のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,718人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレほむら「巴マミがいない世界」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    1 :

    まどマギSS
    叛逆の内容は含みません

    シリアス系
    地の文ありです

    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1455934189

    2 = 1 :

    それは、ひとつの可能性

    ほんのひとつの歯車がずれただけで、未来は大きく変わっていく

    だからこそ、私は何度でも繰り返す

    ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

    ──今度こそ、あなたを救ってみせる

    これは、どこかにあったかもしれない、ひとつの世界の物語

    3 = 1 :

    出だしはいつも通りだった。

    何度目かもわからない自己紹介を済ませ、伝わらないとわかっていながらまどかに忠告も済ませ、ほむらは拳銃を片手にキュゥべえを追っていた。

    ほむら「このっ……待ちなさい!」

    QB「」スタタタ

    既に何発か命中しているはずなのだが、全く気にしている様子はない。
    感情を持たない相手を痛覚で怯ませることは不可能だが、かと言って拳銃で物理的に止めることも難しい。

    ほむら「くっ……」

    そうこうしているうちに、いつもの場所が近づいてきた。

    軽快に走っていたキュゥべえが、急にスピードを落とし、よたよたと歩きだす。
    ほむらには追いつかれず、まどかにはそれがバレない最適な位置だ。
    そのことが、ほむらを更にイラつかせる。

    4 = 1 :

    QB「」ヨタヨタ

    まどか「誰? 誰なの?」

    まどか「……!」

    まどか「あなたがわたしを呼んでいたの? ひどい、怪我しちゃってる……」

    まどかとキュゥべえが接触する。
    全てキュゥべえの思惑通りだ。

    まどかがほむらの存在に気づく。

    まどか「え……ほむらちゃん? どうしてここに……」

    ほむら「……」

    接触されてしまった以上、キュゥべえを狙っても意味はない。
    ほむらは、自分の心象を悪くすべきでないことも考え一瞬ためらったが、やはり放ってはおけないと口を開く。

    ほむら「そいつから離れなさい、鹿目まどか」

    少しきつい言い方になってしまったが、あいつの危険性を伝えないわけにもいかない。

    5 = 1 :

    まどか「どうしたの? ほむらちゃん……ダメだよ、こんなことしちゃ……」

    ほむら「そいつは……」

    しかし、ほむらの言葉がそれ以上続くことはなかった。

    突然、ほむらの視界が白く染まる。

    ほむらは、消火器を構えるさやかの姿を目の端に捉えた。

    さやか「まどか、こっち!」

    まどか「さやかちゃん!?」

    さやか「早く!」

    ほむら「……」

    状況がわかっていても、この視界ではどうしようもない。
    ほむらは、一旦追跡を諦めた。

    7 = 1 :

    さやか「本当に、ありがとうございました!」

    まどか「あ、ありがとうございました!」



    杏子「いいって、怪我はなかったか?」



    ほむら「あれ!?」

    そこにいたのは、巴マミではなかった。

    8 = 1 :

    さやか「あ! そいつがさっき話した、キュゥべえを狙ってた奴です!」

    ほむらの声が聞こえたらしい。
    思わず声を上げてしまったことを悔やむ。

    まどか「ちょっと、さやかちゃん……」

    杏子「あいつが……?」

    杏子が、怪訝な目でほむらを見つめる。

    杏子「おい、あんたらもう帰りな。あたしはあいつと話がある」

    まどか「え、でも……その子、うちのクラスメイトで……」

    まどかは、言外に自分も無関係ではないと伝えたかったのだろう。
    だが、杏子はまどかに振り返り、一言だけ答えた。

    杏子「……だから?」

    まどか「っ」ビクッ

    杏子にしては軽い威圧を込めただけのつもりだろうが、普通の女子中学生には少々刺激が強過ぎる。

    言葉を詰まらせたまどかに、さやかが助け船を出した。

    さやか「あ、あーわかりました! じゃああたしたちはこれで…」

    まどか「え、でも…」

    さやか「いいから行くよ!」

    まどか「あ、待って…」

    さやかが、まどかの手を引いて走り出す。

    去っていくふたり。
    残されたのはふたりの魔法少女。

    キュゥべえは、いつの間にかその姿を消していた。

    9 = 1 :

    杏子「さてと…」

    杏子はほむらに向き直り、警戒心をあらわにして問いかけた。

    杏子「何者だ、なんて聞く必要もねーよな。あんたも魔法少女だろ?」

    ほむら「えぇそうよ。じゃあ私もこれで…」

    杏子「待てよ。逃がすわけねーだろ。なんでキュゥべえを狙ってた?」

    ほむら「……」

    正直、この予想外の展開に対して考える時間が欲しかった。
    状況の把握すらろくにできていない。

    杏子「おい、聞いてんのか?」

    この時点で、佐倉杏子がこの町にいるということは……巴マミは一体どうしたのだろうか。

    杏子「おーい」

    ……ほむらは、時間を止めて逃げることを少々真剣に考えた。

    10 = 1 :

    業を煮やしたのか、杏子はため息をつき、わずかに語気を弱めて再度ほむらに問いかけた。

    杏子「はぁ……あのさ、お前も魔法少女なんだろ? だったら、キュゥべえがいなくなったら困るだろうが?」

    ほむら「……そうね」

    杏子「あいつには、孵化寸前のグリーフシードを処理してもらう役目がある。お前がまだキュゥべえを狙うというのなら、ここで相手になるぜ」

    ほむら「……」

    佐倉杏子は魔法少女らしい魔法少女で、合理的な考え方を好む。
    ならば、ここはこう言っておくべきか。

    ほむら「安心しなさい。私がこれから先キュゥべえを狙うことはないわ」

    その理由は先ほど失われた。
    とはいえ、状況によってはそうでもないが。

    11 = 1 :

    杏子は大して気にもせず、話を続ける。

    杏子「ふぅん……ならこの件はいい。問題は次だ。お前、まさかこの町に住んでるわけじゃないよな?」

    ほむら「……だったらどうなのかしら」

    杏子はほむらの言葉を聞き、舌打ちをした。

    杏子「マジかよ……キュゥべえの奴、テキトーなこと言いやがって。おい、この町はあたしの縄張りだからな。魔女を狩りたいんだったら、他の町に行きな」

    ほむら「わかったわ」

    その必要もない。
    グリーフシードの予備は十分にある。

    杏子「……自分で言っておいてなんだが、本当にいいのか? 明日には行方不明になりました~じゃ、こっちだって寝覚めが悪いぜ」

    ほむら「じゃあ、この町を譲ってくれるのかしら」

    杏子「いや? ただ、狩り場ってのは魔法少女にとっては死活問題だろ? それを脅かしてんだから、あたしだってここでお前と殺し合う覚悟はあった。それなのに、やけにあっさり了承したなって思っただけさ」

    やはり合理的な考え方をしている。
    ただし彼女の場合、美樹さやかが絡むと必ずしもそうではない。

    13 = 1 :

    ほむら「私のことはいいわ。それより、聞きたいことがあるの」

    杏子「なんだ?」

    ほむら「あなた、巴マミという少女を知っているかしら」

    杏子「……!」

    杏子は顔を強張らせた。

    質問が少し正確ではなかった。
    佐倉杏子が巴マミを知っている、ということは知っている。
    問題は、今、巴マミがどうしているか。

    杏子「てめえ、マミの知り合いか?」

    ほむら「いいえ……ただ、話に聞いたことがあるだけよ。この町に住んでいたはずなのだけど」

    佐倉杏子と巴マミには少々複雑な事情がある。
    わざわざ余計なトラブルを起こしたくはないので、ここは他人の振りをしておく。

    杏子「……お前、知らないのか?」

    ほむら「……?」

    14 = 1 :



    杏子「マミは死んだ……らしいぜ。あたしも実際に見たわけじゃないし、キュゥべえから聞かされたんだけどよ。世間的には行方不明扱いだ」

    15 = 1 :

    ほむらは絶句した。

    初めてのケースだ。
    今まで、こんなことは一度もなかった。

    杏子「どんな魔女に殺されたのかも知らねーよ。興味もねーし」

    ほむら「……そうね。あなたはそういう人間よね」

    杏子「……初対面で、何を人のことわかったような口聞いてんだ?」

    先ほどまどかに見せた眼光とは違い、本気で睨まれる。

    今日のところはこれくらいにしておくべきか。
    ほむらは盾を構えた。

    ほむら「また会いましょう……佐倉杏子」

    杏子「……!」

    ほむらは能力を使い、その場を後にした。

    16 = 1 :

    ***

    まどか「待ってよ、さやかちゃん」

    まどかは、未ださやかに手を引かれていた。
    いつものじゃれあいとは違い、なかなか足を止めてくれない。

    いつもの通学路に出てから、ようやくさやかが立ち止まる。
    まどかは、息を整えてから彼女に話しかけた。

    まどか「……どうしたの、急に」

    さやか「まどかー、あれはヤバいって。ああいうのには関わらない方がいいよ」

    彼女なりに、何かを察したのだろうか。

    まどか「でも、ほむらちゃんが……」

    さやか「あの転校生? 夢の中で会ったとか言ってたけど、それだけじゃないの?」

    ……それだけだ。
    自分でも、なぜこれほど関心を持つのかわからない。

    まどか「……うん、それだけのはずなんだけど、なんか気になるっていうか……」

    17 = 1 :

    さやか「……」

    さやかが黙り込む。
    一瞬、呆れられてしまったかと思ったが、どうやら状況の整理をしていたらしい。

    さやか「あの人、魔法少女……って言ってたよね。詳しくは教えてくれなかったけど、あの転校生もそうなんじゃない?」

    まどか「魔法少女、か……」

    キュゥべえによれば、あのような化け物……魔女と戦う存在を、そう呼ぶらしい。
    それ以上の説明もしようとしていたが、あっという間に魔女を倒した赤髪の魔法少女に、止められていた。

    さやか「……あのふたりが何の話をするかは知らないけど、魔法少女じゃないあたしたちが、口出しできることじゃないと思うよ」

    ……正論だ。

    そもそも、まどかとほむらの関係も、クラスメイトという響きが示すほど近いものではない。
    何せ、ふたりは今日が初対面だったのだから。

    まどか「うん、そうだよね……」

    さやか「元気出しなって! どうしても気になるんなら、明日学校で聞いてみたら? あいつが素直に教えてくれるかはわからないけどさ」

    気を使ってくれている。
    彼女の明るさには、いつも助けられる。

    まどか「……ありがとう、さやかちゃん」

    さやか「いえいえ!」

    18 = 1 :

    ***

    自分の狩り場に現れた、得体の知れない魔法少女。

    考えてわかるものでもないので、杏子はキュゥべえを待っていた。

    QB「やぁ、杏子」

    杏子「来やがったか……おい、聞きたいことがある」

    QB「なんだい?」

    杏子「決まってんだろ? あの魔法少女のことだ。お前、この町にはもう魔法少女はいなくなったって言ってたよな?」

    責めるような口調で問いかけたが、キュゥべえはまるで気にしていない。

    QB「僕にもわからないんだ。あの魔法少女は、あらゆる意味でイレギュラーだ」

    答えになっていない。
    杏子は苛立ちを押さえつつ、質問を続ける。

    杏子「あいつがお前と契約したのはいつなんだ? ひよっこには見えなかったぜ」

    珍しく、キュゥべえは答えに迷う様子を見せた。

    QB「……信じてもらえるとも思えないけど、僕にはあの子と契約した覚えがない。君と同じく、今日が初対面だったんだ」

    杏子「はぁ? そんなことがあり得んのかよ?」

    QB「普通ならあり得ない。だからこそイレギュラーなんだ。たとえば、契約後にその記憶を魔法で消されたとか……予想はいくつかできるけど、今の段階ではなんとも言えないね」

    キュゥべえは基本的に嘘は吐かない。
    それが本当なら、確かにイレギュラーと言える。

    19 = 1 :

    杏子「まぁ、あたしの邪魔をしないってんならそれでいいんだが……どうにも不気味だな」

    QB「不気味どころか、僕は初対面で突然発砲されたんだけど」

    杏子「もうしませんごめんなさいって言ってたぜ。気にすんなよ」

    QB「気にしないわけにはいかないし、そんな言い方はしていなかったよね」

    台詞とは裏腹に平坦な口調だ。
    というか……

    杏子「てめえ、やっぱ隠れて聞いてやがったな?」

    QB「おっと」

    杏子「まぁ隠れる気持ちもわかるけどな」

    襲われた直後なのだから、のこのこと姿を見せるわけにもいかなかったのだろう。

    20 = 1 :

    今度は、キュゥべえが杏子に問いかけた。

    QB「彼女、マミを知っているらしいね。心当たりはないのかい?」

    杏子「……」

    杏子もわかってはいたが、キュゥべえにはデリカシーというものがない。

    杏子「ねーよ。あれ以来、マミとは一切関わってねえ。お前も知ってんだろうが」

    QB「そうだったね。僕はそれからもマミと会っていたけど、あの少女の話なんて聞いたことがない。案外、本当にただ話に聞いただけなのかもしれないね」

    杏子「……どうでもいいさ」

    本心からの言葉だった。

    もうマミは死んだんだ。
    気にしていても仕方がない。

    21 = 1 :

    QB「ところで、僕からひとつ頼みがあるんだ」

    杏子「あ? なんだよ」

    QB「今日、杏子が魔女から助けたふたりの少女……覚えてるかい?」

    杏子「あぁ……あいつらがどうかしたのか?」

    QB「あのふたりには、魔法少女の素質がある」

    杏子は思わず頭を抱えてしまった。
    突然謎の魔法少女が現れたと思ったら、さらにふたりも増える可能性があるって……?

    杏子「マジかよ……そういやなんか話してやがったな」

    QB「ふたりともかなりの素質を持っていたけれど、特筆すべきは鹿目まどかだね。あれほど凄まじい素質を持った少女を見たのは初めてだ」

    杏子「鹿目まどか……どっちだ?ピンクの方か?」

    QB「そうだよ。ちなみに、もうひとりの子の名前は美樹さやかだ」

    杏子「あの青い方か……」

    QB「鹿目まどかが契約してくれれば、僕としてはうれしい限りだね。というわけで、彼女たちに魔法少女の素晴らしさを教えてあげてくれないかな」

    バカかこいつ、と杏子はキュゥべえにあきれた目を向ける。

    杏子「……お前、あたしがそんなことするとでも思ってんのか?」

    QB「しないだろうね」

    杏子「わかってんなら言うんじゃねーよ。そもそも、その鹿目まどかって奴は契約しないと思うぜ?」

    QB「どうして?」

    杏子「見るからに、私は今幸せですって面してやがったからさ」

    別に妬んでいるわけではない。
    ただ単純に、生きる世界が違うと感じたのだ。

    22 = 1 :

    QB「そうなのかい? だったら、契約は望み薄かな。でも、願いがないほどに幸せというなら、それはそれで素晴らしいことだよね」

    杏子「……よく言うぜ」

    あまりの白々しさに思わず笑ってしまった。
    杏子も、キュゥべえの胡散臭さには当然気づいている。

    杏子(利用できるから利用してるだけだ。間違っても、無条件に信用できる奴じゃない)

    QB「? 何か、おかしかったかい?」

    杏子「別に」

    杏子は、今日出会ったふたりを思い返していた。
    まどかに関しては、先ほどキュゥべえに言った通りだ。
    彼女のような人間は、魔法少女になるべきではない。

    だが、もうひとりに関しては……

    杏子(美樹さやか、か……)

    QB「?」

    杏子「……なんでもねーよ」

    杏子は、嫌な予感を感じていた。

    23 = 1 :

    ***

    ほむら「……」

    軽く調べてみたが、巴マミが魔女に殺されたのは間違いないようだ。
    家族がいないからかあまり注目されているわけでもないようだが、行方不明扱いならそんなものなのかもしれない。

    行方不明になってから、それほど日数が経っているわけではない。
    せいぜい、一週間前といったところだろうか。

    気の毒ではあるが、彼女も魔法少女なのだから覚悟はしていただろう。

    ほむら(今更私にできることはない。ここは割り切って考えるべきか──)

    ……いや、正確には、巴マミを救う手段がないわけではない。

    ほむらが一月後過去に戻れば、巴マミが生きている可能性は高い。
    彼女の死が完全に確定するのは、ほむらが過去に戻らなかった、そのときだ。

    しかし──

    ほむら(もし、この時間軸でまどかを救うことができれば、私は過去には戻らない)

    ほむらは既に、まどかを誰よりも優先すると心に決めていた。
    幾多の時間軸を渡り歩いてきた彼女は、今更その程度の決断では揺らがない。

    24 = 1 :

    自分の意志を再確認し、思考を切り替える。

    ほむら(……さて、どう動くべきか)

    巴マミはいない。
    この時点で、この町に佐倉杏子がいる。
    今日のまどかと美樹さやかの反応から考えれば、あのふたりが巴マミを知っているとは思えない──

    状況を整理し、分析する。
    この時間軸での最適解を模索するために。

    ほむら(……まず、デメリットは、巴マミという戦力の喪失だ)

    巴マミの戦闘能力は相当なものだ。
    ワルプルギスの夜を倒すために、彼女の力を借りられればかなり助かっただろうが、それはもうできない。

    とはいえ、ほむらと杏子のふたりなら、ワルプルギスの夜を相手にしても全く勝機がないわけではない。

    ほむらの能力は本来サポート向きだ。
    やり方次第ではいくらでも強くなる。
    ここはとにかく試してみるしかない。

    25 = 1 :

    ほむら(逆にメリットは、まどかと美樹さやかが契約する可能性が、大きく減少したことね)

    巴マミとは違い、杏子は他人に契約を勧めることはまずないだろう。
    ほむらにとってはありがたいことだ。

    ほむらは、これまでの経験から、まどかだけではなくさやかの契約も阻止すべきだと判断していた。

    さやかが契約すれば、まどかに悪影響を及ぼす。

    魔法少女に興味を持たれることはもちろん、最悪、さやかを救うためにまどかが契約する、なんてこともあり得る。
    更には、杏子の死の要因にすらなり得てしまう。

    魔法少女になった美樹さやかを利用して、『ソウルジェムの正体は魔法少女の魂を抜き出して具現化したもの』『魔法少女はいずれは魔女になってしまう』等のデメリットを突き付け、契約させないという手もなくはないが……

    やはり、やめておくべきだろう。
    そもそもさやかとは違い、まどかにはこれといった願いはないのだ。
    わざわざ新しい願いを考えさせる材料を与えることはない。
    魔法少女に関わらせないのが最良だ。

    ほむら(……実際に、巴マミ抜きでワルプルギスの夜を倒せるかどうかはわからない。でも、そこは問題じゃない。まずは、私と佐倉杏子でワルプルギスの夜に挑める状況を、確実に作ることだ)

    現状の把握はできた。
    今後の方針も決まった。

    ほむら(早速、明日から動きましょう)

    26 = 1 :

    ***

    目覚まし時計の音が聞こえる。
    また、奇妙な夢を見てしまったような気がする。

    まどか「むにゃ……朝……?」

    QB「おはよう、まどか」

    まどか「……」

    QB「……」

    まどか「えっ!?」

    どうやら、昨日のことは夢ではなかったらしい。

    27 = 1 :

    まどかは、キュゥべえを肩に乗せて通学路を歩いていた。

    さやか「おはよ、まどか」

    まどか「おはよう、さやかちゃん」

    QB「おはよう、さやか」

    さやか「あ、昨日の……なんで一緒にいんの?」

    まどか「朝起きたら隣にいたの……びっくりしちゃった」

    さやか「へぇ……キュゥべえ、まどかのパジャマは何色だった?」

    まどか「突然何聞いてるの!? もう、キュゥべえ、答えなくていいからね?」

    キュゥべえ「黄色だったね」

    まどか「なんで答えたの!?」

    さやか「黄色かぁ……元気のあるところをアピールしているのかな? でも、それをパジャマで表現するなんて、まぁ、まどかったら……」

    まどか「やめてよもう!」

    さやかは、昨日のことは特に気にしていないようだ。
    彼女のいつも通りの姿が、まどかは妙にうれしかった。

    28 = 1 :

    まどか「全く、さやかちゃんったら……」

    さやか「ごめんごめん。でも、まさか家の中にいるなんてね。おばさんは何も言わなかったの?」

    まどか「それが、キュゥべえってわたしたち以外には見えないらしいの。おかげで、朝から寝ぼけてると思われちゃった」

    さやか「あぁ、道理で……ここ、通学路で結構人通り多いのに、誰もキュゥべえのこと気にしてないもんね。でも、なんであたしたちふたりだけ?」

    一応軽い説明は受けたが、まだそれほど詳しくは教えてもらっていない。
    まどかがどう答えるべきか迷っていると、代わりにキュゥべえが答えてくれた。

    QB「正確には、僕の姿が見えるのは、魔法少女か魔法少女の素質を持った少女だけに限られる。そう滅多にいるものじゃない。思春期の少女の中でも、ほんの一握りだよ」

    さやか「魔法少女の素質って……まさか、あたしたちが?」

    QB「そう、君たちには、魔法少女になれる才能がある」

    QB「なんでも願い事を叶えてあげるよ。だから……」

    QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

    29 = 1 :

    まどか「……」

    さやか「……」

    QB「……」

    沈黙が訪れる。
    最初に口を開いたのはさやかだった。

    さやか「……とりあえず、その話は昼休みにでもしましょ。遅刻しちゃう」

    まどか「そうだね」

    QB「そうかい。だったら、昼休みにまた来るよ。詳しいことはそのときに話そう」

    まどか「昼休みは、たぶん屋上にいると思うよ」

    QB「わかったよ。じゃあ、また」

    まどか「またね」

    キュゥべえはトコトコと歩いていった。
    あれでは移動が大変なのではないだろうか。

    まどかは、先程のキュゥべえの言葉を思い返していた。

    まどか「う~ん、わたしたちが魔法少女になれるなんて、本当かなぁ。あんな風に戦うなんて、できっこないと思うけど……」

    さやか「……」

    まどか「さやかちゃん? どうかしたの?」

    さやか「あ、ごめん。ちょっと考え事してて……なんでもないよ」

    まどか「そう? ならいいけど……」

    キュゥべえの言葉に、思うところでもあったのだろうか。
    しかし、さやかがそれ以上魔法少女の話をすることはなかった。

    30 = 1 :

    ***

    まどかとさやかが、教室に入ってきた。
    キュゥべえは見当たらない。

    ほむらは、さっそくふたりに声をかけた。

    ほむら「鹿目まどか、美樹さやか、ちょっといいかしら」

    まどか「ほむらちゃん? どうしたの?」

    さやか「何よ?」

    ほむら「魔法少女に関する話よ。ここではちょっと……」

    さやか「……」

    まどか「じゃあ、廊下で話す?」

    ほむら「そうしてもらえると助かるわ」

    31 = 1 :

    場所を廊下に移し、ほむらは会話を再開した。

    ほむら「ふたりに聞きたいのだけど、キュゥべえに何か聞かされたかしら」

    まどか「ちょっとだけね。私とさやかちゃんが、魔法少女になれるってことくらい」

    ほむら「魔法少女がどんな存在かについては、まだ聞いてないのね?」

    まどか「魔女と戦う存在だって聞いたよ。あと、なんでも願い事を叶えてあげるとか言ってたけど」

    ほむら「そう……」

    ほむらは、キュゥべえの相変わらずの行動の早さに歯噛みする。

    ほむら(でも、まだ十分間に合う)

    ふたりに契約させないために、どう切り出すべきかを考えていると、さやかが口を開いた。

    さやか「……私も、転校生に聞きたいことがあるんだけど」

    ほむら「何かしら」

    さやか「転校生は、魔法少女……ってことでいいんだよね?」

    ほむら「そうよ」

    さやか「魔法少女になるのに必要な契約……それが、願いを叶えてもらうこと、という認識で合ってる?」

    ほむら「……そうね」

    ここを否定しても仕方がない。
    ほむらにしてみれば、そもそもふたりには魔法少女に興味を持ってほしくすらないのだが、キュゥべえが勧誘する以上、何の説明もなしに契約を阻むことはできない。

    まどかは、なんとなく納得した表情をしている。

    32 = 1 :

    更に、さやかがほむらに問いかけた。

    さやか「なら、転校生はどんな願いで魔法少女になったの?」

    ほむら「……」

    ほむらが魔法少女になった理由は、言うまでもなく、まどかを救うためだ。
    しかし、それをこの場で話してもふたりに不信感を抱かせるだけだろう。
    何せ、ほむらとまどかは昨日が初対面だったのだから。

    かといって、答えないのも印象が悪い。

    ここは、ある程度ぼかして答えるのがベストだろうと、ほむらは判断した。

    ほむら「ある人を、救うためよ」

    さやか「……」

    ほむらの答えを聞き、ふたりの反応は別れた。
    まどかは、ほんの少し、申し訳なさそうな顔をしている。
    話したくないことを口にさせたように感じたのだろうか。

    さやかは、わずかに不信感を強めたらしい。
    どうも信じていないようだ。

    ふたりに構わず、ほむらは話し出した。

    ほむら「私がふたりに伝えたいことは、たったひとつだけよ」

    ほむら「絶対に、魔法少女にはならないで。キュゥべえを信用してはいけないわ」

    ふたりが眉をひそめる。

    まどか「……どうして?」

    ほむら「魔法少女には、決して看過できない秘密があるからよ」

    さやか「秘密って何よ?」

    ほむら「……今は、言えないわ」

    信用してもらえるとも思えない。

    ふたりとも、それぞれ思うところはあるようだったが、なんとなく、そこで会話は終わった。

    33 = 1 :

    ふたりは教室に戻ったが、ほむらは廊下で考え事を続けていた。

    信用されてなくても、このタイミングで忠告ができたのは幸いだ。
    普段なら、キュゥべえが張り付いていてなかなか話ができないのだが、今回はラッキーだった。

    ほむらはそこまで考えて、ふと、ある考えに至った。

    まさか……

    QB「なるほど、やはりそれが君の目的か」

    はっとして振り向くと、そこにはキュゥべえの姿があった。

    ほむら(……私の目的を知ることが、こいつの狙いだったのか)

    ほむらは敵意を隠さずにキュゥべえに答えた。

    ほむら「そうよ。絶対に、ふたりを魔法少女にはさせないわ」

    QB「なぜだい?」

    キュゥべえが、心底不思議そうにほむらに問いかけてくる。

    本当に癪に障る奴だ。

    ほむら「あなたが隠していることを、私は知っているからよ」

    QB「何を知っているっていうんだい?」

    わざわざ答えてやる必要もない。
    ほむらは無視して、教室に向かった。

    QB「わけがわからないよ」

    そんな声が、ほむらの背後から聞こえた気がした。

    34 = 1 :

    ***

    昼休み、まどかとさやかが屋上で食事をとっていると、約束通りキュゥべえがやってきた。

    キュゥべえは、ふたりに魔法少女のことを一通り説明した。

    QB「……まぁ、とりあえずこんなところかな」

    まどか「えーと、ソウルジェムに、グリーフシードに、魔女の口づけに……」

    さやか「……覚えることが多いなぁ」

    丁寧な説明ではあったが、一度に理解するのは難しい。
    契約しなければ必要のない知識ではあるが、契約するかどうかを考えるためには、やはりある程度知っておかなければならない。

    さやか「それよりも、契約だよ。本当に、なんでも願いが叶うの?」

    QB「もちろんさ。契約する人間の素質にもよるけど、大抵の願いは叶えられるよ」

    まどか「……すごい話だよね」

    なんでも願いが叶うというのはもちろん魅力的だが、だからこそ、そう簡単に決められるものではない。
    少なくとも、今のまどかにはとても決められそうになかった。

    35 = 1 :

    さやか「キュゥべえ、質問があるんだけど」

    QB「なんだい?」

    さやか「願いは、自分に関することじゃなきゃダメなの? たとえば、他の誰かのために契約するとか……」

    QB「可能だよ。前例もある」

    さやか「……」

    まどかは、ふたりの会話を聞いていて、ひとつの考えに思い至った。

    まどか「さやかちゃん、もしかして、上条くんのために契約しようと思ってるの?」

    さやか「……あー、バレちゃった?」

    ふと、まどかの心がわずかにざわめいた。

    直感的にではあるが、他人のために契約することに、漠然とした不安を感じたのだ。
    しかし、それを具体的な言葉にするのは難しく、まどかは別のことを口にしていた。

    まどか「さやかちゃん、今日、ほむらちゃんに言われたこと覚えてる?」

    さやかの表情が、わずかに固まった。

    さやか「まどかは、あいつの言葉を信じてるの?」

    まどか「……わからないよ」

    36 = 1 :

    キュゥべえが、ふたりの様子をうかがって問いかけてきた。

    QB「何の話だい?」

    一瞬話してもいいものか悩んだが、まだキュゥべえが根っからの悪人だと決まったわけではない。

    それに、まだ情報が少なすぎる。
    それぞれの話を聞かなければ、どちらを信用すべきかの判断すら下せない。

    まどか「ほむらちゃんがね、わたしたちは、魔法少女になってはダメだって言っていたの」

    QB「ふーむ」

    キュゥべえは相変わらず無表情だ。

    QB「理由があるとすれば、グリーフシードの分け前が減ってしまうことかな。魔法少女が増えれば安全にはなるけど、その分自由に魔法を使うことは難しくなるからね」

    理屈は通っている。
    さやかは一応納得したような表情だ。

    QB「あまり気にしない方がいい。そんな魔法少女も珍しくはないからね」

    まどか「……でも、誰かと一緒に魔女と戦った方が、安全なんじゃないの?」

    まどかは思わずキュゥべえに問いかけたが、その答えは望んでいたものではなかった。

    QB「基本的に、複数の魔法少女が協力して戦うことは少ない。むしろ、敵対することの方が多いよ。前例がないわけじゃないけどね」

    37 = 1 :

    まどか「……」

    まどかは、昨日助けてもらった赤髪の魔法少女のことを思い出していた。
    確かに、彼女からもそのような雰囲気を感じた。

    まどかが気落ちしているのを知ってか知らずか、今度はキュゥべえがまどかに問いかける。

    QB「まどかには、これといった願いはないのかい?」

    まどかは改めて考えてみたが、やはりこれといった願いは思い浮かばなかった。

    まどか「……うん、思いつかないや」

    QB「そうかい。契約はいつでもできるから、願いが決まったらいつでも呼んでくれ」

    まどか「わかったよ」

    願いが見つかることと契約することはまた別の話だが、さすがにまどかがそれを口にすることはなかった。

    38 = 1 :

    それから数日、キュゥべえはほとんどまどかと行動を共にしていた。
    魔法少女に関しての話はなかったが、キュゥべえがふたりに契約を急かすような素振りはなかった。

    そんなある日、学校からの帰り道で、ひとつの事件が起こった。

    そのとき、キュゥべえは何かに気づいたようだった。

    キュゥべえが、まどかとさやかに声をかける。

    QB「まずいよ、ふたりとも。あそこにいる人を見て」

    キュゥべえのただならぬ様子に、まどかは思わず身構えた。

    さやか「え? 急にどうしたの? 確かに、様子はちょっと変だけど……」

    まどか「あれ? あの人、首筋に何か……」

    印のようなものが付いているのを見つけ、まどかに戦慄が走る。

    まどか「まさか、前に話してた、魔女の口づけ……!?」

    さやか「えっ!?」

    QB「そうだよ。このままじゃあの人が危ない」

    まどか「キュゥべえの話が本当なら、あの先に魔女がいて、あの人、殺されちゃうんじゃ……ど、どうしよう……」

    さやか「……放ってはおけないよね。とにかく、追いかけよう!」

    まどか「う、うん!」

    魔法少女ではないふたりに、できることがあるかどうかはわからない。
    もしかしたら、何もできないかもしれない。

    しかし、だからと言って見殺しにするわけにはいかない。

    この先に、以前見たような怪物がいると思うと、まどかの体が震えた。

    QB「いざとなれば契約することもできる。覚悟はしておいてくれ」

    さやか「そのときは、あたしが契約するよ。一応願いも決まってるわけだしね」

    だが、ふたりが魔女の姿を見ることはなかった。


    「その必要はないわ」


    ひとりの魔法少女の声が聞こえた。

    39 :

    見てるよ

    40 :

    杏子は魔女化の事実を知ってもマミみたいに半狂乱にはならないメンタルあるからなぁ
    思いきってまどかとさやかに魔女化の事話してもいいと思うけど

    41 :

    ss見るたびに、ワルプルギスが来ることとワルプルギス倒すまで契約しないで欲しいことを伝えればいいのにって思っちゃう
    ループの中で信用して貰えなかった経験からそうしてるのは分かるけど

    42 :

    >>41
    ワルプルギスが来ること伝えられたら
    むしろ戦力増やすために契約しようさせようとなるだけじゃないか

    43 :

    今回は『正義の魔法少女』たるマミがいないから、まどかが魔法少女に憧れを持ってないんだよね

    44 :

    紙メンタルのマミさんが居ないなら
    QBの前で二人に知ってる事話せばいいと思う

    45 :

    >>42
    マミさん相手に、手を組んでも九割負ける戦いに二人を巻き込むつもり?って言えば納得してくれると思う
    九割は自分のイメージだけど、伝える時に嘘言っても問題ない
    杏子はどっちか分からん

    46 :

    んなことしなくても

    基本的にQBはうそはつかないんだから
    「魔女が何から生まれるのか。そしてその何かは魔法少女がどうなったものか」と訊ねてみろ

    で終わる話だろ

    47 = 46 :

    自分を信じてもらえなくても、相手の信頼関係の中で答えを見い出してもらえばいいだけの話

    48 = 1 :

    ***

    全く、魔法少女でもないのに無茶をする。
    念のために尾行しておいてよかった。

    これは、巴マミがいなくなった影響だ。
    もし彼女がいれば、ふたりと一緒に帰っていただろう。

    まぁ問題はない。

    ほむら「ここは私が引き受ける。あなたたちはもう帰りなさい」

    返事も聞かずに、踵を返して先へ向かう。

    どうせ彼女たちが追いつく頃には終わっている。

    49 = 1 :

    大して強い魔女ではなく、戦闘はすぐに終わった。

    結界が消え、グリーフシードが残る。

    「おい、何してんだてめえ」

    ほむらは思わずため息をついた。

    振り向かずともわかる。
    佐倉杏子だ。

    杏子「前に言ったよな? この町はあたしの縄張りだって。人の獲物を横取りしてんじゃねーよ」

    ほむら「不可抗力よ。一般人が襲われそうになっていたから、仕方なく……」

    杏子「はぁ? そんなのほっときゃいいだろ。その分、いいグリーフシードが手に入るんじゃねーの」

    ほむら「……」

    50 = 1 :

    佐倉杏子は、自分のためにのみ魔法を使うことを信条としている。
    そこには、彼女の過去が関係していることは知っている。

    だが、目の前で魔女に殺されそうになっている人間を見捨てられるほど冷酷ではない。
    昨日、ふたりを助けたのもそのためだ。

    もっとも、彼女の中では助けたわけではなく、たまたま魔女を倒しているときにふたりが居合わせた、とでも変換されているのかもしれないが。

    要するに、今の佐倉杏子の台詞は、半ば売り言葉に買い言葉というか、決して本心からの言葉ではなかったということだ。

    ……つまり、全てはタイミングが悪かったのだ。



    さやか「ちょっと! それどういうことよ!」


    1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について