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    元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その2だね」

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    902 :

    期待してます!
    頑張ってください!

    903 :

    >>890
    それだよなぁ

    904 :

    まんまと>>893取りとはお前ホモか(キチスマ)

    905 :

    さぁ、そろそろ投下します!

    908 = 1 :




    × × ×








    シンデレラプロダクション。

    その、事務スペースの一角。



    八幡「……はぁ」



    特にどういった意味も無いが、俺は深々と溜め息を吐いた。
    ゆっくりと伸びをし、椅子の背もたれへと体を深く預ける。


    何となく回りを見渡してみれば、いつの間にやら人がいない。


    目の前の位置で、いつも仕事をこなしている事務員も。

    何が面白いのか、いつも俺の作業をただジッと見ている隣の担当アイドルも。


    誰も、いない。

    909 = 1 :



    八幡「…………」


    「ふひ……」


    八幡「ッ!」ビクッ



    っくりしたー……
    んだよいるじゃねぇか。


    俺は平静を装いつつ、少しばかり椅子を後退させ、デスクの下を覗き込む。


    そこには、星輝子がいた。



    八幡「……何やってんだ?」

    輝子「フフ……いつも通り、トモダチのお世話」

    八幡「ああ、キノコね……」



    相変わらず陰鬱そうな雰囲気を見に纏い、しかしどこか嬉々としながらキノコを育てている。

    ……キノコって、湿気が大事なんだよな?
    なに、もしかして俺の足下がジメジメしてるから場所に適してるわけ? 軽くショックだ。

    910 = 1 :



    輝子「は、八幡は、まだ帰らないの……?」



    見ると、いつの間にやら輝子がこちらをジッと見つめていた。うぅむ。こうして真っ正面から見る分には美少女だわな。その手に抱いたキノコさえなければもっと良かったが。



    八幡「まぁな。生憎と、まだ残ってる作業があるんだよ」



    我ながら殊勝な心がけである。あれだけ働きたくないと言っておきながら、いざ始めてみればこれだ。いや、俺だってやらなくて良いんならやらないよ? だって目の前の鬼がね。言うんだもの。やれって。

    まぁ、そろそろ休憩でもしようと思っていた所だ。どうせだから、飲み物でも買ってきますかね。


    俺は椅子から立ち上がると、外の自販機へ行く為ドアへと向かう。
    しかし2、3歩ほど歩いた所で、何やら気配を感じたので振り返ってみる。

    見れば、トコトコとキノコの植木鉢を抱えながら輝子が着いてきていた。



    八幡「……なに? なんで着いてくんの?」

    輝子「は、八幡が、歩き出したから……帰るの?」

    八幡「いや、飲み物買いに行くだけだよ」



    帰るんなら、そこに置きっぱのノーパソと鞄も持ってくわい。
    それに最後は戸締まりもしないと、ちっひーに怒れられるしな。

    911 = 1 :



    輝子「なら、着い…てく」

    八幡「……どーぞご勝手に」



    それだけ言ってドアを開け、階段を降り、喫茶店前に備え付けてある自販機の前まで歩いていく。その間も、輝子はトコトコと後を着いてくる。なんだこれ。ドラクエごっこ? やべぇ初めてやったよ……今までパーティ役してくれる相手いなかったし。勇者ロンリーである。


    自販機の前に立ち、迷わず小銭を投入する。買うものは既に決まっているからな。やっぱこれだね。MAXコーヒー。

    ボタンを押し、落ちてきた缶を取り出した所で、チラッと隣を見てみる。
    そこには、無表情の輝子。ジッと俺が飲み物を買う所を見ている。もしかして飲みたいの?



    八幡「……どれがいいんだ?」

    輝子「っ……え?」



    一瞬ぴくっと反応し、不思議そうに首を傾げながら俺を見る輝子。

    その反応を見る限り、別に飲み物を欲しがっていたわけではないらしい。
    まぁでも言っちまったしなぁ。



    八幡「ジュースぐれー奢ってやるよ。ほら」

    912 = 1 :


    百円玉を一枚、輝子に差し出してやる。いや、別に百円ジュースに限るとか、そういう意味じゃないよ? ただ手元にある小銭がこれしか無かったのである。



    輝子「い、いい……友達に買わせるの、わ、悪いし……」



    困った顔でふるふるを首を振り、差し出した俺の手を押し返そうとする輝子。
    しかし俺は俺で、不意に輝子の発した言葉を聞き、小銭を握った手から力を抜いてしまう。

    結果、百円玉はチャリーンと小気味良い音を立てて、地面に落ちてしまった。



    輝子「あっ……!」



    それを見て慌てて屈み、植木鉢をゆっくりと降ろし、百円玉を拾う輝子。
    人のお金だからだろうか、その表情はほっとしているように見えた。

    しかし当の俺はそんな事よりも、先程の単語が気になって仕方が無かった。



    八幡「……まだそんな事言ってんのか?」

    輝子「え……?」

    八幡「友達って、今言っただろ」

    913 = 1 :



    別にそんなつもりはないのに、自然と声が冷たいものになってしまう。
    違う、別に俺は、そう呼ばれる事を嫌がってるわけじゃない。むしろーー



    輝子「八幡は、わ、私と友達じゃ……いや?」



    輝子は、酷く哀しそうな表情で俺を見る。
    これじゃあまるで俺が悪役みてぇだな。



    八幡「別に、嫌ってわけじゃない」

    輝子「じゃあ……なんで?」

    八幡「なんでって言われてもな……」



    きっとこれは、ある種の怯えなのだろう。

    昔の出来事は、嫌な事ほど頭の奥にこびり付く。
    嫌な事ほど、忘れられない。

    それらの体験が、今の俺の気持ちを形作っている。
    まぁ、具体的になんと言えばいいのかも分からないがな。



    八幡「たぶん、デフォで疑心暗鬼になっちまってんだろ」



    そうなるくらいには、色んな出来事を体験してきた。
    必ず、裏があるのではないかと疑ってしまう。

    この気持ちは、同じぼっちであった輝子にも分かるだろう。

    914 = 1 :


    俺はこの話はもうお終いとばかりに手のMAXコーヒーを数回振る。
    プルタブを開け、一口飲む。うむ、甘い。この甘さが俺を癒してくれる。

    しかし俺がコーヒーを飲んでいる間、輝子がやけに静かなので見てみると、何やら俯いている。



    八幡「……どうした?」



    俺が思わず訪ねると、輝子は顔を上げる。
    その顔は、いつになく真剣な表情であった。

    俺が何も言えずたじろいでいると、輝子はキョロキョロと辺りを見渡し、やがて自分の手の平を見つめる。
    そこには、俺がさっき渡した百円玉があった。

    すると輝子は何を思ったのか、おぼつかない手つきでコインを弾き、それをたどたどしく両手でキャッチする。
    そして、丁度上下で挟み込むようにして俺に向けて指し出す。これは……



    輝子「お、表と裏、どーっちだ?」

    八幡「……」



    やっぱりか。何をするかと思えば、ベタな遊びをしてきたものだ。昔飽きるくらいやったっつーの。一人で。

    915 = 1 :



    八幡「なんだよいきなり……」

    輝子「い、いいから……どっち……?」

    八幡「…………はぁ…………裏」



    俺は思わずやれやれと言いそうそうになりながらも、渋々付き合ってやることにする。
    しかし俺が答えたというのに、輝子は一行に手を開こうとはしない。



    輝子「……どうして、裏だと思った…?」

    八幡「は? いや、どうしてって……テキトーだけど」



    ホントにテキトーである。俺には透視能力も無いし、ムサシノ牛乳も好きではない。



    輝子「り、理由とか、無いの?」

    八幡「理由も何も、二分の一の確率だろ? そんなのどっちだってありえるだろーが」

    輝子「……そう。じゃあ」



    そこで、輝子は俺の目を真っ直ぐに見て。


    今までに聞いた事の無いような透き通る声で。


    俺に、言った。

    916 = 1 :













    輝子「私は、八幡を“友達”だと思ってる」









    その声が、その真っ直ぐな瞳が。





    輝子「……私の言葉、表と裏……どっちだと思う?」





    何故だか、酷く脳裏に焼き付いた。



    結局俺は、その時に答えを返す事が出来なかった。

    あの時、輝子の握るコイン。あのコインはーー



    表と裏、どっちだったのだろうか。





    917 = 1 :












    総武高校体育館。


    時間は正午をまわった所。ステージ裏にある音響兼小道具部屋で、俺たち元祖奉仕部三人は顔を付き合わせていた。
    いや、正確にはもう一人いる。

    今回のこの依頼の最初の依頼者とも言える人物。

    臨時担当アイドル、神谷奈緒であった。



    雪ノ下「……これは、まずい事になったわね」

    由比ヶ浜「ヒドい……」



    雪ノ下と由比ヶ浜が見ているのはパソコンの画面。
    映し出されているのは、とある総武高校の生徒がやっているツイッターであった。

    内容は、有り体に言えば誹謗中傷。


    そしてその対象は、今目の前にいる神谷奈緒の事であった。

    918 = 1 :



    奈緒「…………」



    奈緒は俯いたまま何も言わない。
    その様子は、哀しさよりは悔しさを感じさせるような気がした。



    この事態に気付いたの少し前。

    由比ヶ浜が友達経由で教えてもらったのが原因で、事に気付くことが出来た。
    由比ヶ浜の情報網を考えれば多少遅いくらいだったが、俺と雪ノ下ではまず気付かなかっただろうから何も言えはしまい。


    今、凛と加蓮はステージでリハーサルをして貰っている。
    奈緒は、出来る事であればこの件を二人には伏せたいらしい。



    雪ノ下「これを見る限り、こういった悪評を故意に拡散させているのは、3~4人といった所かしらね」



    雪ノ下の言う通り、個人ではなく複数の生徒が総武高校の生徒を中心に情報を流しているように思える。
    と言っても、その情報こそ根も葉も無い噂を言いふらしてるわけなのだが。


    「勘違い女(笑)」だの「枕アイドル」だの「自称・カワイイ」だのな。

    ……あれ、最後なんかどっかで見た事あんな。まぁどうでもいいか。

    919 = 1 :



    由比ヶ浜「しかも、本名出さないでユーザー名で言いたい事言いまくってんのがムカつく! なんなのもう!」

    八幡「アホ。匿名だからこういう事言えんだよ。本名晒してたら、はなから言わんだろ」

    由比ヶ浜「分かってるよそんなこと!」

    八幡「す、すいません」



    おお……由比ヶ浜がプンスカどころか結構マジギレしている。
    なんか普通に謝ってしまった。



    雪ノ下「しかも、タイミングも最悪ね。ある意味では完璧とも言えるのかしら」



    そう言って顎に手をやり、難しい顔をする雪ノ下。
    あれですか、西門さんですか? ごちそうさん。……割とマジでふざけてる場合じゃねぇな。


    雪ノ下が言う通り、この情報が流れ出したタイミングが不味かった。
    恐らくは昨日の晩から拡散を始めたのだろう。今日、今は昼休みだが、その頃にはもう総武高生のツイッターをやっている生徒ほとんどに流れてしまっているようだった。高校生の情報網早過ぎんだろマジで。


    そして問題なのは……今日が、ライブ当日ということだ。



    八幡「もう少し日があれば、パソコンの大先生にでも協力してもらってデマの収束を見込めたんだがな。さすがに時間が無さ過ぎる」

    由比ヶ浜「パソコンの大先生?」

    八幡「そこは気にするな」



    おっと。これは別の世界線での話だったな。うっかりうっかり。

    920 = 1 :



    雪ノ下「さすがにこれを見て全て鵜呑みにはしないでしょうけれど……それでも、少なからず影響は出るでしょうね」

    八幡「だろうな。最初の印象が悪けりゃ、ライブの見方も変わってくる。そもそも見に来なくなるまである」



    学生の怖い所は、驚くべきその伝達率だ。何か少しでも話題性のある話が舞い込めば、あれよこれよと、直接口でも画面の向こうだろうと、どんどんと広がっていく。しかもその度に内容に齟齬が出てくるのだから手に負えない。



    八幡「……この噂を流してる奴ら、知ってっか?」

    奈緒「っ!」



    ビクッと一瞬肩を震わせる奈緒。
    さっきから何も喋らないが……その反応じゃ、やっぱりか。



    八幡「大方、クラスの女子数人って所だろ」

    由比ヶ浜「どういう事?」

    八幡「簡単に言や、奈緒に対する妬みだよ」



    同じクラスの可愛い女子がアイドルで、今度ライブをやるらしい。
    そんだけの理由で妬むのは、何も不思議な事じゃない。

    ある意味では、自然とも言える。



    雪ノ下「なるほどね……」



    見れば、雪ノ下が妙に納得したような表情をしている。お前、まだ西門さんポージングしてたの?

    921 = 1 :



    雪ノ下「この頭の悪そうな発信源を見て、どうにも既視感を覚えていたのだけれど……なるほど。この人たち、中学生の頃の彼女たちにそっくりだわ」



    雪ノ下の言う“彼女たち”というのは、恐らく雪ノ下を妬んでのいじめ集団の事だろう。いや、それじゃ語弊があるか。結果的に返り討ちにされたのだからいじめられっ子と言えるかもしれない。ほら、なんか雪ノ下さん笑ってるよ。怖い。



    雪ノ下「本当、いつの時代もこういう人たちっているものなのね」フフフ……

    由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが何か怖い……あ、じゃあさ! なおちんはクラスの誰か心当たりがあるんだよね?」

    奈緒「……」こくん



    由比ヶ浜の何か閃いたかのような質問に、神妙な顔で頷く奈緒。



    奈緒「……アタシがアイドルやってるのが、前々から気に入らなかったみたいでさ。嫌がらせってほどじゃないけど、何かとちょっかいを出してくる奴らはいたよ。……たぶん、そいつらだとは思う」

    由比ヶ浜「それなら、その人たちに会いに行って止めさせてもらえば……!」

    八幡「無理だろうよ」



    俺が割り込むと、キッとして俺に振り向く由比ヶ浜。いや、ちょっと落ち着いて。なんか今にも噛み付いてきそう。



    八幡「た、例え今から止めたとしても、もう流れちまった情報は戻らない。拡散した噂が消えて無くなるわけじゃない」

    雪ノ下「それに、その人たちが件の人物という証拠も無いわ。証拠も無く問いつめるのは些か問題ね」



    本当はこういう時は、時間が解決してくれるのが一番良いんだけどな。
    どんな噂でも、時の流れと共に過ぎ去っていってしまうから。
    まぁ、それが出来ないから困っているんだが。

    922 = 1 :



    雪ノ下「まぁ、その人間的に腐っている人たちを追いつめるのはライブを終えた後という事にして、今は現状の解決を最優先に考えましょう」

    由比ヶ浜「追いつめるのは確定なんだ……」アハハ



    引きつった笑顔で空笑いを漏らす由比ヶ浜。
    幾分周囲の温度が下がった気がしたが、恐らく気のせいだろう。というかそう信じたい。



    由比ヶ浜「でも、どうすれば解決できるのかな? もうライブまで時間も無いし……」



    ライブの決行は夕方5時から。
    正直、今から出来る事など殆ど無いと言える。



    雪ノ下「原因である生徒に然るべき対処を取り、その上でデマを流しましたと公表させるのが最適でしょうけれど、今からでは間に合わないでしょうね。その話が知れ渡るのにも時間はかかるでしょうし」

    由比ヶ浜「な、なら、思い切って今回は見送るのは? 誤解が解けてから、また改めてライブするとか…」

    奈緒「それはダメだ!」



    由比ヶ浜が言い終える前に、決死の表情で異を唱える奈緒。
    しかし直ぐに俯き、呟くように言葉を吐く。



    奈緒「このライブは、アタシだけじゃない。……凛と加蓮、二人のライブでもあるんだ」



    悔しさを滲ませたその声は、ぽつりぽつりと出て行く。



    奈緒「そのライブを、アタシのせいで中止にするなんて……アタシがアタシを許せない……!」

    923 = 1 :


    その言葉は、まるで悲痛な叫びのようだった。

    実際には、今回の件に奈緒に非など一切ない。自分のせいだと言うその言葉は誤り。

    しかしそれでも、彼女は自分自身を責めずにはいられないのだろう。


    もっと上手くやっていれば、もっと注意していれば、こんな事にはならなかったのではないか。

    そう思わずには、いられないのだ。



    八幡「……けど確かに、ライブを先延ばしにするのは俺もあまり好ましくはない」

    由比ヶ浜「え?」

    八幡「このタイミングでライブを中止にすれば、それこそまるで後ろめたい事があるように思われる可能性があるからな。それに先延ばしにして誤解が解ける保証もない」



    ならばいっそ、思い切って実行した方がいいとさえ俺は思っている。逆にライブで評価をひっくり返せる可能性もあるしな。しかしそれにしたってイチかバチかにはなるだろうが。



    奈緒「……」



    奈緒は変わらず俯いたままだ。
    何も出来ない現状に、歯痒さを感じているようにも見える。


    さて、どうする。

    この問題を治める、方法はーー





    八幡「……まぁ、方法が無い事も無い」


    奈緒「っ!」


    924 = 1 :


    俺が静かに放った言葉に、顔を上げ反応する奈緒。



    由比ヶ浜「ヒッキー、それホント!?」

    雪ノ下「……」



    笑顔を見せて言う由比ヶ浜に対し、俺を見る雪ノ下の表情は暗かった。どこか睨んでいるようにすら見える。
    しかし俺は気にせず、言葉を続ける。



    八幡「要は、今奈緒に向けられている悪評や批判を解消させればいいんだ」

    由比ヶ浜「でも、それが出来ないから困ってるんでしょ?」

    八幡「そうだな。けど、別に何も解消させなきゃいけないわけじゃない」

    由比ヶ浜「?? どういう……?」



    何を言っているのか分からないという表情で首を傾げる由比ヶ浜。



    八幡「簡単な事だ。その悪評を、別の対象に逸らせばいい」

    雪ノ下「ッ! あなた、まさか……」



    俺の考えに思い至ったのか、雪ノ下が鋭い視線を俺へと向けてくる。

    925 = 1 :



    由比ヶ浜「え、どういうことなの、ゆきのん?」

    雪ノ下「……恐らく、比企谷くんがプロデューサーである事を公表する、という事なのでしょう?」

    八幡「ああ」



    俺が頷いてみせると、由比ヶ浜もやっと察したように表情を曇らせる。しかしこの場で奈緒だけは、俺の意図に気がついていないようだった。



    奈緒「? どういう事だよ。比企谷がプロデューサーだってバラすのが関係あんのか?」

    八幡「そういや、お前は知らなかったんだったな」



    あの文化祭の時の出来事。相模を引きずり出す為に俺がやった事を、奈緒が偶然か知らないでいた。



    八幡「俺がぼっちなのは知ってるだろうが、その上ここ最近じゃ何かと評判も悪いんだよ俺は」

    雪ノ下「そうやって自分に悪意を集めて、状況を緩和させようと? そんなの無理に決まっているわ」



    俺の態度が気に入らないのか、真っ向から反対意見をぶつけてくる雪ノ下。



    八幡「そうでもねぇよ。俺が無理矢理アイドルをこき使ってるクズプロデューサーだという事実を公表すりゃ、俺に対する悪評と一緒に、アイドルたちへの対応も少しは変わるだろ」



    そんな境遇にありながら、懸命に活動を行うアイドルたち。
    その肩書きだけで、評価はガラリと変わるものだ。その感情が同情に近いものだというのが、皮肉なものだがな。

    926 = 1 :



    八幡「元々ある俺の評判が良くないものなんだ。信じる奴らは結構いるだろーよ。そうだな、ライブ前にプロデューサーの挨拶って事でスピーチでもするか。一発最悪なのを構せばいい」

    由比ヶ浜「そ、そんなの、ダメ! そんな事したら、プロデューサーだって続けられなくなるかもしれないんだよ!?」



    つかつかと近くまで来て怒鳴る由比ヶ浜。
    しかしその怒気の声とは裏腹に、顔にはどこか悲しみの色が伺えた。



    八幡「……そん時は、それも仕方ねぇよ」



    正直、ここまで上手くやれていたのが不思議なくらいだったのだ。
    ここいらが潮時というのも、納得出来る。



    奈緒「……んはどうするんだよ」


    八幡「あ?」


    奈緒「凛は、どうするんだよ!?」



    殆ど叫びに近いくらいの声で、俺に言葉をぶつけてくる奈緒。
    恐らく、本気で怒っているのだろう。

    927 = 1 :



    八幡「……」

    奈緒「こんな、こんな事で、プロデューサー辞めて、凛はどうするんだよ!」



    思い出されるのは、いつも隣にいた笑顔。
    いや、まだ会って半年もたっていないというのに、いつもと言うのは言い過ぎか。


    ……ホント、毒されたってレベルだわ。


    俺は踵を返し、部屋の出口へと向かう。



    奈緒「比企谷ッ!」

    八幡「……なら、何か他に良い方法でも考えるんだな。それが無けりゃ、俺は実行に移る」



    迷いなど無い。

    これが、今の俺に出来る事なのだから。



    扉を締める瞬間、奈緒の俺を呼ぶ声が、ひと際大きく聞こえた。




    928 = 1 :











    ステージ横を歩きつつ、今後の事を考える。

    確かちひろさんの話では、少数だが取材陣も来るという話だった。宣伝活動に力を入れたのが功を奏したらしい。

    しかしその前で道化を演じるのであれば、念入りに内容を考えねばならない。
    下手にゲスいスピーチをすると、シンデレラプロダクションに迷惑がかかるからな。上手いこと線引きするのが重要だ。


    俺が考えに耽っていると、足音が聞こえてくる。

    見れば、リハを終えたのか凛と加蓮が丁度やって来ていた。



    「プロデューサー、お疲れさま」

    八幡「おう。お疲れさん」



    話しかけてきたので俺が言葉を返すと、凛は歩みを止め、黙ったままこちらを見つめ始める。



    八幡「……? どうした?」



    俺が不審に思って聞くと、凛は無表情で話す。



    「プロデューサー、何かあった?」

    929 = 1 :



    八幡「っ!」



    す、鋭い。
    いや鋭すぎねぇ? 何こいつサトリなの? もしくは俺のサトラレ説。



    八幡「別に、なんもねぇよ。急にどうした」

    「……まぁ、プロデューサーがいいんならいいけどさ」



    言うと凛はスタスタと横を通り過ぎ、飲み物でも買いに行くのか裏口の方へと歩いていく。



    「言う必要が無いのなら聞かないよ。信じてるから。プロデューサーも……奈緒も」



    そう言い残して、凛は出て行った。
    何なのあいつ。いちいちかっけぇ。



    八幡「……」



    俺が出口の方を見送っていると、後ろから露骨な溜め息が聞こえてくる。
    まぁ分かってはいるが、加蓮のものだった。



    八幡「なんだよ」

    加蓮「いや、敵わないなーと思ってさ」

    930 = 1 :



    加蓮はタオルで汗を拭いつつ、壁にもたれ座り込む。
    俺が見ると、少しだけ悔しそうに笑っていた。



    加蓮「そりゃね、あたしたちだって付き合いもそれなりに長いし、何かあれば気付く自信はあるよ。奈緒とか結構露骨だもん」



    やっぱあいつバレてたか。
    ま、そりゃあんな暗い顔してたらなぁ。俺でも気付く。



    加蓮「でも、やっぱプロデューサーの事は凛が一番分かってるみたい。そこに気付くとは、やはり天才かって感じ」

    八幡「それ、誰に教わったんだ?」

    加蓮「奈緒」



    ですよねー。
    まさかあいつ、ネラーとかじゃないよな? 絶対違うと言えないのが悲しい。



    加蓮「あ、でも、凛の指摘が図星だったのにはあたしも気付いたよ? プロデューサー、一瞬だけ表情固まったもん」

    八幡「さてね。なんのことやら」



    俺がそう嘯くと、加蓮がアハハと笑った後、膝に顔を埋めるようにして言う。



    加蓮「でも、凛も言った通り、あたしも二人を信じてるからさ」



    笑ってはいるが、少しだけ哀しそうに。

    931 = 1 :



    加蓮「……ありがとね、八幡さん」



    思わず、目を見開いてしまった。
    いや、いきなりだったからな。な、名前呼びとな。



    八幡「どうしたいきなり……」

    加蓮「ふふ、言ってみただけ」



    あん時、奈緒が取り乱しまくってた気持ちがちょっと分かったな。
    なんというか、こそばゆかった。


    どうして、こいつらはこうも俺を惑わせるのだろう。


    少しだけ、気持ちが揺らぐ。

    けど、それでも俺がやる事は変わらない。



    俺はーー





    932 = 1 :













    現在時刻、4時半。


    既に会場には数百人の観客が訪れている。
    見る限りでは、ざっと300人程度か。総武高生徒が8割。外部の人間2割といった所。

    ほぼ無名に状態を見れば、上々の結果と言えるだろう。


    しかしそれでも、やはり噂の影響は出ているようだ。
    さっきからざわざわと雑談が絶えず、中にはヤジを飛ばしてくる者までいる。

    ここにいる大半の連中は、興味本位で足を運んでいるのだろう。
    そこに純粋な楽しみなど求めている方が少ない。それは当たり前だ。


    それに加えてあの悪評の拡散である。
    精々話題に乗っかろうという気持ちで来ているのが関の山だ。


    ……だからこそ、俺の挨拶が効くんだろうがな。

    933 = 1 :


    凛たちはステージ裏の部屋で待機してもらっている。

    挨拶の途中で止められでもしたら面倒だからな。雪ノ下と由比ヶ浜も納得はしていないようだったが、他に名案が無い以上、俺の案で行くしかない。


    ……そろそろ行くか。
    出来るだけ余裕をもっていた方が、何かあった時の為になる。


    俺は舞台袖から幕の外へ出るため、ゆっくりと歩きーー







    そして、その先へ歩むことが出来なかった。



    その理由は、俺が躊躇ったからではない
    原因は、俺の手を握る彼女。






    八幡「……なんの真似だ?」



    奈緒「……やっぱり、ダメだ」





    神谷奈緒が、俺を行かせはしないと、手を掴んでいた。


    934 = 1 :




    奈緒「比企谷が、泥を被る必要なんて、自分を犠牲にする必要なんて、ない!」




    そのあまりの剣幕に、俺は思わず顔をしかめる。
    奈緒の手を振り払い、向き合う形で見据える。




    八幡「犠牲にしてるだと? それこそふざけるな」




    俺は、今自分に出来る最適な方法を選んでいる。
    俺がやる事で上手く治める事が出来るから。だから俺は行動している。


    それを、犠牲だなんて絶対に言わせない。




    八幡「これが一番可能性のある解で、それを出来るのが俺なんだよ。誰の為でもねぇ、俺は最適なプロデュースをしてるだけだ」




    これが俺のプロデューサーとして出来ることだし、これしか、俺に出来ることは無い。

    なら、俺は躊躇わない。


    935 = 1 :




    奈緒「……っちの台詞だ…カ…」


    八幡「あ?」


    奈緒「ふざけんなは、こっちの台詞だバァカッ!!」




    今まで一番の怒声。


    そのあまりの迫力に、思わず足が後ろに出てしまった。
    お前、外の観客に聞こえるぞ……!




    奈緒「最適なプロデュース……? なら言ってやるよ、そんなのは間違ってる!」




    一歩ずつ、言葉を発しながら近づいてくる奈緒。俺は、後退しないように構えるだけで精一杯だった。




    奈緒「お前がそうする事で、悲しむ奴らが、何かを失う奴らが居るのを分かってんのか!?」




    真っ直ぐに、奈緒の視線は俺を捉えて離さない。




    八幡「……仮にそんな奴ら居たとして、それでも俺にとっちゃ関係ねぇよ。俺は俺の為にやってんだ」


    奈緒「それならアタシは、アタシの為にお前を止める! お前の考えなんて認めねぇ!」


    936 = 1 :




    八幡「ッ……!」




    なんで、なんでそこまで認めようとしない? 怒りを見せる?

    俺には分からない。いや、分からないんじゃなくてーー




    ふと、いつかの記憶が頭をよぎる。





    「……私の言葉、表と裏……どっちだと思う?」





    彼女の瞳が、重なって見えたような気がした。




    八幡「っ……なんでだよ……なんで、そこまで……!」


    奈緒「なんで、なんでだと? そんなの……!」




    一気に俺まで距離を詰め、眼前へと躍り出る。

    俺の胸ぐらを思いっきり掴み、奈緒は、叫んだ。



    937 = 1 :



















    奈緒「“友達”だからに、決まってんだろッ!!!」






    八幡「ーーーーーーっ」












    938 = 1 :






    瞬間、俺は、呆然と目を見開く事しか出来なかった。

    ただただ、彼女の顔を見つめるのみ。




    やがて戻って来たのは、いくつもの感情。



    女子に胸ぐらを掴まれるという情けなさ。

    何も言い返せなかった悔しさ。

    それからいくつもの形容しがたい感情が流れ込んでくる。




    八幡「……ハハ…」


    奈緒「…? 比企谷?」


    939 = 1 :




    思わず、笑いが零れた。


    色んな感情が渦巻いて。

    何が何だか分からなくなって。


    けどーー




    八幡「……そっか」




    そんな事がどうでもよくなるくらい。



    彼女の言葉が、嬉しかった。




    940 = 1 :



    いきなり笑い始めた俺を不審に思ったのか、奈緒は手を離すと、困惑したように話しかけてくる。



    奈緒「ど、どうした比企谷? ついにおかしくなったか?」

    八幡「どういう意味だそりゃ。俺は至って普通だ」



    襟元を直し、一度大きく深呼吸をする。

    その様子を奈緒は黙ってジッと見てた。



    八幡「……悪かった。少しばかり意固地になってたみたいだ」

    奈緒「! じゃ、じゃあ!」

    八幡「けど、俺がプロデューサーだって事は公表する」

    奈緒「な、お前……!」

    八幡「まぁ待て」



    また感情をむき出しにしようとする奈緒を制し、ゆっくりと話す。

    941 = 1 :



    八幡「お前の言うような、自分を貶めるような事は言わない。それでかつ、悪評をどうにかする」

    奈緒「で、出来るのかそんなの?」

    八幡「分からん」

    奈緒「おい」



    呆れた顔で突っ込んでくる奈緒。
    しかし、こればっかりは今思いついた事だし、正直五分五分だ。ほとんど元の作戦と変わらないしな。

    けどそれでも、決定的に違う事もある。



    八幡「信じてくれ」

    奈緒「!」



    俺が真っ直ぐにそう言うと、奈緒は一瞬驚いた顔を作り、そして可笑しそうに微笑んだ。



    奈緒「へっ……まさか、比企谷にそんな事言われる日が来るとはな」

    八幡「うるせぇ」

    942 = 1 :




    自分でもびっくりだよ。
    やっぱり、毒されたレベルじゃねぇな、こりゃ。




    奈緒「……頼んだぜ、プロデューサー」


    八幡「……ああ」




    その言葉に背中を押されるように、俺は幕の向こう側へと足を踏み出した。

    何故だか、さっきよりも軽くなったように感じる。



    ……これじゃあ、どっちがプロデュースされてるか分かんねぇな。




    943 = 1 :













    平塚「いやー伝説に残る挨拶だったよ。最高だった」



    俺の隣で快活に笑いながら言う女教師。
    というか、俺の決死のスピーチはキングクリムゾンされてしまったわけ?

    ……いや、その方がありがたいんだがな。



    平塚「いやーほん…と……っぷ、くく……! 最高だったよ……!」

    ちひろ「ちょっと平塚先生、笑っちゃ……ふふ……失礼、ですよ」



    いやあんたもしっかり笑ってんじゃねーか。
    本当にこのコンビは、小町と陽乃さん並にヤバイと思います。



    ちひろ「いやでも、最初は本当に良いスピーチでしたよ?」

    平塚「ええ。まさか、アイドルたちの魅力を直接紹介し始めるとはね」

    944 = 1 :



    そう。今回俺がやった事は、ただ単純にアイドルを紹介しただけ。
    あんな誰が言ったかも分からないような噂ではなく、近くに居た俺だから言える、本当の彼女たち。


    もちろんそんな事は観客の人たちは分からないし、俺の言葉に耳を貸さない奴らだっていただろう。
    けどそれでも、俺は1ファンとして、彼女たちの魅力を語った。

    そりゃもう、恥ずかしくなるくらい語った。



    平塚「くくっ、あの『プロデューサーの一番の特権を教えてやろうか? それはアイドルのファン第一号になれる事だ! りっんりんりー!』は名言として録音しておきたいくらいだったぞ?」

    ちひろ「あはは。その後乱入した凛ちゃんにドロップキックされてましてけどね」



    まさか凛たちが聞いてるとは思わなかったなぁ。
    というかいちいちほじくり返すな。ホントにやめてよね! 泣きそう!



    ちひろ「結果的に、妄信的にアイドルを愛する変態プロデューサーみたいなキャラになっちゃいましたね」

    平塚「まったく、キミの評価が悪くなってるようでは、結局変わらんではないか」

    八幡「すいませんね……」



    まぁでも、と平塚先生は腕を組むと、片目を閉じて悪戯っぽく笑った。



    平塚「今回は、次第点はくれてやるとしよう」

    八幡「……そりゃ、どーも」

    945 = 1 :



    中々厳しい採点ですこと。
    あれだけやってようやく次第点なのかよ。



    ちひろ「でも、比企谷くんのスピーチのおかげでアイドルへの印象は大分良くなったと思いますよ。最後のはいらなかったと思いますけど」

    八幡「ほっといてください。少しでも俺へのイメージを悪くしとかないと、あいつらへの“可哀想、応援したくなっちゃう”感が薄れると思ったんですよ」

    平塚「そんな事言って、本当は照れ隠しだっだんじゃないのかね?」うりうり

    八幡「……ノーコメントでお願いします」



    だから頼むから、このコンビをどうにかしてくれ。
    どれだけ俺をイジり倒せば気が済むのやら。



    ちひろ「あ、そろそろアンコールが始まりますよ」



    ちひろさんに言われステージを見ると、遠目に黒い衣装を来た三人が見える。

    しかし、あれでリメイクだってんだから川崎の裁縫技術は凄いな。今度何かお礼をしないとな。むしろこのまま専属のメイク小道具さんになってくれると助かる。

    946 = 1 :



    ちひろ「いやーでもあの三人のsecret baseは凄い良かったですね~。思わず鳥肌立っちゃいましたもん」

    平塚「しかし10年以上前の曲をチョイスするとは、キミも渋いな」

    八幡「え? あぁ、はい」



    そういや原曲ってそんな前だっけか。その頃を当然のように知ってるって、やっぱこの人たち……いや、皆まで言うまい。



    ちひろ「それはそうと、こんな後ろじゃなくてもっと前で見なくていいんですか?」



    気遣うように言うちひろさん。
    今俺たちは体育館のステージから丁度逆側の、最後尾に立っている。



    八幡「いいんすよ。昔からこういう時は一番後ろで見るって決めてるんです。……それに」

    平塚「?」

    八幡「ここの方がアイツらも、アイツらを見る観客も、良く見えますから」



    この光景も、きっとプロデューサーの特権なのだろう。
    なら、目に焼き付けておくのも悪くない。

    947 = 1 :



    平塚「……フッ」

    ちひろ「クスッ、比企谷くんも、もう立派なプロデューサーですね♪」

    八幡「んな事ないっすよ。今回だって奈緒に助けられましたし」

    ちひろ「それも含めてですよ。支え合ってこそのアイドルとプロデューサーなんですから」



    そんなもんなのかねぇ。



    ちひろ「そう言えば、アンコールの曲ってな…」





    『私だけができるスマイル めちゃめちゃ魅力でしょーー♪』





    ちひろ「に……」



    おお、やっぱ良い曲だわ。



    ちひろ「ひ、比企谷くん!? なんで765プロの曲を歌ってるんですか!?」

    八幡「え? 俺の趣味ですけど」

    948 = 1 :



    なに、ダメだった? iなら良かったんですかね?



    ちひろ「765プロは商売敵ですよ!? いくらカバーだからって、ライバルプロダクションの歌はダメでしょう!」

    八幡「いーじゃないっすか。あ、宣戦布告って事にしときます?」

    ちひろ「なっ……比企谷くんがいつになく強気です……!」



    そう言うちひろさんも妙にテンション高いな。
    いや、この人は元からこんなんだっけか。


    気を取り直してライブを見ていると、不意に視界の片隅にアホ毛が見えた。項垂れたあのアホ毛は……



    八幡「何してんだ輝子」

    輝子「っあ……はちま~ん」



    コチラに気付くやいなや、輝子はトコトコとこちらに駆け寄ってくる。

    949 = 1 :



    輝子「り、凛ちゃんのライブ見たくて……でも、人が多くて……酔いそう」グデーン

    八幡「……お前、それアイドルとしてどうなの?」



    半ば呆れていると、輝子は俺の顔をジッと見つめてくる。
    それ、癖がなんかなの?



    輝子「八幡、何か……良い事あった……?」

    八幡「へ?」



    いきなりの問いに、思わず変な声を出す。

    良い事……ね。





    八幡「……コイン」

    輝子「え?」

    八幡「コインがよ。なんつーか、あー……表だったみたいだ」


    950 = 1 :




    俺は何となく気恥ずかしくなりながら、明後日の方向を見つつそう言った。

    輝子はそれを聞くと最初はポカンとしていたが、やがて微笑む。




    輝子「そっか……それはラッキーだったね。フヒヒ」




    まるで、自分も嬉しいかのように。




    八幡「……おう」




    そして俺も、静かに笑うのだった。






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