私的良スレ書庫
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元スレ上条「その幻想を!」 仗助「ブチ壊し抜ける!」
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~~~
戦場にたどり着いた姫神秋沙は、もう既に息も絶え絶えの状態だった。
インデックスも同様。
かろうじて余裕があるのは東方仗助だけか。
「男の子って……ハァ。ハァ。すごい……」
「羨ましくって男の子になりたいんだよ……!」
ゼエゼエと息を荒げる女の子二人に、
そうだろそうだろーと東方仗助は疲労の濃い微笑を浮かべた。
「ま、とりあえずだ。ここまで来ちまった以上は俺らも同行するけど、今更異存はねえよなぁ~?」
「ハァ。ハァ……で。でも。危険」
「い、今更……ゲホッゲホッ、そんな、ころ、わかってるんら、ゲホゲホゲホォッ!」
「大丈夫かよマジに」
背中をさすられ、なんとかインデックスは回復した。
「そんなことわかってるんだよ! 大丈夫、私は魔術のエキスパートだし、じょうすけだっておかしな変な力があるんだから!」
「おかしな変な力はねーだろぉ。フードも変形させるぞコラ」
「こ、これだけは駄目なんだよ!」
慌てて頭を押さえるインデックスに、ふ、と姫神秋沙は唇を緩ませた。
しかし、すぐ引き締められる。
「やはり。駄目。あなた達を巻き込むわけにはいかない」
「もう十分巻き込まれてるっつーの、なあ?」
「うんうん!」
「それでも駄目。命の危険」
「その気持ちはわかるけどよぉ~ここでスゴスゴ帰ったらそっちのが後味悪ィって、な?」
「それでも……」
「あ! ならあいさ、ジャンケンするんだよ! はい、最初はグー、じゃんけん」
「え」
「勝ったぁー!」
「おぉ~し、じゃ、決定~~」
「だ。駄目。今のはずるい」
「ふふーん、勝ったものは勝ったもん」
「後だしならぬ早出し。ずるい。三回勝負」
「のぞむところなんだよ! じょうすけ!」
「おっし、じゃ、俺がレフェリーやるぜ。いいかぁ? 三回勝負だから今インデックスの一勝ゼロ敗だ。後出しはその場で負け。あいこはもう一回だ」
「うん」
「わかったんだよ!」
「よし……じゃぁよぉぉい~~~…………はじめ!」
「最初はグー、じゃん」
「けん」
『 えぇい! 憤然! 入るならさっさと入ってこんかァッッ!! 』
突如、ビルから轟いた怒声に三人はしりもちをついた。
「い、今のは何かな?」
「……『 あのヒト 』 の声」
「え? じゃああれか、無事だったんじゃあねぇか」
「よかったね、あいさ!」
「それより足が勝手に入り口に向かうことを疑問に思うべき」
「いやだってとまらねぇもんよコレ。インデックス?」
「これはっ……魔術なんだよ!」
言っている間に三人は自動ドアをくぐっていた。
そこで脚の動きもぴたりと止まる。
日は既に落ちていた。
玄関のエレベーターホールは照明が落ちており、月明かりだけが辺りを照らしている。
貧血の女性に似た青白い光だけが、そこに満ちていた。
インデックスはさっきと打って変わって深刻そうな面持ちで辺りを見渡した。
「これは……外敵から身を守るための結界じゃない。内に入り込んだ敵を逃がさないための殺界……むむ、モデルケースはエジプトのピラミッドっぽいんだよ」
いや、陶芸家が器を選ぶときのそれだった。
どんな薄味の変化も見逃さぬよう眼光鋭く検めていく様子は、自らをエキスパートと称するだけはあった。
そして東方仗助も。
「……んで。そこにいるヤローが吸血鬼なのかよ?」
微細な気配を見逃さない。
ハッと二人が見上げれば、ホールの二階から男が自分達を見下ろしていた。
長身の男だった。
オールバックにした緑の髪。イタリア製の純白のスーツ。
ともすれば笑いものになりかねない風貌はしかし、男自身の端正な美貌とよくマッチしていた。
男は、ゆっくりと口を開く。
「――快然。よくぞ帰った、『吸血殺し<ディープブラッド>』よ」
「……生きていたの」
姫神は安堵したように言う。
それに男は冷笑を浮かべた。
「当然。私が死ぬ道理なし。現前。わけのわからんモノも混じってはいるが、依然。すばらしい土産を持ってきた。『 吸血殺し 』」
「……?」
姫神秋沙の眉間に薄く皺が寄る。
そして口を開いた。男の名を呼ぼうとしたのかもしれない。
だがそれは男の次の言葉にかき消された。
「久しいな、禁書目録よ」
東方仗助と姫神秋沙、二人の視線がインデックスに集まった。
「なんだ、おめー知り合いなのかよ」
「う、ううん。見たこともない人なんだよ?」
「でも。あのヒトはあなたを知ってる。変な話」
「う~~~ん……そんなこと言われても」
「インデックスよぉ、知ってるヤツがすべてとは限らねーぜ。たとえば生き別れのオトーサンとか」
「おお。それなら。あちらだけ顔を知ってるのも納得」
「唖然。何だその飛躍は」
男はあきれたように半眼になる。が、
「パパ……?」
インデックスがまっすぐな瞳で呟くや、カッとその目力が強まった。
『パパ……?』
『パパ……?』
『パパ……?』
『 パ パ ……? 』
『 パ パ …… ? 』
「陶然。なんと甘美なる響きよッ……!」
「――――って否!!」
「いい人じゃねぇか」
「いい人なんだよ」
「そう。いい人」
いい人いい人と指を差されて、男はうっと対応に窮したようだった。
それから重く息を吐き出す。
「必然。茶番は十分。これ以上時間を裂く必要もなし――」
男はゆっくりと、だが鋭い動作で細い鍼(はり)を取り出した。
姫神秋沙の顔色が変わる。
「なっ……」
その鍼を己の首に突き立て、男は告げた。
『言葉』を。
「 『 眠 れ 』 」
瞬間。
糸が切れたように三人は床に倒れ伏した。
「ふむ。必然……相も変わらず禁書目録はすべてを忘れているのだな」
静かになったホールで。
男は一人ごち、ゆったりと階段を下りてくる。
そしてまっすぐにインデックスの元へと向かった。
男はしばらく、安らかに眠る少女を見つめる。
そしていとおしそうな手つきで前髪を払った。
「否……それでこそ僥倖と呼ぶべきか……」
「――――警告。第十三章第六節。本体に明確な敵意を持っての攻撃を確認」
背後からの声に、男はぎょっとした。
「な、にィ……!? ばかな、この小僧、なぜ意識が……!」
いや違うと男は即座にその考えを 『 打ち消した 』。
明らかに雰囲気が違う。まるで、そう。まるでもう一つの人格に交代したかのような――。
「現存する魔道書を用いて先ほど受けた魔術の逆算に成功しました。代理詠唱によって言語哲学の理論を万物に応用した錬金術と判明…………本体の許可は下りず。
『 特定魔術<ローカルウェポン> 』 の作成、および迎撃を中断します」
物騒な台詞に、男の眉間の皺がますます深くなる。
少年は動かない。
倒れた格好のまま。目だけが動いて男の姿を捉えた。
「この総体意識が保有する記憶と照らし合わせたところ、あなたは、錬金術師・アウレオルス=イザードではありませんか」
「貴様は……」
男――アウレオルス=イザードには覚えがあった。
かつて自身の理想を粉々に砕いた 『 少女<じごく> 』――――その内を縛る 『 鎖 』――――最後の瞬間に現れた感情のない瞳の――
――『 少女<うつくしく生きる子ども> 』 を 『 人形<魂の抜けた存在> 』 に様変わりさせた、あの、忌々しい記憶、汚らわしい、あの――――。
「慄然。まさか 『 自動書記<ヨハネのペン> 』 か……!?」
「はい。魔術として付けられた名は自動書記で間違いありません。
今は 『 亜・禁書目録(インデックス・レプリカ) 』 もしくは 『 副書版禁書目録(アナザーワン インデックス) 』 と呼んでいただければ幸いです」
「必然……貴様は禁書目録の 『 守る物<ボディガード> 』 のはず。愕然。なぜそのようなところにいるのか」
「答えかねます。許可が下りていません」
「どこからの許可か。イギリス清教……否、必要悪の教会<ネセサリウス>か」
「答えかねます」
男はチッと舌打ちした。
先ほどまでの泰然とした態度からは考えられない行動だ。
「して、ここに現れて何をしようというのだ?」
「現状、あなたの魔術による本体の影響は微少です。これ以降あなたが本体に危害を加える可能性は未知数ですが、
『 命の危険がない限り、現状を維持する 』 のがこの自動書記、ならびに本体の総意です」
「……」
「したがって問います。アウレオルス=イザード、あなたの目的は何ですか」
「答え次第によって……貴様の対応も変わるということか」
「はい」
返事は簡素なものだった。
「現然。嘘をついても仕様のないこと。私の目的は――」
アウレオルスはこつこつと靴音を立て、自動書記に近づく。
磨き抜かれたイタリア製の革靴は自動書記の顔の横で止まった。
「――『 吸血殺し<ディープブラッド> 』、ならびに 『 禁書目録 』 の獲得だ」
「姫神秋沙の所有に関しては理解しかねますが、魔道書の 『 閲覧 』 が目的の一つということでしょうか」
「判然としたことであろう。禁書目録の所有は十万三千冊の所有。当然。目的はそこにしかない」
「では、あなたが目的を達するのは難しいかと思われます」
グ、とアウレオルス=イザードの口角が歪んだ。
憎憎しい表情を笑みで塗りつぶしたようにも見える。
「『 思う 』、か……。唖然。失笑。随分と人間らしくなったではないか」
「十万三千冊の開示は禁書目録の精神を脅かす危険があると言っています」
ピクリ。
アウレオルスのこめかみがわずかに動いた。
「……なぜだ?」
「簡潔に説明すると、外側から記憶を 『 見る 』 ことは脳を開き、摘出し、電磁波をかけるような物理的手段となんら変わりないからです。
『 閲覧 』 後、本を 『 閉じた 』 時に、禁書目録が正気を保っている保障はありません。
口頭伝承のように 『 くちうつし 』 で魔道書を共有する方法もありますが、そこから生じる齟齬については責任を負えません。
また、その場合禁書目録が 『 本心から 』 あなたに協力する保障もありません」
「……禁書目録の精神を傷つけず 『 閲覧 』 する方法は?」
「ありません。したがってあなたには、十万三千冊の書庫は閲覧不可能です」
「十万三千冊の書庫 『 は 』……? 釈然とせんな。まるで他にも 『 禁書目録 』 があるような……
……待て。卒然。禁書目録から離れた貴様が、なぜ依然 『 インデックス 』 を名乗る?」
暗い眼差しが、まっすぐアウレオルスを見据えた。
「個人名・インデックスの精神に損傷を与えず魔道書を 『 閲覧 』 することを希望するのでしたら、現在あなたが 『 閲覧 』 可能なのは、
この自動書記が管理する九万八千冊の 『 書庫 』 のみ――」
「――つまり、この 『 インデックス 』 です」
すなわち。自動書記は 『 守る物 』 でありデータベースでもあるのだ。
通常、記憶を 『 見る 』 には潜在意識にもぐりこむ必要がある。
表層意識(うわべの意識)には(あるいは本人にその気がなくても)雑念や嘘が混じりこんでいるからだ。だがそれでは脳にダメージが与えられる。
これを克服するのに必要なのが自動書記の介入だ。
自動書記は、表層意識上に特定の記憶をまっさらなまま表示することができるのである。
これは自動書記の機械的精神ゆえに可能な行為なのかもしれない。
インデックスの中にいた時は、記憶どころか魔力さえ管理下においていた。
そのため、インデックスのあらゆる潜在能力(キャパシティ)は自動書記の思い通りになっていたのである。
当たり前だが、東方仗助の場合はそうではない。
自動書記が東方仗助と共有しているのは 『 転送 』 以降のエピソード記憶のみだし、『 透明の戦士 』 は完全に自動書記の理解の範疇外、管轄外である。
だがそれは東方仗助にとっても同じことだ。
東方仗助が自動書記の 『 インデックス時代の記憶 』 を知ることはできないし、魔道書も彼の触れられるところにはない。
したがって今現在、自動書記<データベース>に入っているのは 『 欠損した魔道書のコピー 』 および 『 インデックス時代から現在までの記憶 』 だけである。
「……僥倖」
そしてアウレオルス=イザードには、それだけで十分だった。
「命拾いしたな少年。否、むしろ不運と言うべきか」
「……この総体意識が持つ疑問ですが」
自動書記はアウレオルスの横顔を見つめながら言う。
うっすらと笑みを浮かべた横顔を。
どこか空っぽな笑みを浮かべた横顔を。
「あなたは――『 もう魔道書を書くのをやめたのですか 』」
ピクピクッ。
二度、こめかみが反応。
「禁書目録に足繁く魔道書を届けにきたのを、この総体意識は 『 覚えています 』。
あなたが禁書目録に何を語ったかも 『 覚えています 』。あなたは禁書目録を記憶の消去から救いたいと語っていました。
現在、十万三千冊を欲するあなたとは齟齬があるように感じま」
「 『 思 考 を 停 止 せ よ 。 空 虚 な 人 形 』 」
そこで自動書記は口をつぐみ、瞼を閉じた。
アウレオルス=イザードは、数秒、凍りついた瞳で東方仗助の体を見下ろしていた。
「……んぞが……!」
そして唐突に無表情は砕け散る。
「貴様なんぞがァッ! 私と禁書目録の深遠な思い出を覗き見るのではないィーーーッッ!!」
光沢のある靴が東方仗助の体を蹴り飛ばし、頭を踏みつけた。
そこで急ブレーキをかけるようにアウレオルスの動きが止まる。
フゥフゥと息を荒げるアウレオルスの表情は苦渋に染まっていた。
まるで直前の感情に任せた行動を後悔するように。
「……厳然。貴様にはわからぬだろう、魔術仕掛けの人形よ。この私が何を思い、何を願うか……たとえ同じ記憶を持っていようとも」
アウレオルスは天を仰いだ。
夢見るような、そしてどこか空虚な目のまま、そうして己をかき抱いた。
「禁書目録<インデックス>、偽・禁書目録<インデックス・レプリカ>、吸血殺し<ディープブラッド>……これだけあれば……」
「これだけあれば、必然。『 あの方 』 も喜んでくださるだろう……」
「そして……」
アウレオルスは目を閉じる。
窓から差し込む月明かりはどこまでも硬質に、部屋を照らし出していた。
~~~
「それは本当か!? 『 吸血殺し 』 があの二人と一緒に!?」
「ああ! 見たヤツがいるから間違いねー!」
言い合いながら二人は走っていた。
「くそっ……あのクソッタレ! 巻き込まれるなら自分ひとりにしておけばいいものを!」
「言ってる場合かよ! とにかく……早く三沢塾に行かねーと!」
一刻を争って二人は走る。
決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。
→ TO BE CONTINUED....
――今日はここまでです――
――あ、れ……仗助がまるで六部太郎。これから活躍します、グレートに、うん――
本命:DIO様
対抗:スト様
大穴:ヌケサク
空気:鋼線のベック
対抗:スト様
大穴:ヌケサク
空気:鋼線のベック
フウウウウウウ~~~
私……
朝の……八時半ごろの……プリキュアシリーズ、
ありますよね…あれの無印の……お互いの呼び名が「雪城さん」「美墨さん」から……
「なぎさ」「ほのか」に変わる回……。
あれ……初めて見た時…
なんていうか……その…下品なんですが…フフ…………
そういうわけでこのSSでも試してみたんですが……
性別が違うだけでなんかキm
というわけで投下します。
「突撃――」
ステイル=マグヌスは言った。
「――するま、えにいちお、はっ……! ハァ、ハァ、いち、お、てき、の、ハァ、ハァ……!」
「お前体力ねえんだな……」
上条当麻は背中をさする。
何の因果か、それはここに突入する前の東方仗助とインデックスの行動と全く一緒だった。
「うううるさい! 気安く触ってくれるんじゃあない、ハァ……!」
「へーへー」
ステイル=マグヌスは何やら言いたそうに口を動かしたが、結局飲み込んだ。
「突撃する前に、敵について触れておこうか。
敵の名は 『 アウレオルス=イザード 』 という。
もとはローマ正教に属す魔術師だったんだが、何を思ったか三年前から行方をくらませていてね。ああ、アウレオルスという名で分かる通り、彼はかの有名なパラケルススの末裔さ。
といっても力は伝説に聞くほどでは……うん? 何だい?」
「悪い。まったくわからん」
「……こういう時日本ではなんていうんだっけ? ああ、『脳ミソ筋肉』か」
「なんですってこのヤロウ! 魔術側の常識なんかわかるかっての!」
「騒ぐなよ。パラケルススとは、知名度なら世界でも1・2を争う錬金術師の名さ」
「じゃあかなり強いヤツなんだな、アウレオルスってのは」
「いいや。アウレオルスの名は一流だが、アレ自体は大したことない。そもそも錬金術師なんて職業はないんだ。錬金が 『 よくできる 』 人間が自称しているだけでね」
「はぁ……? でも錬金術に関してはすごいヤツなんだろ?」
「言い方が悪かったかな」とステイルは片眉を上げた。
「秀でてるんじゃあない。それ以外に能がないんだ。その差については、君に使った『脳ミソ筋肉』というたとえがよく表してると思うけど?」
「……なるほど?」
上条当麻はこめかみをひくつかせつつも頷いた。
「それに錬金術自体、完成された学問ではないしね……たとえば君は、錬金術について何を知ってる?」
「鉛を金に変えたり、不老不死の薬を調合したりとかか?」
「それは実験に過ぎない。アウレオルスの属するチューリッヒ学派とはヘルメス学の亜流なんだがね。彼らの究極的な目的はすべてを『知る』ことにある。
世界のすべての『公式』『定理』を調べ――――世界のすべてを頭の中でシミュレートする事さ」
「なんだそりゃ?」
「魔術において頭の中に思い浮かべたことを現実世界に引っ張り出す術はありふれている。錬金術においてそれを応用すれば――
――神や悪魔すら含む『世界』をすべて、自分の手足として使えるようになるんだ」
「……、おい。お前さっき錬金術師なんて大したことねーって」
「だから完成されてない学問と言ったろう? いや、正確には完成 『 できない 』 んだよ」
「はぁ?」
「世界のすべてを知るには世界のすべてを語りつくさねばならない。それこそ砂漠の砂一粒一粒、夜空の星々の一つ一つまでね。
それらをすべて語るにはどのくらいの時間がかかると思う? 百年や二百年じゃ済まないと僕は思うがね」
「……」
「つまりそういうことさ。呪文自体は完成している。だが、それを完成させるには人の寿命は短すぎる」
「……逆に言やあ、どうにかしてその呪文を唱えちまったら無敵ってことだろ?」
「君って結構ネガティヴだね? そもそも不死身でもなきゃ唱えきれない呪文をどうやって――」
と、ここでステイルはハッと目を見開いた。
「いやしかし……そうだな。ありえないとは思うが――君の言う 『 可能性 』 も考えておいたほうがいいかもしれない……」
「どうしたんだよ?」
ステイル=マグヌスは忌々しそうに言った。
「覚えてるかい。インデックスを追っていた僕らが、何者かに 『 暗示 』 をかけられていたことを」
「……ああ」
「犯人は目下捜索中だがね。いまだ手がかりの一つもつかめていない。僕はおろか 『 聖人 』 である神裂まで術中にはめるなんて並大抵の術師ではないと踏んでるんだが……
……手がかりがつかめないのは、犯人が 『 つい最近まで大したことない魔術師だったから 』、だとしたら?」
「アウレオルスが、そうだって?」
「ああ。もし仮にヤツが何らかの方法で錬金術を完成させたんだとしたら……僕らを操るのなんて赤子の手をひねるようなものだ。
『 言うことを聞け 』 と念じるだけでいいんだからね」
「おいおい、まずくねぇか?」
「じゃあどうする? 君はここでお留守番でもしてるのかい?」
「……ッ!」
「行くよ」
ステイル=マグヌスは小さく言った。
北棟の最上階にその部屋はあった。
『 校長室 』 と名づけられた、一フロアを丸々使ったその巨大な空間は校長というより社長室のような構えだ。
そこは以前、三沢塾の校長が使っていた空間だった。
そして 『 すげかえ 』 が行われた後は、とある錬金術師が。
今、そこにいるはずのアウレオルス=イザードはいない。
窓を背にするデスクには、奇妙なデザインの修道服を着た少女が横たえられ、
応接用のソファには巫女服の少女が。
一番ぞんざいな扱いなのは学生服の少年で、床に投げ出された格好のまま倒れている。
照明はなく、月明かりだけが部屋を照らしていた。
「――――警告。第十三章第十節」
静寂が破られる。
東方仗助の瞼がうっすらと開いた。
「――――この総体意識に対する外部からの介入がありました。星の位置と月の角度から見て、機能停止時刻は日本標準時間で18時13分から30分まで。
……現状を把握。意識喪失以外の被害はありません」
むくり、と東方仗助の体が起き上がる。
「この総体意識に介入した魔術の逆算に成功。術者・アウレオルス=イザードを現時点より敵兵<パーソナルエネミー>と認知します。
…………本体の許可は下りず。索敵と掃討準備の中断――」
次に、彼の瞳は二人の少女に向けられた。
しばらくの間の後、すぐそばの姫神秋沙に手を伸ばす。
前髪をかき上げ、手のひらを彼女の額に当てた。
「……問題ありません。再起可能です」
それから、すっと手を垂直に構え、
「現状、最適の方法で覚醒を促します」
スパーンと小気味いい音がして、姫神秋沙の頬に平手が炸裂した。
「……!? いっ。い。痛ッ……!?」
「全力の32%の力で覚醒を確認。第二段階に移行します」
呟くと、東方仗助は姫神秋沙の頬を両手で挟んだ。
そのままぐっと顔を近づける。
「え。えっ」
「動かないでくださると幸いです」
「まっ。待って。それだめ。ひやっ」
姫神秋沙は思いっきりのけぞった。
しかしなぜかソファはビクともしない。鋼鉄でもあてがってるような感覚だ。
姫神の力では顔を固定した手は到底振り払えず、押しても叩いても大柄な体は揺らぎもしない。
「……!!」
おきぬけの危機に姫神秋沙は声なき悲鳴を上げた。
ぎゅっと目を閉じた瞬間、額を何かが掠める。
そして覆いかぶさっていた体はあっさり退いた。
「……え。わ。な」
姫神秋沙は額を押さえたまま、ずるずるとソファからずり落ちた。
それを見もせず東方仗助は呟く。
「――姫神秋沙の保有する霊装の仕組みを逆算。……脅威性はありません。保有を許可します」
「な。何」
「第三段階に移行します」
東方仗助は自身の人差し指を噛んだ。
応接用のデスクに血を垂らし、指で塗り広げていく。
「何を。やってるの」
淡々とした動きが、ぴたっと止まった。
音もなく東方仗助の首が回り、言葉の主を捉える。
あまりに人間的でない動きに姫神秋沙は怯んだ。
「魔方陣を描いています」
「魔法。使うの?」
姫神秋沙の目に光がともった。
「いいえ。魔術の使用はこの肉体にダメージを与える可能性がありますので」
「なぜ敬語? それにキャラが……」
「……」
東方仗助は無表情に彼女を見た。
姫神秋沙も無表情に彼を見返す。
表情がないのはどちらも同じだったが、姫神秋沙はどこか温かみがあり、東方仗助は温度自体なかった。
「この意識総体はあなたの知る東方仗助本体ではありません。しかし本体の残存意思が出す指示と承認によって動いています」
「残存。意思?」
「東方仗助は 『 夢 』 の中でこの自動書記に指示を出している、と考えてもらって構いません」
「あなたは。自動書記<ヨハネのペン>というの」
「はい。ですが今は 『 副書版禁書目録<アナザーワン インデックス> 』 と呼んでいただければ幸いです」
「アナザー……長い。あだ名をつけても?」
「その心理は分かりかねますが、どうぞ」
「アナザーワン……あな……アナちゃん……いや。それは。いけない。アナ……イン……いけない」
ぷるぷる頭を振る姫神秋沙を、東方仗助は黙して見つめていた。
「後で考えるとして。魔法を使わないのになぜ魔方陣を?」
「現在、この建物は魔術を包括的に展開することによって侵入者を明確に探知できる作りとなっています。
したがって、局所に特定された対象のみをターゲットとする陣を敷くことで現在位置を知らせる仕掛けを作りました」
「???」
「…………」
東方仗助はしばらく考え込むように目を閉じ、
「現在、この建物は赤の絵の具で塗られたカンヴァスのようなものです。赤い絵の具はアウレオルス=イザードの魔力と考えてください」
アウレオルス、の名に姫神は反応したが、黙って続きを促した。
「魔力は個人によって特性があります。アウレオルス=イザード以外の人間がここで魔術を使うのは、この赤一色のカンヴァスに青い絵の具を塗りつけるようなものです。
陣を敷いても同様です。魔力を注ぐ注がないにかかわらず、異物としての存在感は変わりません」
「ふむふむ」
「しかしこの魔方陣はアウレオルス=イザードの魔術を逆算した式に基づいて作成されています。
つまり、限りなく赤に近いピンクです。感知されたとしても 『 色むら 』 として処理される程度でしょう」
「でも。それじゃあ意味がない」
「はい。ですがこのピンクは 『 ある人間にとっては青に見えるピンク 』 なのです」
「そんなことが?」
「可能です。たとえば色盲の人間は緑を灰色に感じます。オレンジを緑に感じます。このような差異は術者同士によく見られることです。
今回はその差異を極端にして 『 陣 』 を作成しました」
「…………あなた。それとなくすごい?」
「…………理解していただけて光栄です」
沈黙が落ちる。
しかしお互い気まずそうな様子はない。
姫神秋沙はふむ、とうなった。
「……なんとなくわかった。あなたのしていること。SOS信号を作ってる。誰かに向けて」
「はい」
「誰。『 ピンクが青に見える特定の人物 』 って」
「……」
東方仗助は、ふ、と窓に目を向けた。
いや、正確には窓側のデスクに寝かされているインデックスに、である。
「 『 彼 』 はこの自動書記を疎んじていますが、『 彼女 』 は別ですので」
「……?」
「おそらく来ます」
「……」
「どうしたステイル?」
「いや。どうやら無駄が省けたらしい」
それにしては忌々しそうな顔でステイル=マグヌスはタバコの煙を吐いた。
一応塾内は禁煙なのだが、誰もそれをとがめる者はいない。
「めぐみー、おつかれ~~」
と、女子生徒が上条当麻のすれすれを横切った。
まるで上条当麻などそこにはいないかのように。
というか、彼女にとってはまさしくそうなのだ。
「コインの表と裏だね」とステイル=マグヌスは言った。
上条当麻にはいまいちよくわからないが、要するに侵入者をコインの裏の世界に引っ張り込んでしまう結界が張られているらしい。
三沢塾の生徒はコインの 『 表 』 にいるため、『 裏 』 にいる上条たちを視認することはできない。
同様に、裏の世界の上条たちも表の住人には干渉できない。
ついでに言うなら三沢塾という建物も 『 表 』 側に位置するため、『 裏 』 側の人間はエレベーターのボタン一つ、入り口のドア一枚、動かすことは不可能だ。
だから階段を使ってあちこちを虱潰しに探索せねば――。
と、長々しい説明が途切れたと思ったらコレだ。
しかもそれ以上説明する気がないようなので、
「無駄、って?」と上条当麻は重ねて聞かなければならなかった。
「あの子の居場所がわかったよ」
「本当か!?」
「嘘をついてどうするんだよ。…………ふん。『 人形 』 とクソッタレの取り合わせ<デュオ>にしては上出来じゃないか」
「? それってどういう」
「有能なスカタンほどムカつくものはないって話さ」
「はぁ?」
と言ってから、さすがに上条当麻も察した。
同時にあきれたような表情になった。
「お前って本当、仗助が嫌いなんだな……」
「君だってどっこいどっこいだってことを忘れてもらっちゃ困るね」
「やっぱアイツがインデックスとちゅーしたから?」
「ぶぅっ!?」
非常にわかりやすい反応だった。
真っ赤になってむせこむステイルに上条は追い討ちをかける。
「お前インデックスが好きなの?」
「ごへぇっぇっ!!? なななにゃにをバカな君はッ! ああれは保護すべき対象であり、けっ決して恋愛対象には――ッ!」
「そうかい。でも嫉妬深い男は嫌われるらしいぜ?」
「だから違うと言ってる!」
「じゃあ誰に嫉妬してるんだよ? お前もしやアッチ側のお方ですか? あ、もしかして自動書記のほ――」
そこで上条当麻は口をつぐんだ。
ステイルの眼光が一気に鋭さを帯びたからだ。
喋りすぎたかな? と思うと同時、ステイル=マグヌスは胸糞悪そうに吐き捨てた。
「あれに自我を与えたのは――――――多分、僕だ」
「は?」
「行くよ。こんな話をしてる場合じゃない」
「お、おいっ、待てよ!」
さっさと階段を上がっていくステイルを追おうとして、上条当麻はふと妙な感覚に襲われた。
首筋がやたらとむずむずする。
うなじの毛が当たってるのだろうか?
いや、それにしてはなんというか――ワサワサするというか――。
「ッッうおおおおっ!!?」
何の気なしに手をやって、上条当麻は驚愕した。
「く、く、クモォ!?」
だちゅん、と生々しい音を立てて床に叩きつけられた八本脚は、ワサワサと地面を這い回る。
いや――ただのクモじゃあない!
「な、なんだコイツは? こんな鬼のようにデカいクモが実在するのかよ? 赤ん坊の頭くらいはあるぞ!?」
続いてびちゃ、と音がして上条当麻は振り向いた。
ステイル=マグヌスが憤怒の形相で口元を押さえていた。
すぐそばの地面には、吐き出されたのであろうミミズがうねうねと体をくねらせている。
「タバコ……が、なったのか、それに……」
うぷ、と思わず上条当麻も口を押さえる。
「アウレオルス=イザードォォ~~~~……!!」
地獄の底から這い登ってくるような声で、ステイル=マグヌスは呪詛を吐いた。
「いつからこんなに陰湿になりやがった……!!」
だちゅ。だちゅ。だちゅ。だちゅ。だちゅ――。
としか言いようのない音が、上条当麻の耳に届く。
肉厚的な濡れた音は確実にこっちを目指しているようだ。
ものすごく、ものすごーく嫌な予感がしつつも上条当麻は振り向いた。
ゆっくりと、階下を――。
「――熾天(してん)――の翼は輝く光、輝く光は罪を――――」
「暴く純白、」
「純白――は浄化の証、」
「証は行動の結果、結果は未来――未来」
「は時間、時間は一 ――――律」
悲鳴も出ない。
ブツブツと呟く言葉の意味はわからないが、 『 言わされている 』 のはよくわかる。
上条当麻と同じ年頃の少年少女の顔は、みな一様にうつろだった。
少年少女は階段を、『 壁 』 を、『 天井 』 を、『 階段の手すり 』 を伝ってこちらを目指す。
「「「「一律は全て、全てを創るのは過去、過去は原因――」」」」
「逃げ……るぞ……」
呆然とした魔術師の声。
かくかく頷きながら上条当麻は後退った。
『 あれら 』 が何をしようとしているかはもはや問題ではない。
戦いたくなかった。
上条当麻もステイル=マグヌスも本気で 『 それら 』 と対峙したくなかった。
「「「「原因は一つ、一つは罪、罪は人、人は罰を恐れ、恐れるは罪悪、罪悪とは己の中に」」」」
尊厳とか無関係な人間は傷つけたくないとかじゃあない。
もっと生理的なものが二人に背を向けさせる。
「「「「己の中に忌み嫌うべきものがあるならば、熾天の翼により己の罪を暴き、内からはじけ飛ぶべし――ッ!」」」」
「「きゃああぁぁぁぁああーーーーーッ!!!?」」
蝸牛<カタツムリ>と化した体を引きずりながら、三沢塾生が這い上がってきているのだった。
こつこつ、と姫神の細い指がドアをノックした。
手ごたえはない。
それからドアノブに手がかかる。錆付いた蛇口のようにビクともしない。
姫神秋沙はくるりと振り返った。
「あなたの言った通り。ドアを開くこともできない。脱出は無理のよう」
「確認が終わりましたら……」
と、東方仗助はいったん口をつぐんだ。
何かに耳を傾けるように、少しだけ首をかしげる。
「他に確認事項はありませんか」
「ん。ない。と思うけ」
ど。を言う前に東方仗助の瞼がストーンと落ちた。
唐突な動きにまたしても姫神秋沙は怯んでしまう。
「――――現時点をもってすべての作業を終了したものとみなし、自動書記を休眠します」
再び開いた目には、生きた人間の光が戻っていた。
「はぁ~~~~~~~~……」と長々しいため息が落ちる。
それからひょいと顔を上げると、東方仗助はいつもの調子で「よお」と片手を挙げた。
「え」
姫神秋沙はぱちりと瞬きする。
「ったく、さっきから何ベン言っても代わりゃしねぇんだもんよ~。
助けてもらうのはいいとしてもよぉ~あの喋りは何とかなんねぇのかよ~~俺のキャラでやったらギャグじゃあねぇかほとんどぉ」
「待って」
「あ?」
「説明」
「おお」
「……つまりあなたは二重人格」
「いやぁそうじゃあなくってよぉ……マーそれでいいんじゃねぇ?」
「かなり適当。自分のことなのに」
「正直俺もよくわかってねぇんだよ。勝手にカラダ間借りされてるってことしか」
向かい合わせのソファにだらしなく座ったまま、東方仗助は投げやりに言った。
姫神秋沙はふうんとうなる。
そこで、東方仗助は何かに気づいたように眉を上げた。
「あぁ~~~俺がひっぱたいちまったのか、それ」
「ん。でも平気。痛くはない」
「んなわけねぇだろーよ、ちょっと見せてみな」
言うなり彼は向かいのソファから腰を上げた。
何かを思い出したのか、姫神秋沙はギクリと体を揺らす。が、結局おとなしく頬を突き出した。
赤くもみじの散った白い肌に、東方仗助の手が触れる。
その場に上条当麻がいたら、東方仗助の体から何かが出てくるのを見ていただろう。
ズギュン。
感覚としてはこんな音が聞こえた気がした。
姫神秋沙はぱちぱちと瞳を瞬かせた。
触れられたところから、ウソのように痛みが引いたのである。
「おし、もう平気だな」
「あなた。やっぱり魔法使い?」
「いやぁ~多分超能力者寄りじゃあねぇの? 俺のダチに言わせりゃ、それもチビッと違うみてぇだがよ~」
「やはり適当。もう少し自分に真剣になるべき」
「困らねぇし」
「きっと困る」
「じゃあ明日やろう、」
「はバカヤロウ」
「キビシー」
「事実。ねぇ」
姫神秋沙は東方仗助の手元を指差した。
正確には彼の人差し指である。魔方陣を描いた際に傷つけた指だった。
「それは治さないの」
「ん、あぁ。自分の怪我は治せねーみてぇなんだよな。世の中都合のいい事ばかりじゃねぇってことだ」
「厳しい。現実」
と言って、姫神秋沙は何かを噛み締めるような表情をした。
口元に手を当て、思案する。
「アウレオルスは。何をしようとしているの」
「さーなぁ」
「あのヒトは。私だけでなく。あなたと彼女も閉じ込めた。それはなぜ?」
「多分俺らに生かすだけの価値ってモンを見出したんだろーぜ~。にしたって……随分丁寧に扱われてるよなぁ~あいつは」
ふたりはデスクに横たえられた少女を見た。
だが、ただ横たえられているわけではない。
新品のマットらしきものが彼女の下に敷いてあった。漂白無着色のそれは低反発らしくインデックスの体にしっくりなじんでいる。
さらに絹<シルク>100%です! と言われても頷ける柔らかそうな毛布が彼女を優しく包んでおり、極めつけはふっかふかの羽毛枕だ。
全国安眠教会がトリプルAを出しそうな環境だった。
「むにゃむにゃ……とうまぁ……」
「確かに。私達に比べればその扱いは破格。というか露骨」
うっすら「解せぬ」という顔で姫神。
「つか、俺達モノには干渉できねーんじゃなかったのかぁ?」
東方仗助はガンガンと硬いソファを殴りつけた。
「多分アウレオルスの力。『これらの安眠セットに干渉できるようになれ』とでも言ったんだと思う」
「あん? ……そういやお前、あいつの力を知ってる風だったよなぁ」
あの時。
玄関ホールでアウレオルスに攻撃を受けたとき。
後ろ手から鍼を取り出したアウレオルスを見て、姫神秋沙は青ざめた。
鍼を取り出した 『 だけ 』 で。
インデックスにとっても東方仗助にとっても意味不明な行動に、姫神秋沙は意味を見出した。
それは、彼女が次に何が起こるかを知っていたからだ。
「……仕組みは知らない。でも。見たことは。ある」
「アウレオルスはあれを――」
「『 言葉のまま、何でも操ることができる魔術 』だと言っていた。錬金術の到達点。『 黄金練成<アルス=マグナ> 』だと」
「…………ふぅぅ~~~~ん?」と東方仗助はうなった。
「うん」と姫神秋沙は頷いた。
どちらも魔術に疎いからこその、ぺらぺらに薄い反応だった。
「んな都合のいい能力があるかよ」
「うん。それを言われると」
「っつーか、あいつが魔術師ならインデックスが優遇される理由が見えてきたぜ~」
「その心は」
「マー色々あって知ったんだけどよぉ、あいつは頭ん中に十万三千冊の魔道書だかを記憶してんだ。多分それが……」
「待って」
鋭い声が東方仗助を制した。
姫神は瞳に愕然と呆然と、それ以上の閃きの光を湛えて東方仗助を凝視した。
自然、彼の目つきも真剣みを帯びる。
「どうした?」
「その話。聞いたことがある。十万三千冊の魔道書<どく>を抱えている子。たった一冊でも発狂しかねない本をたくさん。記憶させられた子。
アウレオルスが昔に出会ったと言っていた。アウレオルスが昔教会にいたころに。
その子は知識<どく>の影響で――」
『一年おきに記憶を消去しなければならない』
少年と少女の声が重なった。
「だから。アウレオルスは吸血鬼を欲しがった。その子を記憶の消去から救いたいから。そう。だから彼女をここに運び込んだ?」
「おぉ~~!! すげーな繋がったぜ姫神ィ! つーかなんだ、やっぱあいついいヤツだったんじゃあねーか」
「アウレオルスはいい人。ただちょっとのめり込みやすいだけで」
「あいつ(自動書記)に攻撃させないで正解だったか。
ん~~~だけどよぉ、そのプランにゃちょっとした致命的な欠陥があるぜぇ~」
「間然。一体いかなる思考にて私の思想に異を唱えるか」
凛<りん>。
静寂に鈴を鳴らしたような、水面に波紋を落としたような。
突如として降りかかってきた男の声に、二人は口をつぐみ、入り口を振り向いた。
そこにはいつの間にか男がいた。
扉が開いた音どころか、気配さえさっきまでなかったのに、だ。
東方仗助は両手をポケットに入れたまま、おもむろに立ち上がった。
「いかなる思考もタコなる思考もねーーーッスよ。魔術世界にゃ新聞ってモンはねーのかぁ~?」
「漠然。貴様の意図はわからんが」
背後に声。
アウレオルス=イザードは一瞬のうちに二人の後ろに回っていた。
すなわち、インデックスのそばに。
「当然。些事は捨て置くべき。依然、重要なのは禁書目録だ」
「……出たり入ったり出たり入ったり忙しいなぁ~~おめーはよぉ~~」
ふ、とアウレオルス=イザードは微笑を浮かべた。否、嘲笑か。
「平然を装いながら貴様はこう思っているに違いあるまい?
『 今のは超スピードや瞬間移動のごときチャチなものではない。この正体のわからぬ力を前に、果たして己が勝機を掴めるか? 』、と」
答えず、東方は唇を舐めた。
「汪然。教えてやろう。否、とな。貴様にはクモの糸ほどの好機<チャンス>もない」
東方仗助は、今度はわざとらしくため息を吐いた。
アウレオルスの眉が一度だけ痙攣する。
「おーいおい、さっきから勝つだの負けるだの、おめー何か勘違いしてねーか? ナァ姫神ィ?」
少女は小さく頷いた。
「アウレオルス。私達はあなたの目的をわかってる。協力もする。でも教えて。何があったの?」
少しだけ感情をにじませた瞳で、
「あなたはどうやって生き延びたの? どうして私達に力を使ったの。どうして閉じ込めるような真似をしたの。これから何をするつもりなの」
矢継ぎ早の質問に、アウレオルスは目を細めた。
笑ったのではない。煩雑きわまる、といった態度だ。
「――ふむ。傲然。どうやら勘違いをしているのはお前たちのようだな」
「……?」
「『 吸血殺し 』 よ、なぜお前は 『 依然、私に必要とされていると思い込める 』?」
「……え」
姫神秋沙の目が見開かれた。
まるで談笑途中にいきなり頬を張られたような、呆然とした表情。
「吸血鬼を呼び出した時点でお前はもはや 『 用済み 』 だ。『 協力 』? 違うな。
お前たちは私にとって、目的のための手段に過ぎん。協力するもしないもない。私が 『 使う 』 のだ」
「わ……」
「唖然。『 吸血殺し 』 よ。お前はまだ、私と立場が対等と思い込んでいるのか?」
「私は。違う。私は。ただ」
「そう。『 ただ、その呪われた血の運命から解き放たれること 』。それがお前の目的だったな」
アウレオルスは、今度は微笑を浮かべた。
「『 安心するのだ 』、『 吸血殺し 』 よ。厳然。『 あの方 』 はお前もまた救ってくださるだろう。お前は安心して私について来ればいい」
「……ッ!」
姫神秋沙は後退った。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか。それすらもわからないといったカオで。
自分の救おうとしていた人間は、既に自分の手の届かないところにいる。
それだけは厳然たる現実として姫神秋沙の心を引き裂いた。
彼女の決意が真摯であればあるほど。
彼女の思いが誠実であればあるほど、そのリアルは鋭さを増して彼女の胸をえぐる。
ソファに体をぶつけ、姫神秋沙の体がグラリとかしいだ。
東方仗助が我に返って手を伸ばす。
「姫が……」
「アウレオルス!」
甲高い声が部屋に響く。
東方仗助は、一瞬それが誰の声かわからなかった。
「アウレオルス。お願い。あなたはおかしくなっている。あなたは正気じゃない。あなたは……」
常に平坦な姫神秋沙の声は、
常に理性的な姫神秋沙の声は、
その時ばかりは悲痛なほど上ずり、かすれていた。
「あなたは……」
それでもアウレオルスの表情は変わらない。
死後硬直の後に無理やり作らせたような、固まった微笑のまま姫神秋沙を見つめ返す。
否、きっと彼に姫神秋沙は見えていない。
姫神秋沙の向こうの、何か別の空間を見ているのだ。
「……」
とうとう彼女は沈黙した。
それに何を感じたのか、アウレオルス=イザードは「ふむ」と笑みを深めた。
「さて、少年」
「――!」
矛先を向けられ、思わず一歩退く。
「自然。貴様もまた勘違いをしていたな? 卒然、状況が変わったが貴様に言うべきことは変わらん」
「クモの糸がナントカントカだっけかぁ~?」
「然り。――ふむ、貴様が学園都市の人間ならば、必然、能力者であることは間違いなかろう。
だが、貴様の力がなんであろうと我が 『 黄金練成<アルス=マグナ> 』 の敵ではない」
「それってぇ~~、いかにもかませの悪役が言いそうっつーか、やったか!? と思ったらやってねーパターンっつーか、コレやったら負けだろって台詞ッスよねぇ~~」
「ふむ?」
アウレオルスは微笑を崩した。
「全然。掴めんヤツだ。では――――『 吸 血 殺 し <ディープブラッド> を こ こ に 』」
「!」
瞬間、東方仗助に衝撃走る!
姫神秋沙がアウレオルスの隣にいたッ!
まるで最初からそこにいたかのように、当たり前の顔をしてそこにいた!
「わかるか? 少年。我が 『 黄金練成 』 は言葉ひとつで現実を変えられる。『 死ね 』 と言えば 『 死に 』、『 生き返れ 』 と言えば 『 生き返る 』。
現然、貴様は私にとって釈迦の手のひらを飛び回る孫悟空ですらない」
「じゃあなんなんだよ」
「取るに足らん存在ということだ、わざわざ言わせるな」
一呼吸置き、
「『 跪 け、少 年 』」
「――ッとおァ!?」
意志に反して東方仗助は両膝を折っていた。
固い床に両手をつき、地面を見る。
その体勢で固まった。もはや指一本動かすことができない。
「案ずるな少年、殺しはしない」
唐突に。
床を凝視していた東方仗助の視界に、高級そうな革靴が映りこんだ。
「禁書目録の十万三千冊が開示不可能な以上、必然。しばらくは貴様の九万八千冊を使うことになるだろうからな」
「……っつーか、こんなことができるんならもういらなくねーか? 魔道書なんてよぉ~……」
「無論、私には必要ない。だが 『 あの方 』 は興味を示すだろう」
「はぁ~~?」
「アウレオルス……!」
東方の耳に、戦慄した少女の声が届いた。
「アウレオルス。あなたはまさか。『 あいつ 』 と」
「気づいたか 『 吸血殺し 』……然り。私は 『 あの方 』 と契約した」
「だめ。それはいけない。アウレオルス。人は踏み外してはいけない領域がある」
「必然。あらゆる信仰・技術をもっても正せぬ不当があるのなら、人の理を外れるのに何のためらいがあろう?」
「あなたが。だって。あなたが。そんな道に堕ちてはいけない」
「戯言を……」
「それに。『 あいつ 』 が約束を守るとは限らない。いいえ。守るはずがない。だって 『 あいつ 』 は……」
瞬間、アウレオルス=イザードの雰囲気が一変した。
平然とした態度が吹き飛び、出所のわからぬ憤怒が体中から放散される。
「黙れェ!! 『 あの方 』 は言ったのだ! 『 あの方 』 が満足するものを持ってくるのならば、吸血鬼の記憶術を教えると!
『 あの方 』 が私に嘘をつくはずがない!」
「アウレオルス!」
「それ以上口を開くな 『 吸血殺し 』 ッ……、お前の言葉を聞いていると断然、脳内がきしむように痛む……ッ」
「アウレオルス……? あなたは忘れたの? あなたは」
「『 黙 れ 』」
ピタリと、問答が止んだ。
いや、それでも姫神はどうにかして言葉を伝えようとしていたのだろう。
それも 『 やめよ 』 の一言で抑えられた。
おそらくこの男は理解していない。
姫神秋沙がどんな思いを彼に投げかけているか。
それを伝える手段すべてを、他でもないアウレオルス自身に奪われて、どのような気持ちでいるか。
耳朶に姫神の必死な声がこびりついて離れない。
東方仗助はチッと舌打ちした。
「女に八つ当たりしてんじゃあね~スよ……」
「莞然。では貴様が発散させてくれるのか? 少年」
ガツンと音がして、東方の顔面が床と接触した。
一瞬頭が真っ白になる。
次いで東方仗助は――アウレオルスの位置からではわからなかったが――プッツンした時を髣髴とさせる、危険な笑みを浮かべた。
「……おーおーすげ~……こんなにトサカにキてんのにピクリとも動けねーとはよ~~……!」
フン、と今度こそわかりやすくアウレオルスは嘲笑した。
「厳然。感情など何の意味も持たぬ。言葉ひとつで理(ことわり)を動かせる私にとってはな」
「なるほどぉ? っつーことはあれだ……テメーがその口開く前にブン殴りゃあいいってことだよなぁ~~……!?」
「ほう? 失笑、やってみとぉばっ!」
刹那、アウレオルスは一直線に応接用デスクまで吹っ飛んだ。
「舐めてんじゃあねぇ~~~~ッぞコラァ~~~ッッ!!!」
「ごはっ!? ――がっあッ、はぁ!」
表の世界に裏の人間は干渉できない。三沢塾という建物自体もまた、表の世界に属している。
そこに吹っ飛び、突っ込んだ裏の住人はどうなるか。
「うごぉお、あぁ……ッ!」
裏の住人・アウレオルス=イザードは、吹っ飛び、突っ込んだ衝撃を丸ごとその身に受けた。
息を詰め、悶絶して床を転がる。
じん、と頬に痛みが広がる。口の中を切ったらしい。
文系人間・アウレオルス=イザードは激痛を訴える頬を押さえた。
それは拳で殴られた痛みと酷似していた。
「グヌゥッ……き、貴様、よくもこんな……否、凝然、指一本動かせぬはずの貴様がなぜ、ありえぬ、い、一体!?」
「ケッ、」と東方仗助は侮蔑した。
床にひれ伏した格好のまま、ギラついた目だけがアウレオルスを捉える。
「話し合いで済めばいいと思ってたけどよぉ~~どーもそーゆーわけにはいかなくなっちまったようだなぁ~~~?」
「……お、のれ……!」
「そういや疑問に思ってたんだけどよぉ~、テメー今の今までどこに行ってたんだぁ?
『 目的 』 も 『 手段 』 もこんなトコに放置してよぉ~~何か行かなくちゃいけねー用事でもあったのかよぉ~~? たとえば……『侵入者』とかかぁ?」
「……ッ!」
口元を押さえたまま、アウレオルスはメラメラと瞳を燃やした。
「どーやら図星だなぁ? しかもその様子じゃあ随分 『 嫌なヤツ 』 らしーじゃあねぇか~? そいつらはぁ」
「憤然……奴らを呼び寄せたのは貴様かッ」
「テメーの目はフシアナですかってんだ。どうやら姫神の言う通り、随分 『 のめり込みやすい 』 性格してるようだぜ」
「何を……ッ!」
そこでようやく、アウレオルスの目がデスクの魔方陣を捉えた。
「『 砕 け よ ッ ! 』」
パンッと薄いガラス細工のように魔法陣が四散消滅する。
「遅ェ~~~んだよ~今更よぉ~!」
「!」
東方が言うと同時、炎の渦が扉の隙間をぬってなだれ込んできた。
あっという間に炎は広がり、アウレオルスに押し寄せる。
「『 消 滅 せ よ ! 』」
一瞬にして赤と熱気が消える。
「『 姿 を 現 せ、侵 入 者 ど も ! 』」
バンッ!
扉が開いた向こうには、二人の男が立っていた!
すなわち上条当麻とステイル=マグヌスである!
「仗助! インデックス!」
「お~すげータイミングで来たなぁ~」
「なっ……!」
アウレオルス=イザードは誤解していた。
「なにィッ……!?」
あまりにタイムリーな攻撃に、侵入者は当然、東方仗助と通信を取っていると思い込んでしまった。
ならば自分の目的が侵入者にも知られた可能性は高い。
今彼らを逃せば、最悪、外部に此の事<人外との取引>が漏れるかもしれない。
そうならないためにも、一刻も早く奴らを現出させ、始末しなければ――。
どこまで計算して東方仗助が会話をしていたかはわからない。
だが結果として、アウレオルスはまんまと敵を迎え入れてしまったのだ。
――『 自分は、この少年の話術に嵌ってしまった? 』
「い……否! この私が……」
「ほぉ~~まだやる気みてーだなぁ~アウレオルスゥ?」
ハッと見れば、なぜか、指一本動かせないはずの少年が胡坐をかいてこちらを睨んでいた。
「なっ……ばかな……!?」
別段何も変わった様子はない。
ただ、魔術師でもなければ錬金術師でもない風情の、ツンツン頭の少年がそばにいるだけで。
まさか、まさか私の黄金練成<アルス=マグナ>が効力を……ッ!
否ッ、そんなわけがない! 信じろ! 己を! 己の力を信じるのだ!
そうでなければ……!
アウレオルスは背後を一瞥した。
すうすうと安らかな寝息を立てる少女を。
『 そうでなければ…… 』。
ピタリ。
震えが止まる。動揺が収まる。
アウレオルス=イザードは後ろ手に手を回し、髪の毛の細さほどの鍼を取り出した。
「退け。侵入者どもよ。私には成し遂げるべきことがある」
「その 『 成し遂げるべきこと 』 ってのは! 超能力者に魔術を使わせたり、女の子を攫ったりしなくちゃいけねえほどのことなのかよ!?」
ツンツン頭の少年が叫ぶ。
「当然ッ……! この目的のためならば何を犠牲にしても構わぬ! どんなものでも利用してやると決めたのだ!」
軽い音を立てて、鍼がアウレオルスの首に沈んだ。
その瞳が高揚し、一切の迷いが消える。
「『 侵入者への攻撃を開始! 全自動<フルオート>式の自動火器! 弾丸は魔弾! 用途は射出! 数は侵入者一人につき一丁! 』」
鍼を引き抜くや、アウレオルスの両脇に自動小銃が現れた。
「『 人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ! 』」
アウレオルスが鍼を投げ捨てた。
瞬間、不可視の力が引き金を引く。空気を引き裂く音と共に火薬の破裂音が響き渡った。
――――刹那、アウレオルス=イザードは見た。
ツンツン頭の少年の前に、東方仗助が仁王立ちしているのを。
東方仗助がこちらをまっすぐ見据え、人差し指を向けるのを。
「ドララララララァーーーーッッ!!!」
「!?」
壁が粉砕された。扉が砕けた。天井に風穴が開いた。
だが――銃弾はただの一発も東方仗助の体に届かなかった。
否!
彼の体に当たる前に、てんで勝手な方向へと飛んでいったのだ!
まるで不可視の力にはじき散らされたかのように!
弾き返したと言うのか!?
『 人間の動体視力を超える速度で 』、打ち出された魔弾をッ!
「あぁそーかよぉ……」
「……くっ」
東方仗助はやはり、ぎらついた眼差しでアウレオルスを射抜く。
「テメーがこの建物ぶっ壊すくらい派手にやる気ならよぉ~~いいぜぇ……」
その瞳に好戦的な光がともった。
「んじゃあ、グレートにおっぱじめようじゃんかーーっ!」
→ TO BE CONTINUED....
――今日はここまでです――
――姫神ちゃんかわいいよ秋沙ちゃん――
アナにザーがイン○ックスだとオォ~!?
確かアナってアンナとほとんどイコールでスゲー一般的な女性名だった気がするけど
耳年増な姫神ちゃんかわいいよ秋沙ちゃん
確かアナってアンナとほとんどイコールでスゲー一般的な女性名だった気がするけど
耳年増な姫神ちゃんかわいいよ秋沙ちゃん
おつおつ
アナはアナ・コッポラかと思った、中の人つながりでwwww
アナはアナ・コッポラかと思った、中の人つながりでwwww
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