腹たつゥッ!)」

    「王子とはどんな方?」

    ジャン「(知らねーよ。俺会ったことないし、顔すら知らねー。……とは言えないし)我が国を誰が悪く言えましょう」

    「それは、本音を言えば悪いと?」

    ジャン「信用の問題でございます。私が良く言おうと、悪く言おうと、姫様は私の発言する言葉を信じていただけますか?」

    「……」

    ジャン「仮に、王子を褒めたとしましょう。そうしても“どうせ出身国なのだから”、と。勘繰りはいたしませんか?」

    「わたくしを馬鹿にしているんですの?」

    ジャン「いいえ。誰しもが同じなのでございます。そう思うのが自然なのです」

    「王族であるわたくしを同じだと?」

    ジャン「(めんどくせぇ。これだから血筋にこだわるやつらは。一方で嫌いつつも一方でプライドもってやがる)……恐れ多くも、発言がすぎました」

    「……わたくしの質問に答えればよいのです」

    ジャン「北のハーケマルといえば、年中寒さが厳しい国です」

    「知ってるんですの」

    ジャン「この国とはちょうど真逆ですね。しかしながら、そのような厳しい環境にあっても民達からの不平不満は聞こえてきません」

    「それも知ってるんですの。ハーケマル現王がお父様と同じく賢王であることも。でも、息子もそうであるとは限らないでしょう?」

    ジャン「(お前がそうだからなww)……ご自分の目でお確かめを。それ以上は言えません」

    「忠を尽くしているつもりなんですの?」

    ジャン「この縁談は両国間の今後に強く影響致します。お姫様はまだまだうら若き年齢、気分ひとつで悪い結果になりかねません」

    「……そう、そうなんですの。あなた、犬っころなんですのね。駄犬」

    ジャン「なんとでも」

    「……っ! こ、やつ! こんなやつがあいつのはずないんですの!! 不愉快です!!」バシャ

    ジャン「(水ぶっかけてきやがった。お前をデスノートに書いてやる)」ポタポタ

    「なんとか言ったらどうですのっ⁉︎」ブンッ スコン

    ジャン「(今度はコップ投げつけてきやがった。お前をデスノートに……これさっきも思ったか)」

    「~~ッ!! 私は、結婚なんかする気は、ぜぇ~~~ったいに、ないんですのっ!!」ビシッ

    409 = 15 :

    ジャン「(まぁ別に俺は自分の正体さえバレなきゃ)」

    「王子のことを悪く言うんですの! お父様に報告してなかっことにしてもらうためにっ!!」

    ジャン「(なりふりかまわず言いやがったな! なにが発言をなかったことにだ! お前最初からそのつもりだったな!)……できません」

    「ムキーーーッ!! あなた! 国に帰れなくなりますわよ⁉︎」

    ジャン「(使者を脅すなよ……)私がどうなろうと、それだけは」

    「……」カチャ スラッ

    ジャン「ひ、姫様? 暖炉に飾ってあるレイピアを握ってなにを……?」

    「女はつつましく、男の三歩後ろに下がりついていく。そんなのは前時代的な考えなんですの」ズンズン

    ジャン「は、はわわっ」ガタガタ

    「女であろうと戦う。自分の幸せは自分で勝ち取る。良い時代とは思いませんこと? 使者よ」ニタァ

    ジャン「す、鈴、鈴……」カサカサ

    「お待ちなさい」グサッ

    ジャン「いっ⁉︎ (さ、刺した⁉︎ ガチで俺の脚刺しやがったぞこいつっ⁉︎」

    「どうせお父様がわたくしを守ってくれるんですの。人の一人や二人殺めても」ユラァ

    ジャン「(お坊ちゃまが犯罪起こす時にありがちな思考回路⁉︎)ひ、姫? それはまずいですよ。俺使者ですよ」

    「あなたを殺せば、破談になる、破談になる、破談に……」ブツブツ

    ジャン「ひ、ひぃっ⁉︎ (メンヘラにクラスチェンジした⁉︎ やばい、だたやだやだ!俺はニートになるまで死にたくない! せめて自分の好きにやって死にたい!)」

    「だぁ~いじょうぶですの。痛くない、すぐ終わりますからぁ」ニタァ

    ジャン「(こ、この笑みは、10年前と同じ……! ま、またトラウマが……! あ、あぁぁっ!)」ガタガタ

    「さぁ、覚悟するんですの――……」

    410 = 15 :





    ジャン「――……やっ、やめてよっ!! 姫ちゃん!!」ブルブル





    411 = 15 :

    「へ……?」ポロッ

    ジャン「や、やめて。それはいかんて。それは……」ガタガタ

    「その呼び方は……あなた……? やっ、やっぱりマスクを……!」グィ

    ジャン「うっ、うっ、尻穴が、痛い」スポッ

    「……っ⁉︎ まさか、そんな、で、でも、面影が……」

    勇者「汚された。汚されてしもうた……うっうっ」

    「勇者? 勇者、なんですの? そ、そうだ! お尻見せるんですの!!」グィ

    勇者「やだぁっ! またお尻!」ペカー

    「こ、これは。聖痕……間違いない、勇者……なぜ、ハーケマルの使者だと……」

    メイド「お嬢様!! 姫様!! なにをやってるんですか⁉︎ 開けますよ⁉︎」

    「い、いけませんわっ!!」ダダダッ ガチャン

    メイド「鍵閉めましたね⁉︎ 本当になにをやってるんです⁉︎」

    「えーと、えーと、お、お待ちなさいっ!!」スポッ

    ジャン「うっうっ」

    「これで仮面は元通り。あとズボンも」ゴソゴソ

    メイド「かまいません!! ドアをぶちやぶってください!!」

    兵士「はっ!」

    「今開けるというておる!!」タタタッ

    ――ガシャーーーン――

    兵士「あ、あきました!」

    メイド「姫様、いったい、なにを――……きゃ、きゃああああああっ⁉︎」

    「はぁ、今開けるともうしたのに。なにを叫んでいるんですの」

    兵士「……」ポカーン

    メイド「ひっ、ひっ、ひっひっひっ、ひっ姫様、様」プルプル

    「……?」

    メイド「そ、そっそそそそっ、それはぁ?」

    「どれですの?」クル

    兵士「れ、レイピアが、使者様の太ももに刺さっておりますが……」タラ~

    メイド「あふぅ」ドサッ

    兵士「メイド様! 気をしっかり! 気絶なされた! お、おーい! 誰か!」

    「足に刺したまんまなの、忘れてたんですの……」タラ~

    412 = 15 :

    【クィーンズベル城 玉座】

    王様「な、なんたることを……っ! なんということをぉっ!」ドンッ

    「……」プイ

    王様「~~ッ! なにをしでかしたかわかっておらんのかァッ!!!」ドンッ ドンッ

    王妃「あまり怒られては血圧に……メイドよ。貴女がついていながらなんという失態です」

    メイド「も、申し訳ございません! 申し訳ございません!!」ペコペコ

    王様「前代未聞の出来事じゃ!! 友好国の使者を刺しただァッ⁉︎ しかも、姫が⁉︎ なにをされたというわけでもなくゥッ⁉︎」

    「ぷっ、顔真っ赤ですわよ、お父様」

    王様「お、お前は……っ、いったいどこで育て方を間違えてしまったのだ……! なぜ、このような……」

    「押しつけるのが悪いんですの。私にできる意思表示をしたまで」

    王妃「姫よ。あなたの感情のせいで外交問題に発展するのですよ……どれほどの心労が貴女のお父様の……民の不安に繋がるか考えないの……?」

    「わたくしがいつ! そんなのを望んだって言うんですの⁉︎ ……それに、外交問題には発展しませんからご心配なく」

    王様「な、なにィ? 使者だぞ? こちらが弱みを握られるのだぞ?」

    「わたくしが解決してみせます。その方法も心得ております。お父様とお母様はどーんと大船になった気持ちでお待ちくださいませ」

    王様「こ、こやつは……なんと」プルプル

    王妃「あ、あなた。落ち着いて」

    王様「使者が回復次第、ここに連れてまいれ。ワシ直々に頭を下げる」

    「ですから、その必要はありません」

    王様「お前がなくてもワシにはあるんじゃ!!」クワッ

    王妃「姫は一週間の自部屋謹慎処分です。事態が落ち着いたら、また追加で罰を与えます」

    王様「よいなっ⁉︎ お前はもうなにもするな!! この件には一切かかわるな」

    「いいんですの? 本当にあっというまに解決できますのに」

    王様「メイド!! この大馬鹿娘をはやく部屋に連れてゆけっ!!!」クワッ

    メイド「は、はいぃっ!! かしこまりましたぁ!!」

    413 = 15 :

    【クィーンズベル城 通路】

    「るんたったらん♪」コツコツ

    メイド「ひ、姫様、あの、上機嫌ですけどご自分がなにをしたのかご理解していらっしゃいます?」

    「不安がってるようですわね。さっきも言ったでしょ? 大船に乗ったつもりでいろと」

    メイド「や、やってしまった姫様が言える台詞じゃ」

    「だいたい回復魔法ですぐに治るんだから騒ぎすぎなんですの。使者はどこですの?」キョロキョロ

    メイド「な、な、な、なぁっ⁉︎ この後に及んでまだなにかやろうと⁉︎」

    「懐かしい友人に会いにいくだけですの」

    メイド「……へ? 懐か、しい?」

    「貴女も知ったら驚くんですの。仮面の下はヤケドなんてありませんでしたよ」

    メイド「へ? そ、そうなんですか? じゃ、じゃあウソ?」

    「いいからはやく案内するんですの」

    メイド「で、でもっ……姫様がウソついてる可能性が」

    「わ、私を疑うんですの?」ヒクヒク

    メイド「だって、こんなことしでかす人を!!」

    「まぁ、本当にハーケマルの使者でも同じことをしてたでしょうけど」

    メイド「な、なんという……!」

    「それはそれ。これはこれです。今回は違ったのですからよしとしましょう」

    メイド「……本当に違ったのですか? ハーケマルの使者では……?」

    「さぁて♪ あなたも見ればわかるんですの♪」

    414 :

    【クィーンズベル城 南西方向 廃墟】

    ガンダタ「飯だ」

    見張り番「おっ、やっと飯か。……ん? なんだそれは。なんで2つも持ってんだ? まさか、あいつの分か?」チラ

    少年「……」

    見張り番「いらねーよ! もったいねぇ、よこせ、俺が食う!」グィ

    ガンダタ「人質は生きてなくちゃ意味がねぇ。お頭からの指示だ」

    見張り番「お、お頭ァ? ほんとかよ、それ」

    ガンダタ「ああ」

    見張り番「チッ、だったらしょうがねぇか。俺は酒とってくる。ガンダタさんよ、その間見張り番頼んだぜ」テクテク

    ガンダタ「……」スッ

    少年「……」ビクゥ

    ガンダタ「……飯だ、食え」コト

    少年「い、いらない。ねぇ、家に帰して。なんでここに連れてこられたの、家に帰してよ……うっ、うっ」

    ガンダタ「食わなきゃ力つかねーぞ」

    少年「……」

    ガンダタ「お前は単なる人質だ。生きてさえいりゃ家に帰れるだろうよ」

    少年「ほ、ほんとう……? お姉ちゃんに、また会える?」

    ガンダタ「希望にすがるのはおめぇの勝手だが、不確定な部分もある。……とにかく、今は食って体力を確保しろ。それがお前のすべきことだ」

    少年「うっ、うっ」ポロポロ

    ガンダタ「メソメソすんじゃねぇ! ……俺もお前も境遇は一緒よ」

    少年「……?」

    ガンダタ「牢にいれられ、虎視眈々と脱出を狙う。這い上がるチャンスをな。お前はその機会が与えられるのをただ待ってるだけだがな」

    少年「……な、なに言ってるのか、意味が……」

    ガンダタ「わからなくていい。見張り番の気が変わっちまったら、取り上げられちまうかもしれねぇぞ」

    少年「うっ」ぐぎゅるる~

    ガンダタ「腹、減ってんだろ?」ススッ

    少年「よく、わからないけど、ありがとう、おじちゃん」カチャ

    ガンダタ「おじちゃんじゃねぇ。俺の名前はガンダタ。いずれアレフガルドの大盗賊団の長になる男よ」

    少年「へ、へー」

    ガンダタ「ふん、今はこんな場所にいるけどよ。必ず這い上がってみせるぜ」

    少年「うん」パクっ

    ガンダタ「(旅の若僧め、えらそーに説教たれてきややがって……! お陰でこっちはあの後手下どもに逃げられ……アデルで、だ、大工仕事だぁ? いまさらできるかよ!!)」プルプル

    見張り番「おぉ~い、すまねぇな」テクテク

    ガンダタ「(見つけたらただじゃおかねぇぞ! ぶち殺して、やつに渡された銀細工を……)」

    見張り番「どうだい、お前も酒飲む――」

    ガンダタ「ごちゃごちゃうるせェッ!!」ブン

    見張り番「え? ちょ……っ⁉︎ うっ!」ドゴォッ

    ガンダタ「あっ」

    見張り番「」ドサッ

    少年「あ、あわわっ」ガタガタ

    ガンダタ「し、しまったぁぁぁっ!!」

    415 = 15 :

    少年「……」ブルブル

    ガンダタ「ま、まずいぞ。大人しくしてるつもりが、つい、はずみで」チラ

    少年「こ、殺したの?」

    ガンダタ「(ど、どうする。このガキがやったことに、ええぃ、できるはずがねぇ。喧嘩の末にやっちまったって感じに――)」

    少年「こ、こわいよぉ、お家帰りたいよぉ」ポロポロ

    ガンダタ「側で泣くな!! 今考えてるんだからよ!」

    少年「ひっ」ブルッ

    ガンダタ「ちくしょおぉぉっ、仲間内での殺しはご法度だ。例え喧嘩だとしても、許されるもんじゃねぇ……くっ、なんてこった……こ、ここまでか」

    少年「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん」

    ガンダタ「泣きてえのはこっちも同じ……ん? お姉ちゃん?」

    少年「うっうっ、ぐすっ」

    ガンダタ「おい、ガキ。おめぇ、そういやなんで人質になってんだ?」

    少年「し、知らないよぉ」

    ガンダタ「(クソ、イライラさせるガキだ。……いや、まてよ。まだ生き残る道があるかもしれねぇ、このガキを使やぁ)」スタスタ

    少年「ひっ、な、なに……」

    ガンダタ「――ついてこい。ここから逃げるぞ」

    少年「えっ⁉︎ お家に帰れるの……?」

    ガンダタ「家には帰れねぇが」

    手下「が、ガンダタ……おめぇ、なにしてやがる……」

    ガンダタ「……っ⁉︎」ギョ

    手下「酒が足りねえだろうと思って、来てみりゃ……まさか、お前、裏切るつもりじゃ⁉︎ お、お頭らァッ!! みんなぁっ!!!」

    ガンダタ「チッ」ヒョイ

    少年「うっ、わっ」

    手下「人質を担いでどうするつもりだ! そいつは――」

    ガンダタ「ごちゃごちゃうるせぇよ」ヒュッ

    手下「うっ」グサッ

    ガンダタ「(手持ちの投げナイフは今ので最後か)」スチャ

    手下「う、ううっ」ドサッ

    ガンダタ「急所は外してある。お頭に伝えな。人質を返してほしけりゃ、追って連絡を待てとよ」

    手下「ぐっ、ガンダタァっ! 身内殺し、裏切りはこの業界じゃご法度だと知らねーおめぇじゃねぇだろ!!」

    ガンダタ「まともなことやってちゃ時間がかかるのよ。それに、なにがご法度だ。俺もお前も、社会のはみ出し者だろうが」

    手下「ぐっ、ぐぬぬっ! 許されるこっちゃねぇぞ! ガンダタァッ!!」

    ガンダタ「……なら、追ってこい。誰も止めやしねぇよ。お前らも止まるつもりねぇだろうがな」

    少年「お、お家、帰りたい」

    ガンダタ「(クィーンズベル城で働くメイドの弟だったな。こうなっちまったらしょうがねぇ、やるとこまでやるっきゃねェッ!! 男ガンダタ、ただでは死なねぇぜっ!!」

    416 = 15 :

    ~~第3章『砂漠の花と太陽と雨と』~~(前編)

    417 :

    勇者はニートになったのけ?

    418 = 15 :

    長くなりそうなんでここで一旦区切ります。
    いろいろ書いてるフラグ回収してたらこの章ちょっと長くなりそうです。
    なので今回は前編、後編と分けることにしました。

    今日はレスしません。
    ちょい時間あけます。

    419 = 405 :


    続き楽しみ

    422 :

    やっぱり王道は良いな
    ここまで楽しかった

    424 :

    おつ

    427 :

    森きのこは章ごとにまとめてるから読みやすくてありがたい
    エレ速だと一気まとめするから読むの疲れる

    さて余計なレス排除してあるまとめ版見てくるか

    428 = 422 :

    エレ速は最近超長いアンカスレがまとめられてて理不尽な叩かれ方をしてたな
    まとめ方がおかしいてちゃんと指摘してるやつもいたけどこのSSも長編になるならまとめ拒否は考えた方がいいよ
    読まないからなんの得にもならない

    430 :

    くっせえまとめ民アピールとageカスがウザいので更新無しです

    431 :

    更新はあります
    作者が真面目に書いたら800くらいまでいくと言っていたではありませんか
    その言葉を信じて、私は今日も辛い仕事場へ満員電車に揺られていく

    432 = 429 :

    >>430
    この人作者でもないのになんでこんなにカリカリしてるんだろ

    433 :

    【数十分後 廃墟】

    お頭「そうかい……ガンダタの野郎。ついに裏切りやがったか」グビッ

    手下「お、お頭ァ! そんな悠長に酒飲んでる場合じゃねぇですよ!」

    お頭「騒ぐことはねぇ。あいつはいつか裏切ると思ってた」

    手下「……え? そ、それなら、なんで?」

    お頭「“目つき”よ。目は口ほどに物を言うっていうだろ。ありゃあ下につくやつの目じゃねぇ。下克上を考えてるやつのモンよ」

    手下「だったらなんで手下に加えたんでさぁ⁉︎」

    お頭「こうなると予測はついてたっつったろ? まさか……人質をかっさらうとは思ってなかったが」

    手下「ガンダタがいなくなって、見張り番を殺られちまったのもかまいやしません。でも、人質は……!」

    お頭「計画にケチがついた。おめェはそう言いてんだろ?」

    手下「うぐっ」

    お頭「修正すりゃいいのよ。予定が狂ったんなら。……やるべきことをやるだけで慌てたってなんにもならねぇ」

    手下「なら、すぐに追っ手を!」

    お頭「ああ。馬10頭とそれに見合う人数で走らせろ。見つけたら殺せ」

    手下「へ、へいっ!」タタタッ

    お頭「(ガンダタよ。おめェに一目置いてたんだぜ? 人質掻っ攫われた俺と、行動を起こしたお前。ヘタ打ったのはどちらか、白黒ハッキリつけなくちゃいけねぇみてぇだな)」

    手下「あ、そ、そうだっ!」ピタッ

    お頭「ん……? どうしたい?」

    手下「城に潜伏させてる密偵から連絡がありましてね。なんでもハーケマルの使者がきてるらしいです」

    お頭「あ? 使者ァ?」

    手下「へい。なんでも、王子来訪に先駆けてだそうで」

    お頭「そりゃ都合が良い。水が干上がっちまってるのがバレちまうだろ」

    手下「そ、それが……。王も黙って成り行きを見守るつもりはないらしく、法王庁と協議に入ったとか」

    お頭「なんだとォ?」

    手下「おそらく、援助を要請する腹づもりでしょうね。長期化しても耐えられるように」

    お頭「……まじィな。ガンダタよりもそっちのが問題だ。計画がご破算とかしちまう」

    手下「どうしやしょう? 予備も含め王子来訪に合わせて水不足に陥っていなきゃ」

    お頭「(法王庁か。やつらの援助で水を確保できりゃ、俺らがいくら干上がらせたところで……)」

    手下「いっそのこと、こちらも長期化させて、王子来訪の後にズラしますかい?」

    お頭「バカやろ。どれくらいの金と期間をかけて下準備してきたと思ってやがる。それまでこっちの体力がもたねぇの。小銭稼ぎじゃ給料が払えなくなっちまう」

    手下「う……」

    お頭「しかたねぇ。さらに金をばらまくか。……おい」

    手下「へ、へい?」

    お頭「潜伏してる手下に伝えろ。使者ってやつが金で動くかどうか確認しろとな」

    手下「へい!」

    お頭「(全てが計画通りとはいかねぇか。だが、それでこそやりがいがあるってもんよ)」

    434 = 15 :

    【クィーンズベル城 癒しの間】

    ジャン「(うぅ……ここは……)」

    神職「ルビスよ。聖なる守護者よ。彼の者を癒し給ええ」ポワァ

    ジャン「(……回復魔法……そうか、また気を失ってたのか。自由に動けてもクソ姫とエンカウント率高かったらたまらんぞ……)」

    「ここかしら⁉︎」バターーンッ

    メイド「姫さまぁっ!」

    神職「ひ、姫さま?」

    ジャン「(思ってるそばからぁ⁉︎ まだ、寝たふりしてよう)」

    「神職、あなたはもう下がってよろしくてよ」

    神職「し、しかし、目が覚めたら玉座にお通ししろと仰せ司っております」

    「後はこのわたくしとメイドが面倒を見ます」

    ジャン「(ひ、ひぃっ⁉︎ なんでこいつはこうも俺にまとわりついてきやがる!)」

    神職「王様は、姫さまは謹慎処分だと」チラ

    メイド「う、うぅ」オズオズ

    神職「メイド。王に報告いたしま――」

    「貴女。誰に向かって、誰の専属メイドにモノを申しているんですの?」ギロ

    ジャン「(負けるな! 神職さん! あんたは正しい! 責務を全うしようとしている!)」

    神職「うっ、し、しかしですね」

    「まさか? まさかねぇ? たかが宮使いの神職が姫直属の従者に向かってそのような……」

    神職「王令は、姫さまと言えど」

    「おだまりなさいっ!!」バンッ

    神職「……っ!」ビクゥ

    「その王の血を引く者に向かってなんたる無礼なっ!!」

    神職「そ、そのようなつもりは」

    「いいえ、そう聞こえます。嫌というほど聞こえます。貴女がわたくしを軽視していると」

    神職「わ、私はただ、王令を尊守しているだけでございます」

    「チッ。しつこいですわね」

    ジャン「(王に報告しろ! 今すぐ報告しろ! どんだけ甘やかされて育ってやがる! こんなのは横暴だ! 許されないよ!)」

    メイド「姫さま……。神職殿のお立場も考慮なさってください。彼女は与えられた責務を」

    「なんでも責務責務。……ふう。わかりました。十分外にでておれ」

    神職「……」チラ

    メイド「こ、今度は、私もそばについておりますので」ペコペコ

    神職「……わかり、ました。十分だけです」

    「誰にモノを申しておるか。わかったならとっとと出て行け」

    ジャン「(だ、だめだぁっ! 行かないで! 友よ! この城の良心よ! 神職さまぁ!)」

    神職「失礼致します」ペコ

    435 = 15 :

    ジャン「(い、いって、しまわれた。目を覚ましてやりすごさねば……)」

    「メイド。よく見ておくんですの」コツコツ

    メイド「い、いったいなにをされようというのです?」

    「この者の正体。なぜハーケマルの使者と名乗っていたのか……」

    ジャン「(な、なに……? 正体だと?)」

    メイド「先ほども言っていましたが、ハーケマルの使者ではないのですか……? では……ハッ! ま、まさか⁉︎」

    ジャン「(こ、こいつ……っ⁉︎ 俺が気絶してる間に仮面とりやがったな⁉︎ やっぱり顔覚えてやがったのか!)」

    メイド「な、なりません! 姫さま!」ガシッ

    「えっ、ちょ、な、なぜ止めるんですの? 貴女も知ってる懐かしい――」

    メイド「ま、まさか、姫さまにまで接触していたなんて……!なりません! 危険です!」

    ジャン「(……? な、なんだ?)」

    メイド「(そうよ! まさか盗賊の一味が毒牙を……! 姫さまだけは巻き込んじゃだめ!!)」

    「な、何言ってるんですの? 危険なはずがありませっ、はなっ、離しなさい」グィ

    メイド「私におまかせくだっ、さいっ! 危害が及んでは王に顔向けできなくなります!」ググッ

    「あ、貴女、ちょっと、なにか勘違いしてるんじゃありませんこと⁉︎」

    メイド「いいえ! 姫さまこそ! この人達は危険なんです! ご自分のお立場と御身をご理解ください!!」

    「……っ!」カチーンッ

    メイド「だいたい! 姫さまはいつもそうです! 小さい頃は泣き虫だったくせに! 勇者様と会ってからはすぐ調子に乗るようになって!」

    「なんですのっ⁉︎ 貴女だって昔はニコニコ笑うだけの引っ込み思案だったくせに! お姉さん風吹かせてたのは最初だけ! 後は私の後をぴょこぴょこついてきてでしょ⁉︎」

    メイド「……っ!」カチーン

    「歳を重ねるにつれて姫さまお嬢様と!」

    メイド「それを言うんだったら言わせてもらいますけどねっ⁉︎ 姫さまは本当は芯が脆いんじゃないんですか⁉︎ 私がいなくなってもいいんですかっ⁉︎」

    「なっ、ななななぁっ⁉︎ 貴女、自分をなんだと⁉︎」

    ジャン「……あの」ムク

    メイド「本当はさみしいだけでしょ! 今だって私がいなきゃ着替えもできないのに!」

    「で、できますわっ! 貴女こそ!」

    メイド「……私がなんだって言うんです?」

    「ぐっ、ぬぬっ……!」

    ジャン「いや、あの~、もしも~し」

    メイド「いいんですよ~? 昔みたいに泣き虫になっても? ハンカチ貸してあげますからぁ」

    「あったまきた! 頭きたんですの! 戦争ですわ!」

    メイド「なにが戦争ですか! いつまでも子供みたいなこといって!」

    ジャン「……おい、お前ら」

    姫&メイド「なんですの(か)っ⁉︎」

    ジャン「なんでもないです。どうぞ、お続けください」

    「このクソメイド!! そんな思い込みが激しいからなんでもかんでもすぐポカやるんですの!!」

    メイド「あーあー、聞こえませーん。子供姫に言われたくありませーん」

    ジャン「……ふぅ」テクテク

    「耳腐ってるんじゃありませんこと⁉︎」

    メイド「幼児退行してるんじゃありません⁉︎」

    ジャン「ごゆっくり」パタン

    436 = 15 :

    【クィーンズベル城 通路】

    神職「目が覚められましたか」

    ジャン「あ、どうも」ペコ

    神職「部屋の中からなにやら喧騒な声が」

    姫&メイド『――――ッ!!』ギャアギャア

    ジャン「喧嘩するほど仲がいいと言いますしね。そっとしておきましょう」

    神職「は、はぁ。傷は塞がっておりますか? 痛みなどは?」

    ジャン「おかげさまで」

    神職「回復力が良いのですね。羨ましいですわ。まるで精霊に愛されているかのよう」

    ジャン「大袈裟ですよ。それより、少し城の中を散策したいのですが」

    神職「王が会いたいと仰っておいでです」

    ジャン「(まぁ、姫が使者を刺したとなればそうなるか)……私は気にしておりませんが」

    神職「寛大なお心とお申し出に感謝致します。しかし、事がコトですので、なにもなしというわけにも……」

    ジャン「一国の王の申し出ですしね。お誘いを無碍に断ってもカドが立ちますか」

    神職「さすがハーケマルの使者様でございます。どうか、我が王を安心させてはいただけませんでしょうか」

    ジャン「(弱ったなぁ。俺もボロがでそうだからできれば会いたくないんだけど……かと言って、会わないというわけにも)」

    衛兵「神職殿。……と、こちらの方は、ハーケマルの使者様ですね」

    神職「これはこれは。お勤めご苦労様です」

    衛兵「国王陛下がお呼びです。目が覚め次第、お連れせよと」ペコ

    ジャン「ふぅ、わかりました。行きますよ」

    神職「ありがとうございます」

    ジャン「(今さらだけど、こうなるんだったら忍びこめばよかったなぁ)」ポリポリ

    437 = 15 :

    【クィーンズベル城 玉座へと続く階段】

    衛兵「この度は、災難でしたね」コツコツ

    ジャン「あぁ、いえ」

    衛兵「我々も姫のおてんばぶりには手を焼いているのですよ。トホホ」

    ジャン「(同情するわ)」

    衛兵「ところで、使者様の生家は名家なのでしょうか?」

    ジャン「なぜ、突然?」

    衛兵「い、いえ。私は平民出ですので、少し興味が。使者という大役を任せられるとはどのような家柄だろうかと」

    ジャン「(俺も普通の家だぞ)たいしたことはございません。我が家系は王に代々使えているだけのこと」

    衛兵「やはり。謙遜しておいでなのでしょうが、裕福なのでしょうね」

    ジャン「いえいえ、ちっぽけな家でございますよ」

    衛兵「またまたご謙遜を」

    ジャン「(そういや、勇者特典で王様から支給されてた300万ゴールドはいったいどこへ……夫婦の旅費に消えたんだろなぁ)」

    衛兵「……まさか、お金にお困りなのですか?」

    ジャン「いえ、困っているというわけではないと思いますが。私が買ってもらったのは竹とんぼなんですよ」

    衛兵「た、竹とんぼ……?」

    ジャン「はい」ガックシ

    衛兵「それは、つまり、お小遣いがなかったと? 教育が厳しくて」

    ジャン「厳しい……かは甚だ疑問ですが、自由に使えるお金はなかったですね」

    衛兵「ほ、ほうほう! それでしたら! お金があればどんな使い方をしたいです⁉︎」

    ジャン「お金があれば……ですか?」

    衛兵「パフパフをしてみたり?」

    ジャン「(そうやなぁ、それもいいな。ぐへへ。今の金で豪遊すると魔法使いとかがうるせぇだろうしな)」

    衛兵「ギャンブルもしてみたり?」

    ジャン「い、いいですね」ニマ

    衛兵「そーですか! そーですか! 使者様とは気が合いそうですね!」

    ジャン「男ならみんなそんなもんでしょう?」

    衛兵「たしかにたしかに! たまぁ~にいるんですよ! 堅物が!」

    ジャン「何が楽しくて生きてるんでしょうね」

    衛兵「いや! まさにその通り! ごもっとも! ……使者様においしいお話があるんですが、どうです? 今夜、酒場で一献」

    ジャン「今夜ですか? いや、今日は城に泊まると」

    衛兵「城下町の視察だって言って抜けりゃいいじゃないですか! 可愛い子つけますよ? パフパフッ。パフパフッ」

    ジャン「う、ううん」

    衛兵「おっぱいでパフパフっ。パフパフっ」ワキワキ

    ジャン「ご、ごほん。なにやら重要な話みたいですね」

    衛兵「(チョロいな! こりゃあお頭が喜ぶぞ!)……楽しい夜になりそうですな。ぐふっ、ぐふふっ」

    ジャン「衛兵よ。お主もワルよのぉ、ぐふっ」

    ジャン&衛兵「ぐふふふふっ」

    438 :

    【クィーンズベル城 玉座】

    王様「本当に、ウチのバカ娘が申し訳なんだ」

    ジャン「私は気にしておりません」

    王様「う、む。そう言ってくれるのはありがたいのだが。どうだろうか、本心を聞かせてもらえぬか」

    ジャン「と、申されますと?」

    王様「国を代表する使者として来場している身。母国に忠あればこそ、報告する理由があろう」

    ジャン「(あのおっちゃんもだいぶ白髪が目立つようになってんな。喋り方まで。苦労してんだろな)」

    王妃「陛下同様、妾も身体に大事ないか心配しておった。傷の具合はどうか……?」

    ジャン「(なんでこんなできた親からあんな娘が。……甘やかしだろうな。原因は)神職様に手厚い治療を受けまして、この通り。すっかり傷も癒えましてでございます」

    王妃「いつもの貴族ではないようですが……」

    ジャン「(ぎ、ぎくぅっ!)あの方は流行りのインフルエンザにかかっておりまして」

    王妃「まぁ……そうであったか。北では難病が流行っておったか」

    ジャン「収束傾向を見せておりますのでご心配なく」

    王妃「ハーケマルに戻った暁には、私も民たちの安全と健康を心より祈っていると伝えておくれ」

    ジャン「御意」ペコ

    王様「話を戻すが、なにか、望みの物はあるか?」

    ジャン「(賄賂だな。物を与えるかわりに黙ってろと。すんなり黙っていますでは忠義がないと判断して、受け取らなければ信用しないつもりか)……では、出立の際に金貨を10万ゴールドほど」

    王様「……ふむ、よかろう」

    王妃「気を悪くしないでね。これもまた、政治なのです。両国が正しく、良い関係を続けるための」

    王様「うむ。お主の国に対する忠義を疑っているわけではない、ただ、保険として――」

    ジャン「陛下のご意向。私もしかと感じております。両国の発展と、民が安心して暮らせるのならば、是非もなく」

    王様「ほっ⁉︎ ほっほっ。優秀な若者……仮面をかぶっておるからわからんが、優秀であることに違いない」

    ジャン「(いやぁ、ホントは素顔で会いたいんだけどね。クソ姫がいるからね)」

    王妃「貴方の家柄を取り立てるよう、私からハーケマル王に文を持たせましょう。今後の使者としても」

    ジャン「いっ⁉︎ そ、それは、さすがに出来過ぎといいますか」

    王様「謙虚な。……国を想う心がそうさせるのか。うむっ! 気に入った!」バンッ

    ジャン「陛下。そんないっときの気分で人事を」

    王様「ワシの見る目を疑うというのかの?」ギロッ

    ジャン「(こ、こいつら……っ! やっぱり親子やんけ!)」

    王妃「陛下は一度言い出したらきかぬ頑固者なのです。まったく、あの娘も変なところばかり似て」

    王様「だから可愛いのよ」

    王妃「ええ、そうですね。ふふっ」

    ジャン「(甘やかしてる片鱗を見た気がする)」

    王様「使者よ。此度の来訪の目的は隠密での視察だと聞いておるが」

    ジャン「はい」

    王妃「ハーケマル王も人が悪い。私にさえ秘密にするなんて」

    王様「自由に見て回るがよい。大臣よ。この者に、首飾りを」

    大臣「かしこまりました」ゴソゴソ

    王様「使者よ。心して聞け。今から渡すものは、王家代々伝わる由緒正しき宝具。それを身につけてさえおれば、王族同等の扱いを受けるであろう」

    ジャン「畏れ多い。よろしいのですか?」

    王様「たかだか10万ゴールドなどはした金で水に流してもらったのだ。こちらも器量を見せねばな。ここに滞在する間のみの貸し出しだが」

    王妃「これも、クィーンズベル王陛下のご采配があればこそ……ハーケマルの使者とはいえ、寛大さに感謝するように」

    ジャン「はっ!」ドゲザ

    439 = 15 :

    【クィーンズベル城 通路】

    ジャン「宝具ねぇ」キラン

    メイド「玉座に向かったと……ならば、こちらに……」キョロキョロ

    ジャン「なにか特殊な付加効果あったりすんのかな。ただの飾りか……それにしても、久しぶりだった。おっちゃんにあったの」テクテク

    メイド「……いたっ! 見つけた!」ダダダッ

    ジャン「ん……?」クルッ

    メイド「めぇいどぉ~~キィィィィック!!」ドゴォッ

    ジャン「ぐはっぁ⁉︎」ドサッ

    メイド「……はぁっはぁっ……」

    ジャン「あ、あ……? な、なにしやが――」

    メイド「姫さまをどうするおつもりです⁉︎ 弟だけではなく姫さままで!!」

    ジャン「はぁ?」キョトン

    メイド「いつから接触していたのですか⁉︎ 見取り図を渡せといってきたのはつい最近の出来事でしょう⁉︎」グイッ

    ジャン「お、おい。ちょっと落ち着け」

    メイド「姫さまをどうするおつもりですか! 姫さまを姫さまを姫さまを姫さまを姫さま姫さまをっ!!」ブンブン

    ジャン「お、おおっ、おちっふるなっ、ガクガクさせるなっ、ままっまたんかいっ」ガクガク

    メイド「私が仕事をしないからですか⁉︎ 弟を人質にとるだけではなく姫さままで⁉︎」

    ジャン「ひ、人質……?」

    メイド「うっ、うっ、わかりました。城内の見取り図はお渡しします。ですから、もう、姫さまだけは勘弁してくださいまし……」ガクッ

    ジャン「いや、あの」

    メイド「弟にも、会わせてくださいまし。お金が目的なら、それでいいでしょう⁉︎」キッ

    ジャン「う、うん?」

    メイド「……弟を助けだしたら、王に罪を告白して、自決します」スッ

    ジャン「お、おい」ポカーン

    メイド「本日の夜。城下町の酒場に来てください。……そこで、約束の物をお渡しします」

    440 = 15 :

    【10年前 クィーンズベル城 中庭】

    「ねぇ、ゆうしぁ? おままごとしない~?」

    勇者「ええ、またぁ? 姫が奥さんでメイドが愛人の? やだよ。飽きた」

    「……うっ、うっ、ひぐっ……い、いやなのぉ?」

    メイド「お、じょうさま、はんかち」ゴソゴソ

    「いやだっていわれちゃったぁ……ひぐっひぐっ」

    勇者「……泣くことないじゃないか」

    「あああああんっ!! びいゃあああっ!!」ポロポロ

    メイド「な、泣かない。泣かない。お鼻、ちーんっ」スッ

    勇者「ちぇ。……ただいま。今日もつかれたなぁ」ドサッ

    「……? ん、すんっ、すんっ」

    勇者「今日のゴハンなにかなぁ」

    メイド「お、おじょうさま。ほら」ニコニコ

    勇者「泥団子まだかなぁ」

    「ち、違うもん。そうじゃないもん、ひぐっひぐっ」

    勇者「違うのぉっ⁉︎ 役が違った⁉︎」

    「うっ、診察、ごっこっ、すんっ」

    勇者「しんさつぅ?」

    「わたくしが、お医者さんで、ゆうしゃは患者さん。メイドはナース」

    441 = 15 :

    勇者「な、なに、それ」

    「今日はどうしましたかぁ?」

    勇者「うっ、や、やだよ。やっぱり」

    「ぴっ⁉︎ ま、まだやだっでぇ……!」

    メイド「ゆ、ゆうしゃさま」ジー

    勇者「……お、お腹いたいです」

    「そうなんですかぁ? じゃあ見せてくださいっ!」

    勇者「み、見せるの?」チラ

    メイド「……」ジー

    「見せてくださいっ!」ニッコニコ

    勇者「わ、わかった。はい」グィ

    「うーーん」ピト ピト

    勇者「……」

    「これはいけませんねぇ! 手術です!」

    勇者「え……?」

    「メイド! 患者さまを四つん這いに!」

    メイド「はい、おじょうさま」

    勇者「え? え?」

    「だぁいじょうぶぅ。ちょこっとちくっとしますからねぇ」

    メイド「あ、あの、おじょうさま。なにを」

    「ニンジン! 生えてたんですの!」ニタァ

    勇者「ちょ、なにするつもりっ⁉︎」

    メイド「おじょうさま、勇者さま、嫌がって」オズオズ

    「逆らうんですのぉ?」ニタァ

    メイド「……」ガシッ

    勇者「メイド、ちゃん? な、なんで抑えてるの?」

    「おーほっほっほっ! 天井のシミ数えてる間に終わるからねぇ」

    勇者「ひっ、や、やめて、いや」

    「さきっちょだけ。さきっちょだけ」

    勇者「や、やめてっ! あ、アッーーーー!!!」

    442 = 15 :

    【クィーンズベル城 姫の自室】

    「懐かしいですわ。なにもかも――」ゾク

    勇者『姫ちゃん! やめて! そこは違う! 穴が違う!』

    『おーほっほっほっ! ならどこの穴ならいいんですのぉっ!』グリグリ

    「――なにもかもが、懐かしく、また……いつまでたっても色褪せることはない、うふっ、うふふっ」ゾクッゾクッ

    メイド「……ただいま、戻りました……」パタン

    「もう帰ってきたんですの?」プィッ

    メイド「先ほどのやりとり、まだ怒っておいでなんですか?」

    「当たり前ですわ! というか、さっきの今でしょう! わたくしにあのような無礼千万なことをツラツラと!」

    メイド「そ、そうですね。ついカッとなり、失礼いましました」ペコ

    「なんですの……? いきなり」

    メイド「姫さまは、私が守ります」

    「……? あ、さっき伝えそびれていたんですけれどね、ハーケマルの使者というのは――」

    メイド「姫さまはァッ!! 私がッ!!守護(まも)りますッ!!」クワッ

    「……っ!」ビクゥッ

    メイド「私、これまで、勘違いしておりました」

    「は、はぁ?」

    メイド「立ち向かわなければならなかったのです。怯えるのではなく! その、せいで……! 姫さままで!」

    「いったい、なにを」

    メイド「ハーケマルの使者のことは、お忘れください。私がカタをつけてまいります」

    「ちょ、ちょっと?」

    メイド「必ずやっ! この命にとしても!」

    「……そ、そう」タラ~

    メイド「貴女は死なないわ……。私が守るもの」スッ

    「……」

    メイド「では、準備がありますので、私はこれで」

    「が、がんばってね?」

    メイド「御意」ペコ

    443 = 15 :

    【夜 城下町 酒場】

    バニーガール「いらぁっしゃぁ~いん♪」

    ジャン「お、おう」

    バニーガール「あらぁ? その格好は貴族さまぁ~ん? パフパフ……い・か・がぁ?」

    衛兵「ジャン殿! ここ! ここ! ここですよぉ!」フリフリ

    バニーガール「衛兵さんのお連れだったのぉ~ん?」

    衛兵「今日もかわいいねぇ、可愛い子三人テーブルにつけちゃってよ。チップは弾むからさ、これぐらいでどう?」スッ

    バニーガール「んもぅ、しかたないわねぇ~ん」カサ

    衛兵「ジャン殿。遅かったですね!」

    ジャン「ちょっといろいろと見て回ってたもんで」ガタッ

    衛兵「何飲まれます! 席についたらなにか飲まなくちゃ!」

    ジャン「じゃあ、カクテルを」

    衛兵「貴族さまは小洒落てますなぁ! おーい! なんかカクテル! あ、おしぼりどうぞ」スッ

    バニーガール「ただいまぁん♪」

    衛兵「どうですか? クィーンズベルは。都会なようでなんにもない街でしょー? 賑わっちゃいますが」

    ジャン「活気があるのは良いことですよ」

    衛兵「そうは言うてもですねぇ、実がないと田舎となにも――」

    メイド「た、たたたたのもうっ!!」バターーンッ

    店内「……」シーン

    メイド「~~~ッ!! あ、あのっ!」

    バニーガール「メイド喫茶と間違えたのかしらぁん?」

    店内客「わははっ! ねーちゃん! そんな力いっぱい扉開けたらびっくりするだろうがっ!」

    衛兵「……っ⁉︎ あ、あいつっ⁉︎」ガタッ

    ジャン「お知り合いですか……?」チラ

    衛兵「い、いえ、そ、その」

    バニーガール「どうしたのぉ? ここはメイドさんが来る場所じゃ」

    メイド「人と、待ち合わせしているんですっ!!」

    バニーガール「そ。ミルク、でいい?」

    店内客「ぎゃっはっはっ! かわいそーだろ! 俺の席につけてくれよ! そのメイドねーちゃん!」

    バニーガール「あらぁ? うちの子じゃ不満~?」ギロ

    店内客「うっ! そ、そうは言っちゃいねぇが」タジ

    444 = 15 :

    メイド「……」キョロキョロ

    衛兵「うっ」ササッ

    ジャン「どうなされました? テーブルの下に隠れて」

    衛兵「い、いえ。小銭を落としてしまったもので」

    メイド「……あ、あんなところに……!」ズンズン

    ジャン「(ふーん。やはり、メイドの狙いは俺か。あれから城の中を調べてみたが、さしたる収穫はなし。鏡についてもどれがどれやら――)」

    メイド「お、お待たせしましたっ!」

    ジャン「――あぁ」

    衛兵「お、お前ッ!! なんでここに! 俺を探していやがったな⁉︎」ガバッ

    ジャン「あ……?」チラ

    メイド「や、やはり……! 一緒にいるということは! あなたも盗賊の一味で間違いないようですね!」

    ジャン「あなた、“も”?」

    衛兵「ばっ⁉︎」アタフタ

    ジャン「(おやおやぁ? これはもしかして、もしかすると、とんでもないマヌケな図式になってるんでない?)」

    メイド「裏でこそこそと結託して!! 恥ずかしいという気持ちはないのですかっ⁉︎ 挙句に姫さままで!!」

    衛兵「……ひ、姫?」

    メイド「とぼけたって無駄です!! あなた方が二人でいることがなによりの証拠!!」バンッ

    衛兵「ジャ、ジャン殿。少々席を外しても?」

    ジャン「ええ、かまいませんよ」

    衛兵「バニーガール! 奥の個室使わせてもらうよ!」

    バニーガール「ご自由にぃ~」

    衛兵「おまえ、ちょっとこいっ!!」グィッ

    メイド「いたっ、はな、離しなさいっ!」タタタッ

    ジャン「やれやれ。これが衛兵とメイドで彼氏彼女の関係なら、ここでお幸せに~で帰るんだけどねぇ」

    445 = 15 :

    【酒場 個室】

    衛兵「な、なにしにきやがった⁉︎ 俺はこれから大事な接待をするところで!」

    メイド「……」ゴソゴソ

    衛兵「ああっ、ちくしょう! 絶対怪しまれちまった……警戒心を解くのが肝心なのに……どうしてくれんだよ、ったく」

    メイド「これです! これが目的だったんでしょう!」バンッ

    衛兵「そりゃぁ、もしかして、城の見取り図か⁉︎」

    メイド「夕食の配膳係を変わっていただき、その際に宝物庫の鍵をとり。忍びこみ持ってきました」

    衛兵「これは、原本か? そうなんだな?」

    メイド「はい。間違いございません。……さあ、約束の品は渡しました」

    衛兵「これがこうなって……ふんふん、おお、こんなところに隠し通路が……こっちにも! 隠し階段が!」

    メイド「弟はどこなんですかっ⁉︎ 会わせててくれるって約束でしょう⁉︎」

    衛兵「あ、あぁ。そうだったな、心配すんな。合わせてやる。ただ、今日はだめだ。これから接待を――」

    メイド「私は約束を守ったじゃないですか! どうして弟に会えないんですかっ!」グィッ

    衛兵「お、ちょ、あぶっ」ビリ ビリ

    メイド「嘘つき! 嘘つき!」ブンブンッ

    衛兵「まっ、待て! 破れる!!」ビリィィィッ

    メイド「あ……」

    衛兵「……う、うそ、だろ……っ。や、やべぇ、ぞ。真っ二つに破れて……どけっ!」ドンッ

    メイド「あぅっ!」ドサ

    衛兵「……だ、大丈夫だ、真っ二つに破れただけだから、繋ぎ合せりゃいいんだ……」

    メイド「……」ムクッ ユラァ

    衛兵「おまえどーかしてるんじゃないのか! 会わせると……⁉︎」ギョッ

    メイド「……弟は、どこですか……?」スラァ

    衛兵「た、短刀⁉︎ お、おまえっ! な、なにするつもりだ⁉︎」

    メイド「弟の居場所を、教えて。会わせてください」スッ

    衛兵「ま、待てっ! 落ち着け! な?」

    メイド「(姫さまにも、お城にも迷惑をかけません。弟を助けたら、見取り図は必ず戻します……だから……っ!)」プルプル

    衛兵「……? ふふぅ~ん?」ニヤ

    メイド「な、なんですか? なにがおかしいんですか! 私は本気ですよ!!」プルプル

    衛兵「そんなにナイフの切っ先を揺らしてか? よく見りゃ膝もふるえちまってるぜ? お前」

    メイド「……っ!」

    衛兵「冷静になって考えりゃ、メイドに人を刺した経験なんたありゃしねぇよな」ムクッ

    メイド「わ、私は本気でっ!!」





    446 = 15 :

    衛兵「本気で? なんだよ?」

    メイド「ち、近寄らないでっ!」プルプル

    衛兵「……ふんっ!」バシィ

    メイド「あっ! うっ!」カランカラン

    衛兵「こちとら潜伏してる盗賊とはいえ、毎日兵としての訓練もこなしてるんだ。やわな鍛え方しちゃいねぇぜ」スッ

    メイド「うっ……くっ……!」キッ

    衛兵「なんだぁ? その目は? こっちは予定を狂わされてちぃとばかし怒ってるんだぜぇ?」

    メイド「弟に……」

    衛兵「弟弟ってうるせぇっ!!」バンッ

    メイド「ひっ」ビクゥ

    衛兵「黙ってりゃ会わせてやるって言ってんだ!! わからねぇのかよ!!」

    メイド「……うっ、うっ……ぐすっ……」ポロ

    衛兵「あ~あ、女はすぐこれだ。泣きゃいいと思ってやがる。なぁ?」グィッ

    メイド「うっ、さ、触らないで」パサッ

    衛兵「……おう、メイド服ってのは、そそるなぁ?」

    メイド「な、なにを……?」

    衛兵「お前のうなじ……はだけた胸元、前からいい女と思ってたんだ……」ゴクリ

    メイド「……っ⁉︎ な、なに! いやっ! は、離して! だ、誰かぁっ!」ジタバタ

    衛兵「だぁ~れもきやしねぇよ。ここの個室はな、そういうこと専門なんだ。……よっと」ビリビリ

    メイド「きゃ、きゃあああああっ⁉︎」ドサ

    衛兵「白、か。ありがちだが悪くねぇブラジャーだ。着痩せするタイプなんだな」

    ジャン「――……衛兵さーん!」コンコン

    衛兵「チッ。良いところで」

    メイド「……っ、や、やだ、っ、に、逃げないと……」ガタガタ

    ジャン「そろそろ帰ろうかと思うんですけどー?」

    衛兵「どうするか、こいつとヤレそうだってのに。しかし、使者を抱き込まねぇと」

    メイド「と、扉、扉」ガチャガチャ

    ジャン「内鍵閉まってますよねー? 蹴破ってもいいですかねー? 離れてた方がいいよー」

    メイド「えっ?」

    衛兵「な、なに?」

    447 = 15 :

    ジャン「よいせっと」バターーンッ

    メイド「あうっ!」ゴチーーン

    ジャン「あっ」

    メイド「」

    ジャン「だ、だから離れてろって警告したのに。お、おい、大丈夫か? ええい、くそ。ベホマ」ポワァ

    衛兵「……」ポカーン

    ジャン「ちょ、ちょっとまってね? すぐに治すから」ポワァ

    衛兵「……ジャン殿? あの、扉が、壁にめりこんでますが、あれぇ~? 見間違いかなぁ~?」ゴシゴシ

    ジャン「あ、それ? だいぶ加減したつもりなんだけどさ、よし」

    メイド「」

    ジャン「外傷は癒えたな。その内意識も取り戻すだろ」

    衛兵「か、か、壁に、扉がぁ⁉︎」ギョッ

    ジャン「さて、壁にコップを当てるというなんとも古典なやり方で聞かせてもらったよ。盗賊さん」

    衛兵「えっ? えっ」

    ジャン「とりあえず、右手と左手どっちがいい?」

    衛兵「そ、それは~。なんの質問でしょう?」タラ~

    ジャン「なんだと思う?」ニヤ

    衛兵「ほ、暴力じゃないですよねぇ?」

    ジャン「残念。でも当たり」ブンッ

    衛兵「う、うわあああああっ⁉︎」アタフタ

    448 = 15 :

    【数分後 同個室】

    ジャン「ふんふん、それで? 城の見取り図を入手するため、こいつの弟を拉致ったと」

    衛兵「ひゃい」ボロッ

    ジャン「盗賊団はどうやって井戸の水脈を……たしか、学者に聞いた話だと“逃げさせてる”んだったか」

    衛兵「わかりまひぇん」

    ジャン「嘘?」スッ

    衛兵「ひっ! ほ、ほんとへす! お頭が別働隊を仕切ってて、そっちの仕事で!」

    ジャン「別働隊か。団全体で何人ぐらいの規模なんだ? 二、三十人ぐらいか?」

    衛兵「詳しい数は、お頭しか、把握してないと」

    ジャン「あ、そう。まだ殴られたいんだ」スッ

    衛兵「ひゃ、百人は! いると思います! はい!」

    ジャン「へぇ……結構でかい団じゃないか。シノギも大変だろう」

    衛兵「まぁ、そこはその、こうしてたまにデカイヤマを扱ってるんで」

    ジャン「この国だけじゃなく?」

    衛兵「貴族様から依頼されることもあります。……ジャン様もももしよかったら」

    ジャン「……」スッ

    衛兵「な、ないですよねっ! だと思ってました!」

    ジャン「あー、もう。なんでこう芋づる式になっちまうのかねぇ」ポリポリ

    衛兵「あの、もう帰っていいですか?」

    ジャン「いいわけないだろ。牢屋行きだからな、お前」

    衛兵「そ、そんなぁっ! 頼みますよ! 謝礼はウンとはずみますから!」

    ジャン「(まずは、人質になってる弟とやらの確保だな。じゃないとこいつが牢にはいったとバレると……)」チラ

    メイド「Zzz」

    ジャン「(危険になるだろうなぁ……どうするか……どうする? やることは決まってんのかねぇ)」

    衛兵「考えなおしてくれました……?」

    ジャン「アジトに連れてってくれたら考えてもいいよ」

    衛兵「え、えっ? 俺らの仲間に?」

    ジャン「行ってから決めるけど。儲けはどれぐらいもらえんの?」

    衛兵「一人頭、100万ゴールドはかたいと」

    ジャン「お前らさぁ、この国潰す気? 百人いたら最低一億ゴールドじゃない。元締めである親の取り分が100ぽっちってことはないだろし」

    衛兵「そう、ですけど?」

    ジャン「だぁ……」ガックシ

    衛兵「へへっ、お頭、たいしたもんでしょ? どうされます?」

    ジャン「とりあえず、バニーガールさん呼んできてもらっていい? ……そのまま逃げたら地の果てまで追っかけてぶち[ピーーー]からな」

    衛兵「へ、へい」

    450 :

    おつー
    あいかわらず安心して読めるSSだわ


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