のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,861人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレ春香「冬馬くんかっこいいなあ……」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×4
    タグ : - アイドルマスター + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    301 = 300 :

    のヮの<とりあえずここまで

    303 :

    待っててよかった

    304 :

    待ってた

    305 :

    楽しみにしてます

    307 :

    ~二週間後・春香自室~

     コンコン

    母親「春香? 今日も出かけないの?」

    春香「…………」

    母親「家にいるんだったら、お使いに行ってきてくれない?」

    春香「…………」

    母親「少し、外の空気でも吸ってきたら?」

    春香「……うん」

    春香(千早ちゃんとケーキ屋に行った日を最後に、私は事務所へ行くのをやめた)

    春香(学校へは一応行っていたが、友達から事務所の話を振られるのが億劫になり、ここ数日はずっと家に引きこもったままだ)

    春香(でも両親にまでは心配を掛けたくないので、家ではなるべく明るく振舞うようにしている)

    春香(この家の中でなら、私はアイドルじゃなくてもいい)

    春香(だから私は、両親の前ではまだ普通に笑うことができている)

    春香「行ってきます」

     ガチャッ

    春香「……まぶしい」

    春香(久しぶりに浴びた陽の光。季節はまだ、残暑真っ只中だ)

    春香(そういえば、ファーストライブの日は台風が来ていたっけ)

    春香(遠い昔の記憶を辿るようにあの日に思いを馳せながら、私はお母さんに頼まれた郵便をポストに入れた)

    春香(さて、これでもうお使いは終わりだけど……)

    春香「…………」

    春香(せっかくだし、少し歩こうかな)

    309 :

    今回は早いなと思ったら終わってた…

    310 :

    春香(私は……どうしたかったんだろう)

    春香(どうして……アイドルになりたかったんだろう)

    春香「…………」

    「荷台、そっちにありますって!」

    「おう!」

    春香「……あっ」

    「えっ」

     ドンッ

    「っと、悪い」

    春香「いえ、こちらこそ」

    冬馬「……って、お前」

    春香「えっ? ……あっ」

    冬馬「765プロが、こんなとこで何やってるんだ?」

    春香「あ、あの……私の家、この近くで……えっと、今日は仕事……お休みで……」

    冬馬「休み? 売り出してる時に優雅に休みを取るなんて、余裕じゃねぇか」

    春香「……売り出してる、時?」

    冬馬「? いや、お前ら、最近ちょくちょくマスコミとかにも取り上げられてるじゃねぇか」

    春香「…………」

    春香(そういえばファーストライブ以降、事務所内の空気がそれまでに比べて慌ただしくなっていたような気がする)

    春香(私にも結構、新しい仕事のオファーが来ていたっけ。やる気が出なかったから、適当に理由付けてほとんど断ったけど……)

    冬馬「……ふぅん。ま、いいや。……休みってんなら、暇ってことだよな?」

    春香「まあ、はい」

    冬馬「だったら、俺らのライブに来てみろよ」

    春香「ライブ? ここで?」

    冬馬「ああ。俺ら、結構こういう小さめの箱でもやるんだよ」

    春香「そうなんですね……ちょっと意外かも」

    冬馬「こういうとこでやるのも、悪くは無いぜ。デカい箱の時と違って、一緒にステージを作る仲間のこととかもよく分かるしな」

    春香「へぇ……」

    冬馬「まあ、気が向いたら来いよ。俺らの実力を見せつけてやるからよ」

    春香「……え?」

    冬馬「いや、お前、『俺らを超えてみせる』って息巻いてたじゃねぇか。運動会の時に」

    春香「……ああ。はい」

    冬馬「? お前、本当にあの時と同じ奴か? なんか調子狂うんだけど……」

    春香「…………」

    311 = 310 :

    北斗「おーい、冬馬ー」

    冬馬「! おう! 今行く」

    春香「……………」

    冬馬「……まあ、なんでもいいけどよ。ただ、一つだけ言っとくと――……」

    春香「? はい」

    冬馬「……ぼーっと立ち止まってるようじゃ、いつまで経っても、俺らを超えるどころか、追いつくことすらできねぇと思うぜ。……じゃな」

    春香「…………」

    春香(……『超えてみせる』、か……)


    ――あなた達を、超えてみせます。


    春香(あのとき、あんな台詞を吐いた私は、今どこにいるんだろう?)


    ――私は、竜宮小町もジュピターも全部超えて……トップアイドルになってみせます。


    春香(あのとき、あんな風に誓った私は、今どこにいるんだろう?)

    春香(私は、受け取ったライブのチケットに視線を落としながら、ぼんやりとそんなことを考えていた)

    春香「……なんてね」

    春香(答えはもう、分かっている)

    春香(あのときの私は、もうどこにもいない)

    春香(果たすべき目標を、もう無くしてしまったから)

    春香(たとえ私が竜宮小町を超えても)

    春香(ジュピターを超えても)

    春香(トップアイドルになれたとしても)

    春香(私が本当に欲しいものは―――手に入らないのだから)

    312 = 310 :

    ~同日夜・春香自室~

    春香「…………」

    春香(ぼんやりと、私は考えていた)

    春香(これまでのこと。これからのこと)

    春香「……プロデューサーさん……」

    春香(私はやっぱり今でも、プロデューサーさんのことが好きだ)

    春香(もう二週間も会ってないけど、その気持ちは変わっていない)

    春香(……ただ、この気持ちの落としどころが分からない)

    春香(私はもう、プロデューサーさんが望む『天海春香』を演じられない)

    春香(それはつまり、この気持ちが報われることは無いということ)

    春香(いっそ忘れられたら。諦められたら)

    春香(こんな気持ちを、無くすことができたなら)

    春香「……アイドルになんて、ならなかったら良かったかな」

    春香(私がアイドルになんてならなければ、プロデューサーさんに出会うこともなかった)

    春香(プロデューサーさんを好きになることもなかった)

    春香「……大体プロデューサーさんなんて、私からしたら一回りも年上なんだし」

    春香(きっと私が普通の女子高生なら、そんな人を好きになったりしないんだろう)

    春香(そんな私がいたら多分、普通に高校に通って、普通に女子高生して……)

    春香(他の皆がそうしているのと同じように、流行りの男性アイドルのおっかけなんかしたりして)

    春香(たとえばそう……ジュピターとかの)

    春香(そうだったらきっと、学校の休み時間、皆でだらだらお喋りしながら、『冬馬くんかっこいいよね』とか、そんな他愛の無いことを呟きあったりするんだろう)

    春香(……私の人生も、そっちの方が良かったな)

    春香(こんなに苦しい気持ちになるくらいなら、その方が、ずっと……)

    春香「…………」

    春香(私はふと、机に置いたライブのチケットを見た)

    春香「……ジュピターのライブ、か……」

    春香「…………」

    春香「……行ってみようかな」

    春香(それでもしも、別の私になれる可能性があるのなら)

    春香(違う人生を歩む私に、なれる可能性があるのなら)

    春香(たとえ欺瞞でも――……今の気持ちに、嘘がつけるのなら)

    春香(……行ってみる価値は、あると思った)

    313 :

    ~一週間後・ジュピターライブ会場~

    春香(天ヶ瀬さんからもらったチケットは、関係者席のものだった)

    春香「もらってよかったのかな……こんなの」

    春香「まあでも、もらったのに行かないのももったいないしね……」

    春香(私は自分に言い聞かせるようにしながら、関係者用の入場口を通り、すぐに指定された座席位置までたどり着くことができた)

    春香「うわぁ……近いなあ」

    春香(関係者席は、ステージから見て左側の最前列だった。ステージまでの距離は十メートルほどしかない)

    春香「ジュピターファンなら感涙ものだね、これは……」

    春香(少し醒めたようなセリフを吐きながら、私は自分の席に腰を下ろした。……そのときだった)

    「―――春香?」

    春香「……えっ?」クルッ

    「……春……香……?」

    春香「!? ひ、響ちゃん!?」ガタッ

    「な、なんで春香が、ここに……?」

    春香「え、いや……私はその、チケットもらって……っていうか響ちゃんこそ、なんで!?」

    「じ、自分は社長経由でチケットもらったんだけど……もしかして、春香もそうだったのか?」

    春香「……社長経由? 社長って……高木社長のこと?」

    「うん。社長が961プロの社長と昔馴染みらしくてさ。ジュピターが今度ライブやるから、観に行きたい人は関係者席のチケット融通してもらえる、って言うから」

    春香「……それでもらったんだ、チケット」

    「うん。やっぱりCDで聴いてるだけより、実際のライブを観た方がずっと勉強になると思ってさ。運動会のときも観たけど、あれは即席ステージでのミニライブだったし……」

    春香「……そっか」

    春香(そういえば響ちゃんは以前から、女性ファンの支持を増やすためにジュピターのパフォーマンスを参考にしようとしていた)

    春香(私も響ちゃんの影響で、ジュピターのCDを買い揃えたりもしたし……)

    314 = 313 :

    「……で、春香は? 今聞いた感じだと、社長経由でもらったわけじゃなさそうだけど……」

    春香「あー……うん。私はその、天ヶ瀬さんから、直接もらって……」

    「えっ。天ヶ瀬って……天ヶ瀬冬馬から? なんで? 会ったの?」

    春香「うん、偶然だけどね。私の家、この会場の近くで……この前通りがかった時に、ライブ準備中の天ヶ瀬さんとたまたま会って」

    「……それでもらったの? チケット」

    春香「うん。前、運動会の時に、私が宣戦布告みたいなこと言ったの、覚えてたみたいで……」

    「あー。そういえば言ってたね」

    春香「それで、『俺らの実力を見せつけてやるから、見に来いよ』みたいに言われて。それならまあ、せっかくだし行こうかな、って……」

    「……そっか」

    春香「……うん」

    「…………」

    春香「…………」

    「なあ、春香」

    春香「何? 響ちゃん」

    「いや、その……今日、このライブに来たってことは……まだ、辞めたわけじゃないんだよな? アイドル……」

    春香「…………」

    「あっ。言いたくなかったらいいんだけどさ。その、春香……もう三週間も事務所に来てないし、メール送っても返信くれないし、電話も出てくれないし……」

    春香「……ごめん」

    「あっ、その、責めてるわけじゃないんだ。ただ、その、春香、もうアイドル辞めちゃうのかな、って思って……」

    春香「…………」

    「プロデューサーに聞いても、『俺も理由は分からないんだ』としか言わないし……」

    春香「…………」

    「……まあ、言いたくないんなら、いいんだけど……」

    春香「……響ちゃん」

    「うん」

    春香「……黙って事務所に顔出さなくなって、ごめん」

    「……うん」

    春香「響ちゃんが言うとおり、私、色々あって……今ちょっと、迷ってるんだ。……このままアイドル続けるべきなのか、どうすべきなのか……」

    「…………」

    春香「だからそれを見極めるためにも、私は今日……ここに来たのかもしれない」

    「……春香……」

    春香「今現在、トップアイドルに最も近い位置にいるジュピターのライブを観ることで、私自身……何か感じ入ることがあれば、あるいは……って、思って」

    「……そっか」

    春香「……うん。ごめんね、何も言わないで」

    「ううん、いいよ。……誰にだって、他の人に言えない悩みの一つや二つ、あるだろうし……」

    春香「……ありがとう」

    315 = 313 :

    「でもさ……春香」

    春香「? 何? 響ちゃん」

    「もし、春香が悩んでることで、自分が助けになれそうなことがあったら、なんでも言ってよね!」

    春香「……うん、ありがとう!」

    「まあ、自分なんかじゃ、あんまり頼りにならないかもしれないけど……」

    春香「そんなことないよ。だって完璧なんでしょ? 響ちゃんはさ」

    「う、うん! そうだぞ! 自分完璧だからな!」

    春香「あっ。でも一個だけ完璧じゃないところがあったね」

    「えっ」

    春香「……身長……」ポンポン

    「も、もー! そうやってすぐからかうんだから! っていうか頭に手を置くなー!」

    春香「あはは。響ちゃんかわいい」

    「もー! 春香のバカー!」

    春香「あはは……あっ、照明消えた。そろそろだね」

    「っと、ちゃんと観ないとな」

    春香「……響ちゃん」

    「ん?」

    春香「……ありがとね」

    「い、いいって。友達なんだから、当たり前でしょっ」

    春香「照れてる響ちゃんかわいい」

    「て、照れてないっ!」

    春香「あはは」

    「もー……」

    春香「…………」



    春香(こういうのを習性、っていうのかな)

    春香(頭では分かっていても、つい、今までと同じ『天海春香』を演じてしまう)

    春香(ただそうはいっても、全部が全部ウソってわけじゃない)

    春香(響ちゃんのことは、今でも大切な友達だと思っている)

    春香(でも……)

    春香(アイドルを続けるのかとか、辞めるのかとか)

    春香(トップアイドルがどうだとか……そういった類のもの、すべてが)

    春香(今の私にとっては――……どうでもよかった)

    316 = 313 :

    春香(――……その後まもなく、ステージをスポットライトが照らし出し、ジュピターの三人が登場した)

    春香(即座に沸き上がる黄色い歓声。それにかぶさるようにイントロが流れ出し、そして――……)


    冬馬・北斗・翔太『――――♪』


    春香「…………」

    春香(まさに『アイドル』というべき存在がそこにいた)

    春香(運動会の即席ステージのときよりも、ずっとずっと、輝いている彼らがそこにいた)

    春香(それはいつかの私が目指していた場所)

    春香(あの日の私が『超えてみせる』と宣言した舞台)

    春香(……でも今はもう、あの日の想いも、この光の海に飲まれていく)

    春香(ただそれでも私は、純粋な気持ちで、彼らを応援したいと思った)

    春香(自分が超えるべき存在ではなく、自分がかつて目指していた場所を今も目指している存在として)

    春香(もうそれでいいんだと、自然と思うことができた)

    春香(……そしてライブが終わるころには、私は妙にすっきりとした気持ちになっていた)





    ~同日夜・ライブ会場からの帰り道~


    「……すごかったな。ジュピター」

    春香「うん」

    「男性アイドルと女性アイドルを、まったく同じ視点で比べるのは難しいと思うけど……でもやっぱり現段階だと、まだ全然遠いところにいるって感じた」

    春香「そうだね」

    「…………」

    春香「…………」

    「ねぇ、春香」

    春香「何? 響ちゃん」

    「……まだ、答えは出ない感じ?」

    春香「……アイドルを続けるか、どうするかの?」

    「……うん」

    春香「……そうだね」

    「……そっか」

    317 = 313 :

    春香「……今はもう少し、普通の女子高生していようかな」

    「普通の女子高生?」

    春香「そ。アイドルとか関係無い世界の、ごく平凡な一女子高生。だからとりあえず、学校にはまた行くようにしようかなって。最近さぼっちゃってたし」

    「……そっか」

    春香「……そんな顔しないでよ。響ちゃん」

    「だって……それってやっぱり春香、アイドル辞めちゃうってことなんじゃ……」

    春香「それはまだ分かんないよ。でも今はちょっと、そういうの考えないようにしたい気分なんだ」

    「…………」

    春香「ごめんね、響ちゃん。ワガママ言って」

    「……ううん。春香がそう言うのなら、自分は……春香を信じて待つよ」

    春香「そっか」

    「……うん」

    春香「ありがとうね。響ちゃん」

    「……うん」


    春香(その後、駅前で別れるまでずっと、響ちゃんは今にも泣きだしそうな表情だった)

    春香(悪いことはしていないつもりだけど、本当のことを全部話していない、という罪悪感はある)

    春香(でもだからといって、『もうアイドルを続けるつもりはない』なんて話したら、きっと必死に説得してくるだろうし……)

    春香(だからそれを回避するために、かつ嘘を極力言わないようにして、私は曖昧なことしか言わなかった)

    春香(願わくばこのまま、自然と事務所の皆との関係からフェードアウトできればと……そんな狡い思いもあった)

    春香(……プロデューサーさんのことは、まだ好きだけど)

    春香(でも好きだからこそ、こうすべきだと思った)

    春香(叶わない想いを持ち続けることこそ、辛いことは無いのだから)

    春香(このまま会わない時間が続けば、いつかはこの気持ちも薄らいでいくだろう)

    春香(儚く消える、水泡のように)

    春香「…………」

    春香(ああ、そうだ)

    春香(また明日から、ジュピターのCDでも聴くようにしようかな。ここ最近、ずっと聴いていなかったけど)

    春香(そしてライブにも、また足を運んでみよう。今度は普通に、一般席のチケットに応募して)

    春香(それで、学校の友達と連れ立って応援に行ったりするのも、いいかもしれない)

    春香(うん)

    春香(多分私には、そういう人生の方が合ってるんだ。……きっと)

    春香(……でも)

    春香(そんな風に、なんとか自分の気持ちを切り替えようとしたのも束の間)

    春香(現実というものは、想像以上に辛辣で)

    春香(―――翌日、久しぶりに行った学校からの帰り道で、私はそのことを重く実感することとなった)

    318 = 313 :

    春香「……えっ」

    「…………」

    「…………」

    春香(校門を出てすぐのところに、昨日会ったばかりの友人と)

    春香(……三週間ぶりに見る、『その人』が肩を並べて立っていた)

    春香「……なんで……」

    「ごめん、春香」

    春香「響ちゃん」

    「その、昨日の春香の様子見てたら、やっぱり、もうそのままアイドル辞めちゃうんじゃないかって、思えて……それで……」

    春香「…………」

    「……春香」

    春香「プロデューサーさん」

    「響から、おおよその話は聞いた。勝手にこんなところまで押しかけてすまない」

    春香「いえ……」

    「少しでもいい。話をさせてもらえないか」

    春香「……わかりました。じゃあ駅の近くに喫茶店がありますから、そこで……」

    「ありがとう。それから、響……」

    「うん、わかってる。自分はここで帰るよ」

    春香「えっ」

    「……今日は、プロデューサーをここまで連れてきただけなんだ。ほら、春香も、自分がいたら話しにくいこととかもあるかもしれないし」

    春香「響ちゃん……」

    「かといって、いきなりプロデューサーが一人でここで待ってたら、春香もびっくりしちゃうかなって思ってさ。それで自分も、ここまでは一緒に……」

    春香「……いや、まあ、昨日の今日で響ちゃんがいた時点で、普通にびっくりしたけどね……」

    「あ、そ、そっか。そうだよね……はは」

    春香「…………」

    「…………」

    「……じゃあ、行こうか」

    春香「……はい」

    319 = 313 :

    春香(――その後、喫茶店の前で響ちゃんとは別れ、私はプロデューサーさんと二人で店に入った)

    春香(周囲に他のお客さんがいるとはいえ、プロデューサーさんと二人で話すのは、あのファーストライブの日以来だ)

    春香「…………」

    「…………」

    春香(私はミルクティーを、プロデューサーさんはホットコーヒーをそれぞれ注文した)

    春香(飲み物が来るまでの長い沈黙。いや、別に飲み物を待つ必要も無いのだけど)

    春香(結局、それを最初に破ったのはプロデューサーさんだった)

    「……なあ、春香」

    春香「はい」

    「……なんで、事務所に来なくなったんだ?」

    春香「…………」

    「親御さんからは、『しばらくお休みしたいようなんです』としか聞いていないが……見た感じ、病気とかではないんだよな?」

    春香「……はい」

    「……そうか。それならとりあえずは良かった」

    春香「…………」

    「で、それならそれで、ちゃんと理由を話してくれないか?」

    春香「…………」

    「昨日は、ジュピターのライブに行っていたんだろう? それは何のためだ? これからもアイドルを続けていく意思があるからじゃないのか?」

    春香「…………」

    「……春香……」

    春香「…………」

    店員「お待たせいたしました」コトッ

    「ああ、すみません」

    春香「…………」

    「…………」

    春香「…………」

    320 = 313 :

    「……なあ、春香……。何か言ってくれないか」

    春香「…………」

    「俺に言いにくいことなら、後日、社長や音無さん、律子とかに話してもらうのでも良いが……」

    春香「…………」

    「…………」

    春香「……まあ確かに、プロデューサーさんには言いにくいことですね」

    「……そうか。じゃあ、社長にでも……」

    春香「でも」

    「ん?」

    春香「プロデューサーさんに言わなければ、意味の無いことでもあります」

    「? どういうことだ? それは」

    春香「私はプロデューサーさんのことが好きなんです」

    「……えっ」

    春香「プロデューサーとしてとかではなく、一人の男性として」

    「…………」

    春香「ほら、困った顔」

    「えっ、あっ、いや……」

    春香「……だから言ったじゃないですか。言いにくいことだって」

    「…………」

    春香「…………」

    春香(……言って、しまった)

    春香(なんでこのタイミングで言ってしまったのか、自分でもよく分からない)

    春香(ただ考えるより先に、言葉が口を突いて出た、という感じだった)

    春香(まあでも、『これでもいいか』とも思えた)

    春香(どのみち叶うことの無かった想いだ)

    春香(それを時間をかけて忘れていくか、今この場で強制的に断ち切るかの違いでしかない)

    春香(いずれにせよ、大きな問題ではないと思った)

    321 = 313 :

    「……それが、理由なのか。春香が今、事務所に来ていないことの……」

    春香「はい」

    「……俺と顔を合わせるのがつらい、ってことか」

    春香「まあ……そうですね」

    「それで、辞めるつもりなのか? ……アイドル」

    春香「そうですね……今のままだと」

    「…………」

    春香「…………」

    「なあ、春香」

    春香「はい」

    「俺とのことだけが問題なら……たとえば、春香の担当プロデューサーを律子に変えてもらうとか……」

    春香「……意味無いですよ。そんなの」

    「……意味無い?」

    春香「はい」

    「どういうことだ?」

    春香「だって私は、プロデューサーさんに一番に見てもらいたいんですから。……私のことを」

    「…………」

    春香「だからプロデューサーが律子さんになっても、意味が無いんです」

    春香「私は、あなたに見てほしいんです。他の誰よりも、私のことを」

    「…………」

    春香「でも、そんなの現実的には不可能ですよね? だってプロデューサーさんは、私だけのプロデューサーさんじゃないんですから」

    春香「プロデューサーさんは私のことだけじゃなく、美希のことも、千早ちゃんのことも、響ちゃんのことも、雪歩のことも、真のことも、やよいのことも、亜美のことも、真美のことも、伊織のことも、あずささんのことも、貴音さんのことも……皆平等に、見てあげないといけない」

    「…………」

    春香「そうですよね?」

    「……それは……」

    春香「だからもう、いいんです。プロデューサーさんが私のことを一番に見てくれないのなら、アイドルなんて続けたくないんです」

    「……だから、辞めるっていうのか」

    春香「はい」

    「……どうしても、か」

    春香「そうですね」

    「…………」

    322 :

    切ねえ…
    本当これはもうプロデューサーにどうこうできる問題じゃ無いのがまた…

    323 = 313 :

    春香「……そりゃあまあ、プロデューサーさんが私の恋人にでもなってくれるって言うのなら、話は別ですけどね」

    「! …………」

    春香「……なんて、そんなの無理に決まって――……」

    「……わかった」

    春香「……え?」

    「それで春香が、アイドルを続ける気になるのなら」

    春香「……プロデューサーさん……?」

    「――なるよ。春香の恋人に」

    春香「なっ……」

    「…………」

    春香「……やめてくださいよ、そんな……」

    「なあ、春香」

    春香「…………」

    「俺はさ、ステージの上で、キラキラ輝いている春香が一番好きなんだ」

    春香「! …………」

    「だから俺は春香に、こんなところで終わってほしくない。最後まで、夢を追い続けてほしいんだ」

    春香「……でも……」

    「でも?」

    春香「……私はもう、プロデューサーさんが望むようなアイドルにはなれません」

    「俺が望む……アイドル?」

    春香「はい」

    「どういうことだ?」

    春香「……この前のライブの後、プロデューサーさん、私に言ったじゃないですか。……ライブの時の私は、お客さんのことも、仲間の皆のことも、ちゃんと見れていなかったって」

    「ああ……言った」

    春香「だからこれからは、もっとお客さんのことも、仲間の皆のことも、よく見るように……って」

    「ああ、そうだな」

    春香「でも……もう無理なんです。そんなの」

    「…………」

    春香「今の私には、お客さんよりも、仲間の皆よりも……あなたの方が大切なんです」

    「…………」

    春香「だから今の私は、もしまたステージに立つとしても……あなたのためだけに歌いたいし、踊りたいんです」

    「…………」

    春香「もう、お客さんのこととか、他の皆のこととか、考えられないんです」

    「…………」

    春香「私が考えられるのは、あなたの……プロデューサーさんの、ことだけなんです」

    「…………」

    325 :

    一途で健気な春香さん素敵

    326 = 313 :

    春香「だからもう、私は――……」

    「……いいよ」

    春香「……え?」

    「いいよ、それでも」

    春香「……プロデューサーさん……?」

    「言っただろ。春香の恋人になるって」

    春香「…………」

    「そうなったら、春香が恋人である俺のことを一番に考えるのは、当然のことだからな」

    春香「で、でも……それだと、プロデューサーさんの望む……」

    「それで春香がキラキラできるなら、それでもいい」

    春香「…………」

    「さっきも言っただろ? 俺はステージの上で、キラキラ輝いている春香が一番好きだ、って」

    春香「…………」

    「だから春香が俺のことを想って、歌って、踊って……それで、ステージの上で輝いてくれるのなら、俺はそれでいい」

    春香「……でも、そうしたら、お客さんのことや、仲間の皆のことは……」

    「まあ、そこは確かに気になるが……ここで春香にアイドルを辞められることの方が、俺は嫌だ」

    春香「……プロデューサーさん……」

    「たとえ動機が純粋なアイドルのそれじゃなくても、俺は春香に、こんなところでアイドルを辞めてほしくない。もっとずっと、続けてほしい」

    春香「…………」

    「なあ春香。覚えているか? 俺が最初に事務所に来た日に言ったこと」

    春香「……はい」


    ――目指す夢は、皆まとめてトップアイドル! よろしくお願いします!


    春香(……忘れるはずも、ない)

    「あの日に言った夢は、今も俺の夢であり続けている。そして、春香」

    春香「……はい」

    「現時点で、俺の夢に一番近いアイドルは……お前なんだ」

    春香「! …………」

    「俺がファーストライブの後に言ったことを抜きにしても、今の春香の実力は、うちの事務所の中では抜きん出ている」

    春香「…………」

    「だから、春香」

    春香「…………」

    「お客さんのことか、仲間の皆のこととか……難しいことは、もう考えなくていい」

    春香「…………」

    「今はただ、俺のために、俺の夢のためだけに――……もう一度、目指してみてくれないか。トップアイドルを」

    春香「…………!」

    「…………」

    327 = 325 :

    これPはどういう心境で言ってるんだろうか

    328 :

    無印とは真逆をいってるなあ…
    Pが春香をアイドルでいてもらうために告白受け入れてそれで果たして今まで通りやれるのかね

    329 = 313 :

    春香「…………」

    「…………」

    春香「……じゃあ、そうしたら……」

    「…………」

    春香「……そうしたら、私のことを一番に見てくれますか?」

    「……当たり前だろう」

    春香「! …………」

    「俺はお前の……恋人なんだから」

    春香「ぷ、プロデューサーさん……」

    「……だから、春香。もう一度、ステージの上でキラキラ輝く姿を――……俺に、見せてくれ」

    春香「……はいっ……!」

    「……ありがとう。春香」

    春香「わ、私の方こそ……ありがとうございます」

    「ん?」

    春香「だ、だってその……こ、恋人……」

    「あ、ああ……なんか、いざそう言われると照れくさいな……」

    春香「なっ。じ、自分で言っといて……!」

    「い、いやだって、春香とそういう風になるなんて、考えたことなかったし……」

    春香「むー……」

    「……そんなふくれっ面するなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

    春香「! か、かわ……」

    「まあ、春香はどんな顔してても可愛いけどな」

    春香「きゅ、急にそういうこと言うのは禁止ですよ、禁止!」

    「そうなのか? じゃあ言わないでおくけど」

    春香「……言ってくれないんですか……」

    「どっちなんだよ」

    春香「えへへぇ……言ってほしいです……」

    「ったく……なら素直にそう言えばいいじゃないか」

    春香「だ、だって……恥ずかしいのは恥ずかしいんですもん……」

    「……なあ、春香」

    春香「? はい」

    「これから、もう一度頑張っていこうな。俺と二人で」

    春香「……はいっ!」

    330 :

    これは本当にPの真意が分からんな

    331 = 313 :

    春香(――……こうして、私とプロデューサーさんは恋人同士になった)

    春香(嘘みたいな、本当の話)

    春香(これが夢ではなかったということは、あの後、つねりすぎて少し腫れてしまった私の右のほっぺたが証明している)

    春香(ただそうは言っても、私達はアイドルとプロデューサー)

    春香(当然の事ながら、その関係は二人の間だけの秘密)

    春香(デートなんて言うまでもなくご法度だし、二人きりで食事をすることもできない)

    春香(だから表面上は、それまでとほとんど変わらない生活)

    春香(……でも)

    春香「『学校行ってきます』……っと」ピロリン

    春香「……えへへぇ」

    春香(仕事以外の話題で、彼とメールや電話ができるようになった)

    春香(今の私には、それで十分)

    春香「よーし」

    春香(空は青く澄んで、今の私の心象を反映しているかのようだった)

    春香(もう、何の迷いも無い)

    春香(今はただ、一直線にトップアイドルを目指す)

    春香(それが彼の夢であり、私の夢でもあるのだから)

    春香「待ってろよ! ジュピター!」

    春香(恋は無敵な気持ちをくれる)

    春香(そんな嘘みたいな、本当の話)




    春香(―――なんて、このときの私は、微塵も疑おうとはしなかった)

    春香(本当は、もっとちゃんと確認しておくべきことがあったのに)

    春香(ただこのときは、夢にまで見た甘い夢に……ずっと、浸っていたかったんだ)



    春香(……たとえいつか、夢の終わりを知ることになろうとも)

    332 = 313 :

    のヮの<とりあえずここまで

    334 :

    おつおつ

    335 :

    最終的に春香はどうなるのか…

    336 :

    おつ
    もうなんか、なんか読んでるだけで辛い…
    でももっと、ってなる
    続き楽しみにしています

    337 :

    おつ!
    なんかこええなぁ…

    338 :

    恋人として縛り付けるとか…
    アイドル騙して利用してる黒井とほとんど変わらないじゃんか…

    339 :

    >>338
    全然違くね?あっちは駒として利用してるだけ
    こっちは純粋な好意による結果
    ベクトルがそもそも違うと思う

    340 :

    見てる感じあんまり変わらない気はするけど
    悪気無い分質悪いような

    そのしっぺ返しが今なんだろうけど

    341 :

    ~駅前~

    「! 春香」

    春香「響ちゃん。ごめんね、呼び出しちゃって」

    「ううん、いいよ。それより……本当にまた、アイドル続ける気になったの?」

    春香「うん」

    「……本当に?」

    春香「本当だよ」

    「…………っ」

    春香「? 響ちゃん?」

    「……はるかっ!」ガバッ

    春香「きゃっ! ひ、響ちゃん……」

    「うぅ……よかった、よかったぁ……はるかぁっ……!」

    春香「……響ちゃん……」

    「じ、自分……昨日、春香と喫茶店の前で別れてから……ずっと、後悔してたんだ。春香の意見も聞かずに、勝手にプロデューサー連れて行ったりして……」

    春香「響ちゃん」

    「だから、だから……また春香がアイドル続けるって言ってくれて、本当に良かった……!」

    春香「……心配かけちゃって、ごめんね」

    「ううん」

    春香「それから……ありがとう」

    「……え?」

    春香「だって私、響ちゃんがプロデューサーさんを連れて来てくれなかったら、今こんな風には思えてなかったって思うし」

    「春香」

    春香「響ちゃんが私とプロデューサーさんを会わせてくれて……それで、プロデューサーさんに色々話聞いてもらえたから、私……もう一度、アイドルやってみようって気になれたんだ」

    春香「だから私、少しでも早くその感謝の気持ちを伝えたくて……まず一番初めに響ちゃんに会いたかったの」

    「そっか……」

    春香「うん」

    「……へへ、そう言ってもらえると、自分も嬉しい」

    春香「そして誇らしげな響ちゃん可愛い」ナデナデ

    「べっ、別に誇らしげじゃ……って頭撫でないでよー!」

    春香「あはは」

    「もー!」

    春香「……後、すごく不安にもさせちゃっただろうから、少しでも早く安心させてあげたい気持ちもあって」

    「春香」

    春香「だってジュピターのライブの後、響ちゃんずっと泣きそうだったんだもん」

    「! そ、それは! 春香が『もう少し普通の女子高生したい』とか言うからぁっ……!」

    春香「うん、それは本当にごめんね。だからもう泣かないで」ナデナデ

    「じ、自分泣いてないもん!」

    春香「ふふっ。じゃあそろそろ行こっか。……私達の事務所へ」

    「……うん!」

    342 = 341 :

    ~765プロ事務所~


    春香「……というわけで、今まで本当にすみませんでした!」バッ

    事務所一同「…………」

    春香「これまでの分を取り返すくらい、また一生懸命頑張りますので、どうかよろしくお願いします!」

    事務所一同「…………」

    春香「…………っ」

     パチパチパチ……

    春香「! 皆……」

    亜美「お帰り! はるるん!」

    やよい「春香さんに会えなくて、ずっと寂しかったですー!」

    雪歩「えへへ……また一緒にお茶飲んでまったりしようね、春香ちゃん」

    「ボクのダンスの練習にもビシバシ付き合ってもらうからね、春香!」

    春香「……うん! 改めて、これからもよろしく!」

    真美「またたっくさんクッキー焼いてきてね! はるるん!」

    貴音「その際は、ぜひ私の分は多めにお願いします。春香」

    あずさ「わ、私の分も多めに……こほん、じゃなくて……私の分は糖質控えめでお願いね、春香ちゃん」

    春香「あはは……私の作ったのなんかでよければ、またいくらでも持って来ますよ!」

    律子「まあ何はともあれ、これで一安心ね。これからまたバンバン活躍してもらうわよ。春香」

    小鳥「でも、疲れた時には一息ついていいからね。春香ちゃん」

    春香「はい! メリハリつけて頑張ります!」

    伊織「まったく……戻って来るなら来るで、もっと早く戻って来なさいよねっ」

    春香「伊織」

    亜美「おぉーっと、これはーっ!?」

    真美「水瀬君の十八番、ツンデコ発動かーっ!?」

    伊織「う、うっさいわね! だから何なのよそのツンデコって!」

    春香「あはは」

    343 = 341 :

    「…………っ」グスッ

    貴音「……響? 泣いているのですか?」

    「えぅっ!?」

    「あれ、ホントだ。響が泣いてる」

    「えっ、あぅ、ちが……えっと、これは……」

    春香「……響ちゃん」

    「ち、ちがうんだぞ、はるか。これはそのね、えっと……ぐすっ」

    あずさ「……春香ちゃんが戻って来て、嬉しくて仕方がないのよね。響ちゃんは」

    「…………」

    春香「響ちゃん」

    「……うんっ!」

    春香「ありがとう、響ちゃん」

    「えへへ……こっちこそ、戻って来てくれてありがとね。春香」

    春香「うん。まさかこの短時間で二回も泣いてもらえるなんて……私は幸せ者だよ」

    雪歩「え? 二回?」

    「は、はるかっ! さっきのは内緒にしといてよっ! っていうかそもそもさっきは泣いてなかったじゃん!」

    春香「ばれたか」

    「もー! 春香のバカァ!」

    亜美「なんかよくわかんないけど、今日もひびきんは可愛いねえ」

    真美「うんうん、実に癒されますなあ」

    「い、言っとくけど自分、亜美真美より年上なんだからね!」

    亜美「え? そうだっけ?」

    真美「うーん、でもその割には随分下の方から視線を感じるっぽいよー?」

    「も、もー! また二人して自分をバカにしてーっ!」

     アハハハハ……

    千早「……春香」

    春香「千早ちゃん」

    千早「良かったわ……またこの場所で春香に会えて」

    春香「私も……またこうして千早ちゃんに会えて嬉しい。ずっと連絡してなくて、ごめんね」

    千早「いいのよ。ただずっと心配していたのは事実だけれど」

    春香「……本当、ごめんね」

    344 = 341 :

    千早「もう謝らないで、春香。ただほら、覚えてる?」

    春香「え?」

    千早「春香が事務所に来なくなった前の日……私と駅前のケーキ屋さんに行ったでしょう?」

    春香「ああ、うん」

    千早「あの日以来、春香が来なくなってしまったから、私……」

    春香「…………」

    千早「春香が……食中毒にでもなってしまったんじゃないかって……」

    春香「えっ」

    千早「ずっと……心配していたのよ」

    春香「…………」

    千早「…………」

    春香「……えっ、と……」

    千早「……というのはまあ、冗談なのだけれど……」

    春香「で、ですよねー! うんうん、わかってた! 春香さんわかってたよ!」

    千早「……ごめんなさい。面白くなかったわよね」

    春香「そ、そんなことないよ! 春香さんもう抱腹絶倒ですよ、抱腹絶倒!」

    千早「……本当に?」

    春香「ほ、本当に!」

    千早「……ふふっ。そう、それなら良かったわ」

    春香「あはは! 良かった! うん、良かった! ちょう良かった! あはははは!」

    雪歩「……相変わらず、千早ちゃんは独特のセンスを持ってるよね」

    「うん、流石の一言に尽きるよね……」

    やよい「……ねぇ、伊織ちゃん。今のはどこが面白かったの?」

    伊織「え? えっと……うん。大丈夫、やよいは分からなくてもいいことよ」

    やよい「えーっ……でもちょっと気になるかなーって……」

    伊織「――――」クラッ

    やよい「! い、伊織ちゃん!?」ガシッ

    伊織「ご……ごめんなさい、やよい……」

    やよい「大丈夫? 立ちくらみ?」

    伊織「……いえ、その……」

    やよい「どっか具合でも悪いの? お医者さん行く?」

    伊織「ち、違うのよ……やよい。ただ……」

    やよい「……ただ?」

    伊織「小首を傾げるやよいの仕草が可愛過ぎて……つい、意識が」

    やよい「……え?」

    伊織「ふぅ……まだまだ私も鍛錬が足りないわね……」

    やよい「……うぅ……また分からないことが増えちゃいましたぁ……」

    345 = 341 :

    春香「あはは……伊織は相変わらずやよいを溺愛してるなあ」

    美希「……春香」

    春香「美希」

    美希「元気、そうだね」

    春香「うん。まあね」

    美希「あはっ。なんだか春香……前よりいきいきしてるの」

    春香「? そう?」

    美希「うん。ファーストライブの頃よりも……ね」

    春香「そうかな?」

    美希「そうなの」

    「――よし、皆。じゃあちょっといいか?」

    春香「! プロデューサーさん」

    アイドル一同「…………」

    「えー、そういうわけで、春香がまた今日から皆と一緒に頑張ることになった」

    春香「よろしくお願いします」ペコリ

    「ま、そうは言っても三週間ほどのブランクがあるわけだから、最初から頑張り過ぎないで、少しずつ元の調子に近づけていくようにな」

    春香「はい!」

    「そして他の皆も、各自できる範囲で春香のフォローをしてやってくれ」

    アイドル一同「はいっ!」

    律子「そうね。さっきはバンバン活躍してもらうって言ったけど……くれぐれも無理だけは禁物だからね、春香」

    小鳥「春香ちゃんは、ちょっと頑張り過ぎちゃうところがあるから」

    社長「うむ。身体は仕事の資本だからね。無理をして倒れてしまっては元も子もない」

    春香「はい! 天海春香、無理せず無茶せず、できる範囲で頑張ります!」

     パチパチパチ……

    春香「え、えへへ……」

    346 = 341 :

    「よし。じゃあそれぞれ、仕事やレッスンに向かってくれ。春香は……そうだな、今日は美希と一緒にダンス練習をして、少しでも勘を取り戻すようにしてくれ」

    春香「はいっ!」

    美希「わかりましたなの」

    春香「えへへ……よろしくお願いします、美希先生」ペコリ

    美希「うむ、よきにはからえなの。春香君」

    春香「……ふふっ」

    美希「あはっ」

    伊織「……ったく、何二人して遊んでるのよ」

    美希「あ、でこちゃんも暇なら一緒にやろ?」

    伊織「誰が暇よ。あいにく私はこれから竜宮のCMロケがあるの」

    美希「なーんだ。つまんないの」

    伊織「つまんないって、あんたねぇ……」

    春香「へぇ。やっぱりすごいんだね、竜宮小町は」

    伊織「ま、当然よ。……って言いたいとこだけど、最近は私達だけ、ってわけでもないからね」

    春香「ってことは……他の皆も?」

    美希「うん、そうだよ。ミキも今日はお仕事無いけど、明日はラジオ番組にゲスト出演するんだ」

    春香「へー……皆、すごいんだね。……って、そういえば、天ヶ瀬さんがそんなこと言ってたっけ」

    伊織「? 天ヶ瀬?」

    美希「って、あの……ジュピターの?」

    春香「ああ、まあ……ちょっとね。こっちの話」

    美希伊織「?」

    「――ほらほら。くっちゃべってないで、早く行った行った」

    春香・美希・伊織「はーい」

    347 = 341 :

    ~練習後・事務所からの帰り道~

    春香「あー……もうこんな時間かぁ。久々なのに随分飛ばしちゃった」

    美希「ミキもつい春香につられちゃったの」

    春香「あはは……なんかごめんね、美希」

    美希「ううん、へーきなの。ミキも楽しかったし」

    春香「そっか、ならよかった」

    美希「…………」

    春香「…………」

    美希「……ねぇ、春香」

    春香「ん?」

    美希「もしかして……彼氏でもできたの?」

    春香「……え?」

    美希「ビンゴ?」

    春香「い……いやいやいやいや。アイドル活動再開するって言ってるのに、彼氏なんて出来てたらおかしいでしょう」

    美希「それはそうなんだけど。……でも、なんかそんな気がしたの」

    春香「……なんで?」

    美希「んー。キラキラしてたから、かな」

    春香「……キラキラ?」

    美希「うん」

    春香「ええと、美希? ちょっとよくわかんないんだけど……」

    美希「今日の春香ね、なんだかずっとキラキラしてたの。ダンスの練習してる時も、そうじゃない時も」

    春香「うーん……別にそんなことなかったと思うけど……」

    美希「そんなことあったの。確かにライブの時の春香もすっごくキラキラだったけど、今日の春香はその時よりももっとずっとキラキラだったの」

    春香「ふぅん……それで美希は、その原因が彼氏だと?」

    美希「なの」

    春香「はは……まあ残念ながらそんな人はいませんよ」

    美希「ホントに?」

    春香「本当に」

    美希「ホントのホントに?」

    春香「本当の本当に」

    美希「ホントのホントのホントに?」

    春香「本当の本当の本当に」

    348 = 341 :

    美希「むー……絶対そうだと思ったのにな」

    春香「美希は時々思い込み激しいところあるから」

    美希「そんなんじゃないの! だってミキのガッコの友達にも、それまで地味な感じだったのに、彼氏出来たらいきなりキラキラし始めたコとかいるもん!」

    春香「えっ。美希って今中2だよね? もう付き合ってる子とかいるんだ……」

    美希「話逸らさないでほしいの!」

    春香「別に逸らしてはいないけど……っていうか、美希」

    美希「はいなの」

    春香「今の話って、暗に私が今まで地味だったって言ってることにならない?」

    美希「…………」

    春香「…………」

    美希「ねぇ春香、本当に彼氏いない? もしくは彼氏になりそうな人とか!」

    春香「一拍置いてからのスルー!?」

    美希「ねぇ、どうなの春香ぁ。どうなのなの?」

    春香「もー、だからいないってば。彼氏も、彼氏になりそうな人も、彼氏になってほしい人もいません!」

    美希「えー。じゃあじゃあ、好きな人とかもいないの?」

    春香「それも前にいないって言ったでしょ」

    美希「むぅ……」

    春香「それに、もし好きな人ができたらちゃんと美希に言うって言ったじゃない」

    美希「それはそうだケド……」

    春香「……じゃあ、そういう美希はどうなの?」

    美希「えっ。ミキ?」

    春香「うん。確か前は『ミキィ、まだ恋とかしたことないのぉー』って言ってたけど」

    美希「今の流れでモノマネはやめてほしいって思うな」

    春香「ごめんなさい」

    美希「しかもミキ、そんなアホっぽいしゃべり方じゃないし」

    春香「ごめんなさい」

    美希「わかればいいの。じゃあ続けてなの」

    春香「うん。でも、今は誰かいるんじゃないの? ……好きな人」

    美希「……なんで、そう思うの?」

    春香「だって……前まではほとんどこういう話したことなかったのに、最近ことあるごとに聞いてくるからさ」

    美希「…………」

    春香「もしかして自分も、そういう人がいて……だから、他の人がどうなのか気になってるのかなあ、って」

    美希「…………」

    349 = 341 :

    春香「なんて……まあ美希に限ってそれはないか」

    美希「……なんで?」

    春香「いやあ、なんとなくだけど……美希ってあんまりそういうイメージ無いっていうか。今までたくさんの男の子から言い寄られてきただろうから、目が肥えてるんじゃないかな、とか」

    美希「……まあ確かに、ミキは今まで数え切れないくらいの男子たちから告白されてきたの」

    春香「あー! 今自慢しましたよ! 自慢!」

    美希「煽らないの」ビシッ

    春香「痛い!」

    美希「聞き分けの無い子にはミキチョップなの」

    春香「うえーん、暴力反対! ぶーぶー!」

    美希「…………」

    春香「あ、続けて下さい星井さん」

    美希「その無駄な距離感もやめてほしいな」

    春香「もー! 美希ったらワガママですよ、ワガママ!」

    美希「…………」

    春香「ごめん」

    美希「いいの」

    春香「……で、どうなの? 美希」

    美希「…………」

    春香「今……いるの? 好きな人……」

    美希「…………」

    春香「…………」

    美希「……いるよ」

    春香「えっ」

    350 = 341 :

    美希「…………」

    春香「…………」

    美希「正確に言うと、いる……と思う」

    春香「……思う?」

    美希「うん。ミキ、今まで誰かを好きになったことってなかったから。だからこの気持ちがそうなのか、はっきりとは確信が持てないの」

    春香「なるほど」

    美希「でも……うん。多分、そうなんだと思う。その人のことを考えると、すっごくドキドキするし」

    春香「…………」

    美希「それに、その人が他の女の子と仲良さそうにしてるの見ると、ちょっとモヤモヤしちゃうし」

    春香「…………」

    美希「あと、その人の周りには女の子がたくさんいるから、その人のことを好きな子が他にもいるんじゃないかって思うと、不安になったりとか」

    春香「……ん?」

    美希「それに、その女の子たちって皆すっごくかわいいから、その人の方から、その中の誰かを好きになっちゃってもおかしくないし……」

    春香「えっと、美希……?」

    美希「はいなの」

    春香「……その人って、割と美希の近い位置にいる人だったりする? たとえば、日常的に会ってたりとか……」

    美希「うん。そうだよ」

    春香「……じゃあ、それって……」

    美希「うん。プロデューサーだよ」

    春香「! …………」

    美希「前にも話したコト、あったよね。ミキ、プロデューサーにはすごく感謝してるし、ソンケーもしてるって」

    春香「……うん」

    美希「それに、『何があっても、このヒトはミキの味方でいてくれるんだろうな』って思えるから、すごく安心できるって」

    春香「……うん」

    美希「前に春香にこの話をしたときは、本当にそれだけだったんだけど」

    春香「…………」

    美希「……でももしかしたら、それがきっかけになったのかも」

    春香「きっかけ?」

    美希「うん。ミキ、プロデューサーへの気持ちを誰かに話したのって、あのとき、春香に話したのが初めてだったの」

    春香「…………」


    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×4
    タグ : - アイドルマスター + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について