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元スレほむら「巴マミがいない世界」

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151 = 1 :

杏子「あたしには狩り場を守るって理由もあるが、お前はそうじゃない。この町ではほとんど魔女を狩ってないみたいだしな。かと言って戦闘狂ってタイプでもねぇだろ」

杏子「ワルプルギスの夜に何か因縁でもあるのか……あるいは」

杏子「この町にこだわる理由でもあんのか?」

ほむら「……」

この町にこだわる理由。

それは、ほむらにとって最も大切な人がこの町にいるから。
ほむらがワルプルギスの夜を倒さなければ、その少女は我が身を犠牲にしてでもこの町を守ろうとしてしまうから。

……そんなことを、わざわざ説明してやるつもりはない。

ほむら「そんなものないわ。ただの気まぐれよ」

杏子「……ま、いいけどさ」

恐らく杏子は、ほむらが何か隠し事をしていることには気づいたのだろう。
だからこそほむらは、明確に『話したくない』という意思表示をしたのだ。

ほむら「話は以上よ。ワルプルギスの夜が来る前日に、またここに呼ぶわ」

杏子「わかったよ」

これでいい。
あとは、何も起こらないことを祈るだけだ。

152 :

ここから何が起こるかなぁ……

153 :



この後は流れ的に、怒涛のさやかちゃんラッシュですね・・・

154 :

乙乙

155 :

***

その魔女は、決して弱いわけではなかった。
魔法少女との戦闘経験も豊富で、知能も高く、杏子でさえ単身で挑めば苦戦していたかもしれない。

……そんな魔女が、困惑していた。

さやか「……」

その魔法少女は何かがおかしかった。

もう十分にダメージは与えたはずだった。
普通なら、実力の不足を認識して逃げ出していただろうが、その気配もない。

そもそも、どれだけ攻撃しても、全くと言っていいほど怯まないのだ。

今まで戦った中に、こんな魔法少女はいなかった。

大抵の魔法少女はとどめを刺される前に逃げ出していたし、逃げずに立ち向かった魔法少女も、その実力差を覆すことはできずにいた。

だが、この魔法少女は、そのどちらにも当てはまらないかもしれない。
実力的にはその魔女には及ばないはずなのだが、どうしても嫌な予感が消えない。

156 = 1 :

何度終わりを確信して攻撃したか、もうわからない。

(……きりがない。次の攻撃で牽制して、その隙に逃げるべきか)

さやか「」ダッ

魔法少女が攻撃を仕掛けてきた。

剣を振り上げ向かってきたが、魔女は的確に反撃した。

……いや、その反撃はあまりにも的確過ぎたのかもしれない。

さやか「……」

魔女は終わりを確信した。
確信せざるを得なかった。

(……杞憂だったか。わざわざ逃げる算段を立てる必要もなかったか──)

一瞬の弛緩。

それが、その魔女の敗因だった。

157 = 1 :

***

杏子「……さーて、もう一匹くらい狩っとくかな」

その日も杏子は、危なげなく魔女を倒したところだった。

グリーフシードの予備はまだあったが、せっかくなのでもう少し狩っておこうかと思い、杏子は街を歩き始めた。

しばらくすると、魔力の反応があった。
しかし、杏子がその地点に近づくと、何者かが戦闘を行っているような音が聞こえてきた。

杏子(……先客か。この音の感じからすると、さやかか?)

杏子は、物陰から様子をうかがった。

わざわざ邪魔するつもりはなかった。
この前さやかにも直接言ったが、この町で魔女を狩ることを許さないわけではない。

単に、少しは強くなったか見てやるか、くらいの気持ちだった。

ところが──

杏子(あいつ、また性懲りもなく……!)

さやかの戦闘相手は、魔女ではなく使い魔だった。

杏子「ったく……!」

杏子も、前回の戦闘くらいでさやかが素直に従うようになるとは思っていなかったので、案外冷静ではあった。

158 = 1 :

杏子「おい、何してんだてめえ!」

ズバアッ

杏子「!」

杏子が声を掛けると、さやかは即座に使い魔を切り捨てた。

さやか「……きたわね」

さやかが杏子に向き直る。
その行動は、杏子を誘い出すために使い魔を利用したとしか思えなかった。

杏子「……使い魔は狩るなって、ついこないだ言ったばかりだよな? 今度こそ殺されたいか?」

さやか「勝手にすれば? あんたの言うことなんて、聞くわけないでしょう」

杏子「あれだけ言ったのに、まだわかんねーのか? いい加減、正義の魔法少女だなんて戯れ言をほざくのはやめておきな」

さやか「……」

さやかは、異様に落ち着いていた。
前回杏子が戦った相手と同一人物には見えなかった。

159 = 1 :

さやか「……今日は、ずいぶんおとなしいのね。文句があるなら、直接かかってきたらいいじゃない」

杏子「……?」

さやかの様子がおかしい。

どう見ても、戦闘を誘ってきている。
だが、前回あれだけやられておいて、何の考えもなしに喧嘩を売ってくるとも思えない。

杏子(まさか、この数日でそんなに変わったってのか?……面白いじゃねーか)

杏子はにやりと笑って、槍を構えた。

杏子「わかった、お望み通りズタボロにしてやるよ」

さやか「……前回のようにはいかないわよ」

杏子「期待してるぜ」

杏子は、さやかに襲いかかった。

160 = 1 :

激しく、剣と槍がぶつかり合う。

さやか「……ッ」

杏子「……」

とりあえず全力は出さず、杏子はさやかの様子を観察した。

前回に比べれば、確かに動きは良くなっている。
この数日で、かなり戦闘を重ねたのだろう。

だが……

杏子(……舐めてんのか? この程度で、あたしに勝てるとでも思ったのかよ)

実力差は覆らない。

もちろん杏子も、さやかの実力が杏子に及んでいると期待していたわけではない。
しかし、さやかから戦闘に誘ってきたのだから、何かしらの策はあるのだと思っていた。

しかし、それすら見られない。

やはり、素人がたった数日で杏子に勝とうというのが、そもそもの間違いなのだ。

杏子は、軽くさやかに失望した。

161 = 1 :

杏子(話にならねーな。もう終わらせるか)

槍を多節棍に変化させると、さやかはわずかに動揺した。
前回、壁に叩きつけられたことが印象に残っているのだろう。

だからこそ、そこを警戒する。
そして、それこそが杏子の狙いでもあった。

一瞬にして槍を繋げ直し、横凪ぎに振るう。

予想外の攻撃にさやかは対応できず、激しく吹き飛ばされた。

杏子「……もういいだろ。あたしに挑むんなら、あと数ヵ月は経験を積んでからにしな」

杏子は、倒れ込むさやかに背を向けて言い放った。

これで使い魔を倒さなくなるとも思えないが、とりあえず実力差は思い知ったはずだ。
また勝負を仕掛けてくるにしても、しばらくは先のことになるだろう。

杏子は、その場を立ち去ろうとした。

しかし──


さやか「待ちなさいよ。何勝手に終わらせてんの?」

162 = 1 :

杏子「!」

杏子が振り返ると、何事もなかったかのようにさやかが立っていた。

杏子(……浅かったか? いや、手応えは十分だった。それにしては回復が早過ぎる。待てよ、そういえば……)

以前キュゥべえが言っていたことを思い出す。
さやかは、他人の怪我を治すという願いで魔法少女になったと言っていた。

そして、魔法少女の能力は契約の願いによって決まる。

杏子(なるほど、回復魔法を得意としてるってところか。だが……)

結局は同じことだ。
むしろ攻撃に特化した能力であれば一矢を報いることもできたかもしれないが、回復しているだけではどうしようもない。
苦しむ時間が長引くだけだ。

杏子「これ以上続けても無駄だ。本気で勝てると思ってんのか?」

さやか「もちろん。無駄かどうかなんて、あんたが決めることじゃないわ」

杏子「……確かにな」

そう言われては仕方がない。

ふたりの魔法少女は、戦闘を再開した。

163 = 1 :

しかし、やはり戦局は変わらない。

杏子はさやかを攻め立てながら、降参を促す。

杏子「いい加減にしろ。 お前がどれだけあたしに勝ちたいかはよくわかったが、今はどうしようもねーだろ。ここは退いとけよ!」

さやか「……!」

これまでは半ば無表情だったさやかの表情に、変化が見られた。

さやか「黙れ、あんたなんかにはわかんないわよ!」

杏子「……なんだと?」

さやか「せっかく魔法少女になったのに、その力をそんな風にしか使えないなんて……どうせあんたなんて、自分のためだけに魔法少女になったんでしょ!?」

さやかの言葉が、杏子に突き刺さった。

杏子「てめえ……ッ!!」

瞬間、杏子は我を忘れた。

手加減を忘れ、全力でさやかに攻撃を叩き込む。

杏子(しまっ……)

あわてて槍を引こうとしたが、もう手遅れだった。

ザクゥッ

槍は、さやかの腹部に直撃した。

164 = 1 :

杏子「……っ」

だが、さやかに動揺はない。
それどころか、そのまま杏子に斬撃を叩き込んできた。

ズバァッ

杏子「ぐっ……」

攻撃直後の隙を狙われた。
この戦闘で……いや、前回の戦闘から通して、初めて明確に杏子にダメージを与えた一撃だった。

だが、浅い。

対して杏子の槍は、完全にさやかの脇腹を突き抜けていた。
どちらのダメージが大きいかなど、考えるまでもない。

杏子(……やり過ぎちまったか。まぁあいつもこれで諦めるだろ)

さやかも、これ以上やっても勝てないことは十分にわかったはずだ。
大人しく杏子に従うか、あるいはまた後日再戦を挑んでくるか……

そんなことを考えていた杏子の耳に、あり得ない言葉が聞こえてきた。



さやか「……まずは、ひとつ」

165 = 1 :

杏子「……ッ!?」

杏子の全身が総毛立った。

つまり、さやかはこう言っているのだ。

今の攻防を繰り返すことで、杏子にダメージを与え続けると。

思えば、さやかは杏子の全力の攻撃を待っていたのかもしれない。
そうでなければ、いくら攻撃直後であろうと大きな隙は生まれなかっただろう。

その上で、全力の攻撃を防御すらせず、受ける。

いくら回復魔法に長けた魔法少女であろうと、杏子には正気の沙汰とは思えなかった。

杏子「てめえ、なんだそりゃあ……まるで、ゾンビみてーな戦い方じゃねーか! それが、正義の魔法少女の姿かよ!?」

思わず、杏子は叫んでしまった。
叫ばずにはいられなかった。

さやか「……格好なんて、どうでもいい」

杏子「っ!?」

さやか「あたしは、あんたみたいな奴には絶対に負けるわけにはいかないの……そのためなら、ゾンビにだって、なってやるわよ……ッ!」

166 = 1 :

杏子「…………」

この瞬間、杏子は完全に戦意を喪失した。

この戦闘における、互いの覚悟の違いを思い知らされたのだ。
まさか、さやかがこれほどの覚悟をもって杏子に挑んでいたとは思っていなかった。

杏子「……あたしの負けだ」

さやか「……」

杏子「もうお前の邪魔はしねーし、使い魔も狩る。それで文句ねーだろ」

杏子は吐き捨てるような口調で言い放ったが、返事はなかった。

杏子の敗北宣言を聞いた時点で意識を失ったのか、さやかはその場に崩れ落ちる。

杏子「さやか!?」

地面に倒れ込むかと思った次の瞬間、ひとりの魔法少女が現れ、さやかを支えた。

ほむら「大丈夫。気絶しているだけよ」

杏子「……見てたのか」

ほむら「……」

杏子「チッ……」

見られていたことを知り、イラつく。

もう一秒たりともこの場にいたくなかった。
杏子はさやかを一瞥して、その場を後にした。

167 :


熱さと冷静さのバランスがおもしろい

169 :

***

ほむら(まさか、こんなことになるとはね……)

ほむらは、ふたりの戦闘を始めから隠れて監視していた。
前回のように、キュゥべえがまどかを連れてきたときに戦闘に横槍を入れるためだ。

しかし、この展開は予想外だった。

ほむらとしては、まどかが関わらないのであれば、このふたりには気が済むまでやりあってもらって構わないと考えていた。
使い魔を狩ろうが狩るまいが、ほむらにはどうでもいいことだ。

その上で、勝つのは杏子であり、さやかが納得することはないだろうと予想しており、しばらくはふたりの戦闘が勃発することを覚悟していた。

だが今日の杏子の様子を見る限り、もう彼女にさやかと争う気はないだろう。
素直に使い魔を狩るとも思えないが、少なくとも、さやかに正面から戦闘を仕掛けることはないと思われる。

まどかの契約の機会が減ったという面では、好ましいことだ。

しかし、ほむらは手放しには喜べなかった。

不安がよぎる。

ほむら(さやかの、あの戦い方は……)

170 = 1 :

「全く、わけがわからないよ」

──不意に、ほむらの背後から声が響いた。

ほむら「……!」

QB「まさかこんなことになるなんて、君たちは本当にわけがわからないね」

現れたのは、キュゥべえだった。

ほむら「……さやかにあの戦い方を教えたのは、あなたね」

QB「そうだよ。ただでさえ、魔法少女はどんな傷でも回復できるのに、痛覚なんて動きを阻害するだけだ。回復魔法に長けたさやかならなおさらだよ」

ほむら「……」

QB「さやかは杏子に勝つ方法を求めていた。だから、彼女に合った戦闘方法を教えてあげたのさ」

ほむら(確かに、さやかの特性には相性のいい技術ではある、が……)

『痛覚遮断』

今の段階でさやかが知ってしまったのは、予想外だった。
できれば、あまり使用すべきではない技術だ。

あれは、格上の相手に攻撃を当てるには有効だが、当然その分傷を負い、回復のために魔力を使用することになる。
もし魔女との戦闘で使用した場合、落とすグリーフシードで回復できる量以上の魔力を消費する可能性があり、そんな戦闘が続けば、消耗していく一方だ。

本来なら、魔法少女は勝てない魔女とは戦闘するべきではないし、もし勝つ手段があっても、戦闘前よりソウルジェムを濁らせるとわかっていれば戦わない。

だが、さやかはそういう考え方をするタイプではない。
魔女を見つければ、格上であろうと確実に狩ろうとするだろう。

だからといって、今すぐ魔女になるというわけでもないだろうが……

ほむら(……気を付けておきましょう)

171 = 1 :

ほむらは、改めてキュゥべえに視線を向けた。

ほむら「……それで、あなたの思惑通り、美樹さやかを佐倉杏子に勝たせることができたわけね」

正直、相変わらずの黒幕ぶりに感心した面もあり、ほむらは半ばあきれるような口調で称賛した。

──だが。

QB「本気で言っているのかい?」

ほむら「……え?」

QB「さやかが、痛覚を無視する手段を得た程度で、それであの杏子に勝てると、本当に思うのかい?」

ほむらの脳内が疑問符で埋まる。
キュゥべえは、本気で不思議がっている様子だった。

ほむら(こいつは何を言っているの? 思うも何も、現に……)

QB「あのまま戦闘を続けていれば、先にさやかの魔力が尽きていたことは明らかだ。そうなれば、痛覚の有無など関係なく、杏子は確実にさやかを殺せていただろうに……」

ほむら「あなた、何を……」

QB「単純に、魔力の消費を嫌って……? いや、それにしては、杏子の様子が腑に落ちないし……」

ほむら「……!」

ほむらは、ようやく気づいた。
なるほど、この展開は、キュゥべえにとっても予想外のものだったのだ。

恐らくキュゥべえの狙いは、さやかが痛覚遮断を使用した上で、それでも杏子に負けることだったのだろう。
もしそうなっていれば、さやかはこの場で魔女になっていてもおかしくなかった。

痛覚遮断を教えたのは、杏子にさやかをギリギリまで追い込ませるための手段だったのだ。

だがキュゥべえの計算外だったのは、人間の感情だった。
キュゥべえも、簡単な喜怒哀楽なら理屈として理解はしているだろうが、杏子がさやかに向けるような複雑な感情は、とても理解できないのだろう。

172 = 1 :

ほむら「……そうね、あなたにはわからないでしょうね」

ほむらの言葉に、キュゥべえはやっと合点がいったような口調で呟いた。

QB「やはり、感情というものなのかい? 厄介なものだね。僕たちには、まだまだ理解できそうにないよ」

ほむら「……」

キュゥべえがこんな調子なのはいつものことだ。
感情がない相手に振り回されても仕方がない。

やはりキュゥべえを出し抜くには、感情を利用するのが一番なのだろうか。
しかし、それこそ理屈で測れないのが人の感情というものだ。
利用しようと思って利用できるものではない。

ほむらは、一旦頭を切り替えた。

ほむら「あなたがいるなら丁度いいわ。美樹さやかのこと、任せたわよ」

さすがに気絶した少女を路上に放置するのは気が引けたが、キュゥべえがいるのならまぁいいだろう。

QB「僕に戦闘能力はないよ?」

ほむら「いいのよ、さやかもそろそろ目を覚ますことでしょう」

さやかに見つかり、余計な勘繰りはされたくない。

ほむらは、歩いてその場を後にした。

173 :

バーサーヤカ好き、でも濁りがヤバいんだよなぁ…。乙

174 :

***

杏子との二度目の戦闘から数日が経った。
あの日から、さやかは杏子の姿を見ていない。
どうやら意図的に避けられているようだ。
さやかとしても、わざわざ争いたいわけではないので問題はなかった。

ほむらも、以前のようにさやかに干渉してくることはなくなった。
魔法少女になってしまった以上、あとは好きにしろといったところか。
しかし、常に何やら観察されているように感じるのは気のせいだろうか。

まどかは、今のところは契約する気はないようだ。
あたしからは、『願いがないのなら魔法少女にはなるべきじゃない』以外のことは言っていない。
あとは、まどか自身の判断に任せるだけだ。

そして、今日は……

まどか「どうしたの? そわそわしちゃって」

さやか「……別に、そわそわなんてしてないけど」

まどか「隠さなくてもいいじゃん。今日からでしょ? 上条くんが学校に来るのって」

さやか「……うん」

そう、今日は、恭介が退院してから初めて学校に来る日だ。

退院には立ち会ったが、それからはまだ一度も会っていない。
病院ならお見舞いという建前もあるが、用もなく家にまで押し掛けるのはさすがに恥ずかしい。
それに、恭介もブランクを取り戻すのに忙しいらしく、ほとんど連絡もできなかったのだ。

175 = 1 :

まどか「あっ、上条くん来たみたいだよ」

さやか「……!」

教室に入るなり男子に迎えられ、ふざけ合っている。
恭介が日常に戻れたのだと思うと、さやかの胸が熱くなった。

さやか(……魔法少女になってよかった)

後悔なんて、あるはずがなかった。

まどか「さやかちゃん、上条くんのとこに行ってきなよ」

さやか「いいよ、あたしは入院中も会ってたし、恭介も恥ずかしいだろうし……」

まどか「もう……しょうがないなぁ」

思わずほっとする。
まどかも、余計な気を使わなくていいのに。

176 = 1 :

まどか「上条くーん!」

さやか「!?」

完全に油断していた。
まさか、そんな強行手段をとってくるとは……

恭介「おはよう、鹿目さん」

まどか「おはよう、上条くん。退院できてよかったね!」

恭介「うん、ありがとう……えっと、さやかはどうかしたの?」

まどか「ほら、さやかちゃん!」

……どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。

さやか「お、おはよう恭介。退院おめでとう」

恭介「ありがとう。思えば、入院中はいろいろとお世話になったね。本当に助かったよ」

さやか「き、気にしなくていいって!」

恭介「これからはまたいつでもバイオリンを聞きにきてよ。聞いてくれる人がいると、僕の練習にもなるからさ」

さやか「うん、ありがと」

恭介「じゃあまた」

177 = 1 :

恭介が離れてから、さやかは盛大に息を吐き出した。

さやか「ふぅ……まどか、あんたねぇ」

まどか「ご、ごめんね。怒った?」

少しくらいは文句を言ってもいいかと思っていたが、不安そうにこちらを眺めるまどかを見ると、そんな気は失せてしまった。
残ったのは、感謝の気持ちだけだった。

さやか「……ううん、ありがと」

まどか「どういたしまして!」

満面の笑みでそう言われると、何も言えず、苦笑するしかなかった。

こういうときに実感するのだ。
まどかの強さを。

普段はおとなしいくせに、他人のためならどんなことでもできてしまうような……

それが、鹿目まどかという少女なのだ。

178 = 1 :

その日の放課後、さやかは仁美に呼び出された。
大事な話があるということだったが……

さやか「ごめん、待たせちゃったかな」

仁美「いいえ、私も今来たところですわ」

さやか「ならよかった。で、話って何?」

仁美「……恋の相談ですわ」

さやか「恋!? 仁美が? なんか意外……」

さやかは、仁美の様子がいつもと違うことに気がついた。
普段はどちらかと言えばおっとりしている彼女が、とても真剣な表情をしている。

仁美「私、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」

さやか「うん」

仁美は、意を決したかのように口を開いた。

仁美「ずっと前から私、上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」

さやか「え……」

179 = 1 :

あまりにも予想外の言葉だった。
仁美が、恭介のことを……?

仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」

さやか「あーまぁ、腐れ縁って言うか、なんて言うか……」

仁美「本当にそれだけ?」

さやか「……」

さやかは思いの外落ち着いていた。
なぜ、仁美がさやかにこのことを打ち明けたのかを考える。

さやか「……なんで、仁美はこのことをあたしに話してくれたの?」

仁美「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」

さやか「あたしが恭介に対してどう思ってるかなんて、仁美に話したことあったっけ?」

仁美「ありませんわ。だから、何もないのならそれでいいんです」

さやか「……」

仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」

180 = 1 :

さやか「……仁美はそれでいいの?」

仁美「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですから。あなたには私の先を越す権利があるべきです」

そういうことか。

こんな状況にも関わらず、さやかは笑みを押さえ切れなかった。

なんていい子なんだろう。

仁美の性格からして、ほんの少し恭介が気になったくらいでは、ここまでの行動は起こさない。
好きになってからあたしの思いに気づいたのか、あるいはあたしの思いを知りながら好きになってしまったのか……

どちらにしても、仁美は相当悩んだのだろう。

そして、自分の気持ちに嘘は吐けず、親友のことも裏切れず、最も自分が納得できる方法を探したのだ。

もっと楽な道もあったはずだ。

実際にあたしの思いを聞いたことはないのだから、全てを知らなかったものとして恭介に告白することもできた。

でも、仁美はそれをよしとしなかった。

さやか(……あたしって、本当に親友に恵まれてるんだなぁ)

181 = 1 :

仁美「話は以上です。では、これで……」

さやか「あ、待って!」

呼び止められ、仁美に動揺が走った。

さやか「あたしにも、何か言わせてよ」

仁美「……ごめんなさい。急にこんな話をしてしまって。私、自分勝手ですわよね」

さやか「え? そんなこと……」

仁美「いいえ、自分でもわかってますの。さやかさんがこれまでどれだけ上条くんへの思いを大切にしてきたのか。それを考えると、本当に申し訳ないですわ」

さやか「……なんか恥ずかしいんだけど。あたしってそんなにわかりやすいの?」

仁美「それなのに、急に告白しろなんて言われても、困りますわよね」

仁美は、完全に落ち込んでいた。
目も合わせてくれない。

さやか「待って、違うよ。そんなこと思ってないって」

仁美「え?」

さやか「呼び止めたのは、お礼を言いたかったからだよ。わざわざ話してくれて、ありがとう」

182 = 1 :

仁美は、ポカンとした表情でさやかを眺めた。

仁美「……許してくださるんですの?」

さやか「許すも何も……仁美こそいいわけ? 本当に好きなんでしょ? 恭介のこと」

仁美「……はい。ですが、さやかさんに黙って告白なんてできませんわ」

さやか「あたしも恋愛なんてよくわからないけどさ、そういうもんなんじゃないの? 恋愛って。早い者勝ち! みたいな」

仁美「……恋愛ドラマの見過ぎでは?」

さやか「あはは、そうかも」

仁美がくすりと笑った。

よかった。
いつもの調子に戻ってくれたようだ。

恋愛と友情。
人によってはきちんと優先順位をつけているのだろうが、どちらかを選ぶことでどちらかを捨てるなんて、あたしにはできない。

さやか「仁美、ありがとう。ちゃんと考えて、後悔しない道を選ぶって約束するよ」

仁美「えぇ。それでこそさやかさんですわ」

……さて、どうしたものか。

183 :

些細なこととはいえ契約の時期的にハコの魔女から仁美を救ったのはさやかではないんだな

184 :

杏子との事に一区切りついてるぶん少し余裕があるのだろうか。乙

185 :

ソウルジェムの真実について知らないままだから余裕があるな

186 :

おれ個人としては腐りもせずにゾンビの称号が手にはいるなんて、けっこう嬉しいけどな
まぁ、だからどうしたって話だが

187 :

知らずにゾンビになって相当ショックなのはよくわかったけど
こんな体じゃキスしてなんて言えないには放送当時首を傾げた
だって親友のまどかに寄り添われながら言うんだもの

188 :

ゾンビも結局そのキャラがどう捉えるかでしかないしな
さやかちゃんだってお年頃の女の子だし

189 :

まあゾンビという表現するのは違和感あるね
ゾンビなら負傷したら基本的に回復しないだろっていう
マジカル☆義体っていう表現が個人的にはしっくり来たり

190 :

まあ大事なのは、知らん間に自分が普通の人間じゃなくなってたという点であって
女子中学生の感性ではとても喜べなかったから、ゾンビって表現したんだろうね
嫌悪感が一番最初に来た、それはしょうがない

しかし、ポータブルでそれを見て気持ち悪いと表現した上条は誤解からだろうと絶許

191 :

誤解というかポ外観がそのものズバリゾンビなんだから仕方ないだろ
さやかが中学生なように上条だって中学生なんだから咄嗟に理想的な対応とれという方が無茶

192 :

普通の人間じゃなくなるのは、魔法少女になった時点で覚悟しておくべきことなんだけどね。
あれだけの軌跡を起こしておいて、まだ人型をしてるだけましじゃん……と思ってしまうのは、すれた大人だからなのかな?

193 :

自分なら正直ゾンビになる(基本的には人間)代償として願いが叶うならゾンビになるよ。魔女化のことを知ったらどうなるかわからないけども。

194 :

上条さんはもう、虚淵とかいうまど神様の上位存在が絶対さやかを不幸にするよう設計した舞台装置だから
彼が何をどう頑張っても虚淵の手で悪い方へ向けられるだろうから、心情や性格を考察してもしゃーないねん

……と思ってたんだけど、映画では仁美にも昇龍拳させたからな
やっぱ男としてどっか残念なんだろうな

195 :

良くも悪くもバイオリン馬鹿だからな

196 :

せめてウィクロスの香月レベルは欲しかったな
展開のためとはいえ、理解力もあってすぐにアドバイスとか考えてくれた善人
上条君とはポジションが似ているのに段違い


思ったけど、恭介がさやかの義弟なら話は変わったのかな?

197 :

男子中学生なんてあんなもんだろ
漫画とアニメとゲームと部活とエロで頭がいっぱい
むしろ相当できた子だと思うよ、上条くんは

198 :

確かに中学生くらいなら、ちょっとかわいい子に告られたら即OKだわな。
さやかが入院中に、乳の一つも揉ませてやれば話は違ったんだろうが……。

199 :

大事なのは男子中学生として妥当かどうかなのかな
さやかが一度限りの奇跡を使おうと思うまで惚れる相手かどうかじゃない?

このSSでは、ほむらの言う通りマミさんが既に死んでいて状況が異なってるけど
アニメ本編でのさやかはマミさんが首を食い千切られたのを目の前で見ている
強いマミさんでも死んでしまうような戦いに身を投じなければいけないと知っている

逆に言えば見滝原の平和を守るって新たな義務感を背負ったし
目の前のまどかを助けたかったってのも大きかっただろうが
結局願いは「恭介の腕を治して」

どの辺りにそこまでするほど惚れていたのか、が見えにくいから色々言われるんだと思う
まあイケメンで金持ちってわかりやすいスペックは高いから最悪それでもいいんだけれど
ただの面食いや金目当てが命を投げ出すかなあ

200 :

ずっと子供の頃から仲良しだったんだろ
昨日今日惚れた相手じゃないんだし


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