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    元スレ勇者「最期だけは綺麗だな」

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    601 = 1 :


    助手「(段々と見えてきた)」

    助手「(それに、粒を通して音を感じる。これが狩人さんの言ってた音なのか?)」

    狩人「………」

    助手「(あまり起伏はないけど落ち着く音色だ。魂にも性格が出るんだろうか?)」

    助手「(でも、何だか覗き見してるみたいで気が引けるな。これ以上は止めておこう)」

    狩人「………」

    助手「狩人さん、出来ましたよ?」

    狩人「…………」

    助手「狩人さん?」パチッ

    狩人「………すぅ…すぅ…」

    助手「寝てる。はぁ、待たせすぎたな」

    狩人「………すぅ…すぅ…」

    助手「(でも、何で急に……)」

    狩人『…………すまない。考えてはみたが何と声を掛けて良いのか分からない』

    助手「(気を遣ってくれたのか? いや、多分そういうことを出来る人じゃない)」

    狩人「……ん…」

    助手「(理由なんてどうでもいいか。力になってくれたことは事実なんだ。素直に感謝しよう)」

    助手「(しかし不思議だ。感覚的には魔術ではなさそうだし、一体どんな力なんだろう……)」

    603 :


    【#8】迷い子

    狩人「……?」

    助手「(あ、起きた)」

    狩人「……眠っていたのか」

    助手「ええ、ほんの少しですけど」

    狩人「そうか。まだ夜明け前のようだが、君はどうだ? 眠らなくてもいいのか?」

    助手「はい、睡眠は充分です」

    狩人「……ふむ」

    助手「どうしますか?」

    狩人「そうだな、少しばかり早いが食事を取ってから出発しよう。これ以上休む必要もない」

    助手「了解しました」

    ーーー
    ーー


    助手「………」モグモグ

    狩人「ところで、成功したのかね?」

    助手「あ、はい。時間は掛かりましたが何とか出来ました」

    狩人「私はどう見えた」

    助手「あの状態で見ると、粒の集合体のように感じました」

    604 = 1 :


    狩人「その他には何かを感じたかね?」

    助手「はい、音を感じました」

    狩人「……そうか、それは良かったよ」

    助手「あの、あれは何なのですか? あんな感覚は初めてです。魔術ではないですよね?」

    狩人「ああ、魔術ではない。あれは元々、人間に備わっていたものだ。言わば、魂そのものの力」

    狩人「遠い過去の人間は、日常生活の中で当たり前のように使っていたようだ」

    助手「(魂そのもの……)」

    狩人「理解を深めることで範囲は広がり、更に多くのものを見聞きすることが可能になる」

    狩人「熟達すると、遠く離れた場所の出来事さえも手に取るように分かるという」

    助手「あの」

    狩人「何かな?」

    助手「何故そんなに便利な力が失われてしまったんでしょうか?」

    狩人「さあ、原因は私にも分からないよ」

    狩人「魂が曇っただとか、肉体に囚われ続けた結果だとか、それらしい理由はあるがね」

    助手「(そんなものを何処で知ったんだろう。というか、どうやって修得を……)」

    狩人「何が原因であれ、閉ざすという意味では過去も現在も変わらない」

    605 = 1 :


    助手「どういう意味ですか?」

    狩人「結局、何も見たくはないのさ。これは目を逸らし続けた結果たのだと、私はそう思う」

    狩人「もしかすると耐えきれないのかもしれないな。真実、或いは現実というものに」

    助手「………」

    狩人「そんな中で君のような存在は珍しいと言えるよ。未知を怖れながら、未知に踏み込もうする」

    助手「……街の一件は未知ではなく、隠匿されていただけです」

    狩人「ははは。確かにその通りだ。あれは世が、人が直隠しにしていただけに過ぎない」

    狩人「しかし、施された目隠しを自らの手で外したのは君だけだ。誇っていいと思うが」

    助手「そんな風には思えませんよ。探ったのは自分の意思ですが、先輩に誘導されたのも大きいです」

    助手「結局あの夜の僕は、狩人さんの思惑に沿った行動をしたに過ぎないんですから……」

    狩人「だから、君を助手にしたのだ」

    助手「………」

    狩人「何だ、踊るのは嫌いかね?」

    助手「いえ、踊るだけなら問題はないです。ただ、踊らされるのが嫌いなだけで……」

    狩人「ははは。では、次は気付かれないように踊らせてみせよう」

    606 = 1 :


    助手「勘弁して下さい……」

    狩人「さて、冗談はこの辺にしてそろそろ出発しようか。食事が済んだかね?」

    助手「あ、はい。もう大丈夫です」

    狩人「そうか。では、早速出発しよう。君はそっちの荷物を頼む」

    助手「了解しました」

    狩人「何度も言っているが私から離れるな。私に何があっても、何もするな。いいね?」

    助手「……分かりました」

    狩人「宜しい。では行こう」ザッ

    助手「(まだ一日二日なのに、狩人さんの背中を追うことに慣れてきてる。情けない話だ……)」ザッ

    ーーー
    ーー


    カァー カァー

    助手「っ、酷い臭いだ……」

    狩人「魔物の死骸か、どれも損傷が激しいな」

    助手「何か大きなもので叩き潰されたのでしょう。通常の刀剣ではこうはならない」

    助手「狩人さん、向こうを見て下さい。死骸はこの先にも続いているようです」

    狩人「ふむ。これは彼の仕業だろうな」

    助手「……凄まじいですね。この数の魔物を相手にしながら進んでいるなんて」

    狩人「確かに。これを見ると、単純に強いだけではないことがよく分かるよ」

    607 = 1 :


    助手「…………捕らえるんですよね?」

    狩人「何だ、不安なのかね?」

    助手「不安というか、可能なのでしょうか? こんなに獰猛な人物を相手にするんですよ?」

    狩人「ははは。獰猛か、そうかもしれないな」

    助手「笑ってる場合じゃないですよ……」

    狩人「そう怯えるな。私達に対しても『そうする』とは限らないのだからね」

    助手「これを見た後だと、そうされるような気がしてなりません。話が通じる人であることを切に願います」

    狩人「それは私もだよ。話し合いで説得出来るのなら、それに越したことはない。さあ、進もう」ザッ

    助手「了解しました」ザッ

    グチャ…

    助手「(っ、嫌な感触だ。飛び散った肉片か何かだろうか? 確かめる気にもならない)」

    助手「(というか、人間にこんなことが可能なのか? 魔物の仕業ではないかと疑いたくなる)」

    狩人「……勇者に動きはない。この調子で行けば追い着けるかもしれないな」

    助手「あれから一歩も動いていないんですか?」

    狩人「ああ、何か問題でも起きたのだろう。これ程に歩みを止めたことはなかったからね」

    助手「問題……」

    狩人「何はともあれ、私に運が向いているのは確かだ。出来るだけ距離を縮めよう」

    ザッザッザッ…

    608 = 1 :


    助手「山道が荒れていますね」

    狩人「魔物が増えて山道を利用する者、山に立ち入る者自体も減った。その影響だろう」

    助手「……また歩けるようになるといいですね。何かを怖れることなく、安全に」

    狩人「時代は変わる。そしていずれ、魔物のことなど知らない世代が現れる」

    助手「魔物のいない時代ですか……」

    狩人「信じられないかね?」

    助手「何とも言えないです。魔物が存在して当たり前ですから、消えるなんて想像出来ませんよ」

    助手「でも、そうなったら世界は劇的に変わるでしょうね。きっと、穏やかになるはずです」

    狩人「穏やかに、か」

    助手「ええ、自然に囲まれて生活する。なんてのが当たり前になるんです」

    助手「外で昼寝したり、子供達が山で遊んだり。今ならあり得ないことが、当たり前に……」チラッ

    狩人「………」

    助手「狩人さん?」

    狩人「ん? ああ、そんな世界なら美しいだろうね」

    助手「狩人さんにはないんですか? 世界がこうなったら、みたいなーーー」

    609 = 1 :


    狩人「来い」グイッ

    助手「うわっ!? 何をーーー」

    どちゃっ…

    助手「ひぃっ!? な、何ですかこれ?」

    狩人「ぱっと見ただけでは分からないが、どうやら吹き飛ばされた頭部のようだな」

    助手「でもこれ、空から降って来ましたよ!?」

    狩人「説明なら後で幾らでもする。まずは落ち着きたまえ」

    助手「も、申し訳ありません……」

    狩人「おそらく、この先で魔物と戦っている者がいる。魔物同士かも分からないがね」

    助手「……どうしますか?」

    狩人「此処まで登って来たのだ。今更引き返して別の道を探すわけにも行かないよ」

    狩人「君の声で気付かれた可能性もある。逃げたところでどうにもならないだろう?」

    助手「すみません……」

    狩人「なに、過ぎたことだ。気にするな。なるべく周囲の様子を窺いながら進もう」

    助手「は、はい。了解しました」ザッ

    610 = 1 :


    ザッ…ザッ…

    助手「狩人さん、これは……」

    狩人「ああ、昨日現れた悪魔のようだ」

    助手「ということは、あの後に勇者を追って来たのでしょうか?」

    狩人「かもしれないな」

    狩人「ある程度の統率も取れていたようだ。指示を出す存在がいるのだろう」

    助手「魔物が指示を? そんなはずーーー」

    狩人「これまでの常識は捨てたまえ。君も見たはずだ。馬に跨がり、武器を持った悪魔の隊列を」

    助手「………」

    狩人「奴等は私と交戦し、仲間がやられたと見るや即座に撤退した。それも見たはずだ」

    狩人「悪魔を知性なき獣などと思うな」

    狩人「軍で何を教えられたのか知らないが、それは誤った認識だ。あれは、人間の敵なのだ」

    助手「人間の、敵……」

    狩人「そう、敵だ。人間を誇るのは良い。ただ、侮るのは止めたまえ」

    助手「はい、了解しました」

    狩人「宜しい。では、先に進もう」ザッ

    助手「(………怖ろしい存在だということは分かる。でも、魔物と何が違うんだ?)」

    助手「(悪魔って一体何なんだ。何処にいて、何処から現れる? 何故今まで現れなかった?)」

    611 = 1 :


    狩人「止まれ。こっちに隠れるんだ」

    助手「え? どうしたんでーーー」

    ゴシャッ…メキャッ…

    狩人「どうやら、あれのようだな」

    助手「うっ…何なんですか、あれは」

    ゴシャッ!

    助手「(酷いな、死骸を潰しているのか? あんなに大きな武器を軽々と……)」

    ゴシャッ…ビチャビチャ…

    助手「(っ、まだやる気なのか。もう死んでいるのに、何故あそこまで執拗に叩き潰す必要がある)」

    助手「(もう全身が真っ黒だ。髪なんかガチガチに固まって所々逆立ってる。血を浴びてから日が経ってるんだ)」

    ゴシャッ!

    助手「(っ、悪魔なのだと、そう言われた方がしっくりくる。それ程までに、あれは異様だ……)」

    >>ビタッ

    助手「(止まった。このままやり過ごして)」

    ジャリッ…

    助手「(こ、こっちに来る!!)」

    狩人「………」ザッ

    助手「(狩人さん!? 何でーーー)」


    狩人「初めまして、私は狩人と申します。貴方は僧侶さんですね?」

    612 :

    ついに接触か・・・

    613 :


    【#9】対

    僧侶「狩人……」

    狩人「ええ、そうです。勇者さんの姿が見えませんが、彼は何処に?」

    僧侶「あの人を、追ってきたのですね」

    狩人「その通りです」

    助手「(な、何で素直に言ってしまうんですか!?)」

    僧侶「貴方の目的は何です?」

    狩人「勇者を捕らえよとの命を受けましてね。街で彼が何をしたかのか、それは貴方も御存知のことだろう?」

    僧侶「命じられたと言いましたが、何に属する誰にです?」

    狩人「国そのものに」

    僧侶「命じられたのは貴方だけですか」

    狩人「ええ、そうです。私のような存在はそうそういないのでね」

    僧侶「そうでしょうね……」

    狩人「私から手荒な真似はしないと約束します。会わせては頂けませんか?」

    僧侶「それは出来ません」

    狩人「………貴方は何故此処に? 下山していたのには何か理由があるのでは?」

    614 = 1 :


    僧侶「言いたくないです」

    狩人「彼を渡せば、貴方だけは助けますよ?」

    僧侶「私だけが助かっても意味がないですよ。あの人の傍には、沢山の人間がいますから……」

    狩人「成る程。人間ですか」

    僧侶「はい、人間です。この世の何処にも居場所のない、居場所を奪われた人間です」

    狩人「あくまで彼を信じると? 人間の敵となると、そういうのかね?」

    僧侶「本当の人間は、人間の命を食べたりはしません。命を奪って命を救うなんてこともしない」

    狩人「そうしなければならないということは知っているはずだ」

    僧侶「貴方は受け入れたんですね……」

    狩人「ああ、私は現実を受け入れた。それだけだよ」

    僧侶「こんな現実を、今を作ったのは誰なのでしょうね」

    狩人「それは彼の影響かな? 困ったものだ」

    僧侶「私はこれで良かったと思っています。あの人と歩いたことに後悔はしていません」

    狩人「彼によって希望を奪われた人々はどうする? 遺族達はどう生きればいいのだね?」

    狩人「人の世の平和。それが目的であることを何故理解しない? 全ては未来の為だというのに」

    僧侶「居場所を失い、国に裏切られ、目の前で家族の命を奪われた人々はどうするのですか?」

    僧侶「あの小さな瓶に詰めて、いなかったことにするのですか? 全てを過去に置き去りにして」

    615 = 1 :


    狩人「…………」

    僧侶「…………」

    狩人「そうか、貴方の考えは分かった。否定はしない。肯定もしない。ただ、非常に残念だ」

    僧侶「もう一つだけ、あの人を捕らえてどうするつもりですか?」

    狩人「勇者は人間の為に戦う存在だ。人間には勇者が必要なのだよ。勇者がね」

    僧侶「……そのまま立ち去ってはくれませんか。私にもやらなければならないことがあるのです」

    狩人「彼を捕らえたら、速やかに立ち去るよ」

    僧侶「そうですか……」ズシッ

    狩人「僧侶が金砕棒を振るうとは世も末だな。とてもじゃないが聖職者には見えないよ」ジャキッ

    僧侶「これでいいんです。悪魔に教えは説けませんから……それに、祈るだけでは誰も救えない」

    狩人「ははは。私は悪魔かね?」

    僧侶「どうでしょう。あの人なら、そう言うかもしれません」

    狩人「戦いに馴れていないのだろう? 無理はしない方がいいと思うが」

    僧侶「いえ、戦います。あの人なら、きっと戦いますから」ダッ

    616 = 1 :


    狩人「(踏み込みは早い)」

    僧侶「んっ!!」

    ブォンッ!

    狩人「(振りも早い。風の補助か)」トンッ

    僧侶「………」グルン

    ブォンッ!

    狩人「(付け入る隙はあるが、その割に次が早いな。あの圧力と攻撃速度は脅威的だ)」

    狩人「(うっかり飛び込めば一瞬でやられるだろう。疲弊するのを待つか……)」スタッ

    僧侶「………」ジャキッ

    狩人「背中に金砕棒、腰に剣を四つ。そんなに武器を持っていて大丈夫かね?」

    僧侶「もう慣れました」ザクッ

    狩人「(地面に剣を……)」

    バキンッ! ザクザクッ…

    狩人「成る程、剣に魔方陣を……器用なものだな」ボタボタッ

    助手「狩人さんっ!!」

    狩人「何故来た。動くなと、何度も言ったはずだが」

    助手「それ以上は無茶ですよ!! 腕の傷だって癒えていないんです!! もうやめましょう!?」

    617 = 1 :


    狩人「煩いよ」

    助手「でもーーー」

    狩人「分かった、分かったよ。だから、耳許で叫ぶのは止してくれ………」

    助手「っ、僧侶さん、この氷を消してくれ。このままでは狩人さんが死んでしまう」

    僧侶「………」

    助手「もう決着は付いたんだろう? 早く消してくれ、お願いだから……」

    僧侶「その人は、貴方が思っているような人間じゃありませんよ」

    助手「何をーーー」

    ミシッ…ガシャッ!

    狩人「助手にあれこれ言うのは止めてくれないか。さあ、君は下がっていろ」ダンッ

    助手「(じ、自力で砕いたのか!? それに、傷も塞がり始めて……)」

    ガギャッ…

    僧侶「っ!!」

    狩人「騙していたわけでも隠していたわけでもない。ただ、口で説明するより見せた方が早いと言うだけの話だ」ガチッ

    僧侶「(武器の形状が変わーーー)」

    ヒュパッ…ブシュッ!

    僧侶「うっ…あぅ…」ボタボタッ

    狩人「悪く思わないでくれたまえ。生まれながらにこういう体質なのだよ」

    僧侶「はぁっ…はぁっ…」ジャキッ

    狩人「二度目はないよ」

    ギャリッ…ガランッ…

    僧侶「(強い、私じゃ敵わない。でも、諦めちゃ駄目だ。あの人の所へは絶対に行かせない)」

    618 = 1 :



    僧侶「っ、はぁっ…はぁっ……」

    狩人「さて、どうするね」

    僧侶「(何か、何か方法を考えないと。でも、どうしたら………!?)」ダッ

    助手「えっ!?」

    僧侶「伏せて!!」

    助手「!!」バッ

    ゴシャッ!

    僧侶「(痛っ…腕が……)」ボタボタッ

    助手「(は、背後に悪魔が迫っていたのか……じゃあ、彼女は僕を守るために……)」

    僧侶「はぁっ…はぁっ……」ドサッ

    助手「出血が……早く止血しないと」

    ザッ

    狩人「…………」

    助手「狩人さん、彼女は僕をーーー」

    狩人「ああ、分かっているとも。さあ、早く治療箱を出したまえ」

    助手「は、はいっ!!」

    狩人「(遂に勇者は現れなかったか)」

    狩人「(彼の性格からして、彼女に任せるような真似はしないはずだ。これで、彼の身に何かが起きたのは確実と言えるだろう)」

    619 = 1 :

    ここまでとします。

    620 :

    おつ
    僧侶…

    621 :


    【#10】欺き

    助手「眠っているみたいです」

    狩人「随分と無理をしていたようだな。傷よりもそちらの影響が大きい」

    狩人「睡眠を取っていない上に、慣れない戦闘での疲労が蓄積していたのだ。私と戦わずともいずれはこうなっていただろう」

    助手「しかし、こんなになるまで戦うなんて……」

    狩人「守ろうとしていたのかもしれないな」

    助手「勇者は動けない状態にあると?」

    狩人「私はそう考えている」

    助手「だとしたら単独行動をする意味が分かりません。彼女は法術を使えます。勇者が傷を負ったのなら既に治療しているはずでは?」

    狩人「何か理由があるのだろう。魔を憎む彼が、彼女一人に悪魔を任せるとは考えられない」

    狩人「何せ、龍に一人で挑むような人物だ。動けるのなら彼自身が戦っているはずだ」

    助手「龍に、一人で……」

    狩人「彼の根底にあるのは私怨なのだよ。それが戦う理由であり、生きる目的でもある」

    狩人「それ故に強い。強いが、その場の感情に流されやすい。非常に厄介な人物と言えるだろう」

    助手「あの、私怨とはどういうことですか?」

    狩人「彼は野盗によって故郷と家族を失った。育ての親は龍との戦いで命を落としたそうだ」

    狩人「全ては分からないが、それらの出来事が多大な影響を及ぼしたのは確かだろう」

    622 = 1 :


    助手「彼の目的は復讐でしょうか……」

    狩人「そう単純であれば良かったのだが中々に複雑なようだ」

    狩人「復讐心や憎悪が龍にのみ向いていれば問題はない。しかし彼は、それを人間にさえ向ける」

    助手「それは、地下施設でのことですよね」

    狩人「街で見た騎士の手記などによると他にもあるようだ。人としても問題が多い」

    助手「……疑問を持たず、悪魔や魔物を倒すことにのみ尽力すべきだと、そういうことですか」

    狩人「勇者とはそう在るべきだ」

    狩人「勇者は人類へ奉仕し、存続させるべく戦う存在。感情に任せた行動は愚か者のそれだ。結果として混乱しか生まない」

    助手「…………」

    狩人「彼の行いは人間の行く末に直結する」

    狩人「これは決して大袈裟な表現ではない。彼は自分が何者なのかを自覚するべきだった」

    助手「(狩人さんの言うことは分かる)」

    助手「(確かに彼は国のやり方に背き、罪を犯した。その行いは間違っている)」

    助手「(でも、人間を存続させる方法そのものが間違っている。だから勇者は戦った)」

    助手「(勇者はその方法を否定したんだ。それも理解出来る。しかし、他に方法がない以上は納得出来なくても受け入れるしかーーー)」

    623 = 1 :


    僧侶「……ん…」

    狩人「目が覚めたようだね」

    僧侶「………」

    狩人「そう睨まないでくれないか」

    僧侶「私をどうするつもりですか」

    狩人「何もしないよ。私から危害を加えるつもりはないと言ったはずだ」

    狩人「第一、襲い掛かって来たのは貴方だろう。私は身を守ったに過ぎない。違うかね?」

    僧侶「………」

    狩人「(随分と嫌われたものだ。こうも警戒されていては何も聞き出せそうにない)」

    狩人「(彼女が人質として役立つかどうかだけでも知りたかったが仕方がない。まだ距離はあるが勇者の下へ向かった方が早そうだ)」

    僧侶「………」

    助手「あの、僧侶さん」

    僧侶「……何です」

    助手「勇者に何が? 貴方は何の為に山を下りていたんですか?」

    624 = 1 :


    僧侶「話したくありません」

    助手「我々を信用出来ないのは分かります」

    助手「しかし、このままでは何も進展しない。それは貴方だって分かっているはずだ」

    僧侶「…………」

    助手「っ、貴方はやるべきことがあると言っていた!! それは勇者に関わることではないんですか!?」

    僧侶「……っ」キュッ

    助手「僧侶さん」

    僧侶「…………あの人は死の際にいます」

    狩人「何?」

    僧侶「昨日、悪魔が放ったと思われる矢から私を庇って倒れました」

    助手「思われる? それは一体……」

    僧侶「目視出来ない場所から放たれたんです。私には引き抜くことも破壊することも出来ませんでした」

    狩人「それだけで死ぬとは思えないが」

    僧侶「刺さった矢が胸に向かって徐々に動いているんです。矢は、魔力の塊のようでした」

    僧侶「これは推測でしかないですけど、矢を放った者を倒す以外に取り除く方法はないのだと思います」

    狩人「(成る程、山を下りていたのはその為か。動けないのは好都合だと思っていたが厄介なことになってしまったな)」

    625 = 1 :


    僧侶「疑うのなら確かめてみて下さい」

    狩人「それは最後まで聞いてから判断する。猶予は」

    僧侶「進行は遅らせましたが保って二日程度かと思います」

    狩人「(これが事実なら捕らえたとしても意味がないな。彼に宿った力が消えてしまえば、人間は勇者を失ってしまう)」

    僧侶「(この人の狙いが私の思っている通りなら、あの人を救える。そうでなかったら、戦うしかない。次は確実にーーー)」

    狩人「位置は分かるのかね?」

    僧侶「山の北東です。後を追ってきた悪魔もそこから来ています」

    助手「僧侶さん、一つ疑問が」

    僧侶「何です?」

    助手「それ程に強力な矢を放てるのなら、何故もう一度仕掛けて来ないんでしょうか?」

    僧侶「放たないのではなく、放てないのだと思います。追っ手を差し向けたのはその為でしょう」

    助手「差し向けたということは」

    狩人「組織されているということに間違いないだろう。策を用い、勇者を抹殺しようとしたのだ」

    助手「悪魔が、軍を……」

    狩人「数は分からないが、どうやらそのようだ。何せよ、排除する他に道はなさそうだ」

    626 = 1 :


    助手「わ、我々だけでですか!?」

    狩人「勇者を失うわけにはいかないだろう?」

    助手「それは分かります。ですが、こういう場合は援軍をーーー」

    狩人「編成から出発までにどれだけ掛かる?」

    狩人「二日以内に片が付くなら今すぐにでも伝えに行くが、そうも行かないことは君が良く知っているだろう?」

    助手「それは……」

    僧侶「…………」

    狩人「(それに、彼女をこれ以上刺激するのは避けたい。私が何かを企んでいると思えば何をするか分からない)」

    狩人「(平静を装ってはいるが精神肉体共に危うい状態だ。この類の眼をした人間は何でもする)」

    助手「しかし、追って来たであろう悪魔だけ見ても相当な数です。何か策をーーー」

    僧侶「大丈夫ですよ」ポツリ

    助手「え?」

    僧侶「大丈夫です。数は減らしましたから」

    助手「(っ、悪魔を叩き潰していた時と同じだ。この目は何だ、彼女は正気なのか?)」

    僧侶「貴方はどうするんですか? あの人の所へ行きますか?」

    狩人「そう怖い顔をしないでくれないか。勇者を失って困るのは私も同じだ。貴方に協力しよう」ニコニコ

    僧侶「そうですか、それは助かります。では急ぎましょう。あの人も皆も待っていますから」ニコリ

    628 :

    おつ

    629 :

    追い付いた
    乙!

    630 :


    【#11】二人と、一人

    助手「僧侶さん、一つ聞きたいことが」

    僧侶「何です?」

    助手「先ほど貴方は皆と言っていました。その『皆』というのは?」

    僧侶「街の地下施設に囚われていた方々です」

    助手「じ、じゃあ、街を出てから此処まで難民と一緒に? あの数の魔物から守りながら?」

    僧侶「ええ、勿論です。安全な場所に届けるって約束しましたから」

    助手「安全な場所……」

    僧侶「東にあるということしか分からないですけど、そこを目指しています。おかしいですか?」

    助手「決してそんなことはありません。難民を送り届けるというのは僧侶さんが?」

    僧侶「いえ、それはあの人が決めました。助けたからには最後までやるって、そう言って……」

    助手「(狩人さんから聞いた人物像とは違う。復讐に囚われた人間の行動とは思えない)」

    助手「(彼は何を思って彼等を導く? これも感情に任せた行動に過ぎないのか?)」

    僧侶「質問は以上ですか?」

    助手「あ、はい。時間を取らせて申し訳ない」

    僧侶「いえ。では、行きましょう」ザッ

    助手「(落ち着いているように見えるけど、どこか不気味な感じがする。本当に大丈夫なのか?)」

    ザッザッザッ

    631 = 1 :


    僧侶「…………」

    『お姉ちゃん、本当に行くの?』

    僧侶『うん。追っ手が沢山来てるみたい。此処に辿り着かれる前に倒さないといけない』

    『大丈夫なの? 一人なんだよ?』

    僧侶『私なら大丈夫。それから、この結界には常に私の法力が供給されてる。魔物は近付けないから安心して』

    『でも、それだとお姉ちゃんが……』

    僧侶『私は平気。食料は置いていくから、皆と相談して食べてね?』

    『う、うん……』

    僧侶『なるべく早く終わらせるから。だから、待ってて』

    ナデナデ

    『皆で、お姉ちゃんの帰りを待ってるから』

    僧侶『うん。それじゃあ、行って来るね?』ザッ

    『お姉ちゃん!!』

    僧侶『?』

    『何があっても自分を見失わないで。お兄ちゃんには、お姉ちゃんがいないとダメだから』

    僧侶『分かった。何があってもやり遂げる。必ず帰ってくる。ねえ、巫女ちゃん』

    632 = 1 :


    『なあに?』

    僧侶『終わったら話して欲しい。貴方が知っていること、抱えていること。貴方の本当のことを』

    『…………』

    僧侶『隠しているわけじゃないのは分かるんだ。でも、そのままだと苦しくなるんじゃないかって思う』

    僧侶『自分で答えが見付からない時は、誰かを頼った方がいい。そうしないと、もっともっと分からなくなっちゃうから』

    『本当のことを話しても怒らない?』

    僧侶『怒らないよ。約束する。だから、いつかは話して?』ニコリ

    『わかった。わたしも約束する』

    僧侶『うん、約束。それじゃあ、行って来ます』

    『いってらっしゃい!』

    僧侶「(………皆、大丈夫かな。早く何とかしないと)」

    助手「僧侶さん、待って下さい」

    僧侶「何です?」

    助手「お気持ちは察しますが少し休んだ方が良いですよ。あれから何も話し合っていませんし、これでは連携は取れない」

    僧侶「私は平気です。戦闘については素人なので、何を話しても上手く行くとは思えません」

    狩人「いや、待ってくれ。そのことについて、私からも話がある。聞いてくれないか」

    633 = 1 :


    僧侶「…………分かりました」

    狩人「まず一つ。顔を洗いたまえ。面と向かって言うのは気が引けるが少々気味が悪い。助手も怯えている」

    助手「えっ!? いや、僕は何もーーー」

    パシャパシャ

    僧侶「……これでいいですか?」

    狩人「ああ、これで話しやすくなった。次に戦闘についてだが、助手」

    助手「は、はい、何でしょうか?」

    狩人「まず、君はこの森に残れ。聖水は全て渡しておく、我々が戻るまでは身を隠しておけ」

    狩人「おそらく、敵は強大な魔力を持っている。君を守りながら戦う余裕はないだろう」

    助手「しかし」

    狩人「安心したまえ。君が逃げ出すなどとは思っていないよ」

    助手「そういうことじゃないです!! 二人に何かがあったらどうするんですか!?」

    狩人「む、それもそうだな。だが、我々に何かがあった場合、君に何が出来るのかね?」

    助手「それは……」

    狩人「戦力にならない者を駆り出し、むざむざ死なせるわけにはいかないよ」

    狩人「言っておくが、これは決して君を馬鹿にしているわけではない。分かってくれ」

    634 = 1 :


    助手「っ、了解、しました……」

    狩人「宜しい」

    僧侶「何故ですか?」

    狩人「何故、とは?」

    僧侶「助手さんの背後に悪魔が迫っていた時は、助けようとすらしなかったのに」

    助手「えっ?」

    狩人「貴方が人間を助けるかどうか確かめる為だ。貴方が動かなければ私がやっていた」

    僧侶「それが貴方のやり方なんですね」

    狩人「状況に応じた行動をしたまでだ」

    僧侶「そうですか、それならそれで構いません。私も確かめたかっただけです。貴方がどういう人なのかを」

    狩人「………」

    僧侶「助手さん、ごめんなさい」ペコッ

    助手「えっ?」

    僧侶「意地悪するつもりで聞いたわけではないんです。ただ、どういう意図があったのか知りたくて……」

    助手「え、ええ、分かっています。自分は大丈夫ですから」

    僧侶「……助手さん、何かを思っているなら話した方が良いです。どんなに思っていても、伝えなければ届きませんから」

    635 = 1 :


    助手「何で、そこまで……」

    僧侶「だって、一緒にいる人のことが分からないのってつらいでしょう?」

    僧侶「自分の方が弱くても、役に立てなくても、その人を心配する気持ちは本当でしょう?」

    助手「…………」

    僧侶「狩人さん、一緒にいる人は大事にしなきゃダメです。一人って、とっても寂しいですから」

    狩人「…………」

    僧侶「……私はこの先で待っています」ザッ

    ザッザッザッ

    狩人「(まるで自分のことのようだな。勇者を信頼しているということの表れなのか、それとも……)」

    助手「狩人さん」

    狩人「何かな?」

    助手「彼女はとても不安定です。失うことに対して非常に敏感になっているように見えます」

    狩人「分かっている。君を囮のように使ったことに憤慨しているようだったからね」

    助手「僕は構いません。ただ、彼女に対しては慎重に行動して下さい。発言もです」

    狩人「了解したよ。ただ、誤解はしないで欲しい。君の命を軽んじたつもりはない」

    助手「必要なことだったのなら仕方ありませんよ。僕は平気です」

    636 = 1 :


    狩人「それは本当か?」

    助手「勿論です。自分で言うのも何ですけど、正しい判断だと思っています」

    狩人「ふむ、そうか。しかし、待っていろと言った時は寂しそうな顔をしていたようだが」

    助手「それは、その、自分が不甲斐ないと思っただけです。狩人さんの判断に不満はないですよ」

    狩人「では、一人で寂しくはないと?」

    助手「当たり前です。僕は兵士だったんですよ? それくらい大丈夫です。大体、子供じゃないんですから寂しいだなんて思うはずがーーー」

    狩人「偉いじゃないか。戻ったら抱き締めてあげよう」ニコ

    助手「狩人さん!! こんな時にからかわないで下さい!!」

    狩人「ははは。悪かったね。まあ、そう怒るな。すぐに戻ってくるから安心したまえ」

    助手「(あくまで僕が寂しいことにしたいみたいだ……)」

    狩人「聖水は此処に置いていく。撒くのを忘れるな」

    助手「了解しました。狩人さんの無事を祈ります」

    狩人「…………」

    助手「彼女のことを守ってあげて下さい。彼女自身も言っていましたが戦闘に関しては素人です」

    助手「信頼を得るのは非常に難しいでしょうが敵対は避けるべきです。彼女だって、それを望んではいないはずですから」

    狩人「…………」

    助手「狩人さん?」

    狩人「いや、なんでもない。了解した。では、行ってくるよ」

    637 = 1 :


    助手「お気を付けて」

    狩人「………」ザッ

    ザッザッザッ

    狩人「(何か妙だな。こんな感覚は初めてだ)」

    狩人「(見送りなど鬱陶しいだけだと思っていたが、不思議と悪い気がしない)」

    僧侶『一緒にいる人は大事にしなきゃダメです。一人って、とっても寂しいですから』

    狩人「(勇者に縋っているわけではない。依存心から来ているわけでもないようだ)」

    助手『狩人さんの無事を祈ります』

    狩人「(助手の、私に対する感情とは違う。何が彼女を動かす? 勇者に何を思う?)」ザッ

    僧侶「…………」クルッ

    狩人「…………」

    サァァァァァ…

    僧侶「助手さんと、お話は出来ましたか」

    狩人「ああ、待たせて済まなかった」

    僧侶「いえ。では、参りましょう」ザッ

    狩人「(確かに彼女は不安定だ。不安定だが、確かな何かがある。魂の音が、そう告げている)」ザッ

    ザッザッザッ…

    639 :

    おつ

    640 :


    【#12】進軍

    ザッザッザッ…

    狩人「ところで、僧侶さん」

    僧侶「?」

    狩人「貴方は相手が何であるのか理解しているのかね?」

    僧侶「ええ。あの矢を見た……いえ、感じ取った時に分かりました。おそらく、羅刹王と呼ばれる者です」

    狩人「その者の姿は敵には見えず、魔術による攻撃を最も得意としたが、矢の雨をも降らせた。だったかな?」

    僧侶「知っているのですか?」

    狩人「伝承の中でも有名な存在だからね」

    狩人「矢の雨は降らなかったようだが、貴方の話を聞いた時にそうではないかと思った」

    狩人「貴方は感知に優れている。感知出来ない距離から矢を放ったとなれば、それは高位の悪魔だろう」

    僧侶「助手さんには話したのですか?」

    狩人「いや、話していない。不安を煽るだけだ。羅刹王などと言ったところで助手には伝わらないだろう」

    僧侶「……そうですね」

    狩人「貴方は伝えたのか? 貴方を待つ人々に」

    僧侶「いえ、話していません。余計に怖がらせてしまうだけですから……」

    641 = 1 :


    狩人「それは賢明な判断だ」

    僧侶「…………」

    狩人「しかし、敵の数、その力量を知りながら、それでも戦いを挑むのは無謀だと思わなかったのかね?」

    僧侶「無謀だろうと何だろうと、それしかないのなら戦います。逃げるわけには行きません」

    狩人「貴方には似合わない台詞だ。それも彼の影響なのか?」

    僧侶「そうかもしれません。あの人と歩いて、生きるには戦うしかないと知りました」

    狩人「貴方には他の道もあったはずだ」

    僧侶「ええ、無知なままでいることも出来ました。逃げ出すことも出来たでしょう」

    僧侶「でも、そうすることはなかった。寧ろ、これまでの自分に疑問を抱くようになりました」

    狩人「それで選んだのが、今か」

    僧侶「選んだと言えるのかは分かりません。私はただ、あの人の背中を見ていただけです」

    僧侶「龍に焼かれ、過去を穢され、魂に傷を負っても、あの人は戦った。その姿を、私はずっと見ていました」

    狩人「…………」

    僧侶「何が今を選ばせたのかは分かりません」

    僧侶「ただ一つだけ確かなことは、あの人が何かを与えてくれたということです」ギュッ

    狩人「(連環の腕輪。森を出る前も何度か触れていたな。癖か、まじないの類か……)」

    642 = 1 :


    僧侶「貴方にはいますか?」

    狩人「いる? 何がかな?」

    僧侶「今を与えてくれた人です」

    狩人「そんな人間はいないよ。何が影響しようと最後は自分で決めるのだ。必要とは思えない」

    僧侶「必要としないのは、必要とされる人だから?」

    狩人「貴方は中々に鋭いな。その通りだ。今は必要とされている。多くの人からね」

    僧侶「苦しくはないのですか?」

    狩人「苦しみなどない」

    僧侶「そんなはずはないでしょう。だって、貴方の体は……」

    狩人「ふむ、貴方には分かるのか。そんな人間と出会ったのは初めてだ」

    僧侶「貴方にだって他の道はあったはずです」

    狩人「はははっ。そんなことを言われたのも初めてだ。だが、私には道を探す時間などない」

    狩人「どれだけ長い時間があったとしても、これ以外の道を選ぶつもりはない。歩くつもりもない」

    僧侶「……貴方の道とは何ですか」

    狩人「言っただろう。道を歩くつもりはない。私は土を耕し、道を作らなければならない。進化の道を」

    643 = 1 :


    僧侶「(……進化)」

    狩人「異物で溢れた世界で人が生きるには進化するしかない。私はその為にいる」

    僧侶「その進化に、あの人の力が必要なのですか」

    狩人「フフッ。さあ、どうだろうね。私も全てを話すわけにはいかないよ」

    僧侶「(読めない。油断はしてないけど、もっともっと用心しなきゃダメだ)」

    狩人「……む、そろそろ来そうだ。何かに魔力を割いているようだが問題はあるかね?」

    僧侶「(やはり気付いていた)いえ、問題はありません」

    狩人「結構。では、貴方には支援を頼む。奴等が現れたら氷で足を止めてくれ」

    狩人「私は砕きながら前に出る。その後に続いて欲しい。指示は私が出す。了解か?」

    僧侶「分かりました」

    狩人「暫くは貴方の魔術に頼ることになるが、魔力の心配はしなくとも良いんだね?」

    僧侶「ええ、大丈夫です。倒せるのなら何でもします」

    狩人「……そうか、いいだろう。私も全力を尽くそうじゃないか」

    ガガッ ガガッ

    僧侶「………」ジャキッ

    狩人「………」ガチッ

    僧侶「(大丈夫、今だけは信用出来る。後のことは考えるな。一刻も早く、あの人を助けるんだ)」

    644 = 1 :


    狩人「流石に数が多いな。先は長そうだ」

    僧侶「…………」ギュッ

    狩人「動きが遅れたら終いだ。魔術は可能な限り広範囲に放て、一匹も通すな」

    僧侶「分かっています」スッ

    狩人「待て」

    ガガッ! ガガッ!

    狩人「今だ」

    僧侶「(凍て付け)」ザクッ

    ピキピキッ…バキンッ!

    狩人「行くぞ。一気に駆け抜ける」

    狩人「(範囲、威力共に凄まじい。あの時の比ではない。彼女も本気と言うわけか)」ダッ

    ズパンッ! ドサドサッ…

    僧侶「(凄い。あんなに大きな鎌を自在に操ってる。やっぱり、あの時は手を抜いていたんだ)」ジャキッ

    バキンッ! ガシャンッ…

    狩人「(見れば見るほど素晴らしい。魔力が尽きる様子もない。このまま押し切る)」ダンッ

    ヒュパッ! ゴロンッ…

    狩人「(順調だが、そう簡単には行かないか。ん? 何だ、この影………っ、まさか矢をーーー)」

    ドドドドッ…

    645 = 1 :

    ここまでとします。

    648 :


    【#13】霧散

    狩人「(この影は、まさか……っ!!)」

    ガシッ…

    狩人「(死体に鞭打つようだが、これで防ぐ他に方法はない。しかし彼女がーーー)」

    ズズンッ!

    狩人「これは……」

    ドドドドッ! パラパラッ…

    狩人「(岩の壁。いや、頭上も覆われている。あの一瞬で創り出したというのか)」

    僧侶「……はぁっ、はぁっ、無事ですか?」

    狩人「ああ。済まないな、指示は私がするなどと言っておきながら助けられてしまった」

    僧侶「いえ、気にしないで下さい。それとも、借りを作るのは嫌いですか?」

    狩人「ははは。まあ、好きではない。しかし、ここまで術の発動が速いとは思わなかったよ」

    僧侶「何度か戦っているうちに慣れたんだと思います。何とか間に合って良かった……」

    狩人「(たかが数回の戦いで? 才能があるのは確かだろうが、その成長速度は異常だ)」

    僧侶「あの、何か?」

    狩人「いや、何故最初から矢を放たなかったのかと思ってね」

    649 = 1 :


    僧侶「私もそう思います」

    僧侶「初めからこの攻撃を仕掛けていれば、私とあの人を殺せたかもしれない」

    僧侶「先に放った矢と比較すると精密さと威力は数段落ちますけど、そこは範囲の広さで補える」

    狩人「確かに、貴方が話していた矢ではないようだな。これには動く気配はない」

    僧侶「おそらく、矢に込めた魔力の質が違うのだと思います」

    狩人「では、少なくとも二種類の矢を放てると言うわけか。他にもあると厄介だが、何らかの欠点はありそうだな」

    狩人「連射が出来ない。または矢の性質で飛距離が異なる。今はそれくらいしか思い浮かばないがね」

    僧侶「(理解が早い。魔術に詳しいんだ)」

    僧侶「(この人にはあまり手の内を見せたくないけど、そんな戦い方だと敵に通用しない……)」

    狩人「どうしたのかね?」

    僧侶「いえ、何でも。このまま前進しましょう」

    僧侶「あの人に刺さった矢でなければ防ぐのは難しくはありません。何度でも防ぎます」

    狩人「そうか、では行こう。今の攻撃で我々を取り囲んでいた敵は全滅したようだ」

    僧侶「……最初から、こうするつもりで兵を向かわせたんでしょうか?」

    狩人「恐らくね。我々の足を縫い止め、今の攻撃で片を付けるつもりだったのだろう」

    僧侶「これ程の力を持ちながら、何故こんな無茶な攻撃を? 敵は私達だけなのに……」

    650 = 1 :


    狩人「ふむ、それもそうだな……」

    僧侶「(犠牲を払わないと成立しない魔術。犠牲祭? 自軍の兵を? ううん、そんな効率の悪い魔術を使うとは思えない)」

    狩人「……これは憶測でしかないが、単純に近付かれたくないのかもしれない」

    僧侶「近接戦闘が不得手?」

    狩人「断定は出来ない。秀でた遠距離攻撃で終わらせたかっただけとも考えられる」

    狩人「だが、そうなると兵を巻き添えにしてまで矢を放った意味が分からないな。道具としか思っていないのなら別だが」

    僧侶「……なるほど」

    僧侶「でも、これ以上は考えても分かりませんね。私達には、近付いて倒すしか方法はありませんから」

    狩人「そうだね。では、行こうか」ザッ

    僧侶「はい」

    ーーー
    ーー


    狩人「兵は来ないようだな」

    僧侶「今のところは攻撃してくる気配もないです。強い魔力と、存在は感じますけど……」

    狩人「ふむ。見ているのかもしれないな」

    僧侶「慎重なのでしょうか?」

    狩人「だとしたら厄介だ。必死に攻撃を仕掛けてくる方が楽だったよ」


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