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    元スレ右京「346プロダクション?」

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    101 = 1 :

    友紀「えー…えっと…ここで、「み、みんなー…待たせてごめんねー…」」

    右京「…」

    「…」

    友紀「「やっぱり学生さんが多いかなー?卒業生はお、お疲れー!在校生はこれからも…頑張ってー…」」

    右京「…」カチ

    友紀「…ど、どうだったー!?」

    右京「『それでは後ろまで聞こえませんよ。もう少し大きな声でお願いします』」キーン

    友紀「えー!?」

    右京「『僕達が今立っている場所は大体200人くらいの場所です。そこにギリギリ聞こえる程度ですよ』」キーン

    友紀「えー…」

    右京「『何の為にピンマイクが着いていると思っているんですか。いつもの君のテンションでいけば出来ることですよ』」キーン

    友紀「い、いつものって…そんなさあやりましょうじゃ出せないよー!」

    右京「『恥ずかしさを捨てて下さい。それだけです』」キーン

    友紀「う…だって聞いてるの右京さん達しかいないし、道行く人たちがこっち見てるんだよー!?」

    右京「『本番はこんなものでは済みませんよ』」キーン

    友紀「う…」

    右京「…」

    「…本来ならこんな練習しないんだけどねぇ。彼女の場合は、何もかもが初めてだから…」

    右京「ええ。その上本番はもうすぐそこ。これ以外に良い場慣れのさせ方が思い浮かびません」

    「…昨日今日デビューしたての子じゃ公衆の面前で大声出してっていうのは難しいよねぇ」

    右京「正しくは2週間と3日です」

    「でも、こういったことは初めてでしょ?」

    右京「ええ。しかし彼女は元野球部のマネージャーであり、その経験は今でも染み付いています」カチ

    「じゃあ、それをこれからどうやって出してくか、だね…」

    右京「『声出しが出来るようになるまで次のステップには進めませんよ。頑張って下さい』」キーン

    友紀「わ、分かったよぉ…」

    102 = 1 :

    ああ…恥ずかしい。

    そりゃ、部員応援する時とかは全力でやってたけど…。

    あれは、ただそれが楽しかったから、そうしただけ。

    …今は、どうだろう?

    「…」

    『どうかされましたか?』

    …アタシ、今これ、楽しんでるのかな…。

    「…」

    元々、アイドルって仕事にも…あんま興味あったわけじゃないし。

    …じゃあ、何でだろ…。

    『姫川君』

    「あ!ご、ごめん!ボーッとしちゃってて…」

    『慣れない事だと思いますが、やっていけば必ず慣れてきます。ですから何度もやりましょう。こういうものの楽しみは、やり続けなければ分かりません』

    「え…」

    …どうして、アタシの考えてること…。

    …そういえば、前にもアタシの顔を見ただけでアイドルになろうか迷ってる事を見抜いてみせたよなぁ。

    『やりがいは、やらなければ感じません。ですからまずやれるだけやってみましょう』

    右京さんの声がスピーカーを通して聴こえてくる。

    アタシを慰めようとしている優しげな声。

    その中にはスタッフへのフォローもあるんだろうけど…。

    …あ。

    そういえば、言ってたなあ、あの人。

    限界を感じた時、それは諦めた時。

    「…」

    なんとなく空を見上げる。

    「…」

    『…』

    今日は、雲一つない晴天。

    こういう時、上を見るとなんとなく元気が湧いてくるってみんな言う。

    …それが、今は少しだけ分かる気がする。

    「…ン゛ン゛!」

    一つ咳をして、息を吸い込む。

    そして、アタシは。

    目の前にいるお客さんに向けて、いつもの声を出した。

    「みんなー!!待たせてごめんねー!!」

    …今のお客さんは、二人。

    右京さんと、スタッフを纏めている人。

    「やっぱり学生さんが多いかなー!?卒業生はお疲れー!!在校生はこれからも頑張ってー!!」

    103 = 1 :

    正しくはお客さんじゃないけど。

    それでも、今アタシの目には二人以外にもお客さんが見える気がする。

    勿論アタシの頭の中だけだけど。

    そこには、大勢のお客さんがいると思い……というより、いる。

    そこには、いるんだ。

    「…」

    結局、アタシの声はどうだったのか。

    「…」

    それは、さっきよりももっと奥で拍手している右京さんを見て分かった。

    …あれ…なんだろ。

    「…」

    顔が、とんでもなくにやける。

    ただ褒められただけなのに。

    あの笑みを見ると、どうしてか顔の筋肉が緩んでしまう。

    「…あ」

    …そうだ。

    分かった。

    アタシ…やっと褒めてもらえたんだ…。

    104 = 1 :

    右京「とても良かったですよ。君の元気のある話し方に、僕も思わず疲れが吹き飛んだようです」

    友紀「お、大袈裟だよ…」

    「いやー、良かった!じゃあ次のステップは台本を覚えることだね!」

    友紀「あ…こ、この分厚いやつを…」

    右京「20ページ程度ですよ」

    友紀「そりゃ右京さんはパッと覚えられるだろうけどさぁ…アタシがそんな顔に見える?」

    「まー…これも慣れだよねぇ。トラウマになるくらいやれば嫌でも覚えるから」

    右京「ああ、それは素晴らしいですねぇ」

    友紀「えー…」

    「ほんまに、素晴らしいどすなあ…」

    右京「…」

    友紀「え?」

    「え?」

    「ほんま、何から何まで…」

    右京「…」

    「こ、この子誰?友達?」

    友紀「え…あ、いや…友達じゃないですけど…朝…会ったよね?」

    右京「ええ。会いましたねぇ」

    「ええ。そして今回も…」

    友紀「な、なんたってこんな所に…」

    「あんだけ大きな声でやってたら気になりますわ。こないな民家の少ない場所でも…」

    友紀「あー…やっぱり聴こえちゃうよねぇ…」

    右京「そうでしたか。それはご迷惑をおかけしました」

    「でもちゃんと許可取ったんだよー?…っていうかお嬢ちゃん関係者じゃないんでしょ?」

    「ええ。たまたま通りがかっただけどすわぁ」

    右京「たまたま、ですか」

    「ええ…そうどすぇ。それにちょっと落し物を…」

    友紀「落し物?…あ、あのハンカチ?」

    「そうなんどす。大事にしてたもんを落としてしまうなんて…」

    友紀「ご、ごめーん…あれ、近くの交番に届けちゃって…」

    「あらぁ…そうなんどすか?」

    友紀「うん。だから…」

    右京「忘れ物はハンカチだけでしたか?」

    「ええ。…え?」

    105 :

    腹黒対決になりそうな

    106 = 1 :

    右京「僕はてっきり、他の忘れ物を取りに来たのかと思いましたが」ゴソゴソ

    「え…」

    右京「携帯電話。これ、君のですよね?」

    「・・・・・・」

    友紀「え!?それも落としてたの!?」

    右京「ええ。君の鞄の中に」

    友紀「え…ちょ!ちょっと!勝手に漁ったのぉ!?」

    右京「申し訳ない。どうにも目に入ってしまっていたので、君が荷物を預けた時に少しだけ」

    友紀「言ってくれれば出したのに…」

    右京「ええ。申し訳ありません」

    「・・・・・」

    右京「電源は切れているようです。どうぞ?」

    「え、ええ…ど、どうもおおきに…」スッ

    右京「…」ググッ…

    「…え…?」

    右京「…「これ」を犯罪として訴えるのはとても難しいですからねぇ…」ボソッ

    「…」

    右京「それではこれで。姫川君。次は台本を覚えましょう」

    友紀「あ、うん…じゃあね!イベントにも来てねー!」

    107 :

    なんやこいつら……

    108 = 1 :

    「…は…」

    …なんで?

    「…はは…」

    …もしかして、全部バレてたん?

    「…」

    …なんちゅうお人なんやろか。

    …オマケに、あの姫川っちゅう女の方にバレへんよう、電源が切れるんを待ってたっちゅうこと?

    「…アカン」

    アカンわぁ。

    …あないなことされたら。

    「…もうウチたまらんわぁ…」

    109 = 1 :

    6時間後


    友紀「…あ゛ー…」

    「だいぶ堪えたみたいじゃない」

    右京「…おやおや。もうこんな時間でしたか」バッ

    友紀「…冷静になって考えたら、昼にまで終わるわけないよねぇ…」

    右京「ようやく地に足のついた考え方が出来るようになったということですかねぇ」

    友紀「うーん…」

    「でもよく頑張った方じゃない。…でも本番でいざこれが出来るかってなったら、分かんないけどねぇ」

    友紀「…そういえば、知らない間にステージ作りが凄い進んでる気がします…」

    「それだけ集中出来たって事だよ。OKOK!」

    右京「頑張っているのは決して君だけではない…。スタッフの皆さんや、工事の方々。皆さんのお力があって初めて仕事というのは完成するんですよ」

    友紀「うん…」

    右京「君の仕事ぶりは先程まで、自分の為だけに頑張っているように見受けられました。ですがこのように目を向けると、考え方も変わってくるはずです」

    友紀「…」

    『はいそこー。そこの溝にくっつけてー』

    『当日の弁当ってこれで合ってますー?』

    『雨天用のテントはこっちにまとめといてー!』

    右京「全ては当日のイベントを成功させる為。一人がわがままを言ってしまえばその成功率は大幅に下がります」

    友紀「…うん。ごめん…」

    右京「「その」気持ちがあるなら必ずイベントは成功する筈です。君は思い込みは強いですが、とても正直で素直な方ですからねぇ」

    友紀「褒めるならもっとちゃんと褒めてよー…」

    「…そういえばさ、さっきのあの京都弁バリバリの可愛い女の子。あの子いつの間にか居なくなってたね」

    友紀「あー…さっきまであの辺で座って見学してましたね…」

    右京「…」

    友紀「右京さん、何かあの子のこと…嫌がってる?」

    右京「嫌がるということはありませんが、彼女は先程、僕達を見ていたというよりは…何か別の事をしていたように見受けられます」

    友紀「…別?」

    右京「ええ。何でしょうねぇ…」

    友紀「…普通にTwitterとかで呟いてたとか?」

    右京「彼女が手にしていたのは、携帯電話ではなくメモ帳でした」

    「相変わらずよく見てるんだねぇ。さすが大手アイドル事務所のプロデューサーだね」

    右京「おやおや。ご期待に添えなくて申し訳ありませんが、僕はそれほど大した人間ではありませんよ」

    「またまた…」

    友紀「もしかして右京さんって…褒められるの慣れてなかったり?」

    右京「慣れていると聞かれると、そうでもないですねぇ」

    友紀「…へー…」

    右京「どうかされましたか?」

    友紀「なーんでもなーいよ?」

    110 = 1 :

    「まあ、今日はこれくらいにしようよ。スタッフ帰してあげないと可哀想だから」

    友紀「え?…もうこの際あと2、3時間は…」

    右京「ここを管理する方もいらっしゃるんですよ。僕らだけで残るというのは無理があるというものです」

    友紀「そ、そうなんだ…」

    「じゃあ…おーい!そろそろ切り上げてー!今日は終わりにするよー!」

    『『はーい!!』』

    友紀「みんな、元気だなあ…」

    「元気ってより、疲れを見せまいとしてるんじゃないかな。僕に気ぃ遣って」

    右京「充実していたのでしょう。…君はどうでしたか?」

    友紀「え?あ、うーん…」

    右京「?」

    友紀「…まだ、よく分かんない」

    右京「おやおや…」

    「ははは!そんなもんだよ!やっていけば慣れてくって!」

    友紀「そ、そんなもんなのかなあ…」

    「こういうのはさ、場慣れしていくしかないんだよ。数やって、自分で覚えていくしか上達する方法なんかないって」

    右京「ええ。しかし、姫川君」

    友紀「?」

    右京「マンネリという言葉もあります。それは慣れる、ではなくダレるということ…」

    友紀「マンネリ…」

    右京「そうならないよう、仕事時は常に気を引き締めて真剣に臨んで下さい」

    友紀「は、はいっ」

    右京「良い返事です。それでは今日はホテルに戻るとしましょうかねぇ」

    友紀「うん!あー!お腹空いたー!」

    右京「おやおや。もう気が緩んでいますよ?」

    友紀「あ…」

    「ははは!そりゃ終わった時はみんなそうだって!」

    111 = 1 :

    右京「では許しも出た事です。野球は観れませんでしたが、一日の終わりに少しだけ乾杯するとしましょうか」

    友紀「え…い、いいの?」

    右京「君が、宜しければ」

    友紀「う、うん!行くよ!行く!」

    右京「そうですか。では行きましょう」

    「僕も行きたいところだけど、奥さんがうるさいからねぇ…」

    右京「それは残念ですねぇ」

    友紀「右京さーん!行くよー!」

    「あーあ。もうあんなにはしゃいじゃって。…まるで親子だねぇ」

    右京「…親子、ですか」

    「うん。親子」

    右京「そうですか…」

    「どうかした?」

    右京「いいえ。お疲れ様でした」

    「うん。じゃあまた明日宜しくね」

    右京「ええ。お疲れ様でした」

    友紀「ほら行くよー!早くー!」

    『右京さーん!先行っちまいますよー!』

    右京「…」

    第三話 終

    112 :

    相棒は初代の熱血漢だったのか

    113 :

    最近、相棒SSで右京さんの「~ですねぇ」を見るたびに、まゆの声で再生される未知の病に感染してしまった

    同時にまゆのセリフ見るたびに右京さんの声で再生される病にも感染した

    114 :


    紗枝はんがままゆみたいで新鮮
    もしやと思ったが、このままいくとやはりあのトリオが完成するのか

    115 = 1 :

    言うの忘れてました
    紗枝Pさんごめんなさい

    116 :

    この紗枝嫌いじゃないぞw
    基本箱入りお嬢様なんだから、こうなっていてもおかしくないだろ

    117 = 107 :

    ただの箱入りお嬢様が盗聴機まで仕掛けるというのは、些か無理がありますねぇ

    118 = 1 :

    >>117
    携帯を複数持ち歩いてて、その一つを盗聴器代わりにしたということで…

    119 :

    通話状態にして友紀のバッグに放り込んで、もうひとつの電話で聞いてたってことか

    122 :

    おつ
    続きが気になる

    123 :

    過去最長の相棒ssになりそうな予感がするな

    124 :

    腹黒さを鑑みるにこの紗枝はんは社長の方の紗枝はんやな…

    125 :

    『こっち紙皿足んないよー!!』

    『ガスボンベはもっと奥!子供がぶつかったらどうすんだよ!』
    『す、すいません!』

    『あと2時間だよ!項目全部確認出来てる!?』

    『こっちオッケーでーす!!』

    …。

    内心、半分は早くやってみたいと思った。

    けれど、もう半分は、出来ればやりたくなかった。

    でもそんなアタシの頭の中など関係無く、時間は否応無しに過ぎていく。

    「…」

    今日も、快晴。

    春の嵐もどこ吹く風と、雲一つない青空が広がっている。

    「絶好の仕事日和ですねぇ」

    アタシの隣でそう呟く右京さんは、アタシが今どれだけ緊張しているか、分かっているのだろうか。

    …いや、絶対分かってる。

    分かってるからこそ、あえてアタシを奮い立たせようとしている。

    もう逃げられないぞ。
    もうやるしかないんだぞ。

    …そうアタシに言っているんだ。

    「…」

    アタシはいつもだったら、どちらかといえばお客さん側で。

    食べたい物食べて、やりたいものやって、それで終わってた。

    それが、今。

    立場が完全に逆転し、今までにないほど追い込まれている。

    野球で言うなら、9回裏2アウトで負けてる状態。

    …そのせいでもあるのか、アタシはかなりマズいことになってた。

    「あと10分程したらリハーサルをしましょう。最も、もうこの間のような大仰な事は出来ませんが」

    「…もうちょっと台本見てていい?」

    「それ、もう3回目ですねぇ」

    「だ、だって…」

    「昨日は全部覚えられていた筈ですよ?」

    「…う…」

    …緊張のせいか、台本の内容が、一切出て来なくなっていたんだ。

    126 = 1 :

    前日 PM9:00

    友紀「えっと…ここでまた壇上に上がって…そしたら『さてここからビンゴ大会をします』…」

    『♪』

    友紀「?…あ」

    『右京さん』

    友紀「もしもし?どうかした?」

    右京『ええ。少し心配になったもので』

    友紀「大丈夫だって。今日だってもうほとんど見ないで行けたし」

    右京『そうですねぇ…しかし何と言っても、これが初めて人前で話すというお仕事ですから、やり過ぎることに越した事はないんですよ』

    友紀「うん。大丈夫。ちゃんと今も練習してるから」

    右京『そうですか…』

    友紀「もー…信用無いなあ…」

    右京『信用はしていますよ。君は嘘をつけない体質のようですから』

    友紀「本当?」

    右京『ええ。だからこそ、心配なんです』

    友紀「…?」

    右京『君はすぐに顔に出ますから。いざという時皆さんに悟られないか…」

    友紀「やっぱり馬鹿にしてるでしょー!」

    右京『いえいえ。君がとても正直者だということです。しかし…』

    友紀「?」

    右京『…いえ、なんでもありません。ですから一つだけ』

    友紀「どうしたの?」

    右京『君に期待しています。頑張って下さい』

    友紀「…うん!ありがとう!」

    右京『それでは、また明日』

    友紀「おやすみー!」

    127 = 1 :

    現在

    右京「一回は出来たんです。なら何度でも出来る筈ですよ?」

    友紀「う、うん…だからもう少し…」

    右京「リハーサルは台本を持ったままでも構いません。何にしても声に出した方が頭に入ってくる筈ですからねぇ」

    友紀「わ、分かってる。分かってるけど…」

    右京「どうしましたか?」

    友紀「あ、足が…足が震えて…」

    右京「…」

    友紀「全然、立てる気がしない…」

    右京「怖くても、嫌でも、立ち向かっていく事が大事です。そうすることで光は必ず見えてきますからねぇ」

    友紀「…だって、こんなの、生まれて初めて…」

    右京「まだ、君は20歳でしたかね」

    友紀「う、うん…」

    右京「そうですか…しかし、若いウチにこういった経験をしておくのは将来きっと役に立ちますよ」

    友紀「将来より今が一番大事だよ…」

    右京「おやおや。分かっているのなら早く練習しなければなりませんね」

    友紀「…う、うん…わわっ」ガタッ

    右京「…」ガシッ

    友紀「ご、ごめん…こんな時に…全然頼りなくて…」

    右京「…まだ諦めるには早過ぎると思いますよ?」

    友紀「…だって、全然頭に入ってこない…」

    右京「…」

    友紀「あんな何百人もの前で、いつもみたいに出せる気がしないよ…」

    右京「…困りましたねぇ…こういう時に、何か気の利いた一言でも出せることが出来たなら良いのですが…」

    友紀「…うう…」

    右京「ですから、一つだけ」

    友紀「…」

    右京「頑張って下さい」

    友紀「本当に気が利いてないよぉ…」

    右京「おやおや…」

    128 = 1 :

    声が、出ない。

    足が震えて、動けない。

    自分の体が、自分のものでない錯覚に陥る。

    何かを考えている余裕も、この時のアタシにはなかった。

    ただ、時間よ過ぎないでくれ、止まってくれと考えていた。

    「…」

    もし、失敗したらどうしよう。

    もし、声が聞こえていなかったらどうしよう。

    そうなったら恐らく、アタシは耐えられない。

    スタッフに迷惑をかけるんじゃないか。
    右京さんに捨てられるんじゃないか、と。

    そこまで思いつめていた。

    怖い。

    ただひたすら、怖い。

    リハーサルにもその思いは顕著に表れていたようで、段々みんなの顔が曇っていくのが手に取るように分かった。

    「…!」

    そしてしばらく目にしなかった時計の方を向くと、既に1時間前だということを容赦無く告げていた。

    アタシは今すぐここから逃げ出したくなるような衝動に駆られながらも、ギリギリ理性を保っていた。

    こんな筈じゃ、なかったのに。

    早苗さんみたいにパッとやって、パッと終わらせられたらいいなって、考えてただけなのに。

    現実は、こうだった。

    いざという時ここまでパニックになる自分の器の小ささに、失望した。

    129 = 1 :

    「いやー…なんとなく予想はしてたけど…これは予想以上だなぁ」

    右京「なにぶん初めての事ですからねぇ。しかしそれで済む話ではない…」

    「そうだねぇ。今更変えるわけにもいかないし、っていうか変えたらこの子も346プロさんも立場が無いならねぇ」

    友紀「…」

    「最悪、台本持ったままっていう方法もあるよ?案外珍しくないし…」

    右京「確かにそれなら出来るでしょう。しかし彼女の場合、もう一つ…」

    「…萎縮しちゃってるねぇ…」

    友紀「…」

    右京「…」

    友紀「…アタシ、ホントにダメだね…」

    右京「はいぃ?」

    友紀「…今になって、マネージャーの時のこと思い出してる」

    右京「…」

    「?」

    友紀「また、みんなを傷つけて、それで何処かに逃げちゃうんじゃないかって、そう思い始めてる…」

    右京「君は、そこまで弱い人間でしたか?」

    友紀「…弱いよ。これがホントのアタシ…」

    「…」

    右京「そう、君が思っているんですか?」

    友紀「今までもそうだったよ。築いてきた信頼もすぐに無くなって…ううん。信頼なんて、無かったんだよ。きっと、初めから…」

    右京「…」

    友紀「みんな、アタシの事煙たがってたんだ…」

    右京「それはどうか知りませんが…今ここにある真実を、君に伝えましょう」

    友紀「…?」

    右京「僕と君の信頼関係は、あるかどうかと聞かれれば、まだ、無いのかもしれません」

    友紀「…」

    右京「何故なら、君はまだ自分という殻を破ろうとしていないからです」

    友紀「…殻?」

    右京「ええ。過去のトラウマに怯え自分を閉じ込めた、その殻ですよ」

    友紀「…」

    130 = 1 :

    右京「…金銀多分積みおくは、よき士を牢へ押しこめおくにひとし…」

    友紀「?」

    右京「かつて、豊臣秀吉が言ったとされる言葉です」

    友紀「…どういうこと?」

    「金銀財宝を蔵に閉まっておくなんて、有能な奴を牢屋に閉じ込めておくのと同じだよってことだね」

    右京「ご解説ありがとうございます。…今、ここ。この場所での金銀財宝というのは、君です」

    友紀「え…アタシ?」

    右京「ええ。僕が君に会った時、言ったことを思い出してください」

    友紀「…えっと…」

    右京「僕はあの時、君に大きな才能があると言いました。君を中心とした輪が店の中に瞬く間に広がり、その場を盛り上げてみせた…」

    友紀「あれは…」

    右京「それは、僕には出来ないことです。しかし君には出来る…これは少なくとも、僕よりもエンターテイナーとしての才能があるということじゃありませんか」

    友紀「そう…なのかなあ…」

    右京「そしてさらに言うのなら、金銀財宝はその君の才能ですよ」

    友紀「…」

    右京「その才能を眠らせ、閉じ込めるのはとても懸命な判断とは僕には思えません」

    友紀「…でも、どうしたら…」

    右京「それをどうするか、僕も今考えているところです」

    友紀「…でも、信頼関係は、無いって…」

    右京「それもそうでしょう。僕と君とは、まだ始まったばかりじゃありませんか」

    友紀「…!」

    右京「僕はこの先、何があろうと君を捨てたりはしません。僕が君の、相棒である限り…」

    友紀「相棒…」

    右京「今日がどのような結果になるにせよ、君が全力を出せたなら僕に責める権利はありません。ですから、どうか頑張って下さい」

    「僕にも責める権利は無いのかな?」

    右京「責任を取るのは、僕一人で十分ですから」

    「お…」

    友紀「えっ…」

    右京「ですから、やれるだけやってみてはどうでしょう?」

    友紀「そ、そんなのダメ!右京さんが辞めるなんて…アタシの為なんかに…!」

    右京「…自分自身を否定することほど悲しいことはありません」

    友紀「でも…!」

    右京「また逃げればいい。全てを捨てればいい。それで人生をやり直すことなど出来ると御思いですか?」

    友紀「…」

    右京「君は、姫川友紀以外の何者でもありませんよ。どんなに不本意な人生だとしても、逃げ出さずに立ち向かっていくことでしか、本当の幸せを手にいれることは出来ません」

    友紀「…」

    右京「…成功させられますよ。君ならば。必ず」

    友紀「…じゃあ、約束して」

    右京「何でしょう?」

    友紀「アタシ、やれるだけやってみる。だから…右京さんも、二度とそんなすぐ自分を犠牲にするなんてこと言わないで」

    右京「おやおや…」

    友紀「だって、まだ始まったばっかりなんだから…ね?」

    右京「…」

    131 = 1 :

    友紀「アタシ、今まで自分の為だけに頑張ってた」

    右京「…」

    友紀「…本当は、そうじゃないんだね」

    右京「ええ」

    友紀「自分だけじゃなくて。右京さんや、スタッフさん。それと、見に来てくれるみんなの為に頑張るんだよね」

    右京「ええ」

    友紀「…だったら、頑張れる」

    右京「…それが、君です」

    友紀「…うん!行ってくる!!」

    132 = 1 :

    …前に言われたっけ。

    アタシをどういう風にプロデュースしてくのかって。

    チアガール…だっけ。

    …何か、良いなあ、そういうの。

    「みんなー!!待たせてごめんねー!!」

    人を応援する。

    それはアタシのトラウマであり、好きな事でもあった。

    「やっぱり…学生さんが多いかなー!?」

    アタシ、やっていいんだ。

    やって良かったんだ。

    「卒業生はお疲れー!!」

    そう思うと、途端に台本の内容がポッと出てきた。

    「在校生はこれからも頑張ってー!!」

    みんなの視線がアタシに注目してるのがなんとなく分かる。

    携帯カメラを向けて撮っている人もいる。

    そうだよ。

    今、君達が撮っているのは…。

    「346プロ所属!応援大好きチアガールアイドル!!姫川友紀でーす!!!」

    『ワアアアアアアアアアアア!!』

    「みんなー!!ユッキって呼んでねー!!」

    『ユッキー!!』

    『ユッキー!!』

    「絶対覚えてよー!!これからよろしくねー!!」

    ユッキ、ユッキって。

    みんながアタシの名前を呼んでいるのが分かる。

    そっか。

    これが、アタシの才能なんだ。

    今、ようやく理解出来た。

    これなら…アタシ…。

    「…!」

    133 = 1 :

    この時、アタシはすぐに気がついた。

    観客の中に、二人。

    二人だけ、稀有な視線を向けている人達がいることに。

    そしてその二人は、見覚えのある人。

    「あ…」

    あれは、アタシがマネージャーをやっていた時の、キャプテンと…アタシの後輩のマネージャー。

    …付き合ってたんだ、この二人。

    …でも、そんなのは重要じゃなかった。

    「…」

    その顔からは、何を思っているのかは分からない。

    分からないけど、今のアタシの精神を狂わせるには持ってこいの二人だった。

    あの時、アタシを突き放したキャプテン。

    アタシに何も言わず、静かに離れていった後輩マネージャー。

    目が合ったこの数秒で、過去のトラウマが鮮明に頭に蘇るのが分かる。

    この時のアタシは、こう思った。

    『どうしてお前みたいな奴が、応援が大好きだなんて…』

    『うるさいだけのお前が、こんな所に…』

    そう、思われているんじゃないかって。

    「あ…えっと…」

    次第に、口が回らなくなり、足が微妙に震え出す。

    舞台袖で待っている右京さんの目が見開かれているのが横目で見えた。

    やらかした。

    なんだってこんな時に、こんな所に来てるんだろ。

    …酷い偶然も、あったもんだなあ。

    やっぱり、アタシにアイドルなんて…。

    「ユッキはん、何黙っとるんどすか?」

    「え?」

    134 = 1 :

    数分前

    「大丈夫そうだね、彼女」

    右京「ええ。まだメンタルの弱いところがありますが…」

    「そんなの、これからどうにでもなるよ」

    右京「ええ。今はまず、この仕事を無事終わらせる事を祈るのみです」

    「ほんまどすなぁ」

    「え?」

    右京「はいぃ?」

    「いやぁ、ここのスタッフさん、ほんまお優しい方ばかりどすわぁ」

    右京「君、どうしてここにいらっしゃるんですか?」

    「右京さんの名前出したら、すんなり通してもらえましたわぁ」

    右京「どうやって、ではありません。どうして、と聞いたんですよ?」

    「え…この子って、この間見学してた子?」

    「ええ。あん時はご迷惑をおかけしました…」

    右京「今も、十分かけていると思うんですがねぇ?」

    「いいえぇ。今回は友紀はんを助けたろかなと思ったんどす」

    右京「…はいぃ?」

    「今の今までそこで糸の切れた人形みたいに座り込んどったあの方が、今すぐさあやりますで行けるとは到底思えまへん」

    右京「…」

    「…右京はんも、そう思っとるとちゃいますか?」

    右京「…」

    「えーと…とりあえず、関係者以外はねぇ…」

    「ウチ、あの台本もプログラムも頭に全部入っとりますえ?」

    右京「!」

    「!」

    135 = 1 :

    「ウチなら、ピンチヒッターのピンチヒッターになると思いますえ?」

    右京「…ですが、今やっているのは彼女です」

    「ええ。分かっとります。ですから、もしもの時の為に…これ以上ご迷惑はかけまへんから」

    右京「…」

    「…もしもの時の為に…なら、まあ…ね?」

    右京「……貴方がそう仰るなら、僕は許可する以外ありませんね」

    「つれない態度。でもそこがまたええわぁ…」

    右京「…」

    「……この子って、杉下さんの何なの?」ボソ

    右京「全く知りませんねぇ……おや?」

    「あら?」

    「え?……あれ?友紀ちゃん急に黙っちゃったよ?」

    右京「…内容を忘れた。…ようには見えませんねぇ…」

    「…?」

    右京「…考えられるとするなら、過去のトラウマに出会ってしまったか」

    「それ、さっき言ってたやつ?」

    右京「ええ。しかしここで何か考えている余裕はありません。とにかく姫川君を一度…」

    「待って下さいな」

    右京「?」

    「丁度良えのが、ここにおります」

    右京「…」

    「いややわぁ。そんな目で見ぃひんといて下さいな。ウチも友紀はんの過去なんて知りまへん」

    右京「…」

    「これだけは、嘘ちゃいますえ。人を陥れたりするんはウチの家の教えに反することになりますからなぁ…」

    右京「…だとしたら、どうするのですかねぇ?」

    「あらぁ…ただ右京はんが、出してくれればええだけどすえ?」

    右京「…」

    紗枝「…ウチへの…小早川紗枝への、GOサインを」

    右京「…」

    136 = 1 :

    アタシが、再びパニックに陥っていた時。

    隣で、最近聞いた覚えのある声がした。

    目をやると、そこには最近会ったばっかりのあの子。

    あまりにも急過ぎてピンマイクは用意出来なかったのか、即席のマイクを持っていた。

    まさか、こんな偶然もあるなんて。

    「え…」

    「なんや友紀はん。まるでウチが出番無いみたいな目で見て…お客さん方、酷いと思いまへんか?」

    その瞬間、少し静かになっていたお客さん達が再びドッと湧き上がった。

    「でもウチの登場が遅れたくらいでそんなパニックになっとったらあきまへんで?」

    「あ、うん…ごめん…」

    「それに友紀はんずるいどすえ?ウチの紹介してーな!」

    …えええ?

    だって、名前も知らないんだけど…?

    「…皆はん、ウチの名前もちゃんと覚えて下さいな?」

    ちゃんと、と言った時にアタシに対してジロリと目を向け、思わず寒気がした。

    だけどもっと寒気がしたのは、その次の彼女の発言だった。

    その発言に驚いたのは、きっとアタシだけじゃないはずだと思う。

    「346プロダクション所属、京都生まれのアイドル、小早川紗枝どす。皆はん、どうぞお見知り置きを…」

    「…え?」

    思わず舞台袖にいる右京さんに目を向けると、勿論アタシと同じ反応。

    そりゃそうだよなあ…。

    だって、こんな事、こんな大勢の前で大々的に346プロダクション所属だなんて発表されたら…。

    「これからどんどん仕事していくつもりどす。皆さん…覚えといて下さいな?」

    流石に、雇わざるを得ないよねぇ。

    『紗枝ちゃーん!!』

    『二人とも応援するぞー!!』

    …この子、右京さん以上に黒いんじゃないかなぁ…。

    だけど、この子といると…。

    「え、えっと!じゃあここからはアタシと紗枝ちゃんで、盛り上げていくからねー!!」

    『『オオオオオオオオ!!!』』

    何故だか、アタシの緊張が解れていっていることに気がついたんだ。

    137 = 1 :

    紗枝「いやぁ、楽しめましたわぁ…」

    友紀「…」

    右京「…」

    紗枝「どうしたんどすか?そないな目で…」

    右京「どうしたか。それは君自身が理解している筈です」

    紗枝「…ああ!忘れてましたわぁ。あまりにも突然やったんで…ついつい…」

    友紀「…」

    紗枝「せやけど、ホンマに何があったんどすか?」

    友紀「え?」

    紗枝「台本忘れるくらいやったらカンペでも持っとく筈やし…」

    友紀「…何を言って…」

    右京「…姫川君、その方は今回の事に関して何もしていませんよ?」

    友紀「え?」

    紗枝「?」

    友紀「…あ、本当に何も知らないんだ…」

    紗枝「何があったんどすかぁ?」

    友紀「絶対言わない!!」

    紗枝「教えて欲しい…なぁ…」

    友紀「可愛く言ってもダメ!」

    右京「それよりももっと大事な事がありますよ」

    紗枝「?」

    右京「君はこの先、どうするおつもりですか?」

    紗枝「…さて、どうしまひょか…」

    右京「僕は構いませんよ。君を突如乱入した不審者として通報しても」

    紗枝「堪忍しとくれやす…」

    友紀「…でもさ、ああ言っちゃったし、アタシもそのまま進めちゃったし…紗枝ちゃんのおかげで上手く行ったってのも、あるし…っていうか、不甲斐なくてごめん…」

    右京「それに関して僕は責めるつもりはありません。君がベストを尽くした結果ですから」

    友紀「…う、うん…ごめん…」

    右京「しかし君はどうでしょう?君は確かに姫川君を助けましたが、やったことは偽計業務妨害罪にあたる可能性もあるんですよ?」

    紗枝「う、ウチ難しい事は分かりまへんなぁ…」

    友紀「うわー…嘘ついてる顔だー…」

    紗枝「…あの、もしかして相当怒ってはります?」ボソボソ

    友紀「…うーん…アタシもよく分からないよ。そもそも何考えてるか分かんないし…」ボソボソ

    右京「何か仰いましたか?」

    紗枝「い、いえ!」

    友紀「なんでもない!」

    138 = 1 :

    紗枝「あー…その…」

    右京「…」

    紗枝「ほ、ほら、ウチ…」

    右京「…」

    紗枝「…ちょ、ちょ!友紀はん…」グイグイ

    友紀「え、え?」

    紗枝「頼んますわぁ!ほら、今回の借りはこれでチャラにしたりますから!」ボソボソ

    友紀「か、借りって…そもそも、どうしてそんなに右京さんを…」

    紗枝「…そりゃ…見てくださいな!」グイッ

    友紀「イダイッ!…え、ええ?」

    紗枝「あの立ち振る舞い。話し方、歩き方…どれを取っても、正にオトコって感じ、しますやろ?」

    友紀「………ええええ……?」

    紗枝「ウチ…まさしく、あのお方に…」

    友紀「…」

    紗枝「…これ以上は言えまへんわ!ライバルの目の前でなんて…」ペシッ

    友紀「……まさか、ジジ専…?」

    紗枝「年齢なんて関係あらしまへん。良えなあと思った方が良えんどす」

    友紀「…だからって、アタシにどうしろって…」

    紗枝「…簡単どす。ウチが右京さんにスカウトしてもらえるように話してもらえば…」

    友紀「え!?無理無理無理!!あの人を言葉で納得させるとか爪楊枝でホームラン打てって言ってるようなもんだから!!」

    紗枝「…そんなぁ…」

    右京「終わりましたか?」

    紗枝「えうっ!?」

    友紀「うわっ!?」

    139 = 1 :

    右京「一先ず君は置いといて、姫川君。君にお客さんが来ていますよ?」

    友紀「え?」

    右京「どうぞ」

    「…失礼します…」

    「…失礼…します…」

    友紀「…ッッ…」

    紗枝「?」

    右京「…学生時代の、お友達の方だとお聞きしました」

    友紀「…どうして…」

    「…」

    「…」

    友紀「…」

    「…その…ユッキ…」

    友紀「…」

    「…その、まさかこんな所で会うなんて、夢にも思わなかった…」

    友紀「…アタシも…」

    「…えっと…」

    「…もう!!いいから!!私が言います!」

    友紀「!」

    「ユッキ先輩!本当にすいませんでした!!」

    友紀「!!………え?」

    「私達、あれからずっと後悔してたんです!あんな別れ方して、連絡も取れなくなってて…!」

    友紀「…」

    「……お、俺も、俺も本当に、ごめんな!!」

    友紀「…キャプテン…」

    「俺ら、本当はずっと感謝してたんだ。いつも元気に、汗だくになりながら俺らを応援してくれてたお前に…」

    友紀「…」

    「けど、学生生活最後ってなった瞬間、ついお前に八つ当たりして…なんて器の小ささだって、後悔してた」

    友紀「…でも、アタシは…」

    「違う!お前は俺達を元気付けようと、無理をして…お前の優しさは、俺達だってよく分かってた筈なのに…!!」

    「…キャプテン。大学に行ってもずっと先輩の事探してました。何とかして連絡を取ろうと…」

    友紀「…」

    「だって、キャプテンは…」

    「おい!言うな!」

    「ダメ!!今言わなきゃ絶対後悔する!!」

    友紀「…え、え?」

    「キャプテンは…」

    「おい!」

    「キャプテンは、ユッキ先輩の事が好きだったんです!」

    友紀「…え?」

    140 = 1 :

    友紀「…」

    「…」

    「…」

    紗枝「・・・」

    右京「…」

    友紀「…え、嘘…」

    「嘘じゃ…ない…」

    友紀「…え?」

    「…俺、お前の事が、その…好き、だったんだ…」

    友紀「だって、2人は…」

    「私達、付き合ってないんですよ」

    友紀「…え?」

    「今日はサークルの仲間で来ただけです。私とキャプテンが同じ大学に進んで…」

    友紀「…」

    「…」

    「…だから、もう今日を逃したら、一生会えないかもしれないって…」

    友紀「…」

    「…だから、もし、その…キャプテンの事を…」

    「待てよ」

    「…え?」

    141 = 1 :

    右京「…」

    「そ、そんな、いつまでも同じ女を追いかけるなんて女々しい真似、俺がするわけないだろ?」

    「え、でも…」

    友紀「…」

    「…だからさ、お前はアイドル、頑張れよ!今日のお前、めちゃくちゃ良かったからさ!」

    友紀「…」

    「だから、これからはテレビの向こうから俺らの事応援してくれよ!俺、大学でも野球やってるから!!」

    「…」

    紗枝「…」

    「おい!いつまでもいたら邪魔だから、帰るぞ!余計な事言いやがって…」ポカッ

    「痛いっ!!…えっ!?あ、ちょっと!」

    「じゃあな!俺らも応援してるから!!」

    友紀「あ、うん…」

    142 = 1 :

    友紀「…」

    右京「…良いんですか?」

    友紀「…何が?」

    右京「追いかけなくても良いのか、ということです」

    友紀「…」

    右京「君は、彼に対して…」

    友紀「右京さん」

    右京「…」

    友紀「…あのね。アタシはアイドルだよ?恋愛禁止だよ?」

    右京「…」

    友紀「そんな…恋だなんて、アタシがするわけないじゃん」

    右京「…そうですか」

    友紀「…それに、追いかけたら、右京さん困るんじゃないの?」

    右京「…君の人生、君が一番良いと思ったことを…」

    友紀「なら決まりだね!」

    右京「…」

    友紀「アタシは、応援大好き、チアガールアイドル…姫川友紀なんだから!!」

    右京「…そうですか。君がそれを選ぶのなら、僕も最善を尽くす以外ありませんねぇ」

    友紀「うん!」

    143 = 1 :

    「いやー、今回は本当にお疲れさんね。でもびっくりしたよ!まさかの隠し球だもん」

    紗枝「いややわぁ。照れてしまいますわ」

    右京「隠し球ではなく、客席からの乱入です」

    紗枝「…堪忍しとくれやす…」

    友紀「でも助かったのは本当だよ?」

    「そうだねぇ。本当に勧誘しちゃいなよ。才能もあるよ、きっと」

    右京「…」

    「おーい!!紗枝ちゃーん!!」

    友紀「?」

    「?…今度は誰?」

    紗枝「…」

    「紗枝ちゃん!!ああ良かった!ギリギリ間に合ったわ…」

    紗枝「…」

    友紀「あれ…なんかこの光景…」

    「…紗枝ちゃん!!こないだは悪かった!!せやからもういっぺん俺の告白を聞いてくれ!!」

    友紀「おっ!!?」

    右京「…」

    紗枝「…」

    「俺、紗枝ちゃんが、この世で一番…!!」

    紗枝「お断りします」

    「す」

    友紀「…」

    右京「…」

    「…」

    紗枝「ウチ、もうアイドルになるって決めたんどすわ。せやから人と付き合うなんて出来まへんわぁ…」ケラケラ

    「」

    友紀「うっわー…腹黒…」

    144 = 1 :

    翌日

    友紀「いやー…今回は疲れたねぇ…」

    右京「それだけ頑張って働いたという証拠です」

    友紀「そ、そう?えへへ…」

    右京「君の仕事ぶりも、ちゃんと評価されていたようですからねぇ」スッ

    友紀「?あ、これ今日の新聞…アタシが載ってる!!」

    右京「ええ。早速オファーが来ているようですよ。事務所から連絡が来ましたからねぇ」

    友紀「うぅ…良かったぁ…」

    右京「ええ。…しかし」

    友紀「…」

    紗枝「あ、これウチの事も書いてありますなぁ…」

    右京「…」

    紗枝「勿論、ウチにもオファーが来とるんちゃいますか?」

    右京「来ているにせよ。君はまだ事務所に所属してすらいませんよ?」

    紗枝「そんなん、これからどうとでもなります。せやから今は、束の間の休息を…」

    右京「…君、親を説得出来たんですか?」

    紗枝「これでも、人を説得するんは得意分野なんどすえ」

    友紀「うわー…」

    右京「…困りましたねぇ」フゥー

    紗枝「うふふ。前途多難。これもまた一興…」

    友紀「で、でも仲間が増えて良かったじゃん!右京さん!」

    右京「今は、そうするとしますかねぇ…」

    紗枝「うふふ」

    右京「…ああ、それよりも…」ガサガサ

    友紀「?」

    右京「…これを、君に」

    友紀「?…これ、グラス?」

    右京「ええ。お酒を嗜む君に丁度良いかと思いまして…」

    友紀「…あっ」

    145 = 1 :

    …。

    友紀『駅で何か買う分にはアリ?』

    右京『帰りに買うのでしたら結構です。僕も、そうするつもりですからねぇ』

    友紀『え!?右京さんお土産買う人いるの!?…あ、ご、ごめん…』

    右京『お気になさらず。しかしこれがいるんですよ…』

    …。

    友紀「…あ、ありがと…」

    右京「ええ。気に入っていただけると嬉しいのですが…」

    友紀「う、うん!大事にする!一生使う!」

    紗枝「…あらあ?もう酔いが回ったんどすか?友紀はん…顔が真っ赤どすえ?」

    友紀「え!?ち、違うよ!!日焼けしただけ!!」

    紗枝「…ま、それより…これから先輩として、よろしゅうたのんます。友紀はん」

    友紀「え、あ、うん…」

    右京「…ンフフ」

    友紀「!な、何で笑ってるのー!」

    右京「何故でしょうねぇ…」

    紗枝「うふふ。ほんま、面白い方やわぁ」

    友紀「え!さ、紗枝ちゃんまでー!」

    第四話 終

    146 :

    乙!
    思ったほどヤンデレじゃなさそうで何より

    147 :

    おつおつ
    紗枝はんかわいい

    149 :

    おつ
    続きも期待

    150 :

    面白いなぁ。
    それにしても右京さんが「可愛いボクと野球どすえ担当の右京です」とか言ってるの想像すると吹き出してしまうww


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