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    元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」

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    301 = 1 :


    勇者「……その辺りは読みとばしてくれ」

    僧侶「えっと……」カサッ

    僧侶「この手紙は、この度の粛清について伝えるべく出した次第です」

    僧侶「あの者共は貴方を公然と侮辱し、私の信仰を穢した大罪人。裁かれて当然の者共です」

    僧侶「奴等は修道騎士とは名ばかり、信仰の何たるかをまるで分かっていない。皆、貴方を崇めるべきだ」

    僧侶「これは粛清であり、堕落した異教徒との戦いであり、布教でもあるのです」

    僧侶「あの者共は、貴方が何者であるかを認識し、貴方が何を与えているかを知るべきなのです」

    僧侶「私は貴方を思い、貴方を理解し、貴方を愛し、貴方に全てを捧げる覚悟があります」

    勇者「………」

    僧侶「我が神よ、偉大なる我が主よ、次の望にお会い出来るでしょうか?」

    僧侶「もし会って頂けるというなら、私は教会にてお待ちしております」

    僧侶「ご迷惑かとは思いますが、私にはどうしても伝えたいことがあるのです。どうか、お許し下さい」

    僧侶「次の望を、月満ちる時を、胸焦がす思いでお待ちしております。貴方の僕、殉教を望む者より……」

    302 :


    勇者「悪いな。そんなもん読ませて」

    僧侶「……いえ。大丈夫ですか?」

    勇者「かなり気分は悪いけど大丈夫だ。しかし、厄介な輩に慕われたもんだ」

    僧侶「身に覚えはないんですか?」

    勇者「いや、さっぱりだ。まるで分かんねえ。ただ、そいつの頭がおかしいのは分かった」

    勇者「修道騎士団ってのは教皇に認められた連中だ。練度は勿論、信仰心も厚い」

    勇者「そんな奴等を一晩で二人も殺すなんてのは普通の奴には無理だ。しかも教会内で誰にも気付かれることなくだ」

    僧侶「……やはり夢魔の仕業なのでしょうか?」

    勇者「さあな。犯人が夢魔だろうが人間だろうが、化け物には違いねえだろう」

    僧侶「………魔女」ポツリ

    勇者「ん?」

    僧侶「魔女です。あの者なら可能かもしれません。馬車に乗っている時、見られている気配がしました」

    僧侶「もしかしたら付けていたのかもしれない。貴方に固執してましたから、可能性はあると思います」

    303 = 1 :


    勇者「可能性としてはあり得るな」

    勇者「だが、あの女なら回りくどい真似はしねえだろう。おそらく真正面から来るはずだ」

    僧侶「確かに、あれ程の力があれば隠れる必要もないですね。でも、異常性は近いものがあると思います」

    勇者「………まあいい、今日はこの辺にしとこう。調べるにしても明日からだ」

    僧侶「そ、そうですね」

    勇者「あ~、今ので疲れたな。ちょっと風呂見てくる。眠いなら寝てても良いからな?」

    僧侶「あ、はい。分かりました」

    ガチャ パタンッ

    僧侶「(殉教者。一個人をこれ程までに崇拝するなんて異常だ。一体何があったらここまで?)」

    僧侶「……やめよう」

    僧侶「はぁ、ちょっと眠れそうにないな。あの人が戻って来るまで待っていよう」ウン

    シーン

    僧侶「(思えば色々あった二日間だったな。龍が現れて、魔女が現れて……)」

    僧侶「(それから、あの人も変わった気がする。普通に話せてるし。もしかして少しは認めてくれたのかな?)」

    僧侶「……………へへっ、そうならいいなぁ」

    304 :


    【#13】受難の告知

    僧侶「(ま、まだかな……)」ソワソワ

    僧侶「(と言うか、何でこんなに緊張してるんだろう。それに、何だか落ち着かない)」

    僧侶「(今まではこんなことなかったのに……同じ部屋で寝るのが初めてだからかな?)」

    僧侶「(……思えば、こういう街とか、落ち着いた所で過ごすのも初めてのことだ)」ウン

    >>こんな時に何を考えてるわけ? 相変わらずバカな女ね。

    僧侶「!?」バッ

    シーン

    僧侶「(姿がない。気配も……)」

    『そんなに警戒しなくても大丈夫よ。声を届けているだけだから』

    僧侶「(一体何処から? そうだ、法力を辿ればーーー)」

    『居場所を探ろうとしても無駄よ? それより話があるの。とっても大事な話がね』

    僧侶「貴方と話すことなどありません」

    『あらそう。聞かないのなら別に構わないけれど、聞かなければ彼が死ぬわよ?』

    305 = 1 :


    僧侶「そんな言葉には惑わされません」

    『頭の固い女ね。まあいいわ、殉教者の手紙はどうだったかしら』

    僧侶「何でそれを……っ、やはり貴方が!」

    『違うわよバカ。手紙は届けたけど、あの殺しは私がやったんじゃないわ』

    僧侶「そんな戯言を信じろと?」

    『信じようが信じまいが貴方の勝手、そう思いたいのならそうすればいい』

    僧侶「(どちらにせよ、犯人と関わりがあるのは間違いない。なのに何故、私に……)」

    『話があるって言ったでしょう』

    『大体私が犯人だとしたら、わざわざ手紙を出した意味がないじゃない。接触したら台無しだもの』

    僧侶「(……確かに、それでは行動と矛盾する。ただ、この者の場合は分からない)」

    『聞く気になったかしら? 彼が来る前に終わらせたいの』

    僧侶「………」

    『それでいいのよ』

    『安心なさい、そう難しい話じゃないわ。バカな貴方にも分かるように話してあげる』

    僧侶「さっさと話して下さい。貴方の下らないお喋りに付き合ってる暇はありません」

    306 = 1 :


    『へぇ、言うようになったじゃない』

    『まあいいわ。話は単純、貴方が殉教者と戦わなければ彼は死ぬ。全ては貴方の意志次第』

    『ただ、戦うことを選んだ場合は耐え難い苦痛を受けることになる。それだけは覚悟することね』

    僧侶「…………」

    『本当に彼の力になりたいと思うのなら、その時までに準備しておきなさい。生きる為にではなく、殺す為に』

    僧侶「……何故、断言出来るのですか」

    『分かるからよ』

    『彼は貴方を巻き込まない為に一人で戦おうとする。貴方はそれに甘え、その甘えによって彼は命を落とす』

    僧侶「(……分からない)」

    僧侶「(この者の目的は勿論、本来なら馬鹿馬鹿しいと思うはずなのに、何故こんなにも真実味があるの?)」

    『続けてもいいかしら?』

    『殉教者は彼に心酔し、崇拝している。目的は彼との交わり。そして、神と同化すること』

    僧侶「同化?」

    『そう言っていたわ。まあ、私には狂人の考えることなんてさっぱり分からないけど』

    307 = 1 :


    僧侶「(どの口が……)」

    『それからもう一つ。彼について』

    僧侶「?」

    『彼は十年前、先の勇者によって救われている。これは知っているわね?』

    僧侶「………ええ」

    『先の勇者は彼を連れて旅をした。剣術、武術、勉学、様々な教育を施しながらね』

    『二人が旅をして五年が経った頃、先の勇者は龍と戦い、彼に力を託して世を去った』

    『当時十四かそこらの少年に、先の勇者は全てを託したの。勇者様も酷なことをするわよね?』

    僧侶「……何が言いたいのですか」

    『最後まで聞きなさいよバカ』

    『力を託されてからの五年間、彼は力を付ける為に旅をした。来る日も来る日も魔物を殺し続けた』

    『そして五年後の現在、彼は姿を現した』

    『人間の為などではなく復讐の為に、龍を殺す為だけにね……この意味分かる?』

    僧侶「……あの人は、そこで終わる」

    『その通り。彼は既に選択しているわ。私の目的は、その選択を覆すこと』

    308 = 1 :


    僧侶「っ、ふざけないで下さい!」

    僧侶「今朝方あんな真似をしておいて、あの人に生きて欲しいとでも!?」

    『それだけではないけれど、極単純に言えばそうなるわね』

    『彼を生かす為なら魔に堕とすことも厭わない。手段も問わない。私の目的の為に彼が必要なのよ』

    僧侶「貴方は狂っています」

    『何を言われようと構わないわ。私は私のやりたいようにする。ただそれだけ』

    僧侶「………」

    『それじゃあ、この辺で失礼するわ』

    僧侶「……待って下さい。それ程の力がありながら何故私に? 何故魔女になどなったのです?」

    『前者は、貴方でなければならないから。後者は、そうしなければならなかったから』

    僧侶「(意味が分からない。この者には何が見えているというの?)」

    『ああ、そうだったわ。彼は貴方のことなんてちっとも信頼なんかしていない』

    僧侶「………っ」キュッ

    『彼は、貴方と過去の自分を重ねているだけ。何も出来なかった。守られていた頃の自分にね』

    309 = 1 :


    『貴方のことなんて見てやしない』

    『力になりたいのなら、そこから脱却したいのなら、頼るのは止めて戦いなさい』

    『このまま行けば、貴方自身が彼を死に追いやることは確実なのだから』

    僧侶「(……分かってる)」

    『そろそろ汚れなさい』

    僧侶「え?」

    『人間なんて生き物は汚濁の中で生きているようなものなのよ』

    『世界も人間も、貴方が思っているほど美しくない。穢れから目を背ければ、彼と共には歩けない』

    僧侶「…………」

    『精々頑張ることね。生き延びる為には戦い続けるしかないのだから。進むか戻るか、二つに一つ……』

    シーン

    僧侶「……私が戦わなければ、あの人が死ぬ」シャラ

    サラサラ

    僧侶「(あの者が真実のみを語るとは到底思えない。だけど、その可能性があるのなら……)」

    僧侶「(………そう、進むか戻るか二つに一つ)」

    僧侶「(何度考えても結果は同じ。これから何度考えようと、きっとそれは変わらない。もう、答えは決まってる)」ギュッ

    312 :

    おつ

    313 :


    【#14】片鱗

    勇者「おい」

    僧侶「んっ…」モゾモゾ

    勇者「おい、朝だぞ。さっさと起きろ」

    ペチペチ

    僧侶「……あさ……っ!!」ガバッ

    勇者「どうした?」

    僧侶「私、寝てたんですか?」

    勇者「俺が戻った時には布団に入って寝てたな」

    僧侶「(寝ていた? じゃあ、あれは夢?)」

    僧侶「(ううん、そんなわけない。夢にしては鮮明過ぎる。あの嘲るような声だって、まだ耳に残ってる)」

    勇者「顔色が悪いな。悪い夢でも見たのか?」

    僧侶「いえ、大丈夫です。それより貴方は? 眠れましたか?」

    勇者「ああ、そこそこ眠れた。お前のいびきが五月蠅くて何度か起きたけどな」

    僧侶「(……嘘。毛布はずれてるけど敷き布に皺一つない。きっと横にもなっていないんだ)」

    勇者「さてと」ザッ

    僧侶「え、何処に行くんですか?」

    勇者「ちょっと教会に行ってくる。もう少し詳しい情報が欲しい。現場も見ておきたいしな」

    314 = 1 :


    僧侶「私も行きます」

    勇者「駄目だ。お前は休んでろ」

    僧侶「でもーーー」

    勇者「いいから、休める時には休んでおけ。話を聞いてくるだけだ。すぐに戻る」

    僧侶「………はい」

    『ああ、そうだった。彼は貴方のことなんてちっとも信頼なんかしてないわ』

    『貴方と過去の自分を重ねているだけ。何も出来なかった、守られていた頃の自分をね』

    僧侶「…………」

    勇者「じゃあ、行ってくる」

    僧侶「あの、この金棒と鉄板は?」

    勇者「あぁ、そっちは持って行かねえ。色々聞かれそうだし、昨日買った二本を腰に差してるからな」バサッ

    僧侶「……そうですか、気を付けて下さいね?」

    勇者「お前、何か変だぞ? 本当に大丈夫か?」

    僧侶「ええ、大丈夫です。少し休めば良くなると思います」

    勇者「……そうか。なら、しっかり休め。腹が減ったら宿の主人に頼めばいい」

    315 = 1 :


    僧侶「分かりました。行ってらっしゃい」

    勇者「ああ、行ってくる。鍵は閉めとけよ」

    ガチャ パタンッ

    僧侶「………」

    『本当に彼の力になりたいと思うなら、その時までに準備しておくことね。生きる為にではなく、殺す為に』

    僧侶「(……その時まで。確かにそう言った)」

    僧侶「(あの時に語った言葉が現実になるとしたら、私が戦わなければあの人を死なせてしまうことになる)」

    僧侶「(かと言って私に何が出来る? 戦いの中で術法を使ったことは一度だけだ)」

    僧侶「(対人であれ対魔であれ、戦闘中に上手く術法制御出来るかなんて分からない)」

    僧侶「(訓練するにしても時間がない)」

    僧侶「(月が満ちるまで五日か六日、今からでは遅い。確実な方法を見つけるのは不可能だ)」

    僧侶「(何しろ戦闘経験がない。訓練期間があったとしても、それを生かすことは出来ない)」

    僧侶「(十中八九、法力は乱れる。そうなれば術法を使うことすら困難になってしまう)」

    僧侶「(極論を言えば、どんな状況でも術法を使えればいい。というか、それを可能にしなければ戦うことすら出来ない)」

    316 = 1 :


    僧侶「……ダメだ。分からない」

    僧侶「(方向を変えよう。どうやったら術法を扱えるかではなく、術法がなければどうするか)」

    僧侶「(術法を封じられたと仮定して、どうやって戦えばいい? もしそんな状況になったら……!!)」

    勇者『お前がそれに頼らざるを得ない状況になったら、俺もお終いだってことだ』

    僧侶「……短剣だ」ガタッ

    ガサゴソ

    僧侶「………」チャキ

    僧侶「(もしそうなったら、これを使うしかない。問題はどう扱うかだ。普通に使っても意味はない)」

    僧侶「(あの人が使ってる武器なら振り回すだけでも脅威になるだろうけど、こんな短剣を振り回したところで怖れはしないだろう)」

    僧侶「(何より威力的な面で劣ってる。それに加えて、私自身には剣を扱える技量も経験もない)」

    僧侶「……金棒、鉄板」

    ガシッ

    僧侶「(見た目通り、かなり重い。持ち上げることすら容易じゃない。あの人はこれを振り回し、尚且つ使い熟している)」

    僧侶「振る。振り回す……」

    僧侶「(そうか、振ることさえ出来ればいいんだ。買った剣は計四本、残りの二本を使って試してみよう)」

    ガシッ

    僧侶「うっ…」ヨロッ

    僧侶「(持てるには持てる。だけど、かなり重い。重量を生かしつつ、これを振るにはーーー)」

    317 = 1 :


    【#15】密談

    勇者「騎士団の不和?」

    騎士「この街に元からいた私たち北の騎士団と、そこへ派遣されて来た修道騎士団があります」

    騎士「現在は協力関係にありますが、修道騎士団が指揮を執ることになった際には少なからず衝突がありました」

    騎士「あまり考えたくはないのですが、犯人が人間だと仮定した場合、我々北の騎士団の中にいる可能性が高いと思われます」

    勇者「……確かに筋は通りますが、それだけの理由で修道騎士を殺害するでしょうか?」

    勇者「後に発覚することを考えれば、殺意があったとしても軽々には行動に移せないでしょう」

    騎士「そこなんです」

    騎士「如何に現状に不満があるとは言えど、不仲が理由で殺人を犯すなど考えられない……」

    騎士「現場に書かれていた文字を見て感じたとは思いますが、あれには深い怨恨や狂気が刻まれている」

    騎士「しかも、殺害された三名が不可解な死を遂げているという事実。疑問が募るばかりです」

    勇者「……それについてなんですが」

    騎士「何でしょう?」

    勇者「これを……」スッ

    騎士「手紙?」

    勇者「昨夜、私宛てに届いたものです。おそらく犯人からだと思います」

    318 = 1 :


    騎士「なっ!?」

    勇者「内容が内容なだけに見せるのは躊躇われるのですが、この際、そんなことは気にしていられない」

    騎士「……拝見しても宜しいですか?」

    勇者「勿論です、その為に持参して来ました。貴方の見解を聞かせて頂きたい」

    騎士「分かりました。私でお役に立てるか分かりませんが……」カサッ

    勇者「…………」

    騎士「…………」

    勇者「……どうですか?」

    騎士「………一つだけ、思い当たる節があります」

    勇者「何です」

    騎士「事件が起こる前、殺害された三名が貴方を……その、軽視するような発言をしていました」

    勇者「具体的にはどんなことを?」

    騎士「こんな小僧が勇者などとは認めない、何故我々がこのような者に協力せねばならないのか」

    騎士「我々は神の為に戦う。この者の為にあるのではない。勇者など所詮は消耗品ではないか、と」

    319 = 1 :


    勇者「……そうでしたか」

    騎士「お気を悪くしたのなら謝罪します」

    騎士「しかし、修道騎士団の皆がそういった認識ではありません。それだけはご理解下さい」

    勇者「いえ、大丈夫です。私は気にしていませんよ。慣れていますから」ニコリ

    騎士「……これまでも、このようなことを?」

    勇者「ええ、挙げればきりがない程に言われてきました。ですが、こればかりは仕方のないことです」

    勇者「修道騎士団と言えば選ばれた集団。優れた力と品格、強い信仰を持った歴戦の方々ですからね」

    騎士「…………」

    勇者「それより、今後狙われそうな方はいますか? 何か心当たりは?」

    騎士「……一人だけ」

    勇者「誰です?」

    騎士「修道騎士団、管区長です」

    騎士「先に殺害された三名が慕っていた人物であり、反勇者とも言える思想を持っています」

    騎士「殺害された三名以外にも、彼の影響を受けた者はいます。修道騎士団だけでなく、我々の中にも……」

    320 = 1 :


    勇者「管区長ですか」

    勇者「では、次に狙われる可能性が高いのは彼ですね。それとなく、護衛を付けるように言って頂けませんか」

    騎士「了解しました。しかし、犯人の捜査はどうしますか?」

    騎士「異なる騎士団の衝突程度ならば調べは付いたでしょうが、こうなってはどちら側にいるか見当も付きません」

    勇者「……手紙を見せてはどうでしょう?」

    騎士「何を仰るのです!これを見せれば貴方がどうなるか分かったものではない!!」

    勇者「何故です?」

    騎士「犯人は貴方を神と崇めている」

    騎士「殺害動機の裏に貴方の存在があると分かれば、貴方にも捜査の手が及ぶのは必至」

    騎士「あらぬ疑いを掛けられ『勇者が犯人を操っている』とでもなれば、取り返しの付かないことになります」

    騎士「ただでさえ管区長のような人物がいるのです。良くて拘束か拷問。最悪の場合、神を語ったと見做され処刑されてしまう」

    勇者「私の存在が国王陛下や教皇猊下に認められていても、ですか?」

    騎士「……正直に言うと、彼等は何をするか分かりません。そのような手段に出てもおかしくはないと思われます」

    勇者「………分かりました。では、今の案はなかったことにしましょう」

    騎士「是非ともそうして下さい。この手紙の件は私の胸の内に秘めておきますので」

    321 = 1 :


    勇者「お気遣い感謝します」

    騎士「いえ。しかし未だに信じられません。貴方に、その……烙印があるなど……」

    勇者「知られたら大騒ぎになるでしょうね」ニコリ

    騎士「大騒ぎでは済みませんよ!」

    騎士「勇者とは神に選ばれ神に愛された存在。奴隷の烙印があるなどと知れたら……」

    勇者「蔑みますか?」

    騎士「まさか!それは悪意ある者によって押されたもの、貴方が勇者様であることに違いはありません」

    勇者「……ありがとうございます」

    勇者「貴方のような方と出逢えて良かった。貴方でなければ、こうはならなかったでしょう」

    騎士「そんなことはありません」

    騎士「私以外にも貴方を尊敬し敬愛してる騎士は大勢います。私でなくとも同じことをしましたよ」

    勇者「その言葉、とても励みになります」

    騎士「それより勇者様、この手紙はくれぐれも他の者の目に触れぬようにして下さい」スッ

    勇者「分かりました。ですが困りましたね、犯人の捜査はどうしますか?」

    騎士「……っ、申し訳ありません。そろそろ時間です。これより職務がありますので」

    322 = 1 :


    勇者「ご多忙のようですね」

    騎士「ええ、実は先の団長が戦闘で負傷した為、私が代理を務めているのです……」

    勇者「そうでしたか。ご多忙の中、申し訳ない」

    騎士「いえ。此方こそ協力して下さり恐縮です。では、続きはまた明日ということで宜しいですか?」

    勇者「ええ、勿論。あ、そうでした」

    騎士「?」

    勇者「昨夜は申し訳ありませんでした」

    勇者「事件の概要を聞いて動揺してしまい、冷静さを欠いて失礼な振る舞いをしてしまった……」

    騎士「そんなっ、謝ることなどありませんよ。酷く気味の悪い事件です。胸を痛めて当然です」

    勇者「そう言って頂けると助かります。では、失礼」ガタッ

    騎士「お気を付けて。明日、また此処でお会いしましょう」

    勇者「ええ。では、また明日」ニコリ

    騎士「は、はいっ、お待ちしております!」

    ガチャ パタンッ

    勇者「……………」ザッ

    323 = 1 :


    勇者「ご多忙のようですね」

    騎士「ええ、実は我々北の騎士団の団長が戦闘で負傷してしまった為、私が代理を務めているのです」

    勇者「そうでしたか。ご多忙の中、申し訳ない」

    騎士「いえ。此方こそ協力して下さり恐縮です。では、続きはまた明日ということで宜しいですか?」

    勇者「ええ、勿論。あ、そうでした」

    騎士「?」

    勇者「昨夜は申し訳ありませんでした」

    勇者「事件の概要を聞いて動揺してしまい、冷静さを欠いて失礼な振る舞いをしてしまった……」

    騎士「そんなっ、謝ることなどありませんよ。酷く気味の悪い事件です。胸を痛めて当然です」

    勇者「そう言って頂けると助かります。では、失礼します」ガタッ

    騎士「お気を付けて。明日、また此処でお会いしましょう」

    勇者「ええ。では、また明日」ニコリ

    騎士「は、はいっ、お待ちしております!」ペコッ

    ガチャ パタンッ

    勇者「……………」ザッ

    324 = 1 :

    >>322は誤りです。以後気を付けます。

    327 :

    おつ

    328 :


    【#16】探求

    僧侶「(瞬間的な力、そして持続)」スラスラ

    僧侶「(うん、いい感じ。後は法力供給と伝達かな? こうすれば私の精神が乱れても動くはずだ)」

    僧侶「(物質に属性を付与する方法は既に学んでる。実際にやるのは初めてだけど、陣の組み立てはそれほど難しくない)」

    僧侶「(問題はそれを実現出来るかどうか。これに則って法術を補助として扱えば大丈夫だとは思うけど……)」スラスラ

    僧侶「(よし、細かな調整は出来た。後は陣を彫るだけだ。さ、ここからが本題だよ)」

    僧侶「(焦らず、慎重に、ゆっくりゆっくり。集中して図面通りに、出来るだけ小さく)」

    カリカリ カリカリ

    僧侶「…………よし、出来た。さあ、来て」

    フワリ

    僧侶「や、やったぁ!」ガシッ

    僧侶「(繋がりを感じる。私から流れてる力が伝わってるんだ。後は補助が機能するかどうか)」

    僧侶「(部屋の中だと危ないかな。でも外でやるわけにもいかないし、一度だけ試してみよう)」

    329 = 1 :


    僧侶「ふ~っ。やるぞぉ……んっ!」

    ブオンッ グルンッ

    僧侶「わっ!?」ドタッ

    僧侶「(あ、危なかった。予想以上に勢いが凄い。補助は上手く行ったけど筋力が足りないんだ)」ムクリ

    僧侶「(私が振り回してると言うより、私が振り回されてるような感じだった。でも、振り回されることを前提で動けば……)」

    ブオンッ ゴゥッ

    僧侶「……で、出来た」

    僧侶「(此処まで徒歩で来たのが活きた。腕はともかく、足腰は問題なさそう。これならーーー)」

    カチリ

    僧侶「(か、帰ってきた!隠さないと!!)」

    ガチャ パタンッ

    勇者「………」

    僧侶「ハー、ハー、お帰りなさい」

    勇者「息上がってるけど、何してたんだお前?」

    僧侶「し、食後の運動をしていただけですよ」

    勇者「……へ~、運動しただけでこんなに部屋が散らかるのか。随分激しい運動したんだな、色んなもんが吹っ飛んでるぞ」

    330 = 1 :


    僧侶「へっ?」

    ゴチャァ

    僧侶「えっと、これはその……」

    勇者「なに? 一人が寂しくて暴れたの?」

    僧侶「違いますっ!!」

    勇者「あ、そう。まあ何でもいいや、とりあえず片付けろ」

    僧侶「あ、はい」

    ガタゴト

    勇者「……色々見てきたよ」

    僧侶「何か分かりましたか? んっしょ」

    勇者「次に狙われるのは管区長。この街に派遣された修道騎士団の長だ」

    僧侶「管区長!? 偉い人じゃないですか!?」

    勇者「そうみたいだな。そんじょそこらの修道騎士がなれるもんじゃない。腕も立つだろう」

    僧侶「でも、大丈夫でしょうか」

    僧侶「人間なら問題ないかもしれませんが、夢魔だとしたら厄介です。夢に入り込んで誘惑しますから」

    331 = 1 :


    勇者「強いのか?」

    僧侶「意志が強ければ撥ね除けるのも可能ですが、その者の弱い部分に付け込んで来るとも言われています」

    僧侶「夢魔そのものが非力だとしても、悪魔の誘惑は侮れません。対象の望む姿で現れ、誘惑しますから」

    勇者「満月の晩にしか襲わない理由についてはどうだ? 夢魔にも何か習慣のようなものがあるのか?」

    僧侶「私も色々考えてはみました。でも、どれも憶測です」

    勇者「憶測で構わない。話してくれ」

    僧侶「満月の晩は最も魔力が高まりますから、その時に襲うのが最善だと考えている」

    僧侶「または何らかの儀式のようなもので、満月の晩に生贄を捧げている」

    僧侶「最後に考えたのは、魔力が弱い為に満月の晩にしか襲うことが出来ない。この三つです」

    勇者「現場に残ってた魔力は少なかった」

    勇者「同種族であっても個体によって魔力に差が出るのは分かるが、どうだろうな……」

    僧侶「あの、部屋はどうでしたか? 匂いとかはありました?」

    勇者「ああ、交わった匂いがしたよ」

    勇者「あれは一度や二度じゃねえだろうな。何しろ死ぬまで搾り取られたんだ。何らかの薬を使ったのかもしれねえ」

    勇者「殺された三人は天国を見ながら地獄に堕とされた。夢魔だとしたら、さぞかし心地良い夢を見せたんだろうな」

    332 = 1 :


    僧侶「他人事ではありません」

    僧侶「貴方だって誘惑される可能性はあるんです。広く知られている悪魔ではありますが手強い相手です。侮ってはダメですよ」

    勇者「……分かってるさ」

    僧侶「何か策を思い付いたんですか?」

    勇者「まあ、そんなとこだ。夢を見せられる前に殺す方法を見付けた」

    僧侶「夢を見せられる前……それは、月が満ちる前に夢魔を倒すということですか?」イソイソ

    勇者「出来ればな。あ、これ忘れてんぞ」ピラッ

    僧侶「ありがとうございま……ふんっ!!」バッ

    勇者「もう少し大人っぽい下着にしたらどうだ? 色気は役に立つぞ?」

    僧侶「そんなの必要ありませんっ!」

    僧侶「大体、下着なんて他人に見せ付けるものじゃないんです。最近の人が変なんですよ」

    勇者「そうだな。今の世の中、どいつもこいつもおかしな奴等ばかりだ。何処に行っても……」

    僧侶「?」

    勇者「片付けが終わったら風呂に入ってさっぱりしてこい。あ、ついでに下着でも買いに行くか?」

    333 = 1 :


    僧侶「結構です!!」

    勇者「ハハハッ、冗談だよ」

    僧侶「(……大人っぽい下着かぁ)」

    勇者「朝っぱらから歩き回って疲れたな。あいつの話は長えしよぉ。何だか眠くなってきた」

    僧侶「(それはそうですよ、全然寝てないんですから。あ、そうだ)」

    僧侶「少し眠ったらどうですか? 私は部屋にいますから大丈夫ですよ?」

    勇者「……そうか。じゃあ、ちょっと寝る」ボフッ

    僧侶「あ、はい。ゆっくり休んで下さい。夕方には起こしますから」

    勇者「……ん、頼む」

    僧侶「あの、おやすみなさい……」

    勇者「…………お休み」

    僧侶「あっ…」

    勇者「…………」ゴロン

    僧侶「(あ、背中向けちゃった。さて、起こさないように静かに片付けよう。そして夜まで寝てもらおう)」

    336 :

    おつ

    337 :


    【#17】決意

    勇者『荷は積んだな。行け』

    村娘『……ねえ』

    勇者『何だ』

    村娘『あんたは何で、あたし達を助けてくれたの?』

    勇者『依頼通りのことをしただけだ』

    村娘『依頼?』

    村娘『洞窟の魔物ならやっつけたじゃないか。あたし達のことなんて含まれてなかったはすだよ?』

    勇者『村長の依頼は、村を襲う化け物共の排除。村の中にも化け物がいた。だから殺した。それだけだ』

    村娘『……化け物』

    勇者『そうだ、化け物だ』

    勇者『お前等を餌にして、お前等を差し出して、人間を喰らって生き延びようとする化け物だ』

    村娘『…………』

    勇者『あれが人間だというなら、この世は地獄だ』

    勇者『奴等の悪魔のような所業を知って尚、あれを人間だという奴がいるのなら……』

    勇者『同じ目に遭わせて分からせてやる。そうしたら、そいつは必ずこう言うだろう。悪魔め、ってな』

    338 = 1 :


    村娘『………』

    勇者『ほら、さっさと行けよ。早く行かねえと残った化け物に何をされるか分かんねえぞ』

    ぎゅっ

    村娘『ありがとう』

    村娘『あたし達だけだったら何も出来なかった。この村から出ることさえ出来なかったと思う』

    村娘『しかも武器やお金まで……何から何まで本当にありがとう。幾ら礼を言っても足りないよ』

    勇者『………』

    村娘『……あんたみたいな人間が来てくれて本当に良かった。皆、そう思ってる』

    勇者『そうかよ』

    村娘『あんた、意外に照れ屋なんだね』

    勇者『うるせえ。それより、いつまでくっついてるつもりだ。とっとと離れろ』

    村娘『ん。ねえ、旅人さん』

    勇者『あ?』

    村娘『ごめんね。あたし達の為に、手を汚させちゃって……』

    勇者『気にすんな』

    勇者『人間の為……いや、化け物を殺せるなら幾らでも汚れる。というか既に汚れてる』

    村娘『……あんた、本当は旅人なんかじゃないんだろう? 何か使命みたいなものがあるんじゃないのかい?』

    339 = 1 :


    勇者『………』

    村娘『顔を見れば分かるよ。きっと大変な旅なんだろうね。どうか死なないでおくれよ?』

    勇者『お前等もな。逃がしたのに死なれちゃあ格好が付かねえ』

    村娘『まったく、これから旅立つってのに縁起でもないこと言わないでおくれよ』

    勇者『……生きろよ。何があっても』

    村娘『ああ、今度は戦うよ。何があっても逃げやしない。抗って、立ち向かってみせる』

    勇者『……そうか』

    クイクイ

    勇者『?』

    『ねえ、お兄ちゃんは来ないの?』

    勇者『……本当なら何処かの街まで送ってあげたいけど、それは出来ないんだ』

    『なんで? いっしょに来たらいいよ。そうしたら、お姉ちゃんもうれしいのに……』

    村娘『こらっ、我が儘言わないの』

    『だって……』

    勇者『……悪い奴がいるんだ』

    『わるいやつ?』

    勇者『そう。大きくて、おっかなくて、とても倒せるような奴じゃない。だけど、どうしても倒さないといけないんだよ』

    340 = 1 :


    『たおせないのに、たたかうの?』

    勇者『うん。それが旅の目的だからね』

    『そっかぁ……じゃあ、えっと、えっと……すっごくがんばってね!』

    勇者『ははっ。ああ、凄く頑張るよ。君も頑張るんだよ? お姉ちゃんに負けないくらいにね』ニコッ

    『うんっ!』ニコッ

    村娘『さ、お話はお終い。中に戻りな』

    『は~い』

    村娘『時間取らせて悪かったね』

    勇者『いいさ。ほら、行け』

    村娘『ああ、そうするよ』

    ガラララ

    勇者『………?』

    バサッバサッ

    勇者『!?』バッ

    古龍『実に下らぬ。其奴等を救って何になる? あの男と同じ道を辿るつもりか?』

    341 = 1 :


    勇者『何でてめえが……ッ、逃げろ!!』

    古龍『無駄だ。何もかもが無意味だ。小僧、貴様の命はそんなことの為にあるのではない』

    古龍『見たはずだ、五年前のあの村で。知ったはずだ、人とは貴様にとって何なのかを』

    勇者『黙れ』

    古龍『それでも希望を捨てきれぬというのなら、今尚も希望などという幻想を抱いておるのなら』

    勇者『やめろッ!!』

    古龍『儂が消し去ってくれよう』

    ゴォォォォッ

    勇者『くそっ!』ダッ

    村娘『うっ…』

    『お兄ちゃん、助けて……』

    勇者『おいっ、しっかりしろ! 俺ならここにいる。目を閉じるな、死ぬんじゃーーー』

    ガシッ

    勇者『!?』

    僧侶『貴方の罪が消えることはない。赦されもしない。過去は貴方を逃がさない』

    342 = 1 :


    勇者『何でーーー』

    僧侶『例え過去から逃れたとしても、自分からは逃げられない。貴方は貴方であることをやめられない』

    勇者『………』

    村娘『あんたさえ来なければ死なずに済んだのに。この疫病神、悪魔、人殺し……』

    『……お兄ちゃんはあの人にはなれない。お兄ちゃんは殺す人、救う人になんてなれっこない』

    勇者『…………』

    古龍『小僧、己を見失うな』

    古龍『己の在るべき姿を見よ。貴様は勇者ではない。貴様は勇者になど成り得ない』

    古龍『忘れるな、貴様の目的は救うことではない。復讐だ。復讐こそが、貴様の生きる道なのだ』

    勇者「ッ!!」ガバッ

    僧侶「大丈夫ですか!?」

    勇者「…ハァッ…ハァッ……あ、ああ、大丈夫だ」

    僧侶「でも、酷くうなされて……」

    勇者「気にするな。時々こういう夢を見るんだ。ここのところは見なかったけどな」

    343 = 1 :


    僧侶「悪夢……まさか夢魔が?」

    勇者「いや、これは違う。そういう類じゃねえ。きっと、俺が俺に見せてるんだ。忘れるなってな」

    ピトッ

    勇者「何してーーー」

    僧侶「貴方の額に手を当てているだけです。少しだけ、じっとしていて下さい」

    僧侶「(動悸、呼吸の乱れ、手先の震え。これはおそらく、極度の緊張状態によるもの)」

    勇者「もういい」

    僧侶「ダメです。軽い眩暈や倦怠感があるでしょう? 今は動かない方が良いです」

    勇者「……分かったよ」

    僧侶「そのまま横になって楽にして下さい。手を握りますよ?」

    ギュッ

    勇者「…………」

    僧侶「…………」

    勇者「……そういや暗いな。夜か」

    僧侶「はい。気持ち良く寝ていたので起しませんでした。それに、お疲れのようでしたから……」

    344 = 1 :


    勇者「そうか、お陰でよく眠れたよ」

    僧侶「今のは嫌味ですか?」

    勇者「嫌味じゃねえよ。久しぶりに眠れたのは本当だ。夢さえ見なけりゃ最高だったけどな」

    僧侶「…………」ギュゥ

    勇者「……僧侶、話しておくことがある」

    僧侶「何です?」

    勇者「明日、管区長に会いに行く。会って、この手紙を見せようと思う」

    僧侶「なっ!? そんなことをしたらーーー」

    勇者「分かってる。そんなことをしたら犯人との関与を疑われて捕まる。尋問もされるだろう」

    僧侶「分かっているなら何で……」

    勇者「満月までそれほど時間はない」

    勇者「あの騎士と話しても時間を無駄にするだけだ。俺が捕まれば犯人を釣れるかもしれない」

    勇者「それに、管区長は俺が嫌いらしい」

    勇者「おそらく付きっきりで尋問してくれるだろう。そうなれば被害者も出ないはずだ」

    345 = 1 :


    僧侶「……自分を餌にする。ということですか」

    勇者「ああ。自分の崇める神が捕まったと知れば、殉教者は必ず助けに来るだろう」

    勇者「俺に何を伝えたいのかなんて知りたくもねえ。満月まで待ってやる必要もない」

    僧侶「来なかったら!? 犯人が現れなかったらどうするんですか!!」

    勇者「来るさ。必ず来る」

    僧侶「何で、そうやって……」

    勇者「化け物を殺せるなら何だってする」

    僧侶「(っ、もうダメだ……)」

    僧侶「(何かに取り憑かれたような目をしている。こうなったら何を言っても耳を貸さない。でもーーー)」

    勇者「どうした?」

    僧侶「っ、む、無理して戦わなくたっていいじゃないですか? まだ傷も癒えていないんですよ?」

    勇者「そうか、そうだよな」

    勇者「見て見ぬふりをして街から出る。それが出来れば確かに楽だ。でも、それは出来ねえんだ」

    僧侶「………分かっています。貴方がそういう人だってことくらいは」ギュッ

    勇者「いいか、お前は何があっても動くなよ。事の発端は俺だ。これは、俺が終わらせる」

    僧侶「………」

    『彼は貴方を巻き込まない為に一人で戦おうとする。貴方はそれに甘え、その甘えによって彼は命を落とす』

    346 = 1 :


    僧侶「…………」

    勇者「ほんの四、五日だ。すぐに終わる。それまでは待ってろ。ただ、用心はしておけよ」

    僧侶「………分かりました」

    勇者「よし。じゃあ、そろそろ交代だな。次はお前が休む番だ。見張りは俺がする」

    僧侶「あ、あのっ」

    勇者「ん?」

    僧侶「もう少しだけ、このままでいさせてくれませんか? せめて、貴方の熱が引くまでは……」

    勇者「断っても続けるんだろ?」

    僧侶「はい」ニコッ

    勇者「だったら聞くなバカ」

    僧侶「ごめんなさい」ギュッ

    勇者「…………」

    僧侶「(あの者の言葉が真実ならば、この先に何かが起きる。そして、この人は死ぬことになる)」

    『戦うことを選んだ場合、耐え難い苦痛を受けることになる。それだけは覚悟することね』

    僧侶「(覚悟はしてる。準備も出来てる。後は、その時を待つだけだ。もう逃げはしない)」

    僧侶「(誰かを傷付けることになろうと、この手を汚すことになろうと……死なせはしない)」

    347 :

    お疲れ様

    348 :


    【#18】下層

    従士「何の用だ」

    勇者「管区長にお伝えせねばならないことがあります。急を要しますので通して頂きたい」

    従士「何を馬鹿な、こんな早朝にーーー」

    管区長「通しなさい」

    勇者「(コイツが管区長か、笑っちゃいるが腹の内で何考えてるか分かんねえな)」

    従士「し、しかし」

    管区長「いいのです。実を言うと、私も勇者殿にお訊ねしたいことがあったのですよ」ニコニコ

    従士「……承知しました」ザッ

    管区長「部下が失礼を……さあ、此方へ」

    勇者「(地下に行くのか?)はい、ありがとうございます」

    コツコツ

    勇者「(牢獄。誰もいないな)」

    管区長「ああ、そうでした」

    勇者「?」

    管区長「確か、今日は北の騎士団長代理と予定があったはずでは?」

    349 = 1 :


    勇者「(内通者か? 誰も信用出来ねえな)」

    勇者「ええ。しかし、彼と幾ら話しても時間を浪費するばかり……初めからこうすべきでした」

    管区長「そう、貴方は初めから私に会いに来るべだった。何せ彼は、貴方とお喋りするだけで満足していますからね」

    勇者「………」

    管区長「しかし、素直に非を認めるのは良いことです。私も貴方を誤解していました」

    勇者「誤解、ですか」

    管区長「ええ、誤解です。貴方は信仰の厚い人物だ。まあ、詳しいことは下でお話ししましょう」

    勇者「(まだ下があんのかよ)分かりました」

    ギギィ バタンッ

    勇者「(尋問部屋。いや、拷問部屋か?)」

    管区長「どうぞ、お掛けになって下さい」

    勇者「ありがとうございます」

    管区長「私から先に話しても?」

    勇者「ええ、勿論です」

    管区長「貴方がこの街に来る数日前、我々修道騎士団は難民を救出しましてね」

    管区長「その難民は錯乱しており、ある男に村を滅ぼされたなどと喚き散らしていました」

    350 = 1 :


    勇者「ある男とは、おそらく私です」

    管区長「素晴らしい、貴方は実に正直者だ。益々好感が持てる。いや、失礼。続けましょう」

    勇者「………」

    管区長「私は疑問に思いました」

    管区長「我々修道騎士団同様、教皇直々に認められた勇者殿が殺人を犯すわけがない。この者達は何かを隠していると」

    管区長「そこで訊ねてみたのですよ。何故そうなったのかと……しかし、彼等は頑なに話そうとしなかった」

    管区長「私はそこで確信しました。彼等には、何か後ろ暗いものがあると……」

    勇者「……彼等は話しましたか?」

    管区長「ええ、勿論。全てを告白しましたよ」

    管区長「彼等は悪魔に屈し、あろうことか婦女子を供物として捧げていた。なので、火刑に処しました」

    勇者「そうでしたか」

    管区長「しかし、貴方にも罪はある」ズイッ

    勇者「如何なる理由があろうとも、個人の判断で裁いてはならない。ですね?」

    管区長「その通り。どういった処罰を下すかは修道騎士団が、私が決める」

    管区長「まずお聞きしたいのは、それを分かっていながら何故に裁いたのか。ということです」

    勇者「あの場に貴方はいなかった。私以外に剣を取る者もいなかった」


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