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元スレ提督「臆病で愚図」
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大鯨「ところで、提督、先ほどのダイナミック入室は提督のヘマということで納得しましたが、もう一つ聞いてもいいですか?」
提督「どうした」
大鯨「これ、何があったんですか?」
大鯨は未だに天井に突き刺さっている机を指差す。どう説明したものか。
愛宕が癇癪を起こして、机を蹴り上げたと正直に言うべきか?
天井に突き刺さった机を見上げる。
机が刺さっている穴の周囲には粘着テープが貼られ、机を抜いたときにほかの天井板が剥がれないように養生されている。
机から少し下に視線を移動する。
明石は先ほどまで掴んでいた机の脚から手を放し、ただ私たちを見ている。
感情なく私たちを見ている。
まるで録画中のビデオカメラのように、微動だにしない。
その明石を北上は不思議そうに見ていた。
提督「私もよくわからん」
明石から視線を逸らし、大鯨に返答する。
大鯨「はぁ」
大鯨は不思議そうな顔で首を傾げる。
大鯨は榛名、金剛、摩耶と視線を移し、愛宕に一瞥をくれた後、私に視線を戻す。
大鯨「じゃあ、これも提督のヘマということで」
提督「そうしてくれ」
腑に落ちないが、そうした方が処理も楽か。
大鯨「それと」
言葉を綴りながら、大鯨は夕立に視線を移す。
大鯨「今日って夕立ちゃん、秘書艦でしたっけ?」
提督「いや、違うが。妙高から聞いてないか?」
大鯨「特に何も」
提督「そうか」
そうなると、この三人は朝の点呼には参加してないから、事情を知らないことになるか
提督「夕立が体調を崩したようなんでな、預かっていたんだ」
明石の視線がきついものになる。
大鯨「体調が、ですか? 熱があるんですか?」
大鯨は夕立の傍まで寄ると、右手を夕立の額に当てようと伸ばす。
夕立「やっ!」
夕立は頭を振って、大鯨の手を拒む。
大鯨が驚いた顔をして、伸ばした手を引っ込める。
提督「夕立」
語気を強めて諌めると、夕立は私の左手を強く掴む。
大鯨に視線を移すと、困り顔が見えた。
提督「すまん、さっきからこんな調子でな」
大鯨「それはいいですけど、どの辺が悪いとかは……」
提督「熱はない。歩くときにふらつくぐらいだ」
大鯨「重症じゃないですか。なんで明石さんを呼ばなかったんですか」
強い語気で問い詰められる。
提督「医務室に居なかったものでな」
大鯨「それなら、わたしに電話一本くれればよかったのに。そのための寮監室なんですから」
提督「……すまん、そこまで思い至らなかった」
大鯨が溜息をつく。
大鯨「わかりました。取り敢えず仮眠室で休ませましょう」
提督「いや、それなんだが」
明石「北上さん、机をお願いします」
北上「えっ、え~、できっかなぁ」
明石が脚立から降り、北上が代わりに昇る。
明石「提督、お手数お掛けしました。あとは私にお任せください」
明石は夕立に近づき、右腕を伸ばす。
派手な音を立てて、夕立が明石の腕を払い落とした。
明石「……なんだ、元気そうじゃないですか」
右手を左手でさすりながら、腹まで冷え込みそうな声が部屋に響く。
明石「それだけ元気なら、提督のお世話になる必要はもうありませんよね?」
明石の、夕立を見るその視線は、靴の裏についたガムを見るのと同様の視線だった。
脚立に昇った北上が、机の脚を掴む。
夕立「おさんぽするの」
明石「はぁ?」
夕立の呟きに、明石が唾を吐くような声を上げる。
夕立「提督さんと、おさんぽ、するの」
夕立が私の腕に顔をこすりつける。
明石が、見下すような目つきになる。
明石「提督も大変ですね、こんなものに貴重な時間を割かなければいけないんですから」
夕立が顔をゆっくりと明石に向ける。
明石「お散歩に逝きたいなら、私がいってあげますよ。ついでにその手癖の悪さも修理しておきましょうか」
夕立「油臭い女が何か言っているっぽい」
夕立の視線に湿り気が混じる。
夕立「夕立のお散歩は激しいから、そんなに油臭いと引火しちゃうっぽい?」
明石の眼が見開き、口が嗤うように歪んだ。
北上が「う~ん」と唸る。
うまく抜けないのだろう、右へ左へ試行錯誤しながら机の脚を引っ張っている。
その度に、嫌な軋み音が鳴って耳の奥を揺さぶる。なるほど、これではノックの音も聞こえないだろう。
明石「その減らず口、ネジ留めすれば少しはマシになりますかね?」
夕立「ネジの足りない工作艦なんて、笑い話にもならないっぽい?」
明石「大丈夫ですよ」
明石の艤装が展開される。
明石「足りなければ、補充すればいいんですから」
艤装に設置されたクレーンが駆動音をあげる。
明石「ちょうどいいところに、目の前にいい素材があるじゃないですか、ねえ?」
ワイヤーが伸び、クレーン先端のフックが夕立に狙いを定める。
北上「よっ、と」
北上の掛け声とともに、ガコッと低く乾いた音が響き、ひしゃげた机が姿を現す。
明石と夕立を除き、全員の視線が机に集まる。
姿を現したスチール製の両袖机は、中心部分を境にへの字に曲がっており、天板部分は塗装が剥がれて傷だらけになっている。
もう使い物にはならないだろう。引出しの中身が無事だと良いが。
北上「明石、これよろしく~」
四本の脚の内、二本の脚を掴んで支えていた北上は、身体を捻り、空いている別の二本の脚を明石に向ける。
100 kg 近くある机を軽々持ち上げているあたり、艦娘の膂力はやはり人とは違うのだろう。
明石は、未だ夕立を睨んでいる。
北上「明石~」
提督「明石、呼んでるぞ」
明石「……わかってますよ」
明石は踵を返し、北上が降ろした机まで近づく。
そして空いている二本の脚を掴むと、ビニールシートの上に机をゆっくりと置いた。
加賀「買い替え、かしら」
誰に向けるでもなく、加賀が呟いた。
提督「だろうな」
机の買い替え、天井の修理、その他諸々の後始末。
大鯨「提督」
提督「なんだ」
掠れるような声。
大鯨「わたし、なぜか胃が痛くなってきたんですが」
提督「奇遇だな、私もだ」
北上「ん~……おおっ……ほぉ……あ~」
突き刺さった机によってできた穴から頭を突っ込み、天井裏を見ていた北上が感動するような、悩むような、よくわからない声を上げる。
提督「北上、天井の様子はどうだ?」
北上「んぉー?」
北上は穴の縁を掴んで身体を曲げ、頭を出して私の方を向く。
北上「あ、提督、おはよ~」
まずそこから始まるのか。
提督「ああ、おはよう。それで、様子はどうだ?」
北上「ん~、そうねぇ、結構やられちゃってるかな?」
提督「どれくらい掛かりそうだ?」
北上「んと、これの予備ってあるんだっけ?」
明石の方を向いて、部材の確認をする。
明石「見せてもらえますか?」
空かなくなった引出しとマイナスドライバーで格闘していた明石は、工具を床に置き、北上と交替して天井裏を確認する。
提督「明石、どうだ?」
天井裏を確認している明石に尋ねる。
明石「これだと部材を取り寄せる必要がありますね」
提督「そうか、部屋は使っていても大丈夫か?」
脚立から降りた明石は、再び天井を見上げる。
明石「すぐに何かあるわけではないのですが、お勧めはしませんね。しばらく部屋を替えていただいたほうがいいかと」
提督「部屋を替えるのはさすがにな……しばらくは大丈夫なのだろう?」
明石「そうですけど、万一崩落が起きたら危険ですし……」
加賀「私も、替えた方がいいと思うわ」
金剛「ワタシも、ここに提督を置くのは Not good だと思うネ」
明石の心配そうな顔に加え、加賀と金剛の援護射撃をくらう。
提督「しかしだな……」
急に部屋を替えたら他の娘が困るだろうし、貴重な資料を部屋の外に持ち出すと紛失の恐れもある。
他にも鎮守府内全施設への電話回線や本土とのホットラインなど、重要な通信回線もここに引いてあるのだ。
部屋を替えるとは簡単に言うが、現実的にはかなり大掛かりな作業になる。
北上「提督、ちょっといいー?」
提督「北上、悪いが後に……」
北上「妖精たちがさ、ここ、一時間あれば元通りにできるって言ってんだけど」
提督「なに?」
部屋にいた全員が一斉に北上の方を見る。
摩耶「一時間? 一週間とか一箇月の間違いじゃなくてか?」
聞き間違えじゃないかどうか、摩耶が北上に確認する。
私も、部材の取り寄せを含めるとそれぐらい時間が掛かると踏んでいたんだが。
北上「そだよ。あ、机も完璧に直すってさ」
摩耶「マジか」
北上「マジマジ」
摩耶に返答しながら、北上は明石の隣まで近づいてくる。
提督「本当か?」
明石が北上の右肩をじっと見つめる。
明石に合わせて北上の肩を目を凝らして見てみると、確かに蜃気楼のような二頭身の人影が見える。
漣の艤装に輸血してから一時期は見えていたのだが、改造を受けて以降はほぼ見えなくなってしまった。
おまけに、漣曰く「ご主人様がいると、なぜかみんな怯えちゃうんですよねー」と言われる始末。
見えていた時期も言葉で話すことはなかったものの、表情や仕草で意思疎通を図ったものだ。
可能であれば、昔のように、金平糖を美味しそうに頬張る彼女たちを見てみたいものだ。
明石「本当みたいですね」
提督「そうか」
明石「ただ、修復材をいくつか使用したいとのことですけど」
修復材か。
提督「摩耶、資材管理表を出してくれるか」
摩耶「えっと」
榛名「左の棚の真ん中の段のところですよ」
摩耶「これか」
摩耶が私の左隣りまで近づいてくる。
摩耶「ほれよ」
摩耶が私に手渡しする。
夕立「……」
愛宕「……」
だが残念だったな、今両腕が塞がっているんだ。いい加減離れてくれないか。
加賀「借りるわね」
加賀が代わりに摩耶から受け取り、私の前に管理表を広げる。
最新の年月日のページを開くと、燃料や弾薬などの備蓄量が数字として羅列している。
提督「加賀、金剛、どれくらい使えそうだ?」
金剛と加賀が前から表を覗く。
加賀「三つぐらいかしら」
金剛「そのぐらいですネー」
顔を上げ、北上に向く。
提督「だそうだが」
北上が右肩に視線を送る。
北上「十分だってさ」
提督「そうか」
スゴいね、妖精。
提督「部屋の修理は妖精に任せる。摩耶、立ち会ってやれ」
摩耶「りょーかい」
摩耶は妖精を預かるため、北上、明石と打ち合わせを行う。
提督「大鯨、待たせてすまなかったな。後は摩耶と妖精に任せるから、お前は戻っていいぞ」
大鯨「わかりました」
提督「愛宕、ついでにお前も仕事に行け」
指導は寮監と共に、寮の環境や寮生の健康状態を確認する仕事がある。
寮監の大鯨が来ているので、一緒に寮に向かわせることにする。
愛宕「えー、もうちょっと後でもいいですよね?」
駄目に決まっているだろう。
提督「心配しなくも、約束は守る」
その言葉で、愛宕の視線が一時下がり、少し暗い表情になる。
視線が戻る。
愛宕「わかりました。私が戻ってくるまでに、ちゃんとニオイを取っておいてくださいね?」
提督「ああ、わかっている。一度部屋に戻るから、掃除はそれからにしておいてくれるか?」
愛宕はにこりと微笑む。
愛宕「はい。それじゃ、提督」
提督「ん?」
右頬に柔らかい感触と吸着音。それと加賀と金剛からの鋭い視線。
なんか引き継ぎの時もこんなことがあったな。
愛宕「ふふ♡ じゃ、行ってきます♡」
右腕から手を放した愛宕は、大鯨と共に部屋を出ていった。
加賀「すけこまし」
言うな。
提督「それより、加賀、お前も待たせてしまったな。今摩耶に……」
加賀「それだけど、あなたのサインも必要なものなの」
私の署名が必要なもの?
提督「内容は?」
加賀「計画書よ。ただ、実施日は今日だけど」
……緊急案件は先に言ってくれ。
金剛「Hey、加賀ァ、計画書の申請期限、何日前に出さなきゃいけないか、わかっていますカー?」
金剛が目を細め、唇を歪めて加賀に絡む。
加賀「知っているわ。でも、秘書艦一名と提督の承認があれば当日実施は可能なはずよ」
淡々と言いながら、書類を私に差し出す。
金剛「Humph!!」
その書類を金剛が横から奪い取る。
金剛「まったく、一体どんな Mission の……」
金剛が書類をまじまじと眺める。
最初は眉間に寄っていた皺が、段々と無くなっていく。
金剛「Wow! Congratulations! さすが加賀ネー!」
最後にはなぜか笑顔になった。一体どんな計画書なんだ。
金剛は秘書艦用の机にあるペンを取ると、書類に署名をしてしまった。
一応金剛も秘書艦なので問題はないが、こういった書類は通常補佐が署名するものなのだが。
金剛「Hey! あとはテートクのサインだけネー!」
榛名「提督、こちらを」
榛名がペンと私の印鑑を持ってくる。
机を見ると、引出しの前板が破壊されていた。おそらく、そこから出したのだろう。
提督「ああ、ありがとう、ソファーに置いておいてくれ」
榛名「はい」
金剛から書類を受け取り、応接用のソファーに夕立と共に座る。
加賀「すぐ実施できるようにしてあるから、サインだけでいいわ」
右隣に座った加賀から補足説明を受ける。
提督「そうか」
根回しは既に済んでいるということか。
とはいえ、書類には一応目を通しておかなければ。
まあ、加賀は仕事に私情を挟んだりしないから、実際署名だけで十分だとは思うが。
提督(ふむ)
書類を読む。
『_____内容:解体
_______理由:素行不良、協定違反、上官へのわいせつ行為、存在そのもの、その他雑多な事象の原因
_______以上の理由により、以下の艦艇を解体に処する。
_______対象:白露型 四番艦 駆逐艦 『夕立』
____________』
提督「……」
私情混ぜ混ぜじゃねーか。
・本日は ここまで
・書類は テキトーです
・ご都合主義ぇ
・感想 要望 改善等 あれば どうぞ
・書類は テキトーです
・ご都合主義ぇ
・感想 要望 改善等 あれば どうぞ
私が書類を睨みつけていると、加賀が声を掛けてきた。
加賀「どうしたの? 書類に不備はないはずだけど」
不備があるのはお前の頭だ。
提督「榛名」
榛名「どうぞ」
榛名が別の印を私に手渡す。まだ用を言ってないんだが。
提督「ありがとう」
榛名から否認用の印鑑を受け取り、書類の中心に押印する。
提督「ほれ」
押印した書類を加賀に手渡す。
加賀が手渡された書類を凝視していると、横から金剛が書類を覗く。
金剛「テートクゥ、Seal が間違っていませんカー?」
提督「くだらんものを出すなということだ。言っておくが、それは否認通知だからな」
感情のこもっていない加賀の瞳が私に向く。
提督「異議申立てがあるなら、もっとましな理由をつけて出すことだ」
加賀は再び書類に目を落とす。
加賀「そう」
まるで、否認されることがわかっていたかのような口ぶりだな。
提督「書類はそれだけか?」
加賀「ええ」
提督「なら、自分の仕事に戻ることだ」
加賀「あなたは?」
顔を上げて、私の予定を聞いてくる。
提督「用が出来たんでな、午前中は執務室には戻らないかもしれん」
夕立を一瞥して、そう答えた。
加賀「そう……わかったわ」
そう言ってソファーから腰を上げた際、ふと加賀へ用があるのを思い出した。
提督「あっ、と、加賀、すまん、少しいいか? 相談があるんだが」
加賀は腰を上げた中途半端な姿勢で立ち止まる。
加賀「何かしら? 仕事に戻りたいのだけど」
提督「あーと、休みについてなんだが……」
加賀「付添いのことかしら?」
提督「ああ」
付添いというのは、非番や休日の護衛のことだ。娘によっては呼び方がまちまちなので、加賀のように別の呼び方をする娘もいる。鈴谷は「でぇと」とか呼ぶし。
加賀は娘たちの勤務予定を管理しているため、予定の調整はまず彼女に聞くのが手っ取り早い。
加賀「誰とかしら?」
加賀が再びソファーに座り、護衛の相手を尋ねてくる。
提督「ああ、みょ……」
妙高、と言おうとした途端、背筋に悪寒が走った。
左手に触れている夕立の肌がひどく冷たく感じる。
加賀「みょ……?」
提督「いや、なんでもない。それより加賀、今度の補佐はいつだ」
加賀「来週だけれど?」
提督「そうか、相手についてはその時話す。一応、そういう話がある、とだけ知っておいてくれ」
加賀「別に今でもいいはずだけど……あなたがそう言うのなら」
腑に落ちない顔をしながら、加賀はそう答えた。
加賀「それだけかしら? 相談になっていないような気がするけど」
悪寒は、未だ消えない。何か別の話に逸らさないと。
提督「あー、いや、本題はここからでな。数日休みを貰って、本土に」
部屋が軋んだ。
鉄が歪に曲がるような音が聞こえる。
音源は六つ。左腕に一つ、対面のソファーに一つ、眼前から二つ、執務椅子の近くに二つ。
口が、重圧で、動かない。
加賀「本土に、なに?」
眼前にいる、青いたすきをかけた娘が、瞳を灼熱色に輝かせながら、凍えるような声を発した。
加賀「よく、聞こえなかったわ。もう一度、言ってもらえるかしら?」
提督「……」
口をやっとの思いで動かしたが、今度は声が出ない。
榛名「提督」
対面のソファーにいた榛名が、私の後ろに移動し、声を掛ける。
榛名「どうやら、提督はお疲れのようですね。少しお休みになられてはいかがですか?」
榛名が両手で優しく肩を掴む。
掴んだ手が、ひどく冷たい。
榛名「榛名がお世話をいたしますので、どうぞ、仮眠室へ」
提督「がっ……!」
瞬間、肩が潰れそうなほどの力が入り、痛みで呻き声が出る。
金剛「榛名、力を入れすぎネー。提督が痛がっているヨー」
榛名「あっ」
加賀の後ろにいた金剛が榛名に忠告をする。
それに呼応して、肩に掛かっていた力が消え、腰がソファーに沈む。
榛名「て、提督! 申し訳ありません! お怪我は……」
提督「き、ずを……」
やっとのことで言葉を発する。まず、三文字分だけ。
私に視線が集まる。
提督「傷を、なおし、たいん、だ」
加賀「傷? どこの?」
提督「銃創、をだ」
部屋が軋む音が、さらにうるさくなった。
夕立「なんで?」
左腕に指が食い込む。
夕立「なんで、それ、消しちゃうの?」
悲痛な声が耳に響く。
夕立「提督さんが、守ってくれた証なのに、なんで?」
提督「お前たちが……悲しい顔を、するから、だ」
重圧が、消えた。
部屋が、静かだ。
左腕の冷たい感触がなくなっている。
加賀「ここでは、治せないの?」
ひどく落ち着いた声が向けられる。
肺にゆっくりと酸素を取り込み、言葉を発する準備をする。
提督「ここだと、色々足りない」
執務椅子近くにいた明石が、悲しそうな笑顔を浮かべる。
明石はどちらかというと軍医というより看護兵に近い。
施術ができないわけではないが、人間の治療となると本土の専門医には劣る。
加賀は目線を下げて、熟考する。
夕立「やだ」
夕立が腕を離し、体を強く抱きしめてくる。
夕立「提督さん、いっちゃ、やだ」
肩を抱き寄せて、耳の上の髪を梳いてやる。
加賀に目線を戻す。
加賀の黒い瞳には強い光が宿っている。
加賀「悪いけど、駄目よ。あなたをここから出すわけにはいかないわ」
危険なほど、強い光が宿っている。
加賀「『あんなところ』に、あなたをまた行かせるわけにはいかないの」
金剛も。
榛名も。
摩耶も。
明石も。
夕立も。
『知らない』北上を除き、全員が同じ光を宿している。
提督「……わかったよ」
そう答えるしかなかった。
その後、加賀は「くれぐれも余計なことをしないように」と釘を刺して自分の仕事に戻っていった。
摩耶、明石、北上も打ち合わせに戻る。
自業自得とはいえ、猛獣に囲まれるような空気がなくなり、思わず溜息が漏れる。
榛名「提督、お疲れのようでしたら、少し休んでいかれてはいかがですか?」
と思ったら猛獣の一匹、ではなく榛名が私の右隣に座り、身体を摺り寄せてくる。
右腕に絡まり、胸に実るたわわな果実が「収穫期を迎えたぞ、もげよ」と言わんばかりにその存在を主張してくる。
榛名は顔を寄せ、目を瞑り、私の首回りでくんくんと鼻を可愛らしく動かす。
榛名「においも強くなっておりますね、悪い汗が出てしまっているようです」
榛名は私の右手を掴み、左の太ももに手を招く。
太ももからスカートの内部に連れて行かれると、太ももと鼠蹊部の境がしっとりと湿っているのが感じられた。
榛名「この後シャワーを浴びるのでしたら、良い汗を流してからではいかがでしょうか? は、榛名は、すでに準備、が……」
突然言い淀んだ榛名は、右手で真っ赤になった顔を隠し、顔をそむける。
榛名「すいません……ちょっと待っていただけますか」
ここまでやっておいて、恥ずかしさで中断するとか、何がしたいんだこいつは。というか、なぜこの状況で実行した。
金剛がさっきから、ニコニコ笑顔だぞ。何も話さないのが怖いくらいのニコニコ笑顔だぞ。
夕立はどうしたかって? 悪夢を見そうなので振り向けません。左腕痛い。
明石「提督、お待たせいたしました」
右腕を速攻で引っ込める。
どうやら部屋と机の修理について、明石、北上、摩耶の打ち合わせが終わったらしい。
摩耶と明石が一瞬、養豚場の豚を見るような目をしていた気がするが、気のせいだろう……気のせいだろう。
提督「ああ、いつから始められそうだ?」
摩耶「今すぐにでも可能だってよ。修復材は妖精が持ってくるから、特にやることはねえな。立会いもあたしだけでいいみたいだ」
提督「そうか、了解した」
明石と北上に目配せする。
提督「明石、北上、朝から済まなかったな」
北上「ん~、別に、気にしてないし。それより、提督も大変だねぇ」
あの状況を気にしていない、か。前線を退いたとはいえ、豪胆さは衰えずか。それとも私が小心者なだけか。
前線で思い出したが、今でも転属前の鎮守府や最前線の部隊から、北上の復帰を待ち望む声があるとか聞いたな。
どんな活躍をしたか詳しく知らないで受け入れたから、今度気が向いたら調べてみるか。
明石「お役に立てれば幸いです。それより、提督」
明石の冷ややかな目線が夕立に移動する。
明石「それ、いい加減こちらでお預かりしますよ。ご迷惑でしょう?」
夕立「臭い」
夕立が言葉を吐き捨て、私の服を引っ張る。
夕立「提督さん、ここ、臭いっぽい。早く行こ?」
明石「さっきから臭い臭いって……鼻が壊れてんじゃないですか? なんだったら、役に立たないその鼻を今すぐ切り落としてあげますけど?」
夕立「あ~臭いっぽい、臭い臭い臭い臭い臭いくさ「 ゆ う だ ち 」
怒気を孕んだ声で夕立を呼ぶと、夕立と明石の身体がビクリと震えた。
夕立「あ」
青ざめた顔をした夕立を再び抱き寄せて、頭を撫でてやる。
提督「明石」
明石「あっ……は、はい」
目が覚めたような顔をする明石に声を掛ける。
提督「心配を掛けてすまないな。私は大丈夫だから、お前はもう下がりなさい」
明石「えっ、でも」
提督「おさんぽのお誘いをしたのは私の方なんだ。誤解をさせていたらすまなかったな。何かあったら呼ぶから、そのときは頼めるか? こういうのはお前だけが頼りだからな」
明石「はっ、はい、お任せください! それでは、失礼します!」
明石は、夕立に一瞬ニヤリと笑いかけた後、部屋から退出した。
北上「んじゃ、またね」
提督「ああ」
北上もあっけからんと退室する。
・本日は ここまで
・次から こちらからコメントがなければ 終了宣言は 控えます
・過去編がやばい タイトルだけ晒して誤魔化したい……
・感想 要望 改善等 あれば どうぞ
・次から こちらからコメントがなければ 終了宣言は 控えます
・過去編がやばい タイトルだけ晒して誤魔化したい……
・感想 要望 改善等 あれば どうぞ
乙です
書き手が書く自信が無いのなら過去編は断片的な情報出して誤魔化すのもあり
書き手が書く自信が無いのなら過去編は断片的な情報出して誤魔化すのもあり
過去編とか無理に書かなくてもええんやで
色んな艦娘同士のギスギス見せてくれ
色んな艦娘同士のギスギス見せてくれ
さて、部屋が直るまで、やれることはやっておこうか。
提督「摩耶、私は一旦部屋に戻る。身体を洗ったら一度顔を出すが、それまでここを頼むぞ」
摩耶「んなもん気にせず、あとはあたしに任せてさっさと行って来いよ。もたもたしてっとまた姉貴に蹴っ飛ばされっぞ」
提督「それは困るな」
摩耶は私の言葉に苦笑すると、秘書艦用の机に座り、そのまま書類業務に入った。
提督「行くか」
夕立「提督さん……」
弱々しい声が耳に届く。
声のした方に振り向くと、今にも泣きそうな顔が視界に入る。
提督「どうした、夕立」
夕立は私の顔を見ると唇を震わせる。
夕立「……ご……さ、い」
何か言葉を発しようとしているが、うまく声が出せていないのだろう、虫食いされた文字が口から零れるだけだった。
とはいえ、唇の動きと表情で大体のことは察することはできた。
左手で肩を抱き寄せたまま、右手で夕立の頬に手を添える。冷たい。
提督「大丈夫だ、夕立。怒っていないから」
「怒っていない」という言葉に、夕立が肩を震わせる。
夕立「あ……で、も」
提督「明石は怖かったな」
夕立の言葉を遮り、暖めるように頬を撫でる。
提督「私も驚いてしまったよ。普段はあんな冷たいことを言う奴ではないんだがな」
夕立に体を向け、胸元に顔を抱き寄せる。右手を後頭部に寄せて髪を撫で、左手を背中に回し、赤子をあやすように背中を優しく、ポンッ……ポンッ……、とたたく。
提督「あのまま夕立と明石が話を続けていたら、もっと酷いことになるんじゃないかと怖くてな。つい語気を荒げてしまった。だが、なんだかお前を叱ったようになってしまったな」
夕立は顔を上げると、潤んだ眼を向けてくる。
提督「夕立、怖がらせて、すまなかったな」
私がそう言うと、夕立は目を瞑って、嬉しそうに胸元に抱きついた。
夕立「ううん……よかった、っぽい」
そして、安心したかのように呟いた。
夕立の気持ちが落ち着くまでしばらく抱き合い、ソファーに腰を預けたまま時間を過ごす。
修復材がまだここに届いていないためか、妖精の作業はまだ始まっておらず、時計の針の音が部屋を支配する。
ついでに、金剛と榛名の不機嫌な視線も。あ、摩耶もだ。
そんな針が刺さるような視線の中、夕立が胸元で「えへへ」と笑みを零す。
提督「しかし、夕立。明石があんなことを言うからって、お前まで汚い言葉を言う必要はなかったんだぞ」
夕立は嬉しそうな表情を変えて顔を上げると、ムッと口を結ぶ。
夕立「明石さんに悪い油がついていたから、いい油を注いであげただけっぽい」
いい油でもっと燃え上がるってか。ハハハ、こやつめ。
金剛「テートクゥ、Shall we?」
提督「ん? ああ、そうだったな。夕立、行けるか?」
夕立「ぽい♪」
行けるな。
榛名「あの、提督、お休みになってからの方が」
夕立「提督さん、早く行くっぽい」
提督「わかっている」
榛名「あの」
夕立「提督さん、早くそのニオイとるっぽい」
提督「わかっているから、急かさないでくれ。榛名、すまないがまた後でな」
私に気を遣う榛名の言葉を遮り、夕立が急かしてくる。
榛名の気遣いは嬉しいが、愛宕のこともあるので急ごう。
榛名「……はい」
提督「摩耶、頼んだ」
私が声を掛けると、摩耶は椅子に座ったまま、犬を追い払うような仕草をして、私たちを急かした。その仕草はさすがにどうなんだ。
私室へ向かうため、執務室を出る。
榛名「……」
榛名「榛名は大丈夫でス」
部屋に到着し、まず居間に金剛たちを案内する。
居間のテーブルには、朝食時に食堂から持ってきたお盆とバスケットが残っている。後で間宮さんに返却しなければ。
提督「体を洗ってくる。しばらくここで待っていてくれ」
金剛「テートク、ワタシも一緒に入るネ」
やはり金剛はそう言うか。
確かに護衛は四六時中私の傍にいることになっているが、裸になる場所などは範囲外という解釈だったはずだ。
仮にそういう場所で私と二人きりになるのであれば、福祉係の許可が必要になる。
提督「榛名、私は一人で入るからな」
榛名「……はい、榛名は大丈夫デス」
提督(よし)
金剛が榛名に聞く前に、榛名から言質を引き出しておく。
提督「金剛、そういうわけだからな」
金剛「ムゥ」
金剛は不満駄々漏れだったが、渋々同意した。抜け駆け防止の許可制がここで役に立つとは。
ここで愛宕や金剛が福祉係だと、ほぼ確実に一緒に浴室に入って一発犯ることになるからな。
仮に許可を無視して入って来ようものなら、その時はほかの娘からの『私刑』が待っている。
抜け駆けを許さず、皆で平等に『しあわせ』を享受する。まさしく『福祉』係というわけだ。
……その『しあわせ』が私なのはどうかと思うが、まあその辺は気にしないでおこう、うん。
夕立「提督さん」
提督「夕立も、いい子なら待てるな」
夕立の言葉を遮り、頭を撫でる。
夕立「……早く出てきてね」
提督「できる限り早くするさ」
夕立の頭を一頻り撫でた後、金剛たちを置いて浴室へ向かう。
今度こそ久々に一人で過ごせそうだ。
提督(はて?)
……何か大事なことを見落としている気がする。
更衣室で服を脱ぎ、浴室の扉を開け、床に足を乗せる。
提督(相変わらず変なもんだ)
現在、この浴室の床には様々な洗剤が置いてある。
シャンプー、リンス、ボディーソープ、トリートメント、コンディショナー、洗顔料、化粧落とし、入浴剤、スポンジ、毛抜き、I字剃刀、T字剃刀などなど。
容器の色も形も様々な洗剤や入浴用品が置いてあり、それらが所狭しと壁際を占領している。
大体は娘たちがここに置いていったもので、秘書艦や休日の護衛に指名された際、これらをここで使用している。
自分の部屋に置いておけよ、と思うのだが、秘書艦に指名される度にこの浴室に持ってくるのが面倒臭いためか、置き傘感覚でここに置かれているのが実情である。
いい加減狭くなってきたし、棚か何かを購入して整理整頓するべきだろう。
提督(温かくなってきたか?)
シャワーの水温を右手で確認する。もう少し熱い方がいいな。
ちなみに、更衣室にもこれ以外の、もうよくわからない物が置いてあり、『女性って大変なんだな~』ということが一目で理解できるようになっている。
クリームにパウダーに口紅に、えとせとらえとせとら。確かにあれを一々ここに持ってくるのは面倒だろう。
ただ、あれだ、面倒臭いからと言って、タオルや歯ブラシ、着替えなんかを置いていくのはやめて欲しい。
特に下着。いくらなんでもあれをここに置いていくのは本当にやめて欲しい。下り物で黄ばんだパンツなんて誰が喜ぶんだ。
あと歯ブラシ。使う洗剤は娘たちによって千差万別なのに、なぜか皆、歯ブラシは私と同じものを使用しているため、時々間違えて娘たちの物を使ってしまいそうになるのだ。
この前も満潮に「それ私のじゃない!? なにやってんのよ、このバカ!」と怒られたばっかりだし。せめて名前を書くなどの工夫をして欲しいものだ。
それにしても、偶然かもしれないが、娘たちが皆、全く同じ種類の物を購入するとは奇妙なものだ。
購買で買えるものがそれしかなかったのだろうか? 今度確認して、場合によっては別種類の品を取り寄せてみるか。
シャワーの水が適温になったところで一度体を流す。
身体に洗剤を付けるため、シャワーフックにヘッドを掛ける。
洗剤容器のポンプを押し、洗剤を適量取り出す。
「てーとくさん♡」
甘い声が、後ろから響いた。
ポンプに手を乗せたまま振り向くと、そこには産まれたままの肢体を晒す夕立の姿。
夕立は後ろから首元に手を回すと、顎を左肩に乗せ、身体を私の体に密着させた。
必然、背部に夕立の乳房が当たる。硬くなった乳首が背中にあたり、柔らかな乳房が私の背部と夕立の胸部の間に挟まれる。
首元を抱きしめる腕は、牛乳の寒天のような甘い柔らかさを肌に伝えてくる。
提督「夕立、何しに来た」
少しきつめの口調で尋ねる。
夕立「てーとく……さん♡」
私の質問に答えず、身体をこすりつけてくる。
離れてまだ数分しか経っていないのにもかかわらず、腹を空かせた獣のように口から荒い息継ぎが溢れている。
そして荒い息継ぎのまま、後ろから左耳の付け根を舌でなぞり、耳たぶにしゃぶりつく。
温かい軟体生物のような舌が耳たぶに絡み付き、時よりついばむように耳が唇に引っ張られる。
耳を蹂躙し尽くすと、唇を離し、左側頭部で鼻をひくつかせた。
夕立「提督さん、臭い」
においを嗅いだ瞬間、しかめ面になる。今から洗おうとしたんだよ。
提督「夕立、榛名はどうした」
もう一度尋ねる。
しかし夕立は私の言葉に反応せず、洗剤を乗せた左手に視線を注ぐ。
そして身体を移動させ、私の左手首を掴む。手首に力が掛かり、振りほどけない。
そのまま夕立の手に誘われて、私の左手が右の乳房に吸い込まれる。
夕立「あはっ♡」
眼が細くなり、歪んだ唇から嬉々とした声が漏れる。
左手で手首を掴まれ、右手で指を操られ、乳房を揉まされる。
育ち盛りな見た目に反し、厚みのある乳房が指で形を変え、練りこまれる。
手のひらをこする勃起した乳首も、洗剤が潤滑液となって悪戯するようにくすぐってくる。
洗剤を塗りたくったところで、今度は左の乳房に手を招く。
提督「夕立、やめろ」
右手で夕立を押し留める。しかし、私の制止を耳に留めず、夕立は一心不乱に胸を揉ませてくる。
幸せそうな夕立は、結局、洗剤が塗りたくられるまで、私の左手を離さなかった。
頭が痛くなりそうだ。
夕立「てーとくさんっ♡」
洗剤まみれになった夕立が正面から抱きついてきた。
ハッハッと息継ぎを荒くし、だらしなく開いた口から熱を帯びた舌が垂れる。
垂れた舌から、糸を引きながら滴が落ち、胸板で私の体に纏う水と混ざっていく。
提督「夕立、いい加減にしろ。違反行為だぞ」
そもそも金剛と榛名はどうした。まさか見逃したのか。
語気を荒げて咎めるが、言葉届かず。
私の肩に乗っている夕立の手に力が入る。上体が上がり、夕立の顔が私に近づく。
夕立の舌が私の左頬に触れ、じっとりと縦になぞっていく。
夕立「夕立は、スポンジっぽい」
提督「はっ?」
正面に顔を移した夕立が、胸と股を擦り付けながら口を開いた。
その内容に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
夕立「夕立は、てーとくさんの体を洗うスポンジなの♡ だから、まったく問題ないっぽい♡」
そんな阿呆な理屈あるか。
提督「いや、お前な……」
夕立「そもそも」
私の言葉を遮り、夕立は言葉を続ける。
夕立「提督さんが戻ってくるのが遅いのがいけないっぽい。だから」
夕立は、腰を振り、身体を上下に動かしながら、私の体を洗う。
夕立「夕立が、のそのそ亀さんてーとくさんのお手伝いをしてあげるっぽい♡」
まさかとは思いますが、その亀はもしや下半身の亀ではございませんか。
夕立「あっ♡」
夕立は声を上げると、腰を上げて、私の下腹部に視線を送る。
夕立「提督さんの亀さんがおっきくなったっぽい♡」
夕立、それ亀やない、亀頭や。
怖気が走り、すぐに夕立の肩を引いて、背後にある扉から隠すように抱き寄せる。
幸い、抱き寄せた際に陰茎が外れたため、性行為は回避できた。ただ、外れた際に夕立のお尻の割れ目に陰茎が挟まって、すべすべの肌が竿を撫でることになったが。
音のした方向に視線を送ると、間仕切り錠の取っ手が床に転がっているのが見える。
扉の錠に視線を移す。
角芯を通す穴からこちらを覗く目と視線が交わる。
冷えついた粘着質の視線が、穴から浴室内を覆っていく。
いや、ありえない。小指一本分も通らない大きさの穴だぞ? 浴室内がまともに見えるはずがない。なにより、そこから見えるものがどうして目だとわかった?
いや、だが、この感じは「見られている」としか言いようのない感覚だ。
なにより、あの黄昏時の色をした瞳は……
提督「榛名か……?」
扉の方向に声を掛けると、室内を覆っていた視線が消える。
そのかわり、金属が軋む嫌な音が響く。
鉄でできた蝉が、鳴こうとしては死んでいくような、そんな音が規則的に繰り返される。
突如として、鉄の蝉が捻り潰されて、折られる音が現れた。
それと共に、今度はサムターンが床に転がる。
扉を開けるならば、硬貨を嵌めて開ける非常解錠装置を使えばいいはずだが、何があったというのか。
━━━━━カチャッ、カチャッカチャッ、カッカッカッカッカッカッカッカッ、カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ
━━━━━カチッ
扉が少しだけ開く。
榛名「……提督」
更衣室の床で膝をつき、扉の側面を手で掴んだ榛名が、顔を半分だけ出してこちらを覗く。
別れてまだ数分しか経っていないはずなのに、ひどくやつれて目になっていた。どことなく、雰囲気も暗い。
提督「どうした、榛名」
声を掛けながら、榛名の視線から夕立をできる限り遮る。
榛名「夕立が、そこにいますね?」
気づかれているか。しかし、まだ正直に答えるわけにはいかない。まずは状況を把握してからだ。
提督「なにかあったのか?」
夕立の心臓の鼓動がこちらに伝わる。頬ずりすんじゃない。
榛名「夕立を、お渡しください」
私の質問に榛名は答えない。返答しない私も私だが、今の榛名に夕立は渡せない。
違反行為をしたとはいえ、強く拒絶できなかった私にも非はある。何をするのかだけでも情報を引き出さなければ。
提督「榛名、夕立とは何もしていない。私が身体を洗ってあげていただけだ。だから」
榛名「夕立を、渡せ!」
怨嗟の声と共に、掴んでいる部分が指の形に凹んだ。
榛名「そいつは! そいつはそいつはそいつは! お姉さまと榛名が目を離した隙に、その隙に! こんな、こんなこんなこんなこんなこんな、こんなことを!」
榛名「今日は榛名が! 今日は今日は今日は、榛名が、ハルナが! 最初に! 提督に! 『使っていただける』日なのに!」
榛名「本当なら、榛名が! ここで、提督と、提督を、お世話するはずなのに!」
榛名「なのに、なのになのになのになのになのになのになのに! なのにっ!」
榛名「どいつもこいつも! 好き勝手しやがって!」
榛名は瞳を青色に輝かせながら、怨声を室内に響かせる。
人格に影響が出ているせいか、口調もおかしくなっている。
榛名「許しません。許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません許しません」
榛名「 ユ ル サ ナ イ 」
榛名「提督、そいつをお渡し下さい」
榛名「そうすれば、きット、ハルナ ハ ダイジョウブ ニ ナリマス」
榛名は燃え盛る猛獣のような息継ぎをすると、口を三日月のように歪める。
そして、見開いた目には涙が灯っていた。
提督(駄目だな)
今の榛名に夕立を渡しても、むしろ悪化するだけだろう。仲間を傷つけて、心に平静を取り戻すような娘ではない。
提督「榛名」
榛名「ハイ」
提督「気が変わった、一緒に風呂に入って、私の世話をしろ」
扉を掴む力が弱くなったようにみえる。
榛名は一瞬口を真一文字に結ぶと、ゆっくりと口を開く。
榛名「夕立ヲ、オ渡シ下さい」
提督「私と入るのは嫌か?」
扉を掴む力が少しだけ強くなったようにみえる。
榛名「夕立ヲ、オ渡シ イタダイタ 後ならば、二人きりで、お付き合いできます。だから」
提督「私より夕立を優先か……悲しいもんだ」
榛名の顔が苦痛にゆがむ。
榛名「違イマス! 榛名は、決して提督を蔑ろにしたわけでは……ただ、夕立が「榛名」
言葉を発しながら、徐々に顔を俯かせる榛名に声を掛ける。
提督「私は『世話をしろ』と命じている。提督としてな。そしてお前は私の部下で、はて? お前の今の仕事はなんだったかな」
わざとらしく、いやらしく、言葉を続ける。
提督「ああ、お前は今日は福祉係だったな。福祉係は確か、そう、いろいろ世話をしてくれるんだったな。なのに、命令を無視して職務を放棄するというのなら、今後一切榛名に世話は頼まないことにしようか」
榛名「そんなの……いや」
榛名は声を震わせる。
提督「そうか、なら、もう一度言うぞ。『身に纏った衣類を全て脱いで、ここで私の世話をしろ』」
私の言葉に榛名が顔を上げる。
夕焼け時の瞳が泥水のように濁っていた。
榛名「榛名、奉仕命令、了解です……」
いや、そこまで言っておらんから。
・本日は ここまで
・なんかいろいろごめんなさい 特に榛名
・おかしい…… ちょっと提督への愛が深い艦娘とのほのぼのイチャネチョハートフルコメディを目指していたはずなのに……
・今更ですが キャラ崩壊 注意です
・感想 要望 改善等 あれば どうぞ
・なんかいろいろごめんなさい 特に榛名
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