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    元スレいろは「私、先輩のことが、好きです」八幡「……えっ?」

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    201 :

    睡眠代行してやるからはよ

    202 :

    食事も代行してやるからはよ

    203 :

    風呂代行なら任せろ

    204 :

    学校めんどーい

    206 :

    早く続きをみせてくれー!

    207 :

    良いニュースと悪いニュースがある。

    どっちから聞きたい?

    208 :

    悪い方

    209 :

    俺はせっかちなんだ。まとめて頼むよ

    210 = 2 :

    じゃあ悪い方から。

    次が最終回だと約束したな。



    あれは嘘だ。

    211 :

    やったぜ

    212 = 2 :

    >>209
    面白い奴だな、気に入った。
    更新するのは明日にしてやる。

    これが良いニュース。

    214 :

    どっちもいいニュースじゃないか

    215 = 208 :

    期待するわ

    217 :

    >>214
    延長ならいいニュースだが分割なら単に先延ばしだからやっぱり悪いニュースだな
    そして>>1が悪いニュースと言う以上忙しさによる分割なんじゃなかろうか

    218 :

    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422701762/

    219 :






    いろは「……………………」





    いろは「……………………えっ?」





    220 = 2 :

    息がつまる。

    心臓が止まる。

    頭の中が真っ白になる。

    心の奥底で何かが崩れ落ちる。

    いま、先輩はなんて……?

    好きな人……?

    しかも今の言い方……。

    いろは「せ……んぱい……?」

    今の私の様子を見たら、いつもの先輩になら気づかれてしまったのかもしれない。しかし先輩は先輩で恥ずかしいのか私の方を見ていなかった。

    221 = 2 :

    八幡「……小町には相談した」

    いろは「えっ?」

    話の輪郭がつかめない。どうしてここで小町ちゃんが出てくるのだろう。

    八幡「それでも、親戚とかじゃない第三者に相談したかった」

    こっちから見てもわかるくらい先輩の顔は赤くなっていた。

    そしてどうしても私にその顔を見られたくないのか、ただ下を見つめている。

    八幡「それで、いつかお前が言ってたことを思い出した」

    『だから、もしも先輩になにかあったりしたら、その時は私が相談にのってあげますよ』

    いろは「あ…………」

    八幡「だから、その、そ、相談にのってくれねぇか……?」

    222 = 2 :

    そう言い終わるまでずっと先輩は私の方を見なかった。

    もしかしたら、いやもしかしなくても、先輩はずっとこうだったのだ。

    私のことをそんなふうに見てくれたことは、ただの一度だってなかった。

    結局ただの私一人の空回り。

    ああ、私はなんてマヌケなのだろう。

    こんなの道化もいいところだ。

    ……バカみたい。

    本当に、バカみたい。

    223 = 2 :

    八幡「……一色?」

    ようやく先輩がこっちを向いた。

    どうしよう。これじゃもう、言えない。

    なにか。

    なんでもいい。ただ、今の沈黙を破るなにかが欲しい。

    いろは「……どうして、私なんですか?」

    どうして、私じゃダメなの?

    八幡「他に信頼できるやつがいなかったんだ」

    いろは「奉仕部にいるじゃないですか」

    どうして、私を選んでくれないの?

    八幡「いや、あいつには頼めねぇよ……」

    いろは「……そっかぁ、じゃあ、あの二人のどっちかなんですね」

    八幡「……まぁ、そういうことだ」

    ねぇ、先輩。どうして……?

    224 = 2 :

    八幡「……なぁ、その、ダ、ダメなのか?」

    いろは「…………」

    いろは「……私は」

    八幡「……?」

    いろは「私は……」

    こんなの肯定できるわけがない。

    だって私は……。

    私、先輩のことが……。

    何度も反芻した文章をもう一度頭の中で繰り返す。

    …………ダメだ。

    いろは「私は……っ」

    声が震える。私にはもう、こうするしかなかった。

    いろは「……協力しますよ、先輩♪」

    225 = 2 :

    外見上はいつものような笑顔を浮かべられたと思う。だがそこに込められた意味合いは全く異なる。

    今の私の笑みは、きっと自嘲の笑みだ。

    こんなバカで滑稽な自分を嘲る、そんな笑い。

    どうしようもなかった。そうでもしなかったら涙がこぼれてしまいそうだった。

    八幡「ああ、ありがとな」

    先輩の感謝の言葉が、胸をナイフのように切り裂く。

    226 = 2 :

    痛い、痛い、痛い。

    胸の奥がどうしようもなく痛い。

    今までもいろんなことがあって、胸の奥がチクチクとしたことはあった。だが、今の痛みはその比ではない。

    少しでも気を抜けば声が漏れてしまいそうな、涙がこぼれてしまいそうなくらいに、胸の奥が痛む。

    思わず右手で左胸をおさえる。こんなことをしても意味がないのはわかっているのに、そうしないではいられなかった。

    心の中を外に出さないように歯を食いしばる。

    八幡「……一色?」

    私の様子を怪訝に思ったのか先輩が問いかける。その優しさがまた胸を強く締め付ける。

    いろは「なんでも……ありません……っ」

    どうにかして声を振り絞る。ただの一言なのに肺の中の空気がほとんどなくなった。

    いろは「なんでも……ないんです……」

    227 = 2 :

    八幡「……?」

    いろは「それよりも! 先輩の話ですよ!」

    八幡「はぁ? 俺?」

    いろは「そうです! 結局どっちを選んだんですか?」

    八幡「あ、ああ……。選んだってお前な…………いや、間違ってないか」

    いろは「あはは……」

    私はただ、笑うことしかできない。こんな風に嘘で塗り固めてしまった自分が、悲しかった。

    228 = 2 :

     卒業式後

    いろは「せーんぱい♪」

    八幡「一色か」

    いろは「はい♪ 卒業おめでとーございまーす♪」

    八幡「ああ。そっちも送辞お疲れ様」

    いろは「あは。まぁ当たり障りのないことを切り貼りしただけなんですけど」

    八幡「だろうな」

    いろは「わかります?」

    八幡「あんな頭の良い文章を書けるわけがない」

    いろは「一応これでも生徒会長なんですが……」

    229 = 2 :

    八幡「あと、この前の礼を言わせてくれ」

    いろは「いえいえ、今までずっと相談に乗ってもらっていたんです。あれくらいは当然ですよ」

    八幡「それでも、ありがとな。おかげでようやく決心がついた」

    ズキッ、と痛みが心臓を通過する。もう慣れたものだ。

    いろは「そうですか……。……先輩」

    八幡「ん?」

    いろは「こんなこと聞いてしまっていいのかわかりませんけど……」

    八幡「なんだよ?」

    いろは「あの大学を受けた理由って雪ノ下先輩が受けたからですか?」

    230 = 2 :

    八幡「…………」

    先輩は何も答えない。ただ恥ずかしそうに頬をかき、視線をそらす。

    いろは「……ですよね。先輩が落ちたところ聞いたときにそうなんじゃないかって思ったんですよ」

    大学名を聞いた時に、全て合点がいった。先輩のいろんな行動の理由がようやく理解できた。

    八幡「……まぁ、受ける分には自由だからな。受かった後でもどっちか選べるし」

    いろは「だからだったんですね。好きな人を理由に大学を選んだなんて知られたくなかったから、誰にも受けるところを言わなかったと」

    八幡「……いちおう小町と親だけは知ってたんだけどな」

    いろは「でも意外ですね。先輩にそんな一面があるなんて」

    八幡「……自分でもまたこんなことをしようと思うなんて考えもしなかった」

    いろは「また?」

    八幡「ただの昔の黒歴史だ」

    いろは「なんですか、それ」クスッ

    231 = 2 :

    いろは「それでは、先輩。頑張ってください」

    これから、先輩は雪ノ下先輩に告白する。

    八幡「おう、ありがとな」

    いろは「上手く、いくといいですね」

    心にもない言葉を口にする。本当はちっとも上手くいって欲しくないくせに。

    そして、そう思ってしまう自分に嫌悪する。醜い心を持つ自分が嫌になる。

    八幡「……あとはなるようになるさ」

    いろは「成功したらミスド奢ってくださいねー」

    八幡「普通逆じゃないか? まぁ別にいいけどよ」

    いろは「ダメだったら私が奢ってあげますね」

    八幡「やめろ縁起でもない」

    私が奢ることになればいいのに。

    そんな言葉が浮かぶ。私ってこんなにイヤな子だったんだね。

    232 = 2 :

    いろは「……由比ヶ浜先輩には、言ったんですか?」

    八幡「……まぁ」

    先輩の表情が陰鬱なものになる。詳しくは聞かないがきっと先輩にとって辛い瞬間だったのだろう。

    いろは「そう、ですか」

    八幡「……俺が」

    いろは「?」

    八幡「俺が、ぶっ壊しちまったんだ」

    いろは「……? …………!」

    先輩の言葉を理解してハッとする。

    そうか。先輩が選び口にしてしまったからには、あの場所はもう二度と元には戻らない。

    たとえこれからの結果がどんなものだったとしても、あの空間が先輩の前に広がることはもうない。

    233 = 2 :

    八幡「…………」

    先輩はきっとそれを悔やんでいるんだ。

    いろは「先輩」

    八幡「……なんだよ」

    いろは「それで、先輩の欲しかったものは手に入るんですか?」

    八幡「はっ?」

    いろは「そうやって本当の気持ちを隠して、上辺だけの関係を続けて、それでよかったんですか?」

    八幡「…………」

    234 = 2 :

    こんなのブーメランもいいところだ。自分が口にしていいセリフじゃない。

    それでも言わずにはいられなかった。このままでは先輩は大きな後悔を残したまま告白することになる。せめて少しだけでも先輩の力になりたかった。

    その後悔を取り除いてあげたかった。

    ……これも嘘なのかもしれない。こんなことを言うのは結局は自分のためなのかも。

    ずっと、今でも心の中に点在するイヤな感情を隠すためにそう言っているだけ。隠すのは他の誰でもない自分からだ。

    自分がイヤな人間だと思いたくない。だから必死にいい人であるような行動をする。そうすることで自己嫌悪から逃れたい。

    それでも自分の本心はわかってしまうから意味はないんだけど。

    235 = 2 :

    いろは「先輩はあの時、言いましたよね。だからちゃんと最後に選んで、隠して偽った関係を否定したんじゃないんですか?」

    『それでも俺は――』

    何度かからかったことがあったっけ。たぶん私は羨ましかったのだろう。そんな風に本音を言えることが。

    そんな風に言える相手がいることが。

    先輩が私にとってのそんな存在になってくれるんじゃないかと期待していた。でも、違った。

    結局はただの私一人の思い上がりで一方通行な想いでしかなかった。

    八幡「……そうだな」

    いろは「だから、先輩はまちがっていませんよ。私が保証します」

    まちがっている本人が言うのもどこかおかしな話なのだが。

    でも嘘だらけの私には逆にちょうどいいのかもしれない。

    236 = 2 :

    いろは「だから、もう迷うことなんてないじゃないですか」

    八幡「……ああ。お前には感謝しっぱなしだ」

    いろは「そうですねー。ならまた今度にでもいろいろお礼お願いしますね♪」

    八幡「まぁ、俺にできる範囲でな」

    いろは「じゃあ、幸運を祈っています」

    八幡「ああ。……いってくる」

    震えた声でカッコつけながら先輩が背を向ける。

    もう見慣れてしまった後ろ姿。私が見てきた先輩の姿の大半はこの後ろ姿だったような気がする。

    その背中に本当の言葉を言うことができたらどれだけよかっただろう。今の関係を壊してでも本物を求めようとする勇気が私に少しでもあったら、なにか変わったのだろうか。

    そこまでわかっていながら、それでも私は何も言えなかった。

    先輩が奉仕部の部室へ向かうのを、ただ見つめているだけだった。

    237 = 2 :

    ――

    ――――

    何も考えずに校内を歩き回っていると、足は自然と生徒会室に向かっていた。

    いろは「……バカ」

    扉に手をかけると一人でにもれた声が私を責め立てる。バカ、バカ、バカ。

    私の、バカ。

    大志「……会長さん?」

    いろは「あ……」

    振り返るとそこには川崎くんがいた。どうしてここにいるのだろう。お姉さんも卒業なのだから、てっきりそっちの方に行っているのだと思っていた。

    238 = 2 :

    大志「会長さん……あの……」

    私の様子を見て何かを察したのか、声をかけようとする。

    いろは「ごめんね……っ」

    一言、それだけを置いて私は走った。今は誰とも話したくない。誰の話も、聞きたくない。相手が川崎くんならなおさらだ。

    大志「会長さん!」

    呼び止める声を無視して走る。

    いろは「はぁ……っ、はぁ……っ」

    誰とも話したくない理由は簡単だ。誰かと話したら私はきっと泣いてしまうからだ。優しさも厳しさも今の私には涙のトリガーでしかない。

    川崎くんは、優しいから。優しすぎるから。

    『あの時』の理由が気にならないと言えば嘘になる。それでも、私は逃げた。

    239 = 2 :

    痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

    今頃、もう先輩は告白したのだろうか。

    雪ノ下先輩は何と返したのだろう。

    ズキンッ。

    ダメだ。考えちゃダメ。二人のことを考えるだけで、胸が痛くなる。

    しかし意識すればするほど二人のことで頭がいっぱいになってしまう。

    息が切れて手が膝につく。そこまで走っていないのにこんなに疲れているのは、泣くのを堪えながら走ったからだろうか。

    いろは「……先輩」

    私は。

    私はきっと、本気で先輩に恋したんです。

    結局伝えられませんでしたがそれだけは本当なんです。

    だから、私は。

    私は、先輩のことが――。

    240 = 2 :

     数年後

    雑音。

    人ごみの音が私の耳を埋め尽くす。

    声などの人の理解できる要素で形成される音が混ざり合い、人の理解できないものとなる。そんな事実が今日はどこかおかしく感じられた。

    夜のこの通りは会社や学校帰りの人たちでごった返す。前を見るとたくさんの顔が並んでいて、その一人一人にそれぞれ人生があるんだと思うと少しへんな気分になった。

    きっとどの人の人生もその人にとってはかけがえのないもので、そこには私が知ることのない長い物語があるに違いない。

    この世界にいるのは私一人ではない。数え切れないほどの人たちと私は共存している。

    なのに、今、こんなにもひとりぼっちだと感じるのはなぜだろう。

    241 = 2 :

    つい先日、何年か付き合った彼氏と別れた。別れを切り出したのは向こうからで、私は切り出された方だった。

    とても格好良くて優しい人で、私にはもったいないくらいに良い人だった。そんなあの人のことを私は本気で好きだったんだと思う。

    本気だったのは本当だ。少なくとも嘘ではない。

    ――はずなのに、その確信は薄れつつある。きっと彼に最後にされた話のせいだろう。

    『君の中に時折、僕の知らない誰かが見える』

    彼はそう言った。その時の悲しそうな表情が今もまぶたの裏に浮かぶ。私は必死に否定したが、既に決心がついていたようでそのまま彼は去ってしまった。

    突然の話だったわけではない。兆候はところどころにあったし、彼が何か悩んでいるのもわかっていた。そんな彼氏の様子の変化に気づいていなかった私ではない。

    しかし、それでも悩みがあるならいつか自分に話してくれるだろうと、そう思っていたのだ。今にして考えると思い上がりも甚だしいのだが。

    242 = 2 :

    『僕の知らない誰か』とは、誰のことだろう。自分はそこまで浮気っぽい女だったのだろうか。

    ……違う、と思う。強く否定できない自分が悲しい。

    私の心のどこかにいる誰か。

    それはいったい誰?

    頭の中を探ってみる。霧のようにもやがかった記憶の中を泳ぎ回る。

    大学に入ってからは……いない。大学に入って初めてした恋の相手が彼だったのだから、いないのも当然か。

    なら、それよりも前。高校の頃……?

    記憶のもやがさらに濃くなる。

    あの頃、私は何をしていた?

    243 = 2 :

    ……思い出せない。

    断片的なことは思い出せるのに、全体的に思い出せない。

    高三の忙しかった記憶が脳裏によみがえる。生徒会長としての仕事とサッカー部のマネージャーに受験勉強。

    一人の女子高生がこなすにはハードすぎるスケジュールをこなしていたことは覚えている。どれか一つくらいは手を抜いてもよかったのに、そのどれにも全力で取り組んでいた。

    それは一種の強迫観念に突き動かされていたような感じだ。今の自分からは考えられない。

    なら、私がそこまで自分を追い込んだ理由は何だろう?

    いろは「私って、なんでそんなに頑張ってたの……?」

    そう、夜空に問いかける。

    こたえはもちろん、ない。

    ??「……あれ?」

    聞き覚えのある声が鼓膜を刺激した。どこか懐かしい雰囲気のある声。

    ??「会長さん……っすよね……?」

    いろは「川崎……くん?」

    そこには最後に会った時よりもずっと大人びた、かつての後輩の姿があった。

    244 = 2 :

    ――

    ――――

    いろは「久しぶりだね~」

    大志「そうっすね。会長さんの卒業式以来っす」

    いろは「今はもう会長じゃないよ?」

    大志「いや、俺にとってはずっと会長さんなんですよ」

    懐かしい。そういえばこの子がいたっけ。記憶のもやが少しだけ晴れる。

    外で立ち話もあれだということで、私たちは喫茶店にいた。こういうところをさりげなく誘えるようになったなんて、川崎くんも成長したんだなぁ。

    懐かしくて、嬉しくて、わずかに口元がにやける。気持ち悪いね私。

    245 = 2 :

    それからはお互いのことについて話した。大学生活ではどうだとか、最近はどうだとか。

    そして話は自然と高校の時の話題になった。

    大志「すごかったっすよね。最後の文化祭!」

    いろは「あー、もういろいろ大変だったなー」

    私も高校の頃のことを少しずつ思い出していて、話ができる程度にはなっていた。

    大志「会長さんが一年の時のもすごかったらしいっすけど、やっぱりあれが一番すごかったっすね!」

    いろは「一年……」

    その頃を思い出そうとすると途端にまた記憶にもやがかかる。

    よく考えてみると私は高一と高二の頃のことをほとんど覚えていない。覚えていないというよりは、思い出そうとすることを頑なに拒んでいるような感じだった。

    大志「会長さん?」

    そんな私の様子に違和感を抱いたのか川崎くんが問いかける。

    高校の時にお世話になった後輩に久しぶりに会えた。その事実が私の心の壁を薄くしていたのかもしれない。

    いろは「一つ、話を聞いてもらえないかな?」

    大志「はい……? 別にいいっすけど」

    246 = 2 :

    ――

    ――――

    いろは「――ということなんだけど」

    大志「…………」

    川崎くんは何も言わずにただ私の話を聞いていた。どこか納得のいかない表情だったが、それでも口をはさんだりはしなかった。

    いろは「……ねぇ、これってどういう――」

    大志「本当にわからないんすか?」

    いろは「えっ?」

    大志「その人の言っていた『誰か』が、会長さんはわからないんすか?」

    いろは「……えっ?」

    247 = 2 :

    大志「『あの人』のことを、会長さんはあんなに好きだったじゃないですか」

    『せーんぱい♪』

    ふと、遠い昔の自分の声が聞こえた。

    いろは「……っ」

    まぶたの裏に一人の男の人のシルエットがぼんやりと浮かび上がる。その姿にどこか懐かしい雰囲気を感じた。

    大志「そうか……だからあんなに……」

    いろは「あれ……今の……」

    一瞬、霧が晴れた。しかしそれはまたすぐに見えなくなってしまう。

    ……いや、違う。

    大志「だからあんなに……自分を追いつめていたんすね」

    見えなくなったんじゃない。自らそれを覆い隠したんだ。

    大志「思い出したくなかったから。自分の記憶の外に押し出したかったから……だから……」

    いろは「あ……」

    248 = 2 :

    もやがかかる世界で突然強い風が吹いた。そのせいで私の記憶にまとわりついていたもやは吹き飛んでいってしまった。

    はっきりとした記憶の中に一人の男の人が立っている。その人が誰なのか、私は知っている。

    いろは「せ……んぱ……い……?」

    そんな私を見て川崎くんは問う。

    大志「でも、もうそれが誰なのかわかるっすよね」

    どうして忘れていたのだろう。あんなに大好きだった人を。

    いろは「比企谷……先輩……」

    そうだ。

    私はその人のことをずっと、忘れようとしていたんだ。

    249 = 2 :

    結局、先輩と雪ノ下先輩は付き合うことになって、それを私は一人の後輩として祝福した。先輩の前ではいつも通りの自分を演じてみせた。

    でも、いくら上辺を取り繕ってもいつかは限界が来る。

    だから時間が経つうちに先輩の幸せそうな姿を見ているのに耐えきれなくなった私は、そこから逃げ出した。

    自分を追い込み、余計なことを考える余裕をなくさせることで、悲しむ余裕すらなくしたのだ。

    そして忙しい日々の波におぼれた私はいつしか先輩のことを思い返すこともなくなった。

    ……いや、それも違う。

    本当にそうなら今の今まで引きずっているわけがない。ただ私は忘れようと必死に先輩のことを頭の中から消そうとしていただけなんだ。

    だから、意識の上からは消えても、無意識の領域には先輩という幻影が残ってしまった。

    250 = 2 :

    大志「……正直、あの時の会長さんは見ていて辛かったっす」

    いろは「…………」

    大志「あんなの、自暴自棄もいいところっすよ……」

    いろは「……ごめんね」

    大志「別に会長さんが謝ることじゃないっす。ただ……」

    いろは「?」

    大志「……自分のことをもっと大切にしてください。自分は良くても見ている周りが辛いこともあるんです」

    いろは「……うん」


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