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    元スレ晴人「宙に舞う牙」

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    みんなの評価 : ★★
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    601 :

    酉の前に作品名入れて、区別できるようにしてくれればここで問題ないかと

    602 :

    いいと思う

    603 :

    是非みたいです

    604 :

    ここでやればいい感じか、んじゃ先ずは本編を

    605 = 372 :

    「逃がさねえぜ、ファントム」

     ウィザードからパズズを任されたビーストは大空を飛びながらジッと眼下の獲物を見据えていた。
     パズズは人間離れした跳躍力で次々と建物の上を乗り移りながら奏美の逃げていった方へ向かっていた。
     パズズの遥か上方で飛ぶビーストは完全にパズズの視界の外にいる。ビーストの存在には気づいていない。
     ビーストは右の指輪をドライバーのソケットにはめ込むと、続けて左のファルコの指輪をはめ込んだ。
     キックストライク! ゴー! ファルコ! ミックス!
     隼の魔法を混ぜ合わせた必殺の魔法を発動させたビーストの両足は、鳥の下肢のような鋭いカギ爪状のものに変化した。

    「キィイイイイイイイイイイイイイイッ!」
     ビーストは叫びながら獲物に目掛けて急降下した。
     隼は狩りをする際に時速400キロにも迫る猛スピードで急降下して獲物を蹴り墜とすという。
     空を切り裂く猛禽類の両足がパズズを捉えるのは直ぐだった。
     パズズは地面に叩きつけらるように蹴落とされた。

    「……な……んだ。何が……起きた……」

     苦しそうに地面に這いつくばりながら辺りを見回すパズズ。
     何が起きたかも分からない。突然すぎる衝撃が自分の背中を襲ったのだ。
     パズズは朦朧とする意識を必死に現実に繋ぎ留めようとした。

    「かなり効いただろ」

     頭上から声が聞こえてきた。
     パズズが顔を上げると太陽から赤い羽根が一枚また一枚、ひらりはらりと花びらのように舞い落ちてくる。
     その無数の羽根吹雪の中には太陽の光を受けて輝く橙色のマントをしたビーストがいた。

    「……そうか、お前が古の魔法使いか」

     パズズはようやく自分がビーストの強襲を受けたのだと理解できた。

    「このまま仕留めさせてもらうぜ」

     ビーストはサーベルを取り出すと一歩一歩近づく。
     地べたに這いつくばるパズズと両足でしっかり立つビースト。
     既に勝負は決まっているようなものだった。
     しかしビーストの歩みはゆっくり過ぎる程にゆっくりで、狩りをする獣が獲物に近づくのに似ていた。緊張感で空気が張り詰める。
     ビーストがパズズの目の前にたどり着くとサーベルをパズズの手に深々と突き刺した。

    「あああああああああああっ!」

     パズズの絶叫が響いた。

    「…………」

     ビーストは無言でサーベルの柄を両手で押し込んで刀身を更に深く沈ませる。
     パズズはサーベルによって地面に磔にされ、逃げることが出来なくなった。

    「ボロボロの獲物にこんなことやるのは気が引けるが恨むなよ。俺は命が懸かってるから、どんなことやってでも獲物は確実に殺さなきゃいけねえんだ」

     いつもの仲間達が聞いたらきっと別人と疑うだろう。
     ビーストの声は、普段のビースト――喜怒哀楽の激しい仁藤からは想像できない感情に抑揚のない声だった。
     それは生きるか死ぬかという善悪を超越した境遇でファントムを食ってきたビーストの捕食者としての声だった。
     

    606 = 372 :

    んじゃ別のやつ方、おとすね

    607 = 372 :

    ライオンと魔花

     仁藤攻介はベンチに横たわりながらどこまでも広がる青空を仰ぎ見ていた。
     ブルースカイの世界の中に混ざる無数の白い雲。
     白くて、柔らかそうで、むかし祖母に連れて行ってもらった縁日に出る屋台の綿飴を思い出した。
     グゥ~~ッ! 
     食べ物を連想すると腹が鳴った。

    「腹減ったぁ……」

     仁藤は届くはずがない、そもそも雲は食べれない、と理解しているにも関わらず無意識のうちに雲に向かって手を伸ばしていた。
     当然、それは無駄に終わる。余計の力を使ってしまった。だらりと腕が垂れる。
     ここの所ろくに食事を取れていない。
     最後に食べたのは、昨日のお昼に食べた非常用の干し肉だ。塩胡椒が効いていて上手いなのだが、それも食べきってしまった。
     今日も、もう夕方になろうとする時間だがまだ何も食事にありつけていない。精々、公園で水を飲んだくらいだ。

    「うぇっ……」

     あまりの空腹に胃の辺りでキリキリと痛みがして、吐き気に襲われた。中に何にもないのがハッキリと分かる。

    「何か食わねえと……こんな所で死ぬなんて冗談じゃねえ……」

     体に力を入れて立ち上がろうとすると、
     グゥ~~~~~~~~ッ!!!! 
     先程より大きな音を立てながら腹が鳴った。一気に脱力してしまう。

    「あぁ……腹、減りすぎて体がろくに動きやがらねえ」

     仁藤は眼球だけをギョロギョロと動かして辺りを見る。時間が時間なのか、家に帰ろうと住宅街の方へ向かう人がいくらか視界に入った。

    「誰かぁあっ……食物ぉおおおっ……バク……シーシィぃぃっ……」

     ゾンビかモンスターのような不気味なうめき声を上げながら施しを求めるが、周囲は仁藤を気味悪がり避けていく。
     飢えで働かない頭に、大学の社会学だか何かの講義での「都市部では人同士の関係性が希薄になりやすい」という講師の言葉がよぎった。
     自分を遠巻きから見つめていても何かをするわけでもない人々。なるほど、確かに講義で習った通りかもしれない。

    「ちくしょう……見世物じゃねえぞ……」

     耐え難いほどの空腹に苛立ちながら奇異の目を向ける人たちにそう吐き捨てると仁藤は仰向けになって、また青空と対面した。
     ギュッと目を閉じる。寝てしまおう。寝ている間だけは空腹を忘れることが出来るはずだ。

    608 = 372 :

    「あの……お困りのようですけど、どうかされたんですか?」

     すると頭上から女性の声が聞こえた。
     髪の短い女。その時はそれしか思わなかった。
     女は仁藤の顔を覗き込むようにして続ける。

    「もしかしてどこか痛いんですか? 顔色も悪いですし」
    「……飯」

     仁藤は喉の奥から掠れた声を搾り出した。

    「え?」
    「飯くれ、腹が減って死にそうなんだ」
    「えと……食べ物が欲しいんですね?」
    「あぁ」
    「好き嫌いは?」
    「食えりゃあ何だっていい……」

     それこそ今の仁藤にとっては残飯でもご馳走だ。腹に何か入ることが重要なのだ。
     最もゴミ箱を漁るような真似はとても出来ないが。

    「分かりました。お昼に食べきれなかったサンドイッチですけど」

     女は鞄から花柄の可愛らしい包みを出した。包みを解くとラップされたサンドイッチがあった。ラップを丁寧に剥がしてサンドイッチを仁藤の前に差しだす。
     小麦の香ばしい匂いが仁藤の鼻をくすぐった。
     食物だ!! 横たわっていた仁藤は弾かれた様に起き上がると女からサンドイッチをひったくった。
    「きゃ!」と女の小さな叫び声が脇で聞こえたが無視してサンドイッチを一心不乱に頬張る。
     口の中でマヨネーズの味がした。サンドイッチの中身は定番の刻んだゆで卵をマヨネーズで和えたものだった。

    「あっ、そんな急いでかき込んだら」

     女はタマゴサンドをがっつく仁藤を心配そうに見つめた。タマゴサンドはあっという間に仁藤の口の中に消えた。

    「……っ!?」

     すると突然、仁藤の動きがピタリと止まった。全身が震えだして、表情も苦しそうだ。
     女の不安が的中した。きちんと噛まずに呑み込んだからだろう。タマゴサンドを喉に詰まらせたのだ。

    「~~~~っ!!!!」仁藤はしきりに胸を叩いた。
    「わわわわ大変です!」女は狼狽えながら鞄を漁ると「こ、これ、どうぞ!」

     お茶の入ったペットボトルを差し出した。
     仁藤はサンドイッチの時と同じくペットボトルをひったくると口をつけた。
     だが、肝心のお茶は一向に口の中へは入ってこなかった。舌先が飲み口に触れる。固い感触がした。

    「あー! すみません! キャップを外していませんでした!」
    「!?」

     仁藤は心の中で「バカヤロー!」と女に向かって叫んだ。
     そんなことをしている間にも息苦しさが増してくる。仁藤は空気を求めて魚のように口をパクパクと動かすが無駄だった。
     食べ物を求めた自分が、その食べ物を詰まらせて死ぬなんてマヌケにも程がある。

    「えいっ!」

     すると女が仁藤の口にきちんとキャップの外れたペットボトルを突っ込む。ズボッという擬音が聞こえてきそうな勢いだ。女はそのままペットボトルを一気に傾けた。
     ペットボトルの口からお茶が滝のような勢いで仁藤の口内に注がれる。
     お茶は一気に仁藤の食道を塞いでいるタマゴサンドの塊を押し流した。
     空気の流れ道が確保されて、苦しさが和らぐ。仁藤は、助かった――と思ったら、今度は別の苦しさがやってきた。
     女がペットボトルを傾けたままなのだ。当然、ペットボトルのお茶はドンドン注ぎ込まれていく。仁藤の口のダムは呆気なく決壊する。

    「ぼはぁあっ!」

     仁藤はむせて、お茶を全部吹き出した。

    609 = 372 :

    今回はこれで、まあ特にクロスとかじゃなくて本編のうちの一つ的な話として捉えてくれれば

    610 :

    面白い

    612 :

    今更な質問なんですがヴァイオリニストの奏美さんの名前の読みって「かなみ」であってます?

    613 :

    >>612
    あってるよ

    614 = 372 :

    本編投下
    別のやつと被ってややこしいかもしれんから最前の投下は>>605

    615 = 372 :

     ビーストは魔法銃を取り出してパズズの頭に狙いを定めるとトリガーに指をかけた。

    「なあ……お前はファントムを食べるそうだな」
    「あ?」

     パズズの言葉にビーストはトリガーを僅かに押し込んだ指を止めた。
     虫の羽音が聞こえた。羽と羽が擦れる振動音がパズズからしていた。

    「だったら一度食われる側になってみないか?」

     パズズは顎を開けるとビーストに黒い塊を吐いた。

    「なんだ、これ!」

     ビーストは思わず後退した。
     黒い塊は生き物のようにビーストに絡みつく。塊の正体は大量のバッタが集まったものだった。
     耳障りすぎる羽音を聞きながらビーストは両手を振ってバッタを叩き落とすが数が多すぎる。
     バッタ達はビーストの全身にまとわりつくとビーストの姿を完全に覆う。
     それ程までにおびただしい数だった。
     まとわりついたバッタ達が次々と鋭い顎でビーストに噛みつていく。
     痒みにも似た小さな痛みに、別の小さな痛み、その痛みにまた別の痛み。体中の至る所から小さな痛みが重ねられる。

    「があああぁあああああああああああああああああああああっ!」

     黒い塊から狂ったような叫び声がした。それはバッタ達に全身を貪られていく一匹の獣の悲鳴だった。
     痒みは、あっという間に身悶えするような激痛に肥大した。
     ビーストは全身を掻きむしり、苦悶の声を上げながら地面を転がり少しでもバッタ達を振り払おうとするが大した意味はなかった。数が多すぎる。
     ビーストは自分の視界を埋め尽くすバッタの隙間に見えた自分の腕を見た。黒い腕の中に、ビーストにはない人間の肌色が斑点のように点在していた。
     神秘の力を宿す古の魔法使いの金と黒の衣装はバッタ達に食い破られ、ズタボロにされていた。右肩から羽織っていた橙色の美しいマントは既に見るに耐えないボロ布と化している。
     黒い塊は無茶苦茶に地面を這いずり、転げ回った。しかし、その動きも次第に鈍ってくる。
     やがて黒い塊は力なくグッタリとなり動かなくなった。


    616 = 372 :

    パズズは蝗害(バッタやイナゴとかが作物食い荒らすアレ)の化身と言われてる

    617 :

    ドルフィンの出番か

    619 :


    ドルフィって状態異常は治せるけど傷は癒せないイメージがある

    620 :

    乙ですそして>>613返答どうも

    621 :

    ドルフィか銃をもっていたからハイパーか…それか多分ないだろうけど753orにーさん乱入とか続きの妄想はできても予測はできないな…

    久々に続きが楽しみなSSにめぐりあえた

    622 :

    仁藤の方おとすね
    前回のは>>607>>608

    623 = 372 :

    「んぐ、んぐ……」

     それからしばらく後――喉の詰まりを解消した仁藤は、女が近くのコンビニで買ってきてくれたおにぎりやパンや弁当を食べていた。

    「……すごく食べるんですね」

     食べ物の山を挟んで仁藤の隣に座る女は、仁藤の食欲に驚く。
     自分の財布に入っていた手持ちの三千円で買えるだけ買った食べ物の山がどんどん崩されていくのだから当然とも言えた。

    「まるで冬眠前のクマですね」
    「男はな、一日食わないだけで死ぬんだ」
    「死んじゃうんですか!?」
    「ああ、さっきの俺を見てただろ。あれが証拠だ」
    「なるほど……」
    「俺は仁藤攻介。お前は?」

     焼肉が具のおにぎりを食べながら仁藤は女の名前を聞いた。

    「美由です。咲坂 美由」

     髪の短い女――美由は笑顔を浮かべながら自分のフルネームを言った。

    「……」

     美由のあどけない笑顔に仁藤の食事の手が止まった。

    「どうしました?」

     最前までの勢いを失った仁藤の食事を不思議に思ったのか、美由が目を丸くして見つめた。すると、

    「あっ、もしかして苦手なものでしたか? 無理に食べなくていいんですよ。まだ色々ありますから」

     美由は身を乗り出すように仁藤の食べているおにぎりに手を伸ばす。
     近づいてくるクリッとした大きな瞳に真正面から見つめられた仁藤は思わず顔を逸した。

    「だ、大丈夫だ。肉は好きだからな。お前も何か食えよ」

     仁藤は慌てながら食べ物の山に手を突っ込む。自分が買ってきた訳でもないのに、何か食え、と言うのはおかしな話だが、この際そんなことはどうでもいい。
     仁藤は美由の顔を隠すようにあんパンの入った袋を差し出した。

    「ありがとうございます」

     美由は袋を受け取ると中身のあんパンを食べ始める。細い指がパンをちぎり取る。どうやら摘みながら食べるスタイルの様だ。
     仁藤は食べながら横目で改めて美由のことを見た。
     パッと全体像を見ると華奢な体つきだ。摘みながら食べるスタイルから察するに少食なのかもしれない。今は座っているので正確には分からないが、食べ物の山を挟んで美由の頭は自分の肩口辺りまでしかなかった。自分が176あるから、およそ頭一つ分引くと150と少し程度だろうか。
     明るい栗色のショートボブの髪が、美由の幼さに拍車を掛けていた。
     可愛い女だな、と仁藤は素直に思った。
     しばらく美由を目の保養にしながら食事をしていると美由が視線に気づいた。
     美由は視線を仁藤の顔と自分の手元の間を何度か往復させるとあんパンをちぎって仁藤の方へやる。

    「食べますか?」

     そうじゃねえよ。
     仁藤は苦笑しながら心の中でツッコミを入れると目の前の茶色い欠片を手に取った。甘いものは余り好きな方ではないが別に食べれないわけではない。
     いらない、と突っ返すのもなんだし食べることにしよう。

    「んぐっ…………!?」

     あんパンを口に入れて咀嚼した瞬間、猛烈な寒気が襲ってきた。口の中がベタつく。美由から貰ったあんパンは度を越した甘さだった。こんなものを食べたら即糖尿になりそうだ。
     仁藤は急いでお茶を飲んで口の中を洗い流した。

    「お前、平気なのか?」
    「何がですか?」
    「いや、このあんパン。滅茶苦茶甘いぞ。ちょっと見せてくれ」

     小首を傾げる美由の手からあんパンの袋を借りて見ると商売文句なのか『甘さ5倍』というプリントがされている。袋の済には見切り品のシールが貼ってあった。

    「そりゃあそうだ、売れるわけねえ」

    624 = 372 :

     袋を美由に返すと美由は再び、あのあんパンという名の甘味の塊をちぎって食べる。自分と違って何ともないようだ。
    女の子は砂糖とスパイスと、あと忘れたけど何かで出来ていると聞くが、よくまあ食べられるな。
     仁藤は口直しに食物の山からまたひとつ手にとって食べ始めた。
     ――やがて食べ物の山を食べ尽くした仁藤はお腹を満足げに撫でさすった。

    「食った、くった。満腹だ」
    「お粗末さまです」
    「一時はどうなるかと思ったが助かったぜ。お前は命の恩人だ」
    「そんな大げさですよ」
    「飯代を、と言いたい所だが生憎いまの俺は金欠だ」
    「お金なんて別にいいですよ。放っておけませんでしたし」
    「借りた恩はきちんと返せって婆ちゃんにも言われてるんだ。お前、何かして欲しいことはないか? 俺に出来ることなら、なんでもするぜ」
    「う~ん、して欲しいことですか」

     美由は考えるように遠くを見ながら唸った。

    「いざ考えると中々思いつきませんね」
    「そうか……でも、それじゃあ俺の気が済まねえ」
    「あっ!」

     歯噛みする仁藤に美由はパンッと両の手を合わせて勢いよく立ち上がった。何か思いついたようだ。

    「決まるまで一時保留というのはどうでしょう」
    「保留?」
    「そうです。仁藤さん、ここら辺にお住まいですか?」
    「ああ」

     仁藤は短く答えた。今、自分が野宿している公園はここからさほど遠くない場所だ。

    「良かった。でしたら、私がして欲しいことが決まったら仁藤さんがそれを叶えてくれませんか?」
    「なるほどな。お安い御用だ」

     これ以上自分と関わらないための方便かとも思ったが、それならもっと早くに自分の元から去っているはずだ。あって間もないが美由の言葉は信用できる。

    「俺は大抵ここから近い公園にいる。分かるか?」
    「はい」美由は明るく応えた。
    「願いが決まったら来てくれ。俺がお前の願いを叶えてやる」
    「あはっ、それってランプの精か、魔法使いみたいですね」

     愛くるしい笑顔を浮かべる美由が何気なく言った「魔法使い」という言葉に仁藤は自分の手にはまっている金色の指輪をチラリと眺めた。
     まさか正真正銘本物の魔法使いが目の前にいるとは思うまい。

    「それじゃあ、そろそろ私はこれで」

     指輪を眺めていると美由は仁藤から離れようとした。

    「おう、またな。タマゴサンド美味かったぜ」
    「それならまた作ってきてあげますね……さようなら、仁藤さん」

     可愛く手を振り、美由は小走りに駆け出した。小さな体が更に小さくなっていく。
     仁藤は美由の姿が見えなくなるとテントに戻ろうと遅れて立ち去ろうとする。仁藤は美由が去った方向と逆のほうへ歩き出した。

    625 = 372 :

    今回の投下でライダー慣れしてる皆さんは、まあ大体どーゆー話か想像できたと思う
    そーゆー話だ

    628 :

    乙です。
    しかし糖尿どーこーって・・・マヨ食に慣れきっている仁藤がその感想を持つかwwww

    630 :


    激甘あんパン……あぁ

    631 :

    だいたい分かった

    632 :

    ヒル○ンデスに白石さん出てた時に劇甘あんパンの特集があったような…

    ダメだ、それしか浮かばない。何のネタなのかヒントプリーズ…

    634 :

    それは

    635 :

    >>632
    このスレの話をもう一度読み直すんだ

    636 :

    あ… さっきまで分からなかったが>>635でいろいろ察してしまった

    これ…平成2期の主人公なら該当者2名な…あれか?

    637 :

    味覚が

    638 :

    本編
    前回は>>615

    639 = 372 :

     パズズの手に突き刺さっていたサーベルが霧散する。それはビーストの変身が溶けた証拠だった。
     パズズはゆっくりと立ち上がると傷を負った手を見る。掌に直径五、六センチ程の風穴がポッカリと空いていた。息を吹きかけると傷口が沁みた。
     風穴の先には黒い塊がもぞもぞと小さく動いていた。それはビーストに群がっているバッタ達の蠢きだった。
     パズズが顎を大きく開いてビーストを食い散らかしたバッタの大群を大きく吸い込むと手に空いていた風穴が塞がった。傷跡ひとつない。
     パズズはビーストの魔力を食って、自分の手の傷を再生させたのだ。
     これが、パズズがメデューサに「魔法使いの天敵」と評価される理由だった。
     相手の魔力を吸収する力はメデューサも持っていたが、パズズの様に相手の魔力を利用して自分の体を再生させるのはパズズだけが持っている能力だった。
     ビーストを倒したパズズは再びゲートである奏美を絶望させるために追撃を開始しようとした。
     こんな事はさっさと終わらせたい。
     ゲートを絶望させて新たなファントムを生み出す。パズズは、そこに何の価値も見出していなかった。
     新たなファントムが生まれるということは自分の同族が生まれるということだが、赤の他人の様なものだから興味も全く沸かない。
     テレビで大して知りもしない女の芸能人の出産のニュースがあっても、ふーん……と流す程度の感覚。どうでもいい。
     自分には今川 望としての生活があるし、何より希のことが気にかかった。
     今朝の体調は良い方だった。だからといって無茶をしてないだろうか。
     早くゲートを絶望させて、希の元へ帰ろう。
     大量のバッタが肌をまとわりつき、全身を徐々に食われていく感覚は並みの人間なら凄まじい不快感と死への恐怖で簡単に絶望させられるはずだ。
     パズズが跳ぼうとした瞬間、遠くから男が白いバイクに乗って爆走してきた。
     イクサリオンを駆る名護だった。

    「仁藤くん!」

     イクサリオンを急停止させた名護は横たわる仁藤とパズズを見て、即座に状況を把握した。

    「変身!」

     名護はイクサへと変身してパズズへ突撃した。
     パズズはビーストの時と同じ様にバッタの大群をイクサに吐きかけた。
     イクサの体にまとわりつき純白の装甲に食らいつくバッタ達。
     名護の視界にはイクサの各所でダメージによる警告を表す赤い画面が表示された。名護の判断は早かった。 

    「消えなさい!」

     イクサをバーストモードに切り替えると膨大な量の排熱が炎となって、まとわりつくバッタ達を一瞬で焼き払った。

    「お前、魔力を感じない。魔法使いじゃないな」

     パズズはバッタのような短く速いジャンプを連続で行いイクサに肉弾戦を仕掛ける。
     イクサは迎撃しようとイクサカリバーのガンモードを構えるが瞬間移動のようなスピードで動くパズズを捉えることが出来ない。パズズからいいように拳や蹴りを叩き込まれてしまう。
     イクサはパズズに照準を合わせてイクサカリバーを連射した。
     直後、パズズはイクサの正面に跳んでいた。イクサの眼前に固く握りしめられた拳が飛来する。
     絶体絶命の瞬間がイクサに訪れる。
     しかし、イクサの装着者である名護は幾多の死線をくぐり抜けてきた歴戦の戦士だった。
     構えていたイクサカリバーを下におろし、そこから遊び心――機転を効かせる。
     イクサはイクサカリバーのグリップに連結している弾倉を膝で蹴り込んだ。膝蹴りで弾倉がグリップに収納されると同時に紅い刃が飛び出る。
     意表を突くような攻撃にパズズは避ける間もなく、むしろ自分から突っ込む形で腹にイクサカリバーのカリバーモードのブラッディエッジが突き刺さる。

    「お前は俺の大切な弟子を傷つけた」

     イクサから静かに、そして怒りの帯びた声が聞こえてきた。

    「その大罪は命でしか贖えない。その命、神に返しなさい!」

     イクサは金色のフエッスルをベルトにリードさせる。
     イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ……
     フエッスルが起動キーとなり、イクサの動力『イクサエンジン』が臨界出力に到達するとイクサの胸に太陽を象った紋章が浮かんだ。
     臨界点まで到達したエネルギーを攻撃に転用させるイクサの必殺技『イクサジャッジメント』を発動させたイクサカリバーは、激しくスパークするとパズズを刀身が刺さっている内側から焼きこがしていく。
     パズズは抵抗するようにイクサに顔を近づけると顎を開いてバッタ達を吐きかけた。
     大量に吐き出されるバッタが、黒い波となってイクサの顔面を呑み込む。

    「くぅ……っ!?」

     怯んだイクサが堪らず後退すると黒い波をイクサカリバーで横一線に薙ぎ払う。
     太陽のような眩い輝きと灼熱を纏った一撃は黒い波を瞬く間に灰にする。
     やがて灰が霧散して辺りが晴れていくと既にパズズは姿を消していた。
     イクサは素早くセンサーを最大範囲で索敵するが反応は無い。取り逃がしたようだ。
     己の実力に絶対の自信を持つ名護は、仕留めきれなかった自分の未熟さに舌打ちした。
     この俺が……だが今は。
     イクサは倒れている仁藤の元へ駆け寄った。

    「仁藤くん……っ!」

     イクサは一瞬、言葉を失った。ボロボロになった仁藤の姿は無惨なものだった。
     仁藤の健康的な肌はバッタ達に食い破られて赤く爛れ、皮がべロリと剥がれていた。
     特に生身の部分がむき出しになっている顔の辺りは酷かった。獅子のたてがみの様に逆立てた髪型でかろうじて仁藤だ、と分かるまでに醜い容姿へと変わり果てていた。
     死体と区別がつかない。

    「仁藤くん! 仁藤くん! 仁藤くん! 仁藤くん!」

     名護がいくら呼びかけても仁藤が――目を開けることはなかった。
     

    643 :

    こんな風に仁藤を一方的にズタズタにできるパズスも、ルークには歯が立たなかったんだよな…
    剣のカテゴリーKといい、武蔵な金色マスクドライダーといい、コーカサスカブトムシをモチーフにした奴はホント強いなあ…。

    ……そういえば彼らに間違いなく肩を並べられそうな金のカブトムシ怪人であるガドル閣下は…あれはコーカサスとは別だっけ?

    645 :

    閣下はふつうのカブトムシでしょ
    Kに武蔵には主人公がカブトムシだから同族で強いのでコーカサスになったんだろうし

    646 :

    (指輪を使え)

     突然、名護の頭に声が響いた。しかし周りにはイクサに変身している自分と重傷を負っている仁藤しかいなかった。

    (こっちだ)

     イクサは声なき声が導く方へ向く。謎の声は重傷の仁藤から聞こえていた。

    (お前はいったい何者だ)

     名護は頭の中で対話をはかってみるとすぐに返事が聞こえてきた。。

    (我の名はキマイラ。仁藤の主であり、ビーストの力を貸している者だ)
    (ビースト……それが仁藤くんの、あの姿の名前か。それで、その主が俺に何の用だ。今は一刻も早く仁藤くんを病院へ)
    (このままでは間に合わん。青い指輪を使え。他に方法はない)
    (わかった)

     仁藤の主を名乗る声に従い、イクサは仁藤の服の中から青紫の指輪を見つけた。
     イクサはビーストがそうやっていた様に指輪をドライバーのソケットにはめ込んだ。
     ドルフィン!
     指輪に封じ込まれた呪文が詠まれ、キマイラオーサーから青い光が放たれる。
     全ての命の母である海の力を宿すドルフィンの指輪が起こす治癒の魔法だった。
     青い光は仁藤を淡く照らした。すると仁藤の傷が徐々に塞がりはじめた。
     目の前で起こっている非現実的な光景にイクサは驚愕する。

    (俺は魔法でも見ているのか? いや、これは魔法だったな)

     イクサのモニターに仁藤の容態が映った。
     脈拍、呼吸、血圧、体温といった仁藤のバイタルが全て正常値に戻りつつあった。
     まるで回復の過程を早送りの映像を見せられているようだ。見分けがつかない程に惨たらしくなっていた顔も元の状態に戻りだしている。
     やがて仁藤の傷は完全に消えた。
     治癒された肌は傷跡も残っておらず綺麗で血色も良い。初めから傷など負っていなかったのでは、と疑ってしまいそうだ。
     仁藤は母に抱かれて眠る赤ん坊のように安らかな寝息を立てていた。

    「仁藤くん……良かった」
    (確かに傷は癒えた。だが……)

     弟子の生還を心から安堵する名護には、キマイラの何かを危惧する声が聞こえていなかった。

    647 = 372 :



     やがて仁藤の傷は完全に消えた。
     治癒された肌は傷跡も残っておらず、初めから傷など負っていなかったのでは、と疑ってしまいそうだ。
     だが、そこまで回復したにも関わらず仁藤は目を開けない。
     イクサのモニターに仁藤の生命の危機を知らせるサインが表示される。サインは仁藤の心臓が停止していることを伝えていた。

    (どういうことだ)
    (治癒の力はあくまで癒しだ。既に止まっていた心臓を動かすことは叶わぬ。魔法とて万能ではない。限界があるのだ)
    「心臓を動かせばいいんだな」

     イクサは仁藤の服を脱がすとベルトからナックルを取り外して装着した。

    (何をするつもりだ?)
    (心臓が動かないならショックを与えて動かせばいい)

     イクサはイクサナックルからの放電による電気ショックで仁藤の心臓を動かそうとした。
     しかし、それは極めて困難な作業だった。
     なにせ瞬間電圧5億ボルトという落雷にも匹敵するエネルギーを放出するイクサナックルの出力を医療の心臓マッサージで扱われる1500ボルトまで下げたうえで、それを維持しなければならないのだ。
     一瞬でも操作を誤れば、仁藤は超高圧の電流によって黒焦げになってしまうだろう。
     それは針の穴に糸を通すよりも何十倍もの正確さと繊細さが要求される作業だった。
     イクサのマスクの下で名護は顔を汗だくにしながらナックルを何度も仁藤の胸に押し付ける。

     仁藤くん、君は俺が救ってみせる。それが師匠である俺の義務だ。

     想いをナックルに乗せて、必死に電気ショックを続けるイクサ。
     すると想いが天に届いたのかモニターに表示されているサインに変化があった。
     心臓が動いたのだ。

    「仁藤くん……良かった」
    (確かに傷は癒えた。だが……)

     弟子の生還を心から安堵する名護には、キマイラの何かを危惧する声が聞こえていなかった。


    648 = 372 :

    魔法すげーするか、名護さんすげーするかって違い
    あとドルフィン期待してた人はすまん、きちんとどっかで活躍させる
    パズズに食われた後に、実は死んだフリしてやり過ごすとか去っていくパズズに後ろから「おい、なに勝手に終わらせてんだよ……」とかボロボロになりながら立ち上がらせてドルフィンで回復して戦闘を仕切り直しとか色々考えてた


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