元スレほむら「巴マミがいない世界」
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51 = 1 :
杏子「……?」
先程の杏子の言葉を聞いたのであろうさやかが、激昂して叫んでいる。
いつの間に追いついたのだろう。
さやか「あんた、魔法少女なんでしょ!? 人が殺されてもいいって、本気で言ってるわけ!?」
まどか「さ、さやかちゃん……」
杏子はわずかに目を見開いたが、その後口角を上げてさやかに答えた。
杏子「魔法少女なんでしょ、ね……お前が、魔法少女の何を知っているっていうんだ?」
さやか「えっ……?」
杏子「魔法少女を、正義のヒーローか何かと勘違いしてんのか? おめでたい奴だな」
さやか「っ……」
52 = 1 :
ほむら「……」
この時間軸のさやかは、魔法少女という存在をほむらと杏子でしか知らない。
恐らく、どちらに対してもいいイメージは持っていないだろう。
そしてその評価は、そのまま魔法少女への評価となる。
だがその場合、魔法少女になるかならないか。
これは考え方によっては、どちらにも転び得る。
彼女なら、果たして……
さやか「確かに、あたしは魔法少女のことを知らない。魔法少女じゃないあたしが、つべこべ言えたことじゃないのかもしれない……」
杏子「……そういうことさ」
杏子は目を伏せて答えた。
これで会話が終わったと思ったのだろう。
この直後のさやかの言葉は、予想もしていなかったようだ。
さやか「だったら! あたしが正義の魔法少女になってやる! 絶対に、あんたみたいな奴にはならないわ!」
杏子「なっ……!」
杏子の表情がゆがんだ。
だが、返すべき言葉が見つからなかったようだ。
杏子「……勝手にしろよ」
そう言い残し、彼女は去っていった。
ほむら(……最悪だ。なんとかしなくては)
53 = 1 :
***
まどかはさやかと帰路に着いていたが、さやかは足を踏み鳴らし、ひどく怒っていた。
さやか「あいつ……ムカつく! 信じらんない!」
まどか「さ、さやかちゃん落ち着いて……」
さやか「人が殺されても構わないなんて、魔法少女以前に、人としてどうなのよ!」
……まどかとしても、そこには異論はない。
しかし、以前ふたりを助けてくれたときには、そこまで冷たい人間には見えなかった。
さやか「魔法少女なんて、あんな奴ばかりなの!? どうせ、あの転校生も同じなんでしょ!」
まどか「……」
結局、ほむらが魔女を倒したのは、杏子との獲物の取り合いに過ぎなかったのだろうか。
まどかは、ほむらがそういう性格で、自分のためだけにまどかとさやかに契約しないように言っていた可能性を考えてみて、自分が予想以上に激しくショックを受けたことに驚いた。
だが、それも当然のことかもしれない。
もしそうなら、ふたりのことを思いやってくれていた態度が、全て演技だったということなのだから。
54 = 1 :
まどかの様子を見て、さやかは多少冷静になったようだった。
さやか「ごめん……まどかにこんなこと言っても仕方ないよね」
まどか「ううん、いいよ。それより……」
まどかにはまだ、ほむらの言葉が全て嘘だとは思えなかった。
だからこそ、これだけは聞いておかなければならない。
まどか「……さやかちゃん、本当に契約するの?」
さやか「……」
さやかは、少し悩んでこう答えた。
さやか「……まだわからないよ。さっきは思わずああ言ったけど、まだ、そこまでの覚悟はできてない。誰かが目の前で魔女に襲われてるとか、そういった切っ掛けがあれば契約するかもしれないけど」
まどか「……そっか」
誰を信じるにせよ、これは軽率に決めていいことではない。
まどかは、自分もきちんと考えておかなければならないと、より一層心に誓った。
55 = 1 :
***
杏子はお菓子を貪っていた。
どうにも気分が晴れない。
イライラする。
自分でも、原因はわかっている。
そのことに、また苛立ってしまう。
さやかとかいう奴の言葉が、耳から離れないのだ。
『正義の魔法少女』
その言葉は、杏子に否応なく、ひとりの少女のことを思い出させた。
杏子(……あいつは死んだんだ)
だが、それは必ずしも彼女が間違っていたことを意味しない。
逆に言えば、死ぬ間際まで自分の生き方を貫いたということでもあるのだから。
56 = 1 :
かつて、その姿に憧れたこともあった。
その後、彼女を否定するようなことを言ってしまったが、結局彼女は、全てを承知の上であのように生きていたのだろう。
今なら、それぞれの信念があっただけのことだと 客観的に思えなくもない。
杏子(……あたしは、生き方は違えど、マミのことを認めてはいたんだ)
しかし──
多分さやかは、そこまで深く考えて『正義の魔法少女』という言葉を使ったわけではないだろう。
魔法少女がどのような存在か知らないのだから、仕方のない話ではある。
だが、杏子はさやかに、昔の自分と似たような甘さを感じていた。
無邪気に正義を信じていた、あの頃の自分と重なって見えたのだ。
杏子(……だからといって、あたしには、あいつに何か言ってやる資格はない)
あたしはもう、自分のためだけに生きると決めたのだから。
57 = 1 :
***
次の日の放課後、ほむらはさやかを喫茶店に呼び出した。
主題はもちろん、昨日の彼女の発言についてだ。
ほむら「悪かったわね。こんなところまで呼び出して」
さやか「別に……それで、何の用?」
どう見ても友好的とは言えない態度だ。
ほむらとしても、その方がやりやすい。
ほむら「忠告よ。あなた昨日、魔法少女になるとか言っていたわね」
さやかに主だった反応はない。
ほむら「はっきり言っておくわ。魔法少女になるのはやめておきなさい。契約なんてしたところで、いいことなんてひとつもないわよ」
さやか「……魔法少女のあんたに言われてもね」
さやかはまるで、ほむらの用件がわかっていたかのような表情だった。
ほむら「……私は純粋に善意で言っているの。後悔したくなかったら、素直にいうことを聞いておきなさい」
さやか「信用できると思う?」
ほむら(……なんでこんなに嫌われているのかしら)
58 = 1 :
さやか「……」
さやかは、少し考える素振りを見せてから、ほむらに話し始めた。
さやか「あのさ……あたしも、これは軽い気持ちで決めてはいけないことだっていうのはわかってる。でも、だからこそ、真意も読めない他人の言葉に左右されて決めていいことじゃない。あたしもまどかと相談くらいはするけど、最終的には自分で考えて決めるべきことだって、少なくともあたしはそう思ってる」
ほむら「……」
ほむらは、少々感心してしまった。
意外とそれなりに考えてはいるようだ。
しかしほむらにも事情がある。
やはり、契約は阻止しなければならない。
だが、ここで魔法少女のデメリット……ソウルジェムの正体や、その行く末を話したところで信じてもらえるとは思えない。なら、ここは……
ほむら「……それなら、貴女が契約するべきかどうかの判断材料になる話を、ひとつしてあげるわ」
さやか「……伝わらなかった? あんたの言葉は、信用できないって言ってるんだけど」
ほむら「なら勝手に疑ってなさい。後でキュゥべえにでも確認すればいいでしょう」
さやか「……」
さやかは、不満がないわけではなさそうだが、一応は話を聞く気になったようだ。
ほむらは、できるだけ感情を乗せないように注意しつつ、話し始めた。
59 = 43 :
魔女化のことはともかく魂がソウルジェムになってゾンビみたいになること、そんな大事なことをキュウベェが黙っていたことは話してもいいんじゃないかな?
60 = 1 :
ほむら「……ほんの一週間ほど前までかしら。この町には、あの赤髪の魔法少女……佐倉杏子ではなく、もうひとりの、別の魔法少女がいたのよ」
ほむら「その少女の名前は……巴マミ」
ほむら「彼女は、自分で望んで魔法少女になったわけじゃない。ある日、家族全員で事故に遭い、死にそうになっていたところにキュゥべえが現れ、契約により自分だけ生き残ってしまったのよ」
ほむら「その後は、魔法少女として数年間、ひとりきりで魔女と戦い続けることになる。こう言ってはなんだけど、こんな境遇の魔法少女としてはよく生き延びた方だと思うわ」
ほむら「境遇自体は、魔法少女としてはそれほど珍しくない。しかし、それほど経験を積んだ彼女でも、結局は魔女に殺されてしまった。それが、一週間前の話よ」
さやか「……待ってよ、この町にいたなら、この学校の生徒じゃなかったの? 誰かが死んだなんて話、聞いたことないけど」
ほむら「魔女の結界の中で殺されれば、死体は絶対に見つからない。彼女は、永久に行方不明者のままよ」
さやか「そんな……」
ほむら「わかったでしょう? 魔法少女なんて、そんなにいいものじゃない。たった一度の願いのために、一生後悔することになるわよ」
さやか「……」
さやかは少し間を置いて、口を開いた。
さやか「……その巴マミって、どんな魔法少女だったの? やっぱり、あいつ……佐倉杏子みたいな、自分勝手な奴だったの?」
一瞬、返答に詰まった。
ほむら「……知らないわ。私も、会ったことがあるわけじゃないもの」
さやかに契約させないためには、巴マミもそのような魔法少女だったと答えるべきだったが、何故か、それを口にすることは躊躇われた。
さやか「……」
ほむら「話は以上よ。貴女が愚かな選択をしないように、祈っておくわ」
61 :
マミさんがいないとかずみが生まれなんじゃないか?
62 :
>>61
ミチルを助けたのはだいぶ昔の話だからセーフ
63 :
マミ消えたの一週間前なのか
64 :
喫茶店を出て、ほむらは思考を巡らせていた。
昨日のことがあったから、今日改めてさやかに忠告したわけだが、実際にはまだそれほど心配する段階ではない。
なぜなら、さやかは契約する確率は高いが、契約のタイミング自体はそれほど早くないからだ。
巴マミがお菓子の魔女に殺されたときでさえ、さやかが契約したことはない。
もっともそれは、その直後に拘束の解けたほむらがお菓子の魔女を倒すからだが、これからもそうしていけば問題はない。
同じ条件を整えれば、同じことが起こる。
さやかが契約するにしても、まだ先の話だ。
今日や明日に契約することはまずないだろう。
まだしばらくは猶予がある。
まどかについては、契約する可能性はさやかよりさらに低い。
これといった願いがないまどかが契約するとすれば、魔法少女絡みだ。
しかし、この時間軸でまどかが知り合った魔法少女は、ほむらと杏子のみ。
どちらも、たった一度の願いを捧げられるほど友好的な関係ではない。
だが、仮にまどかが魔法少女のシステムを知れば、契約する可能性は跳ね上がる。
その場合、願いによってはほむらの時間溯行が使えなくなる可能性すらある。
それだけは避けなければならない。
そして、まどかが魔法少女について知るとすれば、巴マミがいない以上、それは契約したさやかからということがほとんどだろう。
そのリスクを減らすためにも、絶対にさやかを契約させてはならないのだ。
65 = 1 :
***
ほむらと別れたあと、さやかは病院へ向かった。
目的は、恭介のお見舞いだ。
ほむらとの待ち合わせがあったので、まどかには先に帰ってもらっていた。
さやかは、ほむらに言われたことについて考えていた。
結局ほむらが言いたかったことは、さやかは契約するべきじゃないということだった。
ほむらは、巴マミという魔法少女の話をすることで、さやかに契約しないように訴えたが……
さやか「……」
さやかには、あの話はいかにも建前じみていたように思えた。
さやかに契約させたくない本当の理由を話しているわけではなく、とりあえずさやかが契約を躊躇いそうな話をしてみた、という感じがしたのだ。
さやか(……たぶん、他にも契約を止める理由があるんだろう)
大体、魔法少女が魔女と戦う存在だというのはさやかもわかっていたことだ。
実際に魔女に殺された魔法少女が身近にいたという事実はショックではあるが、改めてその危険性を知らされたところで、やはり契約を躊躇う理由としては弱い。
もし、魔女と戦い続けなければならないということ以外にも、魔法少女になることで発生するデメリットが存在するのだとしても、さやかにそれを伝えない理由がわからないし、既に魔法少女になっているあのふたりがいる以上、説得力は薄い。
66 = 1 :
そもそも、ほむらがさやかに契約しないように言うのは、とても良心からだとは思えない。
話していてわかるのだ。
さやかとほむらの仲はそれほどいいものではないが、それを抜きにしても、ほむらが純粋にさやかのことを思いやって忠告しているようには、さやかには思えなかった。
やはり、さやかが契約することで、ほむらに対しても何かしらのデメリットが発生するのだろう。
それが、キュゥべえの言っていた、グリーフシードの分け前が減ることなのだろうか。
そこまではまだわからないが……
さやか「……」
いずれにせよ、何らかの思惑があることは確かだ。
さやか(……結局、それがわかるまでは、安易に契約するべきじゃないかな)
ほむらの意図した形ではなかったが、さやかに契約を躊躇わせるという目的自体はおおよそ達成できていたのだった。
67 = 1 :
病室に入ると、恭介はさやかを歓迎してくれた。
恭介「こんなに何度もお見舞いに来てくれて、本当に助かるよ。ありがとう」
さやか「何言ってんのさ、水くさいよ」
さやかは、買ってきたCDを取り出し、恭介に手渡した。
さやか「ほら。これ、聞きたかったんでしょ?」
恭介「……本当にありがとう、さやか」
恭介がプレイヤーを準備しているのを見て、自分が見舞いに来ているのにこの場で聴くのかと苦笑しそうになったが、片方のイヤホンを差し出されて、戸惑う。
恭介「どうしたのさ、一緒に聴こう?」
さやか「……うん」
気持ちが高揚するのを抑え切れず、恭介から目を背けつつイヤホンを耳に当てる。
何やらクラシックが流れてくるが、全く曲に集中できない。
心臓の音がうるさい。
恭介にバレやしないかと不安になる。
68 = 1 :
さやか(……やっぱり、あたしは恭介が好きなんだ)
自分の気持ちを再確認したさやかは、ふと、恭介の顔を横目で見てしまった。
さやか「……!」
衝撃を受けた。
冷水を浴びせられたかのような錯覚を感じた。
恭介は泣いていた。
向こうを向いていたが、その頬には涙が流れていた。
曲の良さに感動したというわけではないだろう。
恭介ならそんなこともあるかもしれないが、この場での涙が別の意味を持つことくらい、さやかにもわかる。
そして、さやかは気づいてしまった。
さやか「……」
自分がうじうじと悩んでいる限り、恭介は永遠に救われないのだということに。
69 = 1 :
***
ほむらは、とある病院の前にいた。
つい先程、さやかが中に入っていった。
恐らく、上条恭介のお見舞いだろう。
この数日間、ほむらはこの病院の周辺をマークしていた。
その理由は、この辺りに高確率で出現する、とある魔女を倒すためだ。
……魔力の反応だ。
やはり、この時間軸でも現れた。
できれば杏子が来る前に終わらせたかったのだが、今回は彼女も早く嗅ぎ付けたらしい。
ほむら「こんにちは、佐倉杏子」
杏子「……なんでお前がここにいるんだ?」
杏子はうんざりした調子で呟いた。
しかし放ってはおけない。
戦うのが巴マミじゃなくても、この魔女はやはり危険だ。
今彼女に死なれては困る。
ほむらは、無駄だと思いつつも杏子に忠告した。
ほむら「今回の魔女は、今までの魔女とは違う。侮っているとやられるわよ」
ほむらの言葉を聞き、杏子はほむらに目を剥いた。
杏子「てめえ……私が負けるとでも思ってんのか?」
ほむら「その可能性があるというだけの話よ」
できれば始めから共闘したいところだが、この場で説得するのは難しい。
この忠告をしておくだけでも十分だ。
杏子が一瞬でやられることさえなければ、ほむらの能力ならいつでも割り込める。
70 = 1 :
それよりも、ひとつ気になることがある。
時期的に考えれば、そうでない可能性も高いのだが……
ほむらは、キュゥべえに問いかけた。
ほむら「キュゥべえ、もしかして、この先にいる魔女が巴マミを……」
QB「……君には本当に驚かされるね。一体どこからそんな情報を得たんだい?」
杏子「な……」
QB「そうだよ。マミはこの先にいる魔女に殺された。お菓子の魔女、シャルロッテにね」
やはり……
巴マミを倒したはいいものの、傷を癒すためにこれまでは隠れていたといったところだろうか。
杏子「へぇ……マミに勝った魔女ね。面白そうじゃねーか」
ほむら「わかったでしょう? 油断していて勝てる相手じゃないわ。ここは協力して……」
杏子「うるせーな。そいつはあたしひとりでやる。手を出すんじゃねーぞ」
ほむら「……そう。せいぜい、殺されないように気をつけることね」
杏子「ふん、黙って見てな」
71 = 1 :
大した使い魔もおらず、ふたりは難なくお菓子の魔女のもとにたどり着いた。
その姿を見た杏子が眉をひそめる。
杏子「あいつがその魔女か……? 全く強そうに見えないんだが、間違いないのか?」
ほむら「間違いないわ。見た目に惑わされてはダメよ。ああ見えて、恐ろしい魔女なのよ」
杏子「どうだかね……あんなのに殺されるなんて、マミもヤキが回ったんじゃねーの?」
ほむら「……最後まで気を抜かないことね」
杏子「あいよ」
72 = 1 :
杏子はシャルロッテに攻撃を仕掛け始めた。
杏子の基本的な戦闘スタイルは、槍を用いた近接戦闘である。
攻撃を受け、シャルロッテは逃げようとするが、杏子がそれを許すはずもない。
圧倒的なスピード差により、シャルロッテにダメージを与え続ける。
杏子(なんだよ……こんなもんか?)
戦局は変わらない。
杏子「うらあっ!」
ドガァッ
杏子の攻撃は、シャルロッテを壁まで吹き飛ばした。
杏子「もう終わりにしてやるよ……とどめだ!」
73 = 1 :
杏子が最後の攻撃を仕掛けようとした、その直前であった。
シャルロッテに、異変が起こる。
杏子「……!?」
シャルロッテの姿が変わる。
その姿は、ほむらには見慣れたものであったが、初めて見る者には衝撃的だ。
これまで何匹もの魔女を葬ってきた杏子も、例外ではなかった。
杏子「なっ……!」
シャルロッテ「ガアアアアアアッ!」
シャルロッテは、杏子に突進した。
単純な物理攻撃ではあるが、その威力は半端なものではない。
杏子「ぐっ……!」
正面から受け止める杏子。
しかし、直後に選択を誤ったことを自覚する。
杏子(まずい……こいつ、重すぎる……!)
このままでは押し切られてしまう。
そうわかったところで、この状況ではどうすることもできない。
杏子「く、そおおおっ!」
74 = 1 :
と、次の瞬間。
何の前触れもなく、シャルロッテの胴体の数ヶ所が爆発した。
シャルロッテ「!?」
杏子にはもちろん、シャルロッテにもその攻撃の仕組みはわからない。
しかしシャルロッテは、その攻撃の主を本能的に察知した。
シャルロッテ「グアアアアアアッ!」
大口を開け、ほむらに向かうシャルロッテ。
しかし不思議なことに、シャルロッテが噛みつく直前にほむらはその姿を消した。
そして……
ほむら「終わりよ。何度目かしらね、あなたを倒すのは」
激しい爆発が起こった。
煙が立ち込める中、勝利を確信したほむらは、武器をしまおうとする。
しかし──
杏子「まだだ!」
75 = 1 :
ほむら「!?」
煙の中からシャルロッテが姿を現す。
そのまま、再びほむらへと突進した。
シャルロッテ「ガアアアアアアアッ!」
不意を突かれ、時間停止も間に合わない。
だが、シャルロッテの狙いはわずかに逸れた。
杏子が、今度は横から衝撃を与え、軌道を逸らしたのだ。
杏子「人に言っといて、自分が油断してんじゃねーよ!」
ほむら(これまでの時間軸と同じなら、今ので十分倒せていたはず……それが、なぜ……!?)
杏子は、激しく動き回り撹乱する戦法に切り替えていた。
シャルロッテを翻弄し、確実にダメージを与えていく。
そして、決定的な隙が訪れる。
杏子「今だ! ほむら!」
ほむら「……!」
再び激しい爆発が起こる。
しかし先程とは違い、そこには確かにシャルロッテの断末魔が響いていた。
76 :
結局ほむらが何を言ったところで信用してもらえなきゃ意味ないし、信じてもらえたら今度はまどかが契約する可能性が出てくるのね
77 :
そもそもほむらが目指している到達点が超絶難度の無理ゲーな件
●まどかが魔法少女にならないでワルプルギスの夜を倒す
●倒したすぐ直後にグリーフシードを自身のソウルジェムで浄化することでワルプルギスの夜を復活(再孵化)させないようにする
●↑によりワルプルギスの夜の因果を全て受け継いだうえで自分が魔女として孵化する衝動を抑え続ける
以上のような条件をまどかが生きている間だけに限定したとしてまどかが100歳迄生きるのだと仮定した場合だと
単純計算であと86年間ほど満たし続けなければならないことになるわけで流石のほむらでも条件が厳し過ぎる気がする
78 :
あきらめたらそこで仕合終了だろ?今現在に集中すりゃ大丈夫だ
乙、おもしろいよ
79 :
最悪の場合、80年以上もの間まどかと契約させなようにQBを牽制し続けないといけないのが地味に面倒!
寿命が尽きる直後に「魔法少女になれば10代の頃に若返って不老不死になれるよ」とか言ってQBがまどかに契約を持ち掛けようものなら洒落にもならん!!
80 :
>>77の条件達成後に、まどかに「魔法少女は必ず魔女になって人を襲う」と伝えれば、まどかの魔法少女化は防げるじゃん?
その上で「まどかと仲良くならない」というルートで進めば、ほむら自身の魔女化を防ぐという条件は必要なくなるぞ。
魔女化しそうになったら、自分のソウルジェムをぶち抜きゃいいんだし。
81 :
まどかを魔法少女に誘導するだけならいくらでも方法がある
例えば自己顕示欲の強い独裁者の願望を具現化して、まどかが魔法少女になってその独裁者を倒さない限り全人類がそいつの奴隷となるように仕向けるとか
QBは自分の目的のためなら手段なんて選ばないから、魔女化する前にほむらが自殺するなんて展開はそれこそ奴等の思う壺じゃぁないかい?
82 :
>>79
大人になれば契約できんから
83 :
考察はいらん
84 :
>>82
第二次性徴時期の少女を魔女にするのが一番エネルギー回収効率が良いから魔法少女の勧誘をしているだけで、感情を有する生命体なら大人でも男でも契約自体は可能じゃなかったっけ?
>>83
考察なんて高尚なものじゃなくただのいちゃもんだからいちいち気にすんな
下手に刺激すると薮蛇になりかねんし……なっ?
85 :
***
結界が消える。
杏子「マジで強かったな……こりゃ、マミも負けるわ」
ほむら「……」
ほむらは、自分の甘さを痛感していた。
確かに巴マミは、これまでの時間軸ではお菓子の魔女に負けることが多かった。
だが、その原因は実力の不足というよりも、むしろ油断によるところが大きい。
そして、彼女が油断する理由は大抵、まどかとさやかという後輩の存在にあった。
となれば、彼女がまどかたちが出会わなかった今回の時間軸では、巴マミは油断ではなく、純粋に実力で敗れたのではないかと想定しておくことはできたのだ。
杏子「どうしたんだよ、実際相当強かったじゃねーか。苦戦は恥ずかしくないだろ」
もしほむらがひとりでお菓子の魔女に挑んでいたら、死んでいたかもしれない。
そうなれば、まどかは永遠に助からない。
──私は、それだけの覚悟を持って行動できていただろうか。
86 = 1 :
杏子「何をそんなに落ち込んでんだか……あ、グリーフシードいるか? 今回は譲ってやってもいいぜ」
ほむら「……遠慮するわ」
杏子「そう? じゃーありがた……く……」
ほむら「……?」
ほむらは、不自然に途切れた杏子の台詞を不審に思い、彼女の視線の先に目を向けて……
──愕然とした。
さやか「なんだ、もう終わっちゃったの?」
そこには、魔法少女のさやかの姿があった。
87 = 1 :
杏子「……」
ほむら(そんな……ありえない。なぜ、こんなに早く……)
さやか「悪いね、転校生。でも、あたしも大事なことに気づいちゃったからさ」
ほむら「……」
ほむらは返事をすることすらできなかった。
代わりに、杏子が口を開く。
杏子「……契約したのか」
さやか「前に言ったよね。あたしはあんたみたいにはならないって」
杏子「……」
さやか「見てなさい。あんたに代わって、あたしがこの町の平和を守ってあげるから」
杏子「……馬鹿が」
杏子は吐き捨てるように呟いて、そのまま立ち去ってしまった。
さやかが、ほむらに振り向く。
さやか「忠告を無視する形になってごめんね。でも、あたしはもう契約せずにはいられなかった」
ほむら「……」
さやか「あたしは自分の大切な人のために契約した。この思いが間違ってるなんて、誰にも言わせない」
ほむら「……後悔するわよ」
さやか「しないよ」
ほむら「……っ」
その場にいることに耐えられなくなったほむらは、能力を発動させ、その場を後にした。
88 = 1 :
***
ほむら(どうして? 何故、こんなことに……)
ほむらは家でひとり、嘆いていた。
とにかく今は、ひとりきりになりたかった。
ほむら(まさか、このタイミングでさやかが契約するなんて……一体、どうして……)
これまでの時間軸では、一度としてなかったことだ。
だからこそ、ほむらには理解できなかった。
ほむら(契約していない状態での、杏子との出会いが引き金となった……? いや、その状況は以前にもあった……じゃあ、何故……)
いや、ほむらは既に気付いていた。
これまでの時間軸で起こらなかったことが起こったのなら、その理由もやはり、これまでの時間軸で起こらなかったことに限られる。
つまり、それは……
89 = 1 :
ほむら(巴マミがいなくなったことで、さやかの契約が早まった……?)
そうとしか考えられない。
しかし、ほむらには受け入れ難い仮説だった。
ほむら(……あり得ない。巴マミは、むしろふたりを契約させたがっていた。彼女がいなくなることでふたりが契約しなくなるならともかく、その逆が起こるなんて……)
ほむらの中で、巴マミに対するイメージが揺らぐ。
ほむら「……っ」
ほむらは、強引に思考を断ち切った。
ほむら(今は巴マミについて考えても仕方がない。私がすべきことは、この時間軸でベストを尽くすこと。それだけに集中しましょう)
90 = 1 :
***
次の日の早朝、ほむらはさやかを呼び出した。
いつまでも悔やんでいても仕方がない。
起こってしまったことは取り返せないのだから、受け入れて最善を尽くすだけだ。
反省はこの時間軸でもダメだったときにすればいい。
ほむら(……来たわね)
時間も時間だけに、もしかしたら来ないかもしれないとも思っていたが、さやかはほむらが指定した場所に現れた。
さやか「……おはよ」
ほむら「おはよう、美樹さやか」
91 = 1 :
さやか「話って何よ。昨日のことなら悪かったわよ。でも、もういいでしょ」
ほむら「……」
さやか「あたしだって、叶えたい願いがあったから契約したの。あんたに、理由も聞かされずに契約するなと言われたって、従えるわけないでしょ」
……なるほど、多少の負い目は感じているようだ。
この時間軸のさやかは、これまでの時間軸と比べれば、まだ良好な関係を築けている方だ。
他の時間軸では、恐らくは呼び出しても来ないくらいには険悪な関係だった。
その理由は、巴マミの死だ。
どういうわけか、さやかにはほむらがマミを見捨てたと誤解されることが多いのだ。
また、今回の時間軸では、知り合った魔法少女の違いもある。
普段なら、巴マミと比較されてしまい、いい印象を持たれないことが多い。
しかし今回は、比較される対象は佐倉杏子であり、さやかからすれば、ほむらはまだましな魔法少女、といったところだろうか。
もちろん、性格的に合わないのは間違いないので、積極的に協力してもらえるとは思ってないし、ほむらとしてもそんな気はない。
92 = 1 :
ほむら「済んだことはもういいわ。どうせ困るのはあなただしね。話というのは別のことよ」
さやか「……何?」
ほむら「そうね、まずは確認だけど……あなた、自分が魔法少女になったことを鹿目まどかに伝えたかしら」
さやか「まどかに? まだ話してないよ。今日学校で話そうとは思ってるけど」
そうだろうとは思っていた。
そのためにこんな時間に呼び出したのだ。
しかし、昨晩電話やメールで伝えた可能性もあったので、本来なら、昨日のうちにこうして呼び出しておくべきだった。
ほむらは、昨日すぐに気持ちを立て直して行動できなかったことを、反省していた。
とはいえそこには、恐らく口止めは難しいだろうと予測していたということもあった。
ほむら「あなたが契約したことを、鹿目まどかには話さないでもらえないかしら」
さやか「……なんで?」
ほむら「いい影響を与えないからよ。あなたが契約したと知れば、少なからず彼女は、自分も魔法少女になりたいという思いを強くするでしょう」
さやか「……」
93 = 1 :
さやかは、少し間を置いてから、確認するようにほむらに問いかけた。
さやか「……転校生は、まどかに契約してほしくないんだよね?」
ほむら「もちろんよ。正確には彼女だけでなく、あなたにも契約してほしくはなかったけど」
さやか「……悪かったってば」
とりあえずこう言っておく。
まどかを特別視していることを、あまり知られたくはない。
単に、魔法少女になる人間を増やしたくない、という考えであるように匂わせておく。
ついでに、契約を負い目に感じているであろうことを利用して、この後の交渉で優位に立てるようにしておこうという企みもあった。
ほむら「私としては、これ以上魔法少女を増やしたくないの。どうかしら」
さやか「……」
さやかは、しばらく考え込んだ後に、口を開いた。
さやか「ごめん、やっぱりあたしはまどかに話したい。正直あたしは、まどかが満足して契約するなら、それでいいと思ってるから」
ほむら「……だからといって、積極的にまどかを契約させたいわけではないのでしょう? だったら、自分の中だけで答えを出せるように、余計な情報は与えるべきではないと思わないの?」
さやか「その考えもわからないわけじゃないけど……やっぱりあたしは、まどかに隠し事はしたくないよ。あんたには悪いけどね」
ほむら「……」
94 = 1 :
これ以上は無駄だろう。
ほむらの目的がまどかを契約させないことだと知られている以上、説得は難しい。
どう言い繕おうと、その目的ありきの言葉にしか聞こえないだろう。
ほむらとしても、この説得が失敗することは予想していた。
ほむら「……わかったわ。あなたがそこまで言うなら仕方ないわね。ただ、代わりにひとつだけお願いしていいかしら」
さやか「何よ?」
ほむら「まどかを、できるだけ魔法少女には関わらせないでほしいの。たとえば、パトロールに連れていくなんてことは、やめてほしいわね」
まどかを契約させないためでもあったが、何より、まどかを危険に晒したくないという思い故の言葉だった。
しかし、さやかの返事は予想外のものだった。
さやか「……パトロールって?」
95 = 1 :
ほむら「……!」
今更ながら、ほむらはふたりの魔法少女に対する認識が大きく異なっていたことに気づく。
ほむら「……あなた、もう魔女と戦った?」
さやか「まだだよ。昨日契約したばかりだし、病院にいた魔女はあんたらが倒しちゃったんでしょ?」
凄まじい違和感がほむらを襲った。
ほむら(……そうか、この時間軸のさやかは、魔法少女がどんな存在かまだ知らないのね)
それは、魔法少女の本体がソウルジェムであることや、魔法少女がやがて魔女になることといった、キュゥべえが隠しているようなことではない。
もっと、ずっと表面的で、魔法少女が知っておかなければならないこと。
知らずに契約してはならないようなことだ。
ほむら「……」
もちろん、全く知らないということはないだろう。
キュゥべえから、簡単な説明は受けているはずだ。
しかし、言葉でいくら説明されても、それで本質を理解できるはずがない。
昨日、ほむらと杏子が一歩間違えれば死んでいたかもしれないことを、今のさやかは信用するだろうか。
96 = 1 :
ほむら(魔法少女として過ごしていけば、自ずと理解してはいくでしょうけど……)
さやかなら問題ないとは思われる。
これまでの時間軸でも勇敢に魔女と戦っていた彼女なら、魔法少女のそのような一面を知っても後悔することはないはずだ。
だが、そんな少女ばかりというわけでもないだろう。
契約して、魔法少女としての生き方を知った後で後悔しても、もう遅い。
魔法少女という存在を、きちんと理解せずに契約してしまうことは、悲劇とさえ言えるかもしれない。
さやかだってこの時間軸では、他の時間軸に比べれば、魔法少女としての生き方を受け入れるのに時間がかかるだろう。
ほむらの脳裏に、ひとりの魔法少女の姿が浮かぶ。
ほむら(……巴マミ)
彼女のような魔法少女は少ない。
つまり、多くの魔法少女は、そのような悲劇に見舞われている可能性が高い。
まどかとさやかがこれまでそうならなかったのは、紛れもなく、巴マミのおかげだったのだろう。
97 = 1 :
ほむら(……魔法少女体験ツアーね。バカバカしいとしか思ってなかったけど、案外、無意味というわけではなかったのかもしれないわね)
さやか「……転校生?」
ほむら「あぁ、ごめんなさい。そうね、魔法少女について、詳しくキュゥべえに聞いておきなさい。パトロールの方法も教えてくれるでしょう」
さやか「うん、ありがとう」
ほむら「巴マミのことは、あなたには話したんだったわね……あれは、決して珍しいケースではないわ。そうならないように、気を付けなさい」
さやか「……わかった。まどかを巻き込まないと、約束するよ」
ほむら「そうしてもらえると助かるわ」
まどかを危険に晒したくないという思いは、共通のものだ。
珍しく、ふたりの意見が一致した瞬間であった。
98 :
さやかちゃんキレキャラ扱いじゃなくてよかった、乙乙
99 :
***
さやか(さて……まどかにどう切り出そうかな)
さやかは、自分が契約したことをまどかにどう伝えるべきか、迷っていた。
さやか(別に、悪いことをしたわけじゃないんだけど……)
まさか、抜け駆けしたと責められることはないだろうが、まどかがどう思うか、いまいちわからない。
ほむらの忠告を無視したこともあるし、やはり、軽い気持ちで契約したと思われてしまうだろうか。
もちろん、まどかがそんなことを口にするとは思わないが、内心ではあきれられてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にさやかの目にまどかの姿が映った。
100 = 1 :
さやか「おはよう、まどか」
いつもの通学路で、さやかはまどかに声をかけた。
まどか「おはよう、さやかちゃん」
どう言い出すべきか、とさやかが悩みながら横に並ぶと、まどかはさやかの顔をじっと見た。
さやか「……?」
さやかが戸惑っていると、まどかが口を開いた。
まどか「さやかちゃん、何かあった? なんか、いつもと違う感じがする」
さやか「!?」
さやかは、自分が明らかな動揺を見せてしまったことを自覚した。
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