元スレほむら「巴マミがいない世界」
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101 = 1 :
さやか「えっ……そう? どう違うの?」
内心あわてながらまどかに問いかけると、返ってきた答えは斜め上のものだった。
まどか「なんていうか……真面目?」
さやか「失礼な!」
まどか「ごめんごめん」
しばらくふたりで笑い合う。
さやかは、ごちゃごちゃ考えていたことがバカらしくなった。
さやか「……ねぇ、まどか」
まどか「何?」
さやか「あたし、魔法少女になった」
102 = 1 :
まどか「……」
まどかは特に表情を変えず、一言だけ答えた。
まどか「……そっかぁ」
さやか「ごめんね、相談もせずに急に決めちゃって」
まどか「ううん、なんかそんな気がしてた。さやかちゃんなら、契約しちゃうよね」
さやか「……どういう意味さ」
さやかは、ほんの少しむっとしてまどかの顔を見た。
さやか「あたしが強欲だってこと?」
そんな風に思われていたのだろうか。
いや、自分でも完璧には否定できないけど……
しかしまどかは、きょとんとして言葉を続けた。
まどか「違うよ。だってさやかちゃん、上条くんのために契約したんでしょ?」
さやか「え……」
さやか「助ける手段があるなら、さやかちゃんがいつまでも悩んでるはずないよね」
103 = 1 :
さやか「まどか……」
胸に込み上げてくるものがあった。
不覚にも、泣きそうになった。
別にまどかは、さやかが契約したことに対し、よかったとも悪かったとも言っていない。
実際、どちらでもないのだろう。
しかしまどかはただ、誰よりもさやかのことを理解してくれているのだ。
だからこそ、余計なことは言わない。
それは、無責任に励まされるより、よほどさやかの心に響いた。
さやか「まどかぁっ!」
まどか「ひゃあっ!」
さやかは、思わずまどかに抱きついた。
さやか「……やっぱりまどかはあたしの親友だよ」
まどか「もう、今更何言ってんのさ」
まどかは、少し照れながら答えた。
まどか「当たり前でしょ」
104 :
いろいろ丁寧に進むな。乙
106 :
***
放課後、ほむらはとあるゲームセンターへ向かった。
目的は、佐倉杏子に協力を取り付けることだ。
普段より早いタイミングだが、杏子との接触が早かった以上、早めに話しておくべきだとほむらは判断した。
目当ての人間はすぐに見つかった。
ほむら「こんにちは、佐倉杏子」
杏子「待ち伏せか? いい趣味じゃねーな」
台詞ほど警戒されてはいないようだ。
さやかと比べれば、ほむらの方が杏子好みの魔法少女ということだろうか。
ほむら「話があるの。あなたに協力を要請したい」
杏子「……内容は?」
ほむら「2週間後……いえ、正確にはもう少し後かしら。この街に、ワルプルギスの夜がくるわ」
杏子「なっ……」
さすがの杏子も、完全には動揺を隠し切れなかった。
杏子「……なぜわかる」
ほむら「それは秘密。でも、確かな情報よ」
107 = 1 :
杏子「……」
信じさせるのは一苦労かと思ったが、案外あっさり信用したようだ。
こんな嘘を吐く意味のないことに気づいたのだろう。
杏子「ふん……なるほど、共闘しろってか」
ほむら「そういうことよ。どうかしら」
杏子「確かに、あたしとあんたが協力すれば倒せるかもしれねーな。伝説級の魔女ってのも、面白そうだ」
ほむら「……」
杏子「いいぜ、協力してやるよ」
ほむらは内心ほっとする。
とりあえず、第一段階はクリアだ。
ほむら「……ありがとう。詳しいことは、また後日話すわ」
108 = 1 :
***
さやかが契約して、数日が過ぎた。
今までに数匹の魔女と戦ったが、幸いにも、それほど強い魔女はいなかった。
その日も、さやかはいつものようにパトロールをしており、魔力を感じて駆けつけたのだった。
魔力の主を見つけ、さやかは軽い違和感を覚える。
さやか「なんかあいつ、今までに見た魔女と違うような……」
QB「あれは使い魔だね。端的に言えば、魔女の手下だ。グリーフシードは持っていない。今はそれほど力を持たないけど、人を何人か襲うことで魔女に成長するよ」
さやか「なるほど……それなら、倒さないわけにはいかないわね」
さやかは、すぐさま攻撃を開始した。
剣で数回切りつけると、使い魔はろくに反撃もせず逃げ出した。
使い魔というだけあって、やはり魔女に比べると強さは劣るようだ。
だからといって、逃がすわけにはいかない。
さやかは足元に複数の剣を展開させ、投げつけることで逃げ道を封じ、そこを更に切りつける。
少しずつ弱っていくのが動きからわかる。
109 = 1 :
さやか「よしっ、いける……!」
あと一撃で倒せる。
確信を持ったさやかは、複数の剣を同時に投げつけた。
あの使い魔の動きでは、全てをかわすことはできない。
それで終わるはずだった。
だが、信じられないことが起こった。
投げつけた剣が全て、叩き落とされたのだ。
さやか「えっ!?」
使い魔ではない。そんな力は残っていないはずだった。
意表を突かれたさやかは咄嗟に動くことができず、使い魔はその隙に逃げ出そうとする。
さやか「っ……! 逃がさない!」
あわてて剣を投げつけたが、やはり、全て叩き落とされてしまう。
ならばと、直接追おうとしたところで、介入者に立ち塞がれてしまった。
110 = 1 :
さやかは、介入者、佐倉杏子に詰め寄った。
さやか「……あんた、何のつもりよ!」
杏子「お前こそ、どういうつもりだ? あれは使い魔だろうが」
あきれたような口調で言われたが、さやかには意図がつかめない。
さやか「はぁ? 何が言いたいのよ」
杏子「わかんねーのか?」
杏子は、ぎろりとさやかを睨んで、言い放った。
杏子「卵産む前の鶏の首絞めてどうすんだって聞いてんだよ」
さやかの背中に冷たいものが走る。
その言葉の意味するところを、察してしまう。
さやか「……あんた、まさか……」
杏子「魔女になってから殺さないと、グリーフシードを落とさないだろうが。死にたくなかったら、素直にいうことを聞いておきな」
怒りがこみ上げてくる。
こんな奴が魔法少女であることに、激しく憤りを覚える。
111 = 1 :
さやか「……本当に救えないわね、あんた」
杏子「てめえは勘違いしてんだよ。魔法少女が魔女と戦うのは正義のためなんかじゃねえ、生きるためだ。使い魔まで倒してたら、自分が苦しくなるだけだぞ」
さやか「だとしても、誰かが殺されるのをわかってて放っておけるわけないでしょ!」
杏子「……ぬる過ぎんだよてめえは。他人のために契約した甘ちゃんらしいし、わかっちゃいたがな」
歯軋りが漏れる。
勝手にこちらの事情を詮索されていることに、苛立ちを隠せない。
杏子「今まで、なんであたしがあんたを見逃していたかわかるか? この町がいい狩り場だからだよ。あんたひとりが増えたところで、あたしの狩れる魔女の数が減ることはないからだ。あの黒髪の奴はほとんど狩ってないみたいだしな」
さやか(黒髪……転校生のことか。でも、ほとんど狩ってないって……?)
杏子「だが、てめえが使い魔も狩るとなれば話は別だ。魔女になるはずだった使い魔を狩り、更にその戦闘で消費した魔力を回復するために、別の魔女を狩る必要も出てくるだろ。それはさすがに見過ごせねーな」
さやか「……本当に自分のことしか考えてないのね。あたしはあんたとは違うのよ」
杏子「……」
112 = 1 :
ふと、杏子の目付きが変わった。
まるで誰かの言葉を借りているかのような口調で、杏子はさやかに問いかけた。
杏子「……お前は誰のために魔法少女になったんだ? その男のためか? それとも……」
杏子「……お前自身のためか?」
さやか「……?」
意味がわからなかった。
さやかの願いを知っているのなら、そんなわかりきった質問をするはずがない。
杏子は、舌打ちをしてから言葉を続けた。
杏子「……お前は魔法少女という存在をわかっていない。前にも言っていたが、正義の魔法少女なんてもんはありえないんだよ」
さやか「あたしの勝手でしょ。どうせあんたみたいな奴にはわかんないわよ」
杏子はため息をついた後、囁くように言葉を漏らした。
杏子「うぜえ……殺されなきゃわかんねーか?」
113 = 1 :
さやか「……ッ!?」
瞬間、凄まじい殺気を感じた。
気づけば、さやかは弾かれたように杏子に斬りかかっていた。
予測していたかのように待ち構えられているが、今更止まる気はない。
さやかは、ほぼ全力で剣を振り下ろした。
しかし、槍で容易く受け止められてしまう。
さやか「く……っ!」
杏子「どうした! そんなもんかよ!?」
激しい反撃を受けたが、危ないところでなんとか防御する。
……強い。
今まで戦ってきた魔女とは桁が違う。
今の攻防だけで、実力差は十分にわかった。
だが、さやかに退く気はなかった。
さやか(……こいつにだけは、負けるわけにはいかない)
──絶対に。
114 = 1 :
***
ほむら「……」
ほむらは、物陰に隠れてふたりの戦闘を眺めていた。
大抵の時間軸でそうなのだが、やはりこのふたりはいがみ合う運命にあるらしい。
ほむらは、改めてふたりを観察した。
さやかは、数日前に魔法少女になったにしては、なかなかいい動きをしている。
彼女は、決して才能に恵まれていないわけではない。
経験を積めば、かなりの強さを身に付けることが予想される。
だが、さすがに今の段階では、さやかに勝ち目はない。
対する杏子の強さは、才能よりも経験によるところが大きい。
巴マミの指導を受け、その後ひとりで生き抜いてきた彼女の強さは、生半可なものではない。
対魔女の戦闘はもちろん、対魔法少女の戦闘経験が豊富なことも、今回は強みになっている。
杏子の猛攻に、さやかは必死で食らいついているが、もはや時間の問題だ。
このまま戦闘が続けば、勝敗は火を見るより明らかだ。
115 = 1 :
ほむら(問題は、ここで私がどう動くべきかなのだけど……)
ほむらはわずかに逡巡したが、結論はすぐに出た。
ここは、関与しないのが得策だろう。
もしこの場にまどかがいれば、契約を防ぐために、ほむらが戦闘に割り込まざるを得なくなっていたわけだが……
そうでない以上、このふたりの戦闘を止める理由は、ほむらには存在しない。
また、戦闘に割り込めば、杏子とさやか、ふたりのほむらに対する心象も、いいものにはならないだろう。
万が一さやかがこの戦闘で命を落とせば、まどかがさやかのために契約する可能性もなくはないが、さすがに杏子もさやかを殺しまですることはないだろう。
ほむら(……問題はない。ここは静観を決め込みましょう)
116 = 1 :
だが次の瞬間、ほむらは自分の見通しの甘さを思い知らされた。
まどか「さやかちゃん!?」
ほむら「!?」
今だけは、最も聞きたくなかった少女の声が聞こえた。
ぎょっとして声のした方向を探ると、やはりそこには、まどかが息を切らして立っていた。
偶然通りかかった?
そんなはずはない。
これは作為的なものだ。
それが誰の仕業かなんて、決まっている。
ほむらは物陰から、まどかの足元にいるそいつを睨み付けた。
ほむら(インキュ……ベーター……ッ!)
殺意にも似た感情が迸った。
あいつがこの場面にまどかを呼んだのだとしたら、その狙いはひとつしかない。
この状況を盾にして、まどかに契約を迫るつもりだろう。
まどか「本当に、わたしが契約すれば、ふたりを止められるの……?」
キュゥべえがまどかに何を伝えているのかはわからないが、まどかの台詞で大体の想像はつく。
放っておくわけにはいかない。
117 = 1 :
ふたりの戦闘に、明確に優劣が見られ始めた。
さやかは、反撃を仕掛けることすらできなくなってきている。
杏子が、槍を本来の形状、多節棍に変化させた。
意表を突かれたさやかは、槍を巻き付けられ、勢いよく壁に叩き付けられる。
まどか「さやかちゃん!」
まどかが悲鳴を上げる。
ダメだ。
もう一刻の猶予もない。
まどか「わたしが、魔法少女になれば……」
ほむら「それには及ばないわ」
ほむらは、能力を発動させた。
118 = 1 :
まずは、派手な登場をして皆の注目を集める。
まどか「ほむらちゃん!?」
さやか「転校生……?」
杏子「お前……!」
反応を確認し、即座に能力を再度発動。
さやかの背後に移動する。
能力を解除すると同時に、彼女の首筋を手刀で強打し、気絶させる。
さやか「ッ……」
まどか「さやかちゃん!」
倒れそうになるさやかを、まどかが駆け寄って受け止めた。
キュゥべえに動かされてしまった形になるが、状況的にはこうするしかなかった。
むしろ、まどかの契約の機会をひとつ潰せたことを喜ぶべきか──
……残念ながら、ことはそれほど単純ではない。
119 = 1 :
杏子「……おい、どういうつもりだ」
ほむら「……」
何か答えたいが、まさか本当の理由を言うわけにもいかない。
杏子「一体何がしたいんだ。お前の目的はなんだ?」
ほむら「……素人相手に何を遊んでいるのよ。魔法少女同士で争うこともないでしょう?」
杏子「答える気はないってか」
ほむらの建前は瞬時に看破された。
どうも、そんなことを考える性格だとは思われていないようだ。
杏子は周囲を見渡し、まどかを目に留める。
杏子「あいつの契約を止めるためか? 確かに、それはあたしとしても望ましくねーな」
ほむら「……そんなところよ」
ほむらは曖昧な返事で誤魔化した。
できるだけ、自分の目的を知られたくはない。
それが弱みになりかねないからだ。
しかし、今はまだ問題ないはずだ。
杏子は恐らく、ほむらが『これ以上魔法少女を増やしたくないから契約を阻止した』と思っただろう。
『まどかの契約だからこそ阻止した』とは思っていないはずだ。
120 = 1 :
まどかには、ほむらと杏子の会話は聞こえていなかったようだ。
今も、さやかに呼び掛け続けている。
ほむらがまどかに近寄ると、それに気づいたまどかが顔を上げた。
まどか「……ほむらちゃん?」
……忠告をしないわけにはいかない。
ほむら「あなたはどこまで愚かなの。私の忠告を忘れたの?」
まどかは、口をきつく結んでこちらを見た。
わかっている。
まどかは優しすぎる。
軽率に契約してはならないとわかってはいても、目の前で傷つけ合う人間がいれば黙って見てはいられないだろう。
どうせ回復できるから問題ないというのは、魔法少女の理屈だ。
本来なら、まどかの考え方は人間として正しいのだ。
ほむら(……でも、私にも私の都合がある)
まどかを契約させるわけにはいかない。
とはいえ、今ここでこれ以上できることはない。
さやかは回復魔法に長けている魔法少女だ。
じきに目を覚ます。
その前にこの場から立ち去っておいた方がいいだろう。
ほむらは能力を発動させ、その場を後にした。
121 :
ここら辺はマミがいなくても原作通りだね
122 :
>>121
魔法少女としての在り方の思想が全く正反対なのに、どちらの言い分も間違っていないっていう矛盾の同居が成立しちゃっているから、こればっかりは改変のしようも無いんじゃね?
123 :
原作でも早々に退場したしな
124 :
ドラマCDでマミと杏子の関係が明らかになって態度は変わったけど……発表される前は険悪だと思われていたな。2人
125 :
***
さやかが目を覚ましたとき、既に杏子とほむらの姿はなかった。
さやかは若干の混乱を伴いつつも、まどかの存在に気づく。
さやか「まどか……? あんた、なんでここに……」
まどか「キュゥべえに、ここまで連れてきてもらったの。さやかちゃんが危ないって聞いて、わたし、びっくりして……」
さやか「……まさか、契約したの?」
まどか「ううん、その前に、ほむらちゃんが戦いを止めてくれたの。ちょっと乱暴なやり方ではあったけど……」
さやか「……」
さやかは、自分が気絶した理由を察した。
争いを止めたという一面だけを見るなら、むしろほむらに感謝すべきかもしれないが、そう簡単なものではない。
そもそも、さやかは戦闘を止めてほしいとは思っていなかった。
恐らく、杏子も同様だろう。
子供の喧嘩ではない。
互いに譲れないものがあったからこそ、戦闘にまで……殺し合いにまで、発展してしまったのだ。
そういう意味では、起こるべくして起こった戦闘だった。
それを、横から戦闘だけ止められたところで、何の解決にもならない。
これでは、一時的に戦闘が中断しただけで、根本的な問題は何も解消されていない。
それに、いくらなんでも方法が酷すぎる。
ほむらの目的がどうであれ、やはり気持ちのいいものではない。
126 = 1 :
さやか(目的……そうだ、あいつの目的は一体何? あたしと佐倉杏子の戦闘を止めて、あいつに何の得があるっていうの?)
さやかは、先程のまどかの言葉を思い出した。
さやか『……まさか、契約したの?』
まどか『ううん、その前に、ほむらちゃんが戦いを止めてくれたの。ちょっと乱暴なやり方ではあったけど……』
さやか「……」
まどかの契約を防ぐための行動だったのだろうか。
前にキュゥべえが言っていたように、グリーフシードの分け前が減るのを恐れたのか。
しかし杏子が言うに、転校生はほとんど魔女を狩っていないらしい。
だとすると、グリーフシード目当てというのはしっくりこない。
他に、魔法少女が増えることで発生する不都合があるのだろうか。
あるいは……
さやか(……もしかして、まどかだからこそ、契約を阻止した……?)
以前ほむらは、まどかを魔法少女の活動に関わらせないように頼んできた。
さやかとしては当然、それはこれ以上魔法少女を増やさないためだとばかり思っていたが、そうではなかったとしたら……
127 = 1 :
ふとさやかがまどかの顔を見ると、まどかは気まずそうに目を伏せた。
さやかが考え込んでいたことで、心配を募らせたのかもしれない。
さやかも色々と思うところはあったが、まどかの手前、感情を抑える。
立ち上がり、まどかを安心させるために笑みを浮かべた。
さやか「ありがとう。ごめんね、心配かけて」
まどか「……いいよ、家まで送るね」
さやか「本当にありがとう」
魔法少女同士で争うのは良くないとか、話し合いで解決できないのかなんてことを言われるかと思ったが、まどかは何も言わなかった。
杏子とは、昨日今日会ったばかりというわけではない。
さやかが杏子と争う理由も、それが話し合いで解決できるようなものでないことも、まどかはおおよそわかっているのだろう。
パトロールについていきたいなどと言われたらどうしようかと思っていたが、そんなことを言われることもなかった。
ふたりは、さやかの家の前に着くまで無言だった。
まどか「じゃあね、また明日」
さやか「うん、またね」
さやかはまどかと別れ、自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。
128 = 1 :
さやか(……勝てなかった)
押さえ付けていた感情が噴き出してくる。
勝敗はうやむやになったが、実力差は明白だった。
あのまま戦闘が続いていれば、負けていたのは、恐らく……
さやか「……ッ」
決して負けてはいけなかった。
必ず勝って、あいつに、あんな生き方を改めさせなければならなかったのに。
自分の無力さに腹が立つ。
正義の魔法少女なんて、よく言えたものだ。
さやか「なんで……あんな奴に……っ!」
さやかのソウルジェムに、穢れが溜まっていく。
さやか自身そのことに気づくが、今は浄化する気分にもならなかった。
129 = 1 :
そこに、とある来訪者が現れた。
QB「随分荒れているね」
さやか「……キュゥべえか。何の用?」
QB「僕に聞きたいことがあるんじゃないかと思ってね」
さやか「……」
さやかは多少冷静になり、今の自分に必要なものを考えてみた。
杏子に負けた理由ならわかっている。
魔力を惜しみ無く使ってこられたこともその一因ではあるが、それ以上に、純粋に実力の差が大きすぎた。
一朝一夕で埋まるようなものではない。
しかし、悠長に自分の実力が上がるのを待っていては意味がない。
時間が経てば、それだけ犠牲者も増えてしまう。
ならば、どうすべきか。
さやかは、キュゥべえを正面から見据えて、自分の望みを口にした。
さやか「あいつに勝てる方法を教えてほしい」
130 = 1 :
***
次の日、ほむらはまどかに呼び出された。
まどか「ごめんね、急に呼んじゃって」
ほむら「構わないわ。用件は何かしら」
まどか「……さやかちゃんのことなんだけど」
……やはり、か。
ほむら「あら、彼女がどうかしたの?」
わざととぼけたような言い方をしたら、軽く睨まれてしまった。
まどかのこのあとの言葉は想像がつく。
恐らく、さやかを助けてほしいと頼んでくるのだろう。
しかし、さやかが契約した時点で、彼女自身が救われることはまずない。
また、さやかの味方になることは、杏子を敵に回すことにもなる。
ワルプルギスの夜を倒すためには、それは望ましくない。
まどかに対し、頼みをばっさりと断りたくないという思いもあり、あえて今のような言い方をしたのだが……
まどか「さやかちゃんを、助けてあげてくれないかな」
……他人のために動くまどかが、その程度のことでくじけるわけがなかった。
131 = 1 :
ほむら「……助ける、というと?」
まどか「魔法少女に関する面で、さやかちゃんを手助けしてあげてほしいの。本当なら、親友のわたしが支えてあげたいんだけど、わたしは魔法少女じゃないから……」
ほむら「そうね……」
ほむらの中では既に答えは出ているのだが、それをそのまま伝えても納得するはずがない。
……ここは言葉を選びましょうか。
ほむら「できるだけのことはするつもりよ。私も、美樹さやかを見捨てたくはない。昨日のような争いが起きるのは、私としても不本意だわ」
まどか「……!」
まどかの表情が、ぱっと明るくなる。
後ろめたさを感じないと言えば嘘になるが、やるべきことを見失うわけにはいかない。
ほむら「でも、あまり期待はしないで。少なくとも、美樹さやかと佐倉杏子の争いは、しばらくは続くことになるでしょう」
まどか「……使い魔のこと、だよね」
まどかの言葉に、ほむらはわずかに目を細めた。
まどかが魔法少女に関わることは、歓迎できることではない。
ほむら「……美樹さやかに聞いたの?」
まどか「ううん、キュゥべえに教えてもらったの」
ほむら「……そう」
どうやら、さやかは約束を守ってくれているようだ。
しかしそれなら、昨日のさやかと杏子の戦闘は、まどかにとっては非常に衝撃的だったはずだ。
思っていた以上に危なかったのかもしれない。
契約を止めることができて、本当によかった。
132 = 1 :
ほむら(『魔法少女に関する面で、さやかちゃんを手助けしてあげてほしいの』……か)
ほむら「わかってくれているようで何よりよ。あなたは魔法少女に関わるべきじゃない。それ以外の面で、美樹さやかを支えてあげるといいわ」
まどか「……」
喜んで頷くかと思ったが、まどかの表情は固かった。
……私の言葉に引っ掛かるところでもあったのだろうか。
まどか「……ほむらちゃんは昨日、なんでさやかちゃんを助けてくれたの?」
ほむら「!」
不意に、まどかがほむらに問いかけた。
ほむら(そこか……『あなたは魔法少女に関わるべきじゃない』なんて、余計な念押しだったわね)
ほむら「言ったでしょう? 私だって、美樹さやかを見捨てたいわけじゃない」
133 = 1 :
まどか「じゃあ、なんであのタイミングだったの?」
ほむら「……」
この質問をするということは……
気づかれてしまっただろうか。
さすがに、あのタイミングは少し露骨過ぎたかもしれない。
ほむら「……偶然よ。たまたまあのときに通りかかっただけ。他意はないわ」
信じてもらえないことは承知で、とりあえず弁明はしておく。
まどかは少し間を置き、言いにくそうにしながら口を開いた。
まどか「もしほむらちゃんが、わたしの契約を防ぐためにふたりの争いを止めたのなら……いや、そもそもそのためにさやかちゃんを助けてくれるって言ってくれてるのなら……」
ほむら「……」
まどか「……ううん、ごめん。なんでもないよ」
言葉を飲み込み、首を振るまどか。
しかし、ほむらにはまどかが言おうとしたことは伝わっていた。
134 = 1 :
ほむら(そうよね。あなたはそんなことを言える人ではないわ)
恐らくまどかは、こう言おうとしたのだ。
自分の契約を防ぎたいのなら、さやかを守ってほしいと。
そうしなければ自分は契約してしまうと、そう言おうとしたのだろう。
しかし、そんな脅迫めいたことを、まどかが言えるはずがない。
ほむらもそのことはわかっていて、それを前提に行動している。
だが……
ここはむしろ、こう言っておいた方がいいのかもしれない。
ほむら「美樹さやかについては、私に任せてもらえないかしら。昨日のようなことがあれば、また私がなんとかするわ」
まどか「……それは、わたしに契約してほしくないから?」
ほむら「そういう理由も、ないと言えば嘘になるわね。でも、美樹さやかを心配してるのは本当よ」
まどか「……」
135 = 1 :
まどかが不安そうな顔を見せた。
当然だ。
ほむらがさやかを助ける理由が純粋に心配からくるものでないのなら、状況が変わればさやかに危険が生じる恐れがある。
だから、ここはこう言っておく。
ほむら「だから、あなたがさやかのために魔法少女になる必要はないわ」
まどか「……!」
これでいい。
こう言っておけば、まどかがさやかのために衝動的に契約することはなくなる。
さやかの窮地を目にしても、とりあえずはほむらを頼るようになるだろう。
また、そうせざるを得ない、とも言える。
まどかが契約することは、同時にほむらの助けを失う可能性に繋がる、と暗に示したのだ。
これが、ほむらがさやかを助ける理由がまどかの契約にあることを、完全には否定しなかった理由だった。
まどか「……うん、わかった」
まどかは複雑そうな表情を見せた。
逆に脅迫めいたことを言われてしまったのだから、当然かもしれない。
ほむら「あまり難しく考えないでいいわ。美樹さやかは、魔法少女としてうまくやっている方よ。しばらくすれば、私の助けなんて必要としなくなるでしょう」
これは嘘ではない。
『しばらく』というのが問題ではあるが。
まどか「……ありがとう。少しだけ安心した」
ほむら「それはよかったわ」
136 :
こうして地の文や心理描写で丁寧に補完して行くタイプの二次創作を読む度に
原作ではお互い何も話さず、話そうにも相手の地雷を踏み過ぎたんだなと思う
あと、無駄に煽り文句が多いのもねww
ほむらは数え切れないほどのループに失敗して疲れきっていたし
杏子は親に掌返しされるわ師匠とも決別するわで荒みきっていたし
さやかは憧れの人が惨殺されたのに始まり踏んだり蹴ったりだったし
そもそも中学生に対応できるような事じゃないから責められんのだけど
137 :
さやかが魔法少女になった時点で、思想の相違による杏子との確執は不可避で積み状態になっちゃってるからねぇ~。
そんでもってそんな2人のやってることって、小火を消すために原子炉の冷却水を使用し続けて、使用した冷却水分の容量を補充しないために炉心の爆発を誘発するか、
小火が大火事になるまで放置してから原子炉の冷却水を使用して消化して、使用した冷却水分の容量を実はガソリンで補充して気づいたときには炉心溶融寸前の手遅れ状態になるかの違いでしかないっていうのがまた性質が悪い。
138 :
思想の違いというか、背景の違いというか
一般人を見殺しにしてでもGS集めを優先しろってのは杏子が壮絶な半生を過ごした上でたどり着いた最適解なんであって
さやかに限らず、平和な日本の学生なら丁寧に説明されてもいきなりは納得できない子の方がずっと多いであろう意見
あんほむみたいに実際に体験して全ては救えないと知るか、俺ら視聴者みたいに神の視点で眺めて理解するしかない
まして使い魔を狩り続けても魔女化と無縁だったマミさんって特殊例を最初に見た後だったからね
時間軸によってはあんまどさや全員育ててメガほむの面倒も見てたんだぜ、どんだけだよあの人
139 :
ほむらちゃん、本気でさやかちゃんの契約を止めたかったら、
目の前で拳銃で自分の眉間をぶち抜くぐらいしてもよかったかもね
140 :
こんなにも丁寧に書かれているまどマギSSは久しぶりだ。
何かこう懐かしくて嬉しくなる。
141 :
>>121
原作でも既にいないし
142 :
>>139
ほむら「魔法少女になるというのはこういうことy」;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
再生の得意なさやかならともかく、ほむらはこれやったら魔翌力切れで魔女化一直線な気がするが……。
143 :
設定的には時間停止にリソースのほとんどを持って行かれてるんだっけ、ほむらは
でも11話のタンクローリー特攻とか対艦ミサイルぶっぱ(&隠蔽)を見ていると
その設定死んだも同然じゃねって気がしちゃう……再生一度くらいなら余裕では
144 :
たしかにこの辺からは原作でもマミさんいないわけだ。どうなりますかね…乙
145 :
***
数日後、ほむらは杏子を家に呼んだ。
ワルプルギスの夜の説明をするためだ。
あらかじめ用意した資料も使い、ワルプルギスの夜の戦闘能力、特性、従えている使い魔、予想される攻撃方法など、ほむらがこれまでに知り得た情報を杏子に伝えていく。
ほむら「……とりあえず、こんなところかしら」
説明が一段落したところで、杏子は感心したように息を吐いた。
杏子「すげえな……よくもまぁ、これだけ細かく調べたもんだ。つーか、一体どこから情報を集めたんだ?」
ほむら「……」
ワルプルギスの夜は、伝説になるほど有名ではあるが、その実態まではあまり知られていない。
実際に戦った魔法少女が少な過ぎるのだ。
大抵の魔法少女は勝てない魔女には挑まないし、また、戦った魔法少女の多くはその命を落としている。
恐らくは……いや、間違いなく、ほむら以上にワルプルギスの夜に詳しい魔法少女は存在しないのだろう。
146 = 1 :
ほむら「ワルプルギスの夜がこの町に来るのは××日。ここは間違いないわ。そして、これがその出現範囲予測」
ほむらの言葉に、さすがに杏子も訝しむような視線を向けた。
杏子「……本当に、どこからの情報だ? ワルプルギスの夜がこの町に来たことはないはずだろ」
ほむら「企業秘密。でも、信頼できる情報よ」
杏子「……あっそ」
ここで私が嘘を吐く意味はない。
特に根拠を示さなくても信用してもらえるはずだ。
あとは……
ほむら「本当なら、あなたとの連携の練習もしておきたいのだけど、それは直前でいいわ。あなたも、むやみに自分の手の内を晒したくはないでしょう?」
杏子「それはそうだが……結局同じことじゃねーの? どうせワルプルギスの夜と戦う前には能力を教え合うんだろ?」
ほむら「……」
ワルプルギスの夜が来るまでに、何があるかわからない。
ほむらとしては、ぎりぎりまで自分の能力を明かすことは避けたかった。
147 = 1 :
ほむら「……ワルプルギスの夜の規模の大きさは説明した通りよ。連携とは言っても、実際には各々で戦うことになるでしょう。直前で十分よ」
これは嘘だ。
ほむらの能力は、連携することでその真価を発揮する。
実際にはふたりの連携を軸に据えて戦うことになるだろう。
ただし、ほむらは既に杏子の戦闘能力を把握しているので、どのように連携を行うかの考察は今の時点で可能であり、更に言えば、その考察はこれまでの時間軸でほとんど終わっている。
この時間軸の杏子の能力がこれまでと大きく異なっていれば再考の必要もあったが、これまでの彼女の戦闘を見る限り、そのまま用いて問題ないだろう。
前日にそれを杏子に伝えれば、とりあえず問題はない。
148 = 1 :
杏子「まぁお前がそう言うんなら、それでいいか。で、さやかはどうすんだ?」
ほむら「……どう、とは?」
杏子「あいつには、ワルプルギスの夜が来ることを教えないのかよ?」
ほむら「……」
彼女からすれば、当然の疑問ではある、が……
ほむらは、少し言葉を選んだ。
ほむら「……あなたが彼女と仲違いしてなければ、協力の要請も考えるのだけど」
杏子「あぁ、あたしとあいつを比べた上で、あたしを選んだってことか? 別に大丈夫だろ。共通の敵がいれば、あいつだってあたしたちに協力せざるを得ないはずだ」
ほむら「それはそうなのだけど、ね」
杏子「なんか引っ掛かるのか? 相手は伝説級の魔女だ。戦力はあるに越したことねーだろ」
ほむら「……」
149 = 1 :
今回の時間軸では、ほむらは始めから杏子とふたりでワルプルギスの夜に挑む状況を作ることを目標としていた。
理由として、まず、さやかの戦闘スタイルはほむらと共闘するには相性が悪いのだ。
基本的に近距離で戦闘を行う彼女は、爆弾を使用するほむらとは連携が取りづらい。
また、3人という人数も不安要素のひとつだ。
ほむらの能力を使う際、手を繋ぐことでその人間の時間を止めずにいることができるが、機動力を考えれば同時にふたりというのは難しい。
つまり、ほむらを含め3人以上で戦うならば、どちらかの目の前で突然爆発が起こる、というようなことが必ず起こり得る。
巴マミのようなベテランの魔法少女ならそのような事態も経験でカバーできるのだろうが、さやかにはさすがに荷が重い。
そして、もうひとつ危惧していることがある。
今のふたりの関係ならまずないとは思うが、杏子が、戦闘中にさやかを庇って死にやしないかということだ。
そんなことになったら目も当てられない。
要するに、さやかが加わることは戦力という面ではプラスだが、同時に不確定要素も強くしてしまうのだ。
150 = 1 :
ほむら「……美樹さやかについては、少し考えさせて。協力を頼むときは、私から直接話をするわ」
杏子「ふーん、まぁわかったよ。好きにしな」
ほむら「いずれにせよ、彼女との関係が険悪化することは望ましくないわ。必要以上に彼女と争うことはやめてほしいわね」
杏子「……」
どうせ言っても無駄か、とほむらがため息をついていると、不意に杏子が呟いた。
杏子「……どうもしっくりこねぇな」
ほむら「え?」
杏子は、ほむらを正面から見据え、問いかけた。
杏子「単刀直入に聞こうか。お前の目的はなんだ?」
予想外の質問に、ほむらはわずかにたじろぐ。
ほむら「だから、ワルプルギスの夜を倒すことが……」
杏子「それは目的ではなく手段だろ。なぜ、ワルプルギスの夜を倒そうとする?」
ほむら「……そんなに不思議かしら。魔法少女が魔女と戦うのは当然でしょう」
杏子「まぁな。だが、ワルプルギスの夜に挑もうとするのは普通じゃない。大抵の魔法少女は逃げ出すぜ。あたしだって、ひとりなら倒そうだなんて思わなかったよ」
ほむら「……」
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