私的良スレ書庫
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元スレ男「……いよいよメラが使える様になるとか末期だな俺は」
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男(この……朽ちかけた鎧…バイザーから見える中は空洞といい…)
男(……)チラッ
さまよう鎧【……】
ホイミスライム【ホヨヨ…】フヨフヨ…
男(間違いなく……さまようよろい、と…ホイミスライム……ッ)ゾクッ
男「……」ギシッ…
さまよう鎧【……】
さまよう鎧「おおきづちの……武器、であるか」
男「……」
男「!!?」
ホイミスライム【ホヨヨ…】シュン…
さまよう鎧「仕方あるまい」
さまよう鎧「我等の姿を見破った者は未だおらぬが……何事も前例の無い事から始まるものだ」
さまよう鎧「ましてや、我等を討ち倒して力を手にしよう等と……先祖の戦ったあの一族を思い出すわ」
ホイミスライム【ホヨヨ…】
男(……もしかして)
男(このさまようよろいなのか、この近辺でスライムを統率していたのは)
男(ゲーム内でまともに喋れるモンスターなんて、それこそ友好的なやつかボスモンスター位な筈…… )
男「お前は……」
さまよう鎧「喋るな人間」
さまよう鎧「分かっているだろうが、我等はこの世界の者に非ず」
さまよう鎧「そして、見られていた以上この世界の人間に存在を悟られる訳にはいかぬ」
さまよう鎧「故に」シャキ…ン
男(駄目だ、やっぱりコイツ……!!)
さまよう鎧「貴様には死んで貰う」ガシャッ!!
踏み締めるアスファルトが、金属を擦る音を奏でた瞬間に撃ち出される砲弾。
違う。
俺の目の前に飛び出してきたのは砲弾なんかよりも凶悪で、もっと恐ろしい物だ。
男「なッ……!?」
ホイミスライム【ホヨヨ…ッ】ビュルルンッ!
スライム系モンスターで最もポピュラーであり、スライム同様に愛らしい青の体と愛らしい触手。
ホイミスライム、奴が先陣を切って突撃してきたのだ。
男(ホイミスライムが先手……くっ…ッ)
腕をクロスして触手の一撃を凌ごうとする。
だが、余りにも俺の考えは軽率だった。
──────── ズッ・・・パァンッッ!!!
男「……ッッ!!!??」ドシャァッ!!
風を貫き、音が聴こえるより先に、俺の体が後ろへ弾き飛ばされる感触。
そして壮絶な痛みが攻撃をまともに受けた左腕から伝わってきたのと同時に、夜闇に包まれた路上を炸裂音が響き渡った。
男「~~~ッッ!! ~ッッ!!」
男(今の……なんだ)
男(左腕の側面が皮膚をごっそり削られたように肉を出して……ッ、鞭でも喰らったみたいだ)
男(……!)ビクッ
凄惨な見てくれになってしまった左腕に戦慄している暇はなかった。
ホイミスライムの頭上を朽ちかけたあの鎧が舞い上がる姿が見えてしまったから。
さまよう鎧【シィィ……ッ!!】ギュォオッ!!
─────────【『兜割り』】 ─────────
体を全力で投げ出して回避しようとした俺の背中を、散弾の様に礫が叩きつけてくる。
そして、続いて襲ってきた衝撃波に意識を向ける事もままならない中で、俺は刹那に見たのだ。
猛烈に振り被ってからの着地と同タイミングに叩き下ろされるバスターソード。
数瞬前まで俺がいた位置を刃が穿ったその時、爆撃のようにアスファルトが撒き散らされ土砂すら噴き出した、その瞬間を。
男「ぎ……ッ…ぅわあああっ!!」ドザァッ! ゴロゴロゴロッ!!
男(や、ば…ぃ……殺されっ……)
男「……あ」
OL「な、なに? 爆発……?」ビクビク
激痛に喘ぎ、転がる様にモンスター達から離れる俺の前に居たのは……近所でよく見かけるあの女性だった。
恐らく仕事の終わる時間が遅いのだろう、とくに酒の臭いもなく、しっかりとした印象がある。
そして今、彼女は目の前で爆風にも似た衝撃波に吹き飛ばされた俺を見て驚きに満ちた表情を見せていた。
逃がさなくては。
そう考えていた筈なのに、俺はいつの間にか……
男「た、助けて……っ!! 助けて下さいぃッ!!」バッ
OL「っ?! キャッ…!!」ドサッ
……あの女性を押し退け、逃げ出し、目もくれずに走り去ろうとしていた。
男「ひぅ…ッ、うわぁ!! うわぁぁあああ!!!」ダッ!!
何かのタガが外れた様に叫びながら、走り出していた。
思えば俺は、この夜の時間だけはどこか楽しい夢を見ている気分だったのかもしれない。
だから。
だから、と言い訳をして、俺は背後で突然の不幸に悪態を突いて立ち上がろうとするOLを1人残して。
自分だけ逃げ出してしまった、見殺しにしてしまった。
OL「もう…何なのよ……」ヨロヨロ
さまよう鎧「……」チャキッ
ホイミスライム【ホヨヨ…?】
さまよう鎧「念のためだ、この人間も消す」ヒュッ…!!
OL「……っ?」ズパァ……ッ
OL「…か……フッ…?」ブシュゥッ!!
< ドシャッ・・・!
さまよう鎧「追うぞ我が右腕よ、あの男……逃がすわけにはいかん」
ホイミスライム【ホヨヨ…】フワフワ…
俺は必死に逃げていた。
家の方向とか、交番とか、そんなものを意識して走る余裕はなかった。
背中から疼く傷みと左腕から鈍く高まってくる焼かれるような傷み。
この2つの傷みが背を後押しするかのように、俺は幾つかの街灯の下を駆け抜け……そして、いつしか深夜の路地裏にまで逃げていた。
男「ハァッ…ハァッ…ッ!! ゼェ……!!」タッタッタッ
悪夢だ。
これは悪夢だ、質の悪い……上げて落とすタイプの夢だ。
そうだ、これは悪夢だから……逃げてしまっても仕方ない筈だ。
だから…………俺は……………………
ホイミスライム【ホヨヨ…】ヒュルンッ!!
男「ぁ……」
男(…まわり…こまれ……)
さまよう鎧「よくやった我が右腕……!」タンッ…!!
男(逃げないと……逃げて、逃げ…)
───────── 【『兜割り』】 ─────────
< ───── ゴガァンッッ!!
────────── パラパラ……ザリッ…「ケホッ……」
男(生き…てる……)グググ…ッ
男(……手も動く…)フラッ…
粉塵の中で戻る僅かな意識。
全身を打たれたと思える傷みが薄れる程に朦朧とした意識で、俺は静かに巻き上げられた粉塵の向こうで立つ影を見た。
さまようよろいは、俺を見失っていた。
そして右腕と呼ばれていた相方のホイミスライムもまた、同様に見失っていたのだ。
恐らく予期せぬ何かが奴等のトドメの連携を遮ったのだ。
だが、それを思考する余裕も体力もない。
男「……」
< ギシッ……
手には、これだけ取り乱しながら逃げていたにも関わらず離さなかったあの大木槌がある。
しかし。
男(……あんな化け物に、通じるのか…)
男(……化け物…?)
何か、見落としは無いのか。
そう……あれだけ好きだったゲームの中で、自分はどれだけのさまようよろいを倒したのだろう。
いや、そうではない、それは自分ではない。
『勇者』は、初めから強かった訳ではない筈だ。
そうでなければ、『勇者』の成長を描かれる事など無いのだから。
男(これは……俺の夢だ、幻覚だ、全てが俺の望んだゲームなんだ)
男(いわばこれはボス戦……そうだ、あれは最初の俺にとってのボスだ)
粉塵が晴れる。
カーテンが開き切ったその瞬間、俺は再びあの殺人モンスター達と対峙しなければならない。
だがもう逃げない。
それは決して俺のシナリオでは、ストーリーの一角を飾るエピソードではないのだから。
ただ殴って勝てないなら戦略を見出だせ、それが『ゲーム』の醍醐味なのだ。
うっすらと、ホイミスライムの影がはっきりとした輪郭を映し出していく。
それを見ながら俺は激痛を訴える身体を立たせ、そして構えた。
男(……レベルの問題だろうか)
男(いいや、ボスモンスターが通常のモンスターと違ってステータスが上のは当たり前)
男(だがこれは『リアリティのある敵』だ、そして相手は……)
思い出すべきなのだ。
さまようよろいが喋る事は問題ではない。
ボスの位置にいる事も問題ではない。
ホイミスライムが傍にいるのも問題ではない。
そう、問題なのは『強い理由』。
さまようよろいという下位のモンスターが、何故指揮官の役目をしているのか?
何故にあのさまようよろいは強い、そうではない。
さまようよろいは、強くはない。
レベルを間違えば確かに強敵だが、思い出すべきはそうではなく。
『兜割り』の行使、そしてそれを繰り出すに至る連携。
男(……そうか)
男(そういう事なのか)
ルールを理解し、それを自身が把握していく時の優越感が俺の中を満たしていく。
ボロボロの今にも死ぬように思える体に、力が僅かばかり戻っていく。
そして、次の瞬間。
DQ3で初めてさまようよろいに出くわしてダメージのでかさにびびって逃げれず全滅、あると思います
さまよう鎧「チィ…ッ、ぬかったわ……さっきのは一体…」
< ゴズンッ・・・!!
さまよう鎧「?」
さまよう鎧「!!」
粉塵は晴れ、残されていた筈の逃走手段はもう無い。
だがもう逃げない、逃げる必要はない。
ここからなのだから。
ホイミスライム【ホヨヨ…ホヨ……】ビクンッ…ビクンッ…
先陣を切ってホイミスライムが俺の動きを止める役割として先手を取り、
そして曲がりなりにもスライム以上の攻撃を受けて止まった獲物を狩り獲る。
男「……そうだ、だからお前は決まって追撃しかしてこなかった」
男「何らかの理由で『力』が上がっていても、本来のポテンシャルである素早さの低さはどうにも出来なかったから」
男「その鈍重な動きが、お前にこの狩人のような戦い方を強いたんだ」
男「恐らくその素早さはせいぜいが人並み程度……だけど」
不意打ちをまともに受け、訳も分からぬまま目を回すホイミスライムに木槌を添える。
そして俺は腕を振るい上げ……
────────── グチャァァッ!!
男「……俺みたいに『少しレベルの上がった人間』を相手にした場合、互角以上にまで持ち込まれかねなかった…そうだろ!?」
蒼い液体が噴き出し、飛沫を上げながら散っていく。
対峙するさまようよろいは、固まったように立ったまま。
さまよう鎧「……貴様………ッ!!」ギシィッ…!!
冷たい光を反射する剣を構え、静かにその殺意を俺に向けた。
俺の中をこの時満たしていたのは、まるで漫画やアニメのような状況と、ゲーム通りのステータス勝負に、ただひたすらに興奮しているという事だけだった。
そして何より。
男(……ホイミスライムを倒した瞬間、体に力が湧いた気がした)
男(多分……もしかしたらこの感触がレベルアップなの…か?)
僅かに呼吸が楽になった感触に合わせて……腕に、手に、足に、更なる力が込められる。
昨夜、初めてモンスターと出会いそして初めて倒した夜。
あの時も同じ感触が身体を巡ったのだ、つまり本当にレベルが上がったのかもしれない。
男(昨夜から四回か三回はレベルが上がっている……だとすれば、今の俺ならこのさまようよろいと互角にやれる筈…)
男「……ッ、うおおおおおおおお!!!」
咆哮、そして踏み出す足。
さまよう鎧【シィィ……ッ!!】ガシャッッ
俺の眼前であの朽ちかけた鎧が、具足が、軋みを打ち鳴らしながら駆け出してくる。
数分前の俺なら逃げ出してすらいたであろうその重量感溢れる猛進は、今の俺にとっては酷くリアルな動きだとしか思えなかった。
これがあのゲームのプレイヤーには理解のできなかった戦いなのだ、と。
────────── ビュォ・・・ンッッ!!
男(まともに受けるな……!!)バッ…!
男(こいつは自分の力が最大の武器だ)
男(真っ向からぶつかれば、タックルですら致命傷を負いかねない……なら!)
俺の背丈はある剣を軽々と一閃させる剣撃に、対して瞬時に踏み込み……木槌の側面を真横から振られる刃に合わせて構えた。
たった、それだけだった。
──────── ガガッッ!!
さまよう鎧【ッ…!! シィィイイッ……!!!】ズザァッ!!
たったそれだけでさまようよろいは大木槌の側面を数センチ削り抉るだけで、俺と擦れ違いを起こしてしまう。
憎悪に染まった声を漏らしながら立ち止まる鎧のバイザーから、光の無い眼が俺を刺し貫く様に見てくる。
苛立ちと自身の鈍重さから来る屈辱が明らかにさまようよろいの冷静さを欠かせていた。
男(行ける……本当に、俺ならコイツを…)
男「さまようよろいにも、勝てる……ッ」
さまよう鎧【シィィイイッ!!!】ガシャッッ!!
男「来い!!」
男(……コイツの剣の軌道は、大振りの一撃ばかりだ)
男(素人の俺でも読める……きっと日本の居合いとかの達人に比べればずっと遅い!)
男(倒す……ここでコイツを殺してやる…!!)
男「ッ……だぁあッ…!!」
─────── ガリガリガリィッ!!
声を張り上げ、限界まで体の重心を下に落としていく。
そうして同時に襲い掛かるさまようよろいの、横薙ぎの一撃を擦れ違う様に受け流して後ろへ走り抜ける。
……当然、抜けた瞬間にさまようよろいへのダメージを与える事を忘れない。
─────── ゴンッッ!!
ミシィッ!! バギンッッ……!!
さまよう鎧「ぐぉ……ァッ!!…?……」ズシャァッ!!
振り向き様、鎧の腰部分へ振り抜いた木槌が打ち付けられる。
僅かに破片が散り、朽ち欠けていた鎧が更に亀裂を深めて悲鳴を挙げていた。
そう……大きく体勢を崩して、遂に膝をついていたのだ。
男(常に動き続けろ……それしかコイツには勝てない、殺される……!!)
男(殴れ! 振れ! 叩きつけろ!!)ブンッ!!
─────── ゴンッ!! ガッ…ガツッ! ガンッ!!
さまよう鎧「ぐゥ…ぉ、お……ッ!!……がぁ…!」ミシッ…ミシッ…
─────── ガギィッ!!
男「っ……!?」
一閃が駆け抜けたのと同時に、俺の手から大木槌が飛ばされそうになった。
それが力任せに振った裏拳によるものだと気づいたのはその後。
そして、一瞬の動揺が
さまよう鎧「シィ……ッ!!」
────────── パァンッ……
男「……?」
何かが横一文字に薙がれ、俺の左腕を叩きつけながら引っ掛けた。
だがしかしそれ以上の変化は無く、俺は全身を僅かな一瞬で動かす。
例え裏拳で弾かれようと、大木槌は俺の手にまだ握られているのだから。
ここで止まって生き残れる筈は無いのだから。
───── ヒュッ ─────
さまよう鎧「グ……、まッ……」
振り被り、大木槌を握り締める手を強めて。
刹那に感じた死の危険に声を漏らす目の前の鎧に、俺は一切の加減はしなかった。
────────── ガギュッッ!!
腕に込められる全力を乗せた一撃。
さまようよろいの頭部であるバイザーに大木槌が叩き込まれた瞬間、それまで朽ち欠けていた鎧が遂に砕けたのだ。
金属が悲鳴を挙げ、形が捻り曲がる音が鳴り響き、バイザー部分のボルトが弾かれた様に宙を舞う。
俺は……軋む大木槌を更に振り上げた。
────────── ゴッッ!!!
────────── ポワァ・・・ン……ッ
< ガキィンッ!! カラカランッ……!
男「はぁ……ッ、っぜぇ、はぁ……ッ…はぁぁ…っ」ドサッ
どれだけの時間が経ったのだろう。
僅かにさまようよろいが動けば、それよりも速く叩きつけて砕き。
僅かにさまようよろいが揺れればそれよりも速く強く叩きつけて粉砕した。
それこそ、右手に握っていた大木槌がボロボロになるまで金属の残骸を叩き続けたのだ。
暫くして、遂にさまようよろいが黒い煙と僅かな光の残滓に包まれて消えるまで。
俺は一切の身動きも出来ず、さまようよろいの残滓から落ちてきた腕輪と鋼の剣をただ見ていた。
男(……あの、赤い腕輪……………)
男(なんだ……? 見たことがある、確か……あれは……)フラッ…
< ドサッ
男「ぅ……う………」ズル…ズル…
男(そうだ、思い出した……)
男(……これは…『豪傑の腕輪』………)カチャ…パチンッ…
~~ 1ヶ月後 ~~
男「……いよいよメラが使える様になるとか末期だな俺は」
男「今まで真夜中にひっそりと魔物を倒してたけど」
男「なんというか……メラとか放火魔の素質に目覚めたんじゃないかと心配になる」
男「……」
男「メラッ!」バッ
< バカァアンッッ!! カランッ! カランカランッ…!
男(多分、掌を向けなくても炎弾は出る)
男(速度も威力も……殆ど銃弾だな、現代の人間に撃ったら即死だ)
男(……俺の賢さが一定を越えているなら、そっちの補正もあるかもしれないが…期待しても無駄だな)
男(メラでこの威力……スライムやホイミスライム、奴等の攻撃力を元に考えてみれば自然かな)
男「……あ」
男「あー……またか、やっちまったな」
男「朝日を迎えちまったかー、本当にこれが病気なら俺は本当に末期だな」
────────── ダンッ!! タタタタタタタタッッ・・・!!
男(『狩場』にしている廃屋の三階屋上から飛び降りてから、いつも通り自宅に向かってフリーラン……)ダッ!!
男(我ながら、人間としてそろそろ自重しないとって気はしてきた……でもやめられない)
男(毎日が楽しい、一部の事に目を閉じれば毎日が楽しくて仕方ない)
< 「ぎゃぁあああっ!?」
男「っと……」ピタッ…
男(……そう、一部の事にさえ………目を閉じれば……)
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