元スレいろは「私、先輩のことが、好きです」八幡「……えっ?」
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251 = 2 :
ずっと、思い出さないようにしていた記憶がよみがえる。
先輩と初めて出会った時のこと。図書室で口車に乗せられてあげた時のこと。他校との会議で助けてくれた時のこと。
そして――。
『俺は、本物が欲しい』
――私を変えてくれたあの時のこと。
恋の始まりなんてわからない。人は気づいたら誰かを好きになっている。いつからかなんて明確なことは言えない。もし言える人がいたらその人は大嘘つきだ。
でも、もしも強引にそれを言うとしたら、それはやっぱりあの時なんだと思う。
いろは「……全部、思い出した」
252 = 2 :
大志「それで、これからどうするんすか?」
いろは「どうしようかな。何も考えてないよ」
大志「……っすよね」
思い出した事柄の中に一つ、私が気になっていたことがあった。高校の頃には聞けなかったことだ。
あの日、先輩の話を聞いてサイゼリヤを出て携帯電話を見ると、そこには着信履歴があった。それは他の誰でもない川崎くんからのだった。
いろは「ねぇ、川崎くん」
大志「なんすか?」
いろは「あの時、なんで電話をかけてきたの?」
大志「……電話?」
一瞬、川崎くんの表情が変わったのを私は見逃さなかった。この子は嘘をついている。あの電話のことを、覚えている。
大志「なんのことっすか?」
253 = 2 :
川崎くんの態度からしらばっくれているのは明白だった。しかしそれを追及する気にはなれない。
だって彼は、私がついた嘘を全て言及しないでくれた人だったから。
それなのに私が彼の嘘を暴くのは恩を仇で返す行為だ。
いろは「……そっか。どうしても、覚えてない?」
大志「……申し訳ないっす」
いろは「別にいいよー」
誰しも他人に知られたくないことはある。それは川崎くんだって同じだ。
254 = 2 :
いろは「そう言えば」
大志「?」
いろは「川崎くんって、彼女とかいるの?」
大志「……まぁ、いちおう」
川崎くんは言いながら照れている。んー、なんかこう、初々しい!
いろは「そっかー、だよねー。前よりもずっとカッコよくなっちゃってこのこのー」
大志「ちょ、ちょっと……、やめてくださいよ……」
いろは「……あれ? 彼女さんいるのに私なんかと一緒にいて大丈夫なの? 誤解されたりしない?」
大志「ちゃんとあとで報告するっすよ。恋愛関係ってほんのちょっとしたモツれがこわいって聞くんで」
いろは「うん、こわいよ」
経験者は語る。まさにこのことだね。
255 = 2 :
いろは「私みたいにならないように、気をつけてね」
大志「肝に銘ずるっす」
いろは・大志「「…………」」
いろは「……ふふっ」
大志「……ぷっ」
突然訪れた沈黙がなんだかおかしくなって二人で笑う。ここ数日で一番ちゃんと笑った気がした。
大志「はは…………、あっ……」
ふと、川崎くんの目が見開いた。それは何かに気づいたようだった。
いろは「どうしたの?」
少し間が空いて川崎くんの口が動く。
大志「ちょっと用事を思い出したっす! ヤバイっす!」
いろは「えっ?」
大志「今日バイト入ってたの忘れてたっす!!」
256 = 2 :
いろは「あ、そうだったんだ。ごめんね、引き止めちゃって」
大志「いえ、俺が忘れてただけっす! 俺はもう行くっすけど、会長さんはどうするっすか?」
いろは「じゃあ私ももう帰ろうかな」
大志「ならお金置いとくんで先に帰ってもいいっすか?」
いろは「うん、わかった」
大志「それでは」
クルッと背を向ける川崎くんに言葉を投げかける。
いろは「ねぇ、川崎くん」
大志「はい?」
257 = 2 :
いろは「……ありがとね。おかげでいろんなことを思い出せた。ようやく心の中で整理がつきそう」
大志「……別に、俺は何もしてないっすよ」
大志「…………本当に、何も……」
いろは「また今度、時間に余裕がある時にお茶でもしようね」
大志「っすね。また、いつかにでも」
ずっとこちらを見ないから川崎くんの表情が読み取れない。いったい何を考えているのかも。
大志「会長さん」
いろは「ん?」
大志「……お元気で」
いろは「うん、そっちも」
大志「じゃあ、失礼します」
そう言って川崎くんは早歩きで店を出て行った。
258 = 2 :
――
――――
ガチャリ。
家の中に誰かいるからか玄関の鍵はかかっていない。たぶん姉ちゃんかな。
『ただいまー』
そう帰宅を告げるが家の中から返事はない。……おかしいな。いつもなら誰かしらがおかえりと返してくれるのに。誰もいないなんてことも鍵がかかっていなかったからあり得ない。
『ただいまー!』
もう一度大きな声で言い直してみる。
『……おかえり』
弱々しい声が返ってくる。これは姉ちゃんだな。それにしても声に元気がない。なにか嫌なことでもあったのだろうか。大学は第一志望に受かったようだから落ち込む理由がわからない。
259 = 2 :
『姉ちゃん? どうしたの?』
声の方向的に姉ちゃんは自分の部屋にいるのだろう。部屋の前に立って声をかける。
『……別に』
扉ごしの声で察した。
この扉の向こうで、姉ちゃんは泣いている。
『姉ちゃん。開けていい?』
『……ダメ』
『なんで』
『ダメなものはダメなの』
260 = 2 :
『何があったの?』
『……あんたには関係ない』
カチン。
その言葉に憤りを覚えた。きっと姉ちゃんは自分に言いたくないのだろう、それはわかる。
ただ、お前は他人だと言われたような感じが心底気に食わなかった。
『関係ないことはないだろ!?』
思わず口調が荒くなる。こんな風に怒りをあらわにした自分に驚いた。
『……あんたは知らなくていいから』
『姉ちゃんが泣いているのに何もしないでいられるかよ!』
『それでも――』
『じゃあ姉ちゃんが逆の立場だったら引き下がれる?』
261 = 2 :
『…………』
『頼むよ、心配で仕方ないんだ』
『……笑わない?』
『うん』
少しの沈黙の後に扉がゆっくりと開かれる。
中に入るとすぐそばに姉ちゃんがいた。赤くなった姉ちゃんの目は、ついさっきまでそこから涙が流れていたことを告げていた。
『……どうしたの?』
『…………昨日ね』
『うん』
『……あいつに、告白した』
262 = 2 :
『えっ?』
耳を疑った。姉ちゃんが、告白? そんな、あの姉ちゃんが、告白?
『あいつって、まさか……』
姉ちゃんはほおを染めながらコクリとうなずいた。
姉ちゃんがあの人のことを好きなことは知っていた。別に直接聞いたわけじゃなくても、様子を見ていれば自然と気づいた。
だから俺が驚いたのはそこじゃない。
俺が驚いたのは、姉ちゃんが告白という行動に移したことだ。
そんな勇気が、姉ちゃんにはあったんだ。
263 = 2 :
『それで、フラれちゃった』
悲しそうに笑う姉ちゃんの顔は見ていて痛々しい。
『好きな人がいるんだって』
『……なら、……仕方ないね』
『うん、仕方ない』
姉ちゃんは俺の前だからか気丈に振る舞う。
『仕方……ないよね……っ』
でも、それも限界だったのだろう。目にはまた涙がたまってきていた。
『姉ちゃん……』
ボロボロ涙をこぼす姉の頭を撫でてあげる。
『……あんた……、なまいき…………』
『……うん』
264 = 2 :
『…………』
しばらくして姉ちゃんは泣きやんだ。
『……ありがと』
『別にいいよ』
『ちょっと顔を洗ってくる』
そう言って部屋を出ていく。姉ちゃんの部屋は俺一人になった。
『……あっ』
ふと、あることを思い出した。どうして忘れていたのだろうか。こんな大切なことを。
今日、あの人は――。
『会長さん……!』
265 = 2 :
――
――――
あの時にどうして電話をしたのかは今でもわからない。そんなことをしたってなんの意味がないのはわかり切っていたのに。
もしも電話に出たら、自分はなんと言ったのだろう。
何を、言うつもりだったのだろう。
そんなことも、考えていなかった。ただ、そうしないではいられなかった。
あのままだと会長さんが泣くことになってしまう。
俺はそれを避けたかったのだ。
ずっと何もしていなかったくせに。
266 = 2 :
いつからだったかはわからないけれど、自分は気づいていた。あの二人の気持ちに。
そこでとった行動は、『何もしない』だった。
本来なら選ぶべきだったのだろう。自分は誰かの味方であるべきだったのであろう。しかしそれによって選ばなかった方に罪悪感を生むのが嫌だった。
だから、何もしなかった。
せいぜいちょっとしたおせっかいを焼くだけで、まともなことは何もしなかった。
それでどうしたかったのかと言われると、答えられない。結局のところただ選択を避け続けただけなのだ。
それで大丈夫だと本気で思っていたのだ。
間違っていたと気づいた時には、もう手遅れだった。
不干渉を貫こうとすれば、関係性の変化を避け続ければ、ずっと変わらないままでいられると思っていた。
そんな幻想は現実ではあり得ない。自分の思い通りに世界はまわらない。
それをあの日、俺は痛いほどに思い知らされた。
267 = 2 :
大志「……罪滅ぼし、のつもりなのかな」
心の声が漏れる。誰かに聞かれていないかと焦って周りを見るが、自分の行動を気に留める人はいない。
大志「ふぅ……」
人ごみを抜けてようやく一息つく。
バイトなんて嘘だ。ただ会長さんをあの店から出すための口実でしかない。
これは罪滅ぼしになるのだろうか。
あの人にもう一度その機会を与えることは、はたして自分の罪の贖いになるのだろうか。
こんなのは、ただの自己満足なのではないだろうか。
大志「……でも、昔好きだった人を助けたいと思うくらいなら」
きっと、お天道様も許してくれるに違いない。それがどうしようもない自分勝手で愚かな願いだとしても。
268 = 2 :
恋をすると、女性は綺麗になるという。
それは真実だろう。好きな相手のために自分を磨き上げようとする姿はきっと何よりも美しい。
だが、皮肉なことにそれによって叶わぬ恋がうまれることもある。
かつて俺があの人に恋していたあの頃、そんな皮肉な話を憎らしく感じたこともあった。
それでも、今はそんな時間を過ごせたことに感謝している。
だから、今は心の底から素直にこう言える。
大志「……好きでした。だから、お幸せに」
誰のためでもない言葉は冬の風にのり、どこかへと運ばれていった。
269 = 2 :
ずっと心の中だけに留めていた言葉を外に出したからか、フッと体が軽くなったような気がした。
終わった。
ずっと自分のどこかに残っていた何かが、いま終わった。
こんなのは勝手にそう感じ、思うだけで他に何の確証もないが、自分の中では否定しようのない真実だった。
ポケットの中に入れっぱなしになっていたスマホを取り出し、画面をなぞる。
大志「……もしもし。……うん。まぁ、ちょっとさ」
大志「うん……うん……。……ん? ああ、…………あのさ、明日、ひま?」
明日、彼女に話そう。俺の制限時間内に終わらせられなかった、事の顛末を。
そして今日、ようやく終わった俺の恋を。
ずっと、『いつか話す』と先延ばしにしていた話を。
今の自分にとって一番大切な人の声を聞きながら帰り道を歩く。
月明かりと外灯が照らす道は、ついさっきまでよりも明るく見えた。
270 = 2 :
――
――――
川崎くんが店を出てからすぐに私もお店を出た。店内の温度との差のせいか気温の割には少し肌寒い。
長い間話していたからか、人の波は少し引いたように見える。それでも少ないとは言えないが。
川崎くんと話したおかげで少し心が軽くなった。ずっと胸のなかにつかえていた何かがなくなり、頭の中を支配していたもやが晴れたのだ。
あの頃の自分の行動に後悔がないと言えば嘘になるが、そんな日々を過ごしてきたからこそ今の自分がいると思えば、それも悪くないとも思える。
少しずつ思い出して、振り返ってみよう。後悔ばかりのあの日々をいつか心から懐かしいと思えるように。
笑って思い返せる思い出にできるように。
そうすればいつかまた、私は誰かを好きになれるから。
前を向くとネオンの光が夜の街を彩っているのが目に映る。今の私にはそれが少しだけぼやけて見えた。
271 = 2 :
以上で本編はほぼ終了です。
エピローグはまた後日更新しますが、話としてはここまででほぼ完結しているのでそれは読まなくてもいいかもしれません。
たぶん一部の人にしか理解できない内容になるとだけ書いておきます(難解とかではなく)。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
272 :
乙
悲恋もいいものやな
273 :
乙です
この展開は思わなかった
このいろは切ない過ぎ
274 :
おつ
275 :
乙乙
まさか失恋するとは夢にも思わず。切なさでキュンキュンしてしまった
276 :
このいろはに言ってやりたい。
「良い女になれよ」(`・ω・´)
277 :
誰が得するんだろうこんな話
278 :
おつおつ
あー切ない…
エピローグも期待
279 :
大志がかっこいいwwww
280 :
はっきり言ってこれは再開して欲しくなかった。
最近よくある最終回で糞になるやつやな
ハッピーエンド忌避症候群、糞ドラマですね
281 :
スレタイ詐欺もいいとこ
時間の無駄だったわ
282 :
本筋をシリアスに、しかも謎解きっぽく事件の少しずつ輪郭を表していく。
一方でキャラの性格を掴みながらの日常コメディに妥協がない。
冗談抜きで市販レベルなんだが何者だよ
284 :
そんなコピペもあったのか
285 :
別にヒロインが振られて終わりってのは嫌いじゃあないんだけど、
この話の場合とってつけたようなっていうか、なにやってんのこれ?っていう違和感しか覚えなかった
残念だ
286 :
大志っていう準オリキャラが出張った時点で駄作
287 :
結末を気に入らないアホどもがうるせえな
288 :
バッドエンドないしビターエンドにも一定の需要はあると言っておこう
そして、終わっていないうちに決めつけるのは早い
289 :
いろはすSSで幸せないろはす見に来る人の方がはるかに多いとは思う
290 :
こういう奴ら増えたよな
291 :
>>286
ちょっと大志はマジでいらなかったなww
292 :
なんだよ、タイトル詐欺かよクソゴミ
293 :
こっからいろはすエンドなんてありえないし納得できない奴らは救われないだろうからほっといたほうがいいんじゃね
294 :
>>287
結末っていうより結末に至る過程が酷いから結末まで悪く見えてしまう悪循環
295 :
今日か明日に更新します。
たぶんこれが最後です。
いろんな意味で。
296 :
期待してるぞ
297 :
頑張れ
299 :
――
――――
真っ赤な夕日が窓から廊下に射しこむ。
その光は廊下の床でぼんやりと反射して、この辺り一帯を橙色で染める。そのせいで廊下が紅葉の並木道のように見えた。きっと昨日の帰り道に見たせいだろう。
『離れて……くれねぇか……? このままじゃ心臓に悪い』
『うわっ!? ご、ごめんなさい!!』
『……行くぞ』
照れているのか早歩きで下駄箱に向かう。私は話を強引に打ち切ろうとした先輩の制服の裾をつかんだ。
『……待ってください』
思わず口からこぼれ落ちた言葉は少し震えていたが、それでもちゃんと伝わったようで先輩の足は止まった。
『なんだよ』
一度唾を飲み込んで呼吸を整えてから、裾をつかむ手を緩めた。
『……先輩』
――――
――
300 = 2 :
人ごみの中を歩く。たくさんの知らない顔が私の前に次々と現れ、そのまま横に消えていく。
――!
いま、誰かとすれ違った。
その瞬間、全身に電流が流れたような錯覚がした。
いろは「あれ?」
今のは――。
反射的に振り返る。すれ違った人が誰なのかを確認する。
嘘、こんなこと――――。
早まる鼓動を感じながら、そこにある背中を見つめる。ああ、あの人だ。最後に会ってから何年も経つのに後ろ姿だけでそれが誰なのかわかった。
いろは「……もしかして、比企谷先輩ですか…………?」
少しの間をおいてその人は振り返る。
八幡「一色……か……?」
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