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    元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」

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    701 :


    【#17】影

    僧侶「なんで……」

    勇者「話は後だ。お前は矢を止めることだけを考えるんだ。いいな」

    僧侶「そんな状態で戦ったら、次は確実に……」

    勇者「分かってる。僧侶、すぐに終わらせる。それまでは何とか耐えてくれ。『頼む』」

    僧侶「はいっ、任せて下さい」ニコリ

    勇者「………」

    ザッ…

    羅刹王「亡骸の寄せ集め。お前の魂を映したかのような姿だな。死を呼ぶ醜悪な本質そのものだ」

    勇者「……」

    羅刹王「狂った音色がまた一段と大きくなったぞ。身を焦がす程の闘志と殺意を感じる」ズォ

    勇者「(あれが、奴の弓か)」

    羅刹王「醜き獣、歪みの男。そのひび割れた魂が何時まで持つのか見物だな」

    勇者「言ってろ」ダッ

    羅刹王「(この矢で、仕留める)」

    勇者「(弓に余程の自信があるみたいだな)」

    助手『貴方の言うように矢を通じて魂を供給しているなら、弓にも何らかの細工が施されていると思われます』

    助手『弓こそが幾度もの蘇りを可能にしている呪物、或いは術具であるのかもしれない』

    702 = 1 :


    勇者「(体には届かねえが弓には届く)」

    羅刹王「(踏み込みが浅い。そこからでは届かん。俺の矢が先にーーー!!)」バッ

    ズガンッ!

    勇者「(外したが、どうやら当たりのようだ)」

    羅刹王「………」

    勇者「随分と大袈裟に避けたな」

    羅刹王「(今のは間違いなく弓を狙った一撃。単に武器破壊を狙ったとも考えられるが……)」

    勇者「………」

    羅刹王「(まさか、気付いているのか)」

    勇者「………」

    羅刹王「(僅かに探りを入れているような感もあった。確信はないと言ったところか)」

    勇者「口数が減ったな。良いことだ」ダンッ

    羅刹王「(ここで退けば気取られるかも分からん。打って出る)」ギリリ

    キュドッッッ!

    勇者「(早いが、見える。避けられる)」

    羅刹王「(この距離で躱すか)」タンッ

    勇者「………」

    羅刹王「(そうだ、そのまま詰めてこい。矢は幾らでもある。雨は、避けられまい)」ズズズ

    703 = 1 :


    勇者「………」ダンッ

    羅刹王「愚か者が、周りが見えんのか」

    勇者「見えてねえのは、てめえの方だ」

    フッ…

    羅刹王「(何故矢がーーー!?)」

    僧侶「………」

    羅刹王「(馬鹿な有り得ん。矢が刺さった状態で俺の魔術を妨害したと言うのか!!)」

    勇者「くたばれ」

    羅刹王「ッ!!」

    バギャッ!

    羅刹王「………」ボタボタッ

    勇者「(野郎、咄嗟に弓で弾きやがった)」

    羅刹王「やってくれたな……」

    勇者「弓は破壊した。次で終わらせる」

    羅刹王「獣の分際で自惚れるな。それを可能にしたのは、お前ではない」ザッ

    勇者「………」ジャキッ

    羅刹王「どうやら見くびっていたようだ。真に警戒すべき脅威は、お前などではなかった」ダンッ

    704 = 1 :


    勇者「(っ、狙いは僧侶か!!)」ダッ

    ガシッ!

    僧侶「あうっ…」

    勇者「僧侶!!」

    羅刹王「動くな。動けば、この娘を殺す」

    勇者「ふざけんなよ、化け物が」ザッ

    羅刹王「動くなと、言っている」

    ギリギリ…

    僧侶「あっ、ぐっ……」

    勇者「………」

    羅刹王「それでいい。武器を捨てろ」

    勇者「……黙れ」ジャキッ

    羅刹王「……強い怒りを感じる。いや、迷っているな? まさか、娘ごと俺を斬るつもりか?」

    勇者「………」

    羅刹王「ハハハッ!! 実に醜い。憎しみに囚われた目をしている。この娘の命より俺への殺意が勝るか。それで勇者とは笑わせてくれる」

    705 = 1 :


    僧侶「くっ、うぅっ……」

    勇者「………」スッ

    羅刹王「来るか? 俺はどちらでも構わんぞ?」

    ガランッ…

    羅刹王「何だ、それは……」

    ドゴォッ!

    勇者「ぐっ……」

    僧侶「うぅっ!!」ジタバタ

    勇者「………」

    ドガッ!

    勇者「がっ……」

    羅刹王「所詮は弱者。意志を貫く力など有りはしない。お前に俺は殺せない」ガシッ

    ブンッ! ドガンッ! ガラガラ…

    勇者「」ドサッ

    羅刹王「………消えていない。今ので砕けたと思ったが、どういうことだ」

    706 = 1 :


    僧侶「……て」

    羅刹王「何?」

    僧侶「もう、やめーーー」

    羅刹王「黙っていろ」

    ギリギリッ

    僧侶「かっ、はっ……」

    勇者「……せ」

    羅刹王「藻掻くな。今、終わらせてる。塵も残さず、消し去ってくれる」ズズズ

    ガシッ!

    羅刹王「?」

    勇者「そいつを離せ……」

    羅刹王「この期に及んで人のような口を利くとは驚いた。獣の分際で、大したものだ」

    ドガッ! ドガッ! ドガッ!

    勇者「離…せ……」

    羅刹王「(やはり、この男は危険だ。いずれは全てを脅かす)」

    707 = 1 :


    羅刹王「その力、此処で断ち切る」スッ

    ザクッッ! ボタボタッ…

    羅刹王「な……に?」グルリ


    助手「はぁっ、はぁっ、勇者さん!! しっかりして下さい!!」ガクガク


    勇者「(震えてんじゃねえか。終わるまで隠れてろって言ったのによ……)」

    羅刹王「何だ、お前は……」ガクンッ

    助手「勇者さん!!」

    勇者「………」ジャリッ

    羅刹王「これは、どうしたことだ? こんな、こんな馬鹿なことが、この傷は、このような奴が、俺に傷を」

    助手「勇者さん、早く!!」

    勇者「……分かってる」ガシッ

    羅刹王「巫山戯るなあああッ!!!」ガバッ

    ゴシャッッ!

    羅刹王「ひっ、ひゅっ……」

    ドサッ…

    助手「や、やった!! やりましたよ!!」

    708 = 1 :


    勇者「………」

    助手「あの、ところで狩人さんはーーー」

    勇者「僧侶を抱えて此処から離れろ」

    助手「え?」

    勇者「まだ僧侶の矢が消えてねえ!! さっさとしろッ!!」

    ズルルルッ!

    助手「!?」

    羅刹王「小僧ォォッ!!」

    助手「しまっーーー」

    ガギャッ!

    助手「………?」

    勇者「行けッ!!」

    助手「は、はい!! 僧侶さん!!」ガシッ

    僧侶「っ、待って下さい。まだ、あの人が……」

    助手「無理です!! 今は勇者さんの言う通り此処から離れましょう!!」

    ダッダッダッ…

    僧侶「待っ……て……」ガクンッ

    709 = 1 :


    羅刹王「無駄なことを」

    勇者「(あれは、どういうことだ……)」

    勇者「(俺から受けた傷は殆ど消えているが、あいつから受けた脇腹の傷は消えていない)」

    羅刹王「あの娘は直に死ぬ。直接手を下さずともな」

    勇者「(あの傷が治癒しなかった理由は分からねえが、あの傷を狙う他に方法はない)」

    羅刹王「言ったはずだ。お前に、俺を殺すことは出来ないとな」

    勇者「(もう魔術は防げねえ。使われたら終いだ。問題は、この距離をどうやって詰めるか……?)」

    勇者「(……そうかよ。なら、やってやる)」

    羅刹王「獣に、神は殺せない」

    勇者「笑わせんな化け物」

    羅刹王「口だけは達者だな」サァァ

    勇者「それはお前もだろうが、獣相手に逃げ隠れするんじゃねえよ。神様なんだろ、おい」

    羅刹王「あの娘はいない。お前に魔術は防げんだろう。これで最後だ」

    勇者「聞いてんのか腰抜け。おら、何とか言えよ。神様気取りの化け物が」

    キュドッッ! ボタボタッ…

    勇者「……ゴフッ」

    羅刹王「俺にそのような口を利いた奴は、お前が初めてだ」

    勇者「(熱い。目が焼ける)」ガクンッ

    勇者「(音がうるせえ。燃えて爆発してるみてえだ。髪の毛一本、血の一滴まで……)」

    710 = 1 :


    羅刹王「何故砕けない……」

    羅刹王「ひび割れた魂が、何故そこまで耐えられる。その身に何をした」

    勇者「……か」

    羅刹王「……二つ。そうか、甲冑に魂を分けたな。半分は剥き出しになるが、もう半分は守られる仕掛けか」

    勇者「……だ」

    羅刹王「成る程、ようやく解けたぞ」

    勇者「……ま」

    羅刹王「それは呪いではなく加護。あの娘の仕業か? 魂を引き裂くとは、残酷なことをするものだ」

    勇者「………ろ」

    羅刹王「何?」

    勇者「……か、さっさとしろ。まだか、さっさとしろ」

    羅刹王「(痛みに狂ったか。当然だ。魂は守れるだろうが、肉体の崩壊は避けられん……影?)」

    バサバサッ…ギャアギャア

    勇者「鴉、鷹」

    羅刹王「(……見るに堪えんな。終わらせてやる)」スッ

    バサバサッ…

    勇者「……遅えんだよ」

    狩人「これでも急いで来たのだ。無茶を言わないでくれ」

    711 = 1 :


    羅刹王「!!?」

    狩人「音は捉えた。もう遅い」

    ゴシャッッ! ズパンッッ!

    羅刹王「」グラグラ

    ドサッ…

    狩人「………」

    勇者「………」

    狩人「……ふむ、もう再生はしないようだな。手を貸そうか」

    勇者「いや、いい。一人で立てる」ザッ

    狩人「そうか。では、行こう」

    勇者「どうやって壊すつもりだ」

    狩人「これのことかね」スッ

    羅刹王「」

    ズル…ズル…

    勇者「まだ生きてんだろ。肉が追って来てる」

    狩人「うむ、再生はしていないが安心は出来ない。これは助手に任せようと思う」

    狩人「どうやら、助手には破壊出来るらしい。詳しい説明は後にしよう」

    シャラ…

    勇者「(今の音、こいつの服の中か?)」

    712 = 1 :


    狩人「何かな?」

    勇者「いや、何でもねえ」

    狩人「……大丈夫、壊れていないよ。合流したら必ず返す。安心したまえ」

    勇者「分かってたなら最初から言え。おら、行くぞ」

    狩人「………」

    勇者「おい、どうした」

    狩人「君が来てくれて助かったよ」

    勇者「お前、変わった奴だな。いずれ殺し合う奴に礼なんて言うなよ」

    狩人「はははっ! 君は正直な奴だな。だが、それはそれ、これはこれだ……っ」

    勇者「痛むのか……」

    狩人「これ程までに苦戦したのは初めてでね。あまり気にしないでくれ」

    勇者「分かった」

    ザッザッザッ…

    狩人「………」フラッ

    ドサッ

    勇者「………」

    狩人「………」

    勇者「………」グイッ

    ザッザッザッ…

    713 = 1 :


    狩人「助かったよ。快適ではないがね」

    勇者「黙ってろ」

    狩人「怪我の影響か、かなり痩せているようだな。戻ったら何か食べたまえ」

    勇者「……体が見えるのか」

    狩人「音を捉えることが出来れば見える」

    勇者「便利だな。次は最初から使え」

    狩人「む。言っておくが、その責任は君にある」

    勇者「あ?」

    狩人「君の音があまりに大きい為に、羅刹王の音を捉えるのに時間が掛かってしまったのだ」

    勇者「そうかよ」

    狩人「そうだとも」

    勇者「………」

    狩人「………」

    勇者「……一つ、頼みがある」

    狩人「何かね?」

    勇者「あいつ等を届けるまでは待って欲しい。用事は、その後にしてくれ」

    狩人「すぐに返答は出来ない。少し、考える時間をくれないか」

    勇者「ああ、分かった」

    ザッザッザッ…

    狩人「…………………」

    714 :


    【#18】二つ、二つ

    狩人「遅れて済まなかったね」

    助手「狩人さん、勇者さん……」

    勇者「僧侶は」

    助手「この建物の中にいます」

    助手「矢が消えた直後にご自身で治癒をしていましたが、暫くして気を失ってしまいました。疲労からだと思われます」

    勇者「そうか……」

    狩人「助手。早速で悪いが、君に頼みたいことがある」スッ

    羅刹王「」ビクビク

    助手「ひっ!? な、何でそんなものを……」

    狩人「どうやら、頭部が生きているようなのだ。君に壊して欲しい」

    助手「え!?」

    狩人「気は進まないだろうが、やってくれ」

    助手「で、ですが、僧侶さんの矢は消えていますよ? 音もしないですし大丈夫なのでは?」

    狩人「念のためだ」

    ゴトッ…

    羅刹王「」

    助手「(き、気持ちが悪い。頬や瞼が僅かに痙攣している)」

    715 = 1 :


    狩人「どうしたのかね?」

    助手「あの、勇者さんでは駄目なんですか?」

    勇者「時間が掛かり過ぎる。俺の場合、傷を負わせることは出来たが破壊するには至らなかった」

    狩人「一方、君の負わせた傷は治癒しなかった。この中で、唯一君だけが癒えぬ傷を負わせた」

    狩人「私は君が負わせた魂の傷を広げることで、何とか羅刹王を倒すことが出来たのだよ」

    助手「しかし、何故……」

    狩人「それは私にも分からない。ただ、古い書物の中には、人間にしか殺せないとあった」

    助手「人間、ですか」

    狩人「ああ。何を以て人間とするのかは定かではないが、どうやら君には可能なようだ」

    助手「……分かりました。やってみます」チャキッ

    羅刹王「」

    助手「(うっ。こっちを見ている)」

    羅刹王「あ゛あ゛あ゛」ブルブル

    助手「ひぃっ!?」

    狩人「はははっ」

    助手「わ、わ、笑い事じゃないですよ!!」

    狩人「コホンッ。そうだな、済まなかった」

    716 = 1 :


    助手「(心臓が飛び出るかと思った)」

    羅刹王「や゛めーーー」

    勇者「うるせえ」ゲシッ

    羅刹王「」ゴロン

    助手「な、何て罰当たりな。そんなことをしたら呪いや祟りが……」

    勇者「呪ってやると言って死んだ奴ならいるが、未だに何もない。死んだら終わりだ。何も出来やしねえよ」

    助手「(なんて説得力だ)」

    狩人「いきなり言われて困惑するのは分かる。今日出来ないなら、日を改めて……」

    助手「やります」

    狩人「む、そうか? それは助かる」

    助手「ただ、一人にしてくれませんか……」

    勇者「……分かった。俺は中で待ってる。終わったら来い」ザッ

    狩人「大丈夫なのか?」

    助手「はい、大丈夫です」

    狩人「そうか。では、私も中で待っているよ」ザッ

    助手「(僕にしか出来ない。皆、この悪魔に殺されかけた。終わらせるんだ)」

    717 = 1 :

    ーーー
    ーー


    僧侶「…ハァッ…ンッ…」

    勇者「………」

    狩人「君は何ともないのか? その甲冑に傷はないようだが、魂は未だにひび割れたままだ」

    勇者「一度、砕けるような感覚はあった。意識が爆発して吹っ飛ぶみたいにな」

    狩人「だか、生きている」

    勇者「みたいだな。俺にも分からねえ」

    狩人「ふむ……」

    勇者「何だよ」

    狩人「君は聞こえていなかったかもしれないが、二つあると言っていた。魂を分けたとも」

    勇者「お前には、どう見える」

    狩人「概ね、羅刹王の言っていた通りだ」

    狩人「その甲冑には魂が宿っている。勿論、君の魂だ。だが、ほんの僅かに音が異っている」

    勇者「異なる?」

    狩人「限りなく近いが、異なる二つだ。同じ二つだが、何かが違う」

    狩人「君の音が大きいと言ったが、甲冑から発せられる音が異様に大きいのだ。それ故に気付くのが遅れた」

    勇者「あいつ……助手は、俺の音を追ってきたと言っていた。この甲冑の音か?」

    718 = 1 :


    狩人「そのようだ」

    狩人「その音は、ある時から強く発せられるようになった。街から出た時期と合致する」

    勇者「(なる程。引き寄せの甲冑ってのは、そういうことか)」

    狩人「ところで、誰がそれを?」

    勇者「魔女と名乗る女だ。街を出る間際にな」

    狩人「素性は」

    僧侶「……ン…」

    僧侶『きっと、もうすぐ思い出すわ。すべてが重なれば、私が誰なのか分かる』

    僧侶『そうじゃないの。話しても伝わらないのよ。貴方自身が思い出すしかない』

    勇者「……分からねえ。ただ、この甲冑を外せるのは創り出した本人だけみてえだ」

    狩人「それは確かかね」

    勇者「何とも言えねえな。あの女を殺すか、あの女が外すか、それしかないと言っていた」

    狩人「そうか。それから接触は?」

    勇者「ない。事ある毎に絡んで来たが、ここ最近は現れてねえ」

    719 = 1 :


    狩人「何か狙いがあると思うか」

    勇者「………」

    僧侶『その名で私を呼ぶ意味を、貴方は理解しているの?』

    僧侶『私を忘れないで。貴方の魂のその奥に、私はいるわ』

    勇者「さあな……」

    狩人「話してはくれないのか」

    勇者「お前の答えを聞いてからだ」

    狩人「私の答えが、君の望むものではなかったら。君は、どうする」

    勇者「………」

    狩人「………」

    僧侶「……んっ? あっ」

    狩人「目が覚めたようだね」

    僧侶「大丈夫ですか?」ギュッ

    勇者「ああ、大丈夫だ。待たせて悪かったな。もう少し休め」

    僧侶「いえ、私はもう大丈夫です。貴方が無事で……良かった……」

    狩人「…………」

    ザッ

    助手「お待たせしました」

    僧侶「あ、助手さん。皆さん無事で良かった。本当に終わったんですね」

    勇者「……ああ。今、終わった」

    720 :

    お疲れ様です

    723 :

    おつ

    724 :


    【#19】個々

    勇者「………」

    狩人「………」

    助手「(空気が重い。だけど、それも当然のことなのかもしれない。二人は全く別の場所に立っている)」

    助手「(悪魔を倒した今、二人を繋ぐものは何もない。何が起きても、不思議じゃない)」

    狩人「………」

    助手「(狩人さんは国の考えに賛同している。人の世。その未来の為なら犠牲は厭わない)」

    助手「(犠牲になるのが人であっても、それを受け入れている。現実的だけど、諦めているとも言えるんじゃないだろうか)」

    勇者「………」

    助手「(勇者さんは認めないだろう。それは既に行動で示している。騎士と戦い、難民を救い出した)」

    助手「(国の在り方を否定、頑として戦った。そこには共感出来る。だけど、それが新たな犠牲者を生んでしまった)」

    勇者「………」

    狩人「………」

    助手「(人を守り、人を存続させる。その為に、人は人を犠牲にしている。それが、今だ)」

    助手「(最良の策がそれなのだとしたら、そこに善悪などないのだろうか。正義や悪さえも)」

    725 = 1 :


    僧侶「あ、あのっ」

    勇者「何だ?」

    僧侶「皆のところに戻らないのですか?」

    助手「(僧侶さんは、勇者さんが来てから雰囲気が変わった。表情が柔らくなって声も落ち着いた気がする)」

    助手「(山で見た時とはまるで違って見える。きっと、これが本来の彼女なのだろう)」

    僧侶「あの、聞いていますか?」

    勇者「……そうだな。おい」

    助手「は、はい」

    勇者「お前は馬に乗って先に行け。僧侶を連れてな。あいつ等の所へは、僧侶が案内しろ」

    僧侶「えっ、でも……」チラッ

    狩人「私は構わないよ」

    助手「し、しかし、そう簡単に決めて良いのですか? そんな話は一度もしていないんですよ?」

    狩人「君は先に見てくると良い。今後どうするかは、そこで決めることにしよう」

    726 = 1 :


    僧侶「っ、そんなの」

    狩人「信用出来ないか?」

    僧侶「……はい」

    狩人「それはそうだろうね。私の目的は彼を捕らえることだ。それに変わりはない。無論、此処で逃がすつもりもない」

    狩人「彼はそれを分かっているからこそ、君と助手に先に行くように言ったのだと思うがね」

    僧侶「………」

    狩人「そんな目で見ないでくれ。私も彼と話したいと思っているのだ。今後の為にね」

    勇者「決まりだ。お前達は先に行け」

    僧侶「嫌です。そんな状態で狩人さんと二人になるのは危険です」

    勇者「こんな状態だから、この女は手出し出来ねえんだ。まともな状態なら殺し合ってる」

    僧侶「でも、貴方を殺すのが目的だったりしたら……」

    勇者「だったら、とっくに殺されてる。僧侶、少し冷静になれ。今の俺を殺しても意味はない」

    僧侶「………」ギュッ

    助手「狩人さんはそんな人ではないですよ。出会って間もないですが、それは確かです」

    727 = 1 :


    僧侶「でもっ」

    勇者「急がねえと日が落ちる。いつまでも膨れっ面してんじゃねえ」

    僧侶「はい、分かりました……」

    狩人「話は以上かな? では、僧侶さんにこれを返そう」スッ

    僧侶「あっ」

    狩人「言っただろう。約束は守るとね」

    僧侶「……ありがとうございます」ギュッ

    助手「あの、お二人はどうしますか? 夜明けまで此処に?」

    狩人「いや、後から行くよ。今から歩けば麓の森には辿り着けるはずだ」

    助手「分かりました。僧侶さん、行きましょう」

    僧侶「………」チラッ

    勇者「何してる。早く行け」

    僧侶「(せっかく矢が消えたのに、また離れ離れになっちゃうんだ。嫌だ、離れたくない……)」

    728 = 1 :


    勇者「どうした。何かあるなら言え」

    僧侶「……いえ、なんでもないです。早く来て下さいね?」

    勇者「分かってる。あいつ等にはお前から伝えておいてくれ」

    僧侶「はい、分かりました……」

    トボトボ…

    助手「狩人さん、先に行きます」

    狩人「うむ。ああ、待ってくれ。聖水はあるかね?」

    助手「はい、一応持って来ていますが」

    狩人「それは良かった。一つくれないか、それがなければ会話も出来ない」

    助手「しかし……」チラッ

    勇者「………」

    狩人「彼ではなく私が使うのだ。問題はないよ」

    助手「そ、そうですか。分かりました」スッ

    狩人「ありがとう。では、行きたまえ」

    助手「はい。では、先に行きます。お二人も、道中お気を付け下さい」ザッ

    ザッザッザッ…

    729 = 1 :


    【#20】感情論

    狩人「彼女には随分と好かれているようだね」

    勇者「お前はそんな話がしたくて残ったのか?」

    狩人「迂遠な会話は不要か……では、早速本題に入ろうじゃないか。その力を渡せ」

    勇者「それは出来ねえな。渡そうにも甲冑が邪魔をする。蓋をされてるようなもんだ」

    狩人「それが事実だと証明出来るのかね」

    勇者「出来ねえな。殺して確かめてみるか? 欲しいものが消えちまっても知らねえけどな」

    狩人「質問を変えよう。君はどうするつもりだ?」

    勇者「あ?」

    狩人「君はその力で何をしようとしているのかと聞いているのだ」

    勇者「龍を殺して終わりだ。他にはない」

    狩人「終わった後なら譲渡すると?」

    勇者「その時、誰かがいれば、そうするかもしれねえな」

    狩人「(蓋云々の話は嘘だろうが、万が一にも力が消えてしまえば、そこで終わりだ)」

    狩人「(やはり、魔女とやらを排除しないことにはどうしようもないようだな)」

    730 :


    勇者「お前はどうなんだ」

    狩人「どう、とは?」

    勇者「何故、国のやり方に従う」

    狩人「どちらが正しいのかという話なら遠慮するよ。言い争いになるだけだからね」

    勇者「議論するつもりなんてねえよ。ただ、お前を知りたいだけだ」

    狩人「………」

    勇者「お前は俺のことを色々と知っているみてえだが、俺はお前を知らない。善悪なんてのはどうでも良い」

    狩人「………」

    勇者「話したくねえなら、それでいい。こっちもそうするだけの話だ」

    狩人「……必要だからだ」

    勇者「あ?」

    狩人「間違いだ何だと言われようと、今の人々にそれが必要ならば、私はそれを受け入れる。今は、受け入れるしかないのだ……」

    勇者「……受け入れた先に何があるんだ。人は弱い。真実に、押し潰されるだけだ」

    狩人「ああ、分かっているさ。だから、見えないようにしているのだ」

    狩人「罪は背負う。後には残さない。未来を生きる者達には、理想の世界を届けてみせる」

    勇者「………」

    狩人「数多の屍を踏み拉いてでも、人は進まなければならない。人でなしと罵られても構わない」

    狩人「苦しみのない世界を届けること。それが、私が死者に出来る唯一の弔いだ」

    731 = 1 :


    勇者「その未来に、この力がどう関係する」

    狩人「……それを話す前に、君はその力がどんなものか知っているかね」

    勇者「滅ぼす力だ」

    狩人「極めて分かりやすく言えば、そうだな。だが、それは表面的な部分でしかない」

    狩人「遙か昔から存在する力だ。神の一欠片、滅びの遺児、様々な呼び名がある」

    狩人「時代の時々に現れ、ふと消える。そしてまた現れる。未だ、解明はされていない」

    勇者「それで?」

    狩人「その力は様々な恩恵を与える。それは君が一番良く分かっているだろうがね」

    狩人「王位の悪魔と対等に戦える力、強靭な肉体、龍の炎にすら耐えうる堅固な魂」

    勇者「大袈裟に言うな。何度か耐えられるってだけの話だ。死なないわけじゃねえ」

    狩人「だが、それ程の力を持つ人間は君の他にはいない」

    勇者「お前も戦っただろうが」

    狩人「君と私では違う。羅刹王に真正面から挑んでも、私は勝てなかっただろう」

    狩人「私には、この体を生かして先程のように不意を突くくらいしか方法はない」

    狩人「それも、君が羅刹王を引き付けてくれてやっとだ。王位相手に一人では戦えない」

    勇者「それは俺も同じだ。僧侶がいなけりゃ、魔術でやられていた」

    732 = 1 :


    狩人「意外だな……」

    勇者「何がだ」

    狩人「他人を認めるような発言をするとは思わなかった。彼女を、信頼しているのだな」

    勇者「………」

    狩人「……まあ、それはいい。君はそう言うが、私は逆だと思う」

    勇者「何?」

    狩人「君が窮地に陥ったのは、その甲冑と彼女の存在があったからだ」

    狩人「君が一人なら、そうはならなかったはずだ。彼女がいなければ矢を受けることもなかった」

    勇者「煩え女だな」

    狩人「それは済まなかった。では、話を戻そう」

    狩人「先程も言ったように、それ程の力を持つ人間は君の他にはいない」

    狩人「悪魔を打ち倒す力を持ち、強靭な肉体と魂を持っている。正に、人を超えた存在だ」

    733 = 1 :


    勇者「それはもう聞いた。何が言いたい」

    狩人「君は、進化したのだよ」

    勇者「進化だと?」

    狩人「そうだ。君だけが進化したのだ。自分以外の人間を置き去りにしてね」

    勇者「………」

    狩人「責めているわけではないよ。それは君個人に宿った力だからね」

    狩人「しかし、おかしいとは思わないか? 何故個人に宿る。継承も一人にしか出来ない。それでは不公平だ」

    勇者「目的は力の共有か。その為に俺を?」

    狩人「より正確に言うなら君ではない。君の持つ力が必要なのだ」

    狩人「その力が全ての人間に宿れば、何ものにも縛られない完全な種となるだろう」

    勇者「本気で言ってんのか?」

    狩人「勿論だ。君は知らないだろうが、既に幾度か研究されているのだよ」

    狩人「これまで力を宿した人間全てが、君のように戦いの道を選んだわけではない」

    狩人「その力を人類の発展に役立てようとした探求者は、確かに存在したのだ」

    734 = 1 :


    勇者「やけに詳しいな。何処で知った」

    狩人「………」

    勇者「………」

    狩人「……そう遠くない過去」

    勇者「?」

    狩人「先人の遺志を継ぎ、全人類への継承を夢見た研究者がいた」

    狩人「彼女は力を宿していた。言わば、当時の勇者だ。彼女が着目したのは肉体の強化だった」

    狩人「どんな障害、如何なる体質を持つ人間も、それによって改善または克服出来ると信じていた」

    勇者「………」

    狩人「だが、力の複製を目的とした研究は危険視され、教会は禁忌に触れると糾弾した」

    狩人「研究で得られたものは全て焼き尽くされ、彼女は程なくして捕らえられた」

    狩人「要は悪用すると考えられたわけだ。彼女は弁明したが、遂に受け入れられることはなかった」

    勇者「彼女はどうなった」

    狩人「大罪人として処刑されたよ」

    狩人「誰からも理解を得られないまま処刑台に上がり、衆目に晒され、罵声を浴びながら……」

    735 :


    狩人「彼女は最期まで抵抗しなかった」

    狩人「力を使えば逃げることなど容易かっただろう。牢を破壊することも出来たはずだ」

    狩人「それをしなかったのは、自分の研究は人類の為だと証明する為だったのかもしれない」

    勇者「それが、彼女の最期か」

    狩人「………っ。いや、まだ続きがある」

    狩人「彼女は力が消えぬよう、死に際に力を託したそうだ。自らの命を絶つ存在に」

    勇者「………」

    狩人「処刑に用いられたのは切っ先も刃もない鉄の塊。優秀な処刑人に主君から贈られた品だ」

    狩人「処刑人は、主君にそれを使うことを強要された。見事、首を刎ねて見せろとな」

    勇者「………」ギュッ

    狩人「彼は見事、首を刎ねて見せた」

    狩人「二人がどのような関係だったのかは分からない。ただ、彼だけは泣いていた。彼女の為に」

    勇者「……そうか」

    狩人「……もし君と会うことが出来たら、どうしても聞きたかったことがある」

    736 = 1 :


    勇者「何だ」

    狩人「彼がその後に歩んだ道は正しかったと思うか?」

    勇者「……俺はそう信じてる。あの人も、人の為に生きた。最期まで」

    狩人「……………そうか。それならば良いのだ。彼女も報われることだろう」

    勇者「だと良いけどな」

    狩人「長くなってしまったな」

    勇者「構わねえよ。聞いたのは俺だ」

    狩人「……君は本当に、復讐の為だけに戦うつもりなのか?」

    勇者「ああ、それだけで良いと思ってた。戦って戦って、最期まで戦い抜いて死ぬ」

    狩人「今も、同じか?」

    勇者「どうだろうな。良く、分からねえんだ」

    勇者「あいつと歩いている内に色んなものを貰っちまった。今はあいつ等もいる。もう、俺だけじゃない」

    狩人「………」ギュッ

    勇者「どうした」

    狩人「君は勇者に相応しくない。その力は相応しき者へと渡すべきだ」

    737 = 1 :


    勇者「………」

    狩人「それが、もう一つの捕らえる理由だった」ザッ

    勇者「良いのか、それで」

    狩人「そう簡単に答えは出ない。今は、魔女とやらと倒すまでは共に歩こうと思っている」

    勇者「答えは出る。必ず」

    狩人「君の望まない答えかもしれないがね」

    勇者「それでも良い。今は、それだけで充分だ」

    狩人「では、行こうか」

    勇者「ああ、行こう。まだ間に合う」

    狩人「フフッ。ああ、そうだな……」

    ザッザッザッ…

    『…………』

    サァァァァ…

    >>彼女は選んだ

    >>連なる一つが、未来が、また一つ確定した

    738 = 1 :

    ここまでとします。

    739 :

    お疲れ様です

    740 :

    おつ

    743 :


    【#21】不在の者

    「…スー…スー」

    僧侶「………」

    僧侶「(あの人は今、どの辺りにいるんだろう。本当に大丈夫なのかな……)」

    僧侶「(ううん、きっと大丈夫。考えがあってのことだ。大丈夫、明日には合流出来るんだ)」ウン

    「…スー…スー…」

    僧侶「(早く会いたいなあ……)」コテン

    僧侶「(あの人がいないと、何だか変な感じがする。話したいことだって沢山あったのに)」

    僧侶「(……駄目だ。さっきから同じことばかりを考えてる。疲れてるのに、眠れないや)」

    シーン…

    僧侶「………」

    羅刹王『一つ聞きたい。お前は何処から来た?』

    羅刹王『どうやら我々とは異なる進化を遂げているようだ。我々以前の存在なのか』

    744 = 1 :


    僧侶「(動揺を誘っただけだ)」

    僧侶「(あの言葉には何の根拠も証拠もない。それなのに、何故こんなにも引っ掛かるのだろう)」

    羅刹王『お前は疑問を抱かなかったのか? 俺の魔術を妨害する程の魔力を扱えることに』

    僧侶「(そんなの知ってる。言われるまでもなく、知ってることだ)」

    僧侶「(私の当たり前が、皆の当たり前ではないことくらいは分かってる)」

    僧侶「(そもそも、悪魔の言葉に意味なんてない。深く考える必要なんてないのに……)」

    騎士『こんな体になって更に痛烈に突き付けられた!! 私が独りだということを!!』

    騎士『誰も助けてはくれない。この苦しみを分かってくれる同類などいない』

    騎士『私を救ってくれたのは後にも先にも唯一人。勇者様だけだ。同じ印を持つ、たった一人』

    僧侶「(どっちも同じ、悪魔の言葉)」

    僧侶「(なのに、頭から離れない。声に宿った熱も、想いの強さも、消えてくれない……)」

    「…スー…スー…」

    僧侶「(頭の中がぐちゃぐちゃだ。このままじゃ駄目だ。気持ちを切り替えないと)」ザッ

    ザッザッザッ…

    745 = 1 :


    助手「………」

    僧侶「助手さん?」

    助手「え? あっ、僧侶さん……」

    僧侶「どうしました? 眠れないのですか?」

    助手「ええ。こうも静かだと、考え込んでしまって」

    僧侶「何かありましたか?」

    助手「此処に来て、皆さんと話して、ちょっと考えさせられてしまいました」

    僧侶「そうですか……」

    助手「甘い考えですが、誰もが希望を抱いて生きることが出来たらと、そう思わずにはいられない」

    僧侶「私もそう思います。今や、痛みや悲しみで溢れていますから……」

    助手「魔物が異常に増え、それによって被害も増した。今も増え続けている」

    助手「元凶である龍を倒せば魔物は消える。しかし、軍や教会による幾度かの討伐は失敗に終わっています」

    助手「だからこそ、人々は勇者という存在に希望を抱いている。僕も、その一人です」

    746 = 1 :


    僧侶「………」

    助手「僧侶さんの前でこんなことを言うのは気が引けますが、神様は何処で何をしているのでしょうね」

    助手「神様が世界を創造したと言うのなら、何故こんな世界にしてしまったのか……」ウーン

    僧侶「……ごめんなさい。私にも、分かりません」

    助手「えっ!? いやあの、決して責めているわけではないですよ?」

    僧侶「………」ギュッ

    助手「……僧侶さん」

    僧侶「?」

    助手「良かったら、話して下さいませんか。話すだけでも、楽になります」

    僧侶「……………よく、分からないんです」

    助手「分からない?」

    僧侶「色々知って、分からないことが増えて、自分が分からなくなっていくんです」

    僧侶「上手く言えないですけれど、知らない存在になってしまうような。そんな気がして……」

    助手「………」

    僧侶「知っていますか? 悪魔も恋をするんです」

    747 = 1 :


    助手「えっ?」

    僧侶「傷付いて、迷って、誰かに縋る。弱くて、悲しい、一人ぼっちの女の子でした」

    僧侶「悪魔だったのか人間だったのか、それは今でも分からないけれど……」

    助手「………」

    僧侶「っ、ごめんなさい。変な話をしてしまって……」

    助手「いえ、そんなことは……分からないのは、僕も同じですから」

    僧侶「えっ?」

    助手「狩人さんと出会って、たった数日で世界の見え方がすっかり変わってしまった」

    助手「知り得た一つ一つが大きくて深い。これまで生きてきたのが、幻だと思えてしまう程に」

    僧侶「幻……」

    助手「世界は分からないことだらけです。でも、分からないのなら知ればいい」

    助手「そうすれば、いつかは分かる時が来る。答えは見つかるはずです」

    僧侶「ありがとうございます……」ペコッ

    助手「いえ、そんな……」

    助手「(こうしてみると、同じ年頃の女性にしか見えないな。金砕棒の存在が異質だけど)」

    748 = 1 :


    僧侶「あの、一つ聞いても宜しいですか?」

    助手「何でしょうか?」

    僧侶「どうして狩人さんと?」

    助手「そう言えば、話していませんでしたね……」

    助手「つい数日前、街の地下を見て、真実を知って、そこで助手になるように言われました。強制的でしたけどね」

    僧侶「後悔はないのですか?」

    助手「ない、とは言えないです。ですが、これで良かったのではないかとも思っています」

    僧侶「何故です?」

    助手「元は兵士でした。民を守る兵士として、自分なりに出来ることをしてきたつもりです」

    助手「でも、僕は何も知らなかった。世界の仕組みも、こんなにも人間が窮地に立たされていることも」

    僧侶「………」

    助手「それが、この数日で真実を知って、狩人さんと出会って、本当のことに触れている」

    助手「それが嬉しくもあり、怖ろしくもあります。付いて行くのに必死ですけどね」

    僧侶「ふふっ、それは私もです」

    助手「何だか不思議ですよね。こんな風に話せるなんて思ってもいませんでした」

    僧侶「……この出会いが良い方向に進んで行くと、そう信じたいです」

    助手「勇者さんが心配ですか?」

    僧侶「心配というか、心配ですけど、あの人らしくないような気がして……」

    749 = 1 :


    助手「らしくない?」

    僧侶「らしくないと言うか、何でしょうね……」

    僧侶「あの人が、狩人さんと共に行動するだなんて思いませんでした。はっきりしている人ですから」

    助手「(確かに、危うく殺されるところだった。敵と判断したら容赦しない人なのだろう)」

    僧侶「向かって来る敵は何がなんでも倒す人です。目付きが変わって、倒すことだけを考えるんです」

    僧侶「そういう姿を何度も見ていますから、何があったのかなって……」

    助手「そんなに意外なのですか?」

    僧侶「疑えというのが、あの人から教えられた一つですから」

    助手「ですが、僕を信じてくれましたよ?」

    僧侶「ええ、そこにも驚いています」

    僧侶「街を出てから考えることも多くなったようですし、何かあったのかな……」

    助手「うーん。気になるのは分かりますが、そればかりは本人に聞くしかないですよ」

    僧侶「そ、そうですよね。そうしてみます」

    助手「(何だか、僧侶さんが小さく見える。いや、大きく見えていただけなのかもしれないな)」

    助手「(こんなに小さな体躯で悪魔と戦ったのか。きっと、それだけ強く、勇者さんをーーー)」

    僧侶「どうしました?」

    助手「いえ、良い関係だなと思っただけです」

    僧侶「?」

    助手「(二人は互いを信頼しているのだろう。狩人さんと僕も、そうなれるだろうか……)」

    750 = 1 :


    【#22】次々と

    「早く来ないかな……」

    僧侶「昼までには来ると思う。もう少し待っていよう」

    「あのね? わたし、話したいことがあるの」

    僧侶「……そっか、でも本当に大丈夫? 無理に話さなくても良いんだよ?」

    「ううん、わたしは話さなきゃいけないの。もう、決めたの……」

    僧侶「頑張ったんだね。今まで、ずっと我慢していたんでしょう?」

    「ガマン、なのかな……わたしも、よく分からない。あの人を見て、決めたの」

    僧侶「?」

    ザッ

    助手「僧侶さん、おはようございます」

    僧侶「あ、おはようございます。どうしました?」

    助手「もうすぐ来ると思います。昼まで掛かると思いましたが、急いで来たようですね」


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