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元スレ上条「俺がジャッジメント?」
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ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
上条さんの女(になる予定)だと知ったら浜面達も動くのかな?
なんにしせよ次回も期待
なんにしせよ次回も期待
ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
頼む…頼むよ…
頼む…頼むよ…
初春「んー! んん!」
「大人しくしてろよ? 痛くしねえからよ、グヘへ」
怖い。怖いよ…………。
数人の男達と初春を乗せた車が走る。
口にはガムテープを張られ、両腕も後ろに縛られて身動きが取れない。
ワゴン車の後部座席に押し込まれ、隣には男が陣取っており初春に視線を寄越す度に卑猥な笑い顔を見せていた。
ただ、身体を震わせて縮こませるだけしかできない。
―――いや…………いやぁ、当麻さん…………っ
車は走っているのは分かる。どこに向かっているのかを考えている余裕などない。
等間隔に置かれた街頭の灯りを二、三秒毎に走り抜けているのが視界に映っているが、見ているというだけで頭には入ってこない。
これから自分はどうなってしまうのか、どうされてしまうのか。
恐怖が初春を支配していて、視界も涙で滲み出してきていた。
「ゲヘ、女の涙ってたまんねえよなあ」
初春「っ……………………!」
その涙も男を喜ばす材料にしかならない。
絶体絶命―――という言葉が初春の頭を駆け巡った。
初春は弱い自分が嫌いだった。
それは身体的にも、内面的にも。
同僚である黒子という少女は、自分とさほど変わらない体格であるのにも関わらず身体能力・演算能力が自分のそれとはさほど違う。
そしてたった一つだけ年が上の美琴は、自分と比べるのが失礼なくらいの次元の存在で。
こんな状況など、どうとでも対処出来てしまうのだろう。
しかし、自分にはそんな力はない。
能力だって、身体だって、力も何もなく。
ジャッジメントの仕事中でも目の前で起こった事件に立ちすくむ事だってあった。
周りの人達は『女の子なんだから仕方がない』と言う。
しかし自分としてはそんな理由で自身が掲げた正義から引き下がりたくなかった。
それならば、何の為にジャッジメントになったのか。
何をしたいが為にジャッジメントになったのか。
弱者を、守りたいからではないのか。
だったら今、こんな男に屈している訳にもいかない。
この男の、言いなりになるものか。
初春「……………………っ」
「おいおい、なんだよその目は。そんなに凄まれると俺興奮しちまうぜ」
男の手が自分の太もも辺りに置かれた。
気持ち悪い。嫌悪感しかない。
触るなと男の手から逃れるように足を動かすと、男はその目を更にキツく歪めた。
「おーおー、強がっちゃって。そんな子、嫌いじゃないぜ?」
初春「…………………………………………!?」
しかし、男の手が…………………………自分のスカートを、めくり始めていた。
黒子「その話、詳しく聞かせなさい!」
浜面「おわっ、な、何だ!? いきなり女の子達が目の前に…………!」
麦野「あ? なんだこいつら」
絹旗「超ただならぬ様子ですね」
滝壺「……………………空間移動?」
佐天「すみません、ちょっと失礼します!」
浜面「おわ、ちょ」
『ジャッジメント』『頭に花飾り』
耳に届いた二つのワードが、今自分達が探している少女だという事を悟らせると二人は一瞬の間もなく行動していた。
空間移動で黒子と佐天が浜面の元に移動すると、佐天は浜面が手にしていた携帯電話を取り上げるようにして画面を確認する。
佐天・黒子「……………………………初春!!」
間違いなかった。
画像に写っていたのは、怯えた表情の初春の姿。
場所は走っている車の中なのだろうか、初春の後ろに写る光が不自然に横に線を描いていた。
間違いであってほしかった。
しかしその画像を見るだけで十分状況は理解出来てしまう。
黒子と佐天の二人の心臓は、大きく脈を打っていた。
初春は、攫われたのだ。
浜面「んあ? この画像の子と知り合いなのか?」
黒子「初春は今どこにいますの!?」
佐天「初春…………初春……………………!」
胸ぐらを掴みかかるかの様に詰め寄られた浜面は、その勢いに圧倒されていた。
彼女の様子からして、ただならない雰囲気の様で。
ツインテールの少女の後ろで知らない女の子も両手で顔を覆って泣き出してしまっている。
状況を把握するに、恐らく画像の女の子は彼女達の知り合いか。
黒子「お願いですから…………教えてくださいましっ!!」
佐天「お願いします! 大事な友達なんですっ!」
土下座でもするかの勢いで頭を下げる二人に、浜面は困った表情を見せる。
その様子から、本当に二人にとって大事な子なんだという印象を受けていた。
恐らく年齢は、絹旗くらいのまだ小さな女の子。
そんな子が、スキルアウト時代に耳にした暴れん坊の異名で知られる『ブル』に捕まった、という事は。
純潔を、散らされるという事を意味している。
元々浜面からしてみれば、別に大して関心も持たない事だった。
スキルアウト達は、窃盗、略奪、強姦、殺人など様々な犯罪を犯す。
かつで自分もATM荒らしや窃盗などの犯罪は繰り返してきては警備員に捕まった事も多々あった。
しかし、強姦や卑猥な行為は今まで一切してきてはいない。
どうしても、悲哀の念を感じてしまう。
元々どうして浜面がスキルアウトになったのかというと、傲慢、高圧的に振る舞う能力者達に対抗する為だった。
能力が発現したからといって、能力者達の無能力者達を蔑み侮蔑しまた虐げた行為が浜面にとって許せるものではなかった。
それはこの学園都市に対する疑問でもあったし、能力がないからゴミの様に扱うという常規を浜面は憎んでいた。
一矢報いたい。
裏を返せば、無能力者達と共にその体制と戦いたいという優しさからくるもので。
弱い者の味方に―――――とは聞こえはいいのかもしれない。
しかしそのつもりだった。
だから今まで、『女を捕まえた』という仲間達の誘いは全て断ってきていた。
どうしても可哀想という思いが先行してしまい、とてもではないが参加する気は起きなかった。
しかし、それで今はよかったと思える。
命に変えても守りたいと思う大切な者も出来たし、それがどんな相手でも立ち向かっていくだろう。
滝壺「……………………はまづら」
浜面「滝壺……………………」
女の子二人の様子を見て、心配の色を浮かべるその大切な者の自分を呼ぶ声が浜面の耳に届く。
恐らく、その捕われたという少女の危機を彼女も肌で感じたのだろう。
もし、もし。
捕われた、というのが大切な者だとしたら。
浜面「おい。『ブル』の野郎と連絡取れるか?」
「ん? はっ、浜面も参加したくなったか?」
浜面「違ぇ。やめさせるんだよ」
「……………………ああん?」
絹旗「浜面…………」
麦野「浜面、あんた」
滝壺「……………………それでこそ、はまづらだよ」
浜面「頼む。手遅れになんねえ内に…………!」
「……………………ったく、わかったよ」
黒子「感謝致しますの!」
佐天「あ、ありがとうございます……………………!」
そう考えると、浜面はそう行動していた。
prrrrrrrrrrrrrr―――――――――――――
「ああ? んだよんな時に」pi
初春「……………………っ…………!」
太ももを露にされ、それを不快な笑みを浮かべて眺めていた男の携帯の着信音が車内に響き渡った。
興奮していたのだろうか、少々息も荒いようでそれが更に初春の恐怖心を煽っていた。
「なんか用か?」
『よう』
「ああ? その声……………………浜面かよ。どうした? 参加する気にでもなったか? ゲヘ」
初春「……………………っ!?」
『……………………んー…………まあな』
「ほう? テメェ、可愛い子達に囲まれてるっつー噂だったんだが、なんだよ。ヤラせてくれねえのかよ? 欲求不満なのかぁ?」
『はは、ま、そんなところかもな。ところで、今どこにいるんだ?』
「教えてやってもいいが、土下座する覚悟は出来てんだろうな?」
『ああ。お前はもう手を出しちまったか?』
「いんや、まだだ。しかしなあ…………くく…………情けねえやつだな、てめえはオイ。まあいい。今は移動中よ」
『どこに向かうつもりだ?』
「第十一学区の俺達のアジトだ。場所は分かるよなぁ?」
『ああ、わかった…………それより、俺が来るまでまだその子に手つけないでおいてくれっか?』
「はあ? てめえにそんな指図受ける筋合いはねえぞ?」
『頼む』
「ああ? 中古は飽きたから初物をいただきたいってか? か~、モッテルオトコは違うねぇ」
『んじゃ、俺もそっち向かうから』pi
「…………………………………………ちっ」
電話をまるで楽しんでいたかの様だったが、愉快に歪めていた表情を消すと男は苛々した様子で乱暴に携帯を投げ捨てる。
バキ!という音と共に、電源も落ちたのかディスプレイから光が消えていた。
初春「………………………っぁ……………ぃ……」
物々しい会話の内容に、初春はその身を震わせていた。
相手先が誰なのかもわからないし、電話口から漏れた声も全て聞き取れた訳でもないのだが、男の口から出た純潔の危機を匂わす言葉に心底恐怖を覚える。
イヤダ、イヤダ、イヤダ……………………。
その男の視線が自分の捲れたスカート、太ももに来ると再びその口角が厭らしく釣り上がった。
―――当麻さん……………………当麻さん当麻さん……………………!!
ギュッと目を瞑り、心底会いたい彼の名を心の中で叫び続ける。
悲しくて、苦しくて。
目の端から、涙さえ溢れてきていた。
もしこんな形で純潔を散らしてしまったとしたら。
もう二度と、彼とはいられない。
汚れた自分を見て欲しくない。
汚れた自分が彼に近づく事で、彼を汚してしまいたくない。
でも、会いたい。
恐怖と畏怖と後悔と想いと、頭がどうにかなってしまいそうだった。
浜面「……………………第十一学区だ」
電話を切った浜面は、苦虫を噛んだような表情で呟く。
そんな浜面の様子を穴が開くほど見つめて窺っていた黒子と佐天の目が見開かれ、お互いの顔を見合った。
黒子「第十一学区……………………!」
佐天「く、詳しい場所は……………………!?」
「スキルアウトの野郎共の巣窟にしてる、あの廃墟ビルだろうな。詳しい場所は……………………口じゃ説明しづれえな」
黒子「くっ……………………!」
佐天「早くしないと初春が……………………!」
浜面から電話を受け取ったスキルアウトの男がそう言うと、黒子と佐天にまた暗い色が差す。
第十一学区だというのがわかっても、詳しい場所がわからなければ恐らく立ち往生してしまうだろう。
しかし、迷っている時間などない。
それに黒子は空間移動能力の保持者だ、見つかるまで怪しげな所を覗いては次を探す――――――その一縷の希望に縋るしかないと黒子は再び顔を上げた。
黒子「ご助勢感謝いたします!」
佐天「白井さん、行きましょう!」
一分、一秒だって惜しい。
手遅れになってしまってからでは仕方がない。
恐らく、今だって震えて泣いているはずなのだ。
初春の心の中にいる人を、ずっと思い浮かべながら。
滝壺「はまづら……………………」
浜面「ああ、わかってる。おい嬢ちゃん達、俺の車に乗っていけ。そっちのが早いだろ?」
黒子「え…………しかし…………」
場所を知っているのなら、連れていってもらった方が望ましいだろう。
しかしそうは言っても、結局浜面も黒子からしてみればスキルアウトで、信じ難い相手だ。
しかもこう考えては失礼なのかもしれない。
もしかしたら、罠にかけられているという可能性も。
しかし、それでも。
結局今は信じるしかないのだ。
この躊躇している時間だって惜しまれる。
初春が危ないというのに、自分の身の心配などしていられない。
それに、浜面という男の袖を心配そうな表情でくいくいと引っ張る女の子の様子が、彼を信じていいものかと思わせてしまっていた。
麦野「まあここまで来ちゃったし、ねえ…………浜面呼んだには呼んだけどどうせ暇だったし?」
絹旗「なんか最近超平和で暴れ足りないですし?」
浜面「いや絹旗、お前は大変だっただろ…………」
佐天「すみません……………………お願いします…………!」
「『ブル』の奴、なんか最近調子乗ってやがるからな……………………アァデモメモリーカードドウシヨ」
佐天ももはや縋るしかない、といった様子で頭を下げる。
この面々が一体どんな関係の集団なのかはわからないが、今は信じるしかなかった。
佐天「初春…………初春…………!」
黒子「きっと…………大丈夫ですわ…………」
猛スピードで国道を走り抜ける車が一台。
運転席に浜面、助手席にスキルアウトの男が乗っていて、黒子と佐天は後部座席に座っていた。
佐天の隣では滝壺が佐天の背中を撫でており、その黒子の言葉と相乗して佐天の気持ちを少し落ち着かせていた。
三列目では麦野と絹旗が陣取っており、その二人は何やら楽しげに場違いのヒソヒソ話をしていたが、それについては黒子はとやかく言うつもりはなかった。
なんやかんや言って巻き込んでしまったようなものだし、結局協力してくれるとの事なのだ。
無事でいて欲しい。
黒子と佐天の二人の胸中はこれだけだった。
もし、もし。
初春に何かあったとしたら…………と考えるだけでも意識が遠のいてしまいそうなほど。
彼女とてこんな事になって、今感じている恐怖感、絶望感は計り知れないものなのだろう。
せめて、自分ならよかったと黒子は苦虫を噛むばかりだった。
なぜあの時一人にしてしまったのか。
なぜ自分がついていかなったのか。
後悔の念しか浮かんでこない。
初春だって、好きな人が出来て近付けるという事だけでこっちにまで幸せにしてくれそうな笑顔を見せてくれて……………………。
そう言うと黒子ははっとし、携帯を取り出した。
佐天「白井さん…………?」
考える。
上条を、呼ぶか。
呼んだところでどうにかなるのか―――――しかし、黒子は上条の電話番号を無意識で呼び出していた。
初春が今一番会いたいのは、彼のはず。
それはどんな状況でも、どんな事があっても。
あれだけの想いを見せつけられれば、何よりも彼の事を考えているというのがわかる。
自ずと答えは決まっていた。
prrrrrrrrrrrrr―――――――――
数回のコールの音がした後、上条の声が届いた。
上条『もしもし、白井か? どうしたんだ?』
黒子「上条さん……………………初春が、初春が……………………」
上条『ん? 初春さんがどうしたんだ?』
黒子「初春が…………スキルアウトに、攫われましたの…………!」
上条『………………………………………………………………何だと?』
浜面「ん? 上条?」
黒子「はい、それで今…………『おい……初春さんは大丈夫なのか…………? 無事なのか!?』っ」
麦野「…………すげえ馬鹿でかい声」
浜面「あいつの声じゃねえか」
上条『白井っ! 初春さんは無事なのかよ!? クソッ、今どこにいるんだ!?』
黒子「え、ええ…………今浜面さんという方に協力していただいているのですが…………」
上条『それより初春さんはどうなんだよ!? 無事なのか!?』
浜面「あいつ俺の事はスルーかよ」
麦野「知り合いなの? 浜面」
浜面「んー、まあな」
黒子「きっと、無事です…………場所は第十一学区、どこかにある廃墟ビルのようなのですが…………」
上条『第十一学区だな!? わかった、今から行く!』
その言葉が響くと同時に通話が切れ、機械音が黒子の耳に届く。
滝壺「すごい怒ってたね」
佐天「初春…………もう大丈夫、上条さんが来てくれるから…………」
そして、ヒーローは動く。
世界の混乱を止めた、歴戦の英雄が動く。
初春にとって、かけがえのない大切な人が動く。
その電話口の雰囲気から、尋常ではない怒りをまき散らして。
初春が危険に晒された事による、怒り。
それは、まるで全てを燃やし尽くしてしまいそうな想いさえも感じさせていた。
乙でした。
ここは敢えてこう言っておきましょう…浜面頑張れ。超頑張れ。
ここは敢えてこう言っておきましょう…浜面頑張れ。超頑張れ。
走る。走る。
陽も暮れた夜の町並みも置き去りにして、上条当麻は走る。
上条「畜生…………! 間に合ってくれ………………!」
嘆願にさえも聞こえる彼の呟き。
それは走り抜ける彼の尋常ではないスピードで、帰路に着く学生達の耳にも触れず溶けていく。
シュンっ!
という風の切る音だけが学生達に届いただけ。
突如吹き抜けた風と音に何事かと後ろを振り返るが、学ラン姿の少年が一瞬の内に遠ざかっていったのを僅かに確認できただけだった。
自身が住む学生寮に着いた矢先に、風紀委員の先輩になった黒子からの着信に気付いた。
何だろうなと電話を受けると、そこで上条の空気が変わっていた。
初春が危ない。
黒子から告げられた実にシンプルな言葉は、上条の心をえぐった。
なぜだ、なぜ。
なぜ彼女が危険な目に合うのか。
自室に鞄を放り投げるように置くと、インデックスも驚いた様にしていたのだが説明している時間もなく。
隣の部屋に住む土御門に彼女を託すと、上条は全力で駆け出していた。
上条「無事で……………いてくれ…………………!」
情報は第十一学区、ただそれだけ。
詳細も何もわからないのだが、それでも走る。
いてもたってもいられなく、ただひたすら走った。
並走していた車を追い抜く。
上条当麻は風になった。
「おら、入れ!」
初春「──────っ!」
ここは一体何処なのだろうか。
見た事もない、辺りも薄暗い地下駐車場で車は止まった。
シミやらゴミやらで地面は汚れていて、この学園都市の中では類を見ない程の汚さだった。
車を下ろされ、腕を引っ張られて廃れたビルの中に連れ込まれていく。
───い…………ゃぁ………………………………っ
口元に貼られたガムテープは、口を開く事も許してくれない。
一体中で何をされてしまうのか────それはまだあどけない少女でも、嫌でも簡潔に予想させられていた。
キィッ────────
鉄製の重々しいドアが錆び付いた悲鳴を上げて開かれる。中はいまだ電気は通っているのか、薄暗くだが廊下を確かに写し出していた。
中ではどこの部屋からだろうか、知らないヒップホップ調のBGMが爆音で垂れ流されていた。
「お、『ブル』さん。ばわッス」
「チャース」
「っと、『ブル』さんそこのスケはなんなんすかあ?」ニヤニヤ
初春「…………っ!?」
部屋を照らすライトにフィルムでも貼られたのだろうか、やけに赤い部屋から三人の男達が出てくる。
初春をさらってきた『ブル』という名の男の仲間のようだった。
男達も初春の姿を見ると、『ブル』と同じ様に下品で不快な笑みを浮かべていた。
「おお、お前らか。俺ぁ今から忙しいから部屋入ってくんじゃねえぞ」
「か~、今日はまためっちゃ可愛いコっスね」
「『ブル』さん、終わったら俺らにも回してくれませんかね?」
「『ブル』さんの後なら抵抗しねえからヤリやすくていいっす」
初春「……………………っ」
似合わない長髪やモヒカン、顔中、舌にもピアス。
そして下劣すぎる会話、言葉。
初春の一番嫌いな人種達だった。
「そんじゃーな、邪魔すんなよ」
初春「んん………………っ!」
三人の自分の背中を追い掛ける視線を感じながら、『ブル』に腕を引っ張られて連れられある部屋の前まで来てしまった。
───いや……………………いゃ……………………っ
この部屋の中に入ってしまったら────────。
きっと、何かが終わってしまう。
しかし初春の力ではやはり抗えるものではなく、安々と『ブル』に連れ込まれてしまった。
浜面「ん──────あれは上条?」
白井「上条さんがいるんですの!?」
佐天「どこ!?」
「あそこで走ってるヤツがそうか?」
第十一学区に入り、少し走ると前方の方で浜面の知っている背中が見えると声を上げていた。
こちらは車、そして向こうは足。
上条を呼び止めようと浜面は車のスピードを上げたのだが、なかなかに追い付けない事に浜面は驚愕した。
浜面「あいつ、なんて脚力してんだよ…………」
「人間の走るスピード越えてやがる……………………」
滝壺「……………………すごいね」
麦野「一体何者なのよ、その男……………………」
「なんだ? なんかの能力か?」
先程黒子が電話を掛けたのはこの車に乗り込んでからというものの。
あの学生寮からここまで、どれだけ距離が離れているのか、それは相当な距離のはず。
しかし上条は乗り物も何も使わず、ただ自身の脚だけでこの短時間でここまで来たということに一同はただ驚いていた。
浜面「いや、無能力者だぞ、あいつ。………………………………多分だけど」
絹旗「私は知っている訳ではないんですけど…………『新入生』の事件の時、結局その人が超止めたらしいですしね」
滝壺「すごい人?」
麦野「へぇ、そうなんだ」
「無能力者かよ、おいおい……………………バケモンみてえなスピードじゃねえか」
黒子「……………………上条さんを変に言わないでいただきたいですの」
浜面「いや、そんな風に思っちゃいねーさ。あいつはすごい奴だって事は知ってるからな」
黒子「………………………………っ…………」
佐天「白井さん……………………?」
───…………………………どうして、わたくしは。
黒子は無意識に出た言葉に自分自身で驚いていた。
あの類人猿などお姉様に付き纏う邪魔者の存在だったはず。
しかしなぜ今、彼を擁護するような言葉が出たのだろうか。
彼が悪く見られるかの様な言葉にムッとした自分の気持ちは一体何なんだろうか。
浜面「上条!!」
上条「浜面!?」
浜面「乗れ!」
黒子「上条さん、乗ってくださいまし!」
上条「白井!? 何で浜面と一緒に? ……………………まあいい、このまま飛び乗るぞ!」
スライド式の後部座席のドアを開け、走っていた上条に黒子が声を掛けると上条はその顔に驚きを貼り付けていた。
しかし逡巡する事もなく、そういうと上条は並走していた車に飛び乗った。
浜面「飛ばすぞ! 捕まってろよ!」
上条「頼んだ!」
飛び乗って窓の上に付いている取っ手を確かに掴むと、ドアも閉めずに身体半分車の外に出したまま上条が叫ぶ。
その言葉を聞くと浜面はアクセルペダルを思い切り踏み込み、『ブル』が篭城しているあの廃ビルへとそのスピードを上げていった。
初春「んん…………!」
『ブル』が上着を脱ぎ捨てて近寄る。
初春はその身を縮こまらせ、ただ身を震わせるしかできなかった。
危機感、恐怖感が最高潮に達する。
嫌だ。嫌だ。
こんな男に、自分は。
「ふへ…………苦しかったろ? ガムテープ取ってやるから」
初春「っ」
その汚い手で顔も触られたくない。
しかし『ブル』は触れる事を嫌がる初春の口元に手を当てると、ガムテープを引き剥がした。
初春「くは……………………っ、か、帰してください!」
「げへへ……………………よく見ると可愛いじゃねぇか」
そのガムテープの口が付いた部分を舐め取るかの様な仕草を見せた『ブル』に、初春は心底嫌悪感と嘔吐感を覚えた。
醜い。醜すぎる。
ガムテープを丸めて投げ捨てると、『ブル』はナイフを取り出し今度はそれを気味悪く舐め回し始めた。
初春「い……………………いや……………と、当麻さん………!」
そのナイフで何をしようとしているのか。
『ブル』が手にした鋭利な刃物に初春の胸の警鐘が激しく鳴り響く。
コンコン────────────。
───!?
するとそこでドアをノックする音が響き、『ブル』は一旦その動きを止め、邪魔された事に苛立ったか忌ま忌ましげに扉の方に目をやった。
「すんません『ブル』さん」
しかし、初春が期待したものとは違う男の声が扉ごしに響く。
助けになるでもでもなく、初春の心は更に頂垂れる思いだった。
「なんだよ? 邪魔するなっつっただろうが」
「へへ…………」
「まあ入れ」
「お取り込み中すんません、げへっ…………」
ドアが開く。
そこにいたのは、先程見た三人組の一人だっただろうか。
長髪に眉、鼻、口にピアスを開けている男が手に『何か』を持って入室してきていた。
「ああ? んだよそれ?」
「げへへ、これっスか?」
初春「……………………………………っ!?」
長髪が手にしていたのは、銀色の手にすっぽり収まる大きさのもの。
何かの機械か。
「それほどレベル高いコなら高く売れるんじゃないっスかね?」
「てめぇもモノ好きだな。俺の顔撮りやがったらぶっ殺すけどな」
「わかってますって。今まで『ブル』さんのをどれだけたくさん撮ってきたと思ってるんスか」
『カメラ』だという事を、そこで悟った。
初春「ぃや……………………ぃやぁ…………!」
首をぶんぶんと振って身体を起こそうと抵抗するのだが。
長髪の持つカメラのレンズがこちらに向けられると、初春の目から更に涙が溢れ出してきていた。
「さぁて、再開、再開っと」
『ブル』も大してカメラが気にならない、といった雰囲気でナイフを再び逆手に取ると、初春の方に向き直る。
「くくく、どぉんな身体かまずは見せてもらおうかねぇ」
下劣な笑いを再び浮かべると、『ブル』はセーラー服の前の部分を引っ張りそのナイフを一気に引き下ろした。
ビリリッ────────────!
初春「い…………いやああああぁ!!」
破かれた音と共に、初春の上半身が露にされていく。
下着を残して、セーラー服は見るも無残に切り裂かれてしまっていた。
「確か、この辺だったな……………………久々に来たからあんま覚えちゃいねえが」
上条「……………………あれは!!」
黒子「ど、どうされたんですの!?」
上条「浜面! 一旦車を止めてくれ!」
浜面「了解っと!」
キキッ!という音を上げて車が止まる。
黒子の何事かを尋ねる声もそのままに上条は止まった車から飛び降りるように下りると、道の端の方に走り出した。
上条「……………………………………くっ」
そこにあったのは────────彼女が身に付けていた物。
色とりどりの、花飾りだった。
間違いない。彼女の物だ。
上条はそれをそっと優しく持ち上げると、苦虫を噛む。
スキルアウトらしき男の言葉によると、『ブル』とやらが潜むその廃ビルはどうやらこの辺りらしい。
黒子「上条さん!?」
佐天「どうしたんですか……………………ってこれは!?」
続けて下りてきた黒子と佐天が上条の手に持つ物を目にすると、二人も苦しげに表情を歪める。
二人にとっても見慣れた、初春がいつも頭に付けていた花飾りだった。
黒子「それでは……………………!」
「思い出した! そこだ!」
スキルアウトの男が開けた窓から身を乗り出し、上条達の裏手の方を指差す。
そこには地下駐車場に続く緩やかなスロープの道があった。
上条「すまん! 恩に着る!」
黒子「わたくしも行きますの! 佐天さんはここに残ってくださいまし!」
佐天「いえ、私も行きます!」
黒子「しかし……………………!」
佐天を止める様な言葉を考える黒子だったが、既に地下駐車場への道へと走っている上条を見て途中で言葉を止めた。
ここで押し問答をしている暇はなく。
佐天にも何かあったら……………………いや、その時は空間移動で逃がせばいい。
彼女も、初春の身を本気で案じる親友だ。
黒子「行きましょう、佐天さん!」
佐天「はい!」
そして二人は既に遠くに行った上条の背中を追い掛けていった。
上条「初春さん、何処だ!?」
バンっ!!と地下駐車場から中へと進む扉を蹴り開けると、上条は大声を張り上げる。
薄暗い廃ビルの中は、爆音で流されている音楽やスキルアウト達で騒ぐ声でざわついており、自分の声は届いたか届いていないかはわからない。
この中に、彼女は連れ込まれたのか。
「ああ? 誰だよテメー?」
「なんだなんだぁ?」
「おいおい殴りこみにでも来たのかぁ?」
上条「おい、ここに女の子が連れ込まれなかったか?」
しかし流されるBGMや騒ぎの中、ドアを蹴破った音と自身が上げた声に気付いたか、中から五~六人のスキルアウト達が姿を表す。
男達は上条の姿を見ると、敵を見るかの様な目付きに変わった。
「連れ込まれてたとしたら?」
「今頃ヤラれてんじゃねーの?」
上条「………………………………………………………………あ?」
「つーか俺達の縄張りに土足で踏み込んで挨拶も無しかぁ?」
「丁度いい。データカードも見つからなくてムシャクシャしてたところだ」
「ちょっと俺達と遊んでもらおうか!」
バギンッッ――――――――――――――!!
「「「「「「!!??」」」」」」
という破壊音と共に、上条の手が打ちっぱなしのコンクリートの壁から引き抜かれる。
上条の表情は俯いていて、どんな顔をしているのかは見えない。
ただその圧倒的に感じさせるオーラと怒りは、まさに上条を取り囲もうとしたスキルアウト達を震え上がらせていた。
ゆっくりと、上条がその顔を上げる。
彼のその表情は、怒りに満ちていた。
上条「…………………………………………言え」
「お、おい、何だよコイツ…………やばくねーか?」
「た、たまたま壁がボロくなってただけなんじゃねーの!?」
「お、お前ら、得物忘れんなよ」
「最悪、殺すしかねえなぁ」
ただスキルアウト達も、グループ間の抗争や能力者達との争いにて戦果を上げてきた者達で。
たった一人、単身で乗り込んできた如何にもシャバの人間に臆する場合でもなく、男達は啖呵を切る。
六人でかかれば、たった一人の少年だ、どうとでも出来るという風に上条に向かって行った。
上条「てめえら…………覚悟しろよ!」
「はぁっ!!」
鉄パイプを持った男が上条に殴りかかる。
しかしそれを僅か数cmで見切ると、その男の顔面に思い切り拳を打ち込んだ。
「ぐはぁっ!!」
「「うおッ!?」」
その男は後ろにいた二人の男を巻き込み、5m程後ろに吹き飛ばされた。
その様子を見るや否や、残りの三人が同時に上条に蹴りやら木刀やらを撃ちこむ。
しかしそれを上条は飛び越えると、壁を蹴り三角飛び蹴りの要素で膝蹴りを木刀を持った男に突き立てると、男は鼻から血を出して盛大に倒れ込んだ。
「ぶごっっ!!」
上条「ッ!!」
そして間髪入れずにその隣にいた男を回し蹴りで蹴り飛ばす。
胸元に上条の足が入ると、何処かの部屋のドアを巻き込んで男は吹き飛んでいた。
「ぐあッッ!!」
それを一瞥すると、残った一人に上条は向き直る。
残りの一人は戦力の違いを悟ったか足を震わせているようだった。
上条「何処にいるんだ!? 言え!!」
「あ、あそこです……………………」
胸倉を掴み、締め上げるかの様な上条に男は恐怖からか呆気無くある部屋のドアを指差した。
その差した指も震えていて、ガタガタと歯を鳴らしながら自身に降りかかる危害を何とか逃れようと必死の形相をしていた。
上条「あの部屋か……………………!」
黒子「上条さん!!」
すると後ろから黒子の声が響き、上条は男を投げ捨てるように離す。
その男はドサッという音と共に地面にへばり付き、腰が抜けたかどうやらもう立てない様子だった。
黒子は既に倒れ伏している男達五人の姿に目をやると驚愕の表情を浮かべていたが、次第に渋い顔付きになっていった。
黒子「上条さん! 怒るのもわかりますが貴方はジャッジメントですの! くれぐれも配慮をしてくださいまし……………………!」
上条「……………………っ、そう、だったな」
佐天「すごい……………………この人数を、一瞬で……………………?」
黒子「それで、初春は!?」
上条「あそこの部屋だ!」
佐天「今行くよ、初春!」
男が指を差した方向に顔を向けると、一同はドアの方に駆け寄ってく。
中で何が起きているのか……………………という事も想定する余裕だって今はない。
まだ、何も起きてないでくれ――――――――――――
三人の胸中はそれに尽き、無事を願ってそのドアの前まで辿り着いた。
上条「はぁッ!!」
そしてその扉を蹴り開けた先にあったのは――――――――――――――――――――。
上条「っ!!??」
黒子「初春っ!?」
佐天「初春!!」
「何だよ、今日は厄日かよ、まだヤレてねえってのに……………………っつーか、何だ? てめぇらは」
初春「むぐ……………………ぅぐ……………………!?」
全身を下着姿にされ、『ブル』に羽交い締めされ口元に手を当てられ。
そして首元にナイフを突き立てられている初春の姿だった。
初春「……………………むぐ、ぐ……………………!!」
上条「てめぇ……………………!」
怒りが更に高まる。
上条の姿を確認すると、初春のその大きく開かれた目から涙が溢れ出していた。
どれだけ泣いたのだろう、初春の頬には既に涙の跡が何重にも残り、更にそれを新しく上書きされていく。
「おやおや、コイツを助けに来た王子サマってやつかぁ?」
上条「…………てめえが『ブル』って奴か?」
「あぁ? おいおいこんなシャバい野郎にも俺の名が知られてるなんてな。とうとう俺も有名人になっちまってたのかぁ?」
上条「うるせぇ。さっさとその子を離せ」
「くぅー、女の子二人連れ込んでるってのに更に女を求めるっての? なんだぁ? ハーレム王国でも建設しようとしてんのか?」
下品に下品を重ねた笑いを浮かべる『ブル』に、上条達は怒り、そして吐き気さえ覚えた。
先程の『ブル』の言葉から初春はまだ服を剥ぎ取られただけというのが分かり取り敢えずは安堵したのだが。
こんな醜悪の塊の様な男に、初春は穢されそうになったのか。
上条はグッと拳を握る。
自身の拳から血が出そうなほど、強く握っていた。
黒子「……………………く、能力が使えない!?」
佐天「白井さんどうしたんですか!?」
「おやおや、何かの能力者かぁ? はっ、まあここは能力者達に攻めこまれた時の為にビル全体にAIMジャマーを設置してるからな。使えねえのも無理はねえなぁ」
能力を使えば、この程度の状況などいくらでもしようがあった。
しかしここで黒子は空間移動か使えないと分かると、悔しげに顔を歪めていた。
どうすれば、どうすれば。
初春を傷付けずに、救える?
下手に動けば初春が危ない。
初春に傷が付く恐れを三人は一番の念頭に置いて、思案する。
初春「ぐ……………………っ」
「ったくよぉ……………………今日は本当に腹立つ日だぜ。データカードは見つからねえしよ、いいとこで邪魔されるしよ、コイツもとう…………………………………………
はん、当麻さんってお前の事かあ?」
上条「んだよ」
「コイツが当麻さん、当麻さんなんつー声を上げて嫌がる素振りを見せやがってたからなあ、はん、てめえの事かよ」
上条「…………………………………………っ」
黒子「初春……………………」
佐天「うぅ……………………」
刹那、初春と目が合う。
恐怖に濡れた色と、後は何をその心に秘めているのだろうか。
わからないが、助けを求めている事に変わりはない。
初春「……………………っ」
上条「!?」
その瞬間、初春の眼の色が変わった。
何かをしようとしているのだろうか。
じっと上条の目を見つめ、コクンと頷く。
「なんだぁ?」
その微かな初春の動きに『ブル』は反応すると、初春は思い切り―――――――――――口元を覆った、その手に噛み付いた。
「ぐわッッ!? いてええぇぇッッ!?」
上条「がぁッッ!!」
『ブル』の手は、急激に襲った痛みから初春の身動きを封じていた腕を一瞬緩めてしまう。
その隙をついて上条はまず初春に突き付けていたナイフを持つ腕を掴むと、初春の方向からずらした。
冷静さを欠いた『ブル』は、羽交い締めにしていた腕の方も離してしまうと上条に交戦するために向き直る。
もつれ込むようにして空を切ったナイフは、上条の頬を横一線に切り傷を作っていた。
「クソがぁぁぁぁッッ!!」
上条「ッ!!」
黒子「初春!」
佐天「初春ぅ!!」
初春「と、当麻さん!!」
腕を離され、地面に倒れ込むようになった初春を咄嗟に駆け寄り、佐天が抱き止める。
初春の身体を包み込む様に佐天はギュッと抱き締めるのだが、初春は上条の情勢の方に意識が向いていた。
「クソッ、こんな簡単な手に引っかかっちまうとは!!」
上条「覚悟しろ……………………!」
初春の身が解放された事に気付くと、上条は一瞬表情を緩めるが瞬時に『ブル』に向き直ると構えを作る。
『ブル』もナイフを完全に持ち直すと、今度は上条に矛先を向けて突きつけていた。
「てめえらは完全に俺を怒らせやがったなぁ……………………生きて帰れると思うなy―――――――――――――
上条「おらぁッッ!!」
「ぐほっ!?」
しかし、『ブル』がそう言い切る前に上条は瞬時にナイフを持つ手を絡め取り、床に這い蹲らせた。
まさに一瞬。
瞬きする間に消えた様な速さで『ブル』の腕を掴むと、そのままうつ伏せに床に押さえ込む。
背中を思い切り踏み付けると、『ブル』の肺から空気が抜き取られたか咳き込んでいた。
「く、くそ、速ぇ……………………てめぇはナニモンだよ、クソがぁ……………………!」
上条「…………………………ただの、ジャッジメントだ」
上条の『ブル』に対する冷たく冷酷な声……………………しかし初春にとって、何よりも暖かく優しい声がそこで響いていた。
初春「とう、まさん……………………うぅ、当麻さん……………………!!」
上条「初春さん……………………もう、大丈夫だからな」
黒子が『ブル』に手錠を掛け、更に縄で縛っている所で佐天の腕に支えられて立っていた初春が上条に声を掛ける。
彼女の顔は涙で濡れ、更に今度は安堵の涙でまた濡れていた。
その表情が痛々しく、上条は着ていた学ランを脱ぐと初春にそっと着せる。
その瞬間、初春は上条の胸元に飛び込んでいた。
初春「当麻さん……………………! 当麻さぁん!!」
上条「ああ、もう心配しなくていいからな…………!」
上条も初春のその小さな身体を思い切り抱き締めるように包み込むと、着ていたワイシャツに初春の涙が染み込んでいく感触を覚えた。
―――こんな小さい身体で……………………!
どれほどの恐怖をその一身に浴びていたのか。
きっと男の自分には感じた事のない、想像を絶するものだったのだろう。
もう大丈夫、心配いらない。
傍にいるから。
様々な想いを乗せて、その小さな身体を抱き締める。
ギュッと背中を引き寄せられる感触に、上条はいまだ震えるその身体を自身もただ抱き寄せていた。
佐天「よかったよぉ……………………初春ぅ……………………」
佐天の泣き声も響き、黒子からも温かい様な視線が初春を包んでいた。
黒子「すぐにアンチスキルも来るそうですの」
上条「そっか」
初春「…………………………………………グス、ヒック」
佐天「初春ぅ…………」
上条「ほら、もう泣くなって」
初春「……………………っ」
初春の目元を指で拭う。
されど次から次へと流れだす涙は、なかなか止められなく。
それでも上条は、ただ拭っていた。
初春「あ……………………」
上条「ん?」
今度は初春が泣き顔もそのままに上条の頬に手を当てようとすると、初春の顔は更にくしゃっと歪んだ。
上条の頬から、赤い血が一線流れていた。
初春「えぅ、当麻さん……………………顔に、傷が…………!」
上条「あ、さっきちょっと切られたんだっけ。でも大した事ないから大丈夫だ」
さすがに傷口に手を当てる訳にもいかず、初春は手を引っ込めるとその手を首元に置いた。
初春「私のせいで…………!」
上条「んにゃ、それは違うぞ。それに初春さんを守れてこれで済んだんなら安いもんじゃねえか。唾でも付けときゃ治る治る……………………ん?」
なんとでもないという風に軽口を叩くと、ドアの外が何やら騒がしい事に気付き上条が反応し声を上げた。
「アンチスキルだ!」
「おお、君達か! 大丈夫かね!?」
一同ドアの方に目を向けたのだが、姿を表した人物が頑丈に防護服に身を包んだアンチスキルの見た事のある顔の者だと分かるとホッと一息ついていた。
黒子「ええ、この者と廊下にいた者達の連行をお願いしますの」
「ああ、わかった。それで君達にも話を聞きたいんだが」
黒子「勿論ですの。 ……………………でも、その前に」
「ん?」
黒子「上条さんの…………手当を先にお願いしますの」
上条の頬に出来た切り傷を見て、黒子が言う。
上条は平気な顔をしているのだが、そこから細菌やら何かが入ってしまわれるのを危惧していた。
「おお、君が第一七七支部に配属になったという上条くんか。
頬に傷が出来てるね、救急箱持ってきてるから応急処置するけど、一回病院連れて行くよ」
上条「は、はぁ。よ、よろしくお願いします」
初春「……………………あの、あと毛布とかあれば……………………」
「被害者は初春くんだったのか…………災難だったな」
初春「は、はい…………でも、助けてくれましたから」
「君も一回病院で診てもらった方がいいな。上条くんと一緒に一旦病院連れて行くよ」
初春「……………………当麻さんと一緒…………///」ボソッ
佐天「…………もう普通に当麻さんって呼んでるね」ニヤニヤ
黒子「…………………………………………」
初春「えぅ……………………///」
黒子「それでは行きますわよ、初春、佐天さん…………………………………………当麻さん」
初春・佐天「えっ」
上条「??」
初春ではない、黒子が口にしたその名前に。
初春と佐天の二人は素っ頓狂な声を上げていた。
一方、その頃。
浜面「だから俺は違うって!」
黄泉川「こんな車に女の子達連れ込んで何しようとしてたじゃん? 免許もない奴が怪しまれるのも無理ないじゃん?」
浜面「俺は上条達を送り届けただけだっての!! ほら、お前も何か言ってやってくれ!」
「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブツブツ
浜面「滝壺! 麦野! 絹旗! 説明してやってくれえ!!」
滝壺「は、はまづらはちg 「そうなんです…………私達、実は浜面くんに…………」 モゴモゴ」
絹旗「さっきも今日は帰さないって超鼻息荒くしてました……………………超怖かったです…………」
黄泉川「…………………………………………ほぅ?」
浜面「おおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいい!?」
「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブルブル
あれから何があったのか、所々焦げていたり、鉄パイプが折れ曲がっていたり、そして大量に転がる気絶したスキルアウト達の近くで、最強の警備員に職務質問されて仲間にも陥れられる男の姿がそこにあったらしい。
乙!
黒子の気持ちは敬愛なのか親愛なのか……、それとも恋愛?
黒子の気持ちは敬愛なのか親愛なのか……、それとも恋愛?
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