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元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」
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「仗助か!? すぐに来てくれ! 御坂妹が死にそうなんだよ!」
『 …… 』
戸惑うような沈黙が答えた。
『 何だってェ~~? 待てよ当麻、俺にもわかるよーに言え 』
「説明は後だ! 通学路の本屋の向かいのビルの裏にいる!! 早くしねーと本当に死んじまうぞ!!」
『 ……すぐ行く 』
ガタン、と受話器の向こうで雑音がして、完全な沈黙だけが残った。
上条当麻は自分の心臓の音を聞いた。とんでもないくらい近くで大きく、うねるように脈を刻んでいる。
呼吸音もやけに響いた。
『 ――条 』
ハッと正気付く。
電話はまだ切れていない。
「まだか!? 早く来てくれ! 血がずっと流れ続けてるんだよーー!!」
『 上条くん 』
「あ、あれ!? あなた、ええっと、空条さん!?」
『 大丈夫か。状況は 』
「わからねーんです! とにかく、さっきまで元気だったのに御坂妹が血まみれになってて!!」
『 落ち着け 』
ズシンとくる低音に、上条当麻は思わず口をつぐんだ。
たっぷりと間をあけて、再び承太郎の声が聞こえてくる。
『 ……もう一度聞くが、そこはどこだ 』
「ビルの……通学路にあるビルの裏です」
『 周りは誰もいないか? 』
「まっ……!」
上条は慌てて周囲を見渡した。
そうだ。もしこれが傷害事件なら、まだ犯人は近くにいるかもしれない。
「周り、は誰もいません。無人です……たぶん」
『 怪我人は、息はしているか 』
「してますけど、切れ切れで……体も冷たくて意識もあるのかないのか……!」
『 怪我は? 』
「体中です!」
『 ……救急車を呼ぶ。止血はできるか 』
「わかんねーですよ!! どうやればいいかわからねえ!! なんでこんな」
『 落ち着け 』
二度目の忠告に、上条は自分の息がさっきよりも上がっていることに気が付いた。
『 こういう時はまず落ち着くことを第一に考えろ。技術は二の次だ 』
上条は、腕の中で朦朧とする彼女を見た。
視界がかすんでいるのだろう。鈍い光を瞳に宿し、ゆらゆらと焦点定まらぬ様子でこちらを見つめている。
薄く唇が開く。と、ゴボリと音を立てて御坂妹が吐血した。
返り血が頬にかかり、得体のしれない恐怖に逃げ出したくなる。
「うっ…………ッ!」
現実に圧倒されそうになる精神を、上条はすんでのところで奮い起こした。
落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと息を吸って、吐く。
『 俺が指示する。君はなるべく正確に状況を伝えるんだ。……いいな 』
「はい……やれます」
上条は、その細い体を抱き寄せた。
結論から言うと、御坂妹は助かった。
仗助の 『 能力 』 で傷は完全に塞がり、救急隊員も輸血さえすれば命に別状はないと言っていた。
救急車が去っていった途端、上条は体中から力が抜けるのを感じた。
「あ゛ーーー!! もうだめだ、死ぬかと思った、俺がぁーー!」
「こっちこそシンゾーが止まるかと思ったぜ~~」
汗だくの仗助も、傍らにケツを落とす。
ようやく日常に戻ってこれたことに、上条は心の底から安堵した。
「しかし、まさかノーヘルでバイク飛ばしてくるとは……あれ、承太郎さんのか?」
「いーや、借りた。承太郎さんが 『 借りた 』 のを 『 借りた 』 」
「置いて来てよかったのかよ?」
「いーんじゃあねぇーのォ~~?」
「つーかお前免許持ってたっけ」
「承太郎さんだって二輪は持ってねぇーぜ」
「えっ」
えっ、つまりどういうこと? と回りかけた思考を、上条は強引に止めた。
暗部に関わってしまう気がしたからだ。
「じゃー、俺承太郎さんに報告しに行くからよォ……」
「ああ」
上条は軽く息をつき、前を向いた。
「俺も……行くところがある」
なぜ、御坂妹は襲われなければならなかったのか。
犯人は逃げており、現場にも手がかりらしい手がかりはなかった。
じゃあもう自分にできることはここまで。
捜査は 『 警備員<アンチスキル> 』 の仕事だろう。
だが上条は、とある一つの疑念を振り払うことができなかった。
もしかして、御坂――美琴は、御坂妹が襲われることを知っていたんじゃあないか、という疑念である。
『 あんたらだって、人には言いにくい事情の一つや二つ、あるんでしょ 』
そう、あの言葉が引っ掛かっている。
『 あんたらだって 』。御坂美琴は確かにそう言った。
これは自分の周辺でも異変が起きているという、遠回しな告白だったのではないか?
思えば一昨日御坂妹に出会った時も、美琴の様子はおかしかった。
あのころから彼女は 『 何か 』 に苦しんでいたのではないか?
御坂妹の件で苦しんでいたのでは?
「……それか、現在進行形で苦しんでるか、だな」
実のところ、上条が最も恐れているのは、そこのところなのである。
「……やっぱりあなたでしたのね」
そしてやって来た常盤台の学生寮。
インターホン越しのエレガントな喋り方は聞き覚えがあると思っていたが、やっぱり彼女だった。
「お前は確か……おとついの公園で」
急に出たり消えたりした、
「申し遅れまして。わたくし、お姉さまの露払いをしております、白井黒子と申しますの」
黒子はベッドに寝転がったまま、すと軽蔑的に目を細めた。
「それで、何の御用ですの? まさかあの後お姉さまと過ちを?」
「ないない、それはない」
「でしょうね」
ふ、とお上品にあざ笑われる。
「お姉さまはまだ帰ってきておりませんの。待つのでしたら、そのベッドに腰掛けてくださいませ」
「いや不味いだろ、さすがに」
「御心配なさらずに。そちらがわたくしのベッドです」
「は?」
事情を呑み込むのに時間がかかった。
つまりこのお嬢様然としたお嬢様は、敬愛するお姉さまのベッドの上でゴロゴロし、さらには枕に顔を押し付け残り香を楽しんでいる、ということか?
何やら百合の香かほる事態なのですが……!
「なに呆然としてますの? 人間だれしも 『 誰も見てなきゃあこれぐらいオッケー 』 という基準を持っているものですわ」
「 『 ですわ 』 って言われてもなぁ……」
「それであなたは、普段からお姉さまと頻繁に諍いを起こしてる殿方でよろしいんですの?」
「は?」
「……違うならそれで構いませんの。お姉さまの『支え』となってる方のお顔を少しばかり拝見してみたいと思っただけですから」
「 『 支え 』 ?」
「ハッ! こッ! この靴音はッ!」
「え?」
「寮監の巡回ですわッ! 常盤台の女子寮に殿方がいるなんて知られたら大変なことに……ちょっと失礼しますわ!」
言うなり上条の肩に触れる。
「……」
「……」
しかし何も起こらなかった。
「なんでテレポートしないんですの!?」
「あ~~……たぶん俺の 『 右手 』 が」
「仕方がありませんわ! ベッドの下にでも隠れていてくださいませぇ~~!」
「あだだだだ! 無理! 無理があるってこの隙間は!」
問答無用とばかりにぎゅうぎゅうに押し込められる。
なんとか入り込んだ途端、部屋の扉が開く音が聞こえた。
ギリギリセーフ、か……。
一息ついた、その時上条は先客に気が付いた。
やたらとでかいぬいぐるみである。
片目を眼帯で隠し、あちこち包帯だらけという個性派の。
それが 『 ワレ誰に許しもろてきてんのじゃオラァ 』 と言いたげにつぶらな瞳で見つめてくる。
あまり長居はしたくないな……と、そこでぬいぐるみにファスナーがついていることに気が付いた。
『 開けジッパー! 』 とばかりに引き下ろす。
なぜと言われても、そこにボタンがあれば押すし、紐があったら引っ張るだろう。その程度の衝動だ。
中には書類らしきものが押し込められていた。
均等に並ぶ文字の中、『 妹達<シスターズ> 』 という単語が、妙に目を引いた。
寒々しい夜の橋梁で、御坂美琴はぼんやりと虚空を見つめていた。
「……どうして……。…………どうして、こんなことになっちゃったのかな……」
呟けど、答える人はいない。
今も脳裏に焼き付いている記憶がよみがえる。
生々しい虐殺の記憶。届かない自分の手。
残酷に笑う、あの――
「助けて……」
「助けてよ……ッ」
誰に向けてのものかもわからない言葉は、風に流されて消えていった。
みゃー、と鳴く声が届く。
ハッと足元を見ると小さい猫が足元で 『 おすわり 』 していた。
「ネコ……?」
「おい」
聞き覚えのある声がかかった。
一歩一歩、踏みしめるような足音と共に、ツンツン頭の青年が歩み寄ってくる。
表情は固い。
「お前……何やってんだよ」
その強い口調に御坂美琴は一瞬詰まったが、すぐ何でもないような顔になった。
「どこで何をしよーが私の勝手でしょ。
私はレベル5の 『 超電磁砲<レールガン> 』 なのよ?
夜遊びした程度で、寄ってくる不良なんて危険のうちに入らないし……そもそも」
「やめろよ」
「はぁ?」
「――『 絶対能力進化<レベル6シフト> 』 」
御坂美琴はピクリと反応した。いや、ビクリかもしれない。
「 『 樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>を用いて予測演算した結果、
128種類の戦場を用意し、128回、超電磁砲<レールガン>を殺害することで、
一方通行<アクセラレータ>はレベル6へ進化することが判明した。
超電磁砲<レールガン>は128人も用意できないため…… 』 」
御坂美琴は動けなかった。
彼が、この男が! なぜそれを知っている? いや、知ることができた?
「 『 ……再演算の結果、二万種類の戦場を用意し二万人の、妹達<シスターズ>を殺害することで同じ結果が得られることが分かった 』 」
上条は持っていた書類から顔を上げ、美琴をまっすぐに見つめた。
「つまりだ。お前の 『 妹達 』 はレベル6を生み出す実験のために造られ、殺されるってことだろ」
「……っ」
「だから御坂妹も……ああなったのか?」
「…… 『 会ったのね 』?」
「ああ」
「……」
美琴はふっとため息をついた。
「あぁ~~あ~~、なんでこんなことしちゃうかなぁ~。あんた私の部屋に勝手に上がり込んだの?
フツーだったら死刑よッ、死刑ェッ」
少し笑みを浮かべて、
「で? それを見てあんたは 『 あたしが心配だ 』 と思ったの? 『 許せない 』 って思ったの?」
「心配したに……決まってんだろ」
「ま、ウソでもそう言ってくれる人がいるだけマシってとこかしら」
「……『 ウソ 』 じゃねぇよ」
「――何?」
「 『 ウソ 』 じゃねぇって言ってんだろ!!」
「……!」
「部屋に勝手に上がったことは謝る、後でいくらでも電撃浴びせりゃいいだろ! で、お前は何をしてるんだッ?」
「……どーせあの地図も見たんでしょ。赤いバッテン付きの」
御坂は片手からパチリと白い稲妻を出した。
「そうよ……『 撃墜マーク 』 よ。
研究所の機材を破壊して、研究所を閉鎖させればこの計画もおしまい……の、はずだったのにねぇぇ~~~……現実は非情だわ。
どれだけ潰しても、実験はすぐほかの研究所に引き継がれる」
「クローンってのは国際法違反なんだろ? だったら……」
「この街は 『 樹形図の設計者 』 っていう衛星で監視されてるのよ。理事会も黙認してるのよ」
「……それでもお前は、この計画を止める気なんだろ。お前一人の力で」
「……そうね」
御坂美琴は上条に向き直った。
「考えてみれば簡単なのよねぇぇ~~。この実験は 『 一方通行<アクセラレータ> 』 を強くするためのもの。
肝心要の第一位さえいなくなれば、計画は瓦解する」
「だから私は……『 一方通行 』 を殺すわ。今まで殺されてきた一万人の 『 妹達 』 を弔うためにも」
「 『 ウソ 』 だな」
美琴の目が見開かれる。
同時に、そんなあからさまな反応をしてしまった焦りが滲み出てきた。
「てめーのそれは 『 ウソをついてる味 』 だぜ、御坂美琴」
「はぁ?」
「わかるんだよ。お前の目は誰かに立ち向かおうってものじゃあない。犠牲になろうって目だ」
「っ……!」
御坂美琴は、押し黙った。
一度ギュッと目をつぶると、次の瞬間には穏やかな顔つきになって、フラフラと歩きだす。
「研究者たちが二万人もの犠牲を出そうとしているのは……
『 超電磁砲<レールガン> 』 128人分の犠牲を出そうとしているのは…………そうよ。
一方通行をレベル6にするためよ」
上条の方は見ずに続ける。
「なら私にそれほどの価値が 『 なかった 』 としたら?
『 樹形図の設計者 』 は私が185手で死ぬと予測した……でもッ! もしもッ! 私が 『 1手目 』 であっさり死んだら?」
「おい……待てよ……」
「 『 樹形図の設計者 』 は数週間前、地上からの攻撃で撃墜している。再計算は不可能だわ。
だから……今回の 『 これ 』 が成功すれば、残る一万人の妹達は救われるッ!」
「待てって言ってんだ!」
「私はこれから 『 一方通行<アクセラレータ> 』 のところに行くッ」
ザンッ! と御坂美琴は身をひるがえした。
「私が割り込んで、実験そのものを 『 終わらせてやる 』 わッ」
更に踏み出そうとした御坂美琴の前に、上条当麻が立ちふさがった。
「……どきなさい」
「……頭のいいお前が考えに考えぬいた末の結論なんだろーな、それは……それしか方法はないのかもしれねー、確かに……でもッ!」
上条当麻は更に足を肩幅に広げて、妨害枠を広げた。
「 『 それでも嫌なんだ 』 !」
「!」
御坂美琴は一瞬目を見開いたが、すぐに剣呑な表情に戻った。
「……そう。あんたは私を邪魔するってわけね…………
一万人の 『 妹達<シスターズ> 』 の命なんかどうでもいーってわけね……!」
バヂバヂバヂッと稲妻が駆け巡り、白い軌跡を生む。
「あの子たちね……自分たちのことを 『 実験動物 』 って言うのよ」
「――っ」
彼女を覆う 『 スゴみ 』 と電力に押されかけたが、何とか踏みとどまる。
上条はキッと鋭い視線で相手を迎え撃った。
美琴の瞳も揺らがない。
「実験動物になるっていうのはどういうコトなのか……正しく理解してる上で……! そんなことを言うの……!」
上条は退かない。
美琴も退かない。
退けるはずがない。
「これは私の引き起こした問題なのッ! だからッ!」
「あの子たちは! 私の手で助け出されるべきなのよぉぉーーッ!!」
ゲコゲコゲコッ
ゲコゲコゲコッ
「……」
「……」
今まさに電撃が放たれんとしたその時、異音が響き渡った。
どこか電気仕掛けなカエルの鳴き声は鳴り止まない。
「……ごめん、電話だわ」
「お、おう……」
上条は微妙な気持ちのまま後ろを向いた。
美琴もあちら側を向いて電話に出る。
「はいもしもし……。ああ、はい。大丈夫ですけど………………え?」
美琴の声が凍りついた。
その尋常でない様子に、上条は振り返る。
御坂美琴は、愕然とした表情でこう言った。
「――『 中止 』……ですって……?」
スピードワゴンくそチートでワロタ 昔はこいつはくせーとか言ったり帽子飛ばして喜んでるスラムのショボイ不良だったのに
そういえば上条さんが最初に目撃し、そして死んだミサカって何号だっけ。
>>568
最初から相手をしてるのは10032号
死体を確認したのは10031号 上条さんと10031号に面識は無いはず
10031号は妹達が救えなくていらついてる美琴に苛立ちをぶつけられて嫌われたと勘違いして、誤解が解けぬまま胸に痛みを抱えて殺された妹達でも屈指の不遇キャラ
どっかで救われる展開ないかなー チラ
最初から相手をしてるのは10032号
死体を確認したのは10031号 上条さんと10031号に面識は無いはず
10031号は妹達が救えなくていらついてる美琴に苛立ちをぶつけられて嫌われたと勘違いして、誤解が解けぬまま胸に痛みを抱えて殺された妹達でも屈指の不遇キャラ
どっかで救われる展開ないかなー チラ
最初に美琴と一緒にいたのが10031号で、ジュース運んでくれたのが10032号
上条さんと10031号はあったことはあるけど、言葉わ交わしたことはない、じゃなかったっけ
上条さんと10031号はあったことはあるけど、言葉わ交わしたことはない、じゃなかったっけ
>>571
目撃はしてたよな…ドヤ顔で書いて恥ずかしい…
目撃はしてたよな…ドヤ顔で書いて恥ずかしい…
乙!!
超面白いぜ!!
承太郎出てくると面白くなるよね。
ジョジョキャラもっと増えて欲しい
ところで前の最後に出てきた一方?はどうなったんだろう。
超面白いぜ!!
承太郎出てくると面白くなるよね。
ジョジョキャラもっと増えて欲しい
ところで前の最後に出てきた一方?はどうなったんだろう。
学園都市から車で10分ほど行くと海がある。
ということを、上条当麻は初めて知った。
視線の先では、友人がズボンの裾をまくり上げてバチャバチャやっている。
しかし遊んでいるわけではないらしく、その表情は至って真剣だ。
友人は、不意にハッとした表情になるとこちらに走り寄って来た。
「ありました! ありましたよ承太郎さん! これッスよね!?」
承太郎はそれを一瞥するなり、
「こいつはゴカクヒトデじゃあねー、イトマキヒトデだ。どうすりゃ間違えられる」
「んなこと言われてもよぉぉ~~……俺ヒトデに関しては素人なんスよぉぉ~~……」
「……何よあれ」
隣に座る御坂美琴は不機嫌顔だ。
尻の下にハンカチを敷いているあたり、やはりお嬢様なのだな。と上条は思った。
「んーまあ、色々ありまして、罰を受けてる最中なんだそーです」
「罰ぅ?」
「罰ですか。とミサカはしつこく繰り返します」
そのはずである。
ヒトデは日本に限らず世界中の海に生息している。
浅瀬から北極のような寒い場所に住むヒトデまでその種類は様々だ。現在確認されているだけで2000種類。
大きさは軸長(中心から腕の先端までの長さ)0.2㎜から最大68㎝もの大きさのものもいる。ちなみに日本最大はオオフトトゲヒトデ。
ここで見つかるのはアカヒトデやモミジガイか、運がよけりゃあクモヒトデも見れるかもな。
ああ、それはハスノハカシパンだ。こいつはウニだが、ウニにしちゃあきれいなフォルムをしている。
横から聞こえてくる講釈に、上条は頭がパンクしそうだった。
ここ数分で上条のヒトデ知識は随分と増えた。
空条さん……あんた寡黙な人かと思っていたがそうでもないのか。それとも興味ある分野では別人28号になるタイプなのか。
上条の見るところ、仗助もうんうんと興味あるふりをして聞いてはいるが、上条と同じく内心げんなりしているようだった。
「わかった……よーな気がしますっス! イトマキヒトデはまだら模様スね!」
「さっさと探しな……日が暮れちまうぜ」
「はいッス! 行ってきます!」
また駆け去っていく後姿に、御坂美琴は鼻を鳴らした。
「フン。『 罰 』 っていうより、『 パパ 』 に遊んでもらってる 『 ボクちゃん 』 みたい。不良のくせに」
「どちらかと言えば犬ころと主人ですね。とミサカは辛辣に感想を伝えます」
「あれはあれで結構きついんじゃねーの……?」
言いながら上条も 『 これで100マンチャラっていうのは緩いよなー 』 と思っていた。
空条さん自身、何の痛痒も感じてないそぶりだし、まさか仗助、あいつ意外とおぼっちゃんなのか……?
また聞くことが増えた。
上条は悶々として空を見上げた。
今にも落ちてきそうな空があった。
上条と美琴と、御坂妹までもがここにいるのは理由がある。
と、いっても他愛のない理由なのだが。
○ ○ ○
「――どういうことよ!!?」
――昨夜。
御坂美琴は 『 絶対能力進化<レベル6シフト> 』 の実験中止を言い渡されるや、電話先の相手に噛みつかんばかりの勢いで喚いた。
「……はぁ!? ナニソレ、ちょっと待って、それは……待てってんでしょーが! 耳詰まってんの!?」
ブチリと切れた音が受話器から響く。
「ああもう! なんなのよ! なんなのよもう!! ふざけんじゃないわよ、ふざけないでよ!
ふざけるなちくしょう! もういや! 馬鹿、馬鹿!!」
ほとんど逆上した様子で地面に携帯を投げつけた。
「……っ、うええぇぇ~~~ん!!」
かと思うといろんなものが切れてしまったようにその場に座り込んでしまった。
「……しくしく、ひっくひっく、なんだよォ、なんなんだよォ~~、ううええ~~っ……!!」
「な、泣くことねーだろ、なにも」
「うるさーーい!! 一人にしなさいよ、ううぅぅ~~……!!」
上条は、ホッと息をつくと御坂美琴の前に膝をついた。
頭を掴んで抱き寄せる。
「できるわけねーだろ。こんな時に、一人になんて」
「う……」
「肩ぐらい貸すから……思いっきり泣いちまえ。お前はよく頑張ったよ……たった一人で」
「うぅ……うぅうううぅ~~~……!!」
肩口が濡れていくのを感じながら、上条はただ、彼女の背を叩いてやった。
「……落ち着いたか」
「最悪」
「はい?」
「あんたなんかに慰められるなんて……これは貸しね」
「おいおい、貸しもツケも……」
「うるさい! 私が貸しったら貸しなの!」
美琴は上条を突き飛ばすようにして離れた。
若干鼻頭が赤いが、いつもの目つきが戻っている。上条はひとまず安心した。
「それで……中止っていうのは?」
「正確には無期凍結よ……まあ実質解体みたいなもんだろうけど」
「何でだよ?」
「それがわからないからこうしてイラついてんじゃない!
信じられないわ……私があれほど動いても執拗に繰り返されてた実験が……! なんで今のタイミングで……なんでこうもあっさり……!」
御坂美琴はまた、憤懣やるかたなしの態で頭をかきむしった。
漏電して時折体をビリビリが這い回っている。
「うーうー」頭を抱える美琴に、上条は
「考えられる可能性は?」
問うと、美琴はピタリと一時停止する。
「……一つだけ……『 被験者 』 自身が実験への協力を拒否した場合よ」
「それって」
「そう」
御坂美琴は複雑な表情で額を押さえた。
「……『 妹達(あの子たち) 』 よ……」
上条の脳裏に、真顔で猫を抱く御坂妹の姿がよみがえった。
次に血だまりに溺れる御坂妹の姿。
そして彼女らは自分たちを 『 実験動物 』 と言ってはばからない、と言う御坂美琴の声も。
「私、あの子たちをね」
美琴が不意に顔を上げた。
虹彩の薄い、大きな瞳が潤んでいる。
それを真正面から見てしまった上条は思わずのけぞった。
「あの子たちをね、『 かわいそう 』 な子たちだと思ってたの……!
自分の置かれてる状況がどんなに残酷かわかっていない、わからせてもらえない 『 かわいそう 』 な子たちだって……!!」
こいつは、こんな弱弱しい顔を見せる奴だったか。
こんな震えた声を出す奴だったか。
誰だこの少女は。
いいや違う、と上条はその心の声を打ち消した。
きっとこんな面も含めて御坂美琴という人間なのだ。
御坂美琴の決意が、プライドが、レベル5という肩書を背負った人生が、この 『 弱さ 』 をひた隠しにしてきたにすぎないのだ、と。
「でも違ったのよ、あの子たちは……ちゃんと感情のある、普通の子たちだった!
『 こんな実験もういやだ 』 って、自分から言える子たちだったのよ……
それを見誤って……死ぬ覚悟までして…………ホント、滑稽だわ……私……」
そんな彼女を今苛んでいるのは、『 むなしさ 』 というやつに違いない。
「んなわけねえ……」
「あるわよ」
「ねえよ!!」
ビクリと反応した美琴の肩を、上条はしっかりとつかんだ。
「お前が今までやってきたことの……ほんのちょっぴりも俺は知らないのかもしれない。
でも 『 妹達(あいつら) 』 は違うんだろ? ずっと、お前のこと見てきたはずだ。そうじゃねえのかよ?」
「……っ」
「お前が必死だったからこそ、あいつらだって勇気を出せたんだ。
お前の気持ちをしっかりと受け止めてくれたんだよ、あいつらは……。
お前のやってきたことは無駄じゃねえ。無駄なんかであるはずがねえ。だってお前、こんなに頑張ってきたじゃねえか!」
じわりと美琴の瞳がまた濡れた。
それを隠すように俯けば、ぽたぽたと彼女の膝に水滴が落ちた。
「泣きすぎだろ」
「……っさい」
「しっかりしろよ。『 お姉さま 』 だろ?」
「……」
美琴が顔を上げた。
瞳は濡れていて、こみ上げる感情に抗い、肩と唇が震えている。
「……私」
「うん?」
「あの子たちに、会いに行くわ……。あの子たちが何を思ってこういうことをしたのか、これからどうするつもりか……ちゃんと聞いてあげたい」
「……ああ」
上条は彼女の肩を優しくたたいた。
「お前、『 お姉さま 』 だもんな」
そして翌日。
「いた?」
「いねーなー……」
上条当麻と御坂美琴は 『 妹達 』 探しに奔走していた。
だが、あれほどいた 『 妹達 』 は今のところ影も形も見当たらない。
「ああもうイライラする! なんでこう上手くいかないのよ!!」
「街中でビリビリすんな!」
昨日落ち着いたと思っていた美琴の堪忍袋は、またもパンパンに膨らんで破裂しかけていた。
爪を噛みそうなイラつき具合に、上条は嘆息する。
「そう焦っても、まさか突然 『 おねえさま~ 』 って妹が現れるわけでもねーんだから」
「お姉さま~」
「!?」
ババッ!
二人が振り向くと、御坂美琴そっくりな顔が車の窓から顔を出していた。
プラプラとやる気のない動きで手を振っている。
「こんなところで何をやっているのですか。とミサカは野暮なことを聞いたなと思いつつ尋ねます」
「あんたこそ! こんなとこで何やってんのよ!」
美琴が突進していくのを眺めながら、何か重大な誤解が看過されたような気分になる上条当麻であった。
御坂妹は胡乱に首をかしげる。
「何……と言いますと。とミサカは首をかしげます。
あっ、このミサカは昨日病院送りになったミサカではありませんので、活動に支障はありませんよ。とミサカは断りを入れます」
「そうじゃなくて、車なんか乗ってどこ行くの」
「よろしければお姉さまたちも行きますか。とミサカは再度尋ねます」
「どこへよ…………あっ!!」
そこで上条も、御坂妹と同乗している人物に気が付いた。
見間違うはずがない。
もとよりそんな髪型をしている奴は学園都市で二人といない。
彼は疲れ切った表情で「よう」と言った。
○ ○ ○
たどり着いた海岸は夏休みだというのに、人っ子一人いなかった。
仗助は、昨日もここでヒトデ集めにシャカリキだったらしい。
「道中、信号待ちのところに話しかけられまして、ミサカが海を見たことがないことを告げたところ
『 じゃあ一緒にいこーぜ 』 と誘われました。と、ミサカはことの経緯を説明し終えました」
「どうせ物欲しそうな目でもしてたんでしょ」
「そんな場面もなきにしもあらずでしたが。とミサカはお姉さまの悪意的な解釈に憮然とした表情を作ります」
「……っていうか」
御坂美琴は、不機嫌な目を今度は承太郎に向けた。
声をひそめて妹に囁く。
「あんまりホイホイ人についてくんじゃないわよ。人さらいだったらどうするつもり?」
「あの人はそんなことをする人には見えませんでした。とミサカは主張します。ワイルドな風貌はしていますが、知性と物静かな態度がありました」
「人は見かけによらないの」
「『 人は見かけが9.5割 』 という本を読んだばかりなのですが……」
「それはあくまで対人関係の話! 私の言ってるのは小学生向けの通学路でのルールよ! 知り合いの知り合いでも人にはついてっちゃダメ!」
「つーん……と、ミサカは聞こえないふりをして海を眺めます」
美琴はムっと沈黙した。
会話を聞きながら 『 どうやらこいつ(御坂美琴)も俺と同じ気持ちを抱いてるらしい 』 と上条は思った。
正直、上条も承太郎に対する疑念というか、不信感は解けていない。
承太郎が自己紹介をするまでもなく上条の名を呼んだあの時から、その感情は上条の心にこびりついて離れない。
加えて彼はここに来る途中「御坂くん、君は後部座席に回ってくれ」とまで言った。
当然、彼女が名乗る前の話だ。
(いや、そこまではいい。そこまでは。仗助が会話の中でポロっとこぼした名をあてずっぽうで言ったっていう、すげー現実的な可能性もあるしな)
問題は……。
「っていうか……あの人何者よ? 学園都市の監査をこんな気安く出たり入ったり……」
むしろ顔パスだった。
「なんでヒトデ集めてんの?」
「それは俺にもわからねえ」
上条は片膝を抱いた。
空条承太郎は仗助が信頼している人間だ。
それに、検体番号――嫌な呼び方だぜ、と上条は眉をひそめた――何番かは知らないが、御坂の妹を助けてくれた人でもある。
(……いや、マジであの時あの人のサポートがなければ、俺はみっともなく取り乱すばかりで、仗助が来るのを待たず御坂妹は死んでいただろう……。
そのことに関してはマジに感謝してる。
御坂と一緒にお礼を言った時も、あの人は決して恩着せがましい態度をとることはなかった……)
悪党でないのは確かだ。なのだが、彼の何気なく行う所作が上条にはどうもきな臭く見える。
いや、こう言うと語弊がある。
ただ何となくすっきりしないだけなのだ。
どうも納得がいかないだけで……。
こういうことは直接本人に聞けば早いのだろう。
なんら後ろめたいことをしてる様子はないので、聞けばあっさり教えてくれるはずだ。
だが、気が進まない。
第一印象のせいか、彼との会話には圧迫感がある。
それにもし質問して、帰ってきたのが 『 沈黙 』 だったら……。
考えるだけで胃の腑がズシンとAct3フリーズ。
うっとうなった上条を
「何よ?」
とぶっきらぼうに心配する美琴。
その顔を見た瞬間、上条の脳内でビビッと素晴らしいアイデアが生まれた。
「なあ御坂」
「何よ?」
「お前、切り出しにくいんだろ。御坂妹に、話するの」
途端、美琴は口元をひん曲げて上条を睨んだ。
やはりドンピシャだ、と上条は内心手を打った。
車の時点から尋常でなくソワソワしていると思ってたのだ。
「うるさいわねッ。私だって 『 後回しにしたい 』 って思うことくらいあるわよ」
「わかってるって、重い話だもんな?」
「だったら何よ? ケンカ売ってるなら受けて立つわよコラァ」
「そうじゃねえよ」
上条はここで一層声を低めた。
「俺もあるんだよ。友人に聞き出しにくい事が」
美琴は少しだけ興味をそそられたような顔になった。
唇を尖らせ、首をかしげる。
「だから?」
「だから、協定を結ぼうぜ」
パチン、と美琴の大きな瞳がまばたきした。
次いでナニ言ってんだこいつ、と言いたげな目つきになる。
「ルールは一つ。どっちかが 『 実行 』 したら必ずもう一方も 『 実行 』 すること」
「はあぁ~~? ナニソレ、青春映画の見すぎじゃない?」
「んなもんお前に求めちゃいねえよ。ただの願掛けだ」
「はぁ?」
「お前が成功したら、俺も成功できるって気がしてくるだろ?」
美琴の眉がぴくんと跳ねた。
二人が足踏みしているのは、『 一歩 』 踏み出すことで、今までの関係が壊れてしまわないだろうか、と恐れてるためである。
あるいは質問それ自体が相手の古傷をえぐることにならないだろうかと恐れてるためである。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない……じゃねえけど、不安も共有すれば安心に変わる気がしねえか?」
「しないわよ。バァァ~~カ」
「はは……さいですか」
「けど……そうね。急に勇気がわいてきたわ」
「えっ?」
「ニブチンね。あんたの 『 協定 』 に付き合ってあげるって言ってるのよ」
「あら、御坂さんが素直」
「……」
「うおっ」
美琴は目の下に影を作り、ビリビリッと放電した。
上条も慌てて打ち消す。
威厳のある顔で沈黙する美琴に、もう不用意にからかうのはやめようと誓う上条であった。
不意に御坂妹が立ち上がった。
スカートについた砂を払い、ごく自然な動作で一歩進む。と同時にローファーを脱いでしまった。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「海を体験してきます。とミサカは間髪入れず答えました」
さくさく進みながらソックスも脱ぎ、ポケットに押し込む。
「あ、俺も行っ……て、いいですよね? 空条さん?」
見やれば承太郎は上条らを一瞥し、
「……あまり騒ぐんじゃあねーぜ」
「了解ですッ」
「ま、待ちなさい! 私も行くわよ!」
彼の気が変わらないうちにと上条は砂浜を駆けた。
後ろからもうひとつの足音が追ってくる。
御坂妹は波打ち際で一時停止し、寄せては返す波を目で追い、それから水平線を見つめた。
潮風を感じ、潮のにおいをかぐように目を閉じた。
そしてまた足元の波を見つめ、そっと片足をつけた。
「……冷たい」
ぼそりと言って、今度は思いっきり踏み出す。
「本日はミサカの海デビューです。とミサカは期待と不安に胸ふくらませる新入生のような心境で実況を始めます。
海はとても冷たいです。足の指の間にヌルヌルとした泥が入ってきます」
「大きな石を踏みました。今、初めて波の衝撃を味わいました。今にも転びそうです。
海は危険がいっぱいです。とミサカは状況説明しました」
冷静な話しぶりでぴょんぴょんと跳ねる御坂妹を見ながら、上条は呟いた。
「なんていうか……やっぱめんどくせー性格だな、あいつ」
「あんたほどウザったくもないわよ」
「うおっ」
「心の声ダダ漏れなんですけど」
「ビリビリ……わかってるとは思うが、水の中でビリビリすんのだけはやめろよ?」
「わかってるわよ、そこまで考えなしじゃないわよ、私も」
「どうだかなァ?」
「ほほぉ~~う、じゃあまずあんたから味わってみる?」
「ちょ、タンマタンマ!」
先の反省が全く活かされていない。
上条は靴を脱ぎ捨てると、逃げるように海の中に入った。底が泥状になってるため、思ったより深くまで足が浸かる。
足をとられそうになりながら上条は慌ててズボンの裾を引き上げた。
「待ちなさいよ!」
「悪かったって! いちいち切れんなよ!」
「なによ人をヒステリー女みたいに!」
後ろから追ってくる気配に上条も逃げる。
と、あるものが視界に入って上条は一時停止した。同時に肩を掴まれる。
「捕まえたわよ、この……!」
「しッ」
上条は彼女の前に人差し指を立てて黙らせた。
海岸からは死角になっている岩陰に、仗助がいた。それだけじゃあない。御坂妹もいた。
二人は向かい合って何か話しているようだった。
美琴も二人の存在に気付いたのか、文句言いたげだった表情を改める。
「ちょっと……なんで隠れるのよ」
「いや、なんていうか……」
「盗み聞きなんて悪趣味よ」
「とか言いつつお前も声ひそめてんじゃねーか」
「それは、だって、……いいじゃないちょっとくらい!」
これがあの白井嬢の言っていた 『 オッケー基準 』 というやつか。
こうして人間は 『 マズイなー、悪いなー 』 と思いつつもズブズブ深みにハマっていくのだ。
上条は罪悪感に胸をチクチク刺されながらも、耳を澄ませた。
会話の内容はありふれていて、世間話の延長のようなものだった。
今日の天気はいいだとか、でも明日は曇るらしいとか、沖には何があるだとか、水着を持ってくるべきだったとか、
そういえば好物は何だとか、本当にどうでもいいことばかりである。
こりゃ潜行しただけ無駄だったかな、と考えていると、不意に御坂妹の声質が変わった。
「そういえば、とミサカは脈絡のない会話同士を無理やりつなげる間投詞を発します。
あそこにいる……空条承太郎……についてなのですが。
なぜ上条当麻やお姉さまの名前を知っていたのですか。とミサカはかねてからの疑問を口にします」
上条当麻に衝撃走るッ!
先にッ言われたッ!
「あぁ~~? あの人エスパーじみたとこあるからなァー、予知でもしたんじゃあねーの」
「適当言わんでくださいボンクラ。とミサカは目を三角にします」
「正直スマンかった」
仗助はモゴモゴと言いにくそうな様子だったが、御坂妹は構わず、穴の開くほど仗助を見つめる。
その二人を、美琴と上条はかたずを呑んで見つめている。
先に根負けしたのは仗助だった。歯切れ悪く答える。
「あの人は……俺もよく知らねーんだけどよ~、多分俺の交友関係くれー調べられっから……たぶんそこからだと思うんだよなー」
「なにそれこわい」
「あっあー! でもヤベーことしてるわけじゃあねーんだぜ!」
「ではどのような? とミサカはずずいと身を乗り出します」
「あァァ~~~~……そうだ俺ヒトデ探さねーと」
「そこまでだぜ仗助」
「ゲエッ! 当麻!」
どこかで銅鑼の音が聞こえた気がした。
「ずいぶんきな臭いこと話してたじゃない?」
「質問に答えてもらおうじゃねーか。俺も聞きたいことは山ほどあるんだ」
上条はじわじわと距離を詰める。
御坂妹も心得たもので、後ろでディフェンスの構えをとる。
「参ったなオイ……マジかよ~」
前門の上条、後門の御坂妹、ついでに御坂美琴。
自分の状況を悟ったらしく、仗助は諦めまじりに苦笑した。
「マー落ち着け……別に大したことじゃあねぇーんだ、ホント」
「ではまずミサカの質問に答えてもらえますか。とミサカは警戒体勢は解かず問いかけます」
「あーーあァーー! わあったって! 承太郎さんはSPW財団の……偉い人なんだよ。そんだけ」
『 なっ? たいしたこたあねーだろ? 』 と言いたげな仗助とは裏腹に、三人に衝撃が走った。
「スッ! スピィィドワゴォォォォン! ですってぇぇ!?」
「あの世界的組織の、学園都市の大スポンサーのSPW財団で間違いないのですか。とミサカは確認をとります」
「おまっ、おぼっちゃんどころの話じゃねーじゃねーか! なんでそんなスゴイ人とお前が知り合いなんだよ!!」
「ほらなぁ~~やっぱそっちに話が行くよなぁぁ~~」
仗助はほとほと困った風情で頭を押さえた。
それを見るなり、上条の心のどこかが尻込みした。これ以上深入りしてはいけない、と囁いた。
次の言葉を言いあぐねていると、誰かが乱暴に脇を小突いてくる。
見ればそれはもちろん御坂美琴で、振り向いた瞬間ばっちり目が合った。
鼓舞するようでいて、どこかすがるような視線に、上条は試されているような、励まされているような奇妙な心持ちになった。
「大勢の前で言いにくいってんなら別に、この場で言ってくれなくてもいいんだけどさ」
この期に及んで予防線を張る自分にため息をつきたくなる。
「お前が空条さんとどういう関係か、言いたくねえのは 『 あの人 』 ってのが関係してるのか?」
仗助は少し黙ると、
「……ま、いつかは言おうと思ってたことだしよぉー……」
『 実は…… 』 の 『 じ 』 の形に仗助の唇が動くのを見ながら、上条は覚悟を決めた。
これから仗助がどんな真実を言おうと、『 聞かなきゃよかった 』 なんて思わない。
これから仗助が話す一切のことに俺は後悔はない。
どんな事実が待っていようと、全力で受け止めてやる……ッ!
「実はよぉ、俺承太郎さんのじーさんの隠し子なんだけどよぉ~~
そのじーさんが俺に遺産放棄してほしいらしくって、でも俺の母親まだ未練タラタラで
話進まねーしアブねーしで俺はしばらくよそにやられることになったっつーわけよ」
「三行でまとめやがった!!」
「あん?」
「軽いッ! 軽すぎるッ! 単語のショッキングさと語りが釣り合ってねえ!
もっとこうッ!
過去のトラウマとか家族の軋轢とか人間不信で心の壁がどーのこーのとか、いっそ一話まるごと回想に使っちゃってもよかったんですよ!?」
「何言ってんだおめー」
「俺の覚悟が肩透かしを食らってる……」
「いや、ワリィけど俺そんな気にしてねーし」
「なら何で今まで言ってくんなかったんだよォ!! めちゃくちゃ心配しちゃったじゃねーですかァァーー!!」
上条の叫びがまた仗助の面映ゆいスイッチを押してしまったらしく、彼は頬を掻きつつ目をそらした。
「つっても……自分から言うもんじゃあねーだろ? こーいうのはよォ~……」
「そりゃ、そう、なんですが……!」
勝手に想像膨らませてたてめーが悪い。そう言われれば、そうなのかもしれない。
だが! だが! もうちょっと! なんかこう!
と上条が苦悩するのをよそに、御坂妹が発言した。
「けっこう複雑な事情があるのだとミサカは思いましたが、なぜそんな状況で空条承太郎を尊敬するようになったのです。とミサカは素朴な疑問を持ちます」
途端、仗助の瞳が輝いた。
その光は自分の好きな漫画を布教する人間のそれとよく似ている。
「えっ? 聞きてえ? 承太郎さんのカッピョイイ エピ聞きてえ?」
「そういうことは聞かなくても話すんだなオイ」
「そう、あれは俺がユーカイされた時……」
「待て! またなんかショッキングな単語混ざってません!?」
「その空条さんだけど、さっきからすごいこっち見てるわよ」
美琴の言葉に、ピタリと男二人の動きが止まった。
いつのまにか岩陰から出てしまっていたようである。
遠くで座す承太郎は厳めしい顔のまま動かない。
「ヤベー……」
と仗助がこぼした途端、上条の耳にヒュンッと空気を切る音が聞こえた。
「っだァッ!?」
聞こえたと思ったら仗助がのけぞって額を押さえた。
遅れて、ポチャンと貝殻が海に落ちる。
ヤドカリが住んでそうな巻貝だ。
もう一度見れば、承太郎の片手はスローイングした後の形になっていた。
「いつの間に……つーかあの距離から投げたのか?」
「い、いいコントロールしてやがるじゃない……」
「ベクトル操作能力でも持ってるのでしょうか。とミサカは顎をいじりながら考えます」
「ごっ……ごめんなさァァーーい! でス!!」
承太郎は呆れたような仕草をした。
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