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元スレ上条「俺がジャッジメント?」
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~注意~
・二、三日に一度という投下ペース
・禁書の知識も曖昧
・上条×初春
・多分シリアス
・二、三日に一度という投下ペース
・禁書の知識も曖昧
・上条×初春
・多分シリアス
「はい、上条ちゃんになぜかお誘いがきてるんですよー」
と言う、目の前のロリ教師の手には一枚のプリント。
進路希望と書かれたその紙には書くべき箇所は空白で、答えを出しあぐねていた結果だ。
実際、進路と言われても高校一年の冬でまだまだ考えた事もなかった。
いや、考えなければならない時期なのかもしれない。
しかしこの右手が持つ『幻想殺し』のおかげで学園都市の成績とも言える能力は発現しようがないし、そうするとここで働くともなるとどうしても範囲は狭められてしまう。
進学──
あの両親に頼み込めば進学はさせてもらえるのだろう。
しかし行った所でこの学園都市では学ぶ事は主に能力開発。
この学園都市では働くにせよ、学ぶにせよまずは能力というものが先行してしまう。
──うーん……。
つまりは能力が発現『しようにない』自分──上条当麻にとって進路を考える事はとても難しいものであった。
それに、上条にはつい最近までの記憶がない。
内緒で(目の前の教師は知っているが)同居しているある銀髪少女を助ける際に『思い出』の記憶を失った。
今まで生きてきた思い出がすべてなくなり、両親の顔も声も知らないという状態に陥った事があった。
記憶をなくしてから何回か会っていた為、今では顔も分かるのだが共に生活した記憶はない。
つまり上条にとって、確かにあの二人が両親ではあるのだが、ほとんど『他人』。
進学という事はそれ相応の金額が飛んでしまう。
日頃貧乏生活を送っている上条だからこそ、気分的に進学は遠慮してしまうのだった。
そこで目の前の教師──小萌からの口から飛んできた言葉はそれだった。
『ジャッジメント』
学園都市の生徒達で編成されたこの学園都市の風紀、ルールを取り締まる治安維持部隊。
学園都市の教師達による『アンチスキル』と呼ばれる警備隊のようなものと協力し合い、この学園都市の治安を守る誇るべき仕事だ。
ちなみにどちらもボランティア団体であり、職業ではない。
進路に直結する訳ではないのだが、ジャッジメントを通して警備会社のスカウトでその仕事に就いた者は多く、また力ある者には要人のSPになった者までいると聞く。
「でもお誘いって……何でまた俺に?」
「先生も何でかは聞かされてないですけど。でも上条ちゃんには向いてるんじゃないですかねー」
自分が受け持つ生徒に関する事で詳しく内容を聞かされてない事が不服か、小さな口を膨らませながらその言葉が飛び出す。
しかし上条がジャッジメントに誘われるという事実は喜ばしい事だ。
確かに上条は困っている人がいれば黙っていられないし、助けを求める人には迷わず助ける。
例え自分がどれだけ傷付こうがお構いなしに手を差し延べる性格だ。
「はぁ」
しかし自分がジャッジメントが向いてると言われてもいまいちピンと来ない。
それに常に休日は補習で潰されるという底辺の成績の為、とてもではないが無理だと思ってしまっていた。
「……あと」
そこで小萌が少し不機嫌そうに再び頬を膨らましながら続ける。
「黄泉川先生が言ってましたけど。ジャッジメントになれば上条ちゃんは無条件補習免除、みたいです」
なんですと。
結局あれからジャッジメントの資料をもらい、上条は家に戻った。
ジャッジメントの資料は各学校に置いてあり、志願する事によって適性試験が行われる。
「うーん……9枚の契約書に13種類の適性試験。受かった場合は4ヵ月の研修か……これ結構大変だな」
「とうま、何見てるの?」
テーブルに何やら資料を広げ、うんうんと頭を唸らせる上条を見て風呂上がりの銀色の綺麗な髪を拭きながら少女が尋ねた。
「おー、インデックス出たのか。いや、大した事じゃないんだけどな」
インデックスもなになに?といった様子でそれを覗き込む。
しかしそれを見た瞬間、インデックスは表情を少し堅くした。
「……とうま。また危ない事するの?」
インデックスという少女は、上条に危害が及ぶ事を特に嫌がる。
自身を救う為に何度も上条が傷付くのを見てきたし、その度に泣いた。
上条に対して、恐らくだが特別な想いを抱く彼女にとって、もう彼が傷付くのを見たくない。
「まぁ危険っちゃ危険なのか?」
上条が今まで経験してきた出来事……科学世界の事、魔術世界の事。
常人が決して味わう事のない危険な場面をいくつもくぐり抜けてきた。
しかしまぁそれに比べれば全然大した事に思えなく、むしろ「補習がなくなるならラッキー」くらいにしか上条は感じていない。
実際問題ジャッジメントの仕事は主に喧嘩の仲裁、迷子の保護、落とし物の捜索など。
それ以上の重大事件ともなるとアンチスキルの仕事になり、ジャッジメントは言わば風紀委員のようなものだ。
「これに受かれば上条さん補習免除なんですと」
「むー」
ぶっちゃけ上条にとっての学生生活は、一番出席日数がネックになったりする。
困ってる者を助けては怪我をして入院し、はたまた困ってる者を助けては怪我をして入院し……その繰り返しが溜まりに溜まって出席日数が実はかなりきわどい所まできていた。
進級する為にも補習免除という待遇はかなりの優遇だ。
毎週必ず補習があるというダメ学生ぶりにさすがに危機感を覚え、そろそろどうにかしなきゃいけないな、と考えていた矢先の事だったのだ。
後ろで少し機嫌悪そうにしているインデックスをよそに書き上げた書類をまとめ、鞄の中にさっとしまい立ち上がる。
「んじゃ俺も風呂行ってきますか」
そう言い、上条はこの日は一日の疲れを洗い流す事にした。
「今日はケーキでも買って帰ろうかなー」
ある道の途中、少女はご機嫌そうに呟いた。
一仕事終えた後の大好物である甘い物はまた格別と言った具合に、甘味な味を想像しては頬を緩める。
頭に乗せた花飾りも、彼女の機嫌と同調するかの様に綺麗な彩りを見せていた。
prrrrrrrrr──
「ふあっ」
すると、彼女の手にしている鞄の中から着信を告げる音が鳴り出した。
突然の事で軽いウキウキ気分から現実に引き戻された感覚で鞄の中を探る。
ディスプレイを見るまで油断は出来ない。
もしかしたら彼女が属するジャッジメントの仕事の案件であるのかもしれない。
それならそれで今の気分は沈む事になるであろう。
自ら進んでジャッジメントになったとはいえ、まさに休息モードに入っていた今の気分を害されたくはなかった。
ディスプレイを見る。そこで少女──初春飾利はホッと安心の溜め息を吐いた。
「はーい」
『ういはるーっ』
通話ボタンを押すと、彼女の親友の声が耳に響き渡る。
「佐天さん。どうしました?」
『宿題一緒にやろうよ。後で初春の部屋行くからーっ』
「確か数学の宿題出てましたね。いいですよ、待ってますね」
『うん。また後でね』
内心「仕事じゃなくてよかったぁ」などと思いながら、簡潔に約束を取り付け、電話を切る。
「ケーキ、余分に買っていきましょうか」
誰に言い聞かせる訳でもなくそう呟くと、初春は少し足取り軽く好みの洋菓子店へと足を進めた。
……しかし。
「あぁ!?なんだテメー文句あんのかコラァ?」
「うっせーよテメーから先に絡んできたんじゃねーか!?」
そんな怒号が初春の耳に届いた。
突然の大声に初春の身体はビクッと反応し、その方に視線を向けると、やはり道のど真ん中で高校生だろうか、今にも殴り合いが勃発しそうな雰囲気の二人がいた。
──ど、どうしよう……。
こういう喧嘩の仲裁も。
彼女が属するジャッジメントの仕事の内だ。
しかし二人を見るに明らかに初春よりも一回り身体の大きい男二人。
彼女の相棒である空間移動の能力者の少女であるならば余裕で捌けるのであろうが、しかし初春は非戦闘要員だ。
とても止めれる力を持っている訳ではない。
──うぅ……。
「テメーぶっ殺してやる!」
「あぁ!?んだと!?」
そうこう迷っている内にとうとう殴り合いが起きてしまった。
こういう場面を見るのも慣れてない初春にとって、目の前で起きている事は恐怖心を十二分に与える。
無理もない、まだほんの中学一年生の小さな女の子なのだ。
でも。
でも初春はジャッジメントである。
こういう場面に出くわせば、やはり止めなければなるまい。
彼女の仕事の相棒に電話などしている暇はない。
話し合いで解決できれば、それでいい。
恐怖心が先行してしまうが、それでも少し震える手で鞄からジャッジメントの腕章を取り出し腕に着けた。
「じゃ、ジャッジメントですっ!喧嘩はダメです!」
勇気を振り絞り、二人を止めようと近付いたのだが。
「うるせえよクソガキ!すっこんでろ!」
「あうっ……!」
一人にドンッと身体を押され、初春はその場に倒れ込んでしまった。
「いたっ……」
コンクリートに身体を叩き付けられたかのような衝撃。
ズサッと横から倒れた為に身体を庇った肘から少し血が出てきている。
見れば制服も少し破れてしまっていた。
「……っ」
頭は打ち付けなくてよかった。
しかし突然の事と痛みで視界が涙で滲む。
「え──」
「消えた……?」
それを見た初春や、その炎を繰り出した男は驚きの表情を顔に貼り付ける。
特に出した本人が一番驚いているのだろう。
「俺のレベル3の炎が消えただと!?」
「んな事はどうでもいい。いいかお前ら。歯を食いしばれよ」
「何いい気になってんだこの野郎!」
するともう片方の男も次は水で出来た刃の様なものを彼に向けて斬り掛かる。
「なっ──!?」
しかしその刃がやはり彼の右手にぶつかった瞬間、ただの水に変わり地面に水しぶきとなって染みを作るだけだった。
「覚悟しろよてめぇら!」
驚きによって反応出来ない男の顔に拳が入り──男は簡単に崩れ落ちた。
「う……うわあああぁぁ!!」
それを見た炎使いの方は先程よりも大きな炎を彼に浴びせる。
……しかし。
「なんなんだよてめぇは!」
やはり右手を振るう事によって炎は消えてしまい、炎使いは動けずにその顔に強烈な衝撃を受け、炎使いもその場に崩れ落ちた。
「ふぅ」
パンパン、と埃を叩くように手を叩くと彼は初春の方に再び振り向き、しゃがみ込んで手を差し出した。
「大丈夫か?立てるか?」
「あ……は、はい」
初春はただボーッとした様子でその手を取り、立ち上がろうとするが……。
「……いたっ」
肘の痛みを感じ、手を引っ込めてしまった。
「わ、悪いっ」
その様子を見た彼は申し訳なさそうに謝ると、どうしたもんだかと困った様な表情を見せる。
「あ……」
なんとなくその表情を見た初春も申し訳ない気分になった。
「うーん、病院で診てもらった方がいいかな」
彼はそう呟くとポリポリと頭をかく仕草を見せる。
初春もどうしたらいいのか分からず、ほんの少しの間彼の顔を見ているとふと一人の少女の声が場に響き渡った。
「……アンタ、なにしてるのよ?」
「げっ!ビリビリ!?」
「ビリビリ言うな!ってそっちにいるのは初春さん……?」
「あれ、御坂さん……?」
「アンタ……まさか初春さんを!?」
「ち、違う誤解だ待てビリビリその電気をしまえ」
「み、御坂さんこれは違っ……」
「初春さん泣いてるじゃないの!この節操なしがああああああぁぁぁ!!」
立ち上がり、彼は非常に気まずそうな顔をして冷や汗も流していた。
しかし初春の釈明も聞かずに御坂と呼ばれた少女──御坂美琴はお構いなしに彼に向け、今にもその美琴の能力である電撃を浴びせようとしている。
「ちょ、御坂さん待ってくださ……」
それを見て初春も誤解だと美琴に言い聞かせようとしたのだが。
「ああもう不幸だああああああぁぁぁ!!」
彼はそう大声で叫ぶと脱兎の様にこの場から逃げてしまった。
「待てやゴラアアァァァっ!!」
逃げた彼の背中に電撃を放ったのだが、彼は振り向かずに右手を振るうだけで電撃は消えてしまい、そのまま彼の小さくなってゆく背中を見ているだけしか出来なかった。
「……………………」
「あ、あの……御坂、さん?」
元気よく電撃を放った先程の様子とは一変、ただ彼の背中を美琴はじっと見つめており、初春は少し怪訝に感じた。
少し、表情は悲しんでいるような、そんな雰囲気を感じ取った。
「……また……やっちゃった……」
「え?」
そんな彼の背中を見つめながら美琴は呟く。
何と言うか、もう怒りなどない。
ただ己の行為を反省するかの様に言うと、美琴は初春の方に振り向いた。
「あ、あの。御坂さん……」
「あーゴメンね。アイツとは腐れ縁だから……って初春さんを先に手当てするのが先ね」
「え……あ、はい……」
初春は状況についていけない様子でただそう答えるしかなかった。
「ん。ちょっと擦りむいただけだね。一応包帯巻いておくよ」
「ありがとうございました」
やたらとカエルに似ている医者からの診察も終わり、初春は治療室から出た。
「大丈夫だった?」
「あ、はい」
待合室にて初春の姿を確認した美琴は、開口一番に初春の身を案じる。
あぁ、やは学園都市が誇るりレベル5の第三位は人間もきっちり出来ているのだなと場違いな印象を受け、初春は返事を返すとペこりと美琴に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「あはは、よしてよ、そうゆーの」
なんて事ない、と明るく笑う美琴に初春も表情が緩み、二人して微笑んでいる。
しかし初春には気になる事があった。
「あの、御坂さん。さっきの人って……」
「あー、うん……別に友達ーとか……こ、恋人ーって間柄でもないんだけどね」
何やら少し言い辛そうに言葉を淀める美琴。初春はそれに?を浮かべながらも頷いた。
「本当は助けてくれたんでしょ?アイツ」
「はい」
初春が返事をすると、嬉しそうなそうでもないような表情を一瞬作っては消す。
「やっぱりね。二回目、か……」
「え?」
「ううん、何でもない」
妙に一人で納得した美琴を見て、あの人と何かあったのかな?と首を傾げる。
「…………」
しかしそれを言うと沈黙が包み、口を開けるのも躊躇われてしまう。
この場に初春の親友の佐天がいればニヤケ顔で迷わず追求したのであろうが、初春はそれをしない。
空気を読めなさそうで実は読む子、初春飾利。
「ま、そろそろ暗くなるし帰りましょうか」
「あ、はい」
そう言い、初春は美琴と共に帰路についていった。
この時のこの出会いが、後にもたらす展開をまだ誰も知らない。
知る由もなかった。
こんな感じでまったり進めていこうかと思います
ちょっと短いけど、続きはまた次回!
ちょっと短いけど、続きはまた次回!
>>15
風紀委員といえば超電磁砲じゃないか?
風紀委員といえば超電磁砲じゃないか?
こりゃ期待
しっかし、学園都市は暗部と言いスキルアウトと言い大変だな
初春に幸あれ
しっかし、学園都市は暗部と言いスキルアウトと言い大変だな
初春に幸あれ
「は?」
「いや、だからな。ジャッジメントやってみようかなと思う訳ですよ、上条さんは」
ある高校の教室で、金髪にサングラスをした男の素っ頓狂な声が響き渡る。
しかし休み時間の喧騒の中で彼のそんな間抜けな声に気に留めるものもおらず、別段至って変わらぬ様子の教室内だった。
「どういう風の吹き回しだにゃー」
窓の外に視線を移し、「にゃー」と「ぜい」を語尾に付けるのが特徴なこの男。
顎に手をやり考え込む仕草を見せたのは上条の親友である土御門元春だ。
クラス内では3馬鹿トリオと呼ばれている「デルタフォース」の内の一角を担う土御門も、さすがにもう一角である上条の口から飛び出した言葉に驚いた様子だった。
ちなみにもう一角である青髪にピアスをした長身の男──通称青ピは購買に昼食を買いに行っており、今現在この場には不在だった。
「それにしてもなんでまた急になんだにゃー?」
「うーん……しいて言えば進路の為、かな?」
「ほう、カミやんもとうとう将来について真面目に考えはじめたのか」
感心した様な、まさかと言う気持ちかそんな驚きを顔に土御門は貼り付けた。
この学園都市では、ジャッジメントというステータスはかなり高い位置に存在する。
ジャッジメントと言えば回りにも一目置かれ、また進学や就職に相当影響するのだ。
やりたい事がいまだ見つからない──それは今の学生達にとって割と当てはまるのであろう。
それなら色んな事を経験して、自分に合ったものを探し出すのもまた一興だろうと上条は考えていた。
考えなしにまずは行動に移る上条の事だ、意外にうまくいくかもしれない。
土御門はそんな感想を浮かべ、義妹の手作り弁当を次々に口に運んでいた。
「……カミやん」
「ん?なんだ?」
「ジャッジメントになるんなら食生活、もうちょい考えるんだぜい」
色とりどりの自分のとは違う、目の前の親友が持ってきた米だけの白一色の弁当に冷や汗を垂らしながら、だったが。
「はぁ」
あれから結局ロクな礼も言えてない事に初春は少し気分が沈んでいた。
ピンク色の箸を口にくわえながら、だがあまり箸は進んではいない。
「初春ー、元気ないね。どうしたの?」
目の前の親友の少女も、そんな彼女を心配そうに見ていた。
「もしかして恋患いー?」
「そんなんじゃないですよー」
やはり色気を気にしはじめた華の中学一年生、目の前の佐天涙子という少女はそういう話が好きみたいだ。
「うーん」
やはり助けてもらった事にお礼はしたい。しなければなるまい。
礼儀を重んじる、そういう堅いものでもないのだが、助けてもらってそれではい終わり、という訳にもいかない。
それに──。
──あの背中……どこかで見た事ある様な……。
あの時の彼の背中が何故かチラつく。
妙な既視感に捕われていて、その事も初春に考え事をさせていた。
──最近?それともずっと昔?
「それで…………でね……よね」
わからない。考えても思い出せない。
「き……るの?……る」
でも、きっと重要な、何か──。
「初春ってばっ」
「あっ、はい」
佐天の少し大きな声と、視界いっぱいに振られる佐天の掌で初春はようやく我に返ると、ごめんなさいの意味も込めて苦笑いを見せた。
「初春ったら……お昼休み、もう終わっちゃうよ?」
「あ」
時計を見れば昼休みも後五分。自分の弁当の残りはいまだ半分以上。
……と思ったのだが、おかずはあと卵焼き一個だけだった。
「佐天さーん……」
「あはは、ボーッとしてる方が悪いんだからね」
あと一口ご飯を口の中に入れると、初春は弁当箱をしまうことにした。
「うおおおおおおおおお特売いいいいいいぃぃぃぃっっ!!」
放課後になった瞬間、毎週決まった曜日のこの日だけは上条は風となる。
彼の気合いを入れるために口に出したその言葉の通り、この日は上条ご用達のスーパーの特売日。
とはいえいくつものスーパーの特売日を把握しているおり、週の半分くらいはこういう日が続いていたりする。
こういう特売日を狙わなければ、上条の生活は成り立たない。
無能力者という肩書、そして居候。
これだけで上条の経済状況を知らしめるには十分だとは思う。
「ふおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!」
逆に気の抜けるような声なのだが、間に合わなかったら白飯に漬物の生活が待っているという泣きの意味も含まれているのだろう。
とまぁ、ここでいつもの『不幸』を上条が襲い掛かるのだが。
本日はジャッジメントの仕事があり、初春は彼女が属する第一七七支部へと来ていた。
どうやら他に人の姿はなく、初春が部屋の鍵を開け、中に入る。
エアコンのスイッチを入れ、すぐに到着するのであろう二人の為に茶を沸かす準備をした。
「…………ふぅ」
「あら初春。早いじゃありませんの」
「わっ」
すると本当に唐突に、初春の背中に声が届いた。
ドアを開けた音もない、物音一つもなくこの場に『いた』。
「もー白井さん、驚かさないで下さいよー」
「その割には随分落ち着いてるんですの」
当然だ。
初春がジャッジメントに属した日から、常盤台の制服に身を包んだこの『空間移動』の能力者の黒子の登場は大体これで。
勿論、当初は腰を抜かしたり、驚きすぎてちょっぴりだけ泣いたりしてしまった事もあった。
本当にちょっぴりだけ、と本人の談。
だがまぁ毎回毎回この登場シーンなのだ、慣れてしまうのにも仕方はない。
「固法先輩はまだ来てらっしゃらないんですの?」
「はい、まだみたいですね」
黒子は鞄を起き、椅子に腰掛けながら初春に尋ねる。
初春もそう答えながらも紅茶を煎れる手は休めずに返事をした。
固法先輩というのは、同じジャッジメント第一七七支部に属する眼鏡を掛けた年上お姉さん。
あの凛とした雰囲気と抜群のスタイルに初春は少し憧れを抱いていたりするのだが、ここでは特に特筆する事ではないだろう。
「紅茶ありがとうですの。それで初春、昨日は無事だったんですの?」
初春は黒子の目の前に紅茶を置き、自身の机にも紅茶を置いて椅子に腰掛けると、黒子からそんな言葉が届いた。
昨日の事。それは勿論、あの不良達の喧嘩に巻き込まれた件。
「はい、大丈夫ですよ。ちょっと肘を擦りむいちゃいましたけど」
「お姉様から聞きましたの。なんでも、あの類人猿に助けられたとか」
「えっ、白井さんあの人の事知っているんですか?」
黒子の言葉に初春は紅茶から目を離し、黒子の目をじっと見つめる。
相変わらず黒子は優雅に紅茶に口を付けながら、しかしよくよく見ればほんの少し眉間にシワが寄っているのかもそれない。
黒子がお姉様と慕う少女、御坂美琴と黒子は寮の相部屋。
ふと話のタネにと美琴が黒子に話していた。
黒子も黒子で美琴の前なので表情は笑顔、しかし内心青筋を立てたい感想を抱いていた。
──類人猿……?ちょっとそれ酷くないですか?
という風に言いたい気持ちもあったのだが、どうやら黒子は上条と知り合いなんだと、大人しく黒子の言葉を待った。
「まぁ、顔見知り程度、ですの」
黒子としては思い出したくない相手だ。
愛しのお姉様に纏わり付くあの忌ま忌ましきツンツン頭。
あの気怠そうな目!
下品な髪型!
やる気なさそうなあの態度!
「思い出すだけでイライラしますの!ムキーッ!」
「私、まだお礼してないんですよね……また会えるかな」
「あんな類人猿にそんな気遣いいりませんの」
「あれ、白井さんもしかしてあの人の事、気にかけてたりします?」
「なんでそうなるんですの!」
全く心外だ、と言わんばかりに黒子は一喝するが初春は特に気にも留めず、紅茶に口をつける。
うーん、この茶葉微妙だなーなどと思いながら自身の仕事に取り掛かる事にした。
「間に合ったぁー!」
お目当ての卵一パック30円という利益も考えてないような超特売品を三つ、スーパーの袋の中に入れてホクホク顔で上条はスーパーから出てきた。
その特売に間に合った為、他の目玉商品も買う事ができ上条はかなり上機嫌になっていた。
昼食時にも記したが、上条の食生活は大体白飯と漬物。
おかずは?と聞かれると全て居候の胃袋の中に収められてしまうと即答せざるを得ない。
大ぐらいのインデックスのため、自分は遠慮してインデックスにおかずを回すという紳士な部分も兼ね備えている。
しかしさすがにその生活が続くと、上条の栄養バランスが偏りまくっていて、なにより育ち盛りの高校一年生だ、たくさん食べたいに決まっているのだ。
今回特売品をゲットできた事により、久しぶりに上条もおかずにありつける事が出来るという喜びが上条を支配していて、それなら早速帰ってご飯にしようと足を踏み出したのだが──。
……復唱するが、上条当麻という少年は不幸である。
「やめてください!」
「へへ……いいじゃねえか姉ちゃん」
「結構な上玉だぜ……たまんねえなその身体も」
「おい俺にも回せよ」
「ゲヘヘ……いいぞ、もっとやれ」
ふと視界の隅に写ったその光景。学園都市では割と頻繁に見るのは彼だけなのだろうか。
──はは…………特売日に間に合ってラッキーかなって思ってたのに…………。
なるほど、上げてから落とすパターンか、などと少しガックリ気分を沈めながらも。
「おー、ここにいたんだ。あっちで待ってたけど見つからなくてさー」
「は、はい?」
「「「「あ?」」」」
困っている人を見捨てられるほど、上条という少年は『できちゃいない』。
「不良共がまた暴れてるですって?」
通報を受け、黒子はまたかという様な溜息を吐き腕に腕章を着けた。
この学園都市、そういう案件は後を絶たない。やはりやんちゃしたい年頃の人間が集まれば、そういう事が起きてももはや仕方のないことなのかもしれない。
それ故にジャッジメントという立場の人間が必要になる。
しかしまだまだ足りないのは事実。猫の手も借りたいほどの時だってあったりする。
「行ってきますの」
「はい、気をつけていってらっしゃい」
初春という少女も気軽にそう答えた。
黒子の力を信頼しているからこそ、こんなやり取りだ。
勿論当初は心配ばかりしていたのだが、毎度毎度黒子は無傷で犯人を捕らえてくる度に高能力者の力を思い知らされ、今では安心して自身の仕事に取り掛かっていられる。
慢心ではなく、信頼だ。
目の前でフッと消えた黒子から目を放し、初春はキーボードを叩くのを再開した。
「はぁ…………はぁ…………!」
──うーむ、マズいな、これ。
「オラ待てコラアアァァァ!!」
「待ちやがれクソがアアアァァァ!」
あの場面から絡まれていた自分と同じくらいの年頃だろうか、女の子の手を引っ張りながら上条はあの不良共から逃げていたのだが、女子生徒の体力が尽きそうな事に気付いた。
やはり男子と女子では身体能力が違う。
後ろから聞こえる怒声に、不良共もまだまだ元気そうだった。
──やむない、か。
「ごめん、ちょっとこれ持って逃げてて」
「はぁ、はぁ…………え、え?」
ある人気の少ない路地に来ると、上条は女子生徒に背を向け、向かって来る不良共の方に振り向いた。
──四対一か…………、いや二対一が二回。
この路地の幅を確認すると、大の高校生の自分でも両手を伸ばしてちょっと余裕があるくらいの幅だ。
この狭さなら相手は一気に四人同時に掛かって来ることは出来ないだろう。
「鬼ごっこは終いかあぁ?」
「手間取らせやがって…………この野郎」
夕日が沈みかけ、ちょうど街灯が灯った。
それを合図に、まず一人が飛び掛かってきた──!
──能力じゃないのかい。
いや、もしかしたら身体能力の上げる能力者だったりする可能性もある。
しかし、どちらにせよやるしかない。
「ダイナマイト・キーック!!」
訳の分からない言葉と共に襲ってきた飛び蹴りに上条は冷や汗を垂らしながら横に半身を翻す事でかわした。
そしてその反動でまずは裏拳を一人の顔に入れる。
「ごほらっ!!??」
──綺麗に入ったなー。
拳をくらった一人は建物にビターン!という音と共に崩れ落ちた。
「てめぇ!!」
「死にさらせ!!」
それを見た後ろの二人が殴り掛かってきたのだが、上条はバックステップでかわすとカウンターのパンチをまず一人に入れ、そしてその勢いで廻し蹴りをもう一人に入れた。
「ごめすっ!?」
「ぐっちょん!?」
崩れ落ちたその二人を見て、残りの一人と目を合わせる。
「さて、次はお前だ」
「やるなテメー」
残りの一人は喧嘩慣れしているのか、勝つ自信があるのか、はたまた別の理由があるのかやけに余裕ぶっている。
「ふん、その三人はかませの様なものだ。レベル3の俺にすぐに平伏す事になるさ!」
そういい、残りの一人は手に電気を宿した。
というかその台詞がかませ臭がぷんぷんするのだが、まぁ置いておこう。
それに上条は知っている。
「くらえや!稲妻の嵐(サンダーストーム)!」
電気使いの最高峰の力を──。
「えっ、なんだって?」
「!!??」
右手を突き出す、消滅。
聞いてるこっちが恥ずかしくてなぜか上条が少し赤面してはいるが、幻想殺しで電気を打ち消すのはいつもの事だ。
お前も十分恥ずかしい事言っているがな、上条。
「うるせえよ!!」
「何も言ってねぇよ!?」
いきなりうるさいと罵倒されたその男は、掻き消された事に何より驚いており、見間違いだと言わんばかりにもう一度電撃を放つ。
「というか昨日もこのネタだった様な…………」
うるせえよ。
やはり上条の右手に触れた瞬間、電気は消えた。
「しょ、しょんな…………効かないはずがねえっ!!」
電気を放つ。
……消される。
電気を放つ。
消される。
「一丁あがり…………」
「きゃっ!?」
「っ!?」
最後の一人に制裁の拳をくらわせようとした瞬間、上条の背中から悲鳴が届いた。
「なになに、面白そうな事ヤってんじゃん」
後ろから先ほどの女子生徒を羽交い締めにし、もう一人、不良が出てきた。
「クソっ!」
詰めが甘かったという風に苦虫を噛み潰した様な表情を作り、上条は振り返った。
「おおっと、それ以上動くとこの女の首がへし折れるぜ」
「きゃ…………っ!?」
「…………くっ」
それを合図に回りの不良達も回復してしまったのか、のそのそと次々に立ち上がった。
──…………マズいな、こりゃ。
マズい。非常にマズい。
このままいけばあの女子生徒はとんでもない目に合わされてしまう。
何か、方法はないのか?
と模索している所、先ほどの電気使いの男に今度は上条も羽交い締めにされた。
「っ!?」
「へへ…………さっきのお返しをしてやらなきゃな……」
「ああ、そうだな……」
上条は動けずにいた。
この程度なら自分一人なら何とかなる。しかし今は人質がいるのだ。
ドッ──────!!
「ぐはっ!!」
すると先ほどの真っ先に倒されたダイナマイトが上条の鳩尾に強烈な拳を入れた。
「────!────!!」
それを見た人質の女子生徒がもがくが、押さえ付けられている力の違いに全く動けない。
ガッ────!!
次にもう一人が今度は上条の頬に拳を振り抜いた。
ゴッ────!!
「ぐっ!!」
続いて脳天からまた拳を振り落とされ、上条の口から苦痛の声が漏れた。
──ちく、しょう…………。
上条は不幸がどれだけ辛いかを知っている。
己の右手に宿る『幻想殺し』は、開発された異能の力や、強力な魔術、そして神の祝福でさえも打ち消してしまう──。
それによって降り懸かる不幸で、自分は色々な目に合ってきた。
だからこそ──。
だからこそその不幸を他人に味わわせたくはない。
自分の守れる範囲であるならば、手の届く距離ならばなんだって守ろうと決めた。
守っていきたかった。
例え、インデックスであろうが美琴であろうが妹達であろうが、目の前にいる今日初めて会った女子生徒であろうが。
「ふん…………ったくよ、なんだこのヒーロー気取りは」
電気使いがそう言い、先ほどダイナマイトはとどめだと言わんばかりに拳に力を込め、上条に振るおうとした時──。
「ジャッジメントですの!大人しく投降しなさいな!」
不良達が恐れる、あのジャッジメントの声が響き渡った。
「いやぁ、恐れ入ったぜ白井。あれだけの荒くれ共を一瞬で片付けてしまうとは」
「その様に褒めても嬉しくありませんの」
結局、あれからその場に現れた黒子はものの数秒で不良達を片付けてしまった。
もはやその手際は見事、と言うしかあるまい。
まず女子生徒を羽交い締めにしている男の脳天に空間移動した黒子が渾身の踵落とし、これでその男は一発で倒れた。
その際に女子生徒が手にしていたスーパーの袋を思いっ切り地面にぶちまけてしまい、卵のパックの中は白から黄色一色にイメチェンして、それを見た上条はがっくり項垂れたのだが黒子は全く気にしない。
続いて二人同時に服に鉄芯を空間移動させ、壁に一瞬で磔にすると、もう勝負は決まっていた。
残った電気使いがとても戦力がありすぎて敵わないと見たのか、突然土下座しはじめたのだ。
「情けない男ですの」なんて溜息を吐きながら黒子は拘束し、アンチスキルに五人を引き渡した。
「とりあえず事情聴取の為、お二人はジャッジメントの支部まで来てもらいますの。…………所で類人猿さん」
「は、はいっ」
黒子の最後辺りの台詞にやけに迫力を感じたため、年上なのに関わらず敬語で返事をする上条。
痛む身体もそのままに足を揃え、やけに綺麗に敬礼をしていた。
「そのお方はお知り合いなんですの?」
「いえ、面識はありませんです、サー!」
そうは言うが。
もし、記憶をなくす前の知り合いだったりしたらどうしようなどとちょっぴり不安だったのだが。
「あ、あの。私も助けてもらっただけで……」
「そうなんですの。とりあえず、お話を聞かせて下さいな」
「あ、はい……」
だがやり取りの中でそれは杞憂だったらしく、上条はほっと一息撫で下ろした。
「割とジャッジメント第一七七支部は近いですので。空間移動するまでもありませんの。類人猿さんも歩けますわよね?」
「イエス、マム!」
「それやめなさい」
「イエエエエス、マムウウウウゥゥゥ」
「次言ったらコレ埋め込みますわよ……?」
「ごめんなさい」
自分がもしジャッジメントになったら、この小さなどSの所にはなりませんよーに、と内心思いながら上条は歩き始めた。
繰り返すが、上条は、不幸である。
この言葉が意味するのは……もう少し後で、判明するのであろう。
「ほら、キリキリ歩きなさい!」
「あの、白井さん…………自分で言うのもなんなんですけど上条さん功労者ですよ?」
「貴方みたいな猿にはこの扱いでも十分過ぎますの」
「あは、あはは…………」
とまぁこんなやり取りがあったりして、三人はジャッジメントの支部に向かった。
そして。
「ただいま戻りましたの」
「お帰りなさい、白井さ…………っ!?」
「お、お邪魔します…………」
「あ……貴方は…………」
「おー、確か、昨日の」
また一つ、新たな出会い────。
今はまだ形としてはなってはいない。
なってはいないが。
この三人が(色々な方面で)有名になるとは、まだ誰も知らなかった。
とりあえず書けた所まで!
というかCP違うけど似たような題材、SSがこのSS速報にあったのね……そっち面白くて読んでた
また次回!
というかCP違うけど似たような題材、SSがこのSS速報にあったのね……そっち面白くて読んでた
また次回!
個人的に上条さんが本編ではほとんど絡んでないキャラとくっつく話は大好物だから、このスレは結構楽しみだ
いきなりの再会ですね
つか黒子の能力は対Lv3までならチートすぎwww
つか黒子の能力は対Lv3までならチートすぎwww
「あ、あのっ昨日は本当にありがとうございました!」
「はは、大丈夫だよ。それより……初春さんだっけ?そっちの怪我は大丈夫?」
ポカーンと呆けていた初春を余所に、上条は黒子に促され椅子に座ると初春がハッとした様な表情を見せ、ペコリと頭を下げた。
──あ、そういえばこのコもジャッジメントだったか。
そういえばあの時腕章付けてたなーなんて思いながら答え、上条はふぅと少し息を吐いた。
実はちょっぴり殴られた箇所が痛かったりする。
「はい、あの後御坂さんに病院に連れていってもらいました」
「ん、そうか。無事で何より…………つっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
ふと笑顔を見せようとした時、ピキンという痛みが頬に感じた。
上条の頬が腫れかけて来ている事に、初春はそこで気付いた。
「ん、ああ大丈夫だよ。寝れば明日には治ると思う」
とは答えるが、翌日にはもっと腫れる事になるだろう。
かと言って財布の中には病院に行くお金もなく自然回復に任せるしかないか、と上条は思っていたのだが。
初春はどこからか救急箱を持ってきていた。
「ダメです!じっとしててください」
「あ、あの…………?」
「動かないでくださいね」
さっとガーゼを取り出すと、消毒液を染み込ませ少し切れていた上条の口元に当てる。
どこか手つきがよく、サッと上条の口元を拭うと初春は次に湿布を取り出し腫れてきている箇所にペタッと貼り付けた。
「はい、いいですよ」
「お、おお…………どうもっす」
簡単だが丁寧な処置に上条は少し驚いたような、感心したような、そんな感想を抱いた。
「ありがとう」
だが素直に感謝する。
痛みはまだあるが、それでも笑顔を見せる男、上条。
「…………い、いえ」
初春は普段、男子生徒とあまり話す機会がない。
学校では大体佐天と共に行動しており、放課後はジャッジメントの仕事か佐天と遊ぶ。
そして寮生活の為、異性と接する機会はあまりなく、いまだ免疫がないためか…………はたまた別の理由が出来たか、上条の笑顔を見た時ハッとした様に初春は顔を赤らめた。
「あ、あの」
「ん?」
すると事情聴取が済んだのか、上条に助けられた先ほどの女子生徒が声を掛けてきた。
「ほ、本当にありがとうございました!お怪我の方は、大丈夫ですか?」
「全然大した事ないよ。それより無事でよかった」
「む……」
「い、いえ……その、お礼は必ずしますから!」
「いや、お礼と言われても……その為に助けた訳じゃないんだから、気にしなくていいよ」
「で、でも…………」
「いいのいいの。困ってる人を助けるのが普通、だろ?」
助けるのが当たり前だ、という考え方を持つのが上条だ。
実際、いままで救われてきた者は数知れない。
それは例えか弱い者であろうが、力ある者であろうが関係なしに上条は手を差し延べてしまう。
天然で底抜けのお人よし、優しさに惹かれさせてしまうのが上条だ。
これで完全に無自覚だから困る。
「……………………///」
──またこの類人猿は…………。
どうやらこれでまた一人、落ちた者が増えた、と黒子は溜息を吐いた。
しかしまあ何人落ちようが黒子には関係ない。
寧ろ愛しのお姉様から遠ざかってくれればそれでよかった。
そして事情聴取が終わり、女子生徒は黒子が空間移動にて送り届ける事となった。
ふう、と帰り支度を始めながら上条は部屋を改めて見渡す。
大量に積まれた書類と、本棚には本や事件ファイルなのだろうか、日付シールが貼られたドキュメントファイルがびっしりと並べられている。
──これがジャッジメントか。
と初春と黒子の仕事ぶりを見ていた。
黒子が聴取し、初春がキーボードを叩いて情報整理をする。
こういう事もジャッジメントの仕事の範疇だ。
全てが全て現場という訳ではない。
カタカタとキーボードを叩く初春を見て、そんな事を考えていた。
頭に乗せた花飾りも、彼女の動きと一緒に揺れていた。
「あ、あの…………そ、そんなに見られると、恥ずかしい、です」
「あ、ああ、ごめん」
そんな自分の視線を感じてか、上条の方に振り向き顔を赤らめた上目遣いを見せた。
──…………不覚にも。
年相応のあどけなさが残る彼女のそんな仕草に少しドキッとしたのは気のせいだろうか。
しかしこんな女の子がジャッジメント──少し上条は不思議にも思えた。
「初春さんは、どうしてジャッジメントに?」
ふと、ほぼ無意識で尋ねてしまっていた。
その言葉と同時に、初春のキーボードを叩く手が一瞬止まった。
何やら少し考え事をしているような、そんな感じ。
しかしすぐにエンターキーをターンと叩くと、椅子を回転させて上条の方に振り向いた。
「そうですね…………ある事件がきっかけです」
「ある事件?」
初春は思い出す。自分がジャッジメントに入るきっかけとなったあの事件を。
『もう心に決めてますの!私の信じた正義は決して曲げないと!』
『私、約束します。“己の信念に従い、正しいと感じた行動を取るべし!”私も、自分の信じた正義は決して曲げません!』
……………………
………………
…………
「へえ、そんな事があったのか」
少女達が決意する事となった、あの強盗事件。
あの事件をきっかけに、初春と黒子は知り合った。
そして訓練生時代も共に助け合って乗り越え、今の二人の絆を繋いでいる。
寧ろあの事件がなければ、恐らく初春はジャッジメントを目指していなかったのだろう。
「私の方は能力もあれですし、もっぱら情報処理の方ですけど」
自分の過去をペラペラ話して少し恥ずかしいな、という意味合いも込めて少しテヘッと舌を出して笑って見せた。
「しっかし、あっぶなかしい事してたんだな、白井のヤツ」
「天狗になってたんじゃないですかね。小学校では飛び抜けてたって言ってましたから」
「はは…………」
意外と黒子に対して毒舌を吐く初春に、上条も苦笑いを見せた。
まあそれは仲のいい証拠、でもあるのだろう。
「でも初春さん、しっかりしてるな。上条さんも初春さんくらいの年頃、多分遊びほうけてたと思うぞ」
「そ、そんな事は…………」
とは言っては見るが、上条にはその頃の記憶がない。
だが今の生活ぶりを見るに、恐らくそうだったのだろう。
そんな初春が、少し輝いて見えたのかも知れない。
ピンポンパンポーン。
翌日の昼休み、上条の通う高校で校内放送のチャイムが鳴った。
『一年の上条当麻、上条当麻。職員室に来るじゃんよ』
「んあ?」
昼食も摂り終わり、まだ半分以上昼休みが残っており土御門や青ピと談笑していると、突然名前を呼ばれた上条は間抜けな声を出した。
「おいおいカミやん、なんかやらかしたんかにゃー?」
「くぅ~、あの声は隣のクラスの黄泉川先生の声やん。カミやんいつの間にフラグ立てたんやー?」
「何言ってやがる青ピは」
少し嫌な予感が横切る。
呼び出し、というのはあまりいい知らせが多くない気がして、特に不幸体質の上条の事だ。
とんでもない事を知らされるかもしれない、と危惧していた。
「はあ、何だろうな…………行ってくるよ」
しかし無視する訳にもいかないだろう。
足取り重く、上条は職員室に向かうことにした。
「上条ちゃん、お待ちしていたのですよー」
「お、上条来たか」
職員室に入ると小萌と黄泉川の姿があり、やはり職員室という場所は慣れない為か控え目にそそくさと寄った。
「あのう…………なんの用事でせうか」
内心ビクビクしながら何の用事かと尋ねる。
しかし呼んだのは黄泉川だという事で、その事もまた上条の頭に疑問符を作っていた。
ちなみにアンチスキルでもある黄泉川とは上条が巻き込まれる事件の度に顔を合わせたりするのでお互い面識はある。
「小萌先生から話は聞いたか?上条、お前ジャッジメントをやる気はないか?」
「その話でしたか。いやー何かやらかしちゃったのかと思いまして」
その話かー、とホッとした表情を見せ、促された椅子に座った。
ジャッジメント。
上条は一応の答えを出した書類が鞄の中に入っており、今は手元にはないのだが近い内に提出しようかと考えていた所だった。
「で、どうなんだ?」
黄泉川も目の前で能力が打ち消された右手の事を知っており、その能力を考慮してこうして上条に提案しているのだが。
「でも、どうしてまた急になんですか?」
黄泉川の隣にちょこんと座った小萌が黄泉川に尋ねる。
担任の小萌が一番よく分かっている、上条の学校生活、成績。
しかしそれは度々色々な事に巻き込まれ、放っておけない性格の上条の事だ、仕方のない事と言える。
しかし小萌自身は、上条のジャッジメント入りにはあまり賛成してはいなかった。
学生の本分である学業を疎かにして、そっちの方に力を費やすのは小萌としては納得がどうにもいかなかった。
「ここではあまり大きな声で言えない事なんだがな…………実はな」
と、そこで黄泉川が周りを確認して椅子にもたれさせた姿勢を丸め、小さい声で呟いた。
「上からの通達じゃんよ」
「「へ?」」
上条と小萌が声を揃える。
上からのの通達?どういう事だと言わんばかりにお互いの顔を見た。
「んー、私も実は詳しい事はそこまで聞かされてない。だが上からそう言われたじゃんよ」
上────。
それは黄泉川の属する、アンチスキルの上層部、で合っているのだろうか。
すると上から上条を指名してきた、という事になる。
「え、え…………?」
上条は自分が思っていたよりも、何やら大事な事に気が付いた。
「でっ、でも、上条たんの補習が免除って……」
小萌が可愛らしく噛みながら尋ねる。
確かに、補習免除というのはかなりの優遇だ。
それに上条は出席日数の不足や、元々の出来の悪さでもはや必須項目だったのだが。
「…………それも、上からの通達、じゃんよ」
黄泉川としても小萌と色々話す機会があったりする為、上条の事についても色々知っていたりする。
進級さえ危ぶられるほどなのに、それを無条件免除という事は事態が予想以上に重いと痛感させられていた。
しかし、それとこれとは話は別で。
全ては、上条の決断に委ねられているのだ。
「それで、上条はどうするじゃんよ?」
上条は考える。
別に優等生になりたい訳でもない。
しかし立派なジャッジメントになりたい!という思いもまだない。
だが…………。
「俺は…………答えをもう出してます」
「ほう?」
「上条ちゃん…………」
ほんの少し、深く息を吸い込んだ。
「この性格の通り、困っている人を見れば放っておけない性格です。泣いてる人なんて見たらいてもたってもいられなくなってしまう。俺のこの手の届く範囲でなら…………助けれるのなら、限りなく助けていきたい」
「上条…………」
見つめていた自分の右手をキュッと閉じ、握り拳を作って見せた。
インデックス、美琴、妹達…………上条の記憶の中で色々な泣き顔を見てきた。
上条はそれを見るのが辛かった。
皆が笑い合えるハッピーエンド────。
聞こえはいいだけなのかもしれない。
余計なお世話なのかもしれない。
自分のエゴなのかもしれない。
偽善なのかもしれない。
しかしそれがどうした。助けられるなら、それでいいじゃないか。
だったら偽善者でも構わない。
大切な人達をこの手で守れる事ができれば、それでいい。
意を決して言う。
「小萌先生、黄泉川先生。俺、ジャッジメントになります」
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