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    元スレ晴人「宙に舞う牙」

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    みんなの評価 : ★★
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    452 :

    仁藤と名護の絡みは基本ギャグ路線か

    453 :

    ネバーギーブアーップ

    454 :

    そーいえばイクサってフェイクフエッスルあったよな…。本編だとガルルしかつかってないが…。
    キバと共闘するときに渡から借りる的なことはどうだろ?(

    455 :

     廃工場でソラはひとり愛用のシザーの手入れをしていた。
     清潔感のあるブルーの布で鉄臭いシザーを優しく拭く。
     汚れた刃を拭くたびに布には赤黒い汚れがついていった。
     するとソラ以外誰もいない廃工場で足音が聞こえてきた。

    「グレムリン、私を呼び出して何の用だ?」

     足音と一緒に陶磁器のように白い肌と輝く胸の宝石が特徴的な美しいファントム『カーバンクル』が姿を現した。

    「この街にファントム以外の化物が来ているのは知ってるよね、ワイズマン」

     ソラはカーバンクルを自分の仕えている主の名前で呼ぶと話を切り出した。

    「ファンガイアのことだな」両手を後ろで組みながら威厳のある声でワイズマンは答える。
    「やっぱり知っているか。ねえ、ファンガイアは探し物をしているっぽいんだ」
    「初耳だな。だが、それを私に話すということは詰まったか?」
    「色々考えたけど何にも思いつかなくてね。ヘルズ・ゲートっていうんだけど化物が探しているくらいだから録でもないものだよね」
    「ヘルズ・ゲート……地獄門か」
    「知ってる?」
    「もちろんだ。この世界には魔法の技術が使われた道具がいくつもある」

     そう言って、ワイズマンは魔法の道具の一つ『タナトスの器』を例に出した。
     タナトスの器とは、本来使えば使った分だけ消費される魔力を膨大に蓄えることが出来るいわば巨大な魔力タンクのことだ。蓄えられた魔力は魔力を持つ存在に対して流すことで魔力を回復させることが出来る。もっとも魔力を流し過ぎて受け手の限界を越えてしまえば、受け手は溢れ出す魔力に飲み込まれて自己崩壊にいたる危険性もある。
     次にワイズマンが例に出した魔法の道具はソラもよく知る古の魔法使いビーストの使うベルト、ビーストドライバーだった。
     ドライバーに閉じ込めたファントムの魔力を動力にすることで魔力ないの者でも魔法使いと同等の力を得ることが出来る魔法のベルト。しかし、同時にファントムに魔力を与えなければならず、それが出来ないなら装着者の命を捧げなければならない。

    「諸刃の剣。とは言え力の代償は命などよくある話だ」

     ワイズマンの話を聞いたソラはファンガイアの探し物が何なのか合点がいった。

    「ヘルズ・ゲートも数ある魔法の道具の一つってことだね。でっ、どんな道具なのさ? やっぱり名前通りに地獄と繋がってるの」

     おどけながら核心を聞いてくるソラにワイズマンは静かに告げる。

    「あれには世界の絶望が封じ込められている」
    「世界の絶望?」首を傾げるソラ。「随分と抽象的だね」
    「私も実際に見たことはないのでな。ただ……そんな言葉で表現されるものが解き放たれでもすればこの世界は間違いなく滅ぶだろう」
    「やっぱり録でもない。手を打った方がいいんじゃない?」

     ソラはシザーで首を掻っ切るように動かして、ファンガイアの始末を提案した。
     だがワイズマンは首を横に振った。

    「放っておけばいい。下手に手を出してファントムの数を減らす必要もないだろう」
    「意外な答えだね」
    「私達が動かなくても勝手に動いてくれる連中がいるからな」
    「確かに魔法使いなら。大変だよね、人を守るって。力を自分のためじゃなくて他人のためにとか馬鹿な連中だよ」
    「好きでやっているのだろう。自分のためであると同時に誰かのために……私も」

     それだけ言うとワイズマンは去っていく。

    「グレムリン」一度足を止めて振り返らずに言葉をかけるワイズマン。
    「なに? 隠し事はもうないよ」シザーに仕上げ用のオイルを塗るソラ。
    「興味がないのも、ここに人が来ないのも分かるが、首から下はきちんと始末しておけ。ひどい臭いだ」
    「はーい。掃除しておくよ」

     ソラはお小言を言われて面倒くさがる子供みたいに拗ねた声で返すとズボンのポケットをまさぐった。
     手の中には灰色の魔石が握られている。ソラは魔石を視界の隅の遠くで映る羽虫のたかっている肉の山に投げつけた。
     魔石からグールが産まれるとグール達は肉の山に群がる。
     肉の千切れる音、咀嚼する音、咽下する音が混ざり合って聞こえてくる。
     ソラは肉の山を処理するグールたちに嘲笑を飛ばす。

    「やっぱりファントムは化物だね。僕にはあんなこと出来やしない……あっ、そうだ」

     ソラは思い出したかのように立ち上がるとお手製のヘアサロンへ消えていく。
     しばらくして出てくると髪の整えられたカットウィッグを持っていた。

    「使い終わったし、飾るにしてもそろそろコロンで誤魔化せなくなってきたし、ちょうどいいか」

     ソラはカットウィッグをゴミでも捨てるようにグールの群れの中に投げ入れた。

    456 = 372 :

    >>452
    クソコテじゃないけどアクの強いやつって動かしやすいからね
    唯一の米村回での「俺のボターン!」とか

    458 :


    こいつらの正体知ってると本当にどの口がって思う胸糞悪さ
    マジでひどい

    460 :

    グール達ってそういえば名前的には食人鬼か。

    461 :



    誰かがファントム連中を「弦太朗でも絶対に友達にはなりません、と言えるくらいの外道ラインナップ」と評してたが
    こいつら比喩でも何でもなく魔物だもんな
    グロンギと同等かそれ以上に価値観通じ合えない

    462 :

    ファントムは完全に他者の死の上にいる存在だからなぁ……

    463 :

    オルフェノクの方が人格残ってるだけマシ

    464 :

    オルフェノクは人格が人間の時そのままなのがかえってエグいと思う
    さすがにTV本編じゃソラみたいのは出てこんかったと思うが

    465 :

    スネイルオルフェノクが初めて人を殺して狂喜する場面、
    本当に人間で無くなってしまった瞬間を描いていて怖かった

    467 :

    希望という名の病原菌、仮面ライダーウィザード!
    絶望の病を駆逐するワクチンとなれ!

    469 = 372 :

    「大学は楽しい?」
    「楽しくなきゃ続いてないよ」
    「その割には帰ってくるの早いよね」
    「まあね」
    「ごめんね。友達と遊びたいのに私のせいで望の時間を奪って……」

     希は申し訳なさそうに謝った。望が体の弱い自分を気遣って、講義が終わると直ぐに帰ってくることは知っていた。
     望が自分のことを重荷だと感じてないだろうか、と悩んだことは何度もあった。
     すると望は「姉さん、嫌な言い方だけどさ……」と言った。
     これは望が建前やオブラートに包んだ言葉ではなく、自分の正直な気持ちである根っこの部分を晒してくる時に使う前置きの言葉だった。希は緊張で体を固くした。

    「姉さんは体が弱い。だから普通の人よりも多く他人に迷惑を掛けざるを得ない」

     嫌な言い方と前置きされていたとは言え、面と向かって自分が持っている負い目を指摘されるのは辛い。希は唇を噛み締めた。望は構わず続ける。

    「だから気にしなくていいよ……って、言われても無理だよね、普通。姉さんにやってもらって当然的な図太いお客様根性があるとも思えないし」

     淡々と伝えられる望の想いに希は「うん」と沈んだ声で返す。望は少し困ったような笑って希にゆっくりと語りかけた。

    「それでも……それでもさ、やっぱり気にしないで欲しいな。姉弟なんだから遠慮されたら俺は嫌だよ。姉さんは俺の時間を奪ってなんかいない。むしろ与えてもらってる」
    「どうしてそう言えるの?」
    「だって、かけがえのない家族のために時間を使えるってすごく幸せなことだと思うから。俺は姉さんから、姉さんと過ごす時間を与えてもらっているんだ」

     望は感謝を示すように希の手をとって、望の一番伝えたいことであり嘘偽りのない本心を伝えた。望の心に触れた希は、はにかんだ。

    「望は優しいね。本当にありがとう」

     希もまた感謝の気持ちを返すように手を強く握り返した。

    「ねえ、望……私に遠慮してほしくないんだよね」
    「うん」
    「じゃあ、わがまま言ってもいい?」
    「もちろん」
    「デザートにアイスが食べたいな」
    「……チョコミントでしょ?」

     希の子供っぽいわがままに望はプッと小さく吹き出すと記憶の中から希の好みを引き出した。

    470 = 372 :

     望が自宅から近いコンビニでチョコミントのカップアイスを買って帰る途中、踏切が見えてきた。
     ここの踏切はけっこう時間がかかる。待っている間にアイスが溶けてしまうかもしれない。望は急いで走った。
    やがて踏切はカンカンカンカン……という音と共に遮断機が降りてしまった。それでも望は走るスピードを緩めなかった。
     遮断機の向こうで電車が音を立てて線路の上を通る。望は走りながら強く地面を蹴って空高くに跳んだ。望の体はいとも簡単に電車ごと踏切を跳び越えた。

    「何をそんなに急いでいるのかしら?」

     音も立てずに着地した望に髪の長い女――メデューサのミサが声をかけてきた。

    「パズズ」

     ミサは望の本当の名前で望を呼んだ。

    「何の用だ、メデューサ?」
    「分かっているでしょう。お前の力を貸して欲しいの。ゲートを絶望させて新たなファントムを生みだしなさい」
    「俺に白羽の矢が立ったってことか」
    「ええ……やってくれるわよね?」

     言葉こそ頼み事をする時のそれだったが、有無を言わせない迫力がミサにある。つまり一方的な命令だった。

    「嫌だね」しかし望はハッキリ断った。
    「なんですって?」

     途端、ミサの中で猛烈な怒気が溢れ出した。望は臆することなく言い返した。

    「ファントムは俺だけじゃない。他にもいるはずだ」
    「お前が適任なのよ。お前は魔法使いの天敵だから」
    「…………」望はあくまで拒絶の態度を続けた。するとミサの激情に歪んだ顔が一転、冷たく妖しい笑みを浮かべたものに変わった。
    「そう……口で言っても分からないのね。なら、お前のゲートの姉でも殺そうかしら」
    「なっ!?」
    「あら、何を動揺しているの? ファントムが持て余している力を振るっても別にいいでしょ。実際フェニックスを始め、多くの武闘派のファントムはやっていたことよ。私もそれに習ってみるだけ」
    「姉さんに手を出すな!」

     今度は望が怒りを顕にする。望の周囲で小さな虫の羽音のような音が聞こえた。

    「パズズ、人間の女一人に何をそんなに執着しているの?」
    「それは」

     口ごもる望をミサは自分で問いかけた言葉に答えを出した。

    「お前、その女を愛しているのね」

     望はミサの答えに図星を刺された。
     サバトで誕生したパズズがゲートの望として生活する上で希との共同生活は避けられないことだった。望はパズズが誕生する前から希を支えてきた。パズズは望を演じるために希を支えた。
     ファントムである以上ゲートの記憶として希を支えるための知識を持っているので、支えること自体は簡単だった。
     たとえ味覚がなくても望の記憶にあるレシピを忠実に再現すれば希の喜ぶ料理を作れた。
     パズズは望として生きていくために何度も望の記憶を覗いた。望の記憶は希と一緒のものばかりだった。
     記憶の中の姉弟は常に笑い合っていた。
     パズズは望として生きていく内に自分の中で希の存在が大きくなっていた。
     いつまでも一緒にいたい。失いたくない。
     もし自分の抱いているものがメデューサの言うように愛というなら、それは愛なのかもしれない。

    「俺は姉さんを愛しいている」
    「下らないわね。その愛は、お前のゲートの記憶が、お前にそう見せているだけの錯覚よ。まあ、私にとってはどうでもいい話だわ。重要なのはお前がゲートを絶望させてくれるかどうかだけ。もう一度聞くわ、やってくれるわよね?」 
    「……もし姉さんに手を出したら、その時はゲートよりも先にお前を骨の髄まで絶望させてやる!」

     望はその場で吐き捨てて、音もなく跳ねると姿を消した。
     ミサは望のあくまで希にこだわる姿勢に呆れた。

    「馬鹿なファントムね。姉がいるのはゲートであってお前にはいない。お前のやっていることは『人間ごっこ』にしか過ぎないのよ」

    471 = 372 :

    前回の投下の後からついたレスから色々と考えた結果の投下、本筋からけっこー外れちまうが許して
    あと個人的なことだけどアーク・ブラッドから榊先生が降板したことがショック

    477 :

     公園にはバイオリンの美しい音色が満ちている。コンサートの差し迫った奏美は自分の演奏に追い込みをかけていた。
     自分の演奏にいつも以上にハッキリとした手応えを感じられる。そして何よりバイオリンを弾くことが楽しい。ずっと弾いていたいとすら思った。
     奏美は弓を踊るように軽やかに動かして弦を震わせる。誰の目も気にせず、自分の本当に奏でたい音楽を表現する。幸せの時間だった。
     この演奏、大地くんにも聞かせたいな……
     奏美が今一番聴かせたい相手のことを考えていると、それは現実になった。西代大地がやって来た。
     奏美はひとしきり演奏を行った後、大地に微笑んだ。

    「大地くん、私の演奏すごく良くなったでしょう?」
    「えぇ、そうですね」奏美の演奏の出来を肯定する大地だが、その顔は何処か寂しげだった。
    「どうしたの、大地くん? 元気なさそうだけど」
    「いや、別に。ただ世の中っていうのはどうも都合よくいかないな、と思って。そういうものなんでしょうけど」
    「そうね……私もそうだった。自分の音楽を表現したくても出来なかった」
    「奏美さんは、街の音楽っていう素晴らしい演奏をしていたじゃないですか」
    「あれは偽物なのよ。私の演奏したい音楽じゃなかった」
    「音楽に偽物も本物もないと思いますけどね」
    「私ね、今まで本当にやりたい音楽があったのに自分が傷つきたくなくって、それで街の音楽を演奏してた。でもね、晴人さん……あの人が言ってくれたの、希望は絶望に勝るって」

     奏美が晴人から貰った――希望は絶望に勝る、という言葉は鍵だった。傷つくのを恐れて幼い頃からずっと鍵をかけていた自分の音楽を解き放ってくれた魔法の言葉。
     奏美は少し離れたベンチに座り、見守る晴人の方を見た。つられて大地も目線を向けると晴人は手を上げて会釈した。

    「へぇ……あの人が」

     大地の細い指が苛立たしげに蠢いて鳴った。だが、それに気づく者は誰もいなかった。

    「!」

     ふと大地の胸がざわついた。何かが近づいてくる、そんな感じがした。
     大地は振り返り見ると自分……いや、奏美の方へやって来る男がいた。

    「…………すまない」

     男――今川望はそう短く言うと飛蝗のような外見のファントム・パズズに姿を変えた。
     異形の姿を見た奏美は一瞬、驚いた顔を浮かべるとすぐに大地の手を取って、その場から逃げ出した。
     パズズは奏美を追おうと跳ぶ。だが、それを阻むようにパズズの眼前に赤い魔法陣が展開して、パズズの体を弾き飛ばした。

    「この熱……火のエレメント。指輪の魔法使いか」
    「ゲートの相手より俺の相手をしてくれよ」

     既にベンチから立ち上がり指輪をかざしている晴人はゆっくりと魔法陣をくぐってウィザードに変身した。

    「さあ、ショータイムだ」

     銀色の銃剣を構えてウィザードはパズズの元へ切り込んでいく。
     一瞬、奏美に手を引かれて走る大地とファントムに向かって走るウィザードが交差した。
     大地のウィザードを見る目には人間のものではなかった。黒目に当たる部分がステンドグラスのような色鮮やかな妖しい輝きを放っている。
     大地の細い指がまた蠢いて鳴った。
     ・
     ・
     ・
    「ここまで逃げれば大丈夫ね」

     戦いの場からかなり離れた場所で周りを見て安全を確認した奏美はホッと安堵の息をついた。一方、大地は奏美とは対照的に険しい顔で逃げてきた道を見つめていた。

    「奏美さん、あの人は一体? 姿が変わったようでしたけど……」

     大地は苛立ったように奏美に質問した。
     奏美は大地がまだファントムを見たショックによる緊張が残っているのかと思った。だから奏美は大地を安心させようと出来るだけ明るく優しい声で答えた。

    「大丈夫よ。あの人はね、魔法使いなの」
    「魔法使い……?」
    「信じられないかもしれないけど本当よ。さっきみたいに何度も私を怪物から守ってもらっているの」
    「そうですか……何度もですか。なら、安心ですね」

     安堵したような口調で大地が言い、にっこりと微笑んだ。大地の緊張を解せたと思った奏美も同じ様に微笑む。

    「あれ……」

     ふと奏美は全身から力が抜けていくのを感じた。もしかしたら緊張していたのは自分の方だったのかもしれない。
     視界がぼやけて、ゆっくりと地面が迫ってくる。
     奏美は転ばないように自分を支えようとしたが力が入らない。そのまま奏美は倒れると同時に眠るように意識を失っていった。
     側にいた大地は少しも驚かず倒れた奏美を見下ろしていた。奏美の首筋には硝子の様に透明な牙が刺さっていた。

    「緊張からの解放、軽い貧血……まあ、理由なんて適当につきますよね。さて……」

     踵を返して走ってきた道を戻る大地。。その顔は異様な程に歪んで狂喜にも似た笑みを浮かべている。

    「余計なことを吹き込んだクズを殺しに行くか」

     大地は別人のような荒々しい低い声を出すと顔に色鮮やかなステンドグラスのような模様を浮かべた。

    478 = 372 :

    次回から戦闘だから少し更新早くなる……と思う

    481 :

     ウィザードは黒いコートをはためかせて踊るように斬りかかる。
     それをパズズは素早い動きで避けると反撃の蹴りを叩き込んできた。

    「おっと危ない」

     後方に大きく宙返り。ウィザードはソードガンを銃に切り替えて連射する。
     銀の魔弾は複雑な軌道を描きながらパズズへと向かっていく。狙いをつける必要はない。的さへ見えていれば勝手に当たってくれるのだ。
     パズズは力を溜めるような動作をすると跳ねた。魔弾が届くよりも早いスピードで一気にウィザードへ間合いを詰める。
     ウィザードは左手の指輪を素早くイエローダイヤモンドの指輪をベルトにかざしてフレイムスタイルからランドスタイルへ変身すると直後、今度は右手の指輪をベルトにかざした。

    「正面衝突、ご注意を!」

     ディフェンド! プリーズ!
     詠唱と同時に何もない地面から土の壁がウィザードを守るように現れた。
     突然出てきた分厚く固い土の壁にパズズは跳躍の勢いのまま激突する。反動でよろよろと後ろに下がるパズズだが体勢を立て直すと崩れる壁の向こうのウィザードに迫った。
     ディフェンド!
     ウィザードはバックステップしながら再び土の壁を召喚した。パズズは拳を振るい土の壁を破壊した。
     ディフェンド!
     ウィザードは同じ様に防御の魔法を発動させる。やはり、それもパズズが破壊される。それでもウィザードは執拗に壁を作った。
     ディフェンド! ディフェンド! ディフェンド! ディフェンド!
     出しては突破されて、出しては突破されて――そんな攻防が続くとパズズは自分がウィザードにおちょくられているのではないのか、と思えた。

    「いい加減にしろ! 魔法使いは一つの魔法しか使えないのか!」

     怒りの叫びをあげて壁を破壊する。しかし、壁の向こうにウィザードの姿はなかった。
     パズズは周囲を見回した。やはりウィザードの姿はない。
     逃げたのか?
     パズズが思ったその瞬間、不意に足首をがっちり掴まれるような感覚が襲った。
     驚き、足元を見ると雨が降ったわけでもないのに大きな水たまりが出来ていた。コバルトブルーの水たまりからはひんやりとした黒い手だけが生えていてパズズの足を掴んでいた。
     パズズはその手を払いのけて踏みつぶしたが、冷たい手は水のように弾けて消えてしまう。
     すると踏みつけた衝撃で飛び跳ねた水たまりの水――その一粒一粒が意思でもあるかのように一斉にパズズにまとわりついた。
     水が動くと合わせてパズズの体が油の切れたブリキ人形みたいにぎこちない動きをしながらポーズをとらされていった。
     抗おうとしてもまるで全身が蛇に絡まれたかのように動けなかった。体が締めつけられて背中・脇腹・腰・肩・首筋に猛烈な痛みが襲いかかる。
     やがて水はウォータースタイルのウィザードを形作った。

    「何度もやられて壁の向こうには敵がいるって思うよな? 違うんだよ」

     ウィザードはパズズにコブラツイストをかけながらそう言った。

    「小細工……だな」
    「そういう少しの手間が大事なんだ……そらっ!」

     力を入れて締め上げるウィザード。パズズの全身から軋むような音が聞こえた。

    「がぁっ……うぐぅう……」
    「身に沁みて分かっただろう?」
    「ぐっ……うぅううううっ……あ、あっ……」痛みで声にならない言葉を漏らすパズズ。

     パズズは目をいっぱいに見開き全身に力を入れた。

    「お前に……」
    「?」

     妙な音がパズズから聞こえてきた。無数の虫の羽音が重なった不気味で、不快な、ゾッとするような音。

    「お前に構っている暇は……ないんだ」

     音が更に激しさを増す。ウィザードは危険を感じてフックを解いて離れようとした。
     その時だった。
     パズズの出す虫の羽音をかき消す程の爆音が響いた。
     ウィザードとパズズは反射的に音の方を向くと地面をえぐりながら力のある波が迫っていた。その波は圧倒的な破壊のエネルギーを以て二人を容赦なく飲みこむ。

    「「ぐああああああああああっ!!」」

     両者は全身がバラバラになるような痛みを感じながら、まとめて吹き飛ばされた。

    「死ななかったか……まあ、いい。どっちもここで死ぬことには変わりないんだからな」

     地べたに這いつくばる様に倒れた二人の元に1体のファンガイアが近づいてきた。
     ウィザードは立ち上がってソードガンを構えた。


    482 = 481 :

    「ショーの最中に横槍を入れるのは関心しないぜ、ファンガイア」
    「安心しろ、幕は俺が降ろしてやる」

     そのファンガイアはウィザードが戦ってきたファンガイアとは別格の雰囲気を持っていた。
     冠のように見える頭部の猛々しい三本の角。堅牢な要塞を彷彿させる筋骨隆々な黒い体。全身を飾るように散りばめられた色鮮やかなステンドグラス調の模様と金色のライン。
     力強く芸術的な造形だった。
     ファンガイアは指を鳴らすと右手の甲に紋章が浮かんだ。チェスの駒のようなデザインと一緒にROOKと刻まれた紋章。
     それを見てウィザードは以前、名護から聞いたこの街にきたファンガイアの一派の話を思い出した。

    「なるほどな……あんたがファンガイアの強硬派のトップ」
    「我が名はルーク! ファンガイア最強が一席、チェックメイト・フォーのルーク!」

     ルーク――コーカサスビートルファンガイアは天が割れ、大地が揺れるほどの声で名乗りをあげると重戦車さながらの勢いでウィザードに突っ込んでいった。

    483 = 481 :

    なあ、前からちょくちょく気になってたんだけど
    (SSL)←これ何?書き込む人によってあったりなかったりで

    484 :

    乙です http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399385503/
    ここを見るといいかも…

    485 :

    ルークかよ、これはやばいな

    486 :

    おつです
    コーカサス・・・カブトムシモチーフとはこれは超強敵そうだ

    487 :

    おつです ここでルークか

    488 :

    戦闘パートになると本当に筆早いなwww

    489 :

     迫り来るルークにウィザードは銃撃で応戦した。魔弾はルークの皮膚に直撃するが途端弾き跳ぶ。全く効いていない。

    「普通じゃダメか。なら撃ち貫くまでだ」

     ソードガンのハンドオーサーを展開して、指輪をリードさせる。
     ドリル! プリーズ!
     トリガーをを引くと魔法を付加させた――通常のよりも鋭角的で激しく回転する弾丸が発射される。激しい回転運動によって空気を裂く音はドリルのようだった。
     やがてドリル弾が炸裂するがルークの進撃は止まらなかった。

    「!?」

    驚愕するウィザードを他所にルークが丸太のように太い豪腕を振るいウィザードを殴りとばした。
    ろくに受身も取れずにウィザードは地面を派手に転がされた。

    「おい、これは返すぞ」

    ルークは自分の皮膚にほんの僅かだけ突き刺さっているドリル弾を引き抜くとウィザードに投げつけた。
    ウィザードはハリケーンスタイルにチェンジして飛んだ。ソードガンを剣に切り替えて風のように高速で舞いルークを切り刻む。しかしルークはその名前と同じ堅牢な城が如く微動だにしない。
     逆にソードガンの銀色の美しい刃が欠けた。

    「……後でゴーレムに研いでもらわないとな」
     
     いつもの調子でおどけるが、ウィザードは背筋に冷たいものを感じていた。
     ルークは手から衝撃波を出そうと構えた。すると横からパズズが襲ってきた。
     異形同士の格闘の応酬が繰り広げられる。
     ウィザードは大空に飛ぶと急降下しながらフレイムスタイルに変わる。更にそこから必殺の指輪を詠み込ませた。
     チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
     ウィザードの足に魔力が集中し燃え上がる。やがて炎がウィザードを包んだ。

    「はあああああああああっ!」

     紅蓮の矢となったウィザードはルークに渾身の蹴りを放つ。

    「ふん!」

     ルークは唸ると片手でパズズの首を掴み、空いた手を紅蓮の矢に向かって突き出した。
     次の瞬間、ウィザードの動きがピタリと止まった。ルークはウィザードのキックを片手で軽々と受け止めた。
     燃え上がるウィザードの足が煙をあげて消えていく。

    「随分とぬるくて弱い火だ」

     ルークはそれだけ言うとウィザードの足首を掴んで地面に叩きつけた。
     ウィザードは激痛で意識が失いかけるところを必死に耐えた。
     ルークは仰向けに倒れるウィザードの首を掴むと軽々と頭上高くに持ち上げる。パズズも同様に掲げ上げられた。
    ほんの僅かな間の静寂。
     直後、ルークは両腕を大きく開き、力いっぱい閉じた。両手にあるウィザードとパズズが激突する。
     ルークは何度もウィザードとパズズを叩きつけた。
     その度に耳をつんざくような衝突音とウィザードとパズズの苦しみの悶え声が響く。
     抗うことすら許されない一方的で圧倒的な暴力が続いた。
     やがてルークは両手にあるボロ雑巾のようにぐったりしているウィザードとパズズを投げ捨てた。

    490 = 372 :

    >488
    状況がぽんぽん変わるおかげで書けること増えるからねー、ドラマ書くより楽なんすよ

    491 :

    乙ー
    ルークつえぇ…

    493 :

    エキサイト使えよと言いたい

    494 :

    晴人もだが、パズズにも死んでほしくないな

    495 :

    >>493
    その手があったか
    そこで返り討ちさせればルークのパワーぶりもっと演出できた…サンキュー!

    496 :

     立ち上がろうとするウィザードの体には力が入らなかった。手が小刻みに震えていた。

    (こいつ…………ヤバすぎる…………)

     仮面の下で晴人は自分が恐怖していることを自覚した。これほどの恐怖はかつて幾度となく死闘を繰り広げたフェニックスとの戦い以来だった。
     ルークからのむき出しの殺意が鋭利な刃物となって喉元に突きつけられる。
     晴人は今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。だが逃げることは許されない。
     魔法使いだからである。
     恐怖で体が思うように動かない晴人は自分に魔法の呪文を掛けた。

    (俺が最後の希望だ。逃げちゃいけない。負けちゃいけない。守らなくちゃいけない。俺が最後の希望だ……俺が……俺が……)

     呪文を繰り返し、使命感をバネにウィザードは立ち上がる。ルークは楽しげに指を鳴らして迫った。
     ウィザードは左中指の赤い指輪を別の指輪にはめ変えた。
     その時、上空から6羽の金色の隼がルークを襲った。隼たちの奇襲にルークは翻弄された。

    「あの技……仁藤!」

     ウィザードが空に向かい叫ぶとファルコマントを纏ったビーストが急降下してウィザードの元に着地した。先ほどの隼はビーストが放ったセイバーストライクによるものだった。

    「コヨミちゃんから連絡あってな。急いで飛んできた。大丈夫か?」
    「サンキュー」

     ウィザードは親しい友人と接するかのような砕けた態度で、しかし最大限の感謝をこめた言葉を送った後に「ちょっとしんどかったからな」と照れ隠しの冗談を続けた。

    「へっ……結構余裕じゃねーか」仁藤は小さく笑った。
    「な~に気合を入れ直したってだけさ。ショーはこれからが本番」

     気がつくと晴人はいつもの晴人に戻っていた。おちゃらける余裕があった。

    「もしかして俺の助け、いらなかったか?」

     ウィザードのおちゃらけ混じりの強がりにビーストは意地悪そうに聞いた。
     やはりウィザードはそれもいつものようにおちゃらけて返す。

    「確かに俺ひとりで全部やっつける方がカッコイイかもな」
    「は? 俺ひとりでやっつけた方が絶対カッコイイつーの!」

     素なのかわざとなのかビーストもノってきた。

    「なにせ俺は金ピカだぜ、金ピカ!」訳のわからない理屈とポーズもついてきた。
    「意味わかんねえよ」

     ツッコミを入れるウィザード。ビーストが来るまでの緊張した空気はどこかに消えていた。
     ウィザードはソードガンを構えて、自分とビーストから離れたところで体勢を立て直していたパズズに目をやる。パズズは逃げるように跳ねた。

    「仁藤、ファントムの方、頼むわ。腹も膨れるだろ?」
    「別にいいけどよ。大丈夫なのか? キマイラも言ってるぜ、あいつ相当ヤバイって」

     ルークは全ての隼を握りつぶしていたところだった。拳を握り締める瞬間、隼の短く高い嫌な断末魔が上がった。

    「あいつがヤバイのはたった今まで戦っていた俺が一番わかってるから安心してくれ。それにファンガイアの大将は、俺にお熱みたいでさ」
    「………………女? 滅茶苦茶、ゴツい体だけど」
    「いんや多分、男」
    「災難だなあ、おい」

     ビーストはわざとらしく残念そうに肩をすくめるウィザードをからかうようにダイスサーベルの柄で小突いた。

    「あいつは強い。だから」ウィザードは右中指にはめている指輪をビーストに見せる。
    「なるほどな。少しマジになるってことか」
    「ファンガイアの大将、今の俺の魔法じゃお気に召さないようだからな」
    「うしっ、じゃあファントムの方は任せろ!」

     ビーストはマントを翻してパズズの跳んでいった方へ飛び立とうとする。

    「晴人、死ぬなよ。お前を倒すのはライバルである俺の役目だからな」
    「もちろんだ。俺もまだ死にたくないしな。何とかするさ」

     短いやり取りの後、二人は小さく笑い合う。ビーストは大空に舞ってパズズを追った。
     そしてウィザードはルークと対峙した。

    497 = 372 :

    「待っていてくれてありがとうな」
    「構わん。最後の時くらい友人と会話させるくらいの慈悲をファンガイアは持ち合わせている」
    「そいつはどうも」
    「しかし魔法使いと聞いていた割には期待はずれだったな。所詮は残りカスであるファントムと同じか」
    「安心してくれ。今までのは第一幕。ここからは第二幕だ。さっきよりもっとスゴイのを見せてやるよ」

     ウィザードは右中指の指輪をハンドオーサーにかざした。
     その指輪はフレイムスタイルと同じ赤い宝石の指輪だったがフレイムスタイルの指輪と比較して装飾のついたより豪華な指輪だった。

    「ドラゴン! 俺に力を貸せ!」

     晴人が叫ぶと詠唱が始まった。
     フレイム! ドラゴン! プリーズ!
     赤い魔法陣が展開され、激しく燃え上がる。炎は激しくうねると一匹の竜を作り出した。
     紅蓮の竜はウィザードの周囲を回遊して炎の渦を描くとウィザードと一つになる。
     ボー! ボー! ボーボーボー!
     フレイムスタイルの時の詠唱よりも低く力強い詠唱が響き、一本の火柱ができあがる。
     柱は天にも届かんばかりの勢いで燃え上がった。
     並みの人間が吸ってしまえば肺まで焼けてしまいそうな凄まじい熱気がルークに届いた。
     なんだ? なにが起きる?
     火柱を凝視するルークは、指を鳴らしてその瞬間が来るのを楽しみにして待った。
     やがて火の勢いが収束するとウィザードが立っていた。
     かざした指輪と同じ頭部に加えて竜の頭部をかたどった胸の装飾、黒いオーバーコートは火のエレメントの加護をうけて真っ赤な色で染められていた。
     それこそ晴人を絶望へと近づける危険な指輪であると同時に晴人の中に眠る希望であるファントム『ウィザードラゴン』の力の一部を使えるようになる指輪――フレイムドラゴンウィザードリングによって変身した姿だった。
     ウィザード・フレイムドラゴン。
     炎のように赤いコートをはためかせるウィザードの名前だ。

    「さて御立会い。これから始まる種もなければ仕掛けもない正真正銘のマジックショーの第二幕。タイトルは……」

     ウィザードは空間を繋げる魔法を発動すると魔法陣に右腕を入れて引き出した。
     右腕にはダイヤル型タイマーを握った手を象った腕輪が巻かれていた。

    「ドラゴンたちの乱舞」

    499 :

    シビれた
    やっぱ晴人は格好良い!乙

    500 :

    流石最後の希望
    乙ー


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