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元スレ男「……いよいよメラが使える様になるとか末期だな俺は」
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刹那に、俺は半ばその前兆の様な物を見ていた。
視界の端で何かに気付いた主任が取り乱した様子で俺の呼び掛けに重ねて、声を挙げようとしていた。
その姿に俺も何らかの反応をしようとした。
だが、俺の声にセイバーが応じなかったのと同じだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そ れ ら 全 て を 塗 り 潰 し て 、白銀の閃光が降り注いだのだから。
────────── ッッ!!!
誰かが叫んだ。
それは悲鳴かもしれないし、俺が出した主任と店員……セイバーを呼ぶ声だったかもしれない。
或いは断末魔となる全身から絞り出された俺の、死への恐怖そのものが吐き出されたのかもしれない。
どれにしても、叫んだ事は分かっても聴こえない。
強い耳鳴りが頭を揺さぶる中、俺は眼前に誰かが居ることに漸く意識が行き着いた。
男「……ッ…………」
店員「……?」
チカチカと目の中で閃光の残滓が弾け、俺は店員が口に出した言葉を聞きそびれてしまった。
しかしニュアンスは分かる。
『怪我はないか』と彼女は訊ねたのだ。
男「……セイバー…っ!」
店員「良かった、二人とも無事みたいですね」
そう言った彼女は静かに赤い両手剣を、視線と共に一点に向けた。
その先に視線を巡らせるより先に、近くから聞き慣れた声が微かに聞こえた。
見れば俺の傍に同じく何が起きたのか把握出来ずにいる主任が座り込んでいる。
男(……今の一瞬で何が起きたんだ)
主任「…………」
主任「ヒャド系の、呪文……」
男「え?」
主任「周りを見て……!」
驚愕する主任に言われ、俺は周囲の惨状に気付く。
電柱か何かだと思っていた白い柱が、何本も俺達三人を囲む様に突き立っていたのだ。
それは巨大な氷の杭。
一本一本に籠められた破壊力と、それが撃ち出された速度は全く俺が認識出来なかった事から想像はつく。
かつてない強敵、しかし俺にはそのヒャド系の呪文を撃った者が誰なのか分かっていた。
主任の話を聞いてから幾度となくその存在はチラついていた。
ただ、『向こうは此方に興味を持っていなかった』だけで一度も遭遇……或いは接触が無かったに過ぎない。
男「……まさか……」
主任「『エビルマージ』!!」
八魔将の一人、エビルマージ。
緑衣の魔導師がその姿を現していた。
店員の向けていた視線の先。
濃密な異物感……或いは、それが気配という物だろうか。
日常的に見える住宅街の向こう、繁華街に通じている大通り沿いにある一本のビル上に奴は居た。
距離にして約500m。
主任の言葉通り、そこには緑衣の人型が立っていた。
ただの人形やモンスターではないと確信出来る程の存在感。
男(間違いない、アイツが……!)
主任の住んでいたマンションを襲い、各地域でその存在を何度も見せていた。
まさに黒幕、あの怪物こそが主任にとっての仇敵に他ならない。
エビルマージの動きが無い事を確認して、俺はギターケースから鋼の剣を取り出した。
男「主任、セイバー、相手は八魔将の一人だ」
主任「……」コクンッ
男「エビルマージは三人でやれば勝てない相手じゃない筈だ、行くぞ……!」
店員「お二人は先に行ってください」
男「……!?」
真っ直ぐに緑衣の姿を捉えたままで告げる店員の背中を、俺は背後から見た。
声音だけではない。
キャラクターになりきるのとは別に、彼女は全身で俺と主任がいる事に落ち着きを取り戻せずにいたのだ。
男(そういう事か)
つまり、彼女は今日これだけの事態になってから余裕が無かったのは俺達の存在があったから。
『守らなければいけない』という概念は、俺よりも年下で日本人である以上欠けている、実戦における多大な緊張を与えるに違いない。
1ヶ月前に俺が負傷した主任を守るために、死神と一騎討ちした際にそれは痛感した。
一人で戦っていた時間が長ければ長いほど、誰かと共に戦う事が不安に思えてしまう。
そして今。
店員は感じ取っているのだ、今までとは別格の相手を前にして俺達の存在が足枷になりかねない事を。
理解できてしまう。
力量としては俺よりも遥かに店員の方が格上、だけど彼女が感じている焦りは理解できた。
なら。
なら俺はどうすればいいのか。
ここで彼女を置いて行って良いのか。
男「…………」
店員「私は大丈夫です、それに」
どうすべきか迷う俺に、初めて店員が僅かに緊張を解いて振り返る。
その表情は笑っていた。
店員「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
男「……おう」
主任「男さん?」
男「行こう主任、森林公園で何が起きてるのか確認してから戻ってくればいい」ザッ
主任「でも、相手はあのエビルマージですよ……!」
男「セイバーの……店員の強さはもしかしたらアイツよりも強いかもしれない、だったら俺達は居ても邪魔なだけだ」
男「それに……多分、大丈夫だよ」
俺は逡巡する主任の手を引き起こすと、その場から直ぐに立ち去った。
一瞬、店員の表情を見ようと振り返ったがその笑顔に変わりはなかった。
さっきの台詞はFateという作品を知らなくても分かる。
あれはきっと、彼女なりの絶対に勝てる時に言う台詞に違いないと悟ったからだ。
だから信じた。
少なくとも彼女なら死ぬまで戦う様な事はしない。
男(どうせなら本当に倒してくれよ、店員……!)
━━━━━━━━ 【八魔将エビルマージ】
エビルマージ「…………ほぉ」
緑衣の魔導師、八魔将エビルマージは静かに感嘆の声を漏らした。
数秒前、エビルマージの視界に入った人影に撃った『ヒャダルコ』。
その精度は同じ呪文を使える主任や各モンスターとは比較にならない程に正確であり、破壊力もまた魔力の上位操作によって段違いな物だった。
そう、本来ならば如何に優れた身体能力を有していようと『世界の異変の修正を受けていない人間』だろうと、レベルが低い時点で必殺の一撃だったのだ。
しかしエビルマージの呪文は誰一人として仕留める事はなかった。
外したのではない。
確かに無数の氷の杭は三人を射抜く軌道だった。
防がれたのとも違った。
エビルマージは異世界に来て初めて目の当たりにする、一定のレベルを遥かに越えた存在へ意識を傾けた。
金髪のカツラを被っていた、女騎士らしき人物へ。
エビルマージ「面白い」
仲間を瞬時に背後に隠し、氷の杭全てを『逸らした』。
神業とも言える技にエビルマージは一つの評価を出した。
即ち……敵として認識したのだ。
エビルマージ「次はこれでどうかね?」
仲間を何処かへ向かわせたのを見て、エビルマージはそっと指先をそちらへ向ける。
詠唱は無い。
そっと闇へ誘う様に、緑衣の魔導師は死の呪文を紡いだ。
【『マヒャド』】
────────── ギィィンッ!!
距離に左右される事の無い、絶対の氷牙。
その莫大な魔力の奔流は真っ直ぐにエビルマージの指先に示された位置に流れ込み、敵を凍らせ或いは引き裂く。
その絶大な発動速度と範囲の広さ故に回避は不可。
伝説の『ロトの盾』や『メタルキングの盾』でも無い限り、防御すら意味を為さない最凶の呪文である。
だが、しかし。
エビルマージは瞠目する。
パキィンッ!
店員「 ────── 『ブレードガード』 」
エビルマージ「何だと……ッ」
刹那、何かが女騎士の周囲を舞った直後に『マヒャド』の発動そのものが消滅した。
呪文の発動を無効化する事が出来るなど、エビルマージでさえ聞いたことが無い。
動揺を表すかのように緑衣が揺れ動く。
その隙を、遠距離にも関わらず女騎士は見逃さなかった。
お返しと言わんばかりにエビルマージの立っていたビルは謎の砲撃によって倒壊した。
< ドォォオンッッ……!!
男(……!)
男(大丈夫、大丈夫だ……今は他の事に意識を向けろ……!)
主任「男さん!」
男「任せろ!!」
そう遠くない場所から鳴り響く轟音に最悪の想像を駆り立てられてしまう。
だとしても止まるわけには行かない。
森林公園は近い、現に俺達はこれまでとは明らかに違うモンスターと戦っていた。
地獄の騎士C【ヌゥ、さっきの人間共とは違うな……ッ】シャキキィ
< ビュカカカッ!!
男「づッ……ァアアア!!」ギギギィンッ
六本の腕から繰り出される五月雨斬り、攻守完璧な単騎としての戦闘力は高い。
『じごくのきし』、俺の記憶の中では印象に無いモンスターだがその強さは計り知れない速度と強靭さを持っていた。
一人ならば決して勝てない。
だが二人ならば……!
主任「今です!」
男「……!」バッ
主任の声に合わせて跳躍し、後退する。
直後、じごくのきしの頭上に現れたサッカーボール大の結晶を起点に無数の氷の刃が辺りを貫き立った。
━━━━━━━ キィンッ!! バキバキバキバキィィッッッ!!! ━━━━━━━
乙
マホトーンって相手が呪文撃つ瞬間に先に唱えたら打ち消せるんじゃね?DQ1からあるけど……
マホトーンって相手が呪文撃つ瞬間に先に唱えたら打ち消せるんじゃね?DQ1からあるけど……
乙
>>710
いろんなDQ設定のマンガを見る限り、マホトーンは「相手の呪文の発動(もしくは詠唱)を阻害する呪文」なので、すでに完成している呪文は防げないっぽい。
そういうのができるのは「マホカンタ」「マホステ」かも。
>>710
いろんなDQ設定のマンガを見る限り、マホトーンは「相手の呪文の発動(もしくは詠唱)を阻害する呪文」なので、すでに完成している呪文は防げないっぽい。
そういうのができるのは「マホカンタ」「マホステ」かも。
多分だけど>>710は「同じターンでもマホトーンを先に唱えて封じることができれば呪文を阻害できる」って言いたいんじゃないかな。見当違いだったら済まんけど
< パキッ……ミシッ
地獄の騎士C【ク……カッ…………】
< ポワァ……ンッ
僅かに黒い煙と光の残滓を散らして、骸骨の騎士は消えていく。
後に残る強烈な氷の剣山は音を立てて冷気を漂わせていた。
男「……前よりも威力上がってないすか」
戦いの最中に切り落とされてしまったギターケースを拾い上げながら主任に声をかける。
肩で息をしている姿から、不安を覚えたからだ。
今の短時間で連続して『ヒャダルコ』を撃った主任の疲労はエビルマージに遭遇した影響か、著しい物があった。
……ギターケースは半ばから切断されてしまっていて使い物にならなさそうだ。
主任「何度も呪文を使っていると、何となく分かってくるんです」ザッ
主任「呪文は唱えれば発動出来ます、威力も多分……唱える時に感情を昂らせて……というか」
ゆっくりと、主任は顔を上げて俺を見た。
額から流れる汗に長い髪の毛がへばりついているのも意に介さない。
主任「……殺意、みたいなものを籠めると…少しだけ、少しだけ……呪文の通りが良くなる感じがするんです」
男「…………」ぞくっ
何か言おうとするも、言葉が出てこない。
この状況で余計な事に時間を使うわけにも行かない、そんな焦りが更にどうしたらいいのか分からなくさせた。
しかしいつの間にか……主任は俺の前に進み出ていた。
主任「……あれは、何が起きてるんでしょうね」
男「!」
男(光の柱……!? いや、あれって……ッ!!)
俺達は店員にエビルマージを頼み、森林公園に到着した。
居たのは二体の『じごくのきし』、主任と連携して戦闘をしていたが……
他のモンスター達とは違い、まるで見張りか門番の様に奴等は立っていた。
いや、間違いなくあれはゲームにおける見張り役のモンスターだろう。
つまり何者かを通さずに『何か』を成そうとしていたのだ。
それが今、俺と主任の眼前で空に向かって伸びている巨大な光の柱に違いない。
より正確には。
男(モンスター達が次々と消えて……その残滓が集合している……?)
恐らくは森林公園の中央、その上空に巨大な光の柱が突き立っていた。
或いは空に向かって伸びているのか。
俺と主任の目前で木々の隙間から見える異常な光景は、それまで見てきた魔法やモンスターによる異能現象とは違うことがそれだけで分かった。
チリチリと肌を撫でる、静電気の様な性質の風が吹く度に辺りを濃密な何かが漂っている事に気付く。
恐らくは……魔力か何かだ。
男(モンスターが次々と空へ浮き上がって……そのまま死んでるのか?)
男「主任……」
主任「行きましょう男さん」
男「!……エビルマージがいた、つまりあれの根元には俺達じゃどうにも出来ない奴等がいるかもしれない!」ガシッ
主任「っ、だから何ですか急に」
男「死ぬかも知れないんだぞ! なんでそんな簡単に行こうとしてるんだよアンタ!」
主任「落ち着いて下さい!!」バッ
俺の手を払い、主任の掌が眼前に翳された。
その手の向こうに見える眼には、少なからず籠った殺意が見えてしまう。
咄嗟に俺は飛び退いた。
男「……!!」
主任「…………」
主任「……私はモンスターを、あいつらを許せない」
主任「一匹残らず消し去ってやりたい、私はそんな思いで戦ってるんです! 生きるために見逃すなんて私は嫌だ!!」
男「何言って……」
主任「私はあのマンションに住んでいた人達を、いつも見ていた!」
飛び退いた俺に近付き、主任は俺の胸元を掴む。
主任「映画や漫画の中みたいに、都合良く殺されて良い人なんかいなかった! そんな人達じゃなかったんですよ!!」
< ガシィッ…!!
男「く……ッ」
男(主任の眼、本気だ……このままだとヤバいんじゃ……)
掴んで来た手を掴み返すも、俺の腕力でもまるでびくともしない。
我を見失った様に怒る主任の眼をもう一度覗く。
俺はその中に未だ揺るがない殺意を再確認した。
主任「貴方には分からない! あのコスプレした女にも分かりっこない!!」
主任「人が死ぬって事が、人がこの世界から消えるって事がどれだけ辛くて悲しくて取り返しのつかないことか! 貴方達には分からないんだ!!」
< ガバッ!
男「っ!」ドサッ
主任「……はぁ…ッ、はぁ…ッ」
主任「…………」
主任「男さんはここに残ってて下さい、私があの光の根元へ行きます」
男「何言ってるんだよ……主任こそ落ち着けよ! アンタ一人なんて……」
主任「一人でも、誰かが行かなくちゃいけないんです」
主任「止められるかもしれないのに、ただ隠れて震えてるのはもう……嫌ッ!」
男「主任!!」
────────── シュタンッ・・・!
俺が止める間も無く、主任は跳躍し森林公園の中へと姿を消してしまう。
恐らく『ピオリム』を唱えたのだろう、たった一度の跳躍で凄まじい速度を出して行ったのだ。
対する俺は…………
俺は?
男「……どうしろっていうんだよ」
主任の様子は普通じゃない。
先程までの冷静さが消えていた。
魔力切れか、或いはそれほどの琴線に触れたのか。
いずれにせよ放っておけば彼女は間違いなく殺される。
最初の威勢は何処へ消えたのか、自分でも呆れ返る。
俺はあの空へ伸びる巨大な光の下へ向かうことを何より恐れていた。
怖いのだ。
恐ろしいのだ。
男「畜生…………」
彼女の速さなら直ぐにあそこへ辿り着くだろう。
残された時間は無いのは分かっている、分かっているんだ。
…………それでも、俺は暫くの間何も出来ずにその場に立ち尽くし迷っていた。
━━━━━━━━ 【数分前……店員達】
< ボヒュッッ…!!
エビルマージ「『ヒャダイン』ッ!」
キィィンッ
『マヒャド』を弾いて無効化し、返す刃でエビルマージに向けて放った一撃はビルごと破壊した。
そう店員は認識していた。
しかし粉塵から飛び出た緑衣の魔導師を見た瞬間、それは早計だったことを知る。
店員(魔術師タイプのモンスターなら或いは……と思ったけど、駄目か)ズザァッ
ブラッドソード「動きが速いわねアイツ」
< 「来てるぞ」
ガシャァアンッ!!
店員の仲間が反応するが先か後か、大気を切り裂いて殺到してきた氷柱の一本が粉砕される。
横薙ぎの一閃。
金髪のウィッグが背後で衝撃波に吹き飛ばされて何処かへ行ってしまうのを、店員は半ば舌打ちしながら傍目に見ていた。
店員「八魔将ってお金落としてくれますかね」
< 「急になんだ」
店員「あのウィッグ高いんですよ、アホ毛再現してる特注品なんで」
< 「……」
────────── ドッッ・・・ドドドドドドドォォッ!!
一瞬の間を空けて鳴り続ける轟音。
殺到してくる氷柱が店員の居た位置を正確に、逃げ場の無いように、アスファルトを貫き土砂を巻き上げている。
しかし巻き上がったのは礫と雨に濡れた土砂のみ。
エビルマージ「……!!」
緑衣の魔導師は見た。
レベルの高い、優れた戦士や盗賊の類である者達でさえ成し得ない身軽さと瞬発力。
それを爆発させ、女騎士らしき姿の店員が飛来した氷柱を次々とかわしながら虚空へと身を躍らせた……その一部始終を。
幾度か身を捻り回転しながら店員は数十メートル離れた一軒家の屋根に降り立った。
ガシャッ!
店員「……ふぅ」
店員「避けるのが精一杯とは言え、『負ける相手』ではなさそうですね」
ブラッドソード「油断は禁物よセイバー」
店員「分かってますよ」
土砂で微かに汚れた頬を籠手で拭いながら、店員はブラッドソードを構える。
そして、まるで唱える様に彼女は呟いた。
店員「……あれが主任さんの怨敵ですし、ね」
< ビリビリッ……!!
直後、店員の握る剣が僅かに瞬く。
真紅の刃が蒼白に染まったかのように、ほんの僅かなその一瞬だけ発光したのだ。
一瞬だけ見せたその現象はまさしく『雷光』 ────────
店員「二割減るけど、後は任せたよ『リリィ』、『オルタ』、『クラーク』」
店員「これで仕留めます」キィンッ
< バチバチバチィイッッ!!
───────── 稲妻を纏うかの如く、蒼白の電光を放出しながら剣を逆手に持ち替える。
店員の足が屋根瓦を踏み砕き、瞬時に雨空へと身を躍らせた。
ドゥッッ・・・!!
エビルマージ「ヌゥ……!?」
緑衣の奥でエビルマージが声を漏らす。
そこへ、
店員「 ───────ッッ 」ブンッ!!
一気に距離を詰めた店員が大きく振り被って雷光を迸らせる!
エビルマージはその光を見て即座に技の正体に見当をつける。
エビルマージ「『稲妻斬り』……異世界の人間如きが魔法剣を振るえるか」
距離を詰めた所で、未だ両者には十数メートルの間がある。
それを無視して店員は振り被り、そしてエビルマージは距離を詰められるより先に呪文を発動させる!
ギュィインッ!!
大気を渦巻く力は、果たして『どちら』の物だったのかは分からない。
都市を覆い尽くせる災害を一点に集束したかのように、その場所に破壊がもたらされたのだから。
エビルマージ【『マヒャド』ッ!】キィンッッ
無駄な口を開く事はしない。
如何に力量差のある相手だろうと、その愚かな行為が、一瞬の隙が強者をも殺す事をエビルマージは理解していたからだ。
棒立ちで魔法を撃つ事もしない。
緑衣から伸びる手から魔力を放出して後方へ跳躍し、店員から距離を取りながらの『マヒャド』だ。
────────── 地面から突き立つ一本の氷の塔は店員の視界を塞ぎ。
────────── 上空から降り注ぐ氷塊は高層ビルの崩落よりも凶悪に、店員を捉える。
────────── 貫き穿つ為の氷柱とは違い、触れただけで凍てつく冷気を纏った質量攻撃である。
一瞬で繰り出される氷結系最上位の呪文は、最強の魔導師によって更に攻撃魔法として磨かれ殺到する……!
ガシャァアアンッッ!!
ドドドドッッ……!!
轟音を周囲に響かせて、店員を狙った氷塊が次々と住宅街を破壊し凍り付かせていく。
雨によって湿った空気が一気に冷えた中、緑衣の魔導師は冷気漂う氷山を見る。
今ので仕留められるほど弱く無い相手故に、追撃の呪文を密かに唱えながら。
─────── ボヒュッ・・・!
< ズドォォッ!!
エビルマージ「……?」
ブシュァアッ!!
エビルマージ「ッ……な、んだと………!!」
エビルマージの目には捉えられなかった。
一瞬、氷山の一部が弾けて閃光が走った事しか認識できずにいたのだ。
…………爆撃を受けた様に巻き上がる粉塵の中から投擲された『剣』によって左腕を落とされ、血飛沫を上げるまでは。
──────── ヒュォオオオ・・・
< パキパキパキッ……カシャンッ……
店員「外れちゃった、か」
< 「セイバー、傷は……」
店員「油断はしていなかったんですけどね、肩の感覚が鈍いです」パキッ…
< 「凍っている様だ、傷は私がどうにかしよう」
店員「……」コクン
氷山が建物の瓦礫ごと凍らせている横で、店員は膝を着き息を切らせていた。
表情こそ平然としてはいるものの、初撃の呪文がどういったものか見る前に無効化した事が災いしてしまった。
店員とて未だ見たことの無かった最上位系の呪文。
圧倒的質量を生み出す事も出来れば、特異的に触れた箇所を凍らす効果も付与出来る。
それを知らずにカウンターを狙った結果、思わぬ魔法を撃たれてしまった。
だが、それでも店員は即座にマヒャドから逃れての一撃を加える事に成功しているのは間違いなかった。
店員「エクスカリバーが何処まで『時間を稼ぐ』かは分からないし、このまま追撃します」バッ!
氷山が目の前に次々と突き立つ最中に、店員は氷の層が脆い位置を見極め、手に持つブラッドソードを投擲したのだ。
『他の剣』を使って、同じく稲妻を纏いそれで電磁加速させて撃ち放ったのである。
ギュルルルッ!!
深紅の両手剣が激しく回転しながら、突き刺さっていたビルの壁面から離れる。
ブラッドソードはそのままの勢いで不意打ちに怯んでいたエビルマージに向かい、一直線に飛び出していく……!
エビルマージ「チィ……! 魔剣の類を持ち合わせていたか!」キィンッ
背後から高速で回転し向かって来るブラッドソードに気付いたエビルマージが、右手に魔力を集中させて迎え撃つ。
────────── ヒュィンッッ!
ブラッドソード「お生憎様、魔剣は魔剣でも『魔物剣』なのよねぇ!」
エビルマージ「ッ、貴様……『ブラッドソード』か」
魔力を集中させて撃った光弾を難なく回避し、ブラッドソードはエビルマージと交差する。
吹き飛ばされた左腕は傷口が既に凍らされ止血されていた。
ブラッドソード(一瞬よ、一瞬だけコイツを足止め出来れば……!)
ブラッドソード「行くわよ!!」
───────── ギュオオ ッ!!
風を切り裂くかの如く、縦横無尽に剣閃を走らせ乱舞を繰り出す。
ブラッドソードは、彼女は軌道を読ませる事を許さない。
魔剣の姿をした魔物である以上、その弱点は剣筋を読まれてしまう事にあるからだ。
今、エビルマージに対して繰り出された乱舞は正しく彼女の全力の攻撃だった。
その一瞬で行使された凄まじい剣舞は、仮に相手がトロル系の巨人だったとしても打ち倒しただろう。
パキパキパキッ……ガガガッッ!! ─────────
エビルマージ「『ヒャド』、『ヒャダルコ』、『ヒャド』」
< ビキビキッ! ギシィッ・・・!!
それを。
上位の呪文すら使わずに、緑衣の魔導師は止めた。
ブラッドソード「がッ……ぐぅぅっ……!!」ビキィッ
ブラッドソード(こ、これ程だなんて……なんて魔力の強さ……!)
刀身を上下から氷塊に挟み込まれ、動きを止めた所に次々と叩き込まれる重く冷たい一撃。
片腕を落とされ、窮地に立たされているとは思えない冷静な動作だったのだ。
加えて初歩的な呪文に籠められた恐るべき魔力は、鉄をバターの様に切る事の出来るブラッドソードさえヒビが入る程に強力な物だった。
ブラッドソードは全身を打たれて意識が遠退いていく。
ブラッドソード(……でも、これで……)
遠ざかる意識の向こうで、彼女は異世界で出会った友人を思い出す。
知る中で間違いなく最強の人間。
店員「ブラッドソード!!」
< ガシィッ!
エビルマージ「く、無傷だと……!?」
好きなキャラクターのコスプレを愛する変人ではあるが、その才能は底が知れない。
ブラッドソードに不安は無い、どれだけ強大な相手であろうと必ず店員ならば勝利すると分かっていたのだから。
店員の持つ才能は、剣術や身のこなしではない。
彼女は、自分に再現が可能ならばそれを見ただけで物にする事が出来る。
店員「……お返しですッ」キィィン…ッ
【『マヒャド』】
エビルマージ「~~!!?」
カカロン!バルバルー!クシャラミ!ドメディ!
何故だ!何故召喚できんのだ!
時間がないぞ!!!
何故だ!何故召喚できんのだ!
時間がないぞ!!!
────────── ドォォオオンッッ!!
広域に撒き散らされる破壊の音。
それは巨大な氷山を上空から高速で同じ質量をもって砕いた音。
店員が半ば強引に唱えて振り下ろした魔法は、周囲に強烈な冷気と共に衝撃波を発生させた。
その中心部に居たのは店員ではなく、緑衣の魔導師である。
エビルマージ「馬……鹿な、何故……異世界の人間がマヒャドを…………」
その姿は凄惨なものとなっていた。
下半身は凍り付き…ローブごと砕け散っており、何らかの魔法で防いだらしくも未だに凍結の侵食は止められずにいた。
驚愕の表情は文字通り凍り付いている。
店員「……確か、エビルマージ……でしたか」ガシャッ
エビルマージ「……ヌゥ…ッ!!」
眼前に降り立つ店員を、凍り付くエビルマージは見上げた。
店員「貴方達の目的は何ですか、今、世界で何を起こそうとしてるんです?」
店員「答えなければ……」
冷気の籠った瞳で、店員はエビルマージに掌を向ける。
それが意味するのは生か死か。
生かす気が有るかどうかを問う余裕も無ければ、力も残っていなかったエビルマージは沈黙するしか無かった。
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